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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】歯科用組成物のためのフッ化銀溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/21 20060101AFI20230706BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20230706BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
A61K8/21
A61K8/19
A61Q11/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020540300
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 AU2019000014
(87)【国際公開番号】W WO2019153033
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】2018900432
(32)【優先日】2018-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】517113646
【氏名又は名称】エスディーアイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファーラー,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ターゲット,アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ミンデン
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0239004(US,A1)
【文献】米国特許第04247575(US,A)
【文献】特開平11-349459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
A61K 6/00- 6/90
A61K 31/33- 33/44
B01J 21/00- 38/74
C01G 1/00- 23/08
C02F 1/50
C09K 11/00- 11/89
C07B 31/00- 61/00
C07B 63/00- 63/04
C07C 1/00-409/44
C07F 1/00- 5/06
C25D 1/00- 3/66
G01R 11/00- 11/66
G01R 21/00- 22/10
G01R 35/00- 35/06
G03C 1/00- 1/95
G03C 1/494- 1/91
G03C 11/00
G03C 5/00- 5/60
G03C 7/00- 7/46
G03C 9/00- 11/24
G03F 7/00- 7/42
G03C 3/00
G11B 7/24- 7/2595
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH4.0~5.3のフッ化銀(AgF)含有水溶液であって、組成物が酸で安定化されている、フッ化銀(AgF)含有水溶液
【請求項2】
酸が硝酸である、請求項1に記載のフッ化銀(AgF)含有水溶液。
【請求項3】
フッ化銀水溶液中のフッ化銀の量が約50%w/vまでである、請求項1または2に記載のフッ化銀(AgF)含有水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物のためのフッ化銀溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ化銀含有製品は、歯の硬組織の治療に治療効果を与えることが知られている。その溶液は、一般にフッ化銀(AgF)、硝酸銀(AgNO)、またはフッ化ジアンミン銀(SDF)の水溶液として提供されている。具体的には、これらの製品は、う蝕に関連する細菌を殺し、脱灰したコラーゲンの再石灰化を促進することにより、罹患した歯を保護することが知られている。さらに、これらの製品は、象牙細管を通る液体の動きを遮断することにより、歯の知覚過敏症を軽減するためにも使用することができる。
【0003】
フッ化銀含有製品は、銀イオンの酸化により、う蝕の影響を受けた歯の色を永久的な黒の色調に変えるという共通の欠点を有する。口腔軟組織(歯茎、頬、唇など)も、フッ化銀を含む溶液と接触すると黒くなるが、これは一時的なものであり、その後数日で消える。
【0004】
黒染みを軽減する1つの方法は、フッ化銀含有製品のあとにヨウ化物塩含有溶液を使用することであり、これをフッ化銀含有溶液の直後に塗布すると、遊離銀イオンと容易に反応して水に不溶のクリーム色のヨウ化銀塩を形成する。この治療法の後、過剰のヨウ化銀が洗い流されると、う蝕の病変は(黒ではなく)茶色がかった色合いに見え、他の象牙質組織(う蝕していない歯、歯肉など)は変化していないように見える。
【0005】
フッ化銀含有溶液は、以下の理由により、保管時の安定性が低いことが多い。
(1)AgF溶液は、保管時に溶液から沈殿が生じる傾向がある。沈殿物は、保管容器(ボトルなど)の内面に層を形成する傾向があり、および/または、底に沈殿する。これにより可溶性イオンの濃度が低下すると、歯科治療の効果が低下する。
(2)AgF溶液は、アンモニアを添加してフッ化ジアンミン銀(SDF)を形成することにより安定化できる。アンモニアは、銀イオンと結合して、ジアンミン銀イオン、[Ag(NHと呼ばれる錯イオンを生成する。これは可逆反応であるが、複合体は非常に安定である。しかしながら、アンモニア含有組成物は、アンモニアの高い揮発性のために保管が難しい。ボトルとコンテナは、特に高温での保管時にアンモニアを容易に失い、残ったAgF溶液が不安定になる(沈殿が生じる)。
【0006】
安定した銀錯体を生成するために使用されるアンモニアは、多くの市販製品中で危険なレベルまでpHを上昇させる(pH>10)。長期間保管するのが難しい(アンモニアの揮発性のため)だけでなく、より安定したSDF溶液は、残念ながら口腔軟組織を非常に刺激し、長時間接触させたままにすると化学熱傷を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
歯のう蝕の抑制および知覚過敏減少を示す一方で口腔軟組織に優しい、保管安定性のあるフッ化銀含有溶液を開発できれば好都合である。適切なシステムは、pH4から5.3の領域で安定化された実質的に水性のフッ化銀溶液に基づくものである。
【0008】
本発明の安定化フッ化銀溶液はまた、上記のように染色を低減するためにヨウ化物塩含有溶液と共に使用するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
SDF溶液のpHを低下させるために、アンモニアを省略し、フッ化銀水溶液にした。作りたての38%w/vフッ化銀水溶液は、通常、pHが6.2~6.4であり、保管時には不安定で銀が溶液から沈殿し始める。酸で溶液のpHを4.0~5.3に調整することにより、溶液が安定化する。pH値が4.0未満であると、酸性溶液の腐食性のために化学熱傷や刺激を引き起こす可能性があるため、これは不適切である。pH値が5.3を超えると、長期保管したときに不安定になり、溶液から銀が沈殿することが分かっている。硝酸は、酸性のpH調整剤として使用するのに好ましい化合物であるが、可溶性銀塩を形成する他の有機または無機の酸も使用することができる。これによって、反応生成物として形成される可能性のある不溶性銀塩の沈殿が回避される。
【実施例
【0010】
3種類の38%(w/v)フッ化銀水溶液の製品を調製した。各溶液は異なるpHを示した。これらの製品について、表1に詳細を示す性能特性について試験を行った。
【0011】
【表1】
【0012】
水力学的コンダクタンス(Lp%)は、象牙細管を通る液体の動きの減少を測定するために使用される(0%-閉塞なし、100%-完全に閉塞、液体の動きなし)。象牙細管を通る液体の動きは、歯の過敏症の原因となる可能性があることから、Lp%は知覚過敏減少作用を表す。第2ステップの塗布(ヨウ化カリウム溶液)をすべての製品に適用して、異なった各フッ化銀溶液において、ヨウ化銀沈殿物が形成されて象牙質細管が閉塞されるかどうかを試験した。
【0013】
結論:
実施例1:保管時の良好な安定性、良好な細管閉塞、生物学的に適合したpH(軟組織への刺激なし)。
比較例1:保管時の貧弱な安定性、良好な細管閉塞、生物学的に適合したpH(軟組織への刺激なし)。
比較例2:保管時の良好な安定性、良好な細管閉塞、生物学的に不適合なpH(軟組織への刺激)。
【0014】
当業者にとって明らかであるような修正および変形は、本発明の範囲内にあると見なされる。