(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】電極状態判定装置、電極状態判定方法、及び溶接チップ
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20230706BHJP
B23K 11/30 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
B23K11/24 336
B23K11/30 350
(21)【出願番号】P 2019123153
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 悟
(72)【発明者】
【氏名】高木 徹
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-271236(JP,A)
【文献】実開昭58-189088(JP,U)
【文献】特開2015-155103(JP,A)
【文献】特開2010-051997(JP,A)
【文献】特開2013-139040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の被溶接材料を一対の溶接電極で加圧方向に加圧して電流を流し、前記被溶接材料の内部で金属が熔解して凝固することで前記被溶接材料を溶接する溶接機に用いられる前記溶接電極の状態を判定する電極状態判定装置であって、
前記一対の溶接電極の少なくとも一方(以後、溶接電極と呼ぶ)を撮影して前記溶接電極の画像を取得する撮像部と、
前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識するマーク認識部と、
前記画像上の前記マークに基づいて、前記溶接電極の状態を検出する状態検出部と、
前記溶接電極の状態を判定する状態判定部と、
を備え
、
前記撮像部は、前記溶接機が行う特定作業の後に前記溶接電極の画像を取得し、
前記マーク認識部は、前記特定作業の後の前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識し、
前記状態検出部は、前記画像上の前記マークに基づいて、前記特定作業の後の前記溶接電極の状態を検出し、
前記撮像部は、前記特定作業の前に前記溶接電極の画像を取得し、
前記マーク認識部は、前記特定作業の前の前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識し、
前記状態検出部は、前記画像上の前記マークに基づいて、前記特定作業の前の前記溶接電極の状態を検出し、
前記状態判定部は、前記特定作業の後の前記溶接電極の状態を、前記特定作業の前の前記溶接電極の状態と比較することにより、前記溶接電極の状態を判定する
ことを特徴とする電極状態判定装置。
【請求項2】
前記溶接電極は、
前記加圧方向における前記溶接電極の先端部分を成す溶接チップと、
前記溶接チップが嵌められる一端と、前記溶接機のホルダー部に嵌る、前記一端に対向する他端とを有するシャンクと、
を備え、
前記撮像部は、前記溶接チップの画像を取得し、
前記マーク認識部は、前記溶接チップの画像から、前記溶接チップの表面に付された前記マークを認識し、
前記状態検出部は、前記画像上の前記マークに基づいて、前記溶接チップの状態を検出し、
前記状態判定部は、前記溶接チップの状態を判定する
ことを特徴とする請求項
1に記載の電極状態判定装置。
【請求項3】
前記溶接電極は、
前記加圧方向における前記溶接電極の先端部分を成す溶接チップと、
前記溶接チップが嵌められる一端と、前記溶接機のホルダー部に嵌る、前記一端に対向する他端とを有するシャンクと、
を備え、
前記撮像部は、前記シャンクの画像を取得し、
前記マーク認識部は、前記シャンクの画像から、前記シャンクの表面に付された前記マークを認識し、
前記状態検出部は、前記画像上の前記マークに基づいて、前記シャンクの状態を検出し、
前記状態判定部は、前記シャンクの状態を判定する
ことを特徴とする請求項
1に記載の電極状態判定装置。
【請求項4】
2以上の被溶接材料を一対の溶接電極で加圧方向に加圧して電流を流し、前記被溶接材料の内部で金属が熔解して凝固することで前記被溶接材料を溶接する溶接機に用いられる前記溶接電極の状態を判定する電極状態判定装置であって、
前記一対の溶接電極の少なくとも一方(以後、溶接電極と呼ぶ)を撮影して前記溶接電極の画像を取得する撮像部と、
前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識するマーク認識部と、
前記画像上の前記マークに基づいて、前記溶接電極の状態を検出する状態検出部と、
前記溶接電極の状態を判定する状態判定部と、
を備え、
前記溶接電極は、
前記加圧方向における前記溶接電極の先端部分を成す溶接チップと、
前記溶接チップが嵌められる一端と、前記溶接機のホルダー部に嵌る、前記一端に対向する他端とを有するシャンクと、
を備え、
前記マーク認識部は、前記溶接電極の画像から、前記溶接チップの表面に付された第1のマーク、及び前記シャンクの表面に付された第2のマークを認識し、
前記状態検出部は、前記画像上の前記第1のマーク及び前記第2のマークに基づいて、前記溶接電極の状態を検出する
ことを特徴とす
る電極状態判定装置。
【請求項5】
前記状態検出部は、前記画像上の前記第1のマークと前記第2のマークの間の相対的な位置に基づいて、前記シャンクに対する前記溶接チップの状態を検出することを特徴とする請求項
4に記載の電極状態判定装置。
【請求項6】
2以上の被溶接材料を一対の溶接電極で加圧方向に加圧して電流を流し、前記被溶接材料の内部で金属が熔解して凝固することで前記被溶接材料を溶接する溶接機に用いられる前記溶接電極の状態を判定する電極状態判定装置であって、
前記一対の溶接電極の少なくとも一方(以後、溶接電極と呼ぶ)を撮影して前記溶接電極の画像を取得する撮像部と、
前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識するマーク認識部と、
前記画像上の前記マークに基づいて、前記溶接電極の状態を検出する状態検出部と、
前記溶接電極の状態を判定する状態判定部と、
を備え、
前記溶接電極は、
前記加圧方向における前記溶接電極の先端部分を成す溶接チップと、
前記溶接チップが嵌められる一端と、前記溶接機のホルダー部に嵌る、前記一端に対向する他端とを有するシャンクと、
を備え、
前記撮像部が取得する前記画像には、前記シャンク及び前記ホルダー部が含まれ、
前記マーク認識部は、前記シャンク及び前記ホルダー部の画像から、前記シャンクの表面に付された第2のマーク、及び前記ホルダー部の表面に付された第3のマークを認識し、
前記状態検出部は、前記画像上の前記第2のマーク及び前記第3のマークに基づいて、前記溶接電極の状態を検出する
ことを特徴とす
る電極状態判定装置。
【請求項7】
前記状態検出部は、前記画像上の前記第2のマークと前記第3のマークの間の相対的な位置に基づいて、前記ホルダー部に対する前記シャンクの状態を検出することを特徴とする請求項
6に記載の電極状態判定装置。
【請求項8】
前記状態判定部による判定結果に基づき、前記溶接電極に異常があることを示す通知を出力する判定結果出力部を更に備えることを特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載の電極状態判定装置。
【請求項9】
2以上の被溶接材料を一対の溶接電極で加圧方向に加圧して電流を流し、前記被溶接材料の内部で金属が熔解して凝固することで前記被溶接材料を溶接する溶接機に用いられる前記溶接電極の状態を判定する電極状態判定装置であって、
前記一対の溶接電極の少なくとも一方(以後、溶接電極と呼ぶ)を撮影して前記溶接電極の画像を取得する撮像部と、
前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識するマーク認識部と、
前記画像上の前記マークに基づいて、前記溶接電極の状態を検出する状態検出部と、
前記溶接電極の状態を判定する状態判定部と、
前記状態判定部による判定結果に基づき、前記溶接機又は前記溶接機を保全する保全装置の制御条件を変更する判定結果出力部と、
を備え、
前記判定結果出力部は、前記溶接機の制御条件の変更として、前記被溶接材料を前記一対の溶接電極で加圧方向に加圧し且つ電流を流さない空打ち動作を行うよう前記溶接機を制御する指令を出力することを特徴とする電極状態判定装置。
【請求項10】
前記状態検出部は、前記画像上の前記マークに基づいて、前記溶接電極の状態として、前記溶接電極の前記加圧方向の位置又は座標、前記加圧方向に対して前記溶接電極の中心軸が成す傾斜角、前記溶接電極の変形、前記加圧方向を回転軸とする前記溶接電極の回転角度、及び前記溶接電極の表面の汚れの少なくともいずれか1つを検出することを特徴とする請求項
1に記載の電極状態判定装置。
【請求項11】
2以上の被溶接材料を一対の溶接電極で加圧方向に加圧して電流を流し、前記被溶接材料の内部で金属が熔解して凝固することで前記被溶接材料を溶接する溶接機に用いられる前記溶接電極の状態を判定する電極状態判定方法であって、
前記溶接機が行う特定作業の後に前記一対の溶接電極の少なくとも一方(以後、溶接電極と呼ぶ)を撮影して
前記特定作業の後の前記溶接電極の画像を取得し、
前記特定作業の後の前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識し、
前記画像上の前記マークに基づいて、
前記特定作業の後の前記溶接電極の状態を検出し、
前記特定作業の前に前記溶接電極の画像を取得し、
前記特定作業の前の前記溶接電極の画像から、前記溶接電極の表面に付されたマークを認識し、
前記画像上の前記マークに基づいて、前記特定作業の前の前記溶接電極の状態を検出し、
前記特定作業の後の前記溶接電極の状態を、前記特定作業の前の前記溶接電極の状態と比較することにより、前記溶接電極の状態を判定する
ことを特徴とする電極状態判定方法。
【請求項12】
2以上の被溶接材料を一対の溶接電極で加圧方向に加圧して電流を流し、前記被溶接材料の内部で金属が熔解して凝固することで前記被溶接材料を溶接する溶接機に用いられる、前記溶接電極の先端部分を成す溶接チップであって、
前記加圧方向における前記溶接チップの前記被溶接材料側に位置し、その表面が研磨される先端部と、
前記加圧方向における前記溶接チップの前記被溶接材料の逆側に位置し、その表面が研磨されない基盤部と、を備え、
前記基盤部の表面には、撮像部で撮像した画像から認識することができる第1のマークが付され
、
前記第1のマークは、
前記加圧方向に対して溶接チップの中心軸が成す角度を示す要素、
前記溶接チップの中心軸周り角度を示す要素、及び
前記溶接チップの中心軸方向の位置を示す要素
のうちの少なくとも1つの要素を含んでいる
ことを特徴とする溶接チップ。
【請求項13】
前記加圧方向における前記第1のマークの中心は、前記加圧方向における前記基盤部の中心よりも前記被溶接材料の逆側に位置していることを特徴とする請求項
12に記載の溶接チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機に用いられる溶接電極の状態を判定する電極状態判定装置及び電極状態判定方法、及び溶接機に用いられる溶接チップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2009-107024号公報には、溶接対象となる部材の溶接領域を監視するための装置が開示されている。具体的に、特開2009-107024号公報には、この装置が、溶接領域を撮像(再生)するための手段と、撮像手段(再生手段)の中または前方に設けられた少なくとも1つのフィルタと、紫外線放射可能な溶接領域を照明するための手段とを備え、フィルタが、ほぼ紫外線波長範囲内の波長をフィルタリングすることに適したバンドパスフィルタから成ることが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接機に用いられる溶接電極を構成する部品(例えば、溶接チップ及びシャンク)は、テーパー嵌合によって接続される、いわゆる「嵌め合い部品」であるのが一般的である。このため、加圧/通電作業又は溶接チップの研磨作業などによって、これらの部品が溶接機本体から抜け落ちてしまう恐れがあった。
【0005】
特開2009-107024号公報に開示された装置は、溶接対象となる部材の溶接領域を監視するが、溶接機が備える溶接電極の状態を監視していない。そのため、溶接電極の抜けの予兆を検出することができない。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑み、溶接電極の抜けの予兆を検出することができる電極状態判定装置及び電極状態判定方法、及び抜けの予兆を検出可能な溶接チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明の一態様に係る電極状態判定装置は、溶接機に用いられる溶接電極を撮影して溶接電極の画像を取得する撮像部と、溶接電極の画像から、溶接電極の表面に付されたマークを認識するマーク認識部と、画像上のマークに基づいて、溶接電極の状態を検出する状態検出部と、溶接電極の状態を判定する状態判定部とを備える。
【0008】
本発明の他の態様に係る溶接チップは、溶接機に用いられる、溶接電極の先端部分を成す溶接チップである。溶接チップは、被溶接材料を加圧する加圧方向における溶接チップの被溶接材料側に位置し、その表面が研磨される先端部と、加圧方向における溶接チップの被溶接材料の逆側に位置し、その表面が研磨されない基盤部とを備える。基盤部の表面には、撮像部で撮像した画像から認識することができる第1のマークが付されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接電極の抜けの予兆を検出する電極状態判定装置及び電極状態判定方法、及び抜けの予兆を検出可能な溶接チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、溶接機が備える溶接ガン部29の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のうち、一対の溶接電極(10、20、31)及びその間に配置されたワークWを拡大して示す図である。
【
図3A】
図3Aは、溶接チップ10の詳細な構成を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、シャンク20の詳細な構成を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、溶接チップ10の基準状態を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、溶接チップ10の異常な状態の一例として、シャンク20に対して溶接チップ10の回転角度がずれている状態を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、溶接チップ10の異常な状態の他の例として、シャンク20の中心軸に対して溶接チップの中心軸が傾いている状態を示す図である。
【
図4D】
図4Dは、溶接チップ10の異常な状態の他の例として、シャンク20に対して溶接チップ10の位置が加圧方向Fにずれている状態を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係わる電極状態判定装置、溶接機28、溶接機28を保全する保全装置(42、43)の構成を示すブロック図である。
【
図6A】
図6Aは、
図5に示す電極状態判定装置を用いた電極状態判定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6B】
図6Bは、第2実施形態に係る電極状態判定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、溶接チップ10の中心軸O周りに120度(α2)以下の間隔で基盤部12の表面に付された、少なくとも3つの部分マークを備える第1のマークM1を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、第1のマークM1の第1の変形例を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、第1のマークM1の第2の変形例を示す図である。
【
図8C】
図8Cは、第1のマークM1の第3の変形例を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、第4実施形態に係る溶接電極27の詳細な構成を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、第4実施形態に係るホルダー部30の詳細な構成を示す図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態に係わる電極状態判定装置41、溶接機28、溶接機28を保全する保全装置(42、43)の構成を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、
図10に示す電極状態判定装置41を用いた電極状態判定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図11B】
図11Bは、第5実施形態に係る電極状態判定方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。説明において、同一のものには同一符号を付して重複説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
(溶接装置)
第1~第3の実施形態に係わる電極状態判定装置を説明する前に、電極状態判定装置による判定の対象となる溶接電極を備える溶接機の構成の一例について説明する。
【0013】
図1に示すように、溶接機は溶接ガン部29を備える。溶接ガン部29は、例えば2枚以上の鉄板、アルミニウム板等の板金からなる被溶接材料(母体及びワークを含む)Wを一対の溶接電極(10、20、31)で加圧方向Fに加圧して電流を流し、被溶接材料(以後、「ワーク」と呼ぶ)Wの内部で金属が熔解して凝固することでワークWを溶接する。つまり、溶接機は、溶接したい2枚以上のワークWに直接、例えば交流電流を流し、材料の抵抗およびワークW同士の接触面の集中抵抗によるジュール熱を発生させ、ワークWを熔解させ、熔解と同時に加圧することによってワークWを接合する。実施形態では、抵抗スポット溶接の一例として、溶接電極(10、20、31)の各々の加圧方向Fが対向するダイレクトスポット溶接を例に挙げて説明するが、溶接電極(10、20、31)の各々の加圧方向Fが対向しないインダイレクトスポット溶接及びシリーズスポット溶接にも適用することができる。
【0014】
溶接電極31は、ホルダー部32の一端に機械的に接続され、ホルダー部32の他端は固定アーム33の一端に機械的に接続されている。固定アーム33の他端は溶接機本体に固定されている。このように、溶接電極31は、ホルダー部32及び固定アーム33を介して、溶接機本体に固定されている固定電極である。
【0015】
一方、対の一方側の溶接電極(10、20)は、ホルダー部30を介して、加圧用のシリンダ34の可動部に機械的に接続され、シリンダ34は溶接機本体に固定されている。シリンダ34の可動部が動くことにより、溶接電極(10、20)は加圧方向Fに移動する。溶接電極(10、20)は、溶接機本体に対して加圧方向Fに移動可能な可動電極である。
【0016】
互いに向かい合う一対の溶接電極(10、20、31)の間にワークWを配置し、シリンダ34を駆動させることにより、一対の溶接電極(10、20、31)は、加圧方向FにワークWを挟み、さらにワークWを加圧することができる。通電時に供給される大電力は、溶接トランス35を介して供給される。
【0017】
図2に示すように、ワークWに対して一方側(上側)に配置された可動電極(10、20)は、溶接チップ10と、溶接チップ10に機械的かつ電気的に接続されるシャンク20とを備える。溶接チップ10は、加圧方向Fにおける溶接電極(10、20)の先端部分を成し、加圧時及び通電時においてワークWに接する部分である。シャンク20の一端には、溶接チップ10が嵌められる。一端に対向するシャンク20の他端には、
図1に示す溶接機のホルダー部30に嵌められる。
【0018】
一方、ワークWに対して他方側(下側)に配置された固定電極31は、溶接チップのみから構成される。固定電極31は、
図1に示す溶接機のホルダー部32に嵌められる。
図1及び
図2に示す1対の溶接電極(10、20、31)の構成は一例であり、これらに限定されるものではない。例えば、上下双方ともに、溶接チップとシャンクとを組み合わせてもよいし、溶接チップのみで構成してもよい。ここで、可動電極(10、20)及び固定電極31の双方ともに、それらの内部には、冷却水を流すための流路が形成されている。冷却水は通電時に発生する熱を吸収し、ナゲットの凝固を促進させる。これにより、溶接電極(10、20、31)の抜けの要因となるワークWへの溶着を抑制することができる。
【0019】
溶接電極を成す部品(溶接チップ10、31及びシャンク20)は、テーパー嵌合によって接続される、いわゆる「嵌め合い部品」である。溶接電極を成す部品の材料は、特に限定はせず、例えば、クロム銅、クロムジルコニウム銅など、既知の材料を用いることができる。
【0020】
図3Aを参照して、溶接チップ10の詳細な構成を説明する。溶接チップ10は、加圧方向Fにおける溶接電極のワークW側に位置し、その表面が研磨される先端部11と、加圧方向Fにおける溶接チップ10のワークWの逆側、即ちシャンク20側に位置し、その表面が研磨されない基盤部12とを備える。先端部11の形状は、ワークWの形状などに応じて様々なタイプがあるが、ここでは、先端部11は半球型の外形を有している。基盤部12は、先端部11と一体を成し、先端部11の半球型形状に連続する円柱状の外形を有している。すなわち、先端部11及び基盤部12は同じ直径を有している。基盤部12の形状も、ワークWの形状に応じて様々なタイプがあり、ここではその一例を示す。
図3Aには示さないが、基盤部12の底部にはテーパー状の穴が形成され、基盤部12の底部は、後述するシャンク20のテーパー状のチップ側シャフト部21とテーパー嵌合によって接続される。
【0021】
基盤部12の表面には、撮像部45で撮像した画像から認識することができる第1のマークM1が付されている。第1のマークM1は、画像上で認識されることにより、溶接チップ10の位置、角度、回転及び変形の有無などの溶接チップ10の状態を示すことができる。第1のマークM1を基盤部12の表面に付す方法は、特に問わず、印刷、刻印などの既知の方法を用いることができる。
【0022】
第1のマークM1には、様々なものが含まれるが、ここではその一例を、
図3Aに示す。第1のマークM1は、加圧方向Fに垂直な方向に延びる2本の線分(H1、H2)と、加圧方向Fに平行な方向に延びる6本の線分(L1~L6)とを有する。線分の数は限定されず、1又は2以上であってもよい。加圧方向Fに平行な方向に延びる6本の線分(L1~L6)は、
図3Aに示すように、溶接チップ10の中心軸(O)周りに60度(α1)の等間隔で配置されている。6本の線分(L1~L6)は、加圧方向Fにおけるシャンク20側に位置し、各線分(L1~L6)の一端付近には数字が付されているので、画像上において互いに識別可能である。
【0023】
2本の線分(H1、H2)は6本の線分(L1~L6)と交差し、基盤部12の外周全体に付されている。2本の線分(H1、H2)は、加圧方向Fにおけるシャンク20側に位置している。よって、2本の線分(H1、H2)及び6本の線分(L1~L6)からなる第1のマークM1の加圧方向Fの中心は、加圧方向Fにおける基盤部12の中心よりもワークWの逆側に位置していることになる。
【0024】
図3Bを参照して、シャンク20の詳細な構成を説明する。シャンク20は、チップ側シャフト部21と、中央部22と、ホルダー側シャフト部23とを備える。
【0025】
チップ側シャフト部21は、加圧方向FにおけるワークW側に位置し、側面がテーパー状に加工されている。チップ側シャフト部21は、溶接チップ10の底部に形成されたテーパー状の穴に挿入され、溶接チップ10はテーパー嵌合によってシャンク20に固定される。これにより、溶接チップ10はシャンク20に機械的及び電気的に接続される。溶接チップ10がシャンク20に固定された状態において、チップ側シャフト部21は、溶接チップ10により覆われるため、外部からは視認できない。
【0026】
中央部22は、加圧方向Fとは逆方向にチップ側シャフト部21に隣接し、直径が一定の円柱状の形状を有している。溶接チップ10がシャンク20に固定された状態において、中央部22の側面は、外部から視認可能である。
【0027】
ホルダー側シャフト部23は、加圧方向Fとは逆方向に中央部22に隣接し、側面がテーパー状に加工されている。ホルダー側シャフト部23は、ホルダー部30(
図1参照)の底部に形成されたテーパー状の穴に挿入され、シャンク20はテーパー嵌合によってホルダー部30に固定される。シャンク20がホルダー部30に固定された状態において、ホルダー側シャフト部23は、ホルダー部30により覆われるため、外部からは視認できない。ここで、チップ側シャフト部21、中央部22、ホルダー側シャフト部23は一体を成す1つの部品(シャンク20)である。
【0028】
中央部22の側面には、撮像部で撮像した画像から認識することができる第2のマークM2が付されている。第2のマークM2は、画像上で認識されることにより、シャンク20の位置、角度、回転及び変形の有無などのシャンク20の状態を示すことができる。第2のマークM2の付す方法は、特に問わず、印刷、刻印などの既知の方法を用いることができる。
【0029】
第2のマークM2には、様々なものが含まれるが、ここではその一例を、
図3Bに示す。第2のマークM2は、加圧方向Fに垂直な方向に延びる1本の線分(H3)と、加圧方向Fに平行な方向に延びる6本の線分(L7~L12)とを有する。線分の数は限定されず、1又は2以上であってもよい。加圧方向Fに平行な方向に延びる6本の線分(L7~L12)は、第1のマークの線分(H1~H6)と同様にして、シャンク20の中心軸(O)周りに60度(α1)の等間隔で配置されている。6本の線分(L7~L12)は、加圧方向Fにおける溶接チップ10側に位置し、各線分(L7~L12)の一端付近には数字が付されているので、画像上において互いに識別可能である。
【0030】
1本の線分(H3)は6本の線分(L7~L12)と交差し、中央部22の外周全体に付されている。1本の線分(H3)は、加圧方向Fにおける溶接チップ10側に位置している。よって、1本の線分(H3)及び6本の線分(L7~L12)からなる第2のマークM2の加圧方向Fの中心は、加圧方向Fにおける中央部22の中心よりも溶接チップ10側に位置していることになる。
【0031】
次に、
図4A~
図4Dを参照して、シャンク20に対して溶接チップ10が取り得る様々な状態の例を説明する。
【0032】
図4Aは、シャンク20に対して溶接チップ10が正常な位置に取り付けられている状態(基準状態)を示す。基準状態において、例えば、第1のマークM1は、第2のマークM2に対して、(1)~(3)に示す一定の条件を満たしている。
(1)溶接チップ10側の線分H1又はH2とシャンク20側の線分H3とは平行である。
(2)溶接チップ10側の線分H1又はH2からシャンク20側の線分H3までの距離は予め定めた一定の範囲内である。ここで、「一定の範囲」は、溶接チップ10及びシャンク20の加工精度により定まる設計的な事項である。
(3)溶接チップ10側の6つの線分(L1~L6)の各々は、シャンク20側の6つの線分(L7~L12)と同一直線上に位置している。
【0033】
この基準状態に基づいて、溶接チップ10の抜けの予兆となる、
図4B~
図4Dに示すような様々な異常な状態を第1のマーク及び第2のマークから判断することができる。
【0034】
例えば、
図4Bは、シャンク20に対する溶接チップ10の回転角度が基準値(例えば、0.1°)よりも大きい状態(回転状態)を示す。シャンク20に対する溶接チップ10の回転角度は、線分(L1~L6)と6つの線分(L7~L12)との周方向の位置ずれ量と溶接電極(10、20)の外径とから、算出することができる。
【0035】
図4Cは、シャンク20の中心軸に対して溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角が基準値(例えば、0.1°)よりも大きい状態(傾斜状態)を示す。シャンク20の中心軸に対して溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角は、例えば、線分H1又はH2と線分H3とが成す角度から、算出することができる。あるいは、6つの線分(L1~L6)の各々に対する6つの線分(L7~L12)が成す角度から前述した傾斜角を算出することもできる。
【0036】
図4Dは、シャンク20から溶接チップ10までの加圧方向Fの距離が基準値(例えば、0.5mm)以上に大きい状態(浮き上がり状態)を示す。シャンク20から溶接チップ10までの加圧方向Fの距離は、溶接チップ10側の線分H1又はH2からシャンク20側の線分H3までの距離から、算出することができる。
【0037】
その他の異常な状態として、溶接チップ10の一部分が変形した状態(変形状態)、溶接チップ10の表面の一部分が、通電時に発生する金属酸化膜などで汚れた状態(汚染状態)などが例示される。変形状態も、第1のマーク及び第2のマークから判断することができる。汚染状態については、例えば、先端部11の表面の色の要素(彩度、明度、色相)から、定量的な判断が可能である。
【0038】
電極状態判定装置は、溶接電極27の状態として、シャンク20に対する溶接チップ10の回転角度、シャンク20の中心軸に対して溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角、及びシャンク20から溶接チップ10までの加圧方向Fの距離を算出する。そして、基準状態(
図4A)における回転角度、傾斜角、及び距離と比較することにより、溶接チップ10の抜けの予兆となる、
図4B~
図4Dに示すような様々な異常な状態を判定することができる。
【0039】
なお、基準状態(
図4A)における回転角度、傾斜角、及び距離は、一定の値であるので、あらかじめ回転角度、傾斜角、及び距離を測定し、測定データを後述する記憶装置47に記憶させておくことができる。
【0040】
また、
図4B~
図4Dに示した複数の異常な状態が同時に発生した場合であっても、一定の関係(1)、(2)及び(3)からのずれ量に基づいて、回転状態、傾斜状態、及び浮き上がり状態を組み合わせて判定することができる。もちろん、これらに、さらに変形状態及び汚染状態を組み合わせて判定することもできる。
【0041】
(電極状態判定装置)
次に、
図5を参照して、実施形態に係わる電極状態判定装置及びその周辺装置の構成を説明する。電極状態判定装置41は、
図1~
図4Dを参照して説明した溶接機28に用いられる溶接電極27の状態を判定する装置である。電極状態判定装置41は、撮像部45と、コントローラ44と、記憶装置47と、通信部48とを備える。
【0042】
撮像部45は、溶接機28が備える一対の溶接電極(10、20、31)の少なくとも一方(以後、「溶接電極27」と呼ぶ)を撮影して溶接電極27の画像を取得する。撮像部45は、受光した光をデジタルデータに変換するデジタルカメラである。撮像部45は溶接機28又は溶接ガン部29に固定することができる。これにより、画像上の一定の位置に溶接電極27を撮影することができるので、後述する、画像からマークを認識する処理を高速化又は簡略化することができる。例えば、
図1の固定アーム33又は溶接トランス35上に撮像部45を取り付けることができる。もちろん、撮像部45は、溶接機28又は溶接ガン部29に固定していなくてもよい。撮像部45の台数は特に問わず、1台又は2台以上である。複数台の撮像部45を備える場合、溶接電極27の周囲を広い範囲で撮影できるので、溶接電極27の状態をより詳細に検出することができる。撮像部45により取得された画像データは、コントローラ44へ転送される。
【0043】
コントローラ44は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備えるマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータをコントローラ44として機能させるためのコンピュータプログラム(電極状態判定プログラム)を、マイクロコンピュータにインストールして実行する。これにより、マイクロコンピュータは、コントローラ44が備える複数の具体的な情報処理部として機能させることができる。ここでは、ソフトウェアによってコントローラ44を実現する例を示すが、もちろん、各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、コントローラ44を構成することも可能である。専用のハードウェアには、実施形態に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や従来型の回路部品のような装置を含む。また、実施形態では、コントローラ44と溶接ガン制御部49とを異なる部材として説明するが、1つの部材として構成してもよい。
【0044】
コントローラ44は、複数の具体的な情報処理部として、マーク認識部51と、状態検出部52と、状態判定部53と、判定結果出力部54とを備える。
【0045】
マーク認識部51は、撮像部45により取得された溶接電極27の画像データから、溶接電極27の表面に付されたマークを認識する。ここでは「溶接電極27」として、溶接チップ10及びシャンク20を備える溶接電極(可動電極)を例に挙げて説明するが、溶接電極31(固定電極)にも適用できる。「溶接電極27の表面に付されたマーク」には、溶接チップ10上に付された第1のマークM1と、シャンク20上に付された第2のマークM2と、が含まれる。
【0046】
マーク認識部51は、既知のパターンマッチング処理(パターン照合処理)によりマークを認識することができる。具体的に、記憶装置47には、あらかじめ、第1のマークM1の形状及び第2のマークM2の形状を示すデータが記憶されている。そして、マーク認識部51は、第1のマークM1の形状及び第2のマークM2の形状を示すデータを記憶装置47から読み出し、これらのデータを参照しながら、溶接電極27の画像から同一又は類似な部分を抽出する。マーク認識部51は、認識した第1のマークM1及び第2のマークM2の画像上の位置(ピクセル位置)を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。
【0047】
状態検出部52は、画像上のマークに基づいて、溶接電極27の状態を検出する。具体的には、画像上の第1のマークM1及び第2のマークM2に基づいて、溶接電極27の状態を検出する。第1実施形態では、状態検出部52は、画像上の第1のマークM1と第2のマークM2の間の相対的な位置に基づいて、シャンク20に対する溶接チップ10の状態を数値化する。
【0048】
例えば、状態検出部52は、シャンク20に対する溶接チップ10の状態として、
図4B~
図4Dを用いて説明した、シャンク20に対する溶接チップ10の回転角度、シャンク20の中心軸に対して溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角、及びシャンク20から溶接チップ10までの加圧方向Fの距離のうちの少なくとも1つを算出する。
【0049】
状態検出部52は、
図4Bに示すように、6つの線分(L1~L6)と6つの線分(L7~L12)との周方向の位置ずれ量と溶接電極(10、20)の外径とから、シャンク20に対する溶接チップ10の回転角度を算出することができる。
【0050】
状態検出部52は、
図4Cに示すように、線分H1又はH2と線分H3とが成す角度から、シャンク20の中心軸に対して溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角を算出することができる。又は、状態検出部52は、6つの線分(L1~L6)の各々に対する6つの線分(L7~L12)が成す角度から前述した傾斜角を算出することもできる。
【0051】
状態検出部52は、
図4Dに示すように、溶接チップ10側の線分H1又はH2からシャンク20側の線分H3までの距離から、シャンク20から溶接チップ10までの加圧方向Fの距離を算出することができる。例えば、状態検出部52は、線分H1又はH2からシャンク20側の線分H3までの距離を、シャンク20から溶接チップ10までの加圧方向Fの距離としてもよい。状態検出部52は、認識した第1のマークM1及び第2のマークM2から溶接チップ10の変形量を算出することができる。さらには、溶接チップ10の表面の汚染量として、溶接チップ10の表面の色相、再度、明度を算出することができる。
【0052】
状態判定部53は、状態検出部52により検出された溶接電極27の状態を判定する。具体的には、状態判定部53は、状態検出部52により検出された溶接電極27の状態が、溶接チップ10の抜けの予兆となる、
図4B~
図4Dに示すような様々な異常な状態にあたるか否かを判定する。さらには、変形状態又は汚染状態であるか否かを判定する。
【0053】
例えば、状態判定部53は、状態検出部52により数値化された溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を基準値(基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離)と比較することにより、溶接電極27の状態を判定する。記憶装置47には、あらかじめ、基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離を示すデータが記憶されている。さらに、記憶装置47には、あらかじめ、状態検出部52により数値化された溶接電極27の状態と基準値との差に対する「しきい値」を示すデータが記憶されている。具体的に、状態判定部53は、状態検出部52により検出された回転角度、傾斜角、及び距離から、基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離をそれぞれ減算して、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差を算出する。状態判定部53は、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の少なくともいずれか1つが、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値を上回っていた場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「異常な状態」であると判定する。
【0054】
あるいは、状態判定部53は、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の各々を個別に判定してもよい。すなわち、状態判定部53は、回転角度の差が、回転角度のしきい値を上回っている場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「回転状態」であると判定する。状態判定部53は、傾斜角の差が、傾斜角のしきい値を上回っている場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「傾斜状態」であると判定する。状態判定部53は、距離の差が、距離のしきい値を上回っていた場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「浮き上がり状態」であると判定する。
【0055】
判定結果出力部54は、状態判定部53による判定結果に基づき、溶接機28又は溶接機28を保全する保全装置(42、43)の制御条件を変更する。例えば、判定結果出力部54は、溶接機28の制御条件の変更として、ワークWを一対の溶接電極(10、20、31)で加圧方向に加圧し且つ電流を流さない動作、すなわち「空打ち動作」を行うよう溶接機28を制御する指令を出力する。当該指令を示す信号は、送信部48を介して、溶接機28の溶接ガン制御部49に伝送される。溶接ガン制御部49は、当該指令に従い、空打ち動作を行うよう溶接ガン部29を制御する。ワークWを一対の溶接電極(10、20、31)で加圧方向Fに加圧することにより、異常な状態から基準状態へ、溶接チップ10の状態を改善することができる。
【0056】
判定結果出力部54は、保全装置の一例である電極研磨装置42の制御条件の変更として、研磨部56の研磨バフを溶接チップ10の先端部11に押し当てる力の最大値、押し当てる力の増加率、研磨バフの回転速度を制御する。具体的に、判定結果出力部54は、先端部11に押し当てる力の最大値又は押し当てる力の増加率を小さくし、又は研磨バフの回転速度を遅くする。これにより、研磨部56が溶接チップ10を噛み込むこと、溶接チップ10が回転すること、及び溶接チップ10が変形することを抑制することができる。研磨部56が溶接チップ10を噛み込むことにより、研磨部56が溶接チップ10に固着してしまい、溶接チップ10又はシャンク20が抜け落ちる原因となる。
【0057】
判定結果出力部54は、保全装置の一例である電極交換装置43の制御条件の変更として、シャンク20から溶接チップ10を取り外す作業と、新しい溶接チップをシャンク20に取り付ける取り付け作業を、電極交換装置43に指示することができる。溶接チップを交換することにより、異常な状態から基準状態へ、溶接チップ10の状態を改善することができる。
【0058】
判定結果出力部54は、状態判定部53による判定結果に基づき、溶接電極27に異常があることを示す異常判定通知、又は溶接電極27に異常がないことを示す正常判定通知を出力するように、出力装置46を制御することができる。判定結果出力部54は、異常判定通知及び正常判定通知に様々な付帯情報を含ませるように、出力装置46を制御することができる。
【0059】
記憶装置47は、マイクロコンピュータをコントローラ44として機能させるためのコンピュータプログラム(電極状態判定プログラム)、及び当該プログラムの実行途中で発生する様々なデータを一時的に記憶する。ここで、「様々なデータ」には、マーク認識部51により抽出された第1のマークM1及び第2のマークM2の画像上の位置、状態検出部52により数値化された溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、距離)、回転角度の差、傾斜角の差、距離の差、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値、状態判定部53による判定結果、が含まれる。
【0060】
出力装置46は、例えば、溶接機28の周囲で作業を行う作業者や作業監督者、保全員などの関係者が保持するスマートフォン、タブレット端末、ラップトップパソコンなどのモバイル端末であり、ディスプレイ又はスピーカ等の画像又は音声の出力手段、及び携帯電話通信網又は近距離無線通信によりコントローラ44と通信を行う通信手段とを備える。
【0061】
出力装置46は、状態判定部53による判定結果に基づき、溶接電極27に異常があることを示す異常判定通知、又は溶接電極27に異常がないことを示す正常判定通知を、溶接機28の周囲で作業を行う作業者や作業監督者、保全員などの関係者に対して出力する。出力装置46は、異常判定通知及び正常判定通知に、様々な付帯情報を含ませることができる。「様々な付帯情報」には、マーク認識部51により抽出された第1のマークM1及び第2のマークM2の画像上の位置、状態検出部52により数値化された溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、距離)、回転角度の差、傾斜角の差、距離の差、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値が含まれる。これにより、作業者や作業監督者、保全員などの溶接機28の関係者は、異常判定通知及び正常判定通知及びそれに付帯する情報を容易に認識することができる。
【0062】
通信部48は、溶接ガン制御部49、研磨制御部50、及び電極交換装置43との間で、無線LAN、ブルートゥース(Bluetooth)(登録商標)の少なくとも1つの近距離無線通信規格に基づく無線通信を行う。あるいは、通信部48と溶接ガン制御部49、研磨制御部50、及び電極交換装置43との間をケーブル(例えば、USBケーブル)で接続して通信を行っても構わない。
【0063】
溶接機28は、溶接ガン部29と、溶接ガン制御部49とを備える。溶接ガン制御部49は、溶接ガン部29の加圧動作及び通電動作を制御する。溶接ガン制御部49は、コントローラ44と同様に、汎用のマイクロコンピュータと専用のコンピュータプログラムの組み合わせ、又は専用のハードウェア(特定用途向け集積回路や従来型の回路部品)にて、実現可能である。
【0064】
電極研磨装置42は、研磨部56と、研磨制御部50とを備える。溶接機28が溶接作業を繰り返し行うと、溶接チップ(10、31)は、その先端の形状が磨耗又は変形し、障害を引き起こす原因となる。即ち、磨耗又は変形した溶接チップ10で溶接作業を行うと、ナゲットが拡大して溶接チップ10の溶着が発生し、あるいは、接着不良が発生する場合がある。さらに、溶接機28の消費電力が増加し、コスト増加の要因ともなる。よって、電極研磨装置42は、通常400~700回打点毎に、溶接チップ(10、31)の先端部11を研磨して原形に修正する。
【0065】
研磨部56は、溶接チップ10の先端部11を例えば研磨バフを用いて研磨する。研磨部56は、研磨バフを先端部11に押し当てた状態で回転させる。研磨制御部50は、研磨部56を制御する。具体的に、研磨制御部50は、研磨バフを先端部11に押し当てる力の強さ、研磨バフの回転速度、研磨時間、などを制御する。研磨制御部50は、電極状態判定装置41の通信部48に接続され、通信部48から送信される指令に従い、研磨部56の動作を制御する。
【0066】
電極交換装置43は、シャンク20にテーパー嵌合されている溶接チップ10を取り外す作業と、新しい溶接チップをシャンク20に取り付ける取り付け作業とを行う装置である。取り外し作業を行う取り外し装置と、取り付け作業を行う取り付け装置とが別個独立していてもよい。電極交換装置43は、電極状態判定装置41の通信部48に接続され、通信部48から送信される指令に従い、溶接チップ10の取り外し作業及び取り付け作業を実行することができる。
【0067】
(電極状態判定方法)
図6Aを参照して、
図5に示す電極状態判定装置を用いた電極状態判定方法の一例を説明する。ステップS01において、撮像部45は、溶接機28が特定作業を行った後に溶接電極27の画像を取得する。具体的に、撮像部45は、溶接チップ10及びシャンク20の画像を取得する。ここで、「特定作業」とは、溶接チップ10の異常な状態(
図4B~
図4D)が発生する恐れのある作業であって、例えば、溶接作業(加圧作業及び通電作業)及びチップドレス作業(チップ研磨作業)が含まれる。あるいは、特定作業を所定回数繰り返した後に、溶接電極27の画像を取得してもよい。
【0068】
ステップS02へ進み、マーク認識部51は、撮像部45により取得された溶接電極27の画像データから、溶接電極27の表面に付されたマークを認識する。具体的には、マーク認識部51は、溶接チップ10上に付された第1のマークM1と、シャンク20上に付された第2のマークM2を認識する。マーク認識部51は、認識した第1のマークM1及び第2のマークM2の画像上の位置を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。
【0069】
ステップS03へ進み、状態検出部52は、画像上のマークに基づいて、溶接電極27の状態を検出する。具体的には、画像上の第1のマークM1及び第2のマークM2に基づいて、溶接電極27の状態を検出する。第1実施形態では、状態検出部52は、画像上の第1のマークM1と第2のマークM2の間の相対的な位置に基づいて、シャンク20に対する溶接チップ10の状態を数値化する。
【0070】
例えば、ステップS03において、状態検出部52は、シャンク20に対する溶接チップ10の状態として、
図4B~
図4Dを用いて説明した、シャンク20に対する溶接チップ10の回転角度、シャンク20の中心軸に対して溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角、及びシャンク20から溶接チップ10までの加圧方向Fの距離のうちの少なくとも1つを算出する。
【0071】
ステップS04及びS05において、状態判定部53は、状態検出部52により検出された溶接電極27の状態を判定する。具体的には、状態判定部53は、状態検出部52により検出された溶接電極27の状態が、溶接チップ10の抜けの予兆となる、
図4B~
図4Dに示すような様々な異常な状態にあたるか否かを判定する。
【0072】
まず、ステップS04において、状態判定部53は、ステップS03において数値化された溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を、記憶装置47に記憶されている基準値(基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離)と比較する。具体的に、状態判定部53は、ステップS03において検出された回転角度、傾斜角、及び距離から、基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離をそれぞれ減算して、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差を算出する。
【0073】
そして、ステップS05において、状態判定部53は、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差を、記憶装置47に記憶されているしきい値(回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値)と比較する。具体的に、状態判定部53は、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の少なくともいずれか1つが、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値を上回っていた場合(S05でYES)、溶接チップ10の抜けの予兆となる「異常な状態」であると判定する。一方、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差のいずれも、しきい値を上回っていない場合(S05でNO)、溶接チップ10の抜けの予兆となる「異常な状態」ではないと判定する。S05でYESの場合、ステップS06へ進み、S05でNOの場合、ステップS08へ進む。もちろん、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の全てが、しきい値を上回っている場合に「異常な状態」であると判定し、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の少なくともいずれか1つが、しきい値を上回っていない場合に「異常な状態」でないと判定してもよい。
【0074】
ステップS06において、判定結果出力部54は、ステップS05における判定結果(異常判定)に基づき、溶接電極27に異常があることを示す異常判定通知及び様々な付帯情報を出力するように、出力装置46を制御する。また、判定結果出力部54は、ステップS05における判定結果(異常判定)及び様々な付帯情報を示すデータを記憶装置47に記憶させる。
【0075】
ステップS07に進み、判定結果出力部54は、ステップS05における判定結果に基づき、溶接機28を保全する保全装置(42、43)の制御条件を変更する。その一例として、保全装置の一例である電極研磨装置42の制御条件を変更する。具体的には、判定結果出力部54は、溶接チップ10の先端部11に研磨バフを押し当てる力の最大値又は押し当てる力の増加率を小さくし、又は研磨バフの回転速度を遅くする。これにより、研磨部56が溶接チップ10を噛み込むことを抑制することができる。
【0076】
ステップS07において、溶接機28の制御条件を変更してもよい。判定結果出力部54は、溶接機28の制御条件の変更として、「空打ち動作」を行うよう溶接機28を制御する指令を出力することができる。
【0077】
ステップS07において、保全装置の他の例である電極交換装置43の制御条件を変更してもよい。判定結果出力部54は、電極交換装置43の制御条件の変更として、シャンク20から溶接チップ10を取り外す作業、及び新しい溶接チップをシャンク20に取り付ける取り付け作業を、電極交換装置43に指示することができる。
【0078】
ステップS08に進み、溶接電極27の監視を継続する場合(S08でNO)、ステップS01に戻り、溶接電極27の監視を終了する場合(S08でYES)、
図6Aにフローチャートは終了する。
【0079】
第1のマークM1は、加圧方向Fに対して溶接チップ10の中心軸Oが成す角度を示す要素として、線分H1、H2及び線分L1~L6を備える。第1のマークM1は、溶接チップ10の中心軸O周り角度(回転角度)を示す要素として、線分L1~L6を備える。第1のマークM1は、溶接チップ10の中心軸O方向の位置を示す要素として、線分H1、H2を備える。これにより、第1のマークM1から、
図4B~
図4Dに示した様々な異常な状態を判定することができる。
【0080】
図3A及び
図3Bには、加圧方向Fに平行な方向に延びる線分を、第1のマークM1および第2のマークM2について、それぞれ6本示したが、6本に限定されない。例えば、
図7に示すように、第1のマークM1は、溶接チップ10の中心軸O周りに120度(α2)以下の間隔で前記基盤部の表面に付された、少なくとも3つの部分マークを備えいればよい。部分マークとして、加圧方向Fに平行な方向に延びる線分(L1~L3)を適用することができる。第2のマークM2についても同様である。これにより、撮像部45の撮影角度に依存せずに、少なくとも1つの部分マークを撮影することができる。撮像部45の設置位置又は撮影角度の自由度を高めることができる。
【0081】
第1のマークM1は、
図3A及び
図7に示した態様に限定されない。例えば、
図8Aに示すように、1又は2以上の真円又は楕円を、同心円状又は並列に配置してもよい。
図8Aに示す第1のマークは、同心円状に配置された2つの新円とその中心を通る1本の線分とを組み合わせている。同心円状又は並列に配置された真円又は楕円の形状変化から、溶接チップ10の一部分が膨張する、あるいは座屈するなど、溶接チップ10が部分的に変形した状態を数値化することができる。
【0082】
図8Bに示す他の例で、第1のマークは、加圧方向Fに対して平行又は垂直でもない、斜め方向に延びる複数の線分を備える。これにより、網目状の表面加工および網状電線のような部材を装着する場合、そのまま撮像部45およびコントローラ44を用いて処理できる。また、溶接チップ10の一部分が膨張する、あるいは座屈するなど、溶接チップ10が部分的に変形した状態を数値化することができる。
【0083】
図8Cは、溶接チップ10の表面に、文字や数字、図形などを施した場合を示している。これにより、進歩の著しい文字認識や図形認識のようなAI機能を付加した撮像部45及びマーク認識部51で簡単で高精度に処理できるようになる。
【0084】
第1実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0085】
電極状態判定装置41は、一対の溶接電極(10、20、31)の少なくとも一方(溶接電極27)を撮影して溶接電極27の画像を取得する撮像部45と、溶接電極27の画像から、溶接電極27の表面に付されたマーク(M1、M2)を認識するマーク認識部51と、画像上のマーク(M1、M2)に基づいて、溶接電極27の状態を検出する状態検出部52と、溶接電極27の状態を判定する状態判定部を備える。よって、画像上のマーク(M1、M2)から溶接電極27の抜けの予兆となる異常な状態を検出することができる。
【0086】
撮像部45は、溶接機28が行う特定作業の後に溶接電極27の画像を取得する。マーク認識部51は、特定作業の後の溶接電極27の画像から、溶接電極27の表面に付されたマーク(M1、M2)を認識する。状態検出部52は、画像上のマーク(M1、M2)に基づいて、特定作業の後の溶接電極27の状態を検出する。状態判定部53は、特定作業の後の溶接電極の状態を基準状態と比較することにより、溶接電極27の状態を判定する。溶接作業及びチップドレス作業などの特定作業の後の溶接電極の状態を基準状態と比較することにより、溶接電極27の異常な状態を検出することができる。
【0087】
マーク認識部51は、溶接電極27の画像から、溶接チップ10の表面に付された第1のマークM1、及びシャンク20の表面に付された第2のマークM2を認識する。状態検出部52は、画像上の第1のマークM1及び第2のマークM2に基づいて、溶接電極27の状態を検出する。画像上の第1のマークM1及び第2のマークM2を用いることにより、溶接機28に対して撮像部45の位置及び向きを固定する必要がなくなり、撮像部45の設置に関する自由度が高まる。溶接機28に対する撮像部45の位置及び向きを考慮することなく、溶接電極27の状態を検出することができる。
【0088】
状態検出部52は、画像上の第1のマークM1と第2のマークM2の間の相対的な位置に基づいて、シャンク20に対する溶接チップ10の状態を検出する。画像上の第1のマークM1と第2のマークM2の間の相対的な位置を用いることにより、溶接機28に対して撮像部45の位置及び向きを固定する必要がなくなり、撮像部45の設置に関する自由度が高まる。溶接機28に対する撮像部45の位置及び向きを考慮することなく、溶接電極27の状態を検出することができる。
【0089】
電極状態判定装置41は、状態判定部53による判定結果に基づき、溶接電極27に異常があることを示す通知を出力する判定結果出力部54を更に備える。通知を受け取った作業者や作業監督者、保全員などの溶接機28の関係者は、異常判定通知を容易に認識することができる。
【0090】
判定結果出力部54は、状態判定部53による判定結果に基づき、溶接機28又は溶接機28を保全する保全装置(42、43)の制御条件を変更する。電極研磨装置42の研磨条件又は電極状態判定装置41の動作条件を変更して、異常な状態から基準状態へ、溶接チップ10の状態を改善することができる。
【0091】
判定結果出力部54は、溶接機28の制御条件の変更として、ワークWを一対の溶接電極(10、20、31)で加圧方向Fに加圧し且つ電流を流さない空打ち動作を行うよう溶接機28を制御する指令を出力する。ワークWを一対の溶接電極(10、20、31)で加圧方向Fに加圧することにより、異常な状態から基準状態へ、溶接チップ10の状態を改善することができる。
【0092】
保全装置は、溶接電極27の表面を研磨する電極研磨装置42及び溶接電極27を交換する電極交換装置43の少なくとも一方である。電極研磨装置42又は電極交換装置43の制御条件を変更することにより、異常な状態から基準状態へ、溶接チップ10の状態を改善することができる。
【0093】
状態検出部52は、画像上のマーク(M1、M2)に基づいて、溶接電極27の状態として、溶接電極27の加圧方向Fの位置又は座標、加圧方向Fに対して溶接電極27の中心軸Oが成す傾斜角、溶接電極27の変形、加圧方向Fを回転軸とする溶接電極27の回転角度、及び溶接電極の表面の汚れの少なくともいずれか1つを検出する。位置又は座標、傾斜角、回転角度、表面の汚れを検出することで、溶接電極27の状態を数値化することができる。よって、数値化された溶接電極27の状態を精度よく判定することができる。
【0094】
溶接チップ10は、加圧方向Fにおける溶接チップ10のワークW側に位置し、その表面が研磨される先端部11と、加圧方向Fにおける溶接チップ10のワークWの逆側に位置し、その表面が研磨されない基盤部12とを備える。基盤部12の表面には、撮像部45で撮像した画像から認識することができる第1のマークM1が付されている。撮像部45で撮像した画像から第1のマークM1を認識して、画像上の第1のマークM1から溶接チップ10の状態を判断することができる。
【0095】
加圧方向Fにおける第1のマークM1の中心は、加圧方向Fにおける基盤部12の中心よりもワークWの逆側、即ちシャンク20側に位置している。先端部11から離れることにより溶接作業時に発生する酸化膜などの電極表面の汚れが第1のマークM1に付きにくくすることができる。また、シャンク20の表面に付された第2のマークM2との距離を短くすることができるので、相対的な位置関係を精度よく算出することができる。
【0096】
(第2実施形態)
図6Aに示した方法において、撮像部45が溶接電極27の画像を取得するタイミングは、溶接機28が特定作業を行った後である。よって、ステップS03において検出される溶接チップ10の状態は、溶接機28が特定作業を行った後の状態である。そして、ステップS04では、溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を、予め記憶装置47に記憶されている基準値(基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離)と比較することになる。
【0097】
ここで、基準値あるいは基準状態は、予め定めた一定の値又は状態とする場合に限らず、溶接機28が特定作業を行った前に撮像部45で取得された溶接電極27の画像から定めてもよい。
【0098】
(電極状態判定方法)
第2実施形態では、
図6Bを参照して、溶接機28が特定作業を行った前に撮影された溶接電極27の画像に基づいて定められた基準値あるいは基準状態を用いて、溶接電極27の状態を判定する方法を説明する。
【0099】
図6Aと
図6Bを比較すると、
図6AのステップS01~S04の代わりに
図6BのステップS11~S14を実施する点が相違する。その後のステップS05~S08は、
図6Aと
図6Bは共通している。相違点を中心として以下に説明する。
【0100】
ステップS11において、撮像部45は、溶接機28が特定作業を行う前、及び溶接機28が特定作業を行った後の各々に、溶接電極27を撮像する。撮像部45は、特定作業前の画像、及び特定作業後の画像を取得する。
【0101】
ステップS12において、マーク認識部51は、特定作業前の画像データ、及び特定作業後の画像データの各々から、溶接電極27の表面に付された第1のマークM1及び第2のマークM2を認識する。マーク認識部51は、特定作業前の第1のマークM1及び第2のマークM2の画像上の位置、特定作業後の第1のマークM1及び第2のマークM2の画像上の位置を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。
【0102】
ステップS13において、状態検出部52は、特定作業前の画像上の第1のマークM1及び第2のマークM2に基づいて、特定作業前の溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を検出し、特定作業後の画像上の第1のマークM1及び第2のマークM2に基づいて、特定作業後の溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を検出する。
【0103】
ステップS14において、状態判定部53は、特定作業後の溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を、特定作業前の溶接電極27の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)と比較する。具体的に、状態判定部53は、特定作業後の回転角度、傾斜角、及び距離から、特定作業前の回転角度、傾斜角、及び距離をそれぞれ減算して、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差を算出する。
【0104】
ステップS05~S08については、
図6Aと同じであり説明を割愛する。
【0105】
以上説明したように、第2実施形態では、特定作業の前の溶接電極27の状態を基準状態とし、特定作業の前の回転角度、傾斜角、及び距離を基準値としている。これにより、比較の基準がより具体的となるので、より精度良く溶接チップ10の状態を判定することができる。
【0106】
(第3実施形態)
第1実施形態及び第2実施形態では、画像上の第1のマークM1と第2のマークM2の間の相対的な位置に基づいて、シャンク20に対する溶接チップ10の状態を検出する例を示した。
【0107】
溶接ガン部29に対して撮像部45の位置及び向きが固定され、撮像部45の画角が一定である場合、画像上の第1のマークM1の位置は特定される。よって、第1のマークM1と第2のマークM2の間の相対的な位置を用いずに、画像上の第1のマークM1の絶対的な位置(座標)に基づいて、溶接チップ10の状態を検出することが可能である。
【0108】
撮像部45は溶接機28又は溶接ガン部29に固定されている。例えば、撮像部45は、
図1の固定アーム33、可動アーム、又は溶接トランス35上に固定されている。よって、画像上の一定の位置に溶接電極27を撮影することができるので、画像からマークを認識する処理を高速化することができる。
【0109】
撮像部45は、溶接チップ10の画像を取得すればよい。したがって、シャンク20を画像内に含ませる必要はないため、溶接チップ10に付された第1のマークM1を更に拡大して撮影できるので、溶接チップ10の状態を精度よく検出することができる。
【0110】
マーク認識部51は、既知のパターンマッチング処理(パターン照合処理)により、溶接チップ10の表面に付された第1のマークM1を認識する。マーク認識部51は、認識した第1のマークM1の画像上の絶対的な位置(座標)を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。画像上の絶対的な位置として、座標の代わりに、ピクセル位置を記憶してもよい。
【0111】
状態検出部52は、画像上の第1のマークM1に基づいて、溶接チップ10の状態を検出する。具体的に、状態検出部52は、画像上の第1のマークM1の絶対的な位置(座標)に基づいて、溶接チップ10の状態として、溶接チップ10の回転角度、溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角、及び溶接チップ10の加圧方向Fの座標の少なくとも1つを算出する。
【0112】
状態検出部52は、画像上の6つの線分(L1~L6)の座標と溶接チップ10の外径とから、溶接チップ10の回転角度を算出することができる。
【0113】
状態検出部52は、線分H1又はH2の傾きから、溶接チップ10の中心軸が成す傾斜角を算出することができる。又は、状態検出部52は、6つの線分(L1~L6)の各々の傾きから前述した傾斜角を算出することもできる。
【0114】
状態検出部52は、溶接チップ10側の線分H1又はH2の加圧方向の座標から、溶接チップ10の加圧方向Fの座標を算出することができる。
【0115】
なお、第3実施形態において、状態検出部52により算出される回転角度、傾斜角、及び座標は、いずれも絶対値であり、相対的な値ではない。
【0116】
状態判定部53は、状態検出部52により検出された溶接電極27の状態を判定する。状態判定部53は、記憶装置47に予め記憶された、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び座標のしきい値(いずれのしきい値も絶対値である)を用いて、溶接電極27の状態を判定することができる。具体的には、状態判定部53は、状態検出部52により検出された回転角度、傾斜角、及び座標の少なくともいずれか1つが、記憶装置47に予め記憶された、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び座標のしきい値よりも大きい場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「異常な状態」であると判定する。
【0117】
あるいは、状態判定部53は、回転角度、傾斜角、及び座標の各々を個別に判定してもよい。すなわち、状態判定部53は、回転角度が、回転角度のしきい値よりも大きい場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「回転状態」であると判定する。状態判定部53は、傾斜角が、傾斜角のしきい値よりも大きい場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「傾斜状態」であると判定する。状態判定部53は、座標が、座標のしきい値よりも大きい場合、溶接チップ10の抜けの予兆となる「浮き上がり状態」であると判定する。
【0118】
判定結果出力部54、出力装置46、通信部48、溶接機28、電極研磨装置42、及び電極交換装置43の構成は、第1実施形態と同じであり、説明を割愛する。
【0119】
第3実施形態において、第1実施形態(
図6A)で説明した、特定作業の後の溶接チップ10の状態を、記憶装置47に予め記憶された基準状態(固定値)と比較する方法を用いることができる。記憶装置47には、基準状態(固定値)として、正常な状態における溶接チップ10の回転角度、傾斜角、及び座標(いずれも絶対値)が予め記憶されている。
【0120】
あるいは、第2実施形態(
図6B)で説明した、特定作業の後の溶接チップ10の状態を、特定作業の前の溶接チップ10の状態と比較する方法を適用してもよい。
【0121】
第3実施形態においては、いずれの方法も、次の点で、第1及び第2の実施形態と相違する。すなわち、第3実施形態は、画像上の第1のマークM1と第2のマークM2の間の相対的な位置の代わりに、画像上の第1のマークM1の絶対的な位置(座標)を用いる。そして、第3実施形態は、シャンク20に対する溶接チップ10の相対的な状態の代わりに、溶接チップ10の絶対的な状態を検出する。
【0122】
撮像部45は、溶接チップ10の画像を取得する。マーク認識部51は、溶接チップ10の画像から、溶接チップ10の表面に付された第1のマークM1を認識する。状態検出部52は、画像上の第1のマークM1に基づいて、溶接チップ10の状態を検出する。そして、状態判定部53は、溶接チップ10の状態を判定する。これにより、シャンク20の画像及び第2のマークM2の認識が不要となり、画像処理の負荷が軽減され、画像処理速度が向上する。
【0123】
(第4実施形態)
第1実施形態~第3実施形態では、溶接電極27のうち、溶接チップ10の状態を判定する例を示した。
図3A及び
図3Bに示した溶接チップ10とシャンク20との接続と同様に、シャンク20とホルダー部30の間も、テーパー嵌合により接続される。このため、溶接作業又はチップドレス作業など特定作業によって、容易に、シャンク20がホルダー部30から抜け落ちてしまう恐れがある。
【0124】
そこで、第4実施形態では、第1実施形態と同様にして、シャンク20の表面に付された第2のマークM3とホルダー部30の表面に付された第3のマークM4との相対的な位置に基づいて、ホルダー部30に対するシャンク20の状態を判定する。これにより、溶接電極(シャンク20)の抜けの予兆を検出することができる。
【0125】
(溶接電極及びホルダー部)
図9Aに示すように、溶接電極27は、溶接チップ10と、溶接チップ10に接続されたシャンク20とからなる。シャンク20は、
図3Bに示したように、チップ側シャフト部21と、中央部22と、ホルダー側シャフト部23とを備える。チップ側シャフト部21は、溶接チップ10により覆われるため、外部からは視認できない。
【0126】
中央部22は、加圧方向Fとは逆方向にチップ側シャフト部21に隣接し、直径が一定の円柱状の形状を有している。溶接チップ10がシャンク20に固定された状態において、中央部22の側面は、外部から視認可能である。
【0127】
ホルダー側シャフト部23は、加圧方向Fとは逆方向に中央部22に隣接し、側面がテーパー状に加工されている。ホルダー側シャフト部23は、ホルダー部30(
図1参照)の底部に形成されたテーパー状の穴に挿入され、シャンク20はテーパー嵌合によってホルダー部30に固定される。シャンク20がホルダー部30に固定された状態において、ホルダー側シャフト部23は、ホルダー部30により覆われるため、外部からは視認できない。チップ側シャフト部21、中央部22、ホルダー側シャフト部23は、一体を成す1つの部品である。
【0128】
中央部22の側面には、撮像部45で撮像した画像から認識することができる第2のマークM3が付されている。第2のマークM3は、画像上で認識されることにより、シャンク20の位置、角度、回転及び変形の有無などのシャンク20の状態を示すことができる。第2のマークM3の付す方法は、特に問わず、印刷、刻印などの既知の方法を用いることができる。
【0129】
図3Bに示した第2のマークM2と比べると、第2のマークM3は、加圧方向Fにおける中央部22の中心よりもホルダー部30側に位置している。さらに、第2のマークM3は、第1のマークM1と同様に、加圧方向Fに垂直な方向に延びる2本の線分と、加圧方向Fに平行な方向に延びる6本の線分とを有する。
【0130】
図9Bに示すように、ホルダー部30は、円柱状の形状を有し、ホルダー部30の溶接電極27側の端部にはテーパー状の穴が形成され、ホルダー部30の端部は、シャンク20のテーパー状のホルダー側シャフト部23とテーパー嵌合によって接続される。なお、第4~第6実施形態では、
図1及び
図2に示す溶接ガン部29の固定電極として、溶接チップ31の代わりに、シャンク20及び溶接チップ10の組み合わせで置き換えた場合を想定している。
【0131】
ホルダー部30の側面には、撮像部45で撮像した画像から認識することができる第3のマークM4が付されている。第3のマークM4は、画像上で認識されることにより、ホルダー部30の位置、角度、回転及び変形の有無などのホルダー部30の状態を示すことができる。第3のマークM4の付す方法は、特に問わず、印刷、刻印などの既知の方法を用いることができる。
【0132】
第3のマークM4には、様々なものが含まれるが、ここではその一例を、
図9Bに示す。第3のマークM4は、第2のマークM2と同様に、加圧方向Fに垂直な方向に延びる1本の線分と、加圧方向Fに平行な方向に延びる6本の線分とを有する。線分の数は限定されず、1又は2以上であってもよい。加圧方向Fに平行な方向に延びる6本の線分は、第2のマークM3の線分と同様にして、ホルダー部30の中心軸O周りに60度(α1)の等間隔で配置されている。6本の線分は、加圧方向Fにおけるシャンク20側に位置し、各線分の一端付近には数字が付されているので、画像上において互いに識別可能である。
【0133】
図4A~
図4Dに示したシャンク20に対する溶接チップ10の状態の例と同様にして、ホルダー部30に対してシャンク20は様々な状態を取り得る。具体的に、ホルダー部30に対してシャンク20が正しい位置に取り付けられた基準状態、ホルダー部30に対するシャンク20の回転角度が基準値(例えば、0.1°)よりも大きい状態(回転状態)、ホルダー部30の中心軸に対してシャンク20の中心軸が成す傾斜角が基準値(例えば、0.1°)よりも大きい状態(傾斜状態)、及び、ホルダー部30からシャンク20までの加圧方向Fの距離が基準値(例えば、0.5mm)以上に大きい状態(浮き上がり状態)を取り得る。
【0134】
電極状態判定装置41は、溶接電極27の状態として、ホルダー部30に対するシャンク20の回転角度、ホルダー部30の中心軸に対してシャンク20の中心軸が成す傾斜角、及びホルダー部30からシャンク20までの加圧方向Fの距離を算出する。そして、基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離と比較することにより、シャンク20の抜けの予兆となる、様々な異常な状態(回転状態、傾斜状態、浮き上がり状態)を判断することができる。
【0135】
(電極状態判定装置)
次に、
図10を参照して、第4実施形態に係わる電極状態判定装置41及びその周辺装置の構成を説明する。
図5と比較して異なる部分を中心に説明する。電極状態判定装置41は、溶接機28に用いられる溶接電極27の状態を判定する装置である。電極状態判定装置41は、撮像部45と、コントローラ44と、記憶装置47と、通信部48とを備える。
【0136】
撮像部45は、シャンク20及びホルダー部30の画像を取得する。撮像部45により取得された画像データは、コントローラ44へ転送される。
【0137】
コントローラ44は、複数の具体的な情報処理部として、マーク認識部51と、状態検出部52と、状態判定部53と、判定結果出力部54とを備える。
【0138】
マーク認識部51は、撮像部45により取得された画像データから、シャンク20の表面に付された第2のマークM3及びホルダー部30の表面に付された第3のマークM4を認識する。マーク認識部51は、認識した第2のマークM3及び第3のマークM4の画像上の位置(ピクセル位置)を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。
【0139】
状態検出部52は、画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4に基づいて、シャンク20の状態を検出する。第4実施形態では、状態検出部52は、画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4の間の相対的な位置に基づいて、ホルダー部30に対するシャンク20の状態を数値化する。例えば、状態検出部52は、ホルダー部30に対するシャンク20の回転角度、ホルダー部30の中心軸に対してシャンク20の中心軸が成す傾斜角、及びホルダー部30からシャンク20までの加圧方向Fの距離のうちの少なくとも1つを算出する。
【0140】
状態判定部53は、状態検出部52により検出されたシャンク20の状態が、シャンク20の抜けの予兆となる、異常な状態(回転状態、傾斜状態、浮き上がり状態)にあたるか否かを判定する。具体的な判定手順は、第1実施形態と同じである。
【0141】
判定結果出力部54は、状態判定部53による判定結果に基づき、溶接機28又は溶接機28を保全する保全装置(42、43)の制御条件を変更する。判定結果出力部54は、研磨部56が溶接チップ10を噛み込むことを抑制するように、電極研磨装置42の制御条件を変更する。研磨部56が溶接チップ10を噛み込むことにより、研磨部56が溶接チップ10に固着してしまい、溶接チップ10接続されているシャンク20が抜け落ちる原因となる。
【0142】
判定結果出力部54は、電極交換装置43の制御条件の変更として、ホルダー部30からシャンク20を取り外す作業と、新しいシャンクをホルダー部30に取り付ける取り付け作業を、電極交換装置43に指示することができる。シャンクを交換することにより、異常な状態から基準状態へ、シャンク20の状態を改善することができる。電極交換装置43が、溶接チップの交換のみでシャンクの交換に対応していない場合は、通信部48から無線等の通信を使って周辺の作業員にシャンク交換作業を指示してもよい。
【0143】
判定結果出力部54は、状態判定部53による判定結果に基づき、溶接電極27に異常があることを示す異常判定通知、又は溶接電極27に異常がないことを示す正常判定通知を出力するように、出力装置46を制御することができる。判定結果出力部54は、異常判定通知及び正常判定通知に様々な付帯情報を含ませるように、出力装置46を制御することができる。
【0144】
記憶装置47は、マイクロコンピュータをコントローラ44として機能させるためのコンピュータプログラム(電極状態判定プログラム)、及び当該プログラムの実行途中で発生する様々なデータを一時的に記憶する。ここで、「様々なデータ」には、マーク認識部51により抽出された第2のマークM3及び第3のマークM4の画像上の位置、状態検出部52により数値化されたシャンク20の状態(回転角度、傾斜角、距離)、回転角度の差、傾斜角の差、距離の差、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値、状態判定部53による判定結果、が含まれる。
【0145】
出力装置46、通信部48、溶接機28、電極研磨装置42の構成は同じであり、説明を割愛する。
【0146】
(電極状態判定方法)
図11Aを参照して、
図10に示す電極状態判定装置41を用いた電極状態判定方法の一例を説明する。ステップS21において、撮像部45は、溶接機28が特定作業を行った後にシャンク20及びホルダー部30の画像を取得する。
【0147】
ステップS22へ進み、マーク認識部51は、撮像部45により取得されたシャンク20及びホルダー部30の画像データから、シャンク20上に付された第2のマークM3と、ホルダー部30上に付された第3のマークM4を認識する。マーク認識部51は、認識した第2のマークM3と第3のマークM4の画像上の位置(座標又はピクセル位置)を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。
【0148】
ステップS23へ進み、状態検出部52は、画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4に基づいて、シャンク20の状態を検出する。第4実施形態では、状態検出部52は、画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4の間の相対的な位置に基づいて、ホルダー部30に対するシャンク20の状態を数値化する。例えば、状態検出部52は、ホルダー部30に対するシャンク20の回転角度、ホルダー部30の中心軸に対してシャンク20の中心軸が成す傾斜角、及びホルダー部30からシャンク20までの加圧方向Fの距離のうちの少なくとも1つを算出する。
【0149】
ステップS24において、状態判定部53は、ステップS23において数値化されたシャンク20の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を、記憶装置47に記憶されている基準値(基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離)と比較する。具体的に、状態判定部53は、ステップS23において検出された回転角度、傾斜角、及び距離から、基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離をそれぞれ減算して、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差を算出する。
【0150】
ステップS25において、状態判定部53は、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差を、記憶装置47に記憶されているしきい値(回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値)と比較する。具体的に、状態判定部53は、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の少なくともいずれか1つが、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び距離のしきい値を上回っていた場合(S25でYES)、シャンク20の抜けの予兆となる「異常な状態」であると判定する。一方、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差のいずれも、しきい値を上回っていない場合(S25でNO)、シャンク20の抜けの予兆となる「異常な状態」ではないと判定する。S25でYESの場合、ステップS26へ進み、S25でNOの場合、ステップS28へ進む。もちろん、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の全てが、しきい値を上回っている場合に「異常な状態」であると判定し、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差の少なくともいずれか1つが、しきい値を上回っていない場合に「異常な状態」でないと判定してもよい。
【0151】
ステップS26において、判定結果出力部54は、ステップS25における判定結果(異常判定)に基づき、シャンク20に異常があることを示す異常判定通知及び様々な付帯情報を出力するように、出力装置46を制御する。また、判定結果出力部54は、ステップS25における判定結果(異常判定)及び様々な付帯情報を示すデータを記憶装置47に記憶させる。
【0152】
ステップS27に進み、判定結果出力部54は、ステップS25における判定結果に基づき、溶接機28を保全する保全装置(42、43)の制御条件を変更する。保全装置の一例である電極研磨装置42の制御条件を変更する。具体的には、判定結果出力部54は、溶接チップ10の先端部11に研磨バフを押し当てる力の最大値又は押し当てる力の増加率を小さくし、又は研磨バフの回転速度を遅くする。これにより、研磨部56が溶接チップ10を噛み込むことを抑制することができる。
【0153】
ステップS27において、溶接機28の制御条件を変更してもよい。判定結果出力部54は、溶接機28の制御条件の変更として、「空打ち動作」を行うよう溶接機28を制御する指令を出力することができる。
【0154】
ステップS27において、保全装置の他の例である電極交換装置43の制御条件を変更してもよい。判定結果出力部54は、電極交換装置43の制御条件の変更として、ホルダー部30からシャンク20を取り外す作業、及び新しいシャンクをホルダー部30に取り付ける取り付け作業を、電極交換装置43に指示することができる。
【0155】
ステップS28に進み、シャンク20の監視を継続する場合(S28でNO)、ステップS21に戻り、シャンク20の監視を終了する場合(S28でYES)、
図11Aにフローチャートは終了する。
【0156】
以上説明したように、第4実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0157】
撮像部45が取得する画像には、シャンク20及びホルダー部30が含まれる。マーク認識部51は、シャンク20及びホルダー部30の画像から、シャンク20の表面に付された第2のマークM3、及びホルダー部30の表面に付された第3のマークM4を認識する。状態検出部52は、画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4に基づいて、溶接電極(シャンク20)の状態を検出する。画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4を用いることにより、溶接機28に対して撮像部45の位置及び向きを固定する必要がなくなり、撮像部45の設置に関する自由度が高まる。溶接機28に対する撮像部45の位置及び向きを考慮することなく、溶接電極(シャンク20)の状態を検出することができる。
【0158】
状態検出部52は、画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4の間の相対的な位置に基づいて、ホルダー部30に対するシャンク20の状態を検出する。画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4の間の相対的な位置を用いることにより、溶接機28に対して撮像部45の位置及び向きを固定する必要がなくなり、撮像部45の設置に関する自由度が高まる。溶接機28に対する撮像部45の位置及び向きを考慮することなく、溶接電極(シャンク20)の状態を検出することができる。
【0159】
シャンク20の表面には、撮像部45で撮像した画像から認識することができる第2のマークM3が付されている。撮像部45で撮像した画像から第2のマークM3を認識して、画像上の第2のマークM3からシャンク20の状態を判断することができる。
【0160】
加圧方向Fにおける第2のマークM3の中心は、加圧方向Fにおけるシャンク20の中心よりもワークWの逆側、即ちホルダー部30側に位置している。ホルダー部30の表面に付された第3のマークM4との距離を短くすることができるので、相対的な位置関係を精度よく算出することができる。
【0161】
(第5実施形態)
図11Aに示した方法において、撮像部45がシャンク20及びホルダー部30の画像を取得するタイミングは、溶接機28が特定作業を行った後である。よって、ステップS23において検出されるシャンク20の状態は、溶接機28が特定作業を行った後の状態である。そして、ステップS24では、シャンク20の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を、予め記憶装置47に記憶されている基準値(基準状態における回転角度、傾斜角、及び距離)と比較することになる。
【0162】
ここで、基準値あるいは基準状態は、予め定めた一定の値又は状態とする場合に限らず、溶接機28が特定作業を行った前に撮像部45で取得されたシャンク20及びホルダー部30の画像から定めてもよい。
【0163】
第5実施形態では、
図11Bを参照して、溶接機28が特定作業を行った前に撮影されたシャンク20及びホルダー部30の画像に基づいて定められた基準値あるいは基準状態を用いて、シャンク20の状態を判定する方法を説明する。
【0164】
【0165】
(電極状態判定方法)
ステップS31において、撮像部45は、溶接機28が特定作業を行う前、及び溶接機28が特定作業を行った後の各々に、シャンク20及びホルダー部30を撮像する。撮像部45は、特定作業前の画像、及び特定作業後の画像を取得する。
【0166】
ステップS32において、マーク認識部51は、特定作業前の画像データ、及び特定作業後の画像データの各々から、シャンク20表面に付された第2のマークM3及びホルダー部30表面に付された第3のマークM4を認識する。マーク認識部51は、特定作業前の第2のマークM3及び第3のマークM4の画像上の位置、特定作業後の第2のマークM3及び第3のマークM4の画像上の位置を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。
【0167】
ステップS33において、状態検出部52は、特定作業前の画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4に基づいて、特定作業前のシャンク20の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を検出し、特定作業後の画像上の第2のマークM3及び第3のマークM4に基づいて、特定作業後のシャンク20の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を検出する。
【0168】
ステップS34において、状態判定部53は、特定作業後のシャンク20の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)を、特定作業前のシャンク20の状態(回転角度、傾斜角、及び距離)と比較する。具体的に、状態判定部53は、特定作業後の回転角度、傾斜角、及び距離から、特定作業前の回転角度、傾斜角、及び距離をそれぞれ減算して、回転角度の差、傾斜角の差、及び距離の差を算出する。
【0169】
ステップS25~S28については、
図11Aと同じであり説明を割愛する。
【0170】
以上説明したように、第5実施形態では、特定作業の前のシャンク20の状態を基準状態とし、特定作業の前の回転角度、傾斜角、及び距離を基準値としている。これにより、比較の基準がより具体的となるので、より精度良くシャンク20の状態を判定することができる。
【0171】
(第6実施形態)
第4実施形態及び第5実施形態では、画像上の第2のマークM3と第3のマークM4の間の相対的な位置に基づいて、ホルダー部30に対するシャンク20の状態を検出する例を示した。
【0172】
溶接ガン部29に対して撮像部45の位置及び向きが固定され、撮像部45の画角が一定である場合、画像上の第2のマークM3の位置は特定される。よって、第2のマークM3と第3のマークM4の間の相対的な位置を用いずに、画像上の第2のマークM3の絶対的な位置(座標又はピクセル位置)に基づいて、シャンク20の状態を検出することが可能である。
【0173】
撮像部45は溶接機28又は溶接ガン部29に固定されている。例えば、撮像部45は、
図1の固定アーム33、可動アーム、又は溶接トランス35上に固定されている。よって、画像上の一定の位置に溶接電極27を撮影することができるので、画像からマークを認識する処理を高速化することができる。
【0174】
撮像部45は、シャンク20の画像を取得すればよい。したがって、ホルダー部30を画像内に含ませる必要はないため、シャンク20に付された第2のマークM3を更に拡大して撮影できるので、シャンク20の状態を精度よく検出することができる。
【0175】
マーク認識部51は、既知のパターンマッチング処理(パターン照合処理)により、シャンク20の表面に付された第2のマークM3を認識する。マーク認識部51は、認識した第2のマークM3の画像上の絶対的な位置(座標)を示すデータを、記憶装置47に記憶させる。
【0176】
状態検出部52は、画像上の第2のマークM3に基づいて、シャンク20の状態を検出する。具体的に、状態検出部52は、画像上の第2のマークM3の絶対的な位置(座標)に基づいて、シャンク20の状態として、シャンク20の回転角度、シャンク20の中心軸が成す傾斜角、及びシャンク20の加圧方向Fの座標の少なくとも1つを算出する。
【0177】
なお、第6実施形態において、状態検出部52により算出される回転角度、傾斜角、及び座標は、いずれも絶対値であり、相対的な値ではない。
【0178】
状態判定部53は、状態検出部52により検出された溶接電極(シャンク20)の状態を判定する。状態判定部53は、記憶装置47に予め記憶された、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び座標のしきい値(いずれのしきい値も絶対値である)を用いて、シャンク20の状態を判定することができる。具体的には、状態判定部53は、状態検出部52により検出された回転角度、傾斜角、及び座標の少なくともいずれか1つが、記憶装置47に予め記憶された、回転角度のしきい値、傾斜角のしきい値、及び座標のしきい値よりも大きい場合、シャンク20の抜けの予兆となる「異常な状態」であると判定する。
【0179】
あるいは、状態判定部53は、回転角度、傾斜角、及び座標の各々を個別に判定してもよい。すなわち、状態判定部53は、回転角度が、回転角度のしきい値よりも大きい場合、シャンク20の抜けの予兆となる「回転状態」であると判定する。状態判定部53は、傾斜角が、傾斜角のしきい値よりも大きい場合、シャンク20の抜けの予兆となる「傾斜状態」であると判定する。状態判定部53は、座標が、座標のしきい値よりも大きい場合、シャンク20の抜けの予兆となる「浮き上がり状態」であると判定する。
【0180】
判定結果出力部54、出力装置46、通信部48、溶接機28、電極研磨装置42、及び電極交換装置43の構成は、第1実施形態と同じであり、説明を割愛する。
【0181】
第6実施形態において、第4実施形態(
図11A)で説明した、特定作業の後のシャンク20の状態を、記憶装置47に予め記憶された基準状態(固定値)と比較する方法を用いることができる。記憶装置47には、基準状態(固定値)として、正常な状態におけるシャンク20の回転角度、傾斜角、及び座標(いずれも絶対値)が予め記憶されている。
【0182】
あるいは、第5実施形態(
図11B)で説明した、特定作業の後の溶接チップ10の状態を、特定作業の前の溶接チップ10の状態と比較する方法を適用してもよい。
【0183】
第6実施形態においては、いずれの方法も、次の点で、第4及び第5の実施形態と相違する。すなわち、第6実施形態は、画像上の第2のマークM3と第3のマークM4の間の相対的な位置の代わりに、画像上の第2のマークM3の絶対的な位置(座標)を用いる。そして、第6実施形態は、ホルダー部30に対するシャンク20の相対的な状態の代わりに、シャンク20の絶対的な状態を検出する。
【0184】
撮像部45は、シャンク20の画像を取得する。マーク認識部51は、シャンク20の画像から、シャンク20の表面に付された第2のマークM3を認識する。状態検出部52は、画像上の第2のマークM3に基づいて、シャンク20の状態を検出する。そして、状態判定部53は、シャンク20の状態を判定する。これにより、ホルダー部30の画像及び第3のマークM4の認識が不要となり、画像処理の負荷が軽減される。
【0185】
なお、上述の実施形態は、本発明を実施する形態の例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、これ以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0186】
10 溶接チップ
11 先端部
12 基盤部
20 シャンク
27 溶接電極
28 溶接機
30 ホルダー部
41 電極状態判定装置
42 電極研磨装置(保全装置)
43 電極交換装置(保全装置)
45 撮像部
51 マーク認識部
52 状態検出部
53 状態判定部
54 判定結果出力部
F 加圧方向
L1~L12 線分(部分マーク)
M1 第1のマーク(マーク)
M2、M3 第2のマーク(マーク)
M4 第3のマーク(マーク)
W ワーク(被溶接材料)