(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】含水状態推定装置、含水状態推定プログラム、及び含水状態推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20230706BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N21/27 B
(21)【出願番号】P 2019168993
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2022-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・第8回環境放射能除染研究発表会での発表(令和1年7月10日) ・第8回環境放射能除染研究発表会要旨集(令和1年7月5日)
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 岳郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 江基
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 亮介
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-303694(JP,A)
【文献】国際公開第2018/029884(WO,A1)
【文献】福角 雅徳,ハイパースペクトル画像を用いた土壌水分推定に関する研究,東京工業大学大学院総合理工学研究科 修士論文発表会,2007年02月09日,第23頁-第30頁,<URL:https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/conf/workshop/alos3_ws3/ALOS3_3_2_Saito_Genya.pdf>
【文献】今村 遼平,マルチスペクトル写真による地表含水状況の区分,砂防学会誌,1976年,PP.24-35
【文献】福角 雅徳ら,ハイパースペクトルデータを用いた土壌水分推定における波長間演算の最適化,システム農学会シンポジウム要旨集,2006年10月,PP.48-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水比や含水率といった含水状態が既知の試料土をハイパースペクトルカメラで撮影して得られた結果に基づいて、測定対象である対象土の含水状態を推定する装置であって、
含水状態が異なる複数種類の前記試料土から得られたマルチスペクトルデータから、第1波長と該第1波長とは異なる第2波長を選定したうえで、該第1波長における第1スペクトル強度と、該第2波長における第2スペクトル強度と、を抽出するとともに、同一の含水状態から得られた該第1スペクトル強度及び該第2スペクトル強度を1組の試料土データとして、複数の含水状態に係る該試料土データから該第1スペクトル強度と該第2スペクトル強度の相関の程度を求める相関度算出手段と、
前記相関の程度があらかじめ定めた相関閾値を超えたとき、前記第1スペクトル強度と前記第2スペクトル強度との関係を表す2波長関係式を求める2波長関係式算定処理と、
前記対象土を観測用スペクトルカメラで撮影して得られた前記第1スペクトル強度及び前記第2スペクトル強度からなる対象土データと、前記2波長関係式と、に基づいて該対象土の含水状態を推定する含水状態推定手段と、を備え、
前記観測用スペクトルカメラは、前記2波長関係式に係る前記第1波長と前記第2波長で測定可能であり、
前記相関の程度が前記相関閾値を下回ったときは、前記第1波長と前記第2波長を選び直して前記相関の程度を求める、
ことを特徴とする含水状態推定装置。
【請求項2】
無人飛行体と、該無人飛行体に搭載された前記観測用スペクトルカメラと、該無人飛行体と該観測用スペクトルカメラを制御する制御手段と、を有する観測手段を、さらに備え、
前記観測用スペクトルカメラは、2以上のレンズを具備する多眼式スペクトルカメラであって、所望の波長におけるスペクトル強度を取得するフィルターがそれぞれのレンズに設けられ、
前記含水状態推定手段は、前記無人飛行体が飛行しながら前記観測用スペクトルカメラによって前記対象土を撮影して得られた前記対象土データと、前記2波長関係式と、に基づいて該対象土の含水状態を推定する、
ことを特徴とする請求項1記載の含水状態推定装置。
【請求項3】
前記含水状態推定手段は、前記対象土データと前記2波長関係式との較差があらかじめ定めた許容範囲内にあるとき、前記対象土の含水状態を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の含水状態推定装置。
【請求項4】
異なる2波長の組み合わせからなる2以上の前記2波長関係式を記憶する2波長関係式記憶手段を、さらに備え、
前記含水状態推定手段は、前記対象土を前記観測用スペクトルカメラで撮影して得られた3以上の波長のスペクトル強度の中から前記第1スペクトル強度及び前記第2スペクトル強度を選出するとともに、該第1スペクトル強度及び該第2スペクトル強度に係る前記2波長関係式を前記2波長関係式記憶手段から読み出し、読み出した該2波長関係式と、該第1スペクトル強度及び該第2スペクトル強度による前記対象土データと、を照らし合わせ、該対象土データと該2波長関係式との較差があらかじめ定めた許容範囲外にあるときは、他の前記第1スペクトル強度及び前記第2スペクトル強度を選出し、
前記含水状態推定手段は、読み出した前記2波長関係式と、該2波長関係式に係る前記第1スペクトル強度及び前記第2スペクトル強度と、の較差が前記許容範囲内となると、前記対象土の含水状態を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の含水状態推定装置。
【請求項5】
含水比や含水率といった含水状態が既知の試料土をハイパースペクトルカメラで撮影して得られた結果に基づいて、測定対象である対象土の含水状態を推定する機能をコンピュータに実行させるプログラムであって、
含水状態が異なる複数種類の前記試料土から得られたマルチスペクトルデータから、第1波長と該第1波長とは異なる第2波長を選定したうえで、該第1波長における第1スペクトル強度と、該第2波長における第2スペクトル強度と、を抽出するとともに、同一の含水状態から得られた該第1スペクトル強度及び該第2スペクトル強度を1組の試料土データとして、複数の含水状態に係る該試料土データから該第1スペクトル強度と該第2スペクトル強度の相関の程度を求める相関度算出処理と、
前記相関の程度があらかじめ定めた相関閾値を超えたとき、前記第1スペクトル強度と前記第2スペクトル強度との関係を表す2波長関係式を求める2波長関係式算定処理と、
前記対象土を観測用スペクトルカメラで撮影して得られた前記第1波長における前記第1スペクトル強度及び前記第2波長における前記第2スペクトル強度からなる対象土データと、前記2波長関係式と、に基づいて該対象土の含水状態を推定する含水状態推定処理と、を前記コンピュータに実行させる機能を備え、
前記観測用スペクトルカメラは、前記2波長関係式に係る前記第1波長と前記第2波長で測定可能であり、
前記相関の程度が前記相関閾値を下回ったときは、前記第1波長と前記第2波長を選び直して前記相関の程度を求める、
ことを特徴とする含水状態推定プログラム。
【請求項6】
含水比や含水率といった含水状態が既知の試料土をハイパースペクトルカメラで撮影して得られた結果に基づいて、測定対象である対象土の含水状態を推定する方法であって、
含水状態が異なる複数種類の前記試料土を前記ハイパースペクトルカメラで撮影して、含水状態ごとにマルチスペクトルデータを取得する試料土撮影工程と、
異なる2種類の波長を第1波長と第2波長として選出するとともに、含水状態ごとに取得された前記マルチスペクトルデータのうち、該第1波長における第1スペクトル強度と該第2波長における第2スペクトル強度とを抽出し、同一の含水状態に係る該第1スペクトル強度及び該第2スペクトル強度を1組の試料土データとして、複数の含水状態に係る該試料土データから該第1スペクトル強度と該第2スペクトル強度の相関の程度を求める相関度算出工程と、
前記相関の程度があらかじめ定めた相関閾値を超えたとき、前記第1スペクトル強度と前記第2スペクトル強度との関係を表す2波長関係式を求める2波長関係式算定工程と、
前記対象土を観測用スペクトルカメラで撮影して、前記第1波長における前記第1スペクトル強度と前記第2波長における前記第2スペクトル強度とを取得する対象土撮影工程と、
前記対象土撮影工程で取得した前記第1スペクトル強度及び前記第2スペクトル強度からなる対象土データと、前記2波長関係式と、に基づいて前記対象土の含水状態を推定する含水状態推定工程と、を備え、
前記対象土撮影工程では、前記2波長関係式に係る前記第1波長と前記第2波長で測定可能となるように前記観測用スペクトルカメラを調整したうえで、前記対象土を撮影し、
前記相関の程度が前記相関閾値を下回ったときは、前記第1波長と前記第2波長を選び直して前記相関の程度を求める、
ことを特徴とする含水状態推定方法。
【請求項7】
無人飛行体と、該無人飛行体に搭載された前記観測用スペクトルカメラと、該無人飛行体と該観測用スペクトルカメラを制御する制御手段と、を有する観測手段を用い、
前記観測用スペクトルカメラは、2以上のレンズを具備する多眼式スペクトルカメラであって、所望の波長におけるスペクトル強度を取得するフィルターがそれぞれのレンズに設けられ、
前記対象土撮影工程では、前記2波長関係式に係る前記第1波長及び前記第2波長で撮影するようフィルターをレンズに取り付けたうえで、前記無人飛行体が飛行しながら前記多眼式スペクトルカメラによって前記対象土を撮影する、
ことを特徴とする請求項6記載の含水状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、土の含水状態の測定に関する技術であり、より具体的には、含水状態が既知の試料土をハイパースペクトルカメラで撮影した結果のうち所定の2波長のスペクトル強度の関係を用いて、対象となる土の含水状態を推定する装置とプログラム、これらを用いた推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国は地震が頻発する国として知られ、近年では、東北地方太平洋沖地震をはじめ、兵庫県南部地震、新潟県中越地震など大きな地震が発生し、そのたびに甚大な被害を被ってきた。特に東日本大震災では、津波によって計り知れない被害を受けたうえ、さらに福島原子力発電所の原子炉が損壊するという事故に見舞われた。原子炉事故に伴い大量に放出された放射性物質は、エアロゾルなどの形で広域に移流拡散し、降雨に伴って地上に降下沈着した結果、地域住民の生活環境に大きな影響を及ぼすに至った。
【0003】
このような背景の下、放射性物質汚染対処特別措置法が施行され、放射性物質が沈着した土壌や、草木、がれき等の除去といったいわゆる除染措置が進められた。人の健康や生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的としたこの法律によれば、放射性廃棄物(特定廃棄物)は環境省令で定める基準に従って保管や処分を行うことを義務付けている。この省令では、例えば放射性廃棄物はその放射能濃度によって保管方法が分けられており、放射能濃度が中濃度(8,000Bq/kg超、10万Bq/kg以下)のものは管理型処分場で保管し、放射能濃度が高濃度(10万Bq/kg超)のものは中間貯蔵施設で保管するよう規定している。
【0004】
通常、中間貯蔵施設における除去土壌の埋立は、造成盛土などと同様、ダンプトラック等によって除去土壌を撒き出し、撒き出された除去土壌をブルドーザ等によって敷き均し、そして敷き均された除去土壌を振動ローラ等によって締め固めるといった一連の作業によって行われる。ところが、除去土壌の含水状態(含水比や含水率)によっては、撒き出し作業中や転圧完了後の除去土壌の表面から、風乾による粉じんが飛散することがある。このような粉じんは、作業者等の外部被ばくの要因の一つとなり得ることから除去土壌の含水状態を把握する必要がある。一般的に中間貯蔵施設における除去土壌は広範囲で埋め立てられることから、上空から測定するなど効率的に含水状態を測定することが望ましく、しかも遠隔操作で含水状態を測定することが求められる。
【0005】
遠隔操作によって土の含水状態を測定する手法としては、分光器(スペクトルカメラ)を使用した測定方法が考えられる。例えば特許文献1では、400~1,000nm波長体のハイパースペクトルカメラを使用し、取得したスペクトルデータと近似する基準スペクトルデータをSAM(Spectral Angle Mapper)法によって特定するとともに、その基準スペクトルデータに関連付けられた属性情報(含水率や土壌種など)に基づいて対象土壌の含水率を判定する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によれば、対象土壌に直接触れることなく、すなわち非接触でその含水率を判定することができ、しかもハイパースペクトルカメラを用いるため比較的正確に含水率を判定することができる。その一方で、ハイパースペクトルカメラを用いるが故に、効率的に広範囲の土壌を対象として判定することができないという短所がある。通常、ハイパースペクトルカメラは三脚など用いて地上に設置したうえで測定するのが基本であり、一度の測定に相当の時間(数十秒~数分間)を要するため、例えば飛行体などを利用して上空から俯瞰的に広範囲を測定する手法に比べると、その測定効率は著しく劣るわけである。
【0008】
また特許文献1の技術は、ハイパースペクトルカメラを設置するため作業者が対象土壌付近に立ち入る必要があるという問題も指摘することができる。例えば中間貯蔵施設に埋め立てられた除去土壌の含水状態を測定する場合、十分な含水状態が保たれていれば問題ないが、除去土壌の表面が乾燥していれば粉じんが飛散することによって作業者が外部被ばくするおそれがあるわけである。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち従来技術に比して効率的に対象土の含水状態を把握することができ、しかも作業者が対象土に近づくことなく対象土の含水状態を把握することができる含水状態推定装置と含水状態推定プログラム、これらを用いた含水状態推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、対象土の含水状態を推定するために必要な波長帯をあらかじめ設定し、その波長帯のスペクトル強度を測定するスペクトルカメラを用いることで従来に比して効率的に含水状態を測定する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0011】
本願発明の含水状態推定装置は、含水状態(含水比や含水率)が既知である試料土をハイパースペクトルカメラで撮影して得られた結果に基づいて対象土の含水状態を推定する装置であり、相関度算出手段と2波長関係式算定処理、含水状態推定手段を備えたものである。このうち相関度算出手段は、含水状態が異なる複数種類の試料土から得られたスペクトルデータをもとに、第1波長における第1スペクトル強度と第2波長(第1波長とは異なる波長)における第2スペクトル強度を抽出するとともに、同一の含水状態の試料土から得られた第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を1組の試料土データとし、複数の含水状態の試料土に係る試料土データから第1スペクトル強度と第2スペクトル強度の相関の程度を求める手段である。また2波長関係式算定処理は、相関の程度があらかじめ定めた相関閾値を超えたとき、第1スペクトル強度と第2スペクトル強度との関係を表す2波長関係式を求める手段である。そして含水状態推定手段は、対象土をスペクトルカメラで撮影して得られた第1波長における第1スペクトル強度と第2波長における第2スペクトル強度からなる対象土データと、2波長関係式に基づいて対象土の含水状態を推定する手段である。
【0012】
本願発明の含水状態推定装置は、無人飛行体と、無人飛行体に搭載された多眼式スペクトルカメラ、そして無人飛行体と多眼式スペクトルカメラを制御する制御手段を有する観測手段をさらに備えたものとすることもできる。なお、この多眼式スペクトルカメラは、2以上のレンズを具備するとともに、所望の波長におけるスペクトル強度を取得するフィルターがそれぞれのレンズに設けられている。この場合、含水状態推定手段は、無人飛行体が飛行しながら多眼式スペクトルカメラによって対象土を撮影して得られた対象土データを用い、2波長関係式によって対象土の含水状態を推定する、
【0013】
本願発明の含水状態推定装置は、対象土データと2波長関係式との較差があらかじめ定めた許容範囲内にあるときに、対象土の含水状態を推定するものとすることもできる。
【0014】
本願発明の含水状態推定装置は、2波長関係式記憶手段をさらに備えたものとすることもできる。この2波長関係式記憶手段は、異なる2波長の組み合わせからなる2以上の2波長関係式を記憶する手段である。この場合、含水状態推定手段は、対象土をスペクトルカメラで撮影して得られた3以上の波長のスペクトル強度の中から第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を選出するとともに、この第1スペクトル強度と第2スペクトル強度に係る2波長関係式を2波長関係式記憶手段から読み出し、対象土データ(選出された第1スペクトル強度と第2スペクトル強度)と読み出した2波長関係式とを照らし合わせ、対象土データと2波長関係式との較差があらかじめ定めた許容範囲外にあるときは、他の第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を選出し、許容範囲内にあるときは、対象土の含水状態を推定する。
【0015】
本願発明の含水状態推定プログラムは、含水状態が既知である試料土をハイパースペクトルカメラで撮影して得られた結果に基づいて対象土の含水状態を推定する機能をコンピュータに実行させるプログラムであり、相関度算出処理と2波長関係式算定処理、含水状態推定処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものである。このうち相関度算出処理は、含水状態が異なる複数種類の試料土から得られたスペクトルデータをもとに、第1波長における第1スペクトル強度と第2波長における第2スペクトル強度を抽出するとともに、同一の含水状態の試料土から得られた第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を1組の試料土データとし、複数の含水状態の試料土に係る試料土データから第1スペクトル強度と第2スペクトル強度の相関の程度を求める処理である。また2波長関係式算定処理は、相関の程度が相関閾値を超えたとき、第1スペクトル強度と第2スペクトル強度との関係を表す2波長関係式を求める処理である。そして含水状態推定処理は、対象土をスペクトルカメラで撮影して得られた第1波長における第1スペクトル強度と第2波長における第2スペクトル強度からなる対象土データと、2波長関係式に基づいて対象土の含水状態を推定する処理である。
【0016】
本願発明の含水状態推定方法は、含水状態が既知である試料土をハイパースペクトルカメラで撮影して得られた結果に基づいて対象土の含水状態を推定する方法であり、試料土撮影工程と相関度算出工程、2波長関係式算定工程、対象土撮影工程、含水状態推定工程を備えたものである。このうち試料土撮影工程では、含水状態が異なる複数種類の試料土をハイパースペクトルカメラで撮影して、含水状態ごとにスペクトルデータを取得する。また相関度算出工程では、異なる2種類の波長を第1波長と第2波長として選出するとともに、含水状態ごとに取得されたスペクトルデータのうち、第1波長における第1スペクトル強度と第2波長における第2スペクトル強度を抽出し、同一の含水状態の試料土に係る第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を1組の試料土データとして、複数の含水状態の試料土に係る試料土データから第1スペクトル強度と第2スペクトル強度の相関の程度を求める。2波長関係式算定工程では、相関の程度が相関閾値を超えたとき、第1スペクトル強度と第2スペクトル強度との関係を表す2波長関係式を求める。対象土撮影工程では、対象土をスペクトルカメラで撮影して、第1波長における第1スペクトル強度と第2波長における第2スペクトル強度とを取得する。そして含水状態推定工程では、対象土撮影工程で取得した第1スペクトル強度と第2スペクトル強度からなる対象土データと、2波長関係式に基づいて対象土の含水状態を推定する。
【0017】
本願発明の含水状態推定方法は、観測手段を用いる方法とすることもできる。この場合、対象土撮影工程では、2波長関係式に係る第1波長と第2波長で撮影するようフィルターをレンズに取り付けたうえで、無人飛行体が飛行しながら多眼式スペクトルカメラによって対象土を撮影する。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の含水状態推定装置、含水状態推定プログラム、及び含水状態推定方法には、次のような効果がある。
(1)あらかじめ設定した波長帯でスペクトルデータを取得することから、従来のハイパースペクトルカメラによる測定よりも短時間で作業を終えることができる。また、あらかじめ設定したスペクトルデータを取得する多眼式スペクトルカメラを用い、この多眼式スペクトルカメラを搭載した無人飛行体で測定することによって、さらに効率的に対象土の含水状態を推定することができる。
(2)多眼式スペクトルカメラを搭載した無人飛行体を用いることによって、遠隔操作によって対象土の含水状態を推定することができる。この結果、 例えば中間貯蔵施設に埋め立てられた除去土壌の含水状態を測定する場合であっても、作業者が現地付近に立ち入る必要がなく、すなわち作業者が外部被ばくするおそれがない。
(3)高濃度除去土壌の締固め含水管理や、粉じん飛散を防止するための散水管理に活用することができる。
(4)多眼式スペクトルカメラで含水比推定に有効な第1波長と第2波長波長のスペクトルデータを取得することで、対象土の測定においてハイパースペクトルカメラを使用せずに、ハイパースペクトルカメラによる測定と遜色ない精度で対象土の含水状態を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本願発明の含水状態推定装置の主な構成を示すブロック図。
【
図3】複数種類のスペクトルデータから2波長関係式を求めるまでの「事前処理」の流れを示すフロー図。
【
図4】実際に現地で対象土を撮影してその含水比を推定するまでの「観測処理」の流れを示すフロー図。
【
図5】ハイパースペクトルカメラで試料土を撮影して得られたマルチスペクトルデータを説明するモデル図。
【
図6】(a)は試料土を分割した各領域を示す平面図、(b)は領域ごとに生成されたスペクトルパターンを示すグラフ図。
【
図7】同一の土質で4種類の含水比の試料土と、それぞれの試料土に対して生成された16領域分のスペクトルパターンを示すモデル図。
【
図8】第1スペクトル強度を横軸、第2スペクトル強度を縦軸とする座標系に各スペクトルパターンから得られた試料土データをプロットした散布図。
【
図9】(a)は第1波長を400nm、第2波長を450nmとする波長セットを選出して試料土データをプロットしたグラフ図、(b)は第1波長を380nm、第2波長を1,000nmとする波長セットを選出して試料土データをプロットしたグラフ図。
【
図10】(a)は第1波長を485nm、第2波長を500nmとする相関波長セットを選出して試料土データをプロットした散布図、(b)は第1波長を450nm、第2波長を475nmとする相関波長セットを選出して試料土データをプロットした散布図。
【
図11】対象土データと2波長関係式の較差を考慮した場合の「観測処理」の流れを示すフロー図。
【
図12】対象土データから回帰直線までの垂線によって求められる較差を示すモデル図。
【
図13】最適な2波長関係式を選別したうえで対象土の含水比を推定する場合の「観測処理」の流れを示すフロー図。
【
図14】本願発明の含水状態推定プログラムの主な処理の流れを示すフロー図。
【
図15】本願発明の含水状態推定方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の含水状態推定装置、含水状態推定プログラム、及び含水状態推定方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0021】
1.全体概要
本願発明は、対象となる土(以下、「対象土」という。)をスペクトルカメラ(以下、「観測用スペクトルカメラ」という。)で撮影することによって、その含水比や含水率といった「含水状態」を推定することができる技術である。そして本願発明に用いられる観測用スペクトルカメラは、特定の波長におけるスペクトル強度を取得することができれば足り、すなわち一度の測定に相当の時間を要するハイパースペクトルカメラを用いる必要がない。このように、いわば簡易な観測用スペクトルカメラを用いることから、例えば無人飛行体(UAV:Unmanned aerial vehicle)に搭載することもでき、広範囲の対象土であっても効率的に撮影することもできるわけである。
【0022】
観測用スペクトルカメラを用いて、つまり限られた情報から対象土の含水状態を推定するには、「2波長関係式」が用いられる。この2波長関係式は、含水状態が既知の土(以下、「試料土」という。)をハイパースペクトルカメラで撮影して得られたスペクトルデータに基づいて求められるものであり、選択された2つの波長(以下、「波長セット」という。)におけるそれぞれのスペクトル強度の関係を表すものである。より詳しくは、同一の試料土に対して得られたスペクトルデータの中から、波長セットのうち一方の波長(以下、「第1波長」という。)におけるスペクトル強度(以下、「第1スペクトル強度」という。)と波長セットのうち他方の波長(以下、「第2波長」という。)におけるスペクトル強度(以下、「第2スペクトル強度」という。)を抽出するとともに、これら第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を一組のデータ(以下、「試料土データ」という。)として扱い、複数種類の試料土から得られた試料土データの関係を表したものが2波長関係式である。
【0023】
本願発明の発明者らは、試料土ごとに特定の波長セットが存在すること、すなわち特定の第1スペクトル強度と第2スペクトル強度が極めて高い相関性を示すことを見出した。なお、異なる種類(土質等)の試料土はそれぞれ別の特定の波長セットが存在し、また種類が同じでも含水状態が異なる試料土はやはりそれぞれ別の特定の波長セットが存在する。そして、特定の第1スペクトル強度と第2スペクトル強度の関係を表す2波長関係式を用いることで、観測用スペクトルカメラから得られる限られた情報であっても対象土の含水状態を推定することができることに着眼したわけである。
【0024】
2.含水状態推定装置
本願発明の含水状態推定装置の例を、図に基づいて説明する。なお、本願発明の含水状態推定プログラムは、本願発明の含水状態推定装置のうち一部の処理をコンピュータに実行させるものであり、本願発明の含水状態推定方法は、本願発明の含水状態推定装置を用いて含水状態を推定する方法である。したがって、まずは本願発明の含水状態推定装置について説明し、その後に本願発明の含水状態推定プログラムと本願発明の含水状態推定方法について説明することとする。また便宜上ここでは、「含水状態」を含水比とした例で説明する。
【0025】
図1は、本願発明の含水状態推定装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の含水状態推定装置100は、相関度算出手段101と2波長関係式算定処理102、含水状態推定手段103を含んで構成され、さらに2波長関係式記憶手段104やスペクトルデータ記憶手段105、観測手段200を含んで構成することもできる。
【0026】
含水状態推定装置100を構成する主な要素のうち相関度算出手段101と2波長関係式算定処理102、含水状態推定手段103は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。
【0027】
2波長関係式記憶手段104とスペクトルデータ記憶手段105は、例えば相関度算出手段101などを実装するコンピュータ装置のメモリに構築することもできるし、あるいはローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)で接続されたデータベースサーバに構築することもできるし、インターネット経由(つまり無線通信や有線通信)で記憶させるクラウドサーバとすることもできる。
【0028】
観測手段200は、少なくとも観測用スペクトルカメラを含むものである。この観測用スペクトルカメラは、特定の波長セット、すなわち特定の第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を取得することができるもので、例えば
図2に示すような多眼式スペクトルカメラ210を利用することができる。多眼式スペクトルカメラ210は、2以上(図では5つ)のレンズ211とフィルター212を備えたものである。このフィルター212は、特定の波長におけるスペクトル強度を取得するためのいわば調整手段であって、それぞれのレンズ211に対して着脱自在に取り付けられる。換言すれば、レンズ211に取り付けるフィルター212を選択することによって、所望の波長におけるスペクトル強度を取得することができるわけである。
【0029】
観測手段200は、さらに無人飛行体と制御手段(コントローラ)を含んで構成することもできる。無人飛行体に観測用スペクトルカメラを搭載し、制御手段で無人飛行体と観測用スペクトルカメラを遠隔操作することによって、空中から対象土を撮影することができる。したがって観測用スペクトルカメラは、無人飛行体の下側に取り付けるとよい。
【0030】
以下、主に
図3と
図4を参照しながら含水状態推定装置100の主な処理について詳しく説明する。含水状態推定装置100は、複数種類のスペクトルデータから2波長関係式を求めるまでの「事前処理」と、実際に現地で対象土を撮影してその含水比を推定するまでの「観測処理」に大別することができ、
図3は事前処理の主な流れを示すフロー図であり、
図4は観測処理の主な流れを示すフロー図である。なおこれらのフロー図では、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要なものを、右列にはその処理から生ずるものを示している。
【0031】
まず、スペクトルデータ記憶手段105(
図1)に記憶されたスペクトルデータをもとに、横軸を波長、縦軸をスペクトル強度とするスペクトルパターンを生成する(
図3のStep11)。ここでスペクトルパターンを生成するために用意されるスペクトルデータは、ハイパースペクトルカメラで試料土を撮影した結果得られたマルチスペクトルデータである。
図5は、ハイパースペクトルカメラで試料土を撮影して得られたマルチスペクトルデータを説明するモデル図である。この図に示すようにハイパースペクトルカメラは、画素ごとに多数の波長λ(図では151バンド)におけるスペクトル強度を得ることができるものであり、この結果、平面画像の2軸(図ではX軸-Y軸)と直交する波長軸(図ではλ軸)からなる3次元空間に配置されるマルチスペクトルデータを取得することができる。なお本願発明では、従来用いられているハイパースペクトルカメラを採用することができる。
【0032】
同一の試料土からは、複数のマルチスペクトルデータが取得され、これに応じて複数種類のスペクトルパターンが生成される。例えば、
図6(a)に示すように試料土を16の領域RGに分割してそれぞれの領域RGでマルチスペクトルデータを取得し、
図6(b)に示すように分割した領域RGの数(この場合は16)だけスペクトルパターンを生成するとよい。またスペクトルパターンは、同じ土質で含水比が異なる複数の試料土を用意し、これら複数の試料土に対して生成される。例えば
図7では、同一の土質で4種類の含水比(1.56%、4.37%、16.61%、21.14%)の試料土が用意され、それぞれ16の領域RGのスペクトルパターンが生成されている。なお
図3では、m種類の含水比の試料土を用意するとともに、1つの試料土をn箇所の領域RGに分割することで、n×m個のスペクトルパターンを生成している。
【0033】
複数種類のスペクトルパターンを生成すると、波長セット(第1波長と第2波長)を選定し(
図3のStep12)、それぞれのスペクトルパターンから試料土データを抽出する(
図3のStep13)。既述したとおり、試料土データとは第1スペクトル強度と第2スペクトル強度を一組のデータとしたものであり、また第1スペクトル強度は第1波長におけるスペクトル強度であって、第2スペクトル強度は第2波長におけるスペクトル強度である。
【0034】
各スペクトルパターンから試料土データを抽出すると、相関度算出手段101(
図1)によって「相関の程度」が算出される(
図3のStep14)。ここで相関の程度とは、第1スペクトル強度と第2スペクトル強度について相関分析を行った結果得られる値のことであり、例えば相関係数やコヒーレンスを挙げることができる。便宜上ここでは、「相関の程度」を相関係数とした例で説明する。
【0035】
相関係数は、例えば
図8に示すように、第1スペクトル強度を横軸とし、第2スペクトル強度を縦軸とする座標系を設定し、この座標系に各スペクトルパターンから得られた試料土データをプロットしたうえで算出するとよい。なおこの図では、便宜上5つの試料土データ、すなわち(X
1,Y
1)と(X
2,Y
2)、(X
3,Y
3)、(X
4,Y
4)、(X
5,Y
5)のみを示している。
【0036】
相関係数を算出すると、その相関係数と、あらかじめ定めた閾値(以下、「相関閾値」という。)とを照らし合わせる(
図3のStep15)。選出された波長セットによっては、第1スペクトル強度と第2スペクトル強度に相当の相関性が見られるが、波長セットの組み合わせによっては、第1スペクトル強度と第2スペクトル強度に相関性がないケースもある。
図9(a)は、含水比の異なる試料土Aに対して得られたマルチスペクトルデータを用い、第1波長を400nm、第2波長を450nmとする波長セットを選出して、試料土データをプロットした散布図であり、この試料土データの関係を見ると、当該波長セットでは第1スペクトル強度と第2スペクトル強度に相当の相関性があることが分かる。一方、
図9(b)は、
図9(a)と同じ試料土Aに対して得られたマルチスペクトルデータを用い、第1波長を380nm、第2波長を1,000nmとする波長セットを選出して、試料土データをプロットした散布図であるが、当該波長セットでは第1スペクトル強度と第2スペクトル強度に相当の相関性が認められない。
【0037】
そこで、第1スペクトル強度と第2スペクトル強度に相当の相関性がある波長セット(以下、「相関波長セット」という。)を選別するため、波長セットから得られる相関係数と相関閾値を照らし合わせる。そして、相関係数が相関閾値を下回ったときは(
図3のStep15のNo)、波長セットを選び直し(
図3のStep12)、改めて一連の処理(
図3のStep13~Step15)を行う。一方、相関係数が相関閾値を上回ったときは(
図3のStep15のYes)、その波長セットを「相関波長セット」としたうえで次のステップ(
図3のStep16)に進む。
図10は相関波長セットとされた試料土データをプロットした散布図であり、(a)は含水比の異なる試料土B
1~B
5に対して得られたマルチスペクトルデータを用い、第1波長を485nm、第2波長を500nmとしたケースであり、(b)は含水比の異なる試料土C
1~C
5に対して得られたマルチスペクトルデータを用い、第1波長を450nm、第2波長を475nmとしたケースであり、いずれも第1スペクトル強度と第2スペクトル強度に相当の相関性があることが分かる。
【0038】
相関波長セットが選出されると、2波長関係式算定処理102(
図1)によって「2波長関係式」が算出される(
図3のStep16)。この2波長関係式は、相関波長セットに係る試料土データに基づいて求められる回帰直線や回帰曲線として算出することができる。ここで算出された2波長関係式は、2波長関係式記憶手段104(
図1)に記憶される。なお、相関波長セットが選出され2波長関係式が算定されても、さらに波長セットを変えたうえで(
図3のStep12)、一連の処理(
図3のStep13~Step16)を行うこともできる。すなわち、所定の土質の試料土に対して複数の2波長関係式を算出するわけである。さらに試料土の土質を変更したうえで、一連の処理(
図3のStep11~Step16)を行うこともできる。すなわち、異なる土質の試料土に対してそれぞれ2波長関係式を算出するわけである。これらの場合、2波長関係式記憶手段104には複数の2波長関係式が記憶されることとなる。
【0039】
図3に示す事前処理によって2波長関係式が用意されると、対象土を撮影するため所望の相関波長セットを選定する。このとき、対象土の土質と概ねの含水比を予測したうえで、相関波長セットを選定するとよい。そして、選定した相関波長セットを構成する第1波長(以下、「相関第1波長」という。)と第2波長(以下、「相関第2波長」という。)で測定できるように観測用スペクトルカメラを調整し、実際に対象土を撮影する。例えば
図2に示す多眼式スペクトルカメラ210を使用する場合、5つのレンズ211のうちいずれかに、相関第1波長に対応するフィルター212を取り付けるとともに、相関第2波長に対応するフィルター212を取り付ける。なお、複数の2波長関係式が算出されているケースでは、2以上の相関波長セットを選定するとともに、2種類の相関第1波長と相関第2波長で測定できるように観測用スペクトルカメラを調整したうえで対象土を撮影することもできる。
【0040】
対象土のスペクトルデータが得られると、相関第1波長における第1スペクトル強度と相関第2波長における第2スペクトル強度(以下、これら第1スペクトル強度と第2スペクトル強度の組み合わせを「対象土データ」という。)を抽出する(
図4のStep21)。そして含水状態推定手段103(
図1)が、ここで抽出された対象土データと、選定された相関波長セットに係る2波長関係式に基づいて、対象土の含水比を推定する(
図4のStep22)。例えば
図10(a)に示すケースでは、試料土データが略直線上に配置され、しかも含水比ごとにまとまって配置されている。したがって、この散布図から2波長関係式として回帰直線を算出することができ、対象土データのうち第1スペクトル強度(あるいは第2スペクトル強度)と回帰直線によって対象土の含水比を推定することができる。具体的には、対象土データのうち第1スペクトル強度が550であれば対象土の含水比を6.07%(試料土B
2の含水比に相当)と推定することができ、第2スペクトル強度が400であれば対象土の含水比を11.45%(試料土B
3の含水比に相当)と推定することができる。同様に
図10(b)に示すケースでは、対象土データのうち第1スペクトル強度が1,000であれば対象土の含水比を4.43%(試料土C
2の含水比に相当)と推定することができ、第2スペクトル強度が600であれば対象土の含水比を5.93%(試料土C
3の含水比に相当)と推定することができる。
【0041】
ところで、対象土データが2波長関係式(回帰直線や回帰曲線)上に(あるいは周辺に)プロットされないことも考えられる。そこで、対象土データと2波長関係式の較差を考慮したうえで対象土の含水比を推定するとよい。
図11は、対象土データが2波長関係式との較差を考慮した場合の「観測処理」の流れを示すフロー図である。このケースでは、含水状態推定手段103(
図1)が、対象土の含水比を推定する(
図11のStep22)前に、対象土データと2波長関係式の較差を算出した(
図11のStep23)うえで、その較差と許容範囲を照らし合わせる(
図11のStep24)。なおこの較差は、対象土データと2波長関係式との最短距離として求めることができ、例えば
図12に示すように2波長関係式が回帰直線であれば対象土データから回帰直線(2波長関係式)までの垂線の長さを較差とすることができる。
【0042】
複数の2波長関係式が算出され(つまり相関波長セットが選出され)、2以上の相関波長セットを選定して対象土を撮影した場合、最も適した相関波長セット(つまり2波長関係式)を選出したうえで対象土の含水比を推定することもできる。
図13は、最適な2波長関係式を選出したうえで対象土の含水比を推定する場合の「観測処理」の流れを示すフロー図である。このケースでは、まず算出された複数の相関波長セットのうちいずれかの相関波長セットを選定し(
図13のStep25)、その相関波長セットに基づいて対象土データを抽出する(
図13のStep21)。そして、選定した相関波長セットに係る2波長関係式を2波長関係式記憶手段104から読み出し(
図13のStep26)、対象土データと2波長関係式の較差を算出する(
図13のStep23)。
【0043】
対象土データと2波長関係式の較差を算出すると、その較差と許容範囲を照らし合わせる(
図13のStep24)。そして、その較差が許容範囲内であれば(
図13のStep24のYes)、選定された相関波長セットに係る2波長関係式に基づいて、対象土の含水比を推定する(
図13のStep22)。一方、その較差が許容範囲外となると(
図13のStep24のNo)、相関波長セットを選び直し(
図13のStep25)、改めて一連の処理(
図13のStep21、Step26、Step23、Step24)を行う。あるいは、選出されたすべての相関波長セットについて較差を算出し、最も較差が小さくなった相関波長セットに基いて対象土の含水比を推定することもできる。
【0044】
3.含水状態推定プログラム
続いて、本願発明の含水状態推定プログラムについて
図14を参照しながら説明する。なお、本願発明の含水状態推定プログラムは、ここまで説明した含水状態推定装置100のうち一部の処理をコンピュータに実行させるものであり、したがって含水状態推定装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の含水状態推定プログラムに特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.含水状態推定装置」で説明したものと同様である。
【0045】
図14は、本願発明の含水状態推定プログラムの主な処理の流れを示すフロー図である。まず、オペレータによって入力された波長セット(第1波長と第2波長)を受け付ける(
図14のStep101)。なお、オペレータが入力する仕様に代えて(あるいは加えて)自動的に波長セットを順次設定していく仕様とすることもできる。波長セットが入力(自動設定)されると、複数の試料土のスペクトルパターンを読み出し、試料土データを抽出する(
図14のStep102)。
【0046】
試料土データが抽出されると、この試料土データから相関係数を算出し(
図14のStep103)、その相関係数と相関閾値を照らし合わせる(
図14のStep104)。そして、相関係数が相関閾値を下回ったときは(
図14のStep104のNo)、波長セットを入力し直し(
図14のStep101)、改めて一連の処理(
図14のStep102~Step104)を行う。一方、相関係数が相関閾値を上回ったときは(
図14のStep104のYes)、その波長セットを「相関波長セット」としたうえで次のステップ(
図14のStep105)に進む。相関波長セットが選出されると、2波長関係式が算出される(
図14のStep105)。
【0047】
2波長関係式が用意され、対象土のスペクトルデータが得られると、この対象土のスペクトルデータと相関波長セット(相関第1波長と相関第2波長)を読み出し、対象土データを抽出する(
図14のStep106)。そして2波長関係式と対象土データを読み出して、対象土の含水比を推定する(
図14のStep107)。推定された含水比は、プリンタやディスプレイといった出力手段に出力される。なお含水比を推定するにあたっては、
図11に示すように対象土データと2波長関係式(回帰直線や回帰曲線)の較差と許容範囲を照らし合わせたうえで推定する仕様とすることもできるし、あるいは
図13に示すように最も適した相関波長セット(つまり2波長関係式)を選出したうえで推定する仕様とすることもできる。
【0048】
4.含水状態推定方法
続いて、本願発明の含水状態推定方法について
図15を参照しながら説明する。なお、本願発明の含水状態推定方法は、ここまで説明した含水状態推定装置100を用いて含水状態を推定する方法であり、したがって含水状態推定装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明含水状態推定方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.含水状態推定装置」で説明したものと同様である。
【0049】
図15は、本願発明の含水状態推定方法の主な工程の流れを示すフロー図である。この図に示すように本願発明の含水状態推定方法は、試料土の撮影から2波長関係式を求めるまでの「事前工程」と、実際に現地で対象土を撮影してその含水比を推定するまでの「観測工程」に大別することができる。この事前工程では、まずハイパースペクトルカメラで撮影して試料土のマルチスペクトルデータが取得する(
図15のStep201)。このとき、含水比が異なる複数種類の試料土が用意され、それぞれの試料土を分割した領域RGごとにマルチスペクトルデータが取得される。
【0050】
試料土のマルチスペクトルデータが取得されると、波長セット(第1波長と第2波長)を選定したうえで試料土データを抽出し、相関係数を算出する(
図15のStep202)。そして、相関係数が相関閾値を上回ったときは2波長関係式を算出し(
図15のStep203)、相関係数が相関閾値を下回ったときは波長セットを選び直す。
【0051】
事前工程によって2波長関係式が用意されると、対象土を撮影するため所望の相関波長セットを選定する。このとき、対象土の土質と概ねの含水比を予測したうえで、相関波長セットを選定するとよい。そして、選定した相関波長セットを構成する相関第1波長と相関第2波長で測定できるように観測用スペクトルカメラを調整し、実際に対象土を撮影する(
図15のStep204)。例えば
図2に示す多眼式スペクトルカメラ210を使用する場合、5つのレンズ211のうちいずれかに、相関第1波長に対応するフィルター212を取り付けるとともに、相関第2波長に対応するフィルター212を取り付ける。なお、複数の2波長関係式が算出されているケースでは、2以上の相関波長セットを選定するとともに、2種類の相関第1波長と相関第2波長で測定できるように観測用スペクトルカメラを調整したうえで対象土を撮影することもできる。
【0052】
観測用スペクトルカメラで撮影して対象土のスペクトルデータを得ると、この対象土のスペクトルデータと相関波長セットに基づいて対象土データを抽出し、2波長関係式と対象土データから対象土の含水比を推定する(
図15のStep205)。なお含水比を推定するにあたっては、
図11に示すように対象土データと2波長関係式(回帰直線や回帰曲線)の較差と許容範囲を照らし合わせたうえで推定することもできるし、あるいは
図13に示すように最も適した相関波長セット(つまり2波長関係式)を選出したうえで推定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本願発明の含水状態推定装置、含水状態推定プログラム、及び含水状態推定方法は、中間貯蔵施設で埋め立てられた除去土壌に利用できるほか、造成盛土、道路路床や路体、河川堤防、海岸堤防、ダム、堰堤などの土構造物に広く利用することができる。本願発明は、汚染土壌の管理に対して好適な解決策を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0054】
100 本願発明の含水状態推定装置
101 (含水状態推定装置の)相関度算出手段
102 (含水状態推定装置の)2波長関係式算定処理
103 (含水状態推定装置の)含水状態推定手段
104 (含水状態推定装置の)2波長関係式記憶手段
105 (含水状態推定装置の)スペクトルデータ記憶手段
200 (含水状態推定装置の)観測手段
210 多眼式スペクトルカメラ
211 (多眼式スペクトルカメラの)レンズ
212 (多眼式スペクトルカメラの)フィルター
RG 領域