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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】繊維の集合体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230706BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230706BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K14/47
A61F2/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019566501
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001293
(87)【国際公開番号】W WO2019142864
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】62/618,082
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/(革新的ロボット要素技術分野)生体分子ロボット/分子人工筋肉の研究開発」委託研究、産業技術強化法 第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】角五 彰
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-159847(JP,A)
【文献】特開2006-204241(JP,A)
【文献】特開2006-271323(JP,A)
【文献】特開2007-111004(JP,A)
【文献】特開2008-206480(JP,A)
【文献】特開2008-222572(JP,A)
【文献】生物物理,2017年,57(Suppl. 1-2),S321,3Pos085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 14/00-14/825
A61F 2/00-2/97
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維と、
前記複数の繊維を架橋する核酸断片と、
を備え、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、
前記繊維が第1の繊維及び第2の繊維を含み、
前記第1の繊維には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、
前記第2の繊維には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、
前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片が、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片とハイブリダイズすることにより、前記第1の繊維及び前記第2の繊維が架橋されている、繊維の集合体。
【請求項2】
繊維の集合体の製造方法であって、
前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、
第1の一本鎖核酸断片が結合した第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合した第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを接触させることを含む、製造方法。
【請求項3】
繊維の集合体を単一の繊維に解離させる方法であって、
前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、
前記繊維の集合体は、第1の一本鎖核酸断片が結合された第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合された第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを含むものであり、
前記第3の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第4の一本鎖核酸断片を接触させることを含む、方法。
【請求項4】
繊維の集合体を移動させる方法であって、
前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、
前記繊維の集合体は、第1の一本鎖核酸断片が結合された第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合された第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを含むものであり、
モータータンパク質で表面が被覆された基材上で、前記繊維の集合体と、アデノシン三リン酸(ATP)とを接触させること、を含む、方法。
【請求項5】
前記繊維が微小管であり、前記モータータンパク質がキネシン又はダイニンである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記微小管はグアノシン-5’-三リン酸(GTP)の存在下で重合されており、前記繊維の集合体は弧を描くように移動する、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記微小管の少なくとも一部はグアノシン-5’-[α,β-メチレン]三リン酸(GMPCPP)の存在下で重合されており、前記繊維の集合体は直線的に移動する、請求項又はに記載の方法。
【請求項8】
前記繊維がアクチン繊維であり、前記モータータンパク質がミオシンである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
複数の微小管と、
前記複数の微小管を架橋する、キネシン又はダイニンの多量体と、
を備え
前記複数の微小管が第1の微小管及び第2の微小管を含み、
前記第1の微小管には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、
前記第2の微小管には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、
前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片が、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片とハイブリダイズすることにより、前記第1の微小管及び前記第2の微小管が架橋されている、人工筋肉。
【請求項10】
前記キネシン又は前記ダイニンの多量体は、ビオチン化キネシン又はビオチン化ダイニンと、アビジンとの複合体である、請求項に記載の人工筋肉。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の人工筋肉にATPを接触させることを含む、前記人工筋肉の収縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維の集合体及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、繊維の集合体、繊維の集合体の製造方法、繊維の集合体を単一の繊維に解離させる方法、繊維の集合体を移動させる方法、人工筋肉、人工筋肉の収縮方法に関する。本願は、2018年1月17日に、米国に仮出願された仮出願第62/618,082号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
キネシンは、アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解により得られる化学エネルギーを運動エネルギーへ変換し、細胞骨格である微小管上を運動するモータータンパク質である。このキネシン-微小管系を生体外で観察する手法として、In vitro motility assayが広く用いられている。
【0003】
このアッセイ法は、ガラス基板上にキネシンを固定し、蛍光色素で標識した微小管を結合させ、ATPを添加するものである。その結果、生体内とは逆に微小管がキネシン被覆基材上を滑り運動する様子を蛍光顕微鏡で観察することができる。
【0004】
例えば、非特許文献1には、グアノシン-5’-三リン酸(GTP)の存在下でチューブリンを重合させて得られた微小管を、キネシン被覆基材上で滑り運動させ、リガンド-レセプター相互作用により架橋させると、微小管が集合し、環を形成して円運動したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kawamura R., et al., Ring-shaped assembly of microtubules shows preferential counterclockwisemotion, Biomacromolecules, 9 (9), 2277-2282, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載された方法では、一度架橋した微小管を解離させることが困難であり、微小管の運動を限定的にしか制御することができない。本発明は、繊維の集合を制御する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]複数の繊維と、前記複数の繊維を架橋する核酸断片と、を備え、前記繊維が微小管又はアクチン繊維である、繊維の集合体。
[2]前記繊維が第1の繊維及び第2の繊維を含み、前記第1の繊維には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第2の繊維には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片が、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片とハイブリダイズすることにより、前記第1の繊維及び前記第2の繊維が架橋されている、[1]に記載の繊維の集合体。
[3]繊維の集合体の製造方法であって、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、第1の一本鎖核酸断片が結合した第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合した第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを接触させることを含む、製造方法。
[4]繊維の集合体を単一の繊維に解離させる方法であって、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、前記繊維の集合体は、第1の一本鎖核酸断片が結合された第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合された第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを含むものであり、前記第3の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第4の一本鎖核酸断片を接触させることを含む、方法。
[5]繊維の集合体を移動させる方法であって、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、前記繊維の集合体は、第1の一本鎖核酸断片が結合された第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合された第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを含むものであり、モータータンパク質で表面が被覆された基材上で、前記繊維の集合体と、アデノシン三リン酸(ATP)とを接触させること、を含む、方法。
[6]前記繊維が微小管であり、前記モータータンパク質がキネシン又はダイニンである、[5]に記載の方法。
[7]前記微小管はグアノシン-5’-三リン酸(GTP)の存在下で重合されており、前記繊維の集合体は弧を描くように移動する、[6]に記載の方法。
[8]前記微小管の少なくとも一部はグアノシン-5’-[α,β-メチレン]三リン酸(GMPCPP)の存在下で重合されており、前記繊維の集合体は直線的に移動する、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]前記繊維がアクチン繊維であり、前記モータータンパク質がミオシンである、[5]に記載の方法。
[10]複数の微小管と、前記複数の微小管を架橋する、キネシン又はダイニンの多量体と、を備える、人工筋肉。
[11]前記キネシン又は前記ダイニンの多量体は、ビオチン化キネシン又はビオチン化ダイニンと、アビジンとの複合体である、[10]に記載の人工筋肉。
[12]前記複数の微小管が第1の微小管及び第2の微小管を含み、前記第1の微小管には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第2の微小管には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片が、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片とハイブリダイズすることにより、前記第1の微小管及び前記第2の微小管が架橋されている、[10]又は[11]に記載の人工筋肉。
[13][10]~[12]のいずれか一項に記載の人工筋肉にATPを接触させることを含む、前記人工筋肉の収縮方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維の集合を制御する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)~(i)は設計したDNAの塩基配列及びTmを示す図である。
図2】レセプターDNA(r-DNA)とアジド化微小管をクリック反応により結合する過程を説明した模式図である。
図3】(a)はTAMRAで標識したDNAと結合した微小管の蛍光顕微鏡写真である。(b)はFAMで標識したDNAと結合した微小管の蛍光顕微鏡写真である。
図4】キネシンで表面が被覆された基材上を、赤色蛍光又は緑色蛍光で標識された微小管が滑り運動する様子を示す模式図である。
図5】実験例1における、赤色蛍光又は緑色蛍光で標識された硬質微小管の滑り運動を示すタイムラプス画像である。
図6】リンカーDNA(l-DNA)により、赤色標識微小管及び緑色標識微小管を架橋して集合させる様子、及び、解離DNA(d-DNA)による鎖交換反応により、l-DNAを解離させ、集合した赤色標識微小管及び緑色標識微小管を解離させる様子を示す模式図である。
図7】DNAの塩基対の相互作用による微小管の集合及び解離の様子を説明する模式図である。
図8】微小管が集合する様子を示すタイムラプス画像である。
図9】実験例2における、集合割合(%)の推移を示すグラフである。
図10】(a)~(c)は、微小管の集合におけるキネシン及びATPの役割を検討した結果を示すタイムラプス画像である。
図11】d-DNAを導入した後に微小管の集合体が解離する様子を示すタイムラプス画像である。
図12】実験例3における、微小管で構成した論理ゲートの設計及び実証結果を示す表である。
図13】(a)は、実験例4において、硬質微小管をキネシン被覆基材上で滑り運動させた結果を示す蛍光顕微鏡写真及び模式図である。(b)は、実験例4において、軟質微小管をキネシン被覆基材上で滑り運動させた結果を示す蛍光顕微鏡写真及び模式図である。
図14】実験例4において、軟質微小管の集合体をキネシン被覆基材上で滑り運動させた様子を示すタイムラプス画像である。
図15】実験例4において、円運動を行っている微小管の集合体にd-DNAを加えた様子を示すタイムラプス画像である。
図16】(a)は、実験例5において、剛性が異なる微小管の模式図及び蛍光顕微鏡写真である。(b)は、実験例5において、l-DNA1(配列番号13)を入力した結果を示す写真及び模式図である。(c)は、実験例5において、l-DNA5(配列番号17)を入力した結果を示す写真及び模式図である。(d)は、実験例5において、l-DNA1(配列番号13)及びl-DNA5(配列番号17)を入力した結果を示す写真及び模式図である。
図17】実験例6において、2つの光応答性DNAのアゾベンゼン部分のシス-トランス異性化によって、DNAハイブリダイゼーションのオン/オフが可逆的に切り替えられる様子を説明する模式図である。
図18】実験例6において、光応答性DNA(p-DNA)を結合した微小管がUV又は可視光の照射により集合体の形成及び解離を示す様子を説明する模式図である。
図19】実験例6において、赤色標識微小管及び緑色標識微小管に、UV又は可視光を照射した様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[繊維の集合体]
1実施形態において、本発明は、複数の繊維と、前記複数の繊維を架橋する核酸断片と、を備え、前記繊維が微小管又はアクチン繊維である、繊維の集合体を提供する。実施例において後述するように、本実施形態の繊維の集合体によれば、繊維の集合を制御することができる。核酸断片は、DNAであってもよいし、RNAであってもよいし、DNA及びRNAが混在したものであってもよい。また、核酸断片は、PNA、LNA等の核酸アナログを一部又は全部に含んでいてもよい。また、核酸断片は、後述するように光応答性基を有していてもよい。光応答性基としては、例えばアゾベンゼン基等が挙げられる。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態の繊維の集合体では、前記繊維が第1の繊維及び第2の繊維を含み、前記第1の繊維には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第2の繊維には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片が、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片とハイブリダイズすることにより、前記第1の繊維及び前記第2の繊維が架橋されている。
【0012】
図6を用いて、第1実施形態の繊維の集合体を説明する。第1実施形態の繊維の集合体600は、第1の繊維610及び第2の繊維620を含む。第1の繊維610には第1の一本鎖核酸断片611が結合している。第2の繊維620には第2の一本鎖核酸断片621が結合している。
【0013】
そして、第1の一本鎖核酸断片611に相補的な領域及び第2の一本鎖核酸断片621に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片630が、第1の一本鎖核酸断片611及び第2の一本鎖核酸断片621とハイブリダイズすることにより、第1の繊維610及び第2の繊維620が架橋されている。第1の一本鎖核酸断片611及び第2の一本鎖核酸断片621は、後述するレセプターDNA(r-DNA)に対応する。また、第3の一本鎖核酸断片630は、後述するリンカーDNA(l-DNA)に対応する。
【0014】
実施例において後述するように、第1実施形態の繊維の集合体は、解離DNA(d-DNA)640を接触させることにより、第1の繊維610及び第2の繊維620を解離させることができる。
【0015】
(第2実施形態)
第2実施形態の繊維の集合体では、前記繊維が第1の繊維及び第2の繊維を含み、前記第1の繊維には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第2の繊維には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片には、アゾベンゼン基が導入されており、前記アゾベンゼン基はトランス型であり、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片がハイブリダイズすることにより、前記第1の繊維及び前記第2の繊維が架橋されている。
【0016】
図17を用いて、アゾベンゼン基が導入された一本鎖核酸について説明する。図17に示すように、第2実施形態の繊維の集合体で使用する一本鎖核酸には一部の塩基の代わりにアゾベンゼン基が導入されている。アゾベンゼン基は、紫外線(UV)を照射するとトランス型に変化し、融解温度(Tm)を上昇させることができる。また、可視光を照射するとシス型に変化し、Tmが低下する。この変化は可逆的であり、繰り返し行うことができる。
【0017】
そこで、第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片に、アゾベンゼン基が導入されていると、紫外線(UV)又は可視光を照射することにより、第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片のハイブリダイゼーション及び解離を制御することができる。
【0018】
図18に示すように、第2実施形態の繊維の集合体は、紫外線(UV)又は可視光を照射することにより、第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片に導入されたアゾベンゼン基のシス-トランス異性化を制御し、集合体の形成及び解離を制御することができる。
【0019】
[繊維の集合体の製造方法]
(第1実施形態)
第1実施形態の繊維の集合体の製造方法は、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、第1の一本鎖核酸断片が結合した第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合した第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを接触させることを含む、製造方法である。本実施形態の製造方法により、上述した第1実施形態の繊維の集合体を製造することができる。
【0020】
図6を用いて、第1実施形態の繊維の集合体の製造方法を説明する。第1の一本鎖核酸断片611が結合した第1の繊維610と、第2の一本鎖核酸断片621が結合した第2の繊維620と、第1の一本鎖核酸断片611に相補的な領域及び第2の一本鎖核酸断片620に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片630とを接触させることにより、
【0021】
第1の一本鎖核酸断片、第2の一本鎖核酸断片、第3の一本鎖核酸断片がそれぞれハイブリダイズする。その結果、第1の繊維610及び第2の繊維620が架橋され、繊維の集合体を製造することができる。
【0022】
(第2実施形態)
第2実施形態の繊維の集合体の製造方法は、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、第1の一本鎖核酸断片が結合した第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合した第2の繊維とを、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片がハイブリダイズする条件下で接触させることを含み、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片には、アゾベンゼン基が導入されており、前記ハイブリダイズする条件が、前記アゾベンゼン基をトランス型にする条件である、製造方法である。本実施形態の製造方法により、上述した第2実施形態の繊維の集合体を製造することができる。
【0023】
図18に示すように、第2実施形態の製造方法では、第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片に導入されたアゾベンゼン基をトランス型にすることにより、第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片をハイブリダイズさせる。その結果、第1の繊維及び第2の繊維が架橋され、繊維の集合体を製造することができる。
【0024】
[繊維の集合体を単一の繊維に解離させる方法]
(第1実施形態)
第1実施形態の方法は、繊維の集合体を単一の繊維に解離させる方法であって、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、前記繊維の集合体は、第1の一本鎖核酸断片が結合された第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合された第2の繊維と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを含むものであり、前記第3の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第4の一本鎖核酸断片を接触させることを含む方法である。
【0025】
第1実施形態の方法は、上述した第1実施形態の繊維の集合体を解離させる方法である。図6を用いて、第1実施形態の方法を説明する。上述したように、第1実施形態の繊維の集合体600は、第1の一本鎖核酸断片611が結合された第1の繊維610と、第2の一本鎖核酸断片621が結合された第2の繊維620と、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片とを含む。
【0026】
第1実施形態の繊維の集合体600に、第3の一本鎖核酸断片630に相補的な領域を有する第4の一本鎖核酸断片640を接触させると、第4の一本鎖核酸断片640が、第1の一本鎖核酸断片611及び第2の一本鎖核酸断片621と鎖交換反応を行い、第3の一本鎖核酸断片630とハイブリダイズする。その結果、第1の繊維610と、第2の繊維620が解離する。
【0027】
(第2実施形態)
第2実施形態の方法は、繊維の集合体を単一の繊維に解離させる方法であって、前記繊維が微小管又はアクチン繊維であり、前記繊維の集合体は、第1の一本鎖核酸断片が結合された第1の繊維と、第2の一本鎖核酸断片が結合された第2の繊維とを含み、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片には、アゾベンゼン基が導入されており、前記アゾベンゼン基はトランス型であり、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片がハイブリダイズすることにより、前記繊維が集合したものであり、前記繊維の集合体に紫外線を照射し、前記アゾベンゼン基をシス型に変換させることにより、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片を解離させることを含む方法である。
【0028】
第2実施形態の方法は、上述した第2実施形態の繊維の集合体を解離させる方法である。上述したように、第2実施形態の繊維の集合体は、前記繊維が第1の繊維及び第2の繊維を含んでいる。そして、第1の繊維には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、第2の繊維には第2の一本鎖核酸断片が結合している。そして、第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片には、アゾベンゼン基が導入されており、前記アゾベンゼン基はトランス型であり、第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片がハイブリダイズすることにより、第1の繊維及び第2の繊維が架橋されている。
【0029】
図18に示すように、第2実施形態の方法では、上述した第2実施形態の繊維の集合体のアゾベンゼン基をシス型に変換させることにより、ハイブリダイズしていた第1の一本鎖核酸断片及び第2の一本鎖核酸断片を解離させる。その結果、第1の繊維及び第2の繊維を解離させることができる。
【0030】
アゾベンゼン基をシス型に変換させる方法としては、紫外線(UV)を照射することが挙げられる。
【0031】
[繊維の集合体を移動させる方法]
1実施形態において、本発明は、繊維の集合体を移動させる方法を提供する。本実施形態の方法は、モータータンパク質で表面が被覆された基材上で、前記繊維の集合体と、アデノシン三リン酸(ATP)とを接触させることを含む方法である。本実施形態の方法において、繊維の集合体は、上述した第1実施形態の繊維の集合体であってもよいし、上述した第2実施形態の繊維の集合体であってもよい。
【0032】
本実施形態の方法において、前記繊維が微小管であり、前記モータータンパク質がキネシン又はダイニンであってもよい。
【0033】
ここで、微小管はグアノシン-5’-三リン酸(GTP)の存在下でチューブリンを重合したものであってもよい。GTPの存在下で重合して得られた微小管は軟質微小管であり、剛性が低い微小管である。実施例において後述するように、本実施形態の方法により軟質微小管の集合体を移動させた場合、弧を描くように移動する。
【0034】
あるいは、微小管は、少なくとも一部がグアノシン-5’-[α,β-メチレン]三リン酸(GMPCPP)の存在下でチューブリンを重合したものであってもよい。GMPCPPの存在下で重合して得られた微小管は硬質微小管であり、剛性が高い微小管である。実施例において後述するように、本実施形態の方法により硬質微小管の集合体を移動させた場合、直線的に移動する。
【0035】
また、本実施形態の方法において、前記繊維がアクチン繊維であり、前記モータータンパク質がミオシンであってもよい。
【0036】
[人工筋肉]
1実施形態において、本発明は、複数の微小管と、前記複数の微小管を架橋する、キネシン又はダイニンの多量体と、を備える、人工筋肉を提供する。
【0037】
本実施形態の人工筋肉において、キネシン又はダイニンの多量体は、ビオチン化キネシン又はビオチン化ダイニンと、アビジンとの複合体であってもよい。
【0038】
本実施形態の人工筋肉において、前記複数の微小管は、第1の微小管及び第2の微小管を含み、前記第1の微小管には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第2の微小管には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第1の一本鎖核酸断片に相補的な領域及び前記第2の一本鎖核酸断片に相補的な領域を有する第3の一本鎖核酸断片が、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片とハイブリダイズすることにより、前記第1の微小管及び前記第2の微小管が架橋されていてもよい。すなわち、本実施形態の人工筋肉において、複数の微小管は、上述した第1実施形態の繊維の集合体であってもよい。
【0039】
あるいは、本実施形態の人工筋肉において、前記複数の微小管は、第1の微小管及び第2の微小管を含み、前記第1の微小管には第1の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第2の微小管には第2の一本鎖核酸断片が結合しており、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片には、アゾベンゼン基が導入されており、前記アゾベンゼン基はトランス型であり、前記第1の一本鎖核酸断片及び前記第2の一本鎖核酸断片がハイブリダイズすることにより、前記第1の微小管及び前記第2の微小管が架橋されていてもよい。すなわち、本実施形態の人工筋肉において、複数の微小管は、上述した第2実施形態の繊維の集合体であってもよい。
【0040】
本実施形態の人工筋肉にATPを接触させることにより、人工筋肉を収縮させることができる。
【実施例
【0041】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[材料及び方法]
(チューブリンの調製)
チューブリンはブタの脳から精製した。精製にはPIPESバッファー(1M PIPES、20mM EGTA、10mM MgCl)を用いた。精製後のチューブリンはBRB80バッファー(80mM PIPES、1mM EGTA、2mM MgCl、pH6.8)中で保存した。
【0043】
続いて、N-PEG-NHSを用いてアジド化チューブリンを調製した。チューブリン濃度はUVスペクトロメーター(Nanodrop 2000c)を用いて280nmの吸光を測定することにより測定した。
【0044】
(キネシンの調製)
ヒトキネシン-1の第1~573番目のアミノ酸のN末端側に、His×6タグ、トロンビン切断部位、Sエピトープタグ、DDDDKタグをこの順に連結した組換えキネシン-1を調製した。調製した組換えキネシン-1のアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0045】
(DNA断片の設計)
レセプターDNA(r-DNA)、リンカーDNA(l-DNA)及び解離DNA(d-DNA)の塩基配列を設計した。設計は融解温度(Tm)のシミュレーションに基づいて行った。Tmのシミュレーションは、ソフトウエア(「OligoAnalyzer 3.1」、https://sg.idtdna.com/calc/analyzer)を用いて行った。Tmの範囲を0~50℃に設定してシミュレーションを行った。論理ゲート実験用のDNAについては、Tm条件を満たすだけでなく、更にDNA鎖間で望ましくない相互作用が生じないように塩基配列を設計した。
【0046】
図1(a)~(i)は設計したDNAの塩基配列及びTmを示す図である。図1(a)~(i)中、「MT」は微小管を示す。図1(a)は、r-DNA1(T16、配列番号2)、r-DNA2((TTG)、配列番号3)及びCAAA16(配列番号8)のTmを示す図である。図1(b)は、r-DNA1(T16、配列番号2)、r-DNA2((TTG)、配列番号3)及び(CAA)16(配列番号9)のTmを示す図である。図1(c)は、r-DNA1(T16、配列番号2)、r-DNA2((TTG)、配列番号3)及び(CAA)16(配列番号10)のTmを示す図である。
【0047】
図1(d)は、r-DNA1(T16、配列番号2)、r-DNA2((TTG)、配列番号3)及び(CAA)16(配列番号11)のTmを示す図である。図1(e)は、r-DNA1(T16、配列番号2)、r-DNA2((TTG)、配列番号3)及び(CAA)16(配列番号12)のTmを示す図である。図1(f)は、l-DNA1((CAA)16、配列番号13)及びd-DNA(T16(GTT)、配列番号18)のTmを示す図である。d-DNAはDNA鎖置換反応に使用したDNAである。
【0048】
図1(g)は、r-DNA1(T16、配列番号2)、r-DNA2((TTG)、配列番号3)、l-DNA2(ACTCGTGCAGA16、配列番号14)及びl-DNA3(CTGCACGAGT(CAA)、配列番号15)のTmを示す図である。これらのDNAはANDゲートの演算に使用した。
【0049】
図1(h)は、r-DNA3((TTC)、配列番号4)、r-DNA4((TAG)、配列番号5)及びl-DNA4((CTA)(GAA)、配列番号16)のTmを示す図である。これらのDNAは図1(e)に示すDNAと共にORゲートの演算に使用した。
【0050】
図1(i)は、r-DNA5(GCGGCTTGACATACCA、配列番号6)、r-DNA6(CACCAGCCAGTCTGTTA、配列番号7)及びl-DNA5(TGGTATGTCAAGCCGCTAACAGACTGGCTGGTG、配列番号17)のTmを示す図である。これらのDNAは緑色蛍光で標識した硬質微小管に使用し、赤色蛍光で標識した軟質微小管に使用した、図1(e)に示すDNAと共に、論理ゲートの演算に使用した。
【0051】
ジベンゾシクロオクチン(DBCO)及び蛍光色素で標識されたDNAは、CPGカラム及びホスホアミダイト(グレンリサーチ社)を用いた化学合成により合成した。化学合成にはDNAシンセサイザー(ABI3900)を用いた。化学合成したDNAは、逆相HPLCで精製し、MALDI-TOF/MS(ブルカーマイクロフレックスLRF)により構造確認した。
【0052】
r-DNAは3’末端を5(6)-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)又は5-カルボキシフルオレセイン(FAM)で標識した。また、5’末端をDBCOで標識した。光応答性DNA(p-DNA)は研究室内で合成した。具体的には、アゾベンゼン基を導入したD-トレオニノールのホスホロアミダイト体を用いて、DNA合成機(製品名「ABI 3400 DNA/RNA synthesizer」、アプライドバイオシステムズ社)でp-DNAを合成した。続いて、合成したp-DNAをPoly-Pak cartrige(グレンリサーチ社)及び逆相HPLCにより精製し、MALDI-TOF MSで配列確認を行った。また、l-DNA及びd-DNAは、ユーロフィンジェノミクス株式会社より購入した。
【0053】
(微小管の調製)
微小管は、ポリメライゼーションバッファー(80mM PIPES、1mM EGTA、1mM MgCl、1mM ポリメライゼーション試薬、pH6.8)にアジド化チューブリンを終濃度56μMとなるように添加し、37℃で30分インキュベートすることにより調製した。
【0054】
軟質微小管を調製する場合には、ポリメライゼーション試薬として、グアノシン三リン酸(グアノシン-5’-三リン酸、GTP)を使用した。硬質微小管を調製する場合には、ポリメライゼーション試薬として、グアノシン-5’-[α,β-メチレン]三リン酸(GMPCPP)を使用した。GMPCPPはGTPよりもゆっくりと加水分解されるGTPのアナログである。軟質微小管を調製する場合には、ジメチルスルホキシド(DMSO)を終濃度5%となるように添加した。
【0055】
3.5μLのDBCO修飾されたr-DNA(500μM)を5μLのアジド化微小管(56μM)に添加することにより、銅を含まないクリック反応を開始し、37℃で6時間インキュベートしてアジド-アルキン付加環化反応を進行させた。
【0056】
続いて、100μLのクッションバッファー(BRB80バッファーに60%グリセロールを添加したもの)を用い、201,000×g(S55A2-0156ローター、工機ホールディングス社製)で1時間、37℃で遠心分離することにより微小管を沈殿させた。上清を除いた後、r-DNAが結合した微小管を、100μLのBRB80Pバッファー(BRB80バッファーに1mMタキソールを添加したもの)で1回洗浄し、15μLのBRB80Pバッファーに懸濁した。p-DNAが結合した微小管も同様の手順により調製した。
【0057】
(微小管の集合体の形成)
2枚のカバーガラス(マツナミ社製)を用いて、9×2.5×0.45mm(長さ×幅×高さ)のフローセルを組み立てた。両面テープをスペーサーとして用いた。
【0058】
フローセルを5μLのカゼインバッファー(BRB80バッファーに0.5mg/mLのカゼインを添加したもの)で満たし、3分間インキュベートした。続いて、フローセルに0.3μMのキネシン溶液を導入し、5分間インキュベートした。この結果、4,000分子/μmのキネシン密度でフローセルの表面が被覆された。
【0059】
続いて、フローセルを5μLの洗浄バッファー(BRB80バッファーに1mMジチオトレイトール(DTT)及び10μMタキソールを添加したもの)で洗浄した後、5μLの赤色蛍光で標識した微小管(TAMRA標識したr-DNAが結合した微小管)溶液を導入して2分間インキュベートし、10μLの洗浄バッファーで洗浄した。
【0060】
続いて、5μLの緑色蛍光で標識した微小管(FAM標識したr-DNAが結合した微小管)溶液を導入して2分間インキュベートし、10μLのモーティリティーバッファー(80mM PIPES、1mM EGTA、2mM MgCl、1mM DTT、0.5mg/mLカゼイン、4.5mg/mLグルコース、50U/mLグルコースオキシダーゼ、50U/mLカタラーゼ、10μMタキソール、0.2%メチルセルロース、5mM ATP、1mMトロロックス)で洗浄した。緑色蛍光で標識した微小管は、フローセルに導入する前に室温で15分間、l-DNAと混合してインキュベートした。
【0061】
微小管の運動は5μLのATPバッファー(洗浄バッファーに5mM ATP、4.5mg/mL D-グルコース、50U/mLグルコースオキシダーゼ、50U/mLカタラーゼ及び0.2%(w/v)メチルセルロースを添加したもの)を添加することにより開始させた。ATPを添加した時刻を0時間とした。
【0062】
ATPバッファーの添加の直後にフローセルをイナートチャンバーシステム(ICS)中に置き、顕微鏡を用いて室温で微小管を観察した。実験は、各条件それぞれについて少なくとも10分間行った。
【0063】
(蛍光顕微鏡観察)
試料は100Wの水銀ランプで照らし、油浸対物レンズ(「Plan Apo 60× N.A.1.4」、ニコン)を用いて落射蛍光顕微鏡(「Eclipse Ti」、ニコン)で観察した。
【0064】
UVカットオフフィルターブロック(TRITC:EX540/25、DM565、BA605/55、GFP-B:EX460-500、DM505、BA510-560、ニコン)を顕微鏡の光路中で使用した。コンピュータに接続された冷却CMOSカメラ(「NEO sCMOS」、アンドール社)を用いて画像を撮影した。
【0065】
試料の光退色を減らすために、2つのNDフィルター(ND4:TRITCに対して25%の透過率、及び、ND1:GFP-Bに対して100%の透過率)を蛍光顕微鏡の照明光路に挿入した。
【0066】
アゾベンゼン単位を異性化する場合には、UV-1Aフィルターブロック(UV-1A:EX365-410、DM400、BA400、ニコン)を通過した光をフローセルに照射した。
【0067】
[実験例1]
(DNAを結合した微小管の移動)
銅を含まないクリック反応により、チューブリン二量体あたり1個の一本鎖DNAの割合で、微小管を一本鎖DNAと結合させた。蛍光顕微鏡による微小管の観察を可能にするために、DNA又は微小管のいずれかを蛍光色素で標識した。
【0068】
図2はr-DNAとアジド化微小管をクリック反応により結合する過程を説明した模式図である。図2中、「MT」は微小管を示す。融解温度(Tm)シミュレーションの結果に基づいて、DNA鎖中の塩基数を16に固定して、生体分子モーターシステムの作動温度(25℃)より高いTmとなるようにした。
【0069】
図3(a)はTAMRAで標識したr-DNA1(配列番号2)と結合した微小管の蛍光顕微鏡写真である。また、図3(b)はFAMで標識したr-DNA2(配列番号3)と結合した微小管の蛍光顕微鏡写真である。スケールバーは5μmである。微小管は、外径25nm、長さ2~10μmの円筒形の物体である。
【0070】
DNAを結合した微小管は、アデノシン三リン酸(ATP)の化学エネルギーを用いて基材表面に付着したキネシンによって推進された。図4は、キネシンで表面が被覆された基材上を、赤色蛍光又は緑色蛍光で標識された微小管が滑り運動する様子を示す模式図である。図4中、「Red-MT」は赤色蛍光で標識された微小管を示し、「Green-MT」は緑色蛍光で標識された微小管を示す。
【0071】
図5は、赤色蛍光又は緑色蛍光で標識された硬質微小管の滑り運動を示すタイムラプス画像である。スケールバーは10μmを示す。その結果、DNAを結合した微小管は滑らかに滑り運動することが明らかとなった。この結果は、DNAの結合が微小管とキネシンとの相互作用を妨げないことを示す。
【0072】
[実験例2]
(DNAによる微小管の集合及び解離)
TAMRA(赤色)で標識したr-DNA1(配列番号2)と結合した微小管(以下、「赤色標識微小管」という場合がある。)及びFAM(緑色)で標識したr-DNA2(配列番号3)と結合した微小管(以下、「緑色標識微小管」という場合がある。)を用意した。
【0073】
続いて、0.3μMのキネシンをコートした基板上に、同数の赤色標識微小管及び緑色標識微小管を、合計で50,000個/mmの密度で配置した。その結果、図5に示すように、ATPの存在下では、各微小管は相互作用することなく移動した。
【0074】
続いて、リンカーDNAによる微小管の集合及び解離DNAによる集合した微小管の解離を検討した。リンカーDNA(l-DNA1、配列番号13)は、これらの微小管を架橋することができるように、r-DNAと部分的に相補的であるように設計した。図6はl-DNA1により、赤色標識微小管及び緑色標識微小管を架橋して集合させる様子、及び、d-DNA(配列番号18)による鎖交換反応により、l-DNA1を解離させ、集合した赤色標識微小管及び緑色標識微小管を解離させる様子を示す模式図である。図7は、DNAの塩基対の相互作用による微小管の集合及び解離の様子を説明する模式図である。
【0075】
図8は、入力シグナルとして0.6μMのl-DNA1を導入した後に微小管が集合する様子を示すタイムラプス画像である。スケールバーは20μmを示す。図8に示すように、滑り運動している間、赤色標識微小管及び緑色標識微小管は互いに接近し、集合体になって動き続けた。微小管の集合体のサイズは、集合体の合併によって大きくなり、時間の経過とともに集合体の密度が減少した。サイズの増加にもかかわらず、微小管の集合体は、個々の微小管の移動速度(0.60±0.05μm/秒)に近い速度(0.51±0.02μm/秒)で直線的に移動した。
【0076】
異なる時点で微小管の数を数え、初期の微小管の数に対する集合体に組み込まれた微小管の割合を計算することによって、微小管の集合割合を算出した。図9は集合割合(%)の推移を示すグラフである。その結果、集合割合は時間とともに増加し、l-DNA1の添加後60分以内にプラトー(90~95%)に達することが明らかとなった。
【0077】
図10(a)~(c)は、微小管の集合におけるキネシン及びATPの役割を検討した結果を示すタイムラプス画像である。図10(a)は、キネシンの非存在下で、同様の実験を行った結果を示す。その結果、自由に拡散する微小管が非構造化凝集体を形成したが、微小管の集合体は形成されなかった。
【0078】
図10(b)は、ATPの非存在下で同様の実験を行った結果を示す。その結果、ATPの非存在下では、キネシンコートされた基材上の微小管は動かず、微小管の集合体も形成されなかった。
【0079】
図10(c)は、ATP(5mM)の存在下で同様の実験を行った結果を示す。その結果、ATP及びキネシンの存在下において、微小管の集合体が形成されることが明らかとなった。
【0080】
図10(a)~(c)において、赤色標識微小管及び緑色標識微小管はそれぞれ0.6μMずつ使用した。また、l-DNAの濃度は0.6μMであった。また、図10(a)ではキネシンの濃度は0μMであり、図10(b)及び(c)では0.3μMであった。スケールバーは50μmを示す。
【0081】
続いて、0.6μMの解離DNA(d-DNA)を導入し、DNA鎖交換反応によってl-DNA1を解離させ、微小管の集合体を解離させた。図11はd-DNAを導入した後に微小管の集合体が解離する様子を示すタイムラプス画像である。スケールバーは20μmを示す。図11に示すように、d-DNAの導入により、微小管の集合体が解離することが実証された。微小管の集合体は、d-DNAの導入後に赤色標識微小管及び緑色標識微小管に解離した。解離後に存在する微小管を数えることによって、微小管の集合体は約100個の微小管からなると推定された。図9は集合割合(%)の推移を示すグラフである。
【0082】
[実験例3]
(DNAに基づく論理ゲート)
分子コンピューティングの演算子としてのDNAの有用性に基づいて、微小管の集合体がDNA入力によって制御される出力である、従来とは異なる論理演算を実証した。
【0083】
図12は、微小管で構成した論理ゲートの設計及び実証結果を示す表である。赤色標識微小管及び緑色標識微小管の濃度は0.6μMであり、キネシンの濃度は0.3μMであり、l-DNAの濃度は0.6μMであった。図12中、スケールバーは20μmを示す。
【0084】
図12に示すように、YES論理ゲートは、入力1としてl-DNA1(配列番号13)を使用し、出力1として赤色標識微小管及び緑色標識微小管の集合体を使用することにより実現することができた。
【0085】
また、AND論理ゲートは、2つの異なるリンカーDNAシグナルとして、l-DNA2(配列番号14)及びl-DNA3(配列番号15)を使用することにより実現することができた。l-DNA2(配列番号14)は部分的にr-DNA1(配列番号2)に相補的であり、l-DNA3(配列番号15)は部分的にr-DNA2(配列番号3)に相補的であり、l-DNA2(配列番号14)及びl-DNA3(配列番号15)も互いに部分的に相補的である。AND論理ゲートでは、微小管を集合させるために、l-DNA2(配列番号14)及びl-DNA3(配列番号15)の双方が必要であった。
【0086】
また、OR論理ゲートは、r-DNA1(配列番号2)及びr-DNA3(配列番号4)をTAMRAで標識して微小管に結合させたものと、r-DNA2(配列番号3)及びr-DNA4(配列番号5)をFAMで標識して微小管に結合させたものを使用し、r-DNA1(配列番号2)及びr-DNA2(配列番号3)に相補的なl-DNA1(配列番号13)、並びに、r-DNA3(配列番号4)及びr-DNA4(配列番号5)に相補的なl-DNA4(配列番号16)を2つの入力シグナルとして使用することにより実現することができた。OR論理ゲートでは、l-DNA1(配列番号13)及びl-DNA4(配列番号16)のいずれかが存在すれば微小管を集合させることができた。
【0087】
図12に示すように、1を表す出力が期待される全ての演算で85~100%の集合割合が得られた。また、0を表す出力が期待される全ての演算で<5%の集合割合が得られた。これらの集合割合には有意な差が認められた。
【0088】
[実験例4]
(微小管の集合体のモード)
GMPCPPで微小管を重合することにより硬質微小管(高い剛性の微小管)を調製した。また、GMPCPPの代わりにGTPで微小管を重合することにより軟質微小管(低い剛性の微小管)を調製した。続いて、硬質微小管及び軟質微小管をキネシン被覆基材上で滑り運動させた。
【0089】
図13(a)は硬質微小管をキネシン被覆基材上で滑り運動させた結果を示す蛍光顕微鏡写真及び模式図である。スケールバーは20μmである。また、図13(b)は、軟質微小管をキネシン被覆基材上で滑り運動させた結果を示す蛍光顕微鏡写真及び模式図である。スケールバーは20μmである。その結果、硬質微小管は直線的に移動するのに対し、軟質微小管は、硬質微小管と比較してより湾曲した経路で動くことが明らかとなった。軟質微小管の経路持続長は245±32μmであり、硬質微小管の経路持続長は582±97μmであった。この結果は、剛性の差の2倍以上の差を反映していた。
【0090】
図14は、軟質微小管をr-DNA1(配列番号2)及びr-DNA2(配列番号3)と結合させてキネシン被覆基材上で滑り運動させ、0.6μMのl-DNA1を加えた様子を示すタイムラプス画像である。スケールバーは20μmである。その結果、微小管の集合体が環を形成して円運動を行うことが明らかとなった。
【0091】
図15は、円運動を行っている微小管の集合体に0.6μMのd-DNAを加えた様子を示すタイムラプス画像である。スケールバーは20μmである。その結果、微小管の集合体が解離した。1つの集合体は300個程度の微小管から形成されていた。また、解離した単一の微小管は、キネシン被覆基材上で滑り運動する機能を維持していた。
【0092】
[実験例5]
(微小管の集合体の直交制御)
DNAの選択的なハイブリダイゼーション特性により、軟質微小管及び硬質微小管の集合をクロストークすることなく制御する検討を行った。長さ及び剛性が異なる2種類の微小管を2つの異なるDNA論理ゲートと共役させた。
【0093】
軟質微小管をr-DNA1(配列番号2)及びr-DNA2(配列番号3)と結合させた。また、硬質微小管をr-DNA5(配列番号6)及びr-DNA6(配列番号7)と結合させた。
【0094】
図16(a)は、剛性が異なる微小管の模式図及び蛍光顕微鏡写真である。図16(b)に示すように、l-DNA1(配列番号13)を入力すると、軟質微小管はr-DNA1(配列番号2)及びr-DNA2(配列番号3)とのハイブリダイゼーションによって環状の集合体が形成された。
【0095】
また、図16(c)に示すように、l-DNA5(配列番号17)を入力すると、硬質微小管がr-DNA5(配列番号6)及びr-DNA6(配列番号7)とのハイブリダイゼーションによって直線的に運動した。
【0096】
また、図16(d)に示すように、l-DNA1(配列番号13)及びl-DNA5(配列番号17)の双方を入力すると、直線的な運動と管状の運動の双方が同時に形成された。
【0097】
図16(b)~(d)中、軟質微小管及び硬質微小管の濃度はそれぞれ0.6μMであり、キネシンの濃度は0.3μMであり、それぞれのl-DNAの濃度は0.6μMであった。スケールバーは20μmを示す。
【0098】
[実験例6]
(光による微小管の集合の制御)
DNA入力を変える可逆的で非侵襲的な迅速な方法を得るために、発明者らは、光応答性DNA(p-DNA)を組み込むことを検討した。
【0099】
具体的には、光応答性分子であるアゾベンゼンを2つのDNA鎖に導入した。これにより、2つのDNA鎖間におけるハイブリダイゼーションのオン/オフ切り替えを行うことが可能になる。切り替えは、紫外線(UV)又は可視光の照射によるアゾベンゼン部分のシス-トランス異性化によって引き起こされるDNAハイブリダイゼーションの融解温度(Tm)変化から生じる。
【0100】
図17は、2つの光応答性DNAのアゾベンゼン部分のシス-トランス異性化によって、DNAハイブリダイゼーションのオン/オフが可逆的に切り替えられる様子を説明する模式図である。また、図18は、p-DNAを結合した微小管がUV又は可視光の照射により集合体の形成及び解離を示す様子を説明する模式図である。
【0101】
光応答性DNAであるp-DNA1(配列番号19)及びp-DNA2(配列番号20)を、シス状態ではTmが<20℃となり、トランス状態では60℃となるように設計した。続いて、p-DNA1(配列番号19)及びp-DNA2(配列番号20)を、すでにTAMRA及びFAMで蛍光標識した微小管にそれぞれ結合させた(以下、「赤色標識微小管」及び「緑色標識微小管」という場合がある。)。また、p-DNAを結合した微小管が、運動性を喪失することなくキネシン被覆基材上を移動することを確認した。
【0102】
図19は、赤色標識微小管及び緑色標識微小管に、UV又は可視光を照射した様子を示す蛍光顕微鏡写真である。微小管の濃度は赤色標識微小管及び緑色標識微小管それぞれ0.6μMであり、キネシンの濃度は0.8μMであった。スケールバーは20μmを示す。
【0103】
まず、微小管にUV照射(波長365nm)を照射してアゾベンゼン基をシス型に初期化した。続いて、微小管に可視光(波長480nm)を照射したところ、アゾベンゼンのシス型からトランス型への異性化が引き起こされ、p-DNA1とp-DNA2のハイブリダイゼーションが可能になり、微小管の集合体が形成された。続いて、微小管にUVを照射すると、微小管の集合体が個々の微小管に解離した。
【0104】
図19には、光スイッチによる集合及び解離を3サイクル繰り返した様子を示す。図19に示すように、硬質微小管を用いると光応答性微小管の集合体のモードが直線的な運動になり、軟質微小管を用いると、光応答性微小管の集合体のモードが円運動になった。
【0105】
このように、DNAに光応答性部分を導入することにより、光により微小管の集合を反復的かつ可逆的に切り替えることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、繊維の集合を制御する新たな技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0107】
600…繊維の集合体、610…第1の繊維、620…第2の繊維、611…第1の一本鎖核酸断片(レセプターDNA、r-DNA)、621…第2の一本鎖核酸断片(レセプターDNA、r-DNA)、630…第3の一本鎖核酸断片(リンカーDNA、l-DNA)、640…解離DNA(d-DNA)。
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【配列表】
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