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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】音響光学ビームステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/335 20060101AFI20230707BHJP
【FI】
G02F1/335
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019572525
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018040607
(87)【国際公開番号】W WO2019135787
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】62/527,332
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アミール-ホセイン・サファヴィー-ナエイニ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ジョン・サラバリス
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー・デイヴィッド・ウィットマー
(72)【発明者】
【氏名】パトリシオ・アランゴイズ・アリオラ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・フランク・ジェイ・ファン・ラール
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0300695(US,A1)
【文献】特開2011-180464(JP,A)
【文献】特開2015-191031(JP,A)
【文献】特開2003-287633(JP,A)
【文献】米国特許第05576880(US,A)
【文献】国際公開第2016/075681(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1477435(CN,A)
【文献】YANG, Dengcai, et al.,Laser-phased-array beam steering controlled by lithium niobate waveguides,Optical Engineering,米国,SPIE,2013年,vol.53, no.6,pp.061605-1 - 061605-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された少なくとも1つの表面導波路であって、少なくとも1つの表面導波路は少なくとも1つの光信号を伝達するように構成され、該少なくとも1つの表面導波路のそれぞれが、第1の屈折率を有する第1の材料であるコアと、第2の屈折率を有する第2の材料であるクラッドとを含み、第1の屈折率が第2の屈折率より少なくとも10%高い、少なくとも1つの表面導波路を備えた平面光波回路(PLC)と、
前記少なくとも1つの表面導波路において少なくとも1つの機械波を誘発するように構成された音響トランスデューサと、
(1)前記少なくとも1つの機械波の第1の機械波の位相、および(2)前記少なくとも1つの表面導波路の第1の表面導波路における前記少なくとも1つの光信号の第1の光信号の位相、のうちの少なくとも1つを制御するように構成された第1の位相シフタを含む複数の位相シフタを備えた位相コントローラと、
を含んでなる光ビームステアリングシステムにおいて、
記平面光波回路(PLC)と前記基板とがモノリシックに集積され、
前記少なくとも1つの表面導波路は、前記基板から解放されて前記基板に対して移動可能な第1の領域に形成されている、光ビームステアリングシステム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの表面導波路は、前記基板上に配置された複数の表面導波路を含み、前記複数の表面導波路は、第1の表面導波路を含み、前記複数の表面導波路におけるそれぞれの表面導波路は、前記第1の光信号を含む複数の光信号の異なる光信号を伝達し、
前記少なくとも1つの機械波は複数の機械波を含み、該機械波のそれぞれは、前記複数の表面導波路のそれぞれの表面導波路に結合され、
前記複数の位相シフタの各位相シフタは、前記複数の機械波の各機械波とそれぞれの表面導波路によって伝達される前記光信号との相対位相を制御するように構成されている、請求項1に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの機械波と前記光信号の少なくとも一部とが相互作用し、少なくとも1つの出力ビームとして、前記少なくとも1つの表面導波路から前記少なくとも1つの光信号の光を散乱させるように、前記第1の表面導波路と前記音響トランスデューサとが構成されている、請求項1に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項4】
前記基板の上で前記第1の領域を支持する複数の支持体をさらに含み、各支持体は、複数の表面導波路の一対の隣接する表面導波路間に配置され、各支持体は、そのそれぞれの一対の隣接する表面導波路間の機械的結合を緩和するように構成されている、請求項1に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項5】
前記第1の位相シフタは、前記音響トランスデューサと前記第1の表面導波路との間に配置された第1の材料領域の物理的特性を制御するために動作可能である、請求項2に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項6】
前記物理的特性は、弾性および密度からなる群から選択される、請求項5に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項7】
前記複数の位相シフタのそれぞれは、複数の材料領域のそれぞれの材料領域を制御するために動作可能である機械的位相シフタであり、それぞれの材料領域は、前記音響トランスデューサと前記複数の表面導波路のそれぞれの表面導波路との間に配置されている、請求項2に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項8】
前記複数の位相シフタのそれぞれは、前記複数の光信号の異なる光信号上に位相シフトを与えるように構成された光学位相シフタである、請求項2に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項9】
前記複数の光信号のそれぞれは波長λによって特徴付けられ、前記複数の表面導波路のそれぞれは第1の導波路部分を含み、複数の前記第1の導波路部分は、約λ/3から約2λの範囲内にある均一なピッチを有する線形アレイに配置されている、請求項2に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項10】
前記第1の表面導波路はスラブ導波路であり、前記少なくとも1つの機械波は、前記スラブ導波路を伝播する複数の機械波を含み、さらに前記位相コントローラは、前記複数の機械波の相対位相を制御するように構成されている、請求項1に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項11】
前記第1の表面導波路はスラブ導波路であり、前記第1の光信号は複数の光部分を含み、さらに前記位相コントローラは、前記複数の光部分の相対位相を制御するように構成されている、請求項1に記載の光ビームステアリングシステム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の光ビームステアリングシステムを使用した、光ビームをステアリングするための方法であって、
光ビームステアリングシステムの平面光波回路(PLC)の少なくとも1つの表面導波路において波長λを有する少なくとも1つの光信号を伝達するステップと、
少なくとも1つの機械波を前記少なくとも1つの表面導波路に結合するステップと、
(1)前記少なくとも1つの機械波の位相、および(2)前記少なくとも1つの光信号の位相、のうちの少なくとも1つを制御するステップと、
を含む方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの表面導波路は、複数の表面導波路を含み、前記少なくとも1つの光信号は複数の光信号を含み、前記複数の光信号のそれぞれは、前記複数の表面導波路のそれぞれの表面導波路を伝播し、さらに、前記少なくとも1つの機械波は複数の機械波を含み、当該方法は、前記複数の機械波のそれぞれの機械波を、前記複数の表面導波路のそれぞれに結合させるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの機械波と前記少なくとも1つの光信号とを相互作用させるステップであって、前記少なくとも1つの表面導波路から光を散乱させて出力ビームを形成するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の表面導波路の第1の表面導波路における前記複数の光信号の第1の光信号と前記複数の機械波の第1の機械波との第1の相対位相を制御するステップをさらに含み、前記第1の相対位相は、前記第1の機械波の位相を制御することによって少なくとも部分的に制御される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の機械波の位相は、音響トランスデューサと第1の導波路との間に配置された第1の材料領域の物理的特性を制御することによって制御され、前記物理的特性は、弾性および密度からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の表面導波路の第1の表面導波路における前記複数の光信号の第1の光信号と前記複数の機械波の第1の機械波との第1の相対位相を制御するステップをさらに含み、前記第1の相対位相は、前記第1の光信号の位相を制御することによって少なくとも部分的に制御される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記複数の機械波の相対位相を制御するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の光信号の相対位相を制御するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の表面導波路のそれぞれは第1の導波路部分を含み、複数の前記第1の導波路部分は、約λ/3から約2λの範囲内にある均一なピッチを有する線形アレイに配置されている、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの表面導波路はスラブ導波路を含み、前記少なくとも1つの機械波は複数の機械波を含み、当該方法は、前記複数の機械波を前記スラブ導波路に結合させるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの表面導波路はスラブ導波路を含み、前記少なくとも1つの機械波は複数の機械波を含み、当該方法は、前記複数の機械波を、複合波として前記スラブ導波路に結合させるステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記複数の機械波の位相を制御するステップをさらに含み、前記スラブ導波路における前記複合波の伝播方向は、前記複数の機械波の位相に基づいている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記光信号に含まれる複数の光部分の位相を制御するステップをさらに含み、前記スラブ導波路における前記光信号の伝播方向は、前記複数の光部分の位相に基づいている、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年6月30日に出願された米国仮出願第62/527,332号(代理人整理番号:146-071PR1)の利益を主張するものである。米国仮出願第62/527,332号の開示全体を、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
〔連邦政府による資金提供を受けた研究に関する声明〕
本発明は、国立科学財団(National Science Foundation)によって授与された契約1509107の下で、および海軍研究局(Office of Naval Research)によって授与された契約N00014-15-1-2761の下で、政府の支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、概して光ビームステアリングに関し、より詳細には、光フェーズドアレイベースのビームステアリングに関する。
【背景技術】
【0004】
2次元光ビームステアリングは、とりわけ、通信、LiDAR、3次元イメージング、ハイパースペクトルイメージング、および光センシングの用途を含む、さまざまな用途における幅広い使用が見いだされた重要な技術である。
【0005】
歴史的に、ほとんどのビームステアリングシステムは、2次元のジンバルベースの可動ミラー、1次元の可動ミラーのペア、位置制御可能なバルクオプティクスなどのような低速で高価なマクロメカニカルビーム偏向システムを採用していた。残念ながら、このようなシステムは通常、実装が複雑で、非常にコストがかかり、応答速度が制限されており、信頼性の問題を抱えている。
【0006】
対照的に、オンチップ光フェーズドアレイ(optical phased array: OPA)は、より高速で、より堅牢で、より安価なビームステアリングシステムを約束する光ビームステアリングに対する実質的にソリッドステートのアプローチを提供する。先行技術のOPAは、液晶位相シフタ、MEMSベースのピストンまたは格子ベースのミラー、および格子カプラおよび熱光学位相シフタが集積された集積光学ベースの表面導波路アレイのような、広く異なる技術を用いて実証されてきた。残念ながら、このような先行技術のシステムは、マクロメカニカルビーム偏向システムより低コストで高い信頼性を提供するが、依然として大きな欠点を有する。
【0007】
液晶ベースの位相シフタは、たとえば、応答時間が比較的遅いことが知られており、温度および波長の変化に非常に敏感である。
【0008】
ピストン作動ミラーを採用しているマイクロメカニカル(すなわち、MEMSベースの)OPAは、早い応答時間を達成することができるが、要素間ピッチが小さいMEMSベースのOPAを実現することは困難であることがあり、これにより、達成することができる視野(field-of-view: FOV)のサイズが制限される。
【0009】
集積光学ベースの表面導波路格子および波長可変レーザに基づくOPAも有望である。このようなシステムにおいて、表面導波路格子の高分散を利用することによって光の方向を変更するため、急速に調整されたレーザが用いられる。残念ながら、これには、シリコンフォトニクスにおいて急速に波長可変なレーザを実装することが要求され、同じアンテナ上での送受信間でクロストークが発生し、角度分散のためにライトフィールド上で送信することができるRF帯域幅が制限される。
【0010】
さらに、OPAの使用に適した表面導波路格子を画定する幾何学的摂動は好ましくは、格子を画定するための標準的なリソグラフィ技術を用いて画定される。しかしながら、低ビーム発散の出力光ビームを実現するため、長い導波路(数ミリメートル以上)および高分解能のパターニング(1ナノメートルのオーダーの)が要求されることがある。残念ながら、標準的なパターニング技術を用いて、ナノメートルスケールのフィーチャを大きな領域にわたってパターニングすることは、不可能ではないにしても、困難であることがある。結果として、eビームリソグラフィ、X線リソグラフィなどのような高コストのパターニング方法が要求される。あるいは、表面導波路およびその中の格子を拡大して、要求されるリソグラフィの寸法を増やし、これによって導波路のパッキング密度を減らさなければならない。
【0011】
これらの欠点を軽減するため、固定周波数レーザが採用されてきたが、これにより、オンチップ2次元(2D)ビームステアリングが極端に困難になり得る他の要因が発生する。たとえば、位相シフタおよびカプラの数は、アパーチャの面積に不相応なスケールを必要とした。加えて、最も一般的な位相シフタは熱光学位相シフタであり、これは電力効率が悪い。結果として、ミリワットの静的電力消費が通常、要素ごとに要求される。したがって、ミリメートルスケールのアパーチャについて、2Dビームステアリングは、位相シフタ自体に電力を供給するためだけにキロワットの電力を消費する。
【0012】
さらにまた、マイクロストリップパッチアンテナが効率的に放射し、電磁場の自由空間波長よりも小さなフットプリントを有することができるマイクロ波周波数でのフェーズドアレイとは異なり、光ドメインにおいては、小さなフットプリント(サブ自由空間波長)で光導波から放射モードに光を完全に散乱させることは困難である。結果として、フォトニックシステムにおける放射素子またはアンテナは通常大きく、光の波長より大きなピッチで2次元に間隔が空いている。間隔が大きいと、サイドローブが大きくなり、フェーズドアレイの性能が低下する。
【0013】
2次元における実用的な光ビームステアリングを可能にするデバイス技術の必要性は、依然として、先行技術においては満たされていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、表面導波路のアレイのそれぞれに動的格子構造を採用することによって光ビームステアリングを可能にする。動的格子は、表面導波路において所望の周波数を有する機械波を与えることによって形成される。結果として、各表面導波路において、それを通って伝播する光波は、自由空間光放射として表面導波路から光波を散乱させる音響光学的相互作用を受ける。表面導波路のアレイから散乱した光は、機械波の波長を制御することによって第1の次元(縦方向の次元)において独立してステアリングすることができる1つまたは複数の光ビームを集合的に画定する。第2の次元(横方向の次元)におけるステアリングは、各表面導波路において機械波と光波との相対位相を制御することによって実行される。さらに、標準的なシリコンフォトニクスプロセスと互換性のある材料を採用することによって、本開示に従う実施形態は、シリコンフォトニクスにおいて先に開発された技術(たとえば、レーザ、位相シフタ、検出器など)と互換性があり、電子回路のモノリシックな集積を可能にし、これによって、システムスケールの集積が可能になる。本開示に従う実施形態は、光検出および測距(light detection and ranging: LIDAR)、自律車両、ロボット工学、ライトフィールドイメージング、プレノプティックカメラ、自由空間光通信およびスイッチングシステム、無線電力伝送、医療診断などのような用途における使用に特によく適している。
【0015】
先行技術とは対照的に、本開示に従う実施形態は、1つまたは複数の高閉じ込め導波路を採用し、これは、1)より効率的な光散乱、および2)より高い導波路パッキング密度、を含む先行技術の音響光学システムを超える大きな利点を提供し、これにより、ビームステアリングシステムの出力信号における望ましくないサイドローブの抑制が改善される。
【0016】
例示的な一実施形態は、高閉じ込め導波路のアレイを含み、これらのそれぞれが、表面導波路の材料において機械波を与える機械的トランスデューサと動作可能に結合されている、光ビームステアリングシステムである。機械的トランスデューサは、そのそれぞれの表面導波路における機械波の位相に対する制御を可能にする機械的位相シフタを介して各表面導波路と結合されている。2次元ビームステアリングは、表面導波路における機械波の波長、ならびに表面導波路アレイにわたる機械波の相対位相を制御することによって可能になる。
【0017】
いくつかの実施形態において、個々に画定された導波路のアレイの代わりに、高屈折率コントラストスラブ導波路が用いられる。光学および/または機械的位相シフタは、スラブにおける光および/または機械波の方向を制御し、これによって出射を誘導する。
【0018】
いくつかの実施形態において、表面導波路の構造材料のほとんどが基板に対して移動可能となるように、表面導波路は狭い支持構造によって基板の上に保持されている。
【0019】
いくつかの実施形態において、各表面導波路は、そのそれぞれの光信号の位相を制御する位相シフタを含む。このような実施形態において、機械的位相シフタを含めることは任意選択である。
【0020】
いくつかの実施形態において、表面導波路の少なくとも1つは、レーザ、位相シフタ、検出器、ゲイン素子、変調器、回折素子、ブラッグミラー、スプリッタ、コンバイナなどのような1つまたは複数のフォトニック素子を含むフォトニック光波回路と光学的に結合されている。いくつかの実施形態において、表面導波路アレイは、電子回路、論理素子なども含むフォトニック集積回路の一部である。
【0021】
本開示に従う一実施形態は、基板と、基板上に配置された複数の表面導波路であって、各表面導波路は光信号を伝達し、各表面導波路は高閉じ込め導波路である、複数の表面導波路と、複数の表面導波路と動作可能に結合されている音響トランスデューサであって、複数の機械波を誘発して、複数の機械波のそれぞれが複数の表面導波路の異なる表面導波路と結合されるようにするように構成された音響トランスデューサと、複数の機械波のそれぞれとそれぞれの表面導波路によって伝達される光信号との相対位相を制御するための位相コントローラと、を含む光ビームステアリングシステムである。
【0022】
本開示に従う他の一実施形態は、光ビームをステアリングするための方法であって、この方法は、基板上に配置された複数の表面導波路において波長λを有する複数の光信号を伝達するステップであって、各表面導波路は複数の光信号の異なる光信号を伝達し、各表面導波路は高閉じ込め導波路である、ステップと、複数の機械波を複数の表面導波路に結合して、複数の機械波と複数の光信号との間の相互作用が複数の表面導波路からの光ビームの放出を引き起こすようにするステップであって、機械波は第1の周波数ωによって特徴付けられている、ステップと、第1の周波数ωを制御するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示に従う例示的な一実施形態に従うビームステアリングシステムの機能的ブロック図を示す。
図2A】単一の表面導波路を伝播する光信号と機械波との間の相互作用を介する自由空間放射の生成を示す。
図2B】導光波と機械波との間の位相整合と結合角θとの間の関係を示す。
図3A】システム100の詳細な斜視図の概略図を示す。
図3B】音響光学アンテナアレイ102の一部の断面図の概略図を示す。
図4】例示的な実施形態に従うビームステアリングシステムを形成するための方法の動作を示す。
図5】音響光学アンテナアレイ102の断面図の概略図を示す。
図6】例示的な実施形態に従う2次元において光ビームをステアリングするための方法の動作を示す。
図7】本開示に従う代替一実施形態に従うビームステアリングシステムを示す。
図8】本開示に従う他の代替一実施形態に従うビームステアリングシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本開示に従う例示的な一実施形態に従うビームステアリングシステムの機能的ブロック図を示している。システム100は、音響光学アンテナアレイ102、光源104、音響源106、位相コントローラ108、および処理回路110を含む。システム100は、2次元において出力ビーム116をフォーミングおよびステアリングするために動作可能である。
【0025】
音響光学アンテナアレイ102は、基板上に形成された複数の高屈折率コントラスト、高閉じ込め表面導波路を含む平面光波回路(planar lightwave circuit: PLC)であり、各表面導波路はアンテナアレイの異なるアンテナ素子として機能し、PLCは、音響源106によって提供される機械エネルギーを表面導波路に効率的に結合するように構成されている。
【0026】
当業者によって理解されるように、集積光学ベースの光導波路(本明細書では「表面導波路」または「導波路」と呼ぶ)は、基板の表面上に形成された導光構造である。導光構造は、表面導波路内に光エネルギーを閉じ込めるのに役立つクラッド層によって囲まれている導光コアを含む。コアおよびクラッドの材料は、コア材料の屈折率がクラッド材料の屈折率より少なくともわずかに高くなるように選択される。これらの屈折率の違いは、表面導波路を通って伝播する光信号の光エネルギーがコア領域にどれだけ堅く閉じ込められるかを決定する。
【0027】
通常、先行技術の音響光学ビームステアリングシステムは、コアおよびクラッド材料の屈折率の差がほんのわずかであり、その結果、光の低閉じ込めとなる表面導波路に基づいている。通常、先行技術の音響光学ビームステアリングシステムは、基板から解放されておらず、その結果、機械波の低閉じ込めとなる表面導波路に基づいている。これらの表面導波路は、本明細書では、「低閉じ込め表面導波路」と呼ぶ。対照的に、本開示に従う実施形態は高閉じ込め導波路を採用し、これにより、以下で議論するように、先行技術を超える大きな利点がもたらされる。添付の特許請求の範囲を含む、本明細書の目的のため、「高閉じ込め導波路」は、導光コアが、コアを囲むクラッド材料の屈折率よりも少なくとも10%高い屈折率を有する材料を含むとともに、その基板から解放されて「機械的に活性」になっている集積光学ベースの光導波路として定義される。結果として、高閉じ込め導波路を通って伝播する光または音響信号の光学または機械エネルギーは、表面導波路のクラッド領域内にほんのわずかしか(あるとしても)広がらないモードフィールドを有する。図示の例において、システム100において採用されている高閉じ込め導波路は、エアクラッドされた、シリコンコアの表面導波路であり、シリコンを含むコアを有し、これが空気によって囲まれており、空気が表面導波路のクラッド材料として機能する。シリコンの屈折率は約3.5である一方、空気の屈折率は1である。本開示に従う実施形態における使用に適した高閉じ込め導波路の他の例は、窒化シリコンのコアおよび空気および二酸化シリコンのクラッドを有する表面導波路、少なくとも1つの二酸化シリコンベースのクラッド層を有するシリコンコア表面導波路、いくつかの酸窒化シリコンコア導波路などを含むが、これらに限定されない。
【0028】
光源104は光信号112を提供するレーザであり、光信号112のそれぞれは、約1.55ミクロンの波長λ1を有し、音響光学アンテナアレイ102の表面導波路に光学的に結合される。いくつかの実施形態において、光源104は、コヒーレント光の異なる光源である。いくつかの実施形態において、光信号は1.55ミクロン以外の波長を有する。
【0029】
音響源106は、音響光学アンテナアレイ102の各アンテナ(すなわち、高閉じ込め導波路)に周波数ωを有する機械波の形で結合する音響エネルギー114を生成するために動作可能である生成器である。
【0030】
位相コントローラ108は、音響光学アンテナアレイ102の表面導波路における機械波のそれぞれの位相を制御するために動作可能なコントローラである。いくつかの実施形態において、位相コントローラ108は、音響源106と各表面導波路との間の材料の弾性および/または密度を制御するために動作可能な複数の熱調整要素を含む。いくつかの実施形態において、位相コントローラは、他の物理的メカニズムを介して各表面導波路における機械波の位相を制御する複数の要素を含む。いくつかの実施形態において、位相コントローラ108は、音響光学アンテナアレイ102の表面導波路を通って伝播する光信号のそれぞれの光位相を制御する光位相コントローラのアレイを含む。
【0031】
処理回路110は、とりわけ、光源104、音響源106、および位相コントローラ108の出力を制御して、2次元において出力ビーム116をステアリングするために動作可能な従来のプロセッサを含む電子回路である。図示の例において、処理回路110は、音響光学アンテナアレイ102と同じ基板上にモノリシックに集積されている。図示の例において、処理回路は、単一の、個別のコンポーネントとして図示されている。さまざまな他の実施形態において、処理回路は、システム100の複数のコンポーネント間で少なくとも部分的に分散され、部分的または完全に、遠隔またはクラウドベースのコンピューティングシステムにおいて実装され、またはここに記載した機能を実行するのに適した配置で他の方法で実装され得る。
【0032】
<光学機械アンテナの動作原理>
本開示に従う実施形態の動作原理は、表面導波路に結合された音響波が、導波路において導光波として伝播する光を、自由空間を伝播するビームに効率的に散乱させることができるという事実から生じる。これは、長手方向に伝播する2つの光波間の位相整合を音響波の運動量を用いて達成することができる一方、垂直方向における並進対称性を破る表面での光波について面外運動量を保存する必要がないためである。以下で議論するように、出力ビームが伝播する縦方向の角度は、音響波と導光波の相対波長に依存する。
【0033】
図2Aは、単一の表面導波路を伝播する光信号と機械波との間の相互作用を介する自由空間放射の生成を示している。プロット200は、表面導波路204内に注入されて、表面導波路内において周波数ωによって特徴付けられたような導光波202を示している。
【0034】
機械波206は、機械波および導光波202が相互作用長にわたって相互作用するように表面導波路204において誘導され、これにより、誘導光エネルギーの自由空間への散乱が引き起こされる。機械波は、たとえば、経路長の増加、体積弾性光学効果による屈折率変化の誘発、および/または境界摂動効果の実現によって、表面導波路材料の光学特性の変化を誘発する。
【0035】
エネルギーおよび運動量の保存要件に従わなければならないため、機械波と導光波との間の相互作用により、自由空間放射208が発生し、これはドップラーシフトされて周波数ωradによって特徴付けられ、ωrad=ω+Ωであり、Ωは機械波206の周波数である。
【0036】
理想的な場合において、導波路の運動量保存により、位相整合条件
β(ω)-K(Ω)=k0rad)cos(θ) (1)
が得られ、ここで、β(ω)は導光波202の波数ベクトル、K(Ω)は機械波206の波数ベクトル、θは出力放射が伝播する結合角(すなわち、導波路の表面に対するx-z平面における角度)、k0rad/c(cは光の速度)である。
【0037】
したがって、機械波206と導光波202との間の位相関係を制御することによって、結合角θの大きさを制御することができる。
【0038】
図2Bは、導光波と機械波との間の位相整合と結合角θとの間の関係を示している。プロット210は、プロット200に示したシステムにおける3つの異なる位相整合条件についての結合角θを示している。
【0039】
音響光学アンテナアレイ102に含まれる表面導波路が、先行技術のシステムにおいて用いられている低閉じ込め導波路ではなく、高閉じ込め導波路であるという事実により、本開示に従う実施形態において、体積弾性光学効果、ならびに境界摂動効果による誘導屈折率の変化が大きく増大することに留意すべきである。結果として、本開示に従う実施形態は、所望の量の光を表面導波路から散乱させるのに要求される機械的運動の振幅は低くなる。
【0040】
ここで例示的な実施形態に戻ると、図3Aは、システム100の詳細な斜視図の概略図を示している。図3Aに示すように、システム100は、音響光学アンテナアレイ102、音響源106、および位相コントローラ108が基板302上にモノリシックに集積されているビームステアリングシステムの一例である。図示の例において、システム100は、モノリシックに集積された処理回路110も含む。いくつかの実施形態において、音響光学アンテナアレイ102、音響源106、位相コントローラ108、および処理回路110の少なくとも1つは、別個の基板上に形成され、システム100の残りの要素とハイブリッド方式で集積(または他の方法で動作可能に結合)されている。いくつかの実施形態において、光源104は、基板302上にモノリシックに集積されている。
【0041】
図4は、例示的な実施形態に従うビームステアリングシステムを形成するための方法の動作を示している。方法400は動作401で始まり、ここで音響光学アンテナアレイ102の表面導波路素子の構造が基板302上に画定される。方法400を、引き続き図1および図3A図3Bを参照して説明する。
【0042】
基板302は、平面処理製造方法における使用に適した従来の基板である。図示の例において、基板302は、従来のシリコンハンドルウエハ316、埋め込み酸化物層(buried oxide layer: BOX)318、および単結晶シリコン活性層320を含む従来のシリコンオンインシュレータ(silicon-on-insulator: SOI)基板であり、活性層320の厚さは約300ナノメートル(nm)である。
【0043】
図示の例において基板302はSOI基板であるが、本開示の範囲から逸脱することなく、基板302に無数の代替基板を用いることができることに留意すべきである。本開示に従う実施形態における使用に適した基板は、シリコン、ニオブ酸リチウム、化合物半導体(たとえば、ヒ化ガリウム、ヒ化アルミニウムガリウム、リン化インジウム、テルル化カドミウムなど)、半導体化合物(たとえば、炭化シリコン、シリコンゲルマニウムなど)、誘電体、誘電体スタック、ガラス、複合材料などを含む基板を含むが、これらに限定されない。
【0044】
音響光学アンテナアレイ102は、表面導波路304の線形アレイを含む。表面導波路304のそれぞれは、少なくとも直線導波路である部分を含み、これらの直線導波路部分は、y方向に沿って平行に配置されている。例示の目的で、音響光学アンテナアレイ102は、5つのアンテナ素子(すなわち、表面導波路304)のみを有するものとして図3に示している。通常、音響光学アンテナアレイ102に含まれるアンテナの数は10から10,000の範囲内であるが、本開示に従う音響光学アンテナアレイは、任意の実用的な数のアンテナを含むことができることに留意すべきである。
【0045】
図3Bは、音響光学アンテナアレイ102の一部の断面図の概略図を示している。図3Bに示した図は、図3Aに示したような線a-aの断面である。表面導波路304のそれぞれは、機械的活性領域314内で距離d1だけハンドルウエハ316の上に保持されている、エアクラッドされた、シリコンコアのリッジ型表面導波路である。
【0046】
表面導波路304の構造は、活性層320上に配置されたフォトレジストマスクにおいて各導波路構造のリッジ部分の横方向範囲を画定し、従来の反応性イオンエッチング(reactive-ion etch: RIE)において活性層の露出領域を部分的にエッチングすることによって、機械的活性領域314に形成される。
【0047】
図示の例において、表面導波路304のそれぞれは、リッジ部分328およびスラブ領域330を含むリッジ型導波路である。リッジ部分328は幅w1および厚さt1を有し、スラブ領域330は幅w2および厚さt2を有する。リッジ部分は、y方向に沿って均一なピッチp1で実質的に連続したスラブ領域から突出している。図示の例において、w1およびw2は500nm、t1は300nm、t2は約100nm、導波路ピッチp1は1500nmである。通常、表面導波路304は、光信号112の光波、ならびに音響エネルギー114の機械波を導くように構成されている。
【0048】
上記の寸法は単なる例示であり、本開示の範囲から逸脱することなく、広範囲の導波路寸法を用いることができることに留意すべきである。さらに、表面導波路304は、チャネル導波路構造などのような任意の実用的な導波路構造を有し、および/または任意の実用的なコアおよびクラッド材料(たとえば、窒化シリコン、シリコンリッチ窒化シリコン、二酸化シリコン、ニオブ酸リチウム、化合物半導体など)を含むことができる。さらに、以下で議論するように、いくつかの実施形態において、音響光学アンテナアレイ102の表面導波路アレイは、スラブ導波路によって置き換えられる。
【0049】
好ましくは、表面導波路304は、基板302の「機械的に活性な」領域に形成される。結果として、任意選択の動作402で、機械的活性領域314が形成される。いくつかの実施形態において、表面導波路304は機械的活性層上に配置されない。
【0050】
機械的活性領域314は、その下からBOX層318を除去することによって形成され、これによって、ハンドルウエハ316から活性層のその部分を「解放」する。機械的活性領域314を形成するため、スラブ領域330を通って下にあるBOX層318までリリースホール324がエッチングされる。リリースエッチング液(たとえば、フッ化水素酸)を用いて、リリースホール324を介してBOX層を攻撃し、これによって活性層320をアンダーカットし、機械的活性領域314を画定する。このリリースエッチングは、BOX層318の一部が所定の位置に留まり、隣接する表面導波路304間の音響エネルギーの横方向の伝播を抑制する支持体322を画定するようにタイミングを合わせる。
【0051】
いくつかの実施形態において、機械的活性領域314は、複数のアンカーを介してハンドルウエハ316の上に支持され、これらは、リリースエッチングが実行される前に構造層320およびBOX層318を通って形成されたビアに共形的に堆積させた構造材料(たとえば、ポリシリコン、窒化シリコンなど)で形成されている。
【0052】
機械的活性領域314を含むことにより、音響エネルギー114のハンドルウエハへの結合が緩和され、これによって非常に効率的な散乱プロセスが可能になる(先行技術のシステムよりも3桁分も効率的)。結果として、表面導波路からの光放射をもたらすためのデバイス動作に要求される電力量が減少する。より効率的な散乱プロセスにより、要求される相互作用長(すなわち、機械波326と光信号112とが相互作用する長さ)も減少することに留意すべきである。しかしながら、相互作用長を長く残して、良好な遠方界分解能を実現し、電力消費を減少させることが通常、好ましい。当業者は、本明細書を読んだ後、機械的活性領域314を形成することにより、表面導波路内の光信号の全内部反射にいくらか類似する機械的効果が生じるとともに、基板による機械エネルギーの機械的減衰が低減され、これらのそれぞれにより、音響エネルギー114がチップ上を伝播することができる距離を増加させることができることを認識するであろう。
【0053】
図示の例において、表面導波路のスラブ領域は、表面導波路の全長に沿って機械的に接続されているが、いくつかの実施形態において、スラブ領域は、隣接する導波路間を延びるように各表面導波路の長さに沿って分布する個別のテザーを画定するようにパターニングされている。結果として、テザーは、ハンドルウエハ316の上の表面導波路を支持し、また、隣接する表面導波路間の機械的結合を緩和する。加えて、表面導波路間の機械的および/または光学的クロストークは、スラブをより複雑な方法でパターニングする(たとえば、サブ波長表面導波路を作成する)ことによって、ならびに導波路コアの寸法を変化させて異なる表面導波路間の光波および/または機械波の結合を抑制することによって抑制することができる。さらに、表面導波路304は、シリコンオン酸化物(懸濁または非懸濁)、窒化シリコン、ダイヤモンド、炭化シリコン、窒化ガリウム、ヒ化ガリウムおよびその化合物、リン化インジウムおよびその化合物、窒化アルミニウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなどを含む任意の実用的な材料システムにおいて形成することができるが、これらに限定されない。
【0054】
フェーズドアンテナアレイは、サイズがアンテナ素子間の間隔に強く依存するサイドローブを示すことはよく理解されている。アンテナが動作中の光信号の波長より間隔を空けていれば、サイドローブはメインビームに匹敵するようになる。さらに、サイドローブが大きくなるだけでなく、これらのローブの角密度が増加する。
【0055】
低閉じ込め表面導波路は、そのクラッド内によく広がる伝播光モードを有するため、隣接する低閉じ込め表面導波路は、光学モードのクロスカップリングを回避するため、大きな距離を空けなければならない。低閉じ込め導波路に基づく音響光学アンテナアレイであれば、したがって、大きなサイドローブを示し、メイン出力ビームにおける光パワーおよびシステムの視野を減少させることになる。
【0056】
しかしながら、上記のように、本開示に従う実施形態は、高閉じ込め導波路に基づく音響光学アンテナアレイを採用している。それらの光学モードはそれらのクラッド内に大きく広がることはないため、高閉じ込め導波路は、光信号112の波長λのスケールで、はるかに短い距離だけ間隔を空けることができる。実際、通常、表面導波路304は、約λ/3から約2λの範囲内のピッチで配列されている。実施形態において、p1は約600nmから約2.5ミクロンの範囲内である。結果として、散乱プロセスはより効率的であり(3桁以上)、これによってビームステアリングを行うために要求されるRF電力、ならびに要求される表面導波路の長さが削減される。
【0057】
さらに、低閉じ込め導波路に基づく音響光学偏向システムとは対照的に、表面導波路304の長さは短く、通常は約100ミクロンから約1cmの範囲内とすることができる。製造中に通常生じる、表面導波路における不完全性により、数ミリメートルを超えて光コヒーレンスを維持することが困難であるという事実により、集積光学ベースの光導波路についてはより短い長さが重要であり得ることに留意すべきである。また、これにより、より高速なビームステアリングが可能になる。いくつかの実施形態において、導波路の不均一性の影響は、大きなウエハ上での紫外線(ultraviolet: UV)リソグラフィによる製造によって緩和される。
【0058】
いくつかの実施形態において、表面導波路304の少なくとも1つは、レーザ、位相シフタ、検出器、ゲイン素子、変調器、回折素子、ブラッグミラー、スプリッタ、コンバイナなどのような1つまたは複数のフォトニック素子を含むフォトニック光波回路と光学的に結合されている。
【0059】
動作403で、音響トランスデューサ106が、音響光学アンテナアレイ102と動作可能に結合されるように基板302上に形成される。
【0060】
図示の例において、音響トランスデューサ106は、圧電スラブ310および櫛形電極312を含む櫛形トランスデューサ(interdigitated transducer: IDT306)である。圧電スラブ310は、圧電材料(たとえば、窒化アルミニウム、ニオブ酸リチウム、チタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconium titanate: PZT)、リン化インジウム、ヒ化ガリウムおよびその化合物など)の層であり、これは活性層320の上面上に形成される。いくつかの実施形態において、音響トランスデューサ106は、チャープIDT、静電作動、電熱作動、熱作動、磁歪作動、光励起などのような異なる機械的トランスデューサを含む。いくつかの実施形態において、音響トランスデューサ106は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などのような圧電光材料を含む。
【0061】
電極312は、圧電スラブ310の上面上に形成された櫛形導電性トレースである。正弦波状に変化する電圧のような周期的な駆動信号が櫛形電極に印加されると、IDT306は、機械的位相シフタ308を介して機械波326として表面導波路304内に伝播する音響エネルギー114を生成する。機械的位相シフタ308のそれぞれは、音響トランスデューサ106と異なる表面導波路304との間の活性層320の介在部分に配置される。
【0062】
図示の例において、機械波326と光信号112とは、表面導波路を逆に伝播することに留意すべきである。いくつかの実施形態において、機械波および光信号は、表面導波路を同じ方向に伝播する。
【0063】
動作404で、位相コントローラ108が基板302上に形成される。
【0064】
位相コントローラ108は複数の機械的位相シフタ308を含み、これらのそれぞれは活性層320の上面上に形成されている。各機械的位相シフタ308は、音響エネルギーが音響トランスデューサ106と音響光学アンテナアレイ102の表面導波路304の異なる1つとの間を伝播する速度を変更するために動作可能である要素である。結果として、各機械的位相シフタ308は、それが動作可能に結合されている表面導波路304によって受信される音波の位相を制御するために動作可能である。
【0065】
図示の例において、機械的位相シフタ308のそれぞれは、音響トランスデューサ106とそのそれぞれの表面導波路304との間の活性層320の領域の弾性を調整する熱素子である。いくつかの実施形態において、機械的位相シフタ308の少なくとも1つは、音響トランスデューサ106と表面導波路304のそれぞれとの間の領域の少なくとも一部において活性層320の材料の密度を制御する。いくつかの実施形態において、y-z平面におけるビームステアリングは、光学位相シフタを用いて光信号112の位相を制御することによって行われる。
【0066】
機械的位相シフタ308は、y-z平面における出力ビーム116の横方向の角度φを決定する、表面導波路から散乱する光の位相関係を制御するために集合的に動作可能である。
【0067】
図5は、音響光学アンテナアレイ102の断面図の概略図を示している。図5に示した図は、図3Aに示したような線b-bの断面である。表面導波路304-1から304-5における、それぞれ、機械波326-1から326-5の位相ψ1からψ5は出力ビーム116が伝播するy-z平面における角度φを決定する。
【0068】
例示的な実施形態は、同じ基板上にモノリシックに集積された(すなわち、同じ基板上に形成された)音響トランスデューサ、位相コントローラ、および音響光学アンテナアレイを含むが、本明細書を読んだ後、音響トランスデューサ106および位相コントローラ108の少なくとも1つが、音響光学アンテナアレイ102と動作可能に結合されるように、ハイブリッド集積技術を介して基板に機械的に固定される本開示に従う代替実施形態をどのように特定、作成、および使用するかは、当業者には明らかであろう。いくつかの実施形態において、音響光学アンテナアレイ102、音響トランスデューサ106、および位相コントローラ108の少なくとも1つは異なる基板上に存在し、中間媒体を介してシステム100の残りと動作可能に結合される。
【0069】
動作405で、光源104と音響光学アンテナアレイ102とを光学的に結合することによって、光信号112が表面導波路304内に注入される。
【0070】
図6は、例示的な実施形態に従って、2次元において光ビームをステアリングするための方法の動作を示している。方法600は動作601で始まり、ここで、処理回路110からの駆動信号に応じて、光信号112が表面導波路304内に発射される。
【0071】
必須ではないが、システム100がその静止状態にあるとき(すなわち、音響トランスデューサ106によって機械的エネルギーが生成されず、光信号のいずれにも積極的に位相変化が与えられないとき)、光信号112がアンテナアレイの表面導波路を通って伝播する際に集合的に同相になるように、光源104は通常、音響光学アンテナアレイ102と光学的に結合されている。
【0072】
動作602で、処理回路110は、音響トランスデューサ106を作動させて、機械波326の異なる1つとして表面導波路304のそれぞれに結合する音響エネルギー114を生成し、出力ビーム116を画定する自由空間散乱エネルギーを発生させる。
【0073】
動作603で、処理回路110は、縦方向の角度θを決定する、機械波326の周波数を制御することによって、x-z平面における出力ビーム116をステアリングするように位相コントローラ108に指示する。
【0074】
動作604で、処理回路110は、表面導波路304-1から304-5と結合された機械波326-1から326-5の相対位相ψ1からψ5を制御して横方向の角度φを制御するように位相コントローラ108に指示する。
【0075】
図7は、本開示に従う代替実施形態に従うビームステアリングシステムを示している。システム700は上述のシステム100に類似しているが、システム700は、個別に画定されたチャネルタイプの表面導波路のアレイの代わりに、高屈折率コントラストスラブ導波路を含む。
【0076】
スラブ導波路702は、光源104によって提供される光信号をz方向に強く閉じ込める高閉じ込めスラブ導波路であり、これによって導波704がもたらされる。図示の例において、スラブ導波路702は、約300nmの厚さを有する単結晶シリコンの層であるが、本開示の範囲から逸脱することなく、他の寸法および/または材料をスラブ導波路702に用いることができる。
【0077】
動作中、スラブ導波路702は、光源104から光信号704を受信する。機械的位相シフタ308は、複合機械波706を提供する「フェーズドアレイ」として機能し、この複合機械波706は、機械的位相シフタで与えられる位相シフトを制御することによってスラブ導波路702内でステアリングされる。
【0078】
複合機械波706と導波704とが相互作用すると、導波からの光は出力ビーム708として自由空間に散乱し、その横方向の角度φは複合機械波と導波との間の入射角に基づいている。
【0079】
いくつかの実施形態において、システム700は、スラブ導波路702内の光信号704の伝播方向を集合的に制御する複数の光学位相シフタを含む。このような実施形態において、出力ビーム708の伝播方向は、光信号704の伝播方向および複合機械波706と光信号704との相対周波数を制御することによって制御される。これらの実施形態のいくつかにおいて、機械的位相シフタ308が含まれず、出力ビーム708の伝播方向は、光信号704の伝播方向および機械波326と光信号704との相対周波数を制御することによって制御される。
【0080】
図8は、本開示に従う他の一代替実施形態に従うビームステアリングシステムを示している。システム800は上述のシステム700に類似しているが、システム800は、光信号704の複数の光部分がスラブ導波路702を通って伝播する際、これらの光部分の位相を制御するように構成された複数の光学位相シフタを含む位相コントローラを含む。
【0081】
光学位相シフタ802のそれぞれは、それが動作可能に結合されているスラブ導波路702の領域を通って伝播する際に光信号704の一部の位相を制御するのに適した従来の集積光学ベースの位相シフタである。図示の例において、位相シフタ802のそれぞれは熱位相シフタである。本開示に従う実施形態における使用に適した他の光学位相シフタは、応力ベースの位相シフタ、表面音響波ベース(surface acoustic wave: SAWベース)の位相シフタなどを含む。
【0082】
光学位相シフタ802のそれぞれからスラブ導波路702内に伝播する光部分は、その位相シフタによって制御される位相を有する。集合的に、複数の光部分は、スラブ導波路内の伝播方向がそれらの相対位相に基づいている複合光信号804を発生させる。
【0083】
システム700の動作に類似の方法で、出力ビーム806の横方向の角度は、機械波326と複合導波804との間の入射角に基づいており、これは光学位相シフタ802によって制御される。
【0084】
いくつかの実施形態において、光学位相シフタ802と機械的位相シフタ308との両方が含まれる。
【0085】
本開示は例示的な実施形態の単なるいくつかの例を教示するものであり、本開示を読んだ後、当業者は本明細書に記載の実施形態の多くの変形形態を容易に考案することができ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって決定されるべきであることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0086】
100 システム
102 音響光学アンテナアレイ
104 光源
106 音響源
108 位相コントローラ
110 処理回路
112 光信号
114 音響エネルギー
116 出力ビーム
202 導光波
204 表面導波路
206 機械波
208 放射
302 基板
304 表面導波路
306 櫛形トランスデューサ
308 機械的位相シフタ
310 圧電スラブ
312 櫛形電極
314 機械的活性領域
316 ハンドルウエハ
318 埋め込み酸化物層
320 活性層
322 支持体
324 リリースホール
326 機械波
328 リッジ部分
330 スラブ領域
700 システム
702 スラブ導波路
704 導波
706 複合機械波
708 出力ビーム
800 システム
802 光位相シフタ
804 複合光信号
806 出力ビーム
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8