(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】遺伝子編集技術を用いたインビトロ部位特異的変異導入のための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230707BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/09 ZNA
(21)【出願番号】P 2019557536
(86)(22)【出願日】2018-01-09
(86)【国際出願番号】 US2018013009
(87)【国際公開番号】W WO2018132390
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-12-22
(32)【優先日】2017-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523199483
【氏名又は名称】クリスティアーナ ケア ジーン エディティング インスティテュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(73)【特許権者】
【識別番号】515195554
【氏名又は名称】エフ.オー.アール.イー バイオセラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クミエック,エリック,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィドネ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ターシック,ガビ
(72)【発明者】
【氏名】サンズベリー,ブレット
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0199091(US,A1)
【文献】J Genet Genomics,2015年,42(8),413-421
【文献】PLOS ONE,2017年01月04日,12(1),e0169350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的配列のインビトロ変異導入を実施するための方法であって、
単離リボヌクレオチド粒子(RNP)と第1のプラスミドとオリゴヌクレオチドと遺伝子を編集するための酵素活性を有する細胞抽出物とを含む混合物をインキュベートするステップであって、
前記RNPは、
前記標的配列に対して相補的であるcrRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含み、
前記第1のプラスミドは、前記標的配列のヌクレオチド配列を含み、
前記オリゴヌクレオチドは、前記標的配列に対して相補的であるが少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドを含む、ヌクレオチド配列を含み、
従って変異した第2のプラスミドを生じさせる、
ステップと;
複数の細胞に前記第2のプラスミドを与えるステップ
と;
を含む方法。
【請求項2】
前記Casエンドヌクレアーゼは、Cas9、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5
、Cpf1、Cpf2、CasY、およびCasXからなる群より選択される;または
前記Ca
sエンドヌクレアーゼは、spCas9またはsaCas9である;
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RNPは、tracrRNAをさらに含む
、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記tracrRNAおよび前記crRNAを単一のRNAコンストラクトが含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各オリゴヌクレオチドは、独立的に、25~200塩基長である;または
各オリゴヌクレオチドは、独立的に、72塩基長である、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記インビトロ変異導入は、一塩基ヌクレオチド改変、欠失および挿入からなる群より選択される、前記標的配列のヌクレオチド配列における少なくとも1つの変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
各オリゴヌクレオチドは、独立的に、化学修飾された末端連結をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞抽出物は、全細胞抽出物、無細胞抽出物、核抽出物、および細胞質抽出物からなる群より選択される;または
前記細胞抽出物は、真核細胞抽出物であ
る;請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記真核細胞抽出物は、哺乳動物細胞抽出物であるか、またはS.cerevisiaeに由来する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳動物細胞抽出物は、HEK、HUH-7、DLD1、およびHCT116からなる群より選択される少なくとも1種の細胞に由来する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(a)前記混合物が、(i)複数のRNPであって、各RNPが、前記複数のRNPの他のRNPのcrRNAと比較して異なる標的配列に対して相補的であるcrRNAを含む、複数のRNPと、(ii)複数のオリゴヌクレオチドであって、各オリゴヌクレオチドが、前記複数のオリゴヌクレオチドの他のオリゴヌクレオチドと比較して異なる標的配列に対して相補的であるがその異なる標的配列と比較して少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドを含む、ヌクレオチド配列を含む、複数のオリゴヌクレオチドと、を含み;
(b)複数の第2のプラスミドが生成され;
(c)前記複数の第2のプラスミドが前記複数の細胞に与えられ;
(d)インビトロ変異導入が前記異なる標的配列において生じる;または
前記第1のプラスミドが、前記異なる標的配列のヌクレオチド配列を1つ以上含む;または
複数のプラスミドをさらに含み、各プラスミドが、前記異なる標的配列のヌクレオチド配列を1つ以上含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第2の標的配列に対して相補的である第2のcrRNAを含む第2のRNPをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とオリゴヌクレオチドとプラスミドと遺伝子を編集するための酵素活性を有する細胞抽出物とを含む、標的配列のためのインビトロ変異導入キットであって、
前記RNPは、
前記標的配列に対して相補的であるcrRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含み、
前記プラスミドは、
前記標的配列のヌクレオチド配列を含み、
前記オリゴヌクレオチドは、前記標的配列に対して相補的であるが前記標的配列に関する少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドをその中に含む、ヌクレオチド配列を含む
、
キット。
【請求項14】
前記Casエンドヌクレアーゼは、Cas9、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Cpf1、Cpf2、CasY、およびCasXからなる群より選択される;または
前記Casエンドヌクレアーゼは、spCas9またはsaCas9である;
請求項13に記載のキット。
【請求項15】
第2の標的配列に対して相補的な第2のcrRNAを含む第2のRNPをさらに含む、請求項
13に記載のキット。
【請求項16】
前記RNPがtracrRNAをさらに含む
、
請求項
13に記載のキット。
【請求項17】
前記tracrRNAおよび前記crRNAを単一のRNAコンストラクトが含む、
請求項16に記載のキット。
【請求項18】
各オリゴヌクレオチドは、独立的に、25~200塩基長である;または
各オリゴヌクレオチドは、独立的に、72塩基長である;
請求項
13に記載のキット。
【請求項19】
各オリゴヌクレオチドは、独立的に、化学修飾された末端連結をさらに含む、請求項
13に記載のキット。
【請求項20】
前記細胞抽出物は、全細胞抽出物、無細胞抽出物、核抽出物、および細胞質抽出物からなる群より選択される;または
前記細胞抽出物は、真核細胞抽出物である
;
請求項
13に記載のキット。
【請求項21】
前記真核細胞抽出物は、哺乳動物細胞抽出物であるか、またはS.cerevisiaeに由来する、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記哺乳動物細胞抽出物は、HEK、HUH-7、DLD1、およびHCT116からなる群より選択される少なくとも1種の細胞に由来する、請求項21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年1月10日に出願された米国仮特許出願第62/444,629号、2017年6月2日に出願された米国仮特許出願第62/514,494号および2017年7月17日に出願された米国仮特許出願第62/533,170号に対する合衆国法典第35編第119条(e)に基づく優先権を主張し、これらの仮特許出願は全て、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
積み重なる証拠は、個々の患者のそれぞれにおける病理学的に同一の癌の増殖が、ドライバー変異(driving mutations)の種々のセットによって促進される、ということを示す。これらのドライバーを特定する必要性は、治療の調整および将来的な監視のスケジューリングの、認識された必要性から生じる。患者の診断における主な進歩は、癌を引き起こす変異を特定するための次世代シーケンシングの使用である。しかし、患者の変異の機能的特徴付けおよび異なる標的化治療薬に対するそれらの感受性が要求される。
【0003】
この問題に対処するための1つの可能な方法は、トランスフェクトされた細胞を利用したアッセイによってシグナル伝達経路の活性レベルを監視することである。機能的プラットフォームとして、この系は、変異のタイプに関係なく(すなわち、それが既知の変異であるか意義の不明なバリアント(Variant of Unknown Significance)(VUS)であるかにかかわらず)、活性化された経路を明らかにする。このプロセスの中心的なステップは、その後にアッセイで試験される生細胞で直ちに発現させることができるプラスミド中に患者の変異を合成することである。現在、自動化されたロバストな様式で変異を生じさせるためのインビトロのツールは不足している。その代わりに、PCRに基づく部位特異的変異導入が用いられるが、この方法は、複数のPCR工程を必要とし、従って時間がかかる。
【0004】
PCRに基づく方法に付随する冗長な一連の手順の代替手段として、同時に多数の変異を正確かつ迅速に変異導入することを可能にする技術が必要とされている。最も進んでおり有望な遺伝子編集の方法の1つは、CRISPR/Cas9である。この系は、それからガイドRNAとCas9が発現されるプラスミドベースの系の使用または反応混合物に含める前にガイドRNAが精製Cas9タンパク質とカップリングされているリボ核タンパク質(RNP)複合体の使用のいずれかによって構築される。
【0005】
シーケンシングを必要とすることなく変異を同時に生じさせることを可能にする迅速かつロバストなインビトロの技術が依然として要求されている。本発明は、この要求を満たす。
【発明の概要】
【0006】
本明細書で説明されるように、本発明は、インビトロ変異導入のための組成物と方法に関する。
【0007】
本発明の一態様は、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、方法は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)と第1のプラスミドとオリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とを含む混合物をインキュベートすることを含む。一実施形態において、RNPは、tracrRNA、crRNAおよびCas9酵素を含む。一実施形態において、tracrRNAは、crRNAとアニーリングされる。一実施形態において、第1のプラスミドは、標的配列のヌクレオチド配列を含み、オリゴヌクレオチドは、標的配列に対して相補的であるが少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドを含む、ヌクレオチド配列を含み、従って第2のプラスミドを生じさせる。一実施形態において、複数の細胞に第2のプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0008】
本発明の別の態様は、複数の標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、方法は、複数のリボヌクレオチド粒子(RNP)と複数の第1のプラスミドと複数のオリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とを含む混合物をインキュベートすることを含む。一実施形態において、複数のRNPは、複数のtracrRNA、複数のcrRNAおよびCas9酵素を含み、ここで、複数のtracrRNAは、複数のcrRNAとアニーリングされる。一実施形態において、複数の第1のプラスミドは、複数の標的配列の複数のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、複数のオリゴヌクレオチドは、複数の標的配列に対して相補的であるが標的配列ごとに少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドを含む、複数のヌクレオチド配列を含み、従って複数の第2のプラスミドを生じさせる。一実施形態において、複数の細胞に複数の第2のプラスミドが与えられる。一実施形態において、インビトロ変異導入が標的配列において生じた複数の細胞が選択される。
【0009】
別の態様では、本発明は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とオリゴヌクレオチドとプラスミドとバッファと無細胞抽出物とそれらの使用のための取扱説明資料とを含む、標的配列のためのインビトロ変異導入キットを包含する。一実施形態において、RNPは、tracrRNA、crRNAおよびCas9を含む。一実施形態において、プラスミドは、標的配列のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、標的配列に対して相補的であるが標的配列に関する少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドをその中に含む、ヌクレオチド配列を含む。
【0010】
本発明の別の態様は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、二本鎖オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物がインキュベートされる。一実施形態において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、単離RNPとプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、一本鎖オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物がインキュベートされる。一実施形態において、一本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0012】
別の態様では、本発明は、単離RNPとプラスミドと一本鎖オリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とDNAリガーゼとを含む混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、一本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、第1の単離RNPと第2の単離RNPとプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、第1のRNPは、第1の標的配列に対して相補的なcrRNAと、第1のCpf1酵素と、を含む。一実施形態において、第2のRNPは、第2の標的配列に対して相補的な第2のcrRNAと、第2のCpf1酵素と、を含む。一実施形態において、第1のRNPは、プラスミド中に第1の二本鎖切断を生じさせ、第2のRNPは、プラスミド中に第2の二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物がインキュベートされる。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0014】
本発明の一態様は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)と二本鎖オリゴヌクレオチドとプラスミドとバッファと無細胞抽出物とDNAリガーゼとそれらの使用のための取扱説明資料とを含む、標的配列のためのインビトロ変異導入キットを包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。
【0015】
本発明の別の態様は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)と一本鎖オリゴヌクレオチドとプラスミドとバッファと無細胞抽出物とDNAリガーゼとそれらの使用のための取扱説明資料とを含む、標的配列のためのインビトロ変異導入キットを包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、一本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。
【0016】
別の態様では、本発明は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)と第1のプラスミドとオリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とを含む混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、tracrRNA、crRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含む。一実施形態において、tracrRNAは、crRNAとアニーリングされる。一実施形態において、第1のプラスミドは、標的配列のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、標的配列に対して相補的であるが少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドを含む、ヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、第2のプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に第2のプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0017】
本発明の別の態様は、複数のリボヌクレオチド粒子(RNP)と複数の第1のプラスミドと複数のオリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とを含む混合物をインキュベートすることを含む、複数の標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、複数のRNPは、複数のtracrRNA、複数のcrRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含む。一実施形態において、複数のtracrRNAは、複数のcrRNAとアニーリングされる。一実施形態において、複数の第1のプラスミドは、複数の標的配列の複数のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、複数のオリゴヌクレオチドは、複数の標的配列に対して相補的であるが標的配列ごとに少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドを含む、複数のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、複数の第2のプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に複数の第2のプラスミドが与えられる。一実施形態において、インビトロ変異導入が標的配列において生じた複数の細胞が選択される。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、二本鎖オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物がインキュベートされる。一実施形態において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、RNP切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、複数のリボヌクレオチド粒子(RNP)と複数の第1のプラスミドと複数のオリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とを含む混合物をインキュベートすることを含む、複数の標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、複数のRNPは、複数のtracrRNA、複数のcrRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含む。一実施形態において、複数のtracrRNAは、複数のcrRNAとアニーリングされる。一実施形態において、複数の第1のプラスミドは、複数の標的配列の複数のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、複数のオリゴヌクレオチドは、複数の標的配列に対して相補的であるが標的配列ごとに少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドを含む、複数のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、複数の第2のプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に複数の第2のプラスミドが与えられる。一実施形態において、インビトロ変異導入が標的配列において生じた複数の細胞が選択される。
【0020】
本発明の別の態様は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、二本鎖オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物がインキュベートされる。一実施形態において、二本鎖オリゴヌクレオチドは、RNP切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0021】
別の態様では、本発明は、単離RNPとプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、一本鎖オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物がインキュベートされる。一実施形態において、一本鎖オリゴヌクレオチドは、RNP切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、単離RNPとプラスミドと一本鎖オリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とDNAリガーゼとを含む混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、一本鎖オリゴヌクレオチドは、RNP切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、第1の単離RNPと第2の単離RNPとプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。一実施形態において、第1のRNPは、第1の標的配列に対して相補的なcrRNAおよび第1のCasエンドヌクレアーゼを含み、第2のRNPは、第2の標的配列に対して相補的な第2のcrRNAおよび第2のCasエンドヌクレアーゼを含む。一実施形態において、第1のRNPは、プラスミド中に第1の二本鎖切断を生じさせ、第2のRNPは、プラスミド中に第2の二本鎖切断を生じさせる。一実施形態において、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物がインキュベートされる。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、RNP切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。一実施形態において、再度環状化したプラスミドが生成される。一実施形態において、複数の細胞に、再度環状化したプラスミドが与えられる。一実施形態において、当該複数の細胞から、インビトロ変異導入が標的配列において生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0024】
本発明の別の態様は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とオリゴヌクレオチドとプラスミドとバッファと無細胞抽出物とそれらの使用のための取扱説明資料とを含む、標的配列のためのインビトロ変異導入キットを包含する。一実施形態において、RNPは、tracrRNA、crRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含む。一実施形態において、プラスミドは、標的配列のヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、標的配列に対して相補的であるが標的配列に関する少なくとも1つのミスマッチヌクレオチドをその中に含む、ヌクレオチド配列を含む。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とオリゴヌクレオチドとプラスミドとバッファと無細胞抽出物とDNAリガーゼとそれらの使用のための取扱説明資料とを含む、標的配列のためのインビトロ変異導入キットを包含する。一実施形態において、RNPは、crRNAおよびCasエンドヌクレアーゼを含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的である。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、RNP切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。
【0026】
上記の態様または本明細書に記載される本発明の任意の他の態様の様々な実施形態において、インビトロ変異導入は、一塩基ヌクレオチド改変(single base nucleotide modification)、欠失および挿入からなる群より選択される、標的配列のヌクレオチド配列における少なくとも1つの変異を含む。別の実施形態では、無細胞抽出物は、HEK、HUH-7、DLD1、HCT116およびS.cerevisiaeからなる群より選択される少なくとも1種の細胞に由来する。
【0027】
一実施形態において、混合物は、約37℃で約120分間インキュベートされる。別の実施形態では、各オリゴヌクレオチドは、独立的に、約25~約200塩基長である。さらに別の実施形態では、各オリゴヌクレオチドは、独立的に、約72塩基長である。さらに別の実施形態では、各オリゴヌクレオチドは、独立的に、化学修飾された末端連結(chemically modified terminal linkage)をさらに含む。一実施形態において、化学修飾された末端連結は、2’-O-メチル修飾を含む。
【0028】
特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、NotI制限部位をさらに含む。一実施形態において、選択は、細胞をNotI酵素で消化することを含む。
【0029】
特定の実施形態では、本発明のキットまたは方法は、第2の標的配列に対して相補的な第2のcrRNAを含む第2のRNPをさらに含む。
【0030】
特定の実施形態では、Casエンドヌクレアーゼは、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Fok1、T7、spCas9、Cpf1、Cpf2、CasY、CasXおよびsaCas9からなる群より選択される。
【0031】
本発明の説明を目的として、本発明の特定の実施形態が図面において示されている。しかし、本発明は、図面において示されている実施形態の正確な配置と手段に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明で用いられる例示的なRNPアセンブリ方法を示す模式図である。
【
図2】
図2は、精製RNP複合体によるDNA切断を示すゲル画像である。
【
図3】
図3は、RNPが導く切断の特異性を示すように設計された実験の結果を示す。
【
図4】
図4は、RNP複合体の個々の成分を除いた後の酵素活性を示すゲル画像である。
【
図5】
図5は、RNP切断の産物に対する哺乳動物の無細胞抽出物(CFE)の活性を示すゲル画像である。
【
図6】
図6は、本発明の遺伝学的読み出し(genetic readout)の系の初期化と検証のストラテジーを示す模式図である。
【
図7-1】
図7A~
図7Dは、本発明において実証される2つの例示的な遺伝学的読み出しについての標的ヌクレオチドを示す画像のセットである。
図7Aは、第1の読み出しの系を示す:プラスミドpKan中のG残基をT残基に修正することによる、カナマイシン感受性のカナマイシン耐性への変換。
図7Bは、容易な選択のための抗生物質耐性遺伝子を含まないが、形質転換後にプラスミドを受容した細胞のスクリーニングのために野生型形態のアンピシリン耐性遺伝子を有する、他のプラスミドを示す。この場合、標的は、その3番目の塩基がGからCに変換されると野生型のeGFPが生じる終止コドンを保持するeGFP遺伝子である。
図7Cは、eGFPのインビトロ変異導入の系における標的塩基を示す配列の一群を図示する。Q、R、S、TおよびUとして列挙されている開始プラスミドクローンは、この場合はGである標的塩基についての基準配列を表す。C(野生型配列)への変換は、予測された結果を生じ、最上段に図示されている。
図7Dは、変異型カナマイシン標的のDNA配列およびカナマイシン感受性からカナマイシン耐性(GからC)への変換を図示する。典型的な反応混合物の組成が下に提示されている。
【
図8A】
図8A~
図8Bは、インビトロで改変されてクローンから単離されたプラスミドDNAからの代表的なDNAシーケンシングの結果を示す一連の画像である。
【
図9】
図9は、反応条件の最適化を図示するゲル画像である。
【
図10】
図10A~
図10Cは、NotI挿入の非限定的な提案されるメカニズムを図示する。
図10Aは、NotI制限酵素の切断部位を示す。
図10Bは、矢印で示される、lacZ遺伝子上のCpf1-1228 RNPの互い違いの二本鎖切断部位を示す。二本鎖NotI挿入セグメントは、Cpf1切断によって生じるオーバーハングに対する相補的アームを利用して遺伝子配列内に組み込まれる。
図10Cは、NotI挿入を遺伝子セグメント内に組み込むために本発明で用いられるインビトロ反応の概略工程を示す。
【
図11】
図11A~
図11Bは、NotI部位の挿入を確認するためのNotI消化アッセイを図示する。インビトロ二本鎖NotI挿入反応から単離されたプラスミドをDH5α コンピテントE.coliに形質転換した。
図11Aは、NotI酵素消化に供された、プールされた細菌コロニーのDNAからの結果を示す。
図11Bは、NotI酵素消化に供された個々の細菌コロニーのDNAからの結果を示す。
【
図12】
図12は、NotI部位の挿入を確認するためのNotI対照アッセイを図示する。インビトロNotI挿入反応にCFE(無細胞抽出物)およびリガーゼを添加しない場合、細菌コロニーのDNAをNotI酵素消化に供した後に切断活性は見られず、これは、NotIの挿入が起こらなかったことを示す。さらなる反応は、一本鎖NotIオリゴヌクレオチドであるNotI-SまたはNotI-NSのいずれかが二本鎖NotI挿入断片の代わりにインビトロ反応に組み込まれた場合に、より低い頻度でNotIの挿入が見られたということを示す。
【
図13】
図13は、NotI-S ssODNを用いたNotI部位の挿入を確認するためのNotI消化アッセイを図示する。インビトロ一本鎖NotIオリゴヌクレオチドNotI-S挿入反応から単離されたプラスミドをDH5α コンピテントE.coliに形質転換した。プールされた細菌コロニーのDNAおよび個々の細菌コロニーのDNAをNotI酵素消化に供した。NotI消化の後に切断活性を示すNotI切断部位を含むDNAが星印で示されている。
【
図14】
図14は、NotI-NS ssODNを用いたNotI部位の挿入を確認するためのNotI消化アッセイを図示する。インビトロ一本鎖NotIオリゴヌクレオチドNotI-NS挿入反応から単離されたプラスミドをDH5α コンピテントE.coliに形質転換した。プールされた細菌コロニーのDNAおよび個々の細菌コロニーのDNAをNotI酵素消化に供した。NotI消化の後に切断活性を示すNotI切断部位を含むDNAが星印で示されている。
【
図15】
図15は、Cpf1 RNP切断部位に完全なNotI部位の挿入を含む2つのクローンを示すシーケンシング分析を図示する。
【
図16】
図16は、欠失を含むNotI挿入を図示する。シーケンシング分析は、Cpf1 RNP切断部位で1bpの欠失も生じた単一のNotI部位の挿入を含む2つのクローンを示す。
【
図17】
図17は、欠失を含むNotI挿入を図示する。シーケンシング分析は、Cpf1 RNP切断部位の上流に6bpの欠失も生じた単一のNotI部位の挿入を含む1つのクローンを示す。
【
図18】
図18は、欠失を含むNotI挿入を図示する。シーケンシング分析は、Cpf1 RNP切断部位の上流に7bpの欠失も生じた単一のNotI部位の挿入を含む1つのクローンを示す。
【
図19】
図19は、欠失を含むNotI挿入を図示する。シーケンシング分析は、Cpf1 RNP切断部位の上流に9bpの欠失も生じた単一のNotI部位の挿入を含む1つのクローンを示す。
【
図20】
図20は、欠失を含むNotI挿入を図示する。シーケンシング分析は、Cpf1 RNP切断部位の下流に7bpの欠失も生じた単一のNotI部位の挿入を含む1つのクローンを示す。
【
図21】
図21は、欠失を含む複数のNotI挿入を図示する。シーケンシング分析は、Cpf1 RNP切断部位で1bpの欠失も生じた2つのNotI部位の挿入を含む3つのクローンを示す。
【
図22】
図22は、欠失を含むNotI挿入を図示する。シーケンシング分析は、Cpf1 RNP切断部位で1bpの欠失も生じた3つのNotI部位の挿入を含む1つのクローンを示す。
【
図23A】
図23A~
図23Bは、本発明で用いられるインビトロでの遺伝子編集の実験プロトコルとツールを図示する一連の画像である。
図23Aは、Cpf1またはCas9のRNPが複合体形成されてプラスミドDNAと共に第1のインビトロ切断反応混合物に添加されることを示す。プラスミドDNAを回収し、無細胞抽出物と共に第2のインビトロ再環状化反応混合物に添加する。反応が完了した後、反応からプラスミドDNAを回収し、コンピテントE.coliに形質転換する。次いで、形質転換細胞からDNAを単離し、インビトロでなされた改変を特定するために配列決定する。
図23Bは、pHSG299のlacZ遺伝子領域の各所に存在する様々なCpf1 RNP部位とCas9 RNP部位を示す。1つのCas9結合部位と5つのCpf1結合部位が示されている。本明細書で説明されるインビトロ反応のために用いられるCpf1部位が、ボックス内に示されており、関連する切断部位が、互い違いの矢印で示されている。
【
図24A】
図24A~
図24Cは、インビトロでのRNP切断と無細胞抽出物の活性を図示する一連のゲル画像である。
図24Aは、野生型Cas9、ニッカーゼCas9、およびそれぞれ異なるcrRNA配列を有する5つのCpf1のRNPを用いてpHSG299の切断が達成されたことを示す。DNA切断産物の多様なコンフォメーションは、右側に示されているように、アガロースゲルを通るスーパーコイルDNA、直鎖状DNAおよびニック入りDNAの移動の度合いによって区別できる。
図24Bは、0.1~50pmolの範囲の増加するRNP量でインビトロ反応の条件下において評価されたCas9とCpf1の相対的切断活性を示す。
図24Cは、増加する量の3種の哺乳動物細胞株源(HCT 116-19(結腸)、HEL 92.1.7(赤芽球)およびHEK-293(腎臓))からの無細胞抽出物が、Cpf1 RNP、プラスミドDNAおよび増加する量のそれぞれの無細胞抽出物を含むインビトロ切断反応に添加されたことを示す。各無細胞抽出物の量が増加すると、DNAフラグメントがRNP切断部位で生じたが、これは、露出したDNA末端が分解されたためであり、反応の活性が、ゲルのレーンを下方に流れるスメアなラインとして見えた。
【
図25-1】
図25A~
図25Cは、インビトロでのCas9とCpf1のRNPの活性を図示する一連の画像である。
図25Aは、Cas9とCpf1のRNPによるDNA破壊の頻度を、インビトロ反応から回収されたプラスミドDNAで形質転換された細菌コロニーから分析された配列の総数に対する検出された破壊されたDNA配列の数のパーセンテージとして示す。Cpf1部位とCas9部位がlacZ遺伝子領域に沿って示されており、関連する切断部位は、それぞれ、互い違いの矢印および一直線の矢印で示されている。lacZ遺伝子領域の野生型配列が示されている。
図25Bは、切断部位の周囲にDNA破壊を伴わないCas9 RNPを含むインビトロ反応から評価された総数を代表する3つの配列を示す。
図25Cは、切断部位周辺で様々なDNA破壊を示すCpf1 RNPを含むインビトロ反応から評価された配列の総数を代表する5つの配列を示す。
【
図26-1】
図26A~
図26Dは、二本鎖NotIフラグメントの挿入の提案されるメカニズムおよび検証を図示する一連の画像である。
図26Aは、NotI制限切断部位の図である。
図26Bは、矢印で示されている、lacZ遺伝子上のCpf1 RNPの互い違いの二本鎖切断部位を示す。二本鎖NotIフラグメントは、Cpf1による切断によって生じたオーバーハングに対して相補的な2つのアームを利用して遺伝子配列内に挿入される。
図26Cは、NotIフラグメントをlacZ遺伝子領域内に挿入するインビトロ反応の概略工程を示す。
図26Dは、lacZ遺伝子領域内へのNotI部位の組込みを確認するためにNotI酵素消化に供された、インビトロ二本鎖NotIフラグメント挿入反応から回収されたプラスミドで形質転換された選択された細菌コロニーから単離されたプラスミドDNAを示す。改変された無細胞抽出物がインビトロ反応混合物の成分として存在しない場合にはNotIフラグメントの挿入が起こらないということを確認するために、さらなる対照を実施した。
【
図27-1】
図27A~
図27Dは、二本鎖NotIフラグメント挿入配列を図示する一連のトレースである。野生型のlacZ遺伝子領域の配列、およびインビトロ二本鎖NotIフラグメント挿入反応から回収されたプラスミドDNAで形質転換された選択された細菌コロニーが示されている。
図27Aは、シーケンシング分析により、切断部位に完全なNotIフラグメントの挿入を含む2つの配列が示されたことを示す。
図27Bは、切断部位の上流に1bpの欠失を伴う2つのNotI部位フラグメント挿入断片を含む3つの配列を示す。
図27Cは、切断部位の上流に1bpの欠失および切断部位の下流に7bpの欠失を伴う3つのNotI部位フラグメント挿入断片を含む1つの配列を示す。
図27Dは、切断部位にNotI部位フラグメントの挿入を含まなかった1つの配列を示す。
【
図28-1】
図28A~
図28Dは、一本鎖NotI分子の挿入の提案されるメカニズムおよび検証を図示する一連の画像である。
図28Aは、NotI制限切断部位の図である。
図28Bは、矢印で示されている、lacZ遺伝子上のCpf1 RNPの互い違いの二本鎖切断部位を示す。一本鎖NotI分子は、Cpf1による切断によって生じたオーバーハングに対して相補的なアームを利用することによって、2本の鎖のうちの一方(センス鎖(S)または非センス(NS)鎖)に挿入される。
図28Cは、lacZ遺伝子領域内へのNotI部位の組込みを確認するためにNotI酵素消化に供された、インビトロ一本鎖NotI反応から回収されたプラスミドで形質転換された選択された細菌コロニーからのプールされたプラスミドDNAおよび単離されたプラスミドDNAを示す。
図28Dは、インビトロでの一本鎖のNotI-SおよびNotI-NSの挿入反応の各々から回収されたプラスミドで形質転換された選択された細菌コロニーから単離されたプラスミドDNAからの4つの代表的な配列を示す。
【
図29A】
図29A~
図29Dは、2つのCpf1酵素を用いた186bpのフラグメントの挿入を図示する一連の画像である。
図29Aは、異なる部位を切断する2つのCpf1ヌクレアーゼを用いて、親プラスミドからフラグメントを切り取り、それを、相補的なオーバーハングを有する2つの相補的なオリゴヌクレオチドのアニーリングによって作製された186塩基対のフラグメントと置き換えたことを示す。
図29B~
図29Cは、細菌における読み出しによりインビトロ反応について得られた配列を示す。
図29Dは、大部分は欠失であるが、挿入が成功した1つのクローンを含む、得られた結果のタイプを図示する。
【
図30】
図30は、挿入反応または置換反応および欠失事象を図示する。Cpf1 RNPが互い違いの二本鎖DNA切断を生じさせた後に二本鎖DNAフラグメントが切断部位に挿入されて元のDNAセグメントを拡張させる、挿入が生じる。欠失事象は、Cpf1 RNPが互い違いの二本鎖DNA切断を生じさせ、DNAが再連結される前に露出末端が切除される場合に起こる。置換反応は、2つのCpf1 RNPが遺伝子セグメントに沿って別々の互い違いの二本鎖切断部位を生じさせた後に2つの切断部位の間のセグメント(*で示されている)が除去され、二本鎖DNAフラグメントが挿入されて元のDNAセグメントと置き換わる場合に起こる。
【
図31】
図31は、インビトロでのCpf1 RNPの活性を図示する。Cpf1 RNPによるDNA破壊の頻度を、インビトロ反応から回収されたプラスミドDNAで形質転換された細菌コロニーから分析された配列の総数に対する検出された破壊されたDNA配列の数のパーセンテージとして示す。Cpf1部位がlacZ遺伝子領域に沿って示されており、関連する切断部位は、野生型lacZ遺伝子領域に沿って互い違いの赤い矢印で示されている。示されている5つの配列は、切断部位周辺で様々なDNA破壊を示すCpf1 RNPを含むインビトロ反応から評価された配列の総数を代表するものである。
【
図32A】
図32A~
図32Bは、インビトロ一本鎖NotI-S反応から回収されたプラスミドで形質転換された選択された細菌コロニーから単離されたプラスミドDNAからのさらなる配列を示す一連の画像である。
【
図33A】
図33A~
図33Cは、lacZ遺伝子における塩基置換を示す一連の画像である。
図33Aは、81塩基置換を示す。81塩基対離れた2つのCpf1 RNP結合部位が野生型lacZ遺伝子配列に沿って示されており、生じる2つの互い違いの切断部位が、2つの互い違いの矢印で示されている。次いで、2つの切断部位の間のDNAセグメントが除去され、二本鎖81塩基置換フラグメントが切断部位で遺伝子内に組み込まれる。野生型lacZ遺伝子配列が、完全な81塩基置換の配列の上に示されている。ボックスは、挿入されたNotI制限酵素部位およびバーコード配列(TT)を示す。
図33Bは、136塩基置換を示す。136塩基対離れた2つのCpf1 RNP結合部位が野生型lacZ遺伝子配列に沿って示されており、生じる2つの互い違いの切断部位が、2つの互い違いの矢印で示されている。次いで、2つの切断部位の間のDNAセグメントが除去され、二本鎖136塩基置換フラグメントが切断部位で遺伝子内に組み込まれる。野生型lacZ遺伝子配列が、完全な136塩基置換の配列の上に示されている。ボックスは、挿入されたNotI制限酵素部位およびバーコード配列(AA/TT)を示す。
図33Cは、186塩基置換を示す。177塩基対離れた2つのCpf1 RNP結合部位が野生型lacZ遺伝子配列に沿って示されており、生じる2つの互い違いの切断部位が、2つの互い違いの矢印で示されている。次いで、2つの切断部位の間のDNAセグメントが除去され、二本鎖186塩基置換フラグメントが切断部位で遺伝子内に組み込まれる。野生型lacZ遺伝子配列が、完全な186塩基置換の配列の上に示されている。ボックスは、挿入されたNotI制限酵素部位およびバーコード配列(GGG)を示す。
【
図34】
図34は、lacZ遺伝子における様々な長さのフラグメントの挿入のさらなる配列を示す。Cpf1-1228 RNP切断部位が野生型lacZ遺伝子領域の配列に沿って図示されている。不完全な挿入をもたらす二本鎖の17、36、45および81塩基のDNAフラグメントを含むインビトロ挿入反応からの配列が示されている。これらの配列は、単離されたプラスミドDNAで形質転換された選択された細菌コロニーからのものであった。
【
図35A】
図35A~
図35Bは、lacZ遺伝子における様々な長さのセグメント置換のさらなる配列を図示する。17、45、81、136および186塩基のセグメント置換の反応について、2つのCpf1部位が野生型lacZ遺伝子領域の配列に沿って示されている。これらの配列は、単離されたプラスミドDNAで形質転換された細菌コロニーから選択されたが、二本鎖の17、45、81、136および186塩基のDNAフラグメントを含む不完全なインビトロ置換反応を実証した。
【
図36A】
図36A~
図36Dは、KRAS遺伝子における部位特異的変異導入を図示する一連の画像である。
図36Aは、カナマイシン耐性遺伝子および目的のKRAS遺伝子を含むpKRASの代表的なプラスミドマップを示す。KRAS遺伝子の野生型配列と比較すると、G12D変異とG13D変異についての変異のバリエーションが分かる。
図36Bは、G12D変異部位およびG13D変異部位の両方に及ぶKRAS遺伝子領域に沿って114塩基離れた2つのCpf1 RNPを示す。二本鎖114塩基置換フラグメントに組み込まれた単一変異および二重変異のバリエーションの描写が示されている。
図36Cは、野生型KRAS遺伝子領域の配列を示し、二本鎖114塩基DNAフラグメントの3つの変異のバリエーションを全て含む完全なインビトロ置換反応から単離されたプラスミドDNAで形質転換された選択された細菌コロニーが示されており、組み込まれた特定の変異が赤いボックス内に示されている。
図36Dは、完璧に置換されたG12D/G13D変異フラグメントを含むプラスミド(灰色の実線)を野生型KRASプラスミド(黒い二本の実線)と位置合わせした図を通して、オフターゲット効果が生じなかったことの確認を示し、観察される唯一のミスマッチは、ボックス内に示されているG12D変異とG13D変異から生じる意図された2塩基対の変化であることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語と科学用語は全て、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で説明されるものと類似または同等の任意の方法および材料が本発明の試験のための実施において使用されてよいが、例示的な材料および方法が本明細書で説明される。本発明の説明および特許請求において、以下の用語が使用されるであろう。
【0034】
本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態の説明を目的とするに過ぎず、限定的であることを意図するものではないということも理解されるべきである。
【0035】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、その冠詞の文法上の対象物の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0036】
本明細書で使用される「約」は、測定可能な値(量、持続時間等など)に対して適用される場合、指定される値から±20%または±10%(より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、一層より好ましくは±0.1%)の変動を包含することが意図されるが、これは、そのような変動が、開示される方法を実施するのに適切であるためである。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「量」は、混合物中の成分の存在量または数量を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「bp」は塩基対を指す。
【0039】
用語「相補的」は、2本の核酸鎖の間の逆平行アライメントの度合いに対して適用される。完全な相補性は、各ヌクレオチドが、その逆のものの真向かいにあることを必要とする。相補性がないことは、各ヌクレオチドが、その逆のものの真向かいにないことを必要とする。相補性の度合いは、一緒になるかアニール/ハイブリダイズする配列の安定性を決定する。さらに、様々なDNA修復機能ならびに調節機能は、塩基対相補性に基づいている。
【0040】
用語「CRISPR/Cas」または「クリスパー(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)」または「CRISPR」は、短い反復塩基配列とそれに続くウイルスまたはプラスミドへの以前の曝露に由来するスペーサーDNAの短いセグメントとを含むDNA座位を指す。細菌と古細菌は、短鎖RNAを用いて外来核酸の分解を導くCRISPR/CRISPR-associated(Cas)システムと呼称される適応免疫防御を進化させている。細菌において、CRISPRシステムは、RNA誘導型DNA切断を介して、侵入してきた外来DNAに対する獲得免疫をもたらす。
【0041】
「Casエンドヌクレアーゼ」は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ酵素(CRISPR-associated endonuclease enzyme)を指す。Casエンドヌクレアーゼの非限定的な例はCas9である。他の例示的なCasエンドヌクレアーゼとしては、Cpf1、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Fok1、T7、spCas9、Cpf2、CasY、CasXおよび/またはsaCas9が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
「CRISPR/Cas9」システムまたは「CRISPR/Cas9媒介型遺伝子編集」は、ゲノム編集/工学のために改変されているII型CRISPR/Casシステムを指す。それは、典型的には、「ガイド」RNA(gRNA)および非特異的CRISPR関連エンドヌクレアーゼ(Cas9)を含む。「ガイドRNA(gRNA)」は、本明細書では、「短鎖ガイドRNA(sgRNA)」と互換的に使用される。gRNAは、Cas9結合に必要な「スキャフォールド」配列と、改変されるゲノム標的を規定するユーザー定義の約20ヌクレオチドの「スペーサー」または「ターゲティング」配列と、で構成される短い合成RNAである。Cas9のゲノム標的は、gRNA中に存在するターゲティング配列を変更することによって変更できる。
【0043】
「コードする」は、規定されたヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または規定されたアミノ酸配列のいずれかを有する生物学的プロセス中の他のポリマーおよび巨大分子の合成のための鋳型として働くポリヌクレオチド(遺伝子、cDNAまたはmRNAなど)中のヌクレオチドの特定の配列の固有の特性、およびそれから生じる生物学的特性に対して適用される。従って、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写と翻訳が細胞または他の生物学的系においてタンパク質を生じさせる場合、タンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列は、mRNAの配列と同一であり、通常は配列表に提示されている)と非コード鎖(遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される)は両方とも、タンパク質またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードすると称され得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「内因性」は、生物、細胞、組織または系の内部に由来する、またはそれらの内部で生産される、任意の物質に対して適用される。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「外因性」は、生物、細胞、組織または系の外部から導入される、またはそれらの外部で生産される、任意の物質に対して適用される。
【0046】
用語「発現」は、本明細書で使用される場合、そのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0047】
「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に機能可能なように連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用エレメントを含む。発現のための他のエレメントが、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において、供給されてよい。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドが組み込まれたコスミド、プラスミド(例えば、裸のプラスミド、またはリポソーム中に含まれるプラスミド)およびウイルス(例えば、センダイウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)など、当技術分野で公知のものが全て包含される。
【0048】
「相同」は、本明細書で使用される場合、2つのポリマー分子の間の、例えば、2つの核酸分子(2つのDNA分子、2つのRNA分子、DNAとRNA分子、DNAとsgRNA分子など)の間の、または2つのポリペプチド分子の間の、サブユニット配列の同一性に対して適用される。2つの分子の両方のサブユニット位置が、同じモノマーサブユニットによって占められている場合(例えば、2つのDNA分子の各々の位置がアデニンによって占められている場合)には、それらは、その位置で相同である。2つの配列の間の相同性は、一致している位置または相同である位置の数の直接の関数である。例えば、2つの配列中の位置の半数(例えば、サブユニット10個の長さのポリマー中の5つの位置)が相同であれば、その2つの配列は50%相同であり、位置の90%(例えば、10個中9個)が一致しているか相同であれば、その2つの配列は90%相同である。
【0049】
「同一性」は、本明細書で使用される場合、2つのポリマー分子の間の、特に2つのアミノ酸分子の間(2つのポリペプチド分子の間など)の、サブユニット配列の同一性に対して適用される。2つのアミノ酸配列が、同じ位置に同じ残基を有する場合(例えば、2つのポリペプチド分子の各々の位置がアルギニンによって占められている場合)には、それらは、その位置で同一である。同一性または2つのアミノ酸配列がアラインメントにおいて同じ位置に同じ残基を有する程度は、パーセンテージとして表されることが多い。2つのアミノ酸配列の間の同一性は、一致している位置または同一である位置の数の直接の関数である。例えば、2つの配列中の位置の半数(例えば、10アミノ酸の長さのポリマー中の5つの位置)が同一であれば、その2つの配列は50%同一であり、位置の90%(例えば、10個中9個)が一致しているか同一であれば、その2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0050】
本明細書で使用される場合、「取扱説明資料」には、刊行物、記録、図表、または本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために用いることができる任意の他の表現媒体が包含される。本発明のキットの取扱説明資料は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/または組成物を含む容器に添付されてよいか、当該核酸、ペプチドおよび/または組成物を含む容器と一緒に出荷されてよい。あるいは、取扱説明資料は、受領者が取扱説明資料と化合物を一体的に使用することを意図して容器とは別々に出荷されてよい。
【0051】
用語「改変された」は、本明細書で使用される場合、本発明の分子または細胞の変化した状態または構造を意図する。分子は、化学的、構造的および機能的なものを含む多くの方法で改変されてよい。細胞は、核酸の導入を介して改変されてよい。
【0052】
「変異」は、本明細書で使用される場合、(例えば、同じ対象から以前に採取されたDNAサンプルであってよい)所与の基準配列からの変更をもたらすDNA配列の変化である。変異は、少なくとも1つのデオキシリボ核酸塩基(プリン(アデニンおよび/またはチミン)および/またはピリミジン(グアニンおよび/またはシトシン)など)の欠失および/または挿入および/または重複および/または置換を含み得る。変異は、生物(対象)の観察可能な特徴(表現型)に識別可能な変化を生じさせても生じさせなくてもよい。
【0053】
「核酸」は、デオキシリボヌクレオシドまたはリボヌクレオシドで構成されるかどうか、およびホスホジエステル結合または改変された結合(ホスホトリエステル結合、ホスホルアミデート結合、シロキサン結合、カーボネート結合、カルボキシメチルエステル結合、アセトアミデート結合、カルバメート結合、チオエーテル結合、架橋ホスホルアミデート結合、架橋メチレンホスホネート結合、ホスホロチオエート結合、メチルホスホネート結合、ホスホロジチオエート結合、架橋ホスホロチオエート結合またはスルホン結合およびそのような結合の組み合わせなど)で構成されるかどうかにかかわらず、任意の核酸を意図する。核酸なる用語はまた、5つの生物学上存在する塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基で構成される核酸も具体的に含む。
【0054】
本発明に関して、一般的に存在する核酸塩基についての以下の略号が使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0055】
他に特定されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いに縮重のバージョンであり且つ同じアミノ酸配列をコードする、全てのヌクレオチド配列を包含する。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列なる表現はまた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が一部のバージョンではイントロン(複数可)を含み得るという範囲でイントロンを含んでもよい。
【0056】
用語「オリゴヌクレオチド」は、典型的には、一般的に約100ヌクレオチド以下である短いポリヌクレオチドを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、G、C)で表される場合、これはまた、「U」が「T」を置き換えるRNA配列(すなわち、A、U、G、C)も包含する、ということが理解されるであろう。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」「ポリペプチド」および「タンパク質」は、互換的に使用され、ペプチド結合によって共有結合で連結されたアミノ酸残基を含む化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含むはずであり、タンパク質の配列またはペプチドの配列を構成し得るアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が包含される。本明細書で使用される場合、当該用語は、短鎖(一般的に、当技術分野では、例えばペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも呼称される)と長鎖(一般的に、当技術分野ではタンパク質と呼称される)の両方に対して適用され、それらには多くのタイプが存在する。「ポリペプチド」は、とりわけ、例えば、生物学的に活性のあるフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質を包含する。ポリペプチドは、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチドまたはそれらの組み合わせを包含する。
【0058】
用語「ポリヌクレオチド」は、DNA、cDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、snoRNA、ゲノムDNA、合成形態、および混合ポリマー、センス鎖とアンチセンス鎖の両方を包含し、非天然の、または誘導体化された、合成の、もしくは半合成の、ヌクレオチド塩基を含むように化学的または生化学的に改変されてよい。また、1つ以上のヌクレオチドの欠失、挿入、置換、または他のポリヌクレオチド配列への融合、を含むがこれらに限定されない、野生型遺伝子または合成遺伝子の変更も本発明の範囲内に包含される。
【0059】
本明細書では、従来の表記法を用いてポリヌクレオチド配列を説明する。一本鎖ポリヌクレオチド配列の左端は5’末端であり、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左手方向は5’方向と呼称される。
【0060】
「プライマー」は、配列特異的な様式で標的配列にハイブリダイズしてPCR中に伸長させることが可能であるオリゴヌクレオチド(通常は約15、20、25、30、35、40、45または50ヌクレオチド長のもの)である。
【0061】
用語「プロモーター」は、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチド配列の特定の転写を開始するのに必要である細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列と定義される。
【0062】
「サンプル」または「生体サンプル」は、本明細書で使用される場合、器官、組織、エキソソーム、血液、血漿、唾液、尿および他の体液を含むがこれらに限定されない、対象からの生物学的物質を意味する。サンプルは、対象から得られた任意の材料源であってよい。
【0063】
用語「対象」は、免疫応答が誘発され得る、生きている生物(例えば、哺乳動物)を包含することが意図される。「対象」または「患者」は、本明細書で使用される場合、ヒト、またはヒト以外の哺乳動物であってよい。ヒト以外の哺乳動物には、例えば、家畜およびペット(ヒツジ科、ウシ科、ブタ科、イヌ科、ネコ科およびネズミ科の哺乳動物など)が包含される。好ましくは、対象はヒトである。
【0064】
本明細書において互換的に使用される「標的遺伝子」、「標的配列(targeted sequence)」または「標的配列(target sequence)」は、変異導入のために特異的に標的とされる核酸配列を指す。標的とされる核酸配列は、ゲノムのコード(遺伝子)領域または非コード領域にあってよい。
【0065】
用語「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」は、本明細書で使用される場合、それによって外因性核酸が宿主細胞内に移行または導入されるプロセスに対して適用される。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクト、形質転換または形質導入された細胞である。当該細胞には、初代対象細胞およびその子孫が包含される。
【0066】
「ベクター」は、単離された核酸を含む構成物であって当該単離された核酸を細胞の内部に送達するために用いることができる構成物である。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性の化合物と結合したポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含むがこれらに限定されない、数多くのベクターが当技術分野において公知である。従って、用語「ベクター」は、自律複製型のプラスミドまたはウイルスを包含する。当該用語はまた、細胞内への核酸の移行を促進する非プラスミド化合物と非ウイルス化合物(例えば、ポリリジン化合物、リポソーム等など)を包含すると解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
範囲:本開示の全体にわたって、本発明の様々な態様は、範囲形式で提示され得る。範囲形式での説明は、単に便宜と簡潔さのためのものに過ぎず、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではない、ということが理解されるべきである。従って、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく全ての可能な部分範囲も具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、その範囲内の個々の数値(例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6)だけでなく、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等などの部分範囲も具体的に開示していると見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0068】
説明
本発明は、遺伝子編集技術を用いたインビトロ部位特異的変異導入を実施するための新規の方法に関する。特定の実施形態では、本発明は、リボヌクレオチド粒子(RNP)とオリゴヌクレオチドとバッファと無細胞抽出物とそれらの使用のための取扱説明資料とを含むインビトロ部位特異的変異導入キットを包含する。
【0069】
特定の実施形態では、本発明は、インビトロ変異導入を実施する方法を包含する。他の実施形態では、方法は、リボヌクレオチド粒子(RNP)をアセンブルさせることを含む。さらに他の実施形態では、方法は、RNPと第1のプラスミドとオリゴヌクレオチドとバッファと無細胞抽出物とを含む混合物をインキュベートし、それにより第2のプラスミドを形成させることを含む。さらに他の実施形態では、方法は、第2のプラスミドを単離することを含む。さらに他の実施形態では、方法は、単離された第2のプラスミドを複数の細胞に与えることを含む。さらに他の実施形態では、方法は、当該複数の細胞から、標的遺伝子のインビトロ変異導入が生じた少なくとも1つの細胞を選択することを含む。特定の実施形態では、RNPは、tracrRNAをcrRNAとアニーリングさせてからCas9と組み合わせることによってアセンブルされる。プラスミドは、遺伝子標的を含む。遺伝子標的は、細胞内の任意の遺伝子であってよい。一実施形態において、標的遺伝子はEGFPである。
【0070】
特定の実施形態では、本発明は、インビトロ変異導入を実施する方法を包含する。他の実施形態では、方法は、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)とプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含み、ここで、RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、crRNAは、標的遺伝子に対して相補的であり、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。さらに他の実施形態では、方法は、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、二本鎖オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物をインキュベートすることを含み、ここで、二本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含み、NotI制限部位を含む再度環状化したプラスミドが生成される。さらに他の実施形態では、方法は、再度環状化したプラスミドを複数の細胞に与えることと、当該複数の細胞から、標的遺伝子においてインビトロ変異導入が生じた少なくとも1つの細胞を選択することと、を含む。
【0071】
特定の実施形態では、本発明は、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。他の実施形態では、方法は、単離RNPとプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含み、ここで、RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、crRNAは、標的配列に対して相補的であり、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。さらに他の実施形態では、方法は、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、一本鎖オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物をインキュベートすることを含み、ここで、一本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含み、NotI制限部位を含む再度環状化したプラスミドが生成される。さらに他の実施形態では、方法は、再度環状化したプラスミドを複数の細胞に与えることを含む。さらに他の実施形態では、方法は、当該複数の細胞から、標的配列においてインビトロ変異導入が生じた少なくとも1つの細胞を選択することを含む。
【0072】
特定の実施形態では、本発明は、標的遺伝子のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。他の実施形態では、方法は、第1の単離RNPと第2の単離RNPとプラスミドとを含む第1の混合物をインキュベートすることを含み、ここで、第1のRNPは、第1の標的配列に対して相補的なcrRNAと、第1のCpf1酵素と、を含み、第2のRNPは、第2の標的配列に対して相補的な第2のcrRNAを含み、第1のRNPは、プラスミド中に第1の二本鎖切断を生じさせ、第2のRNPは、プラスミド中に第2の二本鎖切断を生じさせる。さらに他の実施形態では、方法は、二本鎖切断を含む第1のプラスミドと、オリゴヌクレオチドと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、を含む第2の混合物をインキュベートすることを含み、ここで、オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含み、NotI制限部位を含む再度環状化したプラスミドが生成される。さらに他の実施形態では、方法は、再度環状化したプラスミドを複数の細胞に与えることを含む。さらに他の実施形態では、方法は、当該複数の細胞から、標的配列においてインビトロ変異導入が生じた少なくとも1つの細胞を選択することを含む。
【0073】
特定の実施形態では、本発明は、単離RNPとプラスミドと一本鎖オリゴヌクレオチドと無細胞抽出物とDNAリガーゼとを含む混合物をインキュベートすることを含む、標的配列のインビトロ変異導入を実施する方法を包含する。RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含む。crRNAは、標的配列に対して相補的であり、RNPは、プラスミド中に二本鎖切断を生じさせる。一本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。再度環状化したプラスミドが生成され、複数の細胞に与えられる。当該複数の細胞から、標的配列においてインビトロ変異導入が生じた少なくとも1つの細胞が選択される。
【0074】
特定の実施形態では、二本鎖オリゴヌクレオチドは、NotI制限部位を含む。
【0075】
細胞は、当業者に知られている任意の標準的な手段を用いて選択されてよい。一実施形態において、選択は、インビトロ変異導入が生じたことを確認するために細胞をNotI酵素で消化することを含む。無細胞抽出物は、HEK、HUH-7、DLD1、HCT116およびS.cerevisiaeを含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の任意の細胞または細胞株に由来してよい。
【0076】
本明細書で実証されるのは、天然の系および細菌において見出されるものと類似する、RNP粒子がcrRNAおよび/またはtracRNAを別々の実体として含む新しい系である。Cas9タンパク質またはCpf1タンパク質と組み合わせることで、この系は、有効性と精度を高め、標的外部位への変異導入の懸念を低減する。一塩基点変異、一塩基の欠失または挿入、小さな挿入または欠失、および標的遺伝子のコード領域内の小さな重複に及ぶ、一連の変異合成能力が可能である。
【0077】
この新しいアッセイのための基本的工程が確立され、広範囲のDNA配列の変異について検証された。これは、主に、特定の標的遺伝子において点変異を生じさせることの有効性と効率を高めることに焦点を合わせた。さらに、アッセイの汎用性を拡大し、且つ遺伝子のコード領域内の複数の部位で同時に正確な変異導入を可能にする、より普遍的なRNP型粒子が使用される。
【0078】
標的遺伝子における様々な改変のためのオリゴヌクレオチドの構造と組成
一本鎖オリゴヌクレオチドは、よく研究されており、多数の化学修飾とバリエーションをそれらの組成に組み込むことができるため、遺伝子編集のために有用な合成DNA分子である。これらの修飾のいくつかは、二本鎖DNA標的に対するより高い結合親和性を可能にし、重要な反応中間体であるD-ループが遺伝学的交換を導くのに十分なほど安定であることを確実にする。標的遺伝子における所望の遺伝学的変化がより高い効率で生じるように、いくつかのクラスの化学修飾をこの研究において用いることができる。特定の実施形態では、一塩基ヌクレオチド改変、欠失または挿入は、無細胞抽出物におけるヌクレアーゼ消化を防ぐために化学修飾された末端連結を有する約72塩基長のオリゴヌクレオチドによって実施される。この主力オリゴヌクレオチドは、それが、完全な相同域(perfect homologous register)で、および変更のために指定された標的遺伝子中のヌクレオチドにおいて生じる単一のミスマッチを除き標的遺伝子配列と相補的に、結合するように設計される。ミスマッチ塩基対は、それが、相補鎖のアラインメントの間にオリゴヌクレオチド中の中央の塩基で生じる場合に最も効率的に修正される。二重のヌクレオチド置換または小さな挿入もしくは欠失が望まれる標的遺伝子の改変の場合、ターゲティングオリゴヌクレオチドにおいて2つのタイプの化学修飾が利用される。両方とも、標的親和性を高めるように設計され、その結果、標的遺伝子の一部を欠失させることができるか、または小さな挿入を遺伝子配列内に配置できる。結合親和性、および一本鎖オリゴドナー(ssODN)がヘリックスに組み込まれる際の侵入するssODNと二本鎖との間での安定なDNA対形成、を増加させる化学修飾は、単独で、または組み合わせて、ターゲティングオリゴヌクレオチド中に合成される。
【0079】
修飾の2’-O-(メチル、フルオロなど)の基は、RNA標的およびDNA標的の両方との結合親和性を大幅に増加させ、また、無細胞条件および細胞へのマイクロインジェクション後の両方においてヌクレアーゼ消化に対する耐性を高めることも示されている。典型的には、一連の2’-O-メチル修飾(3~5個の範囲)が、主力ベクターの左および/または右のアーム(72mer)に、ならびに標的部位を取り囲む分子の中央の基部内に、組み込まれる。DNAに対する結合親和性を向上させる別の2’修飾は、オリゴヌクレオチド中の指定された塩基へのフルオロ基の付加である。上と同じく、一連のフルオロ基修飾塩基が、3’と5’のアームに、ならびにターゲティングベクターの中央領域に、配置される。連結型核酸(Linked Nucleic Acid)(LNA)は、結合親和性を増加させるための卓越した修飾となっている。LNAは、2’-Oを4’Cにつなぎ合わせてメチレンブリッジを作り出し、構造を3’-糖コンフォメーションに効果的にロックする、二環式核酸である。オリゴヌクレオチドの長さは、所望の最終産物が20塩基の挿入である場合、約72から約200塩基まで伸ばすことができるため、オリゴヌクレオチドの側方部は、標的への結合の安定性を改善するために一連のこれらの修飾を有し得る。目的が20塩基を欠失させることである場合も同様である。特定の実施形態では、ターゲティングオリゴヌクレオチドは、52塩基長であり、結合力を改善する化学部分の側方部を有する。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、25~200塩基長、およびそれらの間のありとあらゆる数、である。このようにして、一塩基置換を超える遺伝学的改変を、比較的高い効率で生じさせることができ、本明細書で概説される二重標的化アプローチを介して特定できる。
【0080】
オリゴヌクレオチドは、約10ヌクレオチド~約200ヌクレオチド、または約50ヌクレオチド~約125ヌクレオチド、または約60ヌクレオチド~約100ヌクレオチド、または約70ヌクレオチド~約90ヌクレオチドの長さになるように設計されてよい。オリゴヌクレオチドは、約40、45、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、160、170、180、190、200ヌクレオチド、またはそれらの間の任意のヌクレオチド数、であってよい。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、60ヌクレオチドを超える長さである。別の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、70ヌクレオチドを超える長さである。さらに別の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、約72ヌクレオチドの長さである。さらに別の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、約25~約200塩基長である。
【0081】
無細胞抽出物の供給源
発現ベクターまたはエピソーム標的に位置する遺伝子を編集するための酵素活性をもたらす細胞抽出物についてはいくつかの供給源が存在する。哺乳動物細胞のみから核抽出物を単離および精製する傾向があるかもしれないが、細胞質の活性を含む全細胞抽出物は、より高いレベルの遺伝子編集を可能にし、従って、本明細書で説明される実験において使用される。哺乳動物の無細胞抽出物は、HEK、HUH-7、DLD1、HCT116およびS.cerevisiae細胞を含むがこれらに限定されない、任意のタイプの細胞から得ることができる。後者2つは結腸癌細胞に由来し、前者は肝臓に由来する。各細胞株は、遺伝子編集活性を触媒できる細胞抽出物のための豊富な供給源となっている。これらの細胞株は、1つ以上のミスマッチ修復タンパク質活性が欠損していることが知られており、これは、やや直感に反するものの、より高いレベルの遺伝子編集を実際に可能にする。ヌクレオチドの交換、挿入または欠失を可能にするために、侵入するオリゴヌクレオチドと標的遺伝子とによってミスマッチが生じると、野生型のミスマッチ修復経路の自然な傾向は、その対形成を認識して不安定化するはずである。広範な遺伝学的および生化学的な研究が実施され、標的部位でssODNによって駆動されるヌクレオチド交換が、そのような変異細胞のバックグラウンドでは亢進されるということが示された(Dekker et al. Nucleic Acids Res. 31(6) e27)。発現ベクターの遺伝学的改変を可能にする酵母(主にS.cerevisiae)からの無細胞抽出物の調製と利用は、エピソーム標的を改変するための革新的なアプローチをもたらす。著しく遺伝学的に扱いやすいS.cerevisiaeにおける遺伝学的バックグラウンドの多様性は、一塩基修復、小さなセグメントの欠失、小さなセグメントの挿入または遺伝子フラグメントの重複の実行においてより効率的な可能性がある酵素活性の豊富な供給源をもたらす。従って、最も有効かつ迅速な様式で成功を収めるために、目的に応じて適切な株を無細胞抽出物の供給源として利用できる。
【0082】
無細胞抽出物の補充
特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドの化学修飾は、広範囲の適切な遺伝学的改変を生じさせるための最も効率的なストラテジーをもたらす。しかし、特定の一連の遺伝子変化が問題となるのであれば、追加の遺伝学的ツールを補充した細胞抽出物を用いてよい。哺乳動物細胞株で高発現する多種多様なCRISPR/Cas9発現コンストラクトが利用可能である。これらのコンストラクトの非限定的な例としては、ヒトのコドンに最適化されたSpCas9とキメラガイドRNAのための挿入部位とを含むプラスミドp42230、およびpX330バックボーンベクター(Addgene)を用いた他のコンストラクトが挙げられる。特定のCRISPR/Cas9コンストラクトを哺乳動物細胞にトランスフェクトし、無細胞抽出物を調製する前に発現させることにより、遺伝子編集の酵素活性を高めることができる。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、無細胞抽出物の補充は、オリゴヌクレオチドを特定の部位に導いて標的遺伝子の編集の頻度を間接的に高めるのに役立つ可能性がある。特定の実施形態では、標的遺伝子のDNAセグメントの単純な欠失または挿入が実験の目的であれば、最初にCRISPR/Cas9の機能を補充した無細胞抽出物を利用して、その遺伝学的変化の発生を可能にすることが好ましい可能性がある。長い一本鎖DNA分子を哺乳動物の遺伝子にインフレームで挿入して、その機能しない遺伝子にタグ付けする、革新的な一連の実験が実施されている(Miura et al. Sci Rep. 2015, Aug 5;5:12799)。そのようなアプローチも、無細胞抽出物を用いてインビトロで使用できる。
【0083】
キット
特定の態様では、本発明は、標的配列のためのインビトロ変異導入キットを提供する。一実施形態において、キットは、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)と、二本鎖オリゴヌクレオチドと、プラスミドと、バッファと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、それらの使用のための取扱説明資料と、を含む。RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含み、ここで、crRNAは、標的配列に対して相補的であり、二本鎖オリゴヌクレオチドは、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングを含む。特定の実施形態では、二本鎖オリゴヌクレオチドは、NotI制限部位を含む。
【0084】
別の実施形態では、インビトロ変異導入キットは、単離リボヌクレオチド粒子(RNP)と、一本鎖オリゴヌクレオチドと、プラスミドと、バッファと、無細胞抽出物と、DNAリガーゼと、それらの使用のための取扱説明資料と、を含む。RNPは、crRNAおよびCpf1酵素を含む。crRNAは、標的遺伝子に対して相補的であり、一本鎖オリゴヌクレオチドは、NotI制限部位と、Cpf1切断部位に対して相補的な5’オーバーハングと、を含む。
【0085】
キットは、第2の標的配列に対して相補的な第2のcrRNAを含む第2のRNPをさらに含んでよい。
【0086】
CRISPR/Cas
CRISPR/Casシステムは、標的とされる遺伝学的変化を誘発するための容易かつ効率的な系である。Cas9タンパク質による標的の認識は、ガイドRNA(gRNA)中の「シード」配列と、gRNA結合領域の上流にプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含む保存されたトリヌクレオチドと、を必要とする。そのため、CRISPR/Casシステムは、細胞株(293T細胞など)、初代細胞およびCAR T細胞における使用のためにgRNAを再設計することによって事実上任意のDNA配列を切断するように設計できる。CRISPR/Casシステムは、単一のCas9タンパク質を2種以上のgRNAと共発現させることによって複数のゲノム上の座位を同時に標的とすることができ、これにより、この系は、複数の遺伝子編集または複数の標的遺伝子の相乗的活性化に比類なく適したものとなっている。
【0087】
米国特許出願公開第2014/0068797では、遺伝子発現を阻害するために用いられるCRISPR/Casシステムの一例であるCRISPRiが説明されている。エラーを起こしやすい修復経路を惹起してフレームシフト変異をもたらすDNA二本鎖切断を誘発するためにRNA誘導型Cas9エンドヌクレアーゼを利用する、CRISPRiは、永久的な遺伝子破壊を誘発する。触媒活性のないCas9(catalytically dead Cas9)は、エンドヌクレアーゼ活性を欠いている。ガイドRNAと共発現させると、転写の伸長、RNAポリメラーゼの結合または転写因子の結合を特異的に妨げるDNA認識複合体が生じる。このCRISPRiシステムは、標的遺伝子の発現を効率的に抑制する。
【0088】
CRISPR/Casでの遺伝子破壊は、標的遺伝子に対して特異的なガイド核酸配列とCasエンドヌクレアーゼが細胞に導入され、これらが、Casエンドヌクレアーゼが標的遺伝子に二本鎖切断を導入することを可能にする複合体を形成すると、起こる。特定の実施形態では、CRISPRシステムは、限定されるものではないがpAd5F35-CRISPRベクターなど、発現ベクターを含む。別の実施形態では、Cas発現ベクターは、Cas9エンドヌクレアーゼの発現を誘導する。T7、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Fok1、当技術分野で知られている他のヌクレアーゼ、およびそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、他のエンドヌクレアーゼが用いられてもよい。特定の実施形態では、Cas9は、spCas9、Cpf1、Cpf2、CasY、CasX、および/またはsaCas9をさらに包含する。
【0089】
特定の実施形態では、Cas発現ベクターの誘導は、Cas発現ベクター中の誘導性プロモーターを活性化する作用因子に細胞を曝露させることを含む。そのような実施形態では、Cas発現ベクターは、抗生物質への曝露によって(テトラサイクリンまたはテトラサイクリンの誘導体(例えばドキシサイクリン)によって)誘導可能であるものなどの誘導性プロモーターを含む。しかし、他の誘導性プロモーターが用いられてもよいということが理解されるべきである。誘導因子は、誘導性プロモーターの誘導をもたらす選択条件(例えば、作用因子(例えば抗生物質)への曝露)であってよい。これは、Cas発現ベクターの発現をもたらす。
【0090】
ガイド核酸配列は、遺伝子に対して特異的であり、Casエンドヌクレアーゼによって誘発される二本鎖切断のためにその遺伝子を標的とする。ガイド核酸配列の配列は、当該遺伝子の座位内にあってよい。特定の実施形態では、ガイド核酸配列は、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40ヌクレオチドまたはそれ以上の長さである。
【0091】
ガイド核酸配列は、免疫原性を低下させるか免疫抑制性の微小環境に対する感受性を低下させる遺伝子など、任意の遺伝子に対して特異的であってよい。ガイド核酸配列には、RNA配列、DNA配列、それらの組み合わせ(RNA-DNA組み合わせ配列)、または合成ヌクレオチドを含む配列が包含される。ガイド核酸配列は、単一分子または二重分子であってよい。特定の実施形態では、ガイド核酸配列は、単一のガイドRNAを含む。
【0092】
CRISPR複合体の形成に関して、「標的配列」は、いくらかの相補性を有するようにガイド配列が設計される配列を指し、ここで、標的配列とガイド配列との間でのハイブリダイゼーションは、CRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こしてCRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも要求されない。標的配列は、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなど、任意のポリヌクレオチドを含んでよい。典型的には、CRISPRシステムに関する場合、(標的配列にハイブリダイズして1つ以上のCasタンパク質と複合体形成したガイド配列を含む)CRISPR複合体の形成は、標的配列中に、または標的配列の近くに(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50またはそれ以上の塩基対の範囲内に)、一方または両方の鎖の切断をもたらす。標的配列と同様に、これが機能するのに十分であれば、完全な相補性は要求されないと考えられる。特定の実施形態では、tracr配列は、最も適切に位置合わせされた場合、tracrの相手となる配列(tracr mate sequence)の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の配列相補性を有する。他の実施形態では、CRISPRシステムの1つ以上の要素の発現を駆動する1つ以上のベクターが宿主細胞に導入され、その結果、当該CRISPRシステムの要素の発現が、1つ以上の標的部位におけるCRISPR複合体の形成を導く。例えば、Cas酵素、tracrの相手となる配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列は、それぞれ、別々のベクター上で別々の調節エレメントに機能可能なように連結されている可能性がある。あるいは、同じか異なる調節エレメントから発現される2つ以上の要素が1つのベクター中にまとめられ、この第1のベクターに含まれないCRISPRシステムの任意の要素を1つ以上の追加のベクターが提供してもよい。1つのベクター中にまとめられているCRISPRシステムの要素は、1つの要素が第2の要素に対して5’側に(第2の要素の「上流に」)、または第2の要素に対して3’側に(第2の要素の「下流に」)、位置するなど、任意の適切な方向で配置されてよい。1つの要素のコード配列は、第2の要素のコード配列と同じか反対側の鎖上に位置し、同じ方向または逆方向を向いていてよい。特定の実施形態では、単一のプロモーターが、CRISPR酵素と、1つ以上のイントロン配列中に(例えば、それぞれ異なるイントロン中に、2つ以上が少なくとも1つのイントロン中に、または全てが1つのイントロン中に)埋め込まれたガイド配列、tracrの相手となる配列(任意選択で、ガイド配列に機能可能なように連結されていてもよい)およびtracr配列のうちの1つ以上と、をコードする転写物の発現を駆動する。
【0093】
特定の実施形態では、CRISPR酵素は、1つ以上の異種タンパク質ドメイン(例えば、CRISPR酵素に加えて約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくは11個以上の、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくは11個以上よりも多い、ドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意の追加的なタンパク質配列を含んでよく、任意選択で、任意の2つのドメインの間にリンカー配列を含んでもよい。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例としては、限定されるものではないが、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、および以下の活性のうちの1つ以上を有するタンパク質ドメインが挙げられる:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性(transcription release factor activity)、ヒストン修飾活性、RNA切断活性および核酸結合活性。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得る、さらなるドメインは、参照により本明細書に組み込まれるUS20110059502で説明されている。特定の実施形態では、標的配列の位置を特定するために、タグ付けされたCRISPR酵素が使用される。
【0094】
従来のウイルスベースおよび非ウイルスベースの遺伝子導入法を用いて哺乳動物細胞または標的組織に核酸を導入できる。そのような方法を用いて、CRISPRシステムの成分をコードする核酸を培養中の細胞または宿主生物の細胞に与えることができる。非ウイルスベクター送達系には、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書で説明されるベクターの転写物)、裸の核酸、および送達ビヒクル(リポソームなど)と複合体形成した核酸が包含される。CRISPR/Cas9のための別の送達様式は、Cas9-ガイドRNAリボ核タンパク質(RNP)複合体の形態のRNAと精製Cas9タンパク質の組み合わせを含む(Lin et al., 2014, ELife 3:e04766)。ウイルスベクター送達系には、細胞への送達後にエピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有する、DNAウイルスとRNAウイルスが包含される(Anderson, 1992, Science 256:808-813;およびYu et al., 1994, Gene Therapy 1:13-26)。
【0095】
特定の実施形態では、CRISPR/Casは、II型CRISPR/Casシステムに由来する。他の実施形態では、CRISPR/Casシステムは、Cas9タンパク質に由来する。Cas9タンパク質は、Streptococcus pyogenes、Streptococcus thermophilusまたは他の種に由来してよい。
【0096】
一般に、CRISPR/Casタンパク質は、少なくとも1つのRNA認識および/またはRNA結合ドメインを含む。RNA認識および/またはRNA結合ドメインは、ガイドRNAと相互作用する。CRISPR/Casタンパク質はまた、ヌクレアーゼドメイン(すなわち、DNaseまたはRNaseドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNAseドメイン、タンパク質間相互作用ドメイン、二量体化ドメインならびに他のドメインを含んでもよい。CRISPR/Casタンパク質は、核酸結合の親和性および/または特異性を増加させるように、酵素活性を変化させるように、および/または当該タンパク質の別の特性を変化させるように、改変されてよい。特定の実施形態では、融合タンパク質のCRISPR/Cas様タンパク質は、野生型Cas9タンパク質またはそのフラグメントに由来してよい。他の実施形態では、CRISPR/Casは、改変型Cas9タンパク質に由来してよい。例えば、Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、当該タンパク質の1つ以上の特性(例えば、ヌクレアーゼ活性、親和性、安定性など)を変化させるように改変されてよい。あるいは、RNA誘導型切断に関与しないCas9タンパク質のドメインは、改変型Cas9タンパク質が野生型Cas9タンパク質よりも小さくなるように当該タンパク質から排除されてよい。一般に、Cas9タンパク質は、少なくとも2つのヌクレアーゼ(すなわち、DNase)ドメインを含む。例えば、Cas9タンパク質は、RuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインを含む。RuvCドメインとHNHドメインは連携して一本鎖を切断し、DNA中に二本鎖切断を作り出す(Jinek et al., 2012, Science, 337:816-821)。特定の実施形態では、Cas9由来タンパク質は、機能するヌクレアーゼドメイン(RuvC様ヌクレアーゼドメインまたはHNH様ヌクレアーゼドメインのいずれか)を1つだけ含むように改変されてよい。例えば、Cas9由来タンパク質は、ヌクレアーゼドメインのうちの1つを除去する、または機能しなくなる(すなわち、ヌクレアーゼ活性が存在しない)ように変異させる、ように改変されてよい。ヌクレアーゼドメインのうちの1つが不活性である一部の実施形態では、Cas9由来タンパク質は、二本鎖核酸にニックを導入することができるが(そのようなタンパク質は「ニッカーゼ」と呼称される)、二本鎖DNAを切断することはできない。上記の実施形態のいずれにおいても、ヌクレアーゼドメインのいずれかまたは全てが、部位特異的変異導入、PCRを介した変異導入、および全遺伝子合成、ならびに当技術分野で知られている他の方法など、周知の方法を用いて1つ以上の欠失変異、挿入変異および/または置換変異によって不活性化されてよい。
【0097】
1つの非限定的な実施形態において、ベクターは、CRISPRシステムの発現を駆動する。当技術分野には、本発明において有用である好適なベクターが豊富にある。使用されるベクターは複製に適しており、任意選択で、真核細胞における組込みに適していてもよい。典型的なベクターは、転写と翻訳のターミネーター、開始配列、および所望の核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターを含む。本発明のベクターはまた、核酸標準遺伝子送達プロトコル(nucleic acid standard gene delivery protocols)のために使用されてもよい。遺伝子送達のための方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,399,346号、同第5,580,859号および同第5,589,466号など、当技術分野において公知である。
【0098】
さらに、ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に与えられてもよい。ウイルスベクター技術は、当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al.(第4版、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 2012)において、および他のウイルス学および分子生物学のマニュアルにおいて、説明されている。ベクターとして有用であるウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス、ガンマレトロウイルスおよびレンチウイルスが包含されるが、これらに限定されない。一般に、好適なベクターは、少なくとも1種の生物で機能する複製開始点、プロモーター配列、便利な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つ以上の選択マーカーを含む(例えば、WO01/96584、WO01/29058および米国特許第6,326,193号)。
【0099】
当業者であれば、本出願で説明される特定の手順、実施形態、特許請求の範囲および実施例に対する数多くの同等物を認識するか、通例の実験法だけを用いてそれらを確認できる。そのような同等物は、本発明の範囲内に属すると見なされ、本明細書に添付された特許請求の範囲に包含される。例えば、当技術分野で認識されている代替手段による、および通例の実験法だけを用いた、反応時間、反応のサイズ/体積、反応温度および実験試薬(溶媒、触媒、圧力、大気条件、および還元剤/酸化剤など)を含むがこれらに限定されない反応条件の改変は、本出願の範囲内に属する、ということが理解されるべきである。
【0100】
本明細書において値および範囲が提示されている場合は常に、これらの値および範囲に包含される全ての値および範囲が本発明の範囲内に包含されることが意図されている、ということが理解されるべきである。さらに、これらの範囲内に属する全ての値ならびに値の範囲の上限または下限も、本出願により企図される。
【0101】
以下の実施例は、本発明の態様をさらに説明する。しかし、それらは決して、本明細書に記載される本発明の教示または開示を限定するものではない。
【実施例】
【0102】
実験による実施例
本発明はさらに、以下の実験による実施例を参照することにより、詳細に説明される。これらの実施例は、単に説明を目的として提示されているに過ぎず、特に指定の無い限り、限定することを意図したものではない。従って、本発明は、決して以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる、ありとあらゆるバリエーションを包含すると解釈されるべきである。
【0103】
さらなる説明がなくとも、当業者は、前述の説明および以下の例示的な実施例を用いて、本発明の化合物を作製および利用できるし、特許請求される方法を実施できる、と考えられる。従って、以下の実施例は、本発明の例示的な実施形態を具体的に示すものであり、本開示の残りの部分を何らかの形で限定するものと解釈されるべきではない。
【0104】
これらの実験において利用される材料と方法を以下で説明する。
【0105】
無細胞抽出物の調製:
無細胞抽出物は、Cole-Strauss et al., 1999. Nucl.Acids Res. 27(5), 1323-1330に概説されている手法に従って2億個のHCT116-19細胞から調製した。得られた抽出物をすぐに等分し、-80℃で保存した。HEK293細胞(ATCC, American Type Cell Culture)を培養し、8×106個の細胞を回収し、すぐに冷低張バッファ(20mM HEPES、5mM KCl、1.5mM MgCl2、1mM DTT、および250mM スクロース)で洗浄した。細胞を遠心分離し、洗浄し、スクロースを含まない冷低張バッファに再懸濁した後、氷上で15分間インキュベートしてから、25ストロークのDounceホモジナイザーで溶解させた。濃い細胞ライセートの細胞質画分を氷上で60分間インキュベートし、12,000g、4℃で15分間遠心分離した。次いで、上清を等分し、すぐに-80℃で凍結した。Bradfordアッセイを用いて無細胞抽出物の濃度を決定した。
【0106】
RNPの構築:
Cas9およびtracrRNA:crRNA成分を、1反応あたり10pmolで8つの反応を行うことができるようにRNP複合体としてアセンブルさせた。
【0107】
インビトロ反応:
特定の実施形態では、表1に示される成分で反応を準備し、37℃で120分間インキュベートした。特定の実施形態では、インビトロDNA切断反応混合物は、20μlという最終体積で反応バッファ(100mM NaCl、20mM Tris-HCl、10mM MgCl2、100μg/ml BSA)中に混合された、250ngのpHSG299(Takara Bio Company、滋賀、日本)またはpKRAS6163のプラスミドDNAと10pmolのRNPを含んだ。各反応を37℃で15分間インキュベートした後、反応混合物からDNAを単離し、シリカスピンカラムを用いて精製した。二次的なインビトロ再環状化反応は、35μlという最終体積となるように反応バッファ(20mM TRIS、15mM MgCl2、0.4mM DTT、および1.0mM ATP)中に混合された、最初の切断反応から単離されたDNAと、リガーゼを補充された175μgの無細胞抽出物と、を含んだ。各反応を37℃で15分間インキュベートした。二本鎖の挿入フラグメントまたは置換フラグメントを含む反応の場合、100pmolを最終反応混合物に添加した。次いで、最終反応混合物からのDNAを、シリカスピンカラム(Qiagen, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。
【0108】
【0109】
プラスミドDNAの単離:
インキュベーションの後、各反応混合物をPBバッファにより1:5の比率で希釈した。QiagenのQIAprep Miniprepプロトコルに従ってシリカメンブレンスピンカラムを用いてプラスミドDNAを単離し、10μLの水で溶出した。ミニプレッププラスミドの収量は620ng~1.8μgの範囲であったが、対照混合物では全成分混合物よりもプラスミドの回収量が高かった。
【0110】
単離されたプラスミドのコンピテント細胞への形質転換:
8つの反応混合物の各々から単離された、完全なプラスミドDNAの濃度が様々な10μLを全て用いて、8つの形質転換を実施した。形質転換は、Invitrogen OneShot TOP10 Chemically Competent E.coliのプロトコルが概説するヒートショック手法のプロトコルに従って実施した。
【0111】
形質転換細胞のプレーティングとカナマイシン選択:
形質転換細胞を1:5および1:100の希釈の後にカナマイシンプレートにプレーティングし、一晩インキュベートしてカナマイシン耐性コロニーを増殖させた。インキュベーションの後、最後の3つの全成分反応を優先しながら1:100希釈のプレートの8枚から30コロニーを選択し、密封し、シーケンシングのために発送した。
【0112】
形質転換、選択、DNAの単離および分析:
インビトロ反応から回収したプラスミドDNAをヒートショック法によってDH5α(Invitrogen, Carlsbad, CA)またはTOP10 One Shot(Thermo Fisher Scientific Wilmington, DE)のコンピテントE.coliに形質転換した。コンピテント細胞を氷上で30分間インキュベートし、42℃で20秒間ヒートショックを与え、氷上に2分間置き、225rpmで1時間、37℃にて1mlのSOC培地中でインキュベートした。無希釈のコンピテント細胞を、カナマイシンを含む培地上にプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。単一のカナマイシン耐性コロニーを選択し、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen, Hilden, ドイツ)によってプラスミドDNAを単離した。細菌コロニーから選択されたプラスミドDNAに対する改変を、DNAシーケンシング(GeneWiz, South Plainfield, NJ)の後に評価した。関連するプラスミドの野生型配列に対してサンプルの配列をアラインメントするためにSnapGeneソフトウェアを用いて、配列分析と破壊パターンを評価した。
【0113】
実験の結果を以下で説明する。
【0114】
実施例1:精製DNAテンプレートに対する、リボ核タンパク質(RNP)複合体へとアセンブルされたCRISPR/Cas9のインビトロ活性
RNPのアセンブリのために、tracrRNAおよび(cr)isprRNAを別でアニーリングさせた後、精製Cas9タンパク質を添加した(
図1)。RNPのアセンブリの条件およびCas9は、IDT(Integrated DNA Technologies(IDT), Coralville, IA)によって提供された。
【0115】
精製RNP複合体のDNA切断活性を
図2に示す。反応は、RNPによる切断のために指定された標的配列を含むeGFP遺伝子を含む超らせんDNAプラスミド分子の使用に基づく。MWマーカーのレーンに続いて、レーン1は、超らせん形態の精製プラスミドDNAを示す。レーン2~5は、増加する量のRNP複合体を含む反応混合物の産物を示す。最も低いレベルにおいてさえ、二本鎖DNA切断が観察された。過剰な50pmolのレベルでは、おそらくは反応中にCas9タンパク質が大量にあるせいで、DNA切断活性が実際にブロックされる。このタイトレーションにより、インビトロ変異導入キットにおいて用いられるRNPがDNAを効率的に切断していることが確認された。
【0116】
RNPによって導かれる切断の特異性を示すために実験を設計した(
図3)。無処理のHCT116-19細胞からゲノムDNAを単離し、PCRを用いて、組み込まれた変異型eGFP遺伝子の配列を包囲する605bpの増幅産物を生成させた。この増幅産物を、それぞれ25pmolおよび50pmolのRNP複合体と組み合わせ、37℃で40分間インキュベートした。完全な反応では、RNP複合体のために設計された特定の切断部位から予測されるフラグメントと一致するサイズを有する2つの産物が生じた。対照として、RNP複合体を、細胞株K562からの345塩基対の長さのHBB遺伝子から生成された増幅産物と共にインキュベートした。対照となる消化を、制限酵素DdeIを用いて345塩基の増幅産物に対して実施した。この345塩基対のフラグメントは、eGFP標的を切断するように設計された(そして、本明細書中の他の場合には切断が成功した)RNPによる消化には耐性であった。制限酵素Dde1による消化は、PCR産物が切断可能であることを保証するための陽性対照として役立った。RNP複合体の個々の成分が省かれた場合の酵素活性を示す酵素反応を実施した(
図4)。DNA切断活性は、RNPの成分が全て存在する場合に最も有効であった(
図4、レーン3)。RNP切断の産物に対する哺乳動物の無細胞抽出物の活性を試験した。重要なことに、10μgの無細胞抽出物を含む反応では、プラスミドのいくらかの再環状化が観察された(
図5、レーン3)。この特別な場合において、無細胞抽出物は、直鎖状となったプラスミドの部分的な再環状化を触媒した。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、おそらく、直鎖状となったプラスミドがヌクレオチド交換のためのテンプレートである。この実験は、超らせんDNAが、RNP粒子によって首尾よく切断され、無細胞抽出物によって環状形態に部分的に戻され得る、ということを実証した。重要なことに、RNPによって処理されたDNAテンプレートは、機能する用量の無細胞抽出物中で安定であった。
【0117】
実施例2:インビトロ変異導入
本発明の遺伝学的読み出しの系の初期化と検証のストラテジーを
図6に示す。RNP粒子のアセンブリから始まり、その後に、一本鎖オリゴヌクレオチドと無細胞抽出物と遺伝子標的(この非限定的な実施例ではeGFP遺伝子)を有する超らせんプラスミドDNAテンプレートとが添加される、反応全体が示されている。反応は40~60分間行われ、その後に、標準的なDNAミニプレップのプロトコルを用いて標的プラスミドを単離する。次いで、ヒートショックプロトコルによってプラスミド集団をエシェリキア・コリ(Escherichia coli)に形質転換し、アンピシリンを含む寒天プレート上に細胞をプレーティングする。元のプラスミドには野生型アンピシリン耐性遺伝子が含まれており、従って、アンピシリン耐性を有する単一の形質転換細菌細胞から増殖する細菌コロニーを選択できる。アンピシリン耐性コロニーを採取し(通常は一度に50個)、DNAシーケンシングのために処理する。eGFP遺伝子を含むDNA配列における対照の反応が、遺伝子の強調表示を伴ってプレートの下に示されている。本明細書で実証される実験では、TAGコドンが、TACへの変換の標的とされた。
【0118】
本研究では、2つの遺伝学的読み出しが用いられている。1つ目は、プラスミドpKanにおけるG残基のT残基への修正によるカナマイシン感受性のカナマイシン耐性への変換である(
図7A)。もう一方のプラスミドは、容易な選択のための抗生物質耐性遺伝子を含まないが、形質転換後にプラスミドを受容した細胞のスクリーニングのために野生型形態のアンピシリン耐性遺伝子を有する(
図7B)。この場合、標的は、3番目の塩基GからCへの変換により野生型eGFPが生じる終止コドンを有するeGFP遺伝子である。プラスミドは両方とも、抗生物質耐性の選択に関して、またはコロニースクリーニングおよび直接的な任意抽出のDNAシーケンシング(direct, unselected DNA sequencing)を介して、この系の汎用性を実証するために使用される。
【0119】
無細胞抽出物は、試験された様々な組み合わせによって証明されるように、低いレベルで一塩基修復を触媒することが可能である(表2)。RNPまたはオリゴヌクレオチドを含め、遺伝子編集の成分を個々に添加しても、pKanプラスミドの部位特異的な変異導入および変換を触媒しない。RNP、一本鎖オリゴヌクレオチドおよび無細胞抽出物を同時に添加すると、pKan感受性プラスミドからpKan耐性プラスミドへの変換の非常に大幅な増加を触媒した。4つの実験を3連で実施して、表3に提示されるデータを得た;コロニー数の平均範囲が提示されている。
【0120】
【0121】
peGFP
-からpeGFP
+への変換における一塩基の変更または変異導入は、RNP、一本鎖オリゴヌクレオチドおよび無細胞抽出物を含む全ての反応成分を必要とした(表3)。一本鎖DNAまたはRNPが存在しない場合、無細胞抽出物は、eGFP遺伝子内での変異導入事象を触媒しなかった(選択なし)。
図8A~
図8Bの配列は、分析された100個のコロニーのうち9個で点変異、欠失および挿入が生じたということを示す。100個のアンピシリン耐性コロニーの中で、正確な修正を有するコロニーが3つ見出された。これは、選択を伴わない部位特異的変異導入である。これらの結果は、塩基置換、塩基欠失および塩基挿入は全て、同じ反応混合物内でこのインビトロ系によって触媒され得るという点で、このインビトロ系の注目すべき汎用性を実証した。従って、複数のタイプの特定の変異を、同じ遺伝子内で同じ標的部位に生じさせ、選択後に個々のプラスミド分子として分離および単離することができる。
【0122】
【0123】
インビトロで改変され、クローンから単離されたプラスミドDNAからの代表的なDNAシーケンシングの結果を
図8A~
図8Bに示す。これらのクローンは特定の順序で単離されなかったため、番号付けはランダムである。クローン1は、遺伝学的変化を有さない単離されたプラスミドを示す。標的塩基であるTAGは、そのままであった。クローンの大部分は、標的部位に変化を有さなかった。クローン2は、標的部位を取り囲む完全な欠失を含んでいた。クローン5は、首尾よく変化した点変異(TAGからTAC)を含んでいた。クローン6は、同じGからCへの変化を含んでいたが、但し、標的部位の上流に2塩基の欠失も含んでいた。クローン12もやはり、終止コドンTAGの3番目の塩基という標的部位に完全に改変されたCを含んでいた。これらの実験は、部位特異的変異導入反応を実証する。重要で興味深いのは、単離されたクローンの同じ集団内において、所望の点変異の変化を含め、様々な特異的に変異導入されたDNA配列が同じ反応で得られる可能性があるということである。これは、他のインビトロ変異導入アッセイでは不可能である。
【0124】
実施例3:反応条件の最適化および頻度と精度を改善するための代替方法の開発
Cas9タンパク質は、インタクトなタンパク質の結合ドメイン内に埋め込まれた2つの核酸分解ドメインを含む。Cas9に対して行われた遺伝子操作により、現在、野生型タンパク質の2つの変種が生み出されている;dead Cas9(dCas9)と呼称されることが多い不活性型Cas9、および2つのヌクレアーゼドメインのうちの一方が不活性に変更されている酵素であるニッカーゼ。この酵素は、二重らせんの2本の鎖のうちの一方を切断する能力を保持している。これらのCas9バリアントは両方とも、反応全体の頻度と汎用性を改善するためにインビトロ変異導入アッセイ内で系統的に試験することができる。その理論的根拠は、オリゴヌクレオチドによる変異導入の標的となる部位での単一の切断の導入またはDNAヘリックスの巻き戻しが、反応全体の特異性と効率を改善できるということである。
【0125】
最適化プロセスは、超らせんDNAに対するdCas9およびニッカーゼの相互作用を調べることから始まった。
図9に示されるように、dCas9は、超らせんDNAに結合し、アガロースゲルを通る超らせんDNAの移動を遅らせた。ニッカーゼの添加は、超らせんDNAを開環状またはニックの入った形態のDNAに変換した。ニッカーゼの用量が増えるにつれて、ゲル上に、いくつかの他の形態のDNAが、特にゲルのローディングウェルのすぐ下に見える移動の遅い複合体として、出現した。dCas9反応の場合、超らせんDNAのバンドシフトがレーン1に観察された。レーン2は、製造業者によって提案される通りのBSAを含む反応混合物を示した。これらの条件下では、超らせん基質の前方に移動する移動の速い分子量、ならびにゲル中をいくらかより遅く移動する移動の遅い分子(この上部のバンドは、製造業者が提供する仕様書に載っている予測移動パターンと一致した)が観察された。これら2つのタイプの改変型Cas9は、DNAとの明確な相互作用を示し、インビトロ変異導入アッセイにおいてRNP複合体へとアセンブルされた後に遺伝子編集活性について評価することができる。
【0126】
実施例4:無細胞抽出物系、RNP、オリゴヌクレオチドおよびプラスミド発現ベクターを利用した標的遺伝子の改変
本発明は、標的遺伝子を改変するための新規の方法を提供し、無細胞抽出物系、RNP、オリゴヌクレオチドおよびプラスミド発現ベクターを利用する。発現ベクターは、目的の遺伝子(標的遺伝子)を含み、特定の実施形態では、遺伝学的に変化したプラスミドの選択のための修正マーカーとして働く変異型カナマイシン遺伝子を含む。特定のオリゴヌクレオチドによって導かれる遺伝子の変化は、E.coliにおける遺伝学的読み出しを利用することによって測定される。この実施形態では、発現コンストラクト中に挿入されたカナマイシンに対する耐性を付与する変異型遺伝子が、特定のホスホロチオエート結合を有する72塩基長の標準オリゴヌクレオチドによる修正に関して同時に標的となる。遺伝子編集は、哺乳動物細胞または酵母細胞から作製された無細胞抽出物において生じ、修復されたカナマイシン遺伝子の発現は、寒天プレート上のカナマイシン耐性細菌コロニーの出現によって測定される。カナマイシン耐性については、その目的は、遺伝子中の4021位のG/C塩基対(変異型)をC/G塩基対(機能型)に変換すると同時に標的遺伝子を遺伝学的に変化させることである。次いで、単離されたプラスミドは、機能するRecAタンパク質を欠くE.coliにエレクトロポレーションされる。この読み出しには、相同組換えとミスマッチ修復が欠損している細菌株が用いられるが、これは、これらの細菌が、それら自体では標的ヌクレオチド置換を触媒しないためである。このストラテジーは、バックグラウンドのレベルを最小化し、特定の標的遺伝子の変化を有するプラスミドのより効率的な特定を可能にする。E.coliからのプラスミドの単離とDNAシーケンシングは、そのプラスミド上で遺伝子編集活動が起こったことを示すカナマイシン耐性の最初の選択を介して遺伝学的変化を裏付ける。
【0127】
実施例5:ヌクレオチドの挿入
本明細書で説明される同じ基本的反応ワークフローをヌクレオチドの挿入に利用した:RNP粒子によって触媒されるDNA切断;ドナーDNA(この場合は、予めアニーリングされた二本鎖フラグメント)の添加;その後の、外因的に添加されるDNAリガーゼを補充した、HEK293細胞から作製される、哺乳動物の無細胞抽出物の添加。ここでの目的は、二本鎖切断を生じさせてプラスミド中に含まれるDNA配列の除去を実行するという先の例における意図とは反対に、RNP切断の部位に15塩基の二本鎖フラグメントを挿入することであった。この実証は、遺伝子編集インビトロ変異導入アッセイの適用範囲を、インビトロ反応に関して越えるべき重要な障壁である遺伝子またはDNAの挿入の領域にまで広げる。
【0128】
反応自体の詳細は以下の通りである(
図10A~
図10C):NotI制限部位挿入断片のために二本鎖となるように2つの相補的な一本鎖オリゴヌクレオチド(5’-AATGGTTGCGGCCGC-3’(配列番号1)および5’-CCATTGCGGCCGCAA-3’(配列番号2))を設計したが、これらはそれぞれ、Cpf1 RNPによる互い違いの切断部位に生じる2つのオーバーハングのうちの一方に対して相補的な5’オーバーハングを有する。スーパーコイルプラスミドDNAとCpf1 RNPとを含むプラスミドDNA上で互い違いの二本鎖切断を生じさせるようにインビトロ反応を設定した。この反応は、37℃で15分間インキュベートされた。第1の反応から生じる直鎖状となったDNAを、シリカメンブレンカラムを用いて単離および精製し、二本鎖NotI制限部位挿入を挿入するための第2のインビトロ反応に添加した。この第2のインビトロ反応には、精製済みの直鎖状となったDNA、NotI部位挿入断片、およびリガーゼを含む改変されたHEK CFEが含まれた。この反応は、37℃で15分間インキュベートされた。
【0129】
次いで、第2の反応から生じる再度環状化したDNAを、シリカメンブレンカラムを用いて単離および精製し、DH5αコンピテントE.coliに形質転換した。カナマイシン抗生物質を含む寒天プレート上に細菌をプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。一晩たったプレートから単一のコロニーを採取し、振盪インキュベーターにおいてカナマイシン抗生物質を含むブロス中で37℃にて16時間培養した。一晩たった培養物からスーパーコイルDNAを単離し、NotI消化アッセイに含め、NotI挿入断片を含む直鎖状となったDNAをアガロースゲル上で可視化した。次いで、NotI酵素による切断を示すDNAをPCR増幅に供し、NotI部位の挿入を確認するために配列決定した。
【0130】
制限酵素による切断、RFLP、およびNotI制限消化に供された精製プラスミドDNAのDNA配列分析を実施した。結果は、環状プラスミドDNAの線形化を示した。このプラスミド中にNotI制限部位は出現しないため、インビトロ遺伝子編集のプロセスを介してフラグメントが首尾よく挿入された場合にのみ、線形化が起こり得た(
図11A~
図14)。DNA配列分析により、RNP粒子が意図して導く正確な部位における二本鎖フラグメントの挿入が確認された(
図15~
図22)。いくつかの異なるDNA配列が観察されたが、それらのうちのいくつかは、意図されるフラグメントの完全できれいな挿入を示す。
【0131】
実施例6:Cas9またはCpf1のRNP粒子によって誘発されるDNA切断と改変
遺伝子編集のプロセスを研究するための完全に統合された無細胞系をここで構築した。
図23Aは、プラスミドDNAの部位特異的切断を導くRNP粒子へとアセンブルされたCas9またはCpf1を用いる反応の初期化と、それに続くDNAリガーゼを補充した哺乳動物の無細胞抽出物の添加と、を図示する。反応を37℃で15分間インキュベートし、プラスミドDNAを回収し、その後のコロニー選択とプラスミドDNAの分析のためにE.coliに形質転換した。無細胞抽出物は、直鎖状となったプラスミドのプロセシングに必要な触媒活性(特にDNAの切除、リン酸化およびライゲーションを含む)を提供する。外因的に加えられたドナーDNAの存在下において、DNAのフラグメントを切断部位に正確に挿入できる。
【0132】
図23Bに示される適切なガイドRNA配列によって導かれるlacZ遺伝子領域に沿った様々なCas9部位とCpf1部位を標的とした。これらの実験で主に使用されるCpf1部位がボックスで囲まれており、関連する切断部位が、互い違いの矢印で示されている。この研究で使用されるCas9部位が、crRNAの結合の位置を示すバーで示されている。DNAの欠失または挿入によるlacZ遺伝子の破壊により、X-galを代謝できない機能しないβ-ガラクトースタンパク質の産生をもたらすことができるため、プラスミドpHSG299に埋め込まれたlacZ遺伝子は、このアッセイのための魅力的なテンプレートを提供する。X-galの存在下で培養される細菌に、破壊されたlacZ遺伝子を含むプラスミドが導入されると、よく確立された色の変化(青から白)が見られる。
【0133】
図24A~
図24Cは、アセンブルされたRNP粒子のインビトロ活性を示す。まず、
図24Aは、インビトロでRNPバリアントによってスーパーコイルpHSG299の切断が誘発される単純な反応を示す。pHSG299に対するヌクレアーゼ活性は、異なるCpf1切断部位ならびに野生型Cas9および関連するニッカーゼCas9の切断部位の各々において明らかである。第二に、Cas9とCpf1の両方についての用量依存性が
図24Bに提示されており、ここで、Cpf1は、より低いピコモルレベルでスーパーコイルDNAの切断を示している。Cas9 RNPによる切断活性は、5pmolのRNPが存在するまでスーパーコイルDNAの完全な線形化が観察されないDNA切断についての「閾値」限界を示した。2pmolの存在下において非常に僅かな直鎖状DNAのバンドが出現し始め、5pmol以上での反応は全て、ほぼ全てのDNAが完全に切断されることを示した。対照的に、Cpf1 RNPによる切断活性は、むしろDNA切断の「勾配」増加を示した。0.5pmol程度のRNPの存在下において非常に僅かな直鎖状DNAのバンドが出現し始め、1pmolが存在するまで徐々に増加し、2pmol以上での反応は全て、ほぼ全てのDNAが完全に切断されることを示した。インビトロでCas9とCpf1の間に観察された切断パターンの違いは、この系内におけるCpf1の向上した触媒活性を反映している可能性がある。これらの結果は、DNAの構造改変のための遺伝学的ツールとして働く特定のガイドRNAと組み合わせたCas9とCpf1の両方の有用性を実証した。
【0134】
哺乳動物の無細胞抽出物は以前に、ssODNによって導かれる遺伝子編集のメカニズムと調節を調査するために利用された(Engstrom et al. BioEssays 31, 159-168(2009))。その遺伝子編集経路の解明と再構築につながったデータの多くは、インビトロで実施された研究に由来するものであった(Cole-Strauss. et al. Nucleic Acids Res. 27, 1323-30(1999))。同じ実験ワークフローが、無細胞のCRISPRによって導かれる遺伝子編集システムの開発において利用された。
図24Cは、Cpf1によって生じる直鎖状となったDNA(
図24Bを参照のこと)に対する抽出物の触媒活性を図示する。細胞源から調製された抽出物は、直鎖状となったプラスミドに対する様々な程度のDNA切除活性を示した。抽出物の各供給源は、増加する抽出物の濃度の関数として直鎖状となったプラスミドのサイズを減少させる好適なレベルのヌクレアーゼ活性をもたらした。HEK-293細胞から調製された抽出物が示す活性は、これらの細胞が適切なレベルのDNA修復とDNA組換えの酵素活性を有すると考えられているため、特に興味深いものであった。
【0135】
実施例7:無細胞系における遺伝子編集成分によって導かれる特異的DNA欠失
本明細書で説明されるように、ヒト細胞におけるゲノム修飾を取り巻く分子経路と調節回路を解明するために使用できるCRISPRを利用した遺伝子編集システムが確立された。この目標に向けて、Cas9 RNP、pHSG299および哺乳動物の無細胞抽出物を伴うインビトロ反応においてpHSG299に対するDNA切断活性を利用した。主な目的は、切断部位に特異的欠失を生じさせることと、その後の再環状化および細菌での遺伝学的読み出しであった。
図25Aは、関連する遺伝学的ツールと共に遺伝学的標的の概要を示し、
図25Bは、その結果を図示する。協調的努力および18個のクローンの分析にもかかわらず、Cas9 RNPによって触媒される反応から生じる配列の欠失を有する改変されたプラスミド分子は特定されなかった。Cas9 RNP粒子のヌクレアーゼ活性を2つの別個のエキソヌクレアーゼ(T7およびExo I)と組み合わせたいくつかの予備的実験を実施した。酵素のユニークな組み合わせを用いた1つの事例においてのみ、切除されたDNA配列が観察された。この反応は、ロバストなものではなかった。このネガティブな結果は、Cas9による切断が、インビボとは異なりインビトロではDNA切除の影響を受けにくくなる可能性がある平滑末端の二本鎖DNA切断を生じさせる、という事実に起因する可能性がある。
【0136】
次に、この反応を繰り返したが、Cas9をヌクレアーゼCpf1に置き換えた。
図25Cは、pHSG299におけるlacZ遺伝子の遺伝子編集の成功を実証する。インビトロ反応から回収されたプラスミドで形質転換された複数の細菌クローンは、
図25Aにおいて互い違いの矢印で示される標的部位を取り囲む配列の欠失を有することが見出された。DNA配列が変化していないことが見出されたクローンを含むクローンの集団内で見出されたDNA欠失のタイプを実証するために代表的な配列のパネルを示す。分析された41個の配列のうちの22個が、Cpf1 RNPによって生み出された切断部位を取り囲むDNAの変化を示した。これらのデータは、Cpf1がインビトロで遺伝子編集を触媒する実験システムの開発を実証した。細菌コロニー中の改変されたプラスミドは、様々な色合いの青を示した。DNA欠失は、白色、淡い青色および濃い青色のコロニーで見出された。従って、青色のコロニーをスクリーニングプロセスから排除することはできず、これらのコロニーが変化したDNA配列を含むということを除外できなかった。
【0137】
実施例8:無細胞系におけるRNPによって導かれる特異的なドナーDNAの挿入
指定のCpf1切断部位で相同組換え修復(homology directed repair)(HDR)を介してDNAの挿入を実行することを試みることによって実験系を拡張した。そのために、アニーリングさせると、pHSG299には固有の部位が存在しない制限酵素NotIのための切断部位を含む二本鎖DNAフラグメントが生じる、2つの短い相補的DNA分子を合成した。NotI制限部位および実験系は、それぞれ
図26Aおよび
図26Bに示されており、実験プロトコルは、
図26Cに概要が示されている。個別の遺伝子編集事象を調査するために、外因的に加えられたフラグメントの組み込まれたアームとネイティブのlacZ遺伝子の領域との間の相同領域を、NotI部位に対して上流の位置に2塩基対の「バーコード」(TT:AA)を含めることによって識別した。中間ステップとして、および挿入されたフラグメントの存在をチェックするために、選択された細菌コロニーからプラスミドDNAを単離し、制限酵素NotIで消化した。
図26Dに示されるように、いくつかの精製プラスミドDNAサンプルがNotIによって消化され、予想通りに直鎖状となったプラスミドDNAが生じた。フラグメントの挿入は、反応混合物中の無細胞抽出物の存在に依存していたが、これは、無細胞抽出物が存在しない場合にはNotIによる切断が観察されなかったためである。
【0138】
NotI制限を示すプラスミドDNAサンプルをPCRで増幅し、配列決定してDNAの挿入を検証した。
図27A~
図27Cは、NotI陽性集団内で見出されたDNAフラグメント挿入パターンのアレイを示しており、配列のパネルの上に野生型配列が提示されている。
図27Aは、指定の切断部位に正確かつ完全な挿入を含むいくつかのクローンの配列を示す。二本鎖のNotI挿入フラグメントを含むインビトロ反応から回収されたDNAで形質転換されたコロニーから単離されたプラスミドDNAの約15%が、完全な挿入を含むことが見出された。他の挿入パターンには、1塩基対の欠失を伴って2つのNotIフラグメントの挿入が観察された挿入パターンが含まれた(
図27B)。3つの配列全てにおいて、挿入部位の上流の5’オーバーハング末端に位置する最後のヌクレオチドで1塩基の欠失が生じた。
図27Cは、3つのNotIフラグメントの挿入が、挿入されたNotIフラグメントを取り囲む複数の欠失(一番目の挿入フラグメントの上流の1塩基対の欠失、および三番目の挿入フラグメントの下流の7塩基対の欠失)を伴う、DNA配列を示す。プラスミドDNAの約8%は、
図27Dに見られるようにDNA配列の変化を有さなかった。
【0139】
実施例9:一本鎖DNA分子によって促進される特異的DNA挿入
アニーリングされた二本鎖DNAフラグメントの代わりに一本鎖DNA分子がHDRとフラグメントの挿入を導くことができる可能性を調査した。
図28Aおよび
図28Bは、この実験で用いられる一本鎖分子および標的部位に対するそれらの方向/位置の図を提示する。これらの一本鎖分子は、本明細書で説明される先の実験において用いられた二本鎖フラグメント(
図26Bを参照のこと)を構成するものであった。各分子は、Cpf1の互い違いの切断部位のオーバーハングに対して相補的な5塩基の領域を伴う10塩基のオーバーハングを有する。
図4Cに概要が示されている同じ実験プロトコルに従って、反応混合物から回収された精製DNAを細菌細胞に形質転換し、選択された細菌コロニーからプラスミドDNAを単離した。単離されたDNAサンプルに対してNotI制限消化を実施したが、その結果を
図28Cに提示する。センス鎖に組み込まれる一本鎖オリゴヌクレオチドNotI-Sを含む反応から単離されたDNAプラスミドにまず注目すると、挿入を含むいくつかの産物はNotI酵素消化によって切断できるということが観察された。非センス鎖に組み込まれる一本鎖オリゴヌクレオチドNotI-NSを含む反応からのサンプルも、NotI制限部位を有する産物分子を生じさせた。まとめると、NotIとのインキュベーションによって首尾よく切断できるプラスミド分子の集団が観察されたが、これは、NotI部位を含む一本鎖DNA分子の少なくとも一部の挿入が成功したことを示す。
【0140】
インビトロでの1本鎖DNA分子挿入反応の両方から回収されたNotI陽性プラスミドサンプルについて目的の領域全体に対してDNAシーケンシングを実施した。各々についての代表的なパネルが
図28Dに提示されている。シーケンシングデータは、RFLP分析を裏付け、クローンの両方のカテゴリー内の不均一な配列挿入断片集団を明らかにした。重要なことに、NotI-Sによって駆動される反応から分析された配列の50%において、意図される分子の完全な単一の挿入が観察された。NotI-NSが一本鎖ドナー分子として働く場合には、フラグメントの完全な挿入は検出されなかった。完全な挿入が検出されなかった事例の全てにおいて、各クローンには、様々な量のDNA改変が(多くの場合、欠失の形態で)含まれていた。このHDRによって導かれる反応において示された鎖のバイアスは、おそらく、インビトロ遺伝子編集におけるフラグメント挿入のメカニズムへの洞察を提供するであろう。
【0141】
実施例10:186bpのフラグメントの挿入
この実験では、
図29Aに示されるように、異なる部位で切断する2つのCpf1ヌクレアーゼを用いて、親プラスミドからフラグメントを切り出し、それを、相補的なオーバーハングを有する2つの相補的なオリゴヌクレオチドのアニーリングによって作製した186塩基対のフラグメントで置き換えた。
図29B~
図29Cに提示される配列は、このインビトロ反応について細菌における読み出しで得られた配列を示す。
図29Dは、大部分は欠失であるが、挿入が成功した1つのクローンを含む、得られた結果のタイプを図示する。重要なことに、本明細書で提示される先のデータでは1つのCpf1酵素が用いられたのに対し、この実験では、2つのCpf1酵素を用いて、プラスミドのフラグメントを欠落させ、同様のサイズのドナーDNAフラグメントを首尾よく挿入するのに成功した。
【0142】
実施例11:部位特異的DNA挿入
Cpf1ヌクレアーゼを含むRNP複合体の部位特異的DNA切断活性を、ドナーDNAフラグメントを用いてプラスミド中でのDNA切除、DNA挿入および遺伝子セグメント置換を触媒できる哺乳動物の無細胞抽出物と組み合わせた(
図23A)。CRISPRによって導かれる改変を含むプラスミドDNAをインビトロ反応から回収し、コンピテントE.coliに形質転換し、次いで、カナマイシンを含む寒天上に当該E.coliをプレーティングした。改変されたプラスミドDNAを、最初に抗生物質耐性および表現型の変化(すなわち、色)によって、および/またはDNA配列分析によって直接、特定した。2つのターゲティングシステムを利用した;lacZ遺伝子のインタクトな機能するコピーを含むプラスミドpHSG299、および癌遺伝子KRASのインタクトな機能するコピーを含むプラスミドpKRAS6163。lacZ遺伝子中で生じる挿入反応または置換反応は、遺伝子編集活性を示す、青から白への色の変化をもたらす。pKRAS6163における挿入または置換は、成功した遺伝子編集活性を特定するのにDNA配列分析を必要とする。
【0143】
このインビトロ系は、単一のCpf1 RNP切断部位におけるドナーDNAフラグメントの挿入または別個の切断部位における2つのCpf1 RNP複合体の作用によるドナーDNAフラグメントでの遺伝子セグメントの置換を可能にする優れた汎用性を実証した。さらに、この系は、RNP複合体の作用によって生じたDNA末端の切除による部位特異的欠失を含むプラスミド分子も生じさせた。従って、多様な遺伝子編集反応が同時に起こっていたが、これは、細胞に導入された場合に遺伝子編集ツールがどのように働くかを競争的に再現するものである。これら3つの経路が
図30で模式的に示されている;挿入には単一の切断が必要であり、置換には標的部位における2つの切断が必要であった。挿入反応と置換反応の両方において、Cpf1 RNPの特徴的な切断パターンにより、各切断部位の5’末端にDNAオーバーハングが生じた。次いで、アニーリングさせると、互い違いの末端に対する相同性を有する5塩基のオーバーハングが各5’末端において隣接する二本鎖の挿入フラグメントまたは置換フラグメントを有する、2つの相補的なオリゴヌクレオチドを設計することによって、ドナーDNAフラグメントが作製された。ドナーDNAフラグメントとCpf1切断部位との間での5塩基のオーバーハングの相同性は、挿入反応および置換反応の間のフラグメントの組込みを促進した。
【0144】
本明細書で説明されるように、ヒト細胞におけるゲノム修飾を取り巻く分子経路と調節回路を解明するために使用できるCRISPRを利用した遺伝子編集システムが確立された。本明細書で説明されるように、Cpf1を利用してスーパーコイルDNAの切断を開始した後、無細胞抽出物を添加した。
図31は、pHSG299におけるlacZ遺伝子の遺伝子編集の成功を図示する。インビトロ反応から回収されたプラスミドで形質転換された複数の細菌クローンは、互い違いの矢印で示される標的部位を取り囲む配列の欠失を有することが見出された。分析された41個の配列のうちの22個が、Cpf1 RNPによって生み出された切断部位を取り囲むDNA切除によるDNAの変化を示した。これらのデータは、Cpf1が触媒する部位特異的DNA欠失をこのインビトロ系において実行できるということを実証した。
【0145】
このシステムが、一本鎖DNAフラグメントによって触媒される相同組換え修復が起こっている哺乳動物細胞において行われている反応を反映できる可能性を調査した。相同組換え修復のための好ましい基質の一本鎖DNAテンプレートおよびこれらのフラグメントの組み込みの成功が、不正確なアライメントを介してであろうが正確なアライメントを介してであろうが、再現性良く観察されている。制御可能な環境でこれらの反応を再現できる系を設計することにより、哺乳動物細胞における相同組換え修復の制御因子のいくつかの機能を特定および解明することができた。
図28A~
図28Bは、実験のストラテジーおよびこの実験で用いられる一本鎖分子(標的挿入部位に対するそれらの方向を含む)の図を提示する。各分子は、Cpf1の互い違いの切断部位のオーバーハングに対して相補的な5塩基の領域を伴う10塩基のオーバーハングを有する。個別の遺伝子編集事象を調査するために、外因的に加えられたフラグメントの組み込まれたアームとネイティブのlacZ遺伝子の領域との間の相同領域を、NotI部位に対して上流の位置に2塩基対の「バーコード」(TT:AA)を含めることによって識別した。中間ステップとして、および挿入されたフラグメントの存在をチェックするために、選択された細菌コロニーからプラスミドDNAを単離し、NotI制限酵素で消化した。
図23Aに概要が示されている同じ実験プロトコルに従って、反応混合物から回収された精製DNAを細菌細胞に形質転換し、次いで、選択された細菌コロニーからプラスミドDNAを単離した。単離されたDNAサンプルに対してNotI制限消化を実施し(
図28C)、制限酵素によって切断されたクローンDNA単離物を、DNA配列分析のために処理した。各々についての代表的なパネルが
図28Dに提示されている。
図32A~
図32Bには、さらなるDNA配列データが示されている。シーケンシングデータは、RFLP分析を裏付け、クローンの両方のカテゴリー内の不均一な配列挿入断片集団を明らかにした。重要なことに、センス鎖に組み込まれる一本鎖オリゴヌクレオチドNotI-Sによって駆動される反応から分析された配列の50%において、意図される分子の完全な単一の挿入が観察された。非センス鎖に組み込まれる一本鎖オリゴヌクレオチドNotI-NSがドナー分子として働く場合には、フラグメントの完全な挿入は検出されなかった。完全な挿入が検出されなかった事例の全てにおいて、各クローンには、様々な量のDNA改変が(多くの場合、欠失の形態で)含まれていた。
【0146】
実施例12:部位特異的遺伝子セグメント置換
ここでは、おそらく非相同末端結合反応を反映する部位特異的欠失およびおそらく相同組換え修復を反映する一本鎖DNAフラグメントの部位特異的挿入の両方がこのインビトロ系において可能であるということが実証された。遺伝子のセグメントの正確な置換を触媒的にサポートするこの系の能力が試験された。遺伝子編集の長期的な目的の1つは、機能しない遺伝子または機能に異常のあるエクソンの機能するコピーを首尾よく元に戻すことである。挿入の評価のために実施したのと同じ反応ストラテジーを実施したが(
図23Aを参照のこと)、但し、この反応では、遺伝子のセグメントを取り除くために、2つのCpf1 RNPを用いて、lacZ遺伝子に沿った異なる位置に2つの切断を生じさせた。81、136および177塩基対の遺伝子セグメントを置換するように別個の反応を設計し、81、136および186塩基のドナーDNAフラグメントの個々の集団を別個の置換反応の各々にそれぞれ添加した。81塩基のDNAドナーフラグメントを含む反応に関しては、回収されたコロニーの20%が、lacZ遺伝子のコード領域を保つ完全な置換をインフレームで含んでいた(
図33A)。136塩基置換反応の66パーセントは、完全な置換を含むプラスミドをもたらし(
図33B)、186塩基置換反応の10%は、完全な置換を有するプラスミドを含んでいた(
図33C)。確実に5’オーバーハングの相同性をネイティブの遺伝子セグメントと区別できるように、ドナーDNAフラグメントの各々にバーコードAA/TT/GGGを組み込んだ。17、36および45塩基の長さのドナーDNAフラグメントでも同じ実験を実施した。これらのドナーDNAフラグメントはいずれも、正確な置換をもたらさなかったが(
図35A)、但し、それらは、様々な長さと構成の、不正確な置換を生じさせた。これらの結果は、このインビトロ遺伝子編集システムが約81~186塩基の範囲の長さのドナーDNAフラグメントによる完全な遺伝子セグメント置換を触媒できるということを実証した。ドナーDNAセグメントを含む反応から生じた単離プラスミドの集団においても部位特異的欠失が見出されたということに注目することも重要であり(
図35B)、これは、欠失/切除反応および置換反応の両方が同じインビトロ系において起こっていたという事実を裏付ける。
【0147】
実施例13:部位特異的変異導入
高精度でのlacZ遺伝子の一部のDNA置換の成功は、インビトロ遺伝子編集のユニークな用途の試験を促した。完全な遺伝子セグメント置換が注目すべき頻度で観察された(特に81~186塩基の長さを有するドナーDNAフラグメントを用いた場合)。KRAS遺伝子を標的として、コード領域内に見出される周知の発癌性変異を再設計することが決定された。最初の13個のコドン内に2つの目立った変異が見られた。35位では、GからAへの塩基転換により、これらのコドンから生じるアミノ酸がグリシンからアスパラギン酸に変化する(
図36A)。隣接するコドン13では、2番目のGからAへの塩基転換が、やはり、グリシンをアスパラギン酸残基に変換する。これらの変異の各々は、単一の部位変化として、あるいは二重の部位変化として、KRASタンパク質の機能の再変更に重大な影響を与え得る。従って、G12D、G13DおよびG12DとG13Dの変異の組み合わせを有する3種のドナーDNAフラグメントで多重化することにより、単一の反応混合物において3種の変異の全てを生じさせた(
図36B)。最適化反応の結果は、成功した効率的な置換を81~186塩基の範囲のフラグメントで達成できることを示したため、114塩基のドナーDNAフラグメントを利用した(
図33A~
図33C)。反応は、
図23Aで説明されるように実施されたが、1点の変更を伴った:ドナーDNAフラグメントとRNPとの間のモル関係が維持され、その結果、この反応では、3種の異なるドナーフラグメントはそれぞれ、反応中に33%しか存在しなかった。結果を
図36Cに提示する。KRAS遺伝子の部位特異的変異導入を単離し、14個の細菌コロニーから独立的に単離されたプラスミドDNAを分析することにより確認した。この集団内で、個々の変異および二重変異の両方が見出された。配列決定されたプラスミドの78%が個々の変異または二重変異のいずれかを含むことが見出され、50%は完全に置換されていた。これらの結果は、このインビトロ遺伝子編集反応を用いて、正確な遺伝子セグメント置換を多重化し、単一の反応混合物から部位特異的変異の集団を生じさせることができる、ということを明らかにした。さらに、この反応が本当に部位特異的であり、KRAS遺伝子のコード領域内に望ましくない標的外部位の変異を生じさせていないことを確認するために、KRAS遺伝子のコード領域を超えて上流および下流までプラスミドを配列決定した。シーケンシングストラテジーおよびKRASのコード領域内の置換部位の位置のマップが
図36Dに示されている。
図36Cに示されるG12D/G13DドナーDNAフラグメントを含むインビトロ反応から単離された再設計されたプラスミドDNA上の標的部位における意図された突然変異以外に、遺伝子に沿った他の位置ではDNA配列の変化は観察されなかった。これらの結果により、このインビトロ遺伝子編集システムは、検出可能な標的外部位の変異を生じさせることなく真核生物の遺伝子のコード領域内に複数の部位特異的変異を生じさせるために用いることができる、ということが示された。
【0148】
他の実施形態
本明細書中の可変物の定義における要素の列挙の記載は、任意の単一の要素または列挙された要素の組み合わせ(またはサブコンビネーション)としての当該可変物の定義を包含する。本明細書中の実施形態の記載は、任意の単一の実施形態としての、または任意の他の実施形態もしくはその一部と組み合わせた、当該実施形態を包含する。
【0149】
本明細書で引用されるありとあらゆる特許、特許出願および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態を参照して本発明を開示しているが、本発明の真の趣旨および範囲から逸脱することなく本発明の他の実施形態および変形が他の当業者によって考案されてよいということは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのような実施形態および同等の変形を全て包含すると解釈されることが意図される。
【配列表】