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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】アクティブ防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230706BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020001890
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021110370
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守安 信夫
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0127400(US,A1)
【文献】特開2001-271871(JP,A)
【文献】特開平6-213273(JP,A)
【文献】特開2009-197826(JP,A)
【文献】特開平5-273989(JP,A)
【文献】特開平10-252820(JP,A)
【文献】特表2015-518947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 15/00-15/36
G05D 5/00- 5/06
15/00-15/01
17/00-19/02
99/00
H02K 33/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体から支持面への振動の伝播を抑制するアクティブ防振装置であって、
前記支持面および前記振動体の間に配置される少なくとも1つの質量体と、
前記質量体および前記振動体を連結する第1弾性体と、
前記質量体および前記振動体の間に制御力を付与するアクチュエータと、
前記支持面および前記質量体を連結する第2弾性体と、
前記支持面および前記質量体の間の変位量を検出する変位センサと、
前記変位センサおよび前記アクチュエータに接続されるコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記変位センサによって検出された変位量に基づいて、該変位量に応じて前記支持面に及ぶ力を減殺するように前記アクチュエータを制御する
ことを特徴とするアクティブ防振装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたアクティブ防振装置において、
前記コントローラは、前記変位センサによって検出された変位量に基づいて、
前記第2弾性体が収縮している場合は、前記第1弾性体を収縮させるように前記アクチュエータを制御するとともに、
前記第2弾性体が伸長している場合は、前記第1弾性体を伸長させるように前記アクチュエータを制御する
ことを特徴とするアクティブ防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたアクティブ防振装置において、
前記コントローラは、前記変位センサの検出信号が入力される処理部を有し、
前記処理部は、前記変位センサの検出信号に対し、
比例動作と、
積分動作または位相遅れ補償と、
微分動作または位相進み補償と、
を実行することで、前記アクチュエータへの入力信号を生成する
ことを特徴とするアクティブ防振装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたアクティブ防振装置において、
前記アクチュエータは、リニアモータからなる
ことを特徴とするアクティブ防振装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載されたアクティブ防振装置において、
前記質量体は、前記支持面および前記振動体の間を変位可能な一体の中間マスからなる
ことを特徴とするアクティブ防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、アクティブ防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、2段式のアクティブ防振装置が開示されている。具体的に、特許文献1に開示されているアクティブ防振装置は、支持部材および振動体の間に配置される質量体と、質量体と振動体を連結する第1のばね手段と、質量体および振動体の間に加振力を及ぼす第1の加振手段と、支持部材と質量体を連結する第2のばね手段と、支持部材および質量体の間に加振力を及ぼす第2の加振手段と、第1および第2の加振手段を制御する制御手段と、を備えている。
【0003】
ここで、前記特許文献1に係る制御手段は、質量体に取り付けられた第1の検出手段と、振動体に取り付けられた第2の検出手段と、支持部材に取り付けられた第3の検出手段と、に接続されており、各検出手段から入力される信号に基づいて、第1および第2の加振手段を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-213273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている構成は、第1および第2の加振手段からなる2つのアクチュエータを必要とするため、装置の高コスト化を招くばかりでなく、装置の調整に要する工数も2台分必要となる。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数段式のアクティブ防振装置において、低コスト化、および調整の簡素化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、振動体から支持面への振動の伝播を抑制するアクティブ防振装置に係る。このアクティブ防振装置は、前記支持面および前記振動体の間に配置される少なくとも1つの質量体と、前記質量体および前記振動体を連結する第1弾性体と、前記質量体および前記振動体の間に制御力を付与するアクチュエータと、前記支持面および前記質量体を連結する第2弾性体と、前記支持面および前記質量体の間の変位量を検出する変位センサと、前記変位センサおよび前記アクチュエータに接続されるコントローラと、を備える。
【0008】
そして、前記コントローラは、前記変位センサによって検出された変位量に基づいて、該変位量に応じて前記支持面に及ぶ力を減殺するように前記アクチュエータを制御する。
【0009】
支持面および質量体の間の変位量は、第2弾性体の変形量と実質的に一致する。一方、第2弾性体が支持面に及ぼす力の大きさは、第2弾性体の変形量に比例する。したがって、第2弾性体が支持面に及ぼす力の大きさは、変位センサによって取得される変位量に比例することになる。アクチュエータが発揮する制御力は、質量体を介して第2弾性体に作用し、その伸縮を抑制する。第2弾性体の伸縮を抑制することで、第2弾性体を介して支持面に作用する力の変化を低減し、ひいては、支持面への振動の伝搬を抑制することができる。
【0010】
また、第2弾性体は、その変形量に応じて、質量体にも力を及ぼす。質量体に及ぶ力の大きさは、支持面に及ぶ力と同様に、変位センサによって取得される変位量に比例する。ゆえに、変位センサの検出結果に基づいてアクチュエータを制御することは、質量体に対し下側から作用する反力に見合う制御力を、質量体の上側から付与するものと解釈することもできる。このように解釈した場合、上側から制御力を付与することで、質量体の振動を抑制することができる。振動体から支持面への振動の伝播は、質量体の振動を通じてもたらされるため、質量体の振動を抑制することで、振動体から支持面への振動の伝播を抑制することが可能になる。
【0011】
ところで、変位量を取得する術としては、質量体に加速度センサを取り付けて、その検出信号を2回積分することも考えられる。しかしながら、一般的な加速度センサは、低周波の感度が低いため変位量の検出には不向きである。また、加速度センサの検出信号を2回積分してしまうと、オフセット、ドリフト等に起因したノイズが増幅されるため、そのノイズを取り除くための複数のハイパスフィルタが必要となってしまう。このことは、装置の高コスト化、および制御の不安定化を招くため不都合である。
【0012】
前述した構成は、従来の2段式の防振装置と同等の優れた防振性能を実現しながらも、複数のアクチュエータを必要としない。そのため、装置の低コスト化、ひいては調整の簡素化を実現することができる。
【0013】
また、前記コントローラは、前記変位センサによって検出された変位量に基づいて、前記第2弾性体が収縮している場合は、前記第1弾性体を収縮させるように前記アクチュエータを制御するとともに、前記第2弾性体が伸長している場合は、前記第1弾性体を伸長させるように前記アクチュエータを制御する、としてもよい。
【0014】
この構成によれば、アクチュエータをより適切に制御し、ひいては、質量体を介して振動体から支持面へ伝わる振動を抑制する上で有利になる。
【0015】
また、前記コントローラは、前記変位センサの検出信号が入力される処理部を有し、前記処理部は、前記変位センサの検出信号に対し、比例動作と、積分動作または位相遅れ補償と、微分動作または位相進み補償と、を実行することで、前記アクチュエータへの入力信号を生成する、としてもよい。
【0016】
本願発明者らが鋭意研究を重ねた結果、得られた知見によれば、比例動作を実行するための制御信号に対し、積分動作または位相遅れ補償と、微分動作または位相進み補償と、を実行することで、アクティブ防振装置の安定性を向上させることができる。このことは、アクティブ防振装置の性能向上に有効である。
【0017】
また、前記アクチュエータは、リニアモータからなる、としてもよい。
【0018】
また、前記質量体は、前記支持面および前記振動体の間を変位可能な一体の中間マスからなる、としてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、複数段式のアクティブ防振装置において、低コスト化、および調整の簡素化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、アクティブ防振装置の構成を例示する概略図である。
図2図2は、アクティブ防振装置の防振性能を例示するボード線図である。
図3図3は、コントローラに対応する開ループ伝達関数を例示するボード線図である。
図4図4は、従来のアクティブ防振装置を例示する図1対応図である。
図5図5は、処理部の変形例を示す図1対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0022】
(アクティブ防振装置の全体構成)
図1は、アクティブ防振装置(以下、単に「防振装置」という)の構成を例示する概略図である。図1に示される防振装置Aは、エンジン、冷蔵庫および洗濯機等の加振源からなる振動体11を搭載し、その振動体11から支持面Fへの振動の伝播を抑制するために用いられる。
【0023】
特に、本実施形態に係る防振装置Aは、2段式の防振装置として構成されている。2段式の防振装置は、1段式の防振装置に比して防振性能に優れる。具体的に、防振装置Aは、質量体12を介して振動体11を支持する2段式の防振台1と、防振台1との間で信号を送受するコントローラ2と、を備える。ここで、防振台1は、基礎の上面、床面等からなる支持面F上に設置される。
【0024】
詳しくは、防振台1は、高さ方向における上段側に配置される要素として、支持面Fおよび振動体11の間に配置される少なくとも1つの質量体12と、質量体12および振動体11を連結する第1弾性体13および第1ダンパ14と、質量体12および振動体11の間に制御力を付与するアクチュエータ15と、を備える。
【0025】
さらに、防振台1は、高さ方向における下段側に配置される要素として、支持面Fおよび質量体12を連結する第2弾性体16および第2ダンパ17と、支持面Fおよび質量体12の間の変位量を検出する変位センサ18と、を備える。
【0026】
これらの要素のうち、質量体12は、支持面Fおよび振動体11の間を変位可能な一体の中間マスからなる。具体的に、本実施形態に係る質量体12は、図1に示すように厚板状に形成される。質量体12の上面には、第1弾性体13、第1ダンパ14およびアクチュエータ15を介して振動体11が連結される。これにより、振動体11に生じる振動に伴って、質量体12も振動するようになる。
【0027】
第1弾性体13は、質量体12の上面と、振動体11の下面とに接続されており、質量体12および振動体11を弾性的に連結する。本実施形態に係る第1弾性体13は、上下方向に弾性変形するバネ要素からなる。バネ要素からなる第1弾性体13は、振動体11が振動したときに、その振動体11から荷重を受けて質量体12を押圧する。その際、第1弾性体13は、振動体11から受ける荷重と、質量体12から受ける反力と、第1弾性体13自身のバネ定数と、に基づいて弾性変形する。
【0028】
なお、図1では第1弾性体13を1つのみ図示したが、第1弾性体13を複数設けてもよい。第1弾性体13を複数設ける場合、例えば、振動体11の四隅を下方から支持するように配置してもよい。
【0029】
第1ダンパ14は、質量体12の上面と、振動体11の下面とに接続されており、質量体12および振動体11を相対変位可能に連結する。本実施形態に係る第1ダンパ14は、上下方向に摺動しつつ伸縮する摺動部材からなる。摺動部材からなる第1ダンパ14は、振動体11が振動したときに、その第1ダンパ14の減衰比に応じて振動を減衰させる。なお、第1ダンパ14として摺動部材を用いる構成は例示にすぎない。例えば、第1弾性体13として空気バネを用いた場合は、その空気バネに設けたオリフィスが第1ダンパ14として機能することになる。
【0030】
また、図1では第1ダンパ14を1つのみ図示したが、第1弾性体13と同様に、第1ダンパ14を複数設けてもよい。第1ダンパ14を複数設ける場合、例えば、振動体11の四隅を下方から支持するように配置してもよい。
【0031】
アクチュエータ15は、質量体12の上面と、振動体11の下面とに接続されており、質量体12及び振動体11の間に上下方向の制御力を付与する。本実施形態に係るアクチュエータ15は、質量体12の上面、及び振動体11の下面に制御力を及ぼすリニアモータからなる。リニアモータからなるアクチュエータ15は、コントローラ2から出力される信号に基づいて作動する。
【0032】
第2弾性体16は、支持面Fと、質量体12の下面とに接続されており、支持面Fおよび質量体12を弾性的に連結する。本実施形態に係る第2弾性体16は、上下方向に弾性変形するバネ要素からなる。バネ要素からなる第2弾性体16は、振動体11の振動に起因して質量体12が振動したときに、その質量体12から荷重を受けて支持面Fを押圧する。その際、第2弾性体16は、質量体12から受ける荷重と、床面Fから受ける反力と、第2弾性体16自身のバネ定数と、に基づいて弾性変形する。
【0033】
なお、図1では第2弾性体16を1つのみ図示したが、第2弾性体16を複数設けてもよい。第2弾性体16を複数設ける場合、例えば、質量体12の四隅を下方から支持するように配置してもよい。
【0034】
第2ダンパ17は、支持面Fと、質量体12の下面とに接続されており、支持面Fに対して質量体12を変位可能に連結する。本実施形態に係る第2ダンパ17は、上下方向に摺動しつつ伸縮する摺動部材からなる。摺動部材からなる第2ダンパ17は、振動体11の振動に起因して質量体12が振動したときに、その第2ダンパ17の減衰比に応じて振動を減衰させる。なお、第2ダンパ17として摺動部材を用いる構成は例示にすぎない。例えば、第2弾性体16として空気バネを用いた場合は、その空気バネに設けたオリフィスが第2ダンパ17として機能することになる。
【0035】
また、図1では第2ダンパ17を1つのみ図示したが、第2弾性体16と同様に、第2ダンパ17を複数設けてもよい。第2ダンパ17を複数設ける場合、例えば、質量体12の四隅を下方から支持するように配置してもよい。
【0036】
変位センサ18は、支持面Fと質量体12との間の相対的な変位量(以下、「相対変位量」ともいう)を検出し、その検出結果を示す検出信号を出力する。
【0037】
また、相対変位量は、上下方向における第2弾性体16の変形量と実質的に一致する。一方、第2弾性体16が質量体12に及ぼす反力、および、第2弾性体16が支持面Fに及ぼす力の大きさは、上下方向における第2弾性体16の変形量に比例する。したがって、第2弾性体16が質量体12に及ぼす反力および支持面Fに及ぼす力の大きさは、変位センサ18によって取得される相対変位量に比例することになる。
【0038】
なお、本実施形態に係る変位センサ18は、初期状態(静止状態)での検出結果をゼロとし、その状態から所定方向(図例では上下方向)への変位(相対変位量)を正負で検出する。図示は省略したが、防振装置Aは、変位センサ18の検出信号が入力されるハイパスフィルタを備えてもよい。この場合、ハイパスフィルタは、検出信号から静止状態での出力値を取り除く。これにより、静止状態での変位がゼロとなるように調整することができる。
【0039】
(制御系に関連した構成)
以下、防振装置Aの全体構成に続いて、防振装置Aの制御系に関連した構成について説明する。
【0040】
本実施形態に係る制御系は、前述のコントローラ2によって構成される。このコントローラ2は、変位センサ18およびアクチュエータ15と電気的に接続される。コントローラ2は、変位センサ18の検出信号に基づいて制御信号を生成し、その制御信号をアクチュエータ15に入力する。
【0041】
本実施形態に係るコントローラ2は、変位センサ18によって検出される相対変位量に基づいて、その相対変位量に応じて支持面Fに及ぶ力を減殺するようにアクチュエータ15を制御する。この制御は、第2弾性体16を介して支持面Fに作用する力を減殺するものであり、第2弾性体16の伸縮を抑制するように実行される。具体的に、コントローラ2は、第2弾性体16が収縮している場合は、第1弾性体13を収縮させるようにアクチュエータ15を制御するとともに、第2弾性体16が伸長している場合は、第1弾性体13を伸長させるようにアクチュエータ15を制御する。
【0042】
以下、コントローラ2の具体的な構成について、順番に説明する。
【0043】
図1に示すように、本実施形態に係るコントローラ2は、変位センサ18から出力される検出信号を増幅する第1増幅器21と、第1増幅器21によって増幅された検出信号をディジタル信号に変換するA/Dコンバータ22と、を備える。
【0044】
コントローラ2はまた、A/Dコンバータ22によって変換されたディジタル信号が入力される処理部23を備える。処理部23は、ディジタル信号に対し、少なくとも比例動作を実行する。
【0045】
コントローラ2はさらに、処理部23によって処理されたディジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ24と、D/Aコンバータ24によって生成されたアナログ信号を増幅し、これをフィードバック操作量としてアクチュエータ15に入力する第2増幅器25と、を有する。
【0046】
詳しくは、第1増幅器21は、アナログ信号を増幅するための増幅回路、ならびに、アナログ信号からノイズを取り除くためのロウパスフィルタおよびハイパスフィルタ等を組み合わせてなる。第1増幅器21は、変位センサ18の検出信号を増幅し、これをA/Dコンバータ22に入力する。
【0047】
詳しくは、A/Dコンバータ22は、いわゆるアナログディジタル変換器であって、第1増幅器21によって増幅された検出信号に対してサンプリング処理を実行することで、その検出信号をディジタル信号に変換する。
【0048】
また、処理部23は、ディジタル信号(ディジタル化された検出信号)に対し、比例動作と、積分動作または位相遅れ補償と、微分動作または位相進み補償と、を実行することで、アクチュエータ15への入力信号を生成する。具体的に、本実施形態に係る処理部23は、比例動作を実行する比例ゲイン乗算器23aと、積分動作を実行する積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23cと、位相進み補償を実行する位相進み補償器23dと、を有する。
【0049】
図1に示すように、比例ゲイン乗算器23aと、積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23cと、は並列に接続され、比例ゲイン乗算器23a、積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23cと、位相進み補償器23dと、は直列に接続される。
【0050】
このうち、比例ゲイン乗算器23aは、前述の相対変位量に対応したディジタル信号に比例ゲインGを乗じることで、比例制御を実現するためのディジタル信号を生成する。
【0051】
また、積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23cは、相対変位量に対応したディジタル信号を積分した上で積分ゲインGを乗じることで、積分制御を実現するためのディジタル信号を生成する。
【0052】
図1に示すように、処理部23においては、比例ゲイン乗算器23aの出力信号と、積分ゲイン乗算器23cの出力信号と、が加算される。
【0053】
位相進み補償器23dは、前述のように加算された出力信号に対し、位相進み補償を実行する。詳しくは、位相進み補償器23dの伝達関数G(s)は、ラプラス演算子をsとし、位相進み時定数をTとすると、
【数1】
によって表すことができる。ここで、αは、下式(2)を満足するパラメータである。
【0054】
α<1 …(2)
【0055】
D/Aコンバータ24は、いわゆるディジタルアナログ変換器であって、位相進み補償器23dによって処理されたディジタル信号をアナログ信号に変換した上で出力する。
【0056】
第2増幅器25は、アナログ信号を増幅するための増幅回路、ならびに、アナログ信号からノイズを取り除くためのロウパスフィルタおよびハイパスフィルタ等を組み合わせてなる。第2増幅器25は、D/Aコンバータ24から出力されるアナログ信号を増幅し、これを変位フィードバック操作量としてコントローラ2の外部に出力する。
【0057】
コントローラ2は、変位フィードバック操作量をアクチュエータ15に入力し、アクチュエータ15を作動させる。これにより、アクチュエータ15は、変位フィードバック操作量に見合う制御力を振動体11と質量体12との間に付与することになる。
【0058】
前述のように、第2弾性体16が質量体12に及ぼす反力の大きさ、および、第2弾性体16が支持面Fに及ぼす力の大きさは、質量体12と支持面Fとの間の相対変位量に比例する。
【0059】
一方、アクチュエータ15に付与される制御力のうち、処理部23での比例動作に起因した制御力は、その相対変位量に比例するとともに、前記反力に対して逆方向から質量体12に作用する。したがって、処理部23での比例動作に起因した制御力は、第2弾性体16が質量体12に及ぼす反力に比例するとともに、その反力を減殺する方向に作用することになる。
【0060】
これにより、第2弾性体16が収縮している場合は、第1弾性体13を収縮させる方向に制御力が作用する一方、第2弾性体16が伸長している場合は、第1弾性体13を伸長させる方向に制御力が作用することになる。こうした制御力を用いることによって、質量体12と支持面Fとの間の相対変位量に応じて質量体12に及ぶ力を減殺することができる。これにより、質量体12を介して振動体11から支持面Fに伝わる振動を抑制することができる。
【0061】
また、アクチュエータ15が質量体12に及ぼす制御力は、第2弾性体16が支持面Fに及ぼす力と同じ方向に作用する。これにより、第2弾性体16の伸縮を抑制し、ひいては、支持面Fへの振動の伝達を抑制することができる。
【0062】
また、処理部23での積分動作および位相進み補償は、以下で説明するように、双方とも変位フィードバック制御の安定化に資する。
【0063】
(制御系の具体例)
図2は、防振装置Aの防振性能を例示するボード線図である。また、図3は、コントローラ2に対応する開ループ伝達関数を例示するボード線図である。
【0064】
図2に示すグラフG1において、横軸は周波数を示し、縦軸は振動伝達率のゲインを示す。ここで、曲線L11は、本実施形態に係る変位フィードバック制御をオンにした場合(同制御を実行した場合)のゲインを示し、曲線L12は、変位フィードバック制御をオフにした場合(同制御を未実行とした場合)のゲインを示す。
【0065】
曲線L11と曲線L12との比較から示されるように、本実施形態に係る変位フィードバック制御は、比較的広い帯域にわたって、振動伝達率を有意に低減することができる。このことは、防振装置Aが十分な防振性能を発揮することを示す。
【0066】
図3における上側のグラフG2において、横軸は周波数を示し、縦軸は開ループ伝達関数のゲインを示す。また、同図における下側のグラフG3において、横軸は周波数を示し、縦軸は開ループ伝達関数の位相を示す。ここで、曲線L21,L31は、コントローラ2において積分動作(積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23c)と位相進み補償(位相進み補償器23d)とを実施した場合のゲインおよび位相を示す。曲線L22,L32は、コントローラ2において積分動作(積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23c)と位相進み補償(位相進み補償器23d)を実施しない場合のゲインおよび位相を示す。
【0067】
曲線L22および曲線L32から示されるように、積分器23b、積分ゲイン乗算器23cおよび位相進み補償器23dを設けなかった場合、位相が0°または360°に近づいたとき(位相交点に近づいたとき)のゲインは正となる(破線f1,f2の近傍において、破線f1よりも低周波数側の周波数域と、破線f2よりも高周波数側の周波数域と、を参照)。このような傾向は、防振装置Aが不安定になることを示している。防振装置Aを安定化するためには、ゲインが正となる領域において、位相を0°または360°から遠ざける必要がある。
【0068】
一方、曲線L21および曲線L31から示されるように、積分器23b、積分ゲイン乗算器23cおよび位相進み補償器23dを設けた場合、低周波数側では360°から遠ざかるように位相が変化し、高周波数側でも0°に到達しないように位相が変化する。これにより、防振装置Aの制御を安定化させることが可能となる。
【0069】
なお、グラフG2およびグラフG3において、破線f1付近から低周波数側の周波数域では、積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23cによる積分動作が、防振装置Aの制御の安定化に寄与する。一方、破線f2付近の周波数域では、位相進み補償器23dによる位相進み補償が、防振装置Aの制御の安定化に寄与する。
【0070】
(従来構成との対比)
図4は、従来のアクティブ防振装置(以下、「従来の防振装置」という)を例示する図1対応図である。図4に示すように、従来の防振装置Bは、本実施形態に係る防振装置Aと同様に構成された振動体111、質量体112、第1弾性体113、第1ダンパ114、第2弾性体116および第2ダンパ117を備えている。
【0071】
また、従来の防振装置Bは、振動体111および質量体112の間に制御力を付与するための第1アクチュエータ115aに加えて、質量体112および支持面Fの間に制御力を付与するための第2アクチュエータ115bを備えている。さらに、従来の防振装置Bは、振動体111に取り付けられる第1加速度センサ119aと、質量体112に取り付けられる第2加速度センサ119bと、を備えている。
【0072】
そして、従来の防振装置Bを制御するためのコントローラは、第1加速度センサ119aの検出信号に基づいて第1アクチュエータ115aを制御する第1コントローラ102と、第2加速度センサ119bの検出信号に基づいて第2アクチュエータ115bを制御する第2コントローラ103と、を備えている。
【0073】
ここで、第1および第2コントローラ102,103は、それぞれ、第1増幅器121,131と、A/Dコンバータ122,132と、積分器123,133と、ゲイン乗算器124,134と、D/Aコンバータ125,135と、第2増幅器126,136と、を有している。
【0074】
そして、第1アクチュエータ115aは、第1コントローラ102から入力される制御信号に基づいて、振動体111の速度に比例した制御力を付与する。この制御力は、振動体111に対するスカイフックダンパとして機能する。
【0075】
同様に、第2アクチュエータ115bは、第2コントローラ103から入力される制御信号に基づいて、質量体112の速度に比例した制御力を付与することができる。この制御力は、質量体112に対するスカイフックダンパとして機能する。
【0076】
このように、従来の防振装置Bは、第1アクチュエータ115a、第1加速度センサ119aおよび第1コントローラ102からなる上段側の制御系と、第2アクチュエータ115b、第2加速度センサ119bおよび第2コントローラ103からなる下段側の制御系と、が完全に独立した構成とされている。
【0077】
しかしながら、従来の防振装置Bでは、第1および第2アクチュエータ115a,115b等、2台分の制御系を必要とするため、防振装置Bの高コスト化を招くばかりでなく、防振装置Bの調整に要する工数も2台分必要となる。
【0078】
一方、本実施形態に係る防振装置Aでは、アクチュエータ15によって発揮される制御力は、質量体12を介して第2弾性体16に作用し、該第2弾性体16の伸縮を抑制する。第2弾性体16の伸縮を抑制することで、第2弾性体16を介して支持面Fに作用する力の変化を低減し、ひいては、支持面Fへの振動の伝搬を抑制することができる。
【0079】
また、変位センサ18の検出結果に基づいてアクチュエータ15を制御することは、質量体12に対し下側から作用する反力に見合う制御力を、質量体12の上側から付与するものと解釈することもできる。このように解釈した場合、上側から制御力を付与することで、質量体12の振動を抑制することができる。振動体11から支持面Fへの振動の伝播は、質量体12の振動を通じてもたらされるため、質量体12の振動を抑制することで、振動体11から支持面Fへの振動の伝播を抑制することが可能になる。
【0080】
ところで、変位量を取得する術としては、質量体12に加速度センサを取り付けて、その検出信号を2回積分することも考えられる。しかしながら、一般的な加速度センサは、低周波の感度が低いため変位量の検出には不向きである。また、加速度センサの検出信号を2回積分してしまうと、オフセット、ドリフト等に起因したノイズが増幅されるため、そのノイズを取り除くための複数のハイパスフィルタが必要となってしまう。このことは、防振装置Aの高コスト化、および制御の不安定化を招くため不都合である。
【0081】
本実施形態に係る構成は、従来の防振装置Bと同等の優れた防振性能を実現しながらも、複数のアクチュエータを必要としない。そのため、防振装置Aの低コスト化、ひいては防振装置Aの調整の簡素化を実現することができる。
【0082】
また、図1および図3に例示したように、比例動作を実行するための制御信号に対し、積分動作と、位相進み補償と、を実行することで、防振装置Aの安定性を向上させることができる。このことは、防振装置Aの性能向上に有効である。
【0083】
(処理部の変形例)
前記実施形態では、処理部23は、比例動作に加えて、積分動作および位相進み補償を実行するように構成されていたが、本開示は、この構成には限定されない。
【0084】
図5は、処理部23の変形例を示す図1対応図である。変形例に係る処理部23’は、前記実施形態と同様に構成された比例ゲイン乗算器23aと、積分動作のかわりに位相遅れ補償を実行する位相遅れ補償器23gと、位相進み補償の代わりに微分動作を実行する微分器23eおよび微分ゲイン乗算器23fと、を有する。
【0085】
図5に示すように、比例ゲイン乗算器23aと、微分器23eおよび微分ゲイン乗算器23fと、は並列に接続され、比例ゲイン乗算器23a、微分器23eおよび微分ゲイン乗算器23fと、位相遅れ補償器23gと、は直列に接続される。
【0086】
ここで、微分器23eおよび微分ゲイン乗算器23fは、相対変位量に対応したディジタル信号を微分した上で微分ゲインGを乗じることで、微分制御を実現するためのディジタル信号を生成する。
【0087】
図5に示すように、処理部23においては、比例ゲイン乗算器23aの出力信号と、微分ゲイン乗算器23fの出力信号と、が加算される。
【0088】
位相遅れ補償器23gは、前述のように加算された出力信号に対し、位相遅れ補償を実行する。詳しくは、位相遅れ補償器23gの伝達関数G(s)は、ラプラス演算子をsとし、位相遅れ時定数をTとすると、
【数2】
によって表すことができる。ここで、βは、下式(4)を満足するパラメータである。
【0089】
β>1 …(4)
【0090】
処理部23’を用いることで、前記実施形態に係る処理部23と同様に、防振装置Aの制御を安定化させることができる。
【0091】
《他の実施形態》
前記実施形態では、リニアモータからなるアクチュエータ15が例示されていたが、アクチュエータ15の構成は、これに限定されない。例えば、圧電素子と、ゴム等からなる弾性体と、直列に接続したものをアクチュエータとして用いてもよい。このアクチュエータにおいては、圧電素子が弾性体を変位させ、弾性体は、その変位を力に変換する。弾性体によって変換された力は、前記実施形態と同様に、制御力として質量体12および振動体11の間に付与される。この場合の弾性体としては、例えば前述の第1弾性体13を用いることができる。第1弾性体13を用いる場合、圧電素子と第1弾性体13との間に板状の台座部を介在させてもよい。
【0092】
また、前記実施形態では、1つの質量体12を備えた防振装置Bを例示したが、質量体12の数量は、1つに限定されない。例えば、複数の質量体12を上下に連結したものを用いてもよい。
【0093】
また、前記実施形態に係る処理部23は、積分動作を実行する積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23cを備えた構成とされていたが、処理部23の構成は、これに限定されない。例えば、前述した変形例のように、積分器23bおよび積分ゲイン乗算器23cの代わりに位相遅れ補償器23gを用いてもよい。
【0094】
また、前記変形例に係る処理部23’は、積分動作のかわりに位相遅れ補償を実行する位相遅れ補償器23gと、位相進み補償の代わりに微分動作を実行する微分器23eおよび微分ゲイン乗算器23fと、を有する構成とされていたが、本開示は、さらに変形することができる。例えば、比例動作、位相遅れ補償および位相進み補償を実行するように処理部を構成してもよいし、比例動作、微分動作および積分動作を実行するように処理部を構成してもよい。なお、微分器23eは、実用上、不完全微分を実行するものであってもよい。積分器23bについても同様である。
【符号の説明】
【0095】
A 防振装置(アクティブ防振装置)
F 支持面
1 防振台
11 振動体
12 質量体
13 第1弾性体
15 アクチュエータ
16 第2弾性体
18 変位センサ
2 コントローラ
23 処理部
23a 比例ゲイン乗算器
23b 積分器
23c 積分ゲイン乗算器
23d 位相進み補償器
図1
図2
図3
図4
図5