(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】ビーズミル
(51)【国際特許分類】
B02C 17/16 20060101AFI20230706BHJP
B02C 17/18 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
B02C17/16 B
B02C17/18 C
B02C17/18 E
(21)【出願番号】P 2021573269
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2021032041
(87)【国際公開番号】W WO2022080028
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2020173771
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505279215
【氏名又は名称】株式会社広島メタル&マシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】茨城 哲治
(72)【発明者】
【氏名】山口 郁
(72)【発明者】
【氏名】棗田 正之
(72)【発明者】
【氏名】平田 大介
(72)【発明者】
【氏名】千田 浩司
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第10057278(DE,A)
【文献】登録実用新案第3222139(JP,U)
【文献】特開2014-042867(JP,A)
【文献】国際公開第1996/039251(WO,A1)
【文献】特開昭55-061929(JP,A)
【文献】特開2002-028529(JP,A)
【文献】特開2020-182934(JP,A)
【文献】特開平04-281855(JP,A)
【文献】特公昭47-025605(JP,B1)
【文献】実開平01-163544(JP,U)
【文献】実公昭35-007774(JP,Y1)
【文献】登録実用新案第3217671(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0001295(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 1/00-25/00
B01F 27/112、27/2122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が鉛直方向に設置され、ビーズとスラリーを攪拌処理する容器の上にスラリー貯留槽が設置されており、また前記容器の下部にスラリー通過口が設置されており、かつ前記容器の上蓋と前記スラリー貯留槽の間にスラリーが通過できるスラリー流路が設置されているとともに、
前記回転軸が前記スラリー貯留槽の上方より前記スラリー流路の空間を通じて前記容器内に達しており、更に前記回転軸には、前記スラリー流路内のスラリーを下方に流す構造体が設置されているビーズミルであって、
前記円筒容器の最上部の前記回転軸に固定されている攪拌ローターの最上部又は前記回転軸に固定されている遠心ビーズ分離装置の上部のいずれかの位置の上に、前記回転軸の回転に伴いスラリーの旋回を与える流動促進部品が設置され、
前記円筒容器の前記スラリー通過口からスラリーが供給され、かつ前記回転軸には、遠心ビーズ分離装置と前記スラリー流路内のスラリーを下方に流す部品が設置されており、更に前記回転軸の内部に、前記遠心ビーズ分離装置を通過したスラリーを前記スラリー貯留槽中に流出させる中空経路が設置されており、前記中空経路内をスラリーが上方に流れる構造であり、
前記スラリー貯留槽内のスラリーの一部が前記スラリー流路を経由して、前記容器中に戻すことにより、スラリー循環流が形成されており、かつ、前記スラリー貯留槽内のスラリーが前記スラリー貯留槽の上部から外部に排出される構造であり、
前記スラリー貯留槽内にスラリーからビーズをろ過するスクリーンが設置されていることを特徴とするビーズミル。
【請求項2】
前記スクリーンは、前記スラリー貯留槽に固定されており、前記中空経路のスラリー出口よりも上部、かつ、前記スラリー貯留槽内のスラリー液面よりも下部に設置され、
前記回転軸と前記スクリーンの間に隙間があることを特徴とする請求項1に記載のビーズミル。
【請求項3】
前記回転軸に施されている前記中空経路のスラリー出口から前記スラリー貯留槽中に放出されるスラリーを前記回転軸の回転中心から遠ざける方向にスラリーを流す部品、または旋回させる部品が設置されていることを特徴とする請求項2に記載のビーズミル。
【請求項4】
前記スクリーンと前記回転軸の間の空間のスラリーを下方に流す部品又は/及び前記スクリーン下のスラリーを旋回させる部品が設置されていることを特徴とする
請求項1から3のいずれかに記載のビーズミル。
【請求項5】
前記スラリー貯留槽内のスラリー中にスラリーの旋回を防止する部品が設置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のビーズミル。
【請求項6】
前記スラリー貯留槽内に設置されるスラリー回転を防止する部品が、前記スラリー貯留槽の内部を円周方向に分割する配置で、複数の縦方向の板で構成されていることを特徴とする請求項5に記載のビーズミル。
【請求項7】
前記スラリー貯留槽内部に設置されるスラリー回転を防止する部品が、前記回転軸を囲む構造体と、前記スラリー貯留槽の内部を円周方向に分割する複数の縦方向の板の組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項5に記載のビーズミル。
【請求項8】
スラリーの旋回を与える前記流動促進部品の最外周部の直径が、前記遠心ビーズ分離装置のスラリーを旋回させる部品の最外周部の0.82倍以上であることを特徴とす
る請求項1または2に記載のビーズミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内にて攪拌メディアである硬質粒子(以降、ビーズと称する)を攪拌することで、固体粒子の懸濁液(以下、スラリーと称する)中の粒子を粉砕・分散処理をするビーズミルに関する。
【背景技術】
【0002】
スラリー中微粒子の粉砕・分散装置としては、高圧ジェットミル、超音波ホモジェナイザー、ビーズミルなどがある。このうち、ビーズミルは連続処理が可能であり、マイクロメートルサイズからナノメートルサイズの粉砕・分散ができるなど、優秀な粉砕・分散機能を持っている。ビーズミルは、密閉の円筒形容器内にて回転部材(攪拌ローター)が高速回転することで、前記円筒容器と前記攪拌ローターとの間でせん断力を発生させ、スラリー中に懸濁しているビーズの衝撃力により、スラリー中粒子の粉砕・分散を行う装置(ビーズミル)である。
【0003】
例えば、文献1の特許文献に開示されている発明の装置(ビーズミル1)では、円筒形容器の下部に攪拌ローターがあり、これが回転することで、粒子の粉砕処理や一次粒子が凝集した二次粒子の分散処理を行う。粉砕・分散を効率的に実施する場合には、スラリー中に0.05~5mm程度の径のビーズを混入させて処理を行う。ビーズミル1では、上部のビーズ分離装置で、粉砕・分散処理が完了したスラリーからビーズを分離している。また、特許文献2に記載のビーズミル(ビーズミル2)は、攪拌ローターではなく、大型のビーズ分離装置によって、円筒容器内のスラリーとビーズの混合物を攪拌する。
【0004】
このようなビーズ分離機構を持つビーズミルでは、装置内でビーズ充填層をスラリーが流れる圧力損出とビーズ分離装置の回転に伴う遠心力に逆らってスラリーが流れるための圧力損出等があるため、この形式のビーズ分離装置を持ったビーズミルにスラリーを流すためには、ミル内に0.1~0.4MPaの比較的高い圧力をかける必要がある。
【0005】
ここで粉砕処理とは、単一粒子を複数の粒子に分割することを云い、また、分散処理とは、複数の粒子からなる二次粒子を分離して、一次粒子が単独で分散している状態にすることを云う。なお、一次粒子とは、物質の結晶又は非晶質の単独粒子を言い、また二次粒子とは、一般に数個から数千個の一次粒子の表面が接触しあい擬似的な粒子を構成しているものを言う。粉砕処理・分散処理に用いられるビーズは、アルミナやジルコニアなどのセラミック製、ステンレススチール等の金属製、プラスチック製の数十マイクロメートルから数ミリメートルの粒子であり、一般に球形のものが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-143707号公報
【文献】特開2017-131807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、ビーズミルは連続処理が可能であり、マイクロメートルサイズからナノメートルサイズの粉砕・分散ができるなど、優秀な粉砕・分散機能を持っているが、以下のような課題があった。
【0008】
ビーズミルは、円筒容器中にて、ビーズを攪拌してスラリー中の粒子を粉砕処理又は分散処理し、円筒容器内でビーズ分離しているが、前述したように、その押し込み圧力は高圧であり、一方、円筒容器内の攪拌ローターを回転するための回転軸は、回転摺動部がスラリーと接するため、液漏れ防止のために回転部シーリングが必要であった。このような比較的高圧の部分の回転部シーリングのために、一般的にメカニカルシール装置によるシール構造が用いられていた。
【0009】
固定部品と回転部品の接触部があり、また高圧の容器内スラリーがシール部から外に漏れないようにするために、メカニカルシールなどのシール装置が必要である。漏れ防止のため、シール装置外側に圧力をかける必要があり、メカニカルシールはシール液を貯留する構造であった。シール接触部部品は徐々に磨耗していくため、シール性能が経時的に低下する問題があった。この結果、シール液がスラリー内に漏れて、スラリーを汚染する問題があった。またシール接触部部品(金属やセラミックスなど)の磨耗粉がスラリー中に混入する問題があった。更に、シール装置の磨耗がひどくなった場合はシール装置を交換する必要があり、このための費用がかかる問題があった。特にニッケルなどの金属粉を含むスラリーでのシール部磨耗は大きく、重大な問題があった。
【0010】
シール装置の更なる問題は、メカニカルシールが複数の部品からなる複雑な構造であり、継ぎ目や凹凸部が存在することに起因する。シール装置を有するビーズミルでは、この継ぎ目や凹凸部にスラリーが固着する問題があった。特に食品や医薬品の原料の処理では、固着物の腐敗により製品スラリーが商品にならないことや、洗浄が悪く品種変えの後のスラリーへの汚染の問題があった。このように、シール装置の磨耗や付着物に伴う問題があり、これを解決する新しい技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)回転軸が鉛直方向に設置されているビーズミル装置であって、ビーズを用いてスラリーを処理する容器の上にスラリー貯留槽が設置されている。前記容器の下部にスラリー通過孔口が設置されており、かつ前記容器の上蓋と前記スラリー貯留槽の間にスラリーが通過できるスラリー流路が設置されている。また、回転軸が前記スラリー貯留槽の上方から、前記スラリー流路の空間を通じて前記容器内に達している。更に、前記回転軸には、前記スラリー流路内のスラリーを下方に流す機構があり、また前記円筒容器の最上部の攪拌ローター又は遠心ビーズ分離装置が設置されている位置より上に、前記回転軸の回転に伴いスラリーの旋回を与える旋回促進部品が設置されている。前記円筒容器の前記スラリー通過口からスラリーが供給され、かつ前記回転軸には、遠心ビーズ分離装置と前記スラリー流路内のスラリーを下方に流す部品が設置されており、更に前記回転軸の内部に、前記遠心ビーズ分離装置を通過したスラリーを前記スラリー貯留槽中に流出させる中空経路が設置されており、前記中空経路内をスラリーが上方に流れる構造であり、前記スラリー貯留槽内のスラリーの一部が前記スラリー流路を経由して、前記容器中に戻すことにより、スラリー循環流が形成されており、かつ、前記スラリー貯留槽内のスラリーが前記スラリー貯留槽の上部から外部に排出される構造であり、前記スラリー貯留槽内にスラリーからビーズをろ過するスクリーンが設置されている。
【0013】
(2)前記(1)に記載のビーズミルであって、前記スクリーンは、前記スラリー貯留槽に固定されており、前記中空経路のスラリー出口よりも上部、かつ、前記スラリー貯留槽内のスラリー液面よりも下部に設置され、前記回転軸と前記スクリーンの間に隙間がある。
【0015】
(3)前記(2)に記載のビーズミルであって、前記回転軸に施されている前記中空経路のスラリー出口から前記スラリー貯留槽中に放出されるスラリーを前記回転軸の回転中心から遠ざける方向にスラリーを流す部品、または旋回させる部品が設置されている。
【0016】
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記スクリーンと前記回転軸の間の空間のスラリーを下方に流す部品又は/及び前記スクリーン下のスラリーを旋回させる部品が設置されている。
【0018】
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載のビーズミルであって、前記スラリー貯留槽内のスラリー中にスラリーの旋回を防止する部品が設置されている。
【0019】
(6)前記(5)に記載のビーズミルであって、前記スラリー貯留槽内に設置されるスラリー回転を防止する部品が、前記スラリー貯留槽の内部を円周方向に分割する配置で、複数の縦方向の板で構成されている。
【0020】
(7)前記(5)に記載のビーズミルであって、前記スラリー貯留槽内部に設置されるスラリー回転を防止する部品が、円筒や多角形筒の形状などの前記回転軸を囲む構造体と、前記スラリー貯留槽の内部を円周方向に分割する配置の縦方向の板の組み合わせで構成されている。
【0021】
(8)前記(1)または(2)に記載のビーズミルであって、前記円筒容器の最上部のスラリーに旋回を与える旋回促進部品の最外周部の直径が、前記遠心ビーズ分離装置のスラリーを旋回させる部品の最外周部の0.82倍以上である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のビーズミルには、スラリーに接する回転部シール装置がないため、回転部のシール装置の接触部材の磨耗に伴う問題である、磨耗したシール部品の破片やシール液による製品スラリーの汚染がなくなる。また回転部シール装置へのスラリー中粒子が固着して洗浄しづらい問題も解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の装置であって、遠心ビーズ分離装置を有し、スラリー貯留槽中にビーズ流出防止スクリーンと回転軸に固定されたスラリーを遠心力で吸い出す回転部品が設置されている装置の例である。
【
図2】本発明の装置であって、遠心ビーズ分離装置を有し、スラリー貯留槽中にビーズ流出防止スクリーン、スラリー回転を抑制する部品、及びスクリーン下のスラリーに回転を与える部品が設置されている装置の例である。
【
図3】本発明の装置であって、ビーズ径よりも狭い隙間を持つ接触式ビーズ分離装置を有し、スラリー貯留槽中のスラリー回転を抑制する部品が設置される装置の例である。
【
図4】本発明の装置に設置されるスラリースラリーを下方に流す機能の部品の例を示す図である。
【
図5】本発明の装置に設置されるスラリースラリーを下方に流す機能の部品の例を示す図である。
【
図6】円筒容器上部のスラリーを旋回させる機能を有する部品(旋回羽根13)とスクリーン下旋回部品20の構造例を示すものである。
【
図7】回転軸の回転軸内流路のスラリー出口に設置されるスラリー流に旋回を与える流路の構造例である。
【
図8】回転軸に固定される遠心ビーズ分離装置の構造例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の装置は、その構造的な概要が
図1、
図2及び
図3に示されるものである。円筒2、上蓋1及び下蓋3によって構成される円筒容器内で攪拌ローター5が回転する形式のビーズミルである。回転軸4が鉛直方向に設置されており、前記円筒容器の上にスラリー貯留槽6を有するものである。なお、回転軸4の方向は完全に鉛直方向でなくともよく、おおよそ15度以内であれば、傾いている状態でも良い。前記円筒容器とスラリー貯留槽6は、スラリー流路7をもって連結しており、ここをスラリーが通過するとともに、前記円筒容器上方に設置されている駆動装置によって回転される回転軸4がスラリー貯留槽6、スラリー流路7を経緯して、前記円筒容器内に伸びている。回転軸4には、前記円筒容器のスラリーとビーズの混合物を攪拌する攪拌ローター5が固定されている。更に、スラリー流路7中のスラリーを下方に流す送液部品が、回転軸4に固定されている。前記送液部品はスラリー流路7の内部、又は前記円筒容器の最上部に設置されている。前記送液部品の働きにより、スラリー流路7内に下降流を形成することで、回転軸4と固定部材(上蓋1)の間のシール構造が無くとも、前記円筒容器中のスラリーに混合しているビーズの漏洩を防止することができる。
【0025】
前記送液部品としては、適正な部品形状として、スラリー流路7の内部に、円柱に溝が施工されているポンピング部品9が記載されている例が
図1から
図3に示されている。その詳細な構造の一例は、
図4に示されるものであり、円柱部25に溝27が施されているものである。また、
図5に示すような円柱部25にらせん突起26が施されているものでもよい。前記送液部品は、必ずしもこの形状である必要がなく、軸流式のポンピング機構のものなどでも良い。また、
図1、
図2及び
図3では、ポンピング部品9とともに、前記円筒容器の最上部に、スラリーを旋回させる旋回促進部品(旋回羽根13)により、スラリーを中心部から周辺部に流すことで、遠心力を使って、ビーズを前記円筒容器の外周部に押しやるとともに、スラリーをスラリー流路7から吸い出す方式が記載されている。
【0026】
その構造の具体例を
図6に示す。この図は部品を上方から見た図であり、円盤24の上部に、旋回羽根13として、回転方向に後退角を持つ直線状の板が設置されている例が記載されている。旋回羽根13は直線状であっても、曲線状であっても良い。旋回羽根13は回転方向に後退角(10~45度)を持つことが望ましい。なお、曲線上の板の場合は、最外部分の角度を後退角とみなす。また、スラリーを旋回させる部品は、必ずしも旋回羽根13の形状でなくとも良く、例えば、円盤に複数の溝が施工されたものや、
図3の場合では、円盤24がなく旋回羽根13だけのような場合もある。更に、スラリーに旋回を与え、スラリーを中心部から外周部に流す機能があれば、他の形状でも良い。また、前記円筒容器の上部にスラリーを旋回させる旋回促進部品によるスラリー流路7内に下降流が十分に形成される構造であれば、ポンピング部品9などのスラリー流路7内の送液部品が省略された構成で、前記円筒容器の最上部のスラリーを旋回させる旋回促進部品の設置だけでも良い。前記円筒容器の上部のスラリーを高速で回転させることで、中心部のスラリーを周辺部に押し出すことで、スラリー流路7の中のスラリーを吸引する効果がある。
【0027】
本発明の装置では、前記円筒容器内のスラリーの回転運動と回転軸4の回転に影響されて、スラリー貯留槽6内に渦が形成されて液面がスラリー流路7に入り込む問題が発生する場合がある。この場合はミル内に空気が入り、ビーズ攪拌効率が低下することや、スラリーが泡立つ問題が起きる。特に攪拌ローター5が高速回転する場合や高粘度スラリーを処理する場合に、この問題が起きやすい。これに対応するために、スラリー貯留槽6内のスラリーの旋回を防止する部品を設置する場合がある。
【0028】
スラリー旋回を抑制する部品としては、旋回を抑制できれば、どんな形状でも良いが、例えば、
図1や
図2に示される複数の仕切り板を半径方向に設置して回転を止める部品(旋回防止板18)が構造的に容易でかつ効果も大きい。板の枚数は3~12が望ましい。また、旋回防止板18に加えて、
図3に示すように、回転軸4の周囲に円筒形や多角形などの筒(旋回防止管22)を設置して、回転軸4の回転によるスラリー流動への影響を低減すると更に良い。また、効果は落ちるが、例えばスラリー貯留槽6中にスラリー内に櫛歯状の部品を設置して、流動抵抗を作ることで、スラリーの旋回を抑制するものもある。
【0029】
本発明のビーズミルには、二形式のものがある。方式1は、
図1及び
図2に示すように、円筒容器内に遠心式のビーズ分離装置を持つものであり、スラリーは前記円筒容器の下蓋3のスラリー通過口8から供給される。遠心式のビーズ分離装置としては、どの形態のものでも良いが、本発明者らが実験に用いた遠心式のビーズ分離装置は、
図1の遠心ビーズ分離装置11、また詳細図を
図8に示すのうに、上下一対の円盤(上固定盤31と下固定盤32)に複数のプレート(ビーズ分離プレート33)が固定されている形状のものであった。ビーズ分離プレート33は、その外周部の間隔が10~40mmになるように設置され、また回転方向に10~40度の後退角を有するものであった。また、この形式のもの以外には、本発明に用いることが可能な遠心ビーズ分離装置は、渦状のインペラーを有するものなどがある。方式2では、下蓋3のスラリー通過口8をスラリー排出に使用し、ここに
図3のスリット式ビーズ分離装置23のようなスリット式やスクリーン式のビーズ分離装置が設置されているものである。スラリーは上部から下方に流れて、ビーズ分離されてミル外に排出される。
【0030】
まず、方式1のビーズミルの詳細について説明する。本形式では、スラリー流路7中にスラリーを下方に流す部品と、遠心ビーズ分離装置11の上面と上蓋1の間のスラリーに中心から周辺へのスラリー流を形成し、かつ遠心力を掛けてビーズ漏洩を防止する部品が設置される構造が特徴である。この構造により、回転部にシール構造のないビーズミルが構成される。なお、
図1及び
図2では、遠心ビーズ分離装置11の下に、攪拌ローター5が設置されているが、遠心式ビーズ分離の部品そのものに攪拌機能を持たせることで、攪拌ローター5を省略する場合がある。
【0031】
本発明の方式1の形態を示す
図1の例においては、円筒容器内にてスラリーとビーズの混合物を攪拌処理した後に、遠心力を用いてスラリーからビーズを分離する。遠心ビーズ分離装置11は回転軸4に固定されている。遠心力によりビーズを分離されたスラリーは、回転軸4の内部に施工されている回転軸内流路12を通って、スラリー貯留槽6に排出される。その後、スラリーはスラリー貯留槽6の中から、スラリー連絡流路10を通って、装置外に排出される。ただし、スラリー連絡流路10は必ずしも必要でなく、スラリー貯留槽6から、吸引管でスラリーを吸い上げる構造などでも良い。スラリー貯留槽6の中のスラリーの一部は、回転軸4に設置されているスラリーを下方に送る機能を持つポンピング部品9により、下方に送液される。このように形成されるスラリーの下降流により、スラリー流路7でのビーズ漏洩を防止する。
【0032】
0.3mm以下の微小ビーズを使用する場合などでは、スラリー流路7をビーズが逆流する量が増えることがあるため、
図1に示すように、遠心ビーズ分離装置11の上面に、放射線状に設置される旋回羽根13などの旋回促進部品を取り付けて、スラリーに遠心力を掛けて、スラリー流路7周辺のビーズを円筒容器の外周部に押し出すことで、スラリー流路7中へのビーズ漏洩を抑制することが必要である。ここでの旋回羽根13の配置は、
図6に示される配置と同様のものである。なお
図6は方式2の旋回羽根13と上部の円盤24の組み合わせの図であるが、基本的な旋回羽根13の配置は同様である。ポンピング部品9と旋回羽根13の組み合わせで、ミル内圧力変動などによるビーズ逆流を抑制できる。また機能が同じであれば、遠心ビーズ分離装置11の上面に放射線状の溝があるものなどでも良い。
【0033】
旋回羽根13の外周径は、遠心ビーズ分離装置11のスラリーに旋回を与える部品の最外周径の0.82倍以上が望ましい。また、更に望ましくは、0.82~1.48倍が良い。これは、旋回羽根13が形成する遠心力と遠心ビーズ分離装置11が形成する遠心力の比率に最適値があるためである。旋回羽根13が形成する遠心力が強すぎると、スラリー貯留槽6からスラリー流路7を通って前記円筒容器に循環するスラリー量が多すぎて、遠心ビーズ分離装置11を通過するスラリー量が過剰になる問題が起きる場合がある。また、旋回羽根13が形成する遠心力が小さすぎると前記円筒容器上部からスラリー流路7に流れるスラリー流が形成されてしまう問題が起きる。ここで遠心ビーズ分離装置11のスラリーに旋回を与える部品とは、スラリーに旋回を与えるものであれば、どのような形状でも良い。ただし、
図8のビーズ分離プレート33のような円盤状などに固定された備品であって、回転方向に対してスラリーを押し分ける明確な面を持つものが良い。最外周部の直径は該スラリーに旋回を与える部品の最外部の直径で定義される。
【0034】
図1に示す本発明の装置では、基本的に遠心ビーズ分離装置11と旋回羽根13の間の圧力バランスを調整することで、スラリーがスラリー流路7から逆流することを防止することが、本発明でのビーズ漏洩防止の原理である。しかし、ビーズミルの運転条件によっては、ビーズミル内の流動の乱れが大きく、スラリー流路7にスラリーが逆流する場合がある。そのような運転条件である場合に対応するために、
図1に示すような回転軸内流路12の出口部の回転軸4にスラリーを回転軸4の回転中心から遠ざける方向にスラリーを流す部品(旋回スラリー放出部品29)を設置すると更に良い。回転軸内流路12から流出するスラリーの最終的な出口を回転中心から遠い位置に放出することで、スラリー流に旋回を与える。旋回するスラリー流に掛かる動圧の影響で、回転軸内流路12の中のスラリーを吸引する力が働く。この結果、前記円筒容器中において、遠心ビーズ分離装置11へ流れ込むスラリー流が促進されることで、スラリー流路7を逆流するスラリー流が起きづらくなり、スラリー貯留槽6へのビーズ漏洩が抑制できる。
【0035】
旋回スラリー放出部品29は、スラリー流に旋回を与える構造であれば、どのようなものでも良いが、2から4か所に分かれた回転軸内流路12のスラリー出口に円形や四角形などの管を設置する構造や、回転軸内流路12から放出されたスラリーに遠心力を与える上下2枚の円盤に複数のブレードを設置する構造などが良い。例として、
図7に回転軸内流路12のスラリー出口に円筒形の管(スラリー回転管30)を2本設置する構造を示す。
図7では、回転軸内流路12には、スラリー出口が2か所あり、各々にスラリー回転管30が設置される。スラリー回転管30は、回転中心から直径方向に放射状に設置されるか、回転軸4の回転方向に後退角を持って設置されることが良い。この後退角は0から30度の範囲であることが良い。
図7の例では、スラリー回転管30は回転方向に後退する円弧を描く構造である。
【0036】
また、回転軸内流路12から放出された後に、スラリーに遠心力を掛ける構造としては、回転軸4に上下2枚の円型の固定盤を設置し、これらに複数のプレートが設置され構造であり、前記プレートの運動によりスラリーを外周方向に押し出す。その構造は
図8に示される遠心ビーズ分離装置の図と同様のものである。スラリー回転管30や前記プレートなどの外周部分の直径は、ビーズミルのサイズ、スラリー条件や、使用するビーズ径などに影響されるが、遠心ビーズ分離装置11のスラリーを旋回させる部品の外周部分の0.3~1倍であることが良い。またビーズ分離プレート33は回転方向に対して10から40度の後退角を持つことが良い。
【0037】
図2に示す本発明の装置は、更にスラリー貯留槽6内にビーズ漏洩防止を目的とする部品を設置するものである。本発明の基本構造である、ポンピング部品9と旋回羽根13が設置されている上記の構造のビーズミルにおいても、スラリーが高粘度である場合や0.1mm程度のビーズを使用する場合などは、少量であるがスラリー流路7をビーズが逆流することがある。この現象の対策として、スラリー液面よりも下にスクリーン19を設置して、ビーズがスラリー貯留槽6から流出することを防止する。なお、スラリー液面が平たんでない場合は、スクリーン19の一部が、液面上に出ても構わない。スクリーン19は、全面に金網が設置されていても、一部に金網が設置されていても良い。スクリーン19の網目間隔はビーズ径の0.4~1.5倍が良い。
【0038】
スクリーン19はスラリー貯留槽6の内面に固定され、スクリーン19とスラリー貯留槽6との接触部には隙間がないことが良い。しかし、スクリーン19と回転軸4との間には隙間があるため、条件によっては、前記隙間をスラリーに懸濁しているビーズが通過する場合がある。この現象が起きる場合は、スクリーン下旋回部品20やポンピング部品21のような部品を回転軸4に設置して、隙間中をスラリーが上昇することを防止することが良い。なお、スクリーン下旋回部品20は、回転軸4とスクリーン19の間のスラリーを下に流すとともに、スラリーに旋回を与え、遠心力でビーズを回転軸4とスクリーン19の間隔に近づけない効果もある。スクリーン下旋回部品20は回転により、スラリーを中心から外側に流す機能を持つものであれば、形状に制約はない。
図6に示すような前記円筒容器内に設置される円盤24と旋回羽根13と同様の構造である円盤に放射状の線状突起が複数付いているもの、他の形状として円盤に複数の放射状の溝が付いているものや、軸にブレードが複数枚設置されているものなどがある。ポンピング部品21は、例えば、
図4や
図5に示されるポンピング部品9と同じで、構造の円筒に溝が付いたものや、複数の羽根で構成されるスクリュー状のものが良い。なお、
図1には、スクリーン下旋回部品20やポンピング部品21の両方が記載されているが、一方のみが設置される場合もある。
【0039】
スクリーン下旋回部品20のビーズ漏洩抑制機能が十分である場合は、スラリーがスクリーン19を通過せず、スクリーン19と回転軸4の間の隙間のみを通過しても、ビーズ漏洩を防止できる。つまり、スクリーン10の下において、スラリー旋回の遠心力でビーズがスクリーン下旋回部品20の外周部から外方向に押し出されるため、スクリーン19と回転軸4の隙間を上昇するスラリーにはビーズが含まれなくなる。この効果により、該隙間からビーズがスクリーン19の上方に漏れることがない。したがって、このようなスクリーン下旋回部品20であれば、スクリーン19が、スラリーが通過しない構造の仕切り板であっても良い。
【0040】
この構造のビーズミルでは、スラリー貯留槽6内に貯留されているスラリーを上下に二分割する仕切り板がスクリーン19の位置に設置される。また回転軸4は、該仕切り板に設置されている開口部の中を通る。また、該開口部に下方において、回転軸4にスラリーを旋回させる部品を設置する。
図1の例では、該部品として、スクリーン下旋回部品20が設置されている。この形態のビーズミルを実現するスクリーン下旋回部品20は、十分な遠心力を形成するスラリー旋回を実現するものであれば、どの形状のものでも良いが、
図1中に示されるように、円盤の上面に旋回を促進する模様があるものが最も良い。
図6に示される複数の線状突起を持つものや、逆に複数の線状溝を持つものが良い。
【0041】
また、スラリー貯留槽6の中のスラリーが旋回することで渦を生じて、スラリーの中心部の液面がスクリーン19よりも大幅に低下する場合がある。その対策のために、前述したように、スラリー貯留槽6の内部に旋回防止板18を取り付ける場合がある。旋回防止板18はスラリー貯留槽6の直径方向に向いて設置される縦板であり、複数が設置される。適正な設置数は3~12枚である。旋回防止板18の設置により、スラリー貯留槽6の内部のスラリーの旋回流動が収まり、ビーズが沈殿しやすくなる。この結果、スラリー流路7の下降流に乗って、ビーズが前記円筒容器に戻りやすくなる。旋回防止板18は、スラリー貯留槽6の側面に固定される構造が最も一般的であるが、スラリー貯留槽6の底面に固定されても良い。また、
図2には記載されていないが、旋回防止板18は、
図3に記載のように旋回防止管22と接合されていることが更に良い。旋回防止管22により、回転軸4の運動の影響が更に緩和され、スラリー貯留槽6内のスラリー流動が更に収まる。旋回防止管22は円筒や多角筒などの形状で、スラリー貯留槽6の内部で、回転軸4を周囲のスラリーから隔離する構造のものである。また、その一部に孔等が開いていてもよい。
【0042】
なお、本発明の方式1での更に良い形態として、スラリー貯留槽6の内部に、
図1に示す回転軸内流路12の中のスラリーを吸引する部品と、
図2に示すビーズろ過用のスクリーン19とスラリー回転防止部品を設置するものなどが設置されているが、
図1と
図2の構造を組み合わせたものも本発明の範囲である。
【0043】
次に
図3を用いて、本発明のビーズミルの方式2を説明する。この装置構成のビーズミルは、主な構成部品として、円筒2、上蓋1、及び下蓋3からなる円筒型容器、回転軸4に接続する攪拌ローター5、及び下蓋3のスラリー通過口8に設置されるスリット式ビーズ分離装置23を中心として構成されるビーズミルであり、更に前記円筒容器上部にスラリー貯留槽6が設置されている。
【0044】
スラリー貯留槽6からスラリー流路7を経緯して中で、前記円筒容器に供給されたスラリーは、ビーズの混合物を形成して、攪拌処理を施された後に、前記円筒容器から排出する前に、ビーズを分離する。方式2のビーズミルでは、スリット式ビーズ分離装置23のような使用するビーズの直径よりも狭い隙間にスラリーを通過させてビーズを分離する型式のビーズ分離装置を設置する。
図3の例では、スリット式ビーズ分離装置23とスラリー通過口8の間隔をビーズが漏れないように開孔する間隔を調整する。なお、本発明のビーズ分離装置は、狭い隙間にスラリーを通過させる型式であれば、どの形式のものでも良く、スリット型、網状スクリーン型、平行ワイヤー型などがある。
【0045】
上記の構造のビーズミルにおいては、ビーズ攪拌時の攪拌ローター5の回転速度が高い場合やスラリーが高粘度である場合には攪拌ローター5の回転運動により、スラリーに遠心力が掛かることで、ビーズが前記円筒容器内を上蓋1の近傍まで、ずり上がりスラリー流路7に押し付けられる場合がある。本発明では、この問題に対応するために、前記円筒容器の攪拌ローター5の設置位置よりの上方に、スラリーに遠心力を与える部品を設置する。これは、
図3に記載のように、上部の円盤24に旋回羽根13を取り付けたものなどがある。その構造は、
図6に詳しく記載されるものである。ここで、旋回羽根13は直線でも、曲線でもよく、回転方向に0~40度の後退角を持つことが望ましい。また、旋回羽根13の外周径は攪拌ローター5の外周径よりも大きいことが良い。
【0046】
また、回転軸4とポンピング部品9の回転の影響と前記円筒容器内のスラリー旋回の影響により、スラリー貯留槽6内のスラリーが旋回するが、この旋回が激しくなると、大きな渦が生じて、スラリー貯留槽6の空間から前記円筒容器内に空気が巻き込まれる場合がある。この結果、スラリーの泡立ちにより処理継続できない問題や攪拌ローター5による攪拌が不十分になる問題などが起きる。この問題に対応するために、スラリー貯留槽6中に回転防止部品を設置する。
図3に記載の例のように、旋回防止板18と旋回防止管22をスラリー貯留槽6に設置することで、スラリー旋回を抑制でき、前記円筒容器への空気の侵入を防止できる。効果はやや小さくなるが、旋回防止板18単独の設置でも良い。
【0047】
従来型のビーズミルでは、円筒容器の上部と回転軸の間に機械シール構造(一般的にはメカニカルシール装置)が設置されている。これは、前記円筒容器内での処理中の液体抵抗やビーズ分離装置での圧力損失に対応するため、ポンプ等でスラリーをミル内の押し込み、円筒型容器内が加圧されている状態としていることから、回転軸周りにシール機構が必要である。一方、本発明の装置においては、回転部品である回転軸4と固定部品であるスラリー流路7の間に設置されているポンピング部品9などによって前記円筒容器内部に圧力を掛ける構造であるため、シール機構がなくとも、前記円筒容器の内部と外部(本発明の場合は、外部とはスラリー貯留槽6となる)に圧力差を作ることが可能である。この結果、メカニカルシール装置を省略することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るビーズミルは、セラミック、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー、顔料、インキ、塗料、誘電体、磁性体、無機物、有機物、医薬品、食品、金属粉等の微小粉体を含むスラリーの粉砕処理及び分散処理に適用される。
【実施例】
【0049】
本発明の装置2台(遠心式ビーズ分離方式のミル1とスリット式ビーズ分離装置のミル2)を製作して、部品構成を変えて、ビーズを入れて処理実験を行った。第一の装置(方式1:ミル1)は、ミル1a、ミル1b、ミル1c、ミル1d、ミル1e及びミル1fの6つの部品構成で実験した。ミル1aからミル1eの基本構造は
図2に示すものが基本である。スクリーン19の網目の間隔は、0.08~0.15mmであった。ミル1dとミル1eには、スクリーン19と回転軸4の隙間のスラリー流動を調整するための部品を設置した。また、ミル1gには、スクリーン19の代わりに仕切り板を設置し、該仕切り板と回転軸4の隙間のスラリー流動を調整するために、スクリーン下旋回部品を設置した。該仕切り板の設置位置はミル1bから1eのスクリーン19と同じであった。更にミル1aの構成においては、旋回羽根13の良好な外周径を求めるための実験も行った。またミル1fは
図1に示すものであった。表1にその仕様を示す。
【表1】
【0050】
ミル1aには、旋回羽根13が設置されているが、スラリー貯留槽6の内部には何も設置されておらず、ミル1bには、旋回羽根13とスクリーン19のみが、また、ミル1cには、旋回羽根13に加えて、スクリーン19と旋回防止板18が設置されていた。更に、ミル1dには、ミル1cの構成に加えて、スクリーン下旋回部品20を設置した。スクリーン下旋回部品20は
図6に記載の構造であり、羽根の外周径は40mmであった。またミル1dには、ミル1cの構成に加えて、ポンピング部品21が設置されていた。また、回転軸内流路12から流出するスラリーを回転させる部品が設置されたであるミル1fには、
図7に記載のスラリー回転管30で、その外周径が26mmのものが設置されていた。なお、遠心ビーズ分離装置11のブレードの外周径は44mmであった。
【0051】
また、第二の装置(方式2:ミル2)は、ミル底部に接触式のスリット式ビーズ分離装置23を備えたビーズミルで、基本的に
図3に記載の構造であった。ミル2aは、旋回羽根13は設置されているが、旋回防止板18も旋回防止管22も設置されていないもので、ミル2bは、旋回羽根13に加えて、旋回防止板18と旋回防止管22の両方が設置されているものであった。主な仕様は表1に示すものである。
【0052】
また、比較例として、ミル1とミル2と同じ円筒容器のミルに、旋回羽根13、旋回防止板18、旋回防止管22、スクリーン19などが設置されていない装置であるミルIとミルIIを用いた実験も行った。これらの仕様も表1に記載してある。方式1のミル1aからミルIの処理実験においても、円筒容器内に供給する流体は水であり、方式2のミル2aからミルIIに供給する流体は水と粘度550mPa・sの高粘度液であった。流量は8リットル/時であった。
【0053】
まずミル1aの装置構成で、旋回羽根13の外周径と遠心ビーズ分離装置11のスラリーを旋回する部品の外周径の比のビーズ漏洩に対する影響を調査した。旋回羽根13は6枚設置されており、長さ12mm、高さ5mmであった。なお、本発明者らの事前実験では、旋回羽根13の後退角は10~45度が最も望ましいため、この実験では後退角を30度とした。また、ミル1aの装置構成での適正な旋回羽根13の外周径を求める実験を行った。ミル1aの装置構成では、スラリーを旋回する部品の外周径は、旋回羽根13を保持するプレートなどの回転方向に平行に近い面(概略で30度以内の角度)以外の部品の最外周部の直径で定義される。
図8は本実験に用いた遠心ビーズ分離装置11の構造図であり、この装置では、スラリーを旋回する部品はビーズ分離プレート33である。この場合の例では、ビーズ分離プレート33の外周径を外周径比の分母に取ると良い。ビーズ分離プレート33の外周径44mmに対して、旋回羽根13の外周径を32~65mm(外周径比:0.73~1.48)の範囲で、0.3mmビーズを用いて水を7リットル/時の流量で実験した。なお実験条件は、ビーズ分離プレート33の外周速が4~12m/秒の範囲であった。
【0054】
表2の実験結果に示されるように、外周径比が、0.75では、8m/秒以下のビーズ分離プレート33の外周速でビーズが微少量漏洩しており、また6m/秒以下では、相当量(1g/分以上)のビーズが漏洩した。一方、36mmの外周径の場合(外周径比:0.82)では、4m/秒で微少量のビーズが漏洩するだけで、改善が見られた。また40~60mmの外周径の場合(外周径比:0.91~1.36)では、ビーズ漏洩は認められなかった。一方、65mmの場合(外周径比:1.36)では、最高速である12m/秒で微少量(1時間運転で0.1g以下)のビーズが漏洩していた。外周径比が0.82以上で良い結果であり、望ましくは、0.82~1.48の範囲が良かった。更に良好は範囲としては、0.91~1.36である。この結果をもとに、ミル1aからミル1gの旋回羽根13の外周径を46又は50mmと設定した。
【表2】
【0055】
ミル1aからミル1fとミルIにおいて、0.1mm径と0.3mm径のビーズを用いて、ビーズ漏洩状況を確認した。処理条件は、常温の水を用いて、ミル内に充填率が75%になるようにビーズを入れた。遠心ビーズ分離装置11のスラリー旋回部品(ビーズ分離プレート33)の外周速を2m/秒おきに4~12m/秒まで変化させて実験した。この実験結果を表3に示す。0.3mm径のビーズでの実験で、比較例のミルIでは、ビーズ分離プレート33の外周速が4m/秒の場合に、ビーズ漏洩が認められた。
【0056】
一方、ミル1aからミル1fのいずれであっても、どの条件でもビーズの漏洩は認められなかった。ただし、外周速度が4m/秒の際には、ミル1aとミル1bの処理では、微量のビーズがスラリー貯留槽6の中に混入していたが、ビーズはミル外には流出しなかった。ミル1cからミル1fでは、スラリー貯留槽6にビーズ混入はなかった。
【表3】
【0057】
0.1mm径のビーズでの実験では、ビーズ分離プレート33の外周速が6m/秒以下の処理は、いずれのミルでも、スラリー貯留槽6へのビーズの混入が認められ、比較例のミルIの実験では、6m/秒の場合で、処理開始15分後に、スラリー貯留槽6から装置外にビーズが漏洩した。一方、ミル1aの実験では、ビーズ分離プレート33の外周速が6m/秒まではビーズ漏洩がなく、4m/秒の場合、処理開始30分後に、スラリー貯留槽6から装置外にビーズが少量漏洩した。この時点のスラリー貯留槽6の内部には、表2に示すように相当量のビーズが蓄積していた。
【0058】
このように、スラリー貯留槽6内部にビーズがたまる傾向にあり、旋回羽根13のみを設置したミル1aでも、ビーズ漏洩を防止する効果があったが、やや限定的であった。ミル1bの処理では、ビーズ分離プレート33の外周速が6m/秒以上の処理でスラリー貯留槽6からのビーズ漏洩は認められず、4m/秒の処理でも、処理開始後50分から極少量の漏洩が認められたのみであった。このように、スクリーン19の設置により、ビーズ漏洩を防止できた。ただし、この処理後のスラリー貯留槽6の中にビーズが少量堆積していた。
【0059】
ミル1cの実験では、ビーズ分離プレート33の外周速が6m/秒以上の処理でスラリー貯留槽6からのビーズ漏洩は認められず、4m/秒の処理でも、処理開始後90分から極少量の漏洩が認められたのみであった。このように、スクリーン19に加えて、旋回防止板18の設置により、スラリー貯留槽6内のビーズの懸濁ビーズ漏洩を防止できた。どの処理後のスラリー貯留槽6の中に残留しているビーズ量は微少量であった。これは、スラリー貯留槽6の内部のスラリーの旋回が減少し、ビーズの懸濁が抑制されたことから、ポンピング部品9により、ビーズがスラリーとともに円筒容器に送られやすくなったと考えられる。ただし、少量のビーズが漏れる場合があったのは、スクリーン下旋回部品20などがなかったため、スクリーン19と回転軸4の間の空間から、上方にビーズが漏洩したことが原因と考えられる。
【0060】
ミル1dとミル1eの実験では、ビーズ分離プレート33の外周速が4~12m/秒の全ての処理において、ビーズ漏洩が認められなかった。これはスクリーン下旋回部品20の遠心効果やポンピング部品21のスラリー下降流形成の効果であった。また、ミル1dとミル1eの処理においても、ミル1dとミル1eの処理後のスラリー貯留槽6の中に残留しているビーズ量は、ミル1a、ミル1b及びミルIでの処理よりも微少量であり、ミル1cの処理に対しては、わずかに堆積ビーズ量が少なかった。
【0061】
ミル1fの実験では、スラリー回転管30の効果により、回転軸内流路12の中のスラリーを吸い出す効果があり、遠心ビーズ分離装置11へのスラリーの流れが安定化して、比較例のミルIの処理のみならず、ミル1aからミル1eの処理に対しても、スラリー貯留槽6へのビーズ漏洩が少なかった。
【0062】
ミル1gの実験は、スクリーン19の代わりに、スラリーが通過しない仕切り板を設置した実施例である。スクリーン下旋回部品20として、回転軸4に
図6に示す構造の部品を設置した。スクリーン下旋回部品20の直径は44mmであり、これはビーズ分離装置のビーズ分離プレート33の直径の1.0倍であり、ビーズを外方向に押し出すのに十分な遠心力を形成できたため、スラリー全量が回転軸4と該仕切り板の間の空間を通過しても、スラリー貯留槽から上方へのビーズ漏洩はなかった。本発明者らの実験では、スクリーン下旋回部品20の直径とビーズ分離プレート33の直径の比率が0.7以下では、十分な遠心力が確保できず、微小のビーズ漏洩が起きた。また、この比率が1.4以上の場合は、スラリー貯留槽6の内部のスラリー流動が過剰となり、渦が発生して、スラリーの泡立ちが起きる問題が生じた。
【0063】
ミル2a、ミル2b及びミルIIにおいて、0.5mmのビーズを用いて、水と粘度550mPa・sの高粘度スラリーでの処理実験を行った。ミル2bの旋回羽根13の直径が50mmと攪拌ローター5の直径よりも大きかったため、旋回羽根13の遠心力によるスラリー吸い出し効果により、スラリー流路7の内部に十分な下降流が形成できるため、ポンピング部品9は省略した。ただし、スラリー流路7の通過抵抗を上げるために、ポンピング部品9と同じ径の円筒(溝・突起なし)を設置した。
【0064】
これらの実験結果を表4に示す。比較例のミルIIでは、攪拌ローター5の外周速が8m/秒以上の高速回転時には、攪拌ローター5が作る遠心力により、ビーズが上蓋1に押し付けられる現象が起きた。その結果、ビーズがスラリー流路7に入り込み、ビーズは更にスラリー貯留槽6に入り込んだ。スラリーの流れはスラリー貯留槽6から円筒容器に向かっているため、処理後のスラリーにビーズ混入はなかったが、ポンピング部品9が摩耗する問題が起きた。また、水の処理では、10m/秒以上、また高粘度スラリーの処理では、8m/秒以上の攪拌ローター5の外周速の場合は、スラリー貯留槽6内の渦が大きくなり、ミル内に空気が入り、スラリーが発泡する問題があった。
【0065】
ミル2aでは、ミル上部のスラリーを旋回させるための部品である円盤24と旋回羽根13が設置されており、上蓋1の近傍のスラリーを回転させることで、ビーズがスラリー流路7に近づかなかったため、ポンピング部品9が摩耗する問題は起きず、またビーズがスラリー貯留槽6に逆流することはなかった。しかし、スラリー旋回の影響は解決されず、水の処理では、10m/秒以上の攪拌ローター5の外周速では、スラリー貯留槽6から円筒容器に空気が入り込んで、前記円筒容器内のスラリーが発泡して、スラリー流動が悪化して、処理できなくなった。一方、ミル2bでは、スラリー旋回装置である旋回羽根13と円盤24の組み合わせが、及び回転防止のための旋回防止板18と旋回防止管22が設置されているため、全ての処理で、前記円筒の破損も発泡現象も起きなかった。
【表4】
【0066】
以上に説明したように、本発明のビーズミルでは、従来型ビーズミルに設置されていたメカニカルシールなしでも、ビーズ漏洩なしで、スラリー処理が可能となった。
【符号の説明】
【0067】
1‥‥上蓋
2‥‥円筒
3‥‥下蓋
4‥‥回転軸
5‥‥攪拌ローター
6‥‥スラリー貯留槽
7‥‥スラリー流路
8‥‥スラリー通過口
9‥‥ポンピング部品
10‥‥スラリー連絡流路
11‥‥遠心ビーズ分離装置
12‥‥回転軸内流路
13‥‥旋回羽根
14‥‥軸駆動プーリー
15‥‥ベルト
16‥‥モーター側プーリー
17‥‥モーター
18‥‥旋回防止板
19‥‥スクリーン
20‥‥スクリーン下旋回部品
21‥‥ポンピング部品
22‥‥旋回防止管
23‥‥スリット式ビーズ分離装置
24‥‥円盤
25‥‥円柱部
26‥‥らせん突起
27‥‥溝
28‥‥キー穴
29‥‥旋回スラリー放出部品
30‥‥スラリー回転管
31‥‥上固定盤
32‥‥下固定盤
33‥‥ビーズ分離プレート