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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】ろ過装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 35/06 20060101AFI20230706BHJP
   B01D 57/02 20060101ALI20230706BHJP
   B03C 5/00 20060101ALI20230706BHJP
   B03C 5/02 20060101ALI20230706BHJP
   B01D 35/027 20060101ALI20230706BHJP
   C02F 1/469 20230101ALI20230706BHJP
   B01D 61/56 20060101ALI20230706BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20230706BHJP
   C02F 11/121 20190101ALI20230706BHJP
   C02F 11/15 20190101ALI20230706BHJP
   B01D 29/01 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
B01D35/06 G ZAB
B01D35/06 Z
B01D57/02
B01D35/06 S
B03C5/00 A
B03C5/00 Z
B03C5/02
B01D35/02 F
C02F1/469
B01D61/56
C02F1/44 A
C02F1/44 K
C02F11/121
C02F11/15
B01D29/04 510B
B01D29/04 510F
B01D29/04 520Z
B01D29/04 530A
B01D29/04 530D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022574957
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021001077
(87)【国際公開番号】W WO2022153446
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-01-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176752
【氏名又は名称】三菱化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 一樹
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-100302(JP,A)
【文献】実開昭63-176512(JP,U)
【文献】特開昭61-161108(JP,A)
【文献】特開2008-290008(JP,A)
【文献】特開平11-300170(JP,A)
【文献】特開昭59-193111(JP,A)
【文献】特開2012-239946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 24/00 -35/05
B01D 35/10 -37/04
B01D 61/00 -71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
B03C 5/00 - 5/02
C02F 1/469
C02F 11/121
C02F 11/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離対象の粒子、前記粒子と異なる極性の極性溶媒とを含む対象処理液が貯留された水槽と、前記対象処理液の中に沈められた複数のろ過ユニットと、2つの前記ろ過ユニットの間に配置されかつ前記対象処理液のある空間と隔てられた第2ろ室と、を有し、
前記ろ過ユニットは、
複数の第1開口が設けられた第1電極と、
複数の第2開口が設けられ、前記第1電極の一方の面と対向しかつ前記第2ろ室に接する第2電極と、
複数の目開きが設けられ、かつ前記第1電極と前記第2電極との間に設けられたろ材と、
前記第1電極の他方の面と接して設けられ、かつ前記対象処理液が供給される第1ろ室と、
前記第1ろ室に設けられ、かつ前記第1電極と対向する第3電極と、を含み、
前記第1電極に、前記粒子の極性と同じ極性の第1電位が供給され、
前記第2電極に、前記粒子の極性と同じ極性であって、前記第1電位の絶対値とは異なる絶対値の第2電位が供給される、
ろ過装置。
【請求項2】
前記ろ過ユニットの下方に設けられ、かつ前記対象処理液に気泡を供給する散気装置を含む
請求項1に記載のろ過装置。
【請求項3】
前記第2ろ室にあるろ液を排出するための排出管と、
前記排出管に接続されて、前記第2ろ室に陰圧を与える減圧装置と、
を含む
請求項1又は請求項2に記載のろ過装置。
【請求項4】
前記第2電極の第2電位の絶対値は、前記第1電極の第1電位の絶対値よりも大きく、
前記第1電位と前記第3電極の第3電位との電位差は、前記第1電位と前記第2電位との電位差よりも大きい、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項5】
前記第3電極は、基準電位に接続される
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のろ過装置。
【請求項6】
前記第3電極は、前記粒子の極性と異なる極性の電位に接続されている
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子流体系スラリーのろ過による固液分離において、電気浸透や電気泳動を利用して分離対象の粒子と液体を分離する方法が知られている(例えば特許文献1、2参照)。電気浸透を利用した固液分離は、電極間に挟んだケーキ層に電圧と圧力を加え、ケーキ層中の水分を電気浸透作用によりろ材を通して追い出す方法である。また、電気泳動を利用した固液分離は、スラリー中の粒子を電気泳動により移動させてろ材に直接接触させて、スラリー中の粒子を分離する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-018410号公報
【文献】国際公開第2004/045748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スラリー中の粒子をろ材に直接接触させて固液分離する方法では、ろ材の目詰まりによるろ過速度の低下が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、ろ過速度を向上させることが可能なろ過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面のろ過装置は、対象処理液が貯留された水槽と、前記対象処理液の中に沈められた複数のろ過ユニットと、2つの前記ろ過ユニットの間に配置されかつ前記対象処理液のある空間と隔てられた第2ろ室と、を有し、前記ろ過ユニットは、複数の第1開口が設けられた第1電極と、複数の第2開口が設けられ、前記第1電極の一方の面と対向しかつ前記第2ろ室に接する第2電極と、複数の目開きが設けられ、かつ前記第1電極と前記第2電極との間に設けられたろ材と、前記第1電極の他方の面と接して設けられ、かつ前記対象処理液が供給される第1ろ室と、前記第1ろ室に設けられ、かつ前記第1電極と対向する第3電極と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明のろ過装置によれば、ろ過速度を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るろ過装置の模式図である。
図2図2は、実施形態に係るろ過ユニットの模式図である。
図3図3は、第1電極、ろ材及び第2電極の構成を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施形態に係るろ過ユニットを示す等価回路図である。
図5図5は、実施形態の変形例1に係るろ過ユニットを示す等価回路図である。
図6図6は、実施形態の変形例2に係るろ過装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0010】
図1は、実施形態に係るろ過装置の模式図である。図2は、実施形態に係るろ過ユニットの模式図である。実施形態に係るろ過装置10は、液体72中に粒子71が分散された対象処理液であるスラリー70(原液)から、粒子71を分離する装置である。具体的には、ろ過装置10は、ライフサイエンス分野や、下水処理、排水処理分野等に適用できる。ライフサイエンス分野では、培養細胞、微細藻類、細菌、バクテリア、ウイルス等の微生物体培養を行うバイオ産業や、培養微生物体が体外、体内に生産する酵素、タンパク質、多糖類、脂質等の利用、応用分野であるバイオ創薬や化粧品業界、又は、醸造、発酵、搾汁、飲料等を扱うビバレッジ産業に適用できる。下水処理、排水処理分野では、難ろ過性の微細バイオマス水系スラリーで、バイオマス粒子の分離に適用できる。あるいは、ろ過装置10は、表面帯電した微粒子が電気的反発作用で高分散したコロイド粒子系スラリーで、コロイド微粒子の濃縮回収用途に適用できる。
【0011】
図1に示すように、ろ過装置10は、水槽80と、複数のろ過ユニット100と、複数の第2ろ室35と、排出管85と、ろ液貯留器86と、減圧装置17と、散気装置13と、加圧装置15と、を備える。
【0012】
水槽80は、スラリー(原液)70を貯留している。水槽80に貯留されたスラリー(原液)70は、例えば活性汚泥である。複数のろ過ユニット100は、スラリー(原液)70の中に沈められている。水槽80におけるスラリー(原液)70の水面は、全てのろ過ユニット100よりも上にある。複数のろ過ユニット100は、水平方向に並んで配置される。第2ろ室35は、水平方向に並ぶ2つのろ過ユニット100の間に配置される。第2ろ室35は、水槽80内のスラリー(原液)70のある空間とは隔てられている。2つのろ過ユニット100の間の隙間が密封されることで、スラリー(原液)70のある空間から隔離された第2ろ室35が形成される。
【0013】
排出管85は、第2ろ室35にあるろ液を排出するための配管である。排出管85は、複数の第2ろ室35と接続される。ろ液貯留器86は、排出管85の途中に設けられる。複数の第2ろ室35から集められたろ液が、ろ液貯留器86に集められる。排出管85は、減圧装置17と接続される。減圧装置17は、例えば真空ポンプである。減圧装置17は、第2ろ室35に陰圧を与える。減圧装置17によって生じる差圧によって、第2ろ室35のスラリー(原液)70がろ液貯留器86に一旦集められた後に、水槽80の外部に排出される。
【0014】
散気装置13は、スラリー(原液)70に気泡を供給する装置である。散気装置13は、ろ過ユニット100の下方に配置される。散気装置13がスラリー(原液)70に放出した気泡は、上昇し、ろ過ユニット100を通過する。加圧装置15は、散気装置13と接続される。加圧装置15は、例えば加圧ポンプである。加圧装置15が駆動することによって、散気装置13からスラリー(原液)70内に気泡が放出される。
【0015】
図2に示すように、複数のろ過ユニット100は、ろ過ユニット101と、ろ過ユニット102と、ろ過ユニット103と、ろ過ユニット104と、ろ過ユニット105と、ろ過ユニット106と、ろ過ユニット107と、ろ過ユニット108と、を含む。ろ過ユニット101、ろ過ユニット102、ろ過ユニット103と、及びろ過ユニット104は、一方向Xに並んで配置される。ろ過ユニット105、ろ過ユニット106、ろ過ユニット107、及びろ過ユニット108は、一方向Xに並んで配置される。本実施形態において、一方向Xは、水平方向である。ろ過ユニット101及びろ過ユニット105は、一方向Xに対して直交する他方向Yに並んで配置される。ろ過ユニット102及びろ過ユニット106は、他方向Yに並んで配置される。ろ過ユニット103及びろ過ユニット107は、他方向Yに並んで配置される。ろ過ユニット104及びろ過ユニット108は、他方向Yに並んで配置される。本実施形態において、他方向Yは、鉛直方向である。それぞれのろ過ユニット100は、筐体20と、第1ろ室30と、第1電極31と、第2電極32と、第3電極33と、ろ材34と、を有する。
【0016】
第1ろ室30は、第1電極31、及び第3電極33で囲まれた空間である。第1ろ室30は、鉛直方向(方向Y)の上面及び下面が開口しており、水槽80の内部空間と繋がっている。第1ろ室30には、スラリー(原液)70が流入する。第1電極31及び第2電極32は、メッシュ状の電極である。具体的には、第1電極31は、複数の導電細線31aを有し、複数の導電細線31aの間に複数の第1開口31bが設けられる。第2電極32は、複数の導電細線32aを有し、複数の導電細線32aの間に複数の第2開口32bが設けられる。第2電極32は、ろ材34を介して第1電極31の一方の面と対向して設けられる。言い換えると、ろ材34は、第1電極31と第2電極32との間に設けられる。第1電極31及び第2電極32は、ろ材34と直接、接して設けられる。第1電極31、ろ材34及び第2電極32が、第1ろ室30と第2ろ室35との間に介在している。第2ろ室35は、筐体20によって水槽80の内部空間と隔離されているが、第1電極31、ろ材34及び第2電極32を介して第1ろ室30と繋がっている。複数の導電細線31a及び複数の導電細線32aは、金属でもよいし炭素繊維でもよい。なお、第1電極31及び第2電極32は、ろ材34と直接、接する構成に限定されず、ろ材34との間に隙間を有して配置されていてもよい。
【0017】
第3電極33は、板状の部材であり、第1ろ室30を挟んで第1電極31の他方の面と対向して設けられる。1つのろ過ユニット100が備える第1電極31、第2電極32、第3電極33、及びろ材34は、他方向Yで隣り合うろ過ユニット100と共用される。言い換えると、1つの第1電極31、1つの第2電極32、1つの第3電極33及び1つのろ材34のそれぞれは、他方向Yで隣り合うろ過ユニット100で共用される。
【0018】
ろ過ユニット101、ろ過ユニット103、ろ過ユニット105及びろ過ユニット107では、一方向Xにおいて(図2の左から右に向かって)、複数の電極が、第3電極33、第1電極31、第2電極32の順に並ぶ。ろ過ユニット102、ろ過ユニット104ろ過ユニット106及びろ過ユニット108では、一方向Xにおいて(図2の左から右に向かって)、複数の電極が、第2電極32、第1電極31、第3電極33の順に並ぶ。
【0019】
ろ過ユニット102が備える第3電極33は、一方向Xで隣り合うろ過ユニット103と共用される。ろ過ユニット106が備える第3電極33は、一方向Xで隣り合うろ過ユニット107と共用される。言い換えると、一方向Xに2つの並んだ第1ろ室30の間は、一方向Xに隣り合うろ過ユニット100(ろ過ユニット102及びろ過ユニット103の組、並びにろ過ユニット106及びろ過ユニット107の組)で共用される第3電極33で区画されている。
【0020】
なお、ろ過装置10においては、必ずしも4のろ過ユニット100が一方向Xに並んでいなくてもよい。一方向Xに並ぶろ過ユニット100の数は、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。また、一方向Xに2つの並んだ第1ろ室30の間に配置される第3電極33は、必ずしも2つのろ過ユニット100で共用されなくてもよい。すなわち、一方向Xに2つの並んだ第1ろ室30の間に、互いに絶縁された2つの第3電極33が配置されてもよい。
【0021】
複数のろ過ユニット100は、一方向X及び他方向Yの両方に対して直交する方向(図2における紙面の奥行き方向)に並んで配置されてもよい。すなわち、複数のろ過ユニット100は、3次元的に並んで配置されてもよい。
【0022】
ろ材34は、ろ過膜34aと、目開き34bと、を含む。ろ過膜34aに複数の目開き34bが設けられている。ろ過膜34aに対して電界が働く。ろ材34は、例えば、精密ろ過膜(MF膜(Microfiltation Membrane))が用いられる。実施形態では、ろ材34は、樹脂材料等の絶縁材料で形成されており、ろ材34により第1電極31と第2電極32とが絶縁される。なお、図2では、第1電極31の第1開口31b、第2電極32の第2開口32b及びろ材34の目開き34bは同じ大きさで示しているが、あくまで説明のために模式的に示したものであり、第1開口31b、第2開口32b及び目開き34bの大きさは異なっていてもよい。
【0023】
なお、図2に示すろ過ユニット100の構成は、あくまで一例であり、第1電極31、第2電極32及びろ材34と、第3電極33とで挟まれた第1ろ室30を形成できればどのような構成であってもよい。
【0024】
図3は、第1電極、ろ材及び第2電極の構成を模式的に示す断面図である。図3に示すうように、ろ材34に設けられた目開き34bの径D3は、第1電極31の第1開口31bの径D1よりも小さく、かつ、第2電極32の第2開口32bの径D2よりも小さい。言い換えると、複数の導電細線31aの配置ピッチと、複数の導電細線32aの配置ピッチと、ろ過膜34aの配置ピッチは、互いに異なって設けられる。例えば、第1電極31の第1開口31bの径D1は、0.5μm以上500μm以下、例えば70μm程度である。第2電極32の第2開口32bの径D2は、0.5μm以上1000μm以下、例えば100μm程度である。ろ材34に設けられた複数の目開き34bの径D3は、0.1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上7μm以下程度である。
【0025】
また、第1電極31の第1開口31bの径D1は、第2電極32の第2開口32bの径D2よりも小さい。ただしこれに限定されず、第1電極31の第1開口31bの径D1は、第2電極32の第2開口32bの径D2と同じ大きさで形成されてもよい。このような構成により、少なくとも第1開口31b及び第2開口32bと重なる領域で、ろ材34の目開き34bは、複数の導電細線31a及び複数の導電細線32aと非重畳に設けられる。また、第1電極31と第2電極32との間の距離は、ろ材34の厚さで規定される。
【0026】
図2に示すように、ろ過装置10は、複数の第1電源51と、複数の第2電源52と、複数の第3電源53と、を備える。第1電極31は、第1電源51の第2端子51bと電気的に接続される。また、第1電極31は、第2電源52の第1端子52aと電気的に接続される。第2電極32は、第2電源52の第2端子52bと電気的に接続される。第3電極33は、第3電源53の第1端子53aと電気的に接続される。第3電源53の第2端子53b及び第1電源51の第1端子51aは、基準電位GNDに接続される。基準電位GNDは、例えばグランド電位である。ただし、これに限定されず、基準電位GNDは、所定の固定された電位であってもよい。
【0027】
図4は、実施形態に係るろ過ユニットを示す等価回路図である。図4に示すように、第1電源51は、第1電極31に、粒子71の極性と同じ極性の第1電位V1を供給する。第1電位V1は、例えば-30Vである。第2電源52は、第2電極32に、粒子71の極性と同じ極性であって、第1電位V1の絶対値よりも大きい絶対値の第2電位V2を供給する。第2電位V2は、例えば-40Vである。第3電源53は、第3電極33に、粒子71の極性と異なる極性の第3電位V3を供給する。第3電位V3は、例えば+30Vである。第1電位V1、第2電位V2及び第3電位は、絶対値で1mV以上1000V以下の範囲で設定することができる。
【0028】
図4に示すように、第1電源51及び第3電源53は定電圧源であり、第2電源52は定電流源である。第1電極31と第2電極32との間に抵抗成分R1と容量成分Cとが並列に接続される。抵抗成分R1及び容量成分Cは、多数の目開き34bが設けられたろ材34により等価的に表される成分である。また、第1電極31と第3電極33との間に抵抗成分R2が接続される。抵抗成分R2は、第1ろ室30のスラリー(原液)70により等価的に表される抵抗成分である。
【0029】
第2電源52は、定電圧電源であっても、定電流電源であってもよい。本実施形態では、第2電源52は、定電流源であるので、ろ過装置10のろ過の状態に応じて、すなわち、ろ材34の抵抗成分R1及び第1ろ室30の抵抗成分R2の変動に応じて、第2電位V2は変化する。ただし、第2電位V2は粒子71の極性と同じ極性であって、第1電位V1の絶対値よりも大きい値を維持している。
【0030】
水槽80スラリー(原液)70から、各電極の駆動により粒子71が分離される。粒子71が分離された液体72は、第1電極31、第2電極32及びろ材34を通して、第2ろ室35に流れる。粒子71が分離された液体72は、排出管85を介して水槽80の外部に排出される。
【0031】
粒子71は、例えば、バイオマス粒子やコロイド粒子であり、粒子表面がマイナスに帯電している。具体的には、粒子71は、本実施形態では下水活性汚泥であるが、例えばクロレラ、微細藻類スピルリナ、コロイダルシリカ、大腸菌等であってもよい。粒子71の径は、適用される技術分野、分離対象の種類に応じて異なるが、5nm以上2000μm以下、例えば20nm以上500μm以下程度である。
【0032】
粒子71が分散される液体72は、水であり、一部の水分子73はプラスに帯電している。これにより、スラリー(原液)70は全体として電気的に中和された状態となっている。液体72は、水に限られず、アルコールなどでもよい。つまり、液体72は、極性溶媒であればよい。
【0033】
また、スラリー(原液)70は、さらに色素タンパク質74を含む。色素タンパク質74は、粒子71と同じ極性(マイナス)に帯電しており、粒子71よりも小さい粒径を有する。色素タンパク質74は、10nm以上300nm以下、例えば、30nm程度である。なお、色素タンパク質74は無くてもよい。
【0034】
第1ろ室30にスラリー(原液)70が供給されると、クーロンの法則に基づいて、マイナスに帯電した粒子71と第1電極31との間には斥力が発生する。また、マイナスに帯電した粒子71と第3電極33との間には引力が発生する。
【0035】
ここで、クーロンの法則は、下記の式(1)で示される。
【0036】
F=k×(q1×q2/s) ・・・ (1)
【0037】
ここで、kは定数であり、k=4πεで表される。q1及びq2は、電荷であり、sは電荷間の距離である。すなわち、距離sが小さいほど粒子71には大きいクーロン力Fが作用する。具体的には、第1電極31に近い位置の粒子71には、より強力な斥力が発生し、第3電極33に近い位置の粒子71には、より強力な引力が発生する。粒子71に発生する斥力及び引力は、矢印F1に示す方向、すなわち第1電極31から離れ第3電極33に近づく方向に作用する。マイナスに帯電した粒子71は、電気泳動により第3電極33側に移動する。
【0038】
これにより、ろ過装置10は、粒子71が第1電極31の表面及びろ材34の表面に堆積してケーキ層が形成されることを抑制することができる。つまり、ろ材34の目開き34bのろ過抵抗が増大することを抑制することができる。
【0039】
また、プラスに帯電した水分子73は、第1電極31との間に引力が発生する。プラスに帯電した水分子73に作用する引力は、矢印F2に示す方向、すなわち第3電極33から第1電極31に向かう方向に作用する。プラスに帯電した水分子73は、第1電極31側に移動する。この際、第1電極31と第2電極32との間の電位差により、ろ材34を厚さ方向に貫通するように、第1電極31から第2電極32に向かう電界が形成されている。
【0040】
第1電極31側に移動した水分子73は、電界により力を受けて、第2電極32側に引っ張られてろ材34を通過する。プラスに帯電した水分子73の移動に伴って、帯電していない水分子も第2電極32側に引きずられて、電気浸透流が形成される。これにより、プラスに帯電した水分子73を含む液体72は、第2ろ室35に流れる。上述したように、粒子71は、電気泳動により第1電極31から引き離され、第3電極33側に移動しており、粒子71が分離された液体72が排出されることで、第1ろ室30内のスラリー(原液)70の粒子71の濃度を高めることができる。
【0041】
このように、ろ過装置10は、第1電極31と第3電極33との間で、粒子71をクーロン力F(粒子71と第1電極31との間に発生する斥力)により移動させる電気泳動と、第1電極31と第2電極32との間の電界により水分子73を移動させてろ材34を通過させる電気浸透とを組み合わせることで、粒子71を分離できる。また、第1電極31は、電気泳動の電極と、電気浸透の電極とを兼用する。これにより、単純にスラリー(原液)70に圧力を加え、ろ材34の目開き34bよりも大きい粒径の粒子71を分離する方法に比べて、第1電極31の表面及びろ材34の表面にケーキ層が形成されることを抑制することができ、ろ過速度を数倍から10倍以上に向上させることができる。
【0042】
言い換えると、単純にスラリー(原液)70に圧力を加えた方法に比べて、第1ろ室30内でのスラリー(原液)70の粒子71の濃縮度を高めることができる。また、ろ材34の清掃、交換の頻度を少なくすることができ、効率よくスラリー(原液)70のろ過を行うことができる。あるいは、単純にスラリー(原液)70に圧力を加えてろ過を行う場合に比べて、第1ろ室30の体積を小さくし、ろ材34の面積を小さくしても、従来と同程度のろ過速度を実現できる。すなわち、ろ過装置10は、小型化を図ることができる。
【0043】
また、第1電極31と第2電極32との間に形成される電界を制御することで、ろ材34を通過する粒子レベル(粒子径)も制御することができる。例えば、第1電極31に第1電位V1=-30Vを印加し、第2電極32に第2電位V2=-40Vを印加することで、第1電極31と第2電極32との間にシールドの電界が形成され、ろ材34の目開き34bよりも小さい粒径の色素タンパク質74が、ろ材34を通過することを抑制できる。
【0044】
つまり、精密ろ過膜(MF膜)相当のろ材34を用いた場合であっても、第1電源51、第2電源52及び第3電源53での各電極間の電界制御により、限外ろ過膜(UF膜)、あるいはナノろ過膜(NF膜)相当まで、分離対象の粒子径を変更することができる。限外ろ過膜(UF膜)は、開口の径が10nm以上100nm以下程度のろ過膜である。ナノろ過膜(NF膜)は、開口の径が1nm以上10nm以下程度のろ過膜である。
【0045】
なお、上述したろ過装置10の構成はあくまで一例であり、適宜変更することができる。例えば、第1電極31、ろ材34及び第2電極32が積層されて形成される負極ろ板と、第3電極33とは、平行平板状に対向配置される。これに限定されず、第1電極31、ろ材34及び第2電極32が積層されて形成される負極ろ板と、第3電極33とは、それぞれ曲面を有して形成されていてもよい。負極ろ板及び第3電極33の形状や配置は、ろ過装置10の形状、構造に応じて適宜変更できる。また、第1ろ室30に供給される対象処理液であるスラリー(原液)70の濃度は、特に限定されず、ろ過装置10が適用される分野に応じて変更できる。
【0046】
また、第1電位V1、第2電位V2及び第3電位V3は、分離対象の粒子71の種類や、要求されるろ過特性に応じて適宜変更することが好ましい。
【0047】
ろ過装置10は、必ずしも加圧装置16及び減圧装置17の両方を備えていなくてもよい。ろ過装置10は、加圧装置16及び減圧装置17の一方のみを備えていてもよい。
【0048】
実施形態では、第2ろ室35に陰圧が付与されており、第2ろ室35の内部圧力が第1ろ室30の内部圧力よりも小さい。他の態様としては、水槽80の水面を加圧することによって第1ろ室30の内部圧力を第2ろ室35の内部圧力よりも大きくしてもよい。
【0049】
ろ過装置10は、第3電源53を備えていなくてもよい。図5は、実施形態の変形例1に係るろ過ユニットを示す等価回路図である。図5に示すように、実施形態の変形例1において、第3電極33は、例えば基準電位GNDに接続される。第3電極33を基準電位GNDに接続する場合、第1電極31、第2電極32、第3電極33のそれぞれに電源を設ける場合に比べ、ろ過装置10の小型化を図ることができる。
【0050】
ろ過装置10は、対象処理液に気泡を供給する散気装置13を備えていなくてもよい。図6は、実施形態の変形例2に係るろ過装置の模式図である。上述したように、マイナスに帯電した粒子71は、電気泳動により第3電極33側に移動する(図2参照)。このため、散気装置13からの気泡を作用させなくても、粒子71は、ろ材34から離れている確率が高く、水槽80内に浮遊している。その結果、ろ材34の目詰まりとなるケーキ層の形成されにくく、ろ過速度の低下が抑制される。
【0051】
以上説明したように、本実施形態のろ過装置10は、対象処理液であるスラリー70が貯留された水槽80と、対象処理液の中に沈められた複数のろ過ユニット100と、2つのろ過ユニット100の間に配置されかつ対象処理液のある空間と隔てられた第2ろ室35と、を備える。ろ過ユニット100は、第1電極31と、第2電極32と、ろ材34と、第1ろ室30と、第3電極33と、を含む。第1電極31は、複数の第1開口31bが設けられる。第2電極32は、複数の第2開口32bが設けられ、かつ第1電極31の一方の面と対向して設けられる。ろ材34は、複数の目開き34bが設けられ、かつ第1電極31と第2電極32との間に設けられる。第1ろ室30は、第1電極31の他方の面と接して設けられ、かつ対象処理液が供給される。第3電極33は、第1ろ室30に設けられ、かつ第1電極31と対向する。
【0052】
これによれば、ろ過ユニット100を水槽80内の対象処理液の中に沈めて、ろ過ユニット100が対象処理液の中に浸漬された状態で動作するだけで、水槽80内の対象処理液であるスラリー70から液体72及び粒子71を分離できる。また、第1ろ室30において、第1電極31と第3電極33との間で粒子71に発生するクーロン力F(粒子71と第1電極31との間に発生する斥力)により粒子71が第1電極31から第3電極33に向かう方向に移動する。このような電気泳動により、第1電極31の表面及びろ材34の表面にケーキ層が形成されることを抑制することができる。また、第1電極31と第2電極32との間の電界により水分子73を移動させてろ材34を透過させる電気浸透により、粒子71を分離でき、第1ろ室30内でのスラリー(原液)70の粒子71の濃縮度を高めることができる。これにより、単純にスラリー(原液)70に圧力を加え、ろ材34の目開き34bよりも大きい粒径の粒子71を分離する方法に比べて、ろ過速度を数倍から10倍以上に向上させることができる。
【0053】
また、ろ過装置10は、ろ過ユニット100の下方に設けられ、かつ対象処理液に気泡を供給する散気装置13を含む。
【0054】
これによれば、水槽80の対象処理液の攪拌が促進される。また、気泡が第1電極31の表面及びろ材34の表面に接することによって、ケーキ層の形成がより抑制される。このため、本実施形態のろ過装置10は、ろ過速度をより向上させることができる。
【0055】
また、ろ過装置10は、第2ろ室35にあるろ液を排出するための排出管85と、排出管85に接続されて、第2ろ室に陰圧を与える減圧装置17と、を含む。
【0056】
これによれば、ろ過装置10は、水槽80の水面を加圧する場合などと比較して、対象処理液をより容易に第1ろ室30から第2ろ室35に導くことができる。
【0057】
また、ろ過装置10において、1つのろ過ユニット100において、第2電極32の第2電位V2の絶対値は、第1電極31の第1電位V1の絶対値よりも大きい。第1電極31の第1電位V1と第3電極33の第3電位V3との電位差は、第1電位V1と第2電位V2との電位差よりも大きい。
【0058】
これによれば、第1電極31と第2電極32との距離に比べ、第1ろ室30を挟んで対向する第1電極31と第3電極33との距離が大きい場合でも、電気泳動により、良好に粒子71を第3電極33側に移動させることができる。
【0059】
なお、上記した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10 ろ過装置
13 散気装置
15 加圧装置
17 減圧装置
20 筐体
30 第1ろ室
31 第1電極
31a、32a 導電細線
31b 第1開口
32 第2電極
32b 第2開口
33 第3電極
34 ろ材
34b 目開き
35 第2ろ室
51 第1電源
52 第2電源
53 第3電源
70 スラリー(対象処理液)
71 粒子(分離対象の粒子)
72 液体
73 水分子
74 色素タンパク質
80 水槽
85 排出管
86 ろ液貯留器
100、101、102、103、104、105、106、107、108 ろ過ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6