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特許7308462非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230707BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230707BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020562944
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2019045909
(87)【国際公開番号】W WO2020137296
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018247348
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 秀和
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】堂上 和範
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-32647(JP,A)
【文献】特開2017-152363(JP,A)
【文献】特開2017-107727(JP,A)
【文献】特開2010-86693(JP,A)
【文献】特開2005-174847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni含有リチウム複合酸化物a,bを含む正極活物質であって、
前記Ni含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は、1μm以上であり、且つ前記Ni含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径よりも大きく、
前記Ni含有リチウム複合酸化物aの平均二次粒子径は、2μm~6μmであり、
Ni含有リチウム複合酸化物bは、平均一次粒子径が0.05μm以上、平均二次粒子径が10μm~20μmであり、
前記Ni含有リチウム複合酸化物aは、Mnを含み、且つB及びAlのうちの少なくともいずれか一方を含み、Liを除く金属元素の総モル数に対して55モル%以上のNiを含有し、結晶子径が100nm~200nmであり、
前記Ni含有リチウム複合酸化物bは、Mnを含み、且つB及びAlを含有しないか前記Ni含有リチウム複合酸化物aよりもB及びAlの含有量が少なく、Liを除く金属元素の総モル数に対して55モル%以上のNiを含有し、結晶子径が100nm~200nmであり、
前記Ni含有リチウム複合酸化物aと前記Ni含有リチウム複合酸化物bとの割合が、質量比で、5:95~55:45である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記Ni含有リチウム複合酸化物aに含まれるB及びAlは、前記Ni含有リチウム複合酸化物aに対する質量比で、200ppm~1000ppmの範囲である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えた、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池用正極活物質として、平均二次粒子径が異なる2種類の正極活物質を含む正極合材層を有する正極が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような粒径差を有する小粒子と大粒子の組み合わせにより、正極合材層における正極活物質の充填密度が向上し、電池の高容量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-113825号公報
【文献】国際公開第2017/104178号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非水電解質二次電池に求められる特性としては、高容量だけでなく、サイクル特性、高率放電特性、正極活物質からのNi、Mnの溶出量の低減等がある。正極活物質からのNi、Mnの溶出は、電池の抵抗上昇や電解液の分解によるガス発生等に繋がり、電池の信頼性を損なう場合がある。なお、電池の信頼性を確保するには、例えば、非水電解質二次電池を60℃満充電状態で96時間保存した後に、正極活物質から溶出したNi、Mnの溶出量(実質的には、負極上に堆積したNi、Mn量)を50ppm未満に抑えることが望ましい。
【0005】
本開示の目的は、電池の高容量、良好なサイクル特性及び高率放電特性、並びにNi、Mnの溶出量を抑制することを可能とする非水電解質二次電池用正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、Ni含有リチウム複合酸化物a,bを含む正極活物質であって、前記Ni含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は、1μm以上であり、且つ前記Ni含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径よりも大きく、前記Ni含有リチウム複合酸化物aの平均二次粒子径は、2μm~6μmであり、前記Ni含有リチウム複合酸化物bは、平均一次粒子径が0.05μm以上、平均二次粒子径が10μm~20μmであり、前記Ni含有リチウム複合酸化物aは、Mnを含み、且つB及びAlのうちの少なくともいずれか一方を含み、Liを除く金属元素の総モル数に対して55モル%以上のNiを含有し、結晶子径が100nm~200nmであり、前記Ni含有リチウム複合酸化物bは、Mnを含み、且つB及びAlを含有しないか前記Ni含有リチウム複合酸化物aよりもB及びAlの含有量が少なく、Liを除く金属元素の総モル数に対して55モル%以上のNiを含有し、結晶子径が100nm~200nmであり、前記Ni含有リチウム複合酸化物aと前記Ni含有リチウム複合酸化物bとの割合が、質量比で、5:95~55:45である。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様である正極活物質によれば、電池の高容量、良好なサイクル特性及び高率放電特性、並びにNi、Mnの溶出量を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2】実施形態の一例であるNi含有リチウム複合酸化物aを模式的に示す図である。
図3】実施形態の一例であるNi含有リチウム複合酸化物bを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、Ni含有リチウム複合酸化物a,bを含む正極活物質であって、前記Ni含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は、1μm以上であり、且つ前記Ni含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径よりも大きく、前記Ni含有リチウム複合酸化物aの平均二次粒子径は、2μm~6μmであり、且つ前記Ni含有リチウム複合酸化物bの平均二次粒子径よりも小さく、前記Ni含有リチウム複合酸化物bは、平均一次粒子径が0.05μm以上、平均二次粒子径が10μm~20μmであり、前記Ni含有リチウム複合酸化物aは、Mnを含み、且つB及びAlのうちの少なくともいずれか一方を含み、Liを除く金属元素の総モル数に対して55モル%以上のNiを含有し、結晶子径が100nm~200nmであり、前記Ni含有リチウム複合酸化物bは、Mnを含み、且つB及びAlを含有しないか前記Ni含有リチウム複合酸化物aよりもB及びAlの含有量が少なく、Liを除く金属元素の総モル数に対して55モル%以上のNiを含有し、結晶子径が100nm~200nmであり、前記Ni含有リチウム複合酸化物aと前記Ni含有リチウム複合酸化物bとの割合が、質量比で、5:95~55:45である。
【0011】
一次粒子径が大きく、二次粒子径が小さいNi含有リチウム複合酸化物aは、リチウムイオン伝導性が高いため、電池の良好なサイクル特性や高率放電特性を可能とすると考えられる。さらに、B及びAlのうちの少なくともいずれか一方を含み、結晶子径が100nm~200nmであるNi含有リチウム複合酸化物aは、結晶構造が安定化するため、Ni含有リチウム複合酸化物aからのNi、Mnの溶出量が抑えられると考えられる。なお、一次粒子径が大きく、二次粒子径が小さいNi含有リチウム複合酸化物aは、表面積が小さい粒子となるため、Ni、Mnが溶出する面積も低減し、結果としてNi含有リチウム複合酸化物aからのNi、Mnの溶出量が抑えられると考えられる。
【0012】
そして、Ni含有リチウム複合酸化物aと、当該酸化物aよりも一次粒子径が小さく二次粒子径が大きなNi含有リチウム複合酸化物bとを所定の質量比で混合することにより、正極合材層中の正極活物質の充填密度を上げることができるため、電池の高容量化を図ることができる。即ち、Ni含有リチウム複合酸化物bを併用することで、Ni含有リチウム複合酸化物aだけ又はNi含有リチウム複合酸化物bだけでは実現できない充填密度を有する正極を得ることができる。なお、Ni含有リチウム複合酸化物bは、表面積が大きくなるが、上記所定の一次粒子径及び二次粒子径を有することにより、Ni、Mnの溶出は主に粒子表面で起こり、粒子内部からのNi、Mnの溶出は抑えられると考えられる。したがって、Ni含有リチウム複合酸化物a,bを併用することによって、電池の高容量、良好なサイクル特性及び高率放電特性、並びに正極活物質からのNi、Mnの溶出量を抑制することが可能となる。
【0013】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体が円筒形の電池ケースに収容された円筒形電池を例示するが、電極体は、巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に1枚ずつ積層されてなる積層型であってもよい。また、電池ケースは円筒形に限定されず、角形(角形電池)、コイン形(コイン形電池)等の金属製ケース、樹脂フィルムによって構成される樹脂製ケース(ラミネート電池)などであってもよい。
【0014】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、正極11と負極12の間に介在するセパレータ13とを備える。電極体14は、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回された巻回構造を有する。電池ケース15は、有底円筒形状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成されている。
【0015】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16は、例えば側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22を有する。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0016】
封口体17は、電極体14側から順に、底板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0017】
非水電解質二次電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19を備える。図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板23の下面に溶接等で接続され、底板23と電気的に接続された封口体17のキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0018】
以下、非水電解質二次電池10を構成する正極11、負極12、セパレータ13及び非水電解質について詳説する。
【0019】
[正極]
正極11は、正極集電体と、正極集電体の両面に形成された正極合材層とを有する。正極集電体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、導電材、及び結着材を含む。正極合材層の厚みは、例えば集電体の片側で10μm~150μmである。正極11は、正極集電体上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0021】
正極合材層に含まれる正極活物質として、平均一次粒子径及び平均二次粒子が互いに異なる2種類のNi含有リチウム複合酸化物a,bを含む。Ni含有リチウム複合酸化物aは、Li、Ni、Mnを含み、且つB及びAlのうちの少なくともいずれか一方を含む複合酸化物である。また、Ni含有リチウム複合酸化物bは、Li、Ni、Mnを含み、且つB及びAlを含まない複合酸化物、又はLi、Ni、Mnを含み、且つB及びAlのうちの少なくともいずれか一方を含むが、B及びAlの含有量は、Ni含有リチウム複合酸化物aのB及びAlの含有量より少ない複合酸化物である。なお、正極合材層には、本開示の目的を損なわない範囲でNi含有リチウム複合酸化物a,b以外の正極活物質が含まれていてもよいが、本実施形態では、正極活物質としてNi含有リチウム複合酸化物a,bのみが含まれるものとする。
【0022】
図2はNi含有リチウム複合酸化物aを模式的に示す図であり、図3はNi含有リチウム複合酸化物bを模式的に示す図である。図2及び図3に示すように、Ni含有リチウム複合酸化物a,bは、それぞれ一次粒子32,33が凝集してなる二次粒子である。Ni含有リチウム複合酸化物a(二次粒子)は、Ni含有リチウム複合酸化物b(二次粒子)よりも粒径が小さい。一方、Ni含有リチウム複合酸化物aを構成する一次粒子32は、Ni含有リチウム複合酸化物bを構成する一次粒子33よりも大きい。Ni含有リチウム複合酸化物a,bを併用することで、電池の高容量、良好なサイクル特性及び高率放電特性、並びに正極活物質からのNi、Mnの溶出量を抑制することが可能となる。
【0023】
Ni含有リチウム複合酸化物aは、高容量化等の点で、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が55モル%以上であればよいが、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。Ni含有リチウム複合酸化物aは、良好なサイクル特性及び高率放電特性等の点で、Liを除く金属元素の総モル数に対するMnの割合が、例えば、5モル%以上35モル%以下であることが好ましい。また、Ni含有リチウム複合酸化物aに含まれるB及びAlはそれぞれ、複合酸化物aに対する質量比で、例えば、200ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。B及びAlの含有量が上記範囲外の場合、上記範囲内の場合と比較して、電池の容量が低下する場合がある。
【0024】
Ni含有リチウム複合酸化物bは、高容量化等の点で、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が55モル%以上であればよいが、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。Ni含有リチウム複合酸化物bは、良好なサイクル特性及び高率放電特性等の点で、Liを除く金属元素の総モル数に対するMnが、例えば、5モル%以上35モル%以下であることが好ましい。また、Ni含有リチウム複合酸化物bにB及びAlはそれぞれ、複合酸化物aに対する質量比で、例えば、100ppm以下であることが好ましく、0ppm以上50ppm以下であることが好ましい。B及びAlの含有量が上記範囲外の場合、上記範囲内の場合と比較して、電池の容量が低下する場合がある。
【0025】
Ni含有リチウム複合酸化物a,bは、上記の元素以外の元素を含んでいてもよく、例えば、Co、Mg、Zr、Mo、W、Cr、V、Ce、Ti、Fe、Si、K、Ga、In、Ca、Naから選択される少なくとも1種の元素等が挙げられる。これらの元素の中では、Ni含有リチウム複合酸化物a,bは、少なくともCoを含有することが好ましく、さらに、Mg、Zr、Mo、W、Cr、V、Ce、Ti、Fe、K、Ga、Inから選択される少なくとも1種の金属元素を含有することがより好ましい。
【0026】
Ni含有リチウム複合酸化物aの一次粒子32の平均粒径(以下、「平均一次粒子径a」という場合がある)は、1μm以上であり、かつNi含有リチウム複合酸化物bの一次粒子33の平均粒径(以下、「平均一次粒子径b」という場合がある)よりも大きい。また、Ni含有リチウム複合酸化物aの二次粒子の平均粒径(以下、「平均二次粒子径a」という場合がある)は、2μm~6μmであり、かつNi含有リチウム複合酸化物bの二次粒子の平均粒径(以下、「平均二次粒子径b」という場合がある)よりも小さい。また、Ni含有リチウム複合酸化物bは、平均一次粒子径bが0.05μm以上、平均二次粒子径bが10μm~20μmである。これにより、例えば、電池の高容量、良好なサイクル特性及び高率放電特性、並びに正極活物質からのNi、Mnの溶出量を抑制することが可能となる。
【0027】
電池の高容量、良好なサイクル特性及び高率放電特性、並びにNi、Mnの溶出量を抑制すること等を可能とする点で、Ni含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径aは、1μm~5μmが好ましく、1μm~4μmがより好ましい。Ni含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径bは、0.05μm~0.5μmが好ましく、0.05μm~0.2μmがより好ましい。
【0028】
平均一次粒子径a,bは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察される断面SEM画像を解析することにより求められる。例えば、正極を樹脂中に埋め込み、クロスセクションポリッシャ(CP)加工などにより正極合材層の断面を作製し、この断面をSEMにより撮影する。或いは、Ni含有リチウム複合酸化物a,bの粉末を樹脂中に埋め込み、CP加工などにより複合酸化物の粒子断面を作製し、この断面をSEMにより撮影する。そして、この断面SEM画像から、ランダムに30個の一次粒子を選択する。選択した30個の一次粒子の粒界を観察し、一次粒子の外形を特定した上で、30個の一次粒子それぞれの長径(最長径)を求め、それらの平均値を平均一次粒子径a,bとする。
【0029】
平均二次粒子径a,bについても、上記断面SEM画像から求められる。具体的には、上記断面SEM画像から、ランダムに30個の二次粒子(Ni含有リチウム複合酸化物a,b)を選択し、選択した30個の二次粒子の粒界を観察し、二次粒子の外形を特定した上で、30個の二次粒子それぞれの長径(最長径)を求め、それらの平均値を平均二次粒子径a,bとする。
【0030】
Ni含有リチウム複合酸化物a,bの結晶子径は、Ni、Mnの溶出量を抑える等の点で、100nm~300nmであればよいが、好ましくは120nm~250nmである。本明細書におけるNi含有リチウム複合酸化物の結晶子径は、例えば層状岩塩型の結晶構造において層を重ねる方向である(003)ベクトル方向に垂直な方向である(110)ベクトル方向の結晶子径である。
【0031】
Ni含有リチウム複合酸化物a,bの結晶子径は、X線回折法により得られるX線回折パターンを全粉末パターン分解法(以下、「WPPD法」という)により解析して算出される。
【0032】
X線回析測定は、検出器としてPSD(LYNX EYE)、管球としてCuKα1(波長1.5418Å)を用い、管電圧40kV、管電流40mA、スリット幅を0.3°、ステップ幅を0.03°とし、1ステップあたり1秒の計数時間にて10°~120°まで測定する。
【0033】
WPPD法による解析手順は、下記の通りである。
手順1:ソフト(TOPAS3)を起動し、測定データを読み込む。
手順2:Emission Profileを設定する。
(Cu管球、Bragg Brentano集中光学系を選択する)
手順3:バックグラウンドを設定する。
(プロファイル関数としてルジャンドルの多項式を使用、項数は8~20に設定)
手順4:Instrumentを設定する。
(Fundamental Parameterを使用、スリット条件、フィラメント長、サンプル長を入力)
手順5:Correctionsを設定する。
(Sample displacementを使用。試料ホルダーへの試料充填密度が低
い場合、Absorptionも使用する。この場合、Absorptionは測定試料の線吸収係数で固定)
手順6:結晶構造の設定をする。
(空間群R3-mに設定。格子定数・結晶子径・格子歪を使用。結晶子径と格子歪とによ
るプロファイルの広がりをローレンツ関数に設定)
手順7:計算を実行する。
(バックグラウンド、Sample displacement、回折強度、格子定数、
結晶子径、及び格子歪を精密化、計算にはLe-ball式を採用)
手順8:結晶子径の標準偏差が精密化した値の6%以下であれば、解析終了。6%より大きい場合は、手順9へ進む。
手順9:格子歪によるプロファイルの広がりをガウス関数に設定する。
(結晶子径はローレンツ関数のまま)
手順10:計算を実行する。
(バックグラウンド、Sample displacement、回折強度、格子定数、
結晶子径、及び格子歪を精密化)
手順11:結晶子径の標準偏差が精密化した値の6%以下であれば、解析終了。6%より大きい場合は、解析不可。
【0034】
Ni含有リチウム複合酸化物aとNi含有リチウム複合酸化物bとの割合は、充填量の向上による電池の高容量化を図る等の点で、質量比で、5:95~55:45であればよいが、好ましくは10:90~50:50、又は25:75~45:65である。
【0035】
以下、Ni含有リチウム複合酸化物a,bの製造方法の一例について詳説する。
【0036】
Ni含有リチウム複合酸化物aは、リチウム化合物と、55モル%以上のNi及び所定量のMnを含有する遷移金属化合物とを含む第1混合物を焼成する第1焼成工程と、当該焼成物と、Al含有化合物やB含有化合物とを含む第2混合物を焼成する第2焼成工程を経て合成される。
【0037】
<第1焼成工程>
遷移金属化合物の粒径(D50)は、例えば1μm~6μmが好ましく、3μm~4μmがより好ましい。第1混合物におけるLiの含有量は、遷移金属の総量に対するモル比で1.03~1.10が好ましく、1.05~1.07がより好ましい。第1混合物の焼成温度は、850℃~960℃が好ましく、880℃~930℃がより好ましい。焼成時間は、例えば3時間~10時間である。焼成は例えば酸素気流下で行われる。遷移金属化合物の粒径(D50)、第1混合物におけるLiの含有量及び焼成温度等が当該範囲内であると、Ni含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径及び平均二次粒子径、及び結晶子径を上記範囲に調整することが容易になる。
【0038】
<第2焼成工程>
第2混合物の焼成温度は、600℃~900℃が好ましく、700℃~800℃がより好ましい。焼成時間は、例えば5時間~20時間である。
【0039】
Ni含有リチウム複合酸化物bは、リチウム化合物と、55モル%以上のNi及び所定量のMnを含有する遷移金属化合物とを含む第1混合物を焼成する第1焼成工程により合成される。なお、AlやBを添加する場合には、第1焼成工程で得られた焼成物と、Al含有化合物やB含有化合物とを含む第2混合物を焼成する第2焼成工程が追加される。
【0040】
<第1焼成工程>
遷移金属化合物の粒径(D50)は、例えば7μm~20μmが好ましく、10μm~18μmがより好ましい。第1混合物におけるLiの含有量は、遷移金属の総量に対するモル比で1.03~1.10が好ましく、1.05~1.07がより好ましい。第1混合物の焼成温度は、860℃~990℃が好ましく、880℃~960℃がより好ましい。焼成時間は、例えば3時間~10時間である。焼成は例えば酸素もしくは空気気流下で行われる。遷移金属化合物の粒径(D50)、第1混合物におけるLiの含有量及び焼成温度等が当該範囲内であると、Ni含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径及び平均二次粒子径、及び結晶子径を上記範囲に調整することが容易になる。
【0041】
<第2焼成工程>
第2混合物の焼成温度は、600℃~900℃が好ましく、700℃~800℃がより好ましい。焼成時間は、例えば5時間~20時間である。
【0042】
[負極]
負極12は、負極集電体と、負極集電体の両面に形成された負極合材層とを有する。負極集電体には、銅、銅合金等の負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。負極合材層は、負極活物質、及び結着材を含む。負極合材層の厚みは、例えば集電体の片側で10μm~150μmである。負極12は、負極集電体上に負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層を負極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0043】
負極合材層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、一般的には黒鉛等の炭素材料が用いられる。黒鉛は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛のいずれであってもよい。また、負極活物質として、Si、Sn等のLiと合金化する金属、Si、Sn等を含む金属化合物、リチウムチタン複合酸化物などを用いてもよい。例えば、SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるSi含有化合物、又はLi2ySiO(2+y)(0<y<2)で表されるリチウムシリケート相中にSiの微粒子が分散したSi含有化合物などが、黒鉛と併用されてもよい。
【0044】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極合材層には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などが含まれていてもよい。
【0045】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。また、セパレータ13の表面には、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂層、無機化合物のフィラーを含むフィラー層が設けられていてもよい。
【0046】
[非水電解質]
非水電解質は、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0047】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0048】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテルなどが挙げられる。
【0049】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(Cl2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8モル~1.8モルである。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
[Ni含有リチウム複合酸化物aの合成]
Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属水酸化物(D50が3.7μm、タップ密度が1.7g/cc)とLiOHとを、Ni、Co及びMnの総量に対するLiのモル比が1.07となるように混合した。その後、この混合物を925℃で10時間、酸素気流下で焼成して(第1焼成工程)、Ni含有リチウム複合酸化物の第1焼成物を得た。次に、第1焼成物100質量部に対して、B量として0.005質量部(500ppm)となるようにB含有金属錯体を添加し、また、第1焼成物100質量部に対して、Al量として0.005質量部(500ppm)となるようにAl含有金属錯体を添加し、700℃で5時間保持することによって(第2焼成工程)、Ni含有リチウム複合酸化物a(第2焼成物)を得た。
【0052】
Ni含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は3μm、平均二次粒子径は4μmであった。平均粒径の測定方法は上述の通りである。
【0053】
また、X線回折法により得たNi含有リチウム複合酸化物aのX線回折パターンを解析した結果、結晶子径は200nmであった。X線回折法の測定条件等は上述の通りである。Ni含有リチウム複合酸化物aの組成を、ICP発光分析(Thermo Fisher Scientific社製、ICP発光分光分析装置iCAP6300を使用)により算出した結果、Niの割合は60モル%、Mnの割合は20モル%、Coの割合は20モル%、Bは500ppm、Alは500ppmであった。
【0054】
[Ni含有リチウム複合酸化物bの合成]
Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が17.0μm、タップ密度が2.3g/cc)とLiOHとを、Ni、Co及びMnの総量に対するLiのモル比が1.07となるように混合した。その後、この混合物を885℃で10時間、酸素気流下で焼成することによって、Ni含有リチウム複合酸化物bを得た。
【0055】
Ni含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径はNi含有リチウム複合酸化物aと比べて小さく、0.1μmであった。また、Ni含有リチウム複合酸化物bの平均二次粒子径は、Ni含有リチウム複合酸化物aよりも大きく、16μmであった。
【0056】
また、Ni含有リチウム複合酸化物bの結晶子径は135nmであった。Ni含有リチウム複合酸化物bの組成は、Li1.07Ni0.60Co0.20Mn0.20であった。
【0057】
[正極の作製]
正極活物質として、Ni含有リチウム複合酸化物a,bを50:50の質量比で混合したものを用いた。正極活物質が97.5質量%、カーボンブラックが1質量%、ポリフッ化ビニリデンが1.5質量%となるように混合し、これをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合して正極合材スラリーを調製した。当該スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥した後、圧延ローラにより、500MPaの圧力で塗膜を圧延して、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。正極集電体の長手方向中央部に正極合材層を形成しない部分を設け、当該部分に正極タブを取り付けた。正極合材層の厚みを約140μm、正極の厚みを約300μmとした。
【0058】
[負極の作製]
黒鉛が98.2質量%と、スチレン-ブタジエンゴムが0.7質量%、カルボキシメチルセルロースナトリウムが1.1質量%となるよう混合し、これを水と混合して負極合材スラリーを調製した。当該スラリーを厚み8μmの銅箔からなる負極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥した後、圧延ローラにより塗膜を圧延して、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。負極集電体の長手方向両端部に負極合材層を形成しない部分を設け、当該部分に負極タブを取り付けた。負極合材層の厚みを約120μm、負極の厚みを約250μmとした。
【0059】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等体積混合非水溶媒に、LiPFを1.6モル/Lの濃度で溶解させて非水電解液を得た。
【0060】
[非水電解質二次電池の作製]
上記正極、上記負極、上記非水電解液、及びセパレータを用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を作製した。
(1)正極と負極とをセパレータを介して巻回し、巻回構造の電極体を作製した。
(2)電極体の上下にそれぞれ絶縁板を配置し、直径18mm、高さ65mmの円筒形状の電池外装缶に巻回電極体を収容した。
(3)負極の集電タブを電池外装缶の底部内面に溶接すると共に、正極の集電タブを封口体の底板に溶接した。
(4)電池外装缶の開口部から非水電解液を注入し、その後、封口体によって電池外装缶を密閉した。
【0061】
上記非水電解質二次電池について、下記の方法で性能評価を行った。評価結果は、表1に示した。
【0062】
[電池容量の評価]
上記非水電解質二次電池について、25℃の環境下、1It=2900mAの定電流で電池電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後は、1Itの定電流で電池電圧が2.5Vとなるまで放電して、放電容量(電池容量)を求めた。
【0063】
[高率放電特性の評価]
上記非水電解質二次電池について、25℃の環境下、0.2Itの定電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで充電し、その後、0.2Itの定電流で、電池電圧が2.5Vとなるまで放電し、0.2It容量を測定した。つぎに同様の方法で充電し、1Itの定電流で、電池電圧が2.5Vまで放電し、1It容量を測定した。そして、以下の式により、高率放電容量維持率を求めた。高率放電容量維持率が高いほど、高率放電特性が良好であることを意味する。
高率放電容量維持率=1It容量÷0.2It容量×100
【0064】
[サイクル特性の評価]
上記非水電解質二次電池を、25℃の温度条件下、以下の条件で充放電して、容量維持率を求めた。
<充放電条件>
充電:1Itの定電流で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った。さらに、4.2Vの電圧で電流値が145mAとなるまで定電圧充電を行った。
放電:1Itの定電流で電圧が2.5Vとなるまで定電流放電を行った。
この充放電を100サイクル行い、下記式にてサイクル容量維持率を算出した。サイクル容量維持率が高いほど、サイクル特性が良好であることを意味する
サイクル容量維持率=100サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100
【0065】
[Ni、Mnの溶出量]
上記非水電解質二次電池を、満充電した後、60℃恒温槽にて96時間保存した。そして、96時間経過後の非水電解質二次電池をグローブボックス内で解体し、負極を取り出した。取り出した負極を100℃の0.2規定塩酸水溶液100mlに10分間浸漬することで、負極に析出したMn及びNiを溶解させた。さらに負極をろ過により除去した後、メスフラスコにてメスアップし、サンプルを得た。当該サンプルのMn及びNi量をInductively Coupled Plasma- Atomic Emission Spectrometry(ICP-AES)にて定量し、以下の式により、Mn、Niの溶出量を算出した。Mn、Niの溶出量が低いほど、上記保存過程にて正極活物質から溶出するMn、Niの溶出量が抑えられたことを意味する。
MnまたはNiの溶出量=MnまたはNi質量/負極質量
【0066】
<実施例2>
Ni含有リチウム複合酸化物aの合成において、第1焼成物100質量部に対して、B量として0.01質量部(1000ppm)となるようにB含有金属錯体を添加し、また、第1焼成物100質量部に対して、Al量として0.01質量部(1000ppm)となるようにAl含有金属錯体を添加したこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0067】
実施例2のNi含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は3μm、平均二次粒子径は4μmであった。また、結晶子径は198nmであった。組成は、Niの割合が60モル%、Mnの割合が20モル%、Coの割合が20モル%、Bが1000ppm、Alが1000ppmであった。
【0068】
<実施例3>
Ni含有リチウム複合酸化物aの合成において、第1焼成物100質量部に対して、B量として0.002質量部(200ppm)となるようにB含有金属錯体を添加し、また、第1焼成物100質量部に対して、Al量として0.002質量部(200ppm)となるようにAl含有金属錯体を添加したこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0069】
実施例3のNi含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は3μm、平均二次粒子径は4μmであった。また、結晶子径は205nmであった。組成は、Niの割合が60モル%、Mnの割合が20モル%、Coの割合が20モル%、Bが200ppm、Alが200ppmであった。
【0070】
<実施例4>
Ni含有リチウム複合酸化物bの合成において、Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が17.0μm、タップ密度が2.3g/cc)をNi0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が10.1μm、タップ密度が1.9g/cc)としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0071】
実施例4のNi含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径は0.1μm、平均二次粒子径は10μmであった。また、結晶子径は140nmであった。組成は、Li1.07Ni0.60Co0.20Mn0.20であった。
【0072】
<実施例5>
Ni含有リチウム複合酸化物bの合成において、Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が17.0μm、タップ密度が2.3g/cc)をNi0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が19.4μm、タップ密度が2.5g/cc)としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0073】
実施例5のNi含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径は0.1μm、平均二次粒子径は20μmであった。また、結晶子径は125nmであった。組成は、Li1.07Ni0.60Co0.20Mn0.20であった。
【0074】
<実施例6>
Ni含有リチウム複合酸化物aの合成において、第1焼成工程の焼成温度を925℃から900℃としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0075】
実施例6のNi含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は1μm、平均二次粒子径は4μmであった。また、結晶子径は145nmであった。組成は、Niの割合が60モル%、Mnの割合が20モル%、Coの割合が20モル%、Bが500ppm、Alが500ppmであった。
【0076】
<実施例7>
Ni含有リチウム複合酸化物aの合成において、Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属水酸化物(D50が3.7μm、タップ密度が1.7g/cc)をNi0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属水酸化物(D50が5.5μm、タップ密度が1.8g/cc)としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0077】
実施例7のNi含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は3μm、平均二次粒子径は6μmであった。また、結晶子径は199nmであった。組成は、Niの割合が60モル%、Mnの割合が20モル%、Coの割合が20モル%、Bが500ppm、Alが500ppmであった。
【0078】
<実施例8>
Ni含有リチウム複合酸化物bの合成において、第1焼成工程の焼成温度を885℃から870℃としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0079】
実施例8のNi含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径は0.05μm、平均二次粒子径は16μmであった。また、結晶子径は120nmであった。組成は、Li1.07Ni0.60Co0.20Mn0.20であった。
【0080】
<実施例9>
正極の作製において、Ni含有リチウム複合酸化物a,bを5:95の質量比で混合した正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0081】
<実施例10>
正極の作製において、Ni含有リチウム複合酸化物a,bを55:45の質量比で混合した正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0082】
<比較例1>
Ni含有リチウム複合酸化物aの合成において、B及びAlを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0083】
比較例1のNi含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は3μm、平均二次粒子径は4μmであった。また、結晶子径は208nmであった。組成は、Niの割合が60モル%、Mnの割合が20モル%、Coの割合が20モル%であった。
【0084】
<比較例2>
Ni含有リチウム複合酸化物bの合成において、Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が17.0μm、タップ密度が2.3g/cc)をNi0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が9.2μm、タップ密度が1.8g/cc)としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0085】
比較例2のNi含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径は0.1μm、平均二次粒子径は9μmであった。また、結晶子径は145nmであった。組成は、Li1.07Ni0.60Co0.20Mn0.20であった。
【0086】
<比較例3>
Ni含有リチウム複合酸化物bの合成において、Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が17.0μm、タップ密度が2.3g/cc)をNi0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属酸化物(D50が22.2μm、タップ密度が2.7g/cc)としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0087】
比較例3のNi含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径は0.1μm、平均二次粒子径は22μmであった。また、結晶子径は110nmであった。組成は、Li1.07Ni0.60Co0.20Mn0.20であった。
【0088】
<比較例4>
Ni含有リチウム複合酸化物aの合成において、第1焼成工程の焼成温度を925℃から890℃としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0089】
比較例4のNi含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は0.8μm、平均二次粒子径は4μmであった。また、結晶子径は135nmであった。組成は、Niの割合が60モル%、Mnの割合が20モル%、Coの割合が20モル%、Bが500ppm、Alが500ppmであった。
【0090】
<比較例5>
Ni含有リチウム複合酸化物aの合成において、Ni0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属水酸化物(D50が3.7μm、タップ密度が1.7g/cc)をNi0.60Co0.20Mn0.20(OH)で表される遷移金属水酸化物(D50が8.1μm、タップ密度が1.7g/cc)としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0091】
比較例5のNi含有リチウム複合酸化物aの平均一次粒子径は3μm、平均二次粒子径は8μmであった。また、結晶子径は198nmであった。組成は、Niの割合が60モル%、Mnの割合が20モル%、Coの割合が20モル%、Bが500ppm、Alが500ppmであった。
【0092】
<比較例6>
Ni含有リチウム複合酸化物bの合成において、第1焼成工程の焼成温度を885℃から850℃としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0093】
比較例6のNi含有リチウム複合酸化物bの平均一次粒子径は0.03μm、平均二次粒子径は16μmであった。また、結晶子径は100nmであった。組成は、Li1.07Ni0.60Co0.20Mn0.20であった。
【0094】
<比較例7>
正極の作製において、Ni含有リチウム複合酸化物bのみを正極活物質として用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0095】
<比較例8>
正極の作製において、Ni含有リチウム複合酸化物aのみを正極活物質として用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製し、実施例1と同様に性能評価を行った。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示すように、実施例の電池はいずれも、放電容量、高率放電容量維持率及びサイクル容量維持率が高い結果となった。また、実施例の電池はいずれも、60℃満充電状態で96時間保存した後におけるNi、Mnの溶出量が50ppm未満に抑えられた。すなわち、実施例の電池は、高容量、良好なサイクル特性及び高率放電特性、並びに正極活物質からのNi、Mnの溶出量を抑制することができた。一方、比較例では、これらの特性の全てを満足する電池は得られなかった。
【符号の説明】
【0098】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極タブ、21 負極タブ、22 溝入部、23 底板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、32,33 一次粒子。
図1
図2
図3