(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】ヘキサン溶剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 5/10 20060101AFI20230706BHJP
C07C 9/15 20060101ALI20230706BHJP
C07C 9/16 20060101ALI20230706BHJP
C07C 7/04 20060101ALI20230706BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230706BHJP
【FI】
C07C5/10
C07C9/15
C07C9/16
C07C7/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019065509
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 拓実
(72)【発明者】
【氏名】小泉 政勝
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-527140(JP,A)
【文献】特開2005-021833(JP,A)
【文献】特開2007-191591(JP,A)
【文献】特開平05-170671(JP,A)
【文献】特開平07-242570(JP,A)
【文献】特開昭53-146277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/
C07C 9/
C07C 7/
C07B 61/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油精製プロセスで得られる炭素数5~7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理することによって揮発成分および重質成分を除去し炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた留分をさらに精密蒸留することにより、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合を0.20質量%以下に制御した精密蒸留油を得る第2工程と、
前記精密蒸留油を芳香族の核水素化触媒
として、ニッケル、酸化ニッケル、白金、酸化白金、パラジウム、ニッケル-銅、白金-アルミナおよび白金-ロジウムから選ばれる一種以上を用いて核水素化する第3工程と、
を有することを特徴とするヘキサン溶剤の製造方法。
【請求項2】
前記精密蒸留油中のベンゼンの含有割合が0.4質量%以
下である請求項1に記載のヘキサン溶剤の製造方法
。
【請求項3】
前記原料油が、ライトナフサ、ヘビーナフサおよび灯油留分から選ばれる一種以上を水素化脱硫して得られる水素化脱硫油である請求項1
または請求項2に記載のヘキサン溶剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサン溶剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機溶剤として、ヘキサン溶剤やアルキルシクロヘキサン溶剤が使用されており(例えば、特許文献1(特開2004-155730号公報)参照)、このうちヘキサン溶剤は、植物油脂の抽出用溶剤や、粘着剤、接着剤等の製造時の溶剤や、合成樹脂製造時の反応溶媒、触媒キャリアとして広く一般に使用されている。
【0003】
一般に、ヘキサン溶剤を製造する方法としては、ライトナフサ、ヘビーナフサおよび灯油留分から選ばれる一種以上の留分を水素化脱硫処理した炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分とする水素化精製油を蒸留処理して炭素数6の炭化水素を主成分とする留分を得た後、得られた炭素数6の炭化水素を主成分とする留分からベンゼン等の重質分をフェノール抽出により除去する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ヘキサン溶剤としては、使用後に加熱により容易に乾燥除去し得るものが求められ、このためにその使用目的(使用時の温度)に応じて所望の乾点(乾燥温度)を有するものが求められるようになっている。
一方、上記従来の製造方法で製造されたヘキサン溶剤は、イソヘキサンおよびn-ヘキサンを主成分とするものであり、さらにイソヘキサンとn-ヘキサンに蒸留分離されて製品化される関係上、その乾点はほぼ一定の温度となる。
また、本発明者等が検討したところ、上記フェノール抽出によってn-ヘキサンやイソヘキサンの一部も抽出除去されてしまうことから、ヘキサン溶剤の収率が低下してしまうことが判明した。
【0006】
このような状況下、本発明は、乾点が所望温度に制御されたヘキサン溶剤を容易にかつ高い収率で製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達するために本発明者等が鋭意検討したところ、ヘキサン溶剤中の2-メチルヘキサンの含有量に着目するに至った。
上述したように、ヘキサン溶剤は、炭素数6の炭化水素を主成分とする留分から、フェノール抽出によりベンゼン等の重質分を除去して製造しているが、フェノール抽出に代えて蒸留処理を行い2-メチルヘキサン以上の重質な炭化水素成分を所定量含む精密蒸留油を得た後、さらに核水素化処理してヘキサン溶剤を製造すれば、2-メチルヘキサンは乾点が高い成分であることから、ヘキサン溶剤自体の乾点を制御し得ることができ、n-ヘキサンやイソヘキサンのロスも抑制し得ることを着想した。
【0008】
上記着想に基づいて本発明者等がさらに検討したところ、石油精製プロセスで得られる炭素数5~7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理することによって揮発成分および重質成分を除去し炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分を得る第1工程と、前記第1工程で得られた留分をさらに精密蒸留することにより、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合を0.20質量%以下に制御した精密蒸留油を得る第2工程と、前記精密蒸留油を芳香族の核水素化触媒を用いて核水素化する第3工程とを有するヘキサン溶剤の製造方法により上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)石油精製プロセスで得られる炭素数5~7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理することによって揮発成分および重質成分を除去し炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた留分をさらに精密蒸留することにより、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合を0.20質量%以下に制御した精密蒸留油を得る第2工程と、
前記精密蒸留油を芳香族の核水素化触媒を用いて核水素化する第3工程と、
を有することを特徴とするヘキサン溶剤の製造方法、
(2)前記精密蒸留油中のベンゼンの含有割合が0.4質量%以下である上記(1)に記載のヘキサン溶剤の製造方法、
(3)前記芳香族の核水素化触媒が、VIA族金属およびVIII族金属から選ばれる一種以上の活性金属を含むものである上記(1)または(2)に記載のヘキサン溶剤の製造方法、
(4)前記原料油が、ライトナフサ、ヘビーナフサおよび灯油留分から選ばれる一種以上を水素化脱硫して得られる水素化脱硫油である上記(1)~(3)のいずれかに記載のヘキサン溶剤の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、石油精製プロセスで得られる炭素数5~7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理して揮発成分および重質成分を除去する第1工程で得られた留分をさらにフェノール抽出することに代えて精密蒸留し、係る精密蒸留の際に2-メチルヘキサン以上の重質な炭化水素の含有割合が0.20質量%以下になるように制御することで、最終的に得られるヘキサン溶剤の乾点が制御することができることから、本発明によれば、乾点が所望温度に制御されたヘキサン溶剤を容易にかつ高い収率で製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法は、石油精製プロセスで得られる炭素数5~7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理することによって揮発成分および重質成分を除去し炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分を得る第1工程と、前記第1工程で得られた留分をさらに精密蒸留することにより、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合を0.20質量%以下に制御した精密蒸留油を得る第2工程と、前記精密蒸留油を芳香族の核水素化触媒を用いて核水素化する第3工程と、を有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法においては、原料油として、石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油が用いられる。
【0013】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油とは、石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を90~100質量%含むものが好ましく、95.0~100質量%含むものがより好ましく、98.0~100質量%含むものがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、原料油中における炭素数5~炭素数7の炭化水素の含有割合とは、石油学会法JPI-5S-33-90(ガスクロマトグラフ法)により算出された値を意味する。
【0014】
このような原料油としては、いわゆるライトナフサ(軽質ナフサ)のほか、ライトナフサ、ヘビーナフサ(重質ナフサ)および灯油留分から選ばれる一種以上を水素化脱硫して得られる水素化脱硫油を挙げることができ、ライトナフサ、ヘビーナフサおよび灯油留分から選ばれる一種以上を水素化脱硫して得られる水素化脱硫油であることが好ましい。
【0015】
上記水素化脱硫油は、ライトナフサ、ヘビーナフサおよび灯油留分から選ばれる一種以上を水素化脱硫し、重質留分および軽質留分に分離精製した上で、係る軽質留分を使用することが好適である。
【0016】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法で使用される原料油として、より具体的には、ライトナフサや、ライトナフサ、ヘビーナフサおよび灯油留分から選ばれる一種以上を水素化脱硫して得られる水素化脱硫油から選ばれる一種以上であって、沸点が、20~200℃であるものが好ましく、23~190℃であるものがより好ましく、23~180℃であるものがさらに好ましい。
【0017】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法においては、石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理し揮発成分および重質成分を除去して炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分を得る。
【0018】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法においては、石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理し揮発成分および重質成分を除去して得られる炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分において、炭素数6の炭化水素の含有割合は、95.0~100質量%であることが好ましく、98.0~100質量%であることがより好ましい。
【0019】
また、本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法においては、石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理し揮発成分および重質成分を除去して得られる留分中に含まれる炭素数6の炭化水素には、ベンゼンも含有される。
上記石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理して得られる揮発成分および重質成分を除去した留分において、ベンゼンの含有割合は、6,000質量ppm以下あることが適当であり、5,600質量ppm以下であることがより適当であり、5,300質量ppmであることがさらに適当である。
【0020】
なお、本出願書類において、上記原料油を蒸留処理して得られる留分中の炭素数6の炭化水素の含有割合やベンゼンの含有割合は、ガスクロマトグラフィーにより算出された値を意味する。
【0021】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法においては、石油精製プロセスで得られる炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理することによって揮発成分および重質成分を除去し炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分を得た後、当該留分をさらに精密蒸留することにより、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合を0.20質量%以下に制御した精密蒸留油を得る。
【0022】
上記精密蒸留油は、2-メチルヘキサン以上の沸点を持つ炭化水素成分の含有割合が、0.2質量%以下に制御されたものであり、0.16質量%以下に制御されたものが好ましく、0.8質量%以下に制御されたものがより好ましい。
【0023】
上記精密蒸留油は、n-ヘキサンとイソヘキサンの含有割合の合計が、80~100質量であるものが好ましく、82~100質量%であるものがより好ましく、84~100質量%であるものがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、イソヘキサンとは、2,2-ジメチルブタン、2,3―ジメチルブタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタンのことを意味する。
【0024】
上記精密蒸留油は、ベンゼンの含有割合が、0.4質量%以下に制御されたものであることが好ましく、0.35質量%以下に制御されたものであることがより好ましく、0.30質量%以下に制御されたものがさらに好ましい。ベンゼンはヘキサン溶剤にとって不純物となり得るだけでなく、n-ヘキサンやイソヘキサンよりも沸点が高いシクロヘキサンに変換されることから、予め精密蒸留油中の含有割合を上記範囲に制御することが好ましい。
【0025】
また、上記精密蒸留油は、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成 分の含有割合が、0.20質量%以下に制御されたものであり、0.16質量%以下に制御されたものが好ましく、0.08質量%以下に制御されたものがより好ましい。
2-メチルヘキサン以上の沸点を持つ炭化水素成分は、ヘキサン溶剤にとって不純物となり得るだけでなく、乾点を上昇させ易い成分であることから、予め精密蒸留油中の含有割合を上記範囲に制御することが好ましい。
【0026】
なお、本出願書類において、精密蒸留油中におけるベンゼン含有割合、n-ヘキサンの含有割合、イソヘキサンの含有割合および2-メチルヘキサン以上の沸点を持つ炭化水素成分の含有割合とは、ガスクロマトグラフィーにより算出された値を意味する。
【0027】
上述したように、炭素数5~炭素数7の炭化水素を主成分として含む原料油を蒸留処理し揮発成分および重質成分を除去して得られる留分中に含まれる炭素数6の炭化水素には、n-ヘキサンやイソヘキサンと共に一定量のベンゼンも存在し、ベンゼンはヘキサン溶剤中に混入した場合には不純物となり、また、ヘキサン溶剤が使用後に揮発等して除去されるものであることから、環境上もヘキサン溶剤中へのベンゼンの混入は好ましくない。
このため、従来は、上記炭素数6の炭化水素を高い含有割合で含む留分に対してフェノール抽出処理を施すことによって、同留分中に含まれるベンゼンや炭素数7以上の重質分を除去することが行われていたが、上述したように、上記処理を施して得られるヘキサン溶剤は、乾点を所望範囲に制御し難いものであるばかりか、本発明者等の検討によれば上記フェノール抽出によってn-ヘキサンやイソヘキサンの一部も抽出除去されてしまうことから、ヘキサン溶剤の収率が低下してしまうことが判明した。
これに対して本件発明は、上記フェノール抽出を行うことに代えて精密蒸留を施すことにより、n-ヘキサンやイソヘキサンのロスも抑制することができる。また、上記精密蒸留により、2-メチルヘキサン以上の沸点を持つ炭化水素成分の含有割合が0.20質量%以下に制御された精密蒸留油を得、この精密蒸留油を芳香族の核水素化触媒を用いてさらに後述する核水素化処理を施すことにより、乾点の上昇を招き易い2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合を制御することができ、このために、得られるヘキサン溶剤の乾点を容易に制御することもできる。
【0028】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法においては、上記精密蒸留油を芳香族の核水素化触媒を用いて核水素化処理する。
【0029】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、上記核水素化触媒としては、VIA族金属およびVIII族金属から選ばれる一種以上の活性金属を含むものであることが好ましい。
【0030】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化触媒を構成するVIA族金属およびVIII族金属から選ばれる一種以上の活性金属としては、特に制限されないが、上記活性金属は核水素化触媒に酸化物として含まれていてもよく、例えば、ニッケル、酸化ニッケル、白金、酸化白金、パラジウム、ルテニウム、コバルト等から選ばれる一種以上を挙げることができ、ニッケル-銅、白金-アルミナ、白金-ロジウム、コバルト-モリブデン等の活性金属との他の金属とを組み合わせたものであってもよい。
上記活性金属としては、特に、ニッケルおよびパラジウムから選ばれる一種以上が好ましい。
【0031】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化触媒は、上記活性金属を、シリカ、珪藻土、γ-アルミナ、活性炭等の担体に担持させたものが好ましい。
【0032】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化触媒は、VIA族金属およびVIII族金属から選ばれる一種以上の活性金属を、触媒基準、酸化物換算で、0.7~2.0質量%含み、0.8~1.8質量%含むことが好ましく、0.9~1.6質量%含むことがより好ましい。
【0033】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化処理条件は、ベンゼンの含有量や得ようとするヘキサン溶剤の用途等に応じて適宜設定することができる。
【0034】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化処理時の圧力は、0.2~0.40MPaが好ましく、0.25~0.37MPaがより好ましく、0.30~0.35MPaがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化処理時の温度は、50~90℃が好ましく52~87℃がより好ましく、53~85℃がさらに好ましい。
【0036】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化処理時のLHSV(液空間速度)は、2.5~5.9hr-1が好ましく、2.6~5.6hr-1がより好ましく、2.8~5.3hr-1がさらに好ましい。
【0037】
本発明に係るヘキサン溶剤の製造方法において、核水素化処理時の水素/油比は、25~40NL/Lが好ましく、27~39NL/Lがより好ましく、30~38NL/Lがさらに好ましい。
【0038】
上記核水素化処理時の反応条件が緩和過ぎると、芳香族の核水素化が進行し難くベンゼン等の芳香族分が残存し易くなり、上記核水素化処理時の反応条件が過酷過ぎると、水素化分解、異性化、脱水素反応等の副反応が生じ易くなることから、核水素化処理条件は適宜決定することが好ましい。
【0039】
上記核水素化処理により、n-ヘキサン、イソヘキサン、2―メチルヘキサン等を含む核水素化油を得ることができる。
得られた核水素化処理油において、n-ヘキサンとイソヘキサンの含有割合の合計は、80~100質量%であることが好ましく、83~100質量%であることがより好ましく、85~100質量%であることがさらに好ましい。
得られた核水素化処理油において、2-メチルヘキサン以上の沸点を持つ炭化水素成分の含有割合は、0.20質量%以下であることが好ましく、0.16質量%以下であることがより好ましく、0.08質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
得られた核水素化処理油は、そのままヘキサン溶剤として使用してもよいし、さらに蒸留処理することにより、n-ヘキサンおよびイソヘキサンを各々単離することが好ましいが、この際、n-ヘキサンやイソヘキサンをシクロヘキサンとともに単離したり、シクロヘキサンを別途単離した上でn-ヘキサンやイソヘキサンに所望量を混合して溶剤化することにより、その乾点を容易に制御することができる。
【0041】
本発明によれば、炭素数6の炭化水素を90~100質量%含む留分に対し、ベンゼン等をフェノール抽出することに代えて精密蒸留し、係る精密蒸留の際の蒸留条件を制御することにより、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合が0.20質量%以下に制御された精密蒸留油を得、この精密蒸留油を芳香族の核水素化触媒を用いてさらに核水素化処理することにより、最終的に得られるヘキサン溶剤中のn-ヘキサンやイソヘキサンのロスを制御しつつ、乾点が所望温度に制御されたヘキサン溶剤を容易にかつ高い収率で製造する方法を提供することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0043】
(実施例1~実施例5)
ライトナフサおよびヘビーナフサを混合した留分を水素化脱硫して得られる炭素数5~7の炭化水素を主成分として含む原料油1を、各々、常圧下、沸点範囲が60~78℃の範囲で蒸留して、炭素数6の炭化水素を90~100質量%含むC6留分1を得た。
上記留分をさらに精密蒸留し、留出した精密蒸留油中の2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする重質な炭化水素成分の含有割合をガスクロマトグラフィーで測定し、精密蒸留油中の2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする炭化水素成分の含有割合が0.20質量%以下になるように上記精密蒸留の条件を適宜制御することで、各々表1に示す組成を有する2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする重質な炭化水素成分を含む精密蒸留油1~精密蒸留油5を得た。
次いで、上記精密蒸留油1~精密蒸留油5を、圧力0.3MPa、反応温度83℃、LHSV3.0hr-1、水素/油比30NL/Lの条件化で、酸化物換算で1.0%のPdが活性金属として担持された核水素化触媒を用いてそれぞれ水素化処理を行い、さらに蒸留することで、目的とするヘキサン溶剤1~ヘキサン溶剤5を得た。性状を表2に示す。
【0044】
なお、n-ヘキサン、イソヘキサン、ベンゼン、2-メチルヘキサン以上の重質な炭化水素成分の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定された値を意味する。
【0045】
(比較例1)
上記実施例で得たC6留分1を精密蒸留し、留出した精密蒸留油中の2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする重質な炭化水素成分の含有割合をガスクロマトグラフィーで測定し、精密蒸留油中の2-メチルヘキサンの含有割合が0.22質量%になるように上記精密蒸留の条件を適宜制御することで、表1に示す2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする重質な炭化水素成分を含む精密蒸留油6を得た。
次いで、上記精密蒸留油6を、実施例1~実施例5と同じ条件で水素化処理を行い、さらに蒸留することで、目的とするヘキサン溶剤6を得た。得られたヘキサン溶剤の性状を表2に示す。
【0046】
(参考例1)
実施例とほぼ同程度の炭化水素を含有するが2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする重質な炭化水素成分の含有割合が0質量%であるヘキサン溶剤を調製した。得られたヘキサン溶剤の性状を表2に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表1および表2より、本発明に係る実施例1~実施例5で得られたヘキサン溶剤は、2-メチルヘキサンの沸点以上の温度を沸点とする重質な炭化水素成分が0質量%である参考例1に対して、乾点が最大でも0.2℃しか上昇していないが、比較例1で得られたヘキサン溶剤は乾点が0.3℃上昇している。工業製品として乾点の0.1℃の違いは品質に大きな影響があるため、本発明にかかる実施例1~実施例5で得られたヘキサン溶剤は、比較例1で得られたヘキサン溶剤に比較して品質に優れることが分かる。