(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】超音波切断用刃物及び超音波切断装置
(51)【国際特許分類】
B26D 7/08 20060101AFI20230706BHJP
B26D 1/06 20060101ALI20230706BHJP
B28B 11/12 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
B26D7/08 A
B26D1/06 Z
B28B11/12
(21)【出願番号】P 2020081900
(22)【出願日】2020-05-07
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 良延
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157654(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107139228(CN,A)
【文献】特開平07-205093(JP,A)
【文献】特開2003-136359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 7/08
B26D 1/06
B28B 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動が印加されて対象物を切断する超音波切断用刃物であって、
長尺状の刃体と、
前記刃体の長手方向に沿って形成された刃部と、を備え、
超音波振動の印加に伴って前記刃体が共振したときに、前記刃体の刃厚をTとし、前記対象物の切断方向である縦方向における前記刃体の振動速度をV
lとし、前記縦方向における前記刃体の振幅をA
lとし、前記刃厚に沿った方向である横方向における前記刃体の振動速度をV
tとし、前記横方向における前記刃体の振幅をA
tとすると、
T×V
l×A
l≧32.0×10
3[μm
3/s] …(A)
T×V
t×A
t≧11.0×10
3[μm
3/s] …(B)
の関係が同時に成立するように構成され
、
前記刃体には、該刃体を刃厚方向に貫く複数の貫通孔が設けられ、
前記複数の貫通孔は、前記刃体の長手方向に沿って等間隔に並んだ状態で配置される
ことを特徴とする超音波切断用刃物。
【請求項2】
請求項1に記載された超音波切断用刃物において、
前記刃部は、波形状を有する
ことを特徴とする超音波切断用刃物。
【請求項3】
請求項
1に記載された超音波切断用刃物において、
前記複数の貫通孔は、前記刃体の共振時における固有モードの節の位置に配置される
ことを特徴とする超音波切断用刃物。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載された超音波切断用刃物と、
前記対象物を支持する支持台と、
前記支持台に対して接離するように前記超音波切断用刃物を移動させる移動機構と、を備える
ことを特徴とする超音波切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波切断用刃物と、それを備える超音波切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、超音波切断用刃物の一例として、超音波切断装置の刃体が開示されている。具体的に、特許文献1に記載の刃体には、該刃体の長手方向に沿って空隙が形成される。
【0003】
前記特許文献1によれば、刃体に形成される空隙は、その刃体の一辺に平行なスリットとして形成されるようになっており、切断面を崩すことなく、柔らかいケーキ等を切断することができる。
【0004】
また、特許文献2には、超音波切断用刃物の別例として、セラミック原料を含んでなるハニカム成形体を切断するための切断刃が開示されている。具体的に、特許文献2に記載の切断刃は、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に0.3kHz以上の周波数で振動するように構成されている。
【0005】
前記特許文献2によれば、好ましくは、切断刃を10kHz以上の高周波数で振動させるとともに、特に好ましくは、その出力を50W~500W以上の条件下で振動させることで、切断面におけるセルの変形を少なくすることができる。
【0006】
また、特許文献3には、セラミックハニカム成形体の切断方法の一例として、セラミックハニカム成形体の外周に、その貫通孔の向きに対してほぼ直角に、該外周を貫通する切断誘導溝を設けることが開示されている。
【0007】
前記特許文献3によれば、切断誘導溝に細線をあてがい、その細線をセラミックハニカム成形体に押しつけることのみにより切断することで、そのセラミックハニカム成形体に歪みを生じさせることなく、かつ、従来よりも切断効率に優れた切断方法を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭63-107595号公報
【文献】国際公開第2014/157654号
【文献】特開2001-96524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献3に開示されている方法は、銅線等を用いてなる細線が短期間で切れてしまい、その交換に手間と時間がかかるため、生産性において改善の余地がある。
【0010】
本願発明者らは、前記特許文献3に記載の細線の代わりに、前記特許文献1及び2に開示されているような超音波切断用刃物を用いることを検討した。ここで、セラミックハニカム成形体をはじめとする種々の対象物を良好に切断するためには、前記特許文献2に記載されているように、超音波切断用刃物を10kHz以上の高周波数でかつ、50W以上もの高出力下で振動させることが考えられる。
【0011】
ところが、前記特許文献2に開示されている手法は、その実施に先だって、電波法に基づく許可を受ける必要がある。そのため、この手法は、気軽に利用できるものとは言い難く、利便性という点では難がある。
【0012】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、生産性と利便性を損なうことなく、種々の対象物を良好に切断することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の第1の態様は、超音波振動が印加されて対象物を切断する超音波切断用刃物に係る。この超音波切断用刃物は、長尺状の刃体と、前記刃体の長手方向に沿って形成された刃部と、を備え、超音波振動の印加に伴って前記刃体が共振したときに、前記刃体の刃厚をTとし、前記対象物の切断方向である縦方向における前記刃体の振動速度をVlとし、前記縦方向における前記刃体の振幅をAlとし、前記刃厚に沿った方向である横方向における前記刃体の振動速度をVtとし、前記横方向における前記刃体の振幅をAtとすると、
T×Vl×Al≧32.0×103[μm3/s] …(A)
T×Vt×At≧11.0×103[μm3/s] …(B)
の関係が同時に成立するように構成される。
【0014】
本願発明者らが、鋭意検討を重ねた結果得られた知見によれば、(A),(B)の関係を同時に成立させることで、種々の対象物を良好に切断することができるようになる。ここで、細線ではなく刃体を用いることにより、長寿命化を実現し、ひいては生産性を高めることが可能になる。またさらに、前記(A),(B)の関係は、電波法による規制とは無関係に成立させることができるため、利便性の向上にも資する。
【0015】
このように、前記第1の態様によれば、生産性と利便性を損なうことなく、種々の対象物を良好に切断することができる。
【0016】
また、本開示の第2の態様によれば、前記刃部は、波形状を有する、としてもよい。
【0017】
前記第2の態様によれば、刃部が波形状を有することで、対象物の外周面に刃部が点当たりで接触するようになる。これにより、対象物の表層に切り込みを入れることができ、ひいては、その対象物を良好に切断することができるようになる。
【0018】
また、本開示の第3の態様によれば、前記刃体には、該刃体を刃厚方向に貫く複数の貫通孔が設けられ、前記複数の貫通孔は、前記刃体の長手方向に沿って等間隔に並んだ状態で配置される、としてもよい。
【0019】
前記第3の態様によれば、刃体に貫通孔を設けることで、その剛性を低下させることができる。これにより、超音波振動を印加したときに、刃体を大きく振動させることができ、ひいては、種々の対象物を良好に切断することができるようになる。
【0020】
また、本開示の第4の態様によれば、前記複数の貫通孔は、前記刃体の共振時における固有モードの節の位置に配置される、としてもよい。
【0021】
本願発明者らは、さらに検討を進めた結果、刃体において振動が相対的に小さい部位、すなわち固有モードの節の位置に貫通孔を設けることで、刃体をより大きく振動させることができる、ということを突き止めた。これにより、種々の対象物をさらに良好に切断することができるようになる。
【0022】
また、本開示の第5の態様は、超音波切断装置に係る。この超音波切断装置は、前記超音波切断用刃物と、前記対象物を支持する支持台と、前記支持台に対して接離するように前記超音波切断用刃物を移動させる移動機構と、を備える。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本開示によれば、生産性と利便性を損なうことなく、種々の対象物を良好に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、超音波切断装置の構成を例示する概略図である。
【
図2】
図2は、超音波切断用刃物の好ましい形態を例示する図である。
【
図3】
図3は、固有モードの節と腹を説明するための図である。
【
図4】
図4は、超音波切断用刃物の別例を示す
図2対応図である。
【
図5】
図5は、超音波切断用刃物の振動速度と振幅を例示する図である。
【
図6】
図6は、各実施例と各比較例における測定結果をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0026】
<超音波切断装置>
図1は、超音波切断装置1の構成を例示する概略図である。
図1に示すように、超音波切断装置1は、発振器2と、超音波振動子3と、ホーン4と、超音波切断用刃物(以下、単に「刃物」という)5と、支持台6と、移動機構7と、を備える。
【0027】
発振器2は、高周波の交流電圧を発生させる。具体的に、本実施形態に係る発振器2は、40kHzかつ30Wの交流電圧を発生させる。この交流電圧は、電波法による規制の対象外であり、担当省庁による許可を必要としない。発振器2が発生させた交流電圧は、超音波振動子3に印加される。
【0028】
超音波振動子3は、発振器2によって印加された交流電圧を変換し、超音波振動を出力する。具体的に、本実施形態に係る超音波振動子3は、いわゆるボルト締めランジュバン型振動子によって構成されている。超音波振動子3によって変換された超音波振動は、ホーン4に入力される。
【0029】
ホーン4は、超音波振動子3から入力された超音波振動を増幅し、これを加振対象に入力する。具体的に、本実施形態に係るホーン4は、超音波切断用刃物5の端部(長手方向の端部)を支持するように構成されている。ホーン4によって増幅された超音波振動は、加振対象としての刃物5に印加される。
【0030】
刃物5は、ホーン4を介して超音波振動が印加されて、対象物としてのワークWを切断する。具体的に、本実施形態に係る刃物5は、刃体51と、刃体51に形成される刃部52と、を備える。
【0031】
このうちの刃体51は、略一定の厚みを有する長尺状に形成される。刃体51は、その長手方向をX軸方向(
図1参照)に沿わせた姿勢で移動機構7によって支持される。刃体51はまた、その短手方向をZ軸方向(
図1参照)に沿わせた姿勢で移動機構7によって支持される。
【0032】
一方、刃部52は、刃体51の長手方向に沿って形成される。この刃部52は、波形状を有する。この波形状は、刃部52の先端から刃体51に向かってV字状に広がっている。なお、特に好ましい刃物5の形態は、
図2等を用いて後述する。
【0033】
支持台6は、ワークWを下方から支持する。具体的に、本実施形態において用いられるワークWは、好ましくは焼成前のセラミックス成形体からなる。このワークWは、ハニカム構造を有する円筒状に形成され、その外周面を刃部52に向けた姿勢で支持台6によって支持される。円筒状とされたワークWの中心軸は、刃体51の長手方向及び短手方向の双方に直交する。
【0034】
移動機構7は、支持台6に対して接離するように、刃物5を移動させる。具体的に、本実施形態に係る移動機構7は、左右一対の柱体にサーボモータ(不図示)を取り付けてなる。左右一対の柱体は、刃部52を下向きにして、適当な張力をかけた状態で、ホーン4を介して刃体51の両端を保持する。この移動機構7は、左右のサーボモータを同期して作動させることで、刃物5の両端を上下動させる。これにより、刃物5は、
図1の矢印Au,Adに示すように、刃体51の短手方向に沿って移動する。
【0035】
<刃物の詳細>
また、
図2は、刃物5の好ましい形態を例示する図である。また、
図3は、固有モードの節の位置Vsと腹の位置Vbを説明するための図であり、
図4は、刃物5の別例105,205,305を示す
図2対応図である。
【0036】
なお、ここでいう「固有モードの節の位置」とは、他の部位に比して振動が小さい部位を指す。また、「固有モードの腹の位置」とは、他の部位に比して振動が大きい部位を指す。
【0037】
好ましくは、刃物5を構成する刃体51には、該刃体51を刃厚方向に貫く複数の貫通孔53が設けられる。それら複数の貫通孔53は、
図2に示すように、刃体51の長手方向に沿って等間隔に並んだ状態で配置される。また、各貫通孔53の内径[mm]は、それぞれφ2に設定される。
【0038】
さらに好ましくは、複数の貫通孔53は、刃体51の長手方向においては、刃体51の共振時における固有モードの節の位置Vsに配置され、刃体51の短手方向においては、刃体51の中央部に配置される。ここで、固有モードの節の位置Vsは、刃体51に貫通孔53を設ける前に、実験等を通じて予め特定されるようになっている。
【0039】
すなわち、刃物5に超音波振動を印加すると共振し、
図3に示すように、振動の腹と節とが固有の分布をなす固有モードとなる。この固有モードを解析することで、節の位置Vsと腹の位置Vbをそれぞれ特定し、貫通孔53を設けるべき位置を特定することができるようになっている。
【0040】
特に、
図2に示す例では、刃部52の波形状の谷部52aと、その谷部52aに隣合う別の谷部52aとの間隔を1周期と定義すると、固有モードの節の間隔、換言すれば貫通孔53同士の間隔Shは、1.5周期となる。この場合、隣合う貫通孔53のうちの一方は、波形状の谷部52aの位置に設けられ、隣合う貫通孔53のうちの他方は、波形状の山部52bと谷部52aを1つずつ挟んだ上で、波形状の山部52bの位置に設けられることになる。ここで、波形状の山部52bとは、V字形状の先端部を指す。また、波形状の谷部52aとはV字形状の基端部を指す。
【0041】
なお、刃体51に貫通孔53を設けることは、本開示において必須ではない。例えば、
図4の(a)に示す刃物105のように、貫通孔53を設けなくとも、所望の切断性能を実現することができる。
【0042】
また、刃体51に貫通孔53を設ける場合にあっても、各貫通孔53の位置は、固有モードの節の位置Vsに限定されない。(b)に示す刃物205のように、波形状の谷部52aの位置に1周期おきに設けてもよいし、(c)に示す刃物305のように、波形状の谷部52aの位置と山部52bの位置に0.5周期おきに設けてもよい。さらに、図示は省略したが、波形状の山部52bの位置に1周期おきに設けてもよいし、固有モードの腹の位置Vbに、1.5周期おきに設けてもよい。
【0043】
ここで、本願発明者らは、刃物5の寸法と振動特性との関係に着目し、これを綿密に研究したところ、超音波振動の印加に伴って刃体51が共振したときに、下記の関係が同時に満足されるように刃物5を構成することで、優れた性能が発揮されることを新たに発見した。
【0044】
T×Vl×Al≧32.0×103[μm3/s] …(A)
T×Vt×At≧11.0×103[μm3/s] …(B)
【0045】
上記(A),(B)の関係においては、刃体51の刃厚をTとし、対象物としてのワークWの切断方向である縦方向における刃体51の振動速度をV
lとし、その縦方向における刃体51の振幅をA
lとし、刃厚に沿った方向である横方向における刃体51の振動速度をV
tとし、その横方向における前記刃体の振幅をA
tとした。縦方向と横方向の定義については、
図3の紙面上の両矢印に示す通りである。
【0046】
上記(A),(B)の左辺は、それぞれ、刃物5の振動エネルギーと正の相関を有する。具体的に、刃物5の振動エネルギーをEとし、刃物5の質量をmとし、刃物5の振動数をfとし、刃物5の振幅をAとすると、下式(1)が成立する。
【0047】
E=2π2mf2A2 …(1)
【0048】
ここで、振動数は振動速度に比例することから、刃物5、特に刃体51の振動速度をVとし、定数をBとすると、下式(2)が成立する。
【0049】
f=BV …(2)
【0050】
上式(1),(2)より、振動エネルギーについて下式(3)が成立する。
【0051】
E=2π2mB2V2A2 …(3)
【0052】
一方、刃物5の面積をSとし、刃体51の刃厚をTとし、質量密度をρとすると、刃物5の質量について下式(4)が成立する。
【0053】
m=STρ …(4)
【0054】
上式(3),(4)より、振動エネルギーについて下式(5)が成立する。
【0055】
E=2π2STρB2V2A2 …(5)
【0056】
刃物5の形状は共通なので、刃物5の面積を一定とすると、Kを定数として下式(6),(7)が成立する。
【0057】
E=K・(T×V2×A2) …(6)
K=2π2SρB2 …(7)
【0058】
式(6)より、刃物5の振動エネルギーは、T×V2×A2に比例することが理解されよう。本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、刃物5の振動の大きさを示す指標として、「T×V×A」を、縦方向の振動(縦振動)と、横方向の振動(横振動)と、の各々について用いることを新たに創作した。
【0059】
以下、具体的な実施例を比較検討し、上記関係について説明する。
【0060】
<実施例>
以下の説明において、
図5は、好ましい形態とされた刃物5の振動速度と振幅を例示する図であり、
図6は、各実施例と各比較例における測定結果をプロットした図であり、
図7は、
図6の一部を拡大して示す図である。
【0061】
(刃物の具体例)
まず、以下に示す実施例1~6および比較例1~6の刃物5を準備した。各刃物5の構成は、表1にも示す。なお、以下の実施例および比較例において、波形状は共通であり、その山部52bの数は28山である。また、貫通孔53の穴径[mm]は、全てφ2である。
【0062】
-実施例1-
実施例1においては、貫通孔53を何等設けていない刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。また、刃厚は0.4mmである。
【0063】
-実施例2-
実施例2においては、複数の貫通孔53を設けた刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。複数の貫通孔53は、刃体51の共振時における固有モードの節の位置Vsに配置した。また、刃厚は0.6mmである。
【0064】
-実施例3-
実施例3においては、複数の貫通孔53を設けた刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。複数の貫通孔53は、波形状の谷部52aに配置した。また、刃厚は0.6mmである。
【0065】
-実施例4-
実施例4においては、複数の貫通孔53を設けた刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。複数の貫通孔53は、波形状の谷部52aと山部52bの双方に配置した。また、刃厚は0.6mmである。
【0066】
-実施例5-
実施例5においては、複数の貫通孔53を設けた刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。複数の貫通孔53は、波形状の山部52bに配置した。また、刃厚は0.6mmである。
【0067】
-実施例6-
実施例6においては、複数の貫通孔53を設けた刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。複数の貫通孔53は、刃体51の共振時における固有モードの腹の位置Vbに配置した。また、刃厚は0.6mmである。
【0068】
-比較例1-
比較例1においては、貫通孔53を何等設けていない刃体51と、波形状ではなくストレート形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。また、刃厚は0.4mmである。
【0069】
-比較例2-
比較例2においては、貫通孔53を何等設けていない刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。また、刃厚は0.6mmである。
【0070】
-比較例3-
比較例3においては、貫通孔53を何等設けていない刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。また、刃厚は0.8mmである。
【0071】
-比較例4-
比較例4においては、貫通孔53を何等設けていない刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。また、刃厚は1.0mmである。
【0072】
-比較例5-
比較例5においては、複数の貫通孔53を設けた刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。複数の貫通孔53は、刃体51の共振時における固有モードの節の位置Vsに配置した。また、刃厚は0.8mmである。
【0073】
-比較例6-
比較例5においては、複数の貫通孔53を設けた刃体51と、波形状を有する刃部52と、を備える刃物5を準備した。複数の貫通孔53は、刃体51の共振時における固有モードの節の位置Vsに配置した。また、刃厚は1.0mmである。
【0074】
(評価方法)
前述のように準備された実施例1~6および比較例1~6に所定の超音波振動を印加して、予め準備したワークWの切断を試みた。そして、その際の切れ味を評価して分類した。
【0075】
ここで、ワークWとしては、ハニカム構造を有する焼成前のセラミックス成形体を使用した。具体的に、ワークWとして用いられたセラミックス成形体は、外径[mm]がφ180である。また、発振器2は、電波法による規制の対象外となる交流電圧(具体的には、40kHzかつ30Wの交流電圧)を発生させるものを使用した。
【0076】
切れ味は、ワークWの切断面の状態と平面度に基づいて評価した。この評価は、より優れているものから順に、◎、〇、×の3段階で行った。「◎」は、切断面良好かつ平面度1.0mm以下であったことを示す。「〇」は、切断面良好かつ平面度1.0mm以上であったことを示す。「×」は、切断不良(切断できなかった)であったことを示す。
【0077】
【0078】
(評価結果)
評価結果を表1に示す。
【0079】
まず、実施例1と比較例1との比較から見て取れるように、貫通孔53を設けずに刃厚を0.4mmとした場合、刃部52を波形状とすることで、ワークWを切断できるようになった。これは、刃部52を波形状にしたことで、ワークWの外周面に刃部52の山部52bが点当たりで接触し、ワークWの表層に切り込みを入れた結果、切断可能となった可能性を示唆している。
【0080】
また、実施例1と比較例2との比較から見て取れるように、貫通孔53を設けずに刃厚を変化させた場合、刃厚を0.4mmに設定したときは、刃部52を波形状とすることでワークWを切断できたものの、刃厚を0.6mmに設定したときは、刃物5の強度こそ向上するものの、刃部52を波形状としてもなおワークWを切断できなかった。これは、刃厚を厚くしたことで、刃物5の振動が抑制されたためと考えられる。しかしながら、刃厚を0.4mmに設定してしまっては、ワークWの切断こそ可能になるものの、刃物5の破断が懸念される。
【0081】
その一方で、実施例2~6と比較例2との比較から見て取れるように、同じく刃厚を0.6mmに設定した場合にあっても、刃体51に貫通孔53を設けたときにはワークWを切断することができた。これは、貫通孔53を設けた分だけ刃物5の剛性が落ち、その結果、刃厚を薄くせずとも刃物5の振動が大きくなったためと考えられる。
【0082】
このように、刃体51に貫通孔53を設けることで、刃物5の破断を抑制しつつ、その振動を大きくしてワークWを切断することができるようになる。また、実施例2と実施例3~5との比較から見て取れるように、刃体51において、特に固有モードの節の位置Vsに貫通孔53を設けたときには、取り分け良好な切れ味が実現される。
【0083】
(指標の検討)
また、本願発明者らは、振動の大きさを示す指標として、前記(A),(B)の左辺に示す指標(以下、それぞれ「縦振動の指標」および「横振動の指標」という)を新たに創作した。
【0084】
そこで、前述の実施例1~6および比較例1~6についても、縦振動の指標と横振動の指標をそれぞれ算出し、その有効性を検討した。本実施例では、縦振動の指標を算出するべく、縦振動の振動速度[μm/s]と振幅[μm]を計測した。同様に、本実施例では、横振動の指標も算出するべく、横振動の振動速度[μm/s]と振幅[μm]を計測した。
【0085】
それらの計測は、レーザードップラー振動計を用いて行った。また、この計測は、刃物5とワークWとが接触してないタイミングで行った。実際の計測範囲は、刃部52の波形状の山数28のうち、ワークWに作用する端から5山目から24山目とした。
【0086】
実際に得られた計測結果のうち、比較例2に係る計測結果と、実施例2に係る計測結果については、
図5に示す通りである。
図5のプロットP1~P4に示すように、実施例2における振動速度および振幅は、双方とも、比較例2に比して大きく向上する。
【0087】
本願発明者らは、他の比較例および実施例についても同様の計測を実行し、縦振動と横振動の双方について、振動速度の最大値(最大振動)と振幅の最大値(最大振幅)の算出を行った。なお、ここでいう「最大速度」および「最大振幅」とは、それぞれ、振動速度および振幅の計測結果の上位3点の平均値である。その算出結果は、表1に示す通りである。
【0088】
次いで、本願発明者らは、前記(A),(B)の左辺によって定義された指標を算出し、その算出結果を
図6にプロットした。
図6において、実施例1~6は、それぞれ、「1」~「6」と付されたプロットに対応する。一方、比較例1~6は、それぞれ、「1’」~「6’」と付されたプロットに対応する。各プロットの形状は、切れ味の評価を示す。また、具体的な指標の数値は、表1にも示す。
【0089】
図6のグラフG1に示すように、切れ味が◎または〇の場合、縦振動および横振動の指標は、双方とも、切れ味が×の場合に比して大きい。換言すれば、縦振動および横振動の指標が双方とも所定の閾値以上の場合に、切れ味が◎または〇になるとみなすこともできる。
【0090】
指標の閾値については、
図7に示す通りである。この
図7は、グラフG1における領域R1を拡大して示すものである。同図に示すように、縦振動の閾値Lvは実質的に32.0とみなすことができ、横振動の閾値Ltは実質的に11.0とみなすことができる。縦振動の指標が閾値Lv以上となり、横振動の指標が閾値Lt以上となる領域R2においては、切れ味は◎または〇となる。
【0091】
このように、本願発明者らは、縦振動および横振動のそれぞれの指標に関する閾値Lv,Ltを模索することで、前述した(A),(B)の関係を想到するに至った。
【0092】
《他の実施形態》
前記実施形態では、切断されるべき対象物(ワークW)として、ハニカム構造を有する焼成前のセラミックス成形体を例示したが、本開示は、これ以外の物品を切断対象とすることができる。本開示に係る刃物5は、SiCセラミックス等、ハニカム構造を有さないセラミックス(例えば、管状のセラミックス)を切断したり、プラスチック等の合成樹脂を切断したりすることができる。
【符号の説明】
【0093】
1 超音波切断装置
5 超音波切断用刃物
51 刃体
52 刃部
53 貫通孔
6 支持台
7 移動機構
Vs 固有モードの節の位置
W ワーク(対象物)