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  • 特許-大粒径アルミナ分散液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】大粒径アルミナ分散液
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/026 20220101AFI20230707BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20230707BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
C01F7/026
C09C1/40
C09D17/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019076257
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020172415
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒田 武利
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088481(JP,A)
【文献】特開2012-131653(JP,A)
【文献】特開2013-133258(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110384(WO,A1)
【文献】特開平01-131023(JP,A)
【文献】特開2003-054941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00-17/38
C09C 1/00-3/12
C09D 15/00ー17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子を分散粒子とし、以下(1)~(5)の特性すべてを満たす大粒径アルミナ分散液。
(1)分散粒子の平均粒子径が、50nm~3000nmの範囲である。
(2)大粒径アルミナ分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナの結晶形が、ベーマイト又は擬ベーマイトである。
(3)大粒径アルミナ分散液のpHが、5.5~9の範囲である。
(4)大粒径アルミナ分散液が、有機酸及びアルカリを含有し、有機酸が乳酸及び/又はリンゴ酸であり、アルカリがアンモニア及びアルカリ金属のうちのいずれか1種以上である。
(5)大粒径アルミナ分散液に含有される有機酸とアルミナ(Al2O3)の量比が、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積をAとし、Al2O3のモル数をBとしたときに、A/B=1.0~2.0の範囲である。
【請求項2】
以下の三点曲げ試験において、曲げ強度が0.3MPa以上である、請求項1記載の大粒径アルミナ分散液。
[三点曲げ試験]
前記大粒径アルミナ分散液43gと焼結アルミナ(伊藤忠セラテック社製の「アルミナイトA-S -28 mesh」135gと「アルミナイトA-S -325 mesh」165gを混合したもの)300gを混合し、これをモールド(長さ8cm、幅2cm、高さ2cm)に流し込んだ後、100℃で乾燥する。乾燥後、モールドから脱型し、これを500℃で12時間焼成する。
支点間距離を50mmとした三点曲げ試験機の支持部に焼成品を設置し、焼成品の上面のうち長辺の中点において長辺に対し直角方向となる部分全体に対して、鉛直上方向から加圧し、焼成品が割れたときの力を曲げ強度とする。
【請求項3】
請求項1又は2記載の大粒径アルミナ分散液を乾燥して得られる粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大粒径アルミナ分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
中性領域を含むアルミナ系分散液に関する技術として、本願出願人は、特許文献1において、pH5.5~9のアルミナコロイド含有水溶液を開示した。このアルミナコロイド含有水溶液は、アルミナ水和物等からなるコロイド及びイオン性アルミニウム化合物を含有するものであり、これを100℃で乾燥させたときの乾燥物の粉末X線回折分析におけるアルミナの結晶形が擬ベーマイトを示すものである。このアルミナコロイド含有水溶液は、バインダー力に優れるものであり、このことを特許文献2において開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5582999号公報
【文献】特許第5733758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアルミナコロイド含有水溶液は、上述のようにバインダー力に優れるものであるが、その実施例に示したように、分散粒子の平均粒子径は基本的には10nm前後、最大でも30数nm程度の極微小粒子であった。この極微小粒子である利点を活かし、結着対象となる粒状基材間の空隙に容易に入り込むことができ、バインダー性能を十分に発揮することができるものである。
【0005】
一方、結着対象となる粒状基材の種類や用途によっては、大きめの粒子サイズが求められることもあった。特許文献1に記載のアルミナコロイド含有水溶液の技術では、前述のように、最大でも30数nm程度の極微小粒子しか得られなかったため、大きめの粒子サイズを有しながらも優れたバインダー性能を発揮することができるアルミナ系分散液に関する新たな技術開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
[1]アルミナ粒子を分散粒子とし、以下(1)~(5)の特性すべてを満たす大粒径アルミナ分散液。
(1)分散粒子の平均粒子径が、50nm~3000nmの範囲である。
(2)大粒径アルミナ分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナの結晶形が、ベーマイト又は擬ベーマイトである。
(3)大粒径アルミナ分散液のpHが、5.5~9の範囲である。
(4)大粒径アルミナ分散液が、有機酸及びアルカリを含有し、有機酸が乳酸及び/又はリンゴ酸であり、アルカリがアンモニア、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうちのいずれか1種以上である。
(5)大粒径アルミナ分散液に含有される有機酸とアルミナ(Al2O3)の量比が、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積をAとし、Al2O3のモル数をBとしたときに、A/B=1.0~2.0の範囲である。
[2]以下の三点曲げ試験において、曲げ強度が0.3MPa以上である、上記[1]記載の大粒径アルミナ分散液。
[三点曲げ試験]
前記大粒径アルミナ分散液43gと焼結アルミナ(伊藤忠セラテック社製の「アルミナイトA-S -28 mesh」135gと「アルミナイトA-S -325 mesh」165gを混合したもの)300gを混合し、これをモールド(長さ8cm、幅2cm、高さ2cm)に流し込んだ後、100℃で乾燥する。乾燥後、モールドから脱型し、これを500℃で12時間焼成する。
支点間距離を50mmとした三点曲げ試験機の支持部に焼成品を設置し、焼成品の上面のうち長辺の中点において長辺に対し直角方向となる部分全体に対して、鉛直上方向から加圧し、焼成品が割れたときの力を曲げ強度とする。
[3]上記[1]又は[2]記載の大粒径アルミナ分散液を乾燥して得られる粉体。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例における三点曲げ試験の様子を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
なお、本発明において、数値範囲に関する「数値1~数値2」という表記は、数値1を下限値とし数値2を上限値とする、両端の数値1及び数値2を含む数値範囲を意味し、「数値1以上数値2以下」と同義である。
【0009】
本発明の大粒径アルミナ分散液は、アルミナ粒子を分散粒子とし、以下(1)~(5)の特性すべてを満たすものである。
(1)分散粒子の平均粒子径が、50nm~3000nmの範囲である。
(2)大粒径アルミナ分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナの結晶形が、ベーマイト又は擬ベーマイトである。
(3)大粒径アルミナ分散液のpHが、5.5~9の範囲である。
(4)大粒径アルミナ分散液が、有機酸及びアルカリを含有し、有機酸が乳酸及び/又はリンゴ酸であり、アルカリがアンモニア、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうちのいずれか1種以上である。
(5)大粒径アルミナ分散液に含有される有機酸とアルミナ(Al2O3)の量比が、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積をAとし、Al2O3のモル数をBとしたときに、A/B=1.0~2.0の範囲である。
【0010】
本発明の大粒径アルミナ分散液は、アルミナ粒子を分散粒子とするものであるが、アルミニウム成分の他の存在形態として、イオン性アルミニウム化合物の含有を許容するものである。イオン性アルミニウム化合物の含有の有無は、本発明の大粒径アルミナ分散液を分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過し、ろ液中のAl2O3を測定することによって調べることができる。本発明の大粒径アルミナ分散液は、ろ液中のAl2O3がろ過前の水溶液中のAl2O3に対して40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。なお、下限については特に制限されないが、例えば0質量%である。
【0011】
また、本発明の大粒径アルミナ分散液中のAl2O3濃度については、20質量%以下であることが好ましい。20質量%を超えると粘性が上昇し、ハンドリング性が悪化する傾向にある。Al2O3濃度の下限については特に制限はないが、経済的な観点から1質量%であることが好ましい。よって、Al2O3濃度の好適な範囲として1~20質量%を例示することができる。上記範囲について、下限は3質量%であることがより好ましい。また、上限は15質量%であることがより好ましい。
【0012】
本発明の大粒径アルミナ分散液は、水を分散媒とすることが好ましいが、分散安定性が損なわれない範囲であれば親水性有機溶媒を含有しても構わない。親水性有機溶媒として、メタノール、エタノール、エチレングリコール等を例示できる。
【0013】
特性(1)にかかる分散粒子の平均粒子径の範囲50nm~3000nmについて、より大きな粒子サイズを規定するという観点から、上記範囲の下限は70nmであることが好ましく、100nmがより好ましい。ここで、分散粒子の平均粒子径とは、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-500」で測定した際のメジアン径のことである。
【0014】
特性(2)にかかるアルミナの結晶形の分析は、常法を用いればよく、好例は粉末X線回折による分析である。
【0015】
特性(3)にかかるpHの範囲5.5~9について、この範囲であればゲル化は発生し難い。本発明の大粒径アルミナ分散液は、その保存中に沈殿が生じることがあるが、撹拌により再分散させることができるものであるため、通常の使用には支障がないと考えられる。
【0016】
特性(4)にかかる有機酸とアルカリのうち、有機酸の含有割合については特性(5)で規定されているとおりである。アルカリの含有割合については、有機酸の含有割合に応じて、本発明の大粒径アルミナ分散液のpHが特性(3)の5.5~9の範囲となる限りにおいて特に制限されない。アルカリ金属の好例はナトリウム、カリウムであり、アルカリ土類金属の好例はマグネシウム、カルシウムである。
【0017】
特性(5)にかかるA/Bの範囲1.0~2.0について、この範囲であればゲル化は発生し難い。
【0018】
本発明の大粒径アルミナ分散液が有する特性として、特性(1)~(5)以外では、例えば、光透過率が挙げられる。Al2O3として7.2質量%時における本発明の大粒径アルミナ分散液の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、例えば、85%以下である。粒子径が大きくなるほど光透過率が低くなることから、光透過率は、例えば、80%以下であり、更には75%以下である。下限については特に制限はないが、例えば5%であり、更には10%である。この光透過率は、本発明の大粒径アルミナ分散液のAl2O3濃度を7.2質量%に設定したときのものであるため、Al2O3濃度が7.2質量%未満のものを光透過率の測定に供するときは、予め限外ろ過等の方法によって7.2質量%になるまで濃縮しておくことが好ましい。
【0019】
本発明の大粒径アルミナ分散液の一特徴は、優れたバインダー力を有することである。バインダー力を評価するための好適な一方法は、以下の三点曲げ試験である。この三点曲げ試験において、曲げ強度が0.3MPa以上であれば、バインダー力に優れると評価することができる。曲げ強度は、0.4MPa以上であることが好ましい。なお、曲げ強度の上限は特に制限されないが、例えば、2MPaである。
【0020】
[三点曲げ試験]
本発明の大粒径アルミナ分散液43gと焼結アルミナ(伊藤忠セラテック社製の「アルミナイトA-S -28 mesh」135gと「アルミナイトA-S -325 mesh」165gを混合したもの)300gを混合し、これをモールド(長さ8cm、幅2cm、高さ2cm)に流し込んだ後、100℃で乾燥する。乾燥後、モールドから脱型し、これを500℃で12時間焼成する。
支点間距離を50mmとした三点曲げ試験機の支持部に焼成品を設置し、焼成品の上面のうち長辺の中点において長辺に対し直角方向となる部分全体に対して、鉛直上方向から加圧し、焼成品が割れたときの力を曲げ強度とする。
【0021】
本発明の好適な一形態は、本発明の大粒径アルミナ分散液を乾燥して得られる粉体に関するものである。上記粉体は、水に再分散可能である。ここで、再分散可能とは、上記粉体を水に懸濁させたときに再び本発明の大粒径アルミナ分散液に戻ることを意味する。上記粉体は、そのまま、あるいは少量の水に分散することにより高濃度で使用することもできる。乾燥方法として、噴霧乾燥、静置乾燥、気流乾燥等の通常用いられる方法を採用できる。乾燥温度に関しては、150℃以下が好ましい。
【0022】
(製造方法)
本発明の大粒径アルミナ分散液の好適な製造方法にかかる一形態は、結晶形がベーマイト又は擬ベーマイトであるアルミナ(以下「アルミナA」という)と有機酸とアルカリ剤とを混合し、加熱する方法である。
【0023】
有機酸の種類は、前述のとおり乳酸及び/又はリンゴ酸である。アルカリ剤の種類の例は、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩等である。ここで、前述のとおりアルカリ金属の好例はナトリウム、カリウムであり、アルカリ土類金属の好例はマグネシウム、カルシウムである。
【0024】
アルミナAと有機酸とアルカリ剤の混合、加熱方法については、特に制限されるものではない。例えば、アルミナAの水分散液、水に溶解させた有機酸及びアルカリ剤を混合し、これを加熱してもよい。また、有機酸の水溶液にアルミナAを添加して加熱した後、その加熱状態の温度が下がらないように維持しながら、アルカリ剤を添加してもよい。添加の態様は、連続的であっても間欠的であってもよく、添加速度も特に制限はないが、一度に多量に添加することは避けることが望ましい。また、混合の態様は、通常の撹拌方法であればよく、混合時間は適宜設定すればよい。加熱温度は50~200℃が好ましく、より好ましくは70~160℃である。加熱方法に特に制限はなく、通常の加熱方法やオートクレーブ等を例示できる。
【実施例
【0025】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0026】
〔実施例1〕
硫酸アルミニウム水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液をpHが7.5になるまでゆっくり添加して反応させた後、限外洗浄によってAl2O3として10質量%のアルミナ水和物ゲルを得た。このアルミナ水和物ゲルを55℃で1時間加熱することによって、擬ベーマイトのアルミナ結晶形を有するスラリーを調製した。このスラリー100質量部に対し88%乳酸をA/B=1.6となるように、また25%アンモニア水をNH3/Al2O3(モル比)=1.0となるように添加した。これを120℃で4h加熱した。
得られた分散液は、Al2O3濃度が7.3質量%、平均粒子径が52.2nm、結晶形が擬ベーマイト、pHが8.2、A/B値が1.6であり、本発明の大粒径アルミナ分散液に該当するものであった。なお、Al2O3濃度7.2質量%時の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、83.6%であった。
また、上記で得られた大粒径アルミナ分散液をヤマト科学(株)製スプレードライヤADL310(入口温度:200℃、出口温度:100℃)にて乾燥し、粉体を得た。次いで、この粉体をAl2O3濃度7.2%となるように水に懸濁させたところ、良好に分散し、分散液が得られた。よって、この粉体は、水に再分散可能な粉体であることが分かった。この分散液は、pH6.2、平均粒子径58nmであったことから、大粒径アルミナ分散液が再び得られたことを確認できた。
【0027】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして得たAl2O3として10質量%のアルミナ水和物ゲルを57℃で1時間加熱することによって、擬ベーマイトのアルミナ結晶形を有するスラリーを調製した。このスラリー100質量部に対し88%乳酸をA/B=1.3となるように、また25%アンモニア水をNH3/Al2O3(モル比)=0.9となるように添加した。これを140℃で3h加熱した。
得られた分散液は、Al2O3濃度が7.0質量%、平均粒子径が186.6nm、結晶形が擬ベーマイト、pHが8.2、A/B値が1.3であり、本発明の大粒径アルミナ分散液に該当するものであった。なお、Al2O3濃度7.2質量%時の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、71.0%であった。
【0028】
〔実施例3〕
実施例1と同様にして得たAl2O3として10質量%のアルミナ水和物ゲルを61℃で1時間加熱することによって、擬ベーマイトのアルミナ結晶形を有するスラリーを調製した。このスラリー100質量部に対し88%乳酸をA/B=1.7となるように、また25%アンモニア水をNH3/Al2O3(モル比)=1.1となるように添加した。これを100℃で8h加熱した。
得られた分散液は、Al2O3濃度が7.2質量%、平均粒子径が224.0nm、結晶形が擬ベーマイト、pHが8.3、A/B値が1.7であり、本発明の大粒径アルミナ分散液に該当するものであった。なお、Al2O3濃度7.2質量%時の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、64.4%であった。
【0029】
〔実施例4〕
実施例1と同様にして得たAl2O3として10質量%のアルミナ水和物ゲルを63℃で1時間加熱することによって、擬ベーマイトのアルミナ結晶形を有するスラリーを調製した。このスラリー100質量部に対し88%乳酸をA/B=1.6となるように、また25%アンモニア水をNH3/Al2O3(モル比)=1.0となるように添加した。これを130℃で5h加熱した。
得られた分散液は、Al2O3濃度が7.1質量%、平均粒子径が742.2nm、結晶形が擬ベーマイト、pHが8.2、A/B値が1.6であり、本発明の大粒径アルミナ分散液に該当するものであった。なお、Al2O3濃度7.2質量%時の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、29.7%であった。
【0030】
〔実施例5〕
実施例1と同様にして得たAl2O3として10質量%のアルミナ水和物ゲルを70℃で1時間加熱することによって、ベーマイトのアルミナ結晶形を有するスラリーを調製した。このスラリー100質量部に対し88%乳酸をA/B=1.5となるように、また25%アンモニア水をNH3/Al2O3(モル比)=1.0となるように添加した。これを140℃で3h加熱した。
得られた分散液は、Al2O3濃度が7.3質量%、平均粒子径が1957.0nm、結晶形がベーマイト、pHが8.1、A/B値が1.5であり、本発明の大粒径アルミナ分散液に該当するものであった。なお、Al2O3濃度7.2質量%時の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、16.5%であった。
【0031】
〔実施例6〕
実施例1と同様にして得たAl2O3として10質量%のアルミナ水和物ゲルを80℃で1時間加熱することによって、ベーマイトのアルミナ結晶形を有するスラリーを調製した。このスラリー100質量部に対し88%乳酸をA/B=1.7となるように、また25%アンモニア水をNH3/Al2O3(モル比)=1.1となるように添加した。これを140℃で3h加熱した。
得られた分散液は、Al2O3濃度が7.2質量%、平均粒子径が2315.0nm、結晶形がベーマイト、pHが7.7、A/B値が1.7であり、本発明の大粒径アルミナ分散液に該当するものであった。なお、Al2O3濃度7.2質量%時の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、12.1%であった。
【0032】
〔実施例7〕
実施例1と同様にして得たAl2O3として10質量%のアルミナ水和物ゲルを100℃で1時間加熱することによって、ベーマイトのアルミナ結晶形を有するスラリーを調製した。このスラリー100質量部に対し88%乳酸をA/B=1.6となるように、また25%アンモニア水をNH3/Al2O3(モル比)=1.0となるように添加した。これを150℃で3h加熱した。
得られた分散液は、Al2O3濃度が7.3質量%、平均粒子径が2970.0nm、結晶形がベーマイト、pHが5.9、A/B値が1.6であり、本発明の大粒径アルミナ分散液に該当するものであった。なお、Al2O3濃度7.2質量%時の光透過率(測定条件:波長500nm、光路長10mm)は、12.1%であった。
また、上記で得られた大粒径アルミナ分散液を通風乾燥機にて100℃で12時間乾燥し、粉体を得た。次いで、この粉体をAl2O3濃度7.2%となるように水に懸濁させたところ、良好に分散し、分散液が得られた。よって、この粉体は、水に再分散可能な粉体であることが分かった。この分散液は、pH5.8、平均粒子径2910nmであったことから、大粒径アルミナ分散液が再び得られたことを確認できた。
【0033】
上記各実施例で得られた分散液の分析方法は以下のとおりである。
・結晶形:得られた分散液を100℃で乾燥し、乾燥物を島津製作所(株)製のX線回折装置「XRD-7000」で測定して解析した。
・平均粒子径:得られた分散液を(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-500」を用いて測定した。
・光透過率:得られた分散液をAl2O3として7.2質量%に調整したものを日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計「V-670」を用い、波長500nm、光路長10mmの条件で測定した。
【0034】
[三点曲げ試験]
焼結アルミナとして、伊藤忠セラテック社製「アルミナイトA-S -28 mesh」135gと伊藤忠セラテック社製「アルミナイトA-S -325 mesh」165gを混合して調製したものを用いた。
実施例で得られた各分散液43gと焼結アルミナ300gを混合し、これをモールド(長さ8cm、幅2cm、高さ2cm)に流し込んだ後、100℃で乾燥した。乾燥後、モールドから脱型し、これを500℃で12時間焼成した。
三点曲げ試験機として、丸菱科学機械製作所製の万能強度試験機を用いた。支点間距離を50mmとし、支持部に焼成品を設置した。焼成品の上面のうち長辺の中点において長辺に対し直角方向となる部分全体に対して、鉛直上方向から懸架部で加圧し、焼成品が割れたときの力を曲げ強度とした。試験時の写真を図1に示した。
【0035】
三点曲げ試験の結果を表1に示した。表1より、実施例におけるいずれの分散液も曲げ強度が0.3MPa以上であることから、バインダー力に優れていることが分かった。
【0036】
【表1】
図1