(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】カーボンナノシートとその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/15 20170101AFI20230706BHJP
【FI】
C01B32/15
(21)【出願番号】P 2019562044
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2018047640
(87)【国際公開番号】W WO2019131667
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2017248408
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 博基
(72)【発明者】
【氏名】石川 健治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-537274(JP,A)
【文献】特開2011-190172(JP,A)
【文献】特開2004-263241(JP,A)
【文献】特開2016-102034(JP,A)
【文献】特開2014-144900(JP,A)
【文献】特開2015-105212(JP,A)
【文献】特表2009-541198(JP,A)
【文献】特表2003-510236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C22C 1/08-1/10、47/00-49/14
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-N結合を有するが、Fe-C結合を有さない有機化合物を、該有機化合物を溶解させる有機溶媒に分散させた溶液と、アルコールとを混合して混合溶液を製造する工程と、
前記混合溶液を
希ガスまたは窒素ガスの雰囲気において、前記混合溶液にプラズマを照射してカーボンナノシートを製造する工程と、
を有することを特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記有機化合物はフタロシアニン鉄である
ことを特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記有機溶媒はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)である
ことを特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記アルコールは、少なくともエタノール、プロパノール、ブタノールのうちの1種を含む
ことを特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記混合溶液にプラズマを照射する工程では、
気体中の第1電極と前記混合溶液中の第2電極とを用い、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加して、気液界面に放電を生じさせること
を特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記第1電極と前記第2電極との少なくとも一方は、
炭素材料であること
を特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記混合溶液にプラズマを照射する工程では、
CNラジカルを発生させること
を特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項8】
請求項1から
請求項7までのいずれか1項に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記混合溶液にプラズマを照射する工程では、
プラズマ密度が3×10
14cm
-3以上7×10
14cm
-3以下であるプラズマを前記混合溶液に照射すること
を特徴とするカーボンナノシートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から
請求項8までのいずれか1項に記載のカーボンナノシートの製造方法において、
前記カーボンナノシートの1辺の長さは、
0.5μm以上2.5μm以下であること
を特徴とする
カーボンナノシートの製造方法。
【請求項10】
シート形状を有し、
前記シート形状の1辺の長さが0.5μm以上2.5μm以下であり、
前記シート形状の膜厚が0.7nm以上10nm以下であること
を含むカーボンナノシート。
【請求項11】
請求項10に記載のカーボンナノシートにおいて、
前記シート形状が房になって集合していること
を特徴とするカーボンナノシート。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載のカーボンナノシートにおいて、
鉄原子を含有すること
を特徴とするカーボンナノシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、プラズマを用いたカーボンナノシートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。プラズマは、電子、陽イオンの他に、化学反応性の高いラジカルや紫外線を発生させる。ラジカルは、例えば、成膜や半導体のエッチングに用いられる。紫外線は、例えば、殺菌に用いられる。このように豊富なプラズマ生成物が、プラズマ技術の応用分野の裾野を広げている。
【0003】
プラズマ技術は、炭素材料の生成に応用されてきている。例えば、特許文献1には、プラズマを用いてカーボンナノチューブを合成する技術が開示されている。特許文献1には、基板W1の上にニッケル、コバルト、鉄等の触媒金属を供給し、それらの触媒金属の炭化物を生成する技術が開示されている。触媒金属の炭化物(金属カーバイド)を起点にして、カーボンナノチューブが生成されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、チューブ状のカーボンナノ材料であるカーボンナノチューブを製造することができる。しかし、1μm程度の1辺の長さを備え比較的大面積のシート状のカーボンナノ材料を製造することは困難である。
【0006】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、1μm程度の1辺の長さを備え従来に比べて大面積のシート状のカーボンナノ材料を製造することのできるカーボンナノシートとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様におけるカーボンナノシートの製造方法は、鉄原子を含む化合物を溶媒に分散させた溶液とアルコールとを混合して混合溶液を製造する工程と、混合溶液にプラズマを照射してカーボンナノシートを製造する工程と、を有する。Fe-N結合を有するが、Fe-C結合を有さない有機化合物を、該有機化合物を溶解させる有機溶媒に分散させた溶液と、アルコールとを混合して混合溶液を製造する工程と、前記混合溶液を希ガスまたは窒素ガスの雰囲気において、前記混合溶液にプラズマを照射してカーボンナノシートを製造する工程とを有する。特に、フタロシアニン鉄を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒に分散させた溶液と、少なくともエタノール、プロパノール、ブタノールのうちの1種を含むアルコールとを混合して混合溶液を製造する工程と、混合溶液を希ガスまたは窒素ガスの雰囲気において、混合溶液にプラズマを照射してカーボンナノシートを製造する工程と、を有する。
【0008】
このカーボンナノシートの製造方法は、シート状のカーボンナノ材料を製造することができる。カーボンナノシートの一辺の長さは、例えば0.5μm以上2.5μm以下である。カーボンナノシートの膜厚は、例えば0.7nm以上10nm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本明細書では、1μm程度の1辺の長さを備え従来に比べて大面積のシート状のカーボンナノ材料を製造することのできるカーボンナノシートの製造方法とそが提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態のカーボンナノシートの概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態のプラズマ発生装置の概略構成図である。
【
図3】溶液1にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】溶液2にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】溶液3にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】溶液4にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】溶液5にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図8】溶液6にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図9】溶液1から製造されたシート状の残留物を拡大した走査型電子顕微鏡写真である。
【
図10】溶液1から製造されたシート状の残留物の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図11】溶液1にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【
図12】溶液2にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【
図13】溶液3にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【
図14】溶液4にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【
図15】溶液5にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【
図16】溶液6にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【
図17】プラズマからの発光スペクトルを示すグラフである。
【
図19】作用電極の回転速度と水中の拡散層との関係を概念的に示す模式図である。
【
図20】作用電極の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
【
図21】アルコールとしてエタノールを用いた場合の作用電極の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、プラズマ発生装置を用いてカーボンナノシートを製造する方法とそのカーボンナノシートについて説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
1.カーボンナノシート
図1は、カーボンナノシートCS1の概略構造を示す図である。
図1に示すように、カーボンナノシートCS1はシート形状を有する。実際には、シート形状のカーボンナノシートCS1が房になって集合した構造体が製造される。
【0013】
カーボンナノシートCS1の一辺の長さW1は、例えば0.5μm以上2.5μm以下である。また、例えば1μm以上2μm以下のカーボンナノシートCS1が製造されることもある。カーボンナノシートCS1の膜厚T1は、例えば0.7nm以上10nm以下である。これらの数値範囲以外の大きさのカーボンナノシートCS1が製造されることがある。
【0014】
また、カーボンナノシートCS1は、鉄原子を含有する。後述するように、原材料が鉄原子を含有しているからである。また、カーボンナノシートCS1は、鉄-窒素結合を有すると考えられる。後述するように、原材料が鉄-窒素結合を有するからである。また、カーボンナノシートCS1は、CN結合を有すると考えられる。後述するように、放電によりCNラジカルが発生するからである。
【0015】
2.カーボンナノシートの特性
カーボンナノシートCS1は、燃料電池の触媒として高い触媒特性を備えている。そのため、カーボンナノシートCS1は、燃料電池の白金代替触媒として有望である。詳細については後述する。
【0016】
3.プラズマ発生装置
図2は、第1の実施形態のプラズマ発生装置100の概略構成図である。このプラズマ発生装置100は、
図1のカーボンナノシートCS1を製造するためのものである。プラズマ発生装置100は、第1電極部110と、第2電極部120と、電圧印加部130と、収容部140と、ガス供給口151と、ガス排気口152と、を有する。
【0017】
第1電極部110は、第1電極111と、絶縁部材112と、を有する。第1電極111は、先端部111aを有する棒状電極である。第1電極111の材料は、例えばグラファイト焼結体である。第1電極111の材料は、金属または合金であってもよい。絶縁部材112は、少なくとも先端部111aを除いて第1電極111を覆っている。つまり、第1電極111の先端部111aは、絶縁部材112に覆われることなく露出している。第1電極部110では、導電性の箇所のうち第1電極111の先端部111aのみが収容部140の内部に露出している。
【0018】
第2電極部120は、第2電極121と、導電部材122と、絶縁部材123と、を有する。第2電極121は、棒状電極である。第2電極121の側面部121aが、第1電極111の先端部111aと対面している。第2電極121の材料は、例えばグラファイト焼結体である。第2電極121の材料は、金属または合金であってもよい。導電部材122は、第2電極121と電気的に接続されている。導電部材122の材料は、炭素系、金属または合金のいずれであってもよい。絶縁部材123は、導電部材122を覆っている。第2電極121は、絶縁部材123に覆われることなく露出している。そのため、第2電極部120では、導電性の箇所のうち第2電極121のみが収容部140の内部に露出している。
【0019】
電圧印加部130は、第1電極111と第2電極121との間に電圧を印加する。電圧は例えば、9kVである。周波数は例えば、60Hzである。
【0020】
収容部140は、第1電極部110および第2電極部120の少なくとも一部を収容するとともに、液体L1を収容するためのものである。液体L1は、後述するように、鉄原子を含む化合物を溶媒に分散させた溶液とアルコールとを混合させた混合溶液である。収容部140は、容器141と蓋142とを有する。
【0021】
ガス供給口151は、収容部140の内部にガスを供給するためのものである。そのため、例えば、ガス供給口151は、アルゴンガス等を収容するガスボンベと連結されている。また、ガス供給口151とガスボンベとの間にはマスフローコントローラー等があるとよい。
【0022】
ガス排気口152は、収容部140の内部からガスを排出するためのものである。そのため、例えば、ガス排気口152は、真空ポンプ等の排気装置と連結されていてもよい。
【0023】
4.プラズマ発生装置の放電
図2に示すように、使用時には液体L1を容器141に入れる。第2電極121が液体L1の内部に浸かるまで液体L1を供給する。このとき、第1電極111と第2電極121とは、液体L1の液面を挟んで対向している。第1電極111と液体L1の液面との間の距離は、例えば、0.01mm以上10mm以下である。第2電極121と液体L1の液面との間の距離は、例えば、0.01mm以上20mm以下である。上記の数値は目安であり、上記以外の数値であってもよい。
【0024】
次に、第1電極111と第2電極121との間に電圧を印加する。電圧印加時には、第1電極111の先端部111aと、第2電極121の側面部121aとの間に放電が生じる。第2電極121の側面部121aのうち第1電極111の先端部111aに最も近い箇所と、先端部111aとの間に放電が生じる。導電部材122は絶縁部材123に覆われているため、第1電極111と導電部材122との間に直接放電が生じることはない。
【0025】
なお、放電時には、稲妻が、第1電極111の先端部111aから第2電極121の側面部121aまで達する。
【0026】
5.カーボンナノシートの製造方法
5-1.混合溶液製造工程
まず、鉄原子を含む化合物を溶媒に分散させた溶液を製造する。ここで、鉄原子を含む化合物は、有機化合物である。鉄原子を含む化合物は、例えば、フタロシアニン鉄である。フタロシアニン鉄は、Fe-N結合を有するが、Fe-C結合を有さない。このように、フタロシアニン鉄は、金属-窒素結合を有するが、金属-炭素結合を有さない有機金属化合物である。
【0027】
溶媒は、有機溶媒であるとよい。フタロシアニン鉄などを良く溶解し、アルコールと混合しやすいからである。溶媒として、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。
【0028】
次に、この溶液とアルコールとを混合して混合溶液を製造する。アルコールとして、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。もちろん、これら以外のアルコールであってもよい。
【0029】
このようにこの工程では、鉄原子を含む化合物を溶媒に分散させた溶液とアルコールとを混合して混合溶液を製造する。
【0030】
そして、混合溶液を収容部140の容器141の内部に注ぐ。これにより、第2電極121は混合溶液の内部に位置することとなる。
【0031】
5-2.プラズマ照射工程
次に、ガス供給口151からアルゴンガスを供給するとともに、ガス排気口152から収容部140の内部のガスを排出する。収容部140の内部においてアルゴンガスの濃度が十分に高くなるまで待つ。そして、第1電極111と第2電極121との間に電圧を印加する。このため、第1電極111の先端部111aと第2電極121の側面部121aとの間に放電が生じる。
【0032】
このように、本実施形態では、混合溶液を収容する収容部140と、気体中の第1電極111と混合溶液中の第2電極121と、を用いる。第1電極111と第2電極121との間に電圧を印加して、気液界面に放電を生じさせる。収容部140の内部を希ガスでパージした状態で混合溶液にプラズマを照射する。このときのプラズマ密度は、3×1014cm-3以上7×1014cm-3以下である。また、気体中にCNラジカルおよびCHラジカルを発生させる。CHラジカルの発生量はそれほど多くはない。
【0033】
このようにこの工程では、混合溶液にプラズマを照射してカーボンナノシートを製造する。収容部140の内圧は大気圧であってもよいし、減圧下であってもよい。これにより、混合溶液中にカーボンナノシートが製造される。
【0034】
6.鉄の役割
6-1.本実施形態の溶媒中の鉄原子
混合溶液は、鉄原子を含む化合物を分散させた溶液を含有する。鉄原子を含む化合物中の鉄原子は、カーボンナノシートを製造するための触媒に似た役割を果たすと考えられる。
【0035】
6-2.従来における炭素材料と鉄との関係
従来において、鉄は炭素材料の触媒の役割を果たすことがある。例えば、特許文献1に記載の方法では、触媒金属である鉄を起点にしてカーボンナノチューブが成長する。カーボンナノチューブは、いうまでもなくチューブ状である。従来技術においては、チューブ状の構造体を製造することはできるが、本実施形態のシート状の構造体を製造することは困難である。
【0036】
7.第1の実施形態の効果
第1の実施形態では、シート形状を備えるカーボンナノシートCS1を製造することができる。カーボンナノシートCS1は、カーボンナノチューブとは異なる炭素材料である。
【0037】
第1電極111と第2電極121との少なくとも一方が炭素材料であると、混合溶液中に炭素原子が供給されることがある。第1電極111と第2電極121との少なくとも一方が金属または合金であると、混合溶液中にその金属または合金が供給されることがある。
【0038】
また、気液界面でプラズマを発生させることにより、気体中に発生する活性種と、液体中に発生する活性種と、を反応に用いることができる。一般に、気体中には気体(雰囲気ガス)に由来するラジカルが発生し、液体中には液体(混合溶液)に由来するラジカルが発生する。第1の実施形態では、気体中に発生する活性種と、液体中に発生する活性種と、の両方を反応に用いることができる。収容部140の内部を希ガスでパージしているため、大気由来の活性種はほとんど発生しない。
【0039】
8.変形例
8-1.鉄原子を含む化合物
本実施形態における鉄原子を含む化合物は、例えばフタロシアニン鉄である。鉄原子を含む化合物は、例えばヘミンであってもよい。ヘミンも、フタロシアニン鉄と同様に、鉄原子を含む有機化合物である。また、ヘミンも、Fe-N結合を有するとともに、Fe-C結合を有さない。したがって、ヘミンを用いても同様にカーボンナノシートCS1が得られると考えられる。
【0040】
8-2.プラズマガス
本実施形態では、ガス供給口151からアルゴンガスを供給する。しかし、酸素ガスを含まないその他のガスを用いてもよい。酸素ガスを含まないその他のガスとは、体積比で酸素ガスが1%以下のガスである。例えば、He、Ne等の希ガスや、窒素ガス等が挙げられる。混合溶液との反応を防止するために、ガス供給口151から供給するガスは、希ガスであると好ましい。
【0041】
8-3.プラズマ発生装置
図2に示すプラズマ発生装置100以外のプラズマ装置を用いてもよい。
【0042】
8-4.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【実施例】
【0043】
(実験1)
1.プラズマ装置
図2に示すプラズマ装置100を用いる。第1電極111の材料はグラファイトである。その直径は3mmである。第1電極111は混合溶液の液面から1mm高い位置に配置されている。第2電極121の材料はグラファイトである。第2電極121は混合溶液の液面から9mm低い位置に配置されている。
【0044】
2.混合溶液
溶液として表1に示す溶液(混合溶液を含む)を用いた。なお、表1中のDMFは、N,N-ジメチルホルムアミドである。FePcは、フタロシアニン鉄である。H2Pcは、フタロシアニンである。
【0045】
溶液1を製造するために、フタロシアニン鉄をN,N-ジメチルホルムアミドに分散させて分散溶液を作製した。その際にホモジナイザーを30分用いた。この分散溶液40mLに対して、アルコールを160mLだけ混合した。得られた混合溶液を10分間分散させた。その他の溶液についても同様に製造した。
【0046】
[表1]
種類 アルコール 添加物
溶液1 エタノール DMF+FePc
溶液2 プロパノール DMF+FePc
溶液3 ブタノール DMF+FePc
溶液4 エタノール DMF+H2Pc
溶液5 エタノール DMF
溶液6 エタノール
【0047】
3.実験方法
混合溶液200mLを収容部140の容器141に入れた。Arガスを6slmの流量でガス供給口151に供給した。この状態で、第1電極111と第2電極121との間に電圧を印加した。周波数は60Hzであった。電圧を印加した時間は5分であった。そして、ろ過膜を用いて混合溶液から生成物(残留物)を取り出した。
【0048】
4.実験結果
4-1.目視
表2は実験結果をまとめたものである。
【0049】
[表2]
種類 アルコール 添加物 シート
溶液1 エタノール DMF+FePc ◎
溶液2 プロパノール DMF+FePc ○
溶液3 ブタノール DMF+FePc ○
溶液4 エタノール DMF+H2Pc ×
溶液5 エタノール DMF ×
溶液6 エタノール ×
【0050】
溶液1にプラズマを照射した場合には、1辺の長さが0.5μmから2.5μm程度のシート状の残留物が製造された。溶液2、3にプラズマを照射した場合には、溶液1の場合よりやや小さいシート状の残留物が製造された。溶液4から溶液6までに対しては、残留物は製造された。ただし、走査型電子顕微鏡写真において、その残留物内に1辺の長さが0.5μmを超えるシート状の構造体は確認されなかった。これらは目視により確認された。
【0051】
4-2.顕微鏡写真
図3は、溶液1にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4は、溶液2にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図5は、溶液3にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図6は、溶液4にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図7は、溶液5にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図8は、溶液6にプラズマを照射した場合の残留物を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0052】
図9は、溶液1から製造されたシート状の残留物を拡大した走査型電子顕微鏡写真である。シート状の残留物が房のように集合していることが分かる。
図10は、溶液1から製造されたシート状の残留物の透過型電子顕微鏡写真である。折れ曲がったシート状の残留物が観測された。
図10に示すように、残留物が実際にシート状であることが分かる。
【0053】
4-3.ラマンシフト
図11は、溶液1にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
図12は、溶液2にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
図13は、溶液3にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
図14は、溶液4にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
図15は、溶液5にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
図16は、溶液6にプラズマを照射した場合の残留物のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【0054】
図11から
図16では、Dバンド(1340cm
-1)、Gバンド(1580cm
-1)、D’バンド(1620cm
-1)、2Dバンド(2700cm
-1)が観測されている。ラマンシフトの傾向に大きな差は無い。ただし、
図14の2Dバンドの強度が、Dバンド等の強度に比べて小さい。
図11から
図16により、いずれの残留物も、何らかの炭素材料ができていることが示唆される。そのため、シート状の残留物は、炭素材料の構造物であると考えられる。つまり、シート状の残留物は、カーボンナノシートと考えられる。シート状でない残留物は、その他のカーボンナノ材料であると考えられる。
【0055】
4-4.プラズマ生成物
図17は、プラズマからの発光スペクトルを示すグラフである。
図17に示すように、FeまたはC(250nm)、OH(310nm)、CN(390nm)、CH(430nm)、H(488nm、656nm)、C
2(474nm、516nm、564nm)が観測された。これらのプラズマ生成物の少なくとも一部がカーボンナノシートCS1の生成に寄与している。
【0056】
(実験2)
次に、カーボンナノシートの応用分野を調べた。具体的には、カーボンナノシートの触媒特性について調べた。
【0057】
1.酸素還元反応
酸素還元反応には、次のように2通りが存在する。
O2+2H+ +2e- → H2O2 ………(1)
O2+4H+ +4e- → 2H2O ………(2)
式(1)は、2電子が関与する2電子反応である。式(2)は、4電子が関与する4電子反応である。電流を多く取り出すために、燃料電池では4電子反応が優勢であることが好ましい。
【0058】
2.実験装置
図18は、回転電極装置の概略構成を示す図である。回転電極装置は、対流ボルタンメトリー(HDV)により2電子反応と4電子反応とのうちどちらがより支配的であるかを測定するための装置である。回転電極装置は、電解質溶液を収容する容器と、作用電極と、対向電極と、参照電極と、ポテンショスタットと、を有する。作用電極は、回転電極である。ポテンショスタットは、参照電極に対する作用電極の電位を測定するとともに、作用電極と対向電極との間に流れる電流を測定する。
【0059】
3.測定原理
図19は、作用電極の回転速度と水中の拡散層との関係を概念的に示す模式図である。
図19に示すように、回転電極の回転速度が速いと拡散層が薄く、回転電極の回転速度が遅いと拡散層が厚い。
【0060】
図20は、作用電極の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
図20の横軸は、参照電極に対する作用電極の電位である。
図20の縦軸は、作用電極と対向電極との間に流れる電流の電流密度である。
図20に示すように、回転速度が大きいほど、電流密度の絶対値は大きい。回転速度が小さいほど、電流密度の絶対値は小さい。
【0061】
次式は、作用電極からの拡散電流の電流密度が満たす条件式(Koutecky-Levich式)である。
(j)-1 = (jk)-1 + (Bω1/2)-1 ………(3)
B = 0.2nFDo2/3ν-1/6Co ………(4)
F:ファラデー定数(96485C・mol-1)
Do:O2の拡散係数(1.9×10-5cm2/s)
ν:動粘度(0.01cm2/s)
Co:O2のバルク濃度(1.2×10-6mol・cm-3)
n:反応電子数
【0062】
式(3)および式(4)を用いて、反応電子数を求めることができる。
【0063】
4.測定条件
鉄原子を含む化合物として、フタロシアニン鉄を用いた。溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた。アルコールとして、エタノールまたは1-ブタノールを用いた。
【0064】
作用電極はグラッシーカーボンであった。対向電極は白金線であった。参照電極は、アルカリ性の場合には銀の表面に塩化銀を形成した電極であり、酸性の場合には可逆水素電極であった。アルカリ性の場合には0.1MのKOHを用いた。酸性の場合には0.1MのHClO4を用いた。作用電極の回転数として400rpm、900rpm、1600rpm、2500rpmを採用した。
【0065】
5.測定結果
図21は、アルコールとしてエタノールを用いた場合の作用電極の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
図20の横軸は、アルカリ性の場合の参照電極に対する作用電極の電位である。
図20の縦軸は、作用電極と対向電極との間に流れる電流の電流密度である。
図21に示すように、作用電極の回転数に応じて電流密度に差が生じた。
【0066】
図22は、反応電子数を求めるためのグラフである。
図22の横軸は、作用電極の角速度の(-1/2)乗である。
図22の縦軸は、電流密度の逆数である。
図22では、エタノールと1-ブタノールとにおける測定値が直線的にプロットされている。これは、式(3)および式(4)の適用が好適であることを示している。
【0067】
6.カーボンナノシートの触媒特性
表3にアルコールの種類による反応電子数を示す。表3に示すように、1-ブタノールを用いた場合には、反応電子数は2.44であった。エタノールを用いた場合には、反応電子数は4.06であった。したがって、アルコールとしてエタノールを用いた場合には、4電子反応が非常に支配的である。つまり、アルコールとしてエタノールを用いて製造されたカーボンナノシートは、燃料電離の触媒として非常に優れている。
【0068】
[表3]
アルコールの種類 反応電子数
エタノール 4.06
1-ブタノール 2.44
【産業上の利用可能性】
【0069】
このようなカーボンナノシートは、例えば、燃料電池の触媒として用いられる。また、リチウムイオン二次電池もしくは固体高分子型燃料電池の電極に用いられることが考えられる。
【0070】
(付記)
第1の態様におけるカーボンナノシートの製造方法は、鉄原子を含む化合物を溶媒に分散させた溶液とアルコールとを混合して混合溶液を製造する工程と、混合溶液にプラズマを照射してカーボンナノシートを製造する工程と、を有する。
【0071】
第2の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、混合溶液にプラズマを照射する工程では、気体中の第1電極と混合溶液中の第2電極とを用いる。第1電極と第2電極との間に電圧を印加して、気液界面に放電を生じさせる。
【0072】
第3の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、混合溶液にプラズマを照射する工程では、第1の電極の先端部と第2の電極の側面部との間に放電を生じさせる。
【0073】
第4の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、第1電極と第2電極との少なくとも一方は、炭素材料である。
【0074】
第5の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、混合溶液にプラズマを照射する工程では、CNラジカルを発生させる。
【0075】
第6の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、混合溶液にプラズマを照射する工程では、混合溶液を収容する収容部を用いる。収容部の内部を希ガスでパージした状態で混合溶液にプラズマを照射する。
【0076】
第7の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、鉄原子を含む化合物は、有機化合物である。
【0077】
第8の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、有機化合物は、金属-窒素結合を有するが、金属-炭素結合を有さない。
【0078】
第9の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、アルコールはエタノールである。
【0079】
第10の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、溶媒は、有機溶媒である。
【0080】
第11の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、混合溶液にプラズマを照射する工程では、プラズマ密度が3×1014cm-3以上7×1014cm-3以下であるプラズマを混合溶液に照射する。
【0081】
第12の態様におけるカーボンナノシートの製造方法において、カーボンナノシートの1辺の長さは、0.5μm以上2.5μm以下である。
【0082】
第13の態様におけるカーボンナノシートは、シート形状を有する。シート形状の1辺の長さが0.5μm以上2.5μm以下である。シート形状の膜厚が0.7nm以上10nm以下である。
【0083】
第14の態様におけるカーボンナノシートにおいては、シート形状が房になって集合している。
【0084】
第15の態様におけるカーボンナノシートは、鉄原子を含有する。
【符号の説明】
【0085】
CS1…カーボンナノシート
100…プラズマ発生装置
110…第1電極部
111…第1電極
111a…先端部
112…絶縁部材
120…第2電極部
121…第2電極
121a…側面部
122…導電部材
123…絶縁部材
130…電圧印加部
140…収容部
141…容器
142…蓋
151…ガス供給口
152…ガス排気口