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特許7308748低い可視光透過率の、吸収体層を有する低E被膜を含む灰色に着色した被覆物品
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  • 特許-低い可視光透過率の、吸収体層を有する低E被膜を含む灰色に着色した被覆物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】低い可視光透過率の、吸収体層を有する低E被膜を含む灰色に着色した被覆物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20230707BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230707BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230707BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20230707BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20230707BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20230707BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
G02B5/26
B32B7/023
B32B9/00 A
B32B17/06
C03C17/36
G02B5/00 A
G02B5/28
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019521741
(86)(22)【出願日】2016-10-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 US2016057437
(87)【国際公開番号】W WO2018075005
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2019-09-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】517413513
【氏名又は名称】ガーディアン・グラス・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】GUARDIAN GLASS, LLC
【住所又は居所原語表記】2300 Harmon Road, Auburn Hills, MI 48326-1714 United States of America
(73)【特許権者】
【識別番号】519142594
【氏名又は名称】ガーディアン グラス マネージメント サーヴィシーズ ダブリューエルエル
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ビスワス・アリトラ
(72)【発明者】
【氏名】ボイス・ブレント
(72)【発明者】
【氏名】チュウ・アレン
(72)【発明者】
【氏名】リングル・フィリップ・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ロード・ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ナイドゥ・ムニスワミ
(72)【発明者】
【氏名】スワミナイドゥ・クリシュナ
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】川口 聖司
【審判官】清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-522677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0261442(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0068447(US,A1)
【文献】特表2015-532256(JP,A)
【文献】国際公開第2015/023303(WO,A1)
【文献】特表2016-532626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
C03C 15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板によって支持され、ガラス側反射性灰色着色を有する被膜を含む被覆物品であって、前記被膜が、
銀を含む第1及び第2の赤外線(IR)反射層であって、前記第1のIR反射層は、前記第2のIR反射層よりも前記ガラス基板の近くに配置された、第1及び第2のIR反射層と、
銀を含む前記第1のIR反射層の上に直接接触して配置された第1の接触層と、
前記第1の接触層の上に直接接触して配置された窒化ケイ素を含む誘電体層であって、窒化ケイ素を含む前記誘電体層は、Nb及びZrを含む分割吸収体層によって分割され、Nb及びZrを含む前記分割吸収体層は、窒化ケイ素を含む前記誘電体層の第1の部分と窒化ケイ素を含む前記誘電体層の第2の部分との間に接触して配置された、誘電体層と、
窒化ケイ素を含む前記誘電体層の上に配置された第2の接触層と、
前記第2の接触層の上に直接接触して配置された銀を含む前記第2のIR反射層と、
前記第2のIR反射層の上に直接接触して配置された第3の接触層と、
前記第3の接触層の上に配置された窒化ケイ素を含む別の誘電体層と、を含み、
前記被覆物品は、22~39%の可視光透過率及び10~24%のガラス側可視光反射率を有し、
前記被覆物品は、-4.0~+5.0のガラス側反射a*値及び-10.0~+2.0のガラス側反射b*値を有するようにガラス側反射性灰色着色を有し、
前記分割吸収体層が、NbZrOxyからなる、被覆物品。
【請求項2】
前記第1及び第3の接触層が、Ni及び/又はCrを含む、請求項に記載の被覆物品。
【請求項3】
前記第2の接触層が、Ni及びCrを含む、請求項1又は2に記載の被覆物品。
【請求項4】
前記第1のIR反射層の下に直接接触して配置されたNiCrを含む接触層をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項5】
前記被覆物品が、-3.5~+1.0のガラス側反射a*値及び-9.0~+1.0のガラス側反射b*値を有するように、ガラス側反射性灰色着色を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項6】
前記被覆物品が、-2.5~0のガラス側反射a*値及び-7.0~-1.0のガラス側反射b*値を有するように、ガラス側反射性灰色着色を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項7】
前記被覆物品が、-8.0~-1.0の透過a*値及び-8.0~+1.0の透過b*値を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項8】
前記被膜が、7.0Ω/□以下のシート抵抗を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項9】
銀を含む前記第1のIR反射層の厚さが、銀を含む前記第2のIR反射層の厚さと同じ厚さ+/-10%である、請求項1~のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項10】
前記分割吸収体層が、Zrよりも多くのNbを含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項11】
前記分割吸収体層が、3~30%の酸素(原子%)を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項12】
前記分割吸収体層の金属含有量が、70~95%のNbである、請求項1~1のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項13】
前記ガラス基板と前記第1のIR反射層との間に配置された窒化ケイ素を含む基層をさらに含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項14】
前記分割吸収体層が、15~100Åの厚さを有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項15】
前記分割吸収体層が、20~60Åの厚さを有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項16】
窒化ケイ素を含む前記誘電体層の前記第1及び第2の部分が、同じ厚さ±20%である、請求項1~1のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項17】
前記分割吸収体層が、銀を含む前記IR反射層の両方よりも薄い、請求項1~1のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項18】
窒化ケイ素を含む前記別の誘電体層の上に直接接触して配置されたジルコニウム酸化物を含むオーバーコート層をさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項19】
前記第1の接触層が、NiCrを含み、実質的に金属性又は金属性であり、5%(原子%)以下の酸素を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項20】
前記第1、第2、及び第3の接触層が、NiCrを含み、実質的に金属性又は金属性であり、5%(原子%)以下の酸素を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項21】
前記被覆物品が、熱強化処理されている、請求項1~2のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項22】
前記被覆物品が、12~20%のガラス側可視光反射率を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項23】
前記被覆物品が、-3~+7の膜側反射b*値を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の被覆物品。
【請求項24】
請求項1~2のいずれか一項に記載の被覆物品と、前記被覆物品に結合された別のガラス基板とを含み、0.28以下のSF値及び0.29以下のSHGC値を有するIG窓ユニット。
【請求項25】
請求項1~2のいずれか一項に記載の被覆物品と、前記被覆物品に結合された別のガラス基板とを含み、0.25以下のSF値及び0.25以下のSHGC値を有するIG窓ユニット。
【請求項26】
請求項1~2のいずれか一項に記載の被覆物品と、前記被覆物品に結合された別のガラス基板とを含み、0.23以下のSF値及び0.23以下のSHGC値を有するIG窓ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低放射率(低E)の被膜を含む被覆物品に関する。特定の例示的実施形態では、低E被膜は、基板(例えば、ガラス基板)上に設けられているものであり、接触層(例えば、NiCr系層)と、窒化ケイ素を含む層と、酸化物及び/又は窒化物であってもよいニオブジルコニウムのような材料の又はそれを含む吸収体層(本明細書中では「分割吸収体層」ともいう)とにより離間された少なくとも第1及び第2の赤外線(IR)反射層(例えば、銀系層)を含む。吸収体層は、被覆物品がガラス側/外側の反射性灰色着色を実現できるように設計されている。特定の例示的実施形態では、(一体型形態及び/又はIG窓ユニット形態の)被覆物品は、低い可視光透過率(例えば、20~45%、より好ましくは22~39%、最も好ましくは25~37%)を有する。特定の例示的実施形態では、被覆物品は、熱処理(例えば、熱強化処理及び/又は熱曲げ)されてもよい。本発明の特定の例示的実施形態による被覆物品は、断熱ガラス(IG)窓ユニット、車両用窓、他の種類の窓、又は任意の他の適切な用途に使用してもよい。
【背景技術】
【0002】
被覆物品は、断熱ガラス(IG)窓ユニット、車両用窓などの窓の用途に使用することが当技術分野で知られている。特定の場合には、強化、曲げなどの目的のために、そのような被覆物品を熱処理(例えば、熱強化処理、熱曲げ及び/又は半強化処理)することが好ましいことが知られている。被覆物品の熱処理(HT)は、典型的には少なくとも580℃、より好ましくは少なくとも約600℃、さらにより好ましくは少なくとも620℃の温度の使用を必要とする。そのような高温(例えば、5~10分間以上)処理は、被膜を破壊及び/又は劣化させるか、又は予測不可能に変化させることがよくある。従って、必要に応じて、被膜を著しく損傷させない予測可能な状態に、被膜がそのような熱処理(例えば、熱強化処理)に耐えることができることが好ましい。
【0003】
特定の状況では、被覆物品の設計者は、好ましい可視光透過率、所望の色、低放射率(又は放射度)、及び低シート抵抗(R)の組み合わせを目指している。低放射率(低E)及び低シート抵抗の特徴により、このような被覆物品は、例えば車両又は建物の内部の好ましくない加熱を低減するように相当量のIR放射を遮断することを可能にする。
【0004】
灰色着色は、場合によっては、一体型窓、断熱ガラス(IG)窓ユニット、及び/又は他の適切な用途に関連して望まれている。一体型に及び/又はIG窓ユニットで測定される場合、好ましい灰色着色(例えば、ガラス側又は外側の反射性)は、-10.0~+2.0、より好ましくは-9.0~+1.0、最も好ましくは-7.0~-1.0のb値と組み合わせて、かつ10~24%、より好ましくは12~20%、最も好ましくは13~19%のガラス側可視光反射率(RY又はROUT)と、20~45%、より好ましくは22~39%、最も好ましくは25~37%の可視光透過率(TY又はTVis)と組み合わせて、a値が-4.0~+5.0、より好ましくは-3.5~+1.0であり、最も好ましくは-2.5~0であることを特徴とすることができる。本明細書における光学値(例えば、a、b、TVis、RY、RFILM)は、光源C、2度、規格に従って測定されることに留意すべきである。
【0005】
いくつかの用途において、特に温暖な天気の気候では、低い太陽因子(SF)及び低い太陽熱利得係数(SHGC)値もまた望ましい。EN規格410に従って算出された太陽因子(SF)は、窓ガラスを通って部屋等に入る全エネルギーと、入射太陽エネルギーとの間の比に関する。従って、より低いSF値は、窓/窓ガラスによって保護された部屋などの好ましくない加熱に対する良好な日射保護を示すことが理解されるであろう。低いSF値とは、暑い周囲条件下で、夏季に部屋をかなり涼しく保つことができる被覆物品(例えば、IG窓ユニット)を示す。従って、暑い環境下では低いSF値が好ましい場合がある。IG窓ユニットのような被覆物品には、低いSF値が好ましい場合があるが、より低いSF値を達成するには着色を犠牲することもある。IG窓ユニットなどのような被覆物品の低いSF値、許容できる可視光透過率、及び好ましいガラス側反射性着色の組み合わせを達成することは、場合によっては好ましいが、困難である。SF(G-因子; EN410-673 2011)及びSHGC(NFRC-2001)値は、全スペクトル(T、Rg及びRi)から算出され、典型的にはPerkin Elmer 1050のような分光光度計を使用して測定される。SF測定値は一体型被覆ガラスで行われ、このような算出値は、一体型、IG及び積層用途に適用可能である。
【0006】
特許文献1は、いくつかの異なる被膜を開示している。特許文献1の実施例1、4及び5([0026]段落、4頁)は、ガラス/SiN/NiCrN/SiN/NiCrN/SiNである。しかし、これらの実施例は、40~75Ω/□の好ましくない高いシート抵抗値、及び好ましくないガラス側反射性緑色又は青銅色の着色を有する。残念なことに、特許文献1の全ての実施例は、40~75Ω/□の好ましくないほど高いシート抵抗値、及び好ましくないほど高いSF及びSHGC値を有する。
【0007】
参照により本明細書に組み込まれる特許文献2は、銀系IR反射層の下に酸化亜鉛(ZnO)接触層を使用し、下部銀(Ag)系IR反射層の上にNiCrOの接触層とそれに続く中央酸化錫(SnO)誘電体層を使用する低E被膜を開示する。銀IR反射層の下のZnO接触層は、銀の成長のために良好な構造特性を提供するが、ZnOは、特定の場合において、被膜の化学的、環境的及び機械的耐久性を低下させることが分かった。さらに、厚いSnO誘電体層は、熱処理時の応力及び微結晶化を示し、これはSnOとZnOとAgとの間の粗い界面を引き起こして、耐久性を低下しかつ透過着色に影響を及ぼす可能性があることが分かった。
【0008】
特許文献3は、SiN/NiCr/Ag/NiCr/SiN/NiCr/Ag/NiCr/SiNの層積層体を有する低E被膜を開示する。しかし、特許文献3の被覆物品は、少なくとも63%の好ましくない高い可視光透過率を有する。特許文献3(第3欄、第12~15行)は、70%未満(一体型被覆物品について)及び63%未満(IG窓ユニットについて)の可視光透過率が好ましくないことを教示する。従って、特許文献3は、63%未満の可視光透過率を有する被覆物品から直接離れていることを教示する。さらに、特許文献4に大部分説明されているように、特許文献3の被覆物品は、熱処理の際に、シート抵抗(R)が約3~5から10をはるかに超えるまで上昇するため、少なくとも合理的に熱処理可能ではない。
【0009】
特許文献5は、SiN/NiCr/Ag/NiCr/SiN/NiCr/Ag/NiCr/SiN/ZrOの層積層体を有する低E被膜を開示する。しかし、この層積層体の耐久性を改良することができることが分かった。さらに、特許文献5(即ち、実施例1~3)に記載された例示的被覆物品は、47%を超える好ましくないほど高可視光透過率を有し、少なくとも10%のガラス側/外側の可視光反射率(RY)と共に、好ましいガラス側/外側の灰色着色を満たすことができないことが多い。従って、特許文献5は、耐久性、可視光透過率、着色、及び/又はガラス側可視光反射率のうちの1つ以上について改善の余地がある。
【0010】
従って、一体型に及び/又はIG窓ユニットで測定される場合、良好な耐久性、低シート抵抗、低い可視光透過率、並びに低いSF及び/又はSHGC値と組み合わせて、ガラス側反射性灰色着色を達成できれば好ましいであろう。2つのペイン(pane)を有する典型的な従来のIG窓ユニットは、約0.70のSHGC値を有することに留意すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2012/0177899号明細書
【文献】米国特許第7,521,096号明細書
【文献】米国特許第5,557,462号明細書
【文献】米国特許第8,173,263号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0185660号明細書
【文献】米国特許出願公開第2004/0005467号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の例示的実施形態は、低放射率(低E)被膜を含む被覆物品に関する。特定の例示的実施形態では、低E被膜は、基板(例えば、ガラス基板)上に設けられているものであり、接触層(例えば、NiCr系層)と、窒化ケイ素のような材料の又はそれを含む誘電体層と、酸化物(例えば、NbZrO)及び/又は窒化物(例えば、NbZrO)であってもよいニオブジルコニウムのような材料の又はそれを含む吸収体層とにより離間された少なくとも第1及び第2の赤外線(IR)反射層(例えば、銀系層)を含む。酸化される場合には、亜酸化物(部分酸化物)であることが好ましく、窒化される場合には、亜窒化物(かなり少量の窒素を含む部分窒化物)であることが好ましい吸収体層の追加は、耐久性を高めることが見出され、好ましいガラス側/外側の反射性灰色着色、低い可視光透過率、好ましいガラス側反射率値、好ましい透過着色及びより好ましい膜側反射b値、並びに低いSF及びSHGC値を提供するために利用できる。特定の例示的実施形態では、(一体型形態及び/又はIG窓ユニット形態の)被覆物品は、低い可視光透過率(例えば、20~45%、より好ましくは22~39%、最も好ましくは25~37%)を有する。特定の例示的実施形態では、被覆物品は熱処理(例えば、熱強化処理及び/又は熱曲げ)されてもよい。本発明の特定の例示的実施形態による被覆物品は、断熱ガラス(IG)窓ユニット、車両用窓、他の種類の窓、又は任意の他の適切な用途に使用してもよい。
【0013】
本発明の特定の例示的実施形態では、ガラス基板によって支持され、ガラス側反射性灰色着色を有する被膜を含む被覆物品が提供され、該被膜は、銀を含む第1及び第2の赤外線(IR)反射層であって、第1のIR反射層は、第2のIR反射層よりもガラス基板の近くに配置された、第1及び第2のIR反射層と、銀を含む第1のIR反射層の上に直接接触して配置された第1の接触層と、第1の接触層の上に直接接触して配置された窒化ケイ素を含む誘電体層であって、窒化ケイ素を含む誘電体層は、Nb及びZrを含む分割吸収体層によって分割され、Nb及びZrを含む分割吸収体層は、窒化ケイ素を含む誘電体層の第1の部分と窒化ケイ素を含む誘電体層の第2の部分との間に接触して配置された、誘電体層と、窒化ケイ素を含む層の上に配置された第2の接触層と、第2の接触層の上に直接接触して配置された銀を含む第2のIR反射層と、第2のIR反射層の上に直接接触して配置された第3の接触層と、第3の接触層の上に配置された窒化ケイ素を含む別の誘電体層と、を含み、被覆物品は、20~45%の可視光透過率及び10~24%のガラス側可視光反射率を有し、被覆物品は、-4.0~+5.0のガラス側反射a値及び-10.0~+2.0のガラス側反射b値を有するように、ガラス側反射性灰色着色を有する。
【0014】
本発明の特定の例示的実施形態では、ガラス基板によって支持された被膜を含む被覆物品が提供され、該被膜は、銀を含む第1及び第2の赤外線(IR)反射層であって、第1のIR反射層は、第2のIR反射層よりもガラス基板の近くに配置された、第1及び第2のIR反射層と、銀を含む第1のIR反射層の上に直接接触して配置された第1の接触層と、第1の接触層の上に直接接触して配置された窒化ケイ素を含む誘電体層であって、窒化ケイ素を含む誘電体層は、NbZrOを含む分割層によって分割され、NbZrOを含む分割層は、窒化ケイ素を含む誘電体層の第1の部分と窒化ケイ素を含む誘電体層の第2の部分との間に接触して配置された、誘電体層と、窒化ケイ素を含む層の上に配置された第2の接触層と、第2の接触層の上に直接接触して配置された銀を含む第2のIR反射層と、第2のIR反射層の上に直接接触して配置された第3の接触層と、を含み、被覆物品は、20~45%の可視光透過率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の例示的実施形態による被覆物品の断面図である。
図2】本発明の例示的実施形態によるIG窓ユニット内に設けられた図1の被覆物品を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書の被覆物品は、IG窓ユニット、(例えば、車両又は建築用途に使用するための)積層窓ユニット、車両用窓、一体型建築窓、住宅用窓、及び/又は単一又は複数のガラス基板を含む他の任意の適切な用途に使用されてもよい。
【0017】
本発明の特定の実施形態は、低放射率(低E)被膜30を含む被覆物品に関する。特定の実施形態では、低E被膜30は、基板(例えば、ガラス基板)1の上に(直接的又は間接的に)設けられているものであり、接触層(例えば、NiCr系層)11、17と、窒化ケイ素のような材料の又はそれを含む誘電体層14と、化学量論的の酸化物(例えば、NbZrO)及び/又は窒化物(例えば、NbZrO)であってもよいニオブジルコニウムのような材料の又はそれを含む吸収体層15とにより離間された少なくとも第1及び第2の赤外線(IR)反射層(例えば、銀系層)9、19を含む。酸化される場合には、亜酸化物(部分酸化物)であることが好ましく、窒化される場合には、亜窒化物(かなり少量の窒素を含む部分窒化物)であることが好ましい吸収体層15の追加は、耐久性を高めることが見出され、好ましいガラス側/外側の反射性灰色着色、低い可視光透過率、好ましいガラス側反射率値、好ましい透過着色及びより好ましい膜側反射b値、並びに低いSF及びSHGC値を提供するために利用できる。従って、吸収体層15は、好ましい屋内及び屋外の透過性着色及び/又は反射性着色と組み合わせて許容可能な熱性能を有利に提供することが分かった。特定の例示的実施形態では、(一体型形態及び/又はIG窓ユニット形態の)被覆物品は、低い可視光透過率(例えば、20~45%、より好ましくは22~39%、最も好ましくは25~37%)を有する。特定の例示的実施形態では、被覆物品は熱処理(例えば、熱強化処理及び/又は熱曲げ)されてもよい。本発明の例示的実施形態において、断熱ガラス(IG)窓ユニットが2つのガラス基板を有する場合、その被覆物品は、0.28以下(より好ましくは0.25以下、最も好ましくは0.23以下)のSF値、及び/又は0.29以下(より好ましくは0.25以下、最も好ましくは0.23以下)のSHGC値を有する。従って、そのような被膜は、必要に応じて改善された色制御及び/又は色範囲、良好な耐久性及び好ましい可視光透過率値、並びに暖かい環境下で部屋を冷たく保つ能力を示す、好ましい低いSF及び/又はSHGC値を提供する。
【0018】
本明細書で使用される「熱処理」及び「熱処理すること」という用語は、ガラス含有物品の熱強化、熱曲げ、及び/又は半強化を達成するために十分な温度に物品を加熱することを意味する。この定義は、例えば強化、曲げ、及び/又は半強化を可能にするのに十分な期間の間、オーブン又は炉内で少なくとも約580℃、より好ましくは少なくとも約600℃の温度で被覆物品を加熱することを含む。特定の場合において、熱処理は、少なくとも約4又は5分間であってもよい。被覆物品は、本発明の異なる実施形態では、熱処理されても、又は熱処理されなくてもよい。
【0019】
本発明の特定の例示的実施形態では、被膜が2つの銀積層体を含む。本発明の特定の例示的実施形態では、例えば、図1を参照すると、ガラス基板によって支持された被膜を含む被覆物品が提供され、該被膜は、銀を含むか又は本質的に銀からなる第1の及び第2のIR反射層9及び19であって、第1のIR反射層9が、第2のIR反射層19よりもガラス基板1に近く配置された、IR反射層と、銀を含む第1のIR反射層9の下に直接接触して配置されたNiCrを含む第1の接触層7と、銀を含む第1のIR反射層9の上に直接接触して配置された第2の接触層11と、NiCrを含む第2の接触層11の上に直接接触して配置された窒化ケイ素を含む誘電体層14(層14は下層部分14a及び上層部分14bからなる)であって、窒化ケイ素を含む誘電体層14は、亜酸化物及び/又は亜窒化物であってもよいニオブジルコニウムの又はそれを含む吸収体層15によって分割され、吸収体層15は、窒化ケイ素を含む誘電体層の下部14aと窒化ケイ素を含む誘電体層の上部14bとの間に接触して配置された、誘電体層14と、窒化ケイ素を含む層14の上部14bの上に直接接触して配置されたNiCrを含む第3の接触層17と、NiCrを含む第3の接触層17の上に直接接触して配置された銀を含む第2のIR反射層19と、第2のIR反射層19の上に直接接触して配置されたNiCrを含む第4の接触層21と、を含む。銀を含む第1及び第2のIR反射層9及び19は、本発明の特定の例示的実施形態において、実質的に同じ厚さ(同じ厚さ±10%)であってもよく、これは、驚くべきことに、低い可視光透過率及び他の好ましい光学的特性及び/又は太陽光特性と組み合わせて達成されるべき好ましいガラス側/外側の反射性灰色着色をもたらすことが見出された。窒化ケイ素系層14を2つの均衡な部分又は不均衡な部分に分割する、吸収体層15を設けることにより、耐久性が向上することが分かった。図1に示されるように、被膜30は、窒化ケイ素の又はそれを含む3つの誘電体層3、14及び24を含んでもよい。さらに、被膜30は、特定の例示的実施形態において、ジルコニウム酸化物及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はそれらを含む層(例えば、オーバーコート)27を含んでもよい。特定の例示的実施形態では、ジルコニウム酸化物及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はそれらを含むこの層27は、被膜中に銀を含むIR反射層9、19の一方又は両方よりも薄い。本発明の特定の例示的実施形態では、銀を含むIR反射層9及び19は、各々、ジルコニウム酸化物及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はそれらを含む層27の厚さの少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍である。本発明の特定の例示的実施形態では、被膜は、銀などの又はそれを含む2つのIR反射層9、19のみを含む。
【0020】
光学特性及び熱特性と共に、低シート抵抗及び好ましい光学/太陽光の特徴と組み合わせて好ましいガラス側/外側の灰色着色を提供しかつ耐久性を高めるために、本発明の特定の例示的実施形態による被覆物品は、ニオブジルコニウム含む吸収体層15によって分割された窒化ケイ素の又はそれを含む中央誘電体層14を有し、下部接触層7、17は、(ZnOとは対照的に)NiCrを基づいている。層7、11、17及び/又は21に金属性又は実質的に金属性のNiCr(場合によっては部分的に窒化されたもの)を使用することにより、(銀の下にZnOの下部接触層及び/又は銀の上に高度に酸化されたNiCrの上部接触層を使用することと比較して)化学的、機械的及び環境的耐久性が改善されることが分かった。しかし、代替実施形態では、依然として、ZnOが使用されてもよい。また、被覆されたままの状態と熱処理状態の両方で非晶質であるように、非晶質状態で窒化ケイ素含有層14をスパッタ蒸着することは、被膜の全体的な安定性を助けることが分かった。例えば、特許文献2の被膜は、5%HCl試験(65℃、1時間)に除去されるであろうが、本明細書中の実施例及び図1に示される被膜は、このHCl試験に耐えるであろう。そして高温高湿環境下では、2日間暴露された特許文献2の被膜よりも、10日間暴露された本明細書中の実施例及び図1の被膜に対する損傷が少ない。そして、「レンガ洗浄(brick wash)」に使用されるもののような高腐食性化学物質に関しては、耐食性は、特定の例示のIG及び積層実施形態において、縁部除去(edge deletion)が行われる必要がないようなものである。同様に、機械的摩耗試験、熱サイクル試験及び塩水噴霧試験について、本明細書の例示的被膜は、特許文献1のものよりも優れていることが分かった。
【0021】
図1のような本発明の特定の例示的実施形態では、複数のIR反射層(例えば、2つの離間した銀系層)を有する熱処理又は非熱処理の被覆物品は、7.0以下(より好ましくは6.0以下、さらにより好ましくは5.0以下)のシート抵抗(R)を実現することができる。本明細書で使用される「熱処理」及び「熱処理すること」という用語は、ガラス含有物品の熱強化、熱曲げ、及び/又は半強化を達成するために十分な温度に物品を加熱することを意味する。この定義は、例えば、強化、曲げ、及び/又は半強化を可能にするのに十分な期間の間、オーブン又は炉内で少なくとも約580℃、より好ましくは少なくとも約600℃の温度で被覆物品を加熱することを含む。特定の場合において、熱処理は、少なくとも約4又は5分間であってもよい。被覆物品は、本発明の異なる実施形態では、熱処理されても、又は熱処理なくてもよい。
【0022】
図1は、本発明の例示的で非限定的な実施形態による被覆物品の側面断面図である。被覆物品は、基板1(例えば、厚さ約1.0~10.0mm、より好ましくは約1.0mm~3.5mmの透明、緑色、青銅色、又は青緑色のガラス基板)と、直接的又は間接的に基板1の上に設けられた低E被膜(又は層系)30とを含む。被膜(又は層系)30は、例えば、Siであっても、又は曇り低減のためのSiリッチ型窒化ケイ素、又は本発明の異なる実施形態における任意の他の適切な化学量論的窒化ケイ素であってもよい下部誘電体の窒化ケイ素層3と、下部接触層7(これは下部IR反射層9と接触する)と、第1の導電性、好ましくは金属性又は実質的に金属性の赤外線(IR)反射層9と、上部接触層11(これはIR反射層9と接触する)と、吸収体層15によって2つの部分14a、14bに分割される誘電体の窒化ケイ素系及び/又はそれを含む層14と、下部接触層17(これはIR反射層19と接触する)と、第2の導電性、好ましくは金属性又は実質的に金属性のIR反射層19と、上部接触層21(これは層19と接触する)と、Siであっても、又は曇り低減のためのSiリッチ型窒化ケイ素、又は本発明の異なる実施形態における任意の他の適切な化学量論的窒化ケイ素であってもよい誘電体窒化ケイ素層24と、ジルコニウム酸化物(例えば、ZrO)及び/又は酸窒化ジルコニウムのような材料の又はそれを含むオーバーコート層27とを含む。「接触」層7、11、17及び21は各々、IR反射層(例えば、Agに基づく層)と接触する。前述の層3~27は、ガラス又はプラスチック基板1の上に設けられた低E(即ち、低放射率)被膜30を構成する。本発明の特定の例示的実施形態では、層3~27は基板1の上にスパッタ蒸着され、各層は、必要に応じて、1つ以上のターゲットを使用して真空中でスパッタ蒸着されてもよい(スパッタリングターゲットはセラミック又は金属性であってもよい)。金属層又は実質的に金属層(例えば、層7、9、11、17、19及び21)は、アルゴンガスを含有する雰囲気中でスパッタリングされてもよく、一方、窒化層(例えば、層3、7、11、14、17、21及び/又は24)は、窒素とアルゴンガスとの混合物を含む雰囲気中でスパッタリングされてもよい。吸収体層15は、アルゴン(Ar)と少量の酸素(及び場合によっては窒素)ガスとの混合物を有する雰囲気中で、NbZrターゲットからスパッタ蒸着されることが好ましい。本発明の異なる例示的実施形態では、接触層7、11、17、21は、窒化物であっても、窒化物でなくてもよい。
【0023】
被覆物品は、一体型の場合には、図1に示されるように、1つのガラス基板1のみを含む。しかし、本明細書における一体型の被覆物品は、積層車両フロントガラス、IG窓ユニット等のような装置に使用されてもよい。IG窓ユニットに関しては、IG窓ユニットは、2つの離間したガラス基板を含んでもよい。例示的なIG窓ユニットは、例えば、その開示が参照により本明細書に組み込まれる特許文献6に図示及び説明されている。図2は、間隙が間に画定されているように、スペーサ、シール材40等を介して別のガラス基板2に結合された図1に示される被覆ガラス基板1を含む例示的なIG窓ユニットを示す。IG窓ユニットの実施形態における基板間のこの間隙は、特定の場合にはアルゴン(Ar)のようなガスで充填されてもよい。例示的なIGユニットは、特定の場合には、艶消しガラスであり、それぞれの厚さ約3~7mm(例えば、6mm)の一対の離間した透明ガラス基板を含んでもよく(そのうちの1つは、本明細書では、特定の場合に被膜30で被覆される)、基板間の間隙は、約5~30mm、より好ましくは約10~20mm、最も好ましくは約16mmであってもよい。特定の例の場合において、低E被膜30は、間隙に面する基板のいずれかの内面に設けられてもよい(被膜は、図2において、間隙に面する基板1の内主面に示されているが、その代わりに間隙に面する基板2の内主面上にあってもよい)。基板1又は基板2のいずれかが、建物の外部におけるIG窓ユニットの最も外側の基板であってもよい(例えば、図2において、基板1は建物の外部に最も近い基板であり、被膜30は、IG窓ユニットの第2表面に設けられる)。図2は、(ガラス側の反射性着色が建物の外部から見られるように)IG窓ユニットの第2表面上の被膜30を示しているが、他の実施形態では、ガラス側反射性着色が建物の内部から見られるように被膜30がIG窓ユニットの第3表面の上に設けられてもよい。
【0024】
本発明の特定の例示的実施形態では、接触層7、11、17、21のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つ全てが、NiCr(Ni:Crの任意の適切な比)からなるか又はそれらを含んでもよく、窒化物(NiCrN)であっても、窒化物でなくてもよい。特定の例示的実施形態では、これらのNiCr含有層7、11、17、21のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つ全てが実質的に又は全体的に非酸化物である。特定の例示的実施形態では、層7、11、17及び21は全て金属性NiCr又は実質的に金属性NiCrであってもよい(但し、微量の他の元素が存在してもよい)。特定の例示的実施形態では、NiCr系層7、11、17、21のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つ全てが、0~10%の酸素、より好ましくは0~5%の酸素、最も好ましくは0~2%の酸素(原子%)を含んでもよい。特定の例示的実施形態では、これらの層7、11、17、21のうちの1、2、3、又は4つ全てが、0~20%の窒素、より好ましくは1~15%の窒素、最も好ましくは約1~12%の窒素(原子%)を含有してもよい。NiCr系層7、11、17及び/又は21は、ステンレス鋼、Moなどの他の材料でドープされてもドープされなくてもよい。銀系IR反射層9、19の下にNiCr系接触層7及び/又は17を使用することにより、(層7及び17がZnOの代わりにであった場合と比較して)被覆物品の耐久性が向上される。
【0025】
本発明の特定の実施形態では、誘電体層3、14(14a及び14bを含む)、及び24は、窒化ケイ素からなるか、又はそれを含んでもよい。窒化ケイ素層3、14及び24は、とりわけ、被覆物品の熱処理性を改善し、そして例えば、熱強化処理などの任意の熱処理中に他の層を保護し得る。本発明の異なる実施形態では、層3、14、24の窒化ケイ素層のうちの1つ以上は、化学量論的タイプ(即ち、Si)であってもよいか、又は本発明の異なる実施形態におけるSiリッチ型窒化ケイ素であってもよい。Siリッチ型窒化ケイ素含有層3及び/又は14中に遊離Siが存在することにより、例えば、熱処理中にガラス1から外側に移動するナトリウム(Na)などの特定の原子が、銀に到達しそして銀を損傷することがある前に、Siリッチ型窒化ケイ素含有層によってより効率的に停止されることができる。従って、本発明の特定の例示的実施形態では、Siリッチ型Siは、熱処理中に銀層に与えられる損傷の量を減らすことができ、それによってシート抵抗(R)を満足のいく方法で減少させるか又は略同じままにすることを可能にすると考えられる。さらに、層3、14及び/又は24中のSiリッチ型Siは、本発明の特定の例示的な任意の実施形態において、熱処理中に銀及び/又はNiCrに与えられる損傷(例えば、酸化)の量を減らすことができると考えられる。特定の例示的実施形態では、Siリッチ型窒化ケイ素が使用されるとき、蒸着されるSiリッチ型窒化ケイ素層(3、14、及び/又は24)は、Si層を特徴とすることができ、ここで、x/yは、0.76~1.5であり、好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.82~1.2である。本明細書で論じられる窒化ケイ素層のいずれか及び/又は全ては、本発明の特定の例示的実施形態において、ステンレス鋼又はアルミニウムなどの他の材料でドープしてもよい。例えば、本明細書で論じる窒化ケイ素層3、14、24のいずれか及び/又は全ては、本発明の特定の例示的実施形態において、任意に約0~15%のアルミニウム、より好ましくは約1~10%のアルミニウムを含んでもよい。本発明の特定の実施形態では、層3、14、24の窒化ケイ素は、アルゴン及び窒素ガスを有する雰囲気中で、Si又はSiAlのターゲットをスパッタリングすることによって蒸着されてもよい。特定の場合には、少量の酸素を窒化ケイ素層3、14、24のいずれか又は全てに供給してもよい。
【0026】
吸収体層15は、好ましくは、ニオブジルコニウムからなるか又はそれを含み、特定の例示的実施形態では、亜酸化物及び/又は亜窒化物であってもよい。ニオブジルコニウム系吸収体層15を、窒化ケイ素系層14を2つの部分14a及び14bに分割する位置に設けることにより、耐久性が改善され、他の好ましい光学/太陽光特性と組み合わせて、好ましいガラス側/外側の灰色着色を達成できることが分かった。例えば、吸収体層15にNbZr(又はその酸化物)を使用する場合、層中のZrに対するNbの様々な比として、50/50比、85/15比、又は90/10比を使用してもよいが、これらに限定されない。本発明の特定の例示的実施形態では、吸収体層15中のNb/Zr比は、本発明の様々な例示的実施形態において、1/1~9.5/1(より好ましくは2/1~9/1)であってもよく、層15は、Zrよりも多くのNbを含むことが好ましい。特定の例示的実施形態では、吸収体層の金属含有量は、50~95%のNb、より好ましくは60~95%のNb、さらにより好ましくは70~95%のNbである(例えば、残りの金属含有量は特定の実施形態においてZrからなる)。本発明の好ましい実施形態では、層15が、NbZr、NbZrO、又はNbZrOからなるか、又は本質的にからなるが、層中に他の材料が存在している可能性がある。例えば、層15は、特定の例示的な場合において他の材料でドープされてもよい。特定の実施形態では、吸収体層15は、約0~10%の窒素、より好ましくは約1~7%の窒素を含有してもよい。本明細書で述べたように、吸収体層15は、完全に酸化されているのではなく、本発明の特定の例示的実施形態では部分的に酸化(亜酸化)されていることが好ましい。特定の例示的実施形態では、吸収体層15は、約0~40%の酸素、より好ましくは1~35%の酸素、さらにより好ましくは3~30%の酸素、さらにより好ましくは5~20%の酸素(原子%)を含有する。層15の酸素含有量は、特定の例示的な場合において可視光透過率を調整するために調整されてもよい。特定の例示的実施形態では、吸収体層15には(原子%として)窒素よりも多い酸素がある。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、吸収体層15は、NbZr、NbZrO、又はNbZrOからなるが、他の実施形態では、他の材料も可能である。例えば、本発明の他の実施形態では、吸収体層15は、NiCr、NiCrO、又はNiCrOからなるか又はそれらを含んでもよい。
【0028】
赤外線(IR)反射層9及び19は、実質的に又は全体的に金属性及び/又は導電性であることが好ましく、銀(Ag)、金、又は他の任意の適切なIR反射性材料を含むか又は本質的にからなってもよい。IR反射層9及び19は、被膜が、低E及び/又は良好な太陽光制御特性を有することを可能にするのを助ける。
【0029】
例示された被膜の下又は上に他の層もまた設けられてもよい。従って、層系又は被膜が(直接的又は間接的に)基板1の「上」にあるか、又はそれによって「支持されている」間に、それの間に他の層が設けられてもよい。従って、例えば、図1の被膜は、たとえ他の層が層3と基板1との間に設けられても、基板1の「上」にありかつそれによって「支持されている」と見なすことができる。本発明の特定の実施形態では、図示の被膜中の特定の層が除去されてもよいが、本発明の他の実施形態では、本発明の特定の実施形態の全体的な精神から逸脱することなく、様々な層の間に他の層を追加してもよく、又は様々な層が、分割セクションの間に追加される他の層で分割されてもよい。
【0030】
本発明の異なる実施形態における層には様々な厚さ及び材料を使用してもよいが、図1の実施形態におけるガラス基板1の上の各層の例示的な厚さ及び材料は、ガラス基板から外側に向かって以下の通りである(物理的厚さが記載されている)。
【0031】
【表1】
【0032】
窒化ケイ素系層14の下部14a及び上部14bは、本発明の特定の例示的実施形態において、実質的に同じ物理的厚さ(同じ厚さ±20%)であるが、本発明の代替実施形態ではそうである必要はない。2つのIR反射層9及び19は、特定の実施形態においても実質的に同じ物理的厚さ(同じ厚さ±20%)である。さらに、本発明の特定の例示的実施形態では、吸収体層15は、銀層9、19の両方よりも(例えば、少なくとも20オングストローム(Å))薄く、本発明の特定の実施形態では、窒化ケイ素層14a、14bの両方よりも薄い。本発明の特定の例示的実施形態では、吸収体層15は、銀層9、19の両方よりも少なくとも20Å薄く、及び/又は本発明の特定の例示的実施形態では、窒化ケイ素層14a、14bの両方よりも少なくとも100Å(より好ましくは少なくとも200Å、最も好ましくは少なくとも250Å)薄い。
【0033】
特定の例示的実施形態では、ジルコニウム酸化物及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はそれらを含むオーバーコート層27は、被膜30中に銀を含むIR反射層9、19の各々よりも薄い。本発明の特定の例示的実施形態では、銀を含むIR反射層9及び19は、各々、ジルコニウム酸化物及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はそれを含むオーバーコート層27の厚さの少なくとも2倍である。
【0034】
特定の例示的実施形態では、中央の窒化ケイ素系層14(14a+14b)の合計の厚さは、窒化ケイ素層24の厚さよりも厚く、好ましくは少なくとも100Å、より好ましくは少なくとも300Å、最も好ましくは400Å厚い。特定の例示的実施形態では、窒化ケイ素層3は、窒化ケイ素系層14a及び14bの各々よりも少なくとも50Å厚い(より好ましくは少なくとも100Å厚い)。さらに、特定の例示的実施形態では、窒化ケイ素系層3、14及び24は、各々、ジルコニウム酸化物含有層27の厚さの少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍、最も好ましくは少なくとも4倍又は5倍である。
【0035】
本発明の特定の実施形態では、熱強化処理のような任意の選択的な熱処理(HT)の前及び/又は後に、(一体型に及び/又はIGユニットで測定される場合)図1の実施形態による被覆物品は、表2に示される色/光学の特性を有する。下付き文字「G」はガラス側反射を表し、下付き文字「T」は透過を表し、下付き文字「F」は膜側反射を表すことに留意すべきである。当技術分野で知られているように、ガラス側(G)は、被覆物品の(層/膜側とは反対の)ガラス側から見たとき、即ち、例えば、図2に示されるように、被膜が外側ガラス基板1の内側にある場合、建物外部から見たときに窓の外側から見たときを意味する。膜側(F)は、被膜が設けられている被覆物品の側面から見たときと同じ意味である。以下の表2の特徴は、本明細書の熱処理の被覆物品及び/又は非熱処理の被覆物品に適用可能である。しかし、熱処理は、可視光透過率の増加及びシート抵抗の低下などの特定のパラメータの変化を起こす(熱処理により色値もまた変化する)。
【0036】
【表2】
【0037】
例示のみを目的として、以下の実施例1~2は、本発明の異なる例示的実施形態を表す。
[実施例]
【0038】
実施例1及び2は、図1に示されるように、厚さ5.9mm、75mm×75mmの透明な艶消しガラス基板1の上に下記の層積層体を有する。このような実施例の層積層体は一体的に測定され、熱処理されそして熱処理後に再び測定された。また、これらの層積層体は、熱処理後に、図2に示されるようにIG窓ユニットに入れて、測定した。各実施例における窒化ケイ素層3、14、24は、アルゴン及び窒素ガスを含む雰囲気中でケイ素ターゲット(約8%のAlでドープされたもの)をスパッタリングすることによって蒸着させた。IG窓ユニットは、艶消しガラス基板1及び2が透明で5.9mmの厚さであり、IG窓ユニットにおける基板間のエア間隙が13mmの厚さであった。各実施例におけるNbZr系吸収体層は、アルゴンと少量の窒素及び酸素ガス(1.2ml/kWの酸素ガスを使用した)とを含む雰囲気中で、約90/10Nb/Zrマグネトロンスパッタリングターゲットをスパッタリングすることによって蒸着させた。従って、これらの実施例では、吸収体層15はNbZrOからなった。実施例1~2の層厚はオングストローム(Å)単位であり、ガラス基板1から外側に向かって、次の通りである。
【0039】
【表3】
【0040】
強化処理(熱処理)前に、一体型に測定される場合、本発明の実施形態による実施例1~2は、以下の特性を有し、その測定値は被覆ガラス物品の中央からとられた(一体型の場合、焼き鈍し及び非熱処理)(111.C、2度観察者)。
【0041】
【表4】
【0042】
上記の表4から、一体型に測定される場合、任意の選択的な熱強化処理の前に実施例1~2は、(i)好ましいガラス側反射性可視灰色着色、(ii)低シート抵抗、(iii)好ましい可視光透過率、及び(iv)好ましいガラス側可視光反射率(RY)の組み合わせを実現することができることが分かる。
【0043】
一体型に測定される場合、強化処理(熱処理)後に、本発明の実施形態による実施例1~2は、以下の特性を有していた(一体型の場合、熱処理)(111.C、2度観察者)。
【0044】
【表5】
【0045】
上記の表5から、熱強化処理(熱処理)後に、実施例1~2は、(i)好ましいガラス側反射性可視灰色着色、(ii)低シート抵抗、(iii)好ましい可視光透過率値、及び(iv)好ましいガラス側可視光反射率(RY)の組み合わせを有することが分かる。
【0046】
図2に示されるような、(第2表面の上に被膜30を有する)IG窓ユニットで測定される場合、熱処理後に、実施例1~2は、以下の特性を有する(IGユニットの場合、強化処理)(111.C、2度観察者)。
【0047】
【表6】
【0048】
上記の表から、熱強化処理(HT)の後に実施例1及び2を各々含むIG窓ユニットは、(i)好ましいガラス側/外側の反射性可視灰色着色、(ii)低シート抵抗、(iii)好ましい可視光透過率値、(iv)好ましいガラス側/外側の可視光反射率(RY)、及び(v)好ましい低いSF及びSHGC値の組み合わせを有していたことが再び分かる。
【0049】
本発明は、現在最も実用的かつ好ましい実施形態であると考えられているものに関連して説明されているが、本発明は開示された実施形態に限定されるべきではなく、反対に、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれる様々な修正及び等価な構成を網羅することが理解されるべきである。
図1
図2