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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】回転機制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/34 20160101AFI20230707BHJP
   H02P 21/24 20160101ALI20230707BHJP
【FI】
H02P21/34
H02P21/24
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021159326
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2022170646
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2021076595
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄也
(72)【発明者】
【氏名】松山 哲也
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-126598(JP,A)
【文献】特許第6473992(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/34
H02P 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、
推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を用いたフィードバック制御を実行することによって指令磁束の振幅である指令振幅を生成する指令振幅特定部と、
前記指令振幅により前記指令磁束を生成する指令磁束特定部と、
前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が前記指令磁束特定部で生成された前記指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、
前記検出電流と前記推定磁束とより推定トルクを演算するトルク推定部と、
前記推定トルクを指令トルクに収束させるためのトルク位相を演算する指令位相特定部と、
を備える回転機制御装置であって、
前記磁束推定部は、前記切り替え部が前記磁束制御運転への切り替えを制御する際に、前記磁束制御運転への切り替え前の前記推定磁束の振幅を、前記磁束制御運転への切り替え直後の前記指令振幅の初期値として前記フィードバック制御に与え、
前記指令磁束特定部は、前記指令振幅、及び、前記推定磁束の位相から前記指令位相特定部で演算された前記トルク位相を用いて前記指令磁束を生成し、
前記回転機制御装置は、前記磁束制御運転として、前記指令磁束に基づいて実行される位置センサレス磁束制御運転を実施する、
回転機制御装置。
【請求項2】
同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、
推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を用いたフィードバック制御を実行することによって指令磁束の振幅である指令振幅を生成する指令振幅特定部と、
前記指令振幅により前記指令磁束を生成する指令磁束特定部と、
前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が前記指令磁束特定部で生成された前記指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、
を備える回転機制御装置であって、
前記磁束推定部は、前記切り替え部が前記磁束制御運転への切り替えを制御する際に、前記磁束制御運転への切り替え前の前記推定磁束の振幅を、前記磁束制御運転への切り替え直後の前記指令振幅の初期値として前記フィードバック制御に与え、
前記指令磁束特定部は、(1)前記推定磁束の位相が移動するべき制御周期毎の移動量を、前記同期回転機への指令速度を用いて特定し、(2)特定された前記移動量と前記推定磁束の位相とを用いて指令磁束ベクトル位相を特定し、
前記回転機制御装置は、前記指令磁束ベクトル位相に基づいて、前記磁束制御運転として、磁束同期運転を実施する、
回転機制御装置。
【請求項3】
前記回転機制御装置が、前記電流同期運転から前記位置センサレス磁束制御運転に移行する際に、
前記指令磁束特定部は、(1)前記推定磁束の位相が移動するべき制御周期毎の移動量を、前記同期回転機への指令速度を用いて特定し、(2)特定された前記移動量と前記推定磁束の位相とを用いて指令磁束ベクトル位相を特定し、
前記回転機制御装置は、(3)前記指令磁束ベクトル位相に基づいて、前記磁束制御運転として実施する磁束同期運転を介挿する、
請求項1に記載の回転機制御装置。
【請求項4】
前記指令振幅特定部は、前記第1内積又は前記第2内積の演算結果の目標値として、ゼロ以上に設定する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
【請求項5】
同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、
推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を用いたフィードバック制御を実行することによって指令磁束の振幅である指令振幅を生成する指令振幅特定部と、
前記指令振幅により前記指令磁束を生成する指令磁束特定部と、
前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が前記指令磁束特定部で生成された前記指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、
前記第1内積又は前記第2内積を演算する誤差変数特定部と、
を備える回転機制御装置であって、
前記磁束推定部は、前記切り替え部が前記磁束制御運転への切り替えを制御する際に、前記磁束制御運転への切り替え前の前記推定磁束の振幅を、前記磁束制御運転への切り替え直後の前記指令振幅の初期値として前記フィードバック制御に与え、
前記切り替え部は、前記電流同期運転を行っている際に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が所定値以下になった場合、又は、前記電流同期運転の開始時から、予め決められた前記同期回転機の加速レートと予め決められた切り替え回転数とによって求められる第1所定期間が経過した場合に、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行う、
回転機制御装置。
【請求項6】
前記所定値はゼロである、
請求項5に記載の回転機制御装置。
【請求項7】
前記切り替え部は、前記電流同期運転の開始時から、前記第1所定期間よりも短い第2所定期間以内に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下となった場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを禁止する、
請求項5又は請求項6に記載の回転機制御装置。
【請求項8】
前記切り替え部は、前記電流同期運転の実施中に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下とならず、かつ、前記第1所定期間が経過した場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行う、
請求項5又は請求項6に記載の回転機制御装置。
【請求項9】
同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、
推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を演算する誤差変数特定部と、
前記第1内積又は前記第2内積を用いたフィードバック制御を実行することによって生成される、指令磁束の振幅である指令振幅により、前記指令磁束を生成する指令磁束特定部と、
前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、を備える回転機制御装置であって、
前記切り替え部は、前記電流同期運転を行っている際に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が所定値以下になった場合、又は、前記電流同期運転の開始時から、予め決められた前記同期回転機の加速レートと予め決められた切り替え回転数とによって求められる第1所定期間が経過した場合に、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行い、
前記指令磁束特定部は、前記指令振幅、及び、前記推定磁束の位相から演算されたトルク位相であって、前記検出電流と前記推定磁束とより演算される推定トルクを指令トルクに収束させるための前記トルク位相を用いて前記指令磁束を生成し、
前記回転機制御装置は、前記磁束制御運転として、前記指令磁束に基づいて実行される位置センサレス磁束制御運転を実施する、
回転機制御装置。
【請求項10】
同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、
推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を演算する誤差変数特定部と、
前記第1内積又は前記第2内積を用いたフィードバック制御を実行することによって生成される、指令磁束の振幅である指令振幅により、前記指令磁束を生成する指令磁束特定部と、
前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、を備える回転機制御装置であって、
前記切り替え部は、前記電流同期運転を行っている際に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が所定値以下になった場合、又は、前記電流同期運転の開始時から、予め決められた前記同期回転機の加速レートと予め決められた切り替え回転数とによって求められる第1所定期間が経過した場合に、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行い、
前記指令磁束特定部は、(1)前記推定磁束の位相が移動するべき制御周期毎の移動量を、前記同期回転機への指令速度を用いて特定し、(2)特定された前記移動量と前記推定磁束の位相とを用いて指令磁束ベクトル位相を特定し、
前記回転機制御装置は、前記指令磁束ベクトル位相に基づいて、前記磁束制御運転として、磁束同期運転を実施する、
回転機制御装置。
【請求項11】
前記所定値はゼロである、
請求項9又は請求項10に記載の回転機制御装置。
【請求項12】
前記切り替え部は、前記電流同期運転の開始時から、前記第1所定期間よりも短い第2所定期間以内に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下となった場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを禁止する、
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
【請求項13】
前記切り替え部は、前記電流同期運転の実施中に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下とならず、かつ、前記第1所定期間が経過した場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行う、
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の回転機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機を制御する回転機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同期回転機(同期モータ)の駆動方法として、直接トルク制御(DTC:Direct Torque Control)を用いた位置センサレス磁束制御運転が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1、非特許文献2の直接トルク制御や、特許文献1の磁束を用いた回転機制御装置の一例が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、直接トルク制御を用いた回転機制御装置の起動期間(起動時点を含む期間)における安定性を改善させるための記述が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6473992号公報
【文献】特許第6414771号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】井上征則、森本茂雄、真田雅之、「埋込磁石同期モータの直接トルク制御によるセンサレス駆動とトルク応答改善法(Improvement of torque response and examination of sensorless drive system based on direct torque control for IPMSM)」電気学会論文誌C,128巻,6号,p.78-86(2008年)
【文献】井上 達貴、井上征則、森本茂雄、真田雅之、「電機子鎖交磁束に同期した座標系におけるPMSMの最大トルク/電流制御の数式モデルと制御手法(Mathematical Model and Control Method of Maximum Torque Per Ampere for PMSM in Stator Flux Linkage Synchronous Frame)」電気学会論文誌D,135巻,6号,p.689-696(2015年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性のさらなる改善が望まれる。
【0008】
そこで、本開示は、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる回転機制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る回転機制御装置は、同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を用いたフィードバック制御を実行することによって指令磁束の振幅である指令振幅を生成する指令振幅特定部と、前記指令振幅により前記指令磁束を生成する指令磁束特定部と、前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が前記指令磁束特定部で生成された前記指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、を備え、前記磁束推定部は、前記切り替え部が前記磁束制御運転への切り替えを制御する際に、前記磁束制御運転への切り替え前の前記推定磁束の振幅を、前記磁束制御運転への切り替え直後の前記指令振幅の初期値として前記フィードバック制御に与える。
【0010】
本開示の一態様に係る回転機制御装置は、同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を演算する誤差変数特定部と、前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、を備え、前記切り替え部は、前記電流同期運転を行っている際に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が所定値以下になった場合、又は、前記電流同期運転の開始時から、予め決められた前記同期回転機の加速レートと切り替え回転数とによって求められる第1所定期間が経過した場合に、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行う。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様に係る回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態1に係る回転機制御装置のブロック図である。
図2図2は、dq座標系及びαβ座標系を説明するための図である。
図3図3は、実施の形態1に係る電流同期制御部のブロック図である。
図4図4は、実施の形態1に係る位置センサレス制御部のブロック図である。
図5図5は、電流同期運転を実行しているときの、推定磁束の特定方法を説明するための図である。
図6A図6Aは、実施の形態1に係る誤差変数特定部のブロック図である。
図6B図6Bは、実施の形態1に係る誤差変数特定部のブロック図である。
図7図7は、実施の形態1に係る指令振幅特定部のブロック図である。
図8図8は、実施の形態1に係る切り替え部の構成図である。
図9図9は、実施の形態2に係る回転機制御装置のブロック図である。
図10図10は、実施の形態2に係る磁束同期制御部のブロック図である。
図11図11は、実施の形態2に係る指令位相特定部のブロック図である。
図12図12は、実施の形態2に係る指令位相特定部のブロック図である。
図13図13は、実施の形態2に係る指令位相特定部のブロック図である。
図14図14は、実施の形態2に係る指令位相特定部のブロック図である。
図15図15は、実施の形態3に係る回転機制御装置のブロック図である。
図16図16は、実施の形態3に係る磁束同期・位置センサレス制御部のブロック図である。
図17図17は、実施の形態3に係る指令位相特定部のブロック図である。
図18図18は、実施の形態3に係る指令位相特定部のブロック図である。
図19図19は、実施の形態4に係る回転機制御装置のブロック図である。
図20図20は、実施の形態4に係る位置センサレス制御部のブロック図である。
図21図21は、dq座標系、αβ座標系、及び、γδ座標系を説明するための図である。
図22図22は、γ軸から見たd軸の進み角と同期回転機の実トルクとの関係を示す相関図である。
図23図23は、実施の形態4に係る動作モード切り替え判定部が切り替え制御信号を出力するタイミングを示すタイムチャートの一例である。
図24図24は、実施の形態4に係る動作モード切り替え判定部が切り替え制御信号を出力するタイミングを示すタイムチャートの一例である。
図25図25は、実施の形態4に係る動作モード切り替え判定部が切り替え制御信号を出力するタイミングを示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の一態様を得るに至った経緯)
同期回転機の高速回転域の制御として、非特許文献1に記載されている直接トルク制御など主に磁束を用いた磁束制御運転を用いることができる。この制御では、同期回転機に印加されている磁束を推定し、指令磁束と推定された推定磁束との差(ベクトル差)が大きい程、同期回転機に大きな電圧を印加する。
【0014】
また、同期回転機の安定した始動方法として、電流制御を利用した電流同期運転が知られている。
【0015】
これらを組み合わせた制御として、特許文献1には、電流同期運転(始動時)から磁束制御運転(高速回転時)への切り替え時に生じる電圧サージの抑制方法が提案されている。
【0016】
一方で、上記電圧サージをさらに抑制することが望まれている。
【0017】
そこで発明者らは、上記電圧サージをさらに抑制すべく、鋭意実験、検討を重ねた。その結果、発明者らは、指令磁束の振幅を目標磁束の振幅と一致させるフィードバック制御を構成し、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時において、切り替え前の電流同期運転時に推定された推定磁束を指令磁束の初期値として設定するフィードバック制御を行うことで、上記サージ電圧をさらに抑制することができるとの知見を得た。
【0018】
また、発明者らは、推定磁束の位相が移動するべき制御周期毎の移動量を、指令速度を用いて特定し、特定した移動量と推定磁束の位相とを用いて指令磁束の位相を特定し、特定した指令磁束の位相に基づいて磁束制御を行う磁束同期運転を介挿することで、上記サージ電圧をさらに抑制することができるとの知見を得た。
【0019】
また、発明者らは、推定磁束と同期回転機の検出電流との第1内積、又は、磁石磁束と同期回転機の検出電流との第2内積を求めることで無効電力成分を算出し、算出した無効電力成分の絶対値が所定値以下となるタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へ切り替えることで、切り替え時の実トルクが負荷トルクを下回ってしまうことを抑制することができるようになるため、切り替え後の磁束制御運転における脱調を抑制することができるとの知見を得た。
【0020】
また、発明者らは、同期回転機の誘起電圧が十分高くなったタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へ切り替えることで、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになるため、切り替え後の磁束制御運転における脱調を抑制することができるとの知見を得た。
【0021】
これら知見を基に、発明者らは、さらに実験、検討を重ねて、下記回転機制御装置に想到した。
【0022】
本開示の一態様に係る回転機制御装置は、同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を用いたフィードバック制御を実行することによって指令磁束の振幅である指令振幅を生成する指令振幅特定部と、前記指令振幅により前記指令磁束を生成する指令磁束特定部と、前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が前記指令磁束特定部で生成された前記指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、を備え、前記磁束推定部は、前記切り替え部が前記磁束制御運転への切り替えを制御する際に、前記磁束制御運転への切り替え前の前記推定磁束の振幅を、前記磁束制御運転への切り替え直後の前記指令振幅の初期値として前記フィードバック制御に与える。
【0023】
上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時において、磁束制御運転の切り替え前の推定磁束の振幅を、切り替え後の指令磁束の振幅である指令振幅に一致させることができる。
【0024】
このため、上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時に生じる電圧サージを抑制することができる。
【0025】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0026】
また、さらに、前記検出電流と前記推定磁束とより推定トルクを演算するトルク推定部と、前記推定トルクを指令トルクに収束させるためのトルク位相を演算する指令位相特定部と、を備え、前記指令磁束特定部は、前記指令振幅、及び、前記推定磁束の位相から前記指令位相特定部で演算された前記トルク位相を用いて前記指令磁束を生成し、前記回転機制御装置は、前記磁束制御運転として、前記指令磁束に基づいて実行される位置センサレス磁束制御運転を実施するとしてもよい。
【0027】
これにより、磁束制御運転として、位置センサレス磁束制御運転を実施することができる。
【0028】
また、前記指令磁束特定部は、(1)前記推定磁束の位相が移動するべき制御周期毎の移動量を、前記同期回転機への指令速度を用いて特定し、(2)特定された前記移動量と前記推定磁束の位相とを用いて指令磁束ベクトル位相を特定し、前記回転機制御装置は、前記指令磁束ベクトル位相に基づいて、前記磁束制御運転として、磁束同期運転を実施するとしてもよい。
【0029】
これにより、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時において、磁束制御運転の切り替え前の推定磁束の位相を、切り替え後の指令磁束の位相に一致させることができる。
【0030】
このため、上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時に生じる電圧サージをさらに抑制することができる。
【0031】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0032】
また、前記回転機制御装置が、前記電流同期運転から前記位置センサレス磁束制御運転に移行する際に、前記指令磁束特定部は、(1)前記推定磁束の位相が移動するべき制御周期毎の移動量を、前記同期回転機への指令速度を用いて特定し、(2)特定された前記移動量と前記推定磁束の位相とを用いて指令磁束ベクトル位相を特定し、前記回転機制御装置は、(3)前記指令磁束ベクトル位相に基づいて、前記磁束制御運転として実施する磁束同期運転を介挿するとしてもよい。
【0033】
これにより、電流同期運転から位置センサレス磁束制御運転に切り替える際に、指令磁束の振幅の変動と位相の変動とが一度に生じることが抑制される。
【0034】
このため、上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転から位置センサレス磁束制御運転への切り替え時に生じる電圧サージをさらに抑制することができる。
【0035】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0036】
また、前記指令振幅特定部は、前記第1内積又は前記第2内積の演算結果の目標値として、ゼロ以上に設定するとしてもよい。
【0037】
これにより、同期回転機の永久磁石の磁石磁束の方向の界磁磁束を発生させる電流を流すことができる。このため、永久磁石を増磁させる効果と等価な効果が得られる。
【0038】
また、前記第1内積又は前記第2内積を演算する誤差変数特定部をさらに備え、前記切り替え部は、前記電流同期運転を行っている際に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が所定値以下になった場合、又は、前記電流同期運転の開始時から、予め決められた前記同期回転機の加速レートと切り替え回転数とによって求められる第1所定期間が経過した場合に、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行うとしてもよい。
【0039】
上記構成の回転機制御装置によると、第1内積又は第2内積により求まる無効電力成分の絶対値が所定値以下となるタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へと切り替えることができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、切り替え時の実トルクが負荷トルクを下回ってしまうことが抑制される。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0040】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0041】
または、上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転の開始時から第1所定時間が経過することで、同期回転機の誘起電圧が、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができる電圧にまで上昇したタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へと切り替えることができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになる。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0042】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0043】
また、前記所定値はゼロであるとしてもよい。
【0044】
無効電力成分の絶対値がゼロのタイミングで、実トルクが最大となる。
【0045】
このため、さらに効果的に、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性を改善することができる。
【0046】
また、前記切り替え部は、前記電流同期運転の開始時から、前記第1所定期間よりも短い第2所定期間以内に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下となった場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを禁止するとしてもよい。
【0047】
無効電力成分の絶対値が所定値以下となった場合であっても、同期回転機の誘起電圧が十分に上昇していないときには、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができないことがある。
【0048】
上記構成の回転機制御装置によると、無効電力成分の絶対値が所定値以下となった場合であっても、同期回転機の誘起電圧が十分に上昇していないときには、電流同期運転から磁束制御運転への切り替えを禁止することができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、同期回転機の誘起電圧が十分に上昇していないことに起因する、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができない現象の発生を抑制することができるようになるため、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになる。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0049】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0050】
また、前記切り替え部は、前記電流同期運転の実施中に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下とならず、かつ、前記第1所定期間が経過した場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行うとしてもよい。
【0051】
上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転の開始時から第1所定時間が経過することで、同期回転機の誘起電圧が、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができる電圧にまで上昇したタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へと切り替えることができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになる。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0052】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0053】
本開示の一態様に係る回転機制御装置は、同期回転機の磁束である回転機磁束を推定する磁束推定部と、推定された前記回転機磁束である推定磁束と前記同期回転機の検出電流との第1内積、又は、前記同期回転機の永久磁石の推定された磁石磁束と前記検出電流との第2内積、を演算する誤差変数特定部と、前記推定磁束の位相によらず、前記同期回転機を起動させるのに必要な所定の同期電流を前記同期回転機に供給する電流同期運転から、前記推定磁束が指令磁束となるように制御する磁束制御運転への切り替えを制御する切り替え部と、を備え、前記切り替え部は、前記電流同期運転を行っている際に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が所定値以下になった場合、又は、前記電流同期運転の開始時から、予め決められた前記同期回転機の加速レートと切り替え回転数とによって求められる第1所定期間が経過した場合に、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行う。
【0054】
上記構成の回転機制御装置によると、第1内積又は第2内積により求まる無効電力成分の絶対値が所定値以下となるタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へと切り替えることができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、切り替え時の実トルクが負荷トルクを下回ってしまうことが抑制される。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調を抑制される。
【0055】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0056】
または、上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転の開始時から第1所定時間が経過することで、同期回転機の誘起電圧が、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができる電圧にまで上昇したタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へと切り替えることができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになる。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0057】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0058】
また、前記所定値はゼロであるとしてもよい。
【0059】
無効電力成分の絶対値がゼロのタイミングで、実トルクが最大となる。
【0060】
このため、さらに効果的に、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性を改善することができる。
【0061】
また、前記切り替え部は、前記電流同期運転の開始時から、前記第1所定期間よりも短い第2所定期間以内に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下となった場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを禁止するとしてもよい。
【0062】
無効電力成分の絶対値が所定値以下となった場合であっても、同期回転機の誘起電圧が十分に上昇していないときには、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができないことがある。
【0063】
上記構成の回転機制御装置によると、無効電力成分の絶対値が所定値以下となった場合であっても、同期回転機の誘起電圧が十分に上昇していないときには、電流同期運転から磁束制御運転への切り替えを禁止することができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、同期回転機の誘起電圧が十分に上昇していないことに起因する、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができない現象の発生を抑制することができるようになるため、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになる。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0064】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0065】
また、前記切り替え部は、前記電流同期運転の実施中に前記誤差変数特定部で求められた前記第1内積又は前記第2内積の絶対値が前記所定値以下とならず、かつ、前記第1所定期間が経過した場合、前記電流同期運転から前記磁束制御運転への切り替えを行うとしてもよい。
【0066】
上記構成の回転機制御装置によると、電流同期運転の開始時から第1所定時間が経過することで、同期回転機の誘起電圧が、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができる電圧にまで上昇したタイミングで電流同期運転から磁束制御運転へと切り替えることができる。このため、上記構成の回転機制御装置によると、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになる。これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0067】
したがって、上記構成の回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0068】
以下、本開示の一態様に係る回転機制御装置の具体例について、図面を参照しながら説明する。ここで示す実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。従って、以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ならびに、ステップ(工程)およびステップの順序等は、一例であって本開示を限定する趣旨ではない。また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0069】
なお、本開示の包括的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0070】
(実施の形態1)
図1に示すように、回転機制御装置100は、第1電流センサ105a、第2電流センサ105b、電流同期制御部131、位置センサレス制御部134、切り替え部133及びデューティ生成部103を備えている。回転機制御装置100は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータ104及び同期回転機102に接続される。
【0071】
電流同期制御部131は、同期回転機102の電流同期運転を実行するように構成されている。位置センサレス制御部134は、同期回転機102の位置センサレス磁束制御運転を実行するように構成されている。電流同期運転は、同期回転機102に印加される回転機電流の回転速度(同期速度)に同期回転機102のロータの回転速度(回転数)を確実に一致させるための運転である。本実施の形態1では、位置センサレス磁束制御運転が実行されている期間においても、同期回転機102のロータの回転速度が同期速度に一致する。位置センサレス磁束制御運転は、エンコーダ、レゾルバ等の位置センサを用いない運転である。ただし、本実施の形態1では、電流同期運転が実行されている期間においても、位置センサは用いられない。本明細書では、説明の便宜上、推定された回転機磁束の位相を用いることなく回転機電流を制御する運転を電流同期運転と称する。推定された回転機磁束の位相を用いて回転機磁束を制御する運転を磁束制御運転と称する。回転機磁束は、同期回転機102に印加されている3相交流座標上の電機子鎖交磁束と、この電機子鎖交磁束を座標変換することにより得た磁束の両方を含む概念である。本明細書では、「振幅」は、単に大きさ(絶対値)を指す場合がある。
【0072】
回転機制御装置100の一部又は全部の要素は、DSP(Digital Signal Processor)又はマイクロコンピュータにおいて実行される制御アプリケーションによって提供され得る。DSP又はマイクロコンピュータは、コア、メモリ、A/D変換回路及び通信ポート等の周辺装置を含んでいてもよい。また、回転機制御装置100の一部又は全部の要素は、論理回路によって構成されていてもよい。
【0073】
(回転機制御装置100による制御の概要)
回転機制御装置100は、指令速度ωref *及び相電流iu,iwから、デューティDu,Dv,Dwを生成する。PWMインバータ104によって、デューティDu,Dv,Dwから、同期回転機102に印加するべき電圧ベクトルvu,vv,vwが生成される。指令速度ωref *は、上位制御装置から回転機制御装置100に与えられる。指令速度ωref *は、同期回転機102が追従するべき速度を表す。
【0074】
図1を参照しながら、回転機制御装置100の動作の概要を説明する。電流センサ105a,105b(第1電流センサ105a、第2電流センサ105b)によって、相電流iu,iwが検出される。電流同期運転を実行しているときは、電流同期制御部131によって、指令速度ωref *及び相電流iu,iwから、指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *が生成される。指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *の各成分は、それぞれ3相交流座標上のU相電圧、V相電圧及びW相電圧に対応する。位置センサレス磁束制御運転を実行しているときは、位置センサレス制御部134によって、指令速度ωref *及び相電流iu,iwから、指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *が生成される。指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *の各成分は、それぞれ3相交流座標上のU相電圧、V相電圧及びW相電圧に対応する。電流同期運転を実行しているときは、切り替え部133によって、指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *が、指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *として選択され、出力される。位置センサレス磁束制御運転を実行しているときは、切り替え部133によって、指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *が、指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *として選択され、出力される。デューティ生成部103によって、指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *から、デューティDu,Dv,Dwが生成される。デューティDu,Dv,Dwは、PWMインバータ104に入力される。このような制御により、同期回転機102は、速度が指令速度ωref *に追従するように制御される。
【0075】
以下では、d-q座標(第1の2相座標)に基づいて回転機制御装置100を説明することがある。また、α-β座標(第2の2相座標)に基づいて回転機制御装置100を説明することもある。図2に、d-q座標及びα-β座標を示す。α-β座標は、固定座標である。α-β座標は、静止座標とも交流座標とも称される。α軸は、U軸(図2では省略)と同一方向に延びる軸として設定される。d-q座標は、回転座標である。θは、U軸からみたd軸の進み角である。θは、ロータ位置とも称される。
【0076】
(電流同期制御部131による制御の概要)
電流同期制御部131は、回転機磁束の位相によらず、同期回転機102を起動させるのに必要な同期電流を同期回転機102に供給する電流同期運転を実行する。
【0077】
図3に示すように、電流同期制御部131は、同期電流指令部124、電圧指令特定部(第1の電圧指令特定部)125、d,q/u,v,w変換部(第1の2相3相座標変換部)126、u,w/d,q変換部(第1の3相2相座標変換部)127及び積分器128を備えている。
【0078】
電流同期制御部131では、積分器128によって、指令速度ωref *からロータ位置θが特定される。ロータ位置θは、同期回転機102のロータの位置を表す。ロータ位置θは、回転子の永久磁石の位相に対応する。u,w/d,q変換部127によって、相電流iu,iwが軸電流id,iq(第1の軸電流)に変換される。この変換では、ロータ位置θが用いられる。軸電流id,iqは、同期回転機102のd-q座標上におけるd軸電流id及びq軸電流iqをまとめて記載したものである。同期電流指令部124によって、指令軸電流id *,iq *が生成される。指令軸電流id *,iq *は、軸電流id,iqが追従するべき軸電流である。指令軸電流id *,iq *は、同期回転機102のd-q座標上におけるd軸指令軸電流id *及びq軸指令軸電流iq *をまとめて記載したものである。電圧指令特定部125によって、指令軸電流id *,iq *及び軸電流id,iqから、指令軸電圧vd *,vq *(第1の軸電圧)を生成する。指令軸電圧vd *,vq *は、同期回転機102のd-q座標上におけるd軸指令軸電圧vd *及びq軸指令軸電圧vq *をまとめて記載したものである。d,q/u,v,w変換部126によって、指令軸電圧vd *,vq *が指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *に変換される。この変換では、ロータ位置θが用いられる。電流同期運転においては、このような制御により、速度が指令速度ωref *に追従し、軸電流id,iqが指令軸電流id *,iq *に追従する。
【0079】
(位置センサレス制御部134による制御の概要)
位置センサレス制御部134は、回転機磁束の振幅が目標振幅へと収束するように指令振幅を設定する位置センサレス磁束制御運転を実行する。位置センサレス磁束制御運転は、磁束推定部108(後述)に基づいて推定された回転機磁束の位相(推定位相θs)から求められる指令位相θs *を参照しながら実行される。目標振幅は、回転機磁束の振幅が最終的に到達するべき振幅である。指令振幅は、回転機磁束の振幅が追従するべき振幅である。
【0080】
図4に示すように、位置センサレス制御部134は、u,w/α,β変換部(第2の3相2相座標変換部)106、電圧指令特定部(第2の電圧指令特定部)107、磁束推定部108、トルク推定部109、位相・速度推定部117、トルク指令特定部116、指令位相特定部118、指令振幅特定部115、目標値設定部119、誤差変数特定部111、指令磁束特定部112、α軸磁束偏差演算部113a、β軸磁束偏差演算部113b及びα,β/u,v,w変換部(第2の2相3相座標変換部)114を備えている。
【0081】
位置センサレス制御部134では、u,w/α,β変換部106によって、相電流iu,iwが、軸電流iα,iβ(第2の軸電流)に変換される。軸電流iα,iβは、同期回転機102のα-β座標上におけるα軸電流iα及びβ軸電流iβをまとめて記載したものである。磁束推定部108によって、回転機磁束が推定される(推定磁束Ψsが求められる)。推定磁束Ψsのα軸成分及びβ軸成分をそれぞれ推定磁束Ψα,Ψβと記載する。位相・速度推定部117によって、推定磁束Ψsから、同期回転機102の速度及び回転機磁束の位相が推定される(推定速度(回転数)ωr及び推定磁束Ψsの推定位相θsが求められる)。トルク推定部109によって、推定磁束Ψs及び軸電流iα,iβから、モータトルクが推定される(推定トルクTeが求められる)。トルク指令特定部116によって、推定速度ωr及び指令速度(回転数)ωref *から、指令トルクTe *が生成される。指令トルクTe *は、モータトルクが追従するべきトルクを表す。誤差変数特定部111によって、推定磁束Ψs及び軸電流iα,iβから、無効電力成分を示す誤差変数εが生成される。目標値設定部119によって、誤差変数εの目標値が設定される。指令振幅特定部115によって、誤差変数εを用いたフィードバック制御を実行することで、指令振幅|Ψs *|が生成される。ここで、後述の切り替え部133が、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを制御する際に、磁束推定部108によって、磁束制御運転への切り替え前の推定磁束の振幅|Ψs|が、磁束制御運転への切り替え直後の指令振幅|Ψs *|の初期値として、上記フィードバック制御に与えられる。指令位相特定部118によって、推定磁束Ψsの推定位相θs、指令トルクTe *及び推定トルクTeから指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *が求められる。指令磁束特定部112によって、指令振幅|Ψs *|と指令位相θs *とから、指令磁束ベクトルΨs *が求められる。指令磁束ベクトルΨs *のα軸成分及びβ軸成分を、それぞれα軸指令磁束Ψα *、β軸指令磁束Ψβ *と記載する。α軸磁束偏差演算部113aによって、α軸指令磁束Ψα *と推定磁束Ψαとの偏差(磁束偏差)ΔΨαが求められる。β軸磁束偏差演算部113bによって、β軸指令磁束Ψβ *と推定磁束Ψβとの偏差(磁束偏差)ΔΨβが求められる。電圧指令特定部107によって、磁束偏差ΔΨα,ΔΨβ及び軸電流iα,iβから、指令軸電圧vα *,vβ *(第2の軸電圧)が求められる。指令軸電圧vα *,vβ *は、同期回転機102のα-β座標上におけるα軸指令軸電圧vα *及びβ軸指令軸電圧vβ *をまとめて記載したものである。α,β/u,v,w変換部114によって、指令軸電圧vα *,vβ *が、指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *に変換される。
【0082】
位置センサレス磁束制御運転においては、このような制御により、モータトルクが指令トルクTe *に追従し、回転機磁束が指令磁束ベクトルΨs *に追従する。その結果、速度が指令速度ωref *に追従する。上述のように、「位置センサレス制御部134は、回転機磁束の振幅が目標振幅へと収束するように、指令振幅を設定する位置センサレス磁束制御運転を実行する」と表現する場合、「目標振幅」は、指令振幅|Ψs *|に対応する。これを考慮して、以下では、指令振幅|Ψs *|を目標振幅|Ψs *|と称することがある。
【0083】
位置センサレス磁束制御運転を実行しているときは、図4に示すように、磁束推定部108を用いて、軸電流iα,iβ及び指令軸電圧vα *,vβ *から、推定磁束Ψsを求める。また、電流同期運転を実行しているときは、軸電流iα,iβ及び指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *に基づいて、磁束推定部108を用いて、推定磁束Ψsを求める。具体的には、図5に示すように、u,v,w/α,β変換部(第3の2相3相座標変換部)150を用いて、指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *を、参照用軸電圧vα’,vβ’に変換する。その後、磁束推定部108によって、軸電流iα,iβ及び参照用軸電圧vα’,vβ’から、推定磁束Ψsを求める。
【0084】
「同期電流を同期回転機102に供給する電流同期運転」は、電流同期運転において指令軸電流を用いることが必須であることを趣旨とする表現ではない。指令軸電流を用いずに同期運転を実行することもできる。例えば、指令軸電圧を用いた電圧同期運転を行えばよい。この場合の同期運転の詳細は、当業者にとって自明であるため、説明を省略する。また、本実施の形態1の電流同期運転では、指令トルクTe *ではない指令が用いられる。そして、位置センサレス磁束制御運転へと切り替わると、指令トルクTe *を用いた制御が開始される。
【0085】
本明細書では、軸電流id,iqは、実際に同期回転機102を流れる電流ではなく、情報として伝達される電流値を意味する。指令軸電流id *,iq *、指令軸電圧vd *,vq *、指令速度ωref *、ロータ位置θ及び指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *も情報として伝達される値を意味する。軸電流iα,iβ、指令軸電圧vα *,vβ *、推定磁束Ψs、推定位相θs、推定トルクTe、指令トルクTe *、指令振幅|Ψs *|(目標振幅|Ψs *|)、指令磁束ベクトルΨs *、指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *、指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *等も同様である。
【0086】
図3に示す電流同期制御部131の構成要素について、以下で説明する。
【0087】
(積分器128)
積分器128は、指令速度ωref *を取得し、指令速度ωref *を積算(積分)する。このようにして、積分器128は、ロータ位置θを求める。具体的に、積分器128は、式(1)によりロータ位置θを計算する。sは、ラプラス演算子である。積分器128は、公知の積分器である。
【0088】
【数1】
【0089】
(u,w/d,q変換部127)
u,w/d,q変換部127は、ロータ位置θを取得し、ロータ位置θを用いて相電流iu,iwを軸電流id,iqに変換する。具体的に、u,w/d,q変換部127は、式(2)及び(3)により相電流iu,iwを軸電流id,iqに変換して、軸電流id,iqを出力する。
【0090】
【数2】
【0091】
【数3】
【0092】
(同期電流指令部124)
同期電流指令部124は、指令軸電流id *,iq *を生成し、指令軸電流id *,iq *を出力する。指令軸電流id *,iq *は、同期回転機102に供給するべき同期電流に対応する。本実施の形態1では、指令軸電流id *,iq *は、予め定められた電流である。また、指令軸電流id *,iq *は、大きさが一定の電流である。なお、指令軸電流id *,iq *は、通常は一定であるが、可変するようにしてもよい。本実施の形態1では、d軸指令軸電流id *はゼロである。具体的に、同期電流指令部124は、式(4)により指令軸電流id *,iq *を生成し、指令軸電流id *,iq *を出力する。
【0093】
【数4】
【0094】
(電圧指令特定部125)
電圧指令特定部125は、軸電流id,iq及び指令軸電流id *,iq *から、指令軸電圧vd *,vq *を生成する。指令軸電圧vd *,vq *は、軸電流id,iqが指令軸電流id *,iq *に追従するように特定される。具体的に、電圧指令特定部125は、式(5)及び(6)により指令軸電圧vd *,vq *を生成し、出力する。式(5)及び(6)におけるKcdP及びKcqPは比例ゲインである。KcdI及びKcqIは積分ゲインである。電圧指令特定部125は、公知のPI補償器である。
【0095】
【数5】
【0096】
【数6】
【0097】
(d,q/u,v,w変換部126)
d,q/u,v,w変換部126は、ロータ位置θを用いて、指令軸電圧vd *,vq *を指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *に変換する。具体的に、d,q/u,v,w変換部126は、式(7)により指令軸電圧vd *,vq *を指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *に変換して、指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *を出力する。
【0098】
【数7】
【0099】
なお、積分器128によって指令速度ωref *を積算する以外の方法でロータ位置θが得られるように、電流同期制御部131を構成することもできる。ロータ位置θは、外部から与えられる値であってもよい。例えば、上位制御装置から、ロータ位置θを電流同期制御部131に与えることができる。
【0100】
図4に示す位置センサレス制御部134の構成要素について、以下で説明する。
【0101】
(u,w/α,β変換部106)
u,w/α,β変換部106は、相電流iu,iwを軸電流iα,iβに変換する。具体的に、u,w/α,β変換部106は、式(8)、(9)により、相電流iu,iwを軸電流iα,iβに変換して、軸電流iα,iβを出力する。
【0102】
【数8】
【0103】
【数9】
【0104】
(磁束推定部108)
磁束推定部108は、位置センサレス磁束制御運転を実行しているときは、軸電流iα,iβ及び指令軸電圧vα *,vβ *から、推定磁束Ψs(推定磁束Ψα,Ψβ)を求める。具体的に、磁束推定部108は、式(10)、(11)及び(12)を用いて、推定磁束Ψα,Ψβ、及び推定磁束Ψsの絶対値|Ψs|を求める。式(10)及び(11)におけるΨα|t=0、Ψβ|t=0は、それぞれ推定磁束Ψα,Ψβの初期値である。式(10)及び(11)におけるRは、同期回転機102の巻線抵抗である。磁束推定部108がDSP、マイクロコンピュータ等のディジタル制御装置に組み込まれている場合は、式(10)及び(11)における演算のために必要となる積分器は離散系で構成され得る。この場合には、1制御周期前における推定磁束Ψα,Ψβに、現在の制御周期に由来する値を加減算すればよい。
【0105】
【数10】
【0106】
【数11】
【0107】
【数12】
【0108】
磁束推定部108は、電流同期運転を実行しているときにも用いられる。この場合、磁束推定部108は、u,v,w/α,β変換部150(図5)と協働して、軸電流iα,iβ及び指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *に基づいて、推定磁束Ψα,Ψβを求める。具体的には、u,v,w/α,β変換部150は、式(13)及び(14)を用いて、指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *を参照用軸電圧vα’,vβ’に変換する。磁束推定部108は、軸電流iα,iβ及び参照用軸電圧vα’,vβ’から、推定磁束Ψα,Ψβを求める。推定磁束Ψα,Ψβを求める際には、式(10)及び(11)の指令軸電圧vα *,vβ *が参照用軸電圧vα’,vβ’に置き換えられた式が用いられる。軸電流iα,iβは、位置センサレス磁束制御運転を実行しているときと同様、電流センサ105a,105b(第1電流センサ105a、第2電流センサ105b)及びu,w/α,β変換部106から特定される。
【0109】
【数13】
【0110】
【数14】
【0111】
(トルク推定部109)
トルク推定部109は、軸電流iα,iβ及び推定磁束Ψs(推定磁束Ψα,Ψβ)から推定トルクTeを求める。具体的に、トルク推定部109は、式(15)を用いて、推定トルクTeを求める。式(15)におけるPnは、同期回転機102の極対数である。
【0112】
【数15】
【0113】
(位相・速度推定部117)
位相・速度推定部117は、推定磁束Ψs(推定磁束Ψα,Ψβ)から推定磁束Ψsの推定位相θsを求める。具体的に、位相・速度推定部117は、式(16)により、推定磁束Ψsの推定位相θsを求める。また、位相・速度推定部117は、現在の制御周期において求めた推定位相θs(n)と、前回の制御周期において求めた推定位相θs(n-1)とを用いて、式(17)により、推定速度ωrを求める。位相・速度推定部117は、公知の位相推定器である。ここで、Tsは本制御における制御周期(サンプリング周期)を意味する。nは、タイムステップである。
【0114】
【数16】
【0115】
【数17】
【0116】
(トルク指令特定部116)
トルク指令特定部116は、指令速度ωref *及び推定速度ωrから、指令トルクTe *を求める。具体的に、トルク指令特定部116は、式(18)により、指令トルクTe *を求める。式(18)におけるKsPは比例ゲインである。KsIは積分ゲインである。トルク指令特定部116は、公知のPI補償器である。
【0117】
【数18】
【0118】
(誤差変数特定部111)
誤差変数特定部111は、仮想インダクタンス(同期回転機102のインダクタンス)Lmと軸電流iα,iβと推定磁束Ψs(推定磁束Ψα,Ψβ)とから、無効電力成分を示す誤差変数εを演算する。具体的には、まず、電機子反作用磁束を推定する(推定電機子反作用磁束Lmiaを求める)。推定電機子反作用磁束Lmiaのα軸成分及びβ軸成分を、それぞれ推定電機子反作用磁束Lmiα、推定電機子反作用磁束Lmiβと記載する。推定電機子反作用磁束Lmiα、推定電機子反作用磁束Lmiβは、仮想インダクタンスLmと、軸電流iα,iβとの積である。次に、推定磁束Ψs(推定磁束Ψα,Ψβ)及び推定電機子反作用磁束Lmia(推定電機子反作用磁束Lmiα,Lmiβ)から、同期回転機102の永久磁石の推定された磁石磁束を推定する(推定磁石磁束Ψ´a eを求める)。推定磁石磁束Ψ´a eのα軸成分及びβ軸成分を、それぞれ推定磁石磁束Ψ´a eα,Ψ´a eβと記載する。具体的には、式(19)及び(20)に示すように、推定磁束Ψα,Ψβから推定電機子反作用磁束Lmiα,Lmiβを減じることにより推定磁石磁束Ψ´a eα,Ψ´a eβを求める。次に、推定磁石磁束Ψ´a eα,Ψ´a eβ と軸電流iα,iβとから誤差変数εを式(21)のように計算する。
【0119】
【数19】
【0120】
【数20】
【0121】
【数21】
【0122】
式(21)、図6Aに示すように、誤差変数特定部111は、誤差変数εとして、同期回転機102の永久磁石の推定された磁石磁束Ψ´と同期回転機102の検出電流iとの内積(第2内積)を演算する。
【0123】
なお、誤差変数εは、同期回転機102の推定磁束Ψと同期回転機102の検出電流iとの内積(第1内積)を演算することでも求めることができる。
【0124】
このため、誤差変数特定部111は、式(22)、図6Bに示すように、誤差変数εとして、上記第2内積の替わりに、同期回転機102の推定磁束Ψと同期回転機102の検出電流iとの内積(第1内積)を演算する構成であってもよい。
【0125】
【数22】
【0126】
(目標値設定部119)
目標値設定部119は、誤差変数εの目標値、すなわち、第1内積又は第2内積の演算結果の目標値ε*を設定する。ここでは、目標値設定部119は、第1内積又は第2内積の演算結果の目標値として、ゼロ以下に設定する。ただし、最高回転数の10%以下のような定速領域においては、正の値に設定してもよい。正の値に設定すれば、同期回転機102の永久磁石の磁石磁束の方向の界磁磁束を発生させる電流を流すことができる。このため、永久磁石を増磁させる効果と等価な効果が得られる。
【0127】
なお、ε*の最大値は、永久磁石の磁石磁束の方向に発生する界磁磁束が、永久磁石の磁石磁束の30%未満になる値であることが望ましい。
【0128】
(指令振幅特定部115)
指令振幅特定部115は、誤差変数εを用いたフィードバック制御を実行することで、指令振幅|Ψs *|を生成する。
【0129】
図7に示すように、指令振幅特定部115は、減算器142と、Pゲイン143と、Iゲイン145と、積分器146と、加算器144とを有している。
【0130】
積分器146には、積分の初期値として、磁束推定部108から、推定磁束Ψsの絶対値|Ψs|が与えられる。この構成により、後述の切り替え部133が、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを制御する際に、磁束推定部108によって、磁束制御運転への切り替え前の推定磁束の振幅|Ψs|が、磁束制御運転への切り替え直後の指令振幅|Ψs *|の初期値として、上記フィードバック制御に与えられる。
【0131】
(指令位相特定部118)
指令位相特定部118は、推定磁束Ψsの推定位相θs、指令トルクTe *及び推定トルクTeから、指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する。
【0132】
(指令磁束特定部112)
指令磁束特定部112は、指令振幅|Ψs *|及び指令位相θs *から、指令磁束ベクトルΨs *(指令磁束Ψα *,Ψβ *)を求める。具体的には、式(23)及び(24)を用いて、指令磁束Ψα *,Ψβ *を求める。
【0133】
【数23】
【0134】
【数24】
【0135】
(α軸磁束偏差演算部113a、β軸磁束偏差演算部113b)
α軸磁束偏差演算部113aは、指令振幅Ψα *と推定磁束Ψαを取得し、これらの偏差(磁束偏差ΔΨα:Ψα *-Ψα)を求める。β軸磁束偏差演算部113bは、指令振幅Ψβ *と推定磁束Ψβを取得し、これらの偏差(磁束偏差ΔΨβ:Ψβ *-Ψβ)を求める。α軸磁束偏差演算部113a,β軸磁束偏差演算部113bとしては、公知の演算子を用いればよい。
【0136】
(電圧指令特定部107)
電圧指令特定部107は、磁束偏差ΔΨα,ΔΨβ及び軸電流iα,iβから、指令軸電圧vα *,vβ *を求める。具体的に、電圧指令特定部107は、式(25)を用いて、α軸指令軸電圧vα *を求める。また、電圧指令特定部107は、式(26)を用いて、β軸指令軸電圧vβ *を求める。
【0137】
【数25】
【0138】
【数26】
【0139】
(α,β/u,v,w変換部114)
α,β/u,v,w変換部114は、指令軸電圧vα *,vβ *を、指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *に変換する。具体的に、α,β/u,v,w変換部114は、式(27)により、指令軸電圧vα *,vβ *を指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *に変換して、指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *を出力する。
【0140】
【数27】
【0141】
図1に戻って、回転機制御装置100の残りの構成要素及び回転機制御装置100に接続される構成要素について、以下で説明する。
【0142】
(第1電流センサ105a、第2電流センサ105b)
第1電流センサ105a及び第2電流センサ105bとして、公知の電流センサを用いることができる。本実施の形態1では、第1電流センサ105aは、u相を流れる相電流iuを測定するように設けられている。第2電流センサ105bは、w相を流れる相電流iwを測定するように設けられている。ただし、第1電流センサ105a及び第2電流センサ105bは、u相及びw相の2相以外の組み合わせの2相の電流を測定するように設けられていてもよい。
【0143】
(切り替え部133)
切り替え部133は、指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *及び指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *の一方を選択し、選択した一方を指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *として出力する。つまり、切り替え部133は、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを制御する。切り替え部133は、例えばアナログスイッチ、マルチプレクサ等である。なお、切り替え部133は、マイクロコンピュータ内部のソフトウエアにより構成されてもよい。図8に、切り替え部133の構成図を示す。
【0144】
(デューティ生成部103)
デューティ生成部103は、指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *から、デューティDu,Dv,Dwを生成する。本実施の形態1では、デューティ生成部103は、指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *の各成分を、各相のデューティDu,Dv,Dwに変換する。デューティDu,Dv,Dwの生成方法としては、一般的な電圧形PWMインバータに用いられる方法を用いればよい。例えば、デューティDu,Dv,Dwは、指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *を、後述のPWMインバータ104の直流電源の電圧値Vdcの半分の値で除すことにより求めてもよい。この場合、デューティDuは、2×vu */Vdcである。デューティDvは、2×vv */Vdcである。デューティDwは、2×vw */Vdcである。デューティ生成部103は、デューティDu,Dv,Dwを出力する。
【0145】
(PWMインバータ104)
PWMインバータ104は、直流電源と変換回路とを有し、変換回路が、PWM制御によって直流電圧を電圧ベクトルvu,vv,vwに変換する。PWMインバータ104は、変換した電圧ベクトルvu,vv,vwを、同期回転機102に印加する。
【0146】
(同期回転機102)
同期回転機102は、回転機制御装置100の制御対象である。同期回転機102には、PWMインバータ104によって、電圧ベクトルが印加される。「同期回転機102に電圧ベクトルが印加される」とは、同期回転機102における3相交流座標上の3相(U相、V相、W相)の各々に電圧が印加されることを指す。本実施の形態1では、3相(U相、V相、W相)の各々が、相対的に高電圧を有する高電圧相と、相対的に低電圧を有する低電圧相との2種類から選択されるいずれかとなるように、同期回転機102が制御される。
【0147】
同期回転機102は、例えば、永久磁石同期モータである。永久磁石同期モータとしては、IPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)及びSPMSM(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)が挙げられる。IPMSMは、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとが相違する突極性(一般には、Lq>Ldの逆突極性)を有し、マグネットトルクに加えてリラクタンストルクも利用できる。このため、IPMSMの駆動効率は極めて高い。同期回転機102としては、シンクロナスリラクタンスモータを用いることもできる。
【0148】
(考察)
上述したように、回転機制御装置100において、位置センサレス制御部134の指令振幅特定部115は、誤差変数εを用いたフィードバック制御を実行することで、指令振幅|Ψs *|を生成する。この際、指令振幅特定部115の積分器146には、積分の初期値として、磁束推定部108から、推定磁束Ψsの絶対値|Ψs|が与えられる。この構成により、切り替え部133が、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを制御する際に、磁束推定部108によって、磁束制御運転への切り替え前の推定磁束の振幅|Ψs|が、磁束制御運転への切り替え直後の指令振幅|Ψs *|の初期値として、上記フィードバック制御に与えられる。
【0149】
このため、上記構成の回転機制御装置100によると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時に生じる電圧サージを抑制することができる。
【0150】
したがって、上記構成の回転機制御装置100によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0151】
(実施の形態2)
以下、実施の形態1に係る回転機制御装置100の一部が変更されて構成される実施の形態2に係る回転機制御装置について説明する。ここでは、実施の形態2に係る回転機制御装置について、回転機制御装置100と同様の構成要素については、既に説明済みであるとして同じ符号を振ってその詳細な説明を省略し、回転機制御装置100との相違点を中心に説明する。
【0152】
図9は、実施の形態2に係る回転機制御装置100Aのブロック図である。
【0153】
図9に示すように、回転機制御装置100Aは、実施の形態1に係る回転機制御装置100から、位置センサレス制御部134が磁束同期制御部132に変更されて構成される。
【0154】
磁束同期制御部132は、同期回転機102の磁束同期運転を実行するように構成されている。磁束同期運転は、磁束制御運転の一種であって、推定磁束の位相が移動するべき制御周期毎の移動量を特定し、特定した移動量を用いて、指令磁束ベクトルの位相を特定する運転である。
【0155】
このため、回転機制御装置100Aは、切り替え部133によって、電流同期運転から、磁束制御運転としての磁束同期運転への切り替えが制御される。
【0156】
図10は、磁束同期制御部132のブロック図である。
【0157】
図10に示すように、磁束同期制御部132は、実施の形態1に係る位置センサレス制御部134から、指令位相特定部118が指令位相特定部218に変更され、トルク指令特定部116が削除されて構成される。
【0158】
(指令位相特定部218)
指令位相特定部218は、指令速度ωref *及び推定磁束Ψsの推定位相θsから、又は、指令速度ωref *、推定トルクTe及び推定磁束Ψsの推定位相θsから指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する。
【0159】
指令速度ωref *及び推定磁束Ψsの推定位相θsから指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する指令位相特定部218としては、例えば、図11に示す指令位相特定部218Aであってもよい。
【0160】
指令速度ωref *、推定トルクTe及び推定磁束Ψsの推定位相θsから指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する指令位相特定部218としては、例えば、図12に示す指令位相特定部218B、図13に示す指令位相特定部218C、又は、図14に示す指令位相特定部218Dであってもよい。
【0161】
図11に示すように、指令位相特定部218Aは、乗算部164と、位相加算器165とを有する。指令位相特定部218Aは、推定磁束Ψsの推定位相θsが移動するべき制御周期毎の移動量Δθsを、指令速度ωref *を用いて特定し、特定された移動量Δθsと推定磁束Ψsの推定位相θsとを用いて、指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する。
【0162】
図12に示すように、指令位相特定部218Bは、ハイパスフィルタ163と、ゲイン乗算部162と、速度偏差演算部161と、乗算部164と、位相加算器165とを有する。指令位相特定部218Bは、推定磁束Ψsの推定位相θsが移動するべき制御周期毎の移動量Δθsを、指令速度ωref *と推定トルクTeとを用いて特定し、特定された移動量Δθsと推定磁束Ψsの推定位相θsとを用いて、指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する。
【0163】
図13に示すように、指令位相特定部218Cは、乗算部164と、ハイパスフィルタ166と、符号反転部167と、PI補償部168、加算器169と、位相加算器165とを有する。指令位相特定部218Cは、推定磁束Ψsの推定位相θsが移動するべき制御周期毎の移動量Δθsを、指令速度ωref *と推定トルクTeとを用いて特定し、特定された移動量Δθsと推定磁束Ψsの推定位相θsとを用いて、指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する。
【0164】
図14に示すように、指令位相特定部218Dは、乗算部164と、ローパスフィルタ170と、減算部173と、PI補償部168と、加算器169と、位相加算器165とを有する。指令位相特定部218Dは、推定磁束Ψsの推定位相θsが移動するべき制御周期毎の移動量Δθsを、指令速度ωref *と推定トルクTeとを用いて特定し、特定された移動量Δθsと推定磁束Ψsの推定位相θsとを用いて、指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する。
【0165】
指令位相特定部218は、上記構成により、指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を推定磁束Ψsの推定位相θsに追随させることができる。
【0166】
このため、回転機制御装置100Aは、切り替え部133が、電流同期運転から磁束制御運転としての磁束同期運転への切り替えを制御する際に、磁束制御運転の切り替え前の推定磁束の推定位相を、切り替え後の指令磁束の指令位相に一致させることができる。
【0167】
(考察)
上述したように、上記構成の回転機制御装置100Aによると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時において、磁束制御運転の切り替え前の推定磁束の推定位相を、切り替え後の指令磁束の指令位相に一致させることができる。
【0168】
このため、上記構成の回転機制御装置100Aによると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え時に生じる電圧サージをさらに抑制することができる。
【0169】
(実施の形態3)
以下、実施の形態1に係る回転機制御装置100の一部が変更されて構成される実施の形態3に係る回転機制御装置について説明する。ここでは、実施の形態3に係る回転機制御装置について、回転機制御装置100と同様の構成要素については、既に説明済みであるとして同じ符号を振ってその詳細な説明を省略し、回転機制御装置100との相違点を中心に説明する。
【0170】
図15は、実施の形態3に係る回転機制御装置100Bのブロック図である。
【0171】
図15に示すように、回転機制御装置100Bは、実施の形態1に係る回転機制御装置100から、位置センサレス制御部134が磁束同期・位置センサレス制御部135に変更されて構成される。
【0172】
磁束同期・位置センサレス制御部135は、同期回転機102の磁束同期運転と位置センサレス磁束制御運転とのいずれか一方を切り替えて実行するように構成されている。
【0173】
このため、回転機制御装置100Bは、切り替え部133によって、電流同期運転から磁束制御運転への切り替えが制御され、磁束同期・位置センサレス制御部135によって、磁束制御運転としての磁束同期運転から、磁束制御運転としての位置センサレス磁束制御運転への切り替えが制御される。
【0174】
図16は、磁束同期・位置センサレス制御部135のブロック図である。
【0175】
図16に示すように、磁束同期・位置センサレス制御部135は、実施の形態1に係る位置センサレス制御部134から、指令位相特定部118が指令位相特定部318に変更されて構成される。
【0176】
(指令位相特定部318)
指令位相特定部318は、指令速度ωref *、推定トルクTe及び推定磁束Ψsの推定位相θsから指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する機能(以下、「第1の機能」とも称する)と指令速度ωref *、指令トルクTe *、推定トルクTe及び推定磁束Ψsの推定位相θsから指令磁束ベクトルΨs *の指令位相θs *を特定する機能(以下、「第2の機能」とも称する)と、を有し、これら機能の一方を切り替えて実行する。
【0177】
磁束同期・位置センサレス制御部135は、指令位相特定部318が第1の機能を実行する場合に磁束同期運転を実行し、第2の機能を実行する場合に位置センサレス磁束制御運転を実行する。
【0178】
指令位相特定部318としては、例えば、図17に示す指令位相特定部318Aであってもよいし、図18に示す指令位相特定部318Bであってもよい。
【0179】
図17に示すように、指令位相特定部318Aは、実施の形態2に係る指令位相特定部218Cから、減算部171と、切り替え部172Aとが追加されて構成される。
【0180】
切り替え部172Aは、減算部171の出力と符号反転部167の出力とのいずれか一方を選択して、PI補償部168へ出力する。
【0181】
指令位相特定部318Aは、切り替え部172Aが符号反転部167の出力を選択する場合に第1の機能を実行し、切り替え部172Aが減算部171の出力を選択する場合に第2の機能を実行する。
【0182】
切り替え部172Aは、初期状態において、符号反転部167の出力を選択している。そして、切り替え部172Aは、切り替え部133によって、電流同期運転から磁束同期運転への切り替えが制御された場合に、符号反転部167の出力の選択から、減算部171の出力の選択に切り替える。
【0183】
切り替え部133によって、電流同期運転から磁束同期運転への切り替えが制御されてから、切り替え部172Aによって、符号反転部167の出力の選択から、減算部171の出力の選択への切り替えが制御されるまでの期間は、典型的には、0.5秒である。
【0184】
図18に示すように、指令位相特定部318Bは、実施の形態2に係る指令位相特定部218Dから、切り替え部172Bが追加されて構成される。
【0185】
切り替え部172Bは、ローパスフィルタ170の出力と指令トルクTe *とのいずれか一方を選択して、減算部173へ出力する。
【0186】
指令位相特定部318Bは、切り替え部172Bがローパスフィルタ170の出力を選択する場合に第1の機能を実行し、切り替え部172Bが指令トルクTe *を選択する場合に第2の機能を実行する。
【0187】
切り替え部172Bは、初期状態において、ローパスフィルタ170の出力を選択している。そして、切り替え部172Bは、切り替え部133によって、電流同期運転から磁束同期運転への切り替えが制御された場合に、ローパスフィルタ170の出力の選択から、指令トルクTe *の選択に切り替える。
【0188】
切り替え部133によって、電流同期運転から磁束同期運転への切り替えが制御されてから、切り替え部172Aによって、ローパスフィルタ170の出力の選択から、指令トルクTe *の選択への切り替えが制御されるまでの期間は、典型的には、0.5秒である。
【0189】
指令位相特定部318の上記構成により、磁束同期・位置センサレス制御部135は、切り替え部133が、電流同期運転から磁束同期運転への切り替えが制御された場合に、磁束制御運転としての磁束同期運転から、磁束制御運転としての位置センサレス磁束制御運転への切り替えを制御する。
【0190】
このため、回転機制御装置100Bは、電流同期運転から位置センサレス磁束制御運転に移行する際に、磁束同期運転を介挿する。
【0191】
(考察)
上述したように、上記構成の回転機制御装置100Bによると、電流同期運転から位置センサレス磁束制御運転に移行する際に、磁束同期運転が介挿される。
【0192】
これにより、電流同期運転から位置センサレス磁束制御運転に切り替える際に、指令磁束の振幅の変動と位相の変動とが一度に生じることが抑制される。
【0193】
このため、上記構成の回転機制御装置100Bによると、電流同期運転から位置センサレス磁束制御運転への切り替え時に生じる電圧サージをさらに抑制することができる。
【0194】
(実施の形態4)
以下、実施の形態1に係る回転機制御装置100の一部が変更されて構成される実施の形態4に係る回転機制御装置について説明する。ここでは、実施の形態4に係る回転機制御装置について、回転機制御装置100と同様の構成要素については、既に説明済みであるとして同じ符号を振ってその詳細な説明を省略し、回転機制御装置100との相違点を中心に説明する。
【0195】
図19は、実施の形態4に係る回転機制御装置100Cのブロック図である。
【0196】
図19に示すように、回転機制御装置100Cは、実施の形態1に係る回転機制御装置100から、切り替え部133が切り替え部133Cに変更され、位置センサレス制御部134が位置センサレス制御部134Cに変更されて構成される。
【0197】
切り替え部133Cは、実施の形態1に係る切り替え部133と同様に、指令電圧ベクトルv1u *,v1v *,v1w *及び指令電圧ベクトルv2u *,v2v *,v2w *の一方を選択し、選択した一方を指令電圧ベクトルvu *,vv *,vw *として出力する。つまり、切り替え部133Cは、切り替え部133と同様に、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを制御する。
【0198】
但し、切り替え部133Cは、切り替え部133に対して、位置センサレス制御部134Cから出力される切り替え制御信号S(後述)が入力されるタイミングで、電流同期運転から磁束制御運転へ切り替えを行う機能が追加されている。つまり、切り替え部133Cは、位置センサレス制御部134Cから切り替え制御信号Sが出力されると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替えを行う。
【0199】
位置センサレス制御部134Cは、位置センサレス制御部134が有する機能と同様の機能を有し、さらに、切り替え部133Cに対して、電流同期運転から磁束制御運転へ切り替えさせる信号である切り替え制御信号Sを出力する。
【0200】
図20は、位置センサレス制御部134Cのブロック図である。
【0201】
図20に示すように、位置センサレス制御部134Cは、実施の形態1に係る位置センサレス制御部134から、運転モード切り替え判定部120が追加されて構成される。
【0202】
運転モード切り替え判定部120は、切り替え制御信号Sを出力する。
【0203】
運転モード切り替え判定部120は、例えは、誤差変数特定部111により、同期回転機102の永久磁石の推定された磁石磁束Ψ´と同期回転機102の検出電流iとの内積(第2内積)を演算することにより求められた、または、同期回転機102の推定磁束Ψと同期回転機102の検出電流iとの内積(第1内積)を演算することにより求められた、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下となった場合に、切り替え制御信号Sを出力するとしてもよい。
【0204】
図21は、dq座標系、αβ座標系、及び、γδ座標系を説明するための図である。図21は、図2で説明した座標系にγ-δ座標(第3の2相座標)を追加して示しており、3つの2相座標の関係を示している。
【0205】
図22は、γ-δ座標(第3の2相座標)におけるγ軸から見た、d-q座標(第1の2相座標)におけるd軸の進み角Δθと、同期回転機102の実トルク(推定トルクTe)との関係を示す相関図である。
【0206】
図22に示すように、進み角Δθが進み過ぎる場合(図22中の90°方向にずれ過ぎる場合)と、進み角Δθが遅れ過ぎる場合(図22中の-90°方向にずれ過ぎる場合)とに、同期回転機102の実トルクが、同期回転機102の負荷トルクを下回ってしまうことがある。
【0207】
このように、同期回転機102の実トルクが、同期回転機102の負荷トルクを下回っているタイミングで、電流同期運転から磁束制御運転への切り替えが行われると、切り替え後の磁束制御運転において、同期回転機102の速度が追随できなくなり、切り替え後の磁束制御運転における脱調が発生してしまうことがある。
【0208】
このため、運転モード切り替え判定部120は、同期回転機102の実トルクが最大値の近傍となるタイミング、すなわち、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下となった場合に、切り替え制御信号Sを出力する。ここで所定値は、同期回転機102の実トルクが、同期回転機102の負荷トルクを下回らない値である。
【0209】
この所定値は、予め実機を用いて測定された測定結果に基づいて定められるとしてもよいし、予めシミュレーションにより算出されるとしてもよい。
【0210】
これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0211】
特に、運転モード切り替え判定部120は、同期回転機102の実トルクが最大値となるタイミング、すなわち、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値がゼロとなった場合に、切り替え制御信号Sを出力することが望ましい。
【0212】
図23は、動作モード切り替え判定部120が切り替え制御信号Sを出力するタイミングを示すタイムチャートの一例である。
【0213】
図23に示すように、動作モード切り替え判定部120は、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下(ここでは、ゼロ)になるタイミングで、切り替え制御信号Sを出力する。これにより、切り替え部133Cは、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下(ここでは、ゼロ)になるタイミングで、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを行う。
【0214】
また、運転モード切り替え判定部120は、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになるまで同期回転機102の誘起電圧が十分高くなったタイミングで切り替え制御信号Sを出力するとしてもよい。より具体的には、運転モード切り替え判定部120は、電流同期運転の開始時から、予め定められた同期回転機102の加速レートと切り替え回転数とによって定められる第1所定期間が経過した場合に、切り替え制御信号Sを出力するとしてもよい。ここで第1所定期間は、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになるまで同期回転機102の誘起電圧が十分高くなる期間である。
【0215】
この第1所定期間は、予め実機を用いて測定された測定結果に基づいて定められるとしてもよいし、予めシミュレーションにより算出されるとしてもよい。
【0216】
ここでは、必ずしも限定される必要のない一例として、加速レートが12000rpm/sであり、切り替え回転数が1200rpmであった場合、これらより決まる第1所定期間は0.1秒であってもよい。
【0217】
これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0218】
また、運転モード切り替え判定部120は、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下となった場合であっても、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになるまで同期回転機102の誘起電圧が十分高くなっていないタイミングであれば、切り替え制御信号Sの出力を禁止するとしてもよい。より具体的には、運転モード切り替え判定部120は、電流同期運転の開始時から、第1所定期間よりも短い第2所定期間以内に誤差変数特定部111で求められた第1内積又は第2内積の絶対値が所定値以下となった場合、電流同期運転から磁束制御運転への切り替えを禁止するとしてもよい。ここで第2の所定期間は、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになるまで同期回転機102の誘起電圧が十分高くなっていない期間である。
【0219】
この第2所定期間は、予め実機を用いて測定された測定結果に基づいて定められるとしてもよいし、予めシミュレーションにより算出されるとしてもよい。
【0220】
ここでは、必ずしも限定される必要のない一例として、加速レートが12000rpm/sであり、切り替え回転数が1200rpmであり、第1所定期間が0.1秒である場合に、第2所定期間は0.08秒であってもよい。
【0221】
これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調がさらに抑制される。
【0222】
図24は、動作モード切り替え判定部120が切り替え制御信号Sを出力するタイミングを示すタイムチャートの一例である。
【0223】
図24に示すように、動作モード切り替え判定部120は、電流同期運転の開始から第2所定期間(t)以内に、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下(ここでは、ゼロ)になったとしても、切り替え制御信号Sを出力せずに、第2所定期間以降に、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下(ここでは、ゼロ)になった場合に、切り替え制御信号Sを出力する。これにより、切り替え部133Cは、電流同期運転の開始から第2所定期間以内に、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下(ここでは、ゼロ)になった場合に、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを禁止する。そして、切り替え部133Cは、第2所定期間以降に、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下(ここでは、ゼロ)になった場合に、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを行う。
【0224】
また、運転モード切り替え判定部120は、電流同期運転の実施中に無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下とならず、かつ、第1所定期間が経過した場合、切り替え制御信号Sを出力するとしてもよい。
【0225】
図25は、動作モード切り替え判定部120が切り替え制御信号Sを出力するタイミングを示すタイムチャートの一例である。
【0226】
図25に示すように、動作モード切り替え判定部120は、電流同期運転の実施中に、無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下(ここでは、ゼロ)にならない場合に、切り替え後の磁束制御運転を精度よく行うことができるようになるまで同期回転機102の誘起電圧が十分高くなっているタイミングである第1所定期間(t)が経過すると、切り替え制御信号Sを出力する。これにより、切り替え部133Cは、電流同期運転の実施中に無効電力成分を示す誤差変数εの絶対値が所定値以下とならず、かつ、第1所定期間が経過した場合、電流同期運転から磁束制御運転(ここでは、位置センサレス磁束制御運転)への切り替えを行う。
【0227】
これにより、切り替え後の磁束制御運転における脱調が抑制される。
【0228】
(考察)
上述したように、上記構成の回転機制御装置100Cによると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替え後における脱調が抑制される。
【0229】
したがって、上記構成の回転機制御装置100Cによると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0230】
なお、実施の形態4において、推定磁束と検出電流との第1内積、又は、磁石磁束と検出電流との第2内積の絶対値が所定値以下になった場合、又は、電流同期運転の開始時から、予め定められた同期回転機102の加速レートと切り替え回転数とによって定められる第1所定期間が経過した場合に、切り替え制御信号Sを出力する運転モード切り替え判定部120と、運転モード切り替え判定部120から切り替え制御信号Sが出力されると、電流同期運転から磁束制御運転への切り替えを行う切り替え部133Cとを、実施の形態1に係る回転機制御装置100に適用した構成例について説明した。
【0231】
しかしながら、上記運転モード切り替え判定部120と、上記切り替え部133Cとを適用する対象は、回転機制御装置100に限定される必要はない。例えば、特許文献2に記載された、推定磁束と検出電流との第1内積、又は、磁石磁束と演出電流との第2内積を用いたフィードバック制御を実行せずに指令振幅を生成する構成の回転機制御装置に適用するとしてもよい。
【0232】
この場合、上記運転モード切り替え判定部120と、上記切り替え部133Cとが適用された、特許文献2に係る回転機制御装置において、電流同期運転(起動同期運転)から磁束制御運転(位置センサレス運転)への切り替え後における脱調が抑制される。
【0233】
したがって、上記運転モード切り替え判定部120と、上記切り替え部133Cとが適用された、特許文献2に係る回転機制御装置によると、直接トルク制御など主に磁束を用いた回転機制御装置の起動期間における安定性をさらに改善することができる。
【0234】
(補足)
以上、本開示の一態様に係る回転機制御装置について、実施の形態1~4に基づいて説明したが、本開示は、これら実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形をこの実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の1つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0235】
本開示は、回転機を制御する回転機制御装置等に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0236】
100、100A、100B、100C 回転機制御装置
102 同期回転機
103 デューティ生成部
104 PWMインバータ
105a 第1電流センサ
105b 第2電流センサ
106 u,w/α,β変換部
107 電圧指令特定部
108 磁束推定部
109 トルク推定部
111 誤差変数特定部
112 指令磁束特定部
113a α軸磁束偏差演算部
113b β軸磁束偏差演算部
114 α,β/u,v,w変換部
115 指令振幅特定部
116 トルク指令特定部
117 位相・速度推定部
118、218、218A、218B、218C、218D、318、318A、318B 指令位相特定部
119 目標値設定部
120 運転モード切り替え判定部
124 同期電流指令部
125 電圧指令特定部
126 d,q/u,v,w変換部
127 u,w/d,q変換部
128 積分器
131 電流同期制御部
132 磁束同期制御部
133、133C、172A、172B 切り替え部
134、134C 位置センサレス制御部
135 磁束同期・位置センサレス制御部
142 減算器
143 Pゲイン
144、169 加算器
145 Iゲイン
146 積分器
150 u,v,w/α,β変換部
161 速度偏差演算部
162 ゲイン乗算部
163、166 ハイパスフィルタ
164 乗算部
165 位相加算器
167 符号反転部
168 PI補償部
170 ローパスフィルタ
171、173 減算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25