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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】動物用の口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/22 20060101AFI20230707BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20230707BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230707BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230707BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230707BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230707BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20230707BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230707BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230707BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20230707BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20230707BHJP
【FI】
A61K36/22
A61K47/06
A61K47/32
A61K47/44
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/26
A61P1/02
A61P31/04
A61K8/9789
A61Q11/00
A61K9/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021529650
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026615
(87)【国際公開番号】W WO2021001986
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】503249119
【氏名又は名称】株式会社 ソーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 到
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077625(JP,A)
【文献】特開2017-075098(JP,A)
【文献】Oral Microbiology and Immunology,2009年,Vol.24,No.2,pp.170-172
【文献】Microbial Ecology in Health and Disease,1995年,Vol.8,No.2,pp.57-61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/02
A61P 31/04
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 8/00-8/99
A61Q 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周病菌及び感染症菌を殺菌するための動物用の口腔用組成物であって、マスティック樹脂を有効成分として含有し、前記歯周病菌が、ポルフィロモナス・サーカムデンタリア(Porphyromonas circumdentaria)であり、前記感染症菌が、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)であることを特徴とする動物用の口腔用組成物。
【請求項2】
前記マスティック樹脂は、濃度が10~60%のマスティック樹脂液として使用する請求項1に記載の動物用の口腔用組成物。
【請求項3】
前記マスティック樹脂液の含有量は、0.1~50%である請求項2に記載の動物用の口腔用組成物。
【請求項4】
更にマスティック精油を有効成分として含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動物用の口腔用組成物。
【請求項5】
前記マスティック精油の含有量は、0.01~1.0%である請求項4に記載の動物用の口腔用組成物。
【請求項6】
対象動物が、犬若しくは猫である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の動物用の口腔用組成物。
【請求項7】
滞留剤が、流動パラフィン、流動パラフィン及びポリエチレンの混合物であるゲル化炭化水素、植物油、並びにミツロウから成る群から1つ選択される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の動物用の口腔用組成物。
【請求項8】
滞留剤が、流動パラフィン、流動パラフィン及びポリエチレンの混合物であるゲル化炭化水素、植物油、並びにミツロウから成る群から2つ以上選択される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の動物用の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスティック樹脂及び/又はマスティック精油を有効成分として含有する動物用の口腔用組成物であって、特に犬、猫等の愛玩動物(ペット)に対して有効な口腔用組成物に関する。また、本発明は、前記動物用の口腔用組成物を使用して成る動物用の歯周病予防剤、感染症予防剤及び口臭予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にヒトの場合、う蝕(虫歯)や歯周病の原因の1つとして、プラーク(歯垢)の付着があり、従来から口腔衛生においてはその除去や予防、即ちプラークコントロールが重要であることが指摘されている。プラークの形成機序は、口腔内微生物、特にストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の菌体外酵素であるグルコシルトランスフェラーゼがスクロースを基質として、粘着性で且つ、不溶性のグルカンを合成し、このグルカンが歯面に付着して菌体の凝集塊であるプラークを形成することからなる。
【0003】
このプラークコントロールの方法としては、歯ブラシ等による機械的なプラーク除去や、口腔用殺菌剤を使用した口腔内殺菌が主である。しかしながら、歯ブラシ等による機械的なプラーク除去の場合は、訓練を受けた上手な磨き方で長時間かけて行わなければ充分にプラークを除去することはできない。また、口腔用殺菌剤による方法であれば、プラークなどの菌体凝集塊に対しては殺菌剤成分が内部まで浸透しないため、その効果が充分に発揮されないという問題点がある。そのため、殺菌剤成分の濃度を上げたり、処置時間を長くする等の工夫が必要となる。また、殺菌剤によるプラーク除去については、口腔内の菌すべてに対し作用するため、口腔常在菌や人体に有用な菌も殺菌することになり、安全性、経済性、有効性の面から、必ずしも満足できるものではなかった。
【0004】
また、ヒトの場合における歯周病は、歯ぎん炎、歯肉炎又は歯槽膿漏などの歯の歯周組織に炎症を引き起こす症状を有する疾患である。歯周病の原因菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、トレポネマ・デンティコラ(Treponema denticola)、カンジダ菌などの菌が知られている。歯周病は、プラーク由来の疾患が主であるので、う蝕予防と同様にその予防にはプラークコントロールが有用であるが、上記に述べた懸念と同様の懸念が生じてしまう。また、歯周病の中には、プラークに由来しないものや、更に重症化してしまうと、歯科若しくは口腔外科医院で、専門的な治療(主に抗生物質などによる化学的療法、抜歯等)を受けなくてはならず、例えば投与した薬剤によっては、副作用として種々の消化器系疾患を誘発するといった懸念があった。
【0005】
上記に述べたようなヒトにおけるう蝕及び歯周病予防の懸念を解消すべく、少量の有効成分で効果を示し、その成分の取扱いが簡便な材料(例えば天然物など)で口腔用組成物の開発が種々成されている。その一例として、マスティック(主にその樹液)を使用した口腔用組成物が、特許第3389556号公報(特許文献1)、特開2012-97018号公報(特許文献2)に開示されている。マスティックとは、ギリシャ・ヒオス島で栽培されるウルシ科カイノキ属マスティックス(Pistacia Lentiscus)を指し、主にう蝕や歯周病予防においてはその樹液を用いる。また、マスティック樹液は、ヒトにおけるう蝕及び歯周病予防だけでなく、そのほかにピロリ菌やカンピロバクター菌に対する抗菌作用も知られている。なお、マスティック樹液の主な成分としては、マスティック精油、マスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、トリテルペン類、アルデヒド類、アルコール類、ポリβ‐ミルセン等である。
【0006】
また、同じく少量の有効成分で効果を示し、その成分の取扱いが簡便な材料の口腔用組成物として、植物性乳酸菌の一種であるラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)菌を主に使用した口腔用組成物が、特開2014-166992号公報(特許文献3)に開示されている。特許文献3において使用する植物性乳酸菌は、その菌体の体長を0.1~5μm程度に揃えられ、且つ死菌として用いられたものである。そのことにより、少ない含有量で、且つ製造コストが抑えられた口腔用組成物が提供されるというものである。
【0007】
ところで、ヒト以外の動物、特に犬、猫等の愛玩動物(ペット)においても、う蝕や歯周病予防が欠かせない。愛玩動物においても、ヒト同様に、飼主などが行う歯ブラシを用いた機械的なプラークコントロール、動物用の歯周病予防剤若しくは治療剤を用いた洗口による化学的処置が行われる。またそれらの治療剤を混ぜたペットフードやチューイングガム等による処置、薬剤の服用、ワクチン投与による予防処置が行われている。ちなみに、住環境にもよるが、犬、猫の歯周病及び感染症を引き起こす原因菌としては、ヒトと共通して、例えばポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)がある。しかしながら、ヒトには常在しない、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)、ポルフィロモナス・サリボサ(Porphyromonas salivosa)、ポルフィロモナス・サーカムデンタリア(Porphyromonas Circumdentaria)、オドリバクター・デンティカニス(Odoribacter denticanis)、又はパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、パスツレラ・カニス(Pasteurella canis)、パスツレラ・ダグマティス(Pasteurella dagmatis)、パスツレラ・ストマティス(Pasteurella stomatis)などのパスツレラ菌といった、犬や猫に寄生する感染症の原因菌も存在する。
【0008】
犬や猫に寄生する歯周病の原因菌である、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)等に対する予防ワクチンが、例えば特許第4099213号公報(特許文献4)に開示されている。また、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)等に対する口腔用組成物として、明日葉抽出物由来の口腔用組成物が、特開2015-67539号公報(特許文献5)に開示されている。また、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)等に対する口腔用組成物として、マスティックを使用した口腔用組成物が、特許第6468559号公報(特許文献6)に開示されている。
【0009】
ところで、先に述べた犬若しくは猫等のヒトを除く感染症の原因菌として、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)等のパスツレラ菌について記したが、パスツレラ菌類による感染は、犬若しくは猫においては、ごくまれに歯周病若しくは肺炎を起こすくらいである。しかしながら、パスツレラ菌を保有した犬若しくは猫から、ヒトへと感染した場合、パスツレラ症を発症し、やがて蜂窩織炎や敗血症に至る可能性が高いことが知られている。こうしたパスツレラ・ムルトシダなどに起因する細菌感染を防ぐ薬剤及びその薬剤を用いた処置方法が例えば特開2018-58875号公報(特許文献7)に開示されている。特許文献7に係る発明は、グラム陰性や陽性等といった種類は問わず、ヒト、犬、猫、牛、羊、ヤギ、豚、トリ、魚、及び馬などの感染症に効果を示すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第3389556号公報
【文献】特開2012-97018号公報
【文献】特開2014-166992号公報
【文献】特許第4099213号公報
【文献】特開2015-67539号公報
【文献】特許第6468559号公報
【文献】特開2018-58875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、2及び3においては、あくまでヒトを対象としており、例えばポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromona gingivalis)には有効な効果を示すが、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)、ポルフィロモナス・サリボサ(Porphyromonas salivosa)、オドリバクター・デンティカニス(Odoribacter denticanis)等といった、犬や猫に寄生する歯周病の原因菌に対しては、そのような効果を示す記載や示唆などはない。
【0012】
また、特許文献4に係る発明においては、ワクチン投与が主であり、直接的な記載はないが、獣医師による処置が必要である。言い換えると、獣医師の資格を有さない飼主が、犬、猫などのペットに対してケアが可能であるという旨の記載や示唆はない。無論、特許文献1及び2のようにマスティックを用いる旨の記載や示唆、特許文献3のように植物性乳酸菌を用いるといった記載や示唆は、特許文献4にはない。
【0013】
そして、特許文献5においては、飼主が簡便に取り扱えるよう、ペーストやジェル等の剤型が採られている。また、マスティックを使用する旨の記載がある。そのことを踏まえると、特許文献1乃至5の知見を基にした動物用の口腔用組成物が考えられる。
【0014】
しかしながら、特許文献5においては、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対しては、あくまで明日葉抽出物が有効成分であるとしている。そして、マスティックを使用する旨の記載があると上述したが、あくまで香料としての使用であり、犬や猫に寄生する歯周病の原因菌に対して、マスティックが効果を示す旨の記載や示唆はない。
【0015】
また、先に述べたように、パスツレラ菌については、他の哺乳類や鳥類などにも感染症を引き起こすことから、犬若しくは猫に寄生している段階で予防・殺菌する、即ち口腔ケアによる予防・殺菌する必要があると考えられる。しかしながら、特許文献6においては、ポルフィロモナス・グラエに対する抗菌効果が見られる旨の記載はあるが、パスツレラ菌に作用するか否かは不明である。また、特許文献7においては、あくまで感染症(パスツレラ症)に感染した場合に作用するものであり、ロベニジン(1,2-ビス[(E)-(4-クロロフェニル)メチリデンアミノ]グアニジン)が有効成分であること、またロベニジンは、合成により製造されることなどから、分子設計や合成にコストがかかり、天然物よりも副作用のリスクが高かったりする。そしてロベニジンが口腔用組成物として使用可能か否かの開示や示唆する記載がない。そして、仮に特許文献1乃至6の発明と、特許文献7との発明を組み合わせたところで、マスティックがパスツレラ菌に有効であるか否かは記載や示唆がない。
【0016】
本発明は、上記の事情を鑑み、マスティック樹脂及び/又はマスティック精油を使用することにより、製造コストが抑えられ、且つ特に犬若しくは猫といった愛玩動物特有の歯周病関連細菌に作用を示す動物用の口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る動物用の口腔用組成物の上記目的は、歯周病菌及び感染症菌を殺菌するための動物用の口腔用組成物であって、マスティック樹脂を有効成分として含有し、前記歯周病菌が、ポルフィロモナス・サーカムデンタリア(Porphyromonas circumdentaria)であり、前記感染症菌が、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)であることによって達成される。
【0018】
また、本発明に係る動物用の口腔用組成物の上記目的は、或いは前記マスティック樹脂液の含有量は、0.1~50%であることにより、或いは更にマスティック精油を有効成分として含有することにより、或いは前記マスティック精油の含有量は、0.01~1.0%であることにより、或いは対象動物が、犬若しくは猫であることにより、或いは滞留剤が、流動パラフィン、流動パラフィン及びポリエチレンの混合物であるゲル化炭化水素、植物油、並びにミツロウから成る群から1つ選択されることにより、或いは滞留剤が、流動パラフィン、流動パラフィン及びポリエチレンの混合物であるゲル化炭化水素、植物油、並びにミツロウから成る群から2つ以上選択されることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る動物用の口腔用組成物によれば、マスティック樹脂及び/又はマスティック精油を使用することにより、製造コストが抑えられ、且つ特に犬若しくは猫といった愛玩動物特有の歯周病及び感染症関連細菌(例えばパスツレラ・ムルトシダ等)に作用を示すことが明らかになった。
【0021】
また、剤型によっては、本発明に係る動物用の口腔用組成物を使用することにより、動物用の歯周病予防剤又は動物用の口臭予防剤への応用が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例(試験例3)に係る歯肉炎指数の判定スコアの推移を示す図である。
図2】口腔内細菌数の推移を表すグラフである。
図3】口臭測定の結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る動物用の口腔用組成物について、詳細を説明する。本願において、「マスティック樹液」はウルシ科のカイノキ属マスティクス(Pistacia lentiscus)から採れる樹液を言い、背景技術の項で上述したように主成分としてはマスチカジエノン酸、イソマスチカジエノン酸、トリテルペン類、アルデヒド類、アルコール類、ポリβ‐ミルセン等である。「マスティック樹脂」とはマスティック樹液を、自然乾燥させ凝固させたものを言う。「マスティック精油」とは、マスティック樹液又はマスティック樹脂を水蒸気蒸留法若しくは乾留により、揮発性の成分(主にテルペン類)を精油化したものをいう。また、「%」については、特段の記載が無い場合には、全て重量百分率とする。
【0024】
先ず、マスティック樹脂について説明する。マスティック樹脂は、本発明に係る動物用の口腔用組成物において、歯周病関連細菌(特にポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae))に対する抗菌作用を示す重要な構成要素である。マスティック樹脂は、上述のように、マスティック樹液を自然乾燥させたものを使用する。ちなみに、自然乾燥の時間は、1日以上であれば特に限定はない。
【0025】
なお、当該組成物においては、マスティック樹脂を溶剤に溶解させて使用する。溶剤に溶解させる理由は、マスティック樹脂自体が水に不溶であること、当該組成物がジェルや液体等の種々の剤型を採ったときに種々の添加剤との相溶性を検討した結果である。
【0026】
マスティック樹脂を溶解させるための溶剤としては、エタノール、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、脂肪酸トリグリセリド(脂肪酸由来部分については炭素数8~18程度で、中でも炭素数8~12のものが望ましい。)トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、脂肪酸モノグリセリド(脂肪酸由来部分については炭素数8~18程度で、中でも炭素数8~12のものが望ましい。)、モノカプリン酸グリセリル、脂肪酸エステル(脂肪酸由来部分については炭素数8~18程度で、中でも炭素数8~12のものが望ましい。)、ミリスチン酸イソプロピル、イソオクタン酸エチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、高級アルコール(炭素数8~22程度)、オレイルアルコール、ソルビタン脂肪酸エステル(脂肪酸由来部分については炭素数8~18程度で、中でも炭素数8~12のものが望ましい。)、ショ糖脂肪酸エステル(脂肪酸由来部分については炭素数8~18程度で、中でも炭素数8~12のものが望ましい。)等といったものを使用することができる。
【0027】
なお、マスティック樹脂を本発明に係る動物用の口腔用組成物に使用する場合は、溶剤に対して、均一系溶液になるようにすればよい。以下、この均一系溶液を「マスティック樹脂液」とする。マスティック樹脂液の濃度は、5~60%が望ましい。ちなみに、その濃度が5%以下であると、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対する抗菌効果が得られず、その濃度が60%以上であると、不均一系溶液になってしまい、且つ5%以下のときほどではないもののポルフィロモナス・グラエに対する殺菌効果も低下する。
【0028】
マスティック樹脂液の調製方法については、上記濃度を順守すれば常法で構わない。そして、マスティック樹脂の溶解温度は、溶剤の沸点等を考慮すれば適宜温度上昇させてよく、場合によっては常温で構わない。なお、マスティック樹脂を溶剤に溶解させた後に、濾過をして、マスティック樹脂液として使用するのが望ましい。
【0029】
なお、マスティック樹脂液の含有量は、本発明に係る動物用の口腔用組成物全量に対し、0.1~50%が望ましい。ちなみに、マスティック樹脂そのものとして換算した場合は、マスティック樹脂液の含有量が、0.1%以下であると、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対する殺菌効果が低下する又はその殺菌効果が示されない。またマスティック樹脂液の含有量が、50%以上であると、ポルフィロモナス・グラエに対する殺菌効果が十分であっても、ペットにおける患部周辺の組織等が何らかの炎症やアレルギー反応を起こすといった懸念があり、且つ場合によってはこの濃度範囲内よりもポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対する殺菌効果が低下する可能性もある。
【0030】
次に、マスティック精油について説明する。ちなみに、マスティック精油については、上述のように、マスティック樹液又は樹脂を水蒸気蒸留若しくは乾留して揮発性成分(主にテルペン類)を精油化したものを使用すればよい。なお精油化については常法で良い。
【0031】
マスティック精油の含有量は、本発明に係る動物用の口腔用組成物全量に対し、0.01~1.0%が望ましい。マスティック精油の含有量が、1.0%以上であると、マスティック樹脂液のときと同様に、ペットにおける患部周辺の組織等が何らかの炎症やアレルギー反応を起こすといった懸念があり、且つ場合によってはポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対する殺菌効果が低下する可能性がある。ちなみに、マスティック精油については、本発明に係る動物用の口腔用組成物に含有させなくても、即ちマスティック樹脂のみでもポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対する殺菌効果を示すが、含有させればより良い殺菌効果が得られる。また、マスティック精油を添加することにより、口臭予防の役割を果たす。なお、マスティック精油の含有量が0.01%以下であると、口臭予防効果を示さないためである。
【0032】
そして、本発明に係る動物用の口腔用組成物は、更に粒度分布における最頻値が1.0μm以下である乳酸菌を有効成分として含有することで成立する。ここで言う「粒度分布における最頻値」とは、菌の大きさ(体長)を表す指標となる値であって、菌体の粒子径(体長)を測定したときの粒度分布における相対頻度が最大となる粒子径をいう。言い換えると、「最頻値が1.0μm以下である」といった場合、菌体の体長が、0.1~5μmの範囲のものを指す。ちなみに、菌体の体長は、電子顕微鏡などの公知技術で測定可能である。最頻値が1.0μm以上であると、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)に対して、死活効果を示すには示すが、該細菌類に対する取り込み数が急激に減少するため、1.0μm以下にして使用するのが望ましい。なお、本発明で使用する乳酸菌については、公知技術(例えば国際特許公開第2009/157073号を参照のこと)にて調製すれば良い。
【0033】
本発明に係る動物用の口腔用組成物にて使用する乳酸菌には、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブレビス・サブスピーシス・コアギュランス(L.brevis subspecies coagulans)、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidphilus)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・マリ(L.mali)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・ラムノーザス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ケフィア(L.kefir)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)等のラクトバチルス属細菌類、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属細菌類、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(E.faecium)等のエンテロコッカス属細菌類、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B.adolescentis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.breve)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B.catenulatum)等のビフィドバクテリウム属細菌などが挙げられる。その中でもラクトバチルス属細菌類が好ましく、中でも菌株としては、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)の菌株FERM BP-4693が好ましい。なお、当該乳酸菌は死菌を使用するのが好ましい。これは、本発明で使用する乳酸菌として調製する際、その調製が容易だからであるのと、死菌でも十分に所望の殺菌効果を発揮するからである。
【0034】
また、前記乳酸菌は、本発明に係る動物用の口腔用組成物においては、該動物用の口腔用組成物の全量に対し、0.01~1.0%含有させることが好ましい。0.01%未満であると、乳酸菌が、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)を死活させる効果が発揮しない。また、1.0%以上であると、前記細菌類の取り込み数に影響が出る。
【0035】
また、本発明の動物用の口腔用組成物の剤型は、練り歯磨き剤、ジェル、液状歯磨き剤、粉末状歯磨き剤、洗口剤、フィルム剤、チューインガム、ペットフード用添加物又はパスタから選択され得る。
【0036】
また、本発明の動物用の口腔用組成物と同様の配合条件で、更に動物用の歯周病予防剤及び動物用の口臭予防剤とすることができる。
【0037】
以上に述べた態様で、本発明に係る動物用の口腔用組成物並びに該組成物を使用した動物用の歯周病予防剤及び動物用の口臭予防剤については実施可能であるが、種々の添加剤を含有させても良い。その添加剤について次に説明する。
【0038】
その添加剤の一例として、更にパパイアエキス及び/又はキトサンを配合させることによって、本発明に係る動物用の口腔用組成物が成る。これらについては、上記に述べた乳酸菌と相乗効果を示す。
【0039】
パパイアエキスは、天然パパイア果実由来のエキスであり、天然パパイアの果実を擦り潰し、エタノール等の溶媒に漬け込んで抽出したエキスであり、パパイアの果実については、熟したものであっても、まだ青い状態の未完熟のものであってもよい。このパパイアエキスは湿潤剤としての役割を果たしており、口腔内の潤いを保つことができるとともに、特に未完熟のパパイアはパパイン酵素が豊富に含まれている。このパパイン酵素が歯面上や歯と歯茎との間にある歯垢を取り除きやすくし、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)を乳酸菌によって死活させる効果がより発揮される。このパパイアエキスの配合量は特に限定はないが、本発明に係る口腔用組成物の全量に対し、0.005%~10%が望ましい。0.005%未満であると上述の効果が発揮されず、10%より過剰になると乳酸菌のポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)への効果が薄れてしまう可能性がある。
【0040】
対してキトサンは、カニやエビ等の甲殻類の外骨格から得られるキチンを強アルカリ等の煮沸処理などで得られるものである。多糖類であるため、粘結剤として使用されることもあるが、抗菌剤や歯面のコーティング作用を示す効果もある。また、上述の乳酸菌又はパパイン酵素をより長時間歯面に留めることができる。これによりポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)を死活させる効果がより発揮される。このパパイアエキスの配合量は特に限定はないが、本発明に係る口腔用組成物の全量に対し、0.005%~10%が望ましい。0.005%未満であると上述の効果が発揮されず、10%より過剰になると乳酸菌のポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)への効果が薄れてしまう可能性がある。
【0041】
さらに、キトサン及びパパイアエキスを同時に配合しても良い。これによりキトサンがパパイン酵素と乳酸菌を歯面又は歯と歯茎との間に滞留させる時間を長くすることができ、キトサンによる殺菌効果も合わさり、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)を死活させる効果がより発揮される。この場合の配合量も特に限定はないが、キトサン及びパパイアエキスそれぞれ0.005%~10%が望ましい。0.005%未満であると上述の効果が発揮されず、10%より過剰になると乳酸菌のポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)への効果が薄れてしまう可能性がある。
【0042】
研磨剤としてシリカゲル、沈降性シリカ、加成性シリカ、含水ケイ酸、無水ケイ酸、ゼオライト、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、結晶セルロース、第二リン酸カルシウム二水和物、第二リン酸カルシウム無水和物、ピロリン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、合成樹脂研磨剤などが挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を併用して用いることができる。これらの研磨剤の配合量は、本発明に係る口腔用組成物全量に対して0~60%が一般的である。
【0043】
湿潤剤としてグリセリン、濃グリセリン、ジグリセリン、ソルビット、マルチトール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、キシリトール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコールが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。なお、これらについては、マスティック樹脂を溶解させる溶剤としても使用可能である。
【0044】
粘結剤(増粘剤)として、カラギーナン類、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルシウム含有アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウムなどアルギン酸及びその誘導体、キサンタンガム、グァーガム、ゼラチン、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、プルランなどが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を併用して用いることができる。なお、増粘剤は、ゲル(ジェル)化剤としての役割も兼ねる。
【0045】
発泡剤としてラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸モノグリセリンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、N-アシルグルタメートなどのN-アシルアミノ酸塩、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、マルチトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。
【0046】
pH(水素イオン濃度)調製剤としてクエン酸、クエン酸(モノ若しくはジ)ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸(モノ若しくはジ)ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸(モノ若しくはジ)ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、乳酸、乳酸(モノ若しくはジ)ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。
【0047】
本発明に係る動物用の口腔用組成物の有効成分を滞留(持続)させるための滞留剤として、流動パラフィン、流動パラフィン及びポリエチレンの混合物であるゲル化炭化水素、植物油、ミツロウなどが使用でき、これらを1種又は2種以上を併用することができる。なお、前記ゲル化炭化水素は、ゲル化剤としての役割も果たす。
【0048】
甘味剤としてサッカリンナトリウム、アスパルテーム、トレハロース、ステビオサイド、ステビアエキス、p-メトキシシンナムアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、キシリトールなどがある。
【0049】
防腐剤としてメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなどのパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなどがある。
【0050】
香料成分としてl-メントール、アネトール、メントン、シネオール、リモネン、カルボン、メチルサリシレート、エチルブチレート、オイゲノール、チモール、シンナムアルデヒド、トランス-2-ヘキセナールなどの中から1種又は2種以上を併用することができる。これらの成分は単品で配合してもよいが、これらを含有する精油などを用いてもよい。
【0051】
ちなみに、上記に述べた湿潤剤、粘結剤、発泡剤、滞留剤、甘味剤、防腐剤、香料成分など各成分の配合量は、特に限定はないが、動物用の口腔用組成物全量に対して0.001~20%の範囲が一般的である。
【0052】
また、上記香料成分に加えて、脂肪族アルコールやそのエステル、テルペン系炭化水素若しくはテルペン系アルコール、フェノールエーテル、アルデヒド、ケトン、ラクトンなどの香料成分、精油を本発明の効果を妨げない範囲で配合してもよい。上記香料の配合量は、本発明に係る動物用の口腔用組成物全量に対して0.001~20%の範囲が一般的である。
【0053】
本発明の動物用の口腔用組成物には、上記のほか、更なる有効成分を配合してもよい。そのような有効成分として塩化リゾチーム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、硝酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒノキチオール、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸塩類、クロルヘキシジン塩類、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ビサボロール、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、トコフェロール、酢酸トコフェロール、ε-アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アルミニウムヒドロキシルアラントイン、乳酸アルミニウム、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸塩類、銅クロロフィリン塩、塩化ナトリウム、グァイアズレンスルホン酸塩、デキストラナーゼ、塩酸ピリドキシン、薬用ハイドロキシアパタイトなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合することができる。該有効成分については、本発明に係る口腔用組成物全量に対して0.001~20%の範囲が一般的である。
【0054】
そして、本発明に係る動物用の口腔用組成物全量に対して、上記に述べたマスティック樹脂(但し、マスティック樹脂液として)、マスティック精油、乳酸菌、添加物等について上記に述べた数値範囲で混合した場合、その残部を溶媒(例えばマスティック樹脂を溶解させた溶剤等)やゲル化剤等として良い。また添加剤についても、本発明の動物用の口腔用組成物と同様の配合により、動物用の歯周病予防剤又は口臭予防剤に適用することができる。
【0055】
本発明の動物用の口腔用組成物は、常法に準じて製造することができ、その製法は特に限定されるものではない。
【0056】
また、本発明の動物用の口腔用組成物については、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)を対象とした場合について、種々態様を述べたが、ヒト以外の哺乳動物に常在する歯周病菌、例えば、ポルフィロモナス・サリボサ(Porphyromonas salivosa)、オドリバクター・デンティカニス(Odoribacter denticanis)、パスツレラ菌類等にも効果を示すものと思われる。
【0057】
また、本発明の動物用の口腔用組成物おいては、ヒト以外の動物、即ち犬若しくは猫を対象として実施態様を説明したが、そのほかペットとして愛玩されるウサギ、ハムスター、モルモット等にも使用可能である。
【0058】
以上に本発明に係る動物用の口腔用組成物についての実施態様を述べたが、上記の態様の限りではなく、特許請求の範囲及び本明細書の記載の事項を逸脱しない範囲であれば、種々の態様が採用可能であることは言うまでもない。
【実施例
【0059】
本発明に係る口腔用組成物の上記実施形態を裏付けるために、更に実施例を説明する。ここで言う実施例は、本発明に係る動物用の口腔用組成物の構成要素であるマスティック樹脂、マスティック精油、及び粒度分布における最頻値が1.0μm以下である乳酸菌(以下、本実施例においては「ナノ型乳酸菌」とする。)の歯周病菌(本実施例ではポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae。以下、本実施例では「P.gulae」と称する場合がある。))の対作用効果について検討した。
【0060】
[調製例1]マスティック樹脂液及びマスティック精油の調製
先ず、ギリシャ・ヒオス島産ウルシ科カイノキ属マスティクス(Pistacia lentiscus)から採取した樹液(以下「マスティック樹液」とする)を1日間自然乾燥させた。乾燥後、水蒸気蒸留により揮発性成分と、樹脂状物質とに分離させ、そのうちの樹脂状物質を本願実施例で使用した「マスティック樹脂」とした。一方、前記揮発性成分については、水蒸気蒸留による単離後、更に精油化して本実施例で使用した「マスティック精油」とした。なお、精油化については常法に従った。
【0061】
次に、マスティック樹脂については、溶剤をトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルとして、30%濃度の溶液とした。得られた溶液を本実施例で使用した「マスティック樹脂液」とした。
【0062】
[調製例2]ナノ型乳酸菌の調製
本実施例にて使用するナノ型乳酸菌について、国際特許公開第2009/157073号に従い、調製した。
【0063】
先ず、前記乳酸菌として、植物性乳酸菌であるラクトバチルス・ブレビス菌(菌株FERM BP-4693。以下、単に「ブレビス菌」とする場合あり。)を用い、前記ブレビス菌を、5%ブドウ糖添加の公知栄養培地で、20%水酸化ナトリウム水溶液を用い、培養時のpH(水素イオン濃度)を6.5に調製しながら、36.5℃で培養し、グルコース(ブドウ糖)消費が完了した時点で培養終了とした。
【0064】
培養終了後、その培養液を80℃で10分間加熱処理し、菌体をPBS(リン酸緩衝液)で洗浄し、菌体に対して重量換算で4倍量のデキストリンを賦形剤として添加し、ミキサーで分散してから凍結乾燥して試料を調製し、これを再び菌体濃度で10mg/mLになるようにPBSに懸濁させた。なお、加工工程時のpHは6.5に保持したものを本実施例で使用するナノ型乳酸菌(ブレビス菌)とした。更にナノ型乳酸菌は加熱処理して死菌とした。
【0065】
ちなみに、調製したナノ型乳酸菌について粒径を測定したところ、全ての菌体について0.7~1.0μm以下となり、粒度分布の最頻値が1.0μm以下であった。なお、粒径測定については、常法に依った。
【0066】
[調製例3]マスティック樹脂液、マスティック精油及びナノ型乳酸菌にそれぞれに係る希釈液の調製
更に、本実施例で使用するマスティック樹脂液、マスティック精油及びナノ型乳酸菌については、溶剤をトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルとしてそれぞれ希釈した。具体的には、マスティック樹脂液については10倍に希釈し、マスティック精油及びナノ型乳酸菌についてはそれぞれ1000倍に希釈した。以下、本実施例ではそれぞれ「マスティック樹脂希釈液」、「マスティック精油希釈液」、「ナノ型乳酸菌希釈液」とする。なお、希釈に使用する試験管等は滅菌したものを使用する。また、各希釈液については用時調製とした。
【0067】
[調製例4]抗歯周病菌効果試験用試験液の調製
本実施例に係る抗歯周病菌効果試験用試験液(単に「試験液」とする場合がある。)の典型例として、後述する実施例8に係る試験液を例に説明する。実施例8については、「マスティック樹脂液3.00%、マスティック精油0.03%、ナノ型乳酸菌0.01%」(表2参照)としているが、この場合は、滅菌済みの1本の試験管に、調製例3でそれぞれ調製したマスティック樹脂希釈液2.7mL、マスティック精油希釈液2.7mL及びナノ型乳酸菌希釈液1.0mL並びにトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル2.6mLを加えて総量を9mLとした。ちなみに、混合させる順番は特に関係ない。
【0068】
ちなみに、後述する各実施例(表1乃至4参照)においては、総量が9mLであることを順守すれば、各希釈液及びトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルの量は、マスティック樹脂液、マスティック精油及びナノ型乳酸菌の各濃度に合わせて適宜変更できる。
【0069】
また、コントロール試験(比較例。表1乃至4参照)における試験液は、マスティック樹脂液、マスティック精油及びナノ型乳酸菌を混合させずに、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルのみである。なお詳細は後述する。
【0070】
なお、各実施例及び比較例に係る試験液もまた用時調製とする。
【0071】
[調製例5]歯周病(P.gulae)菌液の調製
後述する試験例1で使用する歯周病菌として、犬の歯周病原因菌であるポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)を選択し、その菌株としては、JCM13865を使用した。
【0072】
そして、該菌株を血液寒天培地で37℃、5日間で嫌気培養した。培養後、発育したコロニーを白金耳で適当量採取し、滅菌済みの生理食塩水及びマクファーランド濁度標準液(番号NO.1)に懸濁させた。その懸濁液を、本実施例で使用する「歯周病(P.gulae)菌液」とする。なお、該歯周病(P.gulae)菌液中の菌数は、おおよそ1~3×10CFU/mLであった。ちなみに、歯周病(P.gulae)菌液については用時調製とした。
【0073】
[試験例1]抗歯周病菌効果試験その1
調製例3で調製した各実施例及び各比較例に係る抗歯周病菌効果試験用試験液と、調製例5にて調製した歯周病(P.gulae)菌液とを用いて試験を行った。
【0074】
先ず、各実施例に係る試験液について説明する。「実施例1乃至4」は、マスティック樹脂液を10.0%に固定して、マスティック精油(濃度は0.03%に固定)及びナノ型乳酸菌(濃度は0.01%に固定)のバリエーションをそれぞれ変化させたものである。「実施例5乃至8」は、マスティック樹脂液を3.0%に固定して、マスティック精油(濃度は0.03%に固定)及びナノ型乳酸菌(濃度は0.01%に固定)のバリエーションをそれぞれ変化させたものである。「実施例9乃至12」は、マスティック樹脂液を1.0%に固定して、マスティック精油(濃度は0.03%に固定)及びナノ型乳酸菌(濃度は0.01%に固定)のバリエーションをそれぞれ変化させたものである。「実施例13乃至16」は、マスティック樹脂液を0.5%に固定して、マスティック精油(濃度は0.03%に固定)及びナノ型乳酸菌(濃度は0.01%に固定)のバリエーションをそれぞれ変化させたものである。なお、各実施例に係る試験液の調製は上記調製例3に示した通りの方法で用時調製したものとする。
【0075】
次に、各比較例について説明する。「比較例1」は、実施例1及び2のコントロール実験として、「比較例2」は、実施例3及び4のコントロール実験として、「比較例3」は、実施例5及び6のコントロール実験として、「比較例4」は、実施例7のコントロール実験として、「比較例5」は、実施例8のコントロール実験として、「比較例6」は、実施例9のコントロール実験として、「比較例7」は、実施例10のコントロール実験として、「比較例8」は、実施例11及び12のコントロール実験として、「比較例9」は、実施例13及び14のコントロール実験として、「比較例10」は、実施例15及び16のコントロール実験として、それぞれ試験を行った。
【0076】
次に、抗歯周病菌効果試験について説明する。端的には各実施例に係る試験液9mLに対して、歯周病(P.gulae)菌液1mLを添加した時点を作用時間0分として、経時的にポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数を計測するというものである。次に具体的に説明する。
【0077】
先ず、実施例1乃至16に係る試験液9mLに対して、それぞれ1mLの歯周病(P.gulae)菌液を添加した時点(作用時間0分とする)でその混合溶液をピペットで1mL採取した。採取した混合溶液については、滅菌済みの生理食塩水9mLを加えて撹拌し、これを繰り返すことにより10倍段階希釈を行った。適当な希釈段階と思われるものを0.1mLずつ採取し、それぞれ2枚の血液寒天培地に塗沫した。該塗沫後、各培地について、37℃、5日間の条件で嫌気培養を行い、その後各培地のコロニー数を計測し、各実施例における作用時間0分のときのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数を計測した。
【0078】
同様の条件で、実施例1乃至16に係る試験液と、歯周病(P.gulae)菌液を作用させてから5分後、10分後、15分後及び30分後におけるそれぞれのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数を計測した。但し、実施例7における作用時間5分後、実施例9における作用させてから5分後、実施例11における作用させてから30分後については都合により測定しなかった(後述の表2及び3参照)。
【0079】
上記菌数計測の後、実施例5乃至8に関しては、同様の条件で、試験液と歯周病(P.gulae)菌液を作用させてから0分、5分後、10分後、15分後及び30分後におけるそれぞれのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数について再度(2度目の)計測した。ただし、上記菌数計測の後、実施例1乃至4については、同様の条件で、試験液と歯周病(P.gulae)菌液を作用させてから0分、1分後、3分後、5分後におけるそれぞれのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数について、2度目の計測をした。なお、実施例9乃至16に関しては、ポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数に対する再度の計測は行わなかった(後述する表3及び4参照)。
【0080】
次に、比較例1乃至10に関しては、マスティック樹脂液、マスティック精油及びナノ型乳酸菌を混合させずに、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルのみで9mLに対し、1mLの歯周病(P.gulae)菌液を添加した時点を作用時間0分として、各実施例と同様の希釈条件、培地条件、作用時間でポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数を計測した。
【0081】
そして、実施例1乃至16並びに比較例1乃至10に係るポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数の変化を表1乃至表4として次に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
先ず表1について、説明する。表1は、実施例1乃至4、即ちマスティック樹脂液を10%に固定して、マスティック精油及びナノ型乳酸菌のバリエーションをそれぞれ変化させたときのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数の計測結果である。なお、菌数については、菌数の桁数が明確になるように、常用対数に変換している。
【0084】
比較例1では、時間が経つにつれて、菌数が一桁弱減少若しくはほぼ一定、即ち数の変化があまり見られなかったのに対し、10%マスティック樹脂液のみの実施例1並びに10%マスティック樹脂液及びマスティック精油0.03%を用いた実施例2では、作用させた瞬間桁数が4ほど減少し(試験液及び歯周病(P.gulae)菌液の作用前は、log[CFU/mL]=8程度)、5分後には計測範囲限界(log[CFU/mL]<3.5)以下になった。そして、実施例1及び2において、再度菌数を測定したところ、作用時間3分で計測範囲限界となることが分かった(表1「2回目」参照)。
【0085】
次に、比較例2でも、比較例1同様に菌数が一桁弱減少若しくはほぼ一定、即ち数の変化があまり見られなかったのに対し、10%マスティック樹脂液及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例3並びに10%マスティック樹脂液、マスティック精油0.03%及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例4では、初回の測定において作用時間5~10分で計測範囲限界(log[CFU/mL]<3.5)以下になった。そして、実施例3及び4において、再度菌数を測定したところ、実施例1及び2の場合と異なり、作用時間5分では徐々に菌数が減少することが分かった(表1「2回目」参照)。
【0086】
このことから、実施例1乃至4、即ちマスティック樹脂液を10%としたときは、それ自体単独でも、マスティック精油及び/又はナノ型乳酸菌と混合したときでも、ポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数が減少傾向にあり、30分後には確実に計測範囲限界(log[CFU/mL]<3.5)以下になることが分かった。
【0087】
【表2】
【0088】
次に表2について、説明する。表2は、実施例5乃至8、即ちマスティック樹脂液を3.0%に固定して、マスティック精油及びナノ型乳酸菌のバリエーションをそれぞれ変化させたときのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数の計測結果である。なお、菌数については、表1同様に、菌数の桁数が明確になるように、常用対数に変換している。
【0089】
比較例3では、時間が経つにつれて、菌数が一桁弱減少若しくはほぼ一定、即ち数の変化があまり見られなかったのに対し、3.0%マスティック樹脂液のみの実施例5並びに3.0%マスティック樹脂液及びマスティック精油0.03%を用いた実施例6では、作用させた瞬間桁数が2.5ほど減少し(試験液及び歯周病(P.gulae)菌液の作用前は、log[CFU/mL]=8程度)、10分後には計測範囲限界(log[CFU/mL]<3.5)以下になった。そして、実施例3及び4において、再度(2度目の)菌数を測定したところ、作用時間15分でほぼ計測範囲限界以下となり、30分後には双方とも計測範囲限界以下となることが分かった(表2「2回目」参照)。
【0090】
次に、比較例3及び4でも、他の比較例同様に菌数が一桁弱減少若しくはほぼ一定、即ち数の変化があまり見られなかったのに対し、3.0%マスティック樹脂液及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例7並びに3.0%マスティック樹脂液、マスティック精油0.03%及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例8では、初回の測定においては、作用時間30分でほぼ計測範囲限界(log[CFU/mL]<3.5)以下になった。しかしながら、実施例7及び8において、再度菌数を測定したところ、実施例5及び6の場合と異なり、作用時間10分後では徐々に計測範囲限界(log[CFU/mL]<3.5)以下になることが分かった(表2「2回目」参照)。
【0091】
このことから、実施例5乃至8、即ちマスティック樹脂液を3.0%としたときは、それ自体単独でも、マスティック精油及び/又はナノ型乳酸菌と混合したときでも、ポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数が減少傾向にあり、その中でも実施例8に示すように、マスティック樹脂溶液、マスティック精油及びナノ型乳酸菌においては、実施例5乃至7に比べて確実に10分後には計測範囲限界(log[CFU/mL]<3.5)以下になることが分かった。
【0092】
【表3】
【0093】
次に表3について、説明する。表3は、実施例9乃至12、即ちマスティック樹脂液を1.0%に固定して、マスティック精油及びナノ型乳酸菌のバリエーションをそれぞれ変化させたときのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数の計測結果である。なお、菌数については、表1及び表2同様に、菌数の桁数が明確になるように、常用対数に変換している。
【0094】
比較例6及び7では、時間が経つにつれて、菌数が一桁弱減少若しくはほぼ一定、即ち数の変化があまり見られなかったのに対し、1.0%マスティック樹脂液のみの実施例9並びに1.0%マスティック樹脂液及びマスティック精油0.03%を用いた実施例10でもまた、菌数はほぼ一定又は減少したとしてもlog[CFU/mL]>5.5であった。
【0095】
次に、比較例8でも、他の比較例同様に菌数が一桁弱減少若しくはほぼ一定、即ち数の変化があまり見られなかったのに対し、1.0%マスティック樹脂液及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例11並びに1.0%マスティック樹脂液、マスティック精油0.03%及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例12では、実施例9及び10に比べると、やや菌数が減少した。
【0096】
このことから、実施例9乃至12、即ちマスティック樹脂液を1.0%としたときは、マスティック樹脂液及びマスティック精油だけよりも、更にナノ型乳酸菌を加えた方が、ポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数が幾分減少傾向にあることが分かった。とはいえ、マスティック樹脂液の濃度が比較的濃い実施例1乃至8と違い、当該菌数の減少が緩い若しくはほぼ一定になることが分かった。
【0097】
【表4】
【0098】
次に表4について、説明する。表4は、実施例13乃至16、即ちマスティック樹脂液を0.5%に固定して、マスティック精油及びナノ型乳酸菌のバリエーションをそれぞれ変化させたときのポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数の計測結果である。なお、菌数については、表1、表2及び表3同様に、菌数の桁数が明確になるように、常用対数に変換している。
【0099】
比較例9及び10では、時間が経つにつれて、菌数が一桁弱減少若しくはほぼ一定、即ち数の変化があまり見られなかったのに対し、0.5%マスティック樹脂液のみの実施例13並びに0.5%マスティック樹脂液及びマスティック精油0.03%を用いた実施例14でもまた、ポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数は、比較例9及び10同様に若干の減少しか見られなかった。また、0.5%マスティック樹脂液及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例15並びに0.5%マスティック樹脂液、マスティック精油0.03%及びナノ型乳酸菌0.01%を用いた実施例16もまた、実施例13及び実施例14とほぼ同等の結果であった。
【0100】
このことから、実施例13乃至16、即ちマスティック樹脂液を0.5%としたときは、マスティック樹脂液及びマスティック精油だけよりも、更にナノ型乳酸菌を加えた方が、ポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)の菌数が幾分減少傾向にあることが分かった。とはいえ、マスティック樹脂液の濃度が比較的濃い実施例1乃至8と違い、当該菌数の減少が緩い若しくはほぼ一定になることが分かった。
【0101】
以上のことから、本試験例1においては、ポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)のみを対象としており、他の犬若しくは猫特有の歯周病菌(例えばポルフィロモナス・サリボサ(Porphyromonas salivosa)、ポルフィロモナス・マカカエ(Porphyromonas macacae)等)に抗菌(殺菌)性を示すかは、検討の余地があり、また細かい条件(例えばIn Vivoスケールで行う等)については検討の余地はあるが、少なくとも試験管(In Vitro)スケールでは、本発明に係る動物用の口腔用組成物の構成要素である、マスティック樹脂、マスティック精油及び/又はナノ型乳酸菌のポルフィロモナス・グラエ(P.gulae)抗菌作用及び効果が十分に示されたものと思料する。
【0102】
[調製例6]猫の歯周病(P.gulae(猫)、P.Circumdentaria)及び感染症(Pas.multocida)菌液の調製
後述する試験例2で使用する歯周病菌として、猫の歯周病原因菌であるポルフィロモナス・グラエ(以下「P.gulae(猫)」とする。菌株C26Db5)、ポルフィロモナス・サーカムデンタリア(以下「P.Circumdentaria」とする。菌株YC34b)及び感染症の原因菌であるパスツレラ・ムルトシダ(以下「Pas.multocida」とする。菌株12K)の三種を選択した。
【0103】
次に、P.gulae(猫)については、CDC(Center for Disease Control and prevention:米国疾病管理センター)嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地(Oxioid。日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を用いて37℃、5日間で嫌気培養した。P.Circumdentariaについては、10.0ml/L hemin及び10.0ml/L menadione添加血液寒天培地(mhTS)を用いて37℃、5日間で嫌気培養した。Pas.multocidaについては、トリプチックソイ寒天培地(TSA、Difco)を用いて、37℃、1日間で好気培養した。
【0104】
そして、それぞれ培養したP.gulae(猫)、P.Circumdentaria及びPas.multocidaの各菌については、各菌の発育したコロニーを白金耳で適当両採取し、滅菌生理食塩水(マクファーランド濁度標準液No.1濃度)に懸濁させて菌液の調製をした。以下、各菌の菌液については、種類に対応させてそれぞれ歯周病(P.gulae(猫))菌液、歯周病(P.Circumdentaria)菌液及び感染症(Pas.multocida)菌液とした。また、各菌に係る菌液の菌数は、約1~3×10CFU/mLであった。
【0105】
[試験例2]抗歯周病菌効果試験その2
上記調製例6にて調製した歯周病(P.gulae(猫))菌液、歯周病(P.Circumdentaria)菌液及び感染症(Pas.multocida)菌液並びに抗歯周病菌効果試験用試験液(試験液)を用いて抗歯周病菌効果試験を行った。なお、本試験例2で用いた抗歯周病菌効果試験用試験液(試験液)については、上記調製例4に従い、5.0%マスティック樹脂液及び0.03%マスティック精油となるように調製した。また、コントロール試験(対照区)における試験液(「対照用試験液」とする。)もまた、上記調製例4と同様に、マスティック樹脂液、マスティック精油を混合させずに、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルのみとした。
【0106】
先ず、試験液9mLに対して、各菌液(歯周病(P.gulae(猫))菌液、歯周病(P.Circumdentaria)菌液及び感染症(Pas.multocida)菌液)1mLを加え、経時的に菌数を計測した。
【0107】
菌数の計測については、試験液に、各菌液をそれぞれ添加して攪拌後すぐ(これを作用時間0分とする)に、当該攪拌後の試験液及び各菌液の混合液1mLをピペットで採取し、更に9mLの滅菌生理食塩水を加えて攪拌し、また更に希釈溶液を1mLに対して9mLの滅菌生理食塩水を加えて攪拌するといったことを繰り返して、各菌液に対して10倍段階希釈を行った。希釈後、各菌液それぞれ0.1mLずつ2枚の血液寒天培地に塗沫した。なお、当該培地について、歯周病(P.gulae(猫))菌液及び歯周病(P.Circumdentaria)菌液については、37℃、5日間で嫌気培養し、感染症(Pas.multocida)菌液については、37℃、1日間で好気培養を行った。それぞれの菌液について、培養後、各培地のコロニー数から、試験液(各菌液混入)中の菌数を求めた。なお、菌数の測定限界値は、3.5(log[cfu/mL])であり、測定限界値以下の菌数を<3.5(log[cfu/mL])と記した。
【0108】
そして、試験液に、各菌液をそれぞれ添加して攪拌後1分、3分、5分、10分或いは5分、10分、15分、30分における試験液について、作用時間0分の場合と同様の方法で、各試験液に対して滅菌食塩水を加えて10倍段階希釈で希釈し、培養後菌数を計測した。対照としては、対照用試験液に菌液を加えて、同様に経時的に菌数を求めた。
【0109】
各菌液(歯周病(P.gulae(猫))菌液、歯周病(P.Circumdentaria)菌液及び感染症(Pas.multocida)菌液)と試験液の混合攪拌による抗歯周病菌効果試験の結果について表5乃至表7にそれぞれ示す。表5乃至7中の「試験区」とは、試験液に各菌液を加えたものをいう。
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
表5は、歯周病(P.gulae(猫))菌液と、試験液との抗歯周病菌効果試験の結果を示す。試験液に対し、7.7(log[cfu/mL])の当該菌液を添加したところ、添加(攪拌)後5分で、菌数は、4.6(log[cfu/mL])となり、添加後10分で測定限界以下となった。それに対し、コントロール(対照区)では、菌数が、攪拌後0~30分において約7.0±0.5(log[cfu/mL])でほぼ一定であった。また、試験液に対し、5.2(log[cfu/mL])の当該菌液を添加したところ、添加後1分で測定限界以下となった。
【0114】
表6は、歯周病(P.Circumdentaria)菌液と、試験液との抗歯周病菌効果試験の結果を示す。試験液に対し、当該菌液を添加したところ、添加(攪拌)後1分若しくは3分で測定限界以下となった。それに対し、コントロール(対照区)では、菌数が、攪拌後0~30分において5.9~7.0(log[cfu/mL])であった。
【0115】
表7は、感染症(Pas.multocida)菌液)と、試験液との抗歯周病菌効果試験の結果を示す。試験液に対し、当該菌液を添加したところ、添加後1分で1%以下(約4.0(log[cfu/mL]))となり、添加後3分で測定限界以下となった。それに対し、コントロール(対照区)では、菌数が、攪拌後0~30分において6.3~8.1(log[cfu/mL])であった。
【0116】
以上本試験例において、各歯周病菌や感染症菌の菌数や、好気若しくは嫌気性条件といった反応条件にばらつきがあるものの、本発明に係る動物用口腔組成物は、マスティック樹脂液及び/又はマスティック精油を有効成分として検証した場合には、犬及び猫双方由来のポルフィロモナス・グラエはもとより、他のポルフィロモナス属であるポルフィロモナス・サーカムデンタリアや、異なる属のパスツレラ・ムルトシダに対して殺菌作用を示すことが見いだされた。
【0117】
[製造例]本発明に係る動物用の口腔用組成物の製造
上記試験例の知見を基に、本発明に係る動物用の口腔用組成物(ジェルペースト)を製造した。ちなみに、当該組成物の製造方法については、常法で行った。なお、各成分の組成比(重量%)については、次に示す表8の通りである。また、口腔用組成物の総量を25kgとした。
【0118】
【表8】
【0119】
なお、本製造例で製造したジェルペーストの動物用の口腔用組成物については、歯ブラシや綿棒に浸して、動物(犬、猫)の歯や歯茎に塗布する形を採る。
【0120】
また、上記製造例(仕込み量)は、一例であって、マスティック樹脂(樹脂液)並びにマスティック精油及び/若しくはナノ型乳酸菌という構成を順守すれば、その他の成分については適宜変更可能である。
【0121】
[試験例3]動物用の口腔用組成物の臨床試験
上記製造例にて製造した、ジェルペーストの動物用の口腔用組成物(以下、「マスティックゲル」とする。)について、一般家庭飼育犬(犬種は問わない。以下単に「犬」と称することもあり。)に対して臨床試験を行った。
【0122】
先ず、一般家庭飼育犬に関しては、全て歯肉炎指数の判定スコアが0.5以上で、スケーリング(歯石除去)処置を受けており、尚且つ体重が25kg未満で3歳以上、性別不問の犬10匹を対象とした。そして、10匹の犬については、対照群(マスティックゲル塗布無し。ただし、マスティックゲル塗布以外の通常のデンタルケアを施している。)5匹と、被験薬群(マスティックゲル塗布有り)5匹とに群分けをした。なお、対照群及び被験薬群双方の犬に関しては、試験対象の歯を、左右上下顎の犬歯及び第4前臼歯を観察対象とした。ここで、歯肉炎指数の判定スコア算定方法について、表9に示す。
【0123】
【表9】
【0124】
次に、被験薬群の犬に対するマスティックゲルの投与(塗布及び塗擦)方法は、当該犬の各飼主が、マスティックゲルを犬の左上顎、左下顎、右上顎及び右下顎に係る歯肉それぞれに約0.5gずつ指で塗布及び塗擦した。そして、マスティックゲルの塗布及び塗擦は、1日1回就寝前に行い、これを4週間毎日行った。なお、マスティックゲルの投与にあたっては、デンタルケア目的のサプリメントの同時併用を避ける、ゲル投与後は、食事・飲水を30分間控えるといったことに注意した。
【0125】
次に、臨床における効果試験を行った。当該効果試験は、1)歯肉炎指数の判定スコアの算定、2)歯周病原細菌及び線毛型の解析、3)口腔内細菌数の計測、及び4)口臭測定の4種類を行った。そこで、各試験について順次説明する。
【0126】
[試験例3-1]歯肉炎指数の判定スコアの算定
先ず、歯肉炎指数の判定スコアの算定については、対照群及び被験薬群全ての犬に対して、スケーリング処置前(以下「術前」とする。)及びスケーリング処置1か月後(以下「1ヶ月後」とする。)の歯肉炎指数の判定スコアを、表9に示す基準にて、目視による観察により判定した。なお、この時、歯肉炎指数の判定スコアが術前よりも悪化していない若しくは改善した場合を有効とした。本試験例3-1に係る歯肉炎指数の判定スコアの推移を図1として示す。
【0127】
図1においては、対照群及び被験薬群において、それぞれスケーリング処置前(術前)とスケーリング処置1か月後(1ヶ月後)とでは、歯肉炎指数の判定スコアの値に差が見られた。更に、対照群及び被験薬群において、スケーリング処置1か月後(1ヶ月後)を比較すると、被験薬群(マスティックゲルを使用した犬)について、判定スコアの低下、即ち歯肉炎の改善が見られた。このことから、統計学的や詳細については検討の余地があるものの、少なくとも本発明に係る口腔用組成物が歯肉炎ひいては歯周病予防剤としての効果を示すことが示唆される結果となった。
【0128】
[試験例3-2]歯周病原細菌及び線毛型の解析
次に、歯周病原細菌の検出及び線毛型の解析について説明する。
【0129】
先ず、歯周病原細菌の検出であるが、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)解析方法を使用して行った。歯周病原細菌の採取においては、対照群及び被験薬群双方に係る各犬の左右・上顎の第4前臼歯法側の歯肉縁付近をスワブ(シードスワブ(登録商標)γ2号。栄研化学株式会社製)を用いて3本採取した。ちなみにスワブ3本については、採取したスワブサンプルより、細菌(歯周病菌)DNAを抽出してPCR解析を行い、アガロースゲル電気泳動法により細菌を検出した。なお、調べた細菌及びポルフィロモナス・グラエのfimA型は、以下の通りある:タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、ポルフィロモナス・ジンジバリス、ポルフィロモナス・グラエ、ポルフィロモナス・グラエfimAのA~C型。そして、PCR解析と並行して、fimAテスト(国際特許公開第2013/089166号参照)を行った。なお、PCR解析においては、ステューデントt検定、マンホイットニーU検定、ウィルコクソンの符号付順位検定及びフィッシャーの直接確率法を行い、P値<0.05の場合に統計学的有意差があるとした。
【0130】
PCR解析及びポルフィロモナス・グラエfimAテストによる歯周病原菌の検出結果を表10として示す。
【0131】
【表10】
【0132】
PCR解析については、解析した歯周病病原性細菌において、対照群及び被験薬群共にスケーリング後に検出される個体数が減少し、1か月後に検出される個体数が再び増加する傾向が見られた(表10参照)。
【0133】
fimAテストについて、ポルフィロモナス・グラエfimAのA型は、スケーリング術前に両群とも2例が保有していたが、全ての犬で術後に焼失し、1か月後においても検出されなかった。C型においては、対照群及び被験薬群の間で明らかな違いはなかったが、B型については、被験薬群では術前の検査において保有している犬がいなかったため、被験薬の効果については不明であった。
【0134】
[試験例3-3]口腔内細菌数の計測
口腔内細菌数については、対照群及び被験薬群に係る犬の左上顎第4臼歯の頬側を、白色滅菌綿棒で3回擦り、綿棒に付着した細菌を、自動細菌数計算装置(DU-AA01NP-H。パナソニックヘルスケア株式会社製)を用いて計測した。なお、上記試験例3-2のPCR計測同様に、ステューデントt検定、マンホイットニーU検定、ウィルコクソンの符号付順位検定及びフィッシャーの直接確率法を行い、P値<0.05の場合に統計学的有意差があるとした。
【0135】
口腔内細菌数の推移を表した図を、図2として示す。なお、図2における「術前」は、スケーリング処置前を言い、「術後」はスケーリング処置直後を言い、「1ヶ月後」はスケーリング処置1ヶ月後を言う。この図2において、対照群及び被験薬群ともに、スケーリングにより口腔内細菌数は著しく減少した(P<0.05)。1か月後の口腔内細菌数は、被験薬群では対照群に比べて有意に口腔内細菌数が減少しており、また、術前と比べても有意に低い値を示した。
【0136】
[試験例3-4]口臭測定
次に、対照群及び被験薬群に係る犬に対して、オーラストリップ(DSファーマアニマルヘルス株式会社製)を用いて、口臭測定を行った。その結果について、図3に示す。なお、図3においても、図2同様に「術前」は、スケーリング処置前を言い、「術後」はスケーリング処置直後を言い、「1ヶ月後」はスケーリング処置1ヶ月後を言う。被験薬群及び対照群においては、スケーリング術前と、術後とでは、オーラストリップスコアは低値を示した。更に1か月後においても、術前と比べると両群とも低値を示した。また、対照群及び被験薬群においては、常に対照群よりも被験薬群の方が、オーラストリップスコアが低値となった。
【0137】
以上試験例3(3-1から3-4)において、本発明に係る口腔用組成物を用いた臨床実験により、種々検討の余地はあるものの、少なくともマスティック成分が、犬若しくは猫の歯周病(歯肉炎)の予防剤、或いは口臭予防剤としての用途を有することが見いだされた。
【0138】
以上、本発明に係る動物用の口腔用組成物について、実施例を種々記載したが、この限りではなく、特許請求の範囲、上記実施形態に記載されている範囲を逸脱しなければ、種々の実施例が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0139】
上述の実施形態及び実施例にて、歯磨き剤を例に本発明に係る本発明の動物用の口腔用組成物について言及したが、本発明の動物用の口腔用組成物においては、マスティック樹脂及び/若しくは精油を使用しているため、動物用の抗菌剤や感染症予防薬(例えば消化器寄生細菌に対する)として応用することが可能である。
図1
図2
図3