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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20230707BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20230707BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20230707BHJP
   F04D 29/16 20060101ALI20230707BHJP
   F16C 33/06 20060101ALI20230707BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20230707BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
B23K35/30 340M
B23K35/30 340L
B23K10/02 501A
B23K26/342
F04D29/16
F16C33/06
F16C33/12 Z
F16J15/16 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017092399
(22)【出願日】2017-05-08
(65)【公開番号】P2018187647
(43)【公開日】2018-11-29
【審査請求日】2020-04-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390001801
【氏名又は名称】大阪富士工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】高山 博和
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】松井 祥司
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭一郎
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】山口 大志
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208778(JP,A)
【文献】特開2003-247084(JP,A)
【文献】特開平11-050821(JP,A)
【文献】特開2012-166237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K35/00-35/40
F16J15/16
F04D29/16
F16C33/12
F16C33/06
B23K10/02
B23K 9/04
B23K26/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相系ステンレスを母材とする摺動部材であり、その摺動面に表層と下層からなる2層構造の肉盛層を有し、前記表層がCoを主成分とし、Cr,Mo,Cを含み、ブリネル硬度がHB400以上の高耐食Co合金で構成され、前記下層がNiを主成分とし、Cr,Moを含み、前記表層を構成する高耐食Co合金及び母材よりもCの含有比率が少ない、表層を構成する高耐食Co合金よりも軟質のブリネル硬度がHB200-300のNi合金で構成されていることを特徴とする摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻きポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなどの各種ポンプや各種バルブに用いられる摺動部材に関し、摺動面でのかじりの発生を抑える肉盛層を備えた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプやバルブのシール部分は、金属同士の合わせ面を形成しており、動作時において当該合わせ面が摺動する。この摺動に伴う合わせ面のかじり防止のために、合わせ面の耐摩耗性を向上させる工夫がなされている。例えば、ポンプケーシングとインペラを備えた遠心式ポンプにおいては、ポンプケーシングとインペラ入口のシール部に、クリアランスを広げて構成したり、合わせ面の表面に高硬度の肉盛層を設け、さらに、摺動面の両部材間を異なる合金を用いることで硬度差を持たせるなどの方法がとられている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2012-166237号公報)には、2層の肉盛溶接層を二相系ステンレスの母材に設けた摺動部材を用いたポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-166237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、シール部のクリアランスを広げると、ポンプの効率が悪くなるという問題を有していた。また、近年海水耐食性が高い高耐食性材料として需要が増加している二相系ステンレスは、母材硬度が低く、肉盛層の形成時に熱処理により耐食性が劣化するという問題を有していた。
【0006】
具体的には、二相系ステンレス母材は熱処理により硬度は上昇するが耐食性は劣化し、肉盛層の硬化成分である炭化物を形成する炭素が母材の二相系ステンレスに拡散する。これにより金属間化合物が形成され、耐食性が劣化した母材の肉盛層境界から腐食を生じるため、肉盛層が剥離するという問題があった。また、中間に干渉層を入れた場合にも耐食性の低い硬質の上層が下層に優先して溶解するという問題があった。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、母材である二相系ステンレスに肉盛層形成時の劣化を抑えることができる摺動部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の摺動部材を提供する。
【0009】
本発明の第1態様によれば、二相系ステンレスの母材でそれぞれ構成され、互いの摺動面に肉盛層が形成された摺動部材であって、
前記肉盛層は、少なくとも一方が多層構造で構成され、表層がCo又はNiを主成分とし、Cr,Mo,Cを含む合金で構成され、前記母材の表面に位置する下層がNi又はCoを主成分とし、Cr,Moを含み、前記表層よりもCの含有比率が小さく、前記母材よりも炭素固溶度が大きい合金で構成されていることを特徴とする、摺動部材を提供する。
【0010】
本発明の第2態様によれば、前記表層及び下層は、隙間腐食発生指針の評価値が二相系ステンレスの母材よりも高いことを特徴とする、第1態様の摺動部材を提供する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、少なくとも一方の前記肉盛層の表層のブリネル硬度が、HB400以下である場合は、他方の肉盛層の表層は、HB50以上の硬度差を持つように構成されていることを特徴とする、第1又は第2態様の摺動部材を提供する。
【0012】
本発明の第4態様によれば、前記表層はCoを主成分とする合金であり、前記下層はNiを主成分とする合金であることを特徴とする、第1から第3態様のいずれか1つの摺動部材を提供する。
【0013】
本発明の5態様によれば、前記下層及び表層は、粉体プラズマアーク溶接により形成されていることを特徴とする、第1から第4態様のいずれか1つの摺動部材を提供する。
【0014】
本発明の第6態様によれば、前記下層及び表層は、レーザークラッディングにより形成されていることを特徴とする、第1から第4態様のいずれか1つの摺動部材を提供する。
【0015】
本発明の第7態様によれば、前記下層及び表層は、溶射により形成されていることを特徴とする、第1から第4態様のいずれか1つの摺動部材を提供する。
【0016】
本発明の第8態様によれば、前記下層及び表層は、溶射、粉体プラズマアーク溶接およびレーザークラッディングの組み合わせにより形成されていることを特徴とする、第1から第4態様のいずれか1つの摺動部材を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摺動面に設けられた肉盛層を二層構造とし、表層に炭素、Cr,Moを含む高耐食Ni又はCo合金を肉盛りすることで、析出した炭化物で摺動面にかじりが発生することはなく、マイルドな摩耗が生じる。このため、良好な摺動特性を維持することができる。また、下層にCの含有比率が小さく母材よりも炭素固溶度が大きいNi又はCoを主成分とする合金を用いることにより、上層からの炭素の干渉層として働き、母材への溶接時の浸炭を防止することができる。
【0018】
表層に靱性のあるCoあるいはNi合金を用い、Cr,Mo,Wに炭化物を分散させることで高硬度を達成する。硬度および靱性を備えたNiあるいはCoの固溶体とすると、低い予熱・後熱温度で溶接肉盛りを実施することができる。予熱・後熱温度を低減することで母材の温度上昇を抑え、溶接肉盛りによる母材の劣化を防止することができる。
【0019】
二相系ステンレス鋼は、加熱により時間経過とともに金属間化合物の析出が増し炭素量が増加すると促進し、溶接時の短時間加熱でも耐食性が劣化する。上層から硬化成分である炭素が拡散するため、二相系ステンレスより炭素固溶度が高いNiあるいはCo合金で構成する炭素を低減した下層を設けることで表層からの炭素が二相系ステンレスに拡散することを防ぐことができる。NiあるいはCo合金は、靱性が高いので低い予熱・後熱温度で母材の温度上昇を抑え溶接肉盛りによる母材の劣化を防止することができる。
【0020】
NiあるいはCo合金の隙間腐食発生指針に基づき肉盛層の評価値を二相系ステンレスよりも大きくすることで、高機能部分である肉盛層の優先的な腐食を回避することができる。
【0021】
粉体プラズマアーク溶接、レーザークラッディングの希釈率は、各々15%,10%であり、他の溶接方法に比べて低いため、表層、下層、母材各々の溶接時の希釈を押さえることができ、各層の特性を保つことができる。また、表層については、下層との希釈で硬度低下を生じることがなく、下層については、表層との希釈による炭素量を抑えることができる。また、母材については、下層との希釈を押さえることで耐食性が劣化しないという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の摺動部材を用いた実施形態にかかるポンプの一例である両吸込渦巻ポンプの構成例を示す正断面図である。
図2】本発明の摺動部材を用いた実施形態にかかるポンプの一例である両吸込渦巻ポンプの構成例を示す側面図である。
図3図1の両吸込渦巻ポンプのシール部の部分拡大図である。
図4】インペラリングの構成を示す断面図である。
図5】ケーシングリングの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の摺動部材を用いた実施形態に係るポンプについて、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の摺動部材を用いた実施形態にかかるポンプの一例である両吸込渦巻ポンプの構成例を示す図である。図1は正断面図であり、図2のI-I線における断面図に相当する。また、図2は側面図である。
【0025】
図1及び図2に示すように、ポンプ1は、海水用ポンプであり、ポンプケーシング10内でインペラ13が回転する構成である。ポンプケーシング10は、図1に示すように、吸込ケーシング部11の断面方向の中央部に吐出ケーシング部12が配置され、図2に示すように、吸込ケーシング部11の吸込み口11aと吐出ケーシング部12の吐出口12aが互いに反対向きになっている。
【0026】
ポンプケーシング10の中央部には、主軸14が固定されたインペラ13が配置されている。主軸14は、その両端部が軸受15で回転自在に支持され、主軸14の一端に図示しない電動機などの駆動装置が連結されている。また、主軸14がポンプケーシング10を貫通する箇所には、軸封部16が設けられており、ポンプケーシング10内の液体を密閉する。
【0027】
インペラ13は、中央部分が外径側に突出したインペラ吐出口13bとなっており、側方にインペラ入口13aが設けられた環状の部材である。インペラ13は回転することで内部に設けられた羽根で、吸込ケーシング11内の流体をインペラ入口13aから取り込むと供に、回転による遠心力で流体をインペラ吐出口13bを通して吐出ケーシング部12に吐出する。
【0028】
ポンプケーシング10とインペラ入口13aの外周の間にはシール部17が配置されている。シール部17は、後述するように、インペラ13のインペラ入口13a外周にインペラリング31と、ポンプケーシング10のインペラリング31に対向する位置にケーシングリング32とを備えており、これらの部材が、本発明の摺動部材に相当する。インペラリング31とケーシングリング32については、詳細は後述する。
【0029】
上記構成の両吸込渦巻きポンプにおいて、図示しない駆動装置により主軸14と共にインペラ13を回転すると、インペラ13の回転により、吸込ケーシング部11の吸込み口11aから流体が吸い込まれる。流体は吸込ケーシング部11内を矢印91のように流れ、インペラ入口13aからインペラ13内に流れ込み、矢印92に示すように、インペラ吐出口13bから吐出される。吐出ケーシング部12内を矢印92に示すように流れる。流体は、吐出ケーシング部12内を流れ、吸込み口11aとは反対側に配置された吸込みケーシング部12の吐出口12aから吐出される。
【0030】
図3は、シール部17の構成を示す図である。シール部17には、本発明の摺動部材としてのインペラリング31とケーシングリング32が設けられている。
【0031】
インペラリング31とケーシングリング32はそれぞれ海水に対する高耐食性の二相系ステンレス鋼材が用いられている。ケーシングリング32の母材である二相系ステンレス鋼は、臨界隙間腐食発生開始係数で耐食性の指標が与えられている。
【0032】
図3に示すように、インペラリング31とケーシングリング32は、それぞれ、互いの対向面に肉盛部33,34を備えている。
【0033】
インペラリング31とケーシングリング32にそれぞれ設けられた肉盛部33,34は、Cr,Mo,Cを含む高耐食Ni合金又はCo合金からなり、粉体プラズマアーク溶接法あるいは、レーザークラッディング法により、インペラリング31及びケーシングリング32の対向する面に設けられる。
【0034】
インペラリング31に設けられた肉盛層33は、図4に示すように、表層33aと下層33bの2層構造になっており、本実施形態では、下層33bは厚さ1mm、表層33aは厚さ1.5mm、総厚さは2.5mmとなっている。
【0035】
肉盛部33の表層33aを構成する金属は、高耐食Co合金が用いられており、Cr,Mo,Cを含んでいる。表層33aに用いられるCo合金は、耐食性の観点より、6%塩化第二鉄中での臨界隙間腐食発生試験で隙間腐食試験の開始係数(CRT)で評価できる。下層、表層とも隙間腐食発生指針の評価値が二相系ステンレスよりも高いものを用いることが好ましい。これにより、高機能部分である肉盛層の優先的な腐食を回避することができる。また、表層33aの硬度は、ブリネル硬度HB400前後であり、特に、HB400以上であることが好ましい。
【0036】
表層33aを構成する金属としては、例えば、ステライト合金、トリバロイ合金、炭化物を含んだインコネル合金などが利用でき、例えば、表1に示す成分の合金を好適に用いることができる。
【0037】
【表1】
【0038】
肉盛部33の下層33bを構成する金属は、表層33aと較べて軟質のNi合金が用いられており、Cr,Mo,Cを含んでいる。下層33bには、Cの含有率が、表層33aを構成する高耐食Co合金よりも少ないものが用いられている。また、下層33bを構成するNi合金は、炭素固溶度を母材である二相系ステンレス鋼よりも大きくするために、低炭素のものを使用している。また、下層33bの硬度は、表層33aよりも小さく、母材よりもやや小さい程度であって、ブリネル硬度HB200-300前後であることが好ましい。
【0039】
下層33bには、構成する金属としては、インコネル合金、ハステロイ合金などを用いることができ、例えば、表2に示す成分の合金を好適に用いることができる。
【0040】
【表2】
【0041】
上層33a及び下層33bを母材であるインペラリング31に設けるには、上記のように、レーザークラッディング法及びプラズマアーク溶接法を用いることが好ましい。
【0042】
レーザークラッディング法及びプラズマアーク溶接法各々の希釈率は、最大10%と15%であるため、母材と下層33bの希釈による有害な母材への浸炭及び下層33bと表層33aの希釈による表層33aの硬度低下は生じない。これにより、二相系ステンレス鋼の劣化及び表層の硬度低下を防止することができる。
【0043】
ケーシングリング32に設けられた肉盛層34は、図5に示すように、表層34aと下層34bの2層構造とすることが好ましい。本実施形態では、総厚さは3.5mmであり、下層34bは厚さ1.5mm、表層34aは厚さ2.0mmとなっている。なお、本実施形態では、この肉盛層34の厚さは、インペラリング31の肉盛層33よりも厚く構成されているが、インペラリング31の肉盛層33よりも薄く構成してもよく、ポンプの構成により交換がしやすい部材の肉盛層に軟質のものを用い交換作業を容易にすることが好ましい。
【0044】
肉盛部34の表層34aを構成する金属は、インペラリング31の肉盛部33の表層33aに用いられるものと同様に、高耐食Co合金が用いられており、Cr,Mo,Cを含んでいる。表層34aに用いられるCo合金は、耐食性の観点より、6%塩化第二鉄中での臨界隙間腐食発生試験で隙間腐食試験の開始係数で評価できる。下層表層とも二相系ステンレスの開始係数値よりもよりも大きい評価値を有するものを用いることが好ましい。また、表層33aの硬度は、ブリネル硬度HB400前後であることが好ましい。
【0045】
肉盛部34の下層34bを構成する金属は、インペラリング31の肉盛部33の下層33bに用いられるものと同様に、表層34aと較べて軟質のNi合金が用いられており、Cr,Mo,Cを含んでいる。下層34bには、Cの含有率が、表層33aを構成する高耐食Co合金よりも少ないものが用いられている。また、下層34bを構成するNi合金は、炭素固溶度を大きくするために炭素含有量が少なくなっている。
【0046】
下層34b及び表層34aを母材であるインペラリング31に設けるには、上記のように、レーザークラッディング法及びプラズマアーク溶接法を用いることが好ましい。また、他の方法としては、溶射のほか、紛体プラズマ溶射、レーザークラッディング及び溶射を組み合わせて行うこともできる。
【0047】
レーザークラッディング法及びプラズマアーク溶接法各々の希釈率は、最大10%と15%であるため、母材と下層34bの希釈による有害な母材への浸炭及び下層34bと表層33aの希釈による表層34aの硬度低下は生じない。これにより、二相系ステンレス鋼の劣化及び表層の硬度低下を防止することができる。
【0048】
また、インペラリング31の肉盛部33の表層33aのブリネル硬度がHB400以下である場合は、ケーシングリング32の肉盛部34は、表層33aよりもHB50程度の硬度差を持たせること、すなわち、HB350以下とすることが好ましい。HB350以下の肉盛部34とするために、表層34aを構成する金属では硬すぎる場合は、下層34bのNi合金のみの1層構造の肉盛部34としてもよい。
【0049】
上記のようにシール部17は、ケーシングリング32及びインペラリング31のそれぞれの面に肉盛部33、34を備えた構成であるので、シール部17にかじりが発生することなく、良好なシール特性を維持できる。また、軟質のCR、Moを含む高耐食NiあるいはCo合金中間層をプラズマアーク溶接あるいはレーザークラッディングで肉盛りするので、割れが発生することなく、大型の部品にも用いることができ、また、表層33a,34aに高硬度の合金を用いることができる。
【0050】
また、プラズマアーク溶接あるいはレーザークラッディングを用いた場合は、高耐食Ni合金の肉盛りは、低入熱の溶接法で形成するので、溶接肉盛後の熱処理を必要としない。すなわち、耐食性を維持するために要求される二相系ステンレスの許容加熱温度である350度を超える予熱・後熱は必要がない。
【0051】
以上説明したように、インペラリング31とケーシングリング32の対向面に設けられた肉盛層を二層構造とし、Cr,Moを含む上層に炭素を含有させることで炭化物を析出させた高耐食Ni又はCo合金を肉盛りすることで、摺動面にかじりが発生することはなく、マイルドな摩耗が生じ良好な摺動特性を維持することができる。また、下層にCの含有比率が小さく母材よりも炭素固溶度が大きいNi又はCoを主成分とする合金を用いることにより、上層からの炭素の干渉層として働き、母材への溶接時の浸炭を防止することができる。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。例えば、摺動部材は、金属部材が摺動する摺動面を有する二相系ステンレスを母材とする部材であれば、海水用ポンプ以外の各種ポンプや各種バルブにも適用することができる。
【0053】
また、上記実施形態は、表層にCo合金、下層にNi合金を用いているが、これに限定されるものではなく、Co及びNiを主成分とする合金を用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 遠心ポンプ
10 ポンプケーシング
11 吸込ケーシング部
12 吐出ケーシング部
13 インペラ
14 主軸
15 軸受
16 軸封部
17 シール部
20 吸込ベル
21 吸出ボウル
22 吐出管
23 ポンプ羽根車
24 主軸
31 インペラリング
32 ケーシングリング
33,34 肉盛部
33a,34a 表層
33b,34b 下層
図1
図2
図3
図4
図5