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特許7307961アルカリ性および中性の塩水分解用の高度に持続性の電極および電解液
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】アルカリ性および中性の塩水分解用の高度に持続性の電極および電解液
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/04 20210101AFI20230706BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230706BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230706BHJP
【FI】
C25B11/04
C25B1/04
C25B9/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020543057
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 US2019016426
(87)【国際公開番号】W WO2019160701
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】62/630,599
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ケニー, マイケル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ダイ, ホンジェ
(72)【発明者】
【氏名】クアン, ユン
(72)【発明者】
【氏名】メン, ヨンタオ
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-525217(JP,A)
【文献】特表2019-507240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/04,9/00,11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物を含む水中での酸素発生反応のためのアノードであって、
基層と;
前記基層をコーティングするパッシベーション層と;
前記パッシベーション層をコーティングする電解触媒層とを備え、
前記パッシベーション層は、少なくとも1つの金属の硫化物を含む、アノード。
【請求項2】
前記パッシベーション層が、硫化ニッケルまたはニッケル鉄硫化物を含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
前記パッシベーション層と前記電解触媒層との間に配置されたアニオン層をさらに含む、請求項2に記載のアノード。
【請求項4】
前記アニオン層が硫黄のアニオン性酸化物を含む、請求項3に記載のアノード。
【請求項5】
塩化物を含む水中での酸素発生反応のためのアノードであって、
基層と;
前記基層をコーティングするパッシベーション層と;
前記パッシベーション層をコーティングする電解触媒層とを備え、
前記パッシベーション層は、少なくとも1つの金属のリン化物を含む、アノード。
【請求項6】
前記パッシベーション層が、リン化ニッケルまたはニッケル鉄リン化物を含む、請求項5に記載のアノード。
【請求項7】
前記パッシベーション層と前記電解触媒層との間に配置されたアニオン層をさらに含む、請求項6に記載のアノード。
【請求項8】
前記アニオン層がリンのアニオン性酸化物を含む、請求項7に記載のアノード。
【請求項9】
前記電解触媒層が、金属水酸化物、混合金属水酸化物、金属層状複水酸化物、混合金属層状複水酸化物、金属酸化物、または混合金属酸化物を含む、請求項1または記載のアノード。
【請求項10】
前記基層が、金属のフォーム、箔、またはメッシュである、請求項1または記載のアノード。
【請求項11】
前記基層が、ニッケルを含む、請求項1または記載のアノード。
【請求項12】
請求項1または記載の前記アノードを含む、水電解槽。
【請求項13】
塩化ナトリウムを含む水から酸素と水素を生成することを含む、請求項12に記載の前記水電解槽を操作する方法。
【請求項14】
前記水が、pHが7を超えるアルカリ性の海水である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年2月14日付で出願された米国仮出願第62/630,599号の利益を主張し、その内容は参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府資金提供を受けた研究開発の記載
この発明は、米国エネルギー省から授与された契約DE-SC0016165に基づく政府の支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
水素燃料を生成するための水の電気分解は、魅力的な再生可能エネルギー貯蔵ソリューションである。しかし、グリッドスケールの淡水の電気分解は、重要な水資源に大きな負担をかけることになる。塩化物腐食なく海水分解を維持することができる安価な電解触媒、電極、および電解液を開発することにより、水不足の問題に対処することができる。
【0004】
この背景に対して、本開示の実施形態を開発する必要が生じた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
要旨
一部の実施形態では、塩化物を含む水中での酸素発生反応用の耐食性アノードが提供され、それには、(1)基層(substrate);(2)基層をコーティングするパッシベーション層;および(3)パッシベーション層をコーティングする電解触媒層が含まれ、該パッシベーション層は、少なくとも1つの金属の硫化物を含む。
【0006】
一部の実施形態では、塩化物を含む水中での酸素発生反応用の耐食性アノードが提供され、それには、(1)基層;(2)基層をコーティングするパッシベーション層;および(3)パッシベーション層をコーティングする電解触媒層が含まれ、該パッシベーション層は、少なくとも1つの金属のリン化物を含む。
【0007】
一部の実施形態では、塩化物を含む水中での酸素発生反応用の耐食性アノードが提供され、それには、(1)基層;(2)基層をコーティングする電解触媒層;および(3)基層と電解触媒層との間に配置されたアニオン層が含まれる。
【0008】
一部の実施形態では、塩化物を含む水中での酸素発生反応用の耐食性アノードが提供され、それには、(1)基層;および(2)基層をコーティングする電解触媒層が含まれ、該電解触媒層は、アニオンを含む。
【0009】
一部の実施形態では、水電解槽が提供され、それには前述の実施形態のいずれかのアノードが含まれる。一部の実施形態では、水電解槽を操作する方法には、塩化ナトリウムを含む水から酸素と水素を生成することが含まれる。
【0010】
一部の実施形態では、水電解槽を操作する方法は、電解液から酸素と水素を生成することを含み、該電解液は、アルカリ性の海水と、該アルカリ性の海水に分散し、沈殿したアルカリ土類イオンおよび重金属イオンを濾過で除去した多原子アニオンとを含み、電解液中の多原子アニオンの濃度は約0.05M~約8Mの範囲内である。
【0011】
一部の実施形態では、酸素発生反応用のアノードを製造する方法には、(1)基層を提供すること;(2)基層をコーティングするパッシベーション層を形成すること;および(3)パッシベーション層をコーティングする電解触媒層を形成し、それにより基層、パッシベーション層、および電解触媒層を含むアノードを形成することが含まれる。
【0012】
一部の実施形態では、酸素発生反応用のアノードを製造する方法には、(1)ドーパントとして、遷移金属を含む基層を提供すること;(2)基層をコーティングする電解触媒層を形成すること;および(3)電流を基層に印加して、基層と電解触媒層との間に配置されたアニオン層を形成することが含まれ、該アニオン層は遷移金属のアニオン性酸化物を含む。
【0013】
一部の実施形態では、酸素発生反応用のアノードを製造する方法には、(1)基層を提供すること;および(2)基層をコーティングする電解触媒層を形成し、それにより基層および電解触媒層を含むアノードを形成することが含まれ、該電解触媒層を形成することは、アニオンを含む電解液溶液の存在下で行われ、アニオンは電解触媒層内に組み込まれる。
【0014】
一部の実施形態では、酸素発生反応用のアノードを製造する方法には、(1)基層を提供すること;(2)基層をコーティングする前駆体層を形成すること;および(3)前駆体層から、基層をコーティングする電解触媒層を形成し、それにより基層および電解触媒層を含むアノードを形成することが含まれ、該電解触媒層を形成することは、アニオンを含む電解液溶液の存在下で行われ、アニオンは電解触媒層内に組み込まれている。
【0015】
一部の実施形態では、酸素発生反応用のアノードを製造する方法には、(1)基層を提供すること;(2)電解触媒粒子を基層に付着させることが含まれ、該電解触媒粒子は多原子アニオンを含む。
【0016】
本開示のその他の態様および実施形態も企図される。前述の概要および以下の詳細な説明は、本開示を特定の実施形態に限定することを意味するものではなく、単に本開示のいくつかの実施形態を説明することを意味する。
【0017】
本開示のいくつかの実施形態の性質および目的をよりよく理解するために、以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、海水分解用のNiフォームアノード上での二層NiFe層状複水酸化物(LDH)/Niの作製および構造を示す図である。a、NiFe-LDHの表面硫化段階およびその場での電着を含む製造プロセスの概略図。b、cおよびd、未処理のニッケルフォーム、ニッケルフォーム上に形成されたNi、およびNi表面に電着されたNiFe-LDHの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。e、Niワイヤー、NiおよびNiFe-LDH層を明らかにする、Niフォーム内のNiワイヤー上のNiFe-LDH/Niの断面の元素マッピング。
【0019】
図2図2は、約1000時間にわたって連続的に分離する、連続的でエネルギー効率の良い海水分解を示す図である。a、約1000時間の海水分解前後のNiフォーム電極上のNiFe-LDH/Niのサイクリックボルタンメトリー(CV)スキャン。CV曲線は、アルカリ性の模擬海水電解液(脱イオン水中、約0.5MのNaClを含む約1MのKOH)抵抗:0.7+/-0.05オームで約1.0V~約1.8(vs.可逆水素電極(RHE))の間で取得した。b、工業用電気分解条件(約80℃で約6MのKOH電解液、抵抗:0.55+/-0.05オーム)下、室温(約23℃、抵抗:0.85+/-0.05オーム)およびほぼ飽和した塩濃度(約1.5M NaCl)で、アルカリ性の海水電解液(約1M のKOH+実際の海水)で行った海水分解電解槽(Cr-Ni-NiOカソードと組み合わせた)の線形掃引ボルタンメトリー(LSV)スキャン。c、室温の約1M KOH+実際の海水(R=0.95+/-0.05オーム)、室温の約1M KOH+約1.5M NaCl(R=0.8+/-0.05オーム)、および約80℃の約6M KOHの電解液(R=0.55+/-0.05オーム)下でそれぞれ、海水分解電解槽の約400mA/cmの実質的に一定の電流で数時間の活性化期間後に記録した約1000時間の耐久性試験。iR補償はどの実験にも適用されていないことに注意されたい。
【0020】
図3図3は、過酷な条件下での海水分解を示す図である。a、Cr-Ni-NiOカソードと、むき出しのNiフォーム、Niフォーム/Ni、NiFe-LDHプレートを負荷した(非連続負荷)Niフォーム、NiFe-LDHプレートを負荷した(非連続負荷)Ni/Ni、Niフォーム/電着した連続NiFe-LDHおよび二層連続/Ni/電着NiFe-LDHアノードを含むNiフォームでそれぞれ組になった電解槽の約1M KOH+約2M NaCl電解液(天然の海水の約4倍の塩濃度)における約400mA/cmの実質的に一定の電流での耐久性試験。すべての電気化学データは、iR補償されなかった(R=0.85+/-0.05オーム)。b、この過酷な条件での約300時間の電気分解の後、電着NiFe-LDH/Ni/Niフォーム電極は、写真から、構造的完全性をなお示していた(アノードの上の白い材料は、Niフォームを満たすために使用されるエポキシコーティングであり、電解液が溶液から上方に吸い上げられるのを防ぐ)。c、約1M KOH+約2M NaClにおける(a)のアノードのO生成に対する酸素発生反応(OER)の相対ファラデー効率。
【0021】
図4図4は、構造特性評価および耐食性機構を示す図である。a、b、c、電着NiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードの(a)海水分解前、(b)約1M KOH+実際の海水中での約1000時間の安定性試験後、および(c)約1M KOH+約4倍の塩濃度の天然海水(約2M NaCl)中での約300時間の安定性試験後の三次元X線マイクロトモグラフィー、アノードの腐食はほとんどないか遅い。d、約1M KOH+約2M NaCl中で約8時間の安定性試験後の電着LDHを含む(ただしNiを含まない)Niフォーム、明らかな腐食を示す。e、約1000時間の海水分解の前後の電着NiFe-LDH/Niのラマンスペクトル。硫酸塩層の形成を示す。f、最初の数時間の電気分解において、約1M KOH+約2M NaCl中での電着NiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードの3電極実験、硫酸塩層の形成に対応し得る電圧の初期低下を示す。g、(f)中に取得したO産生のOER相対ファラデー効率プロット。約2時間での電圧の低下は、相対ファラデー効率の小さい低下に対応し、NiFe-LDHとNiの間に硫酸塩層が形成されることを示す。
【0022】
図5】aは、Ni/NiPのX線回折を示す。bは、Ni/NiP/NiFe-LDHのSEM画像を示す。cは、約1M KOHおよび約1.5M NaCl溶液中での約45時間の水分解安定性試験の前後の、スキャン速度約2mV/sでのNi/NiP/NiFe-LDHのCVスキャンを示す。dは、室温でRHEに対して約1.79Vの実質的に一定の電圧での、約1M KOHおよび約1.5M NaCl電解液中のNi/NiP/NiFe-LDHの3電極水分解安定性試験を示す。eは、約80℃で約6M KOH+約1.5M NaCl下の海水分解電解槽の約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での約550時間の耐久性試験を示す。iR補償はどの実験にも適用されていないことに注意されたい。
【0023】
図6】a、NiFe/NiFeP/NiFe-LDHのX線回折パターン。b、NiFe/NiFeP/NiFe-LDHのSEM画像。c、約1M KOHおよび約1.5M NaCl溶液中での約85時間の安定性試験の前後のNiFe/NiFeP/NiFe-LDHのCVスキャン。d、室温でRHEに対して約1.79Vの実質的に一定の電圧での、約1M KOHおよび約1.5M NaCl電解液中のNiFe/NiFeP/NiFe-LDHの3電極水分解安定性試験。
【0024】
図7】a、スキャン速度約5mV/sでの約1M KOHおよび約2M NaCl溶液中のステンレス鋼(SS)/NiFe-LDHのCVスキャン。b、約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約1M KOHおよび約2M NaCl電解液中の、SS/NiFe-LDHアノードとCr-Ni-NiOカソードが組になった電解槽の安定性試験。c、スキャン速度約5mV/sでの、約1M KOH+約2M NaCl中のCr-Ni-NiOに対するNiFe-LDHを含むまたは含まないSS 316フォームの2電極システムのLSVスキャン。d、(c)の2つの電解槽の約400mA/cmでの実質的に定電流の試験。
【0025】
図8】a、b,c、d、e、f、Ni/NiおよびNi/Ni/NiFe-LDHの電子回折パターン。
【0026】
図9】a、b、c、Ni/Niの断面の元素マッピング。
【0027】
図10】約1M KOH+約0.5M NaClにおけるNi/Ni/NiFe-LDHのOER性能。
【0028】
図11】約23℃でNi/Ni/NiFe-LDHによる約1M KOH+約1M NaClの実質的に一定電流の電気分解。
【0029】
図12】約1M KOH+約1.5M NaCl(約23℃)中のNi/Ni/NiFe-LDHによる電気分解中の空気対ヘッドスペース試料の質量スペクトル。
【0030】
図13】Ni/Ni/NiFe-LDHを用いる約1M KOHおよび約1M KOH+海水中での約400mA/cmのガスクロマトグラフィーのOシグナル。
【0031】
図14】Ni/Ni/NiFe-LDHのX線吸収端近傍構造(XANES)マッピングおよび吸収スペクトル。a、b、(a)電気分解前および(b)電気分解後のスペクトル。c、表面の化学フィンガープリントおよびバルク組成が示され、Niの形成を示す。しかし、LDH層はX線検出には薄すぎるため、最も外側のLDH層は、このXANESマッピングでは目立たなかった。
【0032】
図15】NiSO・6HO結晶のラマンスペクトル。
【0033】
図16】約1M KOH中で約12時間活性化、および約1M KOH+約2M NaCl中で約12時間の活性化後の、新鮮なNi/Ni/NiFe-LDHのラマンスペクトル。
【0034】
図17】a、出発NiFeフォームの概略図。b、約85℃でのNiFeフォームの陽極酸化中の約250mA/cmの実質的に一定の電流密度での電圧の時間に対する曲線。挿入図は実験装置を示す。c、金属表面が暗い色の粗い表面に変わる、陽極酸化後に得られるNiFe水酸化物炭酸塩(NiFe-HC)の概略図。d、NiFe-HCを含む陽極酸化したフォームの粉末X線回折(XRD)。線は、α-Ni(OH)のXRDパターンに対応する(JCPDSカード番号38-0715)。eおよびf、低倍率および高倍率での陽極酸化後のフォームのSEM画像、および元素分布を示すNiFe-HCのエネルギー分散型X線分光法(EDX)マッピング。
【0035】
図18】a、スキャン速度約5mV/sでの約1M KOH電解液中のNiFe-HCのCVスキャン。b、室温で約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約1M KOH、約1M NaCO、および約2M NaCl電解液中のNiFe-HCアノードと白金メッシュカソードが組になった電解槽の安定性試験。c、室温で約1A/cmの実質的に一定の電流密度での、約1M KOH、約1M NaCO、および約0.5M NaCl電解液中のNiFe-HCアノードとCr-Ni-NiOカソードが組になった電解槽の安定性試験。d、約80℃で約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約6M KOH、約2M KCO、および約0.5M NaCl電解液中のNiFe-HCアノードとニッケルメッシュカソードが組になった電解槽の安定性試験。e、約80℃で約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約6M KOH、約0.5M KCO、および約1M NaCl電解液中のNiFe-HCアノードとCr-Ni-NiOカソードが組になった電解槽の安定性試験。f、室温で約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約0.1M KOH、約3M KCO、および約1M NaCl電解液中のNiFe-HCアノードと白金カソードが組になった電解槽の安定性試験。
【0036】
図19】a、スキャン速度約5mV/sでの約1M KOH電解液中の70時間の安定性試験の前後のNiメッシュ-Fe浸漬-HCのLSVスキャン。b、RHEに対して約1.81Vの実質的に一定の電圧での約1M KOH電解液中のNiメッシュ-Fe浸漬-HCの3電極安定性試験。c、約80℃で約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での約6M KOH、約0.5M KCO、および約1M NaCl電解液中のNiメッシュ-Fe浸漬-HCアノードとニッケルメッシュカソードが組になった電解槽の安定性試験。
【0037】
図20】a、CO飽和した約0.5M KHCO電解液中の、NiFe-HC、市販のIrO、および20%Ir/CのCVスキャンのフォワードブランチ(Forward branch)。CV曲線は、約1mV/sのスキャン速度でRHEに対して約1.3~2Vの間で取得した。抵抗は約1.4オームであり、補償されなかった。b、120時間、CO飽和した約0.5M KHCO電解液中、約250mAの実質的に一定の電流でのOER動作下のNiFe-HC電極のクロノポテンショメトリー(抵抗は約1.4オーム、iR補償あり)。c、OER安定性試験前後の、スキャン速度約5mV/sでpH=約7.4のCO飽和した約0.5M KHCOおよび約0.3M NaCl電解液中のNiFe-HCのLSVスキャン。d、10mA/cmの実質的に一定の電流でpH=約7.4の、約0.5M KHCOおよび約0.3M NaCl電解液CO飽和した中のNiFe-HCの3電極OER安定性試験。
【0038】
図21】a、約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約1M KOH、約3M KCO、および約2M NaCl電解液中の、Niフォーム-ELDHアノードと白金メッシュカソードが組になった電解槽の安定性試験。b、スキャン速度約5mV/sでの約1M KOH、約3M KCO、および約2M NaCl電解液中の約1000時間の水分解試験後のNiフォーム-ELDHのLSVスキャン。c、(a)に記載の安定性試験の後の電解液およびNiフォーム-ELDHのデジタル画像。d、約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約1M KOH、約1M KCO、約0.1M KPOおよび約2M NaCl電解液中のNiフォーム-ELDHアノードと白金メッシュカソードがペアになった電解槽の安定性試験。
【0039】
図22】a、約1M KOH電解液中のNiフォーム/負荷NiFe-LDHのLSVスキャン。b、約80℃で約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約6M KOHおよび約1M NaCl電解液中のNiフォーム/負荷NiFe-LDHアノードとニッケルメッシュカソードが組になった電解槽の安定性試験(約0.5M KCOを含むものとKCOを加えないものを比較)。c、約80℃で約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約6M KOH、約0.5M KCO、および約1M NaCl電解液中のNiフォーム/負荷NiFe-LDHアノードとCr-Ni-NiOカソードが組になった電解槽の安定性試験。
【0040】
図23】a、約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、約1M KOH、約1M NaSOおよび約2M NaCl電解液中のNiフォーム-ELDHアノードと白金メッシュカソードが組になった電解槽の安定性試験。b、約1M KOHおよび約1M NaSO電解液中で約12時間の定電流(約400mA/cm)試験後の、約1M KOH、約1M NaSO、および別の約0.5M NaCl電解液中での定電流試験(約400mA/cm)の12時間後の、そして約1M KOH、約1M NaSO、および約2M NaCl電解液中での定電流(約400mA/cm)の1000時間後の、約1M KOH中のNiフォーム-ELDHのLSVスキャン。すべての試験は室温で行った。
【0041】
図24】a、CVスキャン。b、約1M KOH+約0.5M NaCl中、および約1M KOH+約0.5M NaCl+約0.05M硫酸ナトリウム/リン酸塩/炭酸塩中で約24時間の活性化前および活性化後のNiフォーム-ELDHのNi酸化領域の拡大CVスキャン。
【0042】
図25図25は、いくつかの実施形態による水電解槽の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
説明
本開示の実施形態は、実用的な電流密度および温度、例えば工業用水の電気分解で使用される条件下などで、塩化物アニオンを除去せずに、塩水を酸素と水素に直接変換するように動作することができる電気化学セルに関する。本開示の実施形態は、高度に持続的な水分解のための、電極、電解質、およびそれらの製造方法を含む、そのような電気化学セルの構成要素にも関する。
【0044】
図25は、いくつかの実施形態による、アノード102、カソード104、およびアノード102とカソード104の間にそれらと接触して配置された電解液106を含む水電解槽100を示す。アノード102は、水の酸化または酸素発生反応(OER)を促進するように構成され、基層に付着したOER電解触媒を含む。カソード104は、水の還元または水素発生反応(HER)を促進するように構成され、基層に付着したHER電解触媒を含む。
【0045】
一部の実施形態では、アノード102に含まれるOER電解触媒は、金属もしくは混合金属水酸化物、金属もしくは混合金属層状複水酸化物、または金属もしくは混合金属酸化物を含む。一部の実施形態では、OER電解触媒は、水酸化ニッケル、ニッケル層状複水酸化物、水酸化ニッケル鉄、ニッケル鉄層状複水酸化物、水酸化ニッケルマンガン、ニッケルマンガン層状複水酸化物、水酸化ニッケルクロム、ニッケルクロム層状複水酸化物、水酸化ニッケル鉄クロム、ニッケル鉄クロム層状複水酸化物、水酸化ニッケルコバルト、ニッケルコバルト層状複水酸化物、コバルト鉄水酸化物、コバルト鉄層状複水酸化物、ニッケル鉄コバルト水酸化物、ニッケル鉄コバルト層状複水酸化物、酸化イリジウム、あるいはその2またはそれを超える組合せを含む。一部の実施形態では、アノード102は、基層をコーティングするかまたはカバーする(例えば、コンフォーマルコーティングするかまたはカバーする)電解触媒層(金属またはニッケル鉄層状複水酸化物などの混合金属層状複水酸化物を含む)を含む。一部の実施形態では、電解触媒層の厚さは、約10nm~約1000nm、約50nm~約800nm、約50nm~約600nm、約50nm~約400nm、約50nm~約200nm、または約100nm~約200nmの範囲内である。一部の実施形態では、電解触媒層はアモルファスであるかまたはアモルファス相を含む。一部の実施形態では、電解触媒層は結晶性であるかまたは結晶相を含む。
【0046】
一部の実施形態では、アノード102に含まれる基層は、元素ニッケル、ニッケル含有合金(例、ニッケル鉄合金、ニッケルコバルト合金、ステンレス鋼、ニッケルクロム合金、またはニッケルコバルト鉄合金)、またはニッケル被覆ベース基層(例、ニッケル被覆鉄基層)の形態のニッケルを含むなどの金属基層である。一部の実施形態では、アノード102に含まれる基層は、多孔性基層である。多孔性基層の多孔度は、全容積に対する空隙の容積の比、すなわち、0~1の間として、または0%~100%の間の百分率として表すことができる。一部の実施形態では、多孔性基層は、少なくとも約0.05または少なくとも約0.1および最大約0.98またはそれを超える多孔度を有する可能性があり、より詳細には、多孔度は、約0.1~約0.98、約0.2~約0.98、約0.3~約0.98、約0.4~約0.95、約0.5~約0.95、約0.6~約0.95、または約0.7~約0.95の範囲であり得る。多孔度を決定するための技術には、例えば、ポロシメトリーおよび光学または走査技術が含まれる。適した多孔性基層の例としては、ニッケルフォーム、ニッケル鉄フォーム、ニッケルコバルトフォーム、およびステンレス鋼(例、ステンレス鋼316などのモリブデンでドープされたもの)フォームなどの金属フォームと、炭素フォーム、グラファイトフォーム、およびグラフェンフォームなどの非金属フォームが挙げられる。その他の触媒担体または基層を、例えば、ニッケル箔もしくはメッシュ、ステンレス鋼箔もしくはメッシュ、ニッケルクロム箔もしくはメッシュ、またはニッケルコバルト鉄合金箔もしくはメッシュなどの金属または非金属の箔もしくはメッシュなどの金属または非金属のフォームの代わりに、またはそれらと組み合わせて含めることができる。
【0047】
一部の実施形態では、アノード102は、基層と電解触媒層の間に配置されたアニオン層も含む。アニオン層は、電解触媒層に対するカチオン選択性を高め、塩化物アニオンに反発することによって下層の基層に耐食性を付与する。一部の実施形態では、アニオン層は、絶対値が2またはそれを超える、3またはそれを超える、または4またはそれを超える負の電荷状態を有する多価の多原子アニオンを含む。あるいは、または併せて、アニオン層は、重炭酸塩(HCO )、リン酸二水素塩(HPO )、またはそれらの組合せなどの一価の多原子アニオンを含むことができる。一部の実施形態では、多価アニオンには、硫黄などの周期律表の第16族の元素のアニオン性酸化物が含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには、硫酸塩(SO 2-)、亜硫酸塩(SO 2-)、またはそれらの組合せが含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには、リンなどの周期律表の第15族の元素のアニオン性酸化物が含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには、リン酸塩(PO 3-)、リン酸水素(HPO 2-)、またはそれらの組合せが含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには、炭素などの周期律表の第14族の元素のアニオン性酸化物が含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには炭酸塩(CO 2-)が含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには、ホウ素などの周期律表の第13族の元素のアニオン性酸化物が含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンにはホウ酸塩が含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには、モリブデン、タングステン、バナジウム、またはクロムなどの遷移金属のアニオン性酸化物が含まれる。一部の実施形態では、多価アニオンには、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、またはクロム酸塩が含まれる。
【0048】
一部の実施形態では、アノード102には、基層と電解触媒層の間、および基層とアニオン層の間に配置されたパッシベーション層も含まれる。パッシベーション層は、下層の基層に耐食性を付与することができ、その場で形成されるアニオン層の供給源として機能し得る。一部の実施形態では、パッシベーション層は導電性である。一部の実施形態では、パッシベーション層は、ニッケルまたはニッケルと鉄などの金属または2またはそれを超える異なる金属の組合せを含む。一部の実施形態では、金属または2もしくはそれを超えることなる金属の組合せに加えて、パッシベーション層は、硫黄などの周期律表の第16族の元素も含む。一部の実施形態では、パッシベーション層は、硫化ニッケルまたはニッケル鉄硫化物を含む。一部の実施形態では、金属または2もしくはそれを超えることなる金属の組合せに加えて、パッシベーション層は、リンなどの周期律表の第15族の元素も含む。一部の実施形態では、パッシベーション層は、リン化ニッケルまたはニッケル鉄リン化物を含む。一部の実施形態では、パッシベーション層はステンレス鋼を含む。一部の実施形態では、パッシベーション層の厚さは、約200nm~約10μm、約500nm~約8μm、約500nm~約6μm、約500nm~約4μm、約500nm~約2μm、または約1μm~約2μmの範囲内である。一部の実施形態では、パッシベーション層はアモルファスであるかまたはアモルファス相を含む。一部の実施形態では、パッシベーション層は結晶性であるかまたは結晶相を含む。
【0049】
一部の実施形態では、電解触媒層はそれ自体が不動態化しているため、個別のパッシベーション層または個別の陰イオン層を省略することができる。例えば、電解触媒層を形成する間に(例えば、陽極酸化の間に)アニオンを含めて、アニオンを含む電解触媒層を得ることができる。アニオンを電解触媒層の内部に挿入させるか、または別の場合には電解触媒層の内部に組み込ませて、塩化物アニオンに反発することによって耐食性を付与することができる。一部の実施形態では、電解触媒層は、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した金属もしくは混合金属水酸化物、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した金属もしくは混合金属層状複水酸化物、またはアニオンもしくは混合アニオンを挿入した金属もしくは混合金属酸化物を含み、ここで、アニオンは、重炭酸塩などの一価の多原子アニオン、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、またはクロム酸塩などの多価のアニオン、あるいは2またはそれを超えるそれらの組合せであってよい。例えば、OER電解触媒は、水酸化ニッケルの炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケル層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;水酸化ニッケル鉄の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケル鉄層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケルマンガン水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケルマンガン層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;水酸化ニッケルクロムの炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケルクロム層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケル鉄クロム水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケル鉄クロム層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケルコバルト水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケルコバルト層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;コバルト鉄水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;コバルト鉄層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケル鉄コバルト水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;ニッケル鉄コバルト層状複水酸化物の炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩;炭酸塩、硫酸塩、またはリン酸塩を挿入した酸化イリジウム、あるいは2またはそれを超えるそれらの組合せを含む。
【0050】
一部の実施形態では、カソード104に含まれるHER電解触媒には、ニッケル、酸化ニッケル、および酸化クロムの組合せが含まれる。一部の実施形態では、HER電解触媒は、大きさが約1nm~約200nm、約1nm~約150nm、約2nm~約100nm、または約2nm~約50nmの範囲のナノ粒子の形態であり、各ナノ粒子には、ニッケルおよび酸化ニッケルを含むコアと、コアを覆う酸化クロムを含むシェルが含まれる。HER電解触媒は、アノード102について説明したのと同様に実現され得る基層に付着している。ニッケル、酸化ニッケル、および酸化クロムの代わりに、またはこれらと組み合わせて、他のHER電解触媒を含めることができる。
【0051】
電解液106は水性電解液であり、アルカリ性または中性であってよい。図25に示されるように、電解液106は、アルカリ性の海水、例えばpHを高めるために水酸化カリウムを添加し(例えば、pHを約7よりも大きくするために、例えば約7.5またはそれを超える、約8またはそれを超える、約9またはそれを超えるpHにするための、水酸化カリウムまたはその他の塩基の濃度は、約0.5M~約6M、約1M~約6M、約0.5M~約4M、約0.5M~約2M、または約1M)、塩化ナトリウム濃度が約0.5M~約2Mの範囲の海水であってよい。
【0052】
一部の実施形態では、アニオンを電解液106に含めることができ、水電解槽100の動作中のアノード102の電解触媒層内への挿入または別の場合には組み込みなどによって、アルカリ性の海水中に分散させてアノード102に耐食性を付与することができる。アニオンは、重炭酸塩などの一価の多原子アニオン、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、またはクロム酸塩などの多価の多原子アニオン、あるいは2またはそれを超えるそれらの組合せであってよい。電解液106中のかかるアニオンの濃度は、約0.05M~約8M(またはかかるアニオンの最大飽和濃度まで)、約0.05M~約6M、約0.1M~約4M、約0.05M~約2M、約0.1M~約2M、または約0.5M~約1Mの範囲であり得る。2またはそれを超える異なるアニオンが電解液106に含められている場合には、かかるアニオンの全濃度は、前に述べた範囲内であり得る。
【0053】
図25を参照すると、水電解槽100は、電源108も含む。電源はアノード102およびカソード104と電気的に接続されており、アノード102およびカソード104でそれぞれOERおよびHERを促進する電気を供給するように構成されている。電源108は、例えば、一次もしくは二次電池または太陽電池を含むことができる。図25には示されていないが、選択的透過性膜または他の仕切り構成要素を含めて、アノード102およびカソード104をそれぞれの区画に仕切ることができる。
【0054】
有利には、水電解槽100は、高い電流密度(例えば、約400mA/cmまたはそれを超える)で、低い印加電圧(例えば、約2Vまたはそれ未満、またはRHEに対して約1.79V)で、長い継続期間(例、約1000時間またはそれを超えて)アルカリ性または中性の海水を酸素と水素に直接変換するように動作することができ、腐食に対する高い耐性および性能の劣化に対する高い安定性を有する。水電解槽100は、広い範囲の塩化ナトリウム濃度(例、約0.5M~2M)および広範囲の動作温度(例えば、約23℃~約80℃)で動作することができ、塩素ガスの目立った生成がほとんどまたは全くない。さらに、水電解槽100は、希土類材料を含めずに高い性能および耐食性で動作することができる。アノード102の安定化はまた、SCN、S 、HCOO、およびCOOなどの他のイオンに対して拡張することができる。
【0055】
一部の実施形態では、水酸化またはOERを促進するためのアノード(例、アノード102)は、以下を含む製造方法:(1)基層を提供すること;(2)基層をコーティングするかまたはカバーする(例えば、コンフォーマルコーティングするかまたはカバーする)パッシベーション層を形成すること;および(3)パッシベーション層をコーティングするかまたはカバーする(例えば、コンフォーマルコーティングするかまたはカバーする)電解触媒層を形成し、それにより基層、パッシベーション層、および電解触媒層を含むアノードを形成することに従って形成される。一部の実施形態では、(2)のパッシベーション層を形成することには、基層を前駆体溶液に浸漬するかまたは別の場合には曝露し、基層および前駆体溶液を約80℃~約200℃、約100℃~約180℃の範囲の温度、または約150℃などに約1時間~約10時間、約2時間~約8時間の範囲、または約5時間の時間の間、加熱することが含まれる。一部の実施形態では、前駆体溶液には、硫黄などの周期律表の第16族の元素が含まれる。一部の実施形態では、前駆体溶液には、リンなどの周期律表の第15族の元素が含まれる。一部の実施形態では、前駆体溶液には、炭素などの周期律表の第14族の元素が含まれる。一部の実施形態では、前駆体溶液には、ホウ素などの周期律表の第13族の元素が含まれる。一部の実施形態では、(3)で電解触媒層を形成することは、電着によって行われる。一部の実施形態では、この方法は、アノードに電流を印加してパッシベーション層と電解触媒層の間に配置されたアニオン層を形成することをさらに含む。
【0056】
一部の実施形態では、水酸化またはOERを促進するためのアノード(例、アノード102)は、以下を含む製造方法:(1)基層を提供すること;および(2)基層をコーティングするかまたはカバーする(例えば、コンフォーマルコーティングするかまたはカバーする)電解触媒層を形成し、それにより基層および電解触媒層を含むアノードを形成することに従って形成される。一部の実施形態では、電解触媒層は、(2)で基層の上に直接形成される。一部の実施形態では、(2)の電解触媒層の形成は、電着によって行われる。一部の実施形態では、基層は、基層内のドーパントとして遷移金属を含み、方法は、アノードに電流を印加して基層と電解触媒層の間に配置されたアニオン層を形成することをさらに含み、該アニオン層は、遷移金属のアニオン性酸化物を含む。
【0057】
一部の実施形態では、水酸化またはOERを促進するためのアノード(例、アノード102)は、以下を含む製造方法:(1)基層を提供すること;および(2)基層をコーティングするかまたはカバーする(例えば、コンフォーマルコーティングするかまたはカバーする)電解触媒層を形成し、それにより基層および電解触媒層を含むアノードを形成することに従って形成され、ここで、電解触媒層を形成することは、アニオンを含む電解液溶液(例、電解質水溶液)の存在下で行われ、アニオンは電解触媒層の内部に挿入されているか、または別の場合には電解触媒層の内部に組み込まれている。アニオンは、重炭酸塩などの一価の多原子アニオン、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、またはクロム酸塩などの多価の多原子アニオン、あるいは2またはそれを超えるそれらの組合せであってよい。電解液溶液中のそのようなアニオンの濃度は、約0.01M~約4M、約0.05M~約4M、約0.1M~約4M、約0.1M~約2M、または約0.1M~約1Mの範囲であってよい。2またはそれを超える異なるアニオンが電解液溶液に含められている場合には、かかるアニオンの全濃度は、前に述べた範囲内であり得る。電解液溶液のpHは、約4~約13の範囲であり得る。一部の実施形態では、(2)で電解触媒層を形成することは、基層の陽極酸化によって実施され、基層を電解液溶液に浸漬するかまたは別の場合には曝露して、電解触媒層を基層の表面上、表面、または基層の表面に隣接して形成する。一部の実施形態では、陽極酸化による電解触媒層の形成には、電流(例、陽極酸化電流)を基層に印加することが含まれ、ここで、電流は、約10mA/cm~約400mA/cm、約10mA/cm~約350mA/cm、または約10mA/cm~約300mA/cmの範囲であり得、陽極酸化は、約20℃~約100℃、約40℃~約100℃、または約60℃~約100℃の範囲の温度で行われる。
【0058】
一部の実施形態では、水酸化またはOERを促進するためのアノード(例、アノード102)は、以下を含む製造方法:(1)基層を提供すること;(2)基層をコーティングするかまたはカバーする(例えば、コンフォーマルコーティングするかまたはカバーする)前駆体層を形成すること;および(3)前駆体層から、基層をコーティングするかまたはカバーする(例えば、コンフォーマルコーティングするかまたはカバーする)電解触媒層を形成し、それにより基層および電解触媒層を含むアノードを形成することに従って形成され、ここで、電解触媒層を形成することは、アニオンを含む電解液溶液(例、電解質水溶液)の存在下で行われ、アニオンは電解触媒層の内部に挿入されているか、または別の場合には電解触媒層の内部に組み込まれている。一部の実施形態では、基層は第1の金属を含み、(2)で前駆体層を形成することは、第1の金属とは異なる少なくとも1つの第2の金属を含む前駆体溶液に基盤を浸漬するかまたは別の場合には曝露し、続いて基層を乾燥するかまたは加熱することを含む。一部の実施形態では、第1の金属はニッケルである。一部の実施形態では、第2の金属は、鉄、マンガン、クロム、またはコバルトである。一部の実施形態では、前駆体層は、第1の金属のカチオンと第2の金属のカチオンを含む混合金属カチオン層である。アニオンは、重炭酸塩などの一価の多原子アニオン、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、またはクロム酸塩などの多価の多原子アニオン、あるいは2またはそれを超えるそれらの組合せであってよい。電解液溶液中のそのようなアニオンの濃度は、約0.01M~約4M、約0.05M~約4M、約0.1M~約4M、約0.1M~約2M、または約0.1M~約1Mの範囲であってよい。2またはそれを超える異なるアニオンが電解液溶液に含められている場合には、かかるアニオンの全濃度は、前に述べた範囲内であり得る。電解液溶液のpHは、約4~約13の範囲であり得る。一部の実施形態では、(3)で電解触媒層を形成することは、基層の陽極酸化によって実施され、基層を電解液溶液に浸漬するかまたは別の場合には曝露して、電解触媒層を基層の表面上、表面、または基層の表面に隣接して形成する。一部の実施形態では、陽極酸化による電解触媒層の形成には、電流(例、陽極酸化電流)を基層に印加することが含まれ、ここで、電流は、約10mA/cm~約400mA/cm、約10mA/cm~約350mA/cm、または約10mA/cm~約300mA/cmの範囲であり得、陽極酸化は、約20℃~約100℃、約40℃~約100℃、または約60℃~約100℃の範囲の温度で行われる。
【0059】
一部の実施形態では、前述の方法に従って形成された電解触媒層は、最初の基層から取り外し、電解触媒粒子として粒子状に加工し、その後、電解触媒粒子を別の基層に付着させることによって、アノードを形成するために使用することができる。一部の実施形態では、電解触媒粒子は、アニオンを挿入した金属もしくは混合金属水酸化物、アニオンを挿入した金属もしくは混合金属層状複水酸化物、またはアニオンを挿入した金属もしくは混合金属酸化物を含み、ここで、アニオンは、重炭酸塩などの一価の多原子アニオン、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、またはクロム酸塩などの多価のアニオン、あるいは2またはそれを超えるそれらの組合せであってよい。一部の実施形態では、電解触媒粒子の大きさは、約1nm~約1μm、約1nm~約500nm、約1nm~約300nm、約1nm~約200nm、または約1nm~約100nmの範囲内である。一部の実施形態では、電解触媒粒子を他の基層に付着させることは、結合剤とともに電解触媒粒子をコーティング(例えば、ドロップキャスティングまたはスプレー)し、続いて約70℃~約200℃の範囲の温度に乾燥または加熱することによって行われる。一部の実施形態では、他の基層は、例えばニッケルフォーム、箔、またはメッシュの形態のニッケルを含むなどの金属基層である。
【0060】
一部の実施形態では、海水電気分解用の電解液(例えば、電解液106)は、以下を含む製造方法:(1)海水と水酸化カリウム(または他の塩基)の溶液を合わせて混合溶液を形成し、続いて濾過して沈殿(例、濾過により除去した沈殿したアルカリ性土類および重金属イオン)を除去すること;(2)水酸化カリウム(または他の塩基)を混合溶液に添加して、所望のpHまたは所望の水酸化カリウム(または他の塩基)濃度を達成すること;および(3)アニオンを混合溶液に添加して電解液を得ることに従って形成される。所望の水酸化カリウム(または他の塩基)濃度は、pHを約7よりも高く、例えば約7.5またはそれを超える、約8またはそれを超える、または約9またはそれを超えるpHに上げるために、約0.5M~約6M、約1M~約6M、約0.5M~約4M、約0.5M~約2M、または約1Mの範囲であり得る。アニオンは、重炭酸塩などの一価の多原子アニオン、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、バナジン酸塩、またはクロム酸塩などの多価の多原子アニオン、あるいは2またはそれを超えるそれらの組合せであってよい。電解液中のかかるアニオンの濃度は、約0.05M~約8M(またはかかるアニオンの最大飽和濃度まで)、約0.05M~約6M、約0.1M~約4M、約0.1M~約2M、または約0.5M~約1Mの範囲であり得る。2またはそれを超える異なるアニオンが電解液に含められている場合には、かかるアニオンの全濃度は、前に述べた範囲内であり得る。そのようなアニオンは、そのようなアニオンのアルカリ金属塩、例えばそのようなアニオンのリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、またはセシウム塩などの形態で混合溶液に添加することができる。
【実施例
【0061】
以下の実施例は、本開示のいくつかの実施形態の特定の態様を記述して当業者に説明を例示および提供する。実施例は本開示のいくつかの実施形態を理解および実施する際に有用な特定の方法論の単なる提供にすぎないため、実施例は、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
実施例1
高度に持続性でエネルギー効率の良い海水分解
【0062】
概要:
【0063】
この実施例は、非常に安定し、エネルギー効率の良い海水電気分解を実現する多孔性Niフォーム(NiFe-LDH/Ni/Ni)の上に形成された導電性Niパッシベーション層の上に均一にコーティングされたアモルファスNiFe層状複水酸化物(LDH)電解触媒層からなる二層アノードを提示する。アノードは高活性で、耐食性であり、アルカリ性の海水電解液中の酸素発生反応(OER)に対して実質的に100%選択性である(Clの発生なし)。水素発生反応(HER)電解触媒と組み合わせると、約1.72Vの印加電圧で1000時間を超えて減衰することなく、約400mA/cmの高い電気分解電流密度が安定したアルカリ性の海水分解に達成される。水の酸化のほうへアノード電流を引き付ける、連続的で非常にOER活性のあるNiFe電解触媒層と、NiFeとNiパッシベーション層との間に形成された、塩化物に反発する硫酸塩含有アニオン界面とが、塩水中での耐食性の優れたアノードを担っている。
【0064】
考察および結果:
【0065】
困難な化学反応を推進して再生可能エネルギーを貯蔵することは、多くの代替エネルギー源が直面している間欠性の問題に対する魅力的な解決策である。その高い重量エネルギー密度(約142MJ/Kg)と無公害の使用により、水素は最も有望なクリーンエネルギーキャリアの1つと考えられている。水の電気分解は、カソードで水素を生成するためのクリーンで有効な方法であるが、アノードでの効率的で安定した酸素発生反応(OER)に大きく依存している。
【0066】
世界のエネルギーのかなりの部分を貯蔵するために水分解を利用する場合、大量の精製水を燃料の形成に使用すると、水の分配の問題が発生する可能性がある。地球の水資源の約97%を占める海水は、地球上で最も豊富な水性電解質原料であるが、水分解プロセスでそれを実施することは、特にアノード反応に関して課題が多い。最も深刻な問題は、塩化物アニオン(海水中約0.5M)によって引き起こされる。第1に、塩化物アニオンの選択性の問題がある。pH=0では、通常の水素電極(NHE)に対する酸素発生および塩素発生の平衡電位は、約130mV離れている(OER、NHEに対してE=1.23V、pH=0;塩素発生反応(ClER)、NHEに対してE=1.36V、pH=0)。その上、OERは高い過電圧を伴う4電子酸化(式1)であるが、ClERは容易な2電子酸化(式2)であり、ClERに顕著な速度論的優位性をもたらす。
2HO(l)→O(g)+4H(aq)+4e NHEに対してE=1.23V-0.059pH(1)
2Cl(aq)→Cl(g)+2e NHEに対してE=1.36V、pH非依存性(2)
【0067】
塩素は価値の高い化学製品であり、塩素アルカリプロセスで意図的に生成されるが、世界に水素を供給するために生成される塩素の量はすぐに需要を超え、結果として大過剰の有毒化学物質となる。塩素発生の平衡電位はpHに依存しないため、アルカリ電解液で操作すると、ClERの選択性の問題を軽減することができる。残念ながら、次亜塩素酸塩の形成(式3)は、アルカリ条件下でOER(式4)となお競合する可能性があるため、pHを上昇させても塩化物酸化反応を完全に回避することはできない。しかし、アルカリ性のOERと次亜塩素酸塩の形成との間の電圧ギャップ(0.5M NaCl中約480mV)は、酸性条件のClER-OERギャップよりもはるかに大きい。結果として、OER触媒は、塩化物の酸化反応が問題になることなく、高いpHでη<480mVで動作することができる。
Cl(aq)+2OH(aq)→OCl(aq)+2e NHEに対してE=1.72V-0.059pH(3)
4OH(aq)→O(g)+2HO(l)+4e NHEに対してE=1.23V-0.059pH(4)
【0068】
ClERおよび他の塩化物の酸化の問題に加えて、海水中の攻撃的な塩化物アニオンは、OERに関与する強力な酸化電位の下で、多くの触媒および基層(特に金属)を腐食し得る。コストのかかる脱塩プロセスに依存することなく、海水をHとOに分解するための高活性で安定した電極の開発が、海水電気分解の進歩のために望まれている。
【0069】
前述の課題を解決するための手法は2つの要素からなる。第1に、操作は、アルカリ調整海水電解液中で、塩化物の酸化反応に係る電圧よりもはるかに低い電圧で高活性OER触媒を用いて実行される。第2に、塩化物含有アルカリ電解液中の酸素発生反応に対して高活性および耐食性である、二層NiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードが開発された。NiFe-LDHは、Clの攻撃に対して下層のNiとともに活性OER触媒ならびに保護層としての機能を果たす。アノードが高度なNi/NiO/Cr水素発生カソードと組み合わされている場合、電解槽は、酸素生成に対して高い選択性で約400mA/cmで動作し、目立ったアノード腐食または活性損失なく、アルカリ性の海水(または塩飽和海水)中で約1000時間よりも長く持続させることができる。
【0070】
NiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードを、最初にトルエン中の溶媒熱合成の硫黄処理法(合成の詳細は「方法(Methods)」にあり)によってNiフォームの表面をNiに変換することにより形成した。Ni層の形成の後、Ni(NOおよびFe(NOの溶液(Ni:Fe=約3:1)からの硝酸塩の還元を介してOERに活性のNiFe-LDHを電着させた(図1a)。電子線回折(ED)パターンにより、局所的なNiとNiFe-LDHの格子秩序が明らかになったが、X線回折では、二層に目立だった結晶相は明らかにならなかった。このことは、NiとNiFe-LDH層が本来アモルファスであることを示す(図8)。走査型電子顕微鏡(SEM)画像(図1b、1c)および断面の元素マッピングにより、Niフォーム上に形成された約1~2μm厚さのNi層(図9)と、Ni層の上に均一に形成された約100~200nm厚さのNiFe-LDH層(図1d)が明らかになった。重要なことに、Ni層が厚い場合でも、Ni-Ni結合ネットワークを含有するNiの高い導電率に起因して、電極の導電率は、むき出しのNiフォームに匹敵した。
【0071】
OER性能は、最初に、アルカリ性の模擬海水電解液(脱イオン水中、約0.5M NaClを含む約1M KOH、図2a)の3電極構成で測定した。Niフォーム/Ni/NiFe-LDHを用いるサイクリックボルタンメトリー(CV)により、アルカリ性媒体中で最良のLDH系触媒で、約220mVの開始過電圧が示された。η=約510mVの過電圧で約400mA/cmの高い電流密度が、iR補償なしで達成された(R=0.7+/-0.05オーム)。iR補償後、約400mA/cmのOER電流密度を達成するためにNi/Ni/NiFe-LDHに印加された実際の過電圧は実際の過電圧は、約0.3Vと低く(図10)、塩化物の酸化反応を引き起こす約0.48Vの過電圧をはるかに下回った。
【0072】
Ni/Ni/NiFe-LDHのOER活性が確認されたため、電極を、アルカリ性の海水の2電極高電流電気分解のための高活性のCr-Ni-NiO水素発生触媒と組み合わせた。実験は最初、サンフランシスコ湾の海水に加えた約1M KOH中で室温(約23℃)で行われた(直列抵抗は0.95+/-0.05オーム、未処理のNiフォームの0.1オーム以内)。iR補償がない場合、電解槽は約2.12Vの電圧で約400mA/cmの電流密度を達成した(図2b)。印象的に、電解槽は、目立った減衰なく1000時間またはそれを超える時間、約400mA/cmで連続的に動作することができ(図2c)、約1000時間の安定性試験の前後の3電極測定値に一致した(図2a)。
【0073】
実際の電解分解用途では、海水がシステムに連続的に供給され、水がHとOに変換される場合、塩が電解液に蓄積する可能性がある。このため、天然の海水中よりもNaCl濃度が高い電解液中で電気分解の調査を行う。最初の試験は、約1M KOH+約1M NaCl(実際の海水の塩濃度のざっと2倍)を含む脱イオン水を使用した(図11)。より高いNaCl濃度からのイオン強度の増加に起因して、セル抵抗は(約0.1オーム)減少し、電解槽は約2.09Vの電圧で約400mA/cmの電流密度に達した。電気分解は、約1000時間またはそれを超える時間、依然として非常に安定しており、目立った腐食または電圧の増加は観察されなかった。同様に、NaClの濃度が、海水の3倍の約1.5M(図2c)にさらに増加すると、安定した電気分解が達成され、非常に塩分の多い水中で非常に活性で安定した電解槽が実証された。
【0074】
電気分解が、Oを生成してClまたは他の塩素オキシアニオンを生成しないことを確認するために、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析法が用いられる。約24時間の初期活性化段階の後に安定した電気分解に到達してしまうと、電気分解中に約1M KOH+約1.5M NaClでサンプリングされたガス生成物の質量スペクトルは、m/z=71でClの信号が現れないことを示した(図12)。ClOは以下を介して溶液中でClと反応するため、ClOの生成もアノードで除外することができる:
Cl(aq)+ClO(aq)+HO(l)→Cl(g)+2OH(aq)(5)
【0075】
塩化物酸化の欠如は、ガスクロマトグラフィーによるファラデー効率の測定によって証明されたOERの高い選択性と一致していた(図13)。相対ファラデー効率(R_FE)は、純粋なKOH電解液に対するKOH+塩電解液での酸素生成の比として指定される。これは、NiFe-LDH触媒を用いるOERが純粋なKOH電解液でほぼ100%のファラデー効率を実現できるためである。実際に、NiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードは、約1M KOHおよび約1M KOH+約1.5M NaCl電解液でほぼ同じOER-FEを示し、NaClの存在下でOERの高い選択性が確認された。
【0076】
工業用電気分解の場合は、電解液の抵抗を減らし、電力消費量を減らすために、約6M KOHおよび高温(約80℃)が通常使用されている。これらの条件を模倣するために、約6M KOH+約1.5M NaCl(約6M KOHのNaCl飽和点付近)で約80℃で2電極セルを試験する。高いイオン強度と温度により、0.55+/-0.05オームの低いセル抵抗となり、結果として得られる性能は、室温の約1M KOH+約1.5M NaClよりもさらに改善された。この場合、約1.72Vが約400mA/cmの電流密度を維持するのに十分であった(図2b)。一方、電気分解は、目立った腐食または活性の低下もなく約1000時間を超えてなお安定していた(図2a、2c)。全体的なエネルギー効率は、HとOへの海水分解では約68.6%と計算され、約1M KOH+室温条件(約58%~約60%)下よりも高かった。
【0077】
アルカリ性の塩水中でのアノードの高い耐久性および選択性を理解するために、約1M KOH+約2M NaCl電解液(海水の4倍の濃度)でOERのいくつかの対照試料の合成を行い、Cr-Ni-NiOカソードと組にする。この厳しい試験条件(高い2M NaCl濃度に起因)は、腐食を促進し、どの材料が実際の適用に最適の安定性を示すかを判断するために選択された。この電解液中の電気分解の場合、Cr-Ni-NiOカソードと組み合わせたNiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードは約600時間持続し(図3a)、相対OERファラデー効率は約99.9%であった(図3c)。全電流の約0.1%は、アノードの遅いエッチングおよび腐食に関与していた。
【0078】
同じ電解液で、Ni層およびNiFe-LDH層のないむき出しのNiフォームの試験を行う。Niフォームは約8~9分以内に破損し(図3a、挿入図)、Oについて約30%未満のR_FEが示された(図3c)。Sで処理されてNiを形成し、NiFe-LDHを形成しなかったNiフォームは、約18~19分間持続し(図3a、挿入図)、NiよりもNiの耐食性が高いが、Niフォーム/Ni/NiFe-LDH電極よりも劣ることを示す。NiFe-LDHの電着は、むき出しのNiフォーム上で行われ、電極が約12時間持続し、OのR_FEが約400mA/cmで約99%であることが観察される(図3a)。硫化Niフォームの代わりにNiFe-LDHを支持するためにNiフォームを使用した場合、保護は不完全であったが、明らかに、連続的なコンフォーマルOER活性NiFe触媒層は、アノードの安定化に重要な役割を果たした。NiFe-LDHナノプレート触媒の合成を行い、硫黄で処理したNiフォームに負荷して、不連続な触媒層を形成する。この電極は約8.5時間(図3a)存続し、OのR_FEは約400mA/cmで約99%を超えた、これはNiFe-LDHを電着したNi/Niによって達成される約600時間の安定性よりも劣る。これらの結果は、NaCl濃度が約4倍の海水を含む電解液であってもNiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードの超高安定性をもたらす上で強力な相乗効果をNi層と連続的に電着されたNiFe-LDHコーティングとの間に示した。
【0079】
電極構造(海水分解の前後の)を、三次元(3D)X線マイクロトモグラフィー(図4a~d)および吸収端近傍構造の二次元(2D)ナノスケールマッピングによって調査した(図14)。約1000時間の電気分解の後、NiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードは、電気分解の前(図4a)と同様の構造的完全性(図4b)を示した。約300時間の間、海水の約4倍の塩濃度の苛酷な条件下でさえも、アノードはNiフォームの骨格構造をなお維持した(図4c)。しかし、硫化をせずに電着NiFe-LDH(最良の対照試料)を含むNiフォームは、約1M KOH+約2M NaCl中で約8時間の試験の後に激しい腐食を示した(図4d)。これらの結果もやはり、Niが腐食を防ぐうえで重要な役割を果たしたことを示した。硫化物層の元素X線吸収端構造(XANES)マッピングを収集したが、海水分解後に目立った変化はなかった(図14)、このことは、Ni層がほぼ元のままであることを示す。
【0080】
約1000時間の安定性試験後の電極のラマンスペクトルは、約985cm-1と約1050cm-1に位置する2つの顕著なピークを示した(図4e)、これは純粋なNiSOのスペクトル特性と一致し(図15)、Ni層上に硫酸塩層が形成されたことを示している。電気分解の最初の数時間の活性化段階では、約100mA/cmの実質的に一定の電流でのNiFe-LDH/Ni/Niフォームアノードの3電極データにより、試験約2時間での電圧の低下(図4f)および同じ時点のOERの対応するR_FEの約97%への減少(図4g)が示された。活性化プロセスの前後のラマンスペクトルによって確認されたように、この電圧およびR_FEの低下は、NiとNiFe-LDH層との間の界面の薄い硫酸塩層の形成をもたらした一過性の腐食/不動態化プロセスの結果であったと提案されている(図16)。硫酸塩ならびにリン酸塩およびモリブデン酸塩などの他の多価アニオンは、含水金属酸化物に吸着し、それらをよりカチオン選択性にし、塩化物アニオンに反発するのにより有効にすることができる。カチオン選択性の界面は、塩化物アニオンに反発し、それらが下層の金属に到達して腐食しないようにすることによって、腐食抑制において重要な役割を果たす。
【0081】
対照実験および電極の特性評価に基づいて、アノードの二層構造が高性能および長期安定性につながると結論付けられている。担体を覆う高活性で均一なOER触媒層(NiFe-LDH)は、海水の電気分解中に酸化電流の大部分を引き出し、下層の材料の主な保護層として機能する。その上、Niフォーム集電体の上部で均一に分布した耐食性パッシベーション支持層(Ni)は、アノードの寿命を劇的に延長する。ラマンに硫酸塩が存在することと、XANESマッピングで観察されたNi層への変化が少ないことは、NiFe-LDH層とNi層の間の界面に、塩化物に反発し、下層構造の腐食を止めることができるアニオン層が生じることを意味する。重要なことに、この理解が、NiFe-LDH-NiP界面に有するアニオン性リン酸基をNiフォーム上に形成されたNiP層上のOER活性NiFe-LDHコーティングからなるもう一つの二層アノードの開発を導き、これも目立った減衰なしに優れた海水分解を達成した(補遺参照)。同様に、ステンレス鋼(SS)が、LDHをその表面にコーティングした基層として使用された場合、SS表面のモリブデン酸イオンは、高度に安定した海水分解のための、別のカチオン選択性のパッシベーション層として機能した(補遺参照)。
【0082】
結論:
【0083】
二層NiFe-LDH/Niアノードを、活性で安定した海水電気分解用に開発した。均一に電着したNiFe-LDHは、アルカリ性の海水分解に非常に選択的なOER触媒であった。一方、下のNi層は、導電性基層を提供し、その一方で、電極を塩化物エッチングから保護するためにカチオン選択性の硫酸塩層を生成した。海水電解槽は、室温で実際の海水または塩が蓄積した海水に約1M KOH電解液を加えた中で、約2.1Vで約400mA/cmの電流密度を達成することができ、一方、工業用電解条件では、約1.72Vで十分であった(約80℃で飽和NaCl+約6M KOH電解液)。その上、電解槽は劇的な耐久性を示した。目立った活性の損失は約1000時間の安定性試験の後には観察されなかった。このような海水分解電解槽は、エネルギー源として地球上の広大な海水資源を使用する機会をもたらす。
【0084】
補遺:
【0085】
別の二層アノードは、Niフォーム上に形成されたNiP層上にOER活性NiFe-LDHを電着することにより調製した。活性化後、パッシベーション層としても機能するアニオン性リン酸塩層がNiFe-LDH-NiP界面に生じた。
【0086】
調製されたままのNi/NiPフォームの構造は、X線回折(XRD)によって特徴付けられ、図5aに示されている。Niフォームからの3つの強い回折ピークに加えて、2θが=約40.7°、約44.6°、約47.3°、および約54.2°の主な回折ピークは、六方晶NiPの回折ピークに対応している(JCPDF#01-089-2742)。SEM画像は、大きさが約200nmのNiP結晶が形成され、Ni基層を均一に覆うことを示す(図5b)。
【0087】
Ni/NiP/NiFe-LDHのOER性能を、3電極電気化学セルでサイクリックボルタンメトリー(CV)によって調べた(図5c)。触媒は、約1M KOHおよび約1.5M NaClの電解液でRHEに対して約1.45V(過電圧は約220mV)の開始電位を示す。これは、Ni/Ni基層の場合と同様である。Ni/NiP/NiFe-LDHの安定性を、RHEに対して約1.79Vの実質的に一定の電圧で同じ電解液中で評価した(図5d)。触媒は、約45時間の試験期間中、約1M KOHおよび約1.5M NaClで約380mA/cmの安定した電流密度を示す。この耐食性OER触媒の工業環境での性能をさらに検証するために、このアノードをCr-Ni-NiOカソードと組み合わせ、約80℃の約6M KOHおよび約1.5M NaClからなる電解液中で試験することによって電解槽を構築した(図5e)。結果は、約1.72Vが約400mA/cmの望ましい電流密度を維持するのに十分であることを示している。約550時間後でも、約400mA/cmに達するための電圧は約80mVだけしか増加しなかった。要するに、これらの結果は、Ni/NiP/NiFe-LDHが塩分の多い環境に耐えることができる非常に安定したOER電極でもあることを示している。
【0088】
リン化物コーティングとそれに続くLDH堆積戦略を、ニッケル鉄合金フォーム(NiFeフォーム)にも適用した。調製したままのNiFe/(NiFe)P/NiFe-LDH電極は、Ni/NiP/NiFe-LDH電極と同様に、RHEに対して約1.45Vの開始電位を示す。また、この電極は、約1M KOH+約1.5M NaCl中で約85時間よりも多く活性OERプロセスを実行することもできる(図6)。
【0089】
同様に、ステンレス鋼316は、約5%(原子百分率)のモリブデンをドープした合成耐食性材料であり、アノード電流が印加されると、表面または近傍のモリブデンが酸化されて、別のカチオン選択性の防食保護層であるモリブデン酸イオンになる。したがって、二層設計の後、NiFe-LDHはステンレス鋼基層に直接電着される。図7aには、OERの成績がNiまたはNiFeフォーム基層上のLDHと非常によく似ていたことが示される。このことは、LDHが基層上に正常に堆積したことを示している。印象的なことに、そのような電極は、海水の塩濃度の約4倍である約1M KOH+約2M NaCl電解液中で、約400mA/cmの実質的に一定の電流密度でも劇的に安定した性能を示した。このことは、この場合には二層の防食メカニズムが機能したことを示している。
【0090】
SS 316箔に加えて、高い表面積のSS 316フォームを使用して性能を向上させた。フォームを、電着NiFe-LDHの有無で試験した(図7cおよび7d)。NiFe-LDHでコーティングした試料は、改善された初期活性を示したが、約3~4時間後、むき出しのSSフォームが活性化し、NiFe-LDHでコーティングした試料の約10mV以内となった。これは、KOHでの電気分解中に、NiFe水酸化物材料がSSフォームの表面に生成されること、およびモリブデン酸アニオンがカチオン選択性層を形成する可能性があることを意味する。
【0091】
方法:
【0092】
Niフォーム/Niの作製:Niフォーム(約420g/m、アセトンおよびエタノール中での超音波処理により脱脂)を最初に約10%H(体積による、約90%Ar)雰囲気中でアニールして、表面の自然酸化層を実質的に完全に除去した。約50mgの硫黄粉末(昇華、JT Baker)を、テフロン(登録商標)加工したステンレス鋼製オートクレーブ内で約30mLの無水トルエン(シグマ-アルドリッチ、約99.9%)に溶解した。次に、約1cm×約3.5cmの大きさの2片のアニールされたままのNiフォームをトルエン溶液の中に入れた。次に、オートクレーブを約5時間約150℃に加熱した。オートクレーブを室温まで冷却させた後、生成物をエタノールおよびトルエンで3回洗浄し、室温で乾燥させた。
【0093】
NiFe-LDHの電着:Niフォーム(約420g/m、アセトンおよびエタノール中での超音波処理により脱脂)またはNi-Niフォームまたはステンレス鋼箔/フォームを、約2mMのFe(NO(シグマ-アルドリッチ、約98%)を含む約6mMのNi(NO(シグマ-アルドリッチ、約98%)の約150mL溶液に、Ptメッシュ(カウンター)およびAg/AgCl飽和KCl(基準)を含む作用電極として入れた。溶液を約10℃で保持し、約100rpmで撹拌した。作用電極はAg/AgCl飽和KClに対して約-1V(R=約20Ω)で約45分間保持され、水酸化物層が形成された。電極を脱イオン水ですすいだ後、室温で乾燥させた。
【0094】
Ni-NiO-Crカソードの作製:約0.8mLの約0.2M Ni(CHCOO)(シグマ-アルドリッチ、約98%)および約40μLの約0.5M Cr(NO(シグマ-アルドリッチ、約99.99%)を、約20mLのシンチレーションバイアル中約8mLの無水N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-DMF、Acros、約99.8%)に添加し、約90℃で約4時間、激しく撹拌した。撹拌後、生成物を回収し、エタノール(Fisher、組織学的グレード)で遠心分離によって3回洗浄した。生成物をエタノールに再分散させ、約30重量%の約20nmのNi粒子(US Research Nanomaterials、約99.9%)で約30分間超音波処理した。次に、分散液をNiフォーム(約420g/m、アセトンおよびエタノール中での超音波処理により脱脂)に約90℃で負荷した後、約1.3~1.5トルのAr中、約300℃で約1時間アニールした。むき出しのフォームとアニーリング後のフォームの重量差を触媒負荷量とみなした。1ユニットの約8mLのN,N-DMFは、約8mg/cmのNi-NiO-Cr+約30重量%の約20nmのNiを有する電極を生成する。評価のために、二倍の負荷量(約16mg/cmのNi-NiO-Cr+約30重量%の約20nmのNi)を使用して高い電流での性能を改善した。
【0095】
対照試料用のコロイド状NiFe-LDHの合成:約3.2mLの約0.5M Ni(CHCOO)(シグマ-アルドリッチ、約98%)および約0.64mLの約0.5M Ni(NO(シグマ-アルドリッチ、約98%)を、テフロン(登録商標)加工したステンレス鋼製オートクレーブ内で約80mLの無水N,N-ジメチルホルムアミドに添加した。次に、オートクレーブを約18時間約120℃に加熱し、続いて約2時間約160℃に加熱した。オートクレーブを室温まで冷却させた後、生成物をエタノール(Fisher、組織学的グレード)で遠心分離により3回洗浄した。次に、コロイド状NiFe-LDHプレートをエタノールに再分散させ、約30重量%の約20nmのNi粒子で約30分間超音波処理し、NiフォームまたはNi-Niフォームに負荷した。この評価に使用した負荷量は、約20mg/cmのNiFe LDH+約30重量%の約20nm Ni粒子であった。
【0096】
Ni/NiPおよびNiFe/NiFePの合成:Ni/NiPおよびNiFe/NiFeP材料を化学気相堆積法によって合成した。約100mgの赤リンを石英管内に置き、1片のニッケルフォームまたはニッケル鉄フォーム赤リンから約5cm離れた下流に置いた。反応が開始する前に、石英管を約100sccmのArガス流で約30分間動作させた。次に、石英管を約10℃/分の傾斜で約450℃に加熱した。温度が約450℃に達したら、炉をこの温度で約60分間保持した。その後、Ar流を用いて炉を室温まで自然冷却させた。
【0097】
Ni/NiP/NiFe-LDHおよびNiFe/NiFeP/NiFe-LDHの合成:約3mMのNi(NO(シグマ-アルドリッチ、約98%)と約1mMのFe(NO(シグマ-アルドリッチ、約98%)の溶液を電解液として使用したことを除いて、Ni/Ni/NiFe-LDHの形成と同様のNiFe-LDHの電着のプロトコルを、Ni/NiPおよびNiFe/NiFePの表面でのNiFe-LDHの調製に使用した。そして作用電極は、Ptメッシュ(カウンター)およびAg/AgCl飽和KCl(基準)を含むNi/NiPまたはNiFe/NiFePであった。
【0098】
電気化学的特性評価:
【0099】
作製されたままの海水分解アノードを、テフロン(登録商標)で覆われた白金電極ホルダーで固定した。塩分の多い電解質での電気分解中に電解液/電極/空気界面に塩が蓄積するのを防ぐために、調製したままの電極をエポキシで密閉し、約1cm×約1cmのアノード材料を電解液に露出させた。海水分解および酸素発生反応(OER)試験の前に、すべてのアノードを、約1M KOHおよび約1M KOH+約0.5M NaCl電解液中で、約100mA/cmの実質的に一定のアノード電流密度で各約12時間活性化させた。
【0100】
OERの研究は、CHI 760D電気化学ワークステーションによって制御される標準的な3電極システムで行った。作製したままのアノードは、作用電極として使用され、Ptメッシュおよび飽和カロメル電極(SCE)は、それぞれカウンター電極および基準電極として使用した。基準電極を校正し、可逆水素電極(RHE)に変換した。線形掃引ボルタンメトリーは、分極曲線の約1V~約1.8V(vs.RHE)の間で約1mV/sで行った。分極曲線を測定する前に安定したCV曲線が作成されるまで、アノードをサイクリックボルタンメトリー(CV)によって約50回サイクルした。すべての分極曲線はiR補償されていなかった。
【0101】
海水電気分解は、約400mA/cmの実質的に一定の電流密度で、一定充電モードで動作するLANHEバッテリーテスターで実行した。調製したままのNi/Ni/NiFe-LDH(または調製した他のアノード試料)をアノードとして使用し、Ni-NiO-Crをカソードとして使用した。
【0102】
ガスクロマトグラフィー測定:OER電極は、約1M KOHまたは約1M KOH+約2M NaCl電解液およびSCE基準電極を含む気密電気化学セルで動作させた。クロノポテンショメトリーを異なる電流密度に適用して、実質的に一定の酸素生成を維持した。その間、Arは常に約25cm/分の流量でセルの中にパージされ、セルはガスクロマトグラフ(SRI 8610C)のガスサンプリングループに接続されていた。熱伝導率検出器(TCD)を使用して、生成された酸素を検出し、定量した。
【0103】
材料特性評価:試料の大きさおよび形態は、約20kVで動作する電界放出型走査電子顕微鏡(JEOL JSM6335)を使用して特徴付けた。ラマン分光法は、オリンパスBX41顕微鏡およびSpectra-Physics 532nm Arレーザーを装備した堀場製ラマン分光計を使用して実行した。
【0104】
X線分光法:X線マイクロトモグラフィーは、シンクロトロン(スタンフォードシンクロトロン放射光源(SSRL)のビームライン2-2)および実験室(スタンフォード・ナノ・シェアド・ファシリティーズ(Stanford Nano Shared Facilities))に基づくX線源の両方を使用して実施した。高エネルギーX線は試料を透過し、2Dエリア検出器を使用して透過画像が記録される前にシンチレータ結晶によって可視光子に変換される。トモグラフィック復元を容易にするために、試料を約0.5度の角度段階で垂直軸に沿って回転させる。マイクロトモグラフィースキャンは、金属フォームの形態を分割するのに十分な、約1ミクロンの3D空間分解能でデータを生成した。
【0105】
2次元ナノスケールXANESマッピングは、SSRLのビームライン6-2Cに設置された透過型X線顕微鏡(TXM)を使用して行われる。フレネルゾーンプレートを対物レンズとして使用すると、このシステムを使用して収集された透過画像は、約30nmの公称空間分解能である。入射X線のエネルギーは、NiのK端を通してスキャンされ、空間分解された分光学的フィンガープリントをスキャンされた領域に提供する。吸収端近傍のエネルギー段階は、十分なエネルギー解像度のために約1eVに設定されているが、スペクトルの正規化のための広いエネルギーウィンドウをカバーするために、プレエッジ領域およびポストエッジ領域で約15eVに設定されている。TXM XANESデータの縮小は、TXM-Wizardと呼ばれるカスタム開発ソフトウェアパッケージを使用して実行される。
実施例2
塩分の多いアルカリ性および中性の水分解用の高度に持続性のアノードおよび電解液
【0106】
緒言:
【0107】
海水は世界の水のおよそ97%を占めているが、費用のかかる脱塩を行わずに電気分解原料として使用することは困難である。塩化ナトリウムによる電極の腐食は、工業規模の海水からの水素製造を妨げてきた。この実施例は、主な構成要素であるアノード、カソード、および電解液の改善を含む、海水電解槽の性能を改善するための手法を示す。
【0108】
この実施例は、NiFe合金をコーティングしたNiFeフォームを重炭酸溶液中高温で陽極酸化することによって、高活性で安定したアノードを示す。触媒は、金属基層上のその場で成長させた炭酸塩を挿入した水酸化ニッケル鉄である。基層の選択は、例えば、ニッケルフォーム/メッシュ、ニッケルコバルトフォーム、ステンレス鋼、ニッケルクロム箔/メッシュ、ニッケルコバルト鉄合金(例えば、Kovarとして入手可能)および他のニッケル含有合金であり得る。さらに、陽極酸化の前に鉄含有溶液を含む浸漬プロセスを追加することにより、高温陽極酸化がNiメッシュに拡張される。NiFeフォーム基層およびNiメッシュ-Fe浸漬-HCに基づく、結果として得られる水酸化ニッケル鉄炭酸塩(NiFe-HC)触媒は、塩分の多いアルカリ性電解液中で室温℃と約80℃の両方で活性であり、安定している。より重要なことには、これらのアノードは、多価のアニオンを含有する電解液に対応している。約0.5~2MのNaCO/KCOを添加した塩分の多いアルカリ性電解液でのHC触媒の試験は、1500時間を超える並はずれた安定性を示す。NiFe-HC触媒を中性および塩分の多い中性電解液(pH=約7.4)に適用することも試みられる。最初に、CO飽和した約0.5M KHCO(pH=約7.4)溶液中のNiFe-HC電極は、市販のOER触媒IrOおよびIr/Cよりも優れたOER活性を示した。NiFe-HCは、目立った減衰なく、約10mA/cmおよび約250mA/cmにそれぞれ達する約1.68Vおよび約1.82Vの電位と、120時間を超える高い安定性を示した。これは、CO電解槽のアノードでCOを有用な燃料に変換するために利用することができる。次に、触媒は、CO飽和した約0.5M KHCO+約0.3M NaCl中で目立った塩素発生なく、約10mA/cmに達する約1.68Vの顕著な活性と、22時間を超える安定性を示した。塩分の多い中性溶液中のHC触媒の適合性は、効率的なOERアノードを指定する生物学的システムにおいて広い用途を提供することができる。
【0109】
この実施例は、海水分解のためのアノードの寿命を著しく延長する、様々な改良された電解質組成も示す。実施例1は、海水電気分解のための高い活性および安定性を提供することができる、二層電極構造(導電性NiSパッシベーション層に均一に堆積したNiFe層状複水酸化物触媒層)を示す。硫化物層のその場での酸化は、塩化物に反発するアニオン性硫酸塩層を形成し、これにより、約2Mの著しく高い塩化物アニオン濃度(海水の約4倍の濃度)を許容することができると同時に約400mA/cmで600時間を超えて酸素を生成する電極が得られる。この実施例では、塩化物をブロックする界面機構は、例えば、炭酸塩(CO 2-)、リン酸塩(PO 3-)、および硫酸塩(SO 2-)をはじめとするその他の多価アニオンに拡張される。そのようなアニオン層の形成は、これらのアニオンを含有する塩をアルカリ性電解液に直接添加することによって簡略化される。この方法論は、NiフォームELDH、Niフォーム-負荷NiFe LDH、およびNiFe-HC以外のNiFeフォームなどの様々なアノードに有効な一般的な手法である。例えば、Niフォーム-ELDHの寿命は、約3M KCOを追加することにより、元の12時間から、約1M KOH+約2M NaClで1000時間を超えて延長された。NiFeフォームの寿命は、約1M NaCOを追加することにより、元の2時間から、約1M KOH+約2M NaClで800時間を超えて延長された。Niフォーム-負荷NiFe LDHの安定性は、約0.5 M KCOを追加することにより、約6M KOH+約1M NaClで約80℃で大幅に改善され、安定性は600時間を超え、KCOを追加しない場合の段階的な減衰と比較して目立った減衰はなかった。この簡略化された手法は、これらの触媒を形成するための低コストで合理化されたプロセスに起因して、これらの触媒の工業的利用をより魅力的にする。
【0110】
結果および考察:
【0111】
改善されたアノードは、高温(例えば、室温から約80℃およびそれ以上)での陽極酸化によって、炭酸塩を挿入した水酸化ニッケル鉄(NiFe-HC)を金属基層上で成長させることによって形成される。調製したままのNiFe-HC触媒は、並はずれたOER活性および海水分解に対する安定性(1500時間超)を示す。図17は、市販のニッケル鉄フォームで調製されたこの触媒の合成、構造、および形態の特性評価の証拠を示す。要するに、1片の市販のニッケル鉄フォームを、約85℃に維持した約0.1M KHCO溶液中の白金メッシュに対して、約250mA/cmの実質的に一定の電流で約16時間(図17bの電圧対時間曲線参照)陽極酸化した。その後、元の金属NiFeフォームは、暗いフォームに変わった。破片および電解液の色の変化から、フォームのエッチングが見られた。フォーム内の元の滑らかなNiFeワイヤ(約100μmワイヤ)は、約2~3μmの大きさの花型のプレートで実質的に完全に覆われた、非常に多孔質で粗い構造に進化した(図17e、f)。エネルギー分散型X線分光法(EDX)マッピング(図17e)により、Ni:Fe:Cの原子比が約15:1:3.4であることが明らかになった。材料のX線回折(XRD)により、ブロードで弱いピークが示された、これは、識別可能なNiFe水酸化炭酸塩相の結晶構造が不十分であることを示している(α相水酸化ニッケル(JCPDS-38-0715)に類似)。
【0112】
図18aは、サイクリックボルタンメトリー(CV)スキャンで測定された約1M KOHにおけるNiFe-HCの固有のOER活性を示す。NiFe-HCは約1.83Vで約400mA/cmに達すると指定されている。これは、Niフォーム-負荷NiFe LDHと同様である。図18bは、約1M KOH+約1M NaCO+約2M NaCl電解液で、NiFe-HCをアノードとして、Ptメッシュをカソードとして組み合わせた場合の2電極安定性を示している。1200時間を超える安定性と約2.35Vの低いセル電圧は、室温で達成された。高電流(約1A/cm)および低pH(約0.1M KOH、pH約13)などのさらに過酷な条件下でのNiFe-HCのさらなる試験でも、良好な安定性が示された(図18cおよびf)。図18cの小さい減衰は、Cr-Ni-NiOカソードを空気に曝した低い水位によって引き起こされ、したがってその活性は400時間後に損なわれた。さらに、NiFe-HCを、模擬工業プロセス条件:約80℃および約6M KOH、約0.5~2M KCO添加剤および約0.5~1M NaClで試験した(図18dおよびe)。約1.92Vのセル電圧および1500時間を超える安定性が達成されたが、約400mA/cmの実質的に一定の電流密度で約6M KOH+約2M KCO+約0.5M NaCl電解液中で、NiFe-HCと市販のNiメッシュを組み合わせた。700時間を超える高い安定性を維持してセル電圧を約1.76Vにさらに改善し、同時により活性の高いCr-Ni-NiOカソードを使用した。
【0113】
また、高温陽極酸化手法を様々な金属基層を有効に応用して、ニッケルフォーム/メッシュ、ニッケルコバルトフォーム、ステンレス鋼、ニッケルクロム箔/メッシュ、ニッケルコバルト鉄合金およびその他のニッケル含有合金をはじめとする、活性OERアノードを形成した。図19は、まず、硝酸鉄溶液(約0.05~0.5M)に約30分間浸漬して酸化によるカチオンまでニッケル金属を部分的にエッチングし、一方Fe3+をFe2+に還元してニッケル金属基層の表面に吸着させた、Niメッシュを金属基層として使用した場合のアノードの性能を示す。鉄含有ニッケル金属を、85℃の油浴中、約0.1M KHCOを電解液として約16時間使用して、約20mA/cmでさらに陽極酸化させた。調製したままの活物質を、Niメッシュ-Fe浸漬-HCと呼ぶ。同様の手法をNiフォームにも適用して、Niフォーム-Fe浸漬-HCを得た。図19aは、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)に特徴付けられる約1M KOH中のNiメッシュ-Fe浸漬-HCの3電極OER活性を示す。アノードは、ちょうど約1.76Vで約400mA/cmに達すると指定された。安定性は、定電圧モードおよび室温の同じ3電極構成でも評価した(図19b)。Niメッシュ-Fe浸漬-HCは、目立った減衰なく、優れた安定性を示した。良好な活性および安定性は、約0.5M KCO添加剤および約1M NaClを含む高温(約80℃)および高アルカリ濃度(約6M KOH)でも実証された(図19c)。約2.1Vの低いセル電圧は、ニッケルメッシュカソードと組み合わせることによって示された。これは、Niフォーム/負荷NiFe LDHアノードと、同様のNiメッシュカソードを含む電解槽の性能に近いものである。
【0114】
アルカリ性電解液でのOER評価に加えて、NiFe-HC触媒を、NaClを添加した場合と添加しない場合の中性電解質で評価した。CO飽和中性重炭酸塩電解質は、炭素循環を閉じるための有用な燃料へのCO利用/削減に使用することができる。OERは、CO電解槽の全体的な効率を決定する。しかし、他の手法の中性電解液のOERは、IrおよびIrOなどの貴金属触媒に大きく依存している。ここで、NiFe-HCをCO飽和KHCO溶液(pH=約7.4)中で利用してOERを効率的に触媒することができることが見出される。図20aおよびbは、それぞれ、CO飽和KHCO溶液中のNiFe-HCに触媒されたOERのLSV曲線および安定性試験を示す。NiFe-HCは、OER触媒IrおよびIrOよりも低い過電圧を示し、約250mA/cmでも優れた安定性を示す。さらに、中性電解液は多くの生物学的プロセスに指定されており、その成分にNaClを有する場合が多い。安定したOERは、例えば細菌を使用してCOを燃料に変換するなど、生物学的還元プロセスと組み合わせるのに有用である。中性条件でのOER反応の反応速度が遅いことに起因して、同じ活性に到達するための指定された過電圧はアルカリ性条件よりもはるかに高く、塩素の発生はRHEに対して約1.71 Vで容易に引き起こすことができる。様々な金属触媒は、このような厳しい条件で迅速に腐食し、塩を含む中性条件でOERを非常に困難にすることがあり得る。ここでは、NiFe-HC触媒を約0.5M KHCOおよび約0.3M NaClで試験した(図20cおよびd)。触媒は、約1.68Vで約10mA/cmに達すると指定された。これは塩素発生の標準的な電位を下回り、システムは20時間を超えて安定していた。
【0115】
NiCr-HCベースのアノードも、NiFe-HCを形成するために使用されたものから修正された手法を使用することによって形成される。1片のNiメッシュ/NiフォームをPtメッシュまたは別の1片のNiメッシュ/フォームと対にして、約0.1M KHCOと約0.00025~0.00075M Cr(NOの混合物で陽極酸化する。陽極酸化は、約20mA/cmで約16時間、油浴中約80℃で行われる。さらに、NiCr-HCは、1片のNiフォーム/Niメッシュを約0.5M KCr溶液に約3時間浸漬し、次に取り出してホットプレートで約30分間乾燥させ、その後、電極を約0.1M KHCO中で別の1片のNiメッシュ/フォームに対して陽極酸化することによっても形成することができ、ここで陽極酸化条件は、約20mA/cmで約16時間、油浴中約80℃である。
【0116】
別のNiCr-HCベースのアノードは、1片のニクロム箔(市販、約20%Cr)をPtメッシュと組み合わせ、約0.1M KHCO中で陽極酸化することによって形成され、ここで陽極酸化条件は、約20mA/cmで約16時間、油浴中約80℃である。
【0117】
NiCo-HCベースのアノードも、NiFe-HCを形成するために使用されたものから修正された手法を使用することによって形成される。1片のNiCoフォームは、Ptメッシュと組み合わされて、約0.1M KHCO中で陽極酸化され、ここで陽極酸化条件は、約20mA/cmで約16時間、油浴中約80℃である。
【0118】
Ni-HCベースのアノードも、NiFe-HCを形成するために使用されたものから修正された手法を使用することによって形成される。1片のNiフォーム/Niメッシュは、Ptメッシュと組み合わされて、約0.1M KHCO中で陽極酸化され、ここで陽極酸化条件は、約20mA/cmで約16時間、または約50mA/cmで約8時間、すべて油浴中約80℃である。
【0119】
ステンレス鋼-HCベースのアノードも、NiFe-HCを形成するために使用されたものから修正された手法を使用することによって形成される。1片のステンレス鋼は、Ptメッシュと組み合わされて、約0.1M KHCO中で陽極酸化され、ここで陽極酸化条件は、約20mA/cmで約16時間、油浴中約80℃である。
【0120】
鉄ニッケルコバルト合金-HCベースのアノードも、NiFe-HCを形成するために使用されたものから修正された手法を使用することによって形成される。1片の市販の鉄ニッケルコバルト合金箔(Kovarとして入手可能)は、Ptメッシュと組み合わされて、約0.1M KHCO中で陽極酸化され、ここで陽極酸化条件は、約20mA/cmで約16時間、油浴中約80℃である。
【0121】
様々なカソードを、上記のアノードと電解槽で組み合わせることができる。これらには、ニッケルフォーム、ニッケルメッシュ、およびCr-Ni-NiO(または、耐食性Cr層(Cr-Ni-NiOまたはCrNNとも呼ばれる)とブレンドされるナノスケールのNi-NiOヘテロ構造)が含まれ、多孔性Niフォーム基層にコーティングされる。これらのカソードは、KOHと塩を混合した電解液中で高い水素発生活性および安定性を示すことができる。
【0122】
CO 2-、PO 3-、およびSO 2-などの高原子価状態のアニオンが塩水分解用のアノードの安定性に及ぼす影響を直接観察するために、これらのアニオンを塩分の多いアルカリ性電解液に意図的に添加した。図21aは、KCOを約1M KOHおよび約2M NaClに添加すると、Ni-ELDHの安定性が12時間から1000時間超に大幅に向上することを示す。OER活性は、図21bに示されるように、LSVスキャンによる1000時間の安定性試験の後に確認され、約1.76Vで約400mA/cmに達する。図21cは、それぞれ約400mA/cmの実質的に一定の電流密度での、1000時間の耐久性試験後の電解液とNi-ELDH電極を示す。透明な電解液と一体型電極の両方が、炭酸塩を添加した塩分の多いアルカリ性電解液でエッチングまたは腐食の発生を全くまたはほとんど示さなかった。図21dは、炭酸塩(約1M NaCO)とリン酸塩(約0.1M KPO)の両方を含有する塩の混合物を約1M KOHおよび約2M NaClに添加することにより、Ni-ELDHアノードの耐久性も大幅に改善され、1000時間を超える安定性が達成されることを示す。
【0123】
炭酸塩アニオンの安定化効果およびその産業用途への適合性をさらに実証するために、Niフォーム-負荷NiFe LDHを、模擬工業用水分解条件:約80℃および高濃度のKOH電解液で動作する電解槽で試験した。図22aは、約1M KOHおよび室温でのNiフォーム-負荷NiFe LDHのLSVスキャンを示し、その活性はNi-ELDHに匹敵し、iR補償なしで約1.81Vで約400mA/cmに達した。図22bおよびcは、約80℃で、それぞれ約6M KOH+約0.5M KCO+約1M NaCl中の、NiメッシュおよびCr-Ni-NiOと組み合わせたNiフォーム-負荷NiFe LDHの優れた安定性を示す。さらに、KCOを電解液に追加する重要な役割も図22bに示された。ここでは、Niフォーム-負荷NiFe LDHとNiメッシュを組み合わせた対照実験が約6M KOH+約1M NaClで約80℃で行われ、KCOを含まない場合は、約400mA/cmの実質的に一定の電流で時間とともに電位が増加することから明らかなように、性能の減衰が遅いことを示した。
【0124】
SO 2-を添加することの海水分解安定性への効果も試験した。図23aは、白金メッシュカソードと組み合わせることによるNiフォーム-ELDHアノードの安定性試験を示す。約1M KOH、約1M NaSOおよび約2M NaCl電解液中で約400mA/cmの実質的に一定の電流で試験を実施した。Niフォーム-ELDHは、このような過酷な(hash)条件で1000時間を超えて持続した。そして、アノードの3電極LSV曲線は、1000時間の試験の前後で目立った減衰を示さなかった。これは図23bに示されている。SO 2-を用いる試験は、海水分解アノードにカチオンを追加することの安定化効果をさらに示す。
【0125】
図24は、約1M KOHおよび約1M KOH+約0.5M NaCl+約0.05M NaCO、NaSOまたはNaPOでのNiフォーム-ELDHの活性化を示す。エッチングは、NaCO、NaSO、またはNaPOを含まない電解液で行われた。これは、これらのアニオンが塩化物エッチングを防ぐことができることを示す。
【0126】
方法:
【0127】
NiFe-HCの合成。1片のニッケル鉄フォーム(約4cm×1cm、厚さ:約1mm、1インチ当たりの細孔数:約110ppi、Ni/Feの原子比率=約1:3)を、アセトンおよびエタノール中のフォームを各溶媒中で約15分間超音波処理することにより洗浄し、乾燥させ、続いて約500℃の約9% H(Arで希釈、Ar:Hの流量=約200sccm:約20sccm)でアニーリングして、金属表面の自然酸化物を除去した。フォームをエポキシ(Loctite EA 1C)で中央に接着し、片方の端に約1cm×1cmの活性領域と、電極ホルダーで固定されているもう片方の端に約0.5~1cm×1cmの領域を残した。フォームをアノードとして使用し、白金メッシュ(d=約2cm、52メッシュ)をカウンター電極として使用し、これら2つの電極を約5mm離して配置した。約0.1MのKHCO溶液を電解液として使用し、電極を2電極テフロン(登録商標)電気化学セルに組み立て、セル全体を約85℃の油浴に入れた。電極をLANHEバッテリーテスターに接続し、NiFe-HCの至適条件として約250mAの実質的に一定の電流で約16時間動作させた。
【0128】
Niメッシュ-Fe浸漬-HCの合成。最初に、Niメッシュをアセトン中で約20分間超音波処理により洗浄する。これに続いて、約1~3% HCl中で約5分間超音波処理することにより天然の酸化ニッケル層を除去する。次に、表面を水中で約5分間超音波処理することにより洗浄し、約100℃のホットプレートで約30分間乾燥させる。この後、洗浄したNiメッシュを約0.5MのFe(NOに約30分間浸した後、取り出して、約100℃のホットプレートで風乾させると、ニッケルメッシュの色がメタリックからダークグレーに変わる。最後に、鉄を浸漬したニッケルメッシュとPtメッシュを組み合わせ、約85℃の油浴中約20mA/cmの実質的に一定の電流で約16時間動作させる、同様のHC活性化方法を用いた。完了後、メッシュの色は暗くなり、メッシュは水洗いして風乾させる。
【0129】
Niフォーム-ELDHの合成。Niフォーム(約420g/m、アセトンおよびエタノール中での超音波処理により脱脂を、約2mMのFe(NO(シグマ-アルドリッチ、約98%)を含む約6mMのNi(NO(シグマ-アルドリッチ、約98%)の約150mL溶液に、Ptメッシュ(カウンター)およびAg/AgCl飽和KCl(基準)を含む作用電極として入れた。溶液を約10℃で保持し、約100rpmで撹拌した。作用電極はAg/AgCl飽和KClに対して約-1V(R=約20Ω)で約45分間保持され、水酸化物層が形成された。電極を脱イオン水ですすいだ後、室温で乾燥させた。
【0130】
特性評価粉末X線回折(XRD)を、Rigaku Ultima IV回折計(Cu Kα放射、λ=1.5406Å)を用いて、約40kVのビーム電圧、約44mAの電流、約1度/分のスキャン速度で室温で実施した。走査型電子顕微鏡(SEM)を、約5kVで動作し、エネルギースペクトルアナライザー(モデルJSM-7100F)を装備した熱電界放出電子顕微鏡を使用して行った。
【0131】
電気化学測定。電気化学測定は、CHI 760電気化学作業ステーションを用いて標準的な3電極構成で周囲条件で行った。調製したままの電極をテフロン(登録商標)で包んだ白金電極ホルダーで固定し、作用電極として使用し、Ptメッシュ(丸形、d=約2cm)をカウンター電極として使用し、飽和カロメル電極(SCE)を基準電極として使用して、使用前に毎回校正した。電解液は、約0.1~6MのKOHと約0~3MのKCOまたはNaCOまたはKPO、および約0~2MのNaCl混合物溶液である。中性電解液の評価では、CO飽和した約0.5M KHCO+約0.3M NaCl(pH=約7.4)を電解液として使用した。サイクリックボルタンメトリー(CV)は、約5mV/sのスキャン速度で取得した。2電極海水電気分解は、約400~1000mA/cmの実質的に一定の電流密度で、一定充電モードで動作するLANHEバッテリーテスターで実行した。調製したままのNiFe-HCまたはNiメッシュ-Fe浸漬-HC(または調製した他のアノード試料)をアノードとして使用し、PtメッシュまたはNi-NiO-Crをカソードとして使用した。特に記載のない限り、iR補償は実行されなかった。試験したシステムの一般的な抵抗は、約0.5~1オームであった。
【0132】
本明細書において、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに示されている場合を除き、複数の指示対象を含むことがある。したがって、例えば、文脈上明らかに示されている場合を除き、目的語の言及は、複数の目的語を含み得る。
【0133】
本明細書において、「接続する」、「接続された」、「接続している」、および「接続」という用語は、使用可能なカップリングまたはリンクを指す。接続された目的語は、互いに直接結合されてもよいし、別の目的語の組を介するなど間接的に互いに結合されてもよい。
【0134】
本明細書で使用される場合、「実質的に」、「実質的な」、および「約」という用語は、小さな変動を説明し、説明するために使用される。イベントまたは状況と組み合わせて使用する場合、これらの用語は、イベントまたは状況が正確に発生する場合と、イベントまたは状況が近似的に発生する場合を指し得る。例えば、数値と組み合わせて使用する場合、これらの用語は、その数値の±10%以下、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下の範囲の変動を包含し得る。
【0135】
さらに、量、比率、および他の数値は、本明細書において範囲形式で提示される場合がある。そのような範囲形式は、便宜のためおよび簡潔にするために使用されていることは当然理解される。さらに、そのような範囲形式は、範囲の限界として明示的に指定された数値を含めるだけでなく、各数値と下位範囲が明示的に指定されているかのように、その範囲内に含まれるすべての個々の数値または下位範囲を含めるように柔軟に理解されるべきである。例えば、約1~約200の範囲は、約1および約200の明示的に列挙される限界を含むが、約2、約3、および約4などの個々の値、および約10~約50、約20~約100などの下位範囲も含むことが理解されるべきである。
【0136】
本開示はその特定の実施形態に関して記載されているが、添付される特許請求の範囲により定義される本開示の真の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更が行われ得ること、および等価物が代用され得ることは当業者に当然理解される。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、方法、1または複数の操作、または操作を、本開示の目的、精神、および範囲に適合させるために、多くの修正が行われ得る。そのような修正はすべて、本明細書に添付された特許請求の範囲内にあるものである。特に、特定の方法は、特定の順序で行われた特定の操作に関して記載されているが、これらの操作は、本開示の教示から逸脱することなく、組み合わされるか、細分されるか、または並べ替えられて同等の方法を形成し得ることが理解されよう。したがって、本明細書において具体的に示されている場合を除き、操作の順序およびグループ化は、本開示を制限するものではない。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
塩化物を含む水中での酸素発生反応のためのアノードであって、
基層と;
前記基層をコーティングするパッシベーション層と;
前記パッシベーション層をコーティングする電解触媒層とを備え、
前記パッシベーション層は、少なくとも1つの金属の硫化物を含む、アノード。
(項目2)
前記パッシベーション層が、硫化ニッケルまたはニッケル鉄硫化物を含む、項目1に記載のアノード。
(項目3)
前記パッシベーション層と前記電解触媒層との間に配置されたアニオン層をさらに含む、項目2に記載のアノード。
(項目4)
前記アニオン層が硫黄のアニオン性酸化物を含む、項目3に記載のアノード。
(項目5)
塩化物を含む水中での酸素発生反応のためのアノードであって、
基層と;
前記基層をコーティングするパッシベーション層と;
前記パッシベーション層をコーティングする電解触媒層とを備え、
前記パッシベーション層は、少なくとも1つの金属のリン化物を含む、アノード。
(項目6)
前記パッシベーション層が、リン化ニッケルまたはニッケル鉄リン化物を含む、項目5に記載のアノード。
(項目7)
前記パッシベーション層と前記電解触媒層との間に配置されたアニオン層をさらに含む、項目6に記載のアノード。
(項目8)
前記アニオン層がリンのアニオン性酸化物を含む、項目7に記載のアノード。
(項目9)
塩化物を含む水中での酸素発生反応のためのアノードであって、
基層と;
前記基層をコーティングする電解触媒層と;
前記基層と前記電解触媒層との間に配置されたアニオン層とを備える、アノード。
(項目10)
前記アニオン層が、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、またはそれらの2またはそれを超える組み合わせを含む多原子アニオンを含む、項目9に記載のアノード。
(項目11)
前記多原子アニオンが、硫黄のアニオン性酸化物を含む、項目10に記載のアノード。
(項目12)
前記多原子アニオンが、リンのアニオン性酸化物を含む、項目10に記載のアノード。
(項目13)
前記多原子アニオンが、炭酸塩;モリブデン、タングステン、バナジウム、クロム、ホウ素、または炭素のアニオン性酸化物;あるいはそれらの組合せを含む、項目10に記載のアノード。
(項目14)
前記電解触媒層が、金属水酸化物、混合金属水酸化物、金属層状複水酸化物、混合金属層状複水酸化物、金属酸化物、または混合金属酸化物を含む、項目1、5、および9のいずれか一項に記載のアノード。
(項目15)
塩化物を含む水中での酸素発生反応のためのアノードであって、
基層と;
前記基層をコーティングする電解触媒層とを含み、
前記電解触媒層がアニオンを含む、アノード。
(項目16)
前記アニオンが、前記電解触媒層内、および前記電解触媒層と前記基層との間の界面に挿入されている、項目15に記載のアノード。
(項目17)
前記電解触媒層が、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した金属水酸化物、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した混合金属水酸化物、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した金属層状複水酸化物、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した混合金属層状複水酸化物、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した金属酸化物、あるいは、アニオンもしくは混合アニオンを挿入した混合金属酸化物を含む、項目16に記載のアノード。
(項目18)
前記アニオンが、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、またはそれらの2またはそれを超える組み合わせを含む多原子アニオンを含む、項目15に記載のアノード。
(項目19)
前記多原子アニオンが、硫黄、リン、または炭素のアニオン性酸化物を含む、項目18に記載のアノード。
(項目20)
前記基層が、金属のフォーム、箔、またはメッシュである、項目1、5、9および15のいずれか一項に記載のアノード。
(項目21)
前記基層が、ニッケルを含む、項目1、5、9および15のいずれか一項に記載のアノード。
(項目22)
項目1、5、9および15のいずれか一項に記載の前記アノードを含む、水電解槽。
(項目23)
塩化ナトリウムを含む水から酸素と水素を生成することを含む、項目22に記載の前記水電解槽を操作する方法。
(項目24)
前記水が、pHが7を超えるアルカリ性の海水である、項目23に記載の方法。
(項目25)
電解液から酸素と水素を生成することを含む、水電解槽を操作する方法であって、前記電解液が、アルカリ性に調整した海水と、前記アルカリ性に調整した海水中に分散し、沈殿したアルカリ土類イオンおよび重金属イオンを濾過で除去した多原子アニオンとを含み、前記電解液中の前記多原子アニオンの濃度が0.05M~8Mの範囲である、方法。
(項目26)
前記多原子アニオンが、CO 2- 、HCO 、SO 2- 、SO 2- 、PO 3- 、H PO 、HPO 2- 、あるいはそれらの2またはそれを超える組合せを含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記多原子アニオンの前記濃度が、0.05M~2Mである、項目25に記載の方法。
(項目28)
酸素発生反応用のアノードを製造する方法であって、
基層を提供するステップと;
前記基層をコーティングするパッシベーション層を形成するステップと;
前記パッシベーション層をコーティングする電解触媒層を形成するステップであって、それにより前記基層、前記パッシベーション層、および前記電解触媒層を含む前記アノードを形成するステップとを含む方法。
(項目29)
電流を前記基層に印加して、前記パッシベーション層と前記電解触媒層との間に配置されたアニオン層を形成することをさらに含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
酸素発生反応用のアノードを製造する方法であって、
遷移金属を含む基層を提供するステップと;
前記基層をコーティングする電解触媒層を形成するステップと;
電流を前記基層に印加して、前記基層と前記電解触媒層との間に配置されたアニオン層を形成するステップであって、前記アニオン層が前記遷移金属のアニオン性酸化物を含むステップとを含む、方法。
(項目31)
酸素発生反応用のアノードを製造する方法であって、
基層を提供するステップと;
前記基層をコーティングする電解触媒層を形成し、それにより前記基層および前記電解触媒層を含む前記アノードを形成するステップとを含み、
前記電解触媒層を形成するステップが、アニオンを含む電解液溶液の存在下であり、前記アニオンが前記電解触媒層内に組み込まれている、方法。
(項目32)
前記アニオンが、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、またはそれらの2またはそれを超える組み合わせを含む、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記電解触媒層を形成するステップが、前記電解液溶液の存在下で前記基層を陽極酸化処理することによって実施される、項目31に記載の方法。
(項目34)
前記基層が遷移金属を含み、前記電解触媒層を形成するステップが、アニオンを挿入した遷移金属水酸化物またはアニオンを挿入した遷移金属層状複水酸化物を形成することを含む、項目31に記載の方法。
(項目35)
酸素発生反応用のアノードを製造する方法であって、
基層を提供するステップと;
前記基層をコーティングする前駆体層を形成するステップと;
前記前駆体層から、前記基層をコーティングする電解触媒層を形成し、それにより前記基層および前記電解触媒層を含む前記アノードを形成するステップとを含み、
前記電解触媒層を形成するステップが、アニオンを含む電解液溶液の存在下であり、前記アニオンが前記電解触媒層内に組み込まれている、方法。
(項目36)
前記基層が、第1の金属を含み、前記前駆体層を形成するステップが、前記第1の金属とは異なる少なくとも1つの第2の金属を含む前駆体溶液に前記基層を曝すことを含む、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記第1の金属がニッケルであり、前記第2の金属が鉄、マンガン、クロム、またはコバルトである、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記前駆体層が、前記第1の金属と前記第2の金属の混合金属カチオン層である、項目36に記載の方法。
(項目39)
前記アニオンが、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、またはそれらの2またはそれを超える組み合わせを含む、項目35に記載の方法。
(項目40)
前記電解触媒層を形成するステップが、前記電解液溶液の存在下で前記基層を陽極酸化処理することによって実施される、項目35に記載の方法。
(項目41)
酸素発生反応用のアノードを製造する方法であって、
基層を提供するステップと;
電解触媒粒子を前記基層に付着させるステップとを含み、
前記電解触媒粒子が多原子アニオンを含む、方法。
(項目42)
前記電解触媒粒子が、多原子アニオンを挿入した金属水酸化物、多原子アニオンを挿入した混合金属水酸化物、多原子アニオンを挿入した金属層状複水酸化物、または多原子アニオンを挿入した混合金属層状複水酸化物を含む、項目41に記載の方法。
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図10
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