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特許7308009未臨界炉心反応度バイアスを予想する方法
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  • 特許-未臨界炉心反応度バイアスを予想する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】未臨界炉心反応度バイアスを予想する方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/108 20060101AFI20230706BHJP
   G21D 3/00 20060101ALI20230706BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
G21C17/108
G21D3/00 E
G21C17/00 200
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020532038
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 US2018065102
(87)【国際公開番号】W WO2019164570
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】62/597,571
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャーニ、パトリック、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ダイクス、マーク、ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】グローブマイヤー、ルイス、アール
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-157669(JP,A)
【文献】特表2012-532315(JP,A)
【文献】特開2009-150838(JP,A)
【文献】特開2014-106104(JP,A)
【文献】特表2012-511726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00 - 17/14
G21D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
子炉炉心の大域的炉心反応度バイアスを割り出し、当該原子炉炉心を臨界状態にする方法であって、
当該原子炉炉心に臨界状態をもたらすと予想されるパラメータの組み合わせを予測するステップと、
当該原子炉を第1の未臨界状態で運転するステップと、
当該原子炉の第1の未臨界状態での運転時に、中性子源領域検出器を用いて、中性子束の第1の測定値求めるステップと、
当該原子炉の少なくとも1本の制御棒の位置を変えることによって、当該原子炉が第2の未臨界状態で運転されるように調整するステップと、
当該原子炉の第2の未臨界状態での運転時に、中性子源領域検出器を用いて、中性子束の第2の測定値求めるステップと、
当該第1の未臨界状態での空間補正された中性子束の予測値と、当該第2の未臨界状態での空間補正された中性子束の予測値とを求めるステップと、
該中性子束の測定値当該空間補正された中性子束の対応する予測値と比較することによって、大域的炉心反応度バイアスを割り出すステップと
を含み、
当該中性子束の各測定値には空間補正係数が適用されておらず、
当該方法はさらに、
当該予測されたパラメータの組み合わせを更新することを、当該大域的炉心反応度バイアスに従って当該パラメータの少なくとも1つを調整することによって行うステップと、
当該更新されたパラメータの組み合わせを用いて、当該原子炉炉心を臨界状態にするステップと
を含む方法。
【請求項2】
回帰解析を行って、前記未臨界中性子束の測定値と、前記空間補正された未臨界中性子束の対応する予測値との間の関係割り出すことにより、前記大域的炉心反応度バイアスを割り出すステップをさらに含み、
前記割り出された大域的炉心反応度バイアスは、前記原子炉を臨界状態で運転することなしに前記原子炉炉心に関連する異常を検知するために使用される
請求項1の方法。
【請求項3】
前記中性子束データの測定値を前記空間補正された予測値と調和させるために必要な一様な解析的反応度調整量、すなわち系統的な大域的反応度バイアスを割り出すことによって、予測される炉心と実際の炉心との間の反応度バイアスを求めるステップをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項4】
前記第1の未臨界状態および前記第2の未臨界状態は、定常状態である、請求項1の方法。
【請求項5】
請求項1の方法を実施するようにプログラムされた処理装置。
【請求項6】
請求項1の方法を実施するための命令を含む機械可読媒体。
【請求項7】
前記予測されたパラメータの組み合わせを更新することは、前記原子炉を臨界状態で運転することなしに行われる、請求項1の方法。
【請求項8】
前記原子炉を前記第1の未臨界状態で運転することは、前記原子炉の竣工後に行われる、請求項1の方法。
【請求項9】
前記原子炉を前記第1の未臨界状態で運転することは、前記原子炉の燃料交換後に行われる、請求項1の方法。
【請求項10】
前記原子炉炉心に関連する異常は、原子炉炉心の異常な挙動である、請求項2の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、参照により本願に組み込まれる2017年12月12日出願の米国仮特許出願第62/597,571号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は概して原子炉の炉心が臨界に達する時点を予想する方法に関し、具体的には、原子炉が臨界に達する前に大域的炉心反応度バイアスおよびそれに対応する炉心の推定臨界状態を割り出す方法に関する。
【背景技術】
【0003】
加圧水型原子炉発電システムでは、圧力容器の炉心内に支持された複数の燃料棒で核分裂連鎖反応が起きることから熱が発生する。燃料棒は燃料集合体内に間隔を空けて保持されており、燃料棒の間のスペースがホウ酸水が流れる冷却材チャンネルを形成する。冷却水に含まれる水素は燃料棒内の濃縮ウランから放出される中性子を減速するため、核反応の数が増加し、このプロセスの効率が増大する。燃料集合体内の燃料棒の位置に分散配置された制御棒案内シンブルは、制御棒が炉心に挿入されるか炉心から引き抜かれるときに当該制御棒を案内する役割を果たす。制御棒は、挿入されると中性子を吸収して、核反応の回数と炉心内で発生する熱の量とを減少させる。冷却材は、集合体を通り抜けたあと、原子炉から蒸気発生器の管側へ送られると、胴側の低圧の水に熱を伝達し、タービンを駆動する蒸気を発生させる。蒸気発生器の管側を出た冷却材は、主冷却材ポンプにより原子炉に戻されて閉ループサイクルを終えるが、そのあと、また新しいプロセスが始まる。
【0004】
原子炉の出力レベルは、一般的には3つの領域に区分される。すなわち、中性子源領域(起動領域)、中間領域および出力領域である。原子炉の出力レベルは、安全な運転を保証するために継続的に監視される。この監視は通常、原子炉の炉心の外側と内側に配置された原子炉の中性子束を測定する中性子検出器によって行われる。原子炉内の任意の点の中性子束は、核分裂率に比例するため、出力レベルにも比例する。
【0005】
原子炉の中性子源領域、中間領域および出力領域における中性子束の測定には、核分裂電離箱が使用されてきた。典型的な核分裂電離箱は、すべての標準出力レベルで動作可能であるが、一般的に、中性子源領域で発せられる低レベル中性子束については感度が十分でないため正確に検出できない。このため、原子炉の出力レベルが中性子源領域にあるときは通常、別個の低レベル中性子源領域検出器により中性子束を監視する。
【0006】
炉心内の核分裂反応は、適当なエネルギーレベルの自由中性子が燃料棒内の核分裂性物質の原子に衝突すると起こる。この反応により大量の熱エネルギーが放出され、原子炉冷却材によって炉心から抽出されるが、それとともに、新たな自由中性子が放出されて、より多くの核分裂反応を引き起こす。これらの放出された中性子の一部は炉心から漏出するか、または制御棒などの中性子吸収材によって吸収されるため、さらなる核分裂反応を誘発しない。炉心に存在する中性子吸収材の量を制御すると、核分裂の速度を制御することができる。核分裂性物質では、核分裂反応が常にランダムに発生しているが、炉心が停止した場合、放出される中性子は高率で吸収されるため、一連の持続的な反応は起こらない。ある世代の中性子の数が増大して前の世代の中性子の数と等しくなるまで中性子吸収材を減らすと、プロセスは自立的連鎖反応へ移行し、この状態を原子炉の「臨界」と呼ぶ。原子炉が臨界のときの中性子束は原子炉が停止しているときよりも6桁ほど大きい。一部の原子炉では、この移行期間を実際的なレベルにするために停止中の炉心の中性子束を加速度的に増大させる目的で、原子炉炉心の核分裂性物質を含む燃料棒の間に人工中性子源が挿入される。この人工中性子源は、中性子束を局所的に増大させることにより、原子炉の出力状態への移行を支援する。
【0007】
中性子源が存在しない場合、ある世代の自由中性子数の、先行世代の自由中性子数に対する比率を「中性子増倍率」(Keff)と呼ぶが、これは原子炉の反応度の目安として用いられる。換言すれば、炉心反応度の目安であるKeffは、中性子生成数の、破壊と損失双方に起因する総中性子減少数に対する比率である。Keffが1より大きい場合、破壊されつつある中性子より生成されつつある中性子の方が多い。同様に、Keffが1より小さい場合、生成されつつある中性子より破壊されつつある中性子の方が多い。Keffが1より小さい場合、原子炉は「未臨界」であると称す。比較的最近まで、臨界が起きる時点を中性子源領域炉外検出器の測定値から直接割り出す方法はなかった。プラント運転者は一般的に、臨界が起きる時点を多数の方法により推定している。臨界の発生を推定する方法の1つは、中性子源領域検出器から得られる逆計数率比を、プラントを臨界にするために使用する状態変化(例えば制御棒引抜き)の関数としてプロットすることである。プラントが臨界になるとき、中性子源領域計数率は無限大に近づき、逆計数率比(ICRR)はゼロになる。原子炉の炉心内で起きる反応の物理特性により、ICRR曲線が直線になることはほとんどない。制御棒位置の変化は、ICRR曲線の形状に有意な影響を与える。したがって、プラントが臨界になる状態のICRR曲線による推定は、大きな不確実性を伴いやすく、米国原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission)および原子力発電運転協会(Institute of Nuclear Power Organization)による重要な精査の対象になっている。
【0008】
最近のことであるが、原子炉が臨界に達する時点を直接予測する方法が考案されている。この方法は、米国特許第6,801,593号に記載されている。この方法では、中性子源領域検出器の出力を監視しながら、炉心の反応度を増加させる。補正係数によってICRRを線形化し、曲線を予測可能に外挿できるようにする。したがって、この方法は、空間補正逆計数率に基づく炉心反応度測定法である。しかし、この方法は、炉心反応度の測定精度が中性子線の測定レベルの精度に依存することを看過している。特に、中性子線の測定レベルの漸増的変化を正確に求めることが非常に重要である。正しく動作する中性子線検出器に起こり得る最大の中性子測定誤差成分は、通常「バックグラウンド信号」と呼ぶものに起因する。バックグラウンド信号は、中性子源に起因しない応答を検出器の測定値に誘発する。このため、炉心反応度変化の測定値に誤差が生じる。中性子数の測定精度を高め、ひいてはICRR法による反応度の測定精度を高めるには、測定結果を反応度変化の算出に用いる前に、測定結果からバックグラウンド信号成分を除去する必要がある。米国特許第7,894,565号より以前は、商用原子力施設に使用されている典型的な中性子検出器の中性子信号測定値に含まれるバックグラウンド信号成分を突き止める直接的な方法はなかった。米国特許第7,894,565号は、そのような方法の1つを提供するが、炉心が臨界に達する時点の推定には依然として改善の余地がある。さらには、炉心が設計通りに作動しているか否か、また、異常が存在するか否かを、炉心が臨界に達する前に判定できる方法に対する需要が存在する。現在、そのような分析は、原子炉が全出力に達する前に首尾よく完了しなければならない低出力炉物理試験プロセスの一環としてではあるが、炉心が臨界に達した後に限り実施することができる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、Keffが1未満の原子炉炉心の大域的炉心反応度バイアスを割り出す方法を提供する。当該方法は、炉心の1つ以上の状態について未臨界中性子束(すなわち中性子検出器の応答)を測定するステップを含む。当該方法はまた、炉心の1つ以上の状態における空間補正された未臨界中性子束予測値(すなわち中性子検出器応答予測値)を計算するステップを含む。当該方法はさらに、中性子検出器応答の測定値と予測値との差を求め、この差を大域的炉心反応度バイアスとして記録する。当該方法の一実施態様において、当該測定ステップは当該中性子源領域検出器からの出力を利用し、当該測定ステップ、当該計算ステップおよび当該差算出ステップは定常状態である複数の未臨界状態(すなわち状態点)の下で行うのが好ましい。定常状態である当該複数の未臨界状態は、それ以外の炉心状態を定常状態に保ちながら制御棒の位置を変化させることによって得るのが望ましい。
【0010】
当該方法はまた、中性子検出器応答の測定値と予測値の回帰統計を使用し、プラントが未臨界状態のときおよびプラントが臨界に達する前に、当該回帰統計に測定値対予測値の定量的判定基準を適用して様々な炉心の異常を検知するステップをさらに含むことができる。当該方法はさらに、中性子束データの測定値を中性子検出器応答の予測値と調和させるために必要な一様な解析的反応度調整量、すなわち系統的な大域的反応度バイアスを割り出すことによって、予測される炉心と実際の炉心(すなわち竣工後の構成または燃料交換後の再構成状態の炉心)との間の反応度バイアスを割り出すステップを含むことができる。
【0011】
当該方法は、当該方法を実施するようにプログラムされた処理装置によって実施することができる。当該方法を実施するための命令は、当該方法を実施する際に処理装置によって利用される機械可読媒体に書き込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0013】
図1】原子力発電システムの一次側の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、タービン発電機(図示せず)に蒸気を供給して駆動し発電を行わせる原子力蒸気供給系12を備えた原子力発電プラント10の一次側を示す。原子力蒸気供給系12の加圧水型原子炉14は、炉心16が圧力容器18内に収容されている。炉心16内の核分裂反応が発生する熱は、炉心を通過する原子炉冷却材(軽水)によって吸収される。加熱された冷却材は、ホットレグ配管20を通って蒸気発生器22へ送られる。原子炉冷却材は、原子炉冷却材ポンプ24により、蒸気発生器22からコールドレグ配管26を通って原子炉14へ戻される。通常、加圧水型原子炉は、ホットレグ20を介して加熱された冷却材が供給される少なくとも2つ、しばしば3つまたは4つの蒸気発生器22を有し、コールドレグ26および原子炉冷却材ポンプ2とともに一次ループを形成する。各一次ループは、タービン発電機に蒸気を供給する。そのようなループの1つを図1に示す。
【0015】
原子炉14に戻った冷却材は、ダウンカマ環状部を通って流下したあと、炉心16内を上向きに流れる。炉心の反応度、したがって原子炉14の出力の制御は、短期的には、炉心に選択的に挿入できる制御棒により行われる。反応度の長期的な調整は、冷却材に溶解させたホウ素等の中性子減速材の濃度を制御して行われる。ホウ素濃度の調整は、冷却材が炉心を循環するため、炉心全体の反応度に一様な影響を及ぼす。一方、制御棒は局所反応度に影響を与えるため、炉心16内の出力分布に軸方向および半径方向の非対称性が発生する。
【0016】
炉心16内の状態は、いくつかの異なるセンサシステムによって監視される。これらのシステムには、原子炉14から漏出する中性子束を測定する炉外検出器システム28が含まれる。炉外検出器システム28は、原子炉の停止時に使用される中性子源領域検出器と、起動時および停止時に使用される中間領域検出器と、原子炉出力がおよそ5%を超えると使用される出力領域検出器とを含む。炉内検出器もまた、一般的に出力運転時に使用されるが、それは本願とは関係がない。
【0017】
推定臨界状態(ECC)は、一般的に、原子炉起動のあらゆる展開の一部として必要とされる。ECCは、原子炉に臨界状態をもたらすと予想される制御棒および一次系の状態(例えば可溶性ホウ素濃度、冷却材温度)の組み合わせである。反応度制御の観点から、ECCは、炉心の実際の臨界状態(すなわち、原子炉に臨界状態をもたらす実際の制御棒位置と一次系の状態の組合せ)と厳密に一致させることに有用性がある。また、プラント技術仕様書は、炉心反応度の測定値が予測値の指定された範囲内に入ることを要求する運転上の制限状態(LCO)を含んでいる。炉心の燃料交換を終えるたびに、出力運転(典型的には定格熱出力の5%超)の開始前に関連する監視を実施し、その後かかる監視を毎月実施するのが一般的である。
【0018】
原子炉炉心の運転に先立ち、核設計予測によって様々なECCの組合せを決定することができる。しかし、原子炉が臨界に達する前にICRRの監視と評価を行うと、ECCのより正確な予想が可能となり、それにより、大域的炉心反応度バイアスの存在を特定することができる。大域的炉心反応度バイアスは、予測された炉心反応度状態と、測定された実際の炉心反応度状態との差として定義される。その後、原子炉が臨界に達する前に、このバイアスを組み込んでECC予想を更新することができる。
【0019】
ICRRの監視は、中性子検出器によるベースライン測定(M)を必要とする停止/起動状態時の一般的な慣行である。反応度を操作して(例えば制御棒の引き抜き)、新たな定常状態(状態点)に達すると、測定値(M)を再度収集する。M/M比が、状態点iのICRRとして定義される。さらに反応度を操作してICRRを更新しながら、基準測定値からどのように変化しているか、そして、原子炉がどのように臨界に近づいているか(または臨界から遠ざかっているか)把握しながら、ICRRを監視することができる。原子炉の起動(すなわち原子炉を臨界状態にする)が意図される場合は、炉心に正の反応度を与える(例えば制御棒の引き抜きや一次系の可溶性ホウ素の希釈)。それにより、ICRRがゼロに近づくことが予想される。
【0020】
米国特許第6,801,593号に記載されているように、炉心内で起きる反応の物理的性質により、ICRRは原子炉が臨界に非常に接近しない限り線形にならない。臨界前試験および臨界へ近づける操作の一環として制御棒の位置が変化すると、ICRR曲線の形状に有意な影響が及ぶ。したがって、米国特許第6,801,593号は、制御棒位置や炉心状態の変化に応じてICRRの測定値を線形化する手段を提供した。
【0021】
米国特許第6,801,593号に記載の方法は、測定パラメータとして、中性子検出器の測定値(M/M)の関数である空間補正ICRR(ICRRSC)に依拠するが、この方法は、空間補正係数(SCF)という形で核設計に依存する。米国特許第6,801,593号は、SCFを静的空間因子の関数として定義し、固定的な中性子源がある場合とない場合につき静的な未臨界計算によって固有値を予測している。
【0022】
ICRRSCは設計予測にも一部依存するので、ICRRSCを主要な測定パラメータとして使用すると、本質的にマスキング効果を受け易く、設計予測の誤差や偏りが測定値にも影響を及ぼす可能性がある。したがって、原子炉物理測定の観点から、測定結果から予測成分を除去して潜在的なマスキング効果を排除することが望ましい。したがって、本発明はまず、ICRR測定値(予測成分のない「純粋な」測定値M/M)とICRR予測値(測定成分のない「純粋な」予測値であるが、測定値MとMの間の、プラント構成または炉心状態の変化により生じたかもしれないあらゆる空間効果を勘案している)との間の線形関係を定義する。
【0023】
複数のICRR測定値を収集後、各状態点におけるICRRの測定値を予測値と比較することができる。次に、挙動を理想的にする、各状態点のICRR予測値に対する一様な反応度調整量を割り出すことにより、大域的反応度バイアスを定量化することができる。それは、明確には、ICRRの測定値と予測値との間の直線当てはめを行い、その当てはめを行う際にy切片をゼロにすることである。基本的に、予測値を測定値と一致するように調整し、この調整量を用いて、予測値を将来の展開(例えば臨界に接近する最終局面)に対して補正する。
【0024】
(1/M)理論は実際上、中性子検出器応答測定値のベースラインまたは基準状態からの変化を監視することによって表されるので、式(1)は原子炉運転員にとってなじみのある関係式である。
【数1】
ここに、MとMはそれぞれ、基準状態点の状態および後続の状態点の状態iにおける中性子検出器応答であり、kとkはそれぞれ、基準状態点の状態および後続の状態点の状態iにおけるKeff値である。
【0025】
項を整理すると新たに式(2)が得られる。
【数2】
この式の左辺は、測定された計数率の比のみから成る(空間補正されていない「未処理の」ICRR測定値、I、i)。式の右辺は、測定時の制御棒位置または一次系の状態の変化に起因する空間的効果を勘案した核設計計算によって予測できる炉心の固有値から成る(ICRR予測値、I、i)。このような測定値と予測値の分離は、潜在的なマスキング効果を排除するうえで望ましい。数式は次のように簡略化される。
【数3】
式(3)の真の回帰式は次のようになる。
【数4】
これによって推定される真の回帰式(式(5))を、プラントの出力運転に先立って炉心設計を確認する基礎として使用することができる。具体的には、ICRR測定値の漸増的および累計的な変化を、原子炉停止時に得た設計予測値と比較することができる。この結果の評価はマスキング効果の影響を受けず、測定値と予測値が所定の許容限界内で一致すれば、炉心が設計通りの挙動を示していることが実証される。
【数5】
理想的には、完成時の炉心の測定値は設計時の炉心の予測値と一致するので、式(4)においてβ=1およびβ=0となる。しかし、実際にそうなる可能性は低く、ICRR応答の測定値と予想値の直線当てはめには、些細ではない差異が幾分存在する可能性が高い。その原因が何にせよ、系統的な反応度バイアスを定量化して臨界の予想および監視の目的に利用できるようにすると特に有用である。
【0026】
式(2)に戻って、中性子検出器の基準測定値を規格化定数(C)として再定義し、項を整理すると次式が得られる。
【数6】
規格化定数と予測項を組み合わせて、前述のように空間的効果も勘案した状態点i(P)における検出器応答予想値とすることにより、式(6)を次のように簡略化し、真の回帰式として示すことができる。
【数7】
大域的バイアスを定量化するために、一揃いの中性子検出器測定値をそれに対応する予測値に当てはめる。それによって推定される真の回帰式は、式(8)で定義される。
【数8】
理想的な状況では、中性子検出器応答の測定値と予測値の関係式のy切片はゼロである。回帰推定式が線形で、データ点が厳密に当てはめられると仮定すると、式(8)で定義される直線当てはめにおいてy切片(b)をゼロにするために必要な反応度の調整量を求めることにより、測定値と予測値の間の大域的反応度バイアスを推定することができる。y切片(b)がゼロの直線当てはめをもたらす、すべての状態点にわたる一様な反応度調整量(P値の変化によって与えられる)が、炉心反応度バイアスの推定値である。
【数9】
【0027】
したがって本発明は、各状態点の状態において、未処理の未臨界中性子束測定値を対応する予測値と直接比較する。これは、結果を評価する前に測定データの補正を必要とする従来の発電炉物理試験の方法論とは異なる。本方法には、測定値と予測値を完全に分離することでマスキング効果を防止する(すなわち測定値と予測値の相互依存性を排除する)利点がある。
【0028】
本発明はさらに、プラントが未臨界状態のときおよびプラントが臨界に達する前に様々な炉心の異常を検知するために、中性子検出器の未処理の測定値と対応する予測値の回帰統計、およびそのような測定値対予測値の定量的判定基準を用いる。高温待機試験時に異常な炉心状態を検知でき、臨界へ最終的に接近する時にも異常な炉心状態を予想できることから、この方法は追加の安全対策を提供する利点がある。
【0029】
本発明はまた、測定された中性子束データを予測値と調和させるために必要な一様な解析的反応度調整量(系統的な大域的反応度バイアス)を割り出すことによって、予測される炉心と実際の炉心との間の反応度バイアスを決定する方法を使用する。この方法は、臨界状態の原子炉で測定される反応度に基づいて反応度の差を求める従来の発電炉物理試験の方法論とは異なる。この方法には、反応度管理指針および/または事故防止手段として、未臨界状態における異常な反応度の徴候/挙動を特定する手段を提供できる利点がある。さらに、この方法によって、プラントの安全性解析に用いる予測モデルにおいて反応度バイアスを直接相殺することができる。
【0030】
この方法を適用するには、中性子検出器の測定値と、既存の炉心設計コードによって提供され、未臨界中性子束分布を勘案した対応する炉心状態予測値とが必要である。この方法の基本的な用途は、炉心の未臨界状態を監視および予想することである。関連する用途には、負の反応度状態または停止余裕の監視、ならびにプラント起動前の推定臨界状態の予測が含まれる。未臨界物理試験に相当するこの方法では、監視機能と予想機能を統合して最終的に一連の測定値対予測値の比較を行うことにより、完成時の炉心が燃料交換後に設計通りに運転されていることを確認する。そのような結果は、従来は原子炉が臨界に達した後の低出力試験でしか得られなかった。
【0031】
未臨界炉心を安全かつ効率的に運転するために必要な重要な情報の一つは、炉心の負の反応度である。これは炉心の未臨界度であり、停止余裕とも呼ばれる。本願に記載の方法論が開発される前は、この情報は推測されるだけで、直接測定されていなかった。
【0032】
この方法の基本的な用途は、対象となる任意の静的構成(すなわち制御棒位置と一次系の状態との定常状態の組み合わせ)について、中性子検出器信号測定値と先進的手法による未臨界炉心予想値を用いて、未臨界炉心の負の反応度を予想および監視することである。プラント起動時の未臨界状態での一連の測定値対予測値の比較が、この方法論の統合的な適用の基礎を成す。すなわち、多数の未臨界の定常状態(各々の状態を状態点と呼ぶ)について、測定値と予測値を比較する。
【0033】
従来の低出力物理試験が動的な臨界状態で実施されるのに対し、本願の方法は、静的な未臨界状態で実施される。この方法は、低出力物理試験の際に実施する手順の単なる延長線上にあるものではないという意味で、革新的である。しかも、この方法によって、低出力物理試験と同じ目的を果たすことができる。炉心が設計通りに動作することを確証する手段として、燃料交換後、通常運転に復帰する前に試験を行い、炉心の運転特性が設計予測と整合しているか判断する。
【0034】
この方法を実行することにより、低出力物理試験と同じ目的を達成しつつ、低出力物理試験よりも優れた固有の安全性、人的パフォーマンスおよび試験パフォーマンスが得られる。静的な未臨界状態で測定を行うことにより、プラントの安全性と反応度の管理が本質的に強化される。プラントの運転に対して低頻度で実施される試験とその後の展開および試験上の特別の例外措置が必要になるのとは対照的に、この方法は、定常的なプラントの起動作業にシームレスに統合することができ、その結果、試験の信頼性と人的パフォーマンスが向上する。したがって、この方法に基づく炉心設計の検証により、本質的にあらゆるタイプのプラントが幅広い恩恵に浴する。
【0035】
本願に記載の方法は、コンピュータシステムのプロセッサもしくは処理デバイス、またはその機能を遂行する他の手段によって実行できることを理解されたい。したがって、そのような方法または方法の要素を実行するために必要な命令が直接プログラムされたプロセッサ、またはアクセス先の機械可読媒体にかかる命令がプログラムされたプロセッサが、そのような方法または方法の要素を実行するための手段となる。また、本願に記載の装置実施態様の要素は、本発明を実施する目的で当該要素によって実行される機能を実行する手段の一例である。
【0036】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。
図1