(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】脈圧推定装置、脈圧推定システム、脈圧推定方法、及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20230707BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
A61B5/0245 Z
A61B5/11 110
A61B5/0245 ZDM
(21)【出願番号】P 2019144729
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-263354(JP,A)
【文献】特開2014-230671(JP,A)
【文献】特開2016-005596(JP,A)
【文献】特開2015-077395(JP,A)
【文献】特開2012-075820(JP,A)
【文献】特開2019-069236(JP,A)
【文献】特開2014-008200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0209055(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/02-5/03
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の体表面により反射された電波から、前記生体の心拍に起因する周期と、前記生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークと、前記心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されて生じる反射波に基づいて
前記血管の硬さを示す反射波ピークとを有する心拍信号を抽出する抽出部と、
前記収縮期ピークから前記反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、前記心拍信号の前記周期と、前記心拍信号の振幅とに基づいて、前記生体の脈圧を推定する推定部とを備え
、
前記推定部が、前記周期に対する前記脈波伝搬時間の割合に基づいて前記生体の脈圧を推定することを特徴とする脈圧推定装置。
【請求項2】
生体の体表面により反射された電波から、前記生体の心拍に起因する周期と、前記生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークと、前記心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されて生じる反射波に基づいて前記血管の硬さを示す反射波ピークとを有する心拍信号を抽出する抽出部と、
前記収縮期ピークから前記反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、前記心拍信号の前記周期と、前記心拍信号の振幅とに基づいて、前記生体の脈圧を推定する推定部とを備え、
前記推定部は、
t
i:前記収縮期ピークの発生時刻、
t
i´:前記反射波ピークの発生時刻、
pp
i:前記心拍1拍分の時間を表す前記心拍信号の前記周期、
a
i:前記生体の心臓の拍出量変化に伴う血流量の変化を表す前記心拍信号の前記振幅、
ΔP:前記生体の脈圧、
とすると、
【数1】
に基づいて、前記生体の脈圧を推定する
ことを特徴とする脈圧推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記心拍信号の各周期毎に前記生体の脈圧を推定する請求項1に記載の脈圧推定装置。
【請求項4】
前記電波がマイクロ波である請求項1に記載の脈圧推定装置。
【請求項5】
生体の体表面により反射された電波を検出する非接触センサと、
請求項1から4の何れか一項に記載の脈圧推定装置とを備え、
前記脈圧推定装置の前記抽出部が、前記非接触センサにより検出された電波から前記心拍信号を抽出することを特徴とする脈圧推定システム。
【請求項6】
前記生体の体表面に向かって前記電波を照射する照射装置をさらに備える請求項5に記載の脈圧推定システム。
【請求項7】
前記非接触センサと前記照射装置とが一体に構成される請求項6に記載の脈圧推定システム。
【請求項8】
生体の体表面により反射された電波から、前記生体の心拍に起因する周期と、前記生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークと、前記心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されて生じる反射波に基づいて
前記血管の硬さを示す反射波ピークとを有する心拍信号を抽出する抽出工程と、
前記収縮期ピークから前記反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、前記心拍信号の前記周期と、前記心拍信号の振幅とに基づいて前記生体の脈圧を推定する推定工程とを包含
し、
前記推定工程が、前記周期に対する前記脈波伝搬時間の割合に基づいて前記生体の脈圧を推定することを特徴とする脈圧推定方法。
【請求項9】
前記生体の体表面により反射された電波を検出する検出工程をさらに包含し、
前記抽出工程が、前記検出工程により検出された電波から前記心拍信号を抽出する請求項8に記載の脈圧推定方法。
【請求項10】
生体の体表面により反射された電波から、前記生体の心拍に起因する周期と、前記生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークと、前記心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されて生じる反射波に基づいて前記血管の硬さを示す反射波ピークとを有する心拍信号を抽出する抽出工程と、
前記収縮期ピークから前記反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、前記心拍信号の前記周期と、前記心拍信号の振幅とに基づいて前記生体の脈圧を推定する推定工程とを包含し、
前記推定工程は、
t
i
:前記収縮期ピークの発生時刻、
t
i
´:前記反射波ピークの発生時刻、
pp
i
:前記心拍1拍分の時間を表す前記心拍信号の前記周期、
a
i
:前記生体の心臓の拍出量変化に伴う血流量の変化を表す前記心拍信号の前記振幅、
ΔP:前記生体の脈圧、
とすると、
【数1】
に基づいて、前記生体の脈圧を推定することを特徴とする脈圧推定方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の脈圧推定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記抽出部及び前記推定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に接触することなく生体の脈圧を推定する脈圧推定装置、脈圧推定システム、脈圧推定方法、及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体の体表面により反射された電波に基づく心拍信号から生体における脈波伝搬速度(Pulse Wave Velocity、PWV)と血管径変化量とを算出し、この脈波伝搬速度の二乗に上記血管径変化量を乗じて上記生体の脈圧を推定する脈圧推定装置が従来技術として知られている(特許文献1)。
【0003】
この脈圧推定装置は、上記生体の複数の異なる位置で測定された心拍信号に基づいて、当該測定位置間における脈波伝搬速度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-150065号公報(2016年8月22日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、脈波伝搬速度を算出するために、生体の複数の異なる位置で測定された心拍信号を取得する必要がある。このため、複数の非接触センサを設ける必要が生じ、構成が複雑になるという問題がある。
【0006】
本発明の一態様は、簡素な構成により、生体の脈圧を非接触で推定することができる脈圧推定装置、脈圧推定システム、脈圧推定方法、及び制御プログラムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る脈圧推定装置は、生体の体表面により反射された電波から、前記生体の心拍に起因する周期と、前記生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークと、前記心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されて生じる反射波に基づいて血管の硬さを示す反射波ピークとを有する心拍信号を抽出する抽出部と、前記収縮期ピークから前記反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、前記心拍信号の前記周期と、前記心拍信号の振幅とに基づいて、前記生体の脈圧を推定する推定部とを備えることを特徴とする。
【0008】
この特徴によれば、収縮期ピークから反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、心拍信号の周期と、心拍信号の振幅とに基づいて、生体の脈圧を推定するので、単一の心拍信号のみに基づいて生体の脈圧を推定することができる。従って、簡素な構成により、生体の脈圧を非接触で推定することができる。
【0009】
本発明の一態様に係る脈圧推定装置では、前記推定部は、t1i:前記収縮期ピークの発生時刻、t2i:前記反射波ピークの発生時刻、ppi:前記心拍1拍分の時間を表す前記心拍信号の前記周期、ai:前記生体の心臓の拍出量変化に伴う血流量の変化を表す前記心拍信号の前記振幅、dp:前記生体の脈圧、とすると、
【0010】
【0011】
に基づいて、前記生体の脈圧を推定することが好ましい。
【0012】
この構成により、収縮期ピークから反射波ピークまでの脈波伝搬時間と心拍信号の周期との比率の二乗と、心拍信号の振幅との乗算結果に基づいて、生体の脈圧を推定するので、単一の心拍信号のみに基づいて生体の脈圧を推定することができる。
【0013】
本発明の一態様に係る脈圧推定装置では、前記推定部は、前記心拍信号の各周期毎に前記生体の脈圧を推定することが好ましい。
【0014】
この構成により、測定対象者の脈圧値の継続的なモニタリング等の用途にも好適に適用することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る脈圧推定装置では、前記電波がマイクロ波であることが好ましい。
【0016】
この構成により、マイクロ波が生体で反射された反射波にも血管の伸展性や剛性に関する情報が含まれているので、マイクロ波により生体の脈圧を非接触で推定することができる。
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る脈圧推定システムは、生体の体表面により反射された電波を検出する非接触センサと、本発明の一態様に係る脈圧推定装置とを備え、前記脈圧推定装置の前記抽出部が、前記非接触センサにより検出された電波から前記心拍信号を抽出することを特徴とする。
【0018】
この特徴によれば、収縮期ピークから反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、心拍信号の周期と、心拍信号の振幅とに基づいて、生体の脈圧を推定するので、単一の心拍信号のみに基づいて生体の脈圧を推定することができる。従って、簡素な構成により、生体の脈圧を非接触で推定することができる。
【0019】
本発明の一態様に係る脈圧推定システムでは、前記生体の体表面に向かって前記電波を照射する照射装置をさらに備えることが好ましい。
【0020】
この構成により、生体の体表面により電波を反射させることができる。
【0021】
本発明の一態様に係る脈圧推定システムでは、前記非接触センサと前記照射装置とが一体に構成されることが好ましい。
【0022】
この構成により、非接触センサと前記照射装置とが一体であるので、脈圧推定システムの構成がより一層簡素になる。
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る脈圧推定方法は、生体の体表面により反射された電波から、前記生体の心拍に起因する周期と、前記生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークと、前記心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されて生じる反射波に基づいて血管の硬さを示す反射波ピークとを有する心拍信号を抽出する抽出工程と、前記収縮期ピークから前記反射波ピークまでの脈波伝搬時間と、前記心拍信号の前記周期と、前記心拍信号の振幅とに基づいて前記生体の脈圧を推定する推定工程とを包含することを特徴とする。
【0024】
本発明の一態様に係る脈圧推定方法では、前記生体の体表面により反射された電波を検出する検出工程をさらに包含し、前記抽出工程が、前記検出工程により検出された電波から前記心拍信号を抽出することが好ましい。
【0025】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る制御プログラムは、本発明の一態様に係る脈圧推定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記抽出部及び前記推定部としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、簡素な構成により、生体の脈圧を非接触で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ヒトの血圧値の経時的変化を模式的に示した波形図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る脈圧推定システムを用いて脈圧を計測する様子を説明する図である。
【
図3】上記脈圧推定システムの概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】上記脈圧推定システムにより電波が照射される生体の体表面の位置の例を示す図である。
【
図5】上記脈圧推定システムにより上記電波から抽出された心拍信号の波形データの一例を示す波形図である。
【
図6】Bramwell-Hillの式に関するパラメータを示す図である。
【
図7】上記脈圧推定システムが脈圧の推定に用いる心拍信号の波形データの一例を示す波形図である。
【
図8】上記脈圧推定システムが実行する脈圧推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】上記脈圧推定処理におけるパラメータ算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】上記脈圧推定システムにより推定された生体の脈圧と連続血圧計により測定された生体の脈圧との相関を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明では、脈圧測定の対象がヒトである場合の例を説明するが、ヒト以外の動物(生体)を対象とすることも可能である。
【0029】
(血圧と脈圧との間の関係)
一般的な血圧測定方法として、直接法と間接法とが知られている。直接法とは、観血的方法とも呼ばれるもので、被検者の動脈の内圧を直接連続して測定する方法である。具体的には、被検者の血管にカテーテルを導入し、血液凝固を抑制するための抗血小板凝固薬(ヘパリンなど)を血管内に微量注入しながら、血管内から血液の一部をカテーテル内へ導き、血圧測定を行う方法である。この直接法は、測定される血圧値の信頼性が高いことから、手術中の血圧モニタに利用される。しかし、医療機関など以外(例えば、家庭)で手軽に実施できる血圧測定法ではなく、この方法を実施する際には衛生面での注意が必要で、合併症を起こす可能性もある。また、解析も複雑である。
【0030】
一方の間接法は、非観血的方法とも呼ばれ、被検者の血圧を非連続的に測定する方法と、連続的に測定する方法とがある。非連続的に測定する方法としては、聴診法(コロトコフ法)、振動法(オシロメトリック法)、および超音波ドップラー法が挙げられ、連続的に測定する方法としては、トノメータ(トノメトリ)法および容積補償法が挙げられる。この間接法は、基本的には、測定の際に被検者の体に接触して外力を加えるアクティブな方法である。
【0031】
すなわち、間接法は、減圧時に止められていた血流が再び生じる時に加えられている圧力が血圧に相当するとの考え方に基づいている。このため、間接法では、被検者の血管に加圧して血流が止められた状態を作り、その後、血流が生じるまで徐々に減圧する工程が含まれる。被検者の体の一部に圧力を加える器具としては、カフやマンシェットなどが知られている。間接法は、自動で血圧を測定する血圧計に利用されており、間接法を利用した血圧計は、医療上の専門技術を必要とせず手軽であり、健康診断や家庭での日常的な健康管理などの用途に広く用いられている。
【0032】
ここで、
図1を参照して、血圧と脈圧との関係について簡単に説明する。
図1はヒトの血圧値の経時的変化を模式的に示した波形図である。血圧は、心臓の拍動によって生じるものであり、収縮期に上昇し、拡張期に下降する。このため、血圧値の経時変化は、図示のような周期的な変動となる。
【0033】
この波形において、一周期における血圧の最大値を収縮期血圧(最高血圧)と呼び、
図3では、P
hと表記している。一方、一周期における血圧の最小値を拡張期血圧(最低血圧)と呼び、
図3では、P
lと表記している。また、脈圧ΔPは、
ΔP=P
h-P
l
として算出される。脈圧ΔPは、太い血管に生じる動脈硬化の指標とされる。
【0034】
ここで、病院や保健所で看護師や医師を目の前にすると血圧が異常値を示す「白衣血圧」と呼ばれる現象が知られているように、血圧は被検者の情動の変化によって敏感に変化する。そのため、被検者の血圧を計測する場合、理想的には、血圧が計測されていることに被検者が無自覚であることが望ましい、と考えられている。
【0035】
しかし、間接法による血圧測定を受ける被検者は、指先あるいは上腕部など体の一部にカフやマンシェットを取り付けられ、該体の一部を加圧され、また、血圧測定の際に作動するポンプ、およびサーボモータが発する音を聞くことになる。また、カフ圧によって圧迫された箇所においてうっ血が生じる可能性があり、高血圧患者や高齢者に対する負担を強いる。さらに、被検者の皮膚の状態によってはカフの取り付けが困難である場合もある。したがって、上述の間接法は、被検者にストレスを感じさせることなく血圧を測定することができないので、理想的な血圧測定法とはいえない。
【0036】
本実施形態は、被検者にストレスを感じさせることなく、被検者の脈圧を簡素な構成により推定することができる脈圧推定システム100を提供する。
【0037】
(脈圧推定システム100を用いた脈圧推定方法)
図2は本発明の一実施形態に係る脈圧推定システム100を用いて脈圧を計測する様子を説明する図である。脈圧推定システム100は、単一のマイクロ波センサ3(非接触センサ)と、脈圧推定装置10とを含む。
【0038】
脈圧推定システム100では、マイクロ波センサ3から測定対象者に対してマイクロ波を照射する。そして、マイクロ波センサ3は、自らが照射したマイクロ波が測定対象者の体表面で反射した反射波を含むセンサ信号を受信して脈圧推定装置10に出力する。この後、脈圧推定装置10は、マイクロ波センサ3から出力されたセンサ信号を解析することにより、測定対象者の脈圧を推定する。
【0039】
このように、脈圧推定システム100では、マイクロ波の照射によって得たセンサ信号を用いて脈圧を推定する。マイクロ波は、視認されることがなく、マットレスや測定対象者の衣服などを透過し、また測定対象者からある程度離れた位置から照射してもセンサ信号を得ることができるため、図示の例のようにマットレスの下方にマイクロ波センサ3を配置することもできる。
【0040】
これにより、マットレスの上で横になっている測定対象者の脈圧を測定することができ、測定対象者が脈圧の測定中(マイクロ波の照射中)であることを意識することもないので、測定対象者にストレスを与えることなく脈圧を推定することができる。また、脈圧は連続的に推定することができるので、例えば測定対象者の就寝中の脈圧変動をモニタリングするといった用途にも利用できる。なお、測定対象者の姿勢はこれに限定されない。例えば、測定対象者は椅子等に座っていてもよいし、立っていてもよい。
【0041】
(脈圧推定システム100の構成例)
続いて、脈圧推定システム100のより詳細な構成を、
図3を用いて説明する。
図3は脈圧推定システム100の概略構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、脈圧推定システム100は、マイクロ波センサ3、表示装置5、および脈圧推定装置10を含む。
【0042】
マイクロ波センサ3は、マイクロ波を発信して、測定対象者で反射した反射波を含むセンサ信号を検出するマイクロ波レーダーである。マイクロ波センサ3が検出したセンサ信号は無線または有線通信にて脈圧推定装置10に送られる。なお、出力波形は特に限定されず、例えば、マイクロ波センサ3として、連続波(CW)レーダー、FMCWレーダー、パルスレーダー、あるいはドップラーレーダーを適用することもできる。また、波長も特に限定されず、波長0.1mm~1mのマイクロ波に対応する周波数帯の電磁波などが適用され得る。また、マイクロ波の出力にも特に制限はなく、如何なる出力のマイクロ波を用いてもよい。ただし、測定対象者の身体への影響を考慮すれば、周波数に応じて上限値を設定し、その上限値以下の出力とすることが望ましい。例えば、10GHz以上の周波数のマイクロ波を用いる場合には、10mW以下のマイクロ波を用いることが好ましい。
【0043】
マイクロ波センサ3は、測定対象者の体幹部に向けてマイクロ波を照射し、該体幹部からのセンサ信号を受信してもよいし、また、測定対象者の末梢部に向けてマイクロ波を照射し、該末梢部からのセンサ信号を受信してもよい。このように、単一のマイクロ波センサ3が脈圧推定システム100に設けられる。
【0044】
体幹部としては、背部あるいは胸郭周辺、末梢部としては、四肢(腕、手、足、脚)などが挙げられる。例えば、
図2の例のように、測定対象者がマットレス上に仰向けで横になった状態での測定を行う場合、背部の直下にマイクロ波センサ3を配置してもよいし、脚または腕の直下にマイクロ波センサ3を配置してもよい。
【0045】
表示装置5は、脈圧推定システム100によって算出された脈圧を表示する。なお、表示装置5の表示面にタッチパネルを積層してもよい。
【0046】
(脈圧推定装置10の構成例)
次に、脈圧推定装置10の構成について説明する。
図3に示すように、脈圧推定装置10は、脈圧推定装置10を統括して制御する制御部1と、脈圧推定装置10にて使用される各種データを記憶する記憶部2とを備えている。そして、制御部1は、心拍信号抽出部11、血流変化量算出部12、脈波伝搬時間算出部13、および脈圧推定部16を備えている。
【0047】
図4は脈圧推定システム100により電波が照射される生体の体表面の位置の例を示す図である。マイクロ波センサ3は、
図4の矢印Aで示す部位(橈骨稜)により反射された電波を受信する。
【0048】
図5は上記電波から抽出された心拍信号Sの波形データの一例を示す波形図である。
【0049】
心拍信号抽出部11は、マイクロ波センサ3から受信したセンサ信号から
図5に示す心拍信号Sの抽出を行う。例えば、センサ信号に含まれる、心拍に特徴的な0.8Hz~3Hz程度の周波数を抽出するバンドパスなどのフィルタ処理を行うことで、該センサ信号から心拍と相関した波形の心拍信号Sを抽出することが可能である。心拍信号Sは、測定対象者の心臓の拍動に起因する周期に対応する波形を含む信号である。なお、心拍信号Sの抽出を行う方法としては、フィルタ処理に制限されず、如何なる方法を用いてもよい。また、後述の脈圧推定が容易になるように、例えば直流増幅器等によって心拍信号の電圧値を増幅してもよい。
【0050】
心拍信号抽出部11により抽出された心拍信号Sは、生体の心拍に起因する周期ppiと、生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークP1と、心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されて生じる反射波に基づいて血管の硬さを示す反射波ピークP2とを有する。この反射波ピークP2の発生時間の変化が血管の硬さの変化を示す。
【0051】
血流変化量算出部12は、心拍信号Sに基づいて、血流変化量を表す心拍信号Sの振幅aiを算出する。
【0052】
脈波伝搬時間算出部13は、心拍信号Sに基づいて、収縮期ピークP1から反射波ピークP2までの脈波伝搬時間(ti-t´i)を算出する。
【0053】
脈圧推定部16は、収縮期ピークP1から反射波ピークP2までの脈波伝搬時間(ti-t´i)と、心拍信号Sの周期ppiと、心拍信号Sの振幅aiとに基づいて、生体の脈圧ΔPを推定する。この推定方法の詳細は後述する。なお、脈圧推定部16が推定する脈圧ΔPは、実際の脈圧と相関があり、従来法で測定した脈圧値と同様の用途に用いることができる。ただし、この推定された脈圧ΔPは、相対的な脈圧の変動を把握するための指標であって、較正等の処理を行わなければ、基本的に従来法で測定した脈圧値と同じ単位(mmHg)、同じ値とはならない。
【0054】
以上のように、脈圧推定システム100では、マイクロ波センサ3からマイクロ波を測定対象者に照射して、反射してきたマイクロ波であるセンサ信号を検出する。そして、脈圧推定装置10が該センサ信号から心拍信号Sを抽出し、抽出された心拍信号Sに基づいて脈圧ΔPを推定する。これにより、脈圧推定システム100によれば、測定対象者に接触することなく、また測定対象者に気付かれることすらなく脈圧ΔPを推定することができる。よって、精神的、および物理的なストレスを測定対象者に与えることなく、脈圧ΔPを推定することができる。
【0055】
なお、
図1に基づいて説明したように、脈圧ΔPは血圧と相関のある生体データであり、血圧が増減したときには、脈圧ΔPも同様に増減する。したがって、例えば臨床において、脈圧推定装置10が推定した脈圧ΔPを、従来の血圧計で測定した血圧値と同様の用途(脈圧値の低下を契機として昇圧剤を投与する等)に利用することができる。
【0056】
(Bramwell-Hillの式について)
脈圧ΔPに関する数式として、下記の(式1)に示すBramwell-Hillの式が知られている。下記の(式1)において、ΔPは脈圧、ρは血液密度、PWVは脈波伝搬速度(Pulse Wave Velocity)、Dは動脈の内径、ΔDはその変化量である。
【0057】
【0058】
ここで、上記数式に関連するパラメータについて
図6に基づいて説明する。
図6は、Bramwell-Hillの式に関するパラメータを示す図である。図示のように、血管(動脈)の断面には周期的に微小変化が生じる。より詳細には、同図の左下の時点では、血管の内径はD、血管壁の引張応力σ、血圧P、であったところ、同図の右下の時点では、血管径はD+dDに、引張応力はσ+dσに、血圧はP+dPに変化している(dはΔと同義)。
【0059】
ここで、PWVは、血管の弾性係数E、血管の壁厚c(一定値)、内径D、血液密度ρのパラメータで表すことが可能である。これらのパラメータのうち、血管の弾性係数Eは、動脈壁硬化の程度を示す指標として有用であるが、血圧や脈圧のように簡易には測定できない。このため、上記(式1)は、従来法で測定した脈圧等のパラメータを代入して血管の弾性係数Eを求めるという用途で利用されていた。
【0060】
(心拍信号Sの構成)
図7は、心拍信号Sの波形データの一例を示す図である。なお、波形データの縦軸Vは心拍信号Sの電圧値を示し、横軸tは時間(秒)を示す。
【0061】
このような波形データは、心拍信号抽出部11が、マイクロ波センサ3が受信したセンサ信号に対して、バンドパスなどのフィルタ処理を行うことで取得される。
【0062】
図示のように、測定対象者の体外に配置されたマイクロ波センサ3から、測定対象者の表皮に向けてマイクロ波を放射することによって得たセンサ信号からは、心臓の拍動に起因する周期的な波形の心拍信号Sが得られる。なお、同図では、i~(i+2)周期の3周期を示している。
【0063】
これらの各周期は1拍の心拍に対応しており、1周期の波形には振幅の大きい上に凸のピーク(収縮期ピークP1)と、収縮期ピークP1よりも振幅の小さい上に凸のピーク(反射波ピークP2)とが含まれている。この反射波ピークP2は、心臓からの血流が血管で反射することによって生じる反射波であると考えられ、連続測定された脈圧や、脈波にも出現し得る。
【0064】
(脈圧の推定方法)
マイクロ波センサ3で検出された電波から心拍信号抽出部11により抽出された心拍信号Sは、
図5に示すように、生体の心拍に起因する周期pp
iと、生体の心臓の収縮期血圧を示す収縮期ピークP1と、生体の心臓が収縮して駆出された血流が血管により反射されることにより生じる反射波ピークP2とを有する。
【0065】
心拍信号Sは、さらに、収縮期ピークP1から反射波ピークP2までの脈波伝搬時間(ti-t´i)と、振幅aiとを有する。
【0066】
tiは収縮期ピークP1の発生時刻を示す。t´iは反射波ピークP2の発生時刻を示す。周期ppiは心拍1拍分の時間を表す。振幅aiは、生体の心臓の拍出量変化に伴う血流量の変化を表す。
【0067】
脈波伝搬時間(ti-t´i)は、血管硬化等の欠陥の器質的変化を表す。
【0068】
脈圧推定部16は、心拍信号Sから取得した周期ppi、脈波伝搬時間算出部13により算出された脈波伝搬時間(ti-t´i)、及び血流変化量算出部12により算出された心拍信号Sの振幅aiの3つの値を以下の推定式(式3)に代入して脈圧ΔPを推定する。
【0069】
上記周期pp
i、脈波伝搬時間(t
i-t´
i)、及び振幅a
iの3つの値は、
図4の矢印Aで示す部位(橈骨稜)により反射された電波から抽出された心拍信号Sより取得する。
【0070】
【0071】
Bramwell-Hillの(式1)から、短時間には一定と仮定できるパラメータを排除し、血圧変動に直接関係するパラメータのみを残した(式2)にBramwell-Hillの(式1)を展開する。
【0072】
そして、計測位置が一定の場合、心臓からの伝搬距離が一定であるので、脈波伝搬速度PWVを、脈波伝搬時間(ti-t´i)で示し、動脈の内径の変化量ΔDを、生体の心臓の拍出量変化に伴う血流量の変化を表す振幅aiで示した(式3)に(式2)を展開できる。
【0073】
次に、脈波伝搬速度PWVを、脈波伝搬時間(ti-t´i)と周期ppiとの比率で示した(式4)に展開する。この脈波伝搬時間(ti-t´i)と周期ppiとの比率は、心臓からの血流が血管で反射することによって生じる反射波の1拍の中での発生時間の変化割合を示す。
【0074】
本来、Bramwell-Hillの(式1)から展開すると上記(式3)になる。実施形態に係る脈圧推定装置10は血圧の相対変化をモニタすることが目的であるので、脈波伝搬時間(ti-t´i)の一拍内の変化割合として脈圧ΔPを計算するため、脈圧推定部16は上記(式4)により脈圧ΔPを推定する。実際は上記(式3)で脈圧ΔPが推定可能である。
【0075】
(脈波伝搬速度PWVを、脈波伝搬時間(ti-t´i)と周期ppiとの比率に展開することの妥当性)
一拍の長さを表す周期ppiに対する反射波ピークP2の発生時刻に係る脈波伝搬時間(ti-t´i)の割合の変化は、相対変化を想定した場合、脈波伝搬速度PWVの変化と同等の変化を示すと仮定される。
【0076】
例えば、計測開始時における脈波伝搬時間と周期との比率((ti-t´i)/ppi)を基準とした場合、計測開始時からある時間が経過した際の比率((ti-t´i)/ppi)は血管の硬さに比例して変化する。血管が硬くなった場合は、この比率の値が計測開始時と比較して小さくなり血圧が上昇する。血管が柔らかくなった場合は、逆に、この比率の値が大きくなり血圧が下降する。
【0077】
よって、脈波伝搬速度PWVを、脈波伝搬時間(ti-t´i)と周期ppiとの比率に展開することには妥当性がある。
【0078】
(心拍信号Sの振幅a
iを動脈の内径の変化量ΔDとすることの妥当性)
血圧は、心拍出量の変動に応じて
図1に示すように周期的に変化する。また、その値は心臓の駆出力、動脈壁の弾力性、末梢血管抵抗、および個人特性などの影響を受けることが分かっている。また、脈波の波形にもこれらの影響が反映されること、すなわち脈波が血圧の情報を含むことが分かっており、脈波を利用した血圧推定法が存在することは前述した通りである。
【0079】
そして、本願の発明者らによる研究により、マイクロ波がヒト(あるいは他の動物)で反射した反射波(上述のセンサ信号)にも血管の伸展性や剛性に関する情報が含まれていることが分かってきた。センサ信号に血圧の情報が含まれることの機序は、完全に解明されてはいないが、体表面における微細な動き(体表面微動)がセンサ信号に反映されることにより、センサ信号に血圧の情報が含まれることになると推測される。
【0080】
ここで、心拍出量の増加は、心臓における心駆出量の増加に関連し、心駆出量が増加することにより、血管壁にかかる圧力が上昇して、血管径が拡大する。そして、このような血管壁にかかる圧力の上昇や血管径の拡大は、マイクロ波の反射波に反映されると考えられる。したがって、マイクロ波の反射波から抽出した心拍信号Sの振幅aiは、血管径の増減が反映した値となると考えられる。つまり、血管壁にかかる圧力が上昇して血管径が拡大するにつれて心拍信号Sの値は大きくなり、血管径が極大になったときに心拍信号Sも極大となると考えられる。よって、心拍信号Sの振幅aiを動脈の内径の変化量ΔDとして用いること、および心拍信号Sのピークの高さを血管径Dとして用いることには妥当性がある。
【0081】
(脈圧推定システム100による脈圧推定処理の流れ)
次に、脈圧推定システム100による脈圧推定処理(脈圧推定方法)の流れを
図8に基づいて説明する。
図8は、脈圧推定処理の一例を示すフローチャートである。
【0082】
脈圧推定システム100のマイクロ波センサ3は、ステップS1において、マイクロ波を測定対象者に対して発信する。マイクロ波センサ3は、ステップS2において、発信したマイクロ波が測定対象者により反射した信号をセンサ信号として検出し、該センサ信号を脈圧推定装置10に送信する。
【0083】
ステップS3において、脈圧推定装置10の心拍信号抽出部11は、マイクロ波センサ3から受信したセンサ信号を取得し、例えばバンドパスフィルタなどを用いて、センサ信号から心拍信号Sを抽出する。
【0084】
ステップS4では、センサ信号を解析して、脈圧推定に用いる各パラメータを算出する。なお、このパラメー算出処理については、後に詳述する。
【0085】
ステップS5において、脈圧推定装置10の脈圧推定部16は、ステップS4で算出されたパラメータを、記憶部2に記憶されている上述の(式3)に代入して、脈圧ΔPを推定する。また、ステップS6において、脈圧推定部16は、推定によって求められた脈圧ΔPを表示装置5に出力し、表示させる。
【0086】
(パラメータ算出処理の流れ)
続いて、
図8のステップS4で行われるパラメータ算出処理の流れを
図9に基づいて説明する。
図9は、パラメータ算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0087】
血流変化量算出部12は、心拍信号Sの波形データを解析して、波形の周期ppiを特定し、特定した1つの周期ppiに含まれる波形の収縮期ピークP1の極大値Dsと極小値Ddを特定する。そして、極大値Dsと極小値Ddの差分を、血管径変化量ΔDに対応する拍出量変化に伴う血流変化量を表す心拍信号Sの振幅aiとして算出する(ステップS10)。そして、血流変化量算出部12は、算出した心拍信号Sの振幅aiを脈圧推定部16に通知する。
【0088】
また、脈波伝搬時間算出部13は、心拍信号Sの波形データを解析して、波形の周期ppiを特定し、特定した周期ppiに含まれる波形の収縮期ピークP1が発生する時刻tiから反射波ピークP2が発生する時刻t´iまでの脈波伝搬時間(ti-t´i)を算出する(ステップS11)。そして、算出した脈波伝搬時間(ti-t´i)を脈圧推定部16に通知する。
【0089】
なお、
図9では、ステップS10の処理の後、ステップS11の処理を行う例を示しているが、ステップS11の処理を先に行ってもよいし、これらの処理を並行して行ってもよい。
【0090】
(脈圧推定システム100の精度)
以下では、脈圧推定システム100が推定した脈圧ΔPと、従来法で計測された脈圧との相関について、
図10に基づいて説明する。
図10は脈圧推定システム100により推定された生体の脈圧ΔPと連続血圧計により測定された生体の脈圧との相関を示す波形図である。縦軸は正規化された脈圧値を示し、横軸は時間(秒)を示す。
【0091】
声門を閉じて能動的に力むことで、筋張力上昇と腹腔内圧上昇が生じ、血圧を上昇・下降させるバルサルバ試験を被験者SA・SB・SC・SD・SE・SFの6名に対して実施し、従来の連続血圧計による測定値(Reference)と、本実施形態に係る推定方法による推定値(Estimated Value)とを比較した。このバルサルバ試験は、血圧計テストの際、血管変動による血圧変化がモニタできるかを確認するための試験方法である。
【0092】
【0093】
上記(表1)に示すように、従来の連続血圧計による測定値と、本実施形態に係る推定方法による推定値との間で、全被験者S
A・S
B・S
C・S
D・S
E・S
Fにおいて比較的高い相関が確認された。そして、
図10のグラフに示すように、本実施形態に係る推定方法による推定値(
Estimated Value)が、従来の連続血圧計による脈圧値と同様の経時的変化をしていることが分かった。
【0094】
このように、脈圧推定システム100が推定した脈圧ΔPは、測定対象者に一切触れる必要がないにもかかわらず、従来法で計測された脈圧値と極めて高い相関がある。そして、脈圧推定システム100が推定した脈圧ΔPは、従来法で計測された脈圧値と同様に経時変化しているので、測定対象者の脈圧値の継続的なモニタリング等の用途にも好適に適用できることが分かる。
【0095】
また、脈圧推定システム100が推定した脈圧ΔPは、相対的な脈圧値を示すものであるが、上記の通り、従来法で計測された脈圧値と相関している。このため、脈圧推定システム100が推定した脈圧ΔPを較正することにより、絶対的な脈圧値(単位がmmHgであり、従来法で計測された脈圧値と同様の値となる脈圧値)を算出することも可能である。
【0096】
なお、
図10のデータは、まず、測定対象者について脈圧推定システム100が推定した脈圧ΔPを算出すると共に、従来法で脈圧値を測定し、次に、測定対象者に運動負荷をかけ、その後で再度、脈圧ΔPの推定と、従来法による脈圧値の測定を行うことで取得された。また、従来法での脈圧値の測定には、カフを用いる血圧計を用いた。
【0097】
(使用する心拍信号Sについて)
上記では、マイクロ波センサ3にて検出したセンサ信号から抽出した心拍信号Sを用いる例を説明したが、脈圧と相関の推定に使用する心拍信号Sは、測定対象者の心拍に起因する周期的な波形を有する信号であればよく、この例に限られない。
【0098】
例えば、脈波信号を用いて上述の脈圧ΔPを推定することも可能である。この場合、マイクロ波センサ3の代わりに、脈波センサを用いて脈波信号を検出すればよい。使用する脈波センサは、脈波信号の検出が可能なものであれば特に限定されないが、例えば測定対象者の指先などにLED光を照射し、その反射光(もしくは透過光)から、脈波の変動を検出する光電(容積)脈波センサを使用してもよい。このようなセンサを用いることにより、非侵襲で、かつ、カフ等を用いることなく、心拍信号Sを得ることができる。
【0099】
なお、脈波信号は、血圧と同様の波形(
図1参照)となるため、本実施形態と同様の演算で各パラメータ(心拍信号Sの周期pp
i、心拍信号Sの振幅a
i、脈波伝搬時間(t
i-t´
i))を算出することができる。そして、これらのパラメータを用いることにより、脈圧ΔPを推定することができる。
【0100】
(パラメータの他の例)
本実施形態では、脈波伝搬時間(ti-t´i)と周期ppiとの比率の二乗に心拍信号Sの振幅aiを乗じて脈圧ΔPを推定する例を示したが、算出するパラメータは、脈圧と相関のあるパラメータであればよく、この例に限られない。例えば、脈波については、速度脈波(1次微分)、加速度脈波(2次微分)などが診断に利用されている。このため、脈波伝搬時間(ti-t´i)と周期ppiとの比率の二乗と心拍信号Sの振幅aiとの乗算結果の1次微分や、2次微分なども血圧に関連した医療情報として使える可能性があり、このような値を脈圧と相関のあるパラメータとして算出してもよい。
【0101】
(ソフトウェアによる実現例)
脈圧推定装置10の制御ブロック(特に制御部1)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0102】
後者の場合、脈圧推定装置10は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0103】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0104】
3 マイクロ波センサ(非接触センサ、照射装置)
11 心拍信号抽出部(抽出部)
16 脈圧推定部(推定部)
10 脈圧推定装置
100 脈圧推定システム
P1 収縮期ピーク
P2 反射波ピーク
ppi 周期
S 心拍信号
ai 振幅
ΔP 脈圧
ti 収縮期ピークP1の発生時刻
ti´ 反射波ピークP2の発生時刻