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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】顕微鏡検査および収差補正のための装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20230706BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
G02B21/06
G01N21/64 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018567870
(86)(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2017066136
(87)【国際公開番号】W WO2018002225
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】102016212020.4
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ジーベンモルゲン、イェルク
(72)【発明者】
【氏名】リッペルト、ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】カルクブレナー、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】クレッペ、インゴ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォレシェンスキー、ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】デーゲン、アルトゥル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルト、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ウィッティヒ、ラース-クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ゲレス、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シンガー、ヴォルフガング
【合議体】
【審判長】瀬川 勝久
【審判官】山村 浩
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/054474(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/071363(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102010039746(DE,A1)
【文献】国際公開第2015/182213(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/096522(WO,A1)
【文献】特開2000-58436(JP,A)
【文献】特開2008-276070(JP,A)
【文献】特開2009-162974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B19/00-21/00
G02B21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡検査のための装置(1)であって、
標本面(4)の標本領域における標本キャリア(7)上に配置された標本(5)を照明光路を介して照明するための照明対物レンズ(2)を有する照明光学ユニットと、
ここで、前記照明対物レンズ(2)の光軸(A1)は、前記標本面(4)の法線に対してゼロとは異なる照明角度(α1)を含む平面内にあり、該平面に関して前記標本キャリア(7)は整列されており、照明は前記平面内で実施され、
検出光路内に検出対物レンズ(3)を有する検出光学ユニットと、ここで、該検出光学ユニットの光軸(A2)は、前記標本面(4)の法線に対してゼロとは異なる検出角度(α2)を含み、
前記照明対物レンズ(2)は、ビーム経路内に配置されるか、または該ビーム経路内に導入可能である照明補正素子(2KE)を含み、かつ/または
前記検出対物レンズ(3)は、ビーム経路内に配置されるか、または該ビーム経路内に導入可能である検出補正素子(3KE)を含む、装置(1)において、
前記標本キャリア(7)と対物レンズ(2、3)との間にメニスカスレンズ(10)が設けられ、該メニスカスレンズは照明ビーム経路と検出ビーム経路の両方に配置されており、
前記メニスカスレンズ(10)は、検出されるべき放射および/または標本を照明するための放射が異なる屈折率を有する媒体を通過することによって生じるとともに、前記メニスカスレンズ(10)によって補正することが可能な収差を補正するように構成されており、前記メニスカスレンズ(10)は、同じ側に湾曲している2つのレンズ面を有し、前記2つのレンズ面は同じ中心点を有しており、
前記照明補正素子(2KE)および/または前記検出補正素子(3KE)は、放射が前記標本キャリア(7)を斜めに通過する間に発生するとともに、前記メニスカスレンズ(10)によって補正することが可能でない残りの収差を補正するためのものであり、その収差の補正が前記標本キャリア(7)の厚さに適合するように変位可能に取り付けられていることを特徴とする装置(1)。
【請求項2】
照明目的のために使用される放射は、光シート(6)に成形され、かつ前記標本領域に向けられ、前記照明対物レンズ(2)の光軸(A1)および前記光シート(6)は、前記標本面(4)の法線とゼロとは異なる照明角度(α1)を含む平面内にあることを特徴とする請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記照明補正素子(2KE)および/または前記検出補正素子(3KE)は、アルバレスマニピュレータ(12)であることを特徴とする請求項に記載の装置(1)。
【請求項4】
所定の厚さを有する所定の材料からなる少なくとも1つの層を有する分離層システムが、標本(5)が配置されている媒体(8)を前記照明対物レンズ(2)および前記検出対物レンズ(3)から分離し、前記標本面(4)に対して平行に配置された基部によって、前記分離層システムが、少なくとも前記照明対物レンズ(2)および前記検出対物レンズ(3)にそれぞれ照明および検出目的でアクセス可能な領域において液浸媒体(18)と接触していることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の装置(1)を備える顕微鏡(0)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の前提による顕微鏡検査のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光シート顕微鏡の主な用途の一つは、数百μmから数ミリメータまでの大きさを有する中程度のサイズの標本、例えば生物の画像化にある。原則として、これらの標本はアガロースに包埋され、かつガラスキャピラリー内に配置されている。標本を検査するために、水で満たされた標本チャンバにガラスキャピラリーが注入される。標本を含むアガロースがキャピラリーからわずかに押し出され、光シートによって照明される。標本において励起され、かつ標本から放射される蛍光は、光シートに対して垂直であり、かつ光シートの光学ユニット(=照明光学ユニット、照明対物レンズ)に対しても垂直である検出対物レンズによって検出器、特にカメラ上に結像される。
【0003】
従来技術によれば、光シート顕微鏡検査用の顕微鏡0のレイアウト(SPIMレイアウト;単一平面照明顕微鏡検査)は、第1の光軸A1を有する照明対物レンズ2と、第2の光軸A2を有する検出対物レンズ3(SPIM対物レンズとも呼ばれる)とを含む。照明対物レンズ2および検出対物レンズ3は、それぞれ、標本面4に対して45°の角度α1またはα2で、互いに直角に、標本面4上に上方から指向されている(図1a参照)。基準面としても使用される標本面4内に設けられた標本領域に配置される標本5は、例えばペトリ皿として形成された標本ホルダ7の基部上に配置されている。標本ホルダ7は、媒体8、例えば水で充填され、2つのSPIM対物レンズ2、3は光シート顕微鏡検査の適用中に媒体8に浸積される(図示せず)。標本面4は、デカルト座標系のX軸XおよびY軸Yに広がる平面XY内に延在する。第1の光軸A1および第2の光軸A2は、デカルト座標系のY軸YおよびZ軸Zに広がる平面YZ内に延伸される。
【0004】
図1bは、照明対物レンズ2および検出対物レンズ3が標本面4の下方に配置されている従来技術による倒立配置の照明対物レンズ2および検出対物レンズ3を有する顕微鏡0を概略的に示す。この場合も、角度α1およびα2はそれぞれ45°である。
【0005】
このアプローチは、薄い光シート6(図1aも参照)が照明対物レンズ2によって形成され得るので、軸方向における高解像度の利点を提供する。より高い分解能のために、より小さな標本5を検査することができる。さらに、厄介なバックグラウンド蛍光が著しく減少し、その結果として信号対ノイズ比が改善される。
【0006】
例えばマルチウェルプレート等の標準標本容器におけるより簡単な標本準備を容易にするために、45°の構成を維持するが、2つのSPIM対物レンズ2、3を倒立配置で標本ホルダ7の透明な基部を介して下方から標本面4に向けることが可能である(図1b)。この構成では、光軸A1、A2に対して傾斜し、かつカバーガラスの形で設けられる標本ホルダ7によって生じる収差を特別な光学素子を用いて補正する必要がある。標本面4に配置された標本5は標本ホルダ7の基部を介して照明され、標本5の励起蛍光が検出される。例えばマルチウェルプレート、ペトリ皿および/または対象物支持体などの標本ホルダ7を使用することが可能であり、特にハイスループットスクリーニングの場合には、標本5の汚染を回避することができる。
【0007】
例えば、特許文献1で既知であるように、アルバレスマニピュレータ(Alvarez-Manipulators)12のアルバレスプレート(図1b;アルバレスプレートは簡略化された形で示されている)が照明対物レンズ2および/または検出対物レンズ3のビーム経路に配置される場合、さらなる技術的困難が生じる。アルバレスプレートは、正確には標本ホルダ7、例えば、カバーガラスと個々の対物レンズ2、3の光軸A1、A2との間の設定角度に起因して発生する収差を補正するように具体化されている。より低い結像品質をもたらす望ましくない収差は、角度のわずかな偏差(例えば、<0.1)に起因して既に発生している。したがって、カバーガラスは、たとえば、角度偏差が許容範囲内に収まるように、実験開始前に調整する必要がある。さらに、対物レンズ2、3、または場合によっては設けられる追加のレンズとカバーガラスとの間の距離も、標本5または標本5の結像領域が検出対物レンズ3の結像面BEに収まるように、角度とともに調整可能であると有用である。
【0008】
特許文献2には、物体キャリアを通る光線の斜めの通過に起因して発生する誤差を修正するのに役立つ仮想のリレーが開示されている。仮想リレーは1.2を超える高い開口数を有しているので、光学系内での実験ごとに異なる可能性があるわずかな偏差の結果として、顕著な結像収差が発生する可能性がある。これらの偏差は、とりわけ、カバーガラスの厚さの変動、温度の変化、屈折率の差、カバーガラスの傾き、またはカバーガラスのウェッジエラー(wedge error)に基づき得る。
【0009】
これらの収差を補正するための多くの選択肢がある。したがって、特許文献3および特許文献4には、検出対物レンズ内のアルバレスマニピュレータの構成が記載されている。この目的のために、標本と検出対物レンズとの間に配置されるか、または対物レンズの前部レンズを代表する自由形状補正レンズが使用される。カバーガラスを介した照明および検出放射の斜め通過の収差を補正する顕微鏡対物レンズの説明がある。
【0010】
特許文献5によれば、収差を補正するためのスライドレンズを対物レンズに設けることができる。特許文献6に同様に記載されているさらなる選択肢は、対物レンズの外側の周波数空間内(例えば、瞳内)にアダプティブミラーまたは空間光変調器(SLM)を配置することである。
【0011】
カバーガラスによって発生する顕微鏡の収差を補正するためのさらなる可能性は、非特許文献1から既知である。倒立SPIM顕微鏡はウォータープリズムを有し、それによってカバーガラスを介した検出光の斜めの通過の結果として発生する収差が部分的に補償される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第3305294号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2013 112 600号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2013 112 595号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2014 104 977号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2013 107 297号明細書
【文献】独国特許出願公開第10 2013 170 297号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】マクゴーティ他(McGorty et al.2015年、「従来型マウント標本用のオープントップ選択的平面照明顕微鏡」、オプティクスエキスプレス23、16142~16153頁(McGorty et al., 2015: Open-top selective plane illumination microscope for conventionally mounted specimens; OPTICS EXPRESS 23: 16142 - 16153)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特に光屈折層を介した照明放射および検出放射の斜めの通過に生じる収差を補正するための、従来技術よりも改良された選択肢を提案するという目的に基づく。特に、その意図は、顕微鏡検査のための改良された装置、そして特に、この場合、光シート顕微鏡検査のための装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1に記載の顕微鏡検査用の装置によって達成される。有利な構成および展開は従属請求項の主題である。
この目的は顕微鏡検査のための装置によって達成される。この装置は、標本領域における標本キャリア上に位置する標本を照明光路を介して照明するための照明対物レンズを有する照明光学ユニットを含み、照明対物レンズの光軸は基準面の法線とに対してゼロとは異なる角度(照明角度)を含む平面内にあり、基準面に関して標本キャリアは整列されている。照明対物レンズによる照明は、前述の平面内で実施される。さらに、検出光路内に検出対物レンズを有する検出光学ユニットが設けられる。検出対物レンズの光軸は、基準面の法線に対してゼロとは異なる角度(検出角度)を含む。検出対物レンズは、ビーム経路内に配置されるか、またはビーム経路内に導入可能である検出補正素子を含み、かつ/または照明対物レンズは、ビーム経路内に配置されるか、またはビーム経路内に導入可能な照明補正素子を含む。
【0016】
本発明によれば、標本キャリアと2つの対物レンズとの間にメニスカスレンズが設けられ、前記メニスカスレンズは照明ビーム経路と検出ビーム経路の両方に配置されている。メニスカスレンズは、検出されるべき放射、特に光、および/または標本を照明するための放射が異なる屈折率を有する媒体を通過することによって生じる収差を補正するように構成される。照明補正素子または検出補正素子は、残りの収差を補正するように構成されている。基準面とも呼ばれる標本面では、標本は、そのために設けられた領域または標本領域に配置されるか、または標本面に配置することができる。
【0017】
照明は、点状、線状、リング状または平面状に、あるいは照明領域全体に亘って自由に選択可能な形状で実施することができる。説明を簡単にする目的で、説明が照明補正素子および検出補正素子の両方に言及する場合、以下では、1つの補正素子または複数の補正素子またはその両方に対しても言及する。
【0018】
残りの収差は、これらが照明放射および/または検出放射であるかにかかわらず、放射の斜めの通過による収差の不完全な補正から生じる(残留)結像収差であり得る。さらに、残りの収差は、例えば、カバーガラスの厚さの変動、温度変化、放射が通過する層の屈折率の差、カバーガラスの傾き、またはカバーガラスのウェッジ誤差により発生する誤差である。これらの残りの収差は、補正されるか、または少なくとも低減される。一例として、カバーガラスは、標本容器の基部またはガラスとは異なる材料で作成された対象物キャリアと同等とされるべきである。
【0019】
装置は、所定の材料から所定の厚さで作成された少なくとも1つの層を有する分離層システムを有することができる。少なくとも1つの層、例えばカバーガラスは、標本が配置されている媒体を照明対物レンズおよび検出対物レンズから分離する。基準面に対して平行に位置合わせされた基部によって、分離層システムは、少なくともそれぞれ照明および検出の目的のための照明対物レンズおよび検出対物レンズにアクセス可能な領域において、媒体および/または液浸媒体と接触している。媒体および液浸媒体は、分離層システムによって互いに分離されている。
【0020】
収差および残りの収差は、所定の範囲の照明角度または検出角度に関して、および/または所定の範囲の分離層システムの少なくとも1つの層の厚さに関して低減可能である。
メニスカスレンズは、同じ側に湾曲している2つのレンズ面を有するレンズである。有利には、両方のレンズ面は同じ中心点を有する。メニスカスレンズの2つのレンズ面は、それぞれの場合において異なる屈折率を有する、異なる媒体、例えば液浸媒体および/または空気中に配置することができる。先行技術から既知の仮想リレーと比較して、かつ同様に以前からすでに既知の自由形状補正レンズと比較して、メニスカスレンズは、自由曲面の複雑な製作は不要であるため、より簡単でより費用効果的な方法で製造できるという点で有利である。
【0021】
メニスカスレンズは静止した状態で保持することができる。焦点合わせは、標本を標本キャリアと共に移動させることによって、または対物レンズをその光軸に沿って移動させることによって実施される。
【0022】
メニスカスレンズを使用することにより、異なる屈折率を有する2つの媒体または層の間の照明放射および/または検出放射の進行中に発生する誤差が補正されるか、または補正可能である。対照的に、斜めの通過による収差は補正されない。これらの残りの収差は、照明補正素子および/または検出補正素子(補正素子)によって、対物レンズの外側および/または対物レンズ内で補正することができる。
【0023】
光シート顕微鏡検査のための装置を実現するために、照明目的のために使用される放射は光シートに形成され、そして標本領域に向けられる。別の実施形態では、例えば平面内で移動される照明放射のビームによる照明放射によって、光シート(動的光シート)が標本領域内に生成される。ここで、照明対物レンズおよび光シートの光軸は、基準平面の法線に対してゼロとは異なる照明角度を含む平面内にある。
【0024】
装置の一実施形態では、光学補正素子は、検出対物レンズおよび/または照明対物レンズの瞳内に配置される。簡単にするために、照明対物レンズおよび検出対物レンズは対物レンズとも呼ばれる。
【0025】
瞳内、または瞳に可能な限り近接した光学補正素子の配置により、望ましくない視野依存効果が有利に回避される。瞳内では、補正素子は全ての視野点に対して同じ効果を有する。瞳と個々の光学補正素子との間の距離が増加するにつれて、より多くの視野依存性が効力を生じ、したがって、距離が増大するにつれて望ましくない視野依存性効果がより強く顕著になる。
【0026】
本発明による装置の可能な実施形態では、瞳が、例えば検出対物レンズまたは照明対物レンズのチューブレンズの被写界深度内に位置する場合、光学補正素子は、瞳の近くに配置される。
【0027】
光照度補正素子および光検出補正素子の両方は、静的補正素子または適応補正素子として構成することができる。
例として、静的補正素子は少なくとも1つの位相板または自由形状レンズである。自由曲面レンズは必ずしも瞳内に配置される必要はなく、例えば個々の対物レンズの前面レンズとすることができる。位相板などの静的補正素子は、収差の静的成分の補正をもたらす。
【0028】
セットアップに関連する残りの収差および標本誘起の収差を補償するために、装置の照明および検出ビーム経路に適応補正素子を収容することが可能である。収差の動的成分または変動成分は、少なくとも1つの適応補正素子によって補正することができ、適応補正素子は、単一または複数の対物レンズの内部または外部に配置されている。その補正パワーに関して、適応補正素子は調整可能で適応的な構成を有する。その結果、収差、特に残りの収差の動的補正が有利に促進される。
【0029】
静的補正素子および適応補正素子は、本発明による装置において組み合わせることができる。従って、静的補正素子は静的収差を補正するための位相板であり、適応補正素子は、装置の1つの可能な実施形態において照明ビーム経路および/または検出ビーム経路に配置される。
【0030】
適応補正素子が各対物レンズに割り当てられる場合、または各対物レンズが適応補正素子を有する場合、一方の適応補正素子は個別の対物レンズ内に設けることができ、他方の適応補正素子は個別の対物レンズの外側に設けることができる。
【0031】
便宜的には、適応補正素子は、適応補正素子の有効口径と、1つの可変適応補正素子または複数の可変適応補正素子のサイズとが、瞳面における瞳のサイズに良好に適合し、かつ収差を補償するために所望の波面変形を設定すること、および/または収差を補償するために必要な位相偏移を提供することが可能となるように装置の瞳面に配置される。例として、適応補正素子の適応可能性およびアクセス可能性は、照明または検出対物レンズの対物レンズ瞳を適応補正素子上に結像する瞳リレー光学ユニットによって得られる。十分に小さい適応補正素子を対物レンズ内に直接または対物レンズの直接下流に配置することもできる。
【0032】
例として、アダプティブミラーまたは少なくとも1つの空間光変調器(SLM)は適応補正素子である。SLMは、反射型SLMまたは透過型SLMとして構成することができる。
【0033】
さらなる実施形態では、適応補正素子は、アルバレスマニピュレータ、少なくとも1つのアダプティブミラー、少なくとも1つの傾斜レンズ、少なくとも1つのスライドレンズ、少なくとも1つの変形可能な光学レンズ、またはそれらの組み合わせである。
【0034】
装置のさらなる実施形態では、適応補正素子は空間光変調器であり、発生する収差を部分的に補償するためのシリンドリカルレンズは、対物レンズのうちの1つのビーム経路、特に検出ビーム経路内に設けられる。
【0035】
さらに、適応補正素子をアダプティブミラーとし、発生する非点収差を部分的に補正するためのシリンドリカルレンズを一方の対物レンズのビーム経路内、特に検出ビーム経路内に設けることが可能である。
【0036】
アダプティブミラーを有する実施形態では、対物レンズの瞳は、照明対物レンズであろうと検出対物レンズであろうと、テレスコープによってアダプティブミラー上に結像される。アダプティブミラーは、アダプティブミラーが発生する収差を補正し減少させるように変形される。検出ビーム経路内に配置されたさらなる光学レンズによって、カメラセンサ上に実質的にまたは完全に収差のない画像を生成することができる。
【0037】
適応補正素子が反射型SLMによって実現される場合、対物レンズの瞳はテレスコープによってSLM上に結像される。位相パターンがSLM上に表示され、発生する収差が位相パターンの影響によって補正され低減される。この場合もやはり、検出ビーム経路内に配置されたさらなる光学レンズによって、実質的にまたは完全に収差のない画像をカメラセンサ上に生成することができる。
【0038】
さらなる実施形態では、SLMはシリンドリカルレンズと組み合わされる。例として、シリンドリカルレンズは、発生する収差の部分的な補正を実行するために対物レンズの瞳内で使用される。対物レンズの瞳はテレスコープによって反射型SLM上に結像される。位相パターンがSLM上に表示され、その位相パターンの光学効果によって残りの残留収差が補正され低減される。実質的にまたは完全に収差のない画像が、第3のレンズを介してカメラセンサ上に生成される。
【0039】
適応補正素子は、照明ビーム経路および/または検出ビーム経路内に配置することができる。
さらに、収差も対物レンズ内で補正することができる。
【0040】
この目的のために、例えば、追加の瞳が対物レンズ内に形成され、適応補正素子は発生する収差を補正するためにその瞳の位置に配置される。ここでも、収差の部分的な補正を実行するためにシリンドリカルレンズを使用することができる。
【0041】
本発明による装置は、例えばカバーガラスまたはペトリ皿のベースのような光学的に透明な層の形態において、標本ホルダを介した照明および検出放射の斜めの通過を伴う倒立型光学顕微鏡に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1aは、従来技術による光シート顕微鏡の装置を示す概略図であり、図1bは、従来技術による光シートと顕微鏡の倒立構成を示す概略図である。
図2】本発明による光シート顕微鏡の装置の第1の例示的な実施形態を示す概略図である。
図3】本発明による光シート顕微鏡の装置の第2の例示的な実施形態を示す概略図である。
図4】本発明による光シート学顕微鏡の装置の第3の例示的な実施形態を示す概略図である。
図5】本発明による光シート顕微鏡の装置の第4の例示的な実施形態を示す概略図である。
図6】顕微鏡の本発明による装置のうちの1つで使用するための対物レンズの例示的実施形態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、例示的な実施形態および図面に基づいて以下により詳細に説明される。
図1aおよび図1bは、本説明の前提部分において既により詳細に説明されている。例示的な実施形態は概略的に示されている。同一の技術的構成要素には同一の参照符号が付されている。
【0044】
共有メニスカスレンズ10(図2)および照明対物レンズ2内の少なくとも1つの照明補正素子2KEおよび/または検出対物レンズ3内の少なくとも1つの検出補正素子3KEは、標本または基準面4に対して斜めに配置された照明対物レンズ2と、基準面4に対して同様に斜めに配置された検出対物レンズ3とに加えて、顕微鏡検査、特に光シート顕微鏡検査用の本発明による装置の必須素子として設けられている。
【0045】
以下の例示的な実施形態は、倒立顕微鏡0に基づいて例示的に示されており、さらなる実施形態では、正立顕微鏡0としても具現化され得る。
補正素子2KE、3KEおよびメニスカスレンズ10を有する光シート顕微鏡検査(象徴的にのみ示されている)用に具現化された倒立顕微鏡0の装置1の例示的な実施形態が図2に示されている。基準面4に垂直な法線Bと第1の光軸A1および第2の光軸A2との間の角度α1およびα2は、それぞれ45°である。いずれの場合も、アルバレスマニピュレータ12の2つのアルバレスプレートが、適応補正素子2KE、3KEとして、照明放射BSのビーム経路および検出放射DSのビーム経路に配置されている。補正素子2KE、3KEは、照明放射BSが標本ホルダ7の基部を介して斜めに通過することによって発生し得る収差を補正する役割を有する。メニスカスレンズ10は、照明放射BSの空気から液浸媒体18への、そして媒体8への進行、および検出放射DSの媒体8から液浸媒体18への、そして空気への進行を補助する。
【0046】
標本ホルダ7が標本ステージ11上に保持されている。標本ステージ11自体は、詳細には図示されていない駆動装置によって、X軸XおよびY軸Yに広がるXY平面内で制御された方法で調整可能である。
【0047】
照明対物レンズ2および検出対物レンズ3は、それぞれ第1の光軸A1に沿っておよび第2の光軸A2に沿って、それぞれこの場合ピエゾ駆動装置として具現化されている対物レンズ駆動装置14によって、制御された方法で調整可能である。
【0048】
照明放射BSは、レーザーモジュール15によって提供され、かつビーム整形ユニット16によって整形される。ビーム整形ユニット16は、例えば光学ユニットであり、そのビーム整形ユニット16によって、供給される照明放射BSが形成、例えばコリメートされる。
【0049】
スキャナ17はビーム整形ユニット16の下流に設けられ、整形された照明放射BSは前記スキャナ(XYスキャナ)によって2つの方向に制御された方法で偏向可能である。
スキャナ17の下流において、照明対物レンズ2は第1の光軸A1上に配置されている。スキャナ17によって偏向された照明放射BSは照明対物レンズ2に到達し、照明放射BSは照明対物レンズ2によって成形され、かつ/または集束される。光シート6は、スキャナ17による照明放射BSの適切な偏向によって、標本5が配置されている標本領域内で生成される。
【0050】
標本5から及び標本領域から到来する検出放射DSは、第2の光軸A2に沿って検出器19に向けられ、前記検出器によって捕捉することができる。
標本ステージ11、対物レンズ駆動装置14、補正素子2KE、3KE、レーザーモジュール15、ビーム整形ユニット16、スキャナ17および/または検出器19を作動させる目的で制御ユニット13が設けられている。前記制御ユニット(示されているのみ)は、データ伝送に適した接続で作動されるべき構成要素にリンクされている。
【0051】
さらなる実施形態では、制御ユニット13はさらに、測定値を捕捉、保存および/または評価するように構成される。顕微鏡0のさらなる構成要素およびユニットは、制御ユニット13によって作動可能であり得、かつ/または制御ユニット13によって測定値が取得され評価され得る。
【0052】
説明のために、互いに直交する軸を有する2つの座標系が以下で使用される。第1座標系は、X軸X、Y軸YおよびZ軸Zを有する全体の配置の座標系である。理想的には、標本ホルダ7、特にその基部は、X軸XおよびY軸Yによって広がるXY平面と平行に位置合わせされる。第2の座標系は、X軸X、y軸y‘およびz軸z‘を有する検出器19の座標系である。例えば、結像面BEから検出器19上への像の画像化は、座標X及びy‘を有する。X軸Xは、両方の座標系において図面の図の平面に対して直交するように向けられている。他の2つの軸Yおよびy‘とZおよびz‘はそれぞれ、X軸Xを中心とする回転によって互いに重ね合わせることができる。
【0053】
照明放射BSが標本ホルダ7を斜めに通過する間に発生する収差は、標本ホルダ7の厚さに依存する。このため、例えば補正素子2KE、3KEは、補正素子12を互いに対して変位させることによって収差補正を厚さに適合させるために、照明対物レンズ2および/または検出対物レンズ3内に変位可能に取り付けられている。
【0054】
標本ホルダ7の基部は、標本5が配置されている媒体8を照明対物レンズ2および検出対物レンズ3から分離する、所定の厚さを有する所定の材料からなる少なくとも1つの層を有する分離層システムを代表する。標本面4と平行に整列された基部によって、分離層システムは、少なくとも照明および検出目的のために照明対物レンズ2および検出対物レンズ3にそれぞれアクセス可能な領域において、液浸媒体18と接触している。
【0055】
図3に示され、その基本設計に関して図2に示された例示的な実施形態に対応する装置1の第2の例示的な実施形態では、照明対物レンズ2は、照明補正素子2KEとして再びアルバレスマニピュレータ12を有する。検出放射DSがSLMまたはアダプティブミラーの形態の検出補正素子3KE上に向けられる光学レンズ20が、検出放射DSのビーム経路内に設けられている。検出補正素子3KEによって反射された検出放射DSは、検出器19に向けられ、検出器19によって捕捉される。
【0056】
さらなる実施形態の選択肢では、SLMは透過型SLMとして具現化される。
図4は、装置1の第3の例示的な実施形態を示し、ここでは、発生する非点収差の部分的な補償のための役割を有するシリンドリカルレンズ9が、検出放射DSのビーム経路において光学レンズ20の上流に配置されている。検出補正素子3KEは、SLMまたはアダプティブミラーの形態で実施される。
【0057】
本発明による装置1のさらなる例示的な実施形態が図5に示されている。照明対物レンズ2は照明補正素子2KEを有していない。2つの検出補正素子3KEは、検出対物レンズ3に組み込まれており、かつ反射型SLMおよび/またはアダプティブミラーとして構成されている。
【0058】
顕微鏡0の本発明による装置1(図2図5を参照)で使用するための対物レンズ2、3の例示的な実施形態を図6に概略的に示す。
例示的にのみ示されている光学レンズ20に加えて、SLMとして具現化された作動可能な補正素子2KE/3KEがビーム経路内に配置されている。作動は制御ユニット13によって実施される。
【0059】
装置1または対物レンズ2、3のさらなる実施形態では、残りの収差を補償または少なくとも低減するために、ビーム経路に対して半径方向に変位可能なスライドレンズを設けることができる。
【0060】
説明の明確さを向上させるために、図6に示す装置1には1つの対物レンズ2、3のみが示されている。
【符号の説明】
【0061】
0…顕微鏡、1…装置、2…照明対物レンズ、2KE…照明補正素子、3…検出対物レンズ、3KE…検出補正素子、4…標本面(=基準面)、5…標本、6…光シート、7…標本ホルダ、8…媒体、9…シリンドリカルレンズ、10…メニスカスレンズ、11…標本ステージ、12…アルバレスマニピュレータ、13…制御ユニット、14…対物レンズ駆動装置、15…レーザーモジュール、16…ビーム整形ユニット、17…XYスキャナ、18…液浸媒体、19…検出器、20…光学レンズ、A1…第1の光軸(照明対物レンズ2の光軸)、A2…第2の光軸(検出対物レンズ3の光軸)、α1…角度/照明角度、α2…角度/検出角度、B…法線、BE…結像面、BS…照明放射、DS…検出放射。
図1
図2
図3
図4
図5
図6