(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】飽差制御装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20230707BHJP
A01G 9/24 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
A01G7/00 601Z
A01G9/24 A
(21)【出願番号】P 2019236717
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】壷井 智浩
(72)【発明者】
【氏名】舟久保 滋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 綾香
(72)【発明者】
【氏名】寒川 史郎
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174804(JP,A)
【文献】特開2014-057570(JP,A)
【文献】特開平11-155389(JP,A)
【文献】特開2014-093985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 2/00 - 2/38
A01G 5/00 - 7/06
A01G 9/14 - 9/28
A01G 17/00 - 17/02
A01G 17/18
A01G 20/00 - 22/67
A01G 24/00 - 24/60
F24F 6/00 - 6/18
F24F 11/00 - 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間の現在飽差が設定飽差となるように生成した出力値に応じて加湿装置を操作することにより前記現在飽差を制御する飽差制御装置であって、
前記設定飽差と、前記出力値を制限するための複数の季節パターンが記憶される記憶部と、
対象空間の温度と湿度を用いて前記現在飽差を算出する飽差算出部と、
対象空間の温度及び日射量と、前記現在飽差と前記設定飽差の差と、前記季節パターンに基づいて、前記出力値を制限するための閾値を取得し、前記出力値が前記閾値を越えた場合にのみ前記加湿装置を規定時間だけ操作する第1制御部を具備することを特徴とする飽差制御装置。
【請求項2】
前記第1制御部が前記加湿装置を規定時間だけ操作した後、新たに取得した前記出力値に応じた時間だけ前記加湿装置を操作する第2制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の飽差制御装置。
【請求項3】
前記記憶部は、
制御開始時刻と最大値到達時刻と制御終了時刻を含む設定時刻と、初期飽差と最大飽差を含む前記設定飽差を記憶しており、
前記第1制御部と前記第2制御部を有する制御手段が、対象空間における前記現在飽差を、前記設定時刻と前記設定飽差によって規定される制御パターンに従って制御することを特徴とする請求
項2に記載の飽差制御装置。
【請求項4】
前記制御開始時刻として日出時刻が設定され、前記最大値到達時刻として南中時刻が設定され、前記制御終了時刻として日没時刻が設定され、
前記制御パターンは、前記日出時刻と前記南中時刻と前記日没時刻と、さらに対象空間の地理的位置とに基づいて規定されることを特徴とする請求項3に記載の飽差制御装置。
【請求項5】
地理的位置と月日の組合せに対応する前記日出時刻と前記南中時刻と前記日没時刻を記憶部に記憶しておき、前記制御手段のカレンダー機能と前記制御手段に対する地理的位置の指定により、前記設定時刻が自動的に設定されることを特徴とする請求項4に記載の飽差制御装置。
【請求項6】
その内部が前記対象空間であり、請求項1から
5の何れかに記載された飽差制御装置を備えたことを特徴とする農業ハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間の飽差を所望の値に設定するために加湿装置を制御する飽差制御装置に係り、特に季節や実際の環境条件に対応した最適な態様で加湿装置を制御できる飽差制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、一種類の噴霧装置で含水量が異なる複数種類の霧を発生させ、ハウス内の飽差を早く目標値に到達するよう制御する飽差制御装置に関する発明が開示されている。この飽差制御装置は、栽培ハウス内に設置されるものであり、噴霧装置2と、測定機3と、制御装置4を備えている。噴霧装置2は、噴霧器本体21と、液体供給管22と、流量調整弁23と、コンプレッサー24と、気体供給管25とを有している。噴霧器本体21は、略弾丸型の本体部210と、本体部210側面に形成された気体導入部211と、本体部210長手方向に貫通した細孔であるベンチュリ部212と、本体部210先端に設けられた噴霧部213と、本体部210の基端に設けられた液体導入部214とを備えている。なお、以上の説明において構成要素に付された符合は特許文献1において使用されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示された飽差制御装置によれば、複数のノズルを使用するため装置が高価となり、また使用する噴霧装置はデジタル的にON/OFFできるようなものではなく、飽差が高ければ噴霧装置に送る液量を多くし、飽差が低ければ噴霧装置に送る液量を少なくするという制御手法であるため、実際の飽差を目標の飽差に精密に合致させるような高度な飽差制御は困難であるという問題があった。しかし、光合成に適した飽差の範囲は狭いので加湿量を精密に制御できることが求められる。特に加湿のし過ぎで葉や果実の表面を濡らしてしまうと病気の発生などの恐れがある。逆に、加湿が少なく乾燥状態が続いたり、急激に乾燥したりすると、水分ストレスとなり、植物は水分ストレスに対する防御反応として気孔を閉じてしまう。気孔が閉じると光合成ができなくなり、植物の成長にも影響を及ぼす。したがって、加湿量を精密に制御することは植物の育成にとって重要である。
【0005】
本発明は、以上説明した従来の技術における課題に鑑みてなされたものであり、対象空間に既に設置されている噴霧装置等に後付けすることができる安価な制御装置でありながら、対象空間に適切な加湿を行なって植物の光合成が適正に行なえるような精密な飽差制御を行なうことができる飽差制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載された飽差制御装置は、
対象空間の現在飽差が設定飽差となるように生成した出力値に応じて加湿装置を操作することにより前記現在飽差を制御する飽差制御装置であって、
前記設定飽差と、前記出力値を制限するための複数の季節パターンが記憶される記憶部と、
対象空間の温度と湿度を用いて前記現在飽差を算出する飽差算出部と、
対象空間の温度及び日射量と、前記現在飽差と前記設定飽差の差と、前記季節パターンに基づいて、前記出力値を制限するための閾値を取得し、前記出力値が前記閾値を越えた場合にのみ前記加湿装置を規定時間だけ操作する第1制御部を具備することを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載された飽差制御装置は、請求項1に記載の飽差制御装置において、
前記第1制御部が前記加湿装置を規定時間だけ操作した後、新たに取得した前記出力値に応じた時間だけ前記加湿装置を操作する第2制御部を有することを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載された飽差制御装置は、請求項2に記載の飽差制御装置において、
前記記憶部は、
制御開始時刻と最大値到達時刻と制御終了時刻を含む設定時刻と、初期飽差と最大飽差を含む前記設定飽差を記憶しており、
前記第1制御部と前記第2制御部を有する制御手段が、対象空間における前記現在飽差を、前記設定時刻と前記設定飽差によって規定される制御パターンに従って制御することを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載された飽差制御装置は、請求項3に記載の飽差制御装置において、
前記制御開始時刻として日出時刻が設定され、前記最大値到達時刻として南中時刻が設定され、前記制御終了時刻として日没時刻が設定され、
前記制御パターンは、前記日出時刻と前記南中時刻と前記日没時刻と、さらに対象空間の地理的位置とに基づいて規定されることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載された飽差制御装置は、請求項4に記載の飽差制御装置において、
地理的位置と月日の組合せに対応する前記日出時刻と前記南中時刻と前記日没時刻を記憶部に記憶しておき、前記制御手段のカレンダー機能と前記制御手段に対する地理的位置の指定により、前記設定時刻が自動的に設定されることを特徴としている。
【0011】
請求項6に記載された農業ハウスは、
その内部が前記対象空間であり、請求項1から5の何れかに記載された飽差制御装置を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された飽差制御装置によれば、対象空間の温度と湿度を用いて現在飽差を算出し、対象空間の温度及び日射量から現在の季節に該当する季節パターンを決定し、現在飽差と設定飽差の差と、決定した季節パターンに基づいて、加湿装置を操作するか否かの判断の基礎となる閾値を決定する。そして、出力値が閾値を越えた場合にのみ、加湿装置を規定時間だけ操作して加湿を行なう。このため、最低動作時間が定められているような加湿装置を制御対象とする場合であって、現在飽差が設定飽差より小さい場合や、少し大きいだけに過ぎない場合にも、加湿装置が規定時間だけ作動して対象空間を過剰に加湿してしまうのを避けることができる。その結果、季節に適合した制御パターンに従い、対象空間の飽差を季節に適合した好ましい態様で制御することができ、当該対象空間において植物の光合成を適正に行なわせることができる。
【0013】
請求項2に記載された飽差制御装置によれば、閾値に従って加湿装置を規定時間だけ操作した場合には、その時点で新たに取得した出力値に応じた時間だけ加湿装置を操作することにより、対象空間に必要な加湿を追加で行なうことができ、対象空間の現在飽差を季節に適合した態様で精密に制御することができる。
【0014】
請求項3に記載された飽差制御装置によれば、設定時刻と設定飽差によって規定される光合成に適したパターンに従って現在飽差の制御を行なうので、当該対象空間における植物の光合成をより一層適正に行なわせることができる。
【0015】
請求項4に記載された飽差制御装置によれば、
対象空間の地理的位置における日照条件に適合した制御パターンで対象空間の現在飽差を精密に制御することができるため、何れの地理的位置に存する当該対象空間においても植物の光合成を適正に行なわせることができる。
【0016】
請求項5に記載された飽差制御装置によれば、
飽差制御を行なおうとする対象空間の地理的位置を指定すれば、指定された地理的位置と現在の月日の組合せに対応する設定時刻が記憶部から読み出され、この設定時刻と前記設定飽差に基づいて飽差制御の最も適切な制御パターンを自動的に設定することができる。
【0017】
請求項6に記載された農業ハウスによれば、
その内部が前記対象空間であり、請求項1から5の何れかに記載された飽差制御装置を備えたことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態の飽差制御装置の全体構成図である。
【
図2】実施形態の飽差制御装置に設定された設定時刻と設定飽差で定められる飽差の制御パターンを示すグラフである。
【
図3】実施形態の飽差制御装置に設定された制御データを示す図であって、分図(a)は気温と日射量の関係から季節パターンを決定するテーブルデータを示す図であり、分図(b)は現在飽差と設定飽差の差と、季節パターンとによって閾値を決定するテーブルデータを示す図である。
【
図4】実施形態の飽差制御装置による飽差制御の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の飽差制御装置の実施形態を
図1~
図4を参照して説明する。
まず、飽差制御装置1の全体構成を説明する。
図1に示すように、この飽差制御装置1は、対象空間の環境データを取得するセンサ群Sと、センサ群Sから送られた環境データ及び予め設定された制御データを用いて出力値を算出する制御手段Cと、制御手段Cから送られた出力値によって制御される制御対象機器Mを備えている。
【0020】
飽差制御装置1が飽差制御を行なう対象空間は、例えば農業ハウス等の内部である。飽差制御装置1の制御手段Cは、農業ハウス内の環境条件をセンサ群Sで検知し、センサ群Sから送られる環境データ等に基づいて算出した出力値で加湿装置(「ミスト」と略称する。)等の制御対象機器Mを操作し、農業ハウス内の飽差を制御して植物にとって好適な湿度環境を整える飽差制御を行なう。
【0021】
図1に示すように、センサ群Sには、温湿度計2と、日射センサ3と、CO
2 モニタ4が含まれる。温湿度計2は対象空間の温度と相対湿度(単に「湿度」とも呼ぶ。)を測定し、日射センサ3は日射量を測定し、CO
2 モニタ4はCO
2 の濃度を測定し、それぞれ測定結果を制御手段Cに出力する。
【0022】
図1に示すように、制御手段Cは、シーケンサ5とリレー6を有している。シーケンサ5には、温湿度計2からの温度及び湿度と、日射センサ3からの日射量と、CO
2 モニタ4からのCO
2 濃度が入力される。制御手段Cの要部であるシーケンサ5の構造及び作用は後に詳述する。シーケンサ5は、算出した出力値に応じたON/OFF信号をリレー6に出力する。リレー6は、対象空間に設けられた被操作対象を、それぞれON/OFF信号によって操作する。
【0023】
図1に示すように、制御手段Cが操作する制御対象機器Mには、ミスト7と、CO
2 発生装置8と、除湿装置9が含まれる。これらの制御対象機器Mは、制御手段Cのリレー6から送られたON/OFF信号によって指定された時間だけON/OFF制御される。
【0024】
次に、制御手段Cのシーケンサ5の構造及び飽差制御について説明する。
図1に示すように、シーケンサ5は、制御のためのデータが設定される記憶部10と、センサ群Sからの環境データに基づいて対象空間の飽差を算出する飽差算出部11と、後述する閾値を基準としてミスト7を最低動作時間(本実施形態では30秒)操作する制御を行なうか否かを決定する第1制御部12と、記憶部10のデータとセンサ群Sからの環境データに基づきPID演算で出力値を算出し、この出力値によりミスト7をPID制御で操作する第2制御部13を有している。
【0025】
なお、PID演算で算出される出力値は動作単位を0.1sとしており、例えば出力値が200であれば20秒を意味し、この出力値によってミスト7を20秒間操作して加湿を行なうことができる。また、この実施形態では、出力値の上限を300と定めており、1回のPID演算による出力値を用いた制御動作によってミスト7が連続運転される時間は最長で30秒となる。
【0026】
飽差算出部11は、温湿度計2から送られる温度と湿度のデータに基づき、対象空間の飽差を算出する。
【0027】
記憶部10には、以下に説明するように、第1制御部12と第2制御部13が適切な飽差制御を行なうために必要な種々のデータが設定されている。
まず、記憶部10には、日出日没に対応した時間スケジュールで対象空間内の飽差を適正にPID制御するために、対象空間の地理的位置と季節で定められる飽差の適正な制御パターンが設定されている。
図2は、このような制御パターンを示すグラフの一例であり、制御手段Cによる制御の目標となる。このような制御パターンを定めるために必要な記憶部10の設定情報としては、少なくとも設定飽差と設定時刻がある。
【0028】
図2のグラフの縦軸に示す設定飽差とは、第1制御部12及び第2制御部13が飽差制御を開始する際の最初の飽差である初期飽差と、飽差制御時間中の飽差の最大値である最大飽差である。これらの設定飽差がPID制御による飽差制御の目標値となる。一般的に、飽差は一定にしておくよりも、少しずつ上昇させた方が、植物の気孔は開きやすくなり、光合成が促進される。従って、初期飽差は理想飽差とされる3~6(g/m
3 )とし、最大飽差は初期飽差よりも大きくするが、やや乾燥ぎみの9(g/m
3 )としてもよい。飽差が初期飽差から徐々に上昇して最大飽差となった後は一定値を保つように制御するのがよい。
【0029】
図2のグラフの横軸に示す設定時刻とは、制御手段Cが飽差制御を開始する時刻である制御開始時刻と、飽差が最大飽差となる最大値到達時刻と、飽差制御を終了する制御終了時刻である。光合成が行なわれるのは、日出から日没までであるが、光合成が活発なのは午前中であり、午前から南中時刻(正午)にかけて光合成の活発さが上昇していくが、正午を過ぎると光合成の活発さが急減するものではないので、余裕を持たせて光合成が盛んな午前中から、日射量が多めである南中時刻の2時間後位まで飽差を上昇させて最大飽差に達するよう制御するのが好ましいと考えられる。また、このように飽差の最大値到達時刻を南中時刻(正午)以降に遅らせることにより、設定飽差の上昇を緩やかにすることもできる。以上説明したような飽差の時刻制御の一例としては、制御開始時刻を日出時刻とし、最大値到達時刻は南中時刻(正午)から2時間後位とし、制御終了時刻は日没時刻とすることができる。これらの各時刻は対象空間の地理的位置と季節によって異なるので、制御を行なう前にユーザーが手動で記憶部10に設定する。例えば、山形市を例にとれば、7月には、日出時刻(制御開始時刻)は4時19分位から4時39分位であり、南中時刻(最大値到達時刻)は11時42分位から11時45分位であり、日没時刻(制御終了時刻)は19時06分位から18時50分位である。しかし、同じ山形市でも11月には、日出時刻(制御開始時刻)は6時04分位から6時35分位となり、南中時刻(最大値到達時刻)は11時22分位から11時27分位となり、日没時刻(制御終了時刻)は16時40分位から16時19分位となる。このような地理的位置と月日(季節)の組合せに対応する設定時刻のデータを予め記憶部10に記憶しておき、カレンダー機能と位置指定によって設定時刻が自動的に設定されるようにしてもよい。なお、カレンダー機能は、現在の月日を示す暦日データを自動的に更新し、必要に応じて当該暦日を出力できる暦日管理部をシーケンサ5に設けることで実現できる。また、地理的位置の位置指定は、画面における文字入力又はリストからの選択等、任意の手法によって地理的位置の指定情報を入力できる入力部をシーケンサ5に設けることで実現できる。
【0030】
次に、記憶部10には、最低動作時間(本実施形態では30秒)にわたり、第1制御部12がミスト7を操作するか否かを判断する基礎となる閾値を決定するためのデータが記憶されている。この閾値は、現在飽差と設定飽差の差分と、季節との組合せに応じて適宜に定められており、第2制御部13が出力するPID制御による出力値が、この閾値を越えた場合にのみ、第1制御部12はミスト7を最低動作時間にわたり操作して加湿を行なう。
【0031】
図3(a)は、対象空間の日射量(縦欄)と対象空間の気温(横欄)との組合せによって季節パターン(1) ~(5) を決定するためのデータである。季節パターン(1),(2) は日射量が少なく、気温が低い冬の環境条件を示しており、季節パターン(4),(5) は日射量が多く、気温が高い夏の環境条件を示しており、季節パターン(3) は春や秋の環境条件を示している。
【0032】
図3(b)は、
図3(a)で決定した季節パターン(1) ~(5) と、設定飽差と現在飽差の差との組合せによって決定される閾値(0~300)のデータである。例えば、冬季の季節パターン(1) については、現在飽差と設定飽差の差に応じて閾値が200から300と高めの値となっており、加湿しすぎないようになっている。また、夏季の季節パターン(5) については、気温が高く飽和水蒸気圧が高いが実際には湿度が低いため加湿を促す設定になっている。
【0033】
第1制御部12は、日射センサ3から取得した日射量と、温湿度計2から取得した温度に基づき、記憶部10が有する
図3(a)に示したデータを用いて季節パターンを決定する。さらに、決定した季節パターンと、飽差算出部11が算出した現在飽差と、記憶部10に設定された設定飽差と、記憶部10に設定された
図3(b)に示すデータを用いて、現在飽差の設定飽差に対する差分と当該季節パターンに適合した閾値を算出する。さらに第1制御部12は、第2制御部13がPID演算で算出した出力値と、この閾値を比較し、出力値が閾値を越えた場合に限り、リレー6にON信号を出力し、リレー6を介してミスト7を規定時間(最低動作時間)にわたり操作して加湿を行なう。
【0034】
第2制御部13は、PID演算による出力値が閾値を越えて第1制御部12がミスト7を規定時間(最低動作時間)にわたり動作させた場合に限り、PID演算で得られた出力値の時間分だけ追加的にミスト7を動作させてさらなる加湿を行なう。
【0035】
次に、以上説明した飽差制御装置1を用いて行なう実際の飽差制御について
図4のフロー図及び
図1の構成図を参照して説明する。
図4のフロー図に示す飽差制御のループは、
図2に示す飽差制御装置1の記憶部10に設定飽差や設定時刻等の先に説明した諸値を設定し、制御が開始されて継続している状態を示している。ミスト7がOFFの状態において(S1)、第1制御部12は定期的(例えば10秒に1回)に閾値を算出し(S
2)、PID演算による出力値が閾値を越えた場合(S3、YES)には、制御手段Cがミスト7にON信号を送り最低動作時間の30秒間を必ず駆動して対象空間を加湿する(S4)。PID演算による出力値が閾値を越えない場合(S3、NO)にはミスト7がOFFの状態に戻り(S1)、同様の制御を繰り返す。
【0036】
以上、ステップS2~S4が第1制御部12による制御であり、閾値による制限があるため、現在飽差が設定飽差より小さい場合や、少し大きいだけに過ぎない場合にも、加湿装置7が規定時間の30秒間にもわたって作動して対象空間を過剰に加湿してしまうのを避けることができる。
【0037】
第1制御部12による閾値を用いた制御でミスト7が最低動作時間にわたって駆動された場合には、次に第2制御部13による制御が行なわれる(S5~S7)。まず、第2制御部13は、その時点でPID演算を行い、得られた出力値を再度読み込み(S5)、その出力値に対応した時間だけミスト7をONとする(S6)。例えば、出力値が100であれば、さらに10秒だけミスト7を追加的にONとする。従って、閾値制御による30秒に対して10秒の追加分が加わって合計40秒にわたりミスト7がONとなる。また、出力値が150であれば、さらに15秒だけミスト7を追加的にONとする。従って、閾値制御による30秒に対して15秒の追加分が加わって合計45秒にわたりミスト7がONとなる。
【0038】
第2制御部13による制御において出力値が300であれば、さらに30秒だけミスト7を追加的にONとする。従って、閾値制御による30秒に対して30秒の追加分が加わって合計60秒にわたりミスト7がONとなるが(S6)、この出力値は出力上限値である300と一致するため(S7、YES)、第2制御部13による制御はさらに1サイクル繰り返されることとなる。すなわち、その時点でPID演算を行い、得られた出力値を再度読み込み(S5)、その出力値に対応した時間だけ、ミスト7をさらに追加的にONとする(S6)。2サイクル目の制御で読み込まれた出力値が、100であれば、閾値制御による30秒に対して1回目の追加分の30秒が加わり、さらに2回目の追加分の10秒が加わって合計70秒にわたりミスト7がONとなる。
【0039】
以上、ステップS5~S7が第2制御部13による制御であり、第1制御部12による閾値を用いた制御で最低動作時間につきミスト7の駆動を行なった後で、さらにPID演算による出力値で必要に応じた時間だけ追加的にミスト7をONとすることにより、必要十分な程度の加湿を実現できる。
【0040】
第2制御部13による制御において、出力値が出力上限値と一致しない場合(S7、NO)は、制御手段Cはミスト7を停止させる(S8)。この場合、最低停止時間として設定された30秒間は必ずミスト7の停止を継続させる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の飽差制御装置1によれば、閾値を用いて実行又は不実行が決定される第1制御部12による最低動作時間のミスト7の駆動と、第1制御部12によるミスト7の駆動が実行された後に第2制御部13によって行なわれるPID演算の出力値に応じた追加的なミスト7の駆動とが組合せられているため、設定時刻と設定飽差によって規定される季節に適合した制御パターンに従い、対象空間の飽差を精密に制御することができ、植物の光合成を適正に行なわせることができる。
【0042】
また、飽差制御装置1による制御では、飽差を制御パラメータとし、加湿手段であるミスト7を制御対象としたが、さらに飽差が設定値よりも低い場合に除湿装置9を用いて飽差を速やかに設定値に近付けるようにしてもよい。さらに、CO2 モニタ4からの信号に応じてCO2 発生装置8を適宜に制御することにより、前述した適正な飽差制御による効果と併せて植物の光合成を適正に行なわせる効果をさらに高めることができる。
【0043】
また、本実施形態の飽差制御装置1は、温湿度計2などのセンサ群Sや、ミスト7などの被制御対象機器Mがすでに設置されている農業ハウスにおいて、制御手段の部分のみを本実施形態の制御手段Cに交換することで構成することができる。すなわち農業ハウスに既に設置されている設備に後付けできるため安価である。また、このような既設の設備では、ミストの最低動作時間が例えば30秒といったように定められていて、既設の従来の制御手段による制御が始まって出力値が算出されれば、その値が例え1だとしても、30秒間の噴霧が行なわれてしまう。ところが、本実施形態の飽差制御装置1によれば、制御手段Cの第1制御部12に閾値の制限を設けたため、このような無益なミストの駆動が避けられ、上述したような適正な飽差制御を行なうことができる。
【符号の説明】
【0044】
1…飽差制御装置
2…温湿度計
3…日射センサ
5…シーケンサ
7…加湿装置(ミスト)
10…記憶部
11…飽差算出部
12…第1制御部
13…第2制御部
S…センサ群
M…制御対象機器
C…制御手段