(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】スチレン系透明難燃性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20230706BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20230706BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
C08L25/04
C08K5/3492
C08L83/06
(21)【出願番号】P 2019009916
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】今野 勝典
(72)【発明者】
【氏名】井上 修治
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宝晃
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/178985(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/178983(WO,A1)
【文献】特開2002-003688(JP,A)
【文献】特開2013-107979(JP,A)
【文献】特開2001-106860(JP,A)
【文献】特表2020-515672(JP,A)
【文献】特表2020-512457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 3/00- 3/28
C08J 99/00
B29C 45/00- 45/24
B29C 45/46- 45/63
B29C 45/70- 45/72
B29C 45/74- 45/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
ポリスチレン樹脂と、下記一般式(1)で表される(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物と
、常温常圧(但し、常温は25±15℃を表す。常圧は1.01325×10
5±0.01333×10
5Paを表す。)において固体である
(C)メチルフェニルシリコーンレジンと、を含有することを特徴とするスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
【化1】
(ここで、Xは臭素原子であり、a、b及びcは独立に1~3の整数でありa+b+c≧3である。)
【請求項2】
前記スチレン系透明難燃性樹脂組成物が、厚み2.0mmの成形体にて測定した曇り度15.0%以下であり、1.5mm厚におけるUL94垂直燃焼試験による難燃性がV-0を有することを特徴とする請求項1に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)
ポリスチレン樹脂を100質量部とした時、(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物の配合量が20~70質量部、(C)
メチルフェニルシリコーンレジンの配合量が0.5~4.0質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(C)
メチルフェニルシリコーンレジンが、アルコキシシリル基を有し、かつシラノール基を有さな
いことを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性と難燃性に優れるスチレン系透明難燃性樹脂組成物、およびそれからなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、透明性、剛性、低吸水性、寸法安定性などの特性に優れ、成形加工性に優れることから、その特性を生かし広範囲な用途に使用されている。中でも高度な難燃性を付与させた難燃性樹脂は家電製品等を初めとする多岐の分野で使用されている。
【0003】
従来から、スチレン系樹脂に難燃性を付与するために、種々の難燃剤が提案されており、中でも安価で物性バランスに優れているハロゲン含有有機化合物が多く用いられている。しかしながら、これら難燃剤はスチレン系樹脂と配合した場合、透明性を大幅に低下させる欠点がある。
【0004】
そこで、スチレン系樹脂の透明性を保持しつつ、難燃性を付与する技術が過去検討されてきた(特許文献1~3)。しかし、十分な透明性と難燃性を有するスチレン系透明難燃性樹脂組成物は現在まで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-097328号公報
【文献】特開2002-003688号公報
【文献】特開2001-316543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明性と難燃性に優れるスチレン系透明難燃性樹脂組成物、およびそれからなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定の難燃剤、及びチャー生成剤を特定量の組成比で添加することによって、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1).(A)
ポリスチレン樹脂と、下記一般式(1)で表される(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物と
、常温常圧(但し、常温は25±15℃を表す。常圧は1.01325×10
5±0.01333×10
5Paを表す。)において固体である
(C)メチルフェニルシリコーンレジンと、を含有することことを特徴とするスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
【化1】
(ここで、Xは臭素原子であり、a、b及びcは独立に1~3の整数でありa+b+c≧3である。)
(2).前記スチレン系透明難燃性樹脂組成物が、厚み2.0mmの成形体にて測定した曇り度15.0%以下であり、1.5mm厚におけるUL94垂直燃焼試験による難燃性がV-0を有することを特徴とする(1)に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
(3).(A)
ポリスチレン樹脂を100質量部とした時、(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物の配合量が20~70質量部、(C)
メチルフェニルシリコーンレジンの配合量が0.5~4.0質量部であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
(
4).
メチルフェニルシリコーンレジンが、アルコキシシリル基を有し、かつシラノール基を有さな
いことを特徴とする(1)乃至(
3)のいずれか1項に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物。
(
5).(1)乃至(
4)のいずれか1項に記載のスチレン系透明難燃性樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物と(C)シリコーン化合物の配合量、厚み2.0mmの成形体にて測定した曇り度を規定することにより、透明性と難燃性のいずれもが優れたスチレン系透明難燃性樹脂組成物が得られる。よって、本発明のスチレン系透明難燃性樹脂組成物を用いることによって、透明性と難燃性に優れた一般雑貨、照明装置のハウジング等の成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に使用する(A)スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、ポリメタクリルスチレン樹脂(MS樹脂)等が挙げられる。中でも好適なのは、ポリスチレン樹脂である。
【0011】
本発明に使用する(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0012】
【化1】
(ここで、Xは臭素原子であり、a、b及びcは独立に1~3の整数でありa+b+c≧3である。)
好ましくは、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンである。
【0013】
具体的には、第一工業製薬社製の商品名ピロガードSR245が挙げられる。
【0014】
本発明において、(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物の配合量は、(A)スチレン系樹脂を100質量部とした時、20~70質量部である。
【0015】
本発明に使用する(C)シリコーン化合物としては、例えばメチル系シリコーンレジン、メチルフェニル系シリコーンレジン、プロピルフェニル系シリコーンレジン、エポキシ樹脂変性シリコーンレジン、アルキッド樹脂変性シリコーンレジン等が挙げられる。これらのうちメチルフェニルシリコーンレジンが好ましく、更に難燃性の観点でアルコキシシリル基を有し、かつシラノール基を有さないメチルフェニルシリコーンレジンが特に好ましい。
【0016】
具体的には、信越化学工業株式会社製の商品名KR-480が挙げられる。
【0017】
(C)シリコーン化合物の配合量は、(A)スチレン系樹脂を100質量部とした時、0.5~4.0質量部である。
【0018】
本発明において、スチレン系透明難燃性樹脂組成物の混合方法は、公知の混合技術を適用することができる。例えばミキサー型混合機、V型ブレンダー、及びタンブラー型混合機等の混合装置で予め混合しておいた混合物を、更に溶融混練することで均一なスチレン系難燃樹脂組成物とすることができる。溶融混練にも特に制限はなく公知の溶融技術を適用できる。好適な溶融混練装置として、バンバリー型ミキサー、ニーダー、ロール、単軸押出機、特殊単軸押出機、及び二軸押出機等がある。更に押出機等の溶融混練装置の途中から難燃剤等の添加剤を別途に添加する方法がある。
【0019】
本発明の成形体の成形方法は、公知の技術を適用することができる。例えば射出成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形等の方法がある。
【0020】
本発明の目的を損なわない範囲で他の添加剤を添加する事ができる。例えば、酸化防止剤のフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等、滑剤の脂肪酸系滑剤、脂肪族アマイド系滑剤、金属石鹸系滑剤等、着色剤の顔料、染料等、帯電防止剤の非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等である。
【実施例】
【0021】
以下に例を挙げて具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0022】
(A)スチレン系樹脂は、還元粘度1.25dl/gである(A-1)ポリスチレン樹脂を使用した。ここで言う還元粘度は以下の方法で測定した。
【0023】
[還元粘度(ηsp/C)の測定]
スチレン系樹脂1gにメチルエチルケトン17.5mlとアセトン17.5mlの混合溶媒を加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離で不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を取り出し、250mlのメタノールを加えて樹脂分を析出させ、不溶分を濾過乾燥する。同操作で得られた樹脂分をトルエンに溶解してポリマー濃度0.4%(質量/体積)の試料溶液を作成した。この試料溶液、及び純トルエンを30℃の恒温でウベローデ型粘度計により溶液流下秒数を測定して、下式にて算出した。
ηsp/C=(t1/t0-1)/C
t0:純トルエン流下秒数
t1:試料溶液流下秒数
C :ポリマー濃度
【0024】
(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物には、(B-1)トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン(第一工業製薬社製 商品名ピロガードSR245)を使用した。
【0025】
また(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物の代わりに、(B-2)デカブロモジフェニルエタン(アルベマール社製 Saytex 8010)、(B-3)臭素化エポキシ樹脂(DIC社製 プラサーム EC-14)を使用した。
【0026】
(C)シリコーン化合物は、(C-1)信越化学工業株式会社製 商品名KR-480(アルコキシシリル基を有し、シラノール基を有さないメチルフェニルシリコーンレジン。常温常圧で固体)、(C-2)東レ・ダウコーニング株式会社製 商品名RSN-0217フレーク(アルコキシシリル基を有さず、シラノール基を有するメチルフェニルシリコーンレジン。常温常圧で固体)、(C-3)東レ・ダウコーニング株式会社製 商品名SH-200(ジメチルシリコーンオイル。常温常圧で液状)を使用した。
【0027】
比較例として(D)三酸化アンチモン(鈴裕化学社製、商品名AT-3CN)を使用した。
【0028】
[スチレン系透明難燃性樹脂組成物の調製]
上記(A)スチレン系樹脂、(B)トリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物、(C)シリコーン化合物を表1に示す割合にて配合し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製「FM20B」)にて予備混合した。予備混合した原料を二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SS」)に供給してシリンダー温度240℃、総供給量30kg/時間、スクリュー回転数300rpmの押出条件で溶融混練して押し出した。押し出されたストランドは水冷してからペレタイザーへ導き、ペレット化した。
【0029】
[透明性]
本発明のスチレン系透明難燃性樹脂組成物の透明性は曇り度で評価した。得られたペレットをプレス成形機(株式会社東洋精機製作所製「MP-2F」)を用いて、長さ30mm×幅30mm×厚さ2.0mmの試験片を成形した。この際、プレス成形機の熱盤温度は表に示す温度、予備加熱時間は3分、成形時間は2分、成形圧力は10MPaとした。該試験片を曇り度計(日本電色工業社製、NDH5000)を用いて、JIS K 7136に基づき、曇り度を測定した。曇り度15.0%以下のものを合格とした。
【0030】
[難燃性]
射出成形機(日本製鋼所株式会社製「J100E-P」)を用いて、長さ127mm×幅12.7mm×厚さ1.5mmの燃焼用試験片を成形した。この際、射出成形機のシリンダー温度は220℃、金型温度は45℃とした。該試験片を用いて、UL94の垂直燃焼試験方法に準拠し、難燃性を評価した。この試験方法でV-2に満たなかった場合はNGとした。
【0031】
結果を表1に示す。
【0032】
【0033】
表1より本発明のスチレン系透明難燃性樹脂組成物からなる成形体は透明性を保持したまま高度な難燃性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のスチレン系透明難燃性樹脂組成物は透明性と難燃性に優れているため、一般雑貨、照明装置のハウジング等に有用である。