(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】気泡の形成に必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20230706BHJP
A61F 9/01 20060101ALI20230706BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230706BHJP
【FI】
A61F9/008 120D
A61F9/008 130
A61F9/01
G06T7/00 616
(21)【出願番号】P 2021508318
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2019075280
(87)【国際公開番号】W WO2020058459
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-16
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518356419
【氏名又は名称】ケラノヴァ
【氏名又は名称原語表記】KERANOVA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール、オーレリアン
(72)【発明者】
【氏名】ボボー、エマニュエル
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/069197(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0259321(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
A61F 9/01
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェムト秒レーザ源(10)を含む切断装置を使用することによって、眼組織(60)の切断面内で延びる少なくとも1つの基本エリア(62)において気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための決定方法であって、当該方法は以下の工程:
a)データ処理ユニット(90)によって、前記眼組織(60)の参照画像を受信する工程であって、当該参照画像は、各基本エリア(62)の少なくとも1つのサンプリング点で焦点調整されることが可能な複数のレーザビームの放出(210、310)の前に、撮像システム(80)によって取得(200、300)されており、各レーザビームは、前記複数のレーザビームのうちの他のレーザビームと異なるそれぞれのエネルギーを有する、工程と、
b)前記データ処理ユニット(90)によって、前記眼組織(60)の少なくとも1つの現在の画像を受信する工程であって、各現在の画像は、前記撮像システム(80)によって、前記複数のレーザビームのうちの少なくとも1つのレーザビームの放出(210、310)の後に取得(220、320)されている、工程と、
次いで、各基本エリアに対し、前記データ処理ユニット(90)によって以下の工程:
c)前記参照画像を各現在の画像と比較することによって、前記基本エリアにおいて形成される少なくとも1つの気泡を検出する工程(230、330)であって、各気泡は各レーザビームに関連する、工程と、
d)前記少なくとも1つの検出された気泡に基づいて、前記基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値を決定する工程(240、250;340、350)を実施する工程と
を含むことを特徴とする、決定方法。
【請求項2】
前記参照画像および現在の画像は、OCT画像であり、
前記検出工程(230、330)は、各現在の画像に対し、下記サブ工程:
・ 各サンプリング点において、前記現在の画像のピクセルと、前記参照画像のピクセルとの間の、前記撮像システム(80)によって受信される後方散乱光の強度変動を計算する工程、
・ 計算された強度変動を閾値と比較し、計算された強度変動が閾値よりも大きい場合に、気泡の形成を確認する工程
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の決定方法。
【請求項3】
各基本エリアに対し、各レーザビームは、当該基本エリアの単一のサンプリング点で焦点調整されることが可能であり、前記受信工程b)は、前記眼組織の複数の現在の画像を受信することで構成され、各現在の画像は、前記撮像システムによって、各基本エリアにおける各レーザビームの放出の後に取得されている、請求項1または2のいずれか一項に記載の決定方法。
【請求項4】
前記決定工程は、各基本エリアに対し、以下のサブ工程:
- 単一の気泡が検出された場合、
・ 検出された気泡の形成を引き起こしたレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程、
- いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された現在の画像のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連する現在の画像を選択する工程、および
・ 選択された現在の画像に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の決定方法。
【請求項5】
各基本エリアに対し、各レーザビームは、当該基本エリアの各サンプリング点で焦点調整されることが可能であり、前記受信工程b)は、前記眼組織の現在の画像を受信することで構成され、現在の画像は、前記撮像システムによって、各基本エリアの各サンプリング点での複数のレーザビームの放出の後に取得されている、請求項1または2のいずれか一項に記載の決定方法。
【請求項6】
前記決定工程は、各基本エリアに対し、以下のサブ工程:
- 単一の気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程、
- いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された各サンプリング点のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連するサンプリング点を選択する工程、および
・ 選択されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程
を含むことを特徴とする、請求項5に記載の決定方法。
【請求項7】
以下の工程:
e)前記データ処理ユニット(90)によって、各基本エリア(62)に対して決定された前記最小値を記憶ユニットに記録する工程をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の決定方法。
【請求項8】
前記眼組織は、各切断面が少なくとも1つの基本エリア(62)を含む、複数の切断面内で延びる基本エリアのセットを含み、前記方法は、各切断面に対し、前記眼組織(60)の基本エリア(62)のセットにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値の3次元マップを決定するために、工程a)からe)の繰り返しを含むことを特徴とする、請求項7に記載の決定方法。
【請求項9】
フェムト秒レーザ源(10)を含む切断装置を使用することによって、眼組織(60)の切断面内で延びる少なくとも1つの基本エリア(62)において気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための決定デバイス(70)であって、当該決定デバイス(70)は、画像を取得するための撮像システム(80)を含み、当該決定デバイス(70)は、
a)前記眼組織の参照画像を受信するための手段であって、当該参照画像は、各基本エリア(62)の少なくとも1つのサンプリング点で焦点調整されることが可能な複数のレーザビームの放出(210、310)の前に、前記撮像システム(80)によって取得(200、300)されており、各レーザビームは、前記複数のレーザビームのうちの他のレーザビームと異なるそれぞれのエネルギーを有する、手段と、
b)前記眼組織(60)の少なくとも1つの現在の画像を受信するための手段であって、各現在の画像は、前記撮像システム(80)によって、前記複数のレーザビームのうちの少なくとも1つのレーザビームの放出(210、310)の後に取得(220、320)されている、手段と、
さらに、各基本エリアに対し、
c)前記参照画像を各現在の画像と比較することによって、前記基本エリアにおいて形成される少なくとも1つの気泡を検出するための手段であって、各気泡は各レーザビームに関連する、手段と、
d)前記少なくとも1つの気泡に基づいて、前記基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値を決定するための手段と
を含む、データ処理ユニット(90)をさらに含むことを特徴とする、決定デバイス。
【請求項10】
前記参照画像および現在の画像は、OCT画像であり、
前記検出手段は、各現在の画像に対し、
・ 各サンプリング点において、前記現在の画像のピクセルと、前記参照画像のピクセルとの間の、前記撮像システム(80)によって受信される後方散乱光の強度変動を計算し、
・ 計算された強度変動を閾値と比較し、計算された強度変動が閾値よりも大きい場合に、気泡の形成を確認することができる、請求項9に記載の決定デバイス。
【請求項11】
各基本エリアに対し、各レーザビームは、当該基本エリアの単一のサンプリング点で焦点調整されることが可能であり、前記受信手段は、前記眼組織の複数の現在の画像を受信することができ、各現在の画像は、前記撮像システムによって、各基本エリアにおける各レーザビームの放出の後に取得されている、請求項9または10のいずれか一項に記載の決定デバイス。
【請求項12】
前記決定手段は、各基本エリアに対し、
- 単一の気泡が検出された場合、
・ 検出された気泡の形成を引き起こしたレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることができ、
- いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された現在の画像のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連する現在の画像を選択することができ、
・ 選択された現在の画像に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることができる、請求項11に記載の決定デバイス。
【請求項13】
各基本エリアに対し、各レーザビームは、当該基本エリアの各サンプリング点で焦点調整されることが可能であり、前記受信手段は、前記眼組織の現在の画像を受信することができ、現在の画像は、前記撮像システムによって、各基本エリアの各サンプリング点での複数のレーザビームの放出の後に取得されている、請求項9または10のいずれか一項に記載の決定デバイス。
【請求項14】
前記決定手段は、各基本エリアに対し、
- 単一の気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることができ、
- いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された各サンプリング点のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連するサンプリング点を選択することができ、
・ 選択されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることができる、請求項13に記載の決定デバイス。
【請求項15】
前記処理ユニットは、
e)各基本エリア(62)に対して決定された前記最小値を記憶ユニットに記録するための手段をさらに含む、請求項9から14のいずれか一項に記載の決定デバイス。
【請求項16】
前記眼組織は、各切断面が少なくとも1つの基本エリア(62)を含む、複数の切断面内で延びる基本エリアのセットを含み、前記データ処理ユニットは、各切断面に対し、前記眼組織(60)の基本エリア(62)のセットにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値の3次元マップを決定するために、工程a)からe)を繰り返すようにさらに適合されている、請求項15に記載の決定デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェムト秒レーザを用いて行われる手術操作の技術分野、より詳細には、特に角膜または水晶体切断用途のための眼科手術の分野に関する。
【0002】
本発明は、フェムト秒レーザを用いることによって、角膜または水晶体などの、ヒトまたは動物の組織を切断するためのデバイスに関する。
【0003】
フェムト秒レーザとは、パルス幅が1フェムト秒~100ピコ秒、好ましくは1~1,000フェムト秒、特に約100フェムト秒である、超短パルスの形態でレーザビームを放出することができる光源を意味する。
【背景技術】
【0004】
フェムト秒レーザは、一般的に、角膜または水晶体を切断するために手術において使用され、超短かつ高出力のパルスを伝達する。
【0005】
水晶体を手術する間、フェムト秒レーザを使用して、水晶体においてレーザビームを焦点調整する(集束させる)ことによって、角膜組織の切断を行うことができる。より具体的には、各パルスを用いて、フェムト秒レーザは、ビームを生成する。このビームは、水晶体内に配置される(いわゆる「焦点調整」点で)焦点調整される。気泡は焦点調整点で形成され、周囲の組織の非常に局所的な破壊をもたらす。
【0006】
ビームのエネルギーの一部は、気泡の生成の間に消費される。ビームのエネルギーの残りは、網膜まで伝播し、網膜の局所的な加熱をもたらし、損傷を生成し得る。
【0007】
したがって、網膜の局所的な加熱を制限するために、ビームのエネルギーは、気泡の形成に必要な最小のエネルギーを超えないことが好ましい。
【0008】
手術前のデータのみを使用することによって気泡の形成に必要な最小のエネルギーを決定することは非常に困難である。実際、水晶体における気泡の形成に必要なエネルギーの量は、以下のような多数の要因に依存する:
- 水晶体、特に、透過性が不均一に低下した(水晶体は、一部の場所で多少不透明であり得る)白内障の水晶体の不均一性、
- 伝播の間のレーザビームの散乱、
- 光学素子の欠陥によるレーザビームの質における不均一性。
【0009】
フェムト秒レーザを用いることによって白内障のヒトの水晶体などの眼組織を切断することをねらいとする現在の方法は、最適な結果を得るのに必要なエネルギーを決定するために経験的な手段を実行する。したがって、使用されるエネルギーは、切断される組織の全ての点で適しているわけではなく、また使用されるエネルギーは、高すぎるか、または十分に高くなく、それぞれ、大きすぎる気泡の形成、または効率の欠如をもたらすことが一般的である。大きすぎる気泡の形成は、主要な外科合併症である水晶体嚢の破壊をもたらし、あるいは、形成され得る泡カーテンのせいでレーザの効率が低下することによる、切断の完了の効率の欠如をもたらし得る。エネルギーが十分に高くないときの効率の欠如により、外科医は、白内障の水晶体の分断を完了させるために、より長い超音波の使用を強いられる。
【0010】
したがって、切断される組織の各点で、最適なレベルの安全性で効果的な治療を得ることを可能にする、最適なエネルギーレベルを決定する、非経験的な方法を開発することが必要である。
【0011】
したがって、本発明の一つの目的は、眼組織の1つ(またはそれ以上)の基本エリアにおいて気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための方法および関連するデバイスを提案することである。
【発明の概要】
【0012】
この目的のために、本発明は、フェムト秒レーザ源を含む切断装置を使用することによって、眼組織の切断面内で延びる少なくとも1つの基本エリアにおいて気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための方法であって、当該方法が、以下の工程:
a)データ処理ユニットによって、眼組織の参照画像を受信する工程であって、当該参照画像は、各基本エリアの少なくとも1つのサンプリング点で焦点調整されることが可能な複数のレーザビームの放出の前に、撮像システムによって取得されており、各レーザビームは、複数のレーザビームのうちの他のレーザビームと異なるそれぞれのエネルギーを有する、工程と、
b)データ処理ユニットによって、眼組織の少なくとも1つの現在の画像を受信する工程であって、各現在の画像は、撮像システムによって、複数のレーザビームのうちの少なくとも1つのレーザビームの放出の後に取得されている、工程と、
次いで、各基本エリアに対し、データ処理ユニットによって以下の工程:
c)参照画像を各現在の画像と比較することによって、基本エリアにおいて形成される少なくとも1つの気泡を検出する工程であって、各気泡は各レーザビームに関連する、工程と、
d)少なくとも1つの検出された気泡に基づいて、基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値を決定する工程を実施する工程と
を含むことを特徴とする方法を提案する。
【0013】
本発明の方法の好ましいが非限定的な態様は、以下のとおりである:
- 参照画像および現在の画像は、OCT画像であり得、
検出工程は、各現在の画像に対し、下記サブ工程:
・ 各サンプリング点において、現在の画像のピクセルと、参照画像のピクセルとの間の、撮像システムによって受信される後方散乱光の強度変動を計算する工程、
・ 計算された強度変動を閾値と比較し、計算された強度変動が閾値よりも大きい場合に、気泡の形成を確認する工程を含む;
- 各基本エリアに対し、各レーザビームは、当該基本エリアの単一のサンプリング点で焦点調整されることが可能であり得、受信工程b)は、眼組織の複数の現在の画像を受信することで構成され、各現在の画像は、撮像システムによって、各基本エリアにおける各レーザビームの放出の後に取得されている;
- 決定工程は、各基本エリアに対し、以下のサブ工程:
・ 単一の気泡が検出された場合、
・ 検出された気泡の形成を引き起こしたレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程、
・ いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された現在の画像のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連する現在の画像を選択する工程、および
・ 選択された現在の画像に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程を含み得る;
- 各基本エリアに対して、各レーザビームは、当該基本エリアの各サンプリング点で焦点調整されることが可能であり得、受信工程b)は、眼組織の現在の画像を受信することで構成され、現在の画像は、撮像システムによって、各基本エリアの各サンプリング点での複数のレーザビームの放出の後に取得されている;
- 決定工程は、各基本エリアに対し、以下のサブ工程:
・ 単一の気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程、
・ いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された各サンプリング点のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連するサンプリング点を選択する工程、および
・ 選択されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とする工程を含み得る;
- 本発明の方法はまた、以下の工程:
e)データ処理ユニットによって、各基本エリアに対して決定された最小値を記憶ユニットに記録する工程を含み得る;
- 眼組織は、各切断面が少なくとも1つの基本エリアを含む、複数の切断面内で延びる基本エリアのセットを含み得、当該方法は、各切断面に対し、眼組織の基本エリアのセットにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値の3次元マップを決定するために、工程a)からe)の繰り返しを含む。
【0014】
本発明はまた、フェムト秒レーザ源を含む切断装置を使用することによって、眼組織の切断面内で延びる少なくとも1つの基本エリアにおいて気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの最小値を決定するためのデバイスであって、当該決定デバイスは、画像を取得するための撮像システムを含み、当該決定デバイスは、
a)眼組織の参照画像を受信するための手段であって、当該参照画像は、各基本エリアの少なくとも1つのサンプリング点で焦点調整されることが可能な複数のレーザビームの放出の前に、撮像システムによって取得されており、各レーザビームは、複数のレーザビームのうちの他のレーザビームと異なるそれぞれのエネルギーを有する、手段と、
b)眼組織の少なくとも1つの現在の画像を受信するための手段であって、各現在の画像は、撮像システムによって、複数のレーザビームのうちの少なくとも1つのレーザビームの放出の後に取得されている、手段と、
さらに、各基本エリアに対し、
c)参照画像を各現在の画像と比較することによって、基本エリアにおいて形成される少なくとも1つの気泡を検出するための手段であって、各気泡は各レーザビームに関連する、手段と、
d)少なくとも1つの気泡に基づいて、基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値を決定するための手段と
を含む、データ処理ユニットをさらに含むことを特徴とするデバイスに関する。
【0015】
本発明のデバイスの好ましいが非限定的な態様は、以下のとおりである:
- 参照画像および現在の画像は、OCT画像であり得、
データ処理ユニットは、各現在の画像に対し、
・ 各サンプリング点において、現在の画像のピクセルと、参照画像のピクセルとの間の、撮像システムによって受信される後方散乱光の強度変動を計算すること、
・ 計算された強度変動を閾値と比較し、計算された強度変動が閾値よりも大きい場合に、気泡の形成を確認すること
によって、少なくとも1つの気泡を検出するための手段を含む;
- 各基本エリアに対し、各レーザビームは、当該基本エリアの単一のサンプリング点で焦点調整されることが可能であり得、データ処理ユニットは、眼組織の複数の現在の画像を受信するための手段を含み、各現在の画像は、撮像システムによって、各基本エリアにおける各レーザビームの放出の後に取得されている;
- データ処理ユニットは、各基本エリアに対し、
・ 単一の気泡が検出された場合、
・ 検出された気泡の形成を引き起こしたレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることによって、
・ いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された現在の画像のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連する現在の画像を選択し、そして
・ 選択された現在の画像に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることによって、
最小値を決定するための手段を含み得る;
- 各基本エリアに対し、各レーザビームは、当該基本エリアの各サンプリング点で焦点調整されることが可能であり得、処理ユニットは、眼組織の現在の画像を受信するための手段を含み、上記現在の画像は、撮像システムによって、各基本エリアの各サンプリング点での複数のレーザビームの放出の後に取得されている;
- データ処理ユニットは、各基本エリアに対し、
・ 単一の気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることによって、
・ いくつかの気泡が検出された場合、
・ 気泡が検出された各サンプリング点のうち、最も低いエネルギーのレーザビームに関連するサンプリング点を選択し、そして
・ 選択されたサンプリング点に関連するレーザビームのエネルギーの倍数k(kは、1~2の間の10進数である)を最小値とすることによって、
最小値を決定するための手段を含み得る;
- 処理ユニットはまた、
e)各基本エリアに対して決定された最小値を記憶ユニットに記録するための手段を含み得る;
- 眼組織は、各切断面が少なくとも1つの基本エリアを含む、複数の切断面内で延びる基本エリアのセットを含み得、処理ユニットは、各切断面に対し、眼組織の基本エリアのセットにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値の3次元マップを決定するために、工程a)からe)を繰り返すための手段をさらに含む。
【0016】
本発明はまた、フェムト秒レーザ源を含む切断装置を使用することによって、眼組織の少なくとも1つの基本エリアにおいて気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための方法であって、当該方法は、以下の工程:
a)データ処理ユニットによって、眼組織の参照画像を受信する工程であって、当該参照画像は、各基本エリアの各サンプリング点で焦点調整されることが可能なレーザビームの放出の前に、撮像システムによって取得されている、工程と、
b)データ処理ユニットによって、眼組織の少なくとも1つの現在の画像を受信する工程であって、上記現在の画像は、撮像システムによって、レーザビームの放出の後に取得されている、工程と、
c)データ処理ユニットによって、現在の画像および参照画像を比較することによって、各基本エリアのサンプリング点で形成される少なくとも1つの気泡をサーチする工程と、
d)泡が検出される各基本エリアに関連する最小値をレーザビームのエネルギーとする工程と、
e)泡が検出されていない各基本エリアに対し、レーザビームのエネルギーを増加させ、工程b)からe)を繰り返す工程と
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0017】
本発明の方法の好ましいが非限定的な態様は、以下のとおりである:
- 参照画像および現在の画像は、OCT画像であり得、
上記サーチ工程は、下記で構成されるサブ工程:
・ サンプリング点において、現在の画像のピクセルと、参照画像のピクセルとの間の、撮像システムによって受信される反射光の強度変動を計算する工程、
・ 計算された強度変動を閾値と比較し、計算された強度変動が閾値よりも大きい場合に、サンプリング点における気泡の形成を確認する工程
を含む;
- 本発明の方法は、以下の工程:
f)データ処理ユニットによって、各基本エリアに関連する最小値を記憶ユニットに記録する工程をさらに含み得る;
- 眼組織は、各切断面が少なくとも1つの基本エリアを含む、複数の切断面内で延びる基本エリアのセットを含み得、本発明の方法は、各切断面に対し、眼組織の基本エリアのセットにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値の3次元マップを決定するために、工程a)からf)の繰り返しを含む。
【0018】
本発明はまた、フェムト秒レーザ源を含む切断装置を使用することによって、眼組織の少なくとも1つの基本エリアにおいて気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの最小値を決定するためのデバイスであって、当該決定デバイスは、画像を取得するための撮像システムを含み、当該決定デバイスは、さらに
a)眼組織の参照画像を受信するように適合され、上記参照画像は、各基本エリアの各サンプリング点で焦点調整されることが可能なレーザビームの放出の前に、撮像システムによって取得されており、
b)眼組織の少なくとも1つの現在の画像を受信するように適合され、上記現在の画像は、撮像システムによって、レーザビームの放出の後に取得されており、
c)現在の画像および参照画像を比較することによって、各基本エリアのサンプリング点で形成される少なくとも1つの気泡をサーチするように適合され、
d)泡が検出される各基本エリアに関連する最小値をレーザビームのエネルギーとするように適合され、
e)泡が検出されていない各基本エリアに対し、レーザビームのエネルギーを増加させ、工程b)からe)を繰り返すように適合された、
データ処理ユニットを含むことを特徴とするデバイスに関する。
【0019】
本発明のデバイスの好ましいが非限定的な態様は、以下のとおりである:
- 参照画像および現在の画像は、OCT画像であり得、
データ処理ユニットは、
・ サンプリング点において、現在の画像のピクセルと、参照画像のピクセルとの間の、撮像システムによって受信される反射光の強度変動を計算し、
・ 計算された強度変動を閾値と比較し、計算された強度変動が閾値よりも大きい場合に、サンプリング点における気泡の形成を確認すること
によって、少なくとも1つの気泡をサーチするように適合されている;
- データ処理ユニットは、
f)基本エリアに対して決定される最小値を記憶ユニットに記録するようにさらに適合され得る;
- 眼組織は、各切断面が少なくとも1つの基本エリアを含む、複数の切断面内で延びる基本エリアのセットを含み得、データ処理ユニットは、各切断面に対し、眼組織の基本エリアのセットにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値の3次元マップを決定するために、工程a)からf)を繰り返すようにさらに適合されている。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、表示を介して限定されることなく、以下の説明から明確に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】フェムト秒レーザを使用して眼組織を切断するための装置の一例の概略図である。
【
図2】眼組織における気泡の形成に必要なレーザエネルギーの最小値を決定するためのデバイスの概略図である。
【
図3】眼組織における気泡の形成に必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための方法の第1の改変例の概略図である。
【
図4】眼組織における気泡の形成に必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための方法の第2の改変例の概略図である。
【
図5】眼組織における気泡の形成に必要なレーザエネルギーの最小値を決定するための方法の第3の改変例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、フェムト秒レーザを含む切断装置を用いることによって、ヒトまたは動物の眼組織60の1つ(またはそれ以上)の基本エリア内に気泡を形成するために必要なレーザエネルギーの1つ(またはそれ以上)の最小値を決定するための方法およびデバイスに関する。
【0023】
本明細書の残りの部分で、本発明を、水晶体の切断を例に挙げて説明し、本発明が、他の眼組織の1つ(またはそれ以上)の基本エリア内の気泡の形成に必要なエネルギーの1つ(またはそれ以上)の最小値の決定に適用され得ることが理解される。
【0024】
1.
切断装置
図1は、本発明の切断装置の一実施形態を示す。切断装置は、
- フェムト秒レーザ10と、
- レーザ10の下流のスイーピング光学スキャナ30と、
- スイーピング光学スキャナ30の下流の光学焦点調整システム40と、
- スイーピング光学スキャナ30および光学焦点調整システム40を駆動するための制御システム50とを備える。
【0025】
フェムト秒レーザ10は、パルスの形態でレーザビームを放出することができる。例えば、レーザ10は、400フェムト秒のパルスの形態で、1030nm波長の光を放出する。レーザ10は、20Wの出力および500kHzの周波数を有する。
【0026】
スイーピング光学スキャナ30は、レーザ10由来のビームを配向し、当該ビームを焦点面61における使用者によって設定される移動経路に沿って移動させることを可能にする。
【0027】
光学焦点調整システム40は、切断面に対応する焦点面61においてビームを焦点調整することを可能にする。
【0028】
切断装置はまた、フェムト秒レーザ10とスイーピング光学スキャナ30との間に、液晶空間光変調器(SLM)などの成形システム20を含み得る。この成形システム20は、フェムト秒レーザ10由来のビームの経路上に配置されている。成形システム20は、ビームの焦点面内の複数の衝突点でビームエネルギーを分配するために、フェムト秒レーザ10由来のビームの位相を変調することを可能にする。複数の衝突点は、パターンを規定する。より具体的には、成形システムは、1つの衝突点を生成する正規分布のレーザビームから、位相マスクを用いることによって、位相変調によって成形される単一のレーザビーム(SLMの上流および下流における単一のビーム)からのその焦点面内のいくつかの衝突点を同時に生成するように、位相変調によってそのエネルギーを分配することを可能にする。単一の変調されたレーザビームからの複数の衝突点の生成は、(眼組織の切断時間の低減に加えて、)行われた切断の質を向上させることを可能にする。特に、成形システムは、均一な切断面を得ることを可能にし、ここで、残留組織のブリッジは全て実質的に同じ大きさを有する(実際に、変調されたレーザビームの一部がマスクされたとしても、切断面内の衝突点の数は、同じままである)。切断の質の向上は、施術者によって後に行われる切開操作を容易にする。
【0029】
制御システム50は、スイーピング光学スキャナ30、可能性のある成形システム20および光学焦点調整システム40を駆動することを可能にする。制御システム50は、1つ(またはそれ以上)のワークステーションおよび/または1つ(またはそれ以上)のコンピュータで構成され得るか、または当業者に知られている任意の他のタイプであり得る。制御システム50は、例えば、携帯電話、(IPAD(登録商標)などの)電子タブレット、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)などを備え得る。全ての場合において、制御システム50は、フェムト秒レーザ10、スイーピング光学スキャナ30、光学焦点調整システム40、成形システム20などの駆動を可能にするようにプログラムされたプロセッサを備える。
【0030】
2.
決定デバイス
図2を参照すると、決定デバイス70は、
- OCT(光干渉断層撮影)タイプ、シャインプルーフ(可視光マッピング)タイプ、またはUBM(超音波生体顕微鏡)タイプの画像を取得するための撮像システム80と、
- 取得システム80によって取得される画像を処理し、眼組織60の複数の基本エリア62における気泡の形成に必要なレーザエネルギーの最小値の(2次元または3次元)マップを決定するための、例えば、プロセッサおよび記憶ユニットを含む、処理ユニット90とを備える。
【0031】
決定デバイス70は、切断装置と一体化され得る。
【0032】
特に、好ましい実施形態において、
- 処理ユニット90は、制御システム50の一部であり、
- 取得システム80、成形システム20、スイーピング光学スキャナ30および光学焦点調整システム40は、ロボットアームの端部に固定されたコンパートメントにおいて取り付けられており、そして、フェムト秒レーザ10は、ロボットアームが固定されたボックス内に一体化され得る。
【0033】
あるいは、決定デバイス70は、切断装置から遠隔であり、決定デバイス70と切断装置との間の情報を交換するための有線または無線通信手段(表示せず)を備えていてもよい。
【0034】
全ての場合において、決定デバイス70は、以下に記載される決定方法を実施するようにプログラムされている。
【0035】
3.決定方法
3.1.方法に関する一般的な情報
決定方法は、以下の工程を含む:
- 治療される眼組織の参照画像を取得する工程、
- 少なくとも2つの異なるエネルギーを有するレーザビームを少なくとも1つの基本エリアにおいて放出する工程、
- 眼組織の少なくとも1つの現在の画像を取得する工程、
- 現在の画像を参照画像と比較して、レーザビームのうちの1つに関連する少なくとも1つの気泡を検出する工程、
- 基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値を決定する工程。
【0036】
各基本エリア62は、(例えば、50または100μmの)線、(50×50μmまたは100×100μmまたは1,000×1,000μmの)面、または(50×50×50μmまたは100×100×100μmまたは1,000×1,000×1,000μmの)基本体積で構成され得、基本エリアの組み合わせにより、切断される全体の線、全体の面、または全体の体積を規定することが可能とされる。
【0037】
3.1.1.取得された画像
参照画像および撮像システムによって取得される現在の画像は、OCTタイプ、シャインプルーフタイプ、またはUBMタイプであり得る。
【0038】
OCT画像の取得に関連する利点の1つは、OCTタイプ撮像システム80が、高品質画像を得ることを可能にする高感度(≒100dB)を有することである。さらに、切断装置は、OCTタイプ撮像システムを一体化し、その結果、追加の撮像システムは必要とされない。最後に、OCTタイプ参照画像はまた、治療される眼組織60との切断装置の位置合わせを確認するために使用され得る。
【0039】
OCT画像を取得するために、光ビーム81が、眼組織60に向けられ、眼組織60から(異なる層によって)後方散乱するごく一部の光82が、撮像システム80の1つ(またはそれ以上)のセンサ上で参照信号と再結合する。センサによって記録される信号は、眼組織60によって後方散乱する信号と、参照信号との間の光路差に従って変調される。記録された信号は、1次元画像または2次元画像であり得るOCT画像を構築するために使用される。
【0040】
より具体的には、OCTタイプ撮像システム80は、
- (「Aスキャン」とも呼ばれる)「モードA」、または
- (「Bスキャン」とも呼ばれる)「モードB」において使用され得る。
【0041】
「モードA」は、1次元OCT画像の取得を可能にする。それは、(撮像システムのエミッタによる)光情報81の放出、および(撮像システムのセンサによる)伝播ラインに沿った後方散乱光82と参照光との間の干渉の受信に基づいており、(センサによって記録される信号から)得られる1次元OCT画像は、(焦点面61内の座標X、Yの)考慮された点での眼組織60の軸方向の(すなわち、深さZにおける)後方散乱プロファイルを表す。
【0042】
「モードB」は、例えば、眼組織60の光軸Zに垂直なX方向に沿って、眼組織60の横方向のスキャンを実施することによる、2次元OCT画像の取得を可能にする。X方向に沿った眼組織60の異なる点に対して確立される複数の「モードA」後方散乱プロファイルが得られる。これらの得られた「モードA」後方散乱プロファイルの積み重ねによりは、2次元(XZ)でのOCT画像を構築することを可能にする。
【0043】
3.1.2.比較工程
比較工程は、可能性のある気泡の形成を検出することを可能にする。実際、眼組織60によって後方散乱する光の特性は、OCT画像のコントラストの源であり、形態的情報を明らかにする。気泡が眼組織60において形成されるとき、それは、眼組織60による光の後方散乱特性における変動をもたらす。
【0044】
比較工程は、現在の画像のピクセルと、参照画像のピクセルとの間の、撮像システム80によって受信される後方散乱光の強度における変動の検出に基づく。この強度変動が既定の閾値よりも大きい場合、それは、考慮されたレーザビームの衝突点での気泡の形成を表す。これは、レーザビームのエネルギーが基本エリア62において気泡を形成するのに十分であったことを意味する。
【0045】
水晶体の効率的な切断を確実にするため、決定される最小値は、検出された気泡の形成を可能にしたレーザビームのエネルギーの1~2の間の倍数(例えば、1.5×または2×)と等しくされ得る。また、エネルギーの最小値は、予期された切断効果を得るのに十分であること:
- 決定された最小値よりも高いエネルギーレベルを使用することは不要であり(不要な余分なエネルギーは、患者の安全性に影響を及ぼすおそれがある)、
- より低いエネルギーレベルは、効率の欠如をもたらし、この場合利用可能なエネルギーは、気泡の形成を得るのに不十分である、ことが保証される。
【0046】
本発明の方法の異なる実施形態が想定され得る。特に、第1および第3の実施形態において、異なるエネルギーを有するレーザビームいずれもが、各基本エリア内の単一のサンプリング点で放出される。第2の実施形態において、異なるエネルギーを有するレーザビームそれぞれが、基本エリアとは異なる点で放出され、したがって一連の隣接する点を形成する。
【0047】
これらの異なる実施形態およびそれらの関連する利点は、以下に説明される。
【0048】
3.2.本発明の方法の第1の実施形態
第1の実施形態において、(複数の)レーザビームが、眼組織60の各基本エリア62に対する単一のサンプリング点で放出される。
【0049】
考慮される基本エリア62に対し、異なる、特に増加するエネルギーのレーザビームが、サンプリング点で連続的に放出される。
【0050】
現在の画像は、(1つの)レーザビームの各放出の後に取得される。有利には、組織が同一面内で延びるいくつかの基本エリアを含むとき、現在の画像は、各基本エリアのそれぞれのサンプリング点におけるレーザビームの各放出の後に取得され得る。これは、取得される現在の画像の数を限定することを可能にし、したがって、現在の画像の取得に必要な時間を限定することによって、本発明の方法の速度を増加させる。
【0051】
現在の画像それぞれの取得の後に、気泡が形成されたかどうかを検出するために参照画像と比較される。
【0052】
泡が形成された場合、レーザビームのエネルギーは、気泡を形成するのに十分であり:このエネルギーの十分な値は、記憶ユニットで記録され、そして新しい基本エリア62が調べられ、この新しい基本エリア62における気泡の形成に必要なエネルギーの最小値が決定される。
【0053】
より具体的には、この第1の実施形態によれば、考慮された基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値を決定するまで、例えば、
- 第1のエネルギーを有する第1のレーザビームが、考慮された基本エリア62のサンプリング点で焦点調整されるように放出され、第1の現在の画像が取得され、参照画像と比較され、可能性のある気泡の形成を検出し、気泡が形成された場合、第1のエネルギーは、気泡を形成するのに十分であり、この第1のエネルギーは、考慮された基本エリア62における気泡の形成に必要なエネルギーの最小値に対応し、次いで、新しい基本エリアが調べられ、
- 他の場合、第1のエネルギーよりも大きい第2のエネルギーを有する第2のレーザビームが、サンプリング点で放出され、第2の現在の画像が取得され、可能性のある気泡の形成を検出し、気泡が形成された場合、第2のエネルギーは、考慮された基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値に対応し、次いで、新しい基本エリア62が調べられ、
- 他の場合、第2のエネルギーよりも大きい第3のエネルギーを有する第3のレーザビームが放出され、第3の現在の画像が取得され、可能性のある気泡の形成を検出し、気泡が形成された場合、第3のエネルギーは、考慮された基本エリア62における気泡の形成に必要なエネルギーの最小値に対応し、次いで、新しい基本エリア62が調べられる。
【0054】
変形例として、単一の現在の画像が、同一面内で延びるいくつかの基本エリアのそれぞれのサンプリング点でのレーザビームの放出の後に取得されるとき、同一面内で延びる全ての基本エリアにおける最小値を決定するまで、例えば、
- 第1のレーザビームが、同一面内で延びる各基本エリアのサンプリング点で焦点調整されるように放出され、第1の現在の画像が取得され、参照画像と比較され、基本エリアのうちの1つ(またはそれ以上)において可能性のある気泡の形成を検出し、これらのエリアのうちの1つ(またはそれ以上)において気泡が形成された場合、この(またはこれらの)エリアに対するエネルギーの最小値が決定され、
- いくつかのエリアが気泡を含まない場合、より高いエネルギーを有する第2のレーザビームが、これらのいくつかのエリアのサンプリング点で放出され、第2の現在の画像が取得され、可能性のある気泡の形成を検出する。
【0055】
したがって、
図3に示されるように、本発明の方法は、各基本エリア62に対し、下記を含む:
a)参照画像の取得100、
b)(組織において気泡を生成するのに先験的に十分であると想定される)最小エネルギーE
minと、最大エネルギーE
max(E
minの倍数(例えば、E
max=10×E
min))との間に含まれるエネルギーを有するレーザビームの、各基本エリアのサンプリング点における放出110、
c)眼組織の現在の画像の取得120(この現在の画像は、各基本エリアのサンプリング点を含む)、
d)各基本エリアに対し、参照画像と現在の画像との間の後方散乱光の強度変動を決定する(例えば、現在の画像の強度から参照画像の強度を減算することで)ことによる、現在の画像における気泡のサーチ130、
e)各基本エリアにおける決定されたエネルギー変動の閾値との比較140、
f)各基本エリアに対する、決定されたエネルギー変動が閾値よりも大きい場合の、記憶ユニットにおける、レーザビームのエネルギーの値および基本エリアの位置の記録150、
g)レーザビームのエネルギーの増加160、および泡が検出されていない各基本エリアに対する工程b)からg)の繰り返し。
【0056】
基本エリア62のセットが処理されると、眼組織60の各基本エリア62における気泡の形成に必要なエネルギーの最小値のマッピング(特に、3次元マッピング)が得られる。
【0057】
この第1の実施形態の1つの利点は、気泡の形成に必要なエネルギーの最小値よりも大きいエネルギーのレーザビームの放出なしに、増加するエネルギーのレーザビームが、各基本エリア62に対する単一のサンプリング点で放出されることに関する。しかし、この第1の実施形態は、複数の現在の画像の取得により、時間がかかる。
【0058】
このため、発明者は、取得される現在の画像の数が、基本エリア62ごとに1つの画像、さらには基本エリア62のセットに対して1つの画像に限定される、本発明の方法の第2の実施形態を提案している。
【0059】
3.3.本発明の方法の第2の実施形態
第2の実施形態において、(複数の)レーザビームは、眼組織60の各基本エリア62に対する複数のサンプリング点、例えば、560μmのライン上に80μm単位で等間隔に離れた8つの点で放出される。より具体的には、各基本エリア62に対し、増加するエネルギーを有する各レーザビームが、各サンプリング点で(同時にまたは逐次的に)放出される。
【0060】
現在の画像は、異なるエネルギーを有する全てのレーザビームが上記基本エリア62において放出されると、各基本エリア62に対して取得される。
【0061】
現在の画像は、参照画像と比較され、1つ(またはそれ以上)の気泡が生成されたかどうかを検出する。いくつかの気泡が形成された場合、気泡を得ることが可能になった最も低いエネルギーが、気泡の形成に必要なエネルギーの最小値として選択される。
【0062】
より具体的には、この第2の実施形態によれば、第1、第2、第3の増加するエネルギー(すなわち、第1のエネルギー<第2のエネルギー<第3のエネルギー)を有する第1、第2、第3(・・・など)のレーザビームが、考慮された基本エリア62の3つそれぞれのサンプリング点で焦点調整されるように放出される。現在の画像が取得され、参照画像と比較され、可能性のある気泡の形成を検出し、
- 単一の気泡が、第3のレーザビームに関連するサンプリング点で形成された場合、第3のエネルギーが、気泡を形成するのに十分であり:この第3のエネルギーは、考慮された基本エリア62における気泡の形成に必要なエネルギーの最小値に対応し、次いで、新しい基本エリア62が調べられ、
- いくつかの気泡が、例えば、第2および第3のビームに対して形成された場合、(第3のエネルギーよりも低い)第2のエネルギーが、考慮された基本エリア62における気泡の形成に必要なエネルギーの最小値に対応し、次いで、新しい基本エリア62が調べられる。
【0063】
したがって、
図4に示されるように、本発明の方法は、各基本エリアに対し、下記を含む:
a)参照画像の取得200、
b)最小エネルギーE
minと最大エネルギーE
maxとの間に含まれる複数の異なるエネルギーを有するレーザビームの、複数のサンプリング点それぞれにおける放出210、
c)眼組織の現在の画像の取得220(この現在の画像は、複数のサンプリング点を含む)、
d)現在の画像の参照画像との比較による、1つ(またはそれ以上)の気泡の検出230、
e)(複数の)気泡のセットの中で最も低いエネルギーを有するレーザビームに関連する気泡の選択240、
f)選択された気泡に関連するレーザビームのエネルギーの値(および基本エリアの位置)の記憶ユニットにおける記録250、
g)全ての基本エリアが処理されていない場合の、新しい基本エリア62に対する工程b)からg)の繰り返し。
【0064】
いうまでもなく、この実施形態において、いくつかの基本エリアに対する単一の現在の画像を同時に取得することも可能である(これらの基本エリアが同一面に配置されている場合、Bスキャン)。この場合、処理工程(泡の検出、および各基本エリアに対するエネルギーの最小値の決定)は、時間を節約するために、単一の現在の画像に由来するこれらのいくつかの基本エリアに対して実施され得る。
【0065】
基本エリア62のセットが処理されると、眼組織の各基本エリアにおける気泡の形成に必要なエネルギーの最小値のマッピング(特に、3次元マッピング)が得られる。
【0066】
前述のように、この第2の実施形態の1つの利点は、調べられる基本エリアごとに1つの現在の画像の取得のみ、さらには同一面内で延びるいくつかの基本エリアに対する単一の現在の画像の取得のみを行うことが必要であることを考慮すると、各基本エリア62における気泡の形成に必要なエネルギーの最小値の決定が第1の実施形態の場合よりも速いことに関する。
【0067】
3.4.本発明の方法の第3の実施形態
本発明の方法の第3の実施形態は、第1および第2の実施形態の組み合わせと考えられ得る。
【0068】
より具体的には、第1の実施形態において、異なる、特に増加するエネルギーのレーザビームが、眼組織60の各基本エリア62に対する単一のサンプリング点で連続的に放出される。現在の画像は、同一面内で延びるいくつかの基本エリアのそれぞれのサンプリング点におけるレーザビームの各放出の後に取得される。
【0069】
例えば、エネルギーE1~E8を有する8つのレーザビームが、同一面内で延びる各基本エリアのそれぞれのサンプリング点で連続的に放出される。
【0070】
第1の現在の画像は、同一面内で延びる各基本エリアのそれぞれのサンプリング点でのエネルギービームE1の放出の後に取得される。同じ面内で延びる各基本エリアのそれぞれのサンプリング点でのエネルギービームE8の放出の後に第8の現在の画像を取得するまで、第2、第3等の現在の画像を、同じ面内で延びる各基本エリアのそれぞれのサンプリング点でのエネルギービームE2、E3等の放出の後に取得する。
【0071】
次いで、8つの現在の画像を、参照画像と比較し、各基本エリアにおける気泡の存在を検出する。いくつかの気泡が、いくつかの現在の画像から同じ基本エリアに対して検出された(例えば、気泡が、考慮されたエリアに対し、第6、第7、および第8の現在の画像から検出された)場合、気泡の生成を引き起こしたレーザビームのエネルギーの中で最も低いエネルギーを、気泡の形成に必要な最小値を決定するために使用する。
【0072】
したがって、
図5に示されるように、本発明の方法は、下記を含む:
a)参照画像の取得300、
b)最小エネルギーE
minと最大エネルギーE
maxとの間に含まれるエネルギーを有するレーザビームの、同一面内で延びる各基本エリアのそれぞれのサンプリング点での放出310、
c)眼組織の現在の画像の取得320(この現在の画像は、同一面内で延びる複数の基本エリアの複数のサンプリング点を含む)、
d)増加したエネルギーが最大エネルギーよりも低い場合の、レーザビームのエネルギーの所定の値での増加360、および工程b)からd)の繰り返し、または増加したエネルギーが最大エネルギーよりも大きい場合の、工程e)への切り替え、
e)現在の画像の参照画像との比較による、同一面内で延びる各基本エリアに対する、1つ(またはそれ以上)の気泡の検出330、
f)同一面内で延びる各基本エリアに対する、気泡のセットの中で最も低いエネルギーを有するレーザビームに関連する気泡の選択340、およびエネルギーの最小値の決定350、
g)同一面内で延びる各基本エリアに対する、決定されたエネルギーの値(および基本エリアの位置)の記憶ユニットにおける記録、
h)必要があれば、別の面内に延びる新しい基本エリア62に対する工程a)からg)の繰り返し370。
【0073】
この実施形態は、眼組織の異なる基本エリアに関連する最小値を決定するための方法で必要とされる時間を限定することを可能にする。実際、現在の画像の処理に関連する工程は、光学焦点調整システム40の駆動の間に実施され、ある切断面から別の切断面へ焦点面61を移動させ得る。
【0074】
さらに、気泡が既に形成されたとしても、各基本エリアのサンプリング点において放出されるレーザビームのエネルギーを増加させ続けることは、検出の間の「偽陽性」のリスクを限定することを可能にする(所与のエネルギーを有するレーザビームの放出の後に取得される現在の画像において気泡が検出され、一方、所与のエネルギーよりも大きいエネルギーを有するレーザビームの放出の後に取得される現在の画像に気泡がない場合、この検出された気泡は、偽陽性を構成する)。
【0075】
4.結論
したがって、本発明は、フェムト秒レーザ源を含む切断装置を用いることによって、眼組織の少なくとも1つの基本エリアにおいて気泡を形成するのに十分なレーザエネルギーの最小値の決定を可能にする。これは、切断デバイスを用いることによる眼組織の切断操作の実施中における網膜の局所的な加熱を低減するために、網膜まで伝播される可能性があるビームの過剰なエネルギーの量を限定することを可能にする。これはまた、反対に、送信されるエネルギーの量が、予期された効果を得るのに十分であることを確実にし、したがって、組織の部分的な切断をもたらす、組織を切断する際の効率の欠如に関連する問題を回避することを可能にする。
【0076】
多数の改変が、本明細書に記載される新規な教示および利点から物理的に逸脱することなく、上述の本発明に対し行われ得ることを読者は理解するであろう。
【0077】
その結果、このような全ての改変は、添付の特許請求の範囲の記載の範囲に組み込まれるように意図されている。