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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】反応媒体への固体の連続溶解プロセス
(51)【国際特許分類】
   B01F 25/50 20220101AFI20230707BHJP
   B01F 21/00 20220101ALI20230707BHJP
   B01F 23/50 20220101ALI20230707BHJP
   B01J 8/02 20060101ALI20230707BHJP
   C07D 279/20 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
B01F25/50
B01F21/00 102
B01F23/50
B01J8/02 Z
C07D279/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019570821
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2018067357
(87)【国際公開番号】W WO2019007786
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】102017211435.5
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ビレール
(72)【発明者】
【氏名】トルシュステン ノル
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-517982(JP,A)
【文献】特開2002-255895(JP,A)
【文献】特開2007-191435(JP,A)
【文献】特表2004-502683(JP,A)
【文献】国際公開第2010/016493(WO,A1)
【文献】米国特許第05137694(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00 - 21/20
B01F 23/50 - 23/57
B01F 25/50 - 25/54
C07B 31/00 - 61/00
C07B 63/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
C07D 279/20
B01J 8/02 - 8/06
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応媒体への固体の連続溶解プロセスであり、
a)第1反応容器から反応媒体の一部を回収することにより液体を準備する工程と、
b)工程a)で準備した液体を、第2反応容器内で、液体が通過する固定床の形で存在している固体と接触させ、固体の溶液を生成する工程と、
c)工程b)で生成された溶液を第1反応容器に再循環する工程と、
を有するプロセスであって、
該反応媒体が、一般式R-C(O)-O-C(O)-Rの少なくとも1つの不飽和カルボン酸無水物、一般式R-COOHの少なくとも1つの不飽和カルボン酸、少なくとも1つの脂肪族カルボン酸無水物、又は少なくとも1つの脂肪族カルボン酸を含むものであり(式中、Rはハロゲン原子またはシアノ基で置換又は未置換の2~12個の炭素原子を有する不飽和有機基である。)、
該固体が、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、フェノチアジン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシル(TEMPOL)、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、1,4-ベンゾキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-α-(ジメチルアミノ)-p-クレゾール及び2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノンから選ばれる1種又は2種以上の重合禁止剤であることを特徴とするプロセス。
【請求項2】
反応溶媒が液体または気相と液相との混合物であり、ガス成分が工程a)での回収時に液化される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
反応媒体が、少なくとも2つの化学成分を含み、かつ工程a)での回収の前または最中に、反応媒体の回収部分が反応媒体と異なる組成を有するように分離プロセスにかけられる、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
第1反応容器が、工程a)における回収が行われる精留塔を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
工程b)において、液体が固定床を下から上に通過する、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
第2反応容器が、並列に接続された2つ以上の固定床を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
工程a)で回収された反応媒体の一部を2つのサブストリームに分割し、そのうちの一方のみが第2反応容器を通過し、他方はバイパス流として第2反応容器を避けて通過し、工程b)で生成された溶液と混合される、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
第2反応容器の前後で、各圧力測定が行われ、測定された圧力差が、固定床の充填レベルを測定するために用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
工程b)で得られた溶液中の固体の濃度が、UV/VIS分光計により連続的に測定される、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
第1反応容器が精留塔を有し、工程a)における回収が精留塔の上部で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
工程a)で回収された反応媒体の一部が、少なくとも90重量%程度まで脂肪族カルボン酸を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
固定床の温度が10℃~80℃の範囲に設定される、請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体、特に難溶性の固体を、反応媒体に連続的に溶解するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
化学プロセスエンジニアリングにおける基本的課題は、反応媒体への難溶性固体の添加である。慣行では、難溶性の添加剤については、別の反応容器(予混合容器)内で適切な溶媒に溶解し、その後、該溶液を実際の反応媒体に添加する。実際の反応媒体への溶解性が特に低い添加剤の場合、このアプローチでは、大量の予混合容器および/または該添加剤が溶解しやすい追加の溶媒の使用が必要となる。しかし、両者には欠点がある。大容量の予混合容器の設置には、追加の費用とスペースが必要である。このことは、このような予混合容器を既存のプラントに後付けする場合に特に問題である。一方、追加溶媒を使用すると、該溶媒による実際の反応媒体の望ましくないコンタミネーションが生じ、複雑かつ費用のかかる、該溶媒からの反応生成物の分離が必要となる可能性がある。
【0003】
これらの課題について、例として無水メタクリル酸の製造を使用して説明する。メタクリル酸無水物の生成は、精留塔での無水酢酸とメタクリル酸との酸触媒によるトランス無水化(transanhydridization)によって行われる。そのようなプロセスは、例えば特許文献1に記載されている。特許文献2は、反応生成物の重合を回避するために重合禁止剤を添加することを開示している。重合禁止剤は、反応領域の前のフィードおよび/または直接精留塔に、添加されてよい。記載のプロセスで使用される重合禁止剤は、好ましくはフェノチアジンである。しかし、フェノチアジンは、トランス無水化反応の媒体に難溶性であるため、通常、別の容器で生成されたフェノチアジンのアセトン溶液が該プロセスに導入され、結果的に上記の欠点が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】DE 3510035 A1
【文献】DE 20 2006 060 162 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、追加溶媒の使用を避け、かつ大容量の予混合容器を避けて実現可能な、固体を反応媒体に連続的に溶解する改良プロセスを提供することである。
【0006】
本発明は、反応媒体への固体の連続溶解プロセスであり、
a)第1反応容器から反応媒体の一部を回収することにより液体を準備する工程と、
b)工程a)で準備した液体を、第2反応容器内で、液体が通過する固定床の形で存在している固体と接触させ、固体の溶液を生成する工程と、
c)工程b)で生成された溶液を第1反応容器に再循環する工程と、
を有するプロセスを提供する。
【0007】
本発明によるプロセスは、固体を溶解するために、追加溶媒を系に導入する必要はなく、むしろ固体が反応媒体の一部に直接溶解するという利点を有する。加えて、該プロセスは、反応媒体の一部が第1反応容器から回収され、第2反応容器を連続的に通過するという点で連続的であるように構成されてもよい。固定床の構造および固定床を通過する液体の流量を適切に選択することにより、固体が十分な濃度で溶解することが保証される。
その結果、大容量の予混合容器が必要なくなる。したがって、第2反応容器の容量は最小化され得る。
【0008】
反応媒体は、好ましくは、液体、または気相と液相との混合物である。ガス成分は、工程a)での回収時に必要に応じて液化され、工程b)に必要な液体を提供する。反応媒体は、1つ以上の化学成分を含んでもよい。第1反応媒体が少なくとも1つの反応物と少なくとも1つの化学反応生成物を含むことが好ましい。加えて、反応媒体は、例えば、溶媒、触媒および助剤を含んでもよい。
【0009】
工程a)で回収された反応媒体の一部は、反応媒体と同じ組成を有していてもよく、あるいは反応媒体と組成が異なっていてもよい。後者は、例えば、反応媒体が少なくとも2つの化学成分を含み、工程a)での回収の前および/または最中に分離処理を受けて、反応媒体の回収部分が、反応媒体と異なる組成を有する場合である。回収の前または最中に、反応媒体を例えば濾過または蒸留に付してもよい。このようにして、例えば、固体を溶解するために、反応媒体の1つの成分のみ(例えば、1つの特定の反応物のみ)を使用することができる。固体が最も高い溶解性を有する成分は、好ましくはここで回収されてよい。
【0010】
一実施形態では、第1反応容器は、回収が行われる精留塔を有する。精留塔の特定のポイントで反応媒体の一部を回収することにより、工程a)で回収された反応媒体の一部の組成を測定することができる。このようにして、例えば、工程a)において、反応媒体の特定の成分のみを回収し、固体の溶解に使用されることを確認することができる。同様に、工程c)の固体の溶液は、精留塔の自由に選択可能なポイントで再循環されてよい。
【0011】
精留塔を使用する場合、工程a)において、気体反応媒体、または液体と気体反応媒体の混合物を回収することもできる。この場合、反応媒体は、回収後、例えばコンデンサを介して完全に液化され、工程b)で固体と接触するための液体を提供することが好ましい。
【0012】
固体は、固定床の形で第2反応容器に存在し、工程a)で回収された液体が通過する。当業者であれば、固定床の温度、流量、および固定床の形状を適切に選択することにより、固体の溶解性を容易に変化させることができる。液体は、固定床を、例えば(重力方向に)上から下へ、または反対方向に通過してよい。流れの方向は、特定の用途に基づいて選択されてよい。例えば、液体が(重力に逆らって)下から上へ固定床を通過することは、上からの通過が固定床の圧縮と激しい圧力上昇をもたらす可能性があるため、有利であることが証明されている。下から上への通過には、プロセスの開始時に固定床に存在する空気が均一に上方に排出されるという利点もある。対照的に、(重力方向の)上から下への通過には、固体の溶解性に悪影響を与える可能性のある流動床の形成が回避されるという利点がある。
【0013】
一実施形態では、第2反応容器は、固定床が格納されるバグフィルタを有するフィルタハウジングを有する。この実施形態では、固定床を、液体が上から下に通過することが好ましい。
【0014】
別の実施形態では、第2反応容器は、「両側が開いており、かつその開口部が、フリットで閉じられ、間に固定床が格納されている管」を有する。これにより、固定床の均一な通過が容易となり、固定床が第2反応容器から排出されることなく、下から上への通過が可能になる。
【0015】
一実施形態では、第2反応容器は、液体が同時にまたは交互に通過する2つ以上の別個の固定床を有する。固定床は、並列に接続されていることが好ましい。このようにして、固定床内の固体が補充を必要とする場合に、プロセスの連続稼働を維持することができる。
【0016】
溶液中の固体の濃度は、一時的な外乱変数または溶解手順の経時変化の結果、変化する場合がある。これは、例えば、溶解手順によって固体の表面が変化した際、第2反応容器内の自由体積が増加した結果として液体の滞留時間が増加した場合か、あるいは空き容量が増加した結果として流量が減少した場合である。
【0017】
一実施形態では、この固体濃度の変動に対応するために、工程a)で回収された液体の一部を固体と接触させずに、工程b)で生成された溶液と混合し、得られた混合物を第1反応容器に再循環してもよい。これは、工程a)で回収された反応媒体の一部を2つのサブストリームに分割し、そのうちの1つのみを第2反応容器を通過させ、他の部分をバイパス流として第2反応容器を避けて通過させ、工程b)で生成された溶液と混合されることにより、実現される。バイパス流と溶液の混合比は、自由に選択されてよい。この方法により、第1反応容器に再循環される溶液中の固体濃度を正確に調整し、濃度の変動を調節することができる。
【0018】
工程b)での液体の固定床との接触は、溶液中の固体濃度が飽和濃度に達するように行われることが特に好ましい。これは、溶解条件(特に、固定床の温度)、液体の流量および固定床の形状を適切に選択することにより達成され得る。このようにして、第1反応容器に再循環される溶液の濃度は、バイパス流で希釈することにより、最大可能範囲で調整され得る。
【0019】
一実施形態では、各圧力測定は、第2反応容器の前後に実施される。圧力差を使用して、固定床の充填レベルを測定することができる。さらに、圧力差を使用して、バイパス流と溶液の混合比を調整し、上述した濃度の変動を調節することができる。一実施形態では、各圧力測定は、第2反応容器の前後に適宜実施され、バイパス流と溶液の混合比が、こうして測定された圧力差に応じて調整される。
【0020】
工程b)で得られた溶液中の固体濃度が連続的に測定されることが好ましい。測定は、好ましくはスペクトル分析(特に好ましくは、UV/VISスペクトロメーター)を使用して行われる。この測定により、特に、上記のバイパス流と組み合わせて、容易に溶液中の固体濃度を正確に調整することができる。バイパス流と溶液の混合比は、測定濃度に応じて調整されてよい。一実施形態では、溶液中の固体濃度は、連続的に測定され、バイパス流と溶液の混合比が、こうして測定された圧力差に応じて調整される。
【0021】
濃度測定は、定期的に溶液のサンプルを採取し、適切な分析方法で分析することにより実施され得る。ただし、溶液が適切な分析機器を連続的に通過する、連続フロープロセスを使用することが好ましい。また、これは、溶液の一部のみが分析機器を通過し、第2の部分がバイパスで分析機器を避けて通過するように行われてもよい。溶液が第1反応容器に再循環される前に、溶液の少なくとも一部がUV/VISスペクトロメーターを通過することが特に好ましい。
【0022】
好ましい実施形態では、上記のプロセスは、トランス無水化による不飽和カルボン酸無水物の連続生成のための、反応媒体中の固体の連続溶解に使用される。対応する製造プロセスは、例えば、DE 20 2006 060 162 A1およびDE 10 2006 029 320 B3に開示されている。
【0023】
固体は、製造プロセス用の添加剤(触媒、沈殿剤、消泡剤、および特に重合禁止剤など)であってよい。本願明細書の文脈では、重合禁止剤は、重合傾向を有する物質(例えば、不飽和カルボン酸/不飽和カルボン酸無水物)の重合を阻害する化合物を意味すると理解されたい。好ましい実施形態では、固体は、不飽和カルボン酸/不飽和カルボン酸無水物の重合を阻害する重合禁止剤である。好ましい重合禁止剤には、とりわけ、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、フェノチアジン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシル(TEMPOL)、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、パラ置換フェニレンジアミン(例えば、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン)、1,4-ベンゾキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-α-(ジメチルアミノ)-p-クレゾール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、またはこれらの安定剤の2つ以上の混合物がある。特に好ましい実施形態では、固体は、フェノチアジンである。
【0024】
一実施形態では、反応媒体は、一般式(I)R-C(O)-O-C(O)-R(式中、Rは、2~12個の炭素原子を有する不飽和有機ラジカルである。)の不飽和カルボン酸無水物を少なくとも1つと、一般式(II)R-COOH(式中、Rは、上記で定義した通りである。)の不飽和カルボン酸を少なくとも1つと、脂肪族カルボン酸無水物を少なくとも1つと、対応する脂肪族カルボン酸を少なくとも1つ含む。有機ラジカルRは、所望の数のハロゲン原子またはシアノ基で必要に応じて置換されていてもよい。
【0025】
本発明によるプロセスに適した式(II)の不飽和カルボン酸は、2~12個、好ましくは2~6個、特に好ましくは2~4個の炭素原子を有する不飽和有機ラジカルを有する。適切なアルケニル基は、ビニル基、アリル基、2-メチル-2-プロペン基、2-ブテニル基、2-ペンテニル基、2-デセニル基、1-ウンデセニル基および9,12-オクタデカジエニル基である。ビニル基およびアリル基が特に好ましい。
【0026】
特に好ましい不飽和カルボン酸には、とりわけ、(メタ)アクリル酸がある。用語(メタ)アクリル酸は、当技術分野で公知であり、アクリル酸およびメタクリル酸だけでなく、これらの酸の誘導体も意味すると理解されたい。
これらの誘導体には、とりわけ、β-メチルアクリル酸(ブテン酸、クロトン酸)、α,β-ジメチルアクリル酸、β-エチルアクリル酸、α-クロロアクリル酸、α-シアノアクリル酸、1-(トリフルオロメチル)アクリル酸、およびβ-ジメチルアクリル酸がある。アクリル酸(プロペン酸)およびメタクリル酸(2-メチルプロペン酸)が好ましい。
【0027】
本発明のプロセスに適した脂肪族カルボン酸無水物は、同様に当業者に周知である。好ましい化合物は、一般式(III)R’-C(O)-O-C(O)-R’(式中、R’は、C1~C4-アルキルラジカルである。)を有する。
【0028】
無水酢酸を使用することが好ましい。
【0029】
対応する脂肪族カルボン酸は、好ましくは、1~4個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸である。酢酸が特に好ましい。
【0030】
反応媒体が(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、酢酸、無水酢酸および混合無水物アセチルメタクリレートを含むことが特に好ましい。
【0031】
また、反応媒体は、さらなる成分(例えば、溶媒および触媒)を含んでもよい。
【0032】
この実施形態では、第1反応容器は、好ましくは精留塔を有する。さらに、反応容器は、好ましくは少なくとも1つの触媒が提供される領域(以下、反応領域またはリアクター)を有してもよい。このリアクターは、精留塔の内部および/または外部にあってもよい。ただし、リアクターは、精留塔の外側の別個の領域に配置されることが好ましい。反応媒体は、リアクターと精留塔の間の再循環流で連続的に再循環される。工程a)における反応媒体の一部の回収は、リアクターおよび/または精留塔から行われてよい。回収は、精留塔から行われることが好ましい。
【0033】
本発明によるプロセスは、例えば、それぞれ5~15個の分離段階を有する上部、中間および下部領域を有する精留塔を使用してもよい。上部領域の分離段の数が10~15個であり、中間および下部領域の分離段の数が8~13個であることが好ましい。本発明において、分離段の数は、規則充填カラムまたは規則充填物を有するカラムの場合、段効率を乗じた段カラムの段数または理論分離段数を意味すると理解されたい。
【0034】
段を有する精留塔の段の例には、バブルキャップトレイ、シーブトレイ、トンネルトレイ、バルブトレイ、スリットトレイ、シーブスリットトレイ、シーブバブルキャップトレイ、ノズルトレイ、遠心トレイがあり、規則充填物を有する精留塔の規則充填物の例には、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、ベルサドル、インタロックスサドルがあり、不規則充填物を有する精留塔の不規則充填物の例には、Mellapak(Sulzer社製)、Rombopak(Kuhni社製)、Montz-Pak(Montz社製)型、および触媒袋を有する不規則充填物(例えば、Katapak(Sulzer社製))がある。段の領域、規則充填物の領域および/または不規則充填物の領域の組み合わせを有する精留塔も同様に使用されてよい。3つの領域に対して、規則充填物および/または不規則充填物を有する精留塔を使用することが好ましい。精留塔は、それに適した任意の材料から製造されてよい。これらには、とりわけ、ステンレス鋼と不活性材料が含まれる。
【0035】
一実施形態では、沸騰油が精留塔の底部に最初に充填されている。本発明によるプロセスのための沸騰油として、長期熱安定性と反応に関与する成分の沸点よりも高い沸点とを有する高沸点不活性物質が、生成された酸無水物を重合せずに確実に蒸留除去をするために、使用される。ただし、沸騰油の沸点は、生成された酸無水物への熱応力を低下させるほど高くすべきではない。一般に、標準圧力(1013ミリバール)での沸騰油の沸点は、200℃~400℃、特に240℃~290℃である。適切な沸騰油は、とりわけ、12~20個の炭素原子を有する長鎖非分岐パラフィン、芳香族化合物(例えば、ジフィル(75%ビフェニルオキシドと25%ビフェニルの共融混合物)、アルキル置換フェノール、またはナフタレン化合物)、スルホラン(テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド)、またはそれらの混合物である。特に好ましくは、2,6-ジ-tert-ブチル-パラ-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-フェノール、スルホラン、ジフィル、またはそれらの混合物が使用され、スルホランが非常に特に好ましい。
【0036】
反応媒体は、好ましくは30℃~120℃、より好ましくは40℃~100℃、特に50℃~80℃の範囲の温度である。温度は、確立されたシステムの圧力に左右される。カラム内のリアクターの一配置では、反応は、5~100ミリバール(絶対)、特に10~50ミリバール(絶対)、特に好ましくは20~40ミリバール(絶対)の圧力範囲で実施されることが好ましい。リアクターがカラムの外側にある場合、カラム内とは異なる圧力および温度条件が選択されてもよい。これには、リアクターの反応パラメーターをカラム内の操作条件とは無関係に調整できるという利点がある。トランス無水化の反応時間は、反応温度に左右される。シングルパスに対するリアクター内の滞留時間は、好ましくは0.5~15分、特に好ましくは1~5分である。無水酢酸および(メタ)アクリル酸からの(メタ)アクリル酸無水物の生成では、反応媒体の温度は、好ましくは40℃~100℃、特に好ましくは50℃~90℃、非常に特に好ましくは70℃~85℃である。
【0037】
不均一触媒が反応領域で使用されることが好ましい。特に適切な不均一系触媒は、酸性固定床触媒、特に酸性イオン交換体である。特に適切なイオン交換体には、特に、スルホン酸基を有するスチレン-ジビニルベンゼン重合体などの陽イオン交換樹脂がある。適切なカチオン交換樹脂は、Rohm&Haas社からAmberlyst(登録商標)の商品名で、Dow社からDowex(登録商標)の商品名で、およびLanexess社からLewatit(登録商標)の商品名で、市販されている。リットルでの触媒量は、リットル/時間で新たに生成される不飽和カルボン酸無水物量の好ましくは1/10~2倍、特に好ましくは1/5~1/2である。
【0038】
一実施形態では、固体を溶解する液体は、精留塔の上部で回収される。この実施形態では、工程a)で回収された反応媒体の一部は、好ましくはコンデンサを通過して、気体成分を完全に凝縮させる。この変化は、重合禁止剤、特にフェノチアジンを溶解するのに特に適している。
【0039】
工程a)で回収される液体が実質的に少なくとも1つの脂肪族カルボン酸、特に好ましくは酢酸であることが好ましい。一実施形態では、工程a)で回収される反応媒体の一部は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%の程度まで脂肪族カルボン酸からなる。工程a)で回収された反応媒体の一部は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%の程度の酢酸からなることが特に好ましい。
【0040】
工程a)で回収される液体の温度は、10℃~80℃、好ましくは10℃~60℃、特に好ましくは15℃~30℃の範囲に設定されることが好ましい。
【0041】
工程a)で回収される液体の圧力は、1~10バール、好ましくは2~7バール、特に好ましくは3~6バールの範囲に設定されることが好ましい。
【0042】
工程b)の固定床の温度は、10℃~80℃、好ましくは10℃~60℃、特に好ましくは15℃~30℃の範囲に設定されることが好ましい。
【0043】
固体がフェノチアジンであり、工程a)で回収される液体が実質的に脂肪族カルボン酸、好ましくは酢酸である場合、本発明によるプロセスは、フェノチアジン濃度が1重量%~3重量%の溶液を連続的に生成することができる。さらに、フェノキシチアジン溶液を希釈するためのバイパス流が使用される場合、900~1,000ppmの濃度を有する希釈溶液が生成され得る。
【0044】
溶液は、工程c)において、精留塔および/または必要に応じて存在するリアクターのいずれかに再循環されてもよい。固体が重合禁止剤である場合、再循環は、精留塔上部に行われることが好ましい。
【0045】
本発明によるプロセスは、図1を参照して例として説明される。精留塔(10)において、反応媒体が最初に充填される。精留塔(10)の上部で、反応媒体の一部を回収し、コンデンサ(12)を通過させ、反応媒体の気体成分を完全に凝縮する。液体を、任意の緩衝容器(14)およびポンプ(16)を通過させる。ポンプにより、液体の圧力を調整できる。液体の一部を、並列に接続された2つの反応容器(18)の少なくとも1つを通過させ、その中で固体と接触させ固体の溶液を生成する。固体は、固定床の形で反応容器(18)に存在する。反応容器(18)の前後に圧力測定手段(20、22)を設置してもよい。溶液を、導管(24)を介して送る。液体の第2の部分を、バイパス流(26)で反応容器(18)を避けて通過させる。液体の他の部分は、導管(28)を介して排出されてもよい。バイパス流(26)を、導管(24)の溶液と混合する。混合比は、バルブ(30)を制御することで調整できる。バイパス流と溶液の混合物を、混合物中の固体濃度を測定できるUV/VIS検出器を通過させる。バルブ(30)の制御は、UV/VIS検出器(32)によって測定された濃度に従って決定される。UV/VIS検出器(32)を通過した後、混合物は、精留塔(10)の上部に戻る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明によるプロセスの好ましい実施形態の概略図である。
図2】酢酸へのフェノチアジンの溶解のテスト設定である。
図3】実験例1のフェノチアジン濃度のプロファイルである。
図4】実験例2のフェノチアジン濃度のプロファイルである。
【0047】
参照記号リスト
10精留塔
12コンデンサ
14緩衝容器
16ポンプ
18固定床を有する反応容器
20、22圧力測定手段
24導管
26バイパス導管
28導管
30バルブ
32UV/VIS検出器
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明のプロセスによる酢酸へのフェノチアジンの溶解を実験によって調べた。図2は、関連実験の設定を示す。
【0049】
フェノチアジン固定床を温度制御可能なクロマトグラフィーカラム(Gotec-Labor GmbH社製、Superformance 300-16、長さ300mm、内径16mm、サーモスタット用二重壁、20μmF型フィルターフリット)に入れる。ポンプP-01は、20℃に温度制御された固定床を介して、酢酸を貯蔵容器から廃棄物容器へ運搬する。ポンプP-02は、サンプル流をUV検出器に誘導する。フェノチアジン濃度を、390nmでの吸収測定により測定する。検出器を、既知濃度のフェノチアジン溶液で事前に較正しておく。
【0050】
25.0mL/分の体積流量で12.4cm/分の流量で第1の実験を行った。図3は、実験期間に対するフェノチアジン濃度プロファイル(赤)を示す。測定セルを固体粒子から保護するために、開始時に溶液を検出器に通過させなかったので、測定された検出器の消光(青色、破線)は、ベッド出口の濃度から定期的に逸脱した。実験のさらなる過程において、較正溶液を制御として検出器に通過させた。「補正されたベッド出口濃度」を、線形補間および線形外挿により、実験期間にわたって計算した。制御パラメータとして、副軸で、フェノチアジンの質量を濃度プロファイルから合計した。
【0051】
実験の90分目がわずかに緩んだ状態でクロマトグラフィーカラムの底になるまで、固体を下からの流れにさらした。フェノチアジンの溶解により上澄み空間が拡大し、逆混合空間が形成された。自由体積内のわずかに乱れたストリークと、実験終了時の濃度プロファイルのテーリングは、逆混合の存在を示す。自由空間の継続的な拡大の結果としての滞留時間の増加に起因する、実験の過程でフェノチアジン濃度のわずかな増大が観察された。
【0052】
第2の実験は、11.0cm/分の流量に基づく。フェノチアジンの開始重量は、カラム容量のより良い利用のために40gに増加した。図4は、実験2のフェノチアジン濃度プロファイルを示す。
【0053】
以下の表は、実験パラメータの概要を示す。表は、固定床の高さを70cm、単位面積あたりのスループットを11.7mL/(分 cm)と仮定した場合のフェノチアジン固定床の稼働時間の生産規模予測も示す。フェノチアジン濃度は、生産規模で343分(5.7時間)後に、最小必要濃度の1重量%を下回った。
【0054】
【0055】
生産規模での精留塔の酢酸還流におけるフェノチアジン濃度の計算は、実験2の濃度プロファイルに基づく(図4)。稼働時間は、実験用固定床の初期床高27cmに応じて、生産規模(サックフィルターを使用)の最大床高70cmまで2.6(=70/27)の倍率で増加する。対応する濃縮フェノチアジン溶液を、1:10の比率で純粋な酢酸と混合すると(バイパス流)、880~925ppmのフェノチアジンの精留塔への還流濃度が生じる。
【0056】
これらの実験は、酢酸中のフェノチアジンの飽和濃度が実験期間全体にわたって確立されることを示し、したがって、本発明によるプロセスを使用してフェノチアジンを不飽和カルボン酸無水物製造用の反応媒体に導入できることを確認した。
図1
図2
図3
図4