IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アーステクニカの特許一覧

特許7308364旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法
<>
  • 特許-旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法 図1
  • 特許-旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法 図2
  • 特許-旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法 図3
  • 特許-旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法 図4
  • 特許-旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法 図5
  • 特許-旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】旋動式破砕機並びにその故障予兆診断装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 2/06 20060101AFI20230706BHJP
   B02C 25/00 20060101ALI20230706BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230706BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230706BHJP
【FI】
B02C2/06
B02C25/00 B
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022538032
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027233
(87)【国際公開番号】W WO2022019317
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2020123710
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503245465
【氏名又は名称】株式会社アーステクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木島 崇
(72)【発明者】
【氏名】小林 純
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寿恭
(72)【発明者】
【氏名】増田 貴行
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153120(JP,A)
【文献】特開2019-202245(JP,A)
【文献】特開2001-17880(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0175199(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107638900(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 2/06
B02C 25/00
G01H 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータにより回転駆動される横軸、前記横軸に配置されたベベルピニオン、及び、前記偏心スリーブに配置されて前記ベベルピニオンと噛合するベベルギヤを含み、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構と、を備える旋動式破砕機の故障予兆診断装置であって、
前記ベベルピニオン及び前記ベベルギヤの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を取得し、前記破砕室に被破砕物が供給されない無破砕負荷期間に検出された前記噛合振動加速度を時系列に並べた噛合振動加速度波形を求め、前記噛合振動加速度波形の解析結果に基づいて故障の予兆の有無を診断する、
旋動式破砕機の故障予兆診断装置。
【請求項2】
前記旋動式破砕機の破砕負荷を取得し、前記破砕負荷が所定の負荷閾値を下回る期間を前記無破砕負荷期間と見做し、当該無破砕負荷期間に前記噛合振動加速度のサンプリングを行う、
請求項1に記載の旋動式破砕機の故障予兆診断装置。
【請求項3】
前記噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、分析周波数帯全体のスペクトルの合算値を求め、前記合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、前記合算値が前記診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断する、
請求項1又は2に記載の旋動式破砕機の故障予兆診断装置。
【請求項4】
前記噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、或る特定の周波数帯のスペクトルの合算値を求め、前記合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、前記合算値が所定の診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断する、
請求項1又は2に記載の旋動式破砕機の故障予兆診断装置。
【請求項5】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータにより回転駆動される横軸、前記横軸に配置されたベベルピニオン、及び、前記偏心スリーブに配置されて前記ベベルピニオンと噛合するベベルギヤを含み、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構とを備える旋動式破砕機の故障予兆診断方法であって、
前記ベベルピニオン及び前記ベベルギヤの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を取得し、
前記破砕室に被破砕物が供給されない無破砕負荷期間に検出された前記噛合振動加速度を時系列に並べた噛合振動加速度波形を求め、
前記噛合振動加速度波形の解析結果に基づいて故障の予兆の有無を診断する、
旋動式破砕機の故障予兆診断方法。
【請求項6】
破砕負荷を取得し、前記破砕負荷が所定の負荷閾値を下回る期間を前記無破砕負荷期間と見做し、当該無破砕負荷期間に前記噛合振動加速度のサンプリングを行う、
請求項5に記載の旋動式破砕機の故障予兆診断方法。
【請求項7】
故障の予兆の有無を診断することが、前記噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、分析周波数帯全体のスペクトルの合算値を求め、前記合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、前記合算値が前記診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断することを含む、
請求項5又は6に記載の旋動式破砕機の故障予兆診断方法。
【請求項8】
故障の予兆の有無を診断することが、前記噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、或る特定の周波数帯のスペクトルの合算値を求め、前記合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、前記合算値が所定の診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断することを含む、
請求項5又は6に記載の旋動式破砕機の故障予兆診断方法。
【請求項9】
主軸と、
前記主軸に固定されたマントルと、
前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、
前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、
前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータにより回転駆動される横軸、前記横軸に配置されたベベルピニオン、及び、前記偏心スリーブに配置されて前記ベベルピニオンと噛合するベベルギヤを含み、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構と、
前記ベベルピニオン及び前記ベベルギヤの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を検出する噛合振動検出器と、
請求項1~4のいずれか一項に記載の旋動式破砕機の故障予兆診断装置と、を備える、
旋動式破砕機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋動式破砕機、旋動式破砕機の故障予兆診断装置、及び、旋動式破砕機の故障予兆診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、破砕室を形成するコンケーブと主軸に固定されたマントルとを備え、主軸を上部懸垂部を支点として偏心旋回運動させて、コンケーブとマントルとの間で被破砕物を噛み込んで圧砕する旋動式破砕機が知られている。このような旋動式破砕機は、鉱山において岩石や鉱石などの破砕に利用されることがある。鉱山では、習熟労働者不足に対応するため、遠隔地での集中監視による省人化操業の検討がなされている。そのため、オートメーション化され且つメンテナンス性の高い旋動式破砕機が求められている。なお、旋動式破砕機における高いメンテナンス性とは、メンテナンスの頻度が低いこと、ダウンタイムが短いことなどが挙げられる。
【0003】
特許文献1では、破砕機の遠隔監視システムが開示されている。このシステムでは、自動運転制御盤と遠隔地にある中央監視盤とが有線又は無線で接続され、中央監視盤が自動運転制御盤の情報をモニタするとともに自動運転制御盤を遠隔操作する。ここで、破砕機の破砕力は、破砕ライナ(コンケーブとマントル)の出口セットの大小及び投入原料の多少により変化し、この変化は破砕圧力やモータ負荷の変化となって現れる。そこで自動運転制御盤は、出口セット検出信号と負荷検出信号とに基づいて出口セットの変化とモータ負荷の変化を検知する。自動運転制御盤は、モータ過負荷やパッキングが生じたときには、アラームを発生し、機械本体の損傷がないよう出口セットを自動的に拡げることにより、モータ負荷を安定させる。中央監視盤では、リアルタイムでの破砕機の運転状態を表す監視画面が表示される。監視画面には、運転データとして現在の出口セットの値やモータ負荷率が表示されるとともに、運転状況に異常がある場合、異常状況の各項目に異常が消えるまで赤ランプが点灯する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-070752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旋動式破砕機では、従来からインターロック回路と称される安全装置が設けられている。この安全装置は、主に補器類(例えば、潤滑油圧装置や電気盤)から作動油の油温、油量、電流量、オイルレベル等のプロセスデータを取得し、これらのプロセスデータが設定された範囲内にある場合にのみ破砕機の運転を許容する。また、安全装置は、これらのプロセスデータが設定された範囲外にある場合には異常警報を発する。
【0006】
上記の特許文献1の中央監視盤や上記の安全装置は、破砕機に異常が発生している状態をオペレータに知らせるものである。オペレータは、異常が発生したことを受けて、直ちに運転を停止させてメンテナンスを開始し、交換部品の発注を行う。しかし、破砕機の交換部品の多くは専用品であって、発注してから入手するまでに時間を要し、ダウンタイムが長期化して生産性が著しく低下するおそれがある。
【0007】
ダウンタイムを短縮するためには、実際に故障が発生する前に故障の予兆をとらえ、故障の予兆が見られた時点でメンテナンスの準備を開始することが有効である。以上のような事情から、本開示はダウンタイムの短縮を達成するために、運転中の破砕機で検出された情報を解析することにより故障の予兆を診断する破砕機及びその故障予兆診断方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る旋動式破砕機は、
主軸と、
前記主軸に固定されたマントルと、
前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、
前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、
前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、
前記駆動モータにより回転駆動される横軸、前記横軸に設けられたベベルピニオン、及び、前記ベベルピニオンと噛合する前記偏心スリーブに設けられたベベルギヤを含み、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構と、
前記ベベルピニオン及び前記ベベルギヤの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を検出する噛合振動検出器と、
故障予兆診断装置と、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係る旋動式破砕機の故障予兆診断装置は、
前記ベベルピニオン及び前記ベベルギヤの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を取得し、前記破砕室に被破砕物が供給されない無破砕負荷期間に検出された前記噛合振動加速度を時系列に並べた噛合振動加速度波形を求め、前記噛合振動加速度波形の解析結果に基づいて故障の予兆の有無を診断する。
【0010】
また、本開示の一態様に係る旋動式破砕機の故障予兆診断方法は、
前記ベベルピニオン及び前記ベベルギヤの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を取得し、
前記破砕室に被破砕物が供給されない無破砕負荷期間に検出された前記噛合振動加速度を時系列に並べた噛合振動加速度波形を求め、
前記噛合振動加速度波形の解析結果に基づいて故障の予兆の有無を診断する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、運転中の破砕機で検出された情報を利用して故障の予兆を診断する破砕機及びその故障予兆診断方法を提案することができる。これにより、破砕機が故障してから回復するまでのダウンタイムの短縮に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る旋動式破砕機の概略構成を示す図である。
図2図2は、破砕機の制御系統の構成を示すブロック図である。
図3図3は、故障予兆診断に関する構成を示すブロック図である。
図4図4は、故障予兆診断装置の処理の流れを示す図である。
図5図5は、無破砕負荷期間の噛合振動加速度波形の周波数分析結果の一例である。
図6図6は、有破砕負荷期間の噛合振動加速度波形の周波数分析結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。図1は本開示の一実施形態に係る旋動式破砕機100の概略構成を示す図である。図1に示す旋動式破砕機100は、ジャイレトリクラッシャ又はコーンクラッシャであって、故障予兆診断装置40及び制御装置50を除いた破砕機100自体の構成は公知である。
【0014】
旋動式破砕機100は、上部フレーム31とそれに連結された下部フレーム32から成るフレーム30を備える。フレーム30の内部空間の中央部には、鉛直方向に延びる機体中心軸線Aが規定されている。フレーム30の上部にはホッパ3が連設されている。ホッパ3へは、供給装置9であるコンベヤから被破砕物が供給される。
【0015】
フレーム30の略中央部には主軸5が配置されている。主軸5の中心軸線は、機体中心軸線Aに対して傾いている。主軸5の上端は、上部軸受17を介して上部フレーム31に支持されている。上部軸受17は、上部フレーム31の上端部から内方へ向けて突出したスパイダ18に設けられている。主軸5の下端は、主軸スラスト軸受2を介して軸受シリンダ6のラム61に支持されている。軸受シリンダ6は、シリンダチューブ62と、シリンダチューブ62内を摺動するラム61とからなる油圧シリンダである。
【0016】
主軸5の下部は、偏心スリーブ4に回転自在に挿入されている。偏心スリーブ4は、下部フレーム32に形成されたボス7に回転自在に挿入されている。偏心スリーブ4の下部は、スラスト滑り軸受23を介して下部フレーム32に支持されている。
【0017】
主軸5の上部には、マントルコア12が固定されている。マントルコア12の外表面は、截頭円錐面となっている。マントルコア12の外表面には、マントル13が取り付けられている。マントル13の外表面は、截頭円錐面となっている。マントル13の外表面は、上部フレーム31の内面に設けられたコンケーブ14の内表面と対峙している。コンケーブ14の内表面とマントル13の外表面とにより、鉛直断面が楔状をなす破砕室16が形成されている。ホッパ3へ供給された被破砕物は、自重で破砕室16へ流れ込む。
【0018】
ボス7の上方には円筒形状の仕切板24が設けられている。この仕切板24によって、偏心スリーブ4及びボス7の上方且つマントルコア12の下方に、油圧室27が形成されている。この油圧室27から、主軸5の外周面と偏心スリーブ4の内周面との間、及び、偏心スリーブ4の外周面とボス7の内周面との間に、潤滑剤が供給される。主軸5の外周面と偏心スリーブ4の内周面との間に形成されたジャーナル滑り軸受を「主軸軸受10」と称し、偏心スリーブ4の外周面とボス7の内周面との間に形成されたジャーナル滑り軸受を「スリーブ軸受11」と称する。そして、主軸軸受10及びスリーブ軸受11により形成された多重軸受を「下部軸受15」と称する。
【0019】
フレーム30の外部には、駆動モータ8が設けられている。駆動モータ8の出力軸8aから偏心スリーブ4へ動力伝達機構20を介して動力が伝達される。動力伝達機構20は、出力軸8aに設けられたプーリ22a、横軸21、横軸21に設けられたプーリ22b、プーリ22a,22bに巻き掛けられた動力伝達ベルト22c、横軸21に設けられたベベルピニオン19a、及び、偏心スリーブ4に設けられたベベルギヤ19bを含む。横軸21は横軸軸受25を介して下部フレーム32に支持されている。偏心スリーブ4が回転すると、主軸5が機体中心軸線Aに対して偏心した旋回運動、いわゆる歳差運動を行う。これにより、マントル13の外表面とコンケーブ14の内表面との距離が主軸5の旋回位置に応じて変化する。破砕室16内に落下してきた被破砕物は、コンケーブ14とマントル13との間で破砕されて、下部フレーム32の下方から破砕品として回収される。
【0020】
上記構成の破砕機100は、故障予兆診断装置40及び制御装置50を備える。制御装置50は、破砕機100の運転を司る。故障予兆診断装置40は、運転中又は立ち上げ運転中の破砕機100で検出された情報に基づいて、破砕機100の故障の予兆の有無を診断する。
【0021】
〔制御装置50〕
図2は、破砕機100の制御系統の構成を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置50には、表示装置58、設定装置59、故障予兆診断装置40、各種の計器52,55,56、及び、制御対象8,9,6が接続されている。本明細書で開示する故障予兆診断装置40及び制御装置50の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせ、を含む回路又は処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見做される。本開示において、回路、ユニット、又は手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、或いは、列挙された機能を実行するようにプログラム又は構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、又はユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【0022】
制御装置50は、被破砕物の供給量を制御する。制御装置50は、供給装置9の駆動モータ9aと無線又は有線で接続されている。制御装置50は、供給装置9の駆動モータ9aに対し目標供給量と対応する指令信号を送信する。駆動モータ9aが、制御装置50からの指令信号に応答して動作することにより、供給装置9からホッパ3へ目標供給量の被破砕物が供給される。
【0023】
制御装置50は、出口セットの値を制御する。出口セット(クローズドセット)は、コンケーブ14とマントル13の二つの破砕面の間隙の最も狭い位置の間隙と規定される。本実施形態に係る破砕機100では、軸受シリンダ6がセット調整装置として機能する。ラム61と共に主軸スラスト軸受2が昇降すると、マントル13がコンケーブ14に対して昇降移動して出口セットの値が変化する。出口セットの値によって、粉砕品の粒度が定まる。
【0024】
軸受シリンダ6のシリンダチューブ62内には、ラム61の変位によって容量の変化する油圧室63が形成されており、この油圧室63に油圧回路90が接続されている。作動油が油圧回路90を通じて油圧室63へ給油されることにより、ラム61が上昇する。また、油圧室63の作動油が油圧回路90を通じて油タンク71へ排油されることにより、ラム61が降下する。制御装置50は、出口セットの値を検出するセットセンサ52と無線又は有線で接続されている。制御装置50は、セットセンサ52で検出された情報を取得し、セットセンサ52で検出される出口セットの値が目標出口セット値となるように、ラム61を昇降させる。制御装置50は、ラム61を昇降させるために、油圧回路90に設けられたポンプモータや電磁弁(いずれも図示略)を動作させて、所望のラム61の位置が得られるようにシリンダ油圧を発生させる。
【0025】
制御装置50は、偏心スリーブ4の回転数を制御する。偏心スリーブ4の回転数は、駆動モータ8によって回転駆動される横軸21の回転数や主軸5の回転数と対応関係にある。制御装置50は、駆動モータ8と無線又は有線で接続されている。制御装置50は、駆動モータ8に対し目標回転数と対応する指令信号を送信する。駆動モータ8が、制御装置50からの指令信号に応答して動作することにより、偏心スリーブ4の回転数が目標回転数となる。
【0026】
〔故障予兆診断装置40〕
図3は、故障予兆診断に関する構成を示すブロック図である。図3に示すように、故障予兆診断装置40には噛合振動検出器43、軸受振動検出器44、及び負荷検出器56が接続されている。噛合振動検出器43は、ベベルピニオン19aとベベルギヤ19bの噛合部の振動加速度を検出する。噛合振動検出器43は、破砕機100の本体(例えば、下部フレーム32や横軸21のスリーブなど)に設けられる。噛合振動検出器43は、下部フレーム32においてベベルピニオン19aとベベルギヤ19bとの噛合部の近傍に設けられていてよい。軸受振動検出器44は、横軸軸受25の振動加速度を検出する。軸受振動検出器44は横軸軸受25に設けられている。負荷検出器56は、駆動モータ8のモータ負荷を検出することにより、破砕負荷を間接的に検出する。負荷検出器56は、モータ電流をモータ負荷の指標とし、駆動モータ8へ供給される電流値(モータ電流)を検出する。
【0027】
ベベルピニオン19aとベベルギヤ19bとの噛合振動加速度を計測し、それを時系列に並べると噛合振動加速度波形が得られる。図6は、有破砕負荷期間の噛合振動加速度波形の周波数分析結果の一例である。図6に示すように、破砕中の噛合振動加速度波形を解析することにより得られたパワースペクトルでは、噛み合いに起因する振動に加えて破砕に起因する振動が含まれる。そのため、破砕中の噛合振動加速度波形から故障の予兆となる特徴周波数成分のみを抽出することは難しい。そこで、故障予兆診断装置40は、破砕室16に被破砕物が供給されない無破砕負荷期間に検出された噛合振動加速度を用いて、故障の予兆の有無を診断する。無破砕負荷期間は、破砕機100の立ち上げ運転時に加えて、定常運転中にも発現し得る。破砕機100は、立ち上げ運転及び定常運転中の無破砕負荷期間を検出し、無破砕負荷期間に噛合振動加速度のサンプリングを行う。
【0028】
図4は、故障予兆診断装置40の処理の流れを示す図である。図4に示すように、故障予兆診断装置40は、破砕機100の立ち上げ運転時及び定常運転時に、負荷検出器56で検出された破砕負荷の値を取得する(ステップS1)。故障予兆診断装置40は、取得した破砕負荷の値と所定の負荷閾値とを比較する(ステップS2)。この負荷閾値は、破砕室16に被破砕物が無く破砕が行われていないと見做せるような破砕負荷の値である。負荷閾値は実験により或いはシミュレーションにより求められたものが、予め故障予兆診断装置40に設定されている。
【0029】
破砕負荷が負荷閾値以上である場合は(ステップS2でNO)、処理はステップS1に戻って、ステップS1とステップS2とが繰り返される。一方、破砕負荷が負荷閾値より小さい場合は(ステップS2でYES)、故障予兆診断装置40は噛合振動検出器43で検出される噛合振動加速度のサンプリングを開始する。
【0030】
故障予兆診断装置40は、噛合振動加速度のサンプリング中においても、破砕負荷の値を取得して監視する(ステップS4)。破砕負荷が負荷閾値より小さい場合は(ステップS5でYES)、サンプリングを開始してから所定のサンプリング時間が経過するまで(ステップS6でNO)、サンプリングを継続する。サンプリング時間は任意に設定可能であり、噛合振動加速度波形を分析するために十分な時間が設定される。
【0031】
一方、故障予兆診断装置40は、破砕負荷が負荷閾値以上となった場合(ステップS5でNO)、及び、サンプリングを開始してからサンプリング時間が経過した場合(ステップS6でYES)、噛合振動加速度のサンプリングを終了する(ステップS7)。故障予兆診断装置40は、サンプリングされた噛合振動加速度を用いて、故障の予兆を診断する(ステップS8)。
【0032】
無破砕負荷期間の噛合振動加速度波形に対しFFTスペクトル処理が行われることにより、噛合振動加速度の周波数分析結果が得られる。図5は、無破砕負荷期間の噛合振動加速度波形の周波数分析結果の一例である。図5に示す噛合振動加速度波形のパワースペクトルでは、噛合周波数において噛み合いによるピークが顕著に表れ、噛合周波数の他の周波数において幾つかの側帯波のピークが表れている。
【0033】
回転機の振動解析において、噛合するギヤに故障が生じると、噛合振動加速度のパワースペクトルに、噛合周波数における噛み合いによるピークの他に側帯波のピークが発生することが知られている。側帯波のピークが生じる周波数や分散状態などを特定することにより、故障箇所や故障原因などを推定する技術も知られている。故障が生じていない場合には、パワースペクトルには際立った側帯波のピークは見られないものの、その予兆は表れ得る。
【0034】
そこで、故障予兆診断装置40は、無破砕負荷期間に噛合振動検出器43で検出された噛合振動加速度を時系列に並べた噛合振動加速度波形を求め、噛合振動加速度波形の解析結果に基づいて故障の予兆の有無を診断する。解析では、噛合振動加速度波形から故障の予兆となる特徴周波数成分が抽出され、抽出された特徴周波数成分が所定のルールで数値化される。故障予兆診断装置40は、このようにして数値化された故障の予兆の程度に基づいて故障の予兆の有無を診断する。例えば、故障予兆診断装置40は、噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、分析周波数帯全体のスペクトルの合算値(オーバーオール値)を求め、合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が所定の診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断する。また、例えば、故障予兆診断装置40は、噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、或る特定の周波数帯のスペクトルの合算値(部分オーバーオール値)を求め、合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が所定の診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断する。
【0035】
故障予兆診断装置40は、故障の予兆が見つかったときには、故障の予兆を報知する。故障の予兆の報知は、例えば、表示装置58を通じて行われる。オペレータは、故障の予兆の報知を受けて、メンテナンスの準備を開始する。メンテナンスの準備では、予備品や関係資材の確保、及び、メンテナンス体制の構築が行われる。メンテナンス体制の構築には、操業計画の見直し、部品交換スケジュールの立案、作業員確保などが含まれる。メンテナンスの準備の期間中、破砕機100は実際に故障が生じるまで或いは故障の可能性が高まるまで操業が継続される。つまり、破砕機100の操業を停止することなく、メンテナンスの準備のための時間を稼ぐことができる。このように、故障が発覚してからメンテナンスの準備を開始する場合と比較して、ダウンタイムを短縮することができる。
【0036】
以上に説明したように、上記実施形態に係る旋動式破砕機100は、
主軸5と、
主軸5に固定されたマントル13と、
マントル13と対峙するように配置され、マントル13との間に破砕室16を形成するコンケーブ14と、
破砕室16へ被破砕物を供給する供給装置9と、
主軸5の下部を下部軸受15を介して支持する偏心スリーブ4と、
偏心スリーブ4を回転駆動する駆動モータ8と、
駆動モータ8により回転駆動される横軸21、横軸21に配置されたベベルピニオン19a、及び、偏心スリーブ4に配置されてベベルピニオン19aと噛合するベベルギヤ19bを含み、駆動モータ8の出力を偏心スリーブ4へ伝達する動力伝達機構20と、
ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を検出する噛合振動検出器43と、
故障予兆診断装置40とを備える。
【0037】
そして、上記実施形態に係る旋動式破砕機100の予兆診断装置40は、ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を取得し、破砕室16に被破砕物が供給されない無破砕負荷期間に検出された噛合振動加速度を時系列に並べた噛合振動加速度波形を求め、噛合振動加速度波形の解析結果に基づいて故障の予兆の有無を診断する。
【0038】
上記の故障予兆診断装置40は、噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、分析周波数帯全体のスペクトルの合算値を求め、合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断してよい。或いは、上記の故障予兆診断装置40は、噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、或る特定の周波数帯のスペクトルの合算値を求め、合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が所定の診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断してよい。
【0039】
同様に、上記実施形態に係る旋動式破砕機100の故障予兆診断方法は、
ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの噛み合いにより生じる噛合振動加速度を取得し、
破砕室16に被破砕物が供給されない無破砕負荷期間に検出された噛合振動加速度を時系列に並べた噛合振動加速度波形を求め、
噛合振動加速度波形の解析結果に基づいて故障の予兆の有無を診断する。
【0040】
上記において、故障の予兆の有無を診断することが、噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、分析周波数帯全体のスペクトルの合算値を求め、合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断することを含んでいてよい。或いは、上記において、故障の予兆の有無を診断することが、噛合振動加速度波形に対してFFTスペクトル処理を行い、或る特定の周波数帯のスペクトルの合算値を求め、合算値が所定の診断閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が所定の診断閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断することを含んでいてよい。
【0041】
上記構成の破砕機100、破砕機100の故障予兆診断装置40及び方法によれば、ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bは破砕による負荷を受けるが、診断に用いる噛合振動加速度波形では破砕による負荷に起因する振動の影響を無視することができる。よって、ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの噛合振動加速度波形から故障の予兆となる特徴周波数成分を抽出することが可能となる。そして、破砕機100の故障(とりわけ、ベベルピニオン19a,ベベルギヤ19bの故障)の予兆の有無を診断することができるので、故障の予兆が見られた時点でメンテナンスの準備を開始することができる。つまり、破砕機100の操業を停止することなく、メンテナンスの準備のための時間を稼ぐことができる。このように、故障が発覚してからメンテナンスの準備を開始する場合と比較して、ダウンタイムを短縮することができる。
【0042】
また、上記実施形態に係る破砕機100の故障予兆診断装置40は、破砕機100の破砕負荷を取得し、破砕負荷が所定の負荷閾値を下回る期間を無破砕負荷期間と見做し、当該無破砕負荷期間に噛合振動加速度のサンプリングを行う。
【0043】
同様に、上記実施形態に係る破砕機100の故障予兆診断方法では、破砕負荷を検出し、破砕負荷が所定の負荷閾値を下回る期間を無破砕負荷期間と見做し、当該無破砕負荷期間に噛合振動加速度のサンプリングを行う。
【0044】
このように、破砕負荷に基づいて無破砕負荷期間を判断することによれば、破砕機100の運転中において生じる無破砕負荷期間に自動的に噛合振動加速度のサンプリングが行われるので、破砕機100の運転を停止することなく故障の予兆の診断を自動的に行うことができる。
【0045】
以上に本開示の好適な実施の形態を説明したが、本開示の発明思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本開示に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0046】
例えば、上記の破砕機100は、軸受シリンダ6のシリンダ圧によって出口セットが調整される油圧式の破砕機100であるが、破砕機100は機械式の破砕機100であってもよい。機械式の旋動式破砕機100では、マントル13に対してコンケーブ14を昇降させる昇降装置(例えば、油圧シリンダ)を備える。
【0047】
例えば、破砕機100に対し故障予兆診断装置40が遠隔配置されていてもよい。この場合、噛合振動検出器43や軸受振動検出器44で検出された情報が通信ネットワークを通じて故障予兆診断装置40へ伝達され、故障予兆診断装置40は故障の予兆の診断結果を通信ネットワークを通じて破砕機100の傍に配置された制御装置50へ伝達する。制御装置50は、破砕機100に対し遠隔配置されていてもよい。また、故障予兆診断装置40がクラウドサービスにより提供されてもよい。この場合、特定のコンピュータからアクセスを受けたクラウドサーバが所定のプログラムを実行することによって故障予兆診断装置40として機能し、提供された噛合振動加速度情報に基づいて算出した故障の予兆の診断結果をコンピュータへ返してもよい。また、算出された故障の予兆の診断結果はクラウドサーバに特定のコンピュータからアクセス可能に格納されてもよい。同様に、制御装置50がクラウドサービスにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
4 :偏心スリーブ
5 :主軸
6 :軸受シリンダ
8 :駆動モータ
9 :供給装置
10 :主軸軸受
11 :スリーブ軸受
13 :マントル
14 :コンケーブ
15 :下部軸受
16 :破砕室
17 :上部軸受
19a :ベベルピニオン
19b :ベベルギヤ
20 :動力伝達機構
21 :横軸
25 :横軸軸受
30 :フレーム
31 :上部フレーム
32 :下部フレーム
40 :故障予兆診断装置
43 :噛合振動検出器
44 :軸受振動検出器
50 :制御装置
100 :旋動式破砕機
図1
図2
図3
図4
図5
図6