(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】LGPS系固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20230706BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20230706BHJP
C01B 33/08 20060101ALI20230706BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230706BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230706BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20230706BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01B25/14
C01B33/08
H01M10/052
H01M10/0562
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2019539349
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2018030397
(87)【国際公開番号】W WO2019044517
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017168770
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】二反田(香取) 亜希
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智裕
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】川上 功太郎
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】松永 稔
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118801(WO,A1)
【文献】特開2015-232965(JP,A)
【文献】特開2014-220051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li
2SとP
2S
5とをLi
2S/P
2S
5=1.0~1.85のモル比となるように有機溶媒中で混合して反応させることによって均一溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液に少なくとも1種のMS
2(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる)とLi
2Sとを添加して混合し、沈殿を形成する沈殿化工程と、
前記沈殿から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を200~700℃にて加熱処理してLGPS系固体電解質を得る加熱処理工程と、を含むことを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、及び酢酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程における温度が、60~280℃である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記LGPS系固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°の位置にピークを有する、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をI
Bとした場合に、I
B/I
Aの値が0.50未満である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体T
1と、P元素およびS元素から構成される四面体T
2とを有し、前記四面体T
1および前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体T
2および前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有する、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
Li、SおよびPの元素からなる化合物を溶質として含み、テトラヒドロフランを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも313±10cm
-1、391±10cm
-1、483±10cm
-1、及び589±10cm
-1にピークを有する、
LGPS系固体電解質を製造するための均一溶液
であって、
前記Li、SおよびPの元素からなる化合物が、Li
2
SおよびP
2
S
5
をLi
2
S/P
2
S
5
=1.0~1.85のモル比で含む化合物である、前記均一溶液。
【請求項9】
Li、SおよびPの元素からなる化合物を溶質として含み、アセトニトリルを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも313±10cm
-1、391±10cm
-1、483±10cm
-1、及び589±10cm
-1にピークを有する、
LGPS系固体電解質を製造するための均一溶液
であって、
前記Li、SおよびPの元素からなる化合物が、Li
2
SおよびP
2
S
5
をLi
2
S/P
2
S
5
=1.0~1.85のモル比で含む化合物である、前記均一溶液。
【請求項10】
Li、SおよびPの元素からなる化合物を溶質として含み、酢酸エステルを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも313±10cm
-1、391±10cm
-1、483±10cm
-1、及び589±10cm
-1にピークを有する、LGPS系固体電解質を製造するための均一溶液
であって、
前記Li、SおよびPの元素からなる化合物が、Li
2
SおよびP
2
S
5
をLi
2
S/P
2
S
5
=1.0~1.85のモル比で含む化合物である、前記均一溶液。
【請求項11】
前記酢酸エステルが、酢酸エチルもしくは酢酸メチルである、請求項10に記載の均一溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LGPS系固体電解質の製造方法に関する。なお、LGPS系固体電解質とは、Li、P及びSを含む、特定の結晶構造を有する固体電解質を言うが、例えば、Li、M(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素)、P及びSを含む固体電解質が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一、電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
【0004】
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。
【0005】
これらの固体電解質の中で、硫化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかく固体-固体間の界面を形成しやすい特徴がある。活物質にも安定であり、実用的な固体電解質として開発が進んでいる。
【0006】
硫化物固体電解質の中でも、特定の結晶構造を有するLGPS系固体電解質がある(非特許文献1および特許文献1)。LGPSは硫化物固体電解質の中でも極めてイオン伝導度が高く、-30℃の低温から100℃の高温まで安定に動作することができ、実用化への期待が高い。
【0007】
しかしながら、従来のLGPS系固体電解質の製造法においては、複雑な処理によるアモルファス工程を必要とし、かつ、揮発・分解性の高いP2S5を原料として用いるため、小規模での合成しかできないばかりでなく、安定した性能を示すLGPS系固体電解質が得られにくいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nature Energy 1, Article number: 16030 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の下、生産性に優れ、副生成物の発生を抑え、安定した性能を示すLGPS系固体電解質の製造法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行ったところ、Li2SとP2S5とを有機溶媒中で混合して反応させて均一溶液とし、その均一溶液に少なくとも1種のMS2(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる)を懸濁させ、続けてLi2Sを添加して混合することによって得られる沈殿を前駆体とすることで、メカニカルミリングを用いずに、安定して不純物の少ないLGPS系固体電解質を製造できるという予想外の知見を得た。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1> Li2SとP2S5とをLi2S/P2S5=1.0~1.85のモル比となるように有機溶媒中で混合して反応させることによって均一溶液を調製する溶液化工程と、
前記均一溶液に少なくとも1種のMS2(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる)とLi2Sとを添加して混合し、沈殿を形成する沈殿化工程と、
前記沈殿から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を200~700℃にて加熱処理してLGPS系固体電解質を得る加熱処理工程と、を含むことを特徴とするLGPS系固体電解質の製造方法である。
<2> 前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、及び酢酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記<1>に記載の製造方法である。
<3> 前記乾燥工程における温度が、60~280℃である、上記<1>または<2>に記載の製造方法である。
<4> 前記LGPS系固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°の位置にピークを有する、上記<1>から<3>のいずれかに記載の製造方法である。
<5> 前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした場合に、IB/IAの値が0.50未満である、上記<4>に記載の製造方法である。
<6> 前記LGPS系固体電解質が、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体T1と、P元素およびS元素から構成される四面体T2とを有し、前記四面体T1および前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体T2および前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有する、上記<1>から<5>のいずれかに記載の製造方法である。
<7> 前記加熱処理工程を不活性ガス雰囲気下で行う、上記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法である。
<8> Li、SおよびPの元素からなる化合物を溶質として含み、テトラヒドロフランを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも313±10cm-1、391±10cm-1、483±10cm-1、及び589±10cm-1にピークを有する、均一溶液である。
<9> Li、SおよびPの元素からなる化合物を溶質として含み、アセトニトリルを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも313±10cm-1、391±10cm-1、483±10cm-1、及び589±10cm-1にピークを有する、均一溶液である。
<10> Li、SおよびPの元素からなる化合物を溶質として含み、酢酸エステルを溶媒として含み、ラマン測定において少なくとも313±10cm-1、391±10cm-1、483±10cm-1、及び589±10cm-1にピークを有する、均一溶液である。
<11> 前記酢酸エステルが、酢酸エチルもしくは酢酸メチルである、上記<10>に記載の均一溶液である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、LGPS系固体電解質の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該LGPS系固体電解質を加熱成形してなる成形体、該LGPS系固体電解質を含む全固体電池を提供することができる。しかも、この製造方法であれば、大量製造にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るLGPS系固体電解質の結晶構造を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。
【
図3】実施例1~2および比較例1~2で得られたイオン伝導体のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1~2および比較例1~2で得られたイオン伝導体のイオン電導度測定の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1における<溶液化工程>で得られた均一溶液のラマン分光測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のLGPS系固体電解質の製造方法について具体的に説明する。なお、以下に説明する材料及び構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0016】
<LGPS系固体電解質の製造方法>
本発明の一実施形態のLGPS系固体電解質の製造方法は、
Li
2SとP
2S
5とをLi
2S/P
2S
5=1.0~1.85のモル比となるように有機溶媒中で混合して反応させることによって反応させ、均一溶液を生成させる溶液化工程と、
前記均一溶液中に少なくとも1種のMS
2(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)を加えて懸濁させ、更に、Li
2Sを追添加して混合することにより、沈殿を発生させる沈殿化工程と、
前記沈殿から前記有機溶媒を除去して前駆体を得る乾燥工程と、
前記前駆体を200~700℃にて加熱処理する加熱処理工程と、を有する。
前記LGPS系固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°の位置にピークを有することが好ましい。なお、2θ=17.38±0.50°、20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、23.56±0.50°、26.96°±0.50°、29.07±0.50°、29.58°±0.50°及び31.71±0.50°の位置にピークを有することがより好ましい。
また、前記LGPS系固体電解質は、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をI
Bとした場合に、I
B/I
Aの値が0.50未満であることが好ましい。より好ましくは、I
B/I
Aの値が0.40未満である。これは、I
Aに相当するのがLGPS結晶のピークであり、I
Bはイオン伝導性が低い結晶相のためである。
更に、前記LGPS系固体電解質は、
図1に示されるように、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体T
1と、P元素およびS元素から構成される四面体T
2とを有し、前記四面体T
1および前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体T
2および前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有することが好ましい。
【0017】
従来のLGPS系固体電解質の製造方法として、Li2SとP2S5とMxSy(例えばGeS2)を原料に用いてイオン伝導体を合成した後、振動ミルや遊星ボールミルによるメカニカルミリング法(特許文献1)やWO2014-196442に記載の溶融急冷法によってアモルファスの前駆体を得ていた。しかし、メカニカルミリング法では工業スケールへの大型化が困難であり、溶融急冷法を大気非暴露で実施するには雰囲気制御の面から大きな制限がかかる。なお、LGPS系固体電解質およびその原料は、大気中の水分や酸素と反応して変質する性質がある。これに対して、本発明による製造方法によれば、メカニカルミリングによるアモルファス化工程を必要としない。大型化が容易で、かつ、雰囲気制御を行いやすい、溶液およびスラリー状態から、前駆体を得ることで、LGPS系固体電解質を製造することができる。
【0018】
<溶液化工程>
本発明の製造方法では、Li2SおよびP2S5をLi2S/P2S5=1.0~1.85のモル比で有機溶媒中で混合して反応させることによって、均一溶液を生成させる。本発明において均一溶液とは、未溶解の沈殿がない溶液を意味する。ここで、上記モル比は、好ましくはLi2S/P2S5=1.1~1.5であり、より好ましくはLi2S/P2S5=1.2~1.4である。Li2S/P2S5=1.0~1.85のモル比の範囲であると、室温においてLi2SおよびP2S5を溶液化することができる。上記モル比の範囲を外れると、沈殿が生じる場合がある。ただし、未溶解の沈殿を濾過等によって溶液と分離すれば、溶液中の組成は上記の範囲内で実施したものと同じになる。
【0019】
Li2Sは合成品でも、市販品でも使用することができる。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、水分は低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。Li2Sの粒子径は小さい方が反応速度が速くなるため好ましい。好ましくは粒子の直径として10nm~100μmの範囲であり、より好ましくは100nm~30μmであり、更に好ましくは300nm~10μmの範囲である。なお、粒子径はSEMによる測定やレーザー散乱による粒度分布測定装置等で測定できる。
【0020】
P2S5は合成品でも、市販品でも使用することができる。P2S5の純度が高い方が、固体電解質中に混入する不純物が少なくなることから好ましい。P2S5の粒子径は小さい方が反応速度が速くなるため好ましい。好ましくは粒子の直径として10nm~100μmの範囲であり、より好ましくは100nm~30μmであり、更に好ましくは300nm~10μmの範囲である。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。
【0021】
有機溶媒は、Li2SおよびP2S5と反応しない有機溶媒であれば、特に制限はない。例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒などが挙げられる。具体的には、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトニトリルなどが挙げられる。特に好ましくはテトラヒドロフランである。原料組成物が劣化することを防止するために、有機溶媒中の酸素と水を除去しておくことが好ましく、特に水分については、100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下である。
【0022】
有機溶媒中におけるLi2SおよびP2S5の合計の濃度は、1~40重量%が好ましく、5~30重量%がより好ましく、10~20重量%が特に好ましい。有機溶媒中におけるLi2SおよびP2S5の合計の濃度が40重量%より高いと、スラリーの粘度が上昇して混合が困難になる場合がある。一方、有機溶媒中におけるLi2SおよびP2S5の合計の濃度が1重量%より低い場合には、大量の有機溶媒を使用することになり、溶媒回収の負荷が増大すると共に、反応器の大きさが過度に大きくなる要因となる。
【0023】
本発明における溶液化工程の反応メカニズムとしては、有機溶媒に懸濁されたP2S5に対しLi2Sが徐々に反応し、溶液化可能な状態となる。しかし、先にLi2Sを有機溶媒に加えて懸濁させ、そこにP2S5を徐々に加えることが好ましい。P2S5が過剰なところにLi2Sを加えると、縮合した重合物が発生することがあるためである。本発明では、有機溶媒とP2S5とLi2Sとを含む組成物(スラリー)中の、Li2Sに対するP2S5のモル比(P2S5/Li2S)が、常に1を下回るようにして混合することが好ましい。
【0024】
溶液化工程における混合の際には基質が分散されたスラリー状態であるが、やがて反応して均一となる。粒子を砕く特別な撹拌操作は不要であり、スラリーが懸濁分散できるだけの撹拌動力を与えれば十分である。
溶液化工程における反応温度は、室温下においても反応が緩やかに進行するが、反応速度を上げるために加熱することもできる。加熱する場合には、有機溶媒の沸点以下で行うことで十分であり、使用する有機溶媒によって異なるものの、通常は120℃未満である。オートクレーブ等を用いて加圧状態で行うことも可能であるが、120℃以上の高い温度で混合を行うと、副反応が進行することが懸念される。
【0025】
溶液化工程における反応時間としては、有機溶媒の種類や原料の粒子径、濃度によって異なるものの、例えば0.1~24時間行うことで反応が完結し、溶液化することができる。
【0026】
溶液化した混合溶液には、加えた組成割合や原料不純物の混入具合によって、わずかな沈殿物が生じる場合がある。この場合、濾過や遠心分離によって沈殿物を取り除くことが望ましい。
【0027】
<沈殿化工程>
溶液化工程で得られた均一溶液に対し、少なくとも1種のMS2(Mは、Ge、Si及びSnからなる群より選ばれる)を添加し、混合して懸濁させる。次に、Li2Sを追添加し、混合することによって沈殿を発生させる。
【0028】
混合方法として通常の撹拌羽を用いた混合で十分である。加えたMS2やLi2Sの粒子を砕くことを目的に、撹拌によって解砕させることが好ましい。更には、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いてもよい。
【0029】
MS2は、MがGe、Si及びSnからなる群より選ばれる元素であり、通常は元素の価数として4価であることが好ましい。すなわち、GeS2、SiS2およびSnS2であり、市販品を使用することができる。MS2は1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。MS2の粒子径は小さい方が混合性が良くなるため好ましい。好ましくは粒子の直径として10nm~100μmの範囲であり、より好ましくは100nm~30μmであり、更に好ましくは300nm~10μmの範囲である。粒子径はSEMによる測定やレーザー散乱による粒度分布測定装置等で測定できる。なお、上記の原料の一部はアモルファスであっても問題はなく使用することができる。水分の混入は、他の原料や前駆体を劣化させることから、低い方が好ましく、より好ましくは300ppm以下であり、特に好ましくは50ppm以下である。
【0030】
均一溶液にMS2を懸濁させた懸濁液にLi2Sを追加添加すると、徐々に沈殿が増加する。沈殿は溶媒和物となることもあり、例えば有機溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用いた場合、Li3PS4・3THF結晶が得られていると考えられる。加えるLi2Sは溶液化工程で用いたものと同様でよい。加える量としては、系内に加える全量の原料比がLi2S:P2S5:MS2=5:1:1のモル比が基本となる。ただし、用いる元素によって、それぞれの元素組成比には幅があると共に、ハロゲンを含有した組成のものもあるが、LGPS結晶ができる組成であれば問題はない。例えば、Li2Sを追加添加する前に、LiClを加えてもよく、加える量としては、系内に加える全量の原料比がLi2S:P2S5:MS2:LiCl=6.42:1:2.42:0.42のモル比が基本となるが、適宜原料比を変更することもできる。
LGPS系固体電解質としては、例えば、Li10GeP2S12、Li10SnP2S12、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、Li10(Si0.5Ge0.5)P2S12、Li10(Ge0.5Sn0.5)P2S12、Li10(Si0.5Sn0.5)P2S12、Li10GeP2S11.7O0.3、Li9.6P3S12、Li9P3S9O3、Li10.35Ge1.35P1.65S12、Li10.35Si1.35P1.65S12、Li9.81Sn0.81P2.19S12、Li9.42Si1.02P2.1S9.96O2.04等が知られている。
【0031】
沈殿は反応が進行することによってLi3PS4が生成することで発生する。反応機構は定かではないが、溶液には-(P-S-P-S)n-の状態で溶けていると考えられる。ここに加えたLi2Sがスラリー状に分散し、P-Sを開裂させ、Li3PS4が生成すると考えられる。
【0032】
均一溶液にMS2を懸濁させるための混合時間は0.1~6時間が好ましい。この程度混合を行うことで、十分にMS2が懸濁された状態となる。Li2Sを追添加した後の混合時間は0.1~24時間行えばよく、より好ましくは4~12時間である。なお、追添加したLi2Sは溶液状態のLi2S-P2S5と反応することから、反応時間が短いと、所望とするLi3PS4の生成が不十分となり、沈殿物中に未反応のLi2Sが混入してくる。
【0033】
混合する時の温度は、室温下で行うことができる。加温をしても問題はないが、あまり温度を高くしすぎると副反応が生じることが懸念される。加熱する場合には、有機溶媒の沸点以下で行うことで十分であり、使用する有機溶媒によって異なるものの、通常は120℃未満である。
【0034】
沈殿化工程における混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられ、アルゴンが特に好ましい。不活性ガス中の酸素および水分も除去していくことで原料組成物の劣化を抑制できる。不活性ガス中の酸素および水分は、どちらの濃度も1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは10ppm以下である。
【0035】
得られた沈殿は、濾過や遠心分離によって沈殿物と溶液とを分離することが好ましい。本発明の製造方法においては、副生成物の発生が極めて少ないものの、沈殿物と溶液とを分離することで精製効果をもたらす。分離した沈殿物を溶媒で洗浄することにより、更に精製度を高めることができる。副生成物の生成が極めて少ないことから、多くの洗浄溶媒を必要とせず、例えば、沈殿物100重量部に対して溶媒は50重量部~600重量部で十分である。洗浄溶媒は、溶液化工程で用いた有機溶媒と同じ有機溶媒を用いることが好ましいが、Li3PS4と反応しない有機溶媒であれば、特に制限されることはない。
【0036】
<乾燥工程>
得られた沈殿を乾燥して有機溶媒を除去することにより前駆体を得る。乾燥は不活性ガス雰囲気での加熱乾燥や真空乾燥で行うことができる。
乾燥温度は、60~280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは100~250℃である。最適な範囲は有機溶媒の種類によって多少異なるが、温度の範囲は重要である。有機溶媒が存在する状態で乾燥温度を高くしすぎると、ほとんどの場合で前駆体が変質してしまう。また、乾燥温度が低すぎる場合には残溶媒が多くなり、そのまま次の加熱処理工程を行うと有機溶媒が炭化し、得られるLGPS系固体電解質の電子伝導性が高くなる。固体電解質の使用方法次第では電子伝導性を有することが好ましいが、
図2の2部分に使用する固体電解質は電子伝導性が十分に低いことが求められる。このような用途に用いる場合は残溶媒が極力少なくなるようにする必要がある。
【0037】
乾燥時間は有機溶媒の種類と乾燥温度によって多少異なるが、1~24時間実施することで十分に有機溶媒を除去することができる。なお、真空乾燥のように減圧下で有機溶媒を除去することや、十分に水分の少ない窒素やアルゴン等の不活性ガスを流すことで、有機溶媒を除去する際の温度を下げると共に所要時間を短くすることができる。
なお、後段の加熱処理工程と乾燥工程とを同時に行うことも可能である。
【0038】
<加熱処理工程>
本発明の製造方法においては、乾燥工程で得られた前駆体を加熱処理することによって、LGPS系固体電解質を得る。加熱温度は、種類によって異なり、Ge、SiまたはSnを含有するものは、通常200~700℃の範囲であり、より好ましくは350~650℃の範囲であり、特に好ましくは450~600℃の範囲である。上記範囲よりも温度が低いと所望の結晶が生じにくく、一方、上記範囲よりも温度が高くても、目的とする以外の結晶が生成する。
【0039】
加熱時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は0.1~24時間の範囲で十分に結晶化される。高い温度で上記範囲を超えて長時間加熱することは、LGPS系固体電解質の変質が懸念されることから、好ましくない。
加熱は、真空もしくは不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、好ましくは不活性ガス雰囲気下である。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどを使用することができるが、中でもアルゴンが好ましい。酸素や水分が低いことが好ましく、その条件は沈殿化工程の混合時と同じである。
【0040】
上記のようにして得られる本発明のLGPS系固体電解質は、各種手段によって所望の成形体とし、以下に記載する全固体電池をはじめとする各種用途に使用することができる。成形方法は特に限定されない。例えば、後述する<全固体電池>において述べた全固体電池を構成する各層の成形方法と同様の方法を使用することができる。
【0041】
<全固体電池>
本発明のLGPS系固体電解質は、例えば、全固体電池用の固体電解質として使用され得る。また、本発明の更なる実施形態によれば、上述した全固体電池用固体電解質を含む全固体電池が提供される。
【0042】
ここで「全固体電池」とは、全固体リチウムイオン二次電池である。
図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に固体電解質層2が配置された構造を有する。全固体電池10は、携帯電話、パソコン、自動車等をはじめとする各種機器において使用することができる。
本発明のLGPS系固体電解質は、正極層1、負極層3および固体電解質層2のいずれか一層以上に、固体電解質として含まれてよい。正極層1または負極層3に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、本発明のLGPS系固体電解質と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層1または負極層3に含まれる本発明のLGPS系固体電解質の量比は、特に制限されない。
固体電解質層2に本発明のLGPS系固体電解質が含まれる場合、固体電解質層2は、本発明のLGPS系固体電解質単独で構成されてもよいし、必要に応じて、酸化物固体電解質(例えば、Li
7La
3Zr
2O
12)、硫化物系固体電解質(例えば、Li
2S-P
2S
5)やその他の錯体水素化物固体電解質(例えば、LiBH
4、3LiBH
4-LiI)などを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0043】
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に制限されない。
例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレードまたはスピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて製膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していく加圧成形法等がある。
【0044】
本発明のLGPS系固体電解質は比較的柔らかいことから、加圧成形法によって各層を成形および積層して全固体電池を作製することが特に好ましい。加圧成形法としては、加温して行うホットプレスと加温しないコールドプレスとがあるが、コールドプレスでも十分に成形することができる。
なお、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加熱成形してなる成形体が包含される。該成形体は、全固体電池として好適に用いられる。また、本発明には、本発明のLGPS系固体電解質を加熱成形する工程を含む、全固体電池の製造方法が包含される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
<溶液化工程>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、Li2S(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)およびP2S5(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)を、Li2S:P2S5=1.35:1のモル比となるように量り取った。次に、(Li2S+P2S5)の濃度が10wt%となるようにテトラヒドロフラン(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して、Li2S、P2S5の順に加え、室温下で12時間混合した。混合物は徐々に溶解し、均一な溶液を得た。
<沈殿化工程>
得られた均一溶液に、上記均一溶液中のP2S5に対して1倍モルのGeS2(高純度化学研修所社製GEI04PB)を撹拌しながら加え、次に上記均一溶液中のP2S5に対して3.65倍モルのLi2Sを撹拌しながら加え(すなわち全量でLi2S:P2S5:GeS2=5:1:1)、室温下で12時間混合して沈殿を発生させた。これを濾過し、濾さい100重量部に対して300重量部のテトラヒドロフランを用いて濾さいを洗浄した後、濾さいをアルミナボートに薄く敷き詰めた。
<乾燥工程>
このアルミナボートをステンレス管の中に入れ、アルゴン(G3グレード)を線速8.8cm/分で流しながら、1時間かけて250℃まで昇温し、その後250℃を3時間維持して乾燥を行い、前駆体を得た。上記沈殿化工程と乾燥工程の操作は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で実施した。
<加熱処理工程>
得られた前駆体をグローブボックス内でガラス製反応管に入れて、前駆体が大気に暴露しないように電気管状炉に設置した。反応管にアルゴン(G3グレード)を吹き込み、3時間かけて550℃まで昇温し、その後8時間550℃で焼成することにより、Li10GeP2S12結晶を合成した。
【0047】
(実施例2)
GeS2をSnS2(三津和化学薬品社製)とした以外は、実施例1と同様に行い、Li10SnP2S12結晶を合成した。
【0048】
(実施例3)
<SiS2の微細化>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、SiS2(三津和化学社製)を量り取り、45mLのジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZ」、φ10mm、18個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ社製「P-7」)に取り付け、回転数370rpmで2時間、メカニカルミリングを行い、微細化されたSiS2を得た。SEMにより粒子径の測定を行うと、粒子の直径として100nm~5μmの範囲であった。
<溶液化工程>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、Li2S(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)およびP2S5(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)を、Li2S:P2S5=1:1のモル比となるように量り取った。次に、(Li2S+P2S5)の濃度が10wt%となるようにアセトニトリル(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して、Li2S、P2S5の順に加え、室温下で3時間混合した。混合物は徐々に溶解し、均一な溶液を得た。
<沈殿化工程>
得られた均一溶液に、上記均一溶液中のP2S5に対して2.42倍モルの上記で得られたSiS2(三津和化学社製)と0.42倍モルのLiCl(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.99%)を撹拌しながら加え、室温化で12時間混合した。更に上記均一溶液中のP2S5に対して5.42倍モルのLi2Sを撹拌しながら加え(すなわち全量のモル比はLi2S:P2S5:SiS2:LiCl=6.42:1:2.42:0.42)、室温下で24時間混合してスラリー溶液を得た。
<乾燥工程>
得られたスラリー溶液を、真空下、200℃で2時間乾燥させることで、溶媒を除去した。溶媒除去は溶液を撹拌しながら行った。その後、室温まで冷却して前駆体を得た。
<加熱処理工程>
得られた前駆体をグローブボックス内でガラス製反応管に入れて、前駆体が大気に暴露しないように電気管状炉に設置した。反応管にアルゴン(G3グレード)を吹き込み、3時間かけて475℃まで昇温し、その後8時間475℃で焼成することにより、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3結晶を合成した。
【0049】
(比較例1)
<β-Li3PS4の製造方法>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、Li2S(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)およびP2S5(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)を、Li2S:P2S5=1.35:1のモル比となるように量り取った。次に、(Li2S+P2S5)の濃度が10wt%となるようにテトラヒドロフラン(和光純薬工業社製、超脱水グレード)に対して、Li2S、P2S5の順に加え、室温下で12時間混合した。混合物は徐々に溶解し、均一な溶液を得た。
得られた溶液に、上記を含めた全原料組成がLi2S:P2S5=3:1のモル比となるように、Li2Sを更に加え、室温下で12時間混合しながら、沈殿を得た。これを濾過して得られた濾さいを150℃、4時間、真空乾燥を行うことにより、β-Li3PS4を得た。一連の操作は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で実施した。
得られたβ-Li3PS4について後述するラマン分光測定を行ったところ、PS4
3-に相当する420cm-1におけるピークを確認することができた。
<LGPSの合成>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、上記で得られたβ-Li3PS4:Li2S:GeS2=2:2:1のモル比となるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。これをガラス製反応管に入れて、電気管状炉に設置した。反応管は、サンプルが置かれた部分は電気管状炉の中心で加熱され、もう一端のアルゴン吹込みラインが接続される部分は電気管状炉から飛び出した状態でほぼ室温状態であった。アルゴン雰囲気下で550℃、8時間の焼成を行うことによりLi10GeP2S12結晶を合成した。電気環状炉から飛び出た反応管に付着した揮発物はわずかであった。
【0050】
(比較例2)
GeS2をSnS2とした以外は比較例1と同様に行い、Li10SnP2S12結晶を合成した。
【0051】
<X線回折測定>
実施例1~3、比較例1~2で得られたイオン伝導体の粉末について、Ar雰囲気下、室温(25℃)にて、X線回折測定(PANalytical社製「X’Pert3 Powder」、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。
【0052】
実施例1~3、比較例1~2で得られたイオン伝導体のX線回折測定の結果を
図3に示す。
図3に示したとおり、実施例1~3では、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°に回折ピークが観測され、このパターンはICSDデータベースのLi
10GeP
2S
12と一致した。
2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をI
Aとし、2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をI
Bとした場合に、I
Bはわずかであり、I
B/I
Aの値が、実施例1~3のすべてにおいて0.1以下であった。
【0053】
<リチウムイオン伝導度測定>
実施例1~2、比較例1~2で得られたイオン伝導体を一軸成型(240MPa)に供し、厚さ約1mm、直径8mmのディスクを得た。室温(25℃)および30℃から100℃と、-20℃までの温度範囲において10℃間隔で、リチウム電極を利用した四端子法による交流インピーダンス測定(Solartron社製「SI1260 IMPEDANCE/GAIN―PHASE ANALYZER」)を行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
具体的には、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定し、続いて30℃~100℃まで10℃ずつ恒温槽を昇温し、各温度で25分間保持した後にイオン伝導度を測定した。100℃での測定を終えた後は、90℃~30℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。次に、25℃に設定した恒温槽で40分間保持した後のサンプルのリチウムイオン伝導度を測定した。その後、20℃~-20℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。測定周波数範囲は0.1Hz~1MHz、振幅は50mVとした。降温時のリチウムイオン伝導度の測定結果を
図4に示す。
実施例3で得られたイオン伝導体を一軸成型(420MPa)に供し、厚さ約1mm、直径10mmのディスクを得た。全固体電池評価セル(宝泉株式会社製)を用い、室温(25℃)において、インジウム電極を利用した四端子法による交流インピーダンス測定(Solartron社製「SI1260 IMPEDANCE/GAIN―PHASE ANALYZER」)を行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
具体的には、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。測定周波数範囲は0.1Hz~1MHz、振幅は50mVとした。リチウムイオン伝導度は8.2mS/cmを示した。
【0054】
<ラマン分光測定>
(1)試料調製
上部に石英ガラス(Φ60mm、厚さ1mm)を光学窓として有する密閉容器を用いて測定試料の作製を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックスにて、試料を石英ガラスに接する状態で保液させた後、容器を密閉してグローブボックス外に取り出し、ラマン分光測定を行った。
(2)測定条件
レーザーラマン分光光度計NRS-5100(日本分光株式会社製)を使用し、励起波長532.15nm、露光時間5秒にて測定を行った。
【0055】
実施例1における<溶液化工程>で得られた均一溶液のラマン分光測定の結果を
図5に示す。ラマン分光測定では、少なくとも313±10cm
-1、391±10cm
-1、483±10cm
-1、及び589±10cm
-1においてピークが得られた。なお、テトラヒドロフランの代わりにアセトニトリルまたは酢酸エチルを用いた場合にも、テトラヒドロフランを用いて得られた均一溶液と同様のピークが得られた。
P-S結合に相当するピークは300~600cm
-1における範囲で主に検出される。溶媒のピークも存在するが、ラマン測定のピークは、溶媒中におけるLi
2S-P
2S
5の結合状態を定性的に示したものである。
【符号の説明】
【0056】
1 正極層
2 固体電解質層
3 負極層
10 全固体電池