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特許7308470信号処理システム、センサシステム、信号処理方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】信号処理システム、センサシステム、信号処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/41 20060101AFI20230707BHJP
   G01S 13/56 20060101ALI20230707BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230707BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20230707BHJP
   G01V 3/12 20060101ALI20230707BHJP
   G01S 13/34 20060101ALN20230707BHJP
【FI】
G01S7/41
G01S13/56
A61B5/11 110
A61B5/113
G01V3/12 A
G01S13/34
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021574583
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000376
(87)【国際公開番号】W WO2021153188
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2020015862
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙一
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096831(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220701(WO,A1)
【文献】特開2014-083148(JP,A)
【文献】特開2015-068700(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0119716(US,A1)
【文献】SEKINE, Masatoshi et al.,"Human Detection Algorithm for Doppler Radar Using Prediction Error in Autoregressive Model",2012 8th IEEE International Symposium on Instrumentation and Control Technology(ISICT),IEEE,2012年07月,DOI: 10.1109/ISICT.2012.6291657
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/64
G01S 13/00-17/95
A61B 5/11-5/113
G08B 13/00-15/02
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波として電波を出力し、物体で反射した前記電波を受信波として受信する電波センサから、前記電波センサと前記物体との間の距離の情報を含むセンサ信号を受け取る信号処理システムであって、
基準タイミング、及び前記基準タイミングからそれぞれずれた複数の比較タイミングのそれぞれにおける前記センサ信号を用いて、前記基準タイミングにおける前記センサ信号と前記複数の比較タイミングにおける複数の前記センサ信号のそれぞれとの差を、複数の差分信号として生成し、前記複数の差分信号のそれぞれの大きさを複数の差分値として求める差分演算部と、
前記複数の差分値に基づく評価値を求め、前記評価値を用いて前記物体の状態を判定する判定部と、を備える
信号処理システム。
【請求項2】
前記複数の比較タイミングのそれぞれは、前記基準タイミングより過去のタイミングである
請求項1の信号処理システム。
【請求項3】
前記複数の差分値のそれぞれは、前記複数の差分信号のそれぞれの大きさの平均値、実効値、又は標準偏差である
請求項1又は2の信号処理システム。
【請求項4】
前記判定部は、前記評価値として、前記複数の差分値の比を用いる
請求項1乃至3のいずれか1つの信号処理システム。
【請求項5】
前記判定部は、前記評価値を用いて、前記物体の状態として前記物体が予め決められた検出対象であるか否かを判定する対象判定部を備える
請求項1乃至4のいずれか1つの信号処理システム。
【請求項6】
前記対象判定部は、前記評価値を少なくとも1つの評価閾値と比較することで、前記物体が前記検出対象であるか否かを判定する
請求項5の信号処理システム。
【請求項7】
前記対象判定部は、前記評価値を2つの前記評価閾値と比較することで、前記物体が前記検出対象である可能性を3段階で判定する
請求項6の信号処理システム。
【請求項8】
前記センサ信号は、前記距離に応じて周波数が変化する信号であり、
前記判定部は、前記複数の差分信号の少なくとも1つのスペクトルにおいて、信号強度のピークがピーク閾値以上となる周波数をピーク周波数として検出し、前記ピーク周波数に基づいて前記物体の状態として前記距離を判定する距離判定部を備え、
前記距離判定部は、前記評価値に基づいて、前記ピーク閾値を変化させる
請求項1乃至4のいずれか1つの信号処理システム。
【請求項9】
前記センサ信号は、前記距離に応じて周波数が変化する信号であり、
前記判定部は、前記複数の差分信号の少なくとも1つのスペクトルにおいて、信号強度のピークがピーク閾値以上となる周波数をピーク周波数として検出し、前記ピーク周波数に基づいて前記物体の状態として前記距離を判定する距離判定部を備え、
前記差分演算部は、前記評価値に基づいて、前記基準タイミング及び前記複数の比較タイミングのそれぞれにおける前記センサ信号の信号強度を変化させる
請求項1乃至4のいずれか1つの信号処理システム。
【請求項10】
前記判定部は、前記物体の状態として前記物体が予め決められた検出対象であるか否かを判定する対象判定部を更に備え、
前記距離判定部は、前記距離を判定する毎に距離データを生成し、
前記対象判定部は、前記距離データの所定時間当たりの密度に基づく指標を求め、前記指標を指標閾値と比較することで、前記物体が前記検出対象であるか否かを判定する
請求項8又は9の信号処理システム。
【請求項11】
前記対象判定部は、前記電波センサからの前記距離が所定範囲内となる前記物体のみについて、前記検出対象であるか否かを判定する
請求項5乃至7、及び10のいずれか1つの信号処理システム。
【請求項12】
前記差分演算部は、前記複数の比較タイミングを2つの比較タイミングとし、前記基準タイミングにおける前記センサ信号と前記2つの比較タイミングにおける2つの前記センサ信号のそれぞれとの差を、2つの差分信号として生成し、前記2つの差分信号のそれぞれの大きさを2つの差分値として求める
請求項1乃至11のいずれか1つの信号処理システム。
【請求項13】
前記2つの比較タイミングは、第1比較タイミング及び第2比較タイミングであり、
前記第1比較タイミングは、前記第2比較タイミングより前記基準タイミングに近く、
前記基準タイミングと前記第2比較タイミングと間の時間長さは、人の呼吸の1/4周期以上である
請求項12の信号処理システム。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1つの信号処理システムと、
前記電波センサと、を備える
センサシステム。
【請求項15】
前記電波センサは、前記送信波を出力する送信アンテナ、及び前記受信波を受信する受信アンテナを有し、
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナの少なくとも一方は指向性を有する
請求項14のセンサシステム。
【請求項16】
送信波として電波を出力し、物体で反射した前記電波を受信波として受信する電波センサから、前記電波センサと前記物体との間の距離の情報を含むセンサ信号を受け取る信号処理方法であって、
基準タイミング、及び前記基準タイミングからそれぞれずれた複数の比較タイミングのそれぞれにおける前記センサ信号を用いて、前記基準タイミングにおける前記センサ信号と前記複数の比較タイミングにおける複数の前記センサ信号のそれぞれとの差を、複数の差分信号として生成し、前記複数の差分信号のそれぞれの大きさを複数の差分値として求める差分演算ステップと、
前記複数の差分値に基づく評価値を求め、前記評価値を用いて前記物体の状態を判定する判定ステップと、を含む
信号処理方法。
【請求項17】
コンピュータシステムに、請求項16記載の信号処理方法を実行させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理システム、センサシステム、信号処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、浴室にマイクロ波(電波)を照射して得られる反射波に基づいて、入浴者の状態をセンシングする体動信号処理装置を開示している。
【0003】
体動信号処理装置は、浴室内に電波を送信し、浴室内で反射された電波を受信信号として受信し、受信信号から身体の動きを示す体動信号を検出する。そして、体動信号処理装置は、浴室に被験者(入浴者)がいない状態において検出される受信信号の体動域成分の信号の振幅値と、入浴中に検出される体動信号の振幅値と比較し、浴室における被験者の体動(心拍、呼吸等)を検出する。さらに、体動信号処理装置は、被験者の状態に応じて、注意を喚起する報知を出力する。
【0004】
上述の体動信号処理装置のような信号処理システムは、人などの物体の状態をより精度よく判定することを求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2017/149923
【発明の概要】
【0006】
本開示の目的は、物体の状態を精度よく判定できる信号処理システム、センサシステム、信号処理方法、及びプログラムを提供することである。
【0007】
本開示の一態様に係る信号処理システムは、送信波として電波を出力し、物体で反射した前記電波を受信波として受信する電波センサから、前記電波センサと前記物体との間の距離の情報を含むセンサ信号を受け取る。前記信号処理システムは、差分演算部と、判定部と、を備える。前記差分演算部は、基準タイミング、及び前記基準タイミングからそれぞれずれた複数の比較タイミングのそれぞれにおける前記センサ信号を用いる。前記差分演算部は、前記基準タイミングにおける前記センサ信号と前記複数の比較タイミングにおける複数の前記センサ信号のそれぞれとの差を、複数の差分信号として生成し、前記複数の差分信号のそれぞれの大きさを複数の差分値として求める。前記判定部は、前記複数の差分値に基づく評価値を求め、前記評価値を用いて前記物体の状態を判定する。
【0008】
本開示の一態様に係るセンサシステムは、上述の信号処理システムと、前記電波センサと、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係る信号処理方法は、送信波として電波を出力し、物体で反射した前記電波を受信波として受信する電波センサから、前記電波センサと前記物体との間の距離の情報を含むセンサ信号を受け取る。前記信号処理方法は、差分演算ステップと、判定ステップと、を備える。前記差分演算ステップは、基準タイミング、及び前記基準タイミングからそれぞれずれた複数の比較タイミングのそれぞれにおける前記センサ信号を用いる。前記差分演算ステップは、前記基準タイミングにおける前記センサ信号と前記複数の比較タイミングにおける複数の前記センサ信号のそれぞれとの差を、複数の差分信号として生成し、前記複数の差分信号のそれぞれの大きさを複数の差分値として求める。前記判定ステップは、前記複数の差分値に基づく評価値を求め、前記評価値を用いて前記物体の状態を判定する。
【0010】
本開示の一態様に係るプログラムは、コンピュータシステムに、上述の信号処理方法を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態における信号処理システムを備えるセンサシステムを示すブロック図である。
図2図2は、同上の電波センサを示すブロック図である。
図3図3は、同上のセンサ信号のI成分とQ成分との位相差を示す波形図である。
図4図4Aは、同上のIQ平面における第1差分信号の軌跡を示す軌跡図である。図4Bは、IQ平面における第2差分信号の軌跡を示す軌跡図である。
図5図5Aは、同上のIQ平面における別の第1差分信号の軌跡を示す軌跡図である。図5Bは、IQ平面における別の第2差分信号の軌跡を示す軌跡図である。
図6図6Aは、同上のIQ平面における別の第1差分信号の軌跡を示す軌跡図である。図6Bは、IQ平面における別の第2差分信号の軌跡を示す軌跡図である。
図7図7Aは、同上のIQ平面における別の第1差分信号の軌跡を示す軌跡図である。図7Bは、IQ平面における別の第2差分信号の軌跡を示す軌跡図である。
図8図8A及び図8Bは、同上の各評価値の時間変化を示す図である。
図9図9A及び図9Bは、同上の各評価値の時間変化を示す図である。
図10図10A及び図10Bは、同上の各評価値の時間変化を示す図である。
図11図11A及び図11Bは、同上の各評価値の時間変化を示す図である。
図12図12A及び図12Bは、同上の各評価値の時間変化を示す図である。
図13図13は、同上の信号処理システムの動作を示すフローチャートである。
図14図14は、同上の第1変形例における信号処理システムを備えるセンサシステムを示すブロック図である。
図15図15は、同上の第1変形例における判定エリアの設定例を示す平面図である。
図16図16は、第2実施形態における信号処理システムを備えるセンサシステムを示すブロック図である。
図17図17は、同上の判定エリアの設定例を示す平面図である。
図18図18は、同上の距離判定処理を説明するための図である。
図19図19Aは、同上の距離データをプロットしたグラフである。図19Bは、同上の指標の時間変化を示すグラフである。
図20図20は、同上の指標算出処理を説明するための図である。
図21図21Aは、同上の別の距離データをプロットしたグラフである。図21Bは、同上の別の指標の時間変化を示すグラフである。
図22図22Aは、同上の別の距離データをプロットしたグラフである。図22Bは、同上の別の指標の時間変化を示すグラフである。
図23図23A及び図23Bのそれぞれは、同上の別の指標の時間変化を表すグラフである。
図24図24A図24B、及び図24Cのそれぞれは、同上の別の指標の時間変化を表すグラフである。
図25図25は、同上の信号処理システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、一般に、信号処理システム、センサシステム、信号処理方法、及びプログラムに関する。より詳細には、本開示は、電波センサを用いて物体の状態を判定する信号処理システム、センサシステム、信号処理方法、及びプログラムに関する。
【0013】
以下に説明する各実施形態及び変形例は、本開示の一例に過ぎず、本開示は、各実施形態及び変形例に限定されない。これらの実施形態及び変形例以外であっても、本開示に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0014】
(1)第1実施形態
(1.1)センサシステムの概要
図1は、第1実施形態の信号処理システム2を備えるセンサシステムA1を示す。
【0015】
センサシステムA1は、電波センサ1、及び信号処理システム2を備える。本実施形態の信号処理システム2は、信号処理装置で構成される。
【0016】
電波センサ1は、照射エリアR1内に電波を送信波101として出力し、照射エリアR1内の物体9で反射された電波を受信波102として受信して、電波センサ1と物体9との間の距離Lの情報を含むセンサ信号Y0を出力する。
【0017】
信号処理システム2は、電波センサ1から出力されるセンサ信号Y0に信号処理を施すことで、物体9の状態を判定する。
【0018】
物体9までの距離Lは、物体9の移動だけでなく、物体9の一部の動きによっても変化する。例えば、物体9が人であれば、距離Lの情報を含むセンサ信号Y0に信号処理を施すことで、人の動きとして、人の移動情報だけでなく、人の呼吸、心拍、及び脈拍などの生体情報を得ることができる。すなわち、物体9が人であれば、物体9の状態は、例えば人の存在、移動速度、位置、及び生体情報などである。
【0019】
(1.2)電波センサ
本実施形態の電波センサ1は、FMCW(Frequency-Modulated Continuous-Wave)方式の電波センサである。電波センサ1は、図2に示すように、送受信器1a、送信アンテナ1b、及び受信アンテナ1cを備える。送受信器1aは、周波数(送信周波数)が時間の経過に伴って変化する送信波101を送信アンテナ1bから出力し、周波数(受信周波数)が時間の経過に伴って変化する受信波102を受信アンテナ1cを介して受信する。そして、送受信器1aは、送信周波数と受信周波数との周波数差に等しい周波数(ビート周波数)のビート信号をセンサ信号Y0として生成する。信号処理システム2は、電波センサ1からセンサ信号Y0を受け取り、センサ信号Y0のビート周波数に基づいて物体9までの距離を求めることができる。なお、送信波101は、マイクロ波であることが好ましい。特に、送信波101の周波数は、24.15GHzであることが好ましい。但し、送信波101は、マイクロ波に限らず、ミリ波であってもよく、送信波101の周波数は特定の値に限定されない。
【0020】
具体的に、FMCW方式を用いる送受信器1aは、送信波101の周波数(送信周波数)を上昇させた後に下降させるスイープ処理を繰り返す。スイープ処理では、送信周波数は、掃引時間Taの間に掃引周波数幅Δfaだけ上昇する。光速をCとすると、送信波101が出力されてから時間2L/C後に、送受信器1aは反射波を受信する。反射波の周波数(受信周波数)は、送信周波数と同様に、時間の経過に伴って変化する。そして、送受信器1aが、送信周波数と受信周波数との周波数差に等しい周波数(ビート周波数)fbのビート信号を生成して、センサ信号Y0として出力する。ビート周波数fbは、fb=[(Δfa・2L)/(C・Ta)]となる。故に、物体9までの距離Lは、以下の式1で表される。
L=(fb・C・Ta)/(2・Δfa) ……… 式1
そして、電波センサ1は、センサ信号Y0(周波数fbのビート信号)として、同相(In-phase)成分及び直交(Quadrature)成分を含むIQ信号を出力する。なお、以降の説明では、同相成分をI成分と呼び、直交成分をQ成分と呼ぶことがある。
【0021】
(1.3)信号処理システム(信号処理装置)
(1.3.1)信号処理システムの概要
信号処理システム2は、図1に示すように、前処理部21、記憶部22、差分演算部23、判定部24、及び出力部25を備える。
【0022】
前処理部21は、センサ信号Y0を増幅する増幅機能、及びデジタル信号に変換するAD変換機能を有しており、増幅されたデジタルのセンサ信号Y1を記憶部22に格納する。センサ信号Y1は、センサ信号Y0に増幅処理及びAD変換処理を施した信号であり、実質的にセンサ信号Y0と同じ信号である。したがって、センサ信号Y0及びセンサ信号Y1はともに、物体9までの距離Lの情報を含むセンサ信号とみなすことができる。なお、電波センサ1が、前処理部21を備えてもよい。この場合、電波センサ1から出力されたセンサ信号Y1が記憶部22に格納される。
【0023】
記憶部22は、センサ信号Y1の履歴を格納する。すなわち、記憶部22は、前処理部21が生成した複数のセンサ信号Y1を時系列に沿って格納している。センサ信号Y1の履歴は、過去の所定期間におけるセンサ信号Y1の変化を表す。
【0024】
差分演算部23は、記憶部22に格納されているセンサ信号Y1の履歴に基づいて、複数の差分信号ΔYを生成し、複数の差分信号ΔYのそれぞれの大きさを複数の差分値ΔZとして求める。差分演算部23の詳細については後述する。
【0025】
判定部24は、複数の差分値ΔZに基づく評価値を求め、評価値を用いて物体9の状態を判定する。物体9の状態は、物体9の種別、物体9の有無、移動速度、位置、又は動きなどである。判定部24の詳細については後述する。
【0026】
出力部25は、判定部24の判定結果を通知システム3へ出力する。出力部25と通知システム3との間の通信は、通信線を介した有線通信、又は無線信号を用いた無線通信によって行われる。有線通信は、例えばツイストペアケーブル、専用通信線、またはLAN(Local Area Network)ケーブルなどを介した有線通信である。無線通信は、例えばWi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)又は免許を必要としない小電力無線(特定小電力無線)等の規格に準拠した無線通信、あるいは赤外線通信などの無線通信である。
【0027】
上述の信号処理システム2は、コンピュータシステムを備えることが好ましい。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における信号処理システム2としての機能の少なくとも一部が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリにあらかじめ記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む一ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1つ以上のプロセッサ及び1つ以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1乃至複数の電子回路で構成される。
【0028】
また、コンピュータシステムは、1又は複数のコンピュータで構成されるシステムであってもよい。例えば、前処理部21、記憶部22、差分演算部23、判定部24、及び出力部25の少なくとも一部の機能は、クラウド(クラウドコンピューティング)によって実現されてもよい。
【0029】
通知システム3は、サーバ、パーソナルコンピュータ、専用端末、スマートフォン、又はタブレット端末などの少なくとも1つを含み、判定部24の判定結果に基づいた通知動作、又は警報動作などを行う。
【0030】
(1.3.2)信号処理
本実施形態では、信号処理システム2は、差分演算部23、及び判定部24を備えて、照射エリアR1の物体9の状態として、物体9が人であるか否かを判定する。
【0031】
電波センサ1は室内に設けられ、室内の照射エリアR1に向かって送信波101を出力する。屋内には物体9としての電気機器(例えば扇風機、ロボット掃除機など)、及びカーテンなどの可動体が配置され、物体9としての人が照射エリアR1に進入及び退出する。この場合、信号処理システム2にとっては、人が検出対象であり、可動体が検出対象以外の外乱物体になる。
【0032】
(差分演算部)
差分演算部23は、複数の差分信号ΔYを生成し、複数の差分信号ΔYのそれぞれの大きさを複数の差分値ΔZとして求める。差分信号ΔYは、タイミングの異なる一対のセンサ信号Y1の差分信号であり、静止した物体9による信号成分、及び背景雑音の信号成分などが除去された信号になる。
【0033】
物体9が人である場合、呼吸による人の動きによって、センサ信号Y1(又はY0)のI成分の大きさ、Q成分の大きさ、及びI成分とQ成分との位相差が変化する。図3は、センサ信号Y1のI成分とQ成分との位相差の波形X1を示し、波形X1は、呼吸周期T0で脈動している。図3では、基準タイミングt0、基準タイミングt0からみて過去の直近のタイミングである第1比較タイミングt1、及び第1比較タイミングt1より過去のタイミングである第2比較タイミングt2を示している。第2比較タイミングt2は、基準タイミングt0からみて、呼吸周期T0の1/4以上、かつ、呼吸周期T0の1/2以下の範囲の過去のタイミングである。すなわち、基準タイミングt0と第2比較タイミングt2との間の期間T2の時間長さは、基準タイミングt0と第1比較タイミングt1との間の期間T1の時間長さよりも長くなる。そして、図3の期間T2における波形X1の変動幅ΔH2は、図3の期間T1における波形X1の変動幅ΔH1よりも大きくなる。変動幅ΔH1は、基準タイミングt0における波形X1の大きさから第1比較タイミングt1における波形X1の大きさを引いた値である。変動幅ΔH2は、基準タイミングt0における波形X1の大きさから第2比較タイミングt2における波形X1の大きさを引いた値である。
【0034】
すなわち、タイミングtnにおけるセンサ信号Y1をY1(tn)で表すと、物体9が人であれば、センサ信号Y1(t0)とセンサ信号Y1(t2)との差分は、センサ信号Y1(t0)とセンサ信号Y1(t1)との差分よりも大きくなる傾向にある。
【0035】
そこで、センサ信号Y1(t0)とセンサ信号Y1(t1)との差分信号ΔYを、第1差分信号ΔY(t0,t1)とする。また、センサ信号Y1(t0)とセンサ信号Y1(t2)との差分信号ΔYを、第2差分信号ΔY(t0,t2)とする。第1差分信号ΔY(t0,t1)は、[Y1(t0)-Y1(t1)]で表される。第2差分信号ΔY(t0,t2)は、[Y1(t0)-Y1(t2)]で表される。
【0036】
なお、差分演算部23は、時間領域の差分信号ΔYに高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)又は離散コサイン変換(Discrete Cosine Transform:DCT)を施すことで、周波数領域の差分信号ΔYを生成してもよい。この場合、第1差分信号ΔY(t0,t1)は、[Y1(t0)-Y1(t1)]にFFT又はDCTを施した周波数領域の信号になる。また、第2差分信号ΔY(t0,t2)は、[Y1(t0)-Y1(t2)]にFFT又はDCTを施した周波数領域の信号になる。周波数領域の第1差分信号ΔY(t0,t1)、及び第2差分信号ΔY(t0,t2)はともに複素数で表される。
【0037】
さらに、差分演算部23は、周波数領域の全周波数範囲を複数の周波数ビンに分割し、特定の1つ又は複数の周波数ビンにおける信号成分を差分信号ΔYとしてもよい。特定の周波数ビンにおける信号成分を差分信号ΔYとすることで、判定部24は、特定の距離L又は特定の距離Lの範囲に存在する物体9のみに着目して、物体9の状態を判定できる。
【0038】
差分演算部23は、上述の第1差分信号ΔY(t0,t1)及び第2差分信号ΔY(t0,t2)を一定の演算周期(呼吸周期T0よりも十分に短い周期)毎に求める。図4Aは、物体9が就寝中の人である場合に演算周期毎に求めた第1差分信号ΔY(t0,t1)の軌跡をIQ平面上に表す。図4Bは、物体9が就寝中の人である場合に演算周期毎に求めた第2差分信号ΔY(t0,t2)の軌跡をIQ平面上に表す。第1差分信号ΔY(t0,t1)及び第2差分信号ΔY(t0,t2)は、I=0、Q=0の点を中心として変化し、第2差分信号ΔY(t0,t2)の軌跡は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の軌跡よりも広範囲に亘っている。そして、差分演算部23は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の大きさの所定時間当たりの平均(時間平均)を第1差分値ΔZ1として求める。また、差分演算部23は、第2差分信号ΔY(t0,t2)の大きさの所定時間当たりの平均(時間平均)を第2差分値ΔZ2として求める。この場合、第2差分値ΔZ2は第1差分値ΔZ1よりも顕著に大きくなる。ここでは、期間T1の時間長さを50msecとし、期間T2の時間長さを500msecとしている。
【0039】
また、第1差分信号ΔY(t0,t1)の大きさは、第1差分信号ΔY(t0,t1)のI成分及びQ成分のそれぞれの大きさ、第1差分信号ΔY(t0,t1)のI成分のみの大きさ、又は第1差分信号ΔY(t0,t1)のQ成分のみの大きさである。第2差分信号ΔY(t0,t2)の大きさは、第2差分信号ΔY(t0,t2)のI成分及びQ成分のそれぞれの大きさ、第2差分信号ΔY(t0,t2)のみのI成分の大きさ、又は第2差分信号ΔY(t0,t2)のQ成分のみの大きさである。
【0040】
なお、就寝中の人の呼吸を検出するのであれば、期間T2は500msec以上、7sec以下の範囲内の値に設定されることが好ましい。また、覚醒中の人91の呼吸を検出するのであれば、期間T1、T2はより短い時間長さに設定される。但し、期間T1、T2の各時間長さは、検出対象となる人、又は検出対象となる人の動作などに応じて設定されることが好ましい。
【0041】
一方、物体9がカーテンである場合、図5A及び図5Bに示すように、第1差分信号ΔY(t0,t1)の軌跡及び第2差分信号ΔY(t0,t2)の軌跡の各範囲はほぼ同じになる。この結果、第1差分値ΔZ1と第2差分値ΔZ2とは、ほぼ同じになる。
【0042】
また、物体9が扇風機であり、扇風機が首振り動作をしている場合、図6A及び図6Bに示すように、第2差分信号ΔY(t0,t2)の軌跡は第1差分信号ΔY(t0,t1)の軌跡よりも僅かに広い範囲に亘っている。この結果、第2差分値ΔZ2は第1差分値ΔZ1よりも僅かに大きくなる。
【0043】
また、物体9が扇風機であり、扇風機が首振り動作をしていない場合、図7A及び図7Bに示すように、第1差分信号ΔY(t0,t1)の軌跡及び第2差分信号ΔY(t0,t2)の軌跡の各範囲はほぼ同じになる。この結果、第1差分値ΔZ1と第2差分値ΔZ2とは、ほぼ同じになる。
【0044】
なお、差分演算部23は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の大きさの実効値(二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square))を第1差分値ΔZ1として求め、第2差分信号ΔY(t0,t2)の大きさの実効値を第2差分値ΔZ2として求めてもよい。あるいは、差分演算部23は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の大きさの標準偏差を第1差分値ΔZ1として求め、第2差分信号ΔY(t0,t2)の大きさの標準偏差を第2差分値ΔZ2として求めてもよい。また、差分演算部23は、第1差分信号ΔY(t0,t1)及び第2差分信号ΔY(t0,t2)の時間関数をローパスフィルタなどのフィルタを通した後に、第1差分値ΔZ1及び第2差分値ΔZ2を求めてもよい。
【0045】
(判定部)
判定部24は、対象判定部241を備える。
【0046】
対象判定部241は、上述の第1差分値ΔZ1及び第2差分値ΔZ2に基づく評価値Gaを求め、評価値Gaを用いて物体9の状態を判定する。本実施形態では、対象判定部241は、物体9の状態として、物体9が人であるか否かを判定する。
【0047】
対象判定部241は、第1差分値ΔZ1と第2差分値ΔZ2との比[ΔZ2/ΔZ1]を用いて、評価値Gaを求めることが好ましい。比[ΔZ2/ΔZ1]を用いることで、評価値Gaが相対的な値(規格化された値)になり、判定処理の精度が向上する。
【0048】
例えば、対象判定部241は、評価値Gaとして、評価値Ga1を下記の式2を用いて求める。式2で求められた評価値Ga1は、物体9が人であれば1より大きい値になり、物体9がカーテン、扇風機などの外乱物体であればほぼ1になる。
Ga1=ΔZ2/ΔZ1 ……… 式2
あるいは、対象判定部241は、評価値Gaとして、評価値Ga2を下記の式3を用いて求める。式3で求められた評価値Ga2は、物体9が人であれば1に近付き、物体9がカーテン、扇風機などの外乱物体であれば0に近付く。
Ga2=1-ΔZ1/ΔZ2 ……… 式3
図8A及び図8B図9A及び図9B図10A及び図10B図11A及び図11B、及び図12A及び図12Bは、評価値Ga2の時間変化を示す。図8A図9A図10A図11A、及び図12Aの各評価値Ga2は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の大きさの実効値である第1差分値ΔZ1、及び第2差分信号ΔY(t0,t2)の大きさの実効値である第2差分値ΔZ2に基づいて求められている。図8B図9B図10B図11B、及び図12Bの各評価値Ga2は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の大きさの標準偏差である第1差分値ΔZ1、及び第2差分信号ΔY(t0,t2)の大きさの標準偏差である第2差分値ΔZ2に基づいて求められている。
【0049】
さらに、図8A及び図8B図9A及び図9B図10A及び図10B図11A及び図11B、及び図12A及び図12BのKa1、Ka2は、各評価値Ga2と比較する評価閾値である。本実施形態では、評価閾値Ka1を0.5とし、評価閾値Ka2を0.1とする。
【0050】
図8A及び図8Bは、物体9が静止した人(座位)である場合の評価値Ga2の時間変化を示す。図8A及び図8Bでは、評価値Ga2が1に近付いており、評価閾値Ka1以上となる期間が長くなっている。
【0051】
図9A及び図9Bは、物体9がカーテンである場合の評価値Ga2の時間変化を示す。この場合、カーテンが風などによってはためくことで評価値Ga2が増加しやすくなる。しかしながら、カーテンのはためく周期は、人の呼吸周期T0とは異なる。そこで、期間T1、T2の各時間長さを人の呼吸周期T0(図3参照)に応じた値にそれぞれ設定することで、物体9がカーテンであるときに評価値Ga2の過度の増加を抑えることができる。図9A及び図9Bでは、評価値Ga2が評価閾値Ka1未満、かつ、評価閾値Ka2以上となる期間が長くなっている。
【0052】
図10A及び図10Bは、物体9が扇風機であり、扇風機が首振り動作をしている場合の評価値Ga2の時間変化を示す。この場合、扇風機の首振り動作によって、評価値Ga2が増加しやすくなる。しかしながら、扇風機の首振り周期は、人の呼吸周期T0とは異なる。そこで、期間T1、T2の各時間長さを人の呼吸周期T0(図3参照)に応じた値にそれぞれ設定することで、物体9が首振り中の扇風機であるときに評価値Ga2の過度の増加を抑えることができる。図10A及び図10Bでは、評価値Ga2が評価閾値Ka1未満、かつ、評価閾値Ka2以上となる期間が長くなっている。
【0053】
図11A及び図11Bは、物体9が扇風機であり、扇風機が首振り動作をしていない(首固定)場合の評価値Ga2の時間変化を示す。この場合、扇風機が首振り動作をしないことによって、図10A及び図10Bに比べて、評価値Ga2は小さくなる。図11A及び図11Bでは、評価値Ga2が評価閾値Ka2未満となる期間が長くなっている。
【0054】
図12A及び図12Bは、照射エリアR1内に物体9が存在しない場合の評価値Ga2の時間変化を示す。すなわち、評価値Ga2は背景雑音による値である。図12A及び図12Bでは、評価値Ga2が評価閾値Ka2未満となる期間が長くなっている。
【0055】
本実施形態の対象判定部241は、評価値Ga2を2つの評価閾値Ka1、Ka2とそれぞれ比較することで、物体9が検出対象である可能性を3段階で判定する。
【0056】
対象判定部241は、1段階目の判定結果として、評価値Ga2が評価閾値Ka1以上であれば、照射エリアR1内に物体9として少なくとも人が存在していると判定する。すなわち、評価値Ga2が評価閾値Ka1以上であれば、照射エリアR1内に物体9として人が存在していることが確定する。しかしながら、照射エリアR1内に物体9として外乱物体が存在しているか否かは不明である。なお、対象判定部241は、評価値Ga2が一定時間以上継続して評価閾値Ka1以上となれば、少なくとも人が存在していると判定することが好ましい。
【0057】
対象判定部241は、2段階目の判定結果として、評価値Ga2が評価閾値Ka1未満、かつ、評価閾値Ka2以上であれば、照射エリアR1内に物体9として少なくとも外乱物体が存在していると判定する。すなわち、評価値Ga2が評価閾値Ka1未満、かつ、評価閾値Ka2以上であれば、照射エリアR1内に物体9として外乱物体が存在していることが確定する。しかしながら、照射エリアR1内に物体9として人が存在しているか否かは不明である。なお、対象判定部241は、評価値Ga2が一定時間以上継続して評価閾値Ka1未満、かつ、評価閾値Ka2以上となれば、少なくとも外乱物体が存在していると判定することが好ましい。
【0058】
対象判定部241は、3段階目の判定結果として、評価値Ga2が評価閾値Ka2未満であれば、照射エリアR1内に物体9として人が存在しておらず、外乱物体も存在していないと判定する。すなわち、評価値Ga2が評価閾値Ka2未満であれば、照射エリアR1内に物体9として人及び外乱物体の両方が存在していないことが確定する。なお、対象判定部241は、評価値Ga2が一定時間以上継続して評価閾値Ka2未満となれば、人及び外乱物体が存在していないと判定することが好ましい。
【0059】
ここで、上述の特許文献1のような体動信号処理装置を比較例とする。比較例は、照射エリアR1に人がいない状態において検出される受信信号の体動域成分の信号の振幅値と、照射エリアR1に人がいるときに検出される体動信号の振幅値と比較し、照射エリアR1における人の体動(心拍、呼吸等)を検出する。このような比較例は、評価値Ga2が評価閾値Ka1未満、かつ、評価閾値Ka2以上になる状況下では、照射エリアR1に人が存在すると判定する可能性が高い。
【0060】
一方、本実施形態のセンサシステムA1及び信号処理システム2は、評価値Ga2を評価閾値Ka1、Ka2とそれぞれ比較することで、照射エリアR1内に存在する物体9として、人及び外乱物体のいずれであるかをより精度よく判定できる。すなわち、センサシステムA1及び信号処理システム2は、物体9の状態を精度よく判定できる。
【0061】
(1.3.3)信号処理方法
本実施形態の信号処理方法をまとめると、信号処理方法は図13のフローチャートで表される。
【0062】
図13の信号処理方法は、受信ステップS1、記憶ステップS2、差分演算ステップS3、評価値算出ステップS4、及び判定ステップS5を備える。
【0063】
受信ステップS1では、前処理部21が、電波センサ1からセンサ信号Y0を受け取る。
【0064】
記憶ステップS2では、前処理部21によって増幅及びAD変換を施されたセンサ信号Y0をセンサ信号Y1とし、記憶部22はセンサ信号Y1の履歴を記憶する。
【0065】
差分演算ステップS3では、差分演算部23が、記憶部22に格納されているセンサ信号Y1の履歴に基づいて、複数の差分信号ΔYとして、第1差分信号ΔY(t0,t1)、及び第2差分信号ΔY(t0,t2)を生成する。そして、差分演算部23は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の大きさを、第1差分値ΔZ1として求める。差分演算部23は、第2差分信号ΔY(t0,t2)の大きさを、第2差分値ΔZ2として求める。
【0066】
評価値算出ステップS4では、対象判定部241(判定部24)が、第1差分値ΔZ1と第2差分値ΔZ2との比[ΔZ2/ΔZ1]を用いて、評価値Gaを求める。
【0067】
判定ステップS5では、対象判定部241(判定部24)が、評価値Ga用いて物体9が人であるか否かを判定する。
【0068】
コンピュータシステムのメモリに記録されているプログラムは、プロセッサに上述の信号処理方法を実行させることが好ましい。
【0069】
上述の信号処理方法及びプログラムも、物体9が検出対象の人であるか否かを精度よく判定できる。
【0070】
(1.4)通知システム
出力部25は、対象判定部241の判定結果を通知システム3へ送信する。通知システム3は、対象判定部241の判定結果を画像及び音声の少なくとも一方で管理者に通知する。
【0071】
通知システム3の一例として、物体9として人の見守りサービスの事業を行う事業者が運用する通知システムがある。この場合、検出対象の人は、福祉施設に入居している高齢者、デイサービスセンターを利用する高齢者、独居の高齢者、あるいはサービス付き高齢者向け住宅に居住する高齢者などである。
【0072】
そして、人が照射エリアR1に存在しない状態が一定時間以上継続すれば、通知システム3は、検出対象の人が不在である旨を予め決められた端末へ通知する。管理者又は高齢者の家族は、端末を介して検出対象の人の不在を通知されると、必要な対応をとることができる。
【0073】
なお、検出対象となる人は高齢者以外であってもよく、例えば保育施設の幼児、又は医療施設の病人が検出対象であってもよい。すなわち、検出対象となる人の年齢及び性別などは、特定の年齢及び性別などに限定されない。
【0074】
(1.5)第1変形例
上述の第1実施形態の信号処理システム2では、評価値Ga2が評価閾値Ka1未満、かつ、評価閾値Ka2以上であれば、照射エリアR1内に物体9として人が存在しているか否かは不明である。
【0075】
そこで、本変形例の判定部24は、物体9が検出対象の人であるか否かを更に精度よく判定するために、図14に示すように距離判定部242を更に備える。距離判定部242は、第2差分信号ΔY(t0,t2)のスペクトル(周波数分布)に基づいて、物体9までの距離Lを距離判定値として求める。対象判定部241は、距離判定部242が求めた距離判定値に基づいて、物体9が人であるか否かを判定する判定処理を行う。
【0076】
また、信号処理システム2は、電波センサ1の送信アンテナ1b及び受信アンテナ1cの少なくとも一方の指向性を検出対象の物体9に応じて予め設定することで、電波の照射エリアR1を検出対象の物体9に応じて制限している。具体的に、人が存在する可能性が高いエリアを照射エリアR1に含み、人が存在する可能性が低いエリアを照射エリアR1に含まないように、電波センサ1の送信アンテナ1b及び受信アンテナ1cの少なくとも一方の指向性が設定されている。
【0077】
対象判定部241は、照射エリアR1のうち、人が存在する可能性が高い一部のエリアを判定エリアとし、判定エリア内の物体9で反射した受信波のみに基づいて、物体9が人であるか否かを判定することが好ましい。すなわち、判定エリアを制限して外乱物体の影響を人の影響に比べて相対的に小さくする。この結果、判定エリア内の人の検出漏れを抑制することができる。
【0078】
図15は、判定エリアの設定例を示す。ここでは、矩形体状のベッド8に横たわっている人91を検出対象の物体9とする。ベッド8の長さ方向(長手方向)の両端、及び幅方向(短手方向)の一端のそれぞれには物体9としてのカーテン92が配置されている。
【0079】
この場合、電波センサ1は、人91の頭側に配置される。具体的に、電波センサ1は、ベッド8のヘッドボード、ベッド8のヘッドボード側の壁などに設置される。電波センサ1の指向性は、鉛直方向から見て、照射エリアR1がベッド8をできるだけ含み、カーテン92をできるだけ含まない水滴形状に設定されている。
【0080】
対象判定部241は、照射エリアR1のうち、距離Lが距離閾値L0未満の領域を非判定エリアR10とする。対象判定部241は、照射エリアR1のうち、距離Lが距離閾値L0以上、かつ、距離閾値L1未満の領域を判定エリアR11とする。対象判定部241は、照射エリアR1のうち、距離Lが距離閾値L1以上、かつ、距離閾値L2未満の領域を判定エリアR12とする。対象判定部241は、照射エリアR1のうち、距離Lが距離閾値L2以上の領域を非判定エリアR13とする。なお、距離閾値L0は、電波センサ1の近傍で人91を含まない距離Lである。距離閾値L1は、人91の上半身を含み、下半身を殆ど含まない距離Lである。距離閾値L2は、ベッド8の長さ方向の全長にほぼ等しい値である。
【0081】
したがって、判定エリアR11は、ベッド8上の人91の上半身を含み、カーテン92を含まない領域となり、外乱物体を検出する可能性が低い領域になる。判定エリアR12は、ベッド8上の人91の下半身を含み、判定エリアR12のエッジはカーテン92に接する。しかし、判定エリアR12のエッジのカーテン92による影響は低い。
【0082】
そして、対象判定部241は、距離判定部242が第2差分信号ΔY(t0,t2)に基づいて求めた距離判定値が距離閾値L0以上、かつ、距離閾値L2未満であれば、第1差分信号ΔY(t0,t1)及び第2差分信号ΔY(t0,t2)を用いた判定処理を行う。すなわち、対象判定部241は、第1差分信号ΔY(t0,t1)の第1差分値ΔZ1、及び第2差分信号ΔY(t0,t2)の第2差分値ΔZ2の比[ΔZ2/ΔZ1]から評価値Gaを求め、評価値Gaを用いた判定処理を行う。言い換えると、対象判定部241は、判定エリアR11、R12のいずれかに存在する物体9についてのみ、物体9が人であるか否かを判定する。したがって、対象判定部241は、カーテン92などの外乱物体を人91であると判定する誤判定、及び人91をカーテン92などの外乱物体であると判定する誤判定を抑制できる。
【0083】
(1.6)第2変形例
また、第1実施形態では、対象判定部241は、評価値Gaを少なくとも1つの評価閾値と比較することで、物体9が検出対象であるか否かを判定すればよい。
【0084】
例えば、対象判定部241は、評価値Gaを1つの評価閾値と比較することで、物体9が検出対象であるか否かを2段階で判定する。あるいは、対象判定部241は、評価値Gaを3つの評価閾値と比較することで、物体9が検出対象であるか否かを4段階で判定する。
【0085】
(2)第2実施形態
(2.1)信号処理
図16は、第2実施形態の信号処理システム2Aを備えるセンサシステムA2を示す。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付して、説明は省略する。
【0086】
信号処理システム2Aは、物体9が検出対象の状態を精度よく判定するために、電波センサ1の送信アンテナ1b及び受信アンテナ1cの少なくとも一方の指向性を検出対象の物体9に応じて予め設定することで、図17に示すように電波の照射エリアR1を検出対象の物体9に応じて制限している。具体的に、人91が存在する可能性が高いエリアを照射エリアR1に含み、人91が存在する可能性が低いエリアを照射エリアR1に含まないように、電波センサ1の送信アンテナ1b及び受信アンテナ1cの少なくとも一方の指向性が設定されている。
【0087】
さらに、信号処理システム2Aの判定部24は、距離判定部243、及び対象判定部244を備える。
【0088】
距離判定部243は、第2差分信号ΔY(t0,t2)のスペクトルにおいて、信号強度のピークがピーク閾値Kb1(図18参照)以上となる周波数をピーク周波数fpとして検出する。距離判定部243は、ピーク周波数fpに基づいて、物体9の状態として距離Lを判定する(距離判定値を求める)。距離判定部243は、距離Lを判定する毎に、距離判定値のデータを距離データとして生成する。
【0089】
具体的に、距離判定部243は、測距前処理として、時間領域の信号である第2差分信号ΔY(t0,t2)にFFT又はDCTを施すことで、第2差分信号ΔY(t0,t2)を周波数領域の信号である第2差分信号ΔY(f)に変換する。
【0090】
図18は、第2差分信号ΔY(f)の一例を示す。距離判定部243は、距離判定処理として、第2差分信号ΔY(f)の信号強度をピーク閾値Kb1と比較する。そして、距離判定部243は、距離判定処理として、ピーク閾値Kb1以上の領域で、第2差分信号ΔY(f)の信号強度がピーク値をとるピーク周波数fpを抽出する。ピーク周波数fpはビート周波数fb(式1参照)に相当するので、距離判定部243は、ピーク周波数fpを式1のビート周波数fbに代入することで、距離Lを一義的に求めることができる。
【0091】
次に、対象判定部244は、図17に示すように、照射エリアR1のうち、人91が存在する可能性が高い一部のエリアを判定エリアR21とし、再評価処理として、判定エリアR21内の物体9で反射した受信波による距離データを抽出する。すなわち、判定エリアR21を制限して外乱物体93の影響を人91の影響に比べて相対的に小さくする。この結果、判定エリアR21内の人91の検出漏れを抑制することができる。
【0092】
具体的に図17に示すように、矩形体状のベッド8に横たわっている人91を検出対象の物体9とする。図17では、電波センサ1は、人91の頭側に配置される。そして、外乱物体93が人91を挟んで電波センサ1と対向しているとする。この場合、電波センサ1と外乱物体93との間の距離は、電波センサ1と人91との間の距離よりも長くなる。
【0093】
そこで、対象判定部244は、距離閾値L10、L11を予め設定している。距離閾値L10、L11の大小関係は、L10<L11である。対象判定部244は、照射エリアR1のうち、距離Lが距離閾値L10未満の領域を非判定エリアR20とする。対象判定部244は、照射エリアR1のうち、距離Lが距離閾値L10以上、かつ、距離閾値L11未満の領域を判定エリアR21とする。対象判定部244は、照射エリアR1のうち、距離Lが距離閾値L11以上の領域を非判定エリアR22とする。なお、距離閾値L10は、電波センサ1の近傍で人91を含まない距離Lである。距離閾値L11は、ベッド8の長さ方向の全長にほぼ等しい値である。
【0094】
対象判定部244は、距離判定値を距離閾値L10、L11と比較することで、距離判定値が距離閾値L10以上、かつ、距離閾値L11未満であるか否かを判定する。
【0095】
具体的に、図19Aは、距離判定部243が演算周期毎に求めた多数の距離判定値に対応する距離データDaを時間軸に沿ってプロットしたグラフである。期間Tb1は、ベッド8に人91が存在していない期間である。期間Tb1の後の期間Tb2は、ベッド8に人91が仰向けに横たわっている期間である。期間Tb2の後の期間Tb3は、ベッド8に人91が存在していない期間である。図19Aの多数の距離データDaは、人91による距離データDa1と、外乱物体による距離データDa2とが混在している。そこで、対象判定部244は、多数の距離データDaのうち、距離判定値が距離閾値L10以上、かつ、距離閾値L11未満となる距離データDaのみを、人91による距離データDa2として抽出する。
【0096】
次に、対象判定部244は、指標算出処理として、抽出した距離データDa2を用いて、距離データDa2の所定時間当たりの密度に基づく指標を求める。指標は、物体9が人91である確からしさを表す値であり、本実施形態では、指標が大きいほど物体9が人91である可能性が高くなる。
【0097】
具体的に、対象判定部244は、図20に示すように、距離閾値L10以上、かつ、距離閾値L11未満の範囲で所定時間Twの時間長さを有する評価窓W1を設定する。すなわち、評価窓W1に含まれる距離データDaは距離データDa2であり、評価窓W1に含まれる距離データDaの数は、距離データDa2の所定時間Tw当たりの密度に相当する。対象判定部244は、評価窓W1に含まれる距離データDaの数(距離データDa2の所定時間Tw当たりの密度)を指標として求める。対象判定部244は、評価窓W1を予め決められたスライド時間ずつ時間経過に沿ってずらし、評価窓W1をずらす度に指標を求める。
【0098】
図19Bは、図19Aの距離データDa2から求められた指標を表す。ベッド8に人91が仰向けに横たわっている期間Tb2における指標は、ベッド8に人91が存在しない期間Tb1、Tb3における指標に比べて、大きくなる。そこで、対象判定部244は、判定処理として、指標を予め決められた指標閾値Kc1と比較する。対象判定部244は、指標が指標閾値Kc1以上となる状態が一定時間以上継続すれば、判定エリアR21に人91が存在すると判定する。
【0099】
図21Aは、別の距離データDaを時間軸に沿ってプロットしたグラフである。期間Tb11は、ベッド8に人91が存在していない期間である。期間Tb11の後の期間Tb12は、ベッド8に人91が横向きに横たわっている期間である。期間Tb12の後の期間Tb13は、ベッド8に人91が存在していない期間である。ベッド8に人91が横向きに横たわると、ベッド8に人91が仰向けに横たわるときに比べて、電波センサ1の送信波101(図1参照)が人91の背中で反射する可能性が高くなる。すなわち、人91の呼吸による動きが受信波102に反映され難くなる。しかしながら、本実施形態では図21Bに示すように、ベッド8に人91が仰向けに横たわっている期間Tb2における指標は、ベッド8に人91が存在しない期間Tb1、Tb3における指標に比べて、大きくなる。したがって、対象判定部244は、指標を指標閾値Kc1と比較することで、期間Tb12において人91が判定エリアR21に存在すると判定することができる。
【0100】
図22Aは、カーテンなどの外乱物体のみが判定エリアR21に存在するときの距離データDaを時間軸に沿ってプロットしたグラフである。この場合、指標は、指標閾値Kc1より小さくなる。したがって、対象判定部244は、指標を指標閾値Kc1と比較することで、人91が判定エリアR21に存在していないと判定することができる。
【0101】
図23Aは、ベッド8の中央に人91が仰向けに横たわっているときの指標を示す。この場合、指標は、指標閾値Kc1より大きくなる。したがって、対象判定部244は、指標を指標閾値Kc1と比較することで、人91が判定エリアR21に存在していると判定することができる。
【0102】
図23Bは、ベッド8の端に人91が座っているときの指標を示す。この場合、指標は、指標閾値Kc1より大きくなる。したがって、対象判定部244は、指標を指標閾値Kc1と比較することで、人91が判定エリアR21に存在していると判定することができる。
【0103】
図24Aは、非判定エリアR20(図17)に物体9としてカーテンが存在するときの指標を示す。この場合、指標は、指標閾値Kc1より小さくなる。したがって、対象判定部244は、指標を指標閾値Kc1と比較することで、人91が判定エリアR21に存在していないと判定することができる。
【0104】
図24Bは、非判定エリアR22(図17)に物体9としてカーテンが存在するときの指標を示す。この場合、指標は、指標閾値Kc1より小さくなる。したがって、対象判定部244は、指標を指標閾値Kc1と比較することで、人91が判定エリアR21に存在していないと判定することができる。
【0105】
図24Cは、非判定エリアR22(図17)に物体9として首を振る扇風機が存在するときの指標を示す。この場合、指標は、指標閾値Kc1より小さくなる。したがって、対象判定部244は、指標を指標閾値Kc1と比較することで、人91が判定エリアR21に存在していないと判定することができる。
【0106】
上述のように、本実施形態のセンサシステムA2及び信号処理システム2Aは、指標を指標閾値Kc1と比較することで、照射エリアR1内に存在する物体9が人91であるか否かを精度よく判定できる。
【0107】
(2.2)ピーク検出の感度調整
距離判定部243は、第2差分信号ΔY(t0,t2)のスペクトルにおいて、信号強度のピークがピーク閾値Kb1(図18参照)以上となる周波数をピーク周波数fpとして検出する。しかしながら、センサ信号Y1(Y0)の信号強度は変動することがあり、センサ信号Y1(Y0)の信号強度が比較的低いときには、距離判定部243はピーク周波数fpを検出し難くなる。すなわち、センサ信号Y1(Y0)の信号強度が比較的低いときには、距離判定部243によるピーク検出の感度が比較的低くなり、その結果、対象判定部244による人の判定感度も比較的低くなる。
【0108】
そこで、距離判定部243は、評価値Gaに基づいて、距離判定部243によるピーク検出の感度を変化させることで、ピーク検出の感度を所定範囲内に収める。したがって、距離判定部243は、センサ信号Y1(Y0)の信号強度が比較的低いときでも、ピーク周波数fpを検出することができる。この結果、センサシステムA2及び信号処理システム2Aは、物体9までの距離Lを精度よく判定できる。すなわち、本実施形態においても、判定部24は、評価値Gaを用いて物体9の状態を精度よく判定できる。
【0109】
(2.2.1)感度調整の第1例
例えば、距離判定部243は、評価値Ga1(式2参照)に基づいて、ピーク閾値Kb1を連続的又は段階的に変化させる。この場合、距離判定部243は、評価値Ga1が大きいほど、ピーク閾値Kb1を大きくし、評価値Ga1が小さいほど、ピーク閾値Kb1を小さくする。
【0110】
また、距離判定部243は、評価値Ga2(式3参照)に基づいて、ピーク閾値Kb1を連続的又は段階的に変化させてもよい。この場合、距離判定部243は、評価値Ga2が小さいほど、ピーク閾値Kb1を大きくし、評価値Ga2が大きいほど、ピーク閾値Kb1を小さくする。
【0111】
距離判定部243は、ピーク閾値Kb1を変化させることで、ピーク検出の感度を所定範囲内に収めることができる。
【0112】
(2.2.2)感度調整の第2例
例えば、差分演算部23は、評価値Ga1(式2参照)に基づく増幅率で、センサ信号Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2)のそれぞれを増幅する。この場合、差分演算部23は、評価値Ga1が大きいほど、増幅率を小さくし、評価値Ga1が小さいほど、増幅率を大きくする。すなわち、差分演算部23は、評価値Ga1に基づいて、センサ信号Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2)の各信号強度を変化させる。なお、差分演算部23は、増幅率を1以上にするだけでなく、1未満としてもよい。
【0113】
また、差分演算部23は、評価値Ga2(式3参照)に基づく増幅率で、センサ信号Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2)のそれぞれを増幅する。この場合、差分演算部23は、評価値Ga2が小さいほど、増幅率を小さくし、評価値Ga1が大きいほど、増幅率を大きくする。すなわち、差分演算部23は、評価値Ga2に基づいて、センサ信号Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2)の各信号強度を変化させる。なお、差分演算部23は、増幅率を1以上にするだけでなく、1未満としてもよい。
【0114】
差分演算部23は、センサ信号Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2)の各信号強度を変化させることで、ピーク検出の感度を所定範囲内に収めることができる。
【0115】
(2.3)信号処理方法
本実施形態の信号処理方法をまとめると、信号処理方法は図25のフローチャートで表される。
【0116】
図25の信号処理方法は、差分評価ステップS11、感度調整ステップS12、測距前処理ステップS13、距離判定ステップS14、再評価ステップS15、指標算出ステップS16、及び対象判定ステップS17を備える。
【0117】
差分評価ステップS11は、実施形態1の受信ステップS1、記憶ステップS2、差分演算ステップS3、及び評価値算出ステップS4(図13参照)で構成される。すなわち、差分評価ステップS11では、対象判定部241(判定部24)が、第1差分値ΔZ1と第2差分値ΔZ2との比[ΔZ2/ΔZ1]を用いて、評価値Gaを求める。
【0118】
感度調整ステップS12では、距離判定部243が、評価値Gaに基づいてピーク閾値Kb1を変化させることで、ピーク検出の感度を調整する。あるいは、感度調整ステップS12では、差分演算部23が、評価値Gaに基づいてセンサ信号Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2)の各信号強度を変化させることで、ピーク検出の感度を調整する。
【0119】
測距前処理ステップS13では、距離判定部243が、時間領域の信号である第2差分信号ΔY(t0,t2)にFFT又はDCTを施すことで、第2差分信号ΔY(t0,t2)を周波数領域の信号である第2差分信号ΔY(f)に変換する。
【0120】
距離判定ステップS14では、距離判定部243が、第2差分信号ΔY(f)の信号強度をピーク閾値Kb1と比較し、ピーク閾値Kb1以上の領域で、第2差分信号ΔY(f)の信号強度がピーク値をとるピーク周波数fpを抽出する。
【0121】
再評価ステップS15では、対象判定部244が、照射エリアR1のうち判定エリアR21(図17参照)内の物体9で反射した受信波による距離データDa1を抽出する。
【0122】
指標算出ステップS16では、対象判定部244が、抽出した距離データDa1を用いて、距離データDa1の所定時間当たりの密度に基づく指標を求める。
【0123】
対象判定ステップS17では、対象判定部244が、指標を予め決められた指標閾値Kc1と比較する。対象判定部244は、指標が指標閾値Kc1以上となる状態が一定時間以上継続すれば、判定エリアR21に人91が存在すると判定する。
【0124】
コンピュータシステムのメモリに記録されているプログラムは、プロセッサに上述の信号処理方法を実行させることが好ましい。
【0125】
上述の信号処理方法及びプログラムも、物体9の状態を精度よく判定できる。
【0126】
(3)その他の変形例
上述の信号処理システムは、2つの差分信号(第1差分信号ΔY(t0,t1)、第2差分信号ΔY(t0,t2))の各差分値(第1差分値ΔZ1、第2差分値ΔZ2)を用いて、評価値Gaを求めている。しかしながら、信号処理システムは、3つ以上の差分信号の各差分値を用いて、評価値Gaを求めてもよい。
【0127】
また、第1差分値ΔZ1と第2差分値ΔZ2との比は、ΔZ1/ΔZ2であってもよい。
【0128】
また、検出対象となる物体9は人91以外であってもよく、例えば犬、猫などの動物、ロボット、可動部を有する機械、移動可能な機械、可動部を有する電気機器、又は移動可能な電気機器などが検出対象であってもよい。
【0129】
また、信号処理システムは、物体9が検出対象の人91であるときのセンサ信号Y0と、物体9が外乱物体93であるときのセンサ信号Y0との差分を差分信号としてもよい。すなわち、信号処理システムは、時間的にずれた複数のセンサ信号Y0の差分信号だけでなく、物体9が異なる複数のセンサ信号Y0の差分信号を用いることでも、上記同様の効果を奏し得る。
【0130】
また、電波センサ1は、物体9までの距離を測定可能な電波センサであれば、FMCW方式の電波センサ以外であってもよい。電波センサ1は、例えば2周波FSK(Frequency shift keying)方式の電波センサであってもよい。
【0131】
なお、上述の実施形態、及び各変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0132】
(4)まとめ
実施形態に係る第1の態様の信号処理システム(2、2A)は、電波センサ(1)から、電波センサ(1)と物体(9)との間の距離(L)の情報を含むセンサ信号(Y0)を受け取る。電波センサ(1)は、送信波(101)として電波を出力し、物体(9)で反射した電波を受信波(102)として受信する。信号処理システム(2、2A)は、差分演算部(23)と、判定部(24)と、を備える。差分演算部(23)は、基準タイミング(t0)、及び基準タイミング(t0)からそれぞれずれた複数の比較タイミング(t1、t2)のそれぞれにおけるセンサ信号(Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2))を用いる。差分演算部(23)は、基準タイミング(t0)におけるセンサ信号(Y1(t0))と複数の比較タイミング(t1、t2)における複数のセンサ信号(Y1(t1)、Y1(t2))のそれぞれとの差を、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))として生成し、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))のそれぞれの大きさを複数の差分値(ΔZ、ΔZ1、ΔZ2)として求める。判定部(24)は、複数の差分値(ΔZ、ΔZ1、ΔZ2)に基づく評価値(Ga、Ga1、Ga2)を求め、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を用いて物体(9)の状態を判定する。
【0133】
上述の信号処理システム(2、2A)は、物体(9)の状態を精度よく判定できる。
【0134】
実施形態に係る第2の態様の信号処理システム(2、2A)では、第1の態様において、複数の比較タイミング(t1、t2)のそれぞれは、基準タイミング(t0)より過去のタイミングであることが好ましい。
【0135】
上述の信号処理システム(2、2A)は、物体(9)の状態を精度よく判定できる。
【0136】
実施形態に係る第3の態様の信号処理システム(2、2A)では、第1又は第2の態様において、複数の差分値(ΔZ、ΔZ1、ΔZ2)のそれぞれは、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))のそれぞれの大きさの平均値、実効値、又は標準偏差であることが好ましい。
【0137】
上述の信号処理システム(2、2A)は、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))のそれぞれの大きさを具体的に求めることができる。
【0138】
実施形態に係る第4の態様の信号処理システム(2、2A)では、第1乃至3のいずれか1つの態様において、判定部(24)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)として、複数の差分値(ΔZ1、ΔZ2)の比(ΔZ2/ΔZ1、ΔZ1/ΔZ2)を用いることが好ましい。
【0139】
上述の信号処理システム(2、2A)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)が相対的な値になり、判定処理の精度が向上する。
【0140】
実施形態に係る第5の態様の信号処理システム(2)では、第1乃至第4の態様のいずれか1つにおいて、判定部(24)は、対象判定部(241)を備えることが好ましい。対象判定部(241)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を用いて、物体(9)の状態として物体(9)が予め決められた検出対象(91)であるか否かを判定する。
【0141】
上述の信号処理システム(2)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を直接的に用いて、物体(9)が検出対象(91)であるか否かを判定することができる。
【0142】
実施形態に係る第6の態様の信号処理システム(2)では、第5の態様において、対象判定部(241)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を少なくとも1つの評価閾値(Ka1、Ka2)と比較することで、物体(9)が検出対象(91)であるか否かを判定することが好ましい。
【0143】
上述の信号処理システム(2)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を直接的に用いて、物体(9)が検出対象(91)であるか否かを判定することができる。
【0144】
実施形態に係る第7の態様の信号処理システム(2)では、第6の態様において、対象判定部(241)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を2つの評価閾値(Ka1、Ka2)と比較することで、物体(9)が検出対象(91)である可能性を3段階で判定することが好ましい。
【0145】
上述の信号処理システム(2)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を直接的に用いて、物体(9)が検出対象(91)である可能性を3段階で判定することができる。
【0146】
実施形態に係る第8の態様の信号処理システム(2A)では、第1乃至第4の態様のいずれか1つにおいて、センサ信号(Y0)は、距離(L)に応じて周波数が変化する信号であることが好ましい。判定部(24)は、距離判定部(243)を備えることが好ましい。距離判定部(243)は、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))の少なくとも1つのスペクトルにおいて、信号強度のピークがピーク閾値(Kb1)以上となる周波数をピーク周波数(fp)として検出し、ピーク周波数(fp)に基づいて物体(9)の状態として距離(L)を判定する。距離判定部(243)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)に基づいて、ピーク閾値(Kb1)を変化させる。
【0147】
上述の信号処理システム(2A)は、物体(9)までの距離(L)を精度よく判定することができる。
【0148】
実施形態に係る第9の態様の信号処理システム(2A)では、第1乃至第4の態様のいずれか1つにおいて、センサ信号(Y0)は、距離(L)に応じて周波数が変化する信号であることが好ましい。判定部(24)は、距離判定部(243)を備えることが好ましい。距離判定部(243)は、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))の少なくとも1つのスペクトルにおいて、信号強度のピークがピーク閾値(Kb1)以上となる周波数をピーク周波数(fp)として検出し、ピーク周波数(fp)に基づいて物体(9)の状態として距離(L)を判定する。差分演算部(23)は、評価値(Ga、Ga1、Ga2)に基づいて、基準タイミング(t0)及び複数の比較タイミング(t1、t2)のそれぞれにおけるセンサ信号(Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2))の信号強度を変化させる。
【0149】
上述の信号処理システム(2A)は、物体(9)までの距離(L)を精度よく判定することができる。
【0150】
実施形態に係る第10の態様の信号処理システム(2A)では、第8又は第9の態様において、判定部(24)は、物体(9)の状態として物体(9)が予め決められた検出対象(91)であるか否かを判定する対象判定部(244)を更に備えることが好ましい。距離判定部(243)は、距離(L)を判定する毎に距離データ(Da)を生成する。対象判定部(244)は、距離データ(Da)の所定時間(Tw)当たりの密度に基づく指標を求め、指標を指標閾値(Kc1)と比較することで、物体(9)が検出対象(91)であるか否かを判定する。
【0151】
上述の信号処理システム(2A)は、物体(9)が検出対象(91)であるか否かを精度よく判定することができる。
【0152】
実施形態に係る第11の態様の信号処理システム(2、2A)では、第5乃至第7、及び第10の態様のいずれか1つにおいて、対象判定部(241、244)は、電波センサ(1)からの距離(L)が所定範囲内となる物体(9)のみについて、検出対象(91)であるか否かを判定することが好ましい。
【0153】
上述の信号処理システム(2、2A)は、外乱物体(93)の影響を抑えて、物体(9)が検出対象(91)であるか否かを精度よく判定することができる。
【0154】
実施形態に係る第12の態様の信号処理システム(2、2A)では、第1乃至第11の態様のいずれか1つにおいて、差分演算部(23)は、複数の比較タイミングを2つの比較タイミング(t1、t2)とすることが好ましい。差分演算部(23)は、基準タイミング(t0)におけるセンサ信号(Y1(t0))と2つの比較タイミング(t1、t2)における2つのセンサ信号(Y1(t1)、Y1(t2))のそれぞれとの差を、2つの差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))として生成する。差分演算部(23)は、2つの差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))のそれぞれの大きさを2つの差分値(ΔZ1、ΔZ2)として求める。
【0155】
上述の信号処理システム(2、2A)は、物体(9)の状態を精度よく判定できる。
【0156】
実施形態に係る第13の態様の信号処理システム(2、2A)では、第12の態様において、2つの比較タイミングは、第1比較タイミング(t1)及び第2比較タイミング(t2)であることが好ましい。第1比較タイミング(t1)は、第2比較タイミング(t2)より基準タイミング(t0)に近く、基準タイミング(t0)と第2比較タイミング(t2)と間の時間長さは、人の呼吸の1/4周期以上である。
【0157】
上述の信号処理システム(2、2A)は、検出対象である人(91)の状態を精度よく判定できる。
【0158】
実施形態に係る第14の態様のセンサシステム(A1、A2)は、第1乃至第13の態様のいずれか1つの信号処理システム(2、2A)と、電波センサ(1)と、を備える。
【0159】
上述のセンサシステム(A1、A2)は、物体(9)の状態を精度よく判定できる。
【0160】
実施形態に係る第15の態様のセンサシステム(A1、A2)では、第14の態様において、電波センサ(1)は、送信波(101)を出力する送信アンテナ(1b)、及び受信波(102)を受信する受信アンテナ(1c)を有する。送信アンテナ(1b)及び受信アンテナ(1c)の少なくとも一方は指向性を有することが好ましい。
【0161】
上述のセンサシステム(A1、A2)は、外乱物体(93)の影響を抑えて、物体(9)の状態を精度よく判定できる。
【0162】
実施形態に係る第16の態様の信号処理方法は、電波センサ(1)から、電波センサ(1)と物体(9)との間の距離(L)の情報を含むセンサ信号(Y0)を受け取る。電波センサ(1)は、送信波(101)として電波を出力し、物体(9)で反射した電波を受信波(102)として受信する。信号処理方法は、差分演算ステップ(S3)と、判定ステップ(S5、S14)と、を備える。差分演算ステップ(S3)は、基準タイミング(t0)、及び基準タイミング(t0)からそれぞれずれた複数の比較タイミング(t1、t2)のそれぞれにおけるセンサ信号(Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2))を用いる。差分演算ステップ(S3)は、基準タイミング(t0)におけるセンサ信号(Y1(t0))と複数の比較タイミング(t1、t2)における複数のセンサ信号(Y1(t1)、Y1(t2))のそれぞれとの差を、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))として生成し、複数の差分信号(ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2))のそれぞれの大きさを複数の差分値(ΔZ、ΔZ1、ΔZ2)として求める。判定ステップ(S5、S14)は、複数の差分値(ΔZ、ΔZ1、ΔZ2)に基づく評価値(Ga、Ga1、Ga2)を求め、評価値(Ga、Ga1、Ga2)を用いて物体(9)の状態を判定する。
【0163】
上述の信号処理方法は、物体(9)の状態を精度よく判定できる。
【0164】
実施形態に係る第17の態様のプログラムは、コンピュータシステムに、第16の態様の信号処理方法を実行させる。
【0165】
上述のプログラムは、物体(9)の状態を精度よく判定できる。
【符号の説明】
【0166】
1 電波センサ
1b 送信アンテナ
1c 受信アンテナ
101 送信波
102 受信波
2、2A 信号処理システム
23 差分演算部
24 判定部
243 距離判定部
244対象判定部
9 物体
91 人(検出対象)
L 距離
Y0、Y1(t0)、Y1(t1)、Y1(t2) センサ信号
t0 基準タイミング
t1 第1比較タイミング(比較タイミング)
t2 第2比較タイミング(比較タイミング)
ΔY(t0,t1)、ΔY(t0,t2) 差分信号
ΔZ、ΔZ1、ΔZ2 差分値
Ga、Ga1、Ga2 評価値
Ka1、Ka2 評価閾値
Kb1 ピーク閾値
Kc1 指標閾値
fp ピーク周波数
Da 距離データ
Tw 所定時間
S3 差分演算ステップ
S5 判定ステップ
S14 距離判定ステップ(判定ステップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25