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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】シート状導電部材
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20230706BHJP
   B82B 1/00 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
H05B3/20 341
B82B1/00 ZNM
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020539655
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019034320
(87)【国際公開番号】W WO2020045677
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018160470
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅春
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝至
(72)【発明者】
【氏名】萩原 佳明
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/097321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/20
B82B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電性線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体を有するシート状導電部材であって、
前記シート状導電部材が、伸縮性を有し、
前記導電性線状体の最小間隔が、50μm以上500μm以下であ
前記シート状導電部材の前記導電性線状体の軸方向における伸縮率は、50%以上であり、
前記導電性線状体は、前記シート状導電部材の平面視において、波形状であり、
前記導電性線状体の振幅をA、前記導電性線状体の波長をλ、前記導電性線状体の軸方向と直交する方向における隣接する前記導電性線状体との間隔をL、及び、前記導電性線状体の直径をDとした場合に、下記数式(F1)及び(F2)の両方を満たす、
シート状導電部材。
0.15≦2A/λ≦5.0 ・・・(F1)
{(2A-D-L)/(2A-D)}≦0.8 ・・・(F2)
【請求項2】
請求項1に記載のシート状導電部材において、
前記導電性線状体は、金属ワイヤーを含む線状体、カーボンナノチューブを含む線状体、及び、糸に導電性被覆が施された線状体からなる群から選択され
る少なくとも1種である、シート状導電部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシート状導電部材において、
発熱体として用いる、シート状導電部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状導電部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の導電性線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体を有するシート状導電部材(以下、「導電性シート」とも称する)は、発熱装置の発熱体、発熱するテキスタイルの材料、ディスプレイ用保護フィルム(粉砕防止フィルム)等、種々の物品の部材に利用できる可能性がある。
発熱体の用途に用いるシートとして、例えば、特許文献1には、少なくとも片面に接着層を備えた面状部材の接着層側に、所定の配線パターンに形成された箔状抵抗体が位置している、面状発熱体が記載されている。
また、特許文献2には、一方向に延びた複数の線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体を有する発熱シートが記載されている。この発熱シートは、導電性線状体の直径が7μm~75μmである疑似シート構造体と、疑似シート構造体の一方の表面上に設けられた樹脂保護層と、を有する。また、この発熱シートにおいては、樹脂保護層を有する側の疑似シート構造体の表面上に設けられた層の合計の厚さが、導電性線状体の直径の1.5倍~80倍である。
しかしながら、特許文献1には、面状発熱体の伸縮性についての記載、及び配線間距離についての記載がない。一方で、特許文献2には、金属ワイヤーが、シート状導電部材の平面視において、波形状を有すること、並びに、隣接する金属ワイヤーの軸方向と直交する方向における距離についての記載がある。しかしながら、特許文献2においては、金属ワイヤーを波形状にした場合に、隣接する金属ワイヤーの軸方向と直交する方向における距離よりも、金属ワイヤー同士が近接することが記載されていない。すなわち、特許文献2に記載の発熱シートでは、条件によっては、隣接する金属ワイヤー同士が近接し過ぎることで、異常発熱が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-222359号公報
【文献】国際公開第2018/097321号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、十分な伸縮性を有し、かつ、異常発熱又は信号混線の発生を抑制できるシート状導電部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るシート状導電部材は、複数の導電性線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体を有するシート状導電部材であって、前記シート状導電部材が、伸縮性を有し、前記導電性線状体の最小間隔が、50μm以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記シート状導電部材の前記導電性線状体の軸方向における伸縮率は、8%以上であることが好ましい。
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記導電性線状体は、前記シート状導電部材の平面視において、波形状であることが好ましい。
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記導電性線状体の振幅をA、前記導電性線状体の波長をλ、前記導電性線状体の軸方向と直交する方向における隣接する前記導電性線状体との間隔をL、及び、前記導電性線状体の直径をDとした場合に、下記数式(F1)及び(F2)の両方を満たすことが好ましい。
0.15≦2A/λ≦5.0 ・・・(F1)
{(2A-D-L)/(2A-D)}≦0.8 ・・・(F2)
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記導電性線状体は、金属ワイヤーを含む線状体、カーボンナノチューブを含む線状体、及び、糸に導電性被覆が施された線状体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の一態様に係るシート状導電部材は、発熱体として用いることが好ましい。
本発明によれば、十分な伸縮性を有し、かつ、異常発熱又は信号混線の発生を抑制できるシート状導電部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材を示す概略図である。
図2は、図1のII-II断面を示す断面図である。
図3は、本発明の第一実施形態に係る導電性線状体の一態様を示す模式図である。
図4は、本発明の第一実施形態に係る導電性線状体の別の一態様を示す模式図である。
図5は、本発明の第二実施形態に係るシート状導電部材を示す概略図である。
図6は、本発明の第三実施形態に係るシート状導電部材を示す概略図である。
図7は、本発明の第四実施形態に係るシート状導電部材を示す概略図である。
図8は、実施例1で得られたシート状導電部材における温度分布の測定結果を示す写真である。
図9は、比較例2で得られたシート状導電部材における温度分布の測定結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[第一実施形態]
以下、本発明について実施形態を例に挙げて、図面に基づいて説明する。本発明は実施形態の内容に限定されない。なお、図面においては、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。
(シート状導電部材)
本実施形態に係るシート状導電部材10は、図1及び図2に示すように、例えば、疑似シート構造体20と、接着剤層30とを有している。具体的には、例えば、シート状導電部材10は、接着剤層30上に疑似シート構造体20が積層されている。
なお、以下、20Aは、接着剤層30が積層された面とは反対側の疑似シート構造体20の一方の面(以下「第一面20A」と称する)を示す。20Bは、接着剤層30が積層される疑似シート構造体20の他方の面(以下「第二面20B」と称する)を示す(図2参照)。30Aは、疑似シート構造体20が積層された接着剤層30の一方の面(以下「第一接着面30A」と称する)を示す。30Bは、疑似シート構造体20が積層された面とは反対側の接着剤層30の他方の面(以下「第二接着面30B」と称する)を示す(図2参照)。
つまり、本実施形態に係るシート状導電部材10では、疑似シート構造体20の第二面20Bと接着剤層30の第一接着面30Aとを対面させて、疑似シート構造体20と接着剤層30とが互いに積層されている。
(疑似シート構造体)
疑似シート構造体20は、一方向に延びた複数の導電性線状体22が、互いに間隔をもって配列された構造としている。導電性線状体22は、シート状導電部材10の平面視において、直線状又は波形状である。波形状として具体的には、導電性線状体22は、例えば、正弦波、矩形波、三角波、のこぎり波等の波形状であってもよい。つまり、疑似シート構造体20は、導電性線状体22が、導電性線状体22の軸方向と直交する方向に、等間隔で複数配列された構造としている。
疑似シート構造体20が、上記のような構造であれば、導電性線状体22の軸方向に、シート状導電部材10を伸張した際に、導電性線状体22の切断を抑制できる。なお、シート状導電部材10は、導電性線状体22の軸方向と直交する方向に、伸張しても、導電性線状体22が切断されることがない。そのため、シート状導電部材10は、十分な伸縮性を有する。
なお、シート状導電部材10の導電性線状体22の軸方向における伸縮率は、8%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。この伸縮率が8%以上であれば、被着体の曲面等にも適応できる。
また、シート状導電部材10の導電性線状体22の軸方向と直交する方向における伸縮率は、8%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。この伸縮率が8%以上であれば、被着体の曲面等にも適応できる。
導電性線状体22の最小間隔Sは、50μm以上である(図3及び図4参照)。この最小間隔Sが50μm未満である場合には、異常発熱又は信号混線が発生してしまう。一方で、疑似シート構造体20における導電性線状体22の密度を高めるという観点から、導電性線状体22の最小間隔Sは、500μm以下であることが好ましい。
導電性線状体22の最小間隔Sは、図3及び図4に示すように、導電性線状体22の波長λの変化に応じて変化する。すなわち、導電性線状体22の波長λが小さくなるほど、導電性線状体22の最小間隔Sも小さくなる。同様に、導電性線状体22の最小間隔Sは、導電性線状体22の振幅A、導電性線状体22の軸方向と直交する方向における間隔L、及び、導電性線状体22の直径Dの変化に応じて変化する。
従来技術においては、導電性線状体22の軸方向と直交する方向における間隔Lのみを規定していた。そのため、例えば、導電性線状体22の波長λが小さ過ぎる場合等には、異常発熱又は信号混線が発生してしまう場合があった。これに対し、本実施形態のように、導電性線状体22の最小間隔Sを50μm以上とすれば、異常発熱又は信号混線の発生をより確実に抑制できる。
導電性線状体22の最小間隔Sは、デジタル顕微鏡を用いて、疑似シート構造体20の導電性線状体22を観察し、間隔が狭い箇所を5箇所以上選択して測定する。そして、測定値の中で、最小であった値を、最小間隔Sとする。
導電性線状体22の直径Dは、0.0001cm(1μm)以上0.0125cm(125μm)以下であることが好ましい。特に、導電性線状体22がカーボンナノチューブを含む線状体である場合、導電性線状体22の直径Dは、0.0003cm(3μm)以上0.0100cm(100μm)以下であることがより好ましく、0.0005cm(5μm)以上0.007cm(70μm)以下であることがさらに好ましく、0.0005cm(5μm)以上0.004cm(40μm)以下であることが特に好ましく、0.0005cm(5μm)以上0.002cm(20μm)以下であることが最も好ましい。
特に、導電性線状体22がカーボンナノチューブを含む線状体である場合、導電性線状体22の直径を1μm以上125μm以下にすると、シート状導電部材10(疑似シート構造体20)の製造の際に、導電性線状体22が切れることが抑制される。また、導電性線状体22の一本一本が肉眼で視認し難くなるため、シート状導電部材10(疑似シート構造体20)の光線透過性が向上する。これにより、例えば、シート状導電部材10を介して、観察者に対して反対側にある映像(鏡であれば、反射された鏡像)が認識しやすくなる。具体的には、例えば、シート状導電部材10を窓に貼付した際には、窓の向こう側の光景が見やすくなる。また、直径が細い線状体を用いると、シート状導電部材10における疑似シート構造体20を肉眼で視認することがほとんど不可能になり、窓又は鏡を介した像をより自然に視認することができる。
導電性線状体22の直径Dは、デジタル顕微鏡を用いて、疑似シート構造体20の導電性線状体22を観察し、無作為に選んだ5箇所で、導電性線状体22の直径を測定し、その平均値とする。
導電性線状体22の軸方向と直交する方向における間隔Lは、0.005cm(50μm)以上5.0cm(50000μm)以下であることが好ましく、0.008cm(80μm)以上4.0cm(40000μm)以下であることがより好ましい。導電性線状体22の軸方向と直交する方向における間隔Lを0.005cm(50μm)以上5.0cm(50000μm)以下にすると、疑似シート構造体20の抵抗値を低減しつつ、光線透過性が向上しやすくなる。
導電性線状体22の軸方向と直交する方向における間隔Lは、デジタル顕微鏡を用いて、疑似シート構造体20の導電性線状体22を観察し、隣り合う2つの導電性線状体22の間隔を測定する。
なお、隣り合う2つの導電性線状体22の軸方向と直交する方向における間隔とは、導電性線状体22を配列させていった方向に沿った長さであって、2つの導電性線状体22の対向する部分間の長さである(図2参照)。間隔Lは、導電性線状体22の配列が不等間隔である場合には、全ての隣り合う導電性線状体22同士の間隔の平均値であるが、間隔Lの値を制御しやすくする観点、光線透過性の均一性の確保の観点から、導電性線状体22は疑似シート構造体20において、導電性線状体22は、略等間隔に配列されていることが好ましい。
導電性線状体22の振幅Aは、0.005cm(50μm)以上5.0cm(50000μm)以下であることが好ましく、0.008cm(80μm)以上4.0cm(40000μm)以下であることがより好ましい。導電性線状体22の振幅Aを0.005cm(50μm)以上5.0cm(50000μm)以下にすると、シート状導電部材10の伸縮性を向上でき、導電性線状体22の最小間隔Sも確保できる。
導電性線状体22の振幅Aは、デジタル顕微鏡を用いて、疑似シート構造体20の導電性線状体22を観察し、無作為に選んだ5箇所で、導電性線状体22の振幅を測定し、その平均値とする。
導電性線状体22の波長λは、0.005cm(50μm)以上20.0cm(200000μm)以下であることが好ましく、0.008cm(80μm)以上20.0cm(200000μm)以下であることがより好ましい。導電性線状体22の波長λを0.005cm(50μm)以上20.0cm(200000μm)以下にすると、シート状導電部材10の伸縮性を向上でき、導電性線状体22の最小間隔Sも確保できる。
導電性線状体22の波長λは、デジタル顕微鏡を用いて、疑似シート構造体20の導電性線状体22を観察し、無作為に選んだ5箇所で、導電性線状体22の波長を測定し、その平均値とする。
本実施形態においては、導電性線状体22の振幅A、導電性線状体22の波長λ、導電性線状体22の軸方向と直交する方向における間隔L、及び、導電性線状体22の直径Dが、下記数式(F1)及び(F2)の両方を満たすことが好ましい。
0.15≦2A/λ≦5.0 ・・・(F1)
{(2A-D-L)/(2A-D)}≦0.8 ・・・(F2)
2A/λの値が0.15以上であれば、シート状導電部材10の伸縮性を向上できる。2A/λの値が5.0以上であれば、導電性線状体22の振幅Aに対して波長λが小さくなり過ぎることはない。
{(2A-D-L)/(2A-D)}の値が0.8以下であれば、導電性線状体22の振幅Aに対して、軸方向と直交する方向における間隔Lが小さくなり過ぎることがなく、導電性線状体22の最小間隔Sを確保できる。
導電性線状体22の体積抵抗率Rは、例えば、シート状導電部材10を発熱体として用いる場合、1.0×10-7Ωcm以上1.0×10-1Ωcm以下であることが好ましく、1.0×10-6Ωcm以上1.0×10-1Ωcm以下であることがより好ましく、1.0×10-6Ωcm以上1.0×10-2Ωcm以下であることがさらに好ましく、1.0×10-6Ωcm以上4.0×10-5Ωcm以下であることが特に好ましい。導電性線状体22の体積抵抗率Rを上記範囲にすると、疑似シート構造体20の抵抗値が低下しやすくなる。
導電性線状体22の体積抵抗率Rの測定方法は、次の通りである。まず、前述の方法に従って、導電性線状体22の直径Dを求める。次に、導電性線状体22上に40mmの間隔で銀ペーストを2か所塗布し、測定部を設け、測定部間の抵抗を測定し、40mmの長さの導電性線状体22の抵抗値を求める。そして、直径Dの柱状の導電性線状体22と仮定して、導電性線状体22の断面積を算出し、これに上記の測定した抵抗値に、断面積を乗じて、さらに、測定した長さ40mmで除し、導電性線状体22の体積抵抗率Rを算出する。
導電性線状体22は、特に制限はないが、金属ワイヤーを含む線状体(以下「金属ワイヤー線状体」とも称する)であることがよい。金属ワイヤーは高い熱伝導性、高い電気伝導性、高いハンドリング性、汎用性を有するため、導電性線状体22として金属ワイヤー線状体を適用すると、疑似シート構造体20の抵抗値を低減しつつ、光線透過性が向上しやすくなる。また、シート状導電部材10(疑似シート構造体20)を発熱体として適用したとき、速やかな発熱が実現されやすくなる。さらに、上述したように直径が細い線状体を得られやすい。
なお、導電性線状体22としては、金属ワイヤー線状体の他に、カーボンナノチューブを含む線状体、及び、糸に導電性被覆が施された線状体が挙げられる。
カーボンナノチューブ線状体は、例えば、カーボンナノチューブフォレスト(カーボンナノチューブを、基板に対して垂直方向に配向するよう、基板上に複数成長させた成長体のことであり、「アレイ」と称される場合もある)の端部から、カーボンナノチューブをシート状に引き出し、引き出したカーボンナノチューブシートを束ねた後、カーボンナノチューブの束を撚ることにより得られる。このような製造方法において、撚りの際に捻りを加えない場合には、リボン状のカーボンナノチューブ線状体が得られ、捻りを加えた場合には、糸状の線状体が得られる。リボン状のカーボンナノチューブ線状体は、カーボンナノチューブが捻られた構造を有しない線状体である。このほか、カーボンナノチューブの分散液から、紡糸をすること等によっても、カーボンナノチューブ線状体を得ることができる。紡糸によるカーボンナノチューブ線状体の製造は、例えば、米国特許出願公開第2013/0251619号明細書(日本国特開2012-126635号公報)に開示されている方法により行うことができる。カーボンナノチューブ線状体の直径の均一さが得られる観点からは、糸状のカーボンナノチューブ線状体を用いることが望ましく、純度の高いカーボンナノチューブ線状体が得られる観点からは、カーボンナノチューブシートを撚ることによって糸状のカーボンナノチューブ線状体を得ることが好ましい。カーボンナノチューブ線状体は、2本以上のカーボンナノチューブ線状体同士が編まれた線状体であってもよい。また、カーボンナノチューブ線状体は、カーボンナノチューブと他の導電性材料が複合された線状体(以下「複合線状体」とも称する)であってもよい。
複合線状体としては、例えば、(1)カーボンナノチューブフォレストの端部から、カーボンナノチューブをシート状に引き出し、引き出したカーボンナノチューブシートを束ねた後、カーボンナノチューブの束を撚るカーボンナノチューブ線状体を得る過程において、カーボンナノチューブのフォレスト、シート若しくは束、又は撚った線状体の表面に、金属単体又は金属合金を蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、湿式めっき等により担持させた複合線状体、(2)金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体又は複合線状体と共に、カーボンナノチューブの束を撚った複合線状体、(3)金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体又は複合線状体と、カーボンナノチューブ線状体又は複合線状体とを編んだ複合線状体等が挙げられる。なお、(2)の複合線状体においては、カーボンナノチューブの束を撚る際に、(1)の複合線状体と同様にカーボンナノチューブに対して金属を担持させてもよい。また、(3)の複合線状体は、2本の線状体を編んだ場合の複合線状体であるが、少なくとも1本の金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体又は複合線状体が含まれていれば、カーボンナノチューブ線状体又は金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体若しくは複合線状体の3本以上を編み合わせてあってもよい。
複合線状体の金属としては、例えば、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、クロム、スズ、及び亜鉛等の金属単体、及び、これら金属単体の少なくとも一種を含む合金(銅-ニッケル-リン合金、及び、銅-鉄-リン-亜鉛合金等)が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
導電性線状体22は、糸に導電性被覆が施された線状体であってもよい。糸としては、ナイロン、及びポリエステル等の樹脂から紡糸した糸等が挙げられる。導電性被覆としては、金属、導電性高分子、及び炭素材料等の被膜等が挙げられる。導電性被覆は、メッキ又は蒸着法等により形成することができる。糸に導電性被覆が施された線状体は、糸の柔軟性を維持しつつ、線状体の導電性を向上させることができる。つまり、疑似シート構造体20の抵抗を、低下させることが容易となる。
導電性線状体22は、金属ワイヤーを含む線状体であってもよい。金属ワイヤーを含む線状体は、1本の金属ワイヤーからなる線状体であってもよいし、複数本の金属ワイヤーを撚った線状体であってもよい。
金属ワイヤーとしては、銅、アルミニウム、タングステン、鉄、モリブデン、ニッケル、チタン、銀、及び金等の金属、又は、金属を2種以上含む合金(例えば、ステンレス鋼、炭素鋼等の鋼鉄、真鍮、りん青銅、ジルコニウム銅合金、ベリリウム銅、鉄ニッケル、ニクロム、ニッケルチタン、カンタル、ハステロイ、及びレニウムタングステン等)を含むワイヤーが挙げられる。また、金属ワイヤーは、錫、亜鉛、銀、ニッケル、クロム、ニッケルクロム合金、又は、はんだ等でめっきされたものであってもよく、後述する炭素材料又はポリマーにより表面が被覆されたものであってもよい。特に、タングステン及びモリブデン並びにこれらを含む合金から選ばれる一種以上の金属を含むワイヤーが、低い体積抵抗率の導電性線状体22とする観点から好ましい。
金属ワイヤーとしては、炭素材料で被覆された金属ワイヤーも挙げられる。金属ワイヤーは、炭素材料で被覆されていると、金属光沢が低減し、金属ワイヤーの存在を目立たなくすることが容易となる。また、金属ワイヤーは、炭素材料で被覆されていると金属腐食も抑制される。
金属ワイヤーを被覆する炭素材料としては、非晶質炭素(例えば、カーボンブラック、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン、及びカーボンファイバー等)、グラファイト、フラーレン、グラフェン、及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。
(接着剤層)
接着剤層30は、接着剤を含む層である。疑似シート構造体20の第二面20B上に接着剤層30を積層したシート状導電部材10とすることで、接着剤層30により、シート状導電部材10の被着体への貼り付けが容易となる。なお、接着剤層30は、必要に応じて設けられる層である。シート状導電部材10は、第一面20Aを被着体に対向させて被着体に接着することができる。この場合には、上述したように、シート状導電部材10において、疑似シート構造体20から露出する接着剤層30の第一接着面30Aにより、シート状導電部材10と被着体との接着が容易となる。また、第二接着面30Bを被着体に対向させてシート状導電部材10を被着体に接着してもよい。
接着剤層30は、硬化性であることが好ましい。接着剤層が硬化することにより、疑似シート構造体20を保護するのに十分な硬度が接着剤層30に付与され、接着剤層30は保護膜としても機能する。また、硬化後の接着剤層30の耐衝撃性が向上し、衝撃による硬化後の接着剤層30の変形も抑制できる。
接着剤層30は、短時間で簡便に硬化することができる点で、紫外線、可視エネルギー線、赤外線、電子線等のエネルギー線硬化性であることが好ましい。なお、「エネルギー線硬化」には、エネルギー線を用いた加熱による熱硬化も含まれる。
エネルギー線による硬化の条件は、用いるエネルギー線によって異なるが、例えば、紫外線照射により硬化させる場合、紫外線の照射量は、10mJ/cm以上3,000mJ/cm以下であることが好ましく、照射時間は、1秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
接着剤層30の接着剤は、熱により接着するいわゆるヒートシールタイプのもの、湿潤させて貼付性を発現させる接着剤等も挙げられる。ただし、適用の簡便さからは、接着剤層30が、粘着剤(感圧性接着剤)から形成される粘着剤層であることが好ましい。粘着剤層の粘着剤は、特に限定されない。例えば、粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、及びポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、粘着剤は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、及びゴム系粘着剤からなる群から選択される少なくともいずれかであることが好ましく、アクリル系粘着剤であることがより好ましい。
アクリル系粘着剤としては、例えば、直鎖のアルキル基又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む重合体(つまり、アルキル(メタ)アクリレートを少なくとも重合した重合体)、環状構造を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系重合体(つまり、環状構造を有する(メタ)アクリレートを少なくとも重合した重合体)等が挙げられる。ここで「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
アクリル系重合体が共重合体である場合、共重合の形態としては、特に限定されない。アクリル系共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
これらの中でも、アクリル系粘着剤としては、炭素数1~20の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1’)(以下、「単量体成分(a1’)」ともいう)に由来する構成単位(a1)、及び官能基含有モノマー(a2’)(以下、「単量体成分(a2’)」ともいう)に由来する構成単位(a2)を含むアクリル系共重合体が好ましい。
なお、当該アクリル系共重合体は、単量体成分(a1’)及び単量体成分(a2’)以外のその他の単量体成分(a3’)に由来する構成単位(a3)をさらに含んでいてもよい。
単量体成分(a1’)が有する鎖状アルキル基の炭素数としては、粘着特性の向上の観点から、1以上12以下であることが好ましく、4以上8以下であることがより好ましく、4以上6以下であることがさらに好ましい。単量体成分(a1’)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単量体成分(a1’)の中でも、ブチル(メタ)アクリレート及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
構成単位(a1)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、50質量%以上99.5質量%以下であることが好ましく、55質量%以上99質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以上95質量%以下であることが特に好ましい。
単量体成分(a2’)としては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ケト基含有モノマー、及びアルコキシシリル基含有モノマー等が挙げられる。これらの単量体成分(a2’)の中でも、ヒドロキシ基含有モノマーとカルボキシ基含有モノマーが好ましい。
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸等が挙げられ、(メタ)アクリル酸が好ましい。
エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノ基含有モノマーとしては、例えばジアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
シアノ基含有モノマーとしては、例えばアクリロニトリル等が挙げられる。
構成単位(a2)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましく、1.5質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
単量体成分(a3’)としては、例えば、環状構造を有する(メタ)アクリレート(例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、及びアクリロイルモルフォリン等)、酢酸ビニル、及びスチレン等が挙げられる。
構成単位(a3)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、0質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
なお、上述の単量体成分(a1’)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、上述の単量体成分(a2’)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、上述の単量体成分(a3’)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アクリル系共重合体は架橋剤により架橋されていてもよい。架橋剤としては、例えば、公知のエポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。アクリル系共重合体を架橋する場合には、単量体成分(a2’)に由来する官能基を、架橋剤と反応する架橋点として利用することができる。
粘着剤層は、上記粘着剤の他に、エネルギー線硬化性の成分を含有していてもよい。
エネルギー線硬化性の成分としては、例えばエネルギー線が紫外線である場合には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ変性(メタ)アクリレート、及びポリエーテル(メタ)アクリレート等の化合物であって、一分子中に紫外線重合性の官能基を2つ以上有する化合物等が挙げられる。
エネルギー線硬化性の成分は、単独で用いても二種以上を混合して用いてもよい。
また、粘着剤としてアクリル系粘着剤を適用する場合、エネルギー線硬化性の成分として、アクリル系共重合体における単量体成分(a2’)に由来する官能基に反応する官能基と、エネルギー線重合性の官能基とを一分子中に有する化合物を用いてもよい。当該化合物の官能基と、アクリル系共重合体における単量体成分(a2’)に由来する官能基との反応により、アクリル系共重合体の側鎖がエネルギー線照射により重合可能となる。粘着剤がアクリル系粘着剤以外でも、粘着剤となる共重合体以外の共重合体成分として、同様に側鎖がエネルギー線重合性である成分を用いてもよい。
粘着剤層がエネルギー線硬化性である場合には、粘着剤層は光重合開始剤を含有することがよい。光重合開始剤により、粘着剤層がエネルギー線照射により硬化する速度を高めることができる。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサントン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、2-クロールアンスラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-ベンゾチアゾール-N,N-ジエチルジチオカルバメート、及びオリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-プロペニル)フェニル]プロパノン}等が挙げられる。
光重合開始剤は、単独で用いても二種以上を混合して用いてもよい。
粘着剤層は、無機充填材を含有していてもよい。無機充填材を含有することで、硬化後の粘着剤層の硬度をより向上させることができる。また、粘着剤層の熱伝導性が向上する。さらに、被着体がガラスを主成分とする場合に、シート状導電部材10と被着体の線膨張係数を近づけることができ、これによって、シート状導電部材10を被着体に貼付及び必要に応じて硬化して得た装置の信頼性が向上する。
無機充填材としては、例えば、無機粉末(例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、及び窒化ホウ素等の粉末)、無機粉末を球形化したビーズ、単結晶繊維、及びガラス繊維等が挙げられる。これらの中でも、無機充填材としては、シリカフィラー及びアルミナフィラーが好ましい。無機充填材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機充填材は、硬化性官能基を有する化合物により表面修飾(カップリング)されていることが好ましい。
硬化性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、エポキシ基、エーテル基、エステル基、及び、エチレン性不飽和結合を有する基等が挙げられる。これら硬化性官能基を有する化合物としては、例えば、シランカップリング剤等が挙げられる。
無機充填材は、硬化後の粘着剤層の耐破壊性(硬化後の粘着剤層の強度)が維持されやすい点から、エチレン性不飽和結合を有する基等のエネルギー線硬化性官能基を有する化合物により表面修飾されていることがより好ましい。エチレン性不飽和結合を有する基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、及びマレイミド基等が挙げられるが、反応性の高さ及び汎用性の点から(メタ)アクリロイル基が好ましい。
エネルギー線硬化性官能基を有する化合物により表面修飾された無機充填材であると、例えば、シート状導電部材10をガラス等の被着体に貼付けた後に硬化した粘着剤層が強靭となる。これにより、窓及び鏡等に貼り付けたシート状導電部材10に吸盤を貼り付けて、シート状導電部材10をはがす際等に、硬化後の粘着剤層が破壊することを回避することが容易となる。
なお、粘着剤層が表面修飾された無機充填材を含有する場合には、粘着剤層は、別途エネルギー線硬化性の成分を含んでいることが好ましい。
無機充填材の平均粒径は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。無機充填材の平均粒径がこのような範囲にあれば、シート状導電部材10(つまり粘着剤層)の光線透過性が向上しやすくなり、また、シート状導電部材10(つまり粘着剤層)のヘイズを小さくしやすくすることができる。無機充填材の平均粒径の下限は特に限定されないが、5nm以上であることが好ましい。
なお、無機充填材の平均粒径は、デジタル顕微鏡により無機充填材を20個観察し、無機充填材の最大径と最小径の平均径を直径として測定し、その平均値とする。
無機充填材の含有量は、粘着剤層全体に対して、0質量%以上95質量%以下であることが好ましく、5質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。
硬化後の粘着剤層の鉛筆硬度は、HB以上であることが好ましく、F以上であることがより好ましく、H以上であることがさらに好ましい。これにより、硬化後の粘着剤層が疑似シート構造体20を保護する機能がさらに向上し、より十分に疑似シート構造体20を保護することができる。また、粘着剤層が疑似シート構造体20よりも被着体から遠い位置にあり、かつ、粘着剤層が疑似シート構造体20と隣接する面(第一接着面30A)とは反対の面(第二接着面30B)に支持体(後述する基材32)が設けられていない場合であっても、シート状導電部材10を被着体に貼付後に、硬化後の粘着剤層自体に傷がつくことを防止することが容易となる。なお、鉛筆硬度は、JISK5600-5-4に準じて測定された値である。
粘着剤層には、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、有機溶媒、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、及び濡れ性調整剤等の周知の添加剤が挙げられる。
接着剤層30の厚さは、シート状導電部材10の用途に応じて適宜決定される。例えば、接着性の観点から、接着剤層30の厚さは、3μm以上150μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることがより好ましい。
(シート状導電部材の製造方法)
本実施形態に係るシート状導電部材10の製造方法は、特に限定されない。シート状導電部材10は、例えば、次の工程を経て製造される。
まず、剥離シートの上に、接着剤層30の形成用組成物を塗布し、塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥させて、接着剤層30を作製する。次に、接着剤層30の第一接着面30A上に、導電性線状体22を配列しながら配置して、疑似シート構造体20を形成する。例えば、ドラム部材の外周面に剥離シート付きの接着剤層30を配置した状態で、ドラム部材を回転させながら、接着剤層30の第一接着面30A上に導電性線状体22を螺旋状に巻き付ける。その後、螺旋状に巻き付けた導電性線状体22の束をドラム部材の軸方向に沿って切断する。これにより、疑似シート構造体20を形成すると共に、接着剤層30の第一接着面30Aに配置する。そして、疑似シート構造体20が形成された剥離シート付きの接着剤層30をドラム部材から取り出す。この工程を経た後、剥離シートを接着剤層30から剥離することで、シート状導電部材10が得られる。この方法によれば、例えば、ドラム部材を回転させながら、導電性線状体22の繰り出し部をドラム部材の軸と平行な方向に沿って移動させることで、疑似シート構造体20における隣り合う導電性線状体22の間隔Lを調整することが容易である。
なお、導電性線状体22を配列して疑似シート構造体20を形成した後、得られた疑似シート構造体20の第二面20Bを、接着剤層30の第一接着面30A上に貼り合せて、シート状導電部材10を作製してもよい。
(シート状導電部材の特性)
本実施形態に係るシート状導電部材10の光線透過率は、70%以上であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましく、80%以上100%以下であることがさらに好ましい。被着体として自動車等の窓にシート状導電部材10を貼付する場合、例えば、他の車両、歩行者、信号、標識、及び道路の状況等を見分ける視認性が求められる。また、被着体として鏡にシート状導電部材10を貼付する場合、造影の鮮明性が求められる。このため、シート状導電部材10の光線透過率が70%以上であれば、これらの視認性、又は造影の鮮明性を容易に得ることができる。
なお、シート状導電部材10(疑似シート構造体20)の光線透過率は、光線透過率計により、可視域(380nmから760nm)の光線透過率を測定し、その平均値とする。
(シートの使用方法)
本実施形態に係るシート状導電部材10は、例えば、被着体に貼付けて使用される。接着剤層30が硬化性を有する場合、シート状導電部材10を被着体に貼付けた後、接着剤層30を硬化する。シート状導電部材10を被着体に貼り合わせる際には、シート状導電部材10の疑似シート構造体20側を被着体に貼付けて(すなわち、接着剤層30の第一接着面30Aと被着体との間に疑似シート構造体20を介在させて被着体に貼付けて)もよいし、シート状導電部材10の第二接着面30Bを被着体に貼付けてもよい。
被着体としては、例えば、成形体、不織布、及び織物等が挙げられる。成形体の材質は、表面が電気を通さない性質の物質であれば、特に限定されない。成形体の材質としては、例えば、プラスチック、セラミック、及び金属等が挙げられる。
なお、接着剤層30の第一接着面30A側に後述する基材32が存在しない場合には、シート状導電部材10の疑似シート構造体20側を、被着体に貼り合わせることが好ましい。被着体及び接着剤層30の両方により疑似シート構造体20が十分に保護されるためである。これにより、シート状導電部材10の耐衝撃性が向上する点で、実用化に適しているといえる。また、シート状導電部材10(疑似シート構造体20)を発熱体として適用する場合、接着剤層30は、発熱時(通電時)の感電防止にも寄与する。
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、シート状導電部材10に代えてシート状導電部材10Aを用いた以外は第一実施形態と同様の構成であるので、シート状導電部材10Aについて説明し、それ以外の説明を省略する。
本実施形態に係るシート状導電部材10Aは、図5に示すように、接着剤層30の第二接着面30B上に積層された基材32を有している。
基材32としては、例えば、紙、熱可塑性樹脂フィルム、硬化性樹脂の硬化物フィルム、金属箔、不織布、織物及びガラスフィルム等が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、及びアクリル系等の樹脂フィルムが挙げられる。また、基材32は、伸縮性を有することが好ましい。基材32は、伸縮性を有する樹脂フィルム、不織布、織物であることがより好ましい。
なお、接着剤層30とは対向しない基材32の表面(シート状導電部材10Aから露出する表面)には、シート状導電部材10A(疑似シート構造体20)の保護性を強化するために、紫外線硬化性樹脂等を用いたハードコート処理等が施されていてもよい。
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、シート状導電部材10に代えてシート状導電部材10Bを用いた以外は第一実施形態と同様の構成であるので、シート状導電部材10Bについて説明し、それ以外の説明を省略する。
本実施形態に係るシート状導電部材10Bは、例えば、疑似シート構造体20の第一面20A、及び接着剤層30の第二接着面30Bの少なくとも一方の面上に積層された剥離層34を有してもよい。
なお、図6には、疑似シート構造体20の第一面20A、及び接着剤層30の第二接着面30Bの双方の面上に積層された剥離層34を有するシート状導電部材10Bが示されている。
剥離層34としては、特に限定されない。例えば、取り扱い易さの観点から、剥離層34は、剥離基材と、剥離基材の上に剥離剤が塗布されて形成された剥離剤層とを備えることが好ましい。また、剥離層34は、剥離基材の片面のみに剥離剤層を備えていてもよいし、剥離基材の両面に剥離剤層を備えていてもよい。
剥離基材としては、例えば、紙基材、紙基材等に熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン等)をラミネートしたラミネート紙、及びプラスチックフィルム等が挙げられる。紙基材としては、グラシン紙、コート紙、及びキャストコート紙等が挙げられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレート等)、及びポリオレフィンフィルム(例えば、ポリプロピレン、及びポリエチレン等)等が挙げられる。剥離剤としては、例えば、オレフィン系樹脂、ゴム系エラストマー(例えば、ブタジエン系樹脂、及びイソプレン系樹脂等)、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂、及びシリコーン系樹脂等が挙げられる。
剥離層34の厚さは、特に限定されない。剥離層34の厚さは、20μm以上200μm以下であることが好ましく、25μm以上150μm以下であることがより好ましい。
剥離層34の剥離剤層の厚さは、特に限定されない。剥離剤を含む溶液を塗布して剥離剤層を形成する場合、剥離剤層の厚さは、0.01μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.03μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。
剥離基材としてプラスチックフィルムを用いる場合、プラスチックフィルムの厚さは、3μm以上150μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることがより好ましい。
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、シート状導電部材10Cを発熱体として用いた一態様について説明する。
本実施形態に係るシート状導電部材10Cは、面抵抗が低い疑似シート構造体を有するため、発熱体として適用することが好適である。つまり、本実施形態に係るシート状導電部材10Cからなる発熱体(本実施形態に係る発熱体)は、印加する電圧の低減が可能な発熱体となる。
一方、本実施形態に係る発熱装置50は、例えば、図7に示すように、本実施形態に係る発熱体(本実施形態に係るシート状導電部材10Cからなる発熱体)と、発熱体(その疑似シート構造体20)に給電する電極部40を有する。電極部40は、例えば、金属材料で構成され、シート状導電部材10Cの疑似シート構造体20の端部に電気的に接続されている。電極部40と疑似シート構造体20との接合は、疑似シート構造体20の各導電性線状体22に給電可能に、半田等の周知な方法により行われる。
例えば、シート状導電部材10C発熱体として用いる場合、発熱体の用途としては、例えば、デフォッガー(defogger)、及びデアイサー(deicer)等が挙げられる。この場合、被着体としては、例えば、浴室等の鏡、輸送用装置(乗用車、鉄道、船舶、及び航空機等)の窓、建物の窓、アイウェア、信号機の点灯面、及び標識等が挙げられる。また、本発明のシート状導電部材は、電気信号の配線のためのフラットケーブルとしても利用することができる。
[実施形態の変形]
本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、前述の実施形態では、疑似シート構造体20は単層であるが、これに限定されない。例えば、シート状導電部材10は、疑似シート構造体20をシート面方向(シート表面に沿った方向)に複数配列したシートであってもよい。複数の疑似シート構造体20は、シート状導電部材10の平面視において、互いの導電性線状体22を平行に配列してもよいし、交差させて配列させてもよい。
【実施例
【0008】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
[実施例1]
基材として厚さ100μmのポリウレタン系樹脂フィルム上に、接着剤層として厚さ18μmのアクリル系粘着剤層(感圧接着剤層)を設けた粘着シートを準備した。
導電性線状体として、タングステンワイヤー(直径25μm、メーカー名:株式会社トクサイ製、製品名:TGW-CS)を準備した。
次に、外周面がゴム製のドラム部材に上記粘着シートを、感圧接着剤層の表面が外側を向き、しわのないように巻きつけ、円周方向における上記粘着シートの両端部を両面テープで固定した。前記ワイヤーを巻き付けたボビンを6個用意し、ドラム部材の端部付近に位置する粘着シートの感圧接着剤層の表面に付着させた上で、それぞれのボビンからワイヤーを繰り出しながらドラム部材で巻き取り、少しずつドラム部材をドラム軸と平行な方向に移動させていき、ワイヤーが等間隔で波状を描きながらドラム部材に巻きつくようにした。このようにして、粘着シートの感圧接着剤層の表面上に、隣り合うワイヤーの距離を一定に保ちつつ、ワイヤーを複数設けて、ワイヤーからなる疑似シート構造体を形成した。この際、ドラム部材は、振動しながら移動するようにして、巻き付けられたワイヤーが波形状を描くようにした。ワイヤーは等間隔に設けられた。そして、ワイヤーの振幅A、ワイヤーの波長λ(波形のピッチ)、ワイヤーの軸方向と直交する方向における間隔L、及び、ワイヤーの最小間隔Sを、デジタル顕微鏡(キーエンス社製の「VHX-6000」)を用いて測定した。2A/λの値、{(2A-D-L)/(2A-D)}の値、及び、ワイヤーの最小間隔Sの値を、下記表1に示す。
次に、疑似シート構造体を設けた粘着シートの疑似シート構造体の表面(ワイヤー同士の間から接着剤層が露出した表面)に、剥離層として剥離フィルム(商品名:SP-381130(リンテック社製))を貼り合わせた。その後、ドラム軸と平行に、疑似シート構造体及び剥離フィルムごと粘着シートを切断し、シート状導電部材を得た。
[実施例2及び3]
2A/λの値、{(2A-D-L)/(2A-D)}の値、及び、ワイヤーの最小間隔Sの値が、下記表1に示すようになるように、ワイヤーを巻き付けた以外は、実施例1と同様にして、シート状導電部材を得た。
[比較例1及び2]
2A/λの値、{(2A-D-L)/(2A-D)}の値、及び、ワイヤーの最小間隔Sの値が、下記表1に示すようになるように、ワイヤーを巻き付けた以外は、実施例1と同様にして、シート状導電部材を得た。
[伸縮率の測定]
得られたシート状導電部材について、ワイヤーの軸方向における伸縮率を測定した。得られた結果を表1に示す。
具体的には、電動スライダー装置(オリエンタルモーター社製の「EZS4R-E045-AZAAD-2」)を用いて、長さ10cmのシート状導電部材の両端に銅箔を貼り付け、測定用電極とし、そのシート状導電部材を電動スライダーに設置し、測定用電極に三和電気計器株式会社製のデジタルマルチメータPC7000の端子を設置した。その後、電動スライダーを伸張させ、ワイヤーが断線する直前の位置を求める。
そして、伸縮率は、次のように求められる。
伸縮率(%)={(ワイヤーが断線する直前のシート状導電部材の長さ)-(伸張前のシート状導電部材の長さ)}/(伸張前のシート状導電部材の長さ)×100
[異常発熱の確認]
得られたシート状導電部材について、温度分布を測定した。得られた測定結果において、異常発熱の有無を確認した。得られた結果を表1に示す。また、実施例1のシート状導電部材についての温度分布の測定結果を図8に示す。さらに、比較例2のシート状導電部材についての温度分布の測定結果を図9に示す。
具体的には、まず、赤外線サーモグラフィ装置(FLIR社製の「FLIRC2」)を用いて、シート状導電部材の温度分布を測定した。そして、シート状導電部材の温度分布を確認し、異常発熱がある場合には、「有り」と判定した。なお、ワイヤー間の温度分布において、最高温度と最低温度の差が20度超となる部分が測定された場合を異常発熱「有り」とする。一方で、異常発熱がない場合には、「無し」と判定した。
[信号混線の確認]
得られたシート状導電部材について、信号混線の有無を確認した。得られた結果を表1に示す。
具体的には、まず、シート状導電部材を、ワイヤーの軸方向に伸縮率8%となるように、伸張して試料を得た。そして、試料の隣接するワイヤー同士に導通がないか、デジタルマルチメータ(三和電気計測社製の「PC7000」)を用いて確認した。隣接するワイヤー同士に導通がある場合には、「有り」と判定した。一方で、隣接するワイヤー同士に導通がない場合には、「無し」と判定した。
【表1】
【符号の説明】
【0009】
10,10A,10B,10C…シート状導電部材、20…疑似シート構造体、22…導電性線状体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9