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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F02F 5/00 20060101AFI20230706BHJP
   F16J 9/20 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
F02F5/00 Q
F16J9/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022030032
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2022-11-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 優士
(72)【発明者】
【氏名】梅田 直喜
(72)【発明者】
【氏名】大平 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】彦根 顕
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-265020(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121483(WO,A1)
【文献】特開2003-113940(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095807(WO,A1)
【文献】実開昭49-123403(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F16J 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンに装着されるピストンリングであって、
該ピストンリングの外周に設けられた外周面と、該ピストンリングの内周に設けられた内周面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関において燃焼室側に面する上面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関においてクランク室側に位置する下面と、を有し、
前記外周面は、該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、該ピストンリングにおいて最大径となる外周端部を含む外周端面と、前記外周端面と前記下面との間に該ピストンリングの周長方向に延在する切欠部を形成するように前記外周端面と前記下面とを接続するカット面と、を有し、
前記カット面は、該カット面のうち該ピストンリングの径方向において最も内側に位置する底部と、前記外周端面と前記底部との間に設けられると共に前記クランク室側に面する第1面と、前記底部と前記下面との間に設けられると共に前記径方向の外側に面する第2面と、を含み、
前記第2面は、前記クランク室側に向かうに従って該ピストンリングの中心軸から離れるように傾斜しており、
該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記下面に対する前記第2面の傾斜角度は、50°以上85°以下であり、
該ピストンリングの軸方向幅をh1とし、前記カット面と前記外周端面との接続部と、前記カット面と前記下面との接続部と、の軸方向における距離をHとしたとき、H/h1が0.2以上0.4以下であり、
前記カット面と前記下面との接続部は、前記カット面と前記外周端面との接続部よりも径方向内側に位置し、
前記カット面は、前記第2面に沿って流動するオイルを該ピストンリングの外周側へ逃がすように構成されている、
ピストンリング。
【請求項2】
前記カット面と前記外周端面との接続部と、前記カット面と前記下面との接続部と、の前記ピストンリングの径方向における距離をDとしたとき、0.2mm≦D≦0.6mmである、
請求項1に記載のピストンリング。
【請求項3】
前記第1面は、該ピストンリングの径方向内側に向かうに従って前記クランク室から離れるように傾斜しており、
該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記下面に対する前記第1面の傾斜角度は、30°以下である、
請求項1又は2に記載のピストンリング。
【請求項4】
前記カット面は、前記底部を含むと共に前記第1面と前記第2面とを接続する第3面を含み、
前記第3面は、凹状に湾曲しており、
前記第3面の曲率半径は、0.05mm以上0.2mm以下である、
請求項1から3の何れか一項に記載のピストンリング。
【請求項5】
前記カット面は、前記第2面と前記下面とを接続する下側R面を更に含み、
前記下側R面の曲率半径は、0.01mm以上0.2mm以下である、
請求項1から4の何れか一項に記載のピストンリング。
【請求項6】
複数のコンプレッションリングがピストンに装着される内燃機関において、前記複数のコンプレッションリングのうち燃焼室側から2番目の位置に装着されるセカンドリングとして形成されている、
請求項1から5の何れか一項に記載のピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車に搭載される内燃機関は、トップリング及びセカンドリングを含む2本のコンプレッションリング(圧力リング)と1本のオイルリングとを組み合わせた3本のピストンリングを、シリンダに装着されたピストンに設けた構成を採用している。これら3本のピストンリングは、上側(燃焼室側)から順にトップリング、セカンドリング、オイルリングがピストンの外周面に形成されたリング溝に装着され、シリンダ内壁面を摺動する。燃焼室から最も遠いオイルリングは、シリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイル(潤滑油)をクランク側に掻き落とすことでオイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)を抑制するオイルシール機能や、潤滑油膜がシリンダ内壁面に適切に保持されるようにオイル量を調整することで内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止する機能を有する。コンプレッションリングは、気密を保持することで燃焼室側からクランク室側への燃焼ガスの流出(ブローバイ)を抑制するガスシール機能や、オイルリングが掻き落とし切れなかった余分なオイルを掻き落とすことでオイル上がりを抑制するオイルシール機能を有する。このようなピストンリングの組み合わせにより、内燃機関におけるブローバイガスの低減とオイル消費の低減が図られている。また、セカンドリングを、外周側の下部にステップ状の切欠(アンダーカット)が形成されたスクレーパリングとすることで、オイル掻き性能を向上させることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-113940号公報
【文献】特開2020-193666号公報
【文献】国際公開第2016/121483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアンダーカットを有するピストンリングが組み付けられた内燃機関では、ピストンの下降行程において、シリンダ内壁のオイルの一部が、アンダーカットの表面を流動することでピストンに形成されたリング溝の面取り部分に当たり、ピストンリングの下面とリング溝の下壁面との間に流れ込む場合がある。そのようなオイルが燃焼室側に流出することで、オイル消費量が増大する虞がある。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、アンダーカット形状のピストンリングにおいて、内燃機関のオイル消費量を低減することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用した。即ち、本発明は、内燃機関のピストンに装着されるピストンリングであって、該ピストンリングの外周に設けられた外周面と、該ピストンリングの内周に設けられた内周面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関において燃焼室側に面する上面と、該ピストンリングの軸方向端面のうち前記内燃機関においてクランク室側に位置する下面と、を有し、前記外周面は、該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、該ピストンリングにおいて最大径となる外周端部を含む外周端面と、前記外周端面と前記下面との間に該ピストンリング
の周長方向に延在する切欠部を形成するように前記外周端面と前記下面とを接続するカット面と、を有し、前記カット面は、該カット面のうち該ピストンリングの径方向において最も内側に位置する底部と、前記外周端面と前記底部との間に設けられると共に前記クランク室側に面する第1面と、前記底部と前記下面との間に設けられると共に前記径方向の外側に面する第2面と、を含み、前記第2面は、前記クランク室側に向かうに従って該ピストンリングの中心軸から離れるように傾斜しており、該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記下面に対する前記第2面の傾斜角度は、50°以上85°以下であり、該ピストンリングの軸方向幅をh1とし、前記カット面と前記外周端面との接続部と、前記カット面と前記下面との接続部と、の軸方向における距離をHとしたとき、H/h1が0.2以上0.4以下である、ピストンリングである。
【0007】
本発明に係るピストンリングによると、ピストンリングによって掻き落とされたオイルの一部が第2面の傾斜に沿って流動することで、当該一部のオイルをピストンリングの外周側へ逃がしてクランク室側に落とし易くなる。これにより、ピストンリングの下面とリング溝の下壁面との間にオイルが流れ込むことが抑制される。
【0008】
また、本発明において、前記カット面と前記外周端面との接続部と、前記カット面と前記下面との接続部と、の前記ピストンリングの径方向における距離をDとしたとき、0.2mm≦D≦0.6mmであってもよい。
【0009】
また、本発明において、前記第1面は、該ピストンリングの径方向内側に向かうに従って前記クランク室から離れるように傾斜しており、該ピストンリングの周長方向に直交する断面において、前記下面に対する前記第1面の傾斜角度は、30°以下であってもよい。
【0010】
また、本発明において、前記カット面は、前記底部を含むと共に前記第1面と前記第2面とを接続する第3面を含み、前記第3面は、凹状に湾曲しており、前記第3面の曲率半径は、0.05mm以上0.2mm以下であってもよい。
【0011】
また、本発明において、前記カット面は、前記第2面と前記下面とを接続する下側R面を更に含み、前記下側R面の曲率半径は、0.01mm以上0.2mm以下であってもよい。
【0012】
また、本発明において、複数のコンプレッションリングがピストンに装着される内燃機関において、前記複数のコンプレッションリングのうち燃焼室側から2番目の位置に装着されるセカンドリングとして形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アンダーカット形状のピストンリングにおいて、内燃機関のオイル消費量をより低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るセカンドリングを備える内燃機関の一部を示す断面図である
図2】実施形態に係るセカンドリングの外周面を説明するための断面図である。
図3】実施形態に係る内燃機関においてピストンが下降行程のときのセカンドリング付近の断面図である。
図4】比較例1に係る内燃機関においてピストンが下降行程のときのセカンドリング付近の断面図である。
図5】実施形態の変形例に係るセカンドリングの外周面を説明するための断面図である。
図6】比較例2に係るセカンドリングの断面図である。
図7】比較例3に係るセカンドリングの断面図である。
図8】オイル流出量の解析結果を示すグラフである。
図9】θ1とオイル流出量との関係を示すグラフである。
図10】H/h1とオイル流出量との関係を示すグラフである。
図11】Dとオイル流出量との関係を示すグラフである。
図12】オイルの流動分布の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明をピストンリングの一例としてのセカンドリングに適用したものである。このセカンドリングは、複数のコンプレッションリングがピストンに装着される内燃機関において、当該複数のコンプレッションリングのうち燃焼室側から2番目の位置に装着されるコンプレッションリングである。但し、本発明に係るピストンリングは、セカンドリングに限定されない。本発明は、燃焼室に最も近い位置に装着されるコンプレッションリングであるトップリングや、燃焼室から最も遠い位置に装着されるオイルリングに適用してもよい。また、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
なお、以下の説明において「周長方向」とは、特に指定しない限りはピストンリングの周長方向のことを指す。「径方向」とは、特に指定しない限りはピストンリングの半径方向のことを指す。「径方向内側」とは、ピストンリングの内周面側のことを指し、「径方向外側」とは、その反対側のことを指す。「軸方向」とは、特に指定しない限りはピストンリングの中心軸に沿う方向のことを指す。また、ピストンのリング溝の「上壁面」は、リング溝の内壁のうち、燃焼室側の内壁を指し、「下壁面」は、クランク室側の内壁を指す。
【0017】
[内燃機関]
図1は、実施形態に係るセカンドリング40を備える内燃機関100の一部を示す断面である。図1では、符号20で示すピストンの中心軸に沿う断面が図示されている。図1に示すように、実施形態1に係る内燃機関100は、シリンダ10と、シリンダ10に装着(挿入)されたピストン20と、ピストン20に装着された複数のピストンリング30,40,50と、を備える。実施形態に係る内燃機関100では、2本のコンプレッションリング(トップリング30とセカンドリング40)及び1本のオイルリング50がピストン20に装着されている。2本のコンプレッションリングのうち、トップリング30が燃焼室に最も近い位置に装着され、セカンドリング40が燃焼室側から2番目の位置に装着されている。オイルリング50は、燃焼室から最も遠い位置に装着されている。
【0018】
図1に示すように、内燃機関100では、ピストン20の外周面20aとシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離が確保されることにより、隙間PC1が形成されている。また、ピストン20の外周面20aには、ピストン20の軸方向に所定の間隔を空けて上側(燃焼室側)から順に第1リング溝201と第2リング溝202と第3リング溝203とが形成されている。リング溝201~203は、ピストン20の軸回りに環状に延びる溝として外周面20aの全周に形成されている。図1に示すように、各リング溝は、上下に対向配置された一対の溝壁(内壁)を含んで形成されている。一対の溝壁のうち、上側の溝壁を上壁面W1と称し、下側の溝壁を下壁面W2と称する。また、各リング溝における、上壁面W1の内周縁と下壁面W2の内周縁とを接続する溝壁を底壁面W3と称する。図1に示すように、第1リング溝201にトップリング30が装着され、第2リング溝202にセカンドリング40が装着され、第3リング溝203にオイルリング50が装着されている。また、ピストン20にリング溝201~203が形成されることで、
ピストン20には、燃焼室側から順に、トップランドL1、セカンドランドL2、サードランドL3が画定されている。なお、本明細書では、図1に示すように各ピストンリングがピストン20に装着され、且つ、ピストン20がシリンダ10に装着された状態を、「使用状態」と称する場合がある。
【0019】
トップリング30及びセカンドリング40は、ピストンリングの一種であるコンプレッションリングであり、内燃機関のシリンダに装着されたピストンに組み付けられ、ピストンの往復運動に伴ってシリンダの内壁面を摺動する。トップリング30及びセカンドリング40は、リング溝に装着された場合にシリンダ10の内壁面10aを押圧するように、自己張力を有している。オイルリング50は、ピストンリングの一種である所謂3ピース型のオイルリングであり、シリンダ10の内壁面10aを摺動する一対のセグメント501,501と、これらを径方向外側(内壁面10a側)に付勢するスペーサエキスパンダ502と、を備える。以下、本発明に係るピストンリングの一例であるセカンドリング40について、詳細に説明する。
【0020】
[セカンドリング]
図1に示すように、セカンドリング40は、外周面1と内周面2と上面3と下面4とを有する。外周面1は、セカンドリング40の外周に設けられた面である。内周面2は、セカンドリング40の内周に設けられた面である。上面3は、40の軸方向端面のうち内燃機関100において上側(燃焼室側)に面する端面である。下面4は、40の軸方向端面のうち内燃機関100(使用状態)において下側(クランク室側)に面する端面である。上面3と下面4とによって、セカンドリング40の軸方向における幅(以下、軸方向幅とも呼ぶ)が規定される。セカンドリング40は、使用状態において、上面3が第2リング溝202の上壁面W1に対向し、下面4が第2リング溝202の下壁面W2に対向し、外周面1がシリンダ10の内壁面10aに摺接し、内周面2が第2リング溝202の底壁面W3に対向する。セカンドリング40は、合口(図示なし)が形成された円環状を有している。また、セカンドリング40は、第2リング溝202に装着された場合に外周面1がシリンダ10の内壁面10aを押圧するように、自己張力を有している。また、図1に示すように、セカンドリング40は、その外周下部に符号5で示す切欠部(アンダーカット)が形成された、アンダーカット形状を有している。切欠部5は、セカンドリング40の周長方向に延在しており、セカンドリング40の全周に亘って形成されている。使用状態においては、切欠部5がオイル溜まりとなり、ピストン20の下降時においてセカンドリング40が隙間PC1内のオイルを掻き落とす際に、切欠部5にオイルがバッファされることで、油圧の上昇が抑制される。その結果、良好なオイル掻き性能が得られる。なお、切欠部5は、セカンドリング40の全周に亘って形成される必要はなく、例えば、合口部近傍においては切欠部5が形成されていなくともよい。つまり、切欠部5は、合口部を形成する合口端部を除いてセカンドリング40に形成されてもよい。これにより、ガスシール性能を高めることができる。
【0021】
図2は、実施形態に係るセカンドリング40の外周面1を説明するための断面図である。図2では、セカンドリング40の周長方向に直交する断面の一部が図示されている。図2に示すように、セカンドリング40の外周面1は、テーパ面11とカット面12と接続面13とを有する。
【0022】
図2に示すように、テーパ面11は、符号1aで示す外周端部1aを含み、内燃機関100においてシリンダ10の内壁面10aを摺動する面である。外周端部1aは、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において、セカンドリング40において最大径となる部位である。図2に示す外周端部1aは、縁として形成されているが、丸みを帯びた面として形成されてもよい。テーパ面11は、外周端部1aを下縁として、外周端部1aから上側(燃焼室側)に向かうに従ってセカンドリング40の中心軸に近づくように(つ
まり、縮径するように)傾斜している。これにより、実施形態に係るセカンドリング40の外周形状は、テーパアンダーカット形状となっている。テーパ面11は、本発明に係る「外周端面」に相当する。なお、本発明に係る外周端面は、軸方向の位置によらず外径が一様なストレート面であってもよい。その場合、ストレート面の全体が外周端部となる。また、本発明に係る外周端面は、径方向の外側に凸状となるように湾曲したバレル形状であってもよい。その場合、バレル形状の頂点が外周端部となり、該頂点から下方にアンダーカットが形成される。
【0023】
図2に示すように、接続面13は、テーパ面11の上縁と上面3の外周縁とを接続している。なお、本発明において、接続面13は必須の構成ではない。
【0024】
図2に示すように、カット面12は、テーパ面11と下面4との間に切欠部5を形成するように設けられており、テーパ面11と下面4とを接続している。カット面12は、底部B1と第1面121と第2面122と第3面123と下側R面124とを含んで構成されている。
【0025】
図2に示すように、底部B1は、カット面12のうちセカンドリング40の径方向において最も内側に位置する部位である。つまり、底部B1は、カット面12において最もセカンドリング40の中心軸に近い部位であり、切欠部5の最深部を構成する部位である。
【0026】
図2に示すように、第1面121は、テーパ面11と底部B1との間に設けられる面であり、下側(クランク室側)に面している(向いている)。このとき、本例に係る第1面121は、下面4と平行に設けられており、セカンドリング40の軸方向に直交している。第1面121が下面4と平行であるため、切欠部5(カット面12)の加工が容易である。また、第1面121の外周縁は、テーパ面11の下縁である外周端部1aに接続されている。但し、本発明はこれに限定されない。第1面121は、下面4に対して傾斜してもよい。また、第1面121とテーパ面11との間には別の面(例えばR面)が介在してもよい。
【0027】
図2に示すように、第2面122は、底部B1と下面4の間に設けられる面であり、セカンドリング40の径方向外側(シリンダ10の内壁面10a側)に面している(向いている)。第2面122は、下側(クランク室側)に向かうに従ってセカンドリング40の中心軸から離れるように傾斜している。ここで、図2に示すように、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において、第2面122と下面4とがなす角部の角度、つまり、下面4に対する第2面122の傾斜角度をθ1とする。実施形態に係るセカンドリング40では、θ1が鋭角となっている。より詳細には、50°≦θ1≦85°となるように、θ1が設定されている。
【0028】
図2に示すように、第3面123は、第1面121と第2面122とを接続する面である。第3面123には、底部B1が含まれている。第3面123は、凹状に湾曲している。実施形態に係る第3面123は円弧状に形成されたR面であり、その曲率半径R1は第3面123の全域において一定である。つまり、実施形態に係る第3面123は、曲率が変化しない単一の円弧により形成されている。実施形態に係るセカンドリング40では、0.05mm≦R1≦0.2となるように、R1が設定されている。但し、本発明はこれに限定されない。また、本発明において、第3面の形状は円弧状に限定されない。第3面は、例えば、曲率が部分的に変化するように形成されてもよい。
【0029】
図2に示すように、下側R面124は、第2面122の下縁と下面4の外周縁とを接続している。下側R面124は、所謂コーナーRであり、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において凸状となるように、円弧状に形成されている。図2に示すように、
下側R面124の曲率半径をr1とする。なお、本発明において、下側R面124は必須の構成ではない。
【0030】
ここで、図2に示すように、セカンドリング40の軸方向幅をh1とする。また、図2において、符号12aはカット面12とテーパ面11との接続部を示し、符号12bはカット面12と下面4との接続部を示す。実施形態に係るセカンドリング40では、接続部12aは外周端部1aと一致する。このとき、セカンドリング40の軸方向における接続部12aと接続部12bとの距離をHとし、セカンドリング40の径方向における接続部12aと接続部12bとの距離をDとする。実施形態に係るセカンドリング40では、0.2≦H/h1≦0.4となるように、h1及びHが設定されている。なお、h1の範囲は特に限定されないが、例えば、0.8mm≦h1≦2.5mm以下とするのが好ましい。
【0031】
[オイルシール性能]
以下、実施形態に係るセカンドリング40のオイル掻き落とし性能について説明する。図3は、実施形態に係る内燃機関100においてピストン20が下降行程のときのセカンドリング40付近の断面図である。図4は、比較例1に係る内燃機関200においてピストン20が下降行程のときのセカンドリング60付近の断面図である。図3及び図4では、ピストン20の中心軸に沿う断面が図示されている。図4に示す比較例1に係る内燃機関200は、実施形態に係るセカンドリング40に代えて、従来のテーパアンダーカット形状のセカンドリング60がピストン20の第2リング溝202に装着されている点で、実施形態に係る内燃機関100と相違する。ここで、図3及び図4の符号F1は、シリンダ10の内壁面10aに存在する一部のオイルのピストン20に対する相対的な流れを表している。また、符号C1は、第2リング溝202の下壁面W2とピストン20の外周面20aとの間に形成された面取り部分を示す。
【0032】
図4に示すように、比較例1に係る内燃機関200では、セカンドリング60によって掻き落とされたオイルの一部がアンダーカットの表面を流動する場合がある。その場合、当該一部のオイルは、隙間PC1に落とされずに第2リング溝202の面取り部分C1に当たり、セカンドリング60の下面4と第2リング溝202の下壁面W2との間に流れ込む可能性がある。そのため、比較例1では、セカンドリング60の下面4と第2リング溝202の下壁面W2との間に流れ込んだ一部のオイルが燃焼室側に流出することで、オイル消費量が増大する虞がある。
【0033】
これに対して、実施形態に係る内燃機関100では、セカンドリング40の外周面1が上述のように下面4に対して50°以上85°以下の角度で傾斜した第2面122を有している。そのため、図3に示すように、セカンドリング40によって掻き落とされるオイルの一部は、底部B1から第2面122の傾斜に沿って流動することでセカンドリング40の外周側へ逃がされる。その結果、当該一部のオイルは、サードランドL3の隙間PC1に落とされ、クランク室側に流れる。これにより、セカンドリング40の下面4と第2リング溝202の下壁面W2との間にオイルが流れ込むことが抑制される。
【0034】
[作用・効果]
以上のように、実施形態に係るセカンドリング40において切欠部5を形成するカット面12は、底部B1と下面4との間に設けられると共に前記径方向の外側に面する第2面122を含み、第2面122は、下側に向かうに従ってセカンドリング40の中心軸から離れるように傾斜しており、下面4に対する傾斜角度θ1は50°以上85°以下となっている。更に、実施形態に係るセカンドリング40では、H/h1が0.2以上0.4以下となっている。
【0035】
仮に、θ1が50°未満であると、第2面122に沿って流動するオイルがシリンダ10の内壁面10aに当たってしまい、オイルが円滑にピストン隙間PC1に落とされない可能性がある。また、仮に、θ1が85°よりも大きいと、第2面122に沿って流動するオイルが隙間PC1に落とされずにセカンドリング60の下面と第2リング溝202の下壁面W2との間に流れ込む可能性が生じてくる。実施形態に係るセカンドリング40は、50°≦θ1≦85°とすることで、第2面122の傾斜に沿って流動するオイルをセカンドリング40の外周側へ逃がして隙間PC1に落とし易くすることができる。なお、θ1は、50°≦θ1≦80°とすることがより好ましく、60°≦θ1≦80°とすることが更に好ましい。
【0036】
また、仮に、H/h1が0.2よりも小さいと、切欠部5の容積を十分に確保できず、オイルの掻き落とし性能が低下する。また、H/h1が0.4よりも大きいと、シリンダ10の内壁面10aに摺動する面であるテーパ面11の軸方向幅を十分に確保できない。実施形態に係るセカンドリング40は、0.2≦H/h1≦0.4とすることで、オイル掻き落とし量の低下を抑制しつつも摺動面の軸方向幅とを確保することができる。なお、H/h1は、0.2≦H/h1≦0.3とすることがより好ましい。
【0037】
以上のように、実施形態に係るセカンドリング40は、上述のように構成されることで、オイルシール性能を高め、内燃機関100のオイル消費量を低減することができる。
【0038】
なお、オイルシール性能の向上の観点では、下側R面124の曲率半径r1は、0.01mm≦r1≦0.2mmとすることが好ましく、0.05mm≦r1≦0.2mmとすることがより好ましい。また、同様の観点で、0.2mm≦D≦0.6mmとすることがより好ましく、0.2mm≦D≦0.5mmとすることが更に好ましい。また、同様の観点で、0.2mm≦H≦0.6mmとすることがより好ましい。但し、本発明はこれらの数値に限定されない。r1が0.01mm未満の場合、セカンドリング40の下面4の研削加工の際に、角部分に欠けが発生する恐れがある。r1が0.2mmよりも大きい場合、カット面12の全体において第2面122が占める割合が減る。それにより、リング下面を流動するオイルとピストン面取りに乗り上げるオイルが増え(r1の拡大によってオイルがリング下面に誘導される)、クランク室側に落とされるオイルが減ると考えられる。
【0039】
また、実施形態に係るセカンドリング40では、カット面12は、底部B1を含むと共に第1面121と第2面122とを接続する第3面123を含み、第3面123は、凹状に湾曲しており、第3面123の曲率半径は、0.05mm以上0.2mm以下となっている。これによると、セカンドリング40によって掻き落とされるオイルの一部は、第3面123の湾曲に沿って流動することで、第2面122へ導かれ易くなる。これにより、オイルを隙間PC1に落とし易くなり、オイル消費をより低減できる。
【0040】
[変形例]
図5は、実施形態の変形例に係るセカンドリング40Aの外周面1を説明するための断面図である。図5では、セカンドリング40Aの周長方向に直交する断面の一部が図示されている。図5に示すように、セカンドリング40Aは、カット面12の第1面121が下面4に対して傾斜している点で、上述のセカンドリング40と相違する。
【0041】
図5に示すように、変形例に係るセカンドリング40Aでは、第1面121は、セカンドリング40Aの径方向内側に向かうに従ってクランク室から離れるように傾斜している。ここで、図5に示すように、セカンドリング40の周長方向に直交する断面において、下面4に対する第1面121の傾斜角度をθ2とする。変形例に係るセカンドリング40Aでは、0°<θ2≦30°となるように、θ2が設定されている。なお、θ2は、例え
ば0.5°≦θ2≦30°の範囲で設定してもよい。
【0042】
変形例に係るセカンドリング40Aによると、上述のように第1面121が傾斜しているため、セカンドリング40Aによって掻き落とされるオイルの一部は、第1面121の傾斜に沿って流動することで、第2面122へ導かれ易くなる。これにより、オイルを隙間PC1に落とし易くなり、オイル消費をより低減できる。
【0043】
<オイルシール性能評価>
解析ソフトを用いた解析により、実施形態に係るセカンドリングのオイルシール性能の評価を行った。シール性能の評価では、内燃機関におけるピストンの下降行程におけるオイルの流出量を解析した。
【0044】
[形状での比較]
実施例1~2として、図2で示した実施形態に係るセカンドリング40のオイルシール性能を評価した。実施例1では、h1=1.5mm、H=0.3mm、H/h1=0.2、D=0.4mm、θ1=80°、θ2=0°のセカンドリングを用いた。実施例2では、h1=1.5mm、H=0.3mm、H/h1=0.2、D=0.4mm、θ1=70°、θ2=0°のセカンドリングを用いた。また、実施例3~4として、図5で示した実施形態の変形例に係るセカンドリング40Aのオイルシール性能を評価した。実施例3では、h1=1.5mm、H=0.3mm、H/h1=0.2、D=0.4mm、θ1=83°、θ2=13.5°のセカンドリングを用いた。実施例4では、h1=1.5mm、H=0.3mm、H/h1=0.2、D=0.4mm、θ1=80°、θ2=10°のセカンドリングを用いた。比較例1として、図4で示した比較例1に係るセカンドリング60のオイルシール性能を評価した。比較例2として、特許文献3(国際公開第2016/121483号)に開示されるセカンドリングのオイルシール性能を評価した。図6は、比較例2に係るセカンドリング70の断面図である。比較例3として、いわゆるナピア形状を有するセカンドリングのオイルシール性能を評価した。図7は、比較例3に係るセカンドリング80の断面図である。図6及び図7では、周長方向に直交する断面が図示されている。
【0045】
[比較結果]
図8は、オイル流出量の解析結果を示すグラフである。図8では、比較例1に対するオイル流出量比を示している。図8の縦軸で表されるオイル流出量比は、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量の比である。図8に示す通り、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量について、比較例1に対する比較例2~3の比は、それぞれ、1.59、1.18となった。また、比較例1に対する実施例1~4の比は、それぞれ、0.77、0.32、0.68、0.59となった。図8の解析結果により、実施例1~4は比較例1~3と比較してセカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量が低減されることが分った。
【0046】
[パラメータ評価]
実施形態に係るセカンドリング40において、傾斜角度θ1やH/h1を変化させたときのオイルシール性能を評価した。図9は、θ1とオイル流出量との関係を示すグラフである。図9では、実施形態に係るセカンドリングにおいて、h1=1.5mm、H=0.3mm、H/h1=0.2、D=0.4mm、θ2=0°とし、θ1=40°、45°、50°、60°、70°、80°、85°、90°とした場合のθ1とオイル流出量との関係が示されている。図9において縦軸で表されるオイル流出量は、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイルの量である。図9に示すように、θ1が70°付近においてセカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間のオイル流出量が低減されることが分った。また、図10は、H/h1とオイル流出量との関係を示すグラフで
ある。図10では、実施形態に係るセカンドリングにおいて、H/h1=0.15、0.2、0.3、0.4、0.45とした場合のH/h1とオイル流出量との関係が示されている。図10において縦軸で表されるオイル流出量は、セカンドリングの外周面とシリンダの内壁面との間を通ってセカンドランドに流出するオイルの量である。図10に示すように、H/h1=0.2、0.3、0.4の場合の方がH/h1=0.15、0.45の場合よりもセカンドランドへのオイル流出量が比較的少ないことが分る。これにより、H/h1を0.2以上0.4以下とすることでセカンドランドへのオイル流出量が低減することが分った。また、図11は、Dとオイル流出量との関係を示すグラフである。図11では、実施形態に係るセカンドリングにおいて、D=0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.5mmとした場合のDとオイル流出量との関係が示されている。図11の縦軸で表されるオイル流出量は、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイルの量である。図11に示すように、0.2mm≦D≦0.5mmの範囲においてセカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間のオイル流出量が低減されることが分った。特に、Dが0.3mm付近においてオイル流出量が最も少ないことが分る。つまり、D<0.3mmの範囲では、Dが小さくなるほどオイル流出量が増加する。これは、シリンダの内壁面のオイルとリングのアンダーカット部分(切欠部)のオイルとが干渉することでオイルの渦が発生し、流速の低下したオイルがリング下面に沿って流れるためだと考えられる。また、D>0.3mmの範囲では、Dが大きくなるほどオイル流出量が増加する。これは、ピストンの面取り部に当たるオイルの量が増加することでリング下面に沿って流れるオイルの量が増加するためだと考えられる。
【0047】
<流動分布評価>
実施形態に係るセカンドリングを用いた場合のオイルの流れを解析ソフトにより解析した。図12は、ピストンの下降行程における内燃機関のセカンドリング付近のオイルの流動分布の解析結果を示す図である。図12において、「Volume Fraction of Oil」のグラデーションスケールは、オイルの体積分率を表している。図12の解析結果において、黒い部分はオイルの比率が低く(空気が多い)、白い部分はオイルの比率が高い(オイルが多い)。
【0048】
図12では、上述の実施例2、比較例2、及び比較例3の夫々の流動分布が示されている。図12に示すように、実施例2は、比較例2や比較例3と比較して、セカンドリングの下面とリング溝の下壁面との間に流出するオイル量が少ないことが分る。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。なお、本発明の適用対象は特に限定されないが、本発明に係るピストンリングは、内燃機関の中でもガソリンエンジンに例示される火花点火機関に対して好適に適用することができる。但し、本発明に係るピストンリングは、ディーゼルエンジンに例示される圧縮着火機関に適用しても差し支えない。また、本発明に係るピストンリングをセカンドリングとして火花点火機関に適用した場合には、図1で示すように、トップリングの外周形状をバレル形状とし、オイルリングのセグメントの外周形状をバレル形状とすることが特に好ましい。これにより、フリクションの増加を抑えつつもガスシール性能とオイルシール性能とを確保することができる。なお、「バレル形状」とは、ピストンリングにおいて最大径となる頂部を含んで径方向外側に凸状となるように湾曲した外周面形状のことを指し、頂部が上下中央に位置する対称バレル形状や頂部が上下中央より上下どちらかにオフセットする偏心バレル形状を含むものとする。
【符号の説明】
【0050】
1 :外周面
1a :外周端部
11 :テーパ面(外周端面の一例)
12 :カット面
121 :第1面
122 :第2面
123 :第3面
2 :内周面
3 :上面
4 :下面
5 :切欠部
10 :シリンダ
20 :ピストン
40 :セカンドリング(ピストンリングの一例)
100 :内燃機関
【要約】
【課題】アンダーカット形状のピストンリングにおいて、内燃機関のオイル消費量をより低減することが可能な技術を提供する。
【解決手段】ピストンリングの外周面は、外周端部と下面との間に切欠部を形成するカット面を有し、カット面は、外周端面と底部との間に設けられる第1面と、底部と下面との間に設けられる第2面と、を含み、第2面は、クランク室側に向かうに従ってピストンリングの中心軸から離れるように傾斜しており、下面に対する第2面の傾斜角度は、50°以上85°以下であり、該ピストンリングの軸方向幅をh1とし、カット面と外周端面との接続部と、カット面と下面との接続部と、の軸方向における距離をHとしたとき、H/h1が0.2以上0.4以下である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12