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  • 特許-二次電池用正極活物質及び二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230707BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230707BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20230707BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/36 A
C01G53/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020548078
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030122
(87)【国際公開番号】W WO2020066283
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018181201
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩友紀
(72)【発明者】
【氏名】北條 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-530692(JP,A)
【文献】特開2006-40572(JP,A)
【文献】特開2010-108676(JP,A)
【文献】特開2017-174597(JP,A)
【文献】特開2012-201539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 10/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩を水に溶解してなる電解液を有する二次電池用正極活物質であって、一般式LiaNixCoyMnzbで表され、
0.9<a< 1.1
0.4<x<1
0≦y<0.4
0≦z<0.4
0≦b<0.2
0.9<(x + y + z +b)<1.1
を満たし、
元素MはTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Al,Ga,Inよりなる群から
選ばれる少なくとも1種を含む
二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記元素MがTi,Zr,V,Nb,W,Alよりなる群から少なくとも1種を含む
請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記元素MがTi,Zr,Al,Wよりなる群から少なくとも1種を含む
請求項2に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記元素MがZr、もしくはWを含む
請求項3に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記元素MがAl、もしくはTiを含む
請求項3に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記一般式におけるxが、
x>0.5を満たす
請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記一般式におけるbが、
0<b<0.03を満たす
請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記元素Mが、前記正極活物質の表層部に偏在する
請求項4に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記元素Mが、前記正極活物質の一次粒子の表層部及び二次粒子の表層部に偏在する
請求項8に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項10】
前記元素Mが、前記正極活物質内部に固溶している
請求項5に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項11】
前記元素Mが、前記正極活物質の表層部に存在するとともに、前記正極活物質内部に固溶している
請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項12】
前記電解液のpHが10より大きい
請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項13】
前記電解液のリチウム塩1molに対し、水4mol未満である
請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の二次電池用正極活物質を含有する正極と、
負極活物質を含有する負極と、
リチウム塩を水に溶解してなる電解液と、
を有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用正極活物質及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液として水溶液を用いた水系リチウム二次電池が知られている。水系リチウム二次電池は、水の電気分解反応が起こらない電位範囲での使用が求められ、水溶液中で安定で、かつ水の電気分解により酸素や水素を発生しない電位範囲において、可逆的に大量のリチウムを吸蔵及び脱離できる活物質、つまり特定の電位範囲において大きな容量を発揮できる活物質を用いる必要がある。また、電解液としては、中性からアルカリ性の電解液を用いることが望まれている。中性、即ちpH=7の電解液を用いた場合には、水の分解電圧は、水素発生電位が2.62V、酸素発生電位が3.85Vである。また、強アルカリ性、即ちpH=14の電解液を用いた場合には、水の分解電圧は水素発生電位が2.21V、酸素発生電位が3.44Vである。
【0003】
したがって、正極活物質としては、最低限3.85V(pH=7)までにより多くのLiが引き抜ける材料が望まれている。負極活物質としては、2.21V(pH=14)までにより多くのLiが挿入できる材料が望まれている。
【0004】
特許文献1には、水系リチウム二次電池用正極活物質として、一般式LisNixCoyMnzt2(0.9≦s≦1.2、0.25≦x≦0.4、0.25≦y≦0.4、0.25≦z≦0.4、0≦t≦0.25、MはMg、Al、Fe、Ti、Ga、Cu、V、及びNbから選ばれる1種以上)で表される層状構造の化合物を主成分とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4581524号公報
【発明の概要】
【0006】
水系電解液を用いた二次電池では、電気分解を起こさない電位領域を拡大するとともに、その耐久性向上、すなわち充電保存時の電池劣化を抑制し得る技術が求められている。
【0007】
本開示は、水系電解液を用いた二次電池用正極活物質及び水系電解液を用いた二次電池において、充電保存時の電池劣化が抑制された二次電池用正極活物質及び二次電池を提供することを目的とする。
【0008】
本開示の一態様に係る二次電池用正極活物質は、リチウム塩を水に溶解してなる電解液を有する二次電池用の正極活物質であって、一般式LiaNixCoyMnzbで表され、
0.9<a<1.1
0.4<x<1
0≦y<0.4
0≦z<0.4
0≦b<0.2
0.9<(x + y + z +b)<1.1
を満たし、元素MはTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Al,Ga,Inよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0009】
本開示によれば、充電保存時の電池劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、溶媒としての水と、電解質塩としてのリチウム塩とを含有する電解液に、正極活物質として特定の材料を用いることで充電保存時の電池の劣化を抑制し得ることを見出した。
【0012】
以下に、本開示の一態様に係る正極活物質及び二次電池の実施形態について説明する。但し、以下で説明する実施形態は一例であって、本開示はこれに限定されるものではない。
【0013】
[水系電解液]
本実施形態に係る水系電解液は、水と、リチウム塩を少なくとも含む。なお、溶媒として水を含有する電解液を使用する場合、水が理論的には1.23Vの電圧で分解するため、より高い電圧を印加しても水が分解せず、安定して作動する二次電池の開発も望まれている。
【0014】
(溶媒)
水系電解液は、主溶媒として水を含有する。ここで、主溶媒として水を含有するとは、電解液に含まれる溶媒の総量に対する水の含有量が体積比で50%以上であることをいう。電解液に含まれる水の含有量は、溶媒の総量に対して体積比で90%以上であることが好ましい。電解液に含まれる溶媒は、水と非水溶媒とを含む混合溶媒であってもよい。非水溶媒としては、例えば、メタノール等のアルコール類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;アセトン;アセトニトリル;ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。
【0015】
水系電解液は可燃性を有さない水を主溶媒として含むため、水系電解液を用いた二次電池の安全性を高めることができる。この観点から、水の含有量は、電解液の総量に対して8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、水の含有量は、電解液の総量に対して50質量%以下が好ましく、20質量以下%がより好ましい。
【0016】
(リチウム塩)
水系電解液に含まれるリチウム塩は、水を含有する溶媒に溶解して解離し、リチウムイオンを水系電解液中に存在させることができる化合物であれば、いずれも使用できる。リチウム塩は、正極及び負極を構成する材料との反応により電池特性の劣化を引き起こさないことが好ましい。このようなリチウム塩としては、例えば、過塩素酸、硫酸及び硝酸等の無機酸との塩、塩化物イオン及び臭化物イオン等のハロゲン化物イオンとの塩、炭素原子を構造内に含む有機アニオンとの塩等が挙げられる。
【0017】
リチウム塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、下記一般式(i)~(iii)で表されるアニオンが挙げられる。
【0018】
(RSO)(RSO)N (i)
(R、Rは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。R及びRは互いに結合して環を形成してもよい。)
SO (ii)
(Rは、ハロゲン原子、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
CO (iii)
(Rは、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
上記一般式(i)~(iii)において、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしてはフッ素が好ましい。ハロゲン置換アルキル基におけるハロゲン置換数は、もとのアルキル基の水素の数以下である。上記一般式(i)~(ii)における、ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。
【0019】
~Rのそれぞれは、例えば、飽和アルキル基又は飽和ハロゲン置換アルキル基で、かつ、R~Rが互いに結合して環を形成しない場合において、以下の一般式(iv)で表される基であってもよい。
【0020】
ClBr (iv)
(nは1以上の整数であり、a、b、c、d、eは0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満足する。)
上記一般式(iv)において、耐酸化性の観点から、aは小さい方が好ましく、a=0がより好ましく、2n+1=bが最も好ましい。
【0021】
上記一般式(i)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[N(FSO)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI;[N(CFSO)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI;[N(CSO)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(CSO)(CFSO)])等が挙げられ、また、R~Rが互いに結合して環を形成してなる有機アニオンの具体例として、例えばcTFSI;([N(CFSO)等が挙げられる。上記一般式(ii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばFSO 、CFSO 、CSO 等が挙げられる。上記一般式(iii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCFCO 、CCO 等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(i)以外の有機アニオンとしては、例えば、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸等のアニオンが挙げられる。
【0023】
リチウム塩を構成するアニオンとしては、イミドアニオンが好ましい。イミドアニオンの好適な具体例としては、例えば、上記一般式(i)で表される有機アニオンとして例示したイミドアニオンのほか、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTI;[N(FSO)(CFSO)])等が挙げられる。
【0024】
リチウムイオンとイミドアニオンとを有するリチウム塩の具体例としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFTI)等が挙げられる。
【0025】
他のリチウム塩の具体例としては、CFSOLi、CSOLi、CFCOLi、CCOLi、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム(LiClO)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、硫酸リチウム(LiSO)、硫化リチウム(LiS)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係る水系電解液では、リチウム塩に対する水の含有比率が、モル比で15:1以下であることが好ましく、4:1以下であることがより好ましい。リチウム塩に対する水の含有比率がこれらの範囲にあると、水系電解液の電位窓が拡大し、二次電池に印加電圧をより高めることができるためである。二次電池の安全性の観点から、リチウム塩に対する水の含有比率は、モル比で1.5:1以上であることが好ましい。
【0027】
(添加剤)
本実施形態に係る水系電解液では、当該技術分野にて公知の添加剤や、他の電解質をさらに含んでいてもよい。他の電解質としては、リチウムイオン伝導性の固体電解質をさらに含んでいてもよい。
【0028】
添加剤としては、例えば、フルオロリン酸塩、カルボン酸無水物、アルカリ土類金属塩、硫黄化合物、酸及びアルカリ等が挙げられる。水系電解液は、フルオロリン酸塩、カルボン酸無水物、アルカリ土類金属塩及び硫黄化合物のうち少なくとも1種を更に含むことが好ましい。これら添加剤の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0029】
水系電解液に添加してもよいフルオロリン酸塩としては、例えば、一般式LixPFyOz(1≦x<3,0<y≦2,2≦z<4)で表されるフルオロリン酸リチウム塩が挙げられる。水系電解液がフルオロリン酸塩を含有することにより、水の電気分解を抑制することができる。フルオロリン酸リチウム塩の具体例としては、例えば、ジフルオロリン酸リチウム(LiPF)、モノフルオロリン酸リチウム(LiPFO)が挙げられ、LiPFが好ましい。なお、一般式LixPFyOzで表されるフルオロリン酸塩は、LiPF、LiPFO及びLiPOから選択される複数の混合物であってもよく、その場合、x、y及びzは整数以外の数値であってもよい。フルオロリン酸塩の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上であればよく、0.3質量%以上が好ましい。また、フルオロリン酸リチウム塩の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して3.0質量%以下であればよく、2.0質量%以下が好ましい。
【0030】
水系電解液に添加してもよいアルカリ土類金属塩は、アルカリ土類金属(第2族元素)のイオンと、有機アニオン等のアニオンとを有する塩である。アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)が挙げられ、マグネシウム及びカルシウムが好ましい。
【0031】
アルカリ土類金属塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、上記リチウム塩を構成する有機アニオンとして記載した、一般式(i)~(iii)で表される有機アニオンが挙げられる。しかしながら、アルカリ土類金属塩を構成するアニオンは、一般式(i)~(iii)で表される有機アニオン以外の有機アニオンであってもよく、無機アニオンであってもよい。
【0032】
アルカリ土類金属塩は、水系電解液中での解離定数が大きいことが好ましく、例えば、Ca[N(CFSO(CaTFSI)、Ca[N(CFCFSO(CaBETI)、Mg[N(CFSO(MgTFSI)、Mg[N(CFCFSO(MgBETI)等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ土類金属塩;Ca(CFSO、Mg(CFSO等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ土類金属塩;Ca[ClO、Mg[ClO等の過塩素酸アルカリ土類金属塩;Ca[BF、Mg[BF等のテトラフロロ硼酸塩が好適な例として挙げられる。これらの中でも、可塑性作用の観点からパーフルオロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ土類金属塩が更に好ましく、CaTFSI及びCaBETIが特に好ましい。また、アルカリ土類金属塩としては、電解液中に含まれるLi塩と同じアニオンを有するアルカリ土類金属塩もまた好ましい。アルカリ土類金属塩は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ土類金属塩の含有量は、電位窓の卑電位側への拡張の観点から、例えば水系電解液の総量に対して0.5質量%以上3質量%以下であればよく、1.0質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0033】
水系電解液に添加してもよいカルボン酸無水物は、環状カルボン酸無水物及び鎖状カルボン酸無水物を含む。環状カルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、フェニルコハク酸無水物等が挙げられる。鎖状カルボン酸無水物は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸等の炭素数1~12のカルボン酸から選択される同一又は異種である2つのカルボン酸の無水物であり、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸等が挙げられる。水系電解液に添加する場合、カルボン酸無水物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。カルボン酸無水物の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であればよく、0.3質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0034】
水系電解液に添加してもよい硫黄化合物としては、例えば、分子中に硫黄原子を含有する有機化合物であって、上記のリチウム塩、カルボン酸及びアルカリ土類金属塩のいずれにも含まれない化合物が挙げられる。水系電解液が当該硫黄化合物を含有することにより、TFSI及びBETI等の一般式(i)~(iii)で表されるアニオンの還元反応に由来する被膜含有成分を補うことができ、負極において寄生的に進行する水素発生を効果的に遮断することができる。硫黄化合物の具体例としては、例えば、エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、スルホラン、スルホレン等の環状硫黄化合物;メタンスルホン酸メチル、ブスルファン等のスルホン酸エステル;ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン等のスルホン;ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のスルフィド又はジスルフィド;N,N-ジメチルメタンスルホンアミド、N,N-ジエチルメタンスルホンアミド等のスルホンアミド等が挙げられる。これらの硫黄化合物のうち、エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、スルホラン、スルホレン等が好ましく、エチレンサルファイトが特に好ましい。水系電解液に添加する場合、硫黄化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。硫黄化合物の含有量は、例えば水系電解液の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であればよく、0.3質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0035】
本実施形態に係る水系電解液の調製方法は、特に制限されず、例えば、水、リチウム塩、並びに添加する場合は上記添加剤を、適宜混合して調製すればよい。
【0036】
水系電解液のpHは、特に制限されないが、例えば3以上14以下であればよく、10より大きいことが好ましい。水系電解液のpHがこれらの範囲にある場合、正極中の正極活物質及び負極中の負極活物質の水溶液中での安定性を向上させることができ、正極活物質及び負極活物質におけるリチウムイオンの吸蔵及び脱離反応がよりスムーズになるためである。
【0037】
[二次電池]
以下、本開示の実施形態の一例に係る二次電池について説明する。実施形態の一例である二次電池は、上述の水系電解液と、正極と、負極とを備える。二次電池は、例えば正極、負極及びセパレータを有する電極体と水系電解液とが、電池ケースに収容された構造を有する。電極体としては、例えば正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体等が挙げられるが、電極体の形態はこれらに限定されない。
【0038】
電極体及び水系電解液を収容する電池ケースとしては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製又は樹脂製のケース、並びに、金属箔を樹脂シートでラミネートしたシートを成型して得られる樹脂製ケース(ラミネート型電池)等が挙げられる。
【0039】
本実施形態に係る二次電池は、周知の方法で作製すればよく、例えば、巻回型又は積層型の電極体を電池ケース本体に収容し、水系電解液を注入した後、ガスケット及び封口体により電池ケース本体の開口部を封口することにより、作製することができる。
【0040】
[正極]
本実施形態に係る二次電池を構成する正極は、例えば正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極活物質層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0041】
正極集電体としては、正極の電位範囲で安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体として、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。正極集電体の材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等を用いることができる。正極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0042】
正極は、例えば、正極活物質、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。正極合材スラリーに使用する分散媒としては、例えば水、エタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が用いられる。正極活物質層の厚さは、特に制限されないが、例えば10μm以上100μm以下である。
【0043】
正極活物質は、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物である。リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、LiaNixCoyMnzbで表され、
0.9<a<1.1
0.4<x<1
0≦y<0.4
0≦z<0.4
0≦b<0.2
0.9<(x + y + z +b)<1.1
を満たすものである。
【0044】
元素Mは、チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),バナジウム(V),ニオブ(Nb),タンタル(Ta),クロム(Cr),モリブデン(Mo),タングステン(W),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0045】
高容量化の観点からは、リチウム遷移金属酸化物がリチウム以外の遷移金属の総量に対して40mol%を超えるNiを含有することが好ましく、50mol%を超えることがさらに好ましい。具体的には、0.4<x<1.0であり、0.5<x<1.0がさらに好ましい。また、結晶構造の安定性の観点からは、0≦y<0.4、0≦z<0.4、0≦b<0.2、0.9<(x + y + z +b)<1.1が好ましい。
【0046】
図1は、本実施形態に係る正極活物質10の模式的説明図を示す。水系電解液を用いた二次電池では、電解液から正極活物質10へのプロトン挿入による自己放電により電池電圧が低下し、特にNi比率が高い正極活物質を用いた場合の電圧が低下し得る。これに対し、正極活物質に、元素M、例えばAlやTi、ZrW等が存在することで、プロトン挿入が抑制され、これにより電圧低下が抑制される。
【0047】
ここで、正極活物質における元素Mの存在形態としては、正極活物質内に固溶して存在するパターンと、正極活物質の表面に化合物として存在するパターンがあり得るが、本実施形態の元素Mは、これら2つのパターンのうちの少なくともいずれかのパターンで存在すればよい。元素Mが正極活物質に固溶するか、あるいは正極活物質表面に偏在するかは、元素Mの大きさ、及び正極作製時の焼成温度により決定され得る。なお、正極活物質の表面に化合物として存在する場合には、元素Mは、酸化物、炭酸塩、およびリン酸塩や硫酸塩などのポリアニオンとして存在する。
【0048】
すなわち、添加する元素Mの大きさによって、固溶(正極活物質の遷移金属サイトに異種金属が取り込まれる)か、正極活物質表面に偏在するかの傾向が決まる。一般に、第3、4周期の元素(小さい元素)は固溶する傾向があり、第5周期以降の元素(大きい元素)は表面偏在する傾向にある。第3周期の元素としてAl,第4周期の元素としてTi,V、Cr、Gaがある。第5周期の元素としてZr,Nb,Mo,In,第6周期の元素としてHf,Ta,Wがある。
【0049】
また、添加する元素Mが固溶するか表面に偏在するかは、焼成温度によっても変化する。焼成温度が高いほど固溶しやすくなるが、他の要素、例えばLiが揮発してLiの比率が減少し、抵抗増加及び容量低下を生じ得る。焼成温度が低いと、活物質結晶化が起こらず、活物質として動作しない。従って、500℃~900℃が焼成温度の適温といえる。
【0050】
より具体的には、元素Mを固溶させるには、元素Mとして第3周期、第4周期の比較的小さい元素を使用し、焼成温度を極力高い温度で長時間焼成する。焼成温度が高すぎる、あるいは焼成時間が長すぎると、焼結が進み粒子径が大きくなりすぎ、Liが揮発してLi比率が低下して抵抗が大きくなり電池容量が低下する原因になるため、例えば900℃以下で、かつ24時間以下が好ましい。また、元素Mを表面に偏在させるには、元素Mとして第5周期以降の比較的大きい元素を使用し、焼成温度を極力低い温度で短時間焼成する。焼成温度が低すぎる、あるいは焼成時間が短すぎると正極活物質の結晶化が不十分になり電池特性が悪くなるので、例えば700℃以上で、かつ6時間以上が好ましい。
【0051】
なお、元素Mを表面に偏在させるパターンにおいては、一次粒子が凝集して構成される二次粒子の表面のみに偏在するパターンと、一次粒子の表面(二次粒子の内部)及び二次粒子の表面にともに偏在するパターンがあり得る。二次粒子の表面のみに偏在するパターンは、例えば、金属化合物を加えず、前駆体とLi原料を混合し焼成して二次粒子の活物質を作製後、金属化合物(元素M添加材料)を混合し、低めの温度(700℃程度)で短時間、熱処理することで二次粒子表面にのみ偏在し得る。ここで、元素Mが比較的大きい第5周期以降の元素では、固溶されにくく表面に偏在しやすい点に留意されたい。他方、一次粒子表面(二次粒子内部)及び二次粒子表面に偏在するパターンは、前駆体(遷移金属水酸化物)、金属化合物(元素M添加材料)、及びLi原料(LiOHもしくはLiCO)を混合後、低めの温度(700℃程度)で短時間焼成することで一次粒子表面(二次粒子内部)及び二次粒子表面に偏在し得る。
【0052】
リチウム遷移金属酸化物に固溶した元素Mと、活物質粒子表面に存在する元素Mは、同種の他、互いに異なる元素であってもよい。固溶した元素Mと表面に存在する元素Mが同種の元素でも、これらは結晶構造等が異なるため、明確に区別される。活物質表面に偏在する元素Mは、主に、リチウム遷移金属酸化物とは異なる結晶構造を有する酸化物を構成している。固溶した元素Mと表面に偏在する元素Mは、EPMA(電子線マイクロアナライザ:Electron Probe Micro-Analysis)による元素マッピング、XPS(X線光電子分光分析:X-ray Photoelectron Spectroscopy)による化学結合状態の解析、SIMS(二次イオン質量分析:Secondary Ionization Mass Spectroscopy)を始めとする様々な分析手法により、区別することが可能である。
【0053】
リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径(D50)は、例えば、2μm以上20μm以下であることが好ましい。平均粒子径(D50)が2μm未満及び20μm超の場合、上記範囲を満たす場合と比較して、正極活物質層内の充填密度が低下し、容量が低下する場合がある。正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えばマイクロトラック・ベル株式会社製MT3000IIを用いて、レーザー回折法で測定することができる。
【0054】
正極活物質層に含まれる導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
正極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
本実施形態の正極は、例えば、正極集電体上に、正極活物質、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを塗布・乾燥することによって正極活物質層を形成し、当該正極合材層を圧延することにより得られる。
【0057】
[負極]
本実施形態に係る二次電池を構成する負極は、例えば負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とで構成される。負極活物質層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。負極活物質層は、例えば負極活物質、結着材等を含む。
【0058】
負極集電体としては、負極の電位範囲で安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極集電体として、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。負極集電体の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル等を用いることができる。負極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0059】
負極は、例えば負極集電体上に負極活物質、結着材及び分散媒を含む負極合材スラリーを塗布して、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極活物質層を負極集電体の片面又は両面に形成することにより作製できる。負極活物質層は、必要に応じて、導電剤等の任意成分を含んでもよい。負極活物質層の厚さは、特に制限されないが、例えば10μm以上100μm以下である。
【0060】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出し得る材料であれば特に制限されない。負極活物質を構成する材料は、非炭素系材料でもよく、炭素材料でもよく、これらの組み合わせでもよい。非炭素系材料としては、リチウム金属、リチウム元素を含む合金、並びに、リチウムを含有する金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物が挙げられる。リチウム元素を含有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等が挙げられる。リチウムを含有するする金属酸化物としては、例えばリチウムとチタン、タンタル又はニオブ等とを含有する金属酸化物が挙げられ、チタン酸リチウム(LiTi12等)が好ましい。
【0061】
負極活物質として用いる炭素材料としては、例えば、黒鉛、及び、ハードカーボン等が挙げられる。中でも、高容量で不可逆容量が小さいため黒鉛が好ましい。黒鉛は、黒鉛構造を有する炭素材料の総称であり、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子等が含まれる。負極活物質として黒鉛を使用する場合、水系電解液の還元分解に対する活性を低下するため、負極活物質層の表面を被膜で被覆することが好ましい。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
負極活物質層に含まれる結着材としては、例えば、正極の場合と同様に、フッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いてもよく、また、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。負極活物質層に含まれる結着材の含有量は、負極活物質の総量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。負極活物質層に含まれる増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
[セパレータ]
セパレータとしては、リチウムイオンを透過し、且つ、正極と負極とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、樹脂や無機材料等で構成される多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータを構成する樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース等が挙げられる。セパレータを構成する無機材料としては、ホウ珪酸ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア等のガラス及びセラミックスが挙げられる。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0064】
なお、上記の実施形態では、水系電解液を備える二次電池について説明したが、本実施形態の一例に係る水系電解液は、二次電池以外の蓄電装置に使用してもよく、例えば、キャパシタに使用してもよい。この場合、キャパシタは、例えば、本実施形態の一例に係る水系電解液と、2つの電極とを備える。電極を構成する電極材料は、キャパシタに使用可能であって、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料であればよく、例えば、天然黒鉛又は人造黒鉛等の黒鉛含有材料、チタン酸リチウム等の材料が挙げられる。
【実施例
【0065】
以下、本開示の実施例及び比較例を具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
下記の手順により、二次電池を作製した。
【0067】
[正極の作製]
正極活物質として、前駆体[(Ni0.55Co0.30Mn0.15)(OH)]と、LiOHと、Alとを所定量の割合で混合し、大気中850℃で7時間焼成することでリチウム遷移金属酸化物(LiNi0 . 55Co0.30Mn0.15Al0.0015)を作製した。このリチウム遷移金属酸化物と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCA:AB:PV dF=100:1:0.9の質量比で混合し、さらにN - メチル- 2 - ピロリドン(NMP)を適量加えて撹拌して、正極スラリーを調製した。次に、得られた正極スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布した後、乾燥して、ローラを用いて正極合材の塗膜を圧延して実施例1の正極を作製した。
【0068】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛と、結着材としてのスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)と、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、質量比で100:1:1となるように混合し、水を加えて負極スラリーを調製した。次いで、負極スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラを用いて圧延することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を作製した。
【0069】
[水系電解液の調製]
LiN(SOCFと、LiN(SOと、LiOH・HOと水(超純水)とを、モル比0.7:0.3:0.034:1.923で混合した。
【0070】
[二次電池の作製]
上記正極及び負極を、セパレータを介して巻回することにより電極体を作製し、当該電極体を上記水系電解液と共に、有底円筒形状の電池ケースに収容し、電池ケースの開口部をガスケット及び封口体により封口した。これを実施例1の二次電池とした。実施例1の二次電池について、充電保存時の安定性を評価した。表1には、充電保存時の安定性の評価結果として、開路電圧の変化量を記載した。表1では、開路電圧の変化量を、電圧変化量と称した。
【0071】
[充電保存時の安定性の評価]
電池の閉路電圧が2.75Vに達するまで0.1Cの定電流で充電した後、電池を25℃で72時間保存した。保存後、電池の開路電圧の変化量(V)を求めた。充電保存試験は、25℃の環境で行った。開路電圧の変化量(V)を充電保存時の安定性の評価とした。
【0072】
(比較例1)
正極活物質の作製の際にAlを添加しなかったことを除いて、実施例1と同様の方法で正極を作製した。作製した正極を用いて、二次電池を作製し、実施例1と同様に評価した。すなわち、比較例1の二次電池は、LiNi0 . 55Co0.30Mn0.15を正極活物質として用いたものである。
【0073】
(実施例2)
正極活物質として、前駆体[(Ni0.55Co0.30Mn0.15)(OH)]と、LiOHと、TiOとを所定量の割合で混合し、大気中850℃で7時間焼成することでリチウム遷移金属酸化物(LiNi0.55Co0.30Mn0.15Ti0.0015)を作製した。正極活物質としてLiNi0.55Co0.30Mn0.15Ti0.0015を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法で、実施例2の二次電池を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0074】
(実施例3)
正極活物質として、前駆体[(Ni0.55Co0.30Mn0.15)(OH)]と、LiOHと、ZrOとを所定量の割合で混合し、大気中850℃で7時間焼成することでリチウム遷移金属酸化物(LiNi0.55Co0.30Mn0.15Zr0.0005)を作製した。正極活物質としてLiNi0.55Co0.30Mn0.15Zr0.0005を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法で、実施例3の二次電池を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0075】
表1に、評価結果をまとめて示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、実施例1~3の二次電池は、比較例1の二次電池と比べて、正極活物質にそれぞれAl、Ti、Zrを添加することで、充電保存時の電圧の低下を抑制できた。すなわち、実施例1~3の二次電池は、比較例1の二次電池と比較して、充電保存安定性が改善された。実施例1の二次電池の充電保存安定性が改善された理由は、Alが固溶することで正極活物質の層状構造の層間が狭まり、プロトン挿入が抑制されたと推定される。実施例2の二次電池の充電保存安定性が改善された理由は、Tiが固溶することで正極活物質の層状構造の層間が狭まり、プロトン挿入が抑制されたと推定される。実施例3の二次電池の充電保存安定性が改善された理由は、Zrが固溶することで正極活物質の層状構造の層間が狭まり、プロトン挿入が抑制されたことに加え、一部のZrが表面に偏在することで正極活物質と水系電解液の界面で、プロトンの正極活物質層間への挿入がブロックされたと推定される。
【0078】
また、作製した電池の負極はチタン酸リチウムであり、負極の電位変動はほぼない材料である。このことから、開路電圧低下の抑制は、正極の電位低下の抑制を意味する。したがって、正極活物質へ異種元素を添加し、固溶させたことにより、正極の電位低下が抑制され、電池の充電保存安定性が改善できたことが分かる。
【0079】
元素Mの添加の効果は、このようにプロトン挿入を抑制するために発現する。添加元素Mが活物質の結晶内部に固溶した場合、結晶格子が縮むことでプロトン挿入が抑制される。また添加元素Mが結晶内部に固溶されず、活物質表面に偏在した場合でも異種元素が活物質表面を覆う形となりプロトン挿入を抑制する。既述したように、添加元素Mの固溶と表面偏在が同時に生じてもよい。
図1