(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】水性ポリウレタン樹脂、表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革
(51)【国際特許分類】
C08G 18/44 20060101AFI20230707BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20230707BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20230707BHJP
C08G 18/34 20060101ALI20230707BHJP
C08G 18/65 20060101ALI20230707BHJP
C08G 18/12 20060101ALI20230707BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20230707BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20230707BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20230707BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20230707BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
C08G18/44
C08G18/08 019
C08G18/32 003
C08G18/34 080
C08G18/65
C08G18/12
C08G18/73
C08G18/75
C08G18/00 C
D06N3/14 101
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2020215601
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南北 直輝
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雄介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦晃
(72)【発明者】
【氏名】西野 正和
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-159367(JP,A)
【文献】特開2016-069437(JP,A)
【文献】特開2007-092195(JP,A)
【文献】特開2007-119749(JP,A)
【文献】特開2020-097707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
D06N 3/14
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物である水性ポリウレタン樹脂であって、
前記(b)ポリオールが、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール及び(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであり、
前記(d)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものであ
り、
前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールの合計量に対する前記(d)多価アルコールの割合が0.1~1.5質量%である、
ことを特徴とする水性ポリウレタン樹脂。
【請求項2】
前記(b1)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオールと炭素数が3~10の整数である直鎖構造を有するジオールとに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオールであり、
前記(b2)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールと炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールとに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオール、及び、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールのみに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂。
【請求項3】
前記(b)ポリオールにおける前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合が40質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性ポリウレタン樹脂。
【請求項4】
前記イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量が0.2~4.0質量%であることを特徴とする請求項1~
3のうちのいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂。
【請求項5】
前記(a)有機ポリイソシアネートが、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~
4のうちのいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂。
【請求項6】
請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂を含有することを特徴とする表面処理剤。
【請求項7】
皮革用基材と、前記基材の表面に請求項
6に記載の表面処理剤により形成された表面処理層とを備えていることを特徴とする皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリウレタン樹脂、表面処理剤及びそれを用いて表面処理した皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂からなる表皮層を有する合成皮革やポリ塩化ビニル(PVC)レザー等の製造工程においては、合成皮革やPVCレザーの表面の耐摩耗性や艶消し性を向上させるために、表面処理剤による加工が行われている。従来の表面処理剤に用いられる樹脂組成物は、ジメチルホルムアミド、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤を含んだ溶剤系が主流であったが、これらの有機溶剤は引火性が強く、毒性が高いものが多いことから、火災の危険性、作業環境の悪化、大気、水質等の環境汚染等の問題があった。また、合成皮革の製造においては、これらの有機溶剤を回収することも行われているが、多額のコストや労力がかかるという問題点があった。
【0003】
近年、環境規制の高まりだけでなく、有機溶剤系ウレタン樹脂を用いて得られた皮革内部に有機溶剤が残留するため、皮膚障害等の人体への影響も問題とされている。そのため有機溶剤を極力、或いは全く含まない水性の表面処理剤の開発が進められており、特に、自動車内装材に使用される皮革用材においては、残留有機溶剤の人体への影響が危惧されるため、水性の表面処理剤が強く要望されている。
【0004】
例えば、国際公開第2019/221088号(特許文献1)には、ポリオール成分、イソシアネート成分を含むポリウレタン樹脂であって、(1)前記ポリオール成分としてポリカーボネートジオール成分を含み、前記イソシアネート成分として直鎖型脂肪族イソシアネート成分を含み、(2)前記ポリカーボネートジオール成分は重量平均分子量が500~3000であり、その構造中に炭素数3~10のジオール由来構造を含み、(3)前記イソシアネート成分のうち、10mol%以上が炭素数4~10の直鎖型脂肪族イソシアネート成分である、ポリウレタン樹脂が記載されており、実施例においては、前記ポリカーボネートジオール成分として、1,4-ブタンジオール及び1,10-デカンジオール由来のポリカーボネートジオールが用いられている。このポリウレタン樹脂を基材に塗布した場合、耐寒屈曲性と耐薬品性と両立することはできるが、耐摩耗性が十分ではなかった。
【0005】
また、国際公開第2015/107933号(特許文献2)には、100%モジュラスが10~20MPaの範囲にある水性ポリウレタン(A)及びカルボジイミド系架橋剤(B)を含有する水性表面処理剤が記載されており、実施例においては、前記水性ポリウレタン(A)として、1,6-ヘキサンジオールベースのポリカーボネートジオールを用いた水性ポリウレタンが記載されている。この水性表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理した場合、優れた耐摩耗性が得られるものの、屈曲性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/221088号
【文献】国際公開第2015/107933号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、皮革用基材に、屈曲性を損なうことなく、優れた耐摩耗性を付与することが可能な水性ポリウレタン樹脂及び表面処理剤、並びに屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性が付与された皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来のポリカーボネートジオール及び炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来のポリカーボネートジオールのうちの少なくとも1種を用いて調製した水性ポリウレタン樹脂を用いて皮革用基材の表面を処理することによって、皮革用基材に、屈曲性を損なうことなく、優れた耐摩耗性を付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の水性ポリウレタン樹脂は、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物である水性ポリウレタン樹脂であって、前記(b)ポリオールが、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール及び(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであり、前記(d)多価アルコールが、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものであり、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールの合計量に対する前記(d)多価アルコールの割合が0.1~1.5質量%であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の水性ポリウレタン樹脂においては、前記(b1)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオールと炭素数が3~10の整数である直鎖構造を有するジオールとに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオールであり、前記(b2)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールと炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールとに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオール、及び、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールのみに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂においては、前記(b)ポリオールにおける前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合が40質量%以上であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の水性ポリウレタン樹脂においては、前記イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量が0.2~4.0質量%であることが好ましく、また、前記(a)有機ポリイソシアネートが、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
本発明の表面処理剤は、前記本発明の水性ポリウレタン樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の皮革は、皮革用基材と、前記基材の表面に前記本発明の表面処理剤により形成された表面処理層とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性が付与された皮革を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔水性ポリウレタン樹脂〕
先ず、本発明の水性ポリウレタン樹脂について説明する。本発明の水性ポリウレタン樹脂は、(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物であって、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂である。なお、前記自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂における「水性」とは、自己乳化型のポリウレタン樹脂を水に乳化分散させて水中の樹脂分濃度が35質量%である乳化分散液を調製した後に、この乳化分散液を20℃で12時間静置しても分離や沈降が観察されないような状態とすることが可能であることを意味する。
【0019】
(a)有機ポリイソシアネート
本発明に用いられる(a)有機ポリイソシアネートとしては特に制限はなく、従来より一般に用いられている芳香族、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネートが挙げられる。例えば、芳香族ポリイソシアネートとしては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの有機ポリイソシアネートは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの有機ポリイソシアネートの中でも、得られる水性ポリウレタン樹脂が無黄変性のものとなるという観点から、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートが好ましく、耐熱性の観点から、脂環式ポリイソシアネートがより好ましい。
【0020】
(b)ポリオール
本発明に用いられる(b)ポリオールは、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール及び(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものである。
【0021】
本発明の水性ポリウレタン樹脂においては、前記(b1)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオールと炭素数が3~10の整数である直鎖構造を有するジオールとに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオールであることが好ましく、また、前記(b2)ポリカーボネートジオールが、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールと炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールとに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオール、及び、炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールのみに由来する構造単位を有するポリカーボネートジオールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの重量平均分子量としては、500~3000が好ましく、800~2500がより好ましい。前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの重量平均分子量が前記下限未満になると、皮革の屈曲性が低下するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、ポリカーボネートジオール自体の粘度が高くなり過ぎる傾向にあり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0023】
前記炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオールとしては、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。前記炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオールとしては、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,9-ノナンジオールが挙げられる。前記炭素数が4~10の偶数である直鎖構造を有するジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールが挙げられる。
【0024】
前記(b1)ポリカーボネートジオールとして、具体的には、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、株式会社クラレ製のクラレポリオールC-1090(重量平均分子量:1000)、クラレポリオールC-2090(重量平均分子量:2000)、クラレポリオールC-3090(重量平均分子量:3000))、2-メチル-1,3-プロパンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、宇部興産株式会社製のETERNACOLL UP-100(重量平均分子量:1000)、ETERNACOLL UP-200(重量平均分子量:2000))等が挙げられる。前記(b2)ポリカーボネートジオールとして、具体的には、1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、旭化成ケミカルズ株式会社製のデュラノールT5651(重量平均分子量:1000)、デュラノールT5652(重量平均分子量:2000))、1,3-プロパンジオール由来のポリカーボネートジオール(例えば、豊国製油株式会社製HS PD-2003(重量平均分子量:2000))等が挙げられる。
【0025】
本発明の水性ポリウレタン樹脂において、前記(b)ポリオールにおける前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合としては、皮革の耐摩耗性及び耐屈曲性の観点から、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合が前記下限未満になると、皮革の耐摩耗性又は耐屈曲性のうちの少なくとも一方が低下するおそれがある。
【0026】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂において、前記(b)ポリオールにおける前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合が100質量%未満の場合に含まれる、前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)以外のポリオール(以下、「その他のポリオール」ともいう)としては、例えば、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、前記ポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)以外のポリカーボネート系ポリオール(以下、「その他のポリカーボネート系ポリオール」ともいう)等の高分子ポリオール、低分子量ジオールが挙げられる。
【0027】
前記ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの重合物が挙げられる。このような重合物は1種類のアルキレンオキサイドの単独重合物であってもよいし、2種類以上のアルキレンオキサイドの共重合物であってもよい。共重合物である場合、ランダム重合物であっても、ブロック重合物であってもよい。また、このようなポリエーテル系ポリオールの分子量としては、400~5000が好ましい。また、前記ポリエーテル系ポリオールとして、低分子量2価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した化合物を使用することもできる。前記低分子量2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0028】
前記ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、300~1,000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン又はこれらのアルキレンオキサイド付加体等のジオール成分と、ダイマー酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p,p’-ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物又はエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分との脱水縮合反応によって得られるポリエステル系ポリオール、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応により得られるポリエステル系ポリオール、これらを共重合したポリエステル系ポリオール等が挙げられる。
【0029】
前記その他のポリカーボネート系ポリオール、としては、例えば、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール等の炭素数が偶数のグリコールと、ジフェニルカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオール等が挙げられる。
【0030】
前記低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0031】
これらのその他のポリオールは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0032】
(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物
本発明に用いられる(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物は、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等のアニオン性親水基とヒドロキシ基等の活性水素含有基2個以上とを有する化合物である。この(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を共重合させることによって、自己乳化型の水性ポリウレタン樹脂が得られる。前記(c)化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジヒドロキシマレイン酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂中の前記アニオン性親水基の含有量としては、乳化安定性、貯蔵安定性及び皮革の耐屈曲性の観点から、0.3~3.0質量%が好ましく、0.5~2.5質量%がより好ましい。アニオン性親水基の含有量が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の乳化安定性及び貯蔵安定性が低下する傾向にあり、水性ポリウレタン樹脂を安定に使用することができない場合があり、他方、前記上限を超えると、水性ポリウレタン樹脂が硬くなり過ぎる傾向にあり、皮革の屈曲性が低下するおそれがある。
【0034】
(d)多価アルコール
本発明に用いられる(d)多価アルコールは、少なくとも3個以上の活性水素を有する多価アルコールを含むものである。このような多価アルコールとしては、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上の低分子多価アルコールが挙げられる。また、このような3価以上の低分子多価アルコール又は低分子ポリアルキレンポリアミンに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した分子量500以下の化合物等も前記(d)多価アルコールとして使用することができる。前記低分子量ポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。このような多価アルコールのうち、皮革の耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、3~4価の多価アルコールが好ましく、3価の多価アルコールがより好ましい。
【0035】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂において、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールの合計量に対する前記(d)多価アルコールの割合としては、皮革の耐摩耗性と耐屈曲性の観点から、0.1~1.5質量%が好ましく、0.3~1.1質量%がより好ましい。(d)多価アルコールの割合が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の架橋密度が低くなる傾向にあり、皮革の耐摩耗性が不足するおそれがあり、他方、前記上限を超えると、水性ポリウレタン樹脂の架橋密度が高くなり過ぎる傾向にあり、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0036】
(e)ポリアミン
本発明に用いられる(e)ポリアミンは、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するものである。このようなポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’-エチレンヒドラジン、1,1’-トリメチレンヒドラジン、1,1’-(1,4-ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体が挙げられる。これらのポリアミンは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような(e)ポリアミンの使用量としては、後述するイソシアネート基末端プレポリマーの遊離イソシアネート基に対して、0.8~1.2当量のアミノ基等を含む量が好ましい。
【0037】
(イソシアネート基末端プレポリマー)
本発明に用いられるイソシアネート基末端プレポリマーは、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールの反応生成物である。
【0038】
このようなイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法は特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法が挙げられる。反応温度としては40~150℃が好ましい。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等の反応触媒、あるいは燐酸、燐酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0039】
また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルが特に好ましい。また、これらの有機溶剤は、プレポリマーの乳化分散及び鎖伸長後、加熱減圧することによって除去することができる。
【0040】
イソシアネート基末端プレポリマーの製造に際しては、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)が、2.0/1.0~1.1/1.0であることが好ましく、1.7/1.0~1.25/.1.0であることがより好ましい。原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比を前記範囲内に調整することによって、所望の遊離イソシアネート基含有量を有するイソシアネート基末端プレポリマーを得ることができる。一方、原料のイソシアネート基と水酸基とのモル比が前記下限未満になると、遊離イソシアネート基の含有量が低下し過ぎる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、遊離イソシアネート基の含有量が増大し過ぎる傾向にある。
【0041】
このようにして得られるイソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基の含有量としては、0.2~4.0質量%が好ましく、0.6~3.0質量%がより好ましい。前記遊離イソシアネート基含有量が前記下限未満になると、製造時のイソシアネート基末端プレポリマーの粘度が著しく上昇する傾向にあり、多量の有機溶剤が必要となり、コスト的に不利となったり、乳化分散が困難となる傾向にある。他方、前記遊離イソシアネート基含有量が前記上限を超えると、乳化分散後と(e)ポリアミンによる鎖伸長後の水溶性のバランスが大きく変化する傾向にあり、水性ポリウレタン樹脂の経時貯蔵安定性又は加工安定性が低下する場合がある。また、皮革の耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0042】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールは、いずれも反応点が複数存在するものであり、このような(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び(d)多価アルコールを反応させることによって得られる前記イソシアネート基末端プレポリマーは、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0043】
(イソシアネート基末端プレポリマーの中和物)
本発明に用いられるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、前記イソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基が中和されたものである。このようなイソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(i)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水基を公知の方法で中和することによって製造してもよいし、(ii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールを混合した後、前記(c)化合物中のアニオン性親水基を公知の方法で中和し、次いで、この中和した前記(c)化合物、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(d)多価アルコールを反応させることによって製造してもよい。また、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物は、(iii)前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記アニオン性親水基がアニオン性親水基の塩である前記(c)化合物及び前記(d)多価アルコールを反応させることによって製造することもできる。
【0044】
前記(i)及び(ii)の製造方法において、アニオン性親水基の中和に用いられる塩基性化合物としては特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア等が挙げられる。これらの中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
【0045】
前記(i)及び(ii)の製造方法におけるアニオン性親水基の中和に際して、前記中和用塩基性化合物の使用量としては、アニオン性親水基に対して、0.5~1.5当量が好ましく、0.6~1.4当量がより好ましく、0.7~1.3当量が特に好ましい。前記中和用塩基性化合物の使用量が前記下限未満になると、水性ポリウレタン樹脂の乳化性及び保存安定性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超える量の前記中和用塩基性化合物を添加しても、水性ポリウレタン樹脂の乳化性や保存安定性がそれ以上向上しないため、経済的に好ましくない。
【0046】
(水性ポリウレタン樹脂)
本発明の水性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、前記(e)ポリアミンを用いて鎖伸長させたもの(鎖伸長物)である。
【0047】
(乳化分散)
前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長に際しては、先ず、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を水に乳化分散させる。乳化分散の方法としては特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を用いた従来公知の方法が挙げられる。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物は、特に乳化剤を添加しなくても、0~40℃の範囲内の温度で水に乳化分散させることが可能である。これにより、イソシアネート基と水との反応を抑制することができる。また、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を乳化分散させる際には、必要に応じて、燐酸、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0048】
(鎖伸長)
次に、このようにして水に乳化分散させた前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物を、前記(e)ポリアミンを用いて鎖伸長させることにより、本発明の水性ポリウレタン樹脂が形成される。
【0049】
鎖伸長の方法としては特に制限はなく、例えば、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物に前記(e)ポリアミンを添加して鎖伸長する方法、或いは、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散物を前記(e)ポリアミンに添加して鎖伸長する方法が好ましい。前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物とアミンとの反応は、20~50℃の反応温度で、通常、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物と前記(e)ポリアミンとの混合後、30~120分間で完結する。
【0050】
このような鎖伸長は、前記乳化分散と同時に行ってもよいし、前記乳化分散の後に行ってもよいし、前記乳化分散の前に行ってもよい。また、得られた水性ポリウレタン樹脂に有機溶剤が含まれる場合には、減圧下、30~80℃の温度で前記有機溶剤を除去することが好ましい。
【0051】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物及び前記(d)多価アルコールと同様に、前記(e)ポリアミンも反応点が複数存在するものであり、このような(e)ポリアミンを用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を鎖伸長させることにより得られる前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長物(水性ポリウレタン樹脂)も、前記イソシアネート基末端プレポリマーと同様に、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0052】
このようにして得られた本発明の水性ポリウレタン樹脂は、水に乳化分散させた状態で使用することが好ましく、その樹脂分濃度としては特に制限はないが、20~60質量%が好ましい。このような水性ポリウレタン樹脂の水乳化分散物における樹脂分濃度は、水を追加又は除去することによって調整することができる。
【0053】
〔表面処理剤〕
次に、本発明の表面処理剤について説明する。本発明の表面処理剤は、少なくとも(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール及び(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマー又はその中和物の(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによる鎖伸長物である水性ポリウレタン樹脂を含有するものである。なお、本発明の表面処理剤に用いられる(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール及び(d)多価アルコールは、前記本発明の水性ポリウレタン樹脂において説明した(a)有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール及び(d)多価アルコールと同じものである。
【0054】
本発明の表面処理剤に用いられる水性ポリウレタン樹脂としては、自己乳化型水性ポリウレタン樹脂である前記本発明の水性ポリウレタン樹脂が挙げられる。また、後述する強制乳化型水性ポリウレタン樹脂も本発明の表面処理剤に使用することができる。なお、強制乳化型水性ポリウレタン樹脂とは、アニオン性親水基(カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基等)を有さず、自己乳化性を示さず、水に対して乳化させるためには乳化剤の添加が必要であり、前記乳化剤により強制的に乳化させることが可能となるタイプ(強制乳化タイプ)の水性ポリウレタン樹脂である。なお、前記強制乳化型の水性ポリウレタン樹脂における「水性」とは、強制乳化型のポリウレタン樹脂を、乳化剤を用いて水に乳化分散させて水中の樹脂分濃度が35質量%である乳化分散液を調製した後に、この乳化分散液を20℃で12時間静置しても分離や沈降が観察されないような状態とすることが可能であることを意味する。
【0055】
これらの水性ポリウレタン樹脂のうち、表面処理した皮革に、乳化剤によるきわつきが発生しないという観点から、自己乳化型水性ポリウレタン樹脂である前記本発明の水性ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0056】
<強制乳化型水性ポリウレタン樹脂>
本発明の表面処理剤に用いられる強制乳化型ポリウレタン樹脂は、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(d)多価アルコールの反応生成物であるイソシアネート基末端プレポリマーを、乳化剤を用いて水に乳化分散させた状態で、前記(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンによって鎖伸長させたものである。
【0057】
(イソシアネート基末端プレポリマー)
前記強制乳化型水性ポリウレタン樹脂に用いられるイソシアネート基末端プレポリマーは、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(d)多価アルコールの反応生成物であって、アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーである。
【0058】
このようなアニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法としては、前記(c)アニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素とを有する化合物を使用しないことを除いて、前記本発明の水性ポリウレタン樹脂におけるイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法と同様の方法を採用することができる。
【0059】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(d)多価アルコールは、いずれも反応点が複数存在するものであり、このような有機ポリイソシアネート、(b)ポリオール及び(d)多価アルコールを反応させることによって得られる前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーは、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0060】
(強制乳化型水性ポリウレタン樹脂の製造方法)
前記強制乳化型水性ポリウレタン樹脂は、前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーを、乳化剤を用いて水に乳化分散させた状態で、前記(e)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミンを用いて鎖伸長させることによって得られるものである。
【0061】
(乳化分散)
前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーを乳化分散させる方法としては、前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の代わりに前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーを用い、これを乳化剤を用いて水に乳化分散させることを除いて、前記本発明の水性ポリウレタン樹脂におけるイソシアネート基末端プレポリマー中和物の乳化分散方法と同様の方法を採用することができる。
【0062】
前記乳化剤としては、非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤が挙げられる。前記非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンプロピレンジスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンプロピレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、プルロニック(登録商標)型非イオン界面活性剤が挙げられる。また、前記アニオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリアルキレングリコール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテルリン酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩及びその重合物、パラフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩が挙げられる。このような乳化剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよいが、前記非イオン界面活性剤のうちの少なくとも1種を用いることが好ましく、中でも、強制乳化型水性ポリウレタン樹脂の水分散液の貯蔵安定性と加工安定性の観点から、HLBが7~16であるものを用いることがより好ましい。なお、本発明において、HLBの値は、次式:
非イオン界面活性剤中のオキシエチレン基部分の分子量×20/非イオン界面活性剤の分子量
によって得られる値である。
【0063】
前記乳化剤の添加量としては、前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーの親水性により異なるものであり、一概には言えないが、前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマー100質量部に対して0.5~10質量部が好ましく、1~6質量部がより好ましい。乳化剤の添加量が前記下限未満になると、十分に安定な乳化分散状態を得ることが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる水性ポリウレタン樹脂の耐水性が低下したり、表面処理した皮革にきわつきが発生したりする傾向にある。
【0064】
(鎖伸長)
このようにして水に乳化分散させた前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーを鎖伸長させる方法としては、前記水に乳化分散させた前記イソシアネート基末端プレポリマー中和物の代わりに前記乳化剤を用いて水に乳化分散させた前記アニオン性親水基のないイソシアネート基末端プレポリマーを用いることを除いて、前記本発明の水性ポリウレタン樹脂におけるイソシアネート基末端プレポリマー中和物の鎖伸長方法と同様の方法を採用することができる。
【0065】
なお、前記(a)有機ポリイソシアネート、前記(b)ポリオール及び前記(d)多価アルコールと同様に、前記(e)ポリアミンも反応点が複数存在するものであり、このような(e)ポリアミンを用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーを鎖伸長させることにより得られる前記イソシアネート基末端プレポリマーの鎖伸長物(強制乳化型水性ポリウレタン樹脂)も、前記イソシアネート基末端プレポリマーと同様に、構造が複雑であり、一般式(構造式)で直接表すことは不可能である。
【0066】
このようにして得られた強制乳化型水性ポリウレタン樹脂は、水に乳化分散させた状態で使用することが好ましく、その樹脂分濃度としては特に制限はないが、20~60質量%が好ましい。このような水性ポリウレタン樹脂の水乳化分散物における樹脂分濃度は、水を追加又は除去することによって調整することができる。
【0067】
<表面処理剤>
本発明の表面処理剤は、このような水性ポリウレタン樹脂(例えば、前記自己乳化型水性ポリウレタン樹脂又は前記強制乳化型水性ポリウレタン樹脂、好ましくは、前記自己乳化型水性ポリウレタン樹脂)を含有するものである。このような表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理することによって、前記皮革用基材の表面に前記表面処理剤により表面処理層が形成されるため、色や光沢、風合い、触感等が調整され、さらに、耐摩耗性が向上する。
【0068】
また、本発明の表面処理剤においては、前記水性ポリウレタン樹脂のほかに、本発明の効果を損なわない範囲において、前記水性ポリウレタン樹脂以外の樹脂(アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等)、艶消し剤、平滑剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、膜形成剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料等の各種添加剤を配合することができる。
【0069】
(樹脂)
前記水性ポリウレタン樹脂以外の樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。前記アクリル系樹脂に用いられるアクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。また、これらのアクリル系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0070】
前記アクリル系樹脂に用いられる共重合モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの共重合モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0071】
(艶消し剤)
本発明の表面処理剤においては、皮革表面の艶感・光沢を調整するために、艶消し剤を配合してもよい。このような艶消し剤としては、例えば、有機ビーズ、シリカ粒子、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、アルミナシリケート、カオリン、雲母、及びマイカ等が挙げられる。これらの艶消し剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記有機ビーズとしては、例えば、ウレタンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、オレフィンビーズ、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。また、前記シリカ粒子としては、乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられ、中でも、散乱効果が高く、グロス値の調整を少量で行うことができるという観点から、乾式シリカが好ましい。有機ビーズの平均粒子径としては、2~14μmが好ましく、3~12μmがより好ましい。
【0073】
このような艶消し剤の配合量としては、皮革表面のマット感(艶感・光沢)に応じて適量を用いればよいが、通常、前記水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0074】
(平滑剤)
本発明の表面処理剤においては、皮革表面の平滑性及び耐摩耗性を向上させるために、平滑剤を配合してもよい。このような平滑剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、ハイドロジェン変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、ハロゲン化変性シリコーン、メタクリロキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。これらの平滑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの平滑剤の中でも、耐摩耗性の向上効果が大きいという観点から、ポリジメチルシリコーン及びエポキシ変性シリコーンが好ましい。
【0075】
本発明の表面処理剤においては、このような平滑剤として市販のものを用いることができる。前記ポリジメチルシリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM490EX、DOWSIL SM-8706EX、DOWSIL IE-7046T、DOWSIL FBL-3289、DOWSIL Q2-3238(以上、ダウ東レ株式会社製)、KM-752T、KM-862T、KM-9737A、POLON MF-33(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、前記エポキシ変性シリコーンの乳化物の市販品としては、例えば、DOWSIL SM-8701(ダウ東レ株式会社製)、POLON MF-18T、X-51-1264(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0076】
このような平滑剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、皮革表面の平滑性及び耐摩耗性に応じて適量を用いればよいが、通常、前記水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、1~150質量部が好ましく、5~120質量部がより好ましく、7~100質量部が更に好ましい。
【0077】
(増粘剤)
本発明の表面処理剤においては、適切な粘度に調整するために、増粘剤を配合してもよい。このような増粘剤としては、例えば、アルカリ増粘型アクリル樹脂、会合型増粘剤、水溶性有機高分子等が挙げられる。これらの増粘剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0078】
本発明の表面処理剤においては、前記アルカリ増粘型アクリル樹脂として市販のものを用いることができる。前記アルカリ増粘型アクリル樹脂の市販品としては、例えば、ニカゾールVT-253A(日本カーバイド工業株式会社製)、アロンA-20P、アロンA-7150、アロンA-7070、アロンB-300、アロンB-300K、アロンB-500(以上、東亞合成株式会社製)、ジュリマーAC-10LHP、ジュリマーAC-10SHP、レオジック835H、ジュンロンPW-110、ジュンロンPW-150(以上日本純薬株式会社製)、プライマルASE-60、プライマルTT-615、プライマルRM-5(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、SNシックナーA-818、SNシックナーA-850(以上、サンノプコ株式会社製)、パラガム500(パラケム・サザン株式会社製)、レオレート430(エレメンティス・ジャパン株式会社製)、ネオステッカーV-420(日華化学株式会社製)等が挙げられる。このようなアルカリ増粘型アクリル樹脂は、通常、樹脂の乳化分散物として市販されており、乳化分散させた状態で使用することが好ましい。
【0079】
また、本発明の表面処理剤においては、前記会合型増粘剤として市販のものを用いることができる。前記会合型増粘剤の市販品としては、例えば、アデカノールUH-450、アデカノールUH-540、アデカノールUH-752(以上、旭電化工業株式会社製)、SNシックナー601、SNシックナー612、SNシックナー621N、SNシックナー623N、SNシックナー660T(以上、サンノプコ株式会社製)、レオレート244、レオレート278、レオレート300(以上、エレメンティス・ジャパン株式会社製)、DKシックナーSCT-275(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0080】
前記水溶性有機高分子としては、例えば、天然水溶性有機高分子、半合成水溶性有機高分子、合成水溶性有機高分子が挙げられる。前記天然水溶性有機高分子としては、ばれいしょデンプン、かんしょデンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、コーンスターチ等のデンプン類;アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム、トロロアオイ等の樹脂多糖類;アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、寒天(ガラクタン)、ふのり等の海藻多糖類;キサンタンガム、プルラン、カードラン、デキストリン、レバン等の微生物発酵多糖類;カゼイン、ゼラチン、アラブミン、にかわ、コラーゲン等のタンパク質;ペクチン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0081】
前記半合成水溶性有機高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロース硫酸エステルナトリウム等のセルロース誘導体;デキストリン、可溶性デンプン、酸化デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ジアルデヒドデンプン、リン酸デンプン、アセチルデンプン等のデンプン誘導体;アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
【0082】
前記合成水溶性有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルキルエーテル、無水マレイン酸共重合体、マレイン酸共重合体、マレイン酸塩共重合体等が挙げられる。
【0083】
このような増粘剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、表面処理剤の粘度に応じて適量を用いればよいが、通常、前記水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、0.5~40質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましく、2~20質量部が更に好ましい。
【0084】
(架橋剤)
本発明の表面処理剤においては、皮革の耐水性及び耐久性を向上させるために、架橋剤を配合してもよい。このような架橋剤としては、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、水分散イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの架橋剤は、本発明の表面処理剤に含まれる水性ポリウレタン樹脂が自己乳化型又は強制乳化型のいずれの場合にも配合することができるが、カルボキシル基を有する自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の場合には、これらの架橋剤の中でも、風合い、加工液の安定性の観点から、カルボジイミド系架橋剤を配合することが特に好ましい。
【0085】
本発明の表面処理剤においては、このような架橋剤として市販のものを用いることができる。前記カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、例えば、カルボジライトE-02、カルボジライトSV-02、カルボジライトV02-L2、カルボジライトV-10(以上、日清紡ケミカル株式会社製)、NKアシストCI-02(日華化学株式会社製)等が挙げられる。
【0086】
このような架橋剤の配合量(不揮発分の配合量)としては、皮革の耐摩耗性及び耐屈曲性の観点から、前記水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましい。
【0087】
〔皮革〕
本発明の皮革は、皮革用基材と、前記基材の表面に前記本発明の表面処理剤により形成された表面処理層とを備えるものである。このような皮革製品としては、合成皮革、人工皮革、天然皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザーを用いた車両用内装材、オートバイのシート・グリップ、スポーツ靴、衣料、家具等が挙げられる。
【0088】
前記皮革用基材としては、ポリウレタン樹脂(PU)からなる表皮層を有する合成皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等の擬似レザーが挙げられる。
【0089】
このような皮革用基材の表面に前記表面処理層を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、前記皮革用基材の表面に前記表面処理剤を塗工した後、乾燥することによって前記表面処理層を形成することができる。
【0090】
前記表面処理剤の塗工方法としては、例えば、前記表面処理剤を、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて前記皮革用基材の表面に塗布する方法;前記表面処理剤を前記皮革用基材の表面に噴霧する方法;前記表面処理剤に前記皮革用基材を浸漬する方法等が挙げられるが、グラビアコーターによるダイレクトコート法、リバースコート法がより好ましい。前記表面処理剤の塗工量としては、乾燥後の塗布量が4~40g/m2となる量が好ましく、6~30g/m2となる量がより好ましい。
【0091】
塗工した前記表面処理剤の乾燥方法としては特に制限はなく、例えば、40~160℃の範囲内の温度で30秒~10分間乾燥することが好ましく、80~130℃の範囲内の温度で30秒~2分間乾燥することがより好ましい。また、乾燥後に20~100℃の範囲内の温度で5~72時間のエージング処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成例における遊離イソシアネート基含有量は以下の方法により測定した。
【0093】
(遊離イソシアネート基含有量)
ウレタンプレポリマー0.3gを三角フラスコに採取し、0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlを加えてウレタンプレポリマーを溶解させた。次いで、ブロモフェノールブルー液を数滴加え、0.1N塩酸メタノール溶液で滴定し、下記式:
NCO%=(a-b)×0.42×f/x
(前記式中、a:0.1Nジブチルアミントルエン溶液10mlのみを滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、b:ウレタンプレポリマーを溶解させた溶液を滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量、f:0.1N塩酸メタノール液のファクター、x:ウレタンプレポリマー量)
により遊離イソシアネート基含有量NCO%を求めた。
【0094】
また、合成例で使用した各原料を以下に示す。
【0095】
<有機ポリイソシアネート>
H12MDI:ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート(コベストロ社製「デスモジュールW」)。
IPDI:イソホロンジイソシアナート(エボニックジャパン株式会社製「VESTANAT(R)IPDI」)。
1,5-PDI:1,5-ペンタメチレンジイソシアネート。
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート。
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート。
【0096】
<ポリオール>
T5652:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT5652」、重量平均分子量2,000。
T5651:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT5651」、重量平均分子量1,000。
C2090:株式会社クラレ製ポリカーボネートジオール(3メチル-1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「クラレポリオールC-2090」、重量平均分子量2,000。
UP200:宇部興産株式会社製ポリカーボネートジオール(2-メチル-1,3-プロパンジオール)、商品名「ETERNACOLL UP-200」、重量平均分子量2,000。
HS PD2003:豊国製油株式会社製ポリカーボネートジオール(1,3-プロパンジオール)、商品名「HS PD-2003」、重量平均分子量2,000。
NL2010DB:三菱化学株式会社製ポリカーボネートジオール(1,4-ブタンジオール/1,10-デカンジオール)、商品名「ベネビオールNL-2010DB」、重量平均分子量2,000。
T6002:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT6002」、重量平均分子量2,000。
T6001:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT6001」、重量平均分子量1,000。
T4692:旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオール(1,4-ブタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)、商品名「デュラノールT4692」、重量平均分子量2,000。
PTMG2000:三菱化学株式会社製ポリテトラメチレンエーテルグリコール、商品名「PTMG2000」、重量平均分子量2,000。
1,3-BD:1,3-ブタンジオール。
【0097】
<3価以上の多価アルコール>
TMP:トリメチロールプロパン。
【0098】
<アニオン性親水基/活性水素含有化合物>
DMPA:ジメチロールプロピオン酸。
【0099】
<中和アミン>
TEA:トリエチルアミン。
【0100】
<鎖伸長剤>
EDA:エチレンジアミン。
DETA:ジエチレントリアミン。
【0101】
また、実施例及び比較例で使用した水性ポリウレタン樹脂は以下の方法により合成した。
【0102】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、(b1)ポリカーボネートジオールとしてポリカーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)(旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノールT5652」、数平均分子量2,000)71.7質量部、(d)多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.4質量部、(c)アニオン性親水基/活性水素含有化合物としてジメチロールプロピオン酸3.1質量部、及びメチルエチルケトン42.2質量部を仕込み、均一に混合した後、(a)有機ポリイソシアネートとしてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート23.5質量部、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、イソシアネート基末端プレポリマーに対する遊離イソシアネート基含有量が2.29質量%のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0103】
この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加し、均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させた。得られた乳化分散液に(e)鎖伸長剤としてヒドラジン一水和物1.1質量部、ジエチレントリアミン0.4質量部を添加した後、90分間攪拌して、ポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、樹脂分35.0質量%、粘度50mPa・s、平均粒子径0.1μmの安定な水性ポリウレタン樹脂の水分散液を得た。
【0104】
得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液における、(b)ポリオール全量に占めるポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び(d)多価アルコールの合計量に対する(d)多価アルコールの割合、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記水性ポリウレタン樹脂におけるアニオン性親水基含有量、水性ポリウレタン樹脂の粒子径、水性ポリウレタン樹脂の水分散液の粘度を表1に示す。
【0105】
(合成例2~19及び比較合成例1~7)
表1~表3に示す種類及び量の有機ポリイソシアネート、ポリオール、多価アルコール、アニオン性親水基含有ポリオール、中和アミン及び鎖伸長剤を用いた以外は合成例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂の水分散液(樹脂分35.0質量%)を得た。得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液における、(b)ポリオール全量に占めるポリカーボネートジオール(b1)及び(b2)の合計量の割合、(b)ポリオール、(c)アニオン性親水基/活性水素含有化合物及び(d)多価アルコールの合計量に対する(d)多価アルコールの割合、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーにおける遊離イソシアネート基含有量、前記水性ポリウレタン樹脂におけるアニオン性親水基含有量、水性ポリウレタン樹脂の粒子径、水性ポリウレタン樹脂の水分散液の粘度を表1~表3に示す。
【0106】
(実施例1)
合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液286質量部(樹脂分35質量%)、艶消し剤として乾式法で製造されたシリカ粒子(エボニックデグサ社製「ACEMATT TS 100」、平均粒子径:10μm)7質量部及びウレタンビーズ(根上工業株式会社製「アートパールP-800T」、平均粒子径:6μm、Tg=-34℃)30質量部、平滑剤(信越化学工業株式会社製「KM-862T」、不揮発分60質量%)40質量部、会合型増粘剤(サンノプコ株式会社製「SNシックナー612」、不揮発分40質量%)12質量部、イオン交換水343質量部、並びに水分散性カルボジイミド系架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」、不揮発分40質量%)12質量部を、ディスパーを用いて均一に混合し、水性の表面処理剤を調製した。
【0107】
(実施例2~19及び比較例1~7)
合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液の代わりに合成例2~19及び比較合成例1~7で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液286質量部(樹脂分35質量%)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして水性の表面処理剤を調製した。
【0108】
<皮革用基材の作製>
水性ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHA-68」、不揮発分35質量%)100質量部、水性顔料(御国色素株式会社製「PSMブラックC」、不揮発分31.5質量%)10質量部、水分散性カルボジイミド系架橋剤(日華化学株式会社製「NKアシストCI-02」、不揮発分40質量%)1質量部、及び会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーS」)3質量部を配合した表皮層用塗材を、離型紙(朝日ロール株式会社製「アサヒリリースAR-148」)上に、塗布厚100μm(WET塗布量)で塗布した。乾燥機を用いて80℃で2分間予備乾燥し、その後、120℃で3分間乾燥を行い、水分を完全に蒸発させ、ポリウレタン樹脂フィルム(以下、「表皮層」という。)を得た。
【0109】
この表皮層の上に、二液型水性ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHO-38、接着剤主剤、不揮発分35質量%)100質量部、水性ポリイソシアネート系硬化剤(日華化学株式会社製「NKアシストNY-27」不揮発分100質量%)7質量部、会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーN」、不揮発分30質量%)5質量部を配合したポリウレタン接着剤配合液を塗布厚200μm(WET塗布量)で塗布した。
【0110】
次いで、乾燥機を用いて90℃で1分間乾燥を行い、乾燥直後に、その上に、繊維基材としてポリエステルニットを貼り合わせた。その後、120℃で3分間キュアリングを行い、さらに40℃で72時間エージングを行い、離型紙を剥離して、繊維積層体(評価用基材)を得た。
【0111】
<皮革の作製>
得られた繊維積層体の表皮層上に、100メッシュのグラビアコーターを用いて、実施例又は比較例で得られた水性の表面処理剤を、乾燥後の塗布量が10~20g/m2になるように塗工し、125℃で3分間熱風乾燥させ、表面処理層を有する評価用皮革を作製した。この評価用皮革の耐摩耗性及び耐屈曲性を以下のようにして評価した。
【0112】
(耐摩耗性)
得られた評価用皮革を長さ約10mm×幅10mmにカットし、裏面の繊維基材へ厚み4mmのウレタンフォーム(イノアックコーポレーション製「ER-4」)を両面テープで貼り付け、学振摩耗試験機の摩耗子へセットし、6号綿帆布を台座側へセットし、9.8Nの荷重をかけて摩耗試験を行い、表面処理層の外観変化を確認し、表面処理層が破れ、裏面の繊維基材が露出するまでの摩耗回数を測定した。その結果を表1~表3に示す。なお、摩耗回数は1往復を1回とし、摩耗回数が多いほど耐摩耗性が優れていることを意味する。
【0113】
(耐屈曲性)
得られた評価用皮革を長さ約10mm×幅10mmにカットし、表面処理層を内側にして4つ折りにし、折れ曲がった皮革の中央部に10kgのおもりをのせ、24時間放置した(折り曲げ白化試験)。この試験(10kg×24時間)後、表面処理層の剥がれ(割れ)や白化を目視で確認し、下記基準で耐屈曲性を評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0114】
<評価基準>
5級:折り曲げ部の表面処理層に割れや白化が見られない。
4級:折り曲げ部の表面処理層に一部白化が見られる(全体の20%未満)。
3級:折り曲げ部の表面処理層全体に白化が見られる(全体の20%以上)が、割れや剥がれは見られない。
2級:折り曲げ部の表面処理層全体に白化が見られ、割れ・剥がれが一部見られる(全体の70%未満)。
1級:折り曲げ部の表面処理層に割れ・剥がれが見られる(全体の70%以上)。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
表1~表3に示したように、(b)ポリオールとして、(b1)炭素数が3~10の整数である分岐構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール(実施例3)又は(b2)炭素数が3~9の奇数である直鎖構造を有するジオール由来の構造単位を有するポリカーボネートジオール(実施例1~2、実施例4~19)を用い、かつ、(d)3価以上の多価アルコールを用いて合成した水性ポリウレタン樹脂を含有する表面処理剤を用いて皮革用基材の表面を処理した場合には、屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性を有する皮革が得られることがわかった。
【0119】
一方、前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの代わりに他のポリカーボネートジオールを用い、前記(d)3価以上の多価アルコールの代わりに短鎖のジオールを用いた場合(比較例1)には、屈曲性が損なわれ、耐摩耗性も低下することがわかった。
【0120】
また、前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの代わりに他のポリカーボネートジオールを用いた場合には、前記(d)3価以上の多価アルコールを用いた場合(比較例2~4)でも、用いなかった場合(比較例7)でも、優れた耐摩耗性が得られるものの、屈曲性が損なわれることがわかった。
【0121】
さらに、前記(d)3価以上の多価アルコールを用いた場合でも、前記(b1)ポリカーボネートジオール及び前記(b2)ポリカーボネートジオールの代わりにポリエーテルポリオールを用いた場合(比較例5)、並びに、前記(b2)ポリカーボネートジオールを用いた場合でも、前記(d)3価以上の多価アルコールを用いなかった場合(比較例6)には、屈曲性は損なわれないものの、耐摩耗性が低下することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上説明したように、本発明によれば、屈曲性が損なわれることなく、優れた耐摩耗性が付与された皮革を得ることが可能となる。したがって、本発明の皮革は、車両、家具、衣料、鞄、靴、袋物、雑貨等の各種産業分野において好適に利用することができ、さらには、表面処理層を設けて安定且つ高品位の皮革製品としても好適に利用することができる。