(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】レーザ加工モニタ装置、レーザ加工モニタ方法、およびレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20230706BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20230706BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/064 K
(21)【出願番号】P 2022514340
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008475
(87)【国際公開番号】W WO2021205789
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020068853
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000161367
【氏名又は名称】株式会社アマダウエルドテック
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】梁瀬 淳
(72)【発明者】
【氏名】西崎 雄祐
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-254314(JP,A)
【文献】特開平11-197863(JP,A)
【文献】特開2007-30032(JP,A)
【文献】特開2004-132793(JP,A)
【文献】特開2014-15352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に対して加工ヘッドよりレーザ加工用のレーザ光を照射している時に、前記被加工物の加工点付近で発生または反射する所定の被測定光を前記加工ヘッド内または前記加工ヘッドに近接して配置される光センサにより光電変換して前記被測定光の光強度を表すセンサ出力信号を取得し、前記センサ出力信号に基づいて前記レーザ加工のモニタリングを行うレーザ加工モニタ装置であって、
前記加工ヘッドに設けられ、前記光センサを校正するための基準光を発生する基準光源と、
前記基準光源に前記基準光を発生するための調整可能な電力を供給する基準光源電源部と、
前記基準光源の校正を行うために、前記基準光源からの前記基準光を受光する受光部を有し、受光した前記基準光の光強度または前記光強度に相当する所定の物理量を測定する光測定器と
を有するレーザ加工モニタ装置。
【請求項2】
前記光センサを内蔵して、前記加工ヘッドに組み込まれ、または前記加工ヘッドに近接して配置されるセンサユニットを有し、
前記基準光源および前記光測定器の前記受光部の少なくとも一方が前記センサユニットに取り付けられる、
請求項1に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項3】
前記センサユニット内に、前記被加工物の加工点と前記光センサとを光学的に結ぶ第1の光路、前記基準光源と前記光センサとを光学的に結ぶ第2の光路または前記基準光源と前記光測定器の受光部とを光学的に結ぶ第3の光路を選択するための光路切替部が設けられている、請求項2に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項4】
前記第2の光路上に、前記被測定光の波長を含む所定の波長帯域を選択して通す光学フィルタが設けられる、請求項3に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項5】
前記加工ヘッドは、前記センサユニットにユニット接続開口を介して一体または着脱可能に結合される出射ユニットを有し、
前記出射ユニットには、前記レーザ光を前記被加工物の加工点に向けて照射するとともに、前記加工点付近からの前記被測定光を前記レーザ光から分離して前記ユニット接続開口に通す第1の光学系が設けられ、
前記センサユニットには、前記出射ユニットから前記ユニット接続開口を介して入ってくる前記被測定光を前記光センサに導くための第2の光学系が設けられる、
請求項3または請求項4に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項6】
前記光路切替部は、前記センサユニット内で前記第2の光学系の中または前記第2の光学系よりも前記光センサに近接して設けられ、
前記基準光源および前記光測定器の受光部は、前記光路切替部の近傍に設けられる、
請求項5に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項7】
前記光路切替部は、
前記第1の光路と交差する第1の軸線の回りに回転可能な筒状のミラー支持体と、
前記基準光源からの前記基準光を導入するために、前記ミラー支持体の第1の端面に形成されている端面開口と、
前記ミラー支持体の側面に相対向して形成されている第1および第2の側面開口と、
周回方向において前記第1の側面開口と前記第2の側面開口との間で前記ミラー支持体の側面に形成されている第3の側面開口と、
前記端面開口と対向して前記ミラー支持体の第2の端面の内側に配置され、前記基準光源より前記端面開口を介して導入される前記基準光を斜めの入射角で受けて所定の方向に反射する第1の折り返しミラーと、
前記第3の側面開口と対向して前記ミラー支持体の側面の内側に配置され、前記第1の折り返しミラーからの前記基準光を斜めの入射角で受けて前記第3の側面開口の外に向けて反射する第2の折り返しミラーと
を有し、
前記第1の光路を選択するときは、前記第1および第2の側面開口が前記光センサと対向するように前記ミラー支持体の回転位置を選択または調整し、
前記第2の光路を選択するときは、前記第3の側面開口が前記光センサと対向するように前記ミラー支持体の回転位置を選択または調整し、
前記第3の光路を選択するときは、前記第3の側面開口が前記光測定器の受光部と対向するように前記ミラー支持体の回転位置を選択または調整する、
請求項3~6のいずれか一項に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項8】
前記基準光源は、前記ミラー支持体の前記端面開口と対向して前記センサユニットの側壁に取り付けられ、
前記光測定器の受光部は、前記ミラー支持体の側面と対向して前記センサユニットの側壁に取り付けられる、
請求項7に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項9】
前記ミラー支持体の前記第2の端面から突出する回転軸に回転ノブが結合されている、
請求項7または請求項8に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項10】
前記光路切替部は、前記第1の光路を選択するために前記第1の光路から退避する第1の位置と、前記第2の光路を選択するために前記第1の光路を遮断して前記基準光源からの前記基準光を前記光センサに向けて反射する第2の位置との間で移動可能な1個または複数個の折り返しミラーを有する、請求項3~6のいずれか一項に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項11】
前記光路切替部は、前記第3の光路を選択するために前記折り返しミラーを前記第1の位置に移動させる、請求項10に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項12】
前記光路切替部は、前記第1の光路を選択するために前記第1の光路から退避する第1の位置と、前記第2の光路を選択するために前記第1の光路を遮断して前記基準光源からの前記基準光を前記光センサに向けて反射する第2の位置と、前記第3の光路を選択するために前記第3の光路から退避する第3の位置との間で移動可能な1個または複数個の折り返しミラーを有する、請求項3~6のいずれか一項に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項13】
前記基準光源は、前記被測定光の波長帯域を含む放射特性を有する発光ダイオードまたは半導体レーザを有する、請求項1~12のいずれか一項記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項14】
前記基準光源は、放射特性が黒体に近い発光ダイオードまたは半導体レーザを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のレーザ加工モニタ装置。
【請求項15】
被加工物に対して加工ヘッドよりレーザ加工用のレーザ光を照射している時に、前記被加工物の加工点付近で発生または反射する被測定光を前記加工ヘッド内または前記加工ヘッドに近接して配置される光センサにより光電変換して前記被測定光の光強度を表すセンサ出力信号を取得し、前記センサ出力信号に基づいて前記レーザ加工のモニタリングを行うレーザ加工モニタ方法であって、
前記加工ヘッドに組み込まれ、または加工ヘッドに近接して配置されるセンサユニット内に前記光センサを設けること、
前記センサユニットに、前記光センサを校正するための基準光を発生する基準光源を取り付けること、
前記レーザ加工を行うときは、前記センサユニット内に前記被加工物の加工点と前記光センサとを光学的に結ぶ第1の光路を設定すること、
前記光センサの校正を行うときは、前記センサユニット内に前記基準光源と前記光センサとを光学的に結ぶ第2の光路を設定すること、
前記基準光源の校正を行うために、前記基準光源より放射される前記基準光を光測定器の受光部に入射させて、前記光測定器の測定値が基準値に一致するように、前記基準光源の出力を調整すること
を含むレーザ加工モニタ方法。
【請求項16】
前記光測定器の前記受光部を前記センサユニットに取り付け、前記基準光源の校正を行うときは、前記加工ヘッド内に前記基準光源と前記受光部とを光学的に結ぶ第3の光路を設定することを含む、請求項15に記載のレーザ加工モニタ方法。
【請求項17】
前記基準光源を前記センサユニットに脱着可能に取り付け、前記基準光源の校正を行う時は、前記基準光源を前記センサユニットから取り外し、前記センサユニットの外で前記基準光源より発生される前記基準光を前記光測定器の前記受光部に入射させることを含む、請求項15に記載のレーザ加工モニタ方法。
【請求項18】
レーザ加工用のレーザ光を発振出力するレーザ発振部と、
前記レーザ発振部と光ファイバケーブルを介して光学的に接続され、前記レーザ発振部からの前記レーザ光を被加工物の加工点に集光照射する加工ヘッドと、
レーザ加工のモニタリングを行うレーザ加工モニタ部と
を備え、
前記レーザ加工モニタ部は、
前記加工ヘッド内または前記加工ヘッドに近接して配置され、前記被加工物の加工点付近で発生または反射する所定の被測定光の光強度を表すセンサ出力信号を出力する光センサと、
前記光センサからの前記センサ出力信号についてディジタルの波形データを生成し、前記波形データに基づいて前記センサ出力信号の波形を表示出力するセンサ信号処理部と、
前記光センサを校正するための基準光を発生する基準光源と、
前記基準光源に前記基準光を発生するための調整可能な電力を供給する基準光源電源部と、
前記基準光源の校正を行うために、前記基準光源からの前記基準光を受光する受光部を有し、受光した前記基準光の光強度または前記光強度に相当する所定の物理量を測定する光測定器と
を有するレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工モニタ装置、レーザ加工モニタ方法、およびレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ加工装置では、レーザ加工の良否判定を行う技術が用いられている。具体的には、レーザ加工装置は、被加工物に対してレーザ光を照射する加工ヘッドに内蔵された受光素子または光センサを有している。被加工物の加工点付近で発生または反射する被測定光は、加工ヘッド内の光学系を介して光センサに受光される。レーザ加工装置は、光センサの光電変換により得られる電気信号(センサ出力信号)に所定の信号処理を行い、これにより、レーザ加工の良否判定を行う。
【0003】
この種のレーザ加工モニタリング技術は、撮像素子を用いて加工点付近の加工状況を画像解析する技法に比してハードウェアおよびソフトウェアが簡便であるだけでなく、信号処理技術の工夫次第でモニタリングの質的向上も図れるようになっている。たとえば、レーザ溶接においては、溶融部の微妙な挙動および変化を精細に監視または解析することも可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、本発明者らが上記のようなレーザ加工モニタリング技術の研究開発を進める中で、光センサの光電変換特性の誤差がモニタリング性能の向上にとって大きな足かせになってきた。すなわち、光センサに用いられるフォトダイオードの光電変換特性は、不可避的に経時変化を生じ、さらには周囲温度等の環境条件によっても左右される。フォトダイオードの光電変換特性が変わると、被加工物側から同じ光強度の被測定光を受光しても、それを光電変換して得られるセンサ出力信号の値が変わる。そのため、ディジタル式の信号処理技術を如何に高性能化しても、レーザ加工についての精細な監視および解析ができず、適確な良否判定ができない。
【0006】
この問題に対処するため、本発明者らは次のような校正法を用いてきた。先ず、レーザ加工装置の出荷時またはセッティング時に、初期化の一環として、基準の被加工サンプルに基準パワーのレーザ光を照射する。そして、加工ヘッド内の光センサより得られるセンサ出力信号の波形をたとえば
図18Aのような基準波形SWとして取得する。
【0007】
次いで、
図18Bのように、基準波形SWの全区間(または一部の区間)で基準波形SWの値から一定の許容範囲(±δ)だけ上下にオフセットした上下限値エンベロープJW+δ,JW-δを設定する。図示の許容範囲±δは、図解を容易にするため拡大しているが、実際には校正精度を上げるために限りなく小さな範囲にエンベロープ設定を行う。
【0008】
以後、当該光センサの校正を行うときは、同一の被加工サンプルに同一基準パワーのレーザ光を照射し、それによって得られるセンサ出力信号の波形RWをモニタ画面(メンテナンス画面)上に上下限値エンベロープJW+δ,JW-δと併せて表示する。そして、センサ出力信号の波形RWがたとえば
図18Cのように上下限値エンベロープJW+δ,JW-δの外にはみ出たときは、上下限値エンベロープJW+δ,JW-δの内側(許容範囲)に収まるように現場関係者が画面入力等の操作によりセンサ出力のゲイン調整を行う。
【0009】
しかしながら、上記のような光センサ校正法は有効な解決策にならないことが判明した。すなわち、校正時に光センサが受光する試験光の放射源にはレーザ発振部および被加工サンプルが関与し、試験光の光路にはレーザ光学系が介在する。このため、初期取得の基準波形SWと現時に取得のセンサ出力信号の波形RWとの間に生じる誤差には、光センサの光電変換特性の変動分だけでなく、それらの関与要素または介在要素の光学的特性または物理的特性の変動分も含まれている。そのため、光センサの光電変換特性に絞った校正を行うことができない。しかも、校正用の試験光の光強度が常に一定のものであるとの保証はない。したがって、光センサの光電変換特性の誤差を正しく補正することはできない。また、光センサの校正にレーザ発振部および被加工サンプルを関与させるため、校正作業が面倒で大掛かりである。
【0010】
さらに、上記のような光センサ校正法は、装置固有の基準波形SWと現時取得のセンサ出力信号の波形RWとの相対比較に基づいて校正を行うものであり、光センサの校正基準値が装置毎に異なる。このため、モニタリングの性能および精度における、実際に示す値と本来示すべき値との差は、同一製品の光センサを用いる同機種のレーザ加工装置の個体差として、バラつきを生じさせている。つまり同機種のレーザ加工装置の器差が同機種間でバラつくので、同一の加工条件設定下での同一品質評価ができない。
【0011】
本発明の一態様のレーザ加工モニタ装置は、被加工物に対して加工ヘッドよりレーザ加工用のレーザ光を照射している時に、前記被加工物の加工点付近で発生または反射する所定の被測定光を前記加工ヘッド内または前記加工ヘッドに近接して配置される光センサにより光電変換して前記被測定光の光強度を表すセンサ出力信号を取得し、前記センサ出力信号に基づいて前記レーザ加工のモニタリングを行うレーザ加工モニタ装置であって、前記加工ヘッドに設けられ、前記光センサを校正するための基準光を発生する基準光源と、前記基準光源に前記基準光を発生するための調整可能な電力を供給する基準光源電源部と、前記基準光源の校正を行うために、前記基準光源からの前記基準光を受光する受光部を有し、受光した前記基準光の光強度または前記光強度に対応する所定の物理量を測定する光測定器とを有する。
【0012】
本発明の一態様のレーザ加工モニタ装置においては、レーザ加工のモニタリング用の光センサを加工ヘッド備え付けの基準光源を用いて校正し、この基準光源を装置備え付けの光測定器を通じて校正するので、基準光源の電光変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正し、光センサの光電変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正することができる。
【0013】
本発明の一態様のレーザ加工モニタ方法は、被加工物に対して加工ヘッドよりレーザ加工用のレーザ光を照射している時に、前記被加工物の加工点付近で発生または反射する被測定光を前記加工ヘッド内または前記加工ヘッドに近接して配置される光センサにより光電変換して前記被測定光の光強度を表すセンサ出力信号を取得し、前記センサ出力信号に基づいて前記レーザ加工のモニタリングを行うレーザ加工モニタ方法であって、前記加工ヘッドに組み込まれ、または前記加工ヘッドに近接して配置されるセンサユニット内に前記光センサを設けること、前記センサユニットに、前記光センサを校正するための基準光を発生する基準光源を取り付けること、前記レーザ加工を行う時は、前記センサユニット内に前記被加工物の加工点と前記光センサとを光学的に結ぶための第1の光路を設定すること、前記光センサの校正を行う時は、前記センサユニット内に前記基準光源と前記光センサとを光学的に結ぶための第2の光路を設定すること、前記基準光源の校正を行うために、前記基準光源より放射される前記基準光を光測定器の受光部に入射させて、前記光測定器の測定値が基準値に一致するように、前記基準光源の出力を調整することを含む。
【0014】
本発明の一態様のレーザ加工モニタ方法においては、レーザ加工のモニタリングを行うときはセンサユニット内に第1の光路を設定して光センサに被加工物側からの被測定光を入射させ、光センサを校正するときはセンサユニット内に第2の光路を設定して光センサに基準光源からの基準光を入射させる。そして、基準光源を校正するときは、光測定器の受光部に基準光源からの基準光を入射させる。これにより、基準光源の電光変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正し、光センサの光電変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正することができる。
【0015】
本発明の一態様のレーザ加工装置は、レーザ加工用のレーザ光を発振出力するレーザ発振部と、前記レーザ発振部と光ファイバケーブルを介して光学的に接続され、前記レーザ発振部からの前記レーザ光を被加工物の加工点に集光照射する加工ヘッドと、レーザ加工のモニタリングを行うレーザ加工モニタ部とを備え、前記レーザ加工モニタ部は、前記加工ヘッド内または前記加工ヘッドに近接して配置され、前記被加工物の加工点付近で発生または反射する所定の被測定光の光強度を表すセンサ出力信号を出力する光センサと、前記光センサからの前記センサ出力信号についてディジタルの波形データを生成し、前記波形データに基づいて前記センサ出力信号の波形を表示出力するセンサ信号処理部と、前記光センサを校正するための基準光を発生する基準光源と、前記基準光源に前記基準光を発生するための調整可能な電力を供給する基準光源電源部と、前記基準光源の校正を行うために、前記基準光源からの前記基準光を受光する受光部を有し、受光した前記基準光の光強度または前記光強度に相当する所定の物理量を測定する光測定器とを有する。
【0016】
本発明の一態様のレーザ加工装置においては、レーザ加工モニタ部の光センサを装置備え付けの基準光源を用いて校正し、この基準光源を装置備え付けの光測定器を通じて校正するので、基準光源の電光変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正し、光センサの光電変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正することができる。このようにレーザ加工モニタ部のモニタリング性能が向上することにより、レーザ加工について適格な良否判定を行うことができる。
【0017】
本発明の一態様のレーザ加工モニタ装置またはレーザ加工モニタ方法によれば、上記のような構成および作用により、レーザ加工のモニタリングに用いられる光センサに対する校正の精度、再現性および作業性を改善し、モニタリング性能を向上させることができる。
【0018】
本発明の一態様のレーザ加工装置によれば、上記のような構成および作用により、レーザ加工について適格な良否判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態におけるレーザ加工モニタ装置を含むレーザ加工装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、黒体の放射スペクトル分布を示すグラフ図である。
【
図3】
図3は、ステンレス鋼にパルスレーザ光を照射してその溶融部から発せられた赤外線強度のスペクトル分布を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態におけるレーザ加工モニタ部のモニタリング機能を検証するための実験1の様子とその実験で取得されたセンサ出力信号のモニタリング表示波形を示す図である。
【
図5】
図5は、上記モニタリング機能を検証するための実験2の様子とその実験によって取得されたセンサ出力信号のモニタリング表示波形を示す図である。
【
図6】
図6は、上記モニタリング機能を検証するための実験3の様子とその実験によって取得されたセンサ出力信号のモニタリング表示波形を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、実施形態における基準光源の一構成例を示す断面図である。
【
図7B】
図7Bは、実施形態における基準光源の別の構成例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態の校正部において、第2の光路を選択するために光路切替部の折り返しミラーが第2の位置に切り替えられている状態を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、上記校正部において、第3の光路を選択するために光路切替部の折り返しミラーが第3の位置に切り替えられている状態を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、好適な構成例の光路切替部が内蔵されているセンサユニットの外観を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、
図10のセンサユニットに内蔵されている光路切替部をある角度から見たときの斜視図である。
【
図13】
図13は、光路切替部を別の角度から見たときの斜視図である。
【
図14】
図14は、光路切替部を基準光源側から見たときの側面図である。
【
図16A】
図16Aは、校正部の第1モードにおける光路切替部の各部の位置関係を示す要部の縦断面図である。
【
図16B】
図16Bは、第2モードにおける光路切替部の各部の位置関係を示す要部の縦断面図である。
【
図16C】
図16Cは、第3モードにおける光路切替部の各部の位置関係を示す要部の横断面図である。
【
図17】
図17は、実施形態におけるレーザ加工モニタ部の一変形例を示す図である。
【
図18A】
図18Aは、従来技術の光センサ校正法の第1段階のモニタ画面を模式的に示す図である。
【
図18B】
図18Bは、従来技術の光センサ校正法の第2段階のモニタ画面を模式的に示す図である。
【
図18C】
図18Cは、従来技術の光センサ校正法の第3段階のモニタ画面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0021】
[レーザ加工装置全体の構成]
図1に、本発明の一実施形態のレーザ加工モニタ装置を含むレーザ加工装置の全体の構成を示す。このレーザ加工装置は、たとえば、被加工物Wに対して高出力のCWレーザ光またはパルスレーザ光を照射し、被加工物Wの加工点Qをレーザのエネルギーにより溶かして所望のレーザ溶融加工を行うレーザ加工機として構成されている。このレーザ加工装置は、レーザ発振器10、レーザ電源12、制御部14、光ファイバケーブル16、電気ケーブル18、加工ヘッド20、操作パネル22およびレーザ加工モニタ部(実施形態のレーザ加工モニタ装置)24を有している。
【0022】
このレーザ加工装置において、レーザ発振器10、レーザ電源12、制御部14および操作パネル22は、通常は一箇所に集約または近接して配置され、装置本体を構成する。一方、加工ヘッド20は、装置本体から分離独立したユニットとして構成され、光ファイバケーブル16の長さに応じたエリア内で任意の加工場所に配置される。
【0023】
レーザ加工モニタ部24は、主要な機能つまりモニタリング機能のための基本構成として制御部14、操作パネル22、センサ信号処理部26およびセンサユニット30を含むほか、センサユニット30に内蔵される光センサ50を校正するための校正部32として基準光源100、基準光源電源102、光測定器104および光路切替部105を備えている。
【0024】
レーザ発振器10は、たとえばYAGレーザ、ファイバレーザあるいは半導体レーザからなる。レーザ発振器10は、被加工物Wに対してたとえばレーザスポット溶接を施すときは、制御部14の制御の下でレーザ電源12より励起電力の供給を受けて内蔵の媒質を励起し、その媒質に固有の波長を有するパルスのレーザ光LBを発振出力する。レーザ発振器10で発振出力されたレーザ光LBは、光ファイバケーブル16を介して加工ヘッド20に伝送される。
【0025】
加工ヘッド20は、ヘッド本体である出射ユニット28と、出射ユニット28にユニット接続開口45を介して一体または着脱可能に結合されるセンサユニット30とを有している。出射ユニット28は、筒状の筐体を有している。出射ユニット28の筐体の上端部は、レーザ発振器10からの光ファイバケーブル16に接続され、出射ユニット28の筐体の下端のレーザ出射口は、直下の被加工物Wに向けられる。出射ユニット28の筐体の中には、レーザ光学系としてコリメートレンズ38、ダイクロイックミラー40、集束レンズ42および保護ガラス44が上から下に向かって縦一列に配置されている。ここで、保護ガラス44はレーザ出射口に取り付けられている。ダイクロイックミラー40は、ユニット接続開口45に向けて45°斜めに傾いて配置されている。ダイクロイックミラー40には、光ファイバケーブル16からのレーザ光LBを透過し、被加工物Wの加工点Q付近からの被測定光および可視光を反射する誘電体多層膜がコーティングされている。
【0026】
レーザ加工時には、光ファイバケーブル16の中を伝播してきたレーザ光LBが、出射ユニット28内で光ファイバケーブル16の終端面より一定の広がり角で垂直下方に射出される。レーザ光LBは、コリメートレンズ38を通り抜けて平行光となり、ダイクロイックミラー40を透過してから集束レンズ42および保護ガラス44を通って集束され、被加工物Wの加工点Qに入射する。そうすると、レーザ光LBのレーザエネルギーにより加工点Q付近が溶融・凝固して、そこに溶接ナゲットひいては溶接継手が形成される。溶接継手は、たとえば突き合せ継手、T型継手、L字継手、重ね継手など任意であり、ユーザにより選択される。
【0027】
センサユニット30も、一体型または組立型の筒状の筐体を有している。センサユニット30の筐体の中には、筐体の上端部に光センサ50が設けられ、光センサ50の直下にモニタ光学系として折り返しミラー46、ダイクロイックミラー58および集光レンズ48が下から上に向かって縦一列に配置されている。ここで、折り返しミラー46は、ユニット接続開口45と同じ高さ位置で45°斜めに傾けて配置されている。校正部32の光路切替部105は、ダイクロイックミラー58と集光レンズ48との間に設けられている。
【0028】
ダイクロイックミラー58は、被加工物Wの加工点Q付近をモニタ撮影するために設けられている。ダイクロイックミラー58は、ダイクロイックミラー58の側方に設けられる折り返しミラー60と同じ高さ位置に、45°斜めに傾けて配置されている。このダイクロイックミラー58には、被測定光を透過し、可視光を反射する誘電体多層膜がコーティングされている。折り返しミラー60も45°斜めに傾いて配置され、折り返しミラー60の直上には、CCDカメラ62が取り付けられている。CCDカメラ62より出力される画像信号は、電気ケーブル64を介してディスプレイ装置66に送られる。ディスプレイ装置66は、一般に装置本体側に配置される。図示省略するが、被加工物Wの加工点Q付近に可視光のガイド光を照射する光学系をセンサユニット30に組み込むことも可能である。
【0029】
この実施形態における光センサ50は、光電変換素子としてたとえばフォトダイオード56を備えている。光センサ50は、特定帯域の波長を有する光LMのみを透過してそれ以外の光を遮断する波長フィルタまたはバンド・パス・フィルタ54をフォトダイオード56の前段(下)に備えている。光センサ50の背後には、増幅・出力回路70の基板が設けられている。
【0030】
レーザ加工時には、出射ユニット28よりレーザ光LBが照射される被加工物Wの加工点Q付近から広帯域の波長を有する電磁波(光)が放射される。被加工物Wから放射される電磁波の中で垂直上方に向かう電磁波のうち、出射ユニット28内で集束レンズ42を通ってダイクロイックミラー40で水平方向に反射した光がユニット接続開口45を通ってセンサユニット30内に導かれる。センサユニット30内に導かれた光のうち、折り返しミラー46で垂直上方に反射してからダイクロイックミラー58を透過した光が、光路切替部105および集光レンズ48を通ってバンド・パス・フィルタ54に入射する。そして、バンド・パス・フィルタ54によって選択された所定帯域の波長成分を有する光LMが、フォトダイオード56の受光面に集光入射する。この場合、光路切替部105は、被加工物Wの加工点Qと光センサ50とが
図1において一点鎖線で示す第1の光路K1で光学的に結ばれるように切り替えられている。
【0031】
また、出射ユニット28からユニット接続開口45を通ってセンサユニット30に入った光のうち、可視光は、折り返しミラー46で垂直上方に折り返される。折り返された可視光は、
図1において破線で示すようにダイクロイックミラー58で水平方向に反射され、折り返しミラー60で垂直上方に折り返されてCCDカメラ62の撮像面に入射する。CCDカメラ62の前に集光レンズ(図示せず)が設けられてもよい。CCDカメラ62の出力信号(映像信号)はディスプレイ装置66に送られ、ディスプレイ装置66の画面上に被加工物Wの加工点Q付近の画像が表示される。
【0032】
光センサ50において、バンド・パス・フィルタ54を透過する波長帯域は、単一のフォトダイオード56を用いるモニタリング法において、感度、汎用性、コスト性等を総合的に勘案し、被加工物Wについて選択され得る複数種類の材料および多種多様な加工形態について加工点付近の溶接特性に対する所定の要因の影響を放射エネルギーの強度ないし変化として捉えるのに最も適した帯域に設定されるのが好ましい。
【0033】
この点に関しては、
図2に示すような周知の黒体放射スペクトル分布を好適に用いることができる。
図2のグラフのように、黒体が放射する電磁波のスペクトルと表面温度との間には一定の関係がある。物体の温度が高いと放射エネルギーのピークは短波長へシフトし、低いと長波長にシフトし、かつ温度の変化に対してピークの放射エネルギーが指数関数的に変化する。このグラフによれば、温度1500℃の黒体から放射されるエネルギー密度のピーク点の波長は約1800nmである。
【0034】
一方で、本発明者らが、鉄系のステンレス鋼(融点が約1500℃)にレーザ光を照射した際に検出される1000nm以上の光の強度(相対的カウント値)を加工点に対して様々な角度位置から測定し、スペクトル分布をスペクトラム・アナライザにより分析した結果を
図3に示す。スペクトラム・アナライザの表示波形は、検出された1000nm以上の光の強度について経時的な区別をせずに、それぞれのピーク値を相対強度として示すものである。示された波形は、測定時の角度位置に応じて波形全体が示す強度が異なっていたものの、一定の特性が得られた。これによれば、当該ステンレス鋼の溶融部から発せられる赤外線の強度(放射エネルギー密度)は、約1000nm~1100nmの帯域にわたる急峻な山形の特性と、約1200nm~2500nmの帯域にわたるブロードな山形の特性をもつ。後者のブロードな山形の特性に着目すると、ピーク点の波長は約1800nmであり、温度1500℃の黒体から放射されるエネルギー密度のピーク点の波長(約1800nm)と概ね近似している。
【0035】
このことから、被加工物Wの材質として想定され得る複数種類の金属について、それぞれの融点を指標とすることにより、
図2のグラフを参照して、単一のフォトダイオード56を用いるレーザ加工モニタ法における実用上の最適な波長帯域を決定することができる。一例として、レーザ溶融加工の主な材料である鉄系金属、銅系金属、アルミ系金属の融点がそれぞれ概ね1500℃前後、1000℃前後、600℃前後であることから、
図2において1.3μm(1300nm)~2.5μm(2500nm)の帯域を光センサ50によって光電変換される波長帯域としてよい。
【0036】
再び
図1において、センサユニット30内の増幅・出力回路70より出力されたセンサ出力信号CSは、電気ケーブル18を介して装置本体側のセンサ信号処理部26に伝送される。センサ出力信号CSは、A/D変換器82によりディジタル信号に変換され、演算処理部84でディジタルの信号処理を受ける。
【0037】
演算処理部84は、特定の演算処理を高速に行えるハードウェアまたはミドルウェアの演算処理装置、好ましくはFPGA(フィード・プログラマブル・ゲートアレイ)からなる。演算処理部84は、データメモリ88を用いてセンサ出力信号CSの瞬時的な電圧値を放射光の強度を表すカウント値(相対値)に換算し、換算値をディジタルの波形データDCSとして生成する。生成された波形データDCSは、データメモリ88に保存される。演算処理部84は、波形データDCSに基づいて、制御部14を介して操作パネル22の表示部22aのディスプレイ上にセンサ出力信号CSの波形を表示する。あるいは、演算処理部84は、後述する良否判定の処理も実行して、判定結果をセンサ出力信号CSの波形と一緒に表示するようになっている。制御部14は、演算処理部84から与えられた波形データDCSおよび判定結果のデータを映像信号に変換して操作パネル22の表示部22aのディスプレイ上にセンサ出力信号CSの波形や判定結果情報等の画像を表示する。
【0038】
このように、この実施形態のレーザ加工モニタ部24によれば、被加工物の加工点が溶融状態に達する際の放射光(赤外線)をモニタリングの対象としている。そして、放射光を温度換算せずに、加工時の放射光量の変化を特定の帯域における瞬時的な積分値またはカウント値に換算して表示することにより、被加工物の加工状況を波形として可視化するようにしている。
【0039】
操作パネル22は、たとえば、液晶ディスプレイからなる表示部22aと、キーボード式またはタッチパネル式の入力部22bとを有し、制御部14の表示制御の下で設定画面、モニタ画面、メンテナンス画面等を表示する。たとえば、設定画面の一つとして、レーザ光LBの設定条件に対応するレーザ出力波形を表示部22aのディスプレイ上に表示する。また、モニタ画面の一つとして、表示部22aのディスプレイ上に、たとえば後述する
図4~
図6に示すように、レーザ加工モニタ部24において強度変化を損なわずに取得した非常に精細なセンサ出力信号の波形を可視化して表示する。さらには、メンテナンス画面の一つとして、光学センサ50の出力に対するゲイン調整(ディジタルゲイン調整)を画面上で行えるようになっている。
【0040】
[レーザ加工モニタ部のモニタリング機能]
本発明者らは、この実施形態におけるレーザ加工モニタ部24のモニタリング機能を検証するために、
図4~
図6にそれぞれ示すような実験1,2,3を行った。各図に示す波形は、操作パネル22の表示部22aのモニタ画面上に表示されたセンサ出力信号CSの波形である。波形の中で細かなジグザグを描いている部分は、加工点付近で金属の溶融が生じ、溶融池の波面からの放射光乱れが検出されていることを示している。時間軸上で右肩上がりに増大する波形がピークに達した時点はレーザ光LBの照射を止めた時点であり、この時点から波形が立ち下がる。
【0041】
実験1(
図4)は厚さ1.0mmのステンレス鋼板(SUS304)W1,W2を横に2枚並べたものを被加工物Wとし、パルスレーザ光を用いて突き合せ溶接を行った。この突き合せ溶接においては、レーザビームのスポット径を0.3mm、レーザ出力を500W、パルス幅を20ミリ秒とした。そして、被加工物W1,W2間にギャップ(隙間)がない場合(a)と、スポット径0.3mmの30%値である0.09mmのギャップがある場合(b)とで、被加工物(W1,W2)の突き合せ溶接の加工特性に対するギャップ(特定要因)の影響をレーザ加工モニタ部24においてどのように監視・解析できるかを検証した。
【0042】
突き合せ部にギャップがない場合(a)の波形とギャップがある場合(b)の波形とを比較する。前者(a)は波形の立ち上がり開始直後の検出開始点が高く、波形の立ち下りが比較的緩やかである特性を有している。一方、後者(b)は波形の立ち上がり開始直後の検出開始点が低く、波形の立ち下りが比較的急峻である特性を有している。この現象は、以下のことを示している。すなわち、突き合せ部にギャップがある場合(b)には、金属のない箇所(ギャップ)にもレーザ光が入射されるので、照射点でのスポット径に対してギャップが存在することにより溶融池を形成する溶融金属量が少なくなる現象が生じる。溶融池付近から検出される放射光にも溶融金属量の差が放射光量の差になって現れて、波形の立ち上がり直後の検出開始点が低くなる。また、ギャップを透過する透過光と共に蒸発金属が飛んでしまう現象により、溶融金属量が少なくなるので、ギャップがある場合には、波形の立ち下りが速く検出される。
【0043】
実験2(
図5)は、厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS304)W1,W2を2枚重ねたものを被加工物Wとし、パルスレーザ光を用いて重ね溶接を行った。この重ね溶接においては、レーザビームのスポット径を0.3mm、レーザ出力を500W、パルス幅を45ミリ秒とした。そして、被加工物(W1,W2)間にギャップがない場合(a)と被加工材(W1,W2)間にスポット径0.3mmの20%値である0.06mmのギャップがある場合(b)とで、被加工物(W1,W2)の重ね溶接の加工特性に対するギャップ(特定要因)の影響の有無ないし程度をどのように監視・解析できるかを検証した。
【0044】
この重ね溶接において0.06mmのギャップがある場合(b)とない場合(a)とを比較する。波形の右肩上り部分においては放射光の強度変化を識別しにくいものであったが、波形の立ち下り部分、すなわちパルスレーザの照射を止めた後においては、ギャップがある場合(b)の方が、ギャップがない場合(a)よりも、波形の立ち下りが緩やかであった。この現象は、以下のことを示している。すなわち、重ね溶接において、被加工材にギャップがない場合(a)は、照射レーザ光が1枚目の金属W1を溶融して貫通した後にそのまま2枚目の金属W2を溶融に移行するように作用すると考えられる。一方で、被加工材に微小なギャップがある場合(b)には、ギャップに存在する空気層の影響により被加工材における熱引きが金属層間にギャップがない場合(a)と比べて遅れることにより波形の立ち下りが緩やかに検出される。
【0045】
実験3(
図6)は、厚さ0.3mmのステンレス鋼SUS304の板材W1,W2を隙間なく2枚重ねたものを被加工物Wとし、パルスレーザ光を用いて重ね溶接を行った。この重ね溶接においては、レーザビームのスポット径を0.3mmとし、レーザ出力およびパルス幅をパラメータとした。すなわち、レーザ出力については、300W~550Wまで50W刻みで6段階の値を選択し、パルス幅について25ミリ秒、35ミリ秒、45ミリ秒の3段階の値を選択した。そして、被加工物(W1,W2)の重ね溶接の加工特性に対するレーザ出力(第1の特定要因)およびパルス幅(第2の特定要因)の影響をどのように監視・解析できるかを検証した。
【0046】
図6から、レーザ光LBのレーザ出力設定値を大きくするほどセンサ出力信号CSの波形により示される放射光強度も比例して増大し、かつ、レーザ光LBのレーザ出力設定値を大きくするほどセンサ出力信号CSの波形の立ち下りが遅れることが分かる。さらに、パルス幅を大きくするほどセンサ出力信号の波形により表示される放射光強度(特に立ち下り直前の最大ピーク値)がより高くなるという相関性が看取できる。これにより、レーザ加工における被加工物からの放射光が、数十W単位、10ミリ秒単位で、正確に検出される。
【0047】
上記のように、この実施形態のレーザ加工モニタ部24によれば、レーザ加工時に操作パネル22のモニタ画面上に表示されるセンサ出力信号CSの波形特性から当該レーザ加工におけるレーザ光LBの作用の監視・解析、当該レーザ加工の加工状態または加工品質に関係する所定の要因の影響度の監視・解析、当該レーザ溶接加工についての良否判定等を簡明かつ精細に行うことができる。
【0048】
[校正部の構成及び作用]
ところで、この実施形態のレーザ加工モニタ部24は、加工ヘッド20に組み込まれたセンサユニット30に受光素子または光センサ50を内蔵している。しかしながら、この光センサ50を構成するフォトダイオード56の光電変換特性は、不可避的に経時変化を生ずるだけでなく周囲温度等の環境条件によっても左右される。フォトダイオード56の光電変換特性が変わると、被加工物W側から同じ光強度の被測定光LMを受光しても、それを光電変換して得られるアナログのセンサ出力信号CSの値が変わる。そのため、センサ信号処理部26が如何に高性能なものであっても、モニタ画面上に提供されるセンサ出力信号CSの波形情報の精度および信頼性は低く、レーザ加工について精細な監視・解析や適確な良否判定ができない。
【0049】
この問題に対処するために、本実施形態のレーザ加工モニタ部24は、センサ50の光電変換特性の経時変化や環境条件に応じた変動に対して精度および信頼性の高い校正を可能とする校正部32を備えている。以下、校正部32の構成および作用について詳しく説明する。
【0050】
図1に示すように、校正部32は、センサユニット30の内外に設けられる基準光源100、基準光源電源102、光測定器104および光路切替部105により構成されている。
【0051】
基準光源100は、被測定光LMの波長を含む赤外線を発生する光源であり、好ましくは
図2の理想黒体の放射スペクトル分布に近い放射特性を有する。
【0052】
図7Aに、基準光源100の好適な構成例を示す。この基準光源100は、黒体放射の可能な赤外線発光素子110を有している。この赤外線発光素子110は、表層部が晶質体で構成されている発光ダイオードからなり、該晶質体の表面には黒体層(黒体膜)が析出形成されている。この黒体層表面は好ましくは樹枝状に形成され、樹枝状表面から多方向に放射光が発せられることにより、結果的に放射方向に偏在がなく、信頼性の高い基準光が得られ、かつ極短時間での発熱(発光)が可能である。また、樹枝状表面の表面積が大きくて放熱性が高いため、発光停止時の熱の拡散速度も速く、繰り返し使用時にも出力低下のない安定的な黒体光源として使用できる。この基準光源100において、107はコリメートレンズ、112は筐体、114は内部電気配線、115はコネクタ、116は回路基板、118は筒状保持部、120は開口部、122はサーミスタ、124は保護ガラス、126は永久磁石(ユニット30に筐体112を脱着可能に固着するためのもの)である。
【0053】
図7Bの基準光源100は、筒状保持部118を軸方向に拡張してその中に拡散板128を配置している。それ以外の構成は、
図7Aのものと同じである。赤外線発光素子110の発光面より一定の広がり角で出射される光(基準光)は、拡散板128を透過して外へ出ることで、指向性の高い放射光になる。したがって、コリメートレンズ(107)が不要となる。
【0054】
再び
図1において、基準光源電源102は、基準光源100に供給する可変の励起電力を通じて、基準光源100の発生する基準光のパワーおよび発振モード(連続波または繰り返しパルス)を任意に制御することができる。光測定器104は、周知のパワーメータまたは光量計でよく、受光部104aで受光した光のパワーまたは光束を測定してその測定値を本体104bのディスプレイ104cに数値で表示するようなっている。
【0055】
光路切替部105は、被加工物Wの加工点Qと光センサ50とを光学的に結ぶ第1の光路K1、基準光源100と光センサ50とを光学的に結ぶ第2の光路K2または基準光源100と光測定器104の受光部104aとを光学的に結ぶ第3の光路K3を選択するために切り替えられるようになっている。
【0056】
この切替機能を実現するために、光路切替部105は、第1の光路K1を選択するために第1の光路K1から退避する第1の位置P1(
図1)と、第2の光路K2を選択するために第1の光路K1を遮断して基準光源100からの基準光を光センサ50に向けて反射する第2の位置P2(
図8)と、第3の光路K3を選択するためにその光路K3から退避する第3の位置P3(
図9)との間で移動可能な1個(または複数個)の折り返しミラー106を有している。
【0057】
この実施形態においては、光路切替部105が、センサユニット30の筐体内でダイクロイックミラー58と集光レンズ48との間に設けられる。基準光源100と光測定器104の受光部104aとが、光路切替部105に隣接してセンサユニット30の筐体の側壁に取り付けられる。光測定器104の受光部104aの前に、光センサ50のバンド・パス・フィルタ54と同一または同様の波長選択特性を有する光学フィルタ103を配置してもよい。基準光源電源102および光測定器104の本体104bは、センサユニット30の外に設けられる。
【0058】
次に、校正部32の作用について説明する。校正部32には、当該レーザ加工装置の稼働状況や現場関係者の判断等によって選択される3つのモードがある。すなわち、レーザ加工のモニタリング中に光センサ50の受光および光電変換に干渉しない第1モード、基準光源100を用いて光センサ50の校正を行う第2モードおよび光測定器104を用いて基準光源100の校正を行う第3モードがある。
【0059】
第1モードでは、上記のように、光路切替部105の折り返しミラー106を
図1に示す第1の位置P1に切り替える。基準光源100、基準光源電源102および光測定器104はオフ状態に置かれる。装置本体側では各部が動作し、特にセンサ信号処理部26、制御部14および操作パネル22では上記のようにセンサ出力信号CSにする波形表示処理が行われる。
【0060】
第2モードは、レーザ加工モニタリングの合間に随時または定期的に選択(実施)される。このモードでは、光路切替部105の折り返しミラー106を
図8に示す第2の位置P2に切り替えるとともに、基準光源電源102をオンにして基準光源100より基準光を発生させる。この時、基準光源電源102は、今回の第2のモードに先立つ第3のモードで調整または更新されたボリューム位置の励起電力を基準光源100に供給する。
【0061】
第2モードでは、装置本体側でも、レーザ発振器10およびレーザ電源12を除いて各部を動作させる。もっとも、センサ信号処理部26、制御部14および操作パネル22は、センサユニット30より送られてくるセンサ出力信号CSに対して、第1のモードにおけるような波形表示処理の機能ではなく、パワーまたは光束の測定値(測定カウント値)を数値で表示してゲイン調整を行うための校正機能に切り替えられる。
【0062】
第2モードにおいて、基準光源100より放射される基準光は、第2の光路K2を通って光センサ50に導かれる。より詳しくは、基準光源100より水平方向に放射された基準光は、光路切替部105の折り返しミラー106によって垂直上方に折り返される。そして、垂直上方に折り返された基準光は集光レンズ48を介して光センサ50のバンド・パス・フィルタ54に入射し、このフィルタ54を通り抜けた特定波長帯域の光がフォトダイオード56に入射する。フォトダイオード56は、受光した基準光の中から選択した波長を光電変換してアナログのセンサ出力信号CSを出力する。このセンサ出力信号CSは、上記と同様に後段の増幅・出力回路70で増幅されてから電気ケーブル18を介して装置本体側のセンサ信号処理部26に送られる。
【0063】
センサ信号処理部26では、A/D変換器82によりディジタル信号に変換されたセンサ出力信号CSに基づいて、センサ信号処理部26が光センサ50によって光電変換された基準光の光強度または光束の測定値つまり測定カウント値を演算して、データメモリ88に格納する。制御部14は、データメモリ88から測定カウント値を読み出し、操作パネル22の表示部22aのディスプレイ上に測定カウント値を表示する。
【0064】
第2モードを実施する現場関係者は、表示部22aのモニタ画面(メンテナンス画面)に表示された測定カウント値を読み取る。現場関係者は、測定カウント値が所定の基準カウント値に一致するように、操作パネル22上の入力操作により、光センサ50の出力に対するゲイン調整またはオフセット調整を行う。
【0065】
第3モードは、レーザ加工モニタリングの合間またはその最中に随時または定期的に選択(実施)され、第2のモードの直前に選択(実施)される。このモードでは、光路切替部105の折り返しミラー106を
図9に示す第3の位置P3に切り替えるとともに、基準光源100、基準光源電源102および光測定器104をそれぞれオンにする。装置本体側の各部はすべてオフ状態を保つ。基準光源100より放射される基準光は、第3の光路K3を通って光測定器104の受光部104aに入射する。この時、基準光源電源102は、前回の第3のモードで調整(更新)されたボリューム位置の励起電力を基準光源100に供給する。
【0066】
第3モードを実施する現場関係者は、光測定器104のディスプレイ104cに表示される基準光の測定値を読み取り、その測定値が光センサ50の出力として予め設定されている絶対基準値に一致するかどうかをチェックする。現場関係者は、不一致であれば、測定値と絶対基準値とが一致するように基準光源電源102のボリューム位置を調整(更新)する。こうして、基準光源100より放射される基準光の光強度が、光測定器104を介して絶対基準値に校正される。なお、通常の光測定器104は別途校正管理することで、その測定精度が保証されている。
【0067】
基準光源100は上記のように発光ダイオード等の半導体素子からなり、その電光変換特性が不可避的に経時変化を生じ、あるいは環境条件に応じて変動する。したがって、基準光源電源102より定常的に一定の励起電力が基準光源100に供給されるときは、却って基準光源100より放射される基準光の光強度が不所望かつ不定に変化する。この実施形態の校正部32によれば、第3モードにより基準光源100の電光変換特性の変化や変動を随時またはこまめに補正できる。そのため、第2モード(光センサ50の校正)の際には常に基準光源100より精度の高い基準光を光センサ50に与えることができる。
【0068】
上記のように、この実施形態のレーザ加工モニタ部24は、センサユニット30に内蔵される光センサ50の校正に装置備え付けの基準光源100を使用し、さらに基準光源100を装置備え付けの光測定器104で校正するようにしている。このレーザ加工モニタ部24においては、基準光源100の電光変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正することができる。また、光センサ50の光電変換特性が経時変化しあるいは環境条件によって変動してもこれを適時・適確に補正することができる。これにより、光センサ50に対する校正の精度、再現性および作業性を大きく改善し、モニタリング性能を飛躍的に向上させることができる。また、光センサ50の校正基準値を光測定器104の絶対基準値とするので、機差のないモニタリング性能を得ることができる。
【0069】
さらに、この実施形態では、センサユニット30内で光センサ50の近くに光路切替部105を設けるとともに、光路切替部105に隣接してセンサユニット30の筐体の側壁に基準光源100および光測定器104の受光部104aを取り付けている。これにより、センサユニット30の分解や光センサ50の取り外しを伴わずに光センサ50の光電変換特性に絞った校正を簡便かつ安全に行うことができる。また、レーザ加工現場において、センサユニット30内の光センサ50およびモニタ光学系を周囲の塵埃環境に晒すことなく、光センサ50の校正および基準光源100の校正を日常点検または定期点検でこまめに行うことができる。
【0070】
[光路切替部の好適な構成例]
上記したように、この実施形態のレーザ加工モニタ部24では、センサユニット30内に光センサ50と一緒に(好ましくはその近くに)光路切替部105が設けられている。以下に、
図10~
図16Cを参照して、光路切替部105の好適な構成例を説明する。
【0071】
図10および
図11に、センサユニット30の要部の外観構成を示す。図示のセンサユニット30の筐体は、下から上に向かって縦一列に接続される下部円筒部130、中間角筒部132、上部円筒部134およびセンサボックス136によって構成されている。
【0072】
下部円筒部130の中には、モニタ光学系の折り返しミラー46およびダイクロイックミラー58(
図1)が収容される。中間角筒部132の側壁には、基準光源100および光測定器104の受光部104aが取り付けられるとともに、回転ノブ138が回転可能に設けられる。ここで、基準光源100と回転ノブ138は、互いに向き合って中間角筒部132の対向する側面に位置している。光測定器104の受光部104aは、中間角筒部132の周回方向において基準光源100と回転ノブ138との間の側面に位置している。この構成例による光路切替部105は、中間角筒部132の中に設けられる。上部円筒部134の中にはモニタ光学系の集光レンズ48(
図1)が収容される。センサボックス136の中には光センサ50が収容される。
【0073】
このように、基準光源100および光測定器104の受光部104aがセンサユニット30の内側に収容されるのではなく外から側壁に取り付けられ、光路切替部105の回転ノブ138もセンサユニット30の側壁の外に設けられている。校正部32を装備することでセンサユニット30の内部空洞(光路)のサイズ(特に横幅サイズ)が実質的に増すわけではない。
【0074】
【0075】
図12および
図13に示すように、光路切替部105は筒状のミラー支持体140と複数のミラーを有し、ミラーに対向する孔がある。具体的にミラー支持体140は、第1の光路K1と直角に交差する方向(X方向)に延びていて、軸線HXの回りに回転可能になっている。ミラー支持体140の一方の端面140aには端面開口142が形成されている。端面開口142が基準光源100の放射を臨むように取り付けられる。反対側の端面140bは閉塞され、この端面140bの中心部から回転軸144が軸線HX上(X方向)に突出している。回転ノブ138は、センサユニット30の外側で回転軸144の先端に取り付けられる。
【0076】
ミラー支持体140の側面には、周回方向に間隔を置いて3つの側面開口146,148,150が形成されている。第1および第2の側面開口146,148は互いに向き合い、両者の中間に第3の側面開口150が位置している。
【0077】
ミラー支持体140の内側には、端面開口142と対向する端面140bの内側に第1の折り返しミラー106Aが設けられるとともに、第3の側面開口150と対向する側面の内側に第2の折り返しミラー106Bが設けられている。ここで、第1の折り返しミラー106Aは、基準光源100より端面開口142を通って導入される基準光を斜めの入射角で受けて所定の方向つまり第2の折り返しミラー106Bに向けて反射するように所定の傾斜角で配置されている。一方、第2の折り返しミラー106Bは、第1の折り返しミラー106Aからの基準光を斜めの入射角で受けて第3の側面開口150の外に向けて反射するように所定の傾斜角で配置されている。
【0078】
図16A~
図16Cに示すように、基準光源100は筒状の取付部材160を介して中間角筒部132の側壁に固定される。取付部材160とミラー支持体140の先端部との間には軸受162が設けられている。一方、ミラー支持体140の回転軸144と中間角筒部132の側壁との間に軸受164が設けられている。センサユニット30の外で回転ノブ138を回すと、中でミラー支持体140が両軸受162,164に支持されながら軸線HXの回りで回転するようになっている。
【0079】
ミラー支持体140の回転位置は、校正部32の3種類のモードに応じて3通り(または2通り)に選択される。第1モードでは、第1の光路K1を選択するために、第1および第2の側面開口146,148が垂直方向で相対向して第1の光路K1上に位置するように、ミラー支持体140の回転位置が選択または調整される。
【0080】
図16Aに、第1モードにおける光路切替部105の各部の位置関係を示す。この場合、第1および第2の折り返しミラー106A,106Bは第1の位置P1にセットされる。ここで、第2の折り返しミラー106Bは、第1の折り返しミラー10
6Aと同様に起立した姿勢をとって第1の光路K1の傍らに退避する。
【0081】
ダイクロイックミラー58(
図1)を透過して下部円筒部130内を伝播してきた被測定光は、光路切替部105において下側の側面開口148からミラー支持体140の中に入る。ミラー支持体140の中に入った被測定光は、第1および第2の折り返しミラー106A,106Bの傍を通り抜け、上側の側面開口146からミラー支持体140の外へ抜け出る。こうして光路切替部105を通り抜けた被測定光は、そのまま上部円筒部134内を伝播し、集光レンズ48を通って光センサ50に入射する。
【0082】
第2モードでは、第2の光路K2を選択するために、第3の側面開口150が光センサ50と対向するように、ミラー支持体140の回転位置が選択または調整される。
【0083】
図16Bに、第2モードにおける光路切替部105の各部の位置関係を示す。この場合、第1および第2の折り返しミラー106A,106Bは第2の位置P2にセットされる。ここで、第2の折り返しミラー106Bは、Z方向に最も低い位置をとり、第3の側面開口150を介して直上の光センサ50と対向する。第1の折り返しミラー106Aは、光路切替部105の回転に連動し、斜め下向きになり基準光源100と向き合う。
【0084】
基準光源100から放射された基準光は、端面開口142からミラー支持体140の中に入ると、そのまま直進して内奥の第1の折り返しミラー106Aに斜めの入射角で入射し、そこで斜め下方に反射して第2の折り返しミラー106Bに斜めの入射角で入射する。そして、第2の折り返しミラー106Bに入射した基準光は、そこで垂直上方に向けて反射し、第3の側面開口150から外へ出る。こうして第3の側面開口150から外に出た基準光は、そのまま上部円筒部134内を伝播し、集光レンズ48を通って光センサ50に入射する。
【0085】
第3モードでは、第3の光路K3を選択するために、第3の側面開口150が光路切替部105の真横に位置している光測定器104の受光部104aと水平方向(Y方向)で対向するように、ミラー支持体140の回転位置が選択または調整される。
【0086】
図16Cに、第
3モードにおける光路切替部105の各部の位置関係を示す。この場合、第1および第2の折り返しミラー106A,106Bは第3の位置P3にセットされる。ここで、第2の折り返しミラー106Bは、Y方向に反射面が設定されて、第3の側面開口150を介して真横に位置する光測定器104の受光部104aと対向する。第1の折り返しミラー106Aは、光路切替部105の回転に連動し、基準光源100と向き合う。
【0087】
基準光源100からの基準光は、端面開口142を通ってミラー支持体140の中に入ると、そのまま直進して正面内奥の第1の折り返しミラー106Aに斜めの入射角で入射し、そこで斜め横に反射して第2の折り返しミラー106Bに斜めの入射角で入射する。そして、第2の折り返しミラー106Bに入射した基準光は、さらに斜め横(Y方向)に反射し、第3の側面開口150から外へ出る。こうして基準光は、回転軸線HXと直交する水平方向(Y方向)に光路切替部105から抜け出て、光測定器104の受光部104aに入射する。
【0088】
なお、上述した説明ではミラー支持体140の回転位置が第1モードと第3モードとで180°違っていたが、同じ(共通)にすることも可能である。すなわち、
図16Aに示す回転位置から180°回転させると、ミラー支持体140の回転位置は
図16Cと同じになる。このようにミラー支持体140の第1モードにおける回転位置(第1の位置P1)と第3モードにおける回転位置(第3の位置P3)とを同じ(共通)に設定することで、第1モード(レーザ加工のモニタリング)と第3モード(基準光源100の校正)を同時に実施することも可能である。
【0089】
この場合は、
図16Cに示すように、光路切替部105内部の中心付近で、第2の折り返しミラー106Bから光測定器104の受光部104aに向かう横方向の第3の光路K3と下方のダイクロイックミラー58を通り抜けて上方の光センサ50に向かう縦方向の第1の光路K1とが垂直に交差するが、相互に干渉することはない。
【0090】
この構成例の光路切替部105は、上記のように端面および側面に複数の開口を有する回転可能な筒状のミラー支持体140の内部に折り返しミラー106(106A,106B)を搭載している。ミラー支持体140の回転位置を選択または調整することにより、折り返しミラー106(106A,106B)を第1、第2および第3の位置P1,P2,P3に選択的に移動させている。これにより、第1、第2および第3の光路K1,K2,K3を択一的に、または第1および第3の光路(K1,K3)もしくは第2の光路K2のいずれかを選択できるようにしている。かかる構成によれば、センサユニット30の限られた空洞内で所要の光路選択または切替を効率的かつスムーズに行うことができる。
【0091】
[他の実施形態又は変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0092】
たとえば、光路切替部105、基準光源100および光測定器104の受光部104aの配置構成を種種変形または変更することは可能である。すなわち、基準光源100および光測定器104の受光部104a、光路切替部105のいずれかまたは全部をセンサユニット30内または加工ヘッド20内で光センサ50から離して設ける構成や、基準光源100および光測定器104の受光部104aの少なくとも一方をセンサユニット30に脱着可能に取り付ける構成も可能である。
【0093】
さらには、
図17に示すように、センサユニット30に基準光源100を脱着可能に取り付けるとともに、光測定器104の受光部104aをセンサユニット30から分離して配置し、センサユニット30の外で基準光源100の校正を行うことも可能である。
【0094】
あるいは、上記好適な構成例(
図10~
図16C)の光路切替部105を備える場合は、第3モードにおける第1および第2の折り返しミラー106A,106Bの第3の位置P3を第2の位置P2と上下反転する位置(つまり第2の折り返しミラー106Bの反射面が第3の側面開口150を介して直下のダイクロイックミラー58側を向く位置)に設定することも可能である。この場合、光測定器104の受光部104aは、出射ユニット28のレーザ出射口の近傍に配置される。これによって、第3の光路K3は、基準光源100→光路切替部105→ダイクロイックミラー58→折り返しミラー46→ユニット接続開口45→ダイクロイックミラー40→集束レンズ42→保護ガラス44→光測定器104の受光部104aとなる。
【0095】
また、センサユニット30において、基準光源100と光測定器104の受光部104aとを、光路切替部105を挟んで対向させ、光路切替部105の折り返しミラー106を1個で済ますこともできる。この場合、単一の折り返しミラー106を、第1の光路K1を選択するために第1の光路K1から退避する第1の位置P1と、第2の光路K2を選択するために傾斜角45°で第1の光路K1を遮断して基準光源100からの基準光を光センサ50に向けて反射する第2の位置P2との間で移動可能とする構成を採ることができる。更に、この場合は、折り返しミラー106の第1の位置P1を第3の光路K3からも退避する位置に設定することで、第1の位置P1と第3の位置P3とを共通にすることもできる。
【0096】
上記実施形態のレーザ加工装置は、センサユニット30を出射ユニット28に一体結合して加工ヘッド20に組み込んでいる。しかし、センサユニット30を出射ユニット28から分離して独立のユニットとし、被加工物Wに向けて加工ヘッド20または出射ユニット28の近くに配置する構成も可能である。
【0097】
そのようにセンサユニット30を独立ユニットとする場合は、被加工物Wの加工点Q付近で発生または反射する被測定光を直接取り込むように、センサユニット30のモニタ光学系の前段(ユニット端面)に入射窓が設けられる。そして、この場合は、光測定器104の受光部104aだけでなく基準光源100もセンサユニット30の外で使用することができる。すなわち、第2のモードにおいて、センサユニット30の入射窓に外から基準光源100の放射面を当て(向け)、基準光源100より放射される基準光を入射窓からセンサユニット30の中に取り込み、取り込んだ基準光を内部のモニタ光学系を介して内奥の光センサ50に受光させることが可能である。これによって、センサユニット30から光路切替部(105)を省くことができる。
【0098】
上記実施形態におけるレーザ加工モニタ部24は、被加工物Wの加工点Q付近から放射される赤外線を被測定光とした。しかし、被加工物Wの加工点Q付近から放射されるプラズマ光や加工点Q付近からの反射光(加工用のレーザ光が反射したもの)あるいは可視光を被測定光とすることも可能である。したがって、基準光源100は黒体放射光源に限定されず、被測定光の波長帯域に応じた放射特性を有する各種発光ダイオードまたは半導体レーザを使用できる。その場合、基準光源100と光センサ50とを光学的に結ぶ第2の光路K2上には、使用する基準光源の放射特性あるいは被測定光の波長に応じた波長選択特性のバンド・パス・フィルタまたは光学フィルタを設けることができる。
【0099】
本発明のレーザ加工モニタ方法または装置は、レーザ溶接を行うレーザ加工装置への適用に限定されず、他のレーザ加工たとえばレーザ切断、レーザろう付け、レーザ焼入れ、レーザ表面改質等を行うレーザ加工装置にも適用可能である。
【0100】
本願の開示は、2020年4月7日に出願された特願2020-068853号に記載の主題と関連しており、それらの全ての開示内容は引用によりここに援用される。