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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】自己位置推定方法及び自己位置推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20230706BHJP
【FI】
G01C21/28
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019239022
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2020165945
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019058581
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 博幸
(72)【発明者】
【氏名】武田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 千加夫
【審査官】稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-36856(JP,A)
【文献】特開2018-81628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00-21/36
23/00-25/00
G05D 1/00- 1/12
G08G 1/00-99/00
G09B 29/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲の物標を検出する複数の検出部からの測定結果を用いて、地図データ上での前記車両の位置及び向きを推定する自己位置推定方法であって、
複数の前記検出部ごとに、前記車両の車両座標系において、
前記車両の前後方向に沿った前記物標の位置を第1座標値として推定し、前記第1座標値が有する誤差を第1誤差として推定し、
前記車両の幅方向に沿った前記物標の位置を第2座標値として推定し、前記第2座標値が有する誤差を第2誤差として推定し、
前記車両の前後方向を基準として前記車両から前記物標に向かう向きの角度を第3座標値として推定し、前記第3座標値が有する誤差を第3誤差として推定し、
推定された複数の第1座標値の中で第1誤差が最小となる第1座標値を、第1選択値として選択し、
推定された複数の第2座標値の中で第2誤差が最小となる第2座標値を、第2選択値として選択し、
推定された複数の第3座標値の中で第3誤差が最小となる第3座標値を、第3選択値として選択し、
前記第1選択値、前記第2選択値、前記第3選択値に基づいて、前記車両の位置及び向きを推定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自己位置推定方法であって、
複数の前記検出部ごとに、前記車両の車両座標系において、
前記車両の前後方向に沿った前記物標の速度を第1速度として算出し、所定期間内に算出された複数の前記第1速度を記憶してプロファイルを作成し、
前記車両の幅方向に沿った前記物標の速度を第2速度として算出し、所定期間内に算出された複数の前記第2速度を記憶してプロファイルを作成し、
前記車両の前後方向を基準として前記車両から前記物標に向かう向きの角速度を第3速度として算出し、所定期間内に算出された複数の前記第3速度を記憶してプロファイルを作成し、
基準となる速度を記憶した基準プロファイルを作成し、
前記プロファイルに記憶された前記第1速度と前記基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出し、算出された前記差分を加算して差分の和を算出し、算出された前記差分の和が第1閾値より大きくなる場合には、前記プロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第2速度と前記基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出し、算出された前記差分を加算して差分の和を算出し、算出された前記差分の和が第1閾値より大きくなる場合には、前記プロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第3速度と前記基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出し、算出された前記差分を加算して差分の和を算出し、算出された前記差分の和が第1閾値より大きくなる場合には、前記プロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
推定された複数の前記第1座標値の中で、特定された前記検出部の測定結果を用いて推定された第1座標値を除外して、前記第1誤差が最小となる第1座標値を前記第1選択値として選択し、
推定された複数の前記第2座標値の中で、特定された前記検出部の測定結果を用いて推定された第2座標値を除外して、前記第2誤差が最小となる第2座標値を前記第2選択値として選択し、
推定された複数の前記第3座標値の中で、特定された前記検出部の測定結果を用いて推定された第3座標値を除外して、前記第3誤差が最小となる第3座標値を前記第3選択値として選択する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の自己位置推定方法であって、
前記車両の速度が所定値以下である場合には、前記第1閾値よりも小さい第2閾値を用いることを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の自己位置推定方法であって、
前記車両が旋回中である場合には、前記第1閾値の代わりに第3閾値を用いることを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
前記プロファイルに記憶された前記第1速度の中で第4閾値より大きな速度がある場合には、前記第4閾値より大きな速度を有するプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第2速度の中で第4閾値より大きな速度がある場合には、前記第4閾値より大きな速度を有するプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第3速度の中で第4閾値より大きな速度がある場合には、前記第4閾値より大きな速度を有するプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
前記プロファイルに記憶された前記第1速度についてそれぞれ加速度を算出し、前記基準プロファイルに記憶された速度についてそれぞれ加速度を算出し、前記第1速度から算出された加速度の向きと前記基準プロファイルの速度から算出された加速度の向きが異なる回数が、第5閾値より多い場合には、前記第5閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第2速度についてそれぞれ加速度を算出し、前記基準プロファイルに記憶された速度についてそれぞれ加速度を算出し、前記第2速度から算出された加速度の向きと前記基準プロファイルの速度から算出された加速度の向きが異なる回数が、第5閾値より多い場合には、前記第5閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第3速度についてそれぞれ加速度を算出し、前記基準プロファイルに記憶された速度についてそれぞれ加速度を算出し、前記第3速度から算出された加速度の向きと前記基準プロファイルの速度から算出された加速度の向きが異なる回数が、第5閾値より多い場合には、前記第5閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項7】
請求項2~6のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
前記プロファイルに記憶された前記第1速度と前記基準プロファイルに記憶された速度とをそれぞれ比較して、速度の差が所定値以上である回数が第6閾値より多い場合には、前記第6閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第2速度と前記基準プロファイルに記憶された速度とをそれぞれ比較して、速度の差が所定値以上である回数が第6閾値より多い場合には、前記第6閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定し、
前記プロファイルに記憶された前記第3速度と前記基準プロファイルに記憶された速度とをそれぞれ比較して、速度の差が所定値以上である回数が第6閾値より多い場合には、前記第6閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した前記検出部を特定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
前記第1選択値が有する前記第1誤差、
前記第2選択値が有する前記第2誤差、
前記第3選択値が有する前記第3誤差
の合計を算出する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
前記検出部ごとの誤差モデルを用いて、当該検出部における前記第1誤差、前記第2誤差、前記第3誤差をそれぞれ推定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項10】
請求項9に記載の自己位置推定方法であって、
前記検出部がカメラである場合、前記誤差モデルは、前記カメラの移動速度と発生する誤差の間の関係を実測して作成されたものである
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項11】
請求項10に記載の自己位置推定方法であって、
前記誤差モデルは、前記カメラの撮像距離と発生する誤差の関係を実測して作成されたものである
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の自己位置推定方法であって、
前記誤差モデルは、前記カメラのレンズパラメータに基づいて計算によりモデル化して作成されたものである
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
前記車両の車両モデルに基づいて、前記車両の位置及び向きを推定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項14】
請求項13に記載の自己位置推定方法であって、
前記車両モデルは、オドメトリおよび前記車両に車載される衛星測位システムに基づいて実測して作成されたものである
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の自己位置推定方法であって、
前記車両モデルと、前記検出部ごとの誤差モデルを用いて、当該検出部における前記第1誤差、前記第2誤差、前記第3誤差を推定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
過去の時点で選択された、前記第1選択値、前記第2選択値、前記第3選択値に基づいて、前記車両の位置及び向きを推定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の自己位置推定方法であって、
前記第1選択値が有する前記第1誤差、前記第2選択値が有する前記第2誤差、前記第3選択値が有する前記第3誤差に基づいて、前記車両の位置及び向きを推定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項18】
車両の周囲の物標を検出する複数の検出部と、
コントローラと、
を備える、地図データ上での前記車両の位置及び向きを推定する自己位置推定装置であって、
前記コントローラは、
複数の前記検出部ごとに、前記車両の車両座標系において、
前記車両の前後方向に沿った前記物標の位置を第1座標値として推定し、前記第1座標値が有する誤差を第1誤差として推定し、
前記車両の幅方向に沿った前記物標の位置を第2座標値として推定し、前記第2座標値が有する誤差を第2誤差として推定し、
前記車両の前後方向を基準として前記車両から前記物標に向かう向きの角度を第3座標値として推定し、前記第3座標値が有する誤差を第3誤差として推定し、
推定された複数の第1座標値の中で第1誤差が最小となる第1座標値を、第1選択値として選択し、
推定された複数の第2座標値の中で第2誤差が最小となる第2座標値を、第2選択値として選択し、
推定された複数の第3座標値の中で第3誤差が最小となる第3座標値を、第3選択値として選択し、
前記第1選択値、前記第2選択値、前記第3選択値に基づいて、前記車両の位置及び向きを推定する
ことを特徴とする自己位置推定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己位置推定方法及び自己位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の検出部によって計測した物標の位置と、学習地図上の物標の位置の距離を最小化するような二次元変換を決定することで、車両の位置と向きとを推定する自己位置推定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-148601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、複数の検出部によって計測した車両座標系での物標の位置に基づいて、最尤推定により地図データ上での車両の位置及び向きを推定する。そのため、複数の検出部のうち一の検出部の測定誤差が大きい場合、当該一の検出部による測定結果に引きずられて、最尤推定によって求めた車両の位置及び向きの精度が低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の検出部による測定結果を組み合わせて、地図データ上での車両の位置及び向きを精度よく推定できる自己位置推定方法及び自己位置推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した問題を解決するために、本発明の一態様に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置は、車両の周囲の物標を検出する複数の検出部からの測定結果を用いて、地図データ上での車両の位置及び向きを推定する際に、車両の車両座標系において車両の前後方向、車両の幅方向にそれぞれ沿った物標の位置とそれらの誤差、車両から物標に向かう向きの角度とその誤差を、それぞれ推定し、推定された誤差が最小となる車両の前後方向に沿った物標の位置、車両の幅方向に沿った物標の位置、車両から物標に向かう向きの角度をそれぞれ選択し、選択した位置および角度に基づいて車両の位置及び向きを推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の検出部のうち一の検出部の測定結果が他の検出部による測定結果と比較して大きく異なってしまう場合であっても、複数の検出部による測定結果を組み合わせて、車両の位置及び向きを精度よく推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係る自己位置推定装置の処理手順を示すフローチャートである。
図3図3は、複数の検出部による検出結果と、推定される物標の位置との関係を示す模式図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係る自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る自己位置推定装置によるプロファイルの作成方法を説明するための図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係る自己位置推定装置による誤差を有する検出部の特定方法を説明するための図である。
図7図7は、本発明の第2実施形態に係る自己位置推定装置の処理手順を示すフローチャートである。
図8図8は、本発明の第2実施形態に係る自己位置推定装置による検出部の特定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図9図9は、本発明の第2実施形態に係る自己位置推定装置による効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。説明において、同一のものには同一符号を付して重複説明を省略する。
【0010】
[自己位置推定装置の構成]
図1は、本実施形態に係る自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る自己位置推定装置は、複数の検出部40と、コントローラ100とを備える。なお、自己位置推定装置は、図示しない車両に搭載される。
【0011】
検出部40は、車両の位置を決定するための基準となる物標の、車両との相対的な位置関係を出力する。
【0012】
検出部40の例として、車両に搭載されたカメラによって撮像した画像に基づいて、車両周囲の白線を認識する白線検出部、停止線を検出する停止線検出部などが挙げられる。この他にも、車両に搭載されたレーダあるいはライダによって道路標識や建物などの車両周囲の立体物(静止物体)を検出するランドマーク検出部、人工衛星からの電波を受信することにより、地上における車両の位置を検出する衛星測位システム(GPS)に基づく位置検出部などがある。また、検出部40としては、車両モデルから車両の位置を推定する位置推定部も含まれる。例えば、車両モデルとしては、車両の車輪速と操舵角からオドメトリを求めて車両の位置を推定するモデルが考えられる。なお、白線や停止線等の車両周囲の道路上の表示や道路標識、建物等の車両周囲の立体物等の、静止した目標物を以下では物標と記載する。
【0013】
コントローラ100(制御部、処理部の一例)は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。コントローラ100には、自己位置推定装置として機能させるためのコンピュータプログラム(自己位置推定プログラム)がインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、コントローラ100は、自己位置推定装置が備える複数の情報処理回路(31、33、71、73、75、91、93)として機能する。
【0014】
なお、ここでは、ソフトウェアによって自己位置推定装置が備える複数の情報処理回路(31、33、71、73、75、91、93)を実現する例を示す。ただし、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路(31、33、71、73、75、91、93)を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路(31、33、71、73、75、91、93)を個別のハードウェアにより構成してもよい。更に、情報処理回路(31、33、71、73、75、91、93)は、車両にかかわる他の制御に用いる電子制御ユニット(ECU)と兼用してもよい。
【0015】
コントローラ100は、複数の情報処理回路(31、33、71、73、75、91、93)として、推定部31、誤差推定部33、第1選択部71、第2選択部73、第3選択部75、出力部91、誤差統合部93を備える。
【0016】
推定部31は、検出部40の出力結果に基づいて、検出部40による検出対象となっている物標の、車両座標系から見た、車両の前後方向に沿った位置、車両の幅方向に沿った位置、及び、車両の前後方向を基準として車両から物標に向かう向きの角度を推定する。なお、以下の前提として、複数の検出部40による出力結果は、同一の物標に対する出力結果であるとする。
【0017】
推定部31による推定は、複数ある検出部40ごとに行われる。すなわち、推定部31は、検出部40ごと、且つ、車両の前後方向の位置(第1座標値)、車両の幅方向の位置(第2座標値)、物標へ向かう向きを示す角度(第3座標値)ごとに、推定結果を出力する。
【0018】
誤差推定部33は、検出部40の出力結果に基づいて、推定部31による出力結果に対する誤差を推定する。より具体的には、検出部40の出力結果に基づいて、検出部40ごとに、車両の前後方向の位置に含まれる誤差(第1誤差)、車両の幅方向の位置に含まれる誤差(第2誤差)、物標へ向かう向きを示す角度に含まれる誤差(第3誤差)ごとに、推定結果を出力する。
【0019】
例えば、図3には、複数の検出部40からの出力結果として、第一の検出部40からの第一の出力結果(位置P1(X1,Y1)、誤差範囲R1)と、第二の検出部40からの第二の出力結果(位置P2(X2,Y2)、誤差範囲R2)とが示されている。推定部31による推定は複数ある検出部40ごとに行われ、推定部31は、車両の前後方向の位置(第1座標値)として「位置P1の座標値X1」「位置P2の座標値X2」を推定結果として出力している。また、推定部31は、車両の幅方向の位置(第2座標値)として「位置P1の座標値Y1」「位置P2の座標値Y2」を推定結果として出力している。
【0020】
また、図3では、誤差推定部33は、推定部31による推定結果「座標値X1」「座標値X2」「座標値Y1」「座標値Y2」に含まれる誤差として、「誤差ΔX1」「誤差ΔX2」「誤差ΔY1」「誤差ΔY2」を推定結果として出力している。ここで、「誤差ΔX1」「誤差ΔX2」は第1誤差であり、「誤差ΔY1」「誤差ΔY2」は第2誤差である。
【0021】
図3では、第3座標値、第3誤差については明示していないが、推定部31及び誤差推定部33は、物標へ向かう向きを示す角度についても同様に推定結果を出力する。また、図3では、複数の検出部40の出力結果として2つのみが示されているが、それ以上の個数の出力結果が存在する場合であっても、推定部31及び誤差推定部33は同様に処理を行う。
【0022】
なお、誤差推定部33による誤差の推定には、種々の方法が存在する。例えば、検出部40自身が出力する誤差情報に基づいて誤差を推定するものであってもよいし、検出部40ごとの特性に基づく誤差モデルに基づいて、誤差を推定するものであってもよい。また、検出部40の出力結果だけでなく、車両の走行軌跡を表現する車両モデルをコントローラ100内部に保持しておき、当該車両モデルに基づいて推定される物標の位置と、検出部40自身が出力する誤差情報、検出部40ごとの特性に基づく誤差モデルに基づいて、誤差を推定するものであってもよい。
【0023】
誤差推定部33で用いる誤差モデルには、種々のモデルが存在する。例えば、検出部40がカメラを含む場合、カメラの物標に対する移動速度と発生する誤差との関係を実測して、誤差モデルは作成されるものであってもよい。ここで、一般に、移動速度が大きくなるほど、発生する誤差は大きくなるため、移動速度の関数として、実測された誤差を評価する近似式として誤差モデルを作成することが可能である。
【0024】
また、カメラの物標までの撮像距離と発生する誤差の関係を実測して、誤差モデルは作成されるものであってもよい。
【0025】
上記の他にも、カメラのレンズパラメータに基づいて計算によりカメラをモデル化し、モデル化したカメラの特性に基づいて、誤差モデルは作成されるものであってもよい。
【0026】
車両の走行軌跡を表現する車両モデルについても、種々のモデルが存在する。例えば、オドメトリおよび車両に車載される衛星測位システムに基づいて車両の走行軌跡を実測しておき、所定時間経過後の車両の位置を予測するモデルであってもよい。
【0027】
第1選択部71は、推定部31によって推定された複数の第1座標値の中で、第1誤差が最小となる第1座標値を、第1選択値として選択する。また、最小となる第1誤差を最小第1誤差として選択する。図3に示す例では、第1選択部71は、第1誤差である「誤差ΔX1」「誤差ΔX2」のうち、最小の第1誤差は「誤差ΔX1」であるので、複数の第1座標値である「座標値X1」「座標値X2」の中から、「誤差ΔX1」に対応付けられる「座標値X1」を、第1選択値として選択している。また、第1選択部71は、「誤差ΔX1」を最小第1誤差として選択している。
【0028】
第2選択部73は、推定部31によって推定された複数の第2座標値の中で、第2誤差が最小となる第2座標値を、第2選択値として選択する。また、最小となる第2誤差を最小第2誤差として選択する。図3に示す例では、第2選択部73は、第2誤差である「誤差ΔY1」「誤差ΔY2」のうち、最小の第2誤差は「誤差ΔY2」であるので、複数の第2座標値である「座標値Y1」「座標値Y2」の中から、「誤差ΔY2」に対応付けられる「座標値Y2」を、第2選択値として選択している。また、第2選択部73は、「誤差ΔY2」を最小第2誤差として選択している。
【0029】
第3選択部75は、推定部31によって推定された複数の第3座標値の中で、第3誤差が最小となる第3座標値を、第3選択値として選択する。また、最小となる第3誤差を最小第3誤差として選択する。第3選択部75は、第1選択部71及び第2選択部73と同様に、第3選択値及び最小第3誤差を、複数の第3座標値に基づいて選択する。
【0030】
出力部91は、第1選択部71、第2選択部73、第3選択部75によってそれぞれ選択された第1選択値、第2選択値、第3選択値に基づいて、検出部40による検出対象となっている物標の位置及び角度を推定する。その他、出力部91は、推定した物標の位置及び角度に基づいて、車両の位置及び向きを推定する。すなわち、出力部91は、物標位置を含む地図データを予め記憶し、第1選択部71、第2選択部73、第3選択部75で選択された第1選択値、第2選択値、第3選択値と地図データとを照合して、地図データ上における、車両の位置及び向きを推定する。
【0031】
図3に示す例では、出力部91は、第1選択値である「座標値X1」と、第2選択値である「座標値Y2」を、物標の位置PE(X1,Y2)であると推定している。
【0032】
図3では、第3選択値については明示していないが、出力部91は、物標へ向かう向きを示す角度についても、第3選択値に基づいて同様に推定する。
【0033】
誤差統合部93は、第1選択部71、第2選択部73、第3選択部75によってそれぞれ選択された最小第1誤差、最小第2誤差、最小第3誤差に基づいて、出力部91によって推定された物標の位置及び角度に関する誤差を推定する。その結果、出力部91によって推定された、地図データ上における車両の位置及び向きに関する誤差を推定する。
【0034】
例えば、誤差統合部93は、推定された物標の位置及び角度に関する誤差が、最小第1誤差、最小第2誤差、最小第3誤差の合計であるとして推定する。
【0035】
[自己位置推定装置の処理手順]
次に、本実施形態に係る自己位置推定装置による自己位置推定の処理手順を、図2のフローチャートを参照して説明する。図2に示す自己位置推定の処理は、車両のイグニッションがオンされると開始し、イグニッションがオンとなっている間、繰り返し実行される。
【0036】
まず、ステップS101において、検出部40は、車両の位置を決定するための基準となる物標の、車両との相対的な位置関係を出力する。そして、推定部31は、検出部40の出力結果に基づいて、検出部40による検出対象となっている物標の、車両座標系から見た、車両の前後方向に沿った位置、車両の幅方向に沿った位置、及び、車両の前後方向を基準として車両から物標に向かう向きの角度を推定する。
【0037】
ステップS103において、誤差推定部33は、検出部40の出力結果に基づいて、推定部31による出力結果に対する誤差を推定する。
【0038】
ステップS105において、第1選択部71は、推定部31によって推定された複数の第1座標値の中で、第1誤差が最小となる第1座標値を、第1選択値として選択する。また、最小となる第1誤差を最小第1誤差として選択する。
【0039】
ステップS107において、第2選択部73は、推定部31によって推定された複数の第2座標値の中で、第2誤差が最小となる第2座標値を、第2選択値として選択する。また、最小となる第2誤差を最小第2誤差として選択する。
【0040】
ステップS109において、第3選択部75は、推定部31によって推定された複数の第3座標値の中で、第3誤差が最小となる第3座標値を、第3選択値として選択する。また、最小となる第3誤差を最小第3誤差として選択する。
【0041】
ステップS111において、出力部91は、第1選択部71、第2選択部73、第3選択部75に基づいて、地図データ上における、車両の位置及び向きを推定する。
【0042】
ステップS113において、誤差統合部93は、出力部91によって推定された、地図データ上における車両の位置及び向きに関する誤差を推定する。
【0043】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置は、車両の周囲の物標を検出する複数の検出部からの測定結果を用いて、地図データ上での車両の位置及び向きを推定する際に、複数の検出部ごとに、車両の車両座標系において、車両の前後方向に沿った物標の位置を第1座標値として推定し、第1座標値が有する誤差を第1誤差として推定し、車両の幅方向に沿った物標の位置を第2座標値として推定し、第2座標値が有する誤差を第2誤差として推定し、車両の前後方向を基準として車両から物標に向かう向きの角度を第3座標値として推定し、第3座標値が有する誤差を第3誤差として推定する。そして、推定された複数の第1座標値の中で第1誤差が最小となる第1座標値を、第1選択値として選択し、推定された複数の第2座標値の中で第2誤差が最小となる第2座標値を、第2選択値として選択し、推定された複数の第3座標値の中で第3誤差が最小となる第3座標値を、第3選択値として選択し、第1選択値、第2選択値、第3選択値に基づいて、車両の位置及び向きを推定する。
【0044】
これにより、複数の検出部のうち一の検出部の測定結果が他の検出部による測定結果と比較して大きく異なってしまう場合であっても、複数の検出部による測定結果の中から、誤差が最も小さいと推定される量(車両の前後方向の位置(第1座標値)、車両の幅方向の位置(第2座標値)、物標へ向かう向きを示す角度(第3座標値))同士を組み合わせ、車両の位置及び向きを精度よく推定できる。
【0045】
最尤推定による方法では、複数の検出部による複数の測定結果の中に、誤差の大きな測定結果が混入してしまう場合に、誤差の大きな測定結果に引きずられて、推定された車両の位置及び向きの精度が悪化してしまうことがある。結局のところ、最尤推定による方法は、測定結果が無限個の極限では正しい結果を与えるが、現実の測定では有限個の検出部しか利用することができないため、有限個の測定結果しか得られない。そのため、最尤推定による方法では、測定結果の誤差が問題となりうるのである。これと比較して、本実施形態による方法によれば、誤差の大きな測定結果に引きずられて、推定された車両の位置及び向きの精度が悪化してしまうことを抑制できる。
【0046】
また、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、第1選択値が有する第1誤差、第2選択値が有する第2誤差、第3選択値が有する第3誤差の合計を算出するものであってもよい。これにより、推定された車両の位置及び向きについての誤差を評価することができる。また、車両モデルを介して将来の車両の位置及び向きについての誤差を評価するための基となるデータとすることができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、検出部ごとの誤差モデルを用いて、当該検出部における第1誤差、第2誤差、第3誤差をそれぞれ推定するものであってもよい。検出部毎に用意された誤差モデルを使用して誤差を推定するため、検出部毎の特性を考慮した誤差の推定を行うことができる。また、検出部が誤差モデルから離れた挙動を示した場合に、検出部が故障していること検知したり、もしくは、検出部が何らかの原因により通常の条件下で測定を行うことができていないことを検知したりできる。
【0048】
また、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、検出部がカメラである場合、誤差モデルは、カメラの移動速度と発生する誤差の間の関係を実測して作成されたものであってもよい。さらには、誤差モデルは、カメラの撮像距離と発生する誤差の関係を実測して作成されたものであってもよい。車両の移動に伴ってカメラに生じる誤差を、実測値に基づいて正確に評価でき、車両の位置及び向きを、より精度よく推定できる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、誤差モデルは、カメラのレンズパラメータに基づいて計算によりモデル化して作成されたものであってもよい。車両の移動に伴ってカメラに生じる誤差を、モデル化したカメラの特性に基づいて正確に評価でき、車両の位置及び向きを、より精度よく推定できる。
【0050】
また、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、車両の車両モデルに基づいて、車両の位置及び向きを推定するものであってもよい。また、車両モデルは、オドメトリおよび車両に車載される衛星測位システムに基づいて実測して作成されたものであってもよい。車両モデルに基づいて推定することにより、車両の走行軌跡と推定された車両の位置及び向きとの間のズレ量を誤差の評価に利用することができ、車両の位置及び向きの推定を改善できる。
【0051】
さらに、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、車両モデルと、検出部ごとの誤差モデルを用いて、当該検出部における第1誤差、第2誤差、第3誤差を推定するものであってもよい。検出部毎に用意された誤差モデルを使用して誤差を推定するため、検出部毎の特性を考慮した誤差の推定を行うことができる。
【0052】
また、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、過去の時点で選択された、第1選択値、第2選択値、第3選択値に基づいて、車両の位置及び向きを推定するものであってもよい。過去の時点で選択された、第1選択値、第2選択値、第3選択値も推定に利用することで、推定に使用するデータ量を増やすことが可能となり、車両の位置及び向きを、より精度よく推定できる。
【0053】
さらに、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置において、第1選択値が有する第1誤差、第2選択値が有する第2誤差、第3選択値が有する第3誤差に基づいて、車両の位置及び向きを推定するものであってもよい。これにより、推定された車両の位置及び向きについての誤差を評価することができる。また、車両モデルを介して将来の車両の位置及び向きについての誤差を評価するための基となるデータとすることができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。説明において、同一のものには同一符号を付して重複説明を省略する。
【0055】
[自己位置推定装置の構成]
図4は、本実施形態に係る自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。図4に示すように、本実施形態に係る自己位置推定装置は、検出部評価部150をさらに備えたことが第1実施形態と相違している。
【0056】
検出部評価部150は、複数の検出部40の中から、誤差を有する検出部40を特定し、特定された検出部40を第1-第3選択部71-75にそれぞれ出力する。その結果、第1-第3選択部71-75では、特定された検出部40の測定結果を用いて推定された座標値を除外した上で、第1-第3誤差が最小となる座標値を第1-第3選択値として選択する。検出部評価部150は、プロファイル作成部152と、検出部特定部154とを備えている。
【0057】
プロファイル作成部152は、複数の検出部40ごとに、車両の車両座標系において、車両の前後方向に沿った物標の速度を第1速度として算出し、所定期間内に算出された複数の第1速度を記憶してプロファイルを作成する。同様に、プロファイル作成部152は、車両の幅方向に沿った物標の速度を第2速度として算出し、所定期間内に算出された複数の第2速度を記憶してプロファイルを作成する。また、車両の前後方向を基準として車両から物標に向かう向きの角速度を第3速度として算出し、所定期間内に算出された複数の第3速度を記憶してプロファイルを作成する。さらに、プロファイル作成部152は、基準となる速度を記憶した基準プロファイルも作成する。
【0058】
プロファイル作成部152は、まず複数の検出部40ごとに、検出部40が検出対象としている物標の速度を算出する。例えば、検出部40が白線検出部である場合には白線の移動速度を算出し、検出部40がGPSに基づく車両の位置検出システムである場合には車両の速度を算出する。速度の算出方法は、検出部40によってそれぞれ異なっているが、基本的には所定時間内における物標の位置の変化量から求めることができる。そして、プロファイル作成部152は、車両の前後方向に沿った物標の速度を第1速度、車両の幅方向に沿った物標の速度を第2速度、車両の前後方向を基準として車両から物標に向かう向きの角速度を第3速度として算出する。
【0059】
次に、プロファイル作成部152は、所定期間内に算出された複数の速度を、算出された時刻の順に並べて記録したプロファイルを作成する。例えば、プロファイルには、10秒間の間に1秒毎に算出された10個の速度が、算出された時刻の順に並べられて記憶されている。そして、プロファイル作成部152は、検出部40ごとに第1速度と第2速度と第3速度のプロファイルをそれぞれ作成する。
【0060】
また、プロファイル作成部152は、基準となる速度を記憶した基準プロファイルを作成する。基準プロファイルは、検出部40の中で最も安定していると考えられる検出部の測定結果を用いて算出された速度を記憶したプロファイルである。例えば、車両モデルから推定された速度を記憶したプロファイルを基準プロファイルとすることが考えられる。車両モデルとしては、車両の車輪速と操舵角から求められるオドメトリを用いることができる。車両モデルの他にもGPSによって検出された車両の位置から算出された速度を用いて基準プロファイルを作成してもよい。
【0061】
次に、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された第1速度と基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出する。同様に、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された第2速度と基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出し、プロファイルに記憶された第3速度と基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出する。そして、算出された差分を加算して差分の和を算出し、算出された差分の和が第1閾値より大きくなるか否かを判定する。その結果、算出された差分の和が第1閾値より大きくなる場合には、第1閾値より大きいと判定されたプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部40を、継続して誤差を有する検出部であると特定する。
【0062】
ここで、継続して誤差を有する検出部を特定する方法を、図5、6を参照して説明する。図5は、検出部40の測定結果から算出された速度の時間変化を示す図であり、図6は、プロファイルに記憶された速度と基準プロファイルに記憶された速度との差分の和の時間変化を示す図である。
【0063】
図5に示すように、プロファイル作成部152は、複数の検出部40の測定結果から検出部40ごとに速度Va、Vb、Vc、Vrを算出している。速度Vaは検出部40aの測定結果から算出された速度、速度Vbは検出部40bの測定結果から算出された速度、速度Vcは検出部40cの測定結果から算出された速度である。また、速度Vrは基準となる速度であり、図5ではオドメトリから求めた速度を基準としている。図5に示すように、速度Vaは急な減速をしており、速度Vbは緩やかに減速している。一方、速度Vc、Vrは加速している。
【0064】
図5において、プロファイル作成部152は、現在時刻t0より前の所定期間、例えば10秒間に算出された速度を記憶してプロファイルを作成する。図5では、速度Va、Vb、Vcのプロファイルをそれぞれ作成し、基準プロファイルとして速度Vrのプロファイルを作成する。
【0065】
こうしてプロファイルが作成されると、次に、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された速度と基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出する。プロファイルは、所定の時刻や所定の時間間隔で速度を記憶しているので、同一の時刻にある速度同士で差分を算出する。例えば、速度Vaの時刻t5における速度と速度Vrの時刻t5における速度の差分を算出する。そして、プロファイルに記憶されている速度のすべてについてそれぞれ差分を算出する。図5の場合では、現在時刻t0より前の10秒間の速度の差分をすべて算出する。
【0066】
そして、検出部特定部154は、算出された差分をすべて加算して差分の和を算出し、算出した差分の和が第1閾値より大きくなるか否かを判定する。図6は、図5の速度Vaから算出した差分の和Saと、図5の速度Vbから算出した差分の和Sbと、図5の速度Vcから算出した差分の和Scを示している。尚、第1閾値は、車両が通常の速度で直進走行している場合に、継続して誤差を有する検出部を特定するために設定された閾値であり、予め実験やシミュレーションによって設定しておけばよい。
【0067】
図6に示すように、差分の和Sa、Sbは、時刻t0において第1閾値よりも大きくなっている。すなわち、プロファイルの作成期間において、速度Va、Vbは、基準となる速度Vrから継続して乖離が生じていたことが分かる。したがって、速度Va、Vbを算出した測定結果を出力した検出部40は、継続して誤差を有する検出部であると特定することができる。
【0068】
一方、差分の和Scは第1閾値以下となっている。すなわち、プロファイルの作成期間において、速度Vcは、基準となる速度Vrからの乖離が常に小さいことが分かる。したがって、速度Vcを算出した測定結果を出力した検出部40は、誤差が小さい検出部であると特定することができる。
【0069】
こうして誤差を有する検出部が特定されると、検出部特定部154は、特定結果を第1-第3選択部71-75に出力する。
【0070】
第1選択部71は、特定結果を取得すると、推定部31で推定された複数の第1座標値の中で、誤差を有すると特定された検出部40の測定結果を用いて推定された第1座標値を除外する。そして、除外されなかった第1座標値の中から第1誤差が最小となる第1座標値を第1選択値として選択する。
【0071】
同様に、第2選択部73は、推定部31で推定された複数の第2座標値の中で、誤差を有すると特定された検出部40の測定結果を用いて推定された第2座標値を除外する。そして、除外されなかった第2座標値の中から第2誤差が最小となる第2座標値を第2選択値として選択する。
【0072】
また、第3選択部75は、推定部31で推定された複数の第3座標値の中で、誤差を有すると特定された検出部40の測定結果を用いて推定された第3座標値を除外する。そして、除外されなかった第3座標値の中から第3誤差が最小となる第3座標値を第3選択値として選択する。
【0073】
この後、出力部91は、第1選択部71、第2選択部73、第3選択部75によってそれぞれ選択された第1選択値、第2選択値、第3選択値に基づいて、検出部40による検出対象となっている物標の位置及び角度を推定する。その他、出力部91は、推定した物標の位置及び角度に基づいて、車両の位置及び向きを推定する。
【0074】
[自己位置推定装置の処理手順]
次に、本実施形態に係る自己位置推定装置による自己位置推定の処理手順を、図7のフローチャートを参照して説明する。図7に示す本実施形態の自己位置推定処理では、ステップS104が追加されたことが、図2に示す第1実施形態の自己位置推定処理と相違している。
【0075】
ステップS104において、検出部評価部150は、複数の検出部40の中で、継続して誤差を有する検出部40を特定し、特定された検出部40を第1-第3選択部71-75にそれぞれ出力する。以下、ステップS104で実行される検出部の特定処理を、図8のフローチャートを参照して説明する。
【0076】
図8に示すように、プロファイル作成部152は、ステップS201において、複数の検出部40ごとに車両の車両座標系において速度を算出し、ステップS203において、所定期間内に算出された複数の速度を記憶してプロファイルを作成する。また、プロファイル作成部152は、ステップS203において、基準となる速度を記憶した基準プロファイルも作成する。
【0077】
ステップS205において、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された速度と基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出し、算出された差分をすべて加算して差分の和を算出する。
【0078】
ステップS207において、検出部特定部154は、算出された差分の和が第1閾値より大きくなるか否かを判定する。そして、第1閾値より大きいと判定されたプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部40を、継続して誤差を有する検出部であると特定する。この後、検出部特定部154は特定結果を第1-第3選択部71-75に出力する。
【0079】
こうして、誤差を有する検出部が特定されると、ステップS104で実行される検出部の特定処理は終了する。
【0080】
この後、図7の自己位置推定処理はステップS105-S109に進む。ステップS105-S109において、第1-第3選択部71-75は、誤差を有する検出部の特定結果を取得すると、推定部31で推定された複数の座標値の中で、誤差を有する検出部40の測定結果を用いて推定された座標値を除外する。そして、除外されなかった座標値の中から誤差が最小となる座標値を選択値として選択する。
【0081】
こうして選択値が選択されると、ステップS111、S113の処理が実行されて、本実施形態に係る自己位置推定処理は終了する。
【0082】
[変形例1]
上述した実施形態では、車両が通常の速度で直進走行している場合について説明しているが、車両がほぼ停止しているような低速の場合や車両が旋回しているような場合には、誤差の大きさが変化する。そのため、車両が低速の場合や旋回している場合には、上述した実施形態の第1閾値を変更する必要がある。
【0083】
そこで、車両の速度が所定値以下である場合には、第1閾値よりも小さい第2閾値を用いて、継続して誤差を有する検出部40を特定する。車両が低速で走行している場合には、誤差は小さくなるので、第2閾値は第1閾値よりも小さな値となる。尚、第2閾値は、車両がほぼ停止しているような低速で走行している場合に、誤差を有する検出部40を特定するために設定された閾値であり、予め実験やシミュレーションによって設定することができる。
【0084】
また、車両が旋回中である場合には、第1閾値の代わりに第3閾値を用いて、継続して誤差を有する検出部40を特定する。車両が旋回中であることを判断する方法としては、車両のヨー角を検出して判断すればよい。尚、第3閾値は、車両が通常の速度で旋回している場合に、誤差を有する検出部40を特定するために設定された閾値であり、予め実験やシミュレーションによって設定することができる。
【0085】
[変形例2]
検出部40の中には安定性が低く、一時的に大きな誤差を含んだ測定結果を出力する場合がある。そのような場合には、プロファイルに記憶された速度の中に全く異なる値の速度が含まれることになる。
【0086】
そこで、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された速度の中に1つでも全く異なる値の速度が含まれている場合には、そのプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部40を、誤差を有する検出部であると特定する。
【0087】
具体的に、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された速度の中で第4閾値より大きな速度があるか否かを判定する。そして、第4閾値より大きな速度を有するプロファイルがある場合には、そのプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部を、誤差を有する検出部であると特定する。尚、第4閾値は、大きな誤差を含んだ速度を検出するために設定された閾値なので、他の閾値よりも大きな値に設定されており、予め実験やシミュレーションによって設定することができる。
【0088】
[変形例3]
誤差を有する検出部40を特定する方法として、速度の変化率、すなわち加速度の向き(プラスかマイナスか)が異なっているかどうかを判断することによって、検出部40が誤差を有するかどうかを判断することができる。
【0089】
そこで、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された速度についてそれぞれ加速度を算出し、基準プロファイルに記憶された速度についてもそれぞれ加速度を算出する。加速度は、前後の速度の間の変化率を求めることによって算出することができる。そして、プロファイルに記憶された速度から算出された加速度の向きと基準プロファイルから算出された加速度の向きが異なる回数が第5閾値より多いか否かを判定する。その結果、第5閾値より多い場合には、第5閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部を、誤差を有する検出部であると特定する。尚、第5閾値は、継続して誤差を有する検出部において加速度の向きに異常が発生する回数を、予め実験やシミュレーションによって検証して設定しておけばよい。
【0090】
[変形例4]
プロファイルに記憶された各速度の誤差は小さくても、誤差のある速度が多い場合には、そのようなプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部は誤差を有する検出部であると考えられる。
【0091】
そこで、検出部特定部154は、プロファイルに記憶された速度と基準プロファイルに記憶された速度とをそれぞれ比較する。そして、速度の差が所定値以上である回数が第6閾値より多い場合には、第6閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部を、誤差を有する検出部であると特定する。尚、第6閾値は、継続して誤差を有する検出部において小さな誤差が発生する回数を、予め実験やシミュレーションによって検証して設定しておけばよい。また、小さな誤差の有無を判定するための所定値は、大きな誤差を判定するための第4閾値より小さな値に設定されている。
【0092】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置は、物標の速度を算出して所定期間内に算出された複数の速度を記憶してプロファイルを作成し、さらに基準となる速度を記憶した基準プロファイルを作成する。そして、プロファイルに記憶された速度と基準プロファイルに記憶された速度との差分を算出し、算出された差分を加算して差分の和を算出する。その結果、算出された差分の和が第1閾値より大きくなる場合には、そのプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部を特定する。こうして検出部が特定されると、推定された複数の座標値の中で、特定された検出部の測定結果を用いて推定された座標値を除外し、誤差が最小となる座標値を選択値として選択する。
【0093】
これにより、継続して誤差を有する検出部40の測定結果を用いて推定された座標値を除外できるので、自己位置を推定するときに車両の位置及び向きを精度よく推定することができる。
【0094】
特に、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置では、小さな誤差が継続して存在するような検出部40の測定結果を誤って選択してしまうことを防止できる。その具体例を、図7を参照して説明する。
【0095】
図7は、小さな誤差が継続して存在するような検出部40がある場合に、本実施形態の方法を使用した場合と使用しなかった場合の自己位置の推定結果を示している。図7に示すように、地点Aでは、本実施形態の方法を使用しないで推定した自己位置P1と、本実施形態の方法を使用して推定した自己位置P2は同じ位置にある。
【0096】
この後、時間が経過して地点Bの推定結果では、本実施形態の方法を使用しないで推定した自己位置P1は、本実施形態の方法を使用して推定した自己位置P2よりも前方に進んでいる。
【0097】
小さな誤差が継続して存在するような検出部40がある場合、各時点における誤差は小さいので、小さな誤差を有する検出部40の測定結果が選択されることになる。しかし、各時点における誤差は小さくても、継続して選択されて誤差が少しずつ拡大すると、地点Bの自己位置P1は、自己位置P2よりもだいぶ前方に進んでしまうことになる。
【0098】
これに対して、本実施形態の方法を使用して推定した自己位置P2は、継続して誤差を有する検出部40の測定結果を除外して推定されているので、誤差が少しずつ拡大していくことはなく、精度よく推定されている。
【0099】
この結果、地点Cの推定結果では、本実施形態の方法を使用しないで推定した自己位置P1は交差点で他の車線へはみ出しているが、本実施形態の方法を使用して推定した自己位置P2は交差点ではみ出すことなく車線内を走行している。
【0100】
したがって、本実施形態の方法を使用することにより、小さな誤差が継続して存在するような検出部40が存在している場合であっても、車両の位置及び向きを精度よく推定することができる。
【0101】
また、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置では、車両の速度が所定値以下である場合には、第1閾値よりも小さい第2閾値を用いている。これにより、車両がほぼ停止しているような低速の場合であっても、車両の位置及び向きを精度よく推定することができる。
【0102】
さらに、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置では、車両が旋回中である場合には、第1閾値の代わりに第3閾値を用いている。これにより、車両が旋回している場合であっても、車両の位置及び向きを精度よく推定することができる。
【0103】
また、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置では、プロファイルに記憶された速度の中で第4閾値より大きな速度がある場合には、第4閾値より大きな速度を有するプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部を特定する。これにより、安定性が低い検出部40によって正常値とは全く異なる測定結果が出力された場合であっても、車両の位置及び向きを精度よく推定することができる。
【0104】
さらに、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置では、プロファイルに記憶された速度についてそれぞれ加速度を算出し、基準プロファイルに記憶された速度についてそれぞれ加速度を算出する。そして、プロファイルの速度から算出された加速度の向きと基準プロファイルから算出された加速度の向きが異なる回数が第5閾値より多い場合には、第5閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部を特定する。これにより、継続して誤差を有する検出部を特定することができるので、車両の位置及び向きを精度よく推定することができる。
【0105】
また、本実施形態に係る自己位置推定方法及び自己位置推定装置では、プロファイルに記憶された速度と基準プロファイルに記憶された速度とをそれぞれ比較する。そして、速度の差が所定値以上である回数が第6閾値より多い場合には、第6閾値より多いプロファイルを作成するための測定結果を出力した検出部を特定する。これにより、プロファイルに記憶された各速度の誤差は小さくても誤差を含んだ速度が多い場合には、そのような測定結果を出力した検出部を特定できるので、車両の位置及び向きを精度よく推定することができる。
【0106】
上述の実施形態で示した各機能は、1又は複数の処理回路によって実装されうる。処理回路には、プログラムされたプロセッサや、電気回路などが含まれ、さらには、特定用途向けの集積回路(ASIC)のような装置や、記載された機能を実行するよう配置された回路構成要素なども含まれる。
【0107】
以上、実施形態に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。この開示の一部をなす論述および図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0108】
本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0109】
31 推定部
33 誤差推定部
40 検出部
71 第1選択部
73 第2選択部
75 第3選択部
91 出力部
93 誤差統合部
100 コントローラ
150 検出部評価部
152 プロファイル作成部
154 検出部特定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9