(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】NMDARアンタゴニスト-応答性精神神経障害のための併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/42 20060101AFI20230707BHJP
A61K 31/165 20060101ALI20230707BHJP
A61K 31/495 20060101ALI20230707BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20230707BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230707BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20230707BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230707BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
A61K31/42
A61K31/165
A61K31/495
A61K31/496
A61P25/00
A61P25/22
A61P25/24
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019564867
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 IL2018050570
(87)【国際公開番号】W WO2018216020
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-04-27
(32)【優先日】2017-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516128500
【氏名又は名称】グリテック, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・シー・ジャヴィット
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-511409(JP,A)
【文献】特表2008-519810(JP,A)
【文献】特表2015-522075(JP,A)
【文献】国際公開第2012/104852(WO,A1)
【文献】Expert Opinion on Investigational Drugs,2013年11月20日,Vol.23, No.2,p.243-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/42
A61K 31/165
A61K 31/495
A61K 31/496
A61P 25/00
A61P 25/22
A61P 25/24
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とするヒト対象におけるNMDA受容体精神神経障害の治療における使用のための組成物であって、前記組成物が、治療的有効量の、
≧500mg/日~≦1000mg/日の正味アンタゴニスト用量(net antagonistic dose)で提供され、前記対象において、25μg/mL超の平均血漿レベルをもたらすように配合されるD-サイクロセリンからなる第1の剤と;
ミルナシプラン、ビラゾドン、及びボルチオキセチンからなる群から選択される抗うつ剤からなる第2の剤と、
を含み、
前記NMDA受容体精神神経障害が、うつ病、強迫性障害、及び不安障害からなる群から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記D-サイクロセリンが、7.5mg/kg/日~12.5mg/kg/日の正味アンタゴニスト用量で提供される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記NMDA受容体精神神経障害が、うつ病である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記うつ病が、大うつ病、大うつ病性障害、非定型うつ病、激越性うつ病、メランコリー型うつ病、又は気分変調性障害である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記うつ病が、双極性障害である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記双極性障害が、双極型I又は双極型2のうつ病性障害である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記双極性障害が、双極性うつ病に関連したうつ病エピソード又は混合性エピソードに関連する請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、前記対象におけるうつ病の症状を軽減する、自殺の発生を軽減する、又は自殺念慮を治療する請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記障害が、自殺傾向に関連する請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
うつ病、強迫性障害、及び不安障害の治療のために用いられる組成物であって、
≧500mg/日~≦1000mg/日の正味アンタゴニスト用量(net antagonistic dose)で提供され
、対象において、25μg/mL超の平均血漿レベルをもたらすように配合されるD-サイクロセリンからなる第1の剤と;
ミルナシプラン、ビラゾドン、及びボルチオキセチンからなる群から選択される抗うつ剤からなる第2の剤と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項11】
前記D-サイクロセリンが、7.5mg/kg/日~12.5mg/kg/日の正味アンタゴニスト用量を提供するように配合される請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
その開示内容の全体を参照によって援用する、2017年5月25日出願の米国仮特許出願第62/510,801号及び2017年6月12日出願の米国仮特許出願第62/518,020号に対する利益を主張する。
【0002】
本明細書に提供されるのは、うつ病及び強迫性障害などのNMDAR関連精神神経障害の治療のための経口投与レジメンであり、前記治療は、最近開発された抗うつ剤と組み合わされた、25マイクログラム/mLを超える血漿レベルをもたらすように配合されたD-サイクロセリンなどのNMDARアンタゴニストを含む。
【背景技術】
【0003】
大うつ病は、悲しい気分が持続したり、活動に興味を失ったりすることを含む臨床症候群であり、治療が行われない場合で少なくとも2週間持続する。大うつ病の症状は通常、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)又はベックうつ病質問票(BDI)などの評価尺度を使用して測定される。抑うつ気分に関連する症状を含めることに加えて、HAM-Dには、罪悪感、離人症/現実感消失、及び偏執病のための項目を含む精神病に敏感な症状も含まれる。大うつ病は、不安の症状にも関連することがあり、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)などの評価尺度で測定されることができる。うつ病性障害は、大うつ病(MDD)と双極性うつ病(BPD)に分類される。大うつ病は、メランコリー型の特徴を伴う場合と伴わない場合もある。更に、全般性不安障害、解離性障害、パーソナリティ障害、又は抑うつ気分を伴う適応障害(DSM-IV)などの不安障害の状況において、抑うつ症状が発生することがある。
【0004】
うつ病の他の形態は、非定型うつ病、激越性うつ病、感情的特徴が混在するうつ病、気分循環症、軽度気分変調性うつ病、及び抑うつ気分を伴う適応障害を含む。双極性うつ病は、躁病エピソードの有無に基づいて、双極I型と双極II型に分類されることができる。双極性障害では、抑うつ症状は、うつ病エピソード、又は躁病とうつ病の症状が同時に又は急速に起こる混合状態のいずれかの状況で発生することができる。一部の個人では、躁病及びうつ病エピソード間の急速なサイクリングも発生することがある。
【0005】
うつ病性障害では、自殺のリスクが顕著に増加するが、全体として抑うつ症状に対して薬物療法と異なる反応を示すことがある。自殺が起こると、多くの場合無価値感又は不適切な罪悪感、並びに死又は自殺念慮の繰り返しの考えが付随し、罪悪感は、自殺の受け入れられた代わりのもの(proxy)である。うつ病性障害の対象では自殺のリスクが高くなり、うつ病性障害を治療するためにこれまで一般に使用されていた医薬は、逆説的に自殺傾向を増加させる。
【0006】
うつ病のほとんどの現在の理論は、セロトニン作動性及び/又はノルアドレナリン作動性の脳システムに焦点を当てている。大うつ病の現在の治療は主に、1960年代に初めて開発されたモノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)及び三環系抗うつ剤(TCA)(例えば、イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、クロミプラミン)などの古い抗うつ剤と、四環系抗うつ剤(TeCA)(例えば、ミアンセリン、ミルタザピン)、セロトニン(SSRI)、及びセロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)(SNRI)再取り込み阻害薬(例えば、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、デュロキセチン、ベンラファキシン、ダポキセチン、インダルピン(indalpine)、ミルナシプラン、レボミルナシプラン)などの新しい薬剤とからなる。MAOIとTCAは、その後開発されたSSRI/SNRIよりも「より広範な範囲の」剤と見なされる。
【0007】
グルタメートは、うつ病又は他の感情障害との関係で限られた程度まで研究されている代替の脳神経伝達物質である。グルタメートは、N-メチル-D-アスパラギン酸型グルタミン酸受容体(NMDAR)を含む幾つかの受容体型に結合する。NMDARは、グルタメートのためのアゴニスト部位と、内因性の脳のアミノ酸であるグリシンとD-セリンに感受性のアロステリックな調節部位(別名グリシンB受容体、ストリキニーネ-非感受性グリシン受容体)を含む複数の結合部位を含む。グリシン部位のアゴニストは、グルタメートに反応してNMDARの活性化を増加させ、アンタゴニストは、NMDARの活性化を減少させる。
【0008】
グリシン部位の機能的アゴニスト及びアンタゴニストは、NMDARグルタメート-部位アゴニストに対するNMDARを介した応答の調節などの十分に検証された電気生理学的アッセイ、又はNMDAR PCP-受容体チャネル結合部位への結合の調節などの放射線受容体アッセイなどを用いて同定されることができる。グリシン部位アゴニスト及びアンタゴニストは、NMDARのチャネル部位(別名PCP受容体、不競合的アンタゴニスト部位)に結合するフェンシクリジン(PCP)又はケタミンなどの化合物からの受容体結合及び電気生理学の両方に基づいて区別されることができる。効果的なアゴニストとアンタゴニストは、例えば、標的に対して100nM未満の親和性及び他の関連する標的に対して10倍超の選択性を有する化合物として同定されることができる。部分アゴニストは、完全アゴニストに対して受容体の立体構造の変化を誘発する効果が低下した化合物(通常40%~80%)として定義され、低用量ではアゴニスト効果を誘発し、高用量ではアンタゴニスト効果を誘発することができる。
【0009】
広い範囲の薬理学的選択肢にもかかわらず、うつ病に対する現在の治療アプローチは、厳しい制限を有する。僅か60%~65%の患者が初期のレジメンに反応し、反応する者の中で、半分未満が寛解に達するか、症状がなくなる。抗うつ剤治療の最初のコースに反応しない個人は、多くの場合、異なる薬物に切り替えられ、結果は一般に中程度(modest)で増加性である。
【0010】
大うつ病においては、治療難治性うつ病とは、現在利用可能な治療への反応が不十分なうつ病の形態を指し(例えば、nimh.nih.gov/trials/practical/stard/index.shtml June 2011参照)、うつ病の他の形態と比べて異なった根本的な疫学病理学的メカニズムを有することがある。抗うつ剤の組合せは、難治性うつ病に対する単独療法よりも優れていることは示されておらず、通常、副作用のリスクを増加させるので推奨されない。したがって、大うつ病及び過剰なNMDARの活性化に関連する他の障害のための効果的な治療に対する継続的なニーズが存在する。
【発明の概要】
【0011】
新しいSNRIと非定型抗うつ剤は、セロトニントランスポーター以外の標的に対する高い特異性を有するという点で従来の医薬とは異なるので、セロトニン作動性及びノルアドレナリン作動性症状の安定した調節を有するTCAに比較的より類似している。一般に、より新しい薬剤は、より従来のSSRI及びSNRIのものと同様の有効性を有するが、副作用プロファイルは異なる(Wagner et al.,Journal of Affective Disorders 228:1-12,2018)。ケタミン又は他のNMDAR系の抗うつ剤との相対的な相互作用は、過去に研究されていない。予想外なことに、新しいSNRI/非定型抗精神病剤は、>25マイクログラム/mLの血漿レベルに関連するD-サイクロセリン用量と組み合わせて優先的に有益な活性を有し、それによって高用量のD-サイクロセリンと新しい抗うつ剤とを含む組合せの予期しない有用性を示すことが観察された。
【0012】
したがって、本明細書では、レボミルナシプラン、ミルナシプラン、ビラゾドン、ボルチオキセチン、S-ミルタザピン、及びR-ミルタザピンを含むリストから引き出された抗うつ剤と組み合わされたNMDARアンタゴニストを含む製剤について記載する。うつ病、OCD、及び不安障害を治療する方法、及びそのような治療で使用される薬を調製する方法における記載された組成物の使用も記載される。
【0013】
前述及び他の目的、特徴、及び利点は、添付の図面を参照して進める以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、対照(ctl)又はアクティブな比較の基準(active comparator)(セルトラリン)に対する経口(PO)投与後の強制水泳試験(FST)における不動時間における示されたmg/kg(mpk)用量のD-サイクロセリン(DCS)の効果を示すグラフである。*p<.05対Ctl;***p<.001対Ctl
【
図2】
図2は、示された抗うつ剤との組合せのDCSの効果を示すグラフである。示されるように、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001DCS無し対300mg/kgであり、#p<0.05対DCS300mg/kg単独である。
【
図3】
図3は、ガラス玉覆い隠しに対するDCS及びミルタザピンの相乗効果を示す。***p<0.001対溶媒。#p<0.05ミルタザピン+DCS300mg/kg対ミルタザピン単独。10頭のマウスを、溶媒(対照)、パロキセチン(5mg/kg)、ミルタザピン(5.5mg/kg)、D-サイクロセリン(30mg/kg)、D-サイクロセリン(300mg/kg)、又はD-サイクロセリン(300mg/kg)+(ミルタザピン5.5mg/kg)のいずれかで処置し、試験の30分前にIPで投与した。試験中に移動した距離をカメラで捕らえ、Video Tracker Software(ViewPoint Life Sciences Software,France)を用いて定量化した。試験の終わりに、マウスをケージから取り出し、覆われていないガラス玉の数を数えた。少なくとも3分の2が床敷きで覆われている場合、ガラス玉は覆い隠されていると見なした。p<0.05の場合、効果は有意と見なした。
【
図4】
図4は、ガラス玉覆い隠しにおけるミルタザピンのR異性体とS異性体との相対的な効果を示し、R異性体対S異性体のより大きな効果を示す。***p<0.001対ラセミ体ミルタザピン。10頭のマウスを、溶媒(対照)、パロキセチン(5mg/kg)、S-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)、R-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)、R-ミルタザピン(2.5mg/kg)+D-サイクロセリン(300mg/kg)のいずれかで処置し、試験の30分前にIPで投与した。試験中に移動した距離をカメラで捕らえ、Video Tracker Software(ViewPoint Life Sciences Software,France)を用いて定量化した。試験の終わりに、マウスをケージから取り出し、覆われていないガラス玉の数を数えた。少なくとも3分の2が床敷きで覆われている場合、ガラス玉は覆い隠されていると見なした。p<0.05の場合、効果は有意と見なした。
【発明を実施するための形態】
【0015】
I.用語
別段の説明がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。「a」、「an」、及び「the」という単数形の用語には、文脈が明確に示さない限り、複数の参照を含む。同様に、「又は」という言葉は、文脈が明確に示さない限り、「及び」を含むことを意図している。更に、核酸又はポリペプチドに与えられた全ての塩基サイズ又はアミノ酸サイズ、及び全ての分子量又は分子質量の値は、おおよそであり、説明のために提供されることが理解される。本明細書に記載のものと類似又は同等の方法及び材料を本開示の実施又は試験に使用することができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。「comprises」という用語は、「includes」を意味する。「consisting essentially of」は、リストされた特徴のみをアクティブ又は必須な要素として含む組成物、方法、又はプロセスを示すが、更に非アクティブ要素を含むことができる組成物、方法、又はプロセスを示す。略語「e.g.」は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、非限定的な例を示すために本明細書中で使用される。したがって、略語「e.g.」は、「for example」などの用語と同義である。
矛盾する場合、用語の説明を含む本明細書が考慮される。更に、全ての材料、方法、及び例は例示的であり、限定することを意図したものではない。
【0016】
投与:選択した経路による対象への組成物の導入。活性化合物又は組成物の投与は、当業者に知られている任意の経路によってなされることができる。投与は、局所的又は全身性であることができる。全身性投与は、循環系を介して全身に広く活性化合物又は組成物を分布するように設計された任意の投与経路を含む。したがって、全身性投与は、経口、動脈内、及び静脈内投与を含むが、これらに限定されない。
【0017】
類似体、誘導体、又は模倣体:類似体は、親化合物と化学構造が異なる分子であり、例えば、相同体(アルキル鎖の長さの違いなど、化学構造の増加分によって異なる)、分子断片、1以上の官能基、イオン化の変化によって異なる構造などである。構造類似体は、多くの場合、Remington(The Science and Practice of Pharmacology,19th Edition(1995),chapter 28)に開示されているようなものなどの技術で、定量的構造活性相関(QSAR)を用いて発見される。誘導体は、基本構造に由来する生物学的活性分子である。模倣体は、生物学的活性分子など、別の分子の活性を模倣する分子である。生物学的活性分子は、化合物の生物学的活性を模倣する化学構造を含むことができる。幾つかの状況においては、これらの用語が重複し得ることが認められる。本明細書中に記載される活性剤は、機能的に同等の誘導体及び類似体によって同様の効果に置き換えられることができることが理解される。
【0018】
アンタゴニスト:他の作用を無効にする傾向がある、又は幾つかの例においては、特定の化学物質がその受容体又は他の相互作用分子に結合する能力を遮断し、生物学的応答を妨げる分子又は化合物。
【0019】
有効量又は治療有効量:毒性はないが、望ましい効果を提供するのに同じ程度の十分な量を示す。本発明の併用療法において、組合せの1つの成分の「有効量」は、組合せの他の成分と組み合わせて使用される場合に、所望の効果を提供するのに効果的な化合物の量である。「有効である」量は、個体の年齢及び一般的な状態、特定の活性剤又は剤などに応じて、対象ごとに異なる。したがって、正確な「有効量」を指定することは常に可能ではない。しかしながら、任意の個々の場合における適切な「有効」量は、通常の実験を用いて当業者によって決定されることができる。
【0020】
D-サイクロセリン(DCS):化学的D-サイクロセリン(CA指標名:3-イソオキサゾリジノン,4-アミノ-,(4R)-(9CI);CAS登録番号68-41-7)、又はその薬学的に許容される塩を指す。DCSは、結核の治療のための、FDA(米国食品医薬品局)が認可した薬物であり、Eli Lilly and CompanyからSeromycin(登録商標)の商標名で販売されている。DCSは、D-アラニンの構造類似体であり、Streptomyces orchidaceus及びS.garphalusの幾つかの株によって産生される広域抗生物質である。本明細書においては、DCSは、「サイクロセリン」とも記載される。
【0021】
非経口:例えば、消化管を介さずに、腸の外部で投与される。一般に、非経口製剤は、摂取を除く任意の可能な形態で投与されるものである。この用語は、特に、静脈内、くも膜下腔内、筋肉内、腹腔内、又は皮下に投与される注射、並びに、例えば鼻腔内、皮内、及び局所的適用を含む様々な表面適用を指す。
【0022】
薬学的に許容される担体:この開示において有用な薬学的に許容される担体は、従来のものである。Remington’s Pharmaceutical Sciences,by E.W.Martin,Mack Publishing Co.,Easton,PA,15th Edition(1975)には、本明細書中に開示されている化合物の医薬品送達に適した組成物及び製剤が記載されている。一般に、担体の性質は、採用されている特定の投与形式に依存する。例えば、非経口製剤は、通常、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、デキストロース水溶液、グリセロールなどの薬学的及び生理学的に許容される液体を溶媒として含む注射可能な液体を含む。固体組成物(例えば、粉末、丸剤、錠剤、又はカプセル形態)において、従来の非毒性固体担体は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、又はステアリン酸マグネシウムを含むことができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物は、例えば酢酸ナトリウム又はソルビタンモノラウラートなど、湿潤剤又は乳化剤、防腐剤、及びpH緩衝剤などの少量の非毒性補助物質を含むことができる。
【0023】
薬剤:対象又は細胞に適切に投与されたときに、所望の治療効果又は予防効果を誘導することができる化学化合物又は組成物。
【0024】
対象:脊椎生物や、ヒト及び非ヒトの哺乳類の両方を含むカテゴリーを含む生きた多細胞生物。本明細書中に記載されるヒト対象は、「患者」とも呼ばれる。
【0025】
疾患又は状態の影響を受けやすい対象:疾患又は状態を発症する可能性がある、又はその傾向がある、又は発症しやすい対象。疾患又は状態の症状を既に有する又は示す対象は、既に発症しているので、「影響を受けやすい」とみなされることが理解される。例えば、うつ病を罹患している患者は、自殺傾向の影響を受けやすいことが理解される。
【0026】
治療すること及び治療:症状の重症度及び/又は頻度の低下、症状及び/又はその根本的な原因の除去、症状及び/又はその根本的な原因の発生の防止、及び損傷の改善又は修復を指す。したがって、例えば、患者を「治療する」ことは、影響を受けやすい個体における特定の障害又は有害な生理学的事象の予防、並びに臨床的に症状のある個体の治療を含む。
【0027】
II.幾つかの実施形態の概要
本明細書において記載されるのは、ヒト対象におけるNMDA受容体精神神経障害の治療における使用のための組成物であって、治療的有効量の、NMDA受容体アンタゴニストである第1の剤と、レボミルナシプラン、ミルナシプラン、ビラゾドン、ボルチオキセチン、S-ミルタザピン、及びR-ミルタザピンから選択される抗うつ剤である第2の剤とを含み、前記NMDA受容体精神神経障害は、うつ病、強迫性障害、及び不安障害から選択される。
【0028】
特定の実施形態においては、前記第1の剤は、≧500mg/日~≦1000mg/日の用量などの正味アンタゴニスト用量(net antagonistic dose)で提供されるD-サイクロセリンであり、前記対象において、25μg/mL超、より具体的には、7.5mg/kg/日~12.5mg/kg/日の平均血漿レベルをもたらすように配合される。
【0029】
他の特定の実施形態においては、前記第1の剤は、ケタミン、GlyX-13、NRX-1074、NYX-2925、AGN-241751、及びガベスチネルから選択される。
【0030】
幾つかの実施形態においては、記載された組成物は、大うつ病、大うつ病性障害、非定型うつ病、激越性うつ病、メランコリー型うつ病、又は気分変調性障害であるうつ病の治療に用いられる。他の実施形態においては、前記うつ病は、双極型I又は双極型2のうつ病性障害などの双極性障害である、又は双極性うつ病に関連するうつ病エピソード又は混合性エピソードに関連する。
【0031】
幾つかの実施形態においては、記載された組成物は、対象におけるうつ病の症状を軽減する、自殺の発生を軽減する、又は自殺念慮を治療する。他の実施形態においては、前記障害は、自殺傾向に関連する。
【0032】
NMDA受容体アンタゴニストである第1の剤と、レボミルナシプラン、ミルナシプラン、ビラゾドン、ボルチオキセチン、S-ミルタザピン、及びR-ミルタザピンから選択される抗うつ剤である第2の剤とを含む組成物も、本明細書において提供される。
【0033】
記載された組成物の特定の実施形態においては、前記第1の剤は、≧500mg/日~≦1000mg/日などの正味アンタゴニスト用量で提供されるD-サイクロセリンであり、対象において、25μg/mL超、例えば、7.5mg/kg/日~12.5mg/kg/日の平均血漿レベルをもたらす。
【0034】
記載された組成物の他の特定の実施形態においては、前記第1の剤は、ケタミン、GlyX-13、AGN-241751、及びガベスチネルから選択される。
【0035】
より更なる実施形態においては、記載された組成物は、徐放性製剤中に配合される。
【0036】
治療有効量の任意の上記に記載された組成物を対象に投与することによって、うつ病、強迫性障害、及び不安障害から選択されるNMDA受容体-応答性精神神経障害の治療の方法も記載される。
【0037】
記載された状態の治療のための薬の調製における記載された組成物の使用が更に提供される。
【0038】
III.うつ病、OCD、及び不安障害の治療の方法
アンタゴニストのD-サイクロセリン血漿レベルが齧歯類の抗うつ効果に関連するという知見が、本明細書中で実証されている。また、自発運動亢進のD-サイクロセリンの増大の最初の実証も提供され、抗うつ剤の種々のクラスは、正味アンタゴニスト用量で提供されるD-サイクロセリンと組み合わせて自発運動亢進を特異的に調節することができる最初の実証は、特異的な臨床有効性を示唆する。これらの知見は、ヒトの精神神経障害の治療のためのD-サイクロセリンにおける予期しない投与戦略の開発を可能にし、特定のタイプの抗うつ病医薬、特に最近開発された抗うつ剤と、D-サイクロセリンの予期しない有益な組合せ効果を示唆する。これら及び他の記載された観察の点で、過剰なNMDR神経伝達、特にうつ病、強迫性障害、及び不安障害に関連する神経精神状態の治療のための組成物及び方法が、本明細書において提供される。
【0039】
1つの実施形態においては、記載された組成物は、2つの有効成分を含み、前記2つの有効成分の1つ目は、>25マイクログラム/mLの持続された血漿D-サイクロセリンレベルをもたらすように配合されたD-サイクロセリンなどのNMDARアンタゴニスト剤であり、前記2つの有効成分の2つ目は、抗うつ剤であり、特定の実施形態においては、レボミルナシプラン、ミルナシプラン、ビラゾドン、ボルチオキセチン、S-ミルタザピン、及びR-ミルタザピンから選択されることができる。
【0040】
本明細書に記載されている組成物は、NMDARアンタゴニスト化合物で構成される。NMDARは、脳神経伝達物質グルタメートに対する神経細胞受容体の一種である。NMDARは、感覚処理、認知、及び感情調節を含む様々な脳機能に関与する。NMDARは、GluN1、GluN2、及びGluN3(以前は、NR1、NR2、NR3)と呼ばれる複数のサブユニットから構成される。GluN1、GluN2、及びGluN3の複数の形態が存在する。NMDARは、種々の量のGluN1、GluN2、及びGluN3サブユニットの種々の組合せからなることができる。アゴニスト及びアンタゴニストは、全てのNMDARに同等に影響を及ぼすことができる、又は特定のサブユニットタイプを含むNMDARにおいて選択的であることができる。本明細書に記載される方法は、NMDARアンタゴニストの使用を含む。
【0041】
近年、非競合的NMDARアンタゴニストケタミンは、治療抵抗性のうつ病を罹患している個人で試験したときに、ヒトにおいて抗うつ病効果を有することも示されている。化合物は、単極性うつ病と双極性うつ病の両方で同様の効果を示す。MK-801などの他の非競合NMDARアンタゴニストも、動物モデルで抗うつ病効果も示す。しかしながら、ケタミンによって誘発される抗うつ病効果は、精神病の悪化に関連し、臨床状況での有用性を大幅に低下させる。
【0042】
NMDARは、神経伝達物質グルタメート及び内因性調節アミノ酸であるグリシンとD-セリンのための結合部位を含む。NMDARは、酸化還元部位/ポリアミン結合部位を介して、周囲の組織の酸化還元状態に対して感応性である。これらの部位に結合してNMDAR活性を低下させる剤は、競合的阻害薬と呼ばれる。
【0043】
NMDARグルタメート結合部位は、合成グルタメート誘導体N-メチル-D-アスパラギン酸(aspartate)を高親和性で選択的に結合する。この部位は、NMDARのNMDA認識部位又はグルタメート認識部位とも呼ばれる。
【0044】
NMDARグリシン/D-セリン結合部位は、グリシン調節部位、アロステリックな調節部位、又はグリシン-B受容体と呼ばれている。
【0045】
NMDARは、フェンシクリジン(PCP)、ケタミン、又はジゾシルピン(MK-801)などの幾つかの依存性薬物によってブロックされるイオンチャネルを形成する。これらの化合物は、PCP受容体と呼ばれている部位に結合する。NMDAR関連イオンチャネルをブロックする剤は、非競合的NMDARアンタゴニスト又はNMDARチャネルブロッカーと総称される。チャネルブロッカーによるNMDARの遮断は、統合失調症によく似た臨床精神病状態をもたらす。
【0046】
記載される方法においては、NMDARは、グルタメート認識部位、グリシン認識部位、又はポリアミン結合部位に結合するアンタゴニストによっても阻害されることができる。歴史的に、高親和性NMDARアンタゴニストは、複数の臨床設定で使用されてきた。
【0047】
セルフォテル(CGS19755)は、グルタメート認識部位に結合するアンタゴニストの例である。幾つかのこのような化合物は、脳卒中やてんかんなどのCNS適応症を対象として開発された。NMDARを有意に阻害するのに十分な用量で用いられると、チャネルブロッカーのようなこれらの化合物は、臨床的な精神異常発現性症状をもたらす。
【0048】
グルタメート認識部位のアンタゴニストとして機能する追加の化合物は、アプチガネル(Cerestat、CNS-1102)及びJ Med Chem 37:260-7.1994(Reddy等)に記載される関連化合物を含む。グルタメート認識部位のアンタゴニストとして機能する追加の化合物は、様々なスペーサーユニットによって分離されたα-アミノ-カルボン酸及び及びホスホン酸機能性を含む。修飾されていない例は、2-アミノ-5-ホスホノバレリアン酸(AP5)(Watkins,J.C.;Evans,R.H.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.1981,21,165)であり、飽和炭素鎖を含む。構造的剛性、それによって効力を高める要素を含むより複雑な例は、CPP、cis-4-(ホスホノメチル)-2-ピペリジンカルボン酸(CGS-19755)(Lehman,J.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.1988,246,65)、及び(E)-2-アミノ-4-メチル-5-ホスホノ-3-ペンテン酸(CGP-37849)(Schmutz,M.et al.,Abs.Soc.Neurosci.1988,14,864)を含む。その全体を参照によって援用する、2008年3月18日発行の米国特許第7,345,032号明細書及び米国特許第5,168,103号明細書を参照。
【0049】
記載される方法では、グリシン認識部位に結合するアンタゴニストによってNMDARが阻害されることもできる。特定の実施形態においては、このような阻害は、D-サイクロセリンによるものであり、アンタゴニスト産生用量で投与される。
【0050】
本明細書で「サイクロセリン」とも呼ばれるD-サイクロセリンは、結核(TB)の治療のために現在認可されている化合物である。サイクロセリンの向精神効果は、1950年代後半に結核に対して治療されている患者に認められた。最初の報告では、サイクロセリンの効果は、食欲不振、無力症、不眠症などの症状に認められた。しかしながら、正式な精神医学的診断は、行われなかった。更に、サイクロセリンは、うつ病と対照的に、主に緊張と不眠症の治療に推奨された。
【0051】
NMDARに結合する能力とNMDARを統合失調症に関連付ける理論のために、D-サイクロセリンは、治療抵抗性の統合失調症で研究されてきた。低用量では、D-サイクロセリンは、全てではないが一部の研究で有益な効果をもたらすことが分かり、クロザピンを投与されている個人の症状を悪化させることがある。更に、高用量(>250mg)では、D-サイクロセリンは、精神病を悪化させるので、パッケージラベルインサート(package label insert)によると、統合失調症、うつ病、不安障害では禁忌である。前臨床モデルにおけるD-サイクロセリンの研究も、うつ病の治療では高用量でのその有用性を示唆していない。NMDARの部分アゴニスト、特に1-アミノシクロプロパンカルボン酸(ACPC)は、動物モデルで有効性を有することが報告されているが、ヒトの研究ではまだ試験されていない。更に、効果は、試験した最低用量でのみ観察され、ヒトでの高用量治療とはかけ離れて議論がなされている。動物のうつ病モデルでは、数週間に亘る寛容性も観察され、持続的な長期使用に対する議論がなされている。
【0052】
例えば、250mg/日の用量での使用が報告されているD-サイクロセリンは、大うつ病の症状に有意な効果がないことが分かり、更に、一般に入手可能な処方情報は、てんかん、うつ病、重度の不安、又は精神病の病歴を有する個人において、D-サイクロセリンの使用は、禁忌であると記載している(Lilly.Seromycin(cycloserine)capsules prescribing information.Indianapolis,Ind.;2005 Apr.28)。
【0053】
D-サイクロセリンは、約100mgまでの用量で主にアゴニスト効果を、500mgを超える用量で主にアンタゴニスト効果を、中間用量で中間効果をもたらす。主にアゴニスト効果に関連する血漿濃度は、主に<10μg/mLである。アンタゴニスト効果に関連する血漿濃度は、>25μg/mlである。毒性に対する増加した易罹病性(liability)は、血漿レベル>35μg/mLで観察される。
【0054】
D-サイクロセリンは通常、結核の治療のために250mg~1000mgの用量で投与される。したがって、典型的な用量は、250mg、500mg、750mg、又は1000mgである。550mg、600mg、650mg、700mg、800mg、850mg、又は900mgなどの中間用量も可能である。記載された組成物及び方法の特定の実施形態においては、D-サイクロセリンは、上記の中間用量を含むがこれに限定されない、500mg/日超から1000mg/日以下の用量で対象に投与される。ヒトにおける意図された使用のためのD-サイクロセリンの有効用量は、>25μg/ml超の持続された血漿レベルを必要とし、特定の実施形態においては、成人対象において10mg/kg以上の用量で提供される。これらのレベルの達成は、500mg/日超のヒトへの用量を必要とし、平均的な成人では、約700mg/日以上である。D-サイクロセリンを人へ投与し、正味アンタゴニスト効果をもたらすことは、ヒトの薬物動態研究から理解されることができる。
【0055】
500mgの用量後のヒトにおけるD-サイクロセリンの薬物動態(PK)が、過去に研究されてきた。重要なパラメーターは、投与間隔中に達成された最大(ピーク)濃度(Cmax)、最大濃度までの時間(Tmax)、及び曲線下面積(AUC)を含む。
【0056】
例えば、Zhu等(Zhu M,Nix DE,Adam RD,Childs JM,Peloquin CA.Pharmacokinetics of cycloserine under fasting conditions and with high-fat meal,orange juice,and antacids.Pharmacotherapy.2001;21(8):891-7)は、12.1マイクログラム/mL~30.6マイクログラム/mLの範囲において、空腹条件下で14.8マイクログラム/mLの中央値Cmax値を示した。24時間に亘る中央値AUCレベルは、163~352の範囲で、214マイクログラム-hr/mLであり、6.8マイクログラム/mL~14.7マイクログラム/mLの範囲で、8.9マイクログラム/mLの中央値持続血漿レベルに対応する。
【0057】
Park等(Park SI,Oh J,Jang K,Yoon J,Moon SJ,Park JS,Lee JH,Song J,Jang IJ,Yu KS,Chung JY.Pharmacokinetics of Second-Line Antituberculosis Drugs after Multiple Administrations in Healthy Volunteers.Antimicrob Agents Chemother.2015;59(8):4429-35.)は、12時間毎にPOで投与される250mgのD-サイクロセリンの薬物動態を評価し、24.9マイクログラム/mLの平均Cmax値及び242.3mg-時間/Lの12時間に亘る平均AUCを観察し、これは、20.2マイクログラム/mLの平均血漿レベルに対応する。
【0058】
Hung等(2014年)(Hung WY,Yu MC,Chiang YC,Chang JH,Chiang CY,Chang CC,Chuang HC,Bai KJ.Serum concentrations of cycloserine and outcome of multidrug-resistant tuberculosis in Northern Taiwan.Int J Tuberc Lung Dis.2014;18(5):601-6)は、DCSによる臨床治療中のPKレベルを評価した。対象に亘る平均用量は、8.8mg/kgであり、対象の大部分(n=27)が500mg/日のDCSを投与され、少数が750mg/d(n=4)又は250mg/d(n=2)のいずれかだった。投与後2時間及び6時間でのDCS濃度は、19.7マイクログラム/mL及び18.1マイクログラム/mLだった。
【0059】
したがって、ヒトのPK研究の一貫した知見は、D-サイクロセリンの500mg投与後の持続された血漿用量が、一貫して25マイクログラム/mL未満であることである。本明細書に記載されるように、D-サイクロセリンの抗うつ病効果は、25マイクログラム/mLを超える用量で観察される。したがって、このような血漿レベルを生成するための1日当たりの用量は、本明細書に記載されているように、必然的に500mg/日を超える。そのような用量には、10mg/kg/日、12mg/kg/日、14mg/kg/日、16mg/kg/日、及び18mg/kg/日など、10mg/kg/日超の量を含む。
【0060】
フェルバメートは、グリシン結合部位を介して作用することができる化合物の別の例であり、記載された方法で用いられることができる。ヒトに投与すると、フェルバメートは、その臨床的有用性を制限する精神病効果をもたらす(例えば、Besag FM,Expert Opin Drug Saf 3:1-8,2004)。
【0061】
ガベスチネル(GV-150,526)は、本明細書に記載されるように、使用するためのグリシン結合部位でのアンタゴニストの別の例である。他の同様に有用な化合物は、参照により本明細書に組み込まれる、DiFabrio et al.,J Med Chem 40:841-50,1997に記載される。本明細書に記載される医薬組成物及び方法における使用に適したグリシン部位アンタゴニストの他の例は、以下で参照されるものである。2003年12月23日に発行された米国特許第6,667,317号明細書;2000年6月27日に発行された米国特許第6,080,743号明細書;1999年11月23日に発行された米国特許第5,990,108号明細書;1999年8月24日に発行された米国特許第5,942,540号明細書;1999年7月15日に発行された世界特許出願国際公開第99/34790号;1998年10月29日に出版された世界特許出願国際公開第98/47878号;1998年10月1日に出版された世界特許出願国際公開第98/42673号;1991年12月29日に出版された欧州特許出願公開第966475A1号明細書;1998年9月11日に出版された世界特許出願国際公開第98/39327号;1998年2月5日に出版された世界特許出願国際公開第98/04556号;1997年10月16日に出版された世界特許出願国際公開第97/37652号;1996年10月9日に発行された米国特許第5,837,705号明細書;1997年6月12日に出版された世界特許出願国際公開第97/20553号;1999年3月23日に発行された米国特許第5,886,018号明細書;1998年9月1日に発行された米国特許第5,801,183号明細書;1995年3月23日に発行された世界特許出願国際公開第95/07887号;1997年11月11日に発行された米国特許第5,686,461号明細書;1997年4月22日に発行された米国特許第5,622,952号明細書;1997年3月25日に発行された米国特許第5,614,509号明細書;1996年4月23日に発行された米国特許第5,510,367号明細書;1992年12月9日に出版された欧州特許出願公開第517,347A1号明細書;1993年11月9日に出版された米国特許第5,260,324号明細書。前述の特許及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
GlyX-13(ラパスチネル)は、グリシン部位で混合アゴニスト/アンタゴニストとして機能するテトラペプチド(スレオニン-プロリン-プロリン-スレオニン)である。NRX-1074(apostimel)は、GlyX-13と同様の特性を有する経口的に利用可能な分子である。NYX-2925((2S,3R)-3-ヒドロキシ-2-((R)-5-イソブチリル-1-オキソ-2,5-ジアザスピロ[3.4]オクタン-2-イル)ブタンアミド)は、GlyX-13の効果に基づいて設計された小分子である。AGN-241751(Allergan)は、GlyX-13の経口的に利用可能な小分子類似体である。CERC-301(Rislenemdaz)は、経口活性のある選択的なNMDARサブユニット2Bアンタゴニストである。AZD-6765(ラニセミン)は、低トラップのNMDARアンタゴニストである。S-ケタミン(esketamin)は、ラセミ体のケタミンのS-異性体である。R-ケタミンは、ラセミ体のケタミンのR-異性体である。AV-101(4-クロロキヌレニン(4-Cl Kyn)は、7-クロロキヌレン酸の経口的に活性な小分子プロドラッグであり、NMDARグリシン部位として作用する。
【0063】
本明細書に記載される医薬組成物及び方法において用いられることができるグリシン部位アンタゴニストの他の例は、N-(6,7-ジクロロ-2,3-ジオキソ-1,2,3,4-テトラヒドロ-キノキサリン-5-イル)-N-(2-ヒドロキシ-エチル)-メタンスルホンアミド及び6,7-ジクロロ-5-[3-メトキシメチル-5-(1-オキシピリジン-3-イル)-[1,2,4]トリアゾル-4-イル]-1,4-ジヒドロ-キノキサ-リン-2,3-ジオンである。
【0064】
本明細書における使用のための追加のNMDARアンタゴニストは、その全体が参照により本明細書に組み込まれるSchiene等の米国特許出願公開第2001/0306674A1号明細書に記載され、N含有ホスホン酸(ノルバリン(AP5)、D-ノルバリン(D-AP5)、4-(3-ホスホノ-プロピル)-ピペラジン-2-カルボン酸(CPP)、D-(E)-4-(3-ホスホノプロプ-2-エニル)ピペラジン-2-カルボン酸(D-CPPene)、cis-4-(ホスホノメチル)-2-ピペリジンカルボン酸(セルフォテル、CGS19755)、SDZ-220581、PD-134705、LY-274614、及びWAY-126090など);キノリン酸(キヌレン酸、7-クロロ-キヌレン酸、7-クロロ-チオキヌレン酸、及び5,7-ジクロロ-キヌレン酸など)、そのプロドラッグ(4-クロロキヌレニン及び3-ヒドロキシ-キヌレニンなど);4-アミノテトラヒドロキノリン-カルボキシラート(L-689,560など);4-ヒドロキシキノリン-2(1H)-オン(L-701,324など);キノキサリンジオン(リコスチネル(licostinel)(ACEA-1021)及びCGP-68,730Aなど);4,6-ジクロロ-インドール-2-カルボキシラート誘導体(MDL-105,519、ガベスチネル(GV-150,526)、及びGV-196,771Aなど);三環式化合物(ZD-9,379及びMRZ-2/576など)、(+)-HA-966、モルフィナン誘導体(デキストロメトルファン及びデキストロファン(dextrophan)など);ベンゾモルファン(BIII-277CLなど);他のオピオイド(デキストロプロポキシフェン、ケトベミドン、デキストロメタドン(dextromethadone)、及びD-モルヒネなど);アミノ-アダマンタン(アマンタジン及びメマンチンなど);アミノ-アルキル-シクロヘキサン(MRZ-2/579など);イフェンプロジル及びイフェンプロジル様化合物(エリプロディル及びPD-196,860など);イミノピリミジン;又は他のNMDAR-アンタゴニスト(ニトロプルシド、D-サイクロセリン、1-アミノシクロプロパン-カルボン酸、ジゾシルピン(MK801)及びその類似体、フェンシクリジン(PCP)、ケタミン((R,S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン)、(R)-ケタミン、(S)-ケタミン、レマセミド(remacemide)及びその脱グリシニル-代謝物(des-glycinyl-metabolite)FPL-12,495、AR-R-15,896、メサドン、スルファゾシン、AN19/AVex-144、AN2/AVex-73、ベソンプロジル、CGX-1007、EAB-318、フェルバメート、及びNPS-1407など)を含むが、これらに限定されない。NMDAR-アンタゴニストは、例えば、“Analgesics,”(H.Buschmann,T.Christoph,E.Friderichs,C.Maul,B.Sundermann,2002,Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,Weinheim,Germanyにより編集された)の特に389頁~428頁に開示される。記載のそれぞれの部分は、参照により本明細書に組み込まれ、本開示の一部を形成する。
【0065】
同定されたNMDARアンタゴニストに加えて、追加の効果的な化合物は、NMDARグルタメート部位アゴニストに対するNMDARを介した応答の調節などの十分に検証された電気生理学的アッセイ、又はNMDAR PCP-受容体チャネル結合部位への結合の調節などの放射線受容体アッセイなどを用いて同定されることができる。グリシン部位アゴニスト及びアンタゴニストは、チャネル部位に結合するフェンシクリジン(PCP)又はケタミンなどの化合物からの受容体結合及び電気生理学の両方に基づいて区別されることができる。部分アゴニストは、完全アゴニストに対して、受容体の立体構造の変化を誘発する効果が低下した化合物(通常40%~80%)として定義される。混合アゴニスト/アンタゴニストは、低用量ではアゴニスト効果を誘発し、高用量ではアンタゴニスト効果を誘発することができる化合物である。
【0066】
記載される方法は、25マイクログラム/mLを超える血液及び/又は血漿濃度をもたらすことを意図した用量で提供されるDCSに関する。血液及び/又は血漿中のD-サイクロセリンレベルは、高圧液体クロマトグラフィーなどの標準的な分析技術を用いて決定されることができることが理解される。
【0067】
D-サイクロセリンの抗うつ病効果に関連する血漿レベルは、強制水泳試験(FST)などの齧歯類の行動試験を用いて決定されることができ、過去に、1-アミノシクロプロパンカルボキシラートACPCなどのNMDARグリシン部位アンタゴニストの効果に感応性を示してきた(Trullas et al.,Eur J Pharmacol.1991;203:379-385)。
【0068】
一般に、自発運動亢進は、齧歯類の類似体の精神異常発現性効果と考えられている。以先の研究では、D-サイクロセリンを160mg/kgまでの用量で投与すると、マウスにおける自発運動活性の有意な増加は見られなかった。それにもかかわらず、D-サイクロセリンは、低用量の非競合的NMDARアンタゴニストMK-801の効果を増強した(Carlsson ML,Engberg G,Carlsson A.Effects of D-cycloserine and (+)-HA-966 on the locomotor stimulation induced by NMDARantagonists and clonidine in monoamine-depleted mice.J Neural Transm Gen Sect.1994;95(3):223-233)。
【0069】
記載されている医薬組成物の2つの活性剤の2つ目は、抗うつ剤である。
【0070】
幾つかの実施形態においては、抗うつ剤は、四環系抗うつ剤(TeCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)再取り込み阻害薬(SNRI)、うつ病の治療のために認可された抗精神病剤、又はその組合せである。記載されている組成物及び方法における使用のための他の抗うつ剤は、当業者によって理解される、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)、TCA(イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、クロミプラミンなどを含むがこれらに限定されない)、TeCA(ミアンセリン、ミルタザピン、セロトニン(SSRI)、及びセロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)(SNRI)再取り込み阻害薬(フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、デュロキセチン、及びベンラファキシンなど)、及び他のものを含む。
【0071】
大うつ病の現在の治療は主に、1960年代に初めて開発されたモノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)及び三環系抗うつ剤(TCA)(例えば、イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、クロミプラミン)などの古い抗うつ剤と、四環系抗うつ剤(TeCA)(例えば、ミアンセリン、ミルタザピン)、セロトニン(SSRI)、及びセロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)(SNRI)再取り込み阻害薬(例えば、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、デュロキセチン、ベンラファキシン、ダポキセチン、インダルピン(indalpine)、ミルナシプラン、レボミルナシプラン)などの新しい薬剤とからなる。MAOIとTCAは、その後開発されたSSRI/SNRIよりも「より広範な範囲の」剤と見なされる。
【0072】
他の抗うつ剤は、異なる作用機序を示す。ブプロピオンは、ノルエピネフリン-ドーパミン再取り込み阻害薬(NDRI)として機能し、禁煙にも認可される抗うつ病医薬である。
【0073】
SNRIは、セロトニン(SERT)対ノルエピネフリン(NET)トランスポーターにおける相対的特異性が異なることがある。例えば、ベンラファキシン、デュロキセチン、及びデスベンラファキシンなどの従来のSNRI剤は、SERT対NETトランスポーターにおける実質的に大きな親和性を示し、ミルナシプラン(milnacipram)及びレボミルナシプランなどの新しい薬剤は、NET対SERTトランスポーターにおけるより安定した親和性を示す。したがって、これらの化合物は、SSRI又は他のSNRIよりもTCAのものとより同等のセロトニン:ノルエピネフリン再取り込み比率を有する。
【0074】
ビラゾドンは、5HT1A受容体でSSRI及び部分アゴニストの両方として機能するという点で非定型抗うつ剤と見なされ、したがって、セロトニン部分アゴニスト及び再取り込み阻害薬(SPARI)と呼ばれる(Schwartz et al.,Vilazodone:A Brief Pharmacological and Clinical Review of the Novel Serotonin Partial Agonist and Reuptake Inhibitor,Ther Adv Psychopharmacol.1:81-87,2011)。セロトニン再取り込み阻害及び5-HT1Aアゴニストの組合せは、他よりもセロトニントランスポーター占有の低い比率で、抗うつ剤として機能すると考えられている(Kohler et al.,J Psychopharmacogy,30:13-22,2016)。
【0075】
ボルチオキセチンは、1)セロトニン輸送阻害剤、2)5-HT1A受容体での部分アゴニスト、及び3)5-HT1B、5HT1D、及び5-HT7受容体の部分アンタゴニストとして機能する点で、多様な抗うつ剤と考えられる(Stahl SM,Modes and nodes explain the mechanism of action of vortioxetine,a multimodal agent(MMA):enhancing serotonin release by combining serotonin(5HT)transporter inhibition with actions at 5HT receptors(5HT1A,5HT1B,5HT1D,5HT7 receptors)CNS Spectrums(2015),20,93-97)。
【0076】
レボミルナシプラン(levopmilnacipran)及びミルナシプランは、SNRIと考えられ、過去に販売されたSNRI剤よりも、セロトニン:ノルエピネフリン(norephinephrine)比率の更に低い比率を有する。したがって、ベンラファキシン、デュロキセチン、及びデスベンラファキシンはいずれも、10:1以上のセロトニン:ノルエピネフリン(noepinephrine)比率を有し、レボミルナシプランは、僅か1.2:1の比率を有し、ミルナシプランは、僅か1.6:1の比率を有する(Sansone RA,Sansone LA .Innov Clin Neurosci.11(3-4):37-42)。したがって、ミルナシプランとレボミルナシプランとの結合プロファイルは、他のSNRIよりもTCAにより類似する。
【0077】
ミルタザピンは、S(+)ミルタザピン(S-ミルタザピンとも呼ばれる)とR(-)ミルタザピン(R-ミルタザピンとも呼ばれる)とのラセミ混合物であり、ノルアドレナリン作動性及び特定のセロトニン作動性抗うつ剤(NaSSA)として機能する。S(+)ミルタザピン及びR(-)ミルタザピンの鏡像異性体は、両方とも薬理学的に活性であるが、相殺効果を有することができる。したがって、例えば、ある研究では、ラセミ体のミルタザピンは、齧歯類の侵害受容アッセイで二相性の効果をもたらしたが、R(-)ミルタザピンは、抗侵害受容効果のみをもたらし、S(+)ミルタザピンは、痛覚促進効果を発揮した(Freynhagen et al.,Brain Res Bull 69:168-173,2006)。鏡像異性体の間でも結合プロファイルの違いが観察され、結合の特定の態様に特異的影響を与え、特定の障害の治療においてラセミ体よりも利点をもたらすことができる。
【0078】
本明細書に記載される抗うつ剤について認可された投与レベルは、米国食品医薬品局(FDA)によって認可された添付文書などの標準的な情報源から決定されることができる。
【0079】
幾つかの実施形態においては、第2の治療薬が単独で提供される場合、第2の治療薬は治療量以下で提供される。
【0080】
提供された組成物は、それを必要とする対象のうつ病、OCD、及び不安障害を治療する方法でにおいて用いられることができ、前記対象は、本明細書に記載されるように、記載された組成物の経口用量が投与される。
【0081】
うつ病を治療する方法の幾つかの実施形態においては、記載された組成物の2つの有効成分は、単一の医薬組成物に提供される。他の実施形態においては、活性剤は、別々に提供される。
【0082】
幾つかの実施形態においては、前記対象は、過去に抗うつ剤による治療を受けている。幾つかの実施形態においては、前記抗うつ剤は、ケタミンである。幾つかの実施形態においては、前記抗うつ剤は、抗-NMDAR剤である。
【0083】
幾つかの実施形態においては、前記対象は、躁病を罹患する、又は幾つかの実施形態においては、前記対象は、双極性障害を罹患する。
【0084】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されるように、本発明は、それを必要とする対象又は集団における発生を軽減する又は自殺や自殺念慮を治療する方法を提供し、前記方法は、前記対象に経口投与レジメンを提供することを含む。このような実施形態においては、前記方法は、それを必要とする対象又は集団に、うつ病の治療のための、又は自殺の発生の軽減若しくは自殺の治療若しくは自殺念慮の治療のための第2の治療薬を投与することを更に含む。
【0085】
幾つかの実施形態においては、前記レジメンは、抗うつ剤である第二の治療薬を投与することを含み、その投与量は、標準の処方ガイドラインに従っている。
【0086】
幾つかの実施形態においては、前記レジメンは、向精神医薬である第2の治療薬を含む。
【0087】
幾つかの実施形態においては、前記医薬組成物は、幾つかの経路のいずれか又は組合せによって患者に投与されることができ、例えば、D-サイクロセリンは、経口的に投与されることができ、本明細書に記載される投与された第2の治療薬は、任意の適切な経路で投与されることができ、例えばそのような第2の治療薬は、経口、静脈内、経粘膜(例えば、鼻、膣など)、肺、経皮、眼、頬、舌下、腹腔内、くも膜下腔内、筋肉内、又は長期のデポ製剤として提供されることができる。
【0088】
幾つかの実施形態においては、経口投与のための固体組成物は、コーンスターチ、ゼラチン、ラクトース、アカシア、スクロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、脂質、アルギン酸、又は制御された緩効性のための成分などの適した担体又は賦形剤を含むことができる。用いられることができる崩壊薬は、微結晶セルロース、コーンスターチ、デンプングリコール酸ナトリウム、及びアルギン酸を含むが、これらに限定されない。用いられることができる錠剤の結合剤は、アカシア、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン、及びエチルセルロースを含むが、これらに限定されない。
【0089】
幾つかの実施形態においては、水又は他の水性溶媒で調製される経口投与用の液体組成物は、活性化合物と共に湿潤剤、甘味料、着色剤、香味料を含む、溶液、エマルジョン、シロップ、及びエリキシル剤を含むことができる。治療される患者の肺への吸入のための従来の方法により、種々の液体及び粉末組成物が調製されることができる。
【0090】
幾つかの実施形態においては、前記第2の治療薬は、注射用の組成物として配合されることができ、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)などの種々の担体を含むことができる。
【0091】
幾つかの実施形態においては、前記第2の治療薬は、静脈内注射として配合されることができ、化合物は、点滴法により投与されることができ、それにより、活性化合物及び生理学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が注入される。
【0092】
生理学的に許容される賦形剤は、例えば、5%デキストロース、0.9%までの食塩水、リンガー溶液、又は他の適した賦形剤を含むことができる。筋肉内製剤にとって、前記化合物の適した可溶性塩形態の滅菌組成物は、注射用水、0.9%食塩水、又は5%グルコース溶液などの医薬賦形剤に溶解又は投与されることができ、化合物のデポ形態(例えば、デカン酸、パルミチン酸、ウンデシレン酸、エナン酸)は、ゴマ油中に溶解されることができる。若しくは、医薬組成物は、チューインガム、ロリポップなどとして配合されることができる。
【0093】
本明細書に記載される投与レジメン及び方法は、D-サイクロセリンを経口投与することにより到達する最適条件を表すが、当業者であれば、初回通過代謝を受けない経路でD-サイクロセリンを投与することにより、同じ達成された血漿レベルで低い投与量を達成することができることを理解するであろう。この態様によれば、前記投与量は、本明細書に記載される経口投与レジメンにおいて示されるように、比例的に低い投与量で、調節し、適宜増減し(staggered)、非経口投与経路に適応させることができ、そのような変更は、本発明の具体化されたレジメンであると見なされるべきである。
【0094】
また、当業者であれば、例えば腸溶コーティングを適用することにより、低減された胃分解を受けた製剤において、D-サイクロセリンを投与することにより、同じ達成された血漿レベルでより低い投与量が達成されることができることも理解するであろう。
【0095】
他の実施形態においては、本明細書に記載される製剤、特に経口製剤に関しては、緩効性錠剤製剤を含むことが想定される。そのような緩効性錠剤製剤は、例えば、イフェクサー(ベンラファキシン)又はセロクエル(クエチアピン)などの例えば、公知の抗うつ病医薬を含む市販の製剤を含み、いずれも拡大した長さ(extended length)(XR)製剤において既に利用可能であり、製剤は、更にD-サイクロセリンを組み込むように改変されることができる。
【0096】
他の実施形態においては、本明細書に記載される製剤は、特に経口製剤に関して、短時間作用型製剤と持続放出型製剤の両方を含むことが想定される。持続放出型製剤は、特に、薬物のピークレベルとトラフレベルとの差を最小化するという利点を有し、それによって有効性を増加する、及び/又は医薬の副作用を低減する。
【0097】
本明細書に記載されるレジメンの製剤化方法は公知であり、当業者であれば、本明細書に記載される経口投与レジメンを調製することが容易であることを理解するであろう。出願人は、例えば、Gibaldi’s Drug Delivery Systems in Pharmaceutical Care,Desai A & Lee M(eds),Bethesda,Md.:American Society of Health-System Pharmacists,2007を参照する。
【0098】
D-サイクロセリンは、ヒトにおける比較的短い半減期を有するので、BID投与に現在用いられている。発明の幾つかの実施形態においては、BID投与が想定される。この態様によれば、且つ幾つかの実施形態においては、このような考慮は、それにも関わらず、本明細書で定義されたレジメンについて記載されている毎日の投与量を超えないことを保証する。
【0099】
発明の幾つかの実施形態においては、D-サイクロセリンは、その循環する半減期を増加させるためにマイクロカプセル化される。この態様によれば、且つ幾つかの実施形態においては、マイクロカプセル化された化合物は、既に1日1回投与されている抗うつ病医薬(例えば、セルトラリン、シタロプラム、アリピプラゾール)と組み合わされ、抗うつ剤(CNS副作用のリスクを増加させる)を伴うことなくサイクロセリンを服用できないことを保証する。若しくは、薬物は、分割された用量で既に一般に投与されている抗うつ剤化合物と組み合わせることもでき(例えば、ベンラファキシン、クエチアピン)、その後2つの薬物を共通してマイクロカプセル化し、2つの成分間で同様の半減期を有する1日1回製剤を生成することができる。コーティング材料又はマトリックス系の経口送達系の使用など、(Doshi DH,Oral Drug Delivery Systems,in Gibaldi’s Drug Delivery Systems in Pharmaceutical Care,Desai A & Lee M(eds),Bethesda,Md.:American Society of Health-System Pharmacists,2007.pp.23-43参照)における標準手法を用いたマイクロカプセル化。例えば、1つの手法においては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシルプロピルセルロースなどのゲル化剤と薬物を混合し、化合物の放出を遅らせる水と接触すると親水性マトリックス(ゲル)を形成する。放出特性は、当技術分野で知られているように、特定のゲル化剤の選択により制御されることができる(例えば、米国特許第5,948,437号明細書;欧州特許第20040765928号明細書、米国特許第7,807,195号明細書参照)。
【0100】
放出の制御に用いられることができるその他の化合物は、セルロース、エチルセルロース、ゼラチン、ヒプロメロース、酸化鉄、及び酸化チタンを含む。幾つかのマトリックス系においては、薬物の放出は、ポリマーの侵食ではなく、主にマトリックスの細孔を介した拡散によって制御される。薬物送達は、塗布膜を横切る浸透勾配により放出が制御されるリザーバー型系の使用により制御されることもできる。異なるマイクロカプセル化特性を有する顆粒を含むカプセルを製造することができ、混合して所望の放出率を有する組成物を達成することができる。
【0101】
発明の1つの実施形態においては、1以上の薬学的に許容される賦形剤と共に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのゲル化剤を用いて、クエチアピン又はその薬学的に許容される塩と一緒に、D-サイクロセリンをマイクロカプセル化する。幾つかの実施形態においては、徐放性製剤は、1以上の薬学的に許容される賦形剤と共に、ゲル化剤、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロース、D-サイクロセリン、クエチアピン、及びその薬学的に許容される塩を含む親水性マトリックスを含む。
【0102】
記載されるように、本明細書で提供される治療の方法は、うつ病及び他の神経精神状態の治療のために少なくとも2つの有効成分を対象に投与することを含む。
【0103】
NMDARは、うつ病、強迫性パーソナリティ障害(OCD)、外傷後ストレス障害(PTSD)又は他のストレス関連障害(SD)などの障害、並びにうつ病性特性、不安性特性、又は混合性特性を有する適応障害などの不安障害に過剰であることがある長期増強と呼ばれるプロセスを媒介する。NMDAR過剰障害は、磁気共鳴分光法(MRS)を用いて検出される、減少された脳のグルタメート+グルタメート(Glx)など、客観的な生物学的マーカーによって特定されることができる(例えば、Milak et al.,.Mol Psychiatry.2016;21(3):320-7;Kantrowitz et al..Am J Psychiatry.2016;173(12):1241-2)。
【0104】
大うつ病は、悲しい気分が持続したり、活動に興味を失ったりすることを含む臨床症候群であり、治療が行われない場合で少なくとも2週間持続する。大うつ病の症状は通常、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)又はベックうつ病質問票(BDI)などの評価尺度を使用して測定される。抑うつ気分に関連する症状を含めることに加えて、HAM-Dには、罪悪感、離人症/現実感消失、及び偏執病のための項目を含む精神病に敏感な症状も含まれる。
【0105】
大うつ病は、不安の症状にも関連することがあり、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)などの評価尺度で測定されることができる。うつ病性障害は、大うつ病(MDD)と双極性うつ病(BPD)に分類され、米国精神医学会によって出版され、精神障害の追加説明も提供するDiagnostic and Statistical Manual,5th edition(DSM-5)に記載されている基準を用いて、診断されることができる。大うつ病は、メランコリー型の特徴を伴う場合と伴わない場合もある。更に、全般性不安障害、解離性障害、パーソナリティ障害、又は抑うつ気分を伴う適応障害などの不安障害の状況において、抑うつ症状が発生することがある(DSM-5)。
【0106】
うつ病の他の形態は、非定型うつ病、激越性うつ病、感情的特徴が混在するうつ病、気分循環症、軽度気分変調性うつ病、及び抑うつ気分を伴う適応障害を含む。双極性うつ病は、躁病エピソードの有無に基づいて、双極I型と双極II型に分類されることができる。双極性障害では、抑うつ症状は、うつ病エピソード、又は躁病とうつ病の症状が同時に又は急速に起こる混合状態のいずれかの状況で発生することができる。一部の個人では、躁病及びうつ病エピソード間の急速なサイクリングも発生することがある。
【0107】
記載された方法における第1の治療薬は、本明細書に記載された正味アンタゴニスト用量で提供されるDCSなどのNMDARアンタゴニストを含む。方法は、うつ病の治療のための第2の治療薬を前記対象に投与することを更に含む。特定の実施形態においては、第2の治療薬は、NMDARアンタゴニストと同じ組成物において投与される。他の実施形態においては、個別に投与される。
【0108】
この態様によれば、方法は、第2の治療薬の投与のタイミングの点で限定されず、本発明の方法は、既に第2の治療薬で治療された対象又はD-サイクロセリン及び第2の治療薬で同時に治療された未経験(naive)の対象を考慮し、幾つかの実施形態においては、最初にD-サイクロセリンで治療された対象は、第2の治療薬が投与され、これらのシナリオのそれぞれは、本発明の実施形態を表す。そのような第2の治療薬は、本明細書に記載される任意の剤であり、四環系抗うつ剤(TeCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)再取り込み阻害薬(SNRI)、非定型抗うつ剤、うつ病の治療のために認可された抗精神病剤、又はこれらの組合せを含む。
【0109】
幾つかの実施形態においては、本発明の方法/使用に従って、レジメンは、前記対象に前記第2の治療薬のみを治療するとき、前記対象にうつ病の治療をするのに最適以下と考えられる投与量で第2の治療薬を投与することを含む。
【0110】
幾つかの実施形態においては、治療の方法は、対象又は集団における発生を低下させること又は自殺又は自殺念慮を治療することに向けられている。幾つかの実施形態においては、本発明の記載された使用に従った薬は、対象又は集団における発生を軽減する又は自殺や自殺念慮を治療するための第2の治療薬を更に含む。
【0111】
この態様によれば、方法は、第2の治療薬の投与のタイミングの点で限定されず、本発明の方法は、既に第2の治療薬で治療された対象若しくは集団、又はD-サイクロセリン及び第2の治療薬で同時に治療された未経験(naive)の対象若しくは集団を考慮し、幾つかの実施形態においては、対象又は集団は、最初にD-サイクロセリンで治療され、その後第2の治療薬が投与され、これらのシナリオのそれぞれは、本発明の実施形態を表す。そのような第2の治療薬は、本明細書に記載される任意の剤であり、四環系抗うつ剤(TeCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)再取り込み阻害薬(SNRI)、非定型抗うつ剤、対象又は集団に発生を軽減する又は自殺又は自殺念慮を治療するために認可された抗精神病剤、又はその組合せを含む。
【0112】
幾つかの実施形態においては、本発明の方法に従って、前記レジメンは、対象に前記第2の治療薬のみを治療するとき、発生を軽減する又は自殺又は自殺念慮を治療するのに最適以下と考えられる投与量で、前記対象又は集団に第2の治療薬を投与することを含む。
【0113】
Textbook of INTERNAL MEDICINE,Kelley,et al.(eds.),Part X:Neurology,Chapter 469:Major Psychiatric Disorders,(J.Lippincott Co.,Philadelphia),pp.2198-2199(1992)に記載されるように、うつ病は生涯を通じて発生する可能性があり、女性では男性の少なくとも2倍の頻度で見られる。患者は、多くの場合、うつになっている主観的な感覚を有さず、うつ病の身体症状、最も一般には疲労、睡眠障害、又は無気力を訴える。患者は、悲しい、憂鬱である、塞ぎ込む、いらいらする、又は不安を感じるという感情、及び抑うつになっている感情を示すことがある。大うつ病の診断は、突出した明確な気分の変化であり、一般に1日を通して持続し、少なくとも2週間毎日生じる、又は同様の期間に亘って、殆どの活動における関心又は快感が著しく減少される。診断では、下記の症状の少なくとも4つが2週間の期間にほぼ毎日存在している必要がある:著しい体重減少(又は一部の若い患者では体重増加)、顕著な睡眠障害、激越又は会話の遅滞を含む精神運動抑制(retardation)、疲労、無価値感及び罪悪感、思考の遅滞、及び絶望。
【0114】
うつ病は、同様に、疾患の症状(例えば、全身性エリテマトーデス)に、又は疾患の治療の副作用として(例えば、降圧療法による)関連することがある。うつ病の1つの形態である産後うつ病は、出産後の期間に女性に共通して見られる。
【0115】
したがって、本発明の方法及び材料は、本明細書に記載されるように、うつ病又は他の疾患に関連するうつ病の症状の治療に適している。
【0116】
幾つかの実施形態においては、この態様によれば、対象は、うつ病の治療のために第2の治療薬を先に投与されている、又は同時に投与されている。
【0117】
幾つかの実施形態においては、この態様によれば、第2の治療薬は、本明細書に記載されるように、例えば、四環系抗うつ剤(TeCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン/ノルエピネフリン(norephinephrine)再取り込み阻害薬(SNRI)、又は低下したセロトニン作動性効果を有する非定型抗うつ剤、うつ病の治療における使用のために認可された抗精神病剤、及びその組合せなどのいずれかの剤を含む。
【0118】
幾つかの実施形態においては、本態様に従って、対象に第2の治療薬のみを治療するとき、前記対象にうつ病を治療するのに最適以下と考えられる投与量で前記第2の治療薬を投与する。
【0119】
幾つかの実施形態においては、本発明は、それを必要とする対象におけるうつ病の治療のために>500mg/日~<1000mg/日の投与量で経口投与のために配合される薬の調製におけるD-サイクロセリンの使用を更に提供し、用量は、25マイクログラム/mL~35マイクログラム/mLの持続された血漿レベルをもたらすように配合される。
【0120】
幾つかの実施形態においては、本態様によれば、本発明は、それを必要とする対象におけるうつ病の治療のために10mg/kg/日~25mg/kg/日の用量で経口投与のために配合される薬の調製におけるD-サイクロセリンの使用を更に提供し、用量は、25マイクログラム/mL~35マイクログラム/mLの持続された血漿レベルをもたらすように配合される。前述のDCS投与量は、本明細書に記載される組成物及び方法の全てに適用可能であることが理解される。
【0121】
幾つかの実施形態においては、D-サイクロセリン投与によりもたらされる血漿レベルは、投与後30分間から2時間持続される。
【0122】
幾つかの実施形態においては、態様によれば、D-サイクロセリン投与によりもたらされる血漿レベルは、投与後30分間から12時間持続される。
【0123】
本発明の方法による治療を受けている対象は、うつ病の有意な改善を経験することができる。幾つかの実施形態においては、うつ病の代替治療で治療された対象と比較して、本発明の方法に従って治療された対象は、臨床的に認められているうつ病の評価方法(例えば、21項目のハミルトンうつ病評価尺度)で測定すると、より大きな改善、又はより長期にわたる改善を経験する。他の薬剤が一般に全ての患者に利益をもたらすわけではないように、全ての対象が本発明の方法から利益を得るわけではないことに留意すべきである。
【0124】
下記の実施例は、特定の特徴及び/又は実施形態を説明するために提供される。これらの実施例は、記載された特定の特徴又は実施形態に開示を限定するものと解釈されるべきではない。
実施例
【0125】
実施例1;齧歯類におけるD-サイクロセリンの自発運動亢進効果及び抗うつ剤の効果の実証
この研究では、抗うつ剤の存在下又は非存在下で、D-サイクロセリン投与後の齧歯類のオープンフィールド試験を用いて、D-サイクロセリンの精神運動効果を評価した。
【0126】
全ての試験は、PsychoGenics Inc,765 Old Saw Mill River Road,Tarrytown,NY 10591,USAで実施された。
【0127】
Jackson Laboratories(Bar Harbor、Maine)から雄のC57BL/6Jマウス(8週齢)を使用した。受領時に、特有の識別番号(尾に印を付ける)をマウスに割り当て、OPTImiceケージにグループで収容した。全ての動物は、試験前に1週間コロニー室に馴化させた。馴化期間中、動物を定期的に調査し、取り扱い、体重を測定して、適切な健康と適合性を保証した。動物を12/12明/暗サイクルで維持した。室温を20℃~23℃で維持し、相対湿度を30%~70%で維持した。研究期間中、食物と水は自由に提供された。全ての試験を動物の明るいサイクルの段階で実施した。
【0128】
試験化合物は、下記を含んだ。
・D-サイクロセリン(300mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、オープンフィールド試験において10mL/kgの用量体積でIP投与をした。
・ブプロピオン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・デシプラミン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・セルトラリン(20mg/kg)を滅菌水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・ベンラファキシン(40mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・デュロキセチン(40mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・フルオキセチン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・イミプラミン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・シタロプラム(10mg/kg)を食塩水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・レボミルナシプラン(40mg/kg)を滅菌水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前にmL/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルナシプラン(40mg/kg)を滅菌水に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前にmL/kgの用量体積でIP投与した。
・ビラゾドン(1mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・ボルチオキセチン(10mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、オープンフィールド試験においてD-サイクロセリン30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
【0129】
赤外線光束(16×16×16)に囲まれたPlexiglas正方形チャンバー(27.3cm×27.3cm×20.3cm;Med Associates Inc.、St Albans、VT)を用いて、オープンフィールド(OF)試験を実施し、水平及び垂直活動を測定した。試験前に、少なくとも1時間実験室条件へ馴化させるために、マウスを活動実験室に運んだ。動物に溶媒又は試験化合物を投与し、OFに入れた。D-サイクロセリンの効果を評価するために、試験チャンバーに入る前に、マウスにDCSを注射し、活動を60分間観察した。若しくは、アンフェタミン(4mg/kg)又はフェンシクリジン(5mg/kg)による摂取30分前に溶媒又はD-サイクロセリンを投与し、溶媒又はD-サイクロセリン投与後60分間、活動を合計した(summed)。他の条件では、動物を溶媒又は抗うつ剤で処置し、その後ベースライン活動を30分間記録した。その後、マウスはDCS注射を受け、60分間のセッションのためにOFチャンバーに戻した。各OFテストセッションの終了時に、OFチャンバーを徹底的に清掃した。
【0130】
データを分散分析(ANOVA)によって分析し、その後、必要に応じてFishersのLSD試験を用いて、事後比較を行った。p<0.05であれば、効果は有意であると考えられた。
【表1】
【0131】
結果:30mg/kg~1000mg/kgの用量で溶媒又はD-サイクロセリンを投与した後30分間、用量反応を評価した。全ての条件に亘って、非常に有意な効果があった(F=19.0、df=3,35、p<0.001)。自発運動活性は、30mg/kg(p=.5)の用量で投与されたD-サイクロセリンでは有意に影響されなかったが、300mg/kg(p<.001)及び1000mg/kg(p<.001)両方のD-サイクロセリンの用量で有意に増加した(表1)。
【0132】
NDRI(ブプロプリオン)、三環系抗うつ剤(デシプラミン、イミプラミン)、高セロトニン作動性輸送(SERT)阻害活性に関連したSSRI/SNRI(セルトラリン、ベンラファキシン、デュロキセチン、フルオキセチン、シタロプラム)対ノルエピネフリントランスポーター又は5-HT1A受容体などの、他の標的に対し低セロトニン作動性輸送阻害活性に関連した新しい剤(レボミルナシプラン、ミルナシプラン、ビラゾドン、ボルチオキセチン)を含む薬物タイプに応じて、条件を分けたとき、薬物クラス間で予期しない違いが観察された(表2)。
【0133】
全ての医薬タイプに亘り、治療タイプの非常に有意な主作用があった(F=12.5、df=3,116、p<0.001)。抗うつ剤の中で、最も高いレベルの活性(最も大きな精神異常発現性効果)は、従来のSSRI/SNRI又はブプロピオンのいずれかと組み合わされたDCSで観察された。対照的に、従来のSSRI/SNRIに対して、TCA(p<0.001)又は新しいSNRI/非定型抗うつ剤(p<0.001)と組み合わされたDCSで、自発運動活性は有意に低かった。更に、従来のSSRI/SNRIよりもミルナシプラン/レボミルナシプラン(p=0.003)、ビラゾドン(p=0.007)、及びボルチオキセチン(p=0.014)との組合せで、自発運動活性は有意に低く、D-サイクロセリンと組み合わされたこれらの剤の有意な個々の有用性を示唆する。
【表2】
【0134】
これは、D-サイクロセリン単独で齧歯類における自発運動亢進をもたらし、臨床的精神異常発現性効果の暗示を示すことを認識した最初の研究である。160mg/kgの用量で投与されたD-サイクロセリンの有意な効果を示さない以前の研究(Carlsson et al.,J Neural Transm 95:223-233,1994)と共に考慮すると、これらの知見は、精神異常発現性効果が25マイクログラム/mLを超える血漿レベルで優先的に観察されることを実証する(実施例3参照)。
【0135】
これも、従来のSSRI/SNRI又はブプロピオン、ドーパミン-ノルエピネフリン再取り込み阻害薬に対して、TCA又は新しい抗うつ剤であるビラゾドン、ボルチオキセチン、ミルナシプラン、及びレボミルナシプランなどの剤において示される優先的な効果をもって、D-サイクロセリンの存在下で、抗うつ剤が自発運動亢進において特異的影響を示すことを認識した最初の研究である。
【0136】
新しいSNRIと非定型抗うつ剤は、セロトニントランスポーター以外の標的に対する高い特異性を有する点で、従来の医薬とは異なり、TCAに比較的より類似している。これらの知見は、新しいSNRI/非定型抗精神病剤が、血漿レベル>25マイクログラム/mLに関連するD-サイクロセリン用量との組合せで優先的に有益な活性を有することを予期せず示し、それによって高用量のD-サイクロセリンと新しい抗うつ剤に関する組合せの予期しない有用性を示す。
【0137】
実施例2:NMDARアンタゴニスト単独、及び抗うつ剤と組み合わされたNMDARアンタゴニスト、及び齧歯類の強制水泳試験における抗うつ剤の効果
この研究では、齧歯類の強制水泳試験を用いて、NMDARアンタゴニストの抗うつ病効果を評価した。NMDARアンタゴニストは、単独で及び特定の抗うつ剤と組み合わせて研究された。
【0138】
全ての試験は、PsychoGenics Inc,765 Old Saw Mill River Road,Tarrytown,NY 10591,USAで実施された。
【0139】
Jackson Laboratories(Bar Harbor、Maine)から雄のBalbC/Jマウス(8週齢)を使用した。受領時に、特有の識別番号(尾に印を付ける)をマウスに割り当て、OPTImiceケージにグループで収容した。全ての動物は、試験前に1週間コロニー室に馴化させた。馴化期間中、動物を定期的に調査し、取り扱い、体重を測定して、適切な健康と適合性を保証した。動物を12/12明/暗サイクルで維持した。室温を20℃~23℃で維持し、相対湿度を30%~70%で維持した。研究期間中、食物と水は自由に提供された。全ての試験を動物の明るいサイクルの段階で実施した。
【0140】
マウスは、試験開始の少なくとも1時間前に試験室に馴化させた。強制水泳試験は、各試験動物につき、23℃±2℃の温度及び12cmの深さ(約800ml)での新鮮な水道水を含む個々の不透明なシリンダー(15cm長×10cm幅、1000mlビーカー)における1回の6分間のセッションの強制水泳からなる。6分間の試行に亘って動物が不動で過ごした時間を記録した。セッションの開始から1分ごとに累積不動時間を記録し、研究データ記録シートに記録した。不動は、水に浮かぶ姿勢維持位として定義した。動物は一般に、背中が僅かに曲がり、動きがない状態又は手足の動きが僅かに安定化された状態で頭が水の上にある状態で観察された。水泳試験の後、各動物を、加熱パッドを備えた予熱されたケージに入れ、乾燥させた。
【0141】
この試験で不動を表すために用いられた主変数は、6分間の試験期間中の合計不動時間だった。対照条件に対するDunnett事後試験を用いた分散分析(ANOVA)、又は必要に応じてt-検定によって、統計を実施した。
【0142】
NRI、SSRI、SNRI、TeCA、非定型、及び多様な抗うつ剤はいずれも、うつ病の治療において必要性を示した。この実施例においては、様々な抗うつ剤に亘って相加効果の可能性を評価した。実施例1で説明したように、強制水泳試験を使用した。試験された化合物は、下記の通りである。
・D-サイクロセリン(DCS300mg/kg)をPTS溶媒に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・ブプロピオン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・デシプラミン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・イミプラミン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・セルトラリン(20mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・ベンラファキシン(40mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・デュロキセチン(40mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・フルオキセチン(10mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・シタロプラム(10mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・レボミルナシプラン(40mg/kg)を滅菌水に溶解し、試験30分前にmL/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルナシプラン(40mg/kg)を滅菌水に溶解し、試験30分前にmL/kgの用量体積でIP投与した。
・ビラゾドン(1mg/kg)をPTS溶媒に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・ボルチオキセチン(10mg/kg)をPTS溶媒に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルタザピン(5mg/kg)をPTS溶媒に溶解し、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
【0143】
結果を
図2に示す。DCS300mg/kgの効果は、試験した全ての剤に亘って非常に有意であった。特定の有益な効果は、ブプロピオン、セルトラリン、及びデュロキセチンで観察され、組み合わされた抗うつ剤及びDCS300mg/kgの効果は、どちらの剤単独よりも有意に大きかった。
【0144】
D-サイクロセリン(DCS)単独の結果を
図1に示す。DCSは、30mg/kgの用量での強制水泳試験アッセイで有意な効果を有さなかった。対照的に、DCSは、100mg/kg以上の用量で投与される場合、統計的に有意な(p<.001)減少を有した。
【0145】
組み合わされたDCS及び抗うつ剤の結果を
図2に示す。全ての場合において、組み合わされた処置及び対照(DSCのない条件)の間における差で反映され、DCSの効果は特定の剤の存在下で維持された。ブプロピオン、TCA、セルトラリン、ベンラファキシン、デュロキセチン、フルオキセチン、ボルチオキセチン、及びミルタザピンとの組合せで、特定の追加の有益な効果が観察された。ブプロピオン、セルトラリン、及びデュロキセチンとの組合せは、DCS単独よりもより大きな効果をもたらす。
【0146】
実施例3:齧歯類におけるD-サイクロセリンの薬物動態
この研究では、齧歯類におけるD-サイクロセリンの薬物動態を評価した。この研究では、上記の実施例で示されたDCSの抗うつ病効果が、>25マイクログラム/mLの持続された血中DCSレベルをもたらす処置レベルで特異的に観察されるという仮説を試験する。
【0147】
この研究において、Jackson Laboratories(Bar Harbor、Maine)から雄のC57BL/6Jマウス(8週齢)を使用した。D-サイクロセリン(30mg/kg、100mg/kg、300mg/kg、500mg/kg、及び1000mg/kg)をPTS溶媒(5%PEG200:5%Tween80:90%NaCl)に溶解し、10mL/kgの用量体積でIP投与した。
【0148】
各処置グループについて、合計12匹のマウスに投与し、30分間、60分間、及び120分間で4匹のマウスを集めた。平均血漿レベルを30分間~60分間の期間に亘って計算した。
【0149】
血漿中のDCSの分析は、Acquity UPLCクロマトグラフシステム及びQuattro Premier XEトリプル四重極質量分析計(いずれもWatersから)からなるUPLC/MS/MSシステムを用いて実施した。5ng/mLのLLOQを提供した5分間(合計実行時間)のHILIC方法論を用いて、DCSの単離を達成した。
【0150】
実験の結果を表1に示す。示されるように、末梢性のD-サイクロセリン投与は、30分間~60分間の期間の血漿D-サイクロセリンの用量依存的増加に関連していた(p<.0001)。30mg/kgDCS治療に関連する血漿レベルは、25マイクログラム/mL未満の平均血漿レベルに関連していた。100mg/kg用量以上に関連する血漿レベルは全て、25μg/mLと有意に異なっていた(p<.001)。最大耐量は、500mg/kg~1000mg/kgであり、約500μg/mLの最大耐血中レベル(maximum tolerated blood level)を示唆する。
【0151】
これらの知見は、齧歯類における抗うつ効果に関連する血中D-サイクロセリンレベル(300mg/kg)が25マイクログラム/mLを超える血漿レベルをもたらすという実証を提供する。
【表3】
【0152】
実施例4:組み合わされたDCS+抗うつ剤の抗うつ効果及び抗不安効果
実施例1で述べられるように、ミルタザピン+D-サイクロセリンの組合せでは、有意な有益な効果が観察された。ミルタザピンは、R-ケタミンとS-ケタミンの2つの立体異性体からなるラセミ化合物である。ここでは、強制水泳試験の活性における異性体の相対的効果を評価した。
【0153】
試験化合物は、PTS溶媒に溶解された、上記記載の配合されたDCS、及びミルタザピン、R-ミルタザピン、及びS-ミルタザピン(5mg/kg)を含み、試験30分前に10mL/kgの用量体積でIP投与した。
【0154】
結果を表4に示す。示されるように、対照に対する非常に有意なp値によって示される通り、非常に有意に有益な効果は、全ての組合せで観察された。全ての組合せにおいて、DCS対DCS無しにおける有意なp値によって示されるように、DCSはまた、ミルタザピン又はその異性体の抗うつ病効果を有意に追加した。最後に、2つの化合物間の有意な値によって示されるように、組み合わされたDCS+R-ミルタザピン対DCS+S-ミルタザピンにおいて、有意に大きな有益な改善が認められた。R-ミルタザピンとラセミ体ミルタザピンは、統計的に違いはなかったが、DCSの非存在下と存在下の両方で、R-ミルタザピン対ラセミ体ミルタザピンの存在下で、不動の減少は数値的に大きかった。
【0155】
これらの研究は、R-ミルタザピン+DCS対他の組合せの予期しない優先的な効果を実証する。
【表4】
をケージから、覆われていないガラス玉の数を数えた。少なくとも3分の2が床敷きで覆われている場合、ガラス玉は覆い隠されていると見なした。
【0156】
下記の化合物を用いた。全ての化合物は、10ml/kgの用量体積で投与した。
・D-サイクロセリン(Sigma、DSC;30mg/kg及び300mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルタザピン(Sigma、5.5mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・パロキセチン(Sigma、5mg/kg)をガラス玉覆い隠し試験におけるポジティブリファレンスとして用いた。この化合物を20%シクロデキストリンに溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・組合せDSC(300mg/kg)+ミルタザピン(5.5mg)を、試験30分前に10ml/kgの用量体積で単回投与におけるカクテルとして、IP投与した。
下記の試験グループのそれぞれにおいて、10頭のマウスを試験した。
・溶媒(5%PEG200;5%Tween80;90%食塩水)
・パロキセチン(5mg/kg)
・ミルタザピン(5.5mg/kg)
・D-サイクロセリン(30mg/kg)
・D-サイクロセリン(300mg/kg)
・D-サイクロセリン(300mg/kg)+(ミルタザピン5.5mg/kg)
【0157】
この研究の結果を
図3に示す。一元配置分散分析(One-Way ANOVA)では、有意な治療効果を見出した。事後比較では、パロキセチン(5mg/kg)及びミルタザピン(5.5mg/kg)が、溶媒と比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させたことを実証した。いずれかの用量のD-サイクロセリン(30mg/kg及び300mg/kg)による動物の治療は、この測定に影響を及ぼさなかった。D-サイクロセリン(300mg/kg)及びミルタザピン(5.5mg/kg)の組合せは、溶媒とミルタザピン(5.5mg/kg)のみと比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させた。
【0158】
これらの知見は、NMDARアンタゴニスト、300mg/kg用量で投与されたDCSと、不安、OCD、及びPTSDに関連する挙動における抗うつ剤ミルタザピンとの間の有意な予期しない相乗作用を実証し、PTSDの治療におけるNMDARアンタゴニスト及び抗うつ剤の組合せを支持する。
【0159】
実施例6:ガラス玉覆い隠しにおけるミルタザピンのR-異性体及びS-異性体の特異的影響
ミルタザピンは、別々のR(-)異性体及びS(+)異性体のラセミ混合物である。追跡研究では、2つの異性体の相対的な効果を個別に評価した。方法は、実施例3と同じである。試験化合物は、下記の通りである。
・5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)を試験30分前に10ml/kgの体積用量でIP投与した。
・パロキセチン(5mg/kg)を食塩水に溶解し、試験30分前に10ml/kgの体積用量でIP投与した。
・D-サイクロセリン(Sigma、DSC;300mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・ミルタザピン(Sigma、1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・S-ミルタザピン(TRC、1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
・R-ミルタザピン(TRC、1mg/kg、2.5mg/kg、5.0mg/kg、及び10mg/kg)を5%PEG200:5%Tween80:90%食塩水(PTS)に溶解し、試験30分前に10ml/kgの用量体積でIP投与した。
【0160】
ガラス玉覆い隠し行動におけるパロキセチン、ミルタザピン、S-ミルタザピン、R-ミルタザピン、及びD-サイクロセリンの効果は、
図4に示される。一元配置分散分析は、有意な治療効果を見出した。事後比較は、パロキセチン(5mg/kg)、ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、及び10mg/kg)、S-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、10mg/kg)、並びにR-ミルタザピン(10mg/kg)は、溶媒と比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させたことを実証した。R-ミルタザピン(1mg/kg、2.5mg/kg、及び5mg/kg)は、この測定に影響を及ぼさなかった。S-ミルタザピンの効果は、ラセミ体ミルタザピンよりも有意により強く、R-ミルタザピンの効果は、強くなく(
図2)、OCD及びPTSDを含む不安関連症状の治療において、ラセミ体よりもS-異性体の優位性を示す。
【0161】
3つのミルタザピン製剤(ラセミ体、R-、S-)に亘って、先の知見を支持するDCS治療の非常に有意な主作用(F=27.2、df=1,54、p<0.001)があった。ミルタザピン(2.5mg/kg)単独(p<0.01)と比較して、ミルタザピン(2.5mg/kg)+DSC(300mg/kg)の組合せは、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させた。更に、R-ミルタザピン(2.5mg/kg)+DSC(300mg/kg)の組合せは、R-ミルタザピン(2.5mg/kg)+PTS溶媒(p<0.01)の組合せと比較して、覆い隠されたガラス玉の数を有意に減少させた。S-ミルタザピンの存在下では、DCSの非存在下と存在下の両方でフロアレベル(floor level)の効果が観察されたので、比較を実行できなかった。
【0162】
開示された発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮して、図示された実施形態は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでないことを認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって、これらの特許請求の範囲及び精神に含まれる全てのものを発明として主張する。