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特許7308525管状組織作製デバイス、管状組織作製キット及び管状組織の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】管状組織作製デバイス、管状組織作製キット及び管状組織の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230707BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230707BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230707BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20230707BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/071
A61L27/38
A61L27/40
A61L27/50
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019558944
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2018039072
(87)【国際公開番号】W WO2019116726
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2017236746
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 機能的生体組織製造技術プログラム」「立体造形による機能的な生体組織製造技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】清水 将伍
(72)【発明者】
【氏名】佐野 和紀
(72)【発明者】
【氏名】関根 秀一
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0255967(US,A1)
【文献】国際公開第2017/043600(WO,A1)
【文献】特開2008-079783(JP,A)
【文献】特開2008-148887(JP,A)
【文献】特表2010-539938(JP,A)
【文献】特表2005-502351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状支持体を収容するためのチャンバと;
前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第1支持部と;
前記チャンバの内部空間の圧力を制御するための加減圧手段と、
を備え、
ここで第1支持部は、前記管状支持体の第1開口部を固定し、前記管状支持体の内腔と前記チャンバの外とを連通し、かつ、前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの前記内部空間とを隔離するための第1支持部であ
ここで前記加減圧手段は、前記チャンバのチャンバ本体に設けられている、
管状組織作製デバイス。
【請求項2】
前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第2支持部をさらに備え、
ここで前記第2支持部は、前記管状支持体の第2開口部を固定し、前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの外とを連通し、かつ、前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの前記内部空間とを隔離するための第2支持部である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記チャンバに、前記チャンバの内外を連通する流体注出入口をさらに備え、
ここで前記加減圧手段が前記流体注出入口に接続されている、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記加減圧手段が、シリンジである、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記加減圧手段と前記流体注出入口との間に、バルブ機構を備える、請求項3又は4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記チャンバに、前記管状支持体を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記管状支持体が、生体組織由来の管状支持体である、請求項1~6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記チャンバの内外と連通し、培地供給流路と接続した動脈接続部と、
前記チャンバの内外と連通し、培地排出流路と接続した静脈接続部と
をさらに備えた、請求項1~7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のデバイスと、
シート状組織移送デバイスと、
を含む、管状組織作製キット。
【請求項10】
前記シート状組織移送デバイスが、膨縮手段を有する、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
管状組織の作製方法であって、
管状支持体を収容するためのチャンバと;
前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第1支持部と;
前記チャンバの内部空間の圧力を制御するための加減圧手段と、
を備え、前記加減圧手段が、前記チャンバのチャンバ本体に設けられている管状組織作製デバイスを用い、
(1)前記第1支持部に管状支持体の第1開口部を固定することにより前記管状支持体の内腔と前記チャンバの外とを連通させる工程、
(2)前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの前記内部空間とを隔離させる工程、
(3)前記加減圧手段によって、前記チャンバの内部空間を減圧し、前記管状支持体を膨張させる工程、
(4)前記第1支持部の外端開口より、シート状組織を担持したシート状組織移送デバイスを挿入し、前記管状支持体の内壁に前記シート状組織を貼付する工程、
を含む、方法。
【請求項12】
前記管状組織作製デバイスが、前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第2支持部をさらに備え、
ここで前記工程(2)は、前記第2支持部に前記管状支持体の第2開口部を固定することにより前記管状支持体の内腔と前記チャンバの外とを連通させる工程、である、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(4)の後に、さらに、
(5)前記加減圧手段によって、前記チャンバの内部空間を加圧し、前記管状支持体を収縮させる工程、
を含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記シート状組織移送デバイスが、膨縮手段を有する、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(3)及び(4)を任意の回数繰り返す、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状組織作製デバイス、管状組織作製キット及び管状組織の作製方法に関する。なお、本出願は日本国特許庁に2017年12月11日に出願した特願2017-236746号を基礎とする優先権を主張する出願であり、参照によってその明細書全体が本明細書中に取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療や薬物応答組織モデルへ利用することを目的として、細胞を用いた三次元的な組織、臓器を作製する技術が開発されている。従来、接着性細胞の多くは生体外では二次元的(平面)にしか培養できなかった。しかし、生体の多く組織は、細胞が三次元的に積みあがることで構築されたものであり、より生体内の状態に近づけるためには、細胞を三次元的に構築する技術が求められていた。
【0003】
細胞を三次元的に構築する試みとしては、例えば、細胞をスキャフォールドと呼ばれる足場に播種して三次元的に組織を構築して移植する方法や、臓器・組織を脱細胞化し、残存したマトリックスを足場として細胞を播種して三次元化する方法、シート状に剥離した細胞シートを三次元的に積層して組織を構築する方法などが開発されている。これらはいずれも再生医療分野や創薬分野での応用が期待される技術であり、早期の実用化が待ち望まれている。
【0004】
細胞シートを作製するために、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0~80℃であるポリマーを培養基材表面に被覆した細胞培養皿(温度応答性培養皿)が開発されている(特許文献1)。当該細胞培養皿を用いて、培養皿表面に被覆されたポリマーの上限臨界溶解温度未満又は下限臨界溶解温度以上にて細胞培養し、細胞がコンフルエントになる状態まで培養した後に上限臨界溶解温度以下又は下限臨界溶解温度未満にすると、細胞をシート状かつ非侵襲的に回収することができる。
【0005】
細胞シートを作製する方法が確立されたことにより、細胞治療の技術は劇的に変化を遂げた。しかしながら、細胞移植では治療効果を示さないと考えられる重篤な患者に対しては、依然として臓器移植が有効な治療手段のままである。ところが、臓器移植を必要とする患者の数に対して、供給される臓器の数は圧倒的に少なく、生体外で臓器又は組織を構築し、供給する技術の開発が求められている状況である。こうした課題に対しても細胞シート工学の技術が応用されており、細胞シートを積層することで厚みをもった三次元生体組織を構築する試みが行われている。例えば、血管床上に細胞シートを段階的に積層し、血管網を付与した組織を作製する方法が開発されている(特許文献2)。また、平面の組織だけではなく、管状の血管に心筋細胞シートを巻き付けることにより、ポンプ機能を付与する試みも行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平02-211865号公報
【文献】国際公開第2012/036224号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sekine H,et al.,Pulsatile myocardial tubes fabricated with cell sheet engineering.Circulation.2006 Jul 4;114(1 Suppl):I87-93.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シート状組織(例えば、細胞シート等)積層することで厚みをもった三次元生体組織を作製する試みが行われているが、シート状組織は非常に薄く、脆いために、所望の形状に積層するためには、操作者の熟練した技術を必要とするものであった。特に、管状組織の内壁にシート状組織を積層することは困難であり、操作者の技量に依存することがなく、より簡便なシート状組織を積層する新たな方法が必要であった。このような課題に対し、本発明は、簡便かつ安定して管状組織を作製する方法を提供することを目的とする。また、当該方法を実施するための管状組織作製デバイス及び管状組織作製キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に対し、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、管状支持体に陰圧を印加することにより、非接触状態で管状支持体を膨張させることができ、操作者の手技の熟練度に依存せずに簡便かつ安定して管状組織を作製することを可能とする、管状組織作製デバイス、管状組織作製キット及び管状組織の作製方法を開発するに至った。すなわち、本発明は以下を含む。
【0010】
[1] 管状支持体を収容するためのチャンバと;
前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第1支持部と;
前記チャンバの内部空間の圧力を制御するための加減圧手段と、
を備え、
ここで第1支持部は、前記管状支持体の第1開口部を固定し、前記管状支持体の内腔と前記チャンバの外とを連通し、かつ、前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの前記内部空間とを隔離するための第1支持部である、
管状組織作製デバイス。
[2] 前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第2支持部をさらに備え、
ここで前記第2支持部は、前記管状支持体の第2開口部を固定し、前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの外とを連通し、かつ、前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの前記内部空間とを隔離するための第2支持部である、[1]に記載のデバイス。
[3] 前記チャンバに、前記チャンバの内外を連通する流体注出入口をさらに備え、
ここで前記加減圧手段が前記流体注出入口に接続されている、[1]又は[2]に記載のデバイス。
[4] 前記加減圧手段が、シリンジである、[3]に記載のデバイス。
[5] 前記加減圧手段と前記流体注出入口との間に、バルブ機構を備える、[3]又は[4]に記載のデバイス。
[6] 前記チャンバに、前記管状支持体を備える、[1]~[5]のいずれか1項に記載のデバイス。
[7] 前記管状支持体が、生体組織由来の管状支持体である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のデバイス。
[8] 前記チャンバの内外と連通し、培地供給流路と接続した動脈接続部と、
前記チャンバの内外と連通し、培地排出流路と接続した静脈接続部と
をさらに備えた、[1]~[7]のいずれか1項に記載のデバイス。
【0011】
[9] [1]~[8]のいずれか1項に記載のデバイスと、
シート状組織移送デバイスと、
を含む、管状組織作製キット。
[10] 前記シート状組織移送デバイスが、膨縮手段を有する、[9]に記載のキット。
【0012】
[11] 管状組織の作製方法であって、
管状支持体を収容するためのチャンバと;
前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第1支持部と;
前記チャンバの内部空間の圧力を制御するための加減圧手段と、
を備える、管状組織作製デバイスを用い、
(1)前記第1支持部に管状支持体の第1開口部を固定することにより前記管状支持体の内腔と前記チャンバの外とを連通させる工程、
(2)前記管状支持体の前記内腔と前記チャンバの前記内部空間とを隔離させる工程、
(3)前記加減圧手段によって、前記チャンバの内部空間を減圧し、前記管状支持体を膨張させる工程、
(4)前記第1支持部の外端開口より、シート状組織を担持したシート状組織移送デバイスを挿入し、前記管状支持体の内壁に前記シート状組織を貼付する工程、
を含む、方法。
[12] 前記管状組織作製デバイスが、前記チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第2支持部をさらに備え、
ここで前記工程(2)は、前記第2支持部に前記管状支持体の第2開口部を固定することにより前記管状支持体の内腔と前記チャンバの外とを連通させる工程、である、
[11]に記載の方法。
[13] 前記工程(4)の後に、さらに、
(5)前記加減圧手段によって、前記チャンバの内部空間を加圧し、前記管状支持体を収縮させる工程、
を含む、[11]又は[12]に記載の方法。
[14] 前記シート状組織移送デバイスが、膨縮手段を有する、[11]~[13]のいずれか1項に記載の方法。
[15] 前記工程(3)及び(4)を任意の回数繰り返す、[11]~[14]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、形状が複雑である管状支持体であっても、その内壁に、簡便かつ安定してシート状組織を貼付及び積層することを可能とする。これにより、厚みをもった管状組織を簡便かつ再現良く提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態における、管状組織作製デバイスの斜視図を示す。以下の図2~5に示す管状組織作製デバイスの概略図は、同一平面Pの断面図を表している。
図2】一実施形態における、管状組織作製デバイスを示す概略断面図である。
図3-1】一実施形態における、管状組織作製デバイスを示す概略断面図である。
図3-2】一実施形態における、管状組織作製デバイスを示す概略断面図である。
図3-3】一実施形態における、管状組織作製デバイスを示す概略断面図である。
図4】一実施形態における管状組織作製デバイスを示す概略断面図である。
図5】一実施形態における管状組織作製デバイスを示す概略断面図である。
図6】本発明の管状組織作製デバイスにおいて、減圧前後の小腸を示す図である。(A)減圧前の小腸、(B)減圧後の小腸。
図7】本発明の管状組織作製デバイスを用いて作製した管状組織切片像を示す図である。管状組織切片における細胞核(青、Hoechst)及び心筋トロポニンT(緑、cTnT)染色像を示す。スケールバーは100μmを示す。
図8】本発明の管状組織作製デバイスを用いて作製した管状組織切片像を示す図(拡大図)である。(A)HE染色像、(B)細胞核(青、Hoechst)及び心筋トロポニンT(緑、cTnT)染色像を示す。スケールバーは100μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
本明細書において、「管状組織」とは、管状支持体にシート状組織を貼付することにより得られる構造体をいう。
【0017】
本明細書において、「管状支持体」とは、管腔構造を有する構造体であり、特に生体組織由来の管腔構造体をいう。管状支持体としては、例えば、腸管(小腸、大腸など)、食道、胃などの消化管、血管、リンパ管、胆管、尿管、膀胱、尿道、気管、子宮、卵管などを用いることができる。従来、このような管状支持体は、収縮した状態のものが多く、内側にシート状組織を貼付しようとする場合、所望の部位に到達する前にシート状組織が脱落し、貼り付けることが困難であった。本発明を適用することにより、管状支持体であっても簡便かつ安定的にシート状組織を貼付することが可能とする。
【0018】
管状支持体は、貼付するシート状組織が壊死しないように、動脈及び静脈が結合した状態で採取したものを用いることができる。また、管状支持体は、公知の方法によって、脱細胞化した管状支持体を用いることができる。
【0019】
本発明に用いられる管状支持体は、少なくとも1つの開口を有している。本明細書において、「開口部(第1開口部及び第2開口部)」とは、当該開口とその周辺部分を含む意味で用いられる。管状支持体の開口部は、本発明の管状組織作製デバイスに設けられている支持部(第1支持部又は第2支持部(後述))」に固定され、管状組織作製デバイスのチャンバの外部空間と連通される。本発明に用いられる管状支持体の開口部は、メスやハサミなどをもちいて人為的に形成したものであってもよい。
【0020】
本明細書において、「シート状組織」とは、任意の細胞を含む1層又は複数層のシート形状の組織をいう。シート状組織は、生体組織から回収したシート状組織であってもよく、細胞とハイドロゲルとを混合して、培養することにより得られたものであってもよく、細胞シートであってもよい。
【0021】
シート状組織の作製に用いられる細胞の由来は、特に制約されるものではないが、例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、チンパンジーあるいはそれらの免疫不全動物などの哺乳類動物、鳥類、爬虫類、両生類、両生類、魚類、昆虫等が挙げられる。また、シート状組織の作製に用いられる細胞種、細胞数、含まれる細胞の割合等については、用途に応じて適宜選択、又は調整すればよい。
【0022】
本明細書において、「細胞シート」とは、細胞培養基材上で培養し、細胞培養基材上から剥離することで得られる1層又は複数層の細胞群をいう。細胞シートを得る方法としては、例えば、温度、pH、光等の刺激によって分子構造が変化する高分子を被覆した刺激応答性培養基材上で細胞を培養し、温度、pH、光等の刺激の条件を変えて刺激応答性培養基材表面を変化させることで、細胞同士の接着状態は維持しつつ、刺激応答性培養基材から細胞をシート状に剥離する方法や、任意の培養基材にて細胞を培養し、細胞培養基材の端部から物理的にピンセット等により剥離する方法等が挙げられる。好ましい形態としては、刺激応答性培養基材として、0~80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した温度応答性培養基材を用いる方法であり、例えば、セルシード社(日本、東京)から市販されているUpCell(登録商標)を用いることにより、簡便に細胞シートを得ることができる。
【0023】
本発明に用いられる管状支持体、シート状組織は、目的に応じて適宜組み合わせを選択することが可能であり、限定されない。シート状組織に含まれる細胞についても、目的に応じて適宜選択することが可能である。
【0024】
1.管状組織作製デバイス
図1は、本発明の一実施形態にかかる管状組織作製デバイス1の外観(図1は、後述の管状組織作製デバイス1cの外観)の斜視図を示す。図2~5の管状組織作製デバイス1の図は、図1で示される管状組織作製デバイス1の同一平面Pの断面図を示している。
【0025】
1-1.第1形態
図2で示される本発明の一実施形態において、管状組織作製デバイス1aは:
管状支持体20を収容するためのチャンバ10と;
前記チャンバ10の内外を連通し、前記管状支持体20を固定するための第1支持部11と;
前記チャンバ10の内部空間S1の圧力を制御するための加減圧手段15と、
を備え、
ここで第1支持部11は、前記管状支持体20の第1開口部20aを固定し、前記管状支持体20の内腔S2と前記チャンバの外とを連通し、かつ、前記管状支持体20の前記内腔S2と前記チャンバ10の前記内部空間Sとを隔離するための第1支持部11である。
【0026】
図1に示すように、チャンバ10は、チャンバ本体10aとチャンバ蓋体10bを備える。チャンバ本体10aとチャンバ蓋体10bと組み合わせることで、チャンバ10の内外の空間を分離することができる。チャンバ本体10aとチャンバ蓋体10bが密着する縁部分には、それぞれを密着させるためのシール部材(例えば、Oリング、パッキン等)を備えている。チャンバ本体10aとチャンバ蓋体10bは、チャンバ固定具10dにより、固定される。チャンバ固定具10dとしては、例えば、複数のスナップ錠によって固定することができる。チャンバ蓋体10bの一部には、チャンバ10の内部を視認できるように窓部10cが設けられている。
【0027】
チャンバ10の一部には、チャンバ10の内外を連通し、管状支持体20を固定するための第1支持部11が設けられている。第1支持部11がチャンバ10の内外を連通していることにより、管状支持体20とチャンバ10の外部空間との圧力を同一にすることが可能となる。第1支持部11は、チャンバ10の内側に突出して設けられており、これにより管状支持体20の第1開口部20aを固定することができる。第1支持部11は、円筒形状を有しており、チャンバ10の内外の空間を連通させる役割を果たす。第1支持部11の形状は、円筒形状に限らず、中空の角柱(三角柱、四角柱、六角柱等)であってもよい。第1支持部11の径は、用いられる管状支持体20の径によって適宜変更することができる。チャンバ10の第1支持部11の外側部分(第1支持部の第1外端部11a)は、図2のように突出した形状であってもよいが、チャンバ10の外壁から突出せずに、第1外端開口11bのみを有する形状であってもよい。
【0028】
第1支持部11と、管状支持体20の第1開口部20aは、第1シール部材17aにより固定される。第1シール部材17aは、例えば、縫合糸などであってもよく、シリコーンゴム、天然ゴム、樹脂または金属などからなるパイプクリップであってもよい。また、第1シール部材17aは、フィブリンゲルなどの生体接着物質を用いるものであっても良く、第1開口部20aと第1支持部11との間を密着させる機能を有するものであれば適用することができる。第1支持部11の一部には、溝が設けられていても良く、これにより、第1シール部材17aが食い込み、管状支持体20の第1開口部20aをより密着して固定させることができる。
【0029】
チャンバ10には、チャンバ10の内部空間S1の圧力を制御するための加減圧手段15が設けられている。加減圧手段15は、図2(A)に示されるように、チャンバ10の内外を連通する流体注出入口13と第1流路14を介して接続されている。加減圧手段15は、例えば、シリンジやポンプなど、公知の手段を用いることができる。簡素な機構であり、加減圧の微妙な調節も可能であることから、加減圧手段15としてシリンジは好ましい。加減圧手段15は、チャンバ10のチャンバ本体10aに設けられていても良く、チャンバ蓋体10bに設けられていてもよい。
【0030】
他の実施形態において、加減圧手段15と流体注出入口13との間の第1流路14には、バルブ機構16をさらに備えている。バルブ機構16は、例えば、二方活栓や、クリップなどを用いることができる。バルブ機構16のコック16aを回転させることによって、加減圧手段15によって加圧又は減圧したチャンバ10の内部空間S1の圧力を一定に保つことが可能となる。
【0031】
本実施形態の管状組織作製デバイス1aを用いる場合、管状支持体20は、第1開口部20a以外の開口部(例えば、図2(A)の第2開口部20b)を有する場合は、開口部閉鎖手段20dなどによって閉鎖する必要がある。これにより、管状支持体20の内腔S2とチャンバ10の内部空間S2とを隔離することができる。この状態で、加減圧手段15によりチャンバ10の内部空間S2を減圧すると、図2(B)のように、管状支持体20の内外に圧格差が生じ、管状支持体20が膨張する。これにより、従来、管状の支持体の内側にシート状組織を貼付する場合、管状支持体が収縮して潰れているために、シート状組織を損傷させることなく貼り付けることが困難であったが、簡便かつ安定的にシート状組織を貼付することが可能となる。
【0032】
1-2.第2形態
図3図3-1~図3-3)で示される本発明の一実施形態において、管状組織作製デバイス1bは、管状組織作製デバイス1aの各部材に加えて、チャンバ10の一部に:
チャンバの内外を連通し、前記管状支持体を固定するための第2支持部12、を備えている(図3)。
【0033】
第2支持部12は、管状支持体20の第2開口部20bを固定し、管状支持体20の内腔S2とチャンバ10の外とを連通し、かつ、管状支持体20の内腔S2とチャンバの内部空間S1とを隔離する。第2支持部12がチャンバ10の内外を連通していることにより、管状支持体20とチャンバ10の外部空間との圧力を同一にすることが可能となる。第2支持部12は、チャンバ10の内側に突出して設けられており、これにより管状支持体20の第2開口部20bを固定することができる。第2支持部12は、円筒形状を有しており、チャンバ10の内外の空間を連通させる役割を果たす。第2支持部12の形状は、円筒形状に限らず、中空の角柱(三角柱、四角柱、六角柱等)であってもよい。第2支持部12の径は、用いられる管状支持体20の径によって適宜変更することができる。チャンバ10の第2支持部12の外側部分(第2支持部の第2外端部12a)は、図3のように突出した形状であってもよいが、チャンバ10の外壁から突出せずに、第2外端開口12bのみを有する形状であってもよい。
【0034】
第2支持部12と、管状支持体20の第2開口部20bは、第2シール部材17bにより固定される。第2シール部材17bは、例えば、縫合糸などであってもよく、シリコーンゴム、天然ゴム、樹脂または金属などからなるパイプクリップであってもよい。また、第2シール部材17bは、フィブリンゲルなどの生体接着物質を用いるものであっても良く、第2開口部20bと第2支持部12との間を密着させる機能を有するものであれば適用することができる。第2支持部12の一部には、溝が設けられていても良く、これにより、第2シール部材17bが食い込み、管状支持体20の第2開口部20bをより密着して固定させることができる。
【0035】
第2支持部12は、第1支持部11と径が同一ものであってもよく、径が異なるものでもあってもよい。第1支持部11と第2支持部12は、図1のようにチャンバ10の両端に対向するように配置されている。これにより、管状支持体20を均一に膨張させることができる(図3-1(B))。
【0036】
1-3.第3形態
図4で示される本発明の一実施形態において、管状組織作製デバイス1cは、管状組織作製デバイス1a又は管状組織作製デバイス1bの加減圧手段15として、チャンバ10の少なくとも一部に弾性部材15aを有している。さらに、チャンバ10の一部には、逆止弁bを備えている。弾性部材15aには、弾性部材15aに力を加えるための把持部150aを備えている。弾性部材15aを押し込むと(図4の弾性部材15a’)、チャンバ10の内部空間S1の体積が小さくなり、内部空間S1に存在していた流体が、逆止弁15bよりチャンバ10の外へと排出される。その後、把持部150aを引くことで弾性部材15aが元の形状又はさらに凸形状へと変化させる。この時、チャンバ10の内部空間S1へは、再度流体が供給されないまま内部空間S1の体積が大きくなるために、内部空間S1の圧力が下がる。その結果、管状支持体20の内外に圧格差が生じ、管状支持体20が膨張する。これにより、従来、管状の支持体の内側にシート状組織を貼付する場合、管状支持体が収縮して潰れているために、シート状組織を損傷させることなく貼り付けることが困難であったが、簡便かつ安定的にシート状組織を貼付することが可能となる。
【0037】
1-4.第4形態
図5で示される本発明の一実施形態において、管状組織作製デバイス1dは、管状組織作製デバイス1a、管状組織作製デバイス1b又は管状組織作製デバイス1cの各部材に加えて、チャンバ10の一部に:
チャンバ10の内外と連通し、培地供給流路19aと接続した動脈接続部18aと、
チャンバ10の内外と連通し、培地排出流路19bと接続した静脈接続部18bと、をさらに備えている。
【0038】
管状支持体20が、動脈21及び静脈22を有する管状支持体20である場合、その動脈21及び静脈22をそれぞれ、動脈接続部18a及び静脈接続部18bへと接続させることができる。
【0039】
動脈接続部18aは、培地供給流路19aと連通し、さらに培地供給手段(図示しない)と接続されている。これにより、培地供給手段に含まれる培地を管状支持体20へと供給することができ、管状組織を構築中であっても、貼付されるシート状組織が虚血になることを防止することができる。
【0040】
静脈接続部18bは培地排出流路19bと連通し、さらに培地排出層(図示しない)と接続されている。これにより、培地供給手段から供給され、管状支持体20で消費された培地を、効率的にチャンバ10の外へと排出することができる。
【0041】
2.管状組織作製キット
一実施形態において、本発明は、上述の管状組織作製デバイス1(1a、1b、1c、1d)と、シート状組織移送デバイス30とを含む、管状組織作製キットを提供する。
【0042】
シート状組織移送デバイス30は、シート状組織STを載せて、シート状組織STを管状支持体20の内壁20cの任意の部位に貼付する機能を有するものを用いることができ、例えば、特開2008-79783号公報や、国際公開第2017/043600号に記載のデバイスを用いることができる。簡単に述べると、図3-2(C)に示すように、シート状組織移送デバイス30は、流体供給管32と、その先端に設けられた筒状部33と、筒状部33の外周面に膨縮可能に設けられた膨縮手段31とを有している。膨縮手段31にはシート状組織STが巻き付けられている。上述の管状組織作製デバイス1(1a、1b、1c、1d)によって膨張させ、第1支持部11の第1外端開口11bより、シート状組織STを担持したシート状組織移送デバイス30を挿入する。その後、流体を、流体供給管32を介して膨縮手段31へと送り込み、膨縮手段31を膨張させる。これにより、シート状組織STを管状支持体20の内壁20cに密着させることができ、シート状組織STを管状支持体20の内壁20cに貼付することができる。
【0043】
シート状組織移送デバイス30は、少なくともシート状組織を載置することができ、第1支持部11の第1外端開口11bを通過可能な形状であれば採用することができる。シート状組織STを管状支持体20の内壁20cに簡便かつ均一に貼付することができる点においては、膨縮手段31を有することが好ましい。膨縮手段31としては、例えばバルーンを用いることができる。
【0044】
3.管状組織の作製方法
本発明は、上記の管状組織作製デバイス1(1a、1b、1c、1d)と、シート状組織移送デバイス30とを用いる、管状組織の作製方法を提供する。なお、管状組織作製デバイス1(1a、1b、1c、1d)と、シート状組織移送デバイス30の説明は、上述のものが適用される。
【0045】
一実施形態において、管状組織の作製方法は、
管状支持体20を収容するためのチャンバ10と;
前記チャンバ10の内外を連通し、前記管状支持体20を固定するための第1支持部11と;
前記チャンバ10の内部空間S1の圧力を制御するための加減圧手段15と、
を備える、管状組織作製デバイス1aを用い、
(1)前記第1支持部11に管状支持体20の第1開口部20aを固定することにより前記管状支持体20の内腔S2と前記チャンバ10の外とを連通させる工程、
(2)前記管状支持体20の前記内腔S2と前記チャンバ10の前記内部空間S1とを隔離させる工程、
(3)前記加減圧手段15によって、前記チャンバ10の内部空間S1を減圧し、前記管状支持体20を膨張させる工程、
(4)前記第1支持部11の第1外端開口11bより、シート状組織STを担持したシート状組織移送デバイス30を挿入し、前記管状支持体20の内壁20cに前記シート状組織STを貼付する工程、
を含んでいる。
【0046】
管状組織作製デバイス1aを用いる場合であって、管状支持体20が、第1開口部20a以外の開口部(例えば、図2(A)の第2開口部20b)を有する場合は、開口部閉鎖手段20dなどによって閉鎖する必要がある。これにより、管状支持体20の内腔S2とチャンバ10の内部空間S2とを隔離することができる(工程(2))。
【0047】
他の実施形態において、管状組織の作製方法は、
チャンバ10の内外を連通し、管状支持体20を固定するための第2支持部12をさらに備える管状組織作製デバイス1bを用いるものであってもよい。この場合、工程(2)は、第2支持部12に管状支持体20の第2開口部20bを固定することにより管状支持体20の内腔S2とチャンバ10の外とを連通させる工程、を実施することにより、管状支持体20の内腔S2とチャンバ10の内部空間S2とを隔離することができる。
【0048】
他の実施形態として、工程(4)の後に、さらに、
(5)前記加減圧手段15によって、前記チャンバ10の内部空間S1を加圧し、前記管状支持体20を収縮させる工程、を実施することができる(図3-3)。
【0049】
図3-3(E)で示されるように、加減圧手段15によってチャンバ10の内部空間S1を加圧し、管状支持体20を収縮させることにより、管状支持体20の内壁20cとシート状組織STとを、より密着させることができる。これにより、貼付されるシート状組織STが管状支持体20に生着することを促進させることができる。
【0050】
他の実施形態として、工程(3)及び(4)を任意の回数繰り返すことにより、シート状組織を、任意の枚数積層することが可能となる。これにより、厚みをもった管状組織が簡便かつ安定的に提供可能となる。
【0051】
本発明の管状組織作製デバイス1(1a、1b、1c、1d)の加減圧手段(加減圧手段15、弾性部材15a)による減圧及び/又は加圧の程度は、使用する管状支持体20の性質によって適宜調整されるものであり、管状支持体20の膨張及び/又は収縮の程度を観察しながら適宜調節することができる。
【実施例
【0052】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。なお、本実施例における実験は、早稲田大学並びに東京女子医科大学の生物実験安全管理規程施行細則に従い、両大学に設置された動物実験審査委員会において承認された。
【0053】
<使用した動物、細胞、試薬等>
本実施例において、以下の動物、細胞、試薬等を使用した。
・ラット(LEW/CrlCrlj)
・心筋細胞(ヒトiPS細胞株201B7)
・温度応答性培養皿(UpCell(登録商標))(セルシード社)
・FBS(ジャパンバイオシーラム社、S1650-500)
・DMEM(SIGMA、D6429)
・penicillin-streptomycin solution(Life Technologies、15140-122)
・4%パラホルムアルデヒド固定液(武藤化学社、3311-1)
・抗ラット心筋トロポニンT(cTnT)抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、MS-295-P1)
・2次染色抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、A11019)
・Hoechst(同仁化学研究所、Hoechst3325)
【0054】
<管状支持体(小腸)の回収方法>
実施例において使用した管状支持体(小腸)は、以下のようにして採取した。
ラットをイソフルラン濃度3%の麻酔下において、腹部を正中切開し回腸を露出させた。ハサミを用いて回腸と回腸動静脈を分離し、回盲口から回腸側に5cm切り取ることで回腸を単離した。
【0055】
<心筋細胞シートの作製方法>
心筋細胞は、Matsuuraらの方法(Katsuura M.et al.,Creation of human cardiac cell sheets using pluripotent stem cells,Biochemical and Biophysical Research Communications,425,2012.)に従って作製した。具体的には回転式のバイオリアクター内でヒトiPS細胞を心筋細胞へ分化誘導させ回収した。分化誘導の際、アスコルビン酸(Sigma-Aldrich社)を50μg/ml、L-グルタミンを2mM、1-チオグリセロール(Sigma-Aldrich)を400μMの濃度で混合したStemPro34培地を基本培地とし、この培地に以下の成長因子を添加して用いた。
【0056】
(1)Day0~1:0.5ng/mL BMP4(R&D systems,Minnea poils,MN);
(2)Day1~4:10ng/ml BMP4、5ng/ml bFGF、3ng/ml activinA(R&D systems);
(3)Day4~6:4μM IWR-1(Wako);
(4)Day6~16:5ng/ml VEGF、10ng/ml bFGF。
【0057】
培地はDay1、4、6、8、10、12及び14に交換した。
【0058】
Day16においてバイオリアクターから回収した細胞を、1.0×10細胞/10cmディッシュの濃度で播種した。この際の培地は10%FBS、および1%ペニシリンストレプトマイシンを含むDMEMを用いた。播種の翌日からピューロマイシンを100ng/mlの濃度になるように混合し、5%CO、飽和水蒸気下の37℃インキュベーター内で培養した。Day1、3、5、7、10、12で培地交換を行い、Day14にてTrypsin-EDTA溶液を用いて細胞を回収した。温度応答性の35mm培養皿(UpCell(登録商標)、セルシード社)上に、回収した細胞及びヒト皮膚線維芽細胞をそれぞれ100万細胞/培養皿の濃度にて播種し、10%FBS、1%ペニシリンストレプトマイシンを含むDMEMで1週間5%CO、飽和水蒸気下の37℃インキュベーター内で培養した。その後、20℃で保温することで、細胞シートとして回収した。
【0059】
<ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、免疫染色>
回収した組織をパラフィン固定し5μmの厚さで薄切した後、HE染色や免疫染色をすることで積層組織の形態を評価した。
【0060】
<実施例1>
小腸内壁への心筋細胞シートの積層方法
【0061】
管状の小腸の両端の開口部を、チャンバ外と通じているシリコーンチューブ(図6の第1支持部11及び第2支持部12に相当)に接続した。これにより、小腸の内腔が常に大気圧に保たれることになる。密閉チャンバの蓋にはシリコーンチューブを介して大気開放してある箇所が存在しており、その部分からチャンバ内部の空気を引いた。これにより、チャンバ内の圧力が低下していき、大気圧に保たれている小腸内腔との間に圧格差が生じる。この時生じる圧格差によって小腸が拡張しきるまでチャンバ内圧力を低下させた。小腸が完全に拡張した状態で大気開放箇所を遮断し、チャンバを密閉空間にすることで内部圧力を維持した。これにより小腸が拡張した状態で維持することが可能であり、その拡張した小腸にシート状組織移送デバイスを挿入し、細胞シートを小腸内壁に貼付した(図6)。
【0062】
<実施例2>
減圧及び小腸内壁への心筋細胞シートの積層結果
【0063】
本発明で用いた管状組織作製デバイスにて、減圧して小腸を拡張したところ、圧格差によって小腸が拡張した(図6)。拡張した小腸にシート状組織移送デバイスを挿入し、心筋細胞シートを内壁に積層したところ、小腸内壁に貼付された細胞シートを確認することができた(図7)。また、貼付された心筋細胞シートは小腸の形状に合わせて積層されていることが確認できた(図8)。これは、本発明の管状組織作製デバイスを用いた積層により心筋細胞シートが小腸に圧着されていることによるものであると考えられる。また、本発明の管状組織作製デバイスを用いて加圧することで心筋細胞シートと小腸の圧着の程度を調整することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1、1a、1b、1c、1d:管状組織作製デバイス、10:チャンバ、10a:チャンバ本体、10b:チャンバ蓋体、10c:窓部、10d:チャンバ固定具、11:第1支持部、11a:第1外端部、11b:第1外端開口、12:第2支持部、12a:第2外端部、12b:第2外端開口、13:流体注出入口、13a:コネクタ、14:第1流路、15:加減圧手段、150:ピストン、15a、15a’:弾性部材、150a:把持部、15b:逆止弁、16:バルブ機構、16a:コック、17a:第1シール部材、17b:第2シール部材、17c:第3シール部材、17d:第4シール部材、18a:動脈接続部、18b:静脈接続部、19a:培地供給流路、19b:培地排出流路、20:管状支持体、20a:第1開口部、20b:第2開口部、20c:内壁、20d:開口部閉鎖手段、21:動脈、22:静脈、30:シート状組織移送デバイス、31:膨縮手段、32:流体供給管、33:筒状部、S1:内部空間、S2:内腔、ST:シート状組織、P:同一平面
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6
図7
図8