(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】抗体、複合体、それを用いた検出装置及び検出方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/10 20060101AFI20230707BHJP
C07K 17/04 20060101ALI20230707BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230707BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230707BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230707BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
C07K17/04
C12M1/34 F
G01N33/68
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2019044177
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】池内 江美奈
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-058812(JP,A)
【文献】特開2018-058811(JP,A)
【文献】特開2020-011918(JP,A)
【文献】特開2019-048795(JP,A)
【文献】特開2019-052136(JP,A)
【文献】特開2021-004177(JP,A)
【文献】特開2020-148511(JP,A)
【文献】国際公開第2007/074811(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/074812(WO,A1)
【文献】特開2010-261912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列からなる抗体であって、前記アミノ酸配列は、NからCの方向に、以下の構造ドメインからなり、
N - FR1 - CDR1 - FR2 - CDR2 - FR3 - CDR3 - FR4 - C
FRは、フレームワーク領域のアミノ酸配列を示し、かつCDRは、相補性決定領域のアミノ酸配列を示し、
前記CDR1はGFTFSNY(配列番号:01)により表されるアミノ酸配列からなり、
前記CDR2は、NSGGTG(配列番号:02)により表されるアミノ酸配列からなり、
前記CDR3は、RVDGRVLSTIVVSYDY(配列番号:03)により表されるアミノ酸配列からな
り、
前記抗体は、A型インフルエンザウィルス亜型H1N1(A/Hyogo/YS/2011), H1N1(A/Hokkaido/6-5/2014), H5N1(A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007), H7N7(A/duck/Hokkaido/Vac-2/2004), H1N1(A/duck/Tottori/723/1980), H2N3(A/dk/Hokkaido/17/01), H3N2(A/duck/Hokkaido/5/77), H3N8(A/duck/Mongolia/4/03), H4N6(A/dk/Czech/56), H6N5(A/shearwater/S. Australia/1/72), H7N2(A/duck/Hong Kong/301/78), H5N2(A/duck/Pennsylvania/10218/84), H9N2(A/turkey/Wisconsin/1966), H12N5(A/duck/Alberta/60/76), H10N7(A/chicken/Germany/N/1949)のいずれの核内タンパク質にも結合可能である。
【請求項2】
請求項
1に記載の抗体であって、
前記FR1は、EVQLVESGGGLVQPGGSLSLSCAAS(配列番号:04)により表されるアミノ酸配列からなり、
前記FR2は、YMGWFRQAPGKERQSLATV(配列番号:05)により表されるアミノ酸配列からなり、
前記FR3は、EAYADSIRGRFTISRDNAKNTVTLQMSSLQPEDTAVYYCA(配列番号:06)により表されるアミノ酸配列からなり、かつ
前記FR4は、WGQGTQVTVSS(配列番号:07)により表されるアミノ酸配列からなる。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の抗体を含み、前記抗体は、担体及び標識物質の少なくとも一方と結合されている、
複合体。
【請求項4】
前記担体は、プレート、ビーズ、ディスク、チューブ、フィルター及び薄膜から選択される、
請求項
3に記載の複合体。
【請求項5】
前記標識物質は、蛍光物質、発光物質、色素、酵素及び放射性物質から選択される、
請求項
3に記載の複合体。
【請求項6】
請求項
3に記載の複合体と、検出部とを含み、
前記検出部は、被分析物中の核内タンパク質と前記複合体との抗原抗体反応に基づく物理量の変化を検出する、
検出装置。
【請求項7】
請求項
3に記載の複合体と、被分析物とを接触させるステップと、
前記被分析物中の核内タンパク質と前記複合体との抗原抗体反応に基づく物理量の変化を検出するステップとを含む、
検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウィルスの核内タンパク質に結合する抗体、複合体、それを用いた検出装置及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、インフルエンザウィルスに結合する抗体を開示している。特許文献1に開示された抗体の少なくとも一部は、アルパカに由来する。特許文献1は、本明細書に参照として援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2014/0302063号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、インフルエンザウィルスの核内タンパク質に結合する新規な抗体、複合体、それを用いた検出装置及び検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アミノ酸配列からなる抗体であって、前記アミノ酸配列は、NからCの方向に、以下の構造ドメインからなり:
N - FR1 - CDR1 - FR2 - CDR2 - FR3 - CDR3 - FR4 - C
FRは、フレームワーク領域のアミノ酸配列を示し、かつCDRは、相補性決定領域のアミノ酸配列を示し、
前記CDR1はGFTFSNY(配列番号:01)により表されるアミノ酸配列からなり、
前記CDR2は、NSGGTG(配列番号:02)により表されるアミノ酸配列からなり、
前記CDR3は、RVDGRVLSTIVVSYDY(配列番号:03)により表されるアミノ酸配列からなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、インフルエンザウィルスの核内タンパク質に結合する新規な抗体、複合体、それを用いた検出装置及び検出方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、VHH抗体の遺伝子ライブラリに含まれる様々な遺伝子をライゲーションするために用いられたベクターのマップを示す図である。
【
図2】
図2は、VHH抗体を発現するために用いられたベクターマップを示す図である。
【
図3A】
図3Aは、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体(濃度:0.63nM)のリコンビナント核内タンパク質への結合能力のSPR評価結果を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体(濃度:1.9nM)のリコンビナント核内タンパク質への結合能力のSPR評価結果を示すグラフである。
【
図3C】
図3Cは、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体(濃度:5.6nM)のリコンビナント核内タンパク質への結合能力のSPR評価結果を示すグラフである。
【
図3D】
図3Dは、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体(濃度:16.7nM)のリコンビナント核内タンパク質への結合能力のSPR評価結果を示すグラフである。
【
図3E】
図3Eは、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体(濃度:50nM)のリコンビナント核内タンパク質への結合能力のSPR評価結果を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、インフルエンザウィルスA型H1N1 A/Hyogo/YS/2011に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、インフルエンザウィルスA型H1N1 A/Hokkaido/6-5/2014に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4C】
図4Cは、インフルエンザウィルスA型H5N1 A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4D】
図4Dは、インフルエンザウィルスA型H7N7 A/duck/Hokkaido/Vac-2/2004に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4E】
図4Eは、インフルエンザウィルスA型H1N1 A/duck/Tottori/723/1980に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4F】
図4Fは、インフルエンザウィルスA型H2N3 A/dk/Hokkaido/17/01に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4G】
図4Gは、インフルエンザウィルスA型H3N2 A/duck/Hokkaido/5/77に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4H】
図4Hは、インフルエンザウィルスA型H3N8 A/duck/Mongolia/4/03に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4I】
図4Iは、インフルエンザウィルスA型H4N6 A/dk/Czech/56に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4J】
図4Jは、インフルエンザウィルスA型H6N5 A/shearwater/S. Australia/1/72に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4K】
図4Kは、インフルエンザウィルスA型H7N2 A/duck/Hong Kong/301/78に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4L】
図4Lは、インフルエンザウィルスA型H5N2 A/duck/Pennsylvania/10218/84に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4M】
図4Mは、インフルエンザウィルスA型H9N2 A/turkey/Wisconsin/1966に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4N】
図4Nは、インフルエンザウィルスA型H12N5 A/duck/Alberta/60/76に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4O】
図4Oは、インフルエンザウィルスA型H10N7 A/chicken/Germany/N/1949に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【
図4P】
図4Pは、インフルエンザウィルスB型 B/Hokkaido/M2/2014に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る抗体は、インフルエンザウィルスに結合する。特許文献1にも開示されているように、インフルエンザウィルスに結合する抗体は、NからCの方向に、以下の構造ドメインを含むアミノ酸配列からなる。
【0009】
N - FR1 - CDR1 - FR2 - CDR2 - FR3 - CDR3 - FR4 - C
ここで、FRは、フレームワーク領域のアミノ酸配列を示し、かつCDRは、相補性決定領域のアミノ酸配列を示す。
本発明に係る抗体は、上記の構造ドメインを含むアミノ酸配列からなる。
【0010】
本発明においては、CDR1はGFTFSNY(配列番号:01)により表されるアミノ酸配列からなる。
【0011】
本発明においては、CDR2は、NSGGTG(配列番号:02)により表されるアミノ酸配列からなる。
【0012】
本発明においては、CDR3は、RVDGRVLSTIVVSYDY(配列番号:03)により表されるアミノ酸配列からなる。
【0013】
望ましくは、CDR1、CDR2、及び、CDR3は、それぞれ、配列番号:01、配列番号:02、及び、配列番号:03により表される。この場合、より望ましくは、FR1、FR2、FR3、及び、FR4は、それぞれ、EVQLVESGGGLVQPGGSLSLSCAAS(配列番号:04)、YMGWFRQAPGKERQSLATV(配列番号:05)、EAYADSIRGRFTISRDNAKNTVTLQMSSLQPEDTAVYYCA(配列番号:06)、及び、WGQGTQVTVSS(配列番号:07)により表されるアミノ酸配列からなる。
【0014】
言い換えれば、本発明による抗体は、以下のアミノ酸配列からなることがより望ましい。
EVQLVESGGGLVQPGGSLSLSCAASGFTFSNYYMGWFRQAPGKERQSLATVNSGGTGEAYADSIRGRFTISRDNAKNTVTLQMSSLQPEDTAVYYCARVDGRVLSTIVVSYDYWGQGTQVTVSS(配列番号:08)
【0015】
例えば、本発明に係る抗体は、A型インフルエンザウィルスの核内タンパク質に結合する。この場合、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなる抗体は、B型インフルエンザウィルスのような、A型インフルエンザウィルス以外のインフルエンザウィルスに対して抗原交差反応性を示さなくてもよい。
【0016】
本発明の抗体は、例えば、A型インフルエンザウィルスの核内タンパク質を検出するための検出装置又は検出方法において用いられてもよい。この場合、本発明の抗体は、担体及び標識物質の少なくとも一方に結合した複合体の状態で用いられる。
【0017】
担体は、抗原抗体反応の反応系における溶媒に不溶な担体であれば、その形状及び材質は特に制限されない。担体の形状としては、例えば、プレート、ビーズ、ディスク、チューブ、フィルター、薄膜などが挙げられる。担体の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等のポリマー、金、銀、アルミニウム等の金属、ガラスなどが挙げられる。抗体を担体へ結合させる方法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法が使用される。
【0018】
標識物質としては、例えば、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、放射性物質などが使用される。抗体を標識物質へ結合させる方法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法が使用される。
【0019】
本発明の抗体を用いた検出方法では、当該抗体を含む複合体と、被分析物とが接触させられ、被分析物中のA型インフルエンザウィルスの核内タンパク質と、複合体中の抗体との抗原抗体反応に基づく物理量の変化が検出される。当該物理量としては、例えば、発光強度、色度、光透過度、濁度、吸光度、放射線量などが挙げられる。検出方法の具体例としては、酵素免疫測定法、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、放射免疫測定法、蛍光免疫測定法、表面プラズモン共鳴測定法などの公知の方法が挙げられる。
【0020】
本発明の抗体を用いた検出装置は、抗原抗体反応に基づき変化する上記物理量のいずれかを検出するための検出部を含む。検出部は、各種光度計、分光器、線量計など公知の装置で構成される。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
(実施例1)
H1N1インフルエンザウィルスA型に含まれる核内タンパク質に結合するVHH抗体
(すなわち、重鎖抗体の重鎖の可変領域)が、以下の手順に従って調製された。以下、核内タンパク質は「NP」と呼ばれる。
【0022】
(アルパカへの免疫及び単核球の取得)
VHH抗体遺伝子ライブラリを作製するため、H1N1インフルエンザウィルスA型(A/Puerto Rico/8/34/Mount Sinai)由来のリコンビナント核内タンパク質(配列番号:24)を抗原として用いてアルパカが免疫された。リコンビナント核内タンパク質は、ヒゲタ醤油株式会社においてブレビバチルス発現システムを用いて作製された。リコンビナント核内タンパク質は、アジュバントを用いてアルパカに投与される前に調整された。
【0023】
実施例1において用いられたリコンビナント核内タンパク質(配列番号:24)の配列は以下のとおりである。
MASQGTKRSYEQMETDGERQNATEIRASVGKMIGGIGRFYIQMCTELKLSDYEGRLIQNSLTIERMVLSAFDERRNKYLEEHPSAGKDPKKTGGPIYRRVNGKWMRELILYDKEEIRRIWRQANNGDDATAGLTHMMIWHSNLNDATYQRTRALVRTGMDPRMCSLMQGSTLPRRSGAAGAAVKGVGTMVMELVRMIKRGINDRNFWRGENGRKTRIAYERMCNILKGKFQTAAQKAMMDQVRESRNPGNAEFEDLTFLARSALILRGSVAHKSCLPACVYGPAVASGYDFEREGYSLVGIDPFRLLQNSQVYSLIRPNENPAHKSQLVWMACHSAAFEDLRVLSFIKGTKVLPRGKLSTRGVQIASNENMETMESSTLELRSRYWAIRTRSGGNTNQQRASAGQISIQPTFSVQRNLPFDRTTIMAAFNGNTEGRTSDMRTEIIRMMESARPEDVSFQGRGVFELSDEKAASPIVPSFDMSNEGSYFFGDNAEEYDN(配列番号:24)
具体的には、100マイクログラム/ミリリットルの濃度を有するリコンビナント核内タンパク質が、アルパカへ投与された。1週間後、再度、同じ濃度を有するリコンビナント核内タンパク質が、アルパカへ投与された。このようにして、5週間かけて5回、アルパカはリコンビナント核内タンパク質を用いて免役された。さらに1週間後、アルパカの血液を採取した。次いで、以下のように血液から単核球が取得された。
【0024】
リンパ球分離チューブ(株式会社グライナージャパンより購入、商品名:Leucosep)に、血球分離溶液(コスモ・バイオ株式会社より購入、商品名:Lymphoprep)が添加された。次いで、溶液は、摂氏20度の温度で1000×gで1分間遠心された。
【0025】
アルパカから採取された血液は、ヘパリンによって処理された。次に、このように処理された血液に等量のリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」という)が添加され、サンプル液を得た。次いで、サンプル液は血球分離溶液が添加されたリンパ球分離チューブに添加された。
【0026】
リンパ球分離チューブは、摂氏20度の温度で800×gで 30分遠心された。
【0027】
単核球を含有する画分が回収され、3倍の容量を有するPBSが添加された。画分は、摂氏20度の温度で 300×gで 5分遠心された。沈殿物が、PBSを用いて穏やかに懸濁された。懸濁後、細胞数の測定のために10マイクロリットルの懸濁液が分離された。残りの懸濁液が、摂氏20度の温度で 300×gで 5分間遠心された。
【0028】
沈殿物に2ミリリットルの容積を有するRNA保存溶液(商品名:RNAlater)が添加された。次いで、溶液は穏やかに懸濁された。懸濁液が、2本の1.5mLチューブに注入された。各チューブは、1ミリリットルの懸濁液を含んでいた。チューブは、摂氏-20度の温度下で保存された。細胞数の測定のために分離された懸濁液(5マイクロリットル)が、チュルク液(15マイクロリットル)と混合され、血球計算盤を用いて単核球の数が数えられた。
【0029】
(VHH抗体のcDNA遺伝子ライブラリの作製)
次に、単核球からTOTAL RNAを抽出し、そしてVHH抗体のcDNA遺伝子ライブラリが以下の手順で作製された。以下の手順では、RNase free gradeの試薬及び器具が使用された。
【0030】
単核球分画に、トータルRNA抽出試薬(商品名:TRIzol Reagent、1ミリリットル)を加えた。試薬は緩やかに混和され、そして室温にて5分間放置された。クロロホルム(200マイクロリットル)が試薬に加えられ、そして15秒間、試薬は力強く振られた。試薬は、室温で2~3分間静置された。試薬は、摂氏4度で15分間、12,000xg以下で遠心された。
【0031】
上清が新しいチューブに移された。RNaseフリー水及びクロロホルム(各200マイクロリットル)がチューブに加えられた。さらに500ミリリットルのイソプロパノールがチューブに加えられた。チューブに含まれる液体はボルテックスミキサーを用いて撹拌された。液体は室温で10分間静置された。次いで、液体は摂氏4度の温度で15分間、12,000xg以下で遠心された。上清が捨てられ、沈殿物が1ミリリットルの75% エタノールでリンスされた。この溶液は、摂氏4度の温度で5分間、7,500xg以下で遠心された。溶液は乾燥され、全RNAを得た。得られた全RNAは、RNaseフリー水に溶解された。
【0032】
Total RNAからcDNAを取得するため,逆転写酵素を含むキット(タカラバイオ株式会社より入手、商品名:PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit)が用いられた。キットに含まれるRandom 6 mer及びOligo dT primerがプライマーとして用いられた。キットの標準プロトコルに従って、cDNAが取得された。
【0033】
アルパカに含まれるVHH抗体の遺伝子が、cDNAからPCR法によって獲得された。PCRのための酵素はタカラバイオ株式会社よりEx-taqの商品名として入手された。
【0034】
以下の試薬が混合され、混合液を得た。
10x buffer 5 マイクロリットル
dNTPs 4 マイクロリットル
Primer F 2 マイクロリットル
Primer R 2 マイクロリットル
cDNA template 1 マイクロリットル
Ex-taq 0.25 マイクロリットル
混合液は以下のPCR法に供された。
【0035】
まず、混合液は、摂氏95度で2分間で加熱された。
【0036】
次いで、混合液の温度は、以下のサイクルに従って変化された。
摂氏96度で30秒間
摂氏52度で30秒間、そして
摂氏68度で40秒間。
このサイクルが30回繰り返された。
【0037】
最後に、混合液は、摂氏68度で4分間加熱した後、摂氏4度で保存された。
【0038】
このPCR法においては、以下のプライマーが使用された。
primer 1: 5’- GGTGGTCCTGGCTGC -3’ (配列番号:09)
primer 2: 5’- ctgctcctcgcGGCCCAGCCGGCCatggcTSAGKTGCAGCTCGTGGAGTC -3’ (配列番号:10)
primer 3: 5’- TGGGGTCTTCGCTGTGGTGCG -3’ (配列番号:11)
primer 4: 5’- TTGTGGTTTTGGTGTCTTGGG -3’ (配列番号:12)
primer 5: 5’- tttgCtctGCGGCCGCagaGGCCgTGGGGTCTTCGCTGTGGTGCG -3’ (配列番号:13)
primer 6: 5’- tttgCtctGCGGCCGCagaGGCCgaTTGTGGTTTTGGTGTCTTGGG -3’ (配列番号:14)
(参考文献:Biomed Environ Sci, 2012; 27(2):118-121)
【0039】
3回のPCR法が実施された。
【0040】
1回目のPCR法では、cDNA、Primer1及びPrimer3からなるプライマーセットA、並びにcDNA、Primer1及びPrimer4からなるプライマーセットBが用いられた。
【0041】
2回目のPCR法では、プライマーセットAを用いて増幅された遺伝子、Primer2及びPrimer3からなるプライマーセットC、並びに、プライマーセットBを用いて増幅された遺伝子、Primer2及びPrimer4からなるプライマーセットDが用いられた。
【0042】
3回目のPCR法では、プライマーセットCを用いて増幅された遺伝子、Primer2及びPrimer5からなるプライマーセットE、並びに、プライマーセットDを用いて増幅された遺伝子、Primer2及びPrimer6からなるプライマーセットFが用いられた。このようにして、VHH抗体の遺伝子ライブラリが形成された。言い換えれば、VHH抗体の遺伝子ライブラリは、プライマーセットE及びプライマーセットFを用いて増幅された遺伝子を含んでいた。
【0043】
(ファージライブラリの作製)
次に、VHH抗体の遺伝子ライブラリから、以下の手順に従ってファージライブラリが作製された。
【0044】
市販されているプラスミドpUC119(例えば、タカラバイオ株式会社より入手可能)由来のプラスミドVector1(4057塩基対、
図1A参照)が、制限酵素SfiIにより処理された。
図1Aにおける制限酵素サイトSfiI(a)は、GGCCCAGCCGGCC(配列番号:15)により表される遺伝子配列からなる。制限酵素サイトSfiI(b)は、GGCCTCTGCGGCC(配列番号:16)により表される遺伝子配列からなる。
図1Bは、プラスミドVector1の詳細なベクターマップを示す。
【0045】
プラスミドVector1は、以下の遺伝子配列からなる。
gacgaaagggcctcgtgatacgcctatttttataggttaatgtcatgataataatggtttcttagacgtcaggtggcacttttcggggaaatgtgcgcggaacccctatttgtttatttttctaaatacattcaaatatgtatccgctcatgagacaataaccctgataaatgcttcaataatattgaaaaaggaagagtatgagtattcaacatttccgtgtcgcccttattcccttttttgcggcattttgccttcctgtttttgctcacccagaaacgctggtgaaagtaaaagatgctgaagatcagttgggtgcacgagtgggttacatcgaactggatctcaacagcggtaagatccttgagagttttcgccccgaagaacgttttccaatgatgagcacttttaaagttctgctatgtggcgcggtattatcccgtattgacgccgggcaagagcaactcggtcgccgcatacactattctcagaatgacttggttgagtactcaccagtcacagaaaagcatcttacggatggcatgacagtaagagaattatgcagtgctgccataaccatgagtgataacactgcggccaacttacttctgacaacgatcggaggaccgaaggagctaaccgcttttttgcacaacatgggggatcatgtaactcgccttgatcgttgggaaccggagctgaatgaagccataccaaacgacgagcgtgacaccacgatgcctgtagcaatggcaacaacgttgcgcaaactattaactggcgaactacttactctagcttcccggcaacaattaatagactggatggaggcggataaagttgcaggaccacttctgcgctcggcccttccggctggctggtttattgctgataaatctggagccggtgagcgtgggtctcgcggtatcattgcagcactggggccagatggtaagccctcccgtatcgtagttatctacacgacggggagtcaggcaactatggatgaacgaaatagacagatcgctgagataggtgcctcactgattaagcattggtaactgtcagaccaagtttactcatatatactttagattgatttaaaacttcatttttaatttaaaaggatctaggtgaagatcctttttgataatctcatgaccaaaatcccttaacgtgagttttcgttccactgagcgtcagaccccgtagaaaagatcaaaggatcttcttgagatcctttttttctgcgcgtaatctgctgcttgcaaacaaaaaaaccaccgctaccagcggtggtttgtttgccggatcaagagctaccaactctttttccgaaggtaactggcttcagcagagcgcagataccaaatactgtccttctagtgtagccgtagttaggccaccacttcaagaactctgtagcaccgcctacatacctcgctctgctaatcctgttaccagtggctgctgccagtggcgataagtcgtgtcttaccgggttggactcaagacgatagttaccggataaggcgcagcggtcgggctgaacggggggttcgtgcacacagcccagcttggagcgaacgacctacaccgaactgagatacctacagcgtgagctatgagaaagcgccacgcttcccgaagggagaaaggcggacaggtatccggtaagcggcagggtcggaacaggagagcgcacgagggagcttccagggggaaacgcctggtatctttatagtcctgtcgggtttcgccacctctgacttgagcgtcgatttttgtgatgctcgtcaggggggcggagcctatggaaaaacgccagcaacgcggcctttttacggttcctggccttttgctggccttttgctcacatgttctttcctgcgttatcccctgattctgtggataaccgtattaccgcctttgagtgagctgataccgctcgccgcagccgaacgaccgagcgcagcgagtcagtgagcgaggaagcggaagagcgcccaatacgcaaaccgcctctccccgcgcgttggccgattcattaatgcagctggcacgacaggtttcccgactggaaagcgggcagtgagcgcaacgcaattaatgtgagttagctcactcattaggcaccccaggctttacactttatgcttccggctcgtatgttgtgtggaattgtgagcggataacaatttcacacaggaaacagctatgaccatgattacgccAAGCTTCGAAGGAGACAGTCATAatgaaatacctgctgccgaccgctgctgctggtctgctgctcctcgcGGCCCAGCCGGCCatggagcTCAAGATGACACAGACTACATCCTCCCTGTCAGCCTCTCTGGGAGACAGAGTCACCATCAGTTGCAGGGCAAGTCAGGACATTAGCGATTATTTAAACTGGTATCAGCAGAAACCAGATGGAACTGTTAAACTCCTGATCTATTACACATCAAGTTTACACTCAGGAGTCCCATCAAGGTTCAGTGGCGGTGGGTCTGGAACAGATTATTCTCTCACCATTAGCAACCTGGAGCAAGAAGATATTGCCACTTACTTTTGCCAACAGGGTAATACGCTTCCGTGGACGTTTGGTGGAGGCACCAAGCTGGAAATCAAACGGGCTGATGCTGCACCAACTgtaGGCCtctGCGGCCGCagaGcaaaaactcatctcagaagaggatctgaatggggccgcaTAGggttccggtgattttgattatgaaaagatggcaaacgctaataagggggctatgaccgaaaatgccgatgaaaacgcgctacagtctgacgctaaaggcaaacttgattctgtcgctactgattacggtgctgctatcgatggtttcattggtgacgtttccggccttgctaatggtaatggtgctactggtgattttgctggctctaattcccaaatggctcaagtcggtgacggtgataattcacctttaatgaataatttccgtcaatatttaccttccctccctcaatcggttgaatgtcgcccttttgtctttagcgctggtaaaccatatgaattttctattgattgtgacaaaataaacttattccgtggtgtctttgcgtttcttttatatgttgccacctttatgtatgtattttctacgtttgctaacatactgcgtaataaggagtctTAATAAgaattcactggccgtcgttttacaacgtcgtgactgggaaaaccctggcgttacccaacttaatcgccttgcagcacatccccctttcgccagctggcgtaatagcgaagaggcccgcaccgatcgcccttcccaacagttgcgcagcctgaatggcgaatggcgcctgatgcggtattttctccttacgcatctgtgcggtatttcacaccgCATATGaAAATTGTAAgcgttaatattttgttaaaattcgcgttaaatttttgttaaatcagctcattttttaaccaataggccgaaatcggcaaaatcccttataaatcaaaagaatagaccgagatagggttgagtgttgttccagtttggaacaagagtccactattaaagaacgtggactccaacgtcaaagggcgaaaaaccgtctatcagggcgatggcccactacgtgaaccatcaccctaatcaagttttttggggtcgaggtgccgtaaagcactaaatcggaaccctaaagggagcccccgatttagagcttgacggggaaagccggcgaacgtggcgagaaaggaagggaagaaagcgaaaggagcgggcgctagggcgctggcaagtgtagcggtcacgctgcgcgtaaccaccacacccgccgcgcttaatgcgccgctacaGGGCGCGTcccatATGgtgcactctcagtacaatctgctctgatgccgcatagttaagccagccccgacacccgccaacacccgctgacgcgccctgacgggcttgtctgctcccggcatccgcttacagacaagctgtgaccgtctccgggagctgcatgtgtcagaggttttcaccgtcatcaccgaaacgcgcga(配列番号:17)
同様に、VHH抗体の遺伝子ライブラリも制限酵素SfiIにより処理された。このようにして、VHH抗体遺伝子断片が得られた。
【0046】
このように処理されたプラスミドVector1が、VHH抗体遺伝子断片と、1:2の割合で混合された。混合液に、酵素(東洋紡株式会社より入手、商品名:Ligation High ver.2)が注入された。混合液は摂氏16度の温度下で2時間静置された。このようにして、VHH抗体遺伝子断片がプラスミドVector1にライゲーションされた。
【0047】
このようにしてライゲーションされたプラスミドVector1を用いて、大腸菌(タカラバイオ株式会社より入手、商品名:HST02)がトランスフェクトされた。
【0048】
次いで、大腸菌は、100マイクログラム/ミリリットルの濃度を有するアンピシリンを含有する2YTプレート培地上で15時間、培養された。このようにして、VHH抗体の遺伝子ライブラリに含まれる遺伝子断片から得られるタンパク質を提示するファージのライブラリが得られた。
【0049】
培養後、2YTプレート培地上に形成されたシングルコロニーの数をカウントすることでライブラリの濃度を算出した。その結果、ライブラリは、5x107/ミリリットルの濃度を有していた。
【0050】
(バイオパニング)
核内タンパク質に特異的に結合するVHH抗体が、ファージライブラリから以下の手順に従って得られた。
【0051】
VHH抗体を発現したファージの中から、抗原に結合するクローンを抽出するため、2回のバイオパンニングを実施した。
【0052】
VHH抗体の遺伝子ライブラリに含まれるVHH抗体遺伝子断片が導入された大腸菌(HST02)を、吸光度を示す値(OD600)が1.0になるまで摂氏30度にて100mLの 2YT AG(100ug/mLのアンピシリン及び1%グルコースを含有した2YT培地)の培地中で培養し、大腸菌を増殖させた。
【0053】
ヘルパーファージ(M13KO7)(Invitrogen社より購入)を感染多重度(MOI)がおよそ20となるよう大腸菌含有培地へ加えた。
【0054】
その後、培地が30分ほど摂氏37度で保温された。次いで、培地を4000rpmの回転数で10分間遠心し、大腸菌を回収した。100mLの2YTAK培地(100ug/mLのアンピシリン及び50ug/mLのカナマイシンを含有した2YT培地)中で、摂氏30度で、213rpmにて遠心しながら、大腸菌を一晩培養した。
【0055】
上記のように培養された大腸菌を含有する培養液(100ミリリットル)が、2本の遠沈管(容積:50ミリリットル)に注入された。2つの培養液は、4000rpmの回転数で10分間遠心された。次いで、上清(各20ミリリットル)が回収された。
【0056】
上清(40ミリリットル)が、NaCl(2.5M)を含有する20% PEG溶液(10ミリリットル)に添加された。次いで、混合液は、転倒混和された。その後、混合液は、およそ1時間氷上にて冷却された。混合液は、4000rpmの回転数で10分間遠心された。次いで、上清が除去された。10%グリセロールを含有するPBSが沈殿物に向けて注入された。最後に、沈殿物は、ほぐしながら溶解された。このようにして、VHH抗体を提示するファージのライブラリが得られた。
【0057】
(NPに特異的に結合するVHH抗体のスクリーニング)
(A) NP抗原の固定化
NPをPBSと混合し、NP溶液を調製した。NPの濃度は2マイクログラム/ミリリットルであった。NP溶液(2ミリリットル)が、イムノチューブ(ヌンク社より購入)に注入された。NP溶液はイムノチューブ内で一晩静置された。このようにして、イムノチューブの内部にNPが固定された。
【0058】
次いで、イムノチューブの内部がPBSを用いて3回、洗浄された。
【0059】
3%スキムミルク(和光純薬株式会社より入手)を含有するPBSをイムノチューブに満たした。このようにして、NPが抗原としてイムノチューブの内部にブロッキングされた。
【0060】
イムノチューブは、室温にて1時間、静置された。その後、イムノチューブの内部がPBSを用いて3回、洗浄された。
【0061】
(B)パニング
VHH抗体を提示するファージのライブラリ(濃度:およそ5E+11/ミリリットル)が、3%のスキムミルクを含有した3ミリリットルのPBSと混合され、混合液を調製した。混合液は、NP抗原が固定化されたイムノチューブに注入された。
【0062】
イムノチューブには、パラフィルムからなる蓋が取り付けられた。次いで、イムノチューブは、ローテーターを用いて、10分間、転倒しながら回転された。
【0063】
イムノチューブは、室温にて1時間、静置された。
【0064】
イムノチューブの内部は、0.05%のtween20を含有するPBS(以下、「PBST」という)で10回、洗浄された。
【0065】
イムノチューブの内部は、PBSTにより満たされた。その後、イムノチューブは、10分間、静置された。次いで、イムノチューブの内部は、PBSTで10回、洗浄された。
【0066】
NP抗原に結合したVHH抗体を提示するファージを抽出するために、100mMトリメチルアミン溶液(1ミリリットル)がイムノチューブに注入された。
【0067】
イムノチューブには、パラフィルムからなる蓋が取り付けられた。次いで、イムノチューブは、ローテーターを用いて、10分間、転倒しながら回転された。
【0068】
溶液を中和するため、溶液は、1mLの0.5M Tris/HCl(pH:6.8)を含有するチューブに移した。再度、100mMトリメチルアミン溶液(1ミリリットル)を用いたファージの抽出を繰り返した。このようにして、3mLの抽出液が得られた。
【0069】
抽出液(1mL)が、9mLの大腸菌HST02と混合された。混合液は、摂氏30度の温度で1時間、静置された。
【0070】
コロニーを計数するため、大腸菌HST02を含有する10マイクロリットルの混合液は、2TYA培地を含む小プレート(10ミリリットル/プレート)にまかれた。
【0071】
残りの混合液は遠心分離された。上澄み液は捨てられ、かつ沈殿物は2TYA培地を含む大プレート(40ミリリットル/プレート)にまかれた。これらの2つのプレートは、摂氏30度の温度下にて一晩静置された。このようにして、1回目のパニングが行われた。
【0072】
1回目のパニングの手順と全く同様に、2回目のパニングが行われた。言い換えれば、パニングが繰り返された。このようにして、VHH抗体を提示するモノクローナルファージが精製された。
【0073】
2回目のパニングの後、大腸菌のコロニーが爪楊枝でピックアップされた。ピックアップされた1つのコロニーは、96平底プレートの1つのウェルに置かれた。これが繰り返された。1つのウェルは、200マイクロリットルの2YTAG培地を含有していた。
【0074】
ウェル内の溶液が、摂氏30度で213rpmの回転数で撹拌された。
【0075】
増殖した大腸菌を含む溶液(50マイクロリットル)が回収された。回収された溶液は、プレートに含まれる50マイクロリットルの2YTA培地と混合された。2YTA培地は、感染多重度MOIが20になるようなヘルパーファージを含有していた。溶液は、摂氏37度の温度で40分間静置された。
【0076】
2YTA培地を含むプレートは、1800rpmにて20分間遠心分離された。上清が捨てられた。沈殿物が大腸菌を含んでいた。沈殿物は、200マイクロリットルの2YTAK培地と混合された。混合液は、摂氏30度にて一晩静置された。
【0077】
混合液は、1800rpmにて20分間遠心分離された。大腸菌を含む上清が回収された。
【0078】
(C) ELISAによるファージ提示VHH抗体及び抗原の定性評価
96ウェルプレート(Thermo scientific社より購入、商品名:maxisorp)の各ウェルに、2マイクログラム/ミリリットルの濃度を有する核内タンパク質溶液を抗原として添加した。各ウェルにおけるHAタンパク質溶液の容積は、50マイクロリットルであった。96ウェルプレートは、4℃で一晩、放置された。このようにして、NP抗原が各ウェルに固定された。
【0079】
各ウェルは、PBSにより3回、洗浄された。次いで、3%スキムミルク(和光純薬株式会社より入手)を含有するPBSが各ウェルに注入された(200マイクロリットル/ウェル)。96ウェルプレートは、室温で1時間、放置された。このようにして、核内タンパク質が各ウェルでブロックされた。その後、各ウェルは、PBSで3回、洗浄された。
【0080】
VHH抗体を提示するモノクローナルファージが、各ウェルに注入された(50マイクロリットル/ウェル)。次いで、96ウェルプレートは、1時間、静置された。このようにして、ファージはNP抗原と反応した。
【0081】
各ウェルは、PBSTを用いて3回、洗浄された。次に、抗M13抗体(abcam社より入手、商品名:ab50370、10000倍希釈)が各ウェルに添加された(50マイクロリットル/ウェル)。次いで、各ウェルはPBSTで3回、洗浄された。
【0082】
発色剤(Thermo Scientific社より入手、商品名:1-STEP ULTRA TMB-ELISA)が各ウェルに注入された(50マイクロリットル/ウェル)。96ウェルプレートは2分間静置され、発色剤を抗体と反応させた。
【0083】
硫酸水溶液(1規定)が50マイクロリットル/ウェルの濃度で各ウェルに添加され、反応を停止させた。
【0084】
450ナノメートルの波長での溶液の吸光度が測定された。
【0085】
良好な吸光度測定の結果を有する14のウェルが選択された。選択された14つのウェルに含有されるファージに含まれるDNA配列が、グライナー社により解析された。DNA配列の解析結果は、以下のとおりである。以下の1つDNA配列が見いだされた。
GAGGTGCAGCTCGTGGAGTCTGGGGGAGGCTTGGTGCAGCCTGGGGGGTCTCTGAGCCTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTCAGTAATTATTACATGGGCTGGTTCCGCCAGGCACCAGGGAAGGAACGACAGTCTCTAGCGACAGTTAACTCAGGTGGTACTGGGGAGGCCTATGCAGACTCCATACGGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGACAACGCCAAGAACACGGTGACGCTACAAATGAGCAGCCTGCAACCTGAGGACACGGCCGTTTATTACTGTGCACGAGTCGACGGGCGTGTCCTGAGTACAATAGTAGTTTCTTACGACTACTGGGGCCAGGGGACCCAGGTCACCGTCTCCTCA(配列番号:18)
【0086】
配列番号:18により表されるDNA配列から合成される蛋白質は、以下のアミノ酸配列からなる。
EVQLVESGGGLVQPGGSLSLSCAASGFTFSNYYMGWFRQAPGKERQSLATVNSGGTGEAYADSIRGRFTISRDNAKNTVTLQMSSLQPEDTAVYYCARVDGRVLSTIVVSYDYWGQGTQVTVSS(配列番号:08)
【0087】
(抗NP VHH抗体の発現)
ベクターpRA2(+)が発現ベクターとして用いられた(
図2参照)。ベクターpRA2(+)は、メルク社から購入された。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社より購入)を用いて、VHH配列がベクターpRA2(+)に付加された。以下、付加された手順が詳細に説明される。
【0088】
まず、以下2つのプライマー(配列番号:19及び配列番号:20)を用いて、PCR法により、VHH抗体の遺伝子ライブラリに含まれるVHH抗体遺伝子断片がライゲーションされたプラスミドVector1から、VHH抗体遺伝子断片が複製された。このようにして、配列番号:08により表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子配列を含む以下の1つのDNA(配列番号:21)が得られた。
Primer 1: 5’- CAGCCGGCCATGGCTGAGGTGCAGCTCGTGGAGTCTGG -3’ (配列番号:19)
Primer 2: 5’- ATGGTGTGCGGCCGCTGAGGAGACGGTGACCTGGGTCC -3’ (配列番号:20)
5’- CAGCCGGCCATGGCTGAGGTGCAGCTCGTGGAGTCTGGGAGGTGCAGCTCGTGGAGTCTGGGGGAGGCTTGGTGCAGCCTGGGGGGTCTCTGAGCCTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTCAGTAATTATTACATGGGCTGGTTCCGCCAGGCACCAGGGAAGGAACGACAGTCTCTAGCGACAGTTAACTCAGGTGGTACTGGGGAGGCCTATGCAGACTCCATACGGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGACAACGCCAAGAACACGGTGACGCTACAAATGAGCAGCCTGCAACCTGAGGACACGGCCGTTTATTACTGTGCACGAGTCGACGGGCGTGTCCTGAGTACAATAGTAGTTTCTTACGACTACTGGGGCCAGGGGACCCAGGTCACCGTCTCCTCAGGACCCAGGTCACCGTCTCCTCAGCGGCCGCACACCAT -3’ (配列番号:21)
【0089】
一方、以下2つのプライマー(配列番号:22および配列番号23)を用いて、PCR法により、ベクターpRA2に含まれる一部の塩基配列が増幅された。このようにして、DNA(配列番号:25)が得られた。
Primer 1: 5’- GCGGCCGCACACCATCATCACCACCATTAATAG-3’ (配列番号:22)
Primer 2: 5’- AGCCATGGCCGGCTGGGCCGCGAGTAATAAC-3’ (配列番号:23)
GCGGCCGCACACCATCATCACCACCATTAATAGcactagtcaagaggatccggctgctaacaaagcccgaaaggaagctgagttggctgctgccaccgctgagcaataactagcataaccccttggggcctctaaacgggtcttgaggggttttttgctgaaaggaggaactatatccggatgaattccgtgtattctatagtgtcacctaaatcgtatgtgtatgatacataaggttatgtattaattgtagccgcgttctaacgacaatatgtacaagcctaattgtgtagcatctggcttactgaagcagaccctatcatctctctcgtaaactgccgtcagagtcggtttggttggacgaaccttctgagtttctggtaacgccgtcccgcacccggaaatggtcagcgaaccaatcagcagggtcatcgctagccagatcctctacgccggacgcatcgtggccggcatcaccggcgccacaggtgcggttgctggcgcctatatcgccgacatcaccgatggggaagatcgggctcgccacttcgggctcatgagcgcttgtttcggcgtgggtatggtggcaggccccgtggccgggggactgttgggcgccatctccttgcatgcaccattccttgcggcggcggtgctcaacggcctcaacctactactgggctgcttcctaatgcaggagtcgcataagggagagcgtcgaatggtgcactctcagtacaatctgctctgatgccgcatagttaagccagccccgacacccgccaacacccgctgacgcgccctgacgggcttgtctgctcccggcatccgcttacagacaagctgtgaccgtctccgggagctgcatgtgtcagaggttttcaccgtcatcaccgaaacgcgcgagacgaaagggcctcgtgatacgcctatttttataggttaatgtcatgataataatggtttcttagacgtcaggtggcacttttcggggaaatgtgcgcggaacccctatttgtttatttttctaaatacattcaaatatgtatccgctcatgagacaataaccctgataaatgcttcaataatattgaaaaaggaagagtatgagtattcaacatttccgtgtcgcccttattcccttttttgcggcattttgccttcctgtttttgctcacccagaaacgctggtgaaagtaaaagatgctgaagatcagttgggtgcacgagtgggttacatcgaactggatctcaacagcggtaagatccttgagagttttcgccccgaagaacgttttccaatgatgagcacttttaaagttctgctatgtggcgcggtattatcccgtattgacgccgggcaagagcaactcggtcgccgcatacactattctcagaatgacttggttgagtactcaccagtcacagaaaagcatcttacggatggcatgacagtaagagaattatgcagtgctgccataaccatgagtgataacactgcggccaacttacttctgacaacgatcggaggaccgaaggagctaaccgcttttttgcacaacatgggggatcatgtaactcgccttgatcgttgggaaccggagctgaatgaagccataccaaacgacgagcgtgacaccacgatgcctgtagcaatggcaacaacgttgcgcaaactattaactggcgaactacttactctagcttcccggcaacaattaatagactggatggaggcggataaagttgcaggaccacttctgcgctcggcccttccggctggctggtttattgctgataaatctggagccggtgagcgtgggtctcgcggtatcattgcagcactggggccagatggtaagccctcccgtatcgtagttatctacacgacggggagtcaggcaactatggatgaacgaaatagacagatcgctgagataggtgcctcactgattaagcattggtaactgtcagaccaagtttactcatatatactttagattgatttaaaacttcatttttaatttaaaaggatctaggtgaagatcctttttgataatctcatgaccaaaatcccttaacgtgagttttcgttccactgagcgtcagaccccgtagaaaagatcaaaggatcttcttgagatcctttttttctgcgcgtaatctgctgcttgcaaacaaaaaaaccaccgctaccagcggtggtttgtttgccggatcaagagctaccaactctttttccgaaggtaactggcttcagcagagcgcagataccaaatactgttcttctagtgtagccgtagttaggccaccacttcaagaactctgtagcaccgcctacatacctcgctctgctaatcctgttaccagtggctgctgccagtggcgataagtcgtgtcttaccgggttggactcaagacgatagttaccggataaggcgcagcggtcgggctgaacggggggttcgtgcacacagcccagcttggagcgaacgacctacaccgaactgagatacctacagcgtgagctatgagaaagcgccacgcttcccgaagggagaaaggcggacaggtatccggtaagcggcagggtcggaacaggagagcgcacgagggagcttccagggggaaacgcctggtatctttatagtcctgtcgggtttcgccacctctgacttgagcgtcgatttttgtgatgctcgtcaggggggcggagcctatggaaaaacgccagcaacgcggcctttttacggttcctggccttttgctggccttttgctcacatgttctttcctgcgttatcccctgattctgtggataaccgtattaccgcctttgagtgagctgataccgctcgccgcagccgaacgaccgagcgcagcgagtcagtgagcgaggaagcggaagagcgcccaatacgcaaaccgcctctccccgcgcgttggccgattcattaatgcagctggcttatcgaaattaatacgactcactatagggagacccaagctttatttcaaggagacagtcataATGaaatacctattgcctacggcagccgctggattgttattactcgcggcccagccggccatggct(配列番号:25)
【0090】
以下の2つのDNA(I)及び(II)以外のDNAは、制限酵素DpnI(東洋紡より入手)を用いて断片化された。言い換えれば、以下の2つのDNA(I)及び(II)の2つのDNAはそのままであったが、他のDNAは断片化された。
(I) 配列番号:21により表されるDNA
(II) 配列番号:25により表されるDNA
【0091】
In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社より購入)を用いて、配列番号:21により表されるDNAが、配列番号:25により表されるDNAと融合された。このようにして、VHH抗体遺伝子断片がベクターpRA2(+)にライゲーションされた。
【0092】
ライゲーション溶液(10マイクロリットル)及び大腸菌JM109(タカラバイオより入手、100マイクロリットル)が氷上にて混合された。混合液は、30分間、氷上にて静置された。次いで、混合液は、摂氏42度で45秒間加熱された。最後に、混合液は、3分間、氷上で静置された。この手順は、一般的なヒートショック法として知られている。
【0093】
摂氏37度で1時間振とう培養後、全量の混合液が、100マイクログラム/ミリリットルの濃度でアンピシリンを含有するLBA培地上に散布された。LBA培地は、摂氏37度で一晩静置された。
【0094】
LBA培地上に形成されたコロニーの中から、3つのコロニーが選択された。選択された3つのコロニーは、LBA培地(3ミリリットル)で一晩培養された。
【0095】
培養された大腸菌に含まれるプラスミドは、プラスミド抽出キット(Sigmaより入手、商品名:Gene Elute Plasmid Mini Kit)を用いて、LBA培地から抽出された。目的のVHH抗体の遺伝子がプラスミドに挿入されていることを確認するため、プラスミドの配列がグライナー社によって解析された。シーケンスの解析のために、一般的なT7promoter primerセットが用いられた。
【0096】
シーケンスの解析を通して目的通りに形成されたことが確認されたプラスミドが選択された。
【0097】
選択されたプラスミドを用いて、大腸菌(Competent Cell BL21 (DE3) pLysS, ライフテクノロロジーズ社より入手)がヒートショック法によりトランフェクトされた。
【0098】
トランスフェクトされた大腸菌を含有する溶液に、LBA培地(1ミリリットル)が添加された。次いで、大腸菌は、213rpmで振とうされながら、摂氏37度で1時間、回復培養された。
【0099】
次いで、大腸菌溶液が回収された。回収された大腸菌溶液(1ミリリットル)は、LBA培地に散布された。LBA培地は、摂氏37度の温度で一晩、静置された。
【0100】
LBA培地内に形成されたコロニーの中から、1つのコロニーが選択された。選択されたコロニーは、爪楊枝でピックアップされた。ピックアップされたコロニーは、LBA培地(3ミリリットル)中で、213rpmで振とうされながら摂氏37度の温度で培養された。このようにして、培養液を得た。
【0101】
さらに、培養液(3ミリリットル)はLBA培地(1000ミリリットル)に混合された。600ナノメートルの波長での混合液の吸光度が0.6になるまで、混合液は摂氏28度の温度で120rpmで振とうされた。
【0102】
吸光度が0.6となったのち、イソプロピルチオガラクトシド溶液が混合液に添加された。IPTG溶液の最終濃度は0.5mMであった。混合液に含有される大腸菌は、摂氏20度で一晩、培養された。培養された大腸菌を回収するため、混合液は、6000rpmで10分間、摂氏4度で遠心された。
【0103】
回収された大腸菌は、50mM Tris-HCl、500mM NaCl、及び5mMイミダゾールを含有する混合溶媒に混合された。混合溶媒は、50ミリリットルの容量を有していた。混合液に含有される大腸菌は、超音波を用いて破砕された。
【0104】
大腸菌を含む破砕液は、40000xgで30分間、摂氏4度で遠心された。上清が回収され、溶出液を得た。回収された上清は、0.45マイクロメートルフィルタを用いて濾過された。
【0105】
濾液は、Ni-NTA-Agarose(株式会社キアゲンより入手)を用いて推奨プロトコルに従って精製された。精製時には、1ミリリットルのNi-NTA-Agaroseに対して3ミリリットルを有する溶出バッファが用いられた。
【0106】
さらに、抗NP抗体を含有する溶出液がカラムクロマトグラフィー(ゼネラルエレクトリック社より入手、商品名:Akta purifier)を用いて精製された。このようにして、抗NP抗体を含有する溶液が得られた。
【0107】
このようにして得られた溶液に含有される抗NP抗体は、吸光度計(スクラム社より入手、商品名:nanodrop)を用いて、280ナノメートルでの波長での吸収測定値に基づいて定量された。その結果、抗NP抗体の濃度は1.30ミリグラム/ミリリットルであった。
【0108】
(D-1) リコンビナントNPを用いた抗NP抗体の表面プラズモン共鳴評価
リコンビナントNP及び表面プラズモン共鳴評価装置を用いて、抗NP抗体が以下のように評価された。表面プラズモン共鳴(以下、「SPR」という)の詳細は以下のとおりである。
【0109】
SPR評価装置:T200(GE Healthcare社より入手)
固定化バッファ:0.05%Tween20を含むPBS
ランニングバッファ:0.05%Tween20を含むPBS
センサチップ:CM5(GE Healthcare社より入手)
固定化用試薬:N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)及びエチル(ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド(EDC)
抗Flag抗体:Monoclonal ANTI-FLAG antibody(SIGMAより入手)
NP:バキュロウイルスを用いて作製したFlagタグ融合インフルエンザウィルスH1N1由来のリコンビナントヌクレオプロテイン(NP)タンパク質
【0110】
抗Flag抗体は、SPR評価装置T200のコントロールソフトウェアに含まれているウィザードに従って固定化された。抗Flag抗体の固定化のためには、5.0のpHを有する酢酸溶液が用いられた。
【0111】
被分析物として、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなる抗NP抗体が用いられた。1回目~6回目の分析において、ランニングバッファに含有される抗NP抗体の濃度は、それぞれ、0.63nM、1.9nM、5.6nM、16.7nM、50nMに調整された。まず、リコンビナント核内タンパク質を抗Flag抗体に捕捉させて、その後抗NP抗体を流し、抗NP抗体を評価した。
図3A~
図3Eは、SPR評価装置T200から得られた評価結果を示すグラフである。解離定数KDが、評価ソフトウェア(GE Healthcare社より入手)を用いて算出された。その結果、解離定数KDは、0.201nMであった。
【0112】
(D-2) 他のインフルエンザウィルス亜型に対する交差反応性の評価
次に、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体のA型インフルエンザウィルス亜型H1N1(A/Hyogo/YS/2011 pdm), H1N1(A/Hokkaido/6-5/2014 pdm), H5N1(A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007), H7N7(A/duck/Hokkaido/Vac-2/2004), H1N1(A/Puerto Rico/8/34/Mount Sinai), H1N1(A/duck/Tottori/723/1980), H1N1(A/swine/Hokkaido/2/81), H2N3(A/dk/Hokkaido/17/01), H2N9(A/duck/Hong Kong/278/78), H3N2(A/duck/Hokkaido/5/77), H3N8(A/duck/Mongolia/4/03), H4N6(A/dk/Czech/56), H5N2(A/duck/Pennsylvania/10218/84), H5N3(A/duck/Hong Kong/820/80), H6N5(A/shearwater/S. Australia/1/72), H7N2(A/duck/Hong Kong/301/78), H7N7(A/seal/Massachusetts/1/1980), H9N2(A/duck/Hong Kong/448/78), H9N2(A/turkey/Wisconsin/1966), H11N6(A/duck/England/1/1956), H12N5(A/duck/Alberta/60/76)由来のヌクレオプロテイン(すなわち、NP)に対する結合能力を評価するため、核内タンパク質を含むウィルス溶液への結合能力がELISA測定法により評価された。
【0113】
A型インフルエンザウィルス亜型H1N1(A/Hyogo/YS/2011 pdm)由来の核内タンパク質を含むウィルス溶液(共同研究先より入手)が用意された。
【0114】
同様に、それぞれA型インフルエンザウィルス亜型H1N1(A/Hokkaido/6-5/2014), H5N1(A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007), H7N7(A/duck/Hokkaido/Vac-2/2004), H1N1(A/duck/Tottori/723/1980), H2N3(A/dk/Hokkaido/17/01), H3N2(A/duck/Hokkaido/5/77), H3N8(A/duck/Mongolia/4/03), H4N6(A/dk/Czech/56), H6N5(A/shearwater/S. Australia/1/72), H7N2(A/duck/Hong Kong/301/78), H5N2(A/duck/Pennsylvania/10218/84), H9N2(A/turkey/Wisconsin/1966), H12N5(A/duck/Alberta/60/76), H10N7(A/chicken/Germany/N/1949)由来の核内タンパク質を含む、14種類のウィルス溶液(共同研究先より入手)が用意された。
【0115】
さらに、B型インフルエンザウィルス(B/Hokkaido/M2/2014)由来の核内タンパク質を含むウィルス溶液(共同研究先より入手)が用意された。
【0116】
配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体を含有する溶液A(濃度:10マイクログラム/ミリリットル)の一部が3%スキムミルク(和光純薬より入手)及び0.05%tween20の両者を含有するPBS(以下、この溶液を「スキムミルク含有PBST」という)で4倍に希釈された。このようにして、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体を含有する溶液の希釈液B(濃度:2.5マイクログラム/ミリリットル)が得られた。これが繰り返され、希釈液C(濃度:0.625マイクログラム/ミリリットル)、希釈液群D(濃度:0.15625マイクログラム/ミリリットル)、希釈液群E(濃度:0.0390625マイクログラム/ミリリットル)、希釈液群F(濃度:9.76562×10-4マイクログラム/ミリリットル)及び、希釈液群G(濃度:2.44141×10-4マイクログラム/ミリリットル)が得られた。
【0117】
96ウェルプレート(Maxisorp, Nunc)のウェルに、A型インフルエンザウィルス亜型H1N1(A/Hyogo/YS/20), H1N1(A/Hokkaido/6-5/2014), H5N1(A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007), H7N7(A/duck/Hokkaido/Vac-2/2004), H1N1(A/duck/Tottori/723/1980), H2N3(A/dk/Hokkaido/17/01), H3N2(A/duck/Hokkaido/5/77), H3N8(A/duck/Mongolia/4/03), H4N6(A/dk/Czech/56), H6N5(A/shearwater/S. Australia/1/72), H7N2(A/duck/Hong Kong/301/78), H5N2(A/duck/Pennsylvania/10218/84), H9N2(A/turkey/Wisconsin/1966), H12N5(A/duck/Alberta/60/76), H10N7(A/chicken/Germany/N/1949)、及び、B型インフルエンザウィルス(B/Hokkaido/M2/2014)由来の核内タンパク質を含むウィルス溶液が注入された。各ウェルは、50マイクロリットルの溶液を含んでいた。96ウェルプレートは、室温で2時間静置され、ウィルスをウェル内に固定化した。
【0118】
スキムミルク含有PBSTが、各ウェルに注入され、ウィルスをブロックした。各ウェルに注入されたPBSTの容量は、200マイクロリットルであった。96ウェルプレートは、室温にて3時間、静置された。
【0119】
0.05%tween20を含有するPBSTが各ウェルに注入され、ウェルが洗浄された。PBSTは7.4のpHを有していた。各ウェルに注入されたPBSTの容量は、200マイクロリットルであった。これが3回、繰り返された。
【0120】
希釈液A~希釈液Gに含まれる配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の各希釈液が、ウェルに注入された。参照として、スキムミルク含有PBSTが他のウェルに注入された。このスキムミルク含有PBSTのみを含むウェルは、測定時のバックグラウンドを除去するために参照として用いられた。各ウェルに注入された溶液の容量は50マイクロリットルであった。96ウェルプレートは、室温にて静置された。これにより、希釈液A~希釈液Gに含有されるVHH抗体は、ウェルに含まれる核内タンパク質に結合した。96ウェルプレートは、室温にて1時間、静置された。
【0121】
0.05%tween20を含有するPBSTが各ウェルに注入され、ウェルが洗浄された。PBSTは7.4のpHを有していた。各ウェルに注入されたPBSTの容量は、200マイクロリットルであった。これが5回繰り返された。
【0122】
標識抗体(MBL社より入手、商品名:Anti-His-tag mAb-HRP-DirecT)が0.05%tween20を含有するPBSTで10000倍に希釈された。このようにして希釈された標識抗体が、各ウェルに注入された(50マイクロリットル/ウェル)。次いで、96ウェルプレートは、1時間静置された。
【0123】
0.05%tween20を含有するPBSTが各ウェルに注入され、ウェルが洗浄された。PBSTは7.4のpHを有していた。各ウェルに注入されたPBSTの容量は、200マイクロリットルであった。これが5回、繰り返された。
【0124】
発色剤(Thermo Scientific社より入手、商品名:1-STEP ULTRA TMB-ELISA)が各ウェルに注入された(50マイクロリットル/ウェル)。96ウェルプレートは30分間静置され、発色剤を抗体と反応させた。
【0125】
低濃度の硫酸及び塩酸を含有する発色停止剤(ScyTek laboratoriesより入手、商品名:TMB Stop Buffer)が50マイクロリットル/ウェルの濃度で各ウェルに添加され、反応を停止させた。
【0126】
450ナノメートルの波長での溶液の吸光度が測定された。
図4A~
図4Pは、それぞれ、インフルエンザウィルスA型H1N1(A/Hyogo/YS/20), H1N1(A/Hokkaido/6-5/2014), H5N1(A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007), H7N7(A/duck/Hokkaido/Vac-2/2004), H1N1(A/duck/Tottori/723/1980), H2N3(A/dk/Hokkaido/17/01), H3N2(A/duck/Hokkaido/5/77), H3N8(A/duck/Mongolia/4/03), H4N6(A/dk/Czech/56), H6N5(A/shearwater/S. Australia/1/72), H7N2(A/duck/Hong Kong/301/78), H5N2(A/duck/Pennsylvania/10218/84), H9N2(A/turkey/Wisconsin/1966), H12N5(A/duck/Alberta/60/76), H10N7(A/chicken/Germany/N/1949)、及び、インフルエンザウィルスB型に対する配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体の交差反応性の測定結果を示すグラフである。
【0127】
図4A~
図4Pから理解されるように、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体は、A型インフルエンザウィルス亜型H1N1(A/Hyogo/YS/20), H1N1(A/Hokkaido/6-5/2014), H5N1(A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007), H7N7(A/duck/Hokkaido/Vac-2/2004), H1N1(A/duck/Tottori/723/1980), H2N3(A/dk/Hokkaido/17/01), H3N2(A/duck/Hokkaido/5/77), H3N8(A/duck/Mongolia/4/03), H4N6(A/dk/Czech/56), H6N5(A/shearwater/S. Australia/1/72), H7N2(A/duck/Hong Kong/301/78), H5N2(A/duck/Pennsylvania/10218/84), H9N2(A/turkey/Wisconsin/1966), H12N5(A/duck/Alberta/60/76), H10N7(A/chicken/Germany/N/1949)由来の核内タンパク質に対して高い交差反応性を有する。一方、配列番号:08により表されるアミノ酸配列からなるVHH抗体は、B型インフルエンザウィルスに対して低い交差反応性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、例えば、インフルエンザウィルスの核内タンパク質に結合する新規な抗体、複合体、それを用いた検出装置及び検出方法として利用できる。
【配列表】