(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】無機多孔質体よりなる油吸着剤、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20230706BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230706BHJP
B01J 20/14 20060101ALI20230706BHJP
B01J 20/12 20060101ALI20230706BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230706BHJP
C02F 1/40 20230101ALI20230706BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/28 Z
B01J20/14
B01J20/12 A
B01J20/12 B
C02F1/28 N
C02F1/40 E
(21)【出願番号】P 2019015076
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018242060
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504313228
【氏名又は名称】ダイヤアクアソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】阿部 久起
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 隆之
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04325846(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0147655(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0318751(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C02F 1/28
C02F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンオイルを無機多孔質体に対し0.3質量%以上10質量%以下塗布又は含侵させた後、前記シリコーンオイルを塗布又は含侵した無機多孔質体を、190℃以上450℃以下に加熱する工程を含む、油吸着剤の製造方法であって、
前記無機多孔質体が、パーライト、珪藻土、及び焼成珪藻土からなる群より選択される一種以上であ
り、
前記シリコーンオイルを塗布又は含侵させる量が、0.77~4.50質量%であり、前記加熱する温度が、230~280℃である、前記製造方法。
【請求項2】
前記無機多孔質体が、珪藻土又は焼成珪藻土である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記シリコーンオイルの25℃での動粘度が、10mm
2/s~5000mm
2/sである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記シリコーンオイルが、ジメチルシリコーンオイルまたはメチルフェニルシリコーン オイルを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記油吸着剤が、消火剤として使用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種漏洩油等の油/水混合系から、油分のみを選択的に吸着する新規な油吸着剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の、溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、灯油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の化学物質により河川、海、土壌、地下水等が汚染される頻度が増加しており、大きな社会問題となっている。これらの物質は一般的に水への溶解度が小さく、水や土壌と分離した形や、或いは水に分散した形で、水上、水中、土壌表面、土壌中、地下水中等に存在している。これらの物質を環境中から除去するため、種々の吸着法や吸着剤が提案されている。
【0003】
一般に油/水混合系では比重差、油分の疎水性から油分が水面に浮いた状態で存在する。その為、本目的の吸着剤には、かさ比重が1未満であることが求められる。この様な油吸着剤としては、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、天然セルロース系などに代表される有機系吸着剤、親油性多孔質炭化物、パーライト、珪藻土に代表される無機系吸着剤が知られている。
【0004】
特許文献1は、コーヒー豆の絞り滓を焼成して炭化させたかさ比重が水より小さい炭化物が開示されているが、撥水性が十分ではなく、徐々に水面から沈む為、水面に浮いた油分を効率的に吸着できない問題があった。
【0005】
特許文献2は、パーライトに水性メチルシロキサン乳濁液を吹きつけた水浮上油吸収用パーライトが開示されているが、あらかじめ水1lにつきメチルシロキサン約50-200cm3を乳濁させた水性メチルシロキサン乳濁液を準備する必要があった。さらに、一般的には水とメチルシロキサンの乳濁液を製造する場合、実用的には界面活性剤を併用する必要があると考えられ、油分のみを選択的に吸着する機能を損なう恐れがあった。
【0006】
特許文献3は、黒曜石パーライトを1000℃近くで加熱し体積膨張させたものに、疎水性シリカ粉を接着した油吸着材が開示されている。しかし、高温での処理が必要であり、基材が比較的高価な黒曜石パーライトに限定されること、バインダー使用する点で製造コストの面において改善の余地があると考えられた。
【0007】
特許文献4は、珪藻土由来の鉱物にリン脂質を付着させた油吸着剤である。各種の溶剤、農薬・防腐剤等の化学薬品類、原油、重油、軽油、潤滑油等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質を容易に吸着できるが、撥水性が十分ではなく、同時に水も吸着するため徐々に沈降し、水面に浮いた油を効率的に吸着できない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-99851号
【文献】特公昭43-13133号
【文献】特開2000-170145号
【文献】特開2008-55319号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、水が共存していても水を吸着することなく、各種溶剤、原油、重油、軽油、灯油、潤滑油、ガソリン等の石油及び石油製品類等の汚染化学物質を、水が共存する系でも容易にかつ低コストで、安全に環境にやさしく取り除く事が可能な油吸着剤、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、本課題の解決について鋭意検討した結果、無機多孔質体にシリコーンオイルを塗布した後、焼成する方法を見出し本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1>
シリコーンオイルを無機多孔質体に対し0.1質量%以上塗布又は含侵させた後、
前記シリコーンオイルが塗布又は含侵した無機多孔質体を、150℃以上に加熱することによって製造される、油吸着剤。
<2>
前記無機多孔質体が、パーライト、珪藻土、焼成珪藻土からなる群のうち、いずれか一種以上である、<1>に記載の油吸着剤。
<3>
前記無機多孔質体が、珪藻土又は焼成珪藻土である、<1>又は<2>のいずれかに記載の油吸着剤。
<4>
前記シリコ-ンオイルの25℃での動粘度が、10mm2/s~5000mm2/sである、<1>~<3>のいずれかに記載の油吸着剤。
<5>
前記シリコ-ンオイルが、ジメチルシリコーンオイルまたはメチルフェニルシリコーンオイルを含む、<1>~<4>のいずれかに記載の油吸着剤。
<6>
前記<1>~<5>のいずれ一項に記載の油吸着剤であって、消火剤として使用することを特徴とする、油吸着剤。
<7>
<1>~<6>のいずれかに記載の油吸着剤の製造方法であって、
前記シリコーンオイルを前記無機多孔質体に対し0.1質量%以上塗布又は含侵させた後、
前記シリコーンオイルを塗布又は含侵した無機多孔質体を、150℃以上に加熱する、油吸着剤の製造方法。
<8>
前記シリコーンオイルを前記無機多孔質体に対し0.3質量%以上10質量%以下塗布又は含侵させた後、
前記シリコーンオイルを塗布又は含侵した無機多孔質体を、190℃以上450℃以下に加熱する、<7>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本願記載の油吸着剤により、各種溶剤、原油、重油、軽油、灯油、潤滑油、ガソリン等の汚染化学物質を、水が共存する系に於いても容易にかつ低コストで、安全に環境にやさしく取り除く事が可能になる。即ち、本願の油吸着剤は、上述した汚染化学物質を容易に吸着でき、水が存在しても油だけを選択的に完全に吸着できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願に記載の油吸着剤は、シリコーンオイルを無機多孔質体に対し0.1質量%以上塗布又は含侵させた後、前記シリコーンオイルが塗布又は含侵した無機多孔質体を、150℃以上に加熱することによって製造される油吸着剤である。
【0014】
前記無機多孔質体は、水面に浮いた状態の油分を吸着除去する目的から、かさ比重が1未満であることが好ましく、さらに0.3以上0.9以下であることがより好ましい。このような無機多孔質体として、具体的には、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸等のクレー系、非晶質シリカ、ゼオライト、カオリン、軽石、火山灰シラス(白砂、白州)、パーライト、モンモリロナイト、珪藻土、珪藻土を高温で焼成し結晶質シリカとした焼成珪藻土等が挙げられる。なかでも、パーライト、珪藻土、焼成珪藻土からなる群のうち、いずれか一種以上であることが更に好ましく、珪藻土または焼成珪藻土であることが特に好ましい。尚、本願の無機多孔質体は、内部が空で外側が殻である構造を有する中空セラミック粒とは異なり、この様な中空セラミック粒は含まない。
前記無機多孔質体の形状は、板状、ブロック状、シート状、粒状等どのような形状であってもよいが、ハンドリングが容易になり、水面に浮いた状態の油分を吸着除去し易くできる観点から、粒状であることがより好ましく、粒は円柱状であることがさらに好ましい。前記無機多孔質体の粒の形状が円柱状である場合、直径が0.1mm以上、高さが3mm以上の円柱状であることが好ましく、直径が1mm以上5mm以下、高さが5mm以上10mm以下の円柱状であることがより好ましい。ここで円柱の直径と高さは、ノギス又は定規によって測定した値である。
【0015】
一般にシリコーンオイルとしては、25℃での動粘度が1mm2/sを下回るものから、100万mm2/s程度の物までが知られているが、塗布作業でのハンドリング等を考慮すると、本願のシリコ-ンオイルの25℃での動粘度は、10mm2/s~5000mm2/sであることが好ましく、20mm2/s~1000mm2/sのシリコーンオイルであることがより好ましく、100mm2/s~1000mm2/sのシリコーンオイルであることが更に好ましい。このようなシリコーンオイルとして、シロキサン結合からなる直鎖状ポリマーが好ましい。具体的には、ジメチルシリコ-ンオイル、メチルフェニルシリコ-ンオイル、メチルハイドロジェンシリコ-ンオイルや、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部に各種有機基を導入した変性シリコーンオイル等が挙げられる。中でも、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコ-ンオイルがより好ましく、調達の容易性の観点から、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルが特に好ましい。
【0016】
上述の通り、本願の油吸着剤は、シリコ-ンオイルを無機多孔質体に対し0.1質量%以上塗布又は含侵させる。即ち、無機多孔質体に対するシリコーンオイルの塗布又は含侵量は、シリコ-ンオイル100質量部に対し、無機多孔質体を0.1質量部以上である。好ましくはシリコ-ンオイルを無機多孔質体に対し0.3%質量以上塗布又は含侵させる。シリコ-ンオイルを無機多孔質体に対し0.1質量%未満塗布又は含侵させた場合、シリコーンオイルの塗布又は含侵量が十分でなく、水中に長期間放置した場合、撥水性が弱く、水分を吸着し、油分を吸着除去することなく沈んでしまう。また、シリコ-ンオイルを無機多孔質体に対し10質量%以下塗布又は含侵させることが好ましい。シリコ-ンオイルを無機多孔質体に対し0.1%質量以上10質量%以下塗布又は含侵する場合、十分な撥水性が確保される上に、余剰のシリコーンオイルが発生せずコスト面で優位となり、環境にも優しい。
【0017】
シリコーンオイルを無機多孔質体に塗布又は含侵する方法としては、無機多孔質体を一定時間シリコーンオイルに浸漬する、シリコーンオイルを無機多孔質体に塗布する方法等が挙げられる。無機多孔質体の表面および内部へ塗布又は含侵できればいずれの方法でも良い。例えば刷毛などを用いて塗布する方法、スプレーガンにより塗布する方法などが挙げられる。効率よくシリコーンオイルを無機多孔質体に塗布又は含侵するために、所定量の無機多孔質体を混合機にいれ、撹拌しながらこれにシリコーンオイルをスプレーして塗布する方法が挙げられる。該混合機として、ロータリーキルン、リボンミキサー、コニカルミキサー、ヘンシェルミキサー、コンクリートミキサー、モルタルミキサー等、無機多孔質体への衝撃負荷を最小限とし、均一にシリコーンオイルを無機多孔質体へ塗布できる方法であれば良い。このような混合機として、安価で入手が容易であることから、例えばコンクリートミキサーが好ましい。
【0018】
本願の油吸着剤は、上述したシリコーンオイルが塗布又は含侵した無機多孔質体を150℃以上に加熱する、即ち焼き付け処理(焼成処理)を行うことによって製造される。加熱する温度とし、好ましくは190℃以上450℃以下、より好ましくは190℃以上350℃以下、さらに好ましくは200℃以上300℃以下、特に好ましくは200℃以上280℃以下、最も好ましくは230℃以上280℃以下である。シリコーンオイルが塗布又は含侵した無機多孔質体を150℃以上に加熱することによって、長期にわたる撥水性を油吸着剤に付与することができる。具体的には、シリコーンオイルが塗布又は含侵した無機多孔質体をコニカルドライヤー、乾燥機、電気炉、ロータリーキルン、パドルドライヤー、棚式乾燥機等に入れ、150℃以上で加熱する。
この焼成処理によりシリコーンオイルの疎水基が配向し油吸着剤に疎水性が付与されると考えられる。空気中で加熱した場合、シロキサン結合が破断し、酸化反応により低分子量シロキサンと共にホルマリンやその酸化物などが生じると共に分子間架橋が起こり、シリコーンオイルの粘度が上昇し、流動性が抑えられ易い。また、これらの反応によりシリコーンオイルが固定化され易くなる。空気中での酸化反応は、200℃以上の温度になるとかなり活発に進み、250℃以上では短時間であっても加熱時の質量減分が著しく大きくなる傾向がある。また、450℃以上では燃焼が起こり易く、有機成分は無くなり、シリカのみが残り、撥水性が付与できなくなる場合がある。これらを考慮すると、加熱温度により最小必要加熱時間が決まるが、シリコーンオイルの加熱時の酸化反応による撥水成分ロスを抑え、より少量のシリコーンオイル塗布量で撥水性を付与できることから、例えば、190℃以上450℃以下で加熱した場合、好ましい加熱時間は、1時間以上10時間以下であり、より好ましくは1時間以上5時間以下である。
【0019】
前述した油吸着剤の好ましい製造方法は、前記シリコーンオイルを前記無機多孔質体に対し0.1質量%以上塗布又は含侵させた後、前記シリコーンオイルを塗布又は含侵した無機多孔質体を、150℃以上に加熱する製造方法である。より好ましい製造方法は、前記シリコーンオイルを前記無機多孔質体に対し0.3質量%以上10質量%以下塗布又は含侵させた後、前記シリコーンオイルを塗布又は含侵した無機多孔質体を、190℃以上450℃以下に加熱する製造方法である。
【0020】
上述した本願の油吸着剤の特徴について以下に記す。
第一の特徴は、水/油系中の油を短時間で油膜も残さないほど完全に吸着除去できることである。本油吸着剤は撥水性があり、かさ比重が1未満である場合、水面上に留まり易く、水面上に存在する油のみを吸着するため、従来の油吸着剤のように水面に薄い油膜が残るとの問題点がないことである。
【0021】
第二の特徴は、水/油系中の油を完全に吸着除去した後、そのまま水中に放置しても油を長期間再遊離しないことである。従って、油汚染土壌に本剤を混合し、油を吸着させ、そのまま長期間放置して微生物により分解させるような方法にも使用できる。
【0022】
第三の特徴は、吸着剤自体が無機系の物質である為、吸着剤自体の燃焼の恐れが無く、一般的に使用されている有機系の油吸着剤に比べて安全に油を吸着できることである。火災が想定される現場や、実際に火災が発生している現場での油吸着除去に好適に利用できる。また、油を吸着すると水に沈み、水中でも油を離さないことから、海洋上、河川上の新たな消火剤としての用途も期待できる。
【0023】
第四の特徴は、安価な無機多孔質体と少量のシリコーンオイルが使用でき、且つ好ましい焼成温度は190℃以上450℃以下である。このような焼成温度であれば、特別な設備が必要ではなく、一般的な設備で製造できることから安価に製造することができる。
【実施例】
【0024】
次に本発明の方法を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は要旨を超えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。尚、%は質量%である。
【0025】
<浮上率(%)の測定方法>
200mlバイアル瓶に水80mlを入れ、油吸着剤5gを入れた後、蓋をし、振とう機を用いて上下に120rpmで4時間振とうした後、水に浮いている油吸着剤を回収、乾燥し、質量を測定した。用いた油吸着剤5gに対する、水に浮いていた油吸着剤の質量の割合を浮上率(%)とした。
【0026】
<A重油吸着量(g)>
50mlのポリプロピレン製遠心分離沈殿管に水30ml、油吸着剤3g、A重油2.25ml(1.91g)を入れた後蓋をし、15分間撹拌し、A重油を吸着させた。引き続き、遠心分離機(株式会社久保田製作所製テーブルトップ冷却遠心機5420、ローター半径160mm)により、遠心分離沈殿管を3000rpmで、5分間、遠心分離した。上澄みの未吸着のA重油を含む水11mlを15mlのポリプロピレン製遠心分離沈殿管に採取し、油吸着剤により吸着除去されたA重油から分離した。さらに上述した水へ10%食塩水1mlを加え、蓋をし、3500rpmで、15分間、遠心分離した。振とうによりエマルジョン化したA重油を含む未吸着のA重油と水を分離し、-20℃で凍結させ、上層の油をフロン系溶剤(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び1,3-ジクロロ-1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロパンの混合溶剤)で溶解し、バイアル瓶に移した。ここへ硫酸ナトリウムを加え、脱水後、赤外油分濃度測定装置(株式会社堀場製作所製油分濃度計OCMA-355)で油分量を測定し、質量を求めた。最初に添加したA重油量2.25ml(1.91g)との差を求め、A重油吸着量を算出した。
【0027】
(実施例1)
50mlナスフラスコに、表1に記載の信越化学工業株式会社製シリコーンオイル580mgを取り、無機多孔質体としてイソライト工業株式会社製焼成珪藻土イソライトCG-1(かさ比重0.59)30gを加えた。これをロータリーエバポレーターにより回転撹拌させながら、常圧、空気中にて、オイルバスで230℃、2時間加熱して、油吸着剤を得た。得られた油吸着剤の浮上率及びA重油吸着量の結果を表1に示す。尚、振とうせずにそのまま放置した場合、3か月以上油吸着材の沈降が認められなかった。
【0028】
(実施例2~6)
表1に記載したシリコーンオイルを用い、表1に示した加熱温度とする以外は、実施例1と同様にして油吸着剤を得た。得られた油吸着剤の浮上率及びA重油吸着量の結果を表1に示す。
【0029】
(比較例1~3)
表1に記載したシリコーンオイルを用い、、表1に示す加熱温度とする以外は、実施例1と同様にして油吸着剤を得た。得られた油吸着剤の浮上率及びA重油吸着量の結果を表1に示す。
【0030】
(比較例4、5)
シリコーンオイルを用いず、表1に示す加熱温度とする以外は、実施例1と同様にして油吸着剤を得た。得られた油吸着剤の浮上率及びA重油吸着量の結果を表1に示す。
【0031】
【0032】
(比較例6)
無機多孔質体として、珪藻土由来の鉱物にリン脂質を付着させた汚染化学物質の吸着剤(ユトラスK-2・ダイヤアクアソリューションズ(株)製)を用いる以外は、実施例1と同様に行った。その結果、浮上率は18%、A重油吸着量は0.47gであった。
【0033】
(実施例7)
10kg用小型コンクリートミキサーにイソライト工業株式会社製焼成珪藻土イソライトCG-1を300g入れ中央部のみ最小限開放した蓋を着けた。24rpmで回転撹拌しながらスプレーガンでミキサー中央部の穴より信越化学工業株式会社製シリコーンオイルKF-96-100CS 5.43g(イソライトCG-1の質量に対し1.81%)を噴霧し塗布した。これをアルミ皿に移し、電気炉で190℃、5分間、焼成処理を行った。得られた油吸着剤の浮上率及びA重油吸着量の結果を表2に示す。
【0034】
(実施例8~18、比較例7~10)
表2に示す条件で行う以外は実施例7と同様に行った。得られた油吸着剤の浮上率及びA重油吸着量の結果を表2に示す。
【0035】
(比較例11~15)
焼成処理を行わない以外、実施例7と同様に行った。得られた油吸着剤の浮上率及びA重油吸着量の結果を表2に示す。
【0036】
【0037】
(実施例19)
リボンミキサーにイソライト工業株式会社製焼成珪藻土イソライトCG-1を140kg仕込み、エアースプレーガン(アネスト岩田製 W-200-251)を用い、信越化学工業株式会社製シリコーンオイルKF-96-100CS1.8kg(シリコーンオイルの塗布量は1.3%)を、ミキサーを回転させながら上部より15分間かけて噴霧した。これをステンレスバットに深さ1cmに敷きつめ、棚式乾燥機に入れ、250℃にて20分間焼成処理を行った。その後加熱を止め放冷した。焼成処理には、25℃からの250℃までの温度上昇、さらに100℃までの放冷に合計6時間を要した。得られた油吸着剤の浮上率は70%、A重油吸着量は0.46gであった。
【0038】
(実施例20)
実施例19で得られた油吸着剤を用いて、浮上したA重油の回収試験を実施した。即ち、あらかじめ水600gを入れた1Lの水槽にA重油10gを加え、実施例19で得られた油吸着剤20gを注ぎいれ、薬さじで撹拌し油吸着剤とA重油を接触させた。水面上に浮かぶA重油は、油吸着剤に吸着除去され、油吸着剤が水中に沈むのを目視にて確認した。また、水面には、過剰な油吸着剤と少量の油を吸着した油吸着剤が浮いていたのを目視にて確認した。油膜は確認されなかった。
【0039】
(比較例16)
実施例19で用いた油吸着剤の代わりに、市販の油吸着マット(日本クレシア株式会社製PP-100)約2cm×2cm30枚を使用する以外は、実施例20と同様に浮上したA重油の回収試験を実施した。A重油を吸着した油吸着マットは浮いたままであり、沈んだマットはなかったことを目視にて確認した。また、水面上には油膜も目視にて確認され、完全にはA重油を取りきれなかった。
【0040】
(実施例21)
実施例19で得られた油吸着剤を用いて、水面上に浮かぶガソリンの回収試験を実施した。即ち、あらかじめ水47mlを入れた50mlバイアル瓶にガソリン3.8mlを加え、実施例23で得られた油吸着剤5gを静かに注いだ。水面上に浮かぶガソリンは、油吸着剤に吸着除去され水中に沈み、油膜は目視にて確認されなかった。その後バイアル瓶口付近に直火を近づけたが、燃焼は確認されなかった。
【0041】
(比較例17)
シリコーンオイルを噴霧しない以外は、実施例19と同様に実施した。イソライトCG-1は水中に沈んだものの、水面上に油膜が目視にて確認され、直火により激しく燃焼した。
【0042】
(実施例22)
イソライト工業株式会社製焼成珪藻土イソライトCG-1の代わりに、微粉を12メッシュの篩で取り除いたパーライト(かさ比重0.08)を用い、シリコーンオイルの塗布量は5.6%とし、電気炉で280℃、30分間焼成処理を行う以外は、実施例19と同様に実施した。得られた油吸着剤をあらかじめ水をいれたバイアル瓶に静かに注ぎ12日間放置したが、全量水面上に浮上していたのを目視にて確認した。吸油量は実施例11で製造した油吸着剤と同程度であった。
【0043】
(比較例18)
シリコーンオイルを噴霧しない以外は、実施例22と同様に実施した。油吸着剤の大部分は水面下に浮いており、水中に沈んだものも目視にて認められた。油吸着剤が水面下で浮いているため、水共存下で水面に浮く油を吸着除去する油吸着剤としては不適であった。
【0044】
上述した実施例1~22で得られた油吸着剤は、各種溶剤、原油、重油、軽油、灯油、潤滑油、ガソリン等の汚染化学物質を、水が共存する系でも容易にかつ低コストで、短時間で安全に環境にやさしく取り除く事が出来る。例えば、本発明の油吸着剤を、雨天の際の路上の油回収、工場での油漏液事故、河川、海での油漏洩事故の油吸着処理剤として用いれば、汚染の拡大を防ぐことが出来る。また、事前に本発明の油吸着剤を粒状のまま、シート状、マット状、ロープ状にし、油漏洩危険個所或いはその周辺に敷き詰めておくことにより、例えば震災等による石油類タンクからの油漏洩被害を最小化する事が出来る。さらに本発明の油吸着剤は無機系物質である為、油吸着剤自体の燃焼の恐れが無く、より安全に油を回収きるばかりでなく消火剤として使用出来る。
【0045】
(実施例23)
実施例2で得られた油吸着剤を磁製るつぼに2g分取し、電気炉(YAMATO製、型式FO310)を用いて300℃、60分間加熱した。放冷後、外観の変化を調べ、重量減少率(%)、浮上率を測定した。
(実施例24~26)
表3に示す条件で行う以外は実施例23と同様に行った。得られた外観の変化、重量減少率(%)、浮上率(%)を表3に示す。
(比較例19~21)
比較例16で用いた合成樹脂から成る市販の吸着マット(PP-100)、市販の特殊加工された天然セルロースからなる油吸着材(有限会社バイオフューチャー製セルソーブ、綿状)、市販の天然素材からなる油吸着分解剤(有限会社バイオフューチャー製オイルゲーター、粉状)を選び、実施例23と同様に加熱した。得られた外観の変化、重量減少率(%)を表3に示す。
【0046】
【0047】
実施例23~26は、300℃以上で加熱しても外観の変化は認められなかった。一方、比較例19~21は、300℃で60分間加熱すると、焦げて黒く変色し、外観は原型を留めていなかった。
【0048】
(実施例27)
浮上油が燃焼しているところに油吸着剤を投入し、油が吸着され水没して燃焼が収まり消火が早まるか試験を行った。ステンレス製の寸胴鍋(高さ18cm、内径15cm)に水道水2.5L(水温23℃、比重1.00)を加えたところ水深14cmの水が溜まった。その上に市販のレギュラーガソリン200mL(液温23℃、比重0.74)を加えた。着火源を用意し、ガソリンを燃焼させ、燃焼が安定した着火から4分後に実施例2で得られた油吸着剤100gを一度に投入した。投入後、油吸着剤はガソリンを吸って緩やかに全部沈んだ。その後53秒経過した後、液面に残っていたガソリンが無くなり消火した。着火から消火までの燃焼時間は4分53秒であった。
【0049】
(実施例28~30)
表4に示す条件で行う以外は実施例27と同様に行った。着火から消火までの燃焼時間の結果を表4に示す。
【0050】
(実施例31)
投入する油吸着剤を190gに増量した以外は実施例27と同様に行った。投入後、油吸着剤の一部は液面に浮いて残ったが、1分19秒経過した後に、液面に残っていたガソリンが無くなり消火した。着火から消火までの燃焼時間は5分19秒であった。
【0051】
(実施例32)
実施例27と同様に、燃焼が安定した着火から4分後に実施例2で得られた油吸着剤を100g一度に投入した後、着火から4分30秒後にステンレス製のザル(外径15cm、深さ7cm、目開き0.5mm)を投入した。ザルにより液面に浮いていた油吸着剤はザルと共に全て沈み、水没と同時に消火した。ザル投入から消火までの時間は5秒であった。着火から消火までの燃焼時間は4分35秒であった。
【0052】
(比較例22)
油吸着剤を加えない以外、実施例27と同様に行った。着火から消火までの燃焼時間は9分27秒であった。
(比較例23、24)
表4に示す条件で行う以外は実施例27と同様に行った。着火から消火までの燃焼時間の結果を表4に示す。
【0053】
【0054】
実施例27~30は、投入した油吸着剤の全てがガソリンを十分に吸着したことで油吸着剤全体のかさ比重が水より重くなり水没し、水中でもガソリンを遊離しないため、液面にあるガソリンの一部を取り除くことが出来た。よって液面に残るガソリンが少なくなり、比較例22より燃焼時間が大幅に短縮した。水がある環境下でもガソリンを吸着して遊離しない性質を利用すれば、浮上油火災に対し消火剤又は減災剤として活用できる。
【0055】
実施例31は、投入量を増やしたため、ガソリンを十分に吸着出来ずに中途半端に吸った油吸着剤の一部は、かさ比重が水より軽く液面に浮いて残った。しかし実施例32で示した通り、ザルを使って強制的に水没させると、5秒後に消火した。このように、水がある環境下でもガソリンを吸着して遊離しない性質を利用すれば、浮上油火災に対し消火剤又は減災剤として活用できる。
【0056】
比較例23と24で使用した油吸着剤は、水共存下でガソリンを十分に吸着して遊離しない性質が無いため燃焼時間の大幅な短縮に至らなかった。
【0057】
(実施例33~38、比較例25~28)
市販の灯油190mL(液温23℃、比重0.79)又はA重油190mL(液温23℃、比重0.88)について実施例27と同様に試験を行った。燃焼効果を上げるためにガソリンを10mL加えた。着火から消火までの燃焼時間の結果を表5に示す。
【0058】
【0059】
灯油又はA重油を用いた場合も実施例33~38の通り、燃焼時間は大幅に短縮した。水がある環境下でも灯油又はA重油を吸着して遊離しない性質を利用すれば、浮上油火災に対し消火剤又は減災剤として活用できる。