(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】溶液中の物質の吸光度を測定するための方法およびそのための測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/59 20060101AFI20230707BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
(21)【出願番号】P 2019500830
(86)(22)【出願日】2017-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2017065912
(87)【国際公開番号】W WO2018010956
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-10
(32)【優先日】2016-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】サイティバ・スウェーデン・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ホルンクヴィスト,ミカエル・アンダース
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-093945(JP,A)
【文献】特開平05-087733(JP,A)
【文献】特開2007-093410(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0087078(US,A1)
【文献】特開昭51-136472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00- G01N 21/01
G01N 21/17- G01N 21/61
G01J 1/00- G01J 1/04
G01J 1/42
G01J 3/00- G01J 3/52
G01B 11/00- G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定セル(3、23、23’)内溶液中の物質の吸光度を測定するための方法であって、前記方法は、
‐光源(5、25、25’)からの第1の光線(7、27、27’)をビームスプリッタ(9、29、29’)に向けて伝送するステップ(S1)と、
‐前記ビームスプリッタ(9、29、29’)によって、前記第1の光線(7、27、27’)を信号光線(11、31、31’)および参照光線(13、33、33’)に分割するステップ(S3)と、
‐前記信号光線(11、31、31’)を第1の周波数で変調するステップ(S5)と、
‐前記参照光線(13、33、33’)を前記第1の周波数とは異なる第2の周波数で変調するステップ(S7)と、
‐前記信号光線(11、31、31’)が前記測定セル(3、23、23’)を通過するように、前記測定セル(3、23、23’)を設けるステップ(S9)と、
‐検出器(39、39’)で信号を検出するステップ(S11)であって、前記信号は、前記検出器(39、39’)によって検出された前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)の合成信号である、ステップ(S11)と、
‐前記検出器(39、39’)によって検出された前記合成信号から、前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)の強度を再現するために、前記検出器(39、39’)で検出された信号の同期検波を行うステップ(S15)であって、前記同期検波は、前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)に対して行われた前記変調に基づいている、ステップ(S15)と
を含み、
前記信号光線(11、31、31’)を変調するステップ(S5)と前記参照光線(13、33、33’)を変調するステップ(S7)の一方は、前記光源(5、25、25’)のオンオフを制御するステップを含み、前記信号光線(11、31、31’)を変調するステップ(S5)と前記参照光線(13、33、33’)を変調するステップ(S7)の他方は、光路のいずれかに設けられるシャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタを用いて変調を行うステップを含み、
前記ビームスプリッタ(9、29、29’)は、前記第1の光線(7、27、27’)を信号光線(11、31、31’)および参照光線(13、33、33’)に分割する非対称ビームスプリッタ(9、29、29’)であり、前記第1の光線(7、27、27’)の大部分を、前記参照光線(13、33、33’)よりも前記信号光線(11、31、31’)に指向さ
せ、
前記光源(5、25、25’)がオンであり且つ前記シャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタがオンである際の前記合成信号の強度と前記光源(5、25、25’)がオンであり且つ前記シャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタがオフである際の前記合成信号の強度との差を、前記光源(5、25、25’)がオフであり且つ前記シャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタがオンである際の前記合成信号の強度に加算することによって、前記検出器(39、39’)において前記信号光線(11、31、31’)と前記参照光線(13、33、33’)が互いに区別される、方法。
【請求項2】
前記信号光線(11、31、31’)と前記参照光線(13、33、33’)とを、同じ検出器(39、39’)で同時に検出している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信号光線(11、31、31’)と前記参照光線(13、33、33’)とを変調する前記ステップ(S5、S7)は、前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)の両方に、正弦波変調または矩形波変調を施すステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定セル(3、23、23’)はフローセルである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)の両方を同じ検出器(39)によって検出できるように、少なくとも1つの光線方向転換装置(41)を使用して、前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)の一方または両方の方向を転換させるステップをさらに含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
内部の測定セル(3、23、23’)内溶液中の物質の吸光度を測定するための測定装置(1、21、21’)であって、前記測定装置(1、21、21’)は、
‐第1の光線(7、27、27’)を伝送する光源(5、25、25’)と、
‐前記第1の光線(7、27、27’)が、自身によって信号光線(11、31、31’)および参照光線(13、33、33’)に分割されるように設けられたビームスプリッタ(9、29、29’)と、
‐前記信号光線(11、31、31’)が、自身を通過するように配置された前記測定セル(3、23、23’)と、
‐前記信号光線(11、31、31’)を第1の周波数で変調するように構成された第1の信号変調装置(35、35’)と、
‐前記参照光線(13、33、33’)を前記第1の周波数とは異なる第2の周波数で変調するように構成された第2の信号変調装置(37、37’)と、
‐前記信号光線(11、31、31’)が変調されて前記測定セル(3、23、23’)を通過したときに、前記信号光線(11、31、31’)を検出し、また前記参照光線(13、33、33’)が変調されたときに、前記参照光線(13、33、33’)も検出するように構成された検出器(39、39’)であって、前記検出器(39、39’)は、前記検出器(39、39’)によって検出された合成信号から、前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)の強度を再現するために、前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)の合成信号の同期検波を行うように構成された処理装置(43、43’)を備えるか、またはこれに接続されており、前記同期検波は、前記信号光線(11、31、31’)および前記参照光線(13、33、33’)に対して行われた前記変調に基づいている、検出器(39、39’)と
を備え、
前記第1の信号変調装置(35、35’)と前記第2の信号変調装置(37、37’)の一方は、前記光源(5、25、25’)のオンオフを制御するように構成されていて、前記第1の信号変調装置(35、35’)と前記第2の信号変調装置(37、37’)の他方は、光路のいずれかに設けられるシャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタであり、
前記ビームスプリッタ(9、29、29’)は、前記第1の光線(7、27、27’)を信号光線(11、31、31’)および参照光線(13、33、33’)に分割する非対称ビームスプリッタ(9、29、29’)であり、前記第1の光線(7、27、27’)の大部分を、前記参照光線(13、33、33’)よりも前記信号光線(11、31、31’)に指向さ
せ、
前記光源(5、25、25’)がオンであり且つ前記シャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタがオンである際の前記合成信号の強度と前記光源(5、25、25’)がオンであり且つ前記シャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタがオフである際の前記合成信号の強度との差を、前記光源(5、25、25’)がオフであり且つ前記シャッタ、可動ミラー、音叉、または灰色フィルタがオンである際の前記合成信号の強度に加算することによって、前記検出器(39、39’)において前記信号光線(11、31、31’)と前記参照光線(13、33、33’)が互いに区別される、測定装置(1、21、21’)。
【請求項7】
前記参照光線(13、33、33’)および前記信号光線(11、31、31’)を同じ検出器(39、39’)によって検出できるように、前記参照光線(13、33、33’)または前記信号光線(11、31、31’)の方向を転換させるように構成された、少なくとも1つの光線方向転換装置(41)をさらに備える、請求項6に記載の測定装置(1、21、21’)。
【請求項8】
前記測定セル(3、23、23’)はフローセルである、請求項6または7に記載の測定装置(1、21、21’)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の物質の吸光度を測定するための方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの物質は、その化学組成のために紫外線または可視光線を吸収している。物質による光線の吸収は、かかる物質の存在を検出し、その濃度を測定するための基準として、長年にわたり使用されてきた。物質の濃度は、ランベルト・ベールの法則(Beer Lambert Law)を用いて、以下のように求めることができる。
【0003】
A=Ebcここで、
Aは吸光度であり、
EはL mol-1cm-1を単位とするモル吸光係数であり、
bはcmで定義されるサンプルの光路長であり、
cは溶液中の化合物の濃度であり、mol-1で表される。
【0004】
UV領域は、約10nm~400nmの波長光からなるとみなすことができ、180nm~300nmの波長光は「深UV」として知られている。深紫外線(UV)領域で吸光する物質を検出する分析機器のほとんどは、光源として水銀ランプ、重水素ランプまたはキセノンフラッシュランプを使用している。かかる機器の1つの例がフローセルであり、ここでは1または複数のUV吸収物質を含む溶液が、UV光源(たとえば、水銀ランプ)とUV検出器(たとえば、光電子増倍管、光ダイオードまたは光トランジスタ)との間に配置され、検出器に到達する紫外線の強度の変化が、溶液中のUV吸収物質の濃度と関連している。
【0005】
タンパク質、核酸、およびペプチドの検出は、環境科学、生物科学、および化学を含む多くの分野において非常に重要となっている。タンパク質は深UV領域において主に2つの吸光ピークを有し、1つはペプチド結合が吸光する最大約190nmの、強度が非常に高い吸光帯であり、もう1つのピークは、芳香族アミノ酸(たとえば、チロシン、トリプトファン、およびフェニルアラニン)による吸光に起因して、約280nmと強度が低くなっている。
【0006】
国際公開第2007/062800号パンフレットおよび国際公開第2013/178770号パンフレットには、液体サンプル中の物質の濃度を分析するための光源として、紫外線LED(UV LED)を使用することについて記載されている。
【0007】
UV LEDから測定装置への入射光は、検出器に直接供給される参照光線と、サンプルを通過してから検出器に供給される信号光線とに分割される。検出した信号光線は大幅に増幅され、かつ検出した参照光線を増幅したバージョンと比較される。この種の装置にはドリフトに関連する問題が生じる可能性があり、これはなぜなら、検出器の増幅度が高いということは、たとえば温度変化または湿度変化に起因して、チャネル内にわずかに不均等な何らかの性能変化が生じると、測定された吸光信号にドリフトが発生することを意味するからである。流動性サンプル中の経時的な吸光度変化を測定する装置は、静的サンプルに対して短期測定を行う装置と比較して、当然ながら装置内のドリフトに対してはるかに敏感になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2008/087078号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、測定セル内溶液中の物質の吸光度を測定するための、改良された方法および測定装置を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、測定セル内溶液中の物質の吸光度を測定するための、強健かつ信頼性の高い方法および測定装置を提供することである。
【0011】
これは、独立請求項による方法および測定装置において達成される。
【0012】
ここでは、1つの検出器のみを使用して参照光線と信号光線との両方を同時に測定しているが、これは、2つの別個の検出器を使用することによって発生し得るいかなるドリフトも排除されることを意味する。
【0013】
本発明によれば、測定セル内溶液中の物質の吸光度を測定するための方法であって、前記方法は、
-光源からの第1の光線をビームスプリッタに向けて伝送するステップと、
-前記ビームスプリッタによって、前記第1の光線を信号光線および参照光線に分割するステップと、
-前記信号光線を変調するステップと、
-前記参照光線を変調するステップと、
-前記信号光線が前記測定セルを通過するように、前記測定セルを設けるステップと、
-検出器で信号を検出するステップであって、前記信号は、前記検出器によって検出された前記信号光線および前記参照光線の合成信号強度である、ステップと、
-前記検出器によって検出された合成信号から、前記信号光線および前記参照光線の強度を再現するために、前記検出信号の同期検波を行うステップであって、前記同期検波は、前記信号光線および前記参照光線に対して行われた前記変調に基づいている、ステップと
を含む、方法を提供する。
【0014】
また、本発明によれば、内部の測定セル内溶液中の物質の吸光度を測定するための測定装置であって、前記測定装置は、
-第1の光線を伝送する光源と、
-前記第1の光線が、自身によって信号光線および参照光線に分割されるように設けられたビームスプリッタと、
-前記信号光線が、自身を通過するように配置された前記測定セルと、
-前記信号光線を変調するように構成された第1の信号変調装置と、
-前記参照光線を変調するように構成された第2の信号変調装置と、
-前記信号光線が変調されて前記測定セルを通過したときに、前記信号光線を検出し、また前記参照光線が変調されたときに、前記参照光線も検出するように構成された検出器であって、前記検出器は、前記検出器によって検出された合成信号から、前記信号光線および前記参照光線の強度を再現するために、前記検出信号の同期検波を行うように構成された処理装置を備えるか、またはこれに接続されており、前記同期検波は、前記信号光線および前記参照光線に対して行われた前記変調に基づいている、検出器と
を備える、測定装置を提供する。
【0015】
前記信号光線と前記参照光線とを、同じ検出器で同時に検出することができる。
【0016】
これは、前記信号を変調することから可能であり、ここでは流動性サンプル中の経時的な吸光度変化を測定することができる。
【0017】
本発明の一実施形態では、前記信号光線を変調するステップは、前記信号光線を第1の周波数で変調するステップを含み、前記参照光線を変調するステップは、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数で前記参照光線を変調するステップを含む。これにより、2つの信号を検出器内で区別することができる。
【0018】
本発明の一実施形態では、前記信号光線と前記参照光線とを変調するステップは、前記信号光線および前記参照光線の両方に、正弦波変調または矩形波変調を施すステップを含む。
【0019】
本発明の一実施形態では、前記測定セルはフローセルである。
【0020】
本発明の一実施形態では、本方法は、前記信号光線および前記参照光線の両方を同じ検出器によって検出できるように、少なくとも1つの光線方向転換装置を使用して、前記信号光線および前記参照光線の一方または両方の方向を転換させるステップをさらに含む。
【0021】
本発明の一実施形態では、前記信号光線または前記参照光線の一方を変調するステップは、光源を制御するステップを含む。
【0022】
本発明の一実施形態では、前記測定装置は、前記参照光線および前記信号光線を同じ検出器によって検出できるように、前記参照光線または前記信号光線の方向を転換させるように構成された、少なくとも1つの光線方向転換装置をさらに備える。
【0023】
本発明の一実施形態では、前記第1の信号変調装置および前記第2の信号変調装置は、異なる周波数で信号を変調するように構成されている。
【0024】
本発明の一実施形態では、前記第1の信号変調装置は、前記信号光線の光路のいずれかに設けられるチョッパ、シャッタ、可動ミラー、音叉、または調整可能な灰色フィルタである。
【0025】
本発明の一実施形態では、前記第2の信号変調装置は、前記参照光線の光路のいずれかに設けられるチョッパ、シャッタ、可動ミラー、音叉、または調整可能な灰色フィルタである。
【0026】
本発明の一実施形態では、前記第1または第2の信号変調装置のうちの一方は、光源を制御する装置である。
【0027】
本発明の一実施形態では、前記ビームスプリッタは、前記第1の光線を信号光線および参照光線に分割する非対称ビームスプリッタであり、前記第1の光線の大部分を、前記参照光線よりも前記信号光線に指向させている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】従来技術の測定装置を概略的に示した図である。
【
図2a】本発明の一実施形態による測定装置を概略的に示した図である。
【
図2b】本発明の別の実施形態による測定装置を概略的に示した図である。
【
図3】本発明の一実施形態による方法のフローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、測定セル3内に供給された溶液中の物質の吸光度を測定するための、従来技術の測定装置1を概略的に示した図である。測定装置1は、第1の光線7を伝送する光源5を備える。本測定装置は、第1の光線7が、自身によって信号光線11および参照光線13に分割されるように、本測定装置内に設けられたビームスプリッタ9をさらに備える。測定装置1は、信号光線11が、自身に供給された溶液を通過するように配置された測定セル3をさらに備える。測定装置1は、信号光線11が測定セル3を通過したときに、前記信号光線11を検出するように構成された第1の検出器15と、参照光線13を検出するように構成された第2の検出器17とをさらに備える。検出した基準値および信号値から、サンプルの吸光度を式A=log
10(基準値/信号値)によって計算することができる。上述したように、この種の装置で、とりわけ液体クロマトグラフィーのように長く連続的な測定を行う場合には、ドリフトが問題となる。たとえばわずかな温度変化は、2つの異なる検出器のチャネルに不均等に影響を及ぼし、これによってドリフトおよび不正確な測定をもたらす可能性がある。
【0030】
図2aは、本発明の一実施形態による測定装置21を概略的に示した図である。測定装置21は、前記測定装置の測定セル23内に供給された、溶液中の物質の吸光度を測定するように構成されている。測定装置21は、第1の光線27を伝送する光源25を備える。前記光源を、たとえばLEDまたは他の任意の種類の適切なランプとすることができる。本測定装置は、第1の光線27が、自身によって信号光線31および参照光線33に分割されるように設けられたビームスプリッタ29をさらに備える。ビームスプリッタ29を、たとえば半透鏡、または2つの光ファイバを並べて配置したものとすることができる。測定装置21は、信号光線31が、自身に供給された溶液を通過するように配置された測定セル23をさらに備える。測定セル23を、測定されるサンプルを含む静的測定セルとすることができるが、連続測定中にサンプルが流れるフローセルとすることもできる。
【0031】
測定装置21は、信号光線31を変調するように構成された第1の信号変調装置35と、参照光線33を変調するように構成された第2の信号変調装置37とをさらに備える。本実施形態では、第1の信号変調装置35をビームスプリッタ29と測定セル23との間に配置している。しかしながら、これをまた、測定セル23の後方であるが、測定装置21内に設けられた検出器39の前方に配置することもできる。本発明によれば、検出器39は、信号光線31が変調されて測定セル23を通過したときに、前記信号光線31を検出し、また参照光線33が変調されたときに、前記参照光線33を検出するように構成されている。ここに示す実施形態では、検出器39は、それ以上方向転換することなく、信号光線31が自身によって検出されるように設けられている。本実施形態では、代わりに参照光線33を光線方向転換装置41によって方向転換させており、これによって光線方向転換装置41による方向転換と、第2の信号変調装置37による変調とを経た後に、検出器39によって参照光線33が検出されるようにしている。前記光線方向転換装置を鏡とすることができる。
【0032】
ここでは、第2の信号変調装置37を光線方向転換装置41の後方に設けてあるように示しているが、これをビームスプリッタ29と光線方向転換装置41との間に設けることも可能である。当然ながら、代わりに光線方向転換装置41を信号光線の経路内に設けることができ、検出器39を参照光線の経路内、すなわちビームスプリッタ29の直接後方に、参照光線33の方向に設けることもできる。適切な方法で、信号光線と参照光線とを同じ検出器に指向させるために、複数の光線方向転換装置を本測定装置に設けることもできる。光線方向転換装置を全く必要としない別の代替例としては、光源からのわずかに異なる2つの光線を、これら両方を受光するのに十分な大きさを有する検出器に入射させるか、または光ファイバに光線を誘導する例が挙げられる。光ファイバによる代替例を
図2bに示している。以下の詳細な説明を参照されたい。
【0033】
本発明による測定装置では、信号光線31および参照光線33の両方を同じ検出器39によって検出している。検出器39は、前記検出器39によって検出された合成信号から、信号光線31および参照光線33の強度を再現するために、前記検出信号の同期検波を行うように構成された処理装置43を備えるか、またはこれに接続されている。これは、検出器信号に変調信号をそれぞれ乗算し、次いでその結果をローパスフィルタリングすることによって達成される。このようにして、2つの異なる信号を再現し、これらから吸光度を計算することができる。処理装置43を完全にハードウェアから作製するか、完全にソフトウェアから作製するか、またはその2つの組み合わせとすることができる。本測定装置では、信号光線31と参照光線33とを同じ検出器39によって同時に検出することができる。
【0034】
検出器39は、通常光ダイオードと、増幅器と、AD変換器(図示せず)とをさらに備える。また、通常、光源25とビームスプリッタ29との間に光学装置が設けられている。しかしながら、これは図に示していない。この光学装置は、コリメートレンズ、アパーチャ、そして場合によってはフィルタも備えることができる。
【0035】
第1の信号変調装置35および第2の信号変調装置37を、たとえばチョッパ、シャッタ、可動ミラー、音叉、または調整可能な灰色フィルタとすることができる。これらを別々の装置とするか、または本測定装置の設計と、信号光線および参照光線間の距離とが許容するのであれば、これらを同じ装置に設けてもよい。第1の信号変調装置35と第2の信号変調装置37とは、異なる周波数で信号を変調して、これらを検出器において区別できるようにすべきである。これらの光線を変調することにより、設定周波数で振幅変調が生じる。1つの実施例では、参照光線を100Hzから数kHzの範囲内のいずれかの周波数で変調することができ、信号光線を第1の周波数と少なくとも30%異なる周波数で変調している。この周波数を、本装置内の他の周波数やそれらの調波と干渉を起こさせないように選択する必要がある。
【0036】
この振幅変調を、正弦波変調、矩形波変調、または適切な他の任意の波形とすることができる。
【0037】
本発明の別の実施形態では、第1または第2の信号変調装置35、37のうちの一方は、代わりに光源25を制御している装置である。たとえば、特定の周波数で光源25をオンオフするように制御することは、当然ながら信号光線および参照光線の両方に影響を及ぼすが、信号光線または参照光線のいずれかにおいて1つの信号変調装置と連携して行うと、「光線オン」/「変調装置オン」の値と「光線オン」/「変調装置オフ」の値との差を当該信号の「光線オフ」/「変調装置オン」部分にそれぞれ加算する場合には、ここでも検出器内で、これら2つの信号を互いから正しく区別することができる。
【0038】
本発明の一実施形態では、ビームスプリッタ29を、第1の光線27の大部分を参照光線33よりも信号光線31に指向させている非対称ビームスプリッタとすることができる。これは、検出器のダイナミックレンジの大部分をその後信号光線に使用するために、有用となり得る。
【0039】
図2bは、本発明の別の実施形態による測定装置21’を概略的に示した図である。本実施形態では、ビームスプリッタ29’を2つの光ファイバとして設けている。光源25’からの光線である第1の光線27’は、第1の光ファイバ内に伝送される信号光線31’と、第2の光ファイバ内に伝送される参照光線33’とに分割される。信号光線31’は、第1の信号変調装置35’において変調される。信号光線31’は、検出器39’で検出される前に、測定セル23’内の溶液を通過する。参照光線33’は、同じ検出器39’で検出される前に、第2の信号変調装置37’で変調される。本実施形態の詳細の大部分は、上述の実施形態と同じであるため、ここではこれ以上説明しないものとする。
【0040】
図3は、本発明の一実施形態による、測定セル23内溶液中の物質の吸光度を測定するための方法のフローチャートを示した図である。本方法は、ここでも
図2を参照しながら以下に記載するステップを含む。
【0041】
S1:光源25からの第1の光線27をビームスプリッタ29に向けて伝送する。
【0042】
S3:ビームスプリッタ29によって、第1の光線27を信号光線31および参照光線33に分割する。
【0043】
S5:信号光線31を第1の信号変調装置35で変調する。
【0044】
S7:参照光線33を第2の信号変調装置37で変調する。しかしながら、当該構造と、信号光線および参照光線間の距離とが許容するのであれば、第1および第2の信号変調装置35、37を同じ装置に組み込むことができる。
【0045】
本発明の一実施形態では、前記信号光線を変調するステップは、前記信号光線を第1の周波数で変調するステップを含み、前記参照光線を変調するステップは、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数で前記参照光線を変調するステップを含む。また、信号光線および参照光線を変調するときに、前記信号光線および前記参照光線の両方に振幅変調を施す可能性がある。この振幅変調波形を、正弦波、矩形波、または任意の適切な波形とすることができる。
【0046】
S9:信号光線31が自身を通過するように、測定セル23を設ける。
【0047】
S11:検出器39で信号を検出し、前記信号は、検出器39によって検出された信号光線31および参照光線33の合成信号強度である。
【0048】
S15:検出器39によって検出された合成信号から、信号光線31および参照光線33の強度を再現するために、信号光線31および参照光線33に対して行われた前記変調に基づいて、前記検出信号の同期検波を行う。
【0049】
検出器39における信号光線31の検出と、同じ検出器39における参照光線33の検出とを、本方法を用いて同時に行うことができる。
【0050】
一実施形態では、本方法は、信号光線31および参照光線33の両方を同じ検出器39によって検出できるように、少なくとも1つの光線方向転換装置41を使用して、前記信号光線および前記参照光線の一方または両方の方向を転換させるステップをさらに含む。別の代替例としては、上述のように光ファイバを使用する例が挙げられる。
【0051】
サンプルが測定セルを通って流れる用途では、前記測定セルをフローセルと呼んでいる。これは、たとえば流動中の物質の濃度を連続的に測定する必要がある、クロマトグラフィーシステム内に設けられている場合がある。このクロマトグラフィーシステムの例では、タンパク質の濃度をクロマトグラフィーカラムからの容出において測定することができる。このクロマトグラフィーカラムからの溶出物は、本発明による測定装置のフローセルを通って供給される。流動性サンプルで長く連続的な測定を行う状況にあっては、静的サンプルで測定を行う場合と比較して、装置内のドリフトに対してはるかに敏感になる。このため、本発明による方法および測定装置は、フローセル内に供給された溶液中の物質の吸光度を測定するのにとりわけ適している。
【符号の説明】
【0052】
1 測定装置
3 測定セル
5 光源
7 第1の光線
9 ビームスプリッタ
11 信号光線
13 参照光線
15 第1の検出器
17 第2の検出器
21、21’ 測定装置
23、23’ 測定セル
25、25’ 光源
27、27’ 第1の光線
29、29’ ビームスプリッタ
31、31’ 信号光線
33、33’ 参照光線
35、35’ 第1の信号変調装置
37、37’ 第2の信号変調装置
39、39’ 検出器
41 光線方向転換装置
43、43’ 処理装置
S1 ステップ
S3 ステップ
S5 ステップ
S7 ステップ
S9 ステップ
S11 ステップ
S15 ステップ