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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】中子砂除去装置及び中子砂除去方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 29/00 20060101AFI20230707BHJP
   B22C 9/24 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
B22D29/00 F
B22C9/24 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020022310
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126671
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510182881
【氏名又は名称】株式会社融合技術開発センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 雄二
(72)【発明者】
【氏名】大塚 真
(72)【発明者】
【氏名】秋山 秀典
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-305560(JP,A)
【文献】特開2017-094387(JP,A)
【文献】特開2018-200747(JP,A)
【文献】特開2006-205116(JP,A)
【文献】特開2014-168810(JP,A)
【文献】特表2014-532548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 29/00
B22C 9/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造品を液中に浸漬させた状態で、該鋳造品の中子砂が詰まった中子孔からその中子砂をアーク放電によって発生する衝撃波によって崩壊させて除去する中子砂除去装置であって、
上記アーク放電を発生させるための電極部材と、
上記電極部材を上記鋳造品の表面に開口した上記中子孔の開口部に対向させ、該開口部から内部の中子砂の一部が上記衝撃波によって崩壊して排出されることに応じて上記電極部材を上記中子孔に進入させていく電極移動装置と、
上記電極部材に上記アーク放電のためのパルス電圧を印加し、且つ上記電極部材が上記開口部から所定深さまで進入したときに、上記衝撃波が強くなるように上記電極部材にパルス電圧を印加する電源装置とを備えていることを特徴とする中子砂除去装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記鋳造品は、各々該鋳造品の表面に開口し上記中子孔によって連通する複数の開口部を有するものであり、
上記電極部材を複数備え、
上記複数の電極部材が各々の対応する上記開口部から所定深さまで進入したときに、上記複数の電極部材のうちの一部の電極部材について上記衝撃波が強くなるように上記パルス電圧が印加され、残りの電極部材に対する上記パルス電圧の印加が停止されることを特徴とする中子砂除去装置。
【請求項3】
鋳造品を液中に浸漬させた状態で、該鋳造品の中子砂が詰まった中子孔からその中子砂をアーク放電によって発生する衝撃波によって崩壊させて除去する中子砂除去方法であって、
電極部材を上記鋳造品の表面に開口した上記中子孔の開口部に対向させ、該電極部材にパルス電圧を印加して上記中子砂を上記アーク放電による衝撃波によって崩壊させながら、当該電極部材を上記中子孔に進入させていく第1工程と、
上記電極部材が上記開口部から所定深さまで進入したときに、上記電極部材によって発生させる上記衝撃波が強くなるようにする第2工程とを備えていることを特徴とする中子砂除去方法。
【請求項4】
請求項3において、
上記鋳造品は多気筒エンジンのシリンダヘッドであり、
上記中子孔は該シリンダヘッドのウォータジャケットとなるものであり、
上記シリンダヘッドの下面には各気筒毎に上記ウォータジャケットとなる上記中子孔の開口部が設けられており、
上記シリンダヘッドの各気筒毎に順に上記第1工程及び上記第2工程を繰り返していくことを特徴とする中子砂除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中子砂除去装置及び中子砂除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造品の中子砂が詰まった中子孔からその中子砂をアーク放電による衝撃波によって崩壊させて除去することが知られている。例えば、特許文献1には、水を貯えた水槽に鋳造品を浸漬させた状態で、鋳造品の表面に開口した中子孔の開口部に電極部材を対向させ、この電極部材にパルス高電圧を印加してアーク放電による衝撃波を発生させ、中子孔に詰まった中子砂を崩壊させることが記載されている。中子孔の開口部から中子砂の一部が崩壊して排出される度に、電極部材を中子孔に進入させて衝撃波を発生させることを繰り返すことで、中子砂が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-94387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された中子砂の除去方法によれば、例えば無機バインダーを用いた中子砂であっても、これを崩壊させて中子孔から除去することができる。しかし、中子砂を部分的に崩壊させる都度、電極部材を中子孔の奥に進めていく方式であるから、中子砂の除去に時間がかかることは否めない。また、中子孔の形状が迷路のように複雑になると、電極部材を中子孔の奥の方まで進入させることが難しくなる。
【0005】
そこで、本発明は、上記アーク放電による衝撃波によって中子砂を短時間で除去できるようにすること、中子孔の形状が複雑になっていても中子砂を除去できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、パルス衝撃波の大きさを変化させるようにした。
【0007】
ここに開示する中子砂除去装置は、鋳造品を液中に浸漬させた状態で、該鋳造品の中子砂が詰まった中子孔からその中子砂をアーク放電によって発生する衝撃波によって崩壊させて除去する装置であって、
上記アーク放電を発生させるための電極部材と、
上記電極部材を上記鋳造品の表面に開口した上記中子孔の開口部に対向させ、該開口部から内部の中子砂の一部が上記衝撃波によって崩壊して排出されることに応じて上記電極部材を上記中子孔に進入させていく電極移動装置と、
上記電極部材に上記アーク放電のためのパルス電圧を印加し、且つ上記電極部材が上記開口部から所定深さまで進入したときに、上記衝撃波が強くなるように上記電極部材にパルス電圧を印加する電源装置とを備えていることを特徴とする。
【0008】
また、ここに開示する中子砂除去方法は、鋳造品を液中に浸漬させた状態で、該鋳造品の中子砂が詰まった中子孔からその中子砂をアーク放電によって発生する衝撃波によって崩壊させて除去する方法であって、
電極部材を上記鋳造品の表面に開口した上記中子孔の開口部に対向させ、該電極部材にパルス電圧を印加して上記中子砂を上記アーク放電による衝撃波によって崩壊させながら、当該電極部材を上記中子孔に進入させていく第1工程と、
上記電極部材が上記開口部から所定深さまで進入したときに、上記電極部材によって発生させる上記衝撃波が強くなるようにする第2工程とを備えていることを特徴とする。
【0009】
上記中子砂の除去装置及び除去方法のいずれにおいても、電極部材が鋳造品の開口部から中子孔に所定深さまで進入したときに液中アーク放電による衝撃波が強くなる。このように、中子孔の内部において強い衝撃波を発生させるから、その衝撃波が中子孔内の中子砂に効率良く伝わる。従って、中子砂を一気に崩壊させることも可能になり、中子砂の除去に要する時間の短縮に有利になる。また、衝撃波を強くしても、中子孔の中子砂全てが崩壊しないときは、当該所定深さの位置において或いは電極部材の進入をさらに深くして、再度同じ強さの衝撃波を発生させ、或いは異なる強さの衝撃波を発生させて、中子砂の崩壊を進めることができる。いずれにしても、電極部材11を中子孔の奥深くまで進入させなくても、中子砂を除去することができるようになる。従って、電極部材を奥深くまで進入させることが難しい複雑形状の中子孔であっても、中子砂の除去が容易になる。
【0010】
一実施形態では、上記鋳造品は、各々該鋳造品の表面に開口し上記中子孔によって連通する複数の開口部を有するものであり、
上記中子砂除去装置は、
上記電極部材を複数備え、
上記複数の電極部材が各々の対応する上記開口部から所定深さまで進入したときに、上記複数の電極部材のうちの一部の電極部材について上記衝撃波が強くなるように上記パルス電圧が印加され、残りの電極部材に対する上記パルス電圧の印加が停止される。
【0011】
これにより、強い衝撃波を発生させたときの、中子孔内部での圧力干渉を抑えて、圧力を電圧の印加が停止された電極部材が存する開口部側に向かわせることができ、中子砂の崩壊、排出が進みやすくなる。
【0012】
一実施形態では、上記鋳造品は多気筒エンジンのシリンダヘッドであり、
上記中子孔は該シリンダヘッドのウォータジャケットとなるものであり、
上記シリンダヘッドの下面には各気筒毎に上記ウォータジャケットとなる上記中子孔の開口部が設けられており、
上記シリンダヘッドの各気筒毎に順に上記第1工程及び上記第2工程を繰り返していく。
【0013】
これにより、ウォータジャケット形成用の中子砂を短時間に効率良く除去することができる。
【0014】
上記電極部材としては、アーク放電用の隙間を存して配置した2つの電極(電源装置の高圧側端子に接続された電極と電源装置の低圧側端子に接続された電極)よりなる構成とすることができる。或いは、電極部材としては、電源装置の高圧側端子に接続された電極部材のみとし、この電極部材と鋳造品との間にアーク放電を発生させてパルス衝撃波を得るようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極部材によって液中アーク放電による衝撃波を発生させて鋳造品の開口部から中子孔の内部へと中子砂を掘り進め、電極部材が開口部から所定深さまで進入したときに、衝撃波が強くなるようにするから、この強い衝撃波を中子砂に効率良く伝えることができ、従って、中子砂の除去に要する時間の短縮に有利になり、また、電極部材を奥深くまで進入させることが難しい複雑形状の中子孔であっても、中子砂を除去することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】中子砂除去装置の使用例を示す斜視図。
図2】中子砂除去装置の電源回路図。
図3】電源装置の放電電流波形を示すグラフ図。
図4】電極部材の一例を一部断面にして示す側面図。
図5図2の電極部材のA方向矢視図。
図6】電極部材を中子孔の開口部に対向させた状態を示す断面図。
図7】電極部材を中子孔に所定深さまで進入させた状態を示す断面図。
図8】中子砂除去装置を適用した鋳造品としてのエンジンのシリンダヘッドの底面図。
図9】中子砂除去装置の他の例の電源回路図。
図10】電極部材の他の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
<中子砂除去装置>
図1において、1は中子砂除去装置であって、水2が貯えられた水槽3に鋳造品4を浸漬させた状態で、この鋳造品4の中子孔5に詰まった中子砂を水中アーク放電によって発生する衝撃波で崩壊させて除去する。鋳造品4は、中子孔5によって互いに連通し鋳造品4の表面に開口した複数の開口部6を備えている。中子砂は、後述する電極部材11を進入させる開口部6から或いは該開口部6に連通する他の開口部6から排出される。なお、上記中子砂除去装置1は、水2を利用しているが、水に代えて、海水や油等を利用することもできる。
【0019】
中子砂除去装置1は、水中アーク放電を発生させるための電極部材11と、この電極部材11を移動させる電極移動装置12と、電極部材11にパルス電圧を印加する電源装置13とを備えてなる。先に、電極移動装置12及び電源装置13について説明する。
【0020】
電極移動装置12は、電極部材11を鋳造品4の開口部6に対向させ、該開口部6から内部の中子砂が排出されることに応じて電極部材11を中子孔5に進入させていくものである。本実施形態の電極移動装置12はスカラロボットによって構成されており、電極部材11はスカラロボット12の手首軸14に取り付けられている。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の電源装置13は、定電流電源15と、定電流電源15に並列接続されたダイオード16及びコンデンサ17と、コンデンサ17から放電スイッチ18を介して供給される静電エネルギーを磁気エネルギーとして貯えるインダクタ19とを備えている。図2において、21は電源装置13の高圧側端子、22は電源装置13の低圧側端子であり、高圧側端子21と低圧側端子22に電極部材11が導線23によって接続されている。
【0022】
この電源装置13の場合、定電流電源15によってコンデンサ17が充電される。放電スイッチ18が閉じられると、インダクタ19を通して電極部材11に電流が流れる(図2のAループ)。このとき、コンデンサ17の蓄積エネルギー(静電エネルギー)C・V/2がインダクタ19の蓄積エネルギーである磁気エネルギーL・I/2に変換される。電極部材11でのエネルギー消費があるため、C・V/2>L・I/2となる。
【0023】
その後、コンデンサ17の蓄積エネルギーC・V/2が零になったとき、電流はダイオード16を通して流れる(図2のBループ)。このBループで電流が流れる間も電極部材11でエネルギーが消費され、最終的には電流値が零になる。
【0024】
なお、Cはコンデンサ17のキャパシタンス、Vはコンデンサ17の充電電圧、Lはインダクタ19のインダクタンス、Iは電流値である。
【0025】
電流波形は図3のようになり、Aループによる電流の流れによって電流値が増大した後、Bループによる電流の流れによって電流値が減少していくパルス放電となる。すなわち、電源装置13によって電極部材11にパルス電圧が印加される。
【0026】
ここに、コンデンサ17の充電電圧Vに応じてコンデンサ17の蓄積エネルギーC・V/2が変化する。従って、この充電電圧Vの制御によって電極部材11の1パルスあたりの消費エネルギーを変える、すなわち、アーク放電による衝撃波の強さを変えることができる。充電電圧Vの制御は、定電流電源15の出力電圧を測定し、或いはコンデンサ17の電圧を測定し、所期の電圧値になったときに定電流電源15をオフにすることで行なうことができる。
【0027】
次に、電極部材11について説明する。図4に示すように、電極部材11は、電源装置13の高圧側端子21に接続された高圧側電極31と、電源装置13の低圧側端子22に接続された(又は接地された)低圧側電極32を備えてなる。両電極31,32は、絶縁被覆33,34によって互いに電気的に絶縁した状態に設けられ、棒状支持体35に支持されている。
【0028】
図5に示すように、低圧側電極32は環状の円板形に形成された環状電極である。この低圧側の環状電極32の内側、すなわち、孔36の内に高圧側電極31が配置されている。高圧側電極31は、環状電極32の環内に配置されていることから、以下では、これをコア電極31と称する。コア電極31は、断面円形の直棒状に形成されていて、環状電極32と同心に設けられている。コア電極31及び環状電極32各々の軸心は棒状支持体35の長手方向に配向されている。
【0029】
コア電極31と環状電極32の間にパルス高電圧が印加されると、コア電極31の外周部と環状電極32の内周部の間の一箇所(電極間隔が最も狭くなった箇所)でアーク放電が発生し、衝撃波が周囲に放射される。そのとき、コア電極31及び環状電極32に衝撃力が加わる。
【0030】
強い衝撃波を発生させるアーク放電回数が多くなってくると、片持ち支持になったコア電極31が構造的にリジットな環状電極32の内側において上記衝撃力により変位してくる。すなわち、コア電極31は、アーク放電の発生箇所付近で最も強い衝撃力を受けるから、アーク放電発生箇所の反対側に変位する。コア電極31の上記反対側への変位が大きくなると、当該反対側のコア電極31の外周部と環状電極32の内周部の間隔が狭くなる。そのため、当該反対側において両電極間31,32にアーク放電を生ずるようになる。その結果、コア電極31は、今度は逆方向に衝撃力を受けるため、環状電極32の中心に近づくように上記反対側への変位が戻されていく。
【0031】
このように、コア電極31は、衝撃力を受けて変位すると、それに伴ってアーク放電の発生箇所が変わり、その結果、衝撃力を受ける部位が変わるため、特定の方向に変位することがない。つまり、コア電極31は環状電極32の中心に近づくように変位が戻される。従って、ショット数が多くなっても、電極の変形によってコア電極31と環状電極32の間隔が広くなることはなく、安定したアーク放電を発生させることができる。もちろん、両電極31,32がショートすることもない。
【0032】
<中子砂除去方法>
(第1工程)
図1に示すように、電極部材11を電極移動装置12によって移動させて、水槽3の水中に浸漬させた鋳造品4の中子孔5の開口部6に対向させる。図6に示すように、電極部材11は開口部6に露出した中子砂37に対向する。その状態で、電源装置13の定電流電源15によってコンデンサ17に充電して定電流電源15をオフにし、放電スイッチ18を閉じる。これにより、電極部材11にAループ及びBループで電流が流れ、すなわち、電極部材11のコア電極31と環状電極32の間にパルス電圧が印加されてアーク放電が発生する。
【0033】
この水中でのアーク放電によって衝撃波が発生し、中子孔5内の中子砂37に衝撃力が加わって開口部6に臨む中子砂が崩壊して開口部6から排出される。そこで、この崩壊した中子砂の排出に伴って生ずる中子孔5の空間に電極部材11を電極移動装置12によって進入させて、衝撃波を発生させることにより、中子砂37をさらに崩壊させていく。すなわち、電極部材11によって中子砂37を掘り進めていく。
【0034】
(第2工程)
図7に示すように、電極部材11が鋳造品4の開口部6から中子孔4内に所定深さまで進入したときに、電源装置13におけるコンデンサ17の充電電圧Vを高くする。従って、コンデンサ17の蓄積エネルギーが大きくなって、アーク放電によって発生する衝撃波が強くなる。このように中子孔4の内部において強い衝撃波を発生させるから、その衝撃波が中子孔4内の中子砂37に効率良く伝わる。従って、中子砂の崩壊が進みやすくなる。
【0035】
ここに、電源装置13のパルス放電は、例えば、パルス幅が3~5μs、放電印加回数が1~50回程度となるようにすればよい。上記強い衝撃波を発生させるときの電極部材11の進入深さ(上記所定深さ)は、例えば、5mm以上40mm以下程度、好ましくは10mm以上30mm以下とすればよい。
【0036】
強い衝撃波を発生させるときのコンデンサ17の蓄積エネルギーは、中子砂を掘り進めるときの10倍以上100倍以下、さらには20倍以上50倍以下とすることが好ましい。例えば、中子砂を掘り進めるときの蓄積エネルギーを20J以上500J以下、好ましくは50J以上200J以下とし、強い衝撃波を発生させるときの蓄積エネルギーを1kJ以上10kJ以下、好ましくは2kJ以上5kJ以下とすることができる。具体的には、例えば、定格がV=5kV、C=400μF(静電エネルギーC・V/2=5kJ)のコンデンサを用いるケースでは、中子砂を掘り進めるときは、1kV、200Jとし、強い衝撃波を発生させるときに定格の5kV、5kJとすればよい。
【0037】
これにより、中子砂に無機バインダーを使用している場合でも、電極部材11を所定深さまで進入させた状態での強い衝撃波によっても中子孔4に残る当該中子砂を、ほとんどの場合、一気に崩壊させて排出することが可能になる。
【0038】
<鋳造品がシリンダヘッドである例>
次に中子砂を除去するべき鋳造品が図8に示す多気筒エンジンのシリンダヘッド41である例について説明する。
【0039】
図8に示すように、シリンダヘッド41の下面側には、各々吸気口42及び排気口43が開口した複数の燃焼室44がシリンダヘッド41の長手方向に間隔をおいて形成されている。燃焼室44の周囲にはウォータジャケットとなる中子孔の複数の開口部6が形成されている。この開口部6は、シリンダブロックのウォータジャケットから冷却水が流入する穴となるものである。全ての開口部6は、ウォータジャケットとなる中子孔を介して互いに連通している。
【0040】
このシリンダヘッド41のウォータジャケット用中子孔の中子砂を除去する装置は4つの電極部材45を備えている。図9に示すように、4つの電極部材45は、電源装置13の高圧側端子21に各々スイッチ46を介して並列接続されている。
【0041】
図10に示すように、電極部材45は、高圧側電極31のみで構成された単一電極である。この例では、高圧側電極31は、円板状又は円柱状の形状を有し、導電性軸38によって棒状支持体35に支持して、棒状支持体35と同心に設けられている。高圧側電極31の直径は棒状支持体35の直径よりも小さくなっている。高圧側電極31とシリンダヘッド41の間にアーク放電を発生させて衝撃波を得るべく、シリンダヘッド41が接地されている。
【0042】
シリンダヘッド41の中子砂の除去にあたっては、シリンダヘッド41を水中に浸漬し、各気筒毎に順に上記アーク放電による衝撃波によって中子砂を除去していく。
【0043】
すなわち、第1工程では、電極移動装置12に4つの電極部材45を支持して、図8に示すように、この4つの電極部材45を1つの燃焼室44まわりの4つの開口部6に対向させる。スイッチ46を順にオンとオフの状態にする。或いは図2の電極部材11を複数直列に接続してもよい。そして、電源装置13によって4つの電極部材45にパルス電圧を印加することにより、シリンダヘッド41との間にアーク放電を発生させ、このアーク放電による衝撃波によって各開口部6から中子砂を同時に掘り進めていく。
【0044】
図10に示すように、第1工程によって各電極部材45が中子孔5に所定深さまで進入したとき、第2工程では、4つの電極部材45のうちの3つについてはスイッチ46をオフにし、残る1つの電極部材45に対して電源装置13からパルス電圧を印加する。このとき、コンデンサ17の充電電圧を高くすることにより、アーク放電によって発生する衝撃波を強くする。
【0045】
従って、強い衝撃波は1つの電極部材45のみから発せられるから、中子孔45の内部において圧力干渉を生ずることがない。すなわち、1つの電極部材45から発生する圧力を、中子孔を通してパルス電圧の印加が停止された電極部材45が存する開口部側に向かわせることができ。従って、中子砂の崩壊、排出が進みやすくなる。
【0046】
1つの気筒について、その燃焼室44まわりの開口部6から中子砂の除去を実行した後、次に上記4つの電極部材45を別の気筒(例えば隣の気筒)の燃焼室44まわりの4つの開口部6に移動させて、上記第1工程及び第2工程による中子砂の除去を実行する。このように第1工程及び第2工程を気筒毎に順に繰り返して、全気筒について中子砂の除去を行なう。
【0047】
高圧側電極31に対して中子孔5に進入した状態で高電圧を印加すると、シリンダヘッド41の中子孔5の内周部と高圧側電極31の外周部の間の一箇所(両者の間隔が狭くなった箇所)でアーク放電が発生し、衝撃波が放射される。そのとき、高圧側電極31はアーク放電の発生箇所付近で衝撃力を受ける。
【0048】
強い衝撃波を発生させるアーク放電回数が多くなってくると、片持ち支持になった高圧側電極31が中子孔5内において上記衝撃力によりアーク放電発生箇所の反対側に変位する。
【0049】
本実施形態の場合も、先のコア電極31及び環状電極32の組み合わせと同じく、高圧側電極31の上記反対側への変位が大きくなると、当該反対側の高圧側電極31の外周部と中子孔5の内周部の間隔が狭くなることにより、当該反対側においてアーク放電を生ずるようになる。その結果、高圧側電極31は、今度は逆方向に衝撃力を受けるため、中子孔5の中心に近づくように上記反対側への変位が戻されていく。従って、ショット数が多くなっても、高圧側電極31の外周部と中子孔5の内周部の間隔が広くなることはない。また、高圧側電極31と棒状支持体35は同心に設けられ、且つ高圧側電極31の直径は棒状支持体6の直径よりも小さい。従って、中子孔5内では、棒状支持体35の外周部が中子孔5の内周部に当たるため、高圧側電極31がシリンダヘッド41にショートすることは避けられる。
【0050】
<電極部材の他の例>
図4及び図5に示す電極部材11では、2つの電極、すなわち、高圧側のコア電極31及び低圧側の環状電極32各々の軸心を棒状支持体35の長手方向に配向させているが、コア電極31及び環状電極32各々の軸心は棒状支持体35の長手方向に対して直交する方向に配向させてもよい。
【0051】
高圧側電極と低圧側電極によって電極部材を構成する場合、それらの電極形状は上記実施形態に限定しなければならないものではなく、一対の棒状又は板状の電極を平行に配置して電極部材とするなど、適宜の電極形状を採用することができる。
【0052】
また、単一電極よりなる電極部材にあっても、その電極形状は、図10に示す円板状又は円柱状に限らず、球状、棒状など適宜の形状にすることができる。
【0053】
また、鋳造品の開口部から中子砂を掘り進めるときは、図4及び図5に示すような高圧側電極と低圧側電極を備えた電極部材を用い、図2において、電極部材を複数直列に接続してもよい。中子孔における開口部から所定深さの位置で強い衝撃波を発生させるときは、図10に示すような単一電極の電極部材を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 中子砂除去装置
3 水槽
4 鋳造品
5 中子孔
6 開口部
11 電極部材
12 電極移動装置
13 電源装置
37 中子砂
41 シリンダヘッド
44 燃焼室
45 電極部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10