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特許7308810冷凍果実の製造方法、冷凍果実並びに解凍不要冷凍ケーキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】冷凍果実の製造方法、冷凍果実並びに解凍不要冷凍ケーキ
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/04 20060101AFI20230707BHJP
   A21D 15/02 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
A23B7/04
A21D15/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020218747
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103857
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】521001560
【氏名又は名称】株式会社Cake.jp
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 敏雄
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-245692(JP,A)
【文献】特開昭57-091150(JP,A)
【文献】特開2007-105029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00-7/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップと、果実表面に単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される少糖類の粉末を付着させるステップと、果実を急速凍結するステップとを含む、冷凍果実の製造方法。
【請求項2】
果実の重量に対して1~4%の範囲の少糖類の粉末を付着させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少糖類の粉末に対して1~10%の範囲の吸水性粉末を混合した後に果実に付着させる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップの前に、果実表面に針状の器具によって複数の微小な穴を開けるステップを含む、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
果実表面に複数の微小な穴を開けるステップと、果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップとの間に、果実表面に単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される少糖類の粉末を付着させるステップを更に含む、請求項記載の方法。
【請求項6】
少糖類が、グルコース、ガラクトース、グラニュー糖、トレハロース、からなる群より選択される1種以上である、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
吸水性粉末が、コーンスターチである、請求項3~のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
果実がイチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、リンゴ、ミカン、ブドウ、梨、桃、メロン、パイナップル、マンゴー、パパイヤ、キウイフルーツ又はイチジクである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
冷凍状態において、レオメーターで測定した場合の押し込み荷重が、新鮮な果実と比較して5倍以下であり、解凍後のドリップが果実体積に対して5%未満である、請求項1~8のいずれか1項記載の方法によって得られる冷凍果実。
【請求項10】
イチゴである、請求項記載の冷凍果実。
【請求項11】
請求項9又は10記載の冷凍果実を表面及び/又は内部に含む、冷凍菓子。
【請求項12】
ケーキである、請求項11記載の冷凍菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍果実の製造方法に関する。より具体的には、解凍後の食感が新鮮な果実に近い冷凍果実の製造方法に関する。本発明はまた、解凍することなく食することが可能な冷凍果実の製造方法に関する。本発明は更に、解凍時間が短い冷凍果実及び解凍することなく食することが可能な冷凍果実、並びにそのような冷凍果実を含む冷凍菓子、例えば冷凍ケーキを提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーキの中でも果実をトッピングしたケーキが消費者に好まれており、これらは新鮮な果実を用い、冷蔵状態で販売されることが常識であった。
【0003】
一方、近年では、好きな時に好きなものを食べたいという消費者の希望、及び遠隔地への輸送や長時間の保存を可能とするために各種の冷凍食品が製造されるようになり、ケーキにおいては、冷凍のまま食べられるように製造されたアイスケーキ、及び解凍して食べるように製造されたケーキが提供されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のアイスケーキは、冷蔵状態で販売されるケーキ、又は解凍して食べるケーキとは基本的に組成が異なっており、アイスクリームに近いものであった。
【0005】
また、冷凍状態で販売又は保存されたケーキを解凍すると、トッピングした果実や、ケーキ内部に含まれた果実の外観や食感が変化したり、いわゆるドリップが生じてケーキの外観も損なわれたりして、味だけでなく外観も重要なファクターであるケーキにおいて、高品質のものを提供することはほとんど不可能であった。
【0006】
特に、ケーキにおいて最も良く使用されるイチゴは、冷凍すると変質が著しく、解凍して食するのに問題があり、商品化する上で支障となっていた。それ故、ケーキのシンボルでもあるイチゴは、特に果実全体の形を保ったままで冷凍ケーキに使用されることはほとんどなかった。従って、本発明の第一の課題は、冷凍・解凍しても新鮮な果実の形態及び食感を保つ冷凍果実を提供することである。
【0007】
また、冷凍したケーキを解凍するには長時間、通常10時間程度を要するため、例えばケーキを提供する飲食店において、また家庭において、ケーキを提供する/食する時間を考慮して予め解凍しておく必要があり、例えば前日に解凍を開始する必要があった。イチゴを冷凍した場合にも、冷凍庫から出して直ぐには固すぎて食べられず、解凍をするのに1時間程度を要していた。そして、一旦解凍したケーキは再度冷凍することはできず、消費されない場合はやむを得ず廃棄される場合もあった。従って、本発明の第二の課題は、従来よりも短時間で解凍することが可能な冷凍果実を提供することである。
また、本発明の第三の課題は、解凍しなくても食することが可能な冷凍果実を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
イチゴ等の果実を冷凍すると、果実内部の水分が氷結晶となり、解凍した際にその氷結晶が細胞や組織を破壊することによって形をとどめなくなる上、自身の酵素で組織、栄養を過度に分解してしまう自己消化により食味、食感を大きく損ね、酸味や異臭等を生じると考えられる。
【0009】
従って、本発明者は、果実を冷凍した場合の氷結晶の発生を低減して、解凍後の品質低下を抑制することを検討した。また、自己消化による品質低下を生じない手段についても検討した。その結果、冷凍前の果実に特定の処理を施すことで、解凍後も高品質な冷凍果実を得ることが可能であることが見出され、更に、解凍しなくても食することが可能な冷凍果実を得ることも可能であることが見出された。
【0010】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1.果実表面に単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される少糖類の粉末を付着させるステップと、表面に少糖類の粉末が付着した果実を急速凍結するステップとを含む、冷凍果実の製造方法。
2.果実の重量に対して1~4%の範囲の少糖類の粉末を付着させる、上記1記載の方法。
3.少糖類の粉末に対して1~10%の範囲の吸水性粉末を混合した後に果実に付着させる、上記1又は2記載の方法。
4.少糖類の粉末を付着させるステップの前に、果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップを含む、上記1~3のいずれか記載の方法。
5.果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップと、果実表面に単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される少糖類の粉末を付着させるステップと、果実を急速凍結するステップとを含む、冷凍果実の製造方法。
6.果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップの前に、果実表面に針状の器具によって複数の微小な穴を開けるステップを含む、上記4又は5記載の方法。
7.果実表面に複数の微小な穴を開けるステップと、果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップとの間に、果実表面に単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される少糖類の粉末を付着させるステップを更に含む、上記6記載の方法。
8.少糖類が、グルコース、ガラクトース、グラニュー糖、トレハロース、からなる群より選択される1種以上である、上記1~7のいずれか記載の方法。
9.吸水性粉末が、コーンスターチである、上記3~8のいずれか記載の方法。
10.果実がイチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、リンゴ、ミカン、ブドウ、梨、桃、メロン、パイナップル、マンゴー、パパイヤ、キウイフルーツ又はイチジクである、上記1~9のいずれか記載の方法。
11.冷凍状態において、レオメーターで測定した場合の押し込み荷重が、新鮮な果実と比較して5倍以下である冷凍果実。
12.解凍後のドリップが果実体積に対して5%未満である、上記11記載の冷凍果実。
13.イチゴである、上記11又は12記載の冷凍果実。
14.上記11~13のいずれか記載の冷凍果実を表面及び/又は内部に含む、冷凍菓子。
15.ケーキである、上記14記載の冷凍菓子。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、凍結によるダメージが少ない冷凍果実を作ることが可能である。また、本発明により、短時間で解凍可能な冷凍果実、更には解凍しなくても食することが可能な冷凍果実を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<冷凍果実の製造方法>
本発明は、果実表面に単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される少糖類の粉末(以下本明細書中で「粉糖」と記載する場合がある)を付着させるステップと、表面に粉糖が付着した果実を急速凍結するステップとを含む、冷凍果実の製造方法を提供する。
【0013】
本発明の方法によって高品質の冷凍果実を得ることができる果実は、特に限定するものではないが、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、リンゴ、ミカン、ブドウ、梨、桃、メロン、パイナップル、マンゴー、パパイヤ、キウイフルーツ又はイチジクであり得る。果実は、新鮮な果実としてケーキに入れたりトッピングしたりする場合と同じ状態のものを用いる。従って、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー等のベリー類は、がくを除いた後、そのまま本発明の方法によって冷凍果実とすることができる。その他の果実は、新鮮な果実を食する場合と同様に、皮を剥いた状態で本発明の方法を適用する。
【0014】
また、本発明の方法に用いる果実は、限定するものではないが、熟成の進んでいないもの、すなわちそのまま食するには早過ぎる程度のものを選ぶことが好ましい。例えばイチゴの場合、がくの部分を含む頭から5~15mm(好ましくは10~13mm)が白く、完全には熟していない組織の固いイチゴを選別して使用することで、冷凍中に熟成が進み、解凍後、あるいは解凍せずにそのまま食するのに適したイチゴとなり得る。
【0015】
このことは、区画毎に収穫される果実の中で、未熟過ぎて食用には適さないとして廃棄されてしまうような果実が、場合によっては2割程度にまで達することがあることが知られているが、本発明の方法に用いることで、このような果実であっても消費者に好まれる冷凍果実として提供できることを意味する。従って、本発明においては、そのような熟成の進んでいない果実を選別して本発明の方法に用いることもできる。従来やむを得ず廃棄されていた果実をこのように活用できることは、農業的にも、食品産業的にも非常に有益な効果をもたらし得る。
【0016】
果実の成熟度合は果実の種類及び品種によって異なるため、特定することは困難であるが、例えばイチゴの場合であれば、上記の通り、完全に赤くなった果実ではなく、一部、例えば果実表面の5%以上、10%以上、20%以上、30%以上が白く、そのまま食するには固く、甘みも十分でないものを本発明の方法に好適に用いることができる。従って、このような熟成の進んでいない果実を選別するステップを本発明の方法に組み込んでも良い。イチゴの場合であれば、果実表面の5%以上、10%以上、20%以上、30%以上が白く、そのまま食するには固く、甘みも十分でないイチゴを選別するステップを含んでも良い。
【0017】
本発明の方法において果実表面に付着させる少糖類としては、単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される1~10個の糖からなるものが挙げられる。単糖としては、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、フルクトース(果糖)等が挙げられ、二糖としてはスクロース(ショ糖、砂糖)、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)、トレハロース等が挙げられる。また、オリゴ糖としては、ラフィノース、マルトトリオース等のマルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖等が挙げられる。少糖類として、上白糖、グラニュー糖、三温糖を用いても良い。
【0018】
これらの少糖類は、粉末状のものを用いて果実表面に付着させる。粉末状とは、肉眼で粉末状と確認できる粒径40μm~100μmの大きさのものであることをいい、上記の少糖類が粉末状で入手できるものをそのまま使用することができる。
【0019】
果実表面に少糖類を付着させるステップは、特に限定するものではなく、例えば平らなプレート上に置いた果実の上から少糖類をまぶすことで行うことができる。果実表面全体に少糖類を付着させるために、果実を適宜回転等させて付着させても良い。あるいは、少糖類を入れたプレートに果実を入れ、果実表面全体に少糖類の粉末を付着させるようにすることができる。
【0020】
上記ステップは、適切な装置を用いて自動化することもできる。しかしながら、果実を傷めないように穏やかな方法が望ましいため、果実表面から5~10cm離れた場所から粉糖を噴霧することが好ましい。
【0021】
本発明の方法では、上記ステップによって、果実の重量に対して1~4%の範囲の粉糖を付着させることが好ましい。果実に付着した粉糖の量は、付着前の果実と付着後の果実の重量を測定すれば容易に確認することができる。上記の範囲で粉糖が付着した果実は、表面が完全には隠れず、うっすらと粉糖に覆われた外観となる。
【0022】
上記ステップでは、限定するものではないが、粉糖に対して1~10重量%の範囲の吸水性粉末を混合して用いることが好ましい。この場合、上記の比率で粉糖と吸水性粉末とを混合した後に果実表面に付着させることが好ましい。吸水性粉末を組み合わせることで、解凍した後に生じ得るドリップを吸水性粉末が吸収するため、吸水性粉末を用いない場合と比較して、外観上より好適な状態をもたらし得る。吸水性粉末としては、限定するものではないが、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、小麦粉、オブパラ(商品名;パラフィンを微細粉末化して吸水を良くしたもの)を好適に使用し得る。特に、味がなく、ケーキとの相性が良いことから、コーンスターチが好適である。
【0023】
本発明の方法における、表面に粉糖が付着した果実を急速凍結するステップは、当分野において通常用いられる急速凍結方法によって行うことができ、特に限定するものではないが、例えば-30℃の冷凍庫に1時間以上入れることで確実に達成することができる。
【0024】
上記の本発明の方法により、解凍後も品質ダメージの少ない冷凍果実を製造することができ、また冷凍中に自己消化による熟成と粉糖の浸透による甘みの増加がおきて、より甘みの増したおいしい冷凍果実の製造が可能となることが見出された。例えばイチゴにおいては、本発明の方法を用いることで、赤み及び甘みが増し、外観及び味の優れた冷凍イチゴを提供することができる。尚、特定の原理に拘束されるものではないが、本発明の方法により、低分子の粉糖が果実表面を覆うことで、果実表面の凍結が防止されていることが考えられる。
【0025】
上記本発明の方法では、別の態様として、上記の粉糖を付着させるステップの前に、果実を糖度50~70%、好ましくは60~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップを含めることができる。このステップを含めることで、果実内部まで糖が浸透し、解凍しなくても食することが可能な冷凍果実を製造することができる。この水溶液は、限定するものではないが、例えばソルビトール、異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)、水あめ、シロップ類、はちみつ等の液体とすることが好ましく使いやすいが、少糖類の水溶液を作成し使用しても構わない。この水溶液には、更に5~20%の範囲でスクロース等の上記の少糖類を加えて糖度を更に高めても良い。
【0026】
このステップにおいて、果実を水溶液に浸漬させる時間は、特に限定するものではないが、例えば30分~5時間、好ましくは40分~2時間の範囲、例えば1時間30分、1時間であっても良い。浸漬は、果実を損傷しないように、水溶液に浸漬した状態で静置することが好ましいが、果実内部への糖の浸透をより確実にするために、適宜撹拌・振とうを行っても良い。例えば、浸漬時間を合計で5時間とする場合、例えば1時間おきに撹拌すれば良い。浸漬時間を合計で1時間とする場合、例えば15分毎に撹拌すれば良い。撹拌時間は15~30秒間程度であれば良い。
撹拌・振とうは、撹拌時間及び間隔をプログラミングされたタンブラーを利用して工業的に行うことができる。
【0027】
果実内部まで糖を確実に浸透させるために、上記の浸漬するステップの前に、果実表面に針状の器具によって複数の微小な穴を開けるステップを含めることが好ましい。針状の器具としては、特に限定するものではないが、木製・プラスチック製・金属製・ガラス製等の直径0.5~3mm、好ましくは1~2mmの範囲、長さ5~30cmの範囲で先端がとがった器具、既存のものでは例えば竹串、金属製の注射針等が挙げられる。また、食品分野でインジェクションのために用いられる装置(インジェクター)を用いても良い。しかしながら、このステップにおいても果実を必要以上に傷めないことを考慮すべきである。
【0028】
果実表面の穴は、限定するものではないが、例えば約3~5mmおき、好ましくは約3~4mmおきに開けることが好ましく、従って果実表面1cm2当たり3~10個、好ましくは3~8個の穴を開けることが好ましい。穴の深さは、果実の中心部付近まで達するものとすることが好ましく、従って、果実の大きさによって異なるため限定することは難しいが、例えば果実表面から5mm~2cmの範囲の深さとすることが好適である。上記の穴を開けるステップにおいて、果実を動かしながら開けることが想定される。
【0029】
上記の通り、本発明の方法において、粉糖を付着させるステップに加えて、果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップを含めることで、果実内部まで糖が浸透し、冷凍しても硬すぎない果実の状態をもたらすことができる。
【0030】
従って、この態様において、本発明は、果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップと、果実表面に単糖、二糖、及びオリゴ糖から選択される少糖類の粉末を付着させるステップと、果実を急速凍結するステップとを含む、冷凍果実の製造方法を提供する。この場合、水溶液中から取り出した果実は、表面を軽く拭き取るか、乾燥させた後に粉糖を軽くまぶし、その後急速凍結を行うと良い。
【0031】
この態様では、果実表面に複数の微小な穴を開けるステップと、果実を糖度50~70%の濃度の水溶液に浸漬するステップとの間に、果実表面に粉糖を付着させるステップを更に含めることができる。
【0032】
上記の態様による方法で製造された冷凍果実は、冷凍庫から出して直ぐに食することも出来るほどにソフトであり、従って、例えば冷凍ケーキを解凍せずに冷凍のままで提供するといった、新たな用途での商品化を可能とするものである。また、本方法で製造された冷凍果実は解凍に要する時間が短く、例えばイチゴの場合には冷凍庫から出して室温で約15分後には生のイチゴと同様の外観及び味・食感を有するものとすることができる。
【0033】
<冷凍果実>
本発明は、上記の本発明の方法によって得られる冷凍果実を提供する。本発明の方法によって得られる冷凍果実は、冷凍状態において、レオメーターで測定した場合の押し込み荷重が、新鮮な果実と比較して5倍以下、4倍以下、3倍以下、又は2倍以下であることを特徴とする。
【0034】
ここで、「冷凍状態」とは、-30℃の冷凍庫に1時間以上置くことで、例えば中心温度が-20℃以下となっている状態をいい、冷凍庫から取り出した直後、具体的には冷凍庫から取り出して10分以内、好ましくは5分以内の状態をいうものとする。
【0035】
冷凍果実の押し込み荷重を測定するためのレオメーターとしては、特に限定するものではないが、例えば株式会社レオテック製のFUDO RHEO METERを用いることができる。この場合、感圧軸(アダプター)として歯型押込棒Bを使用することが好ましい。あるいは、レオメーターとして、株式会社サン科学製のレオメーターCR-3000EX-S、CR-3000EX-L、COMPAC-100II、レオテックスSD-700DP等を用いることができ、この場合、感圧軸として歯幅1mm、角度45度、先端部の長さ20mm、全長90mmのアダプターNo.35を使用することが好ましい。あるいは、株式会社山電のクリープメータRE-3305S、RE2-3305C、RE2-33005C等を用いることができる。
【0036】
また、上記の本発明の方法によって得られる冷凍果実は、解凍後のドリップが果実体積に対して5%未満、特に好適には3%未満であることを特徴とする。本発明の方法による処理を行わずに冷凍したイチゴと比較すると、本発明の方法で処理した後に冷凍したイチゴの場合、ドリップ量を半分から3分の1に減らすことができた。
【0037】
更に、上記の本発明の方法によって得られる冷凍果実は、冷凍前の処理を行わない場合と比較して、解凍時間が半分以下、好適には四分の一程度に短縮されることを特徴とする。例えば、本発明の方法による処理を行わずに冷凍したイチゴは、大きさにも依存するが、解凍に60分程度かかるのに対し、本発明の方法で処理した後に冷凍したイチゴは15分程度で解凍することができる。
【0038】
本発明の冷凍果実は、特に限定するものではなく、例えばイチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、リンゴ、ミカン、ブドウ、梨、桃、メロン、パイナップル、マンゴー、パパイヤ、キウイフルーツ又はイチジクであり得る。特に好ましい態様では、本発明の冷凍果実はイチゴである。また、本発明の冷凍果実は、果実全体を冷凍したものであっても、スライスして冷凍したものであっても良いが、例えばイチゴの場合、果実全体を冷凍させた場合において、解凍後の品質が高いことが特に顕著に認識される。そして、新鮮なイチゴに劣ることのない、外観及び味に優れた冷凍イチゴを提供することができる。
【0039】
本発明の冷凍果実を用いれば、解凍してもおいしく食べられるショートケーキ等の冷凍菓子を提供することができる。また、解凍時間が短い冷凍菓子、更には解凍しなくても食べられる冷凍菓子の提供も可能となる。
【0040】
<冷凍菓子>
本発明はまた、上記の本発明の方法で得られた冷凍果実、あるいは上記の本発明の冷凍果実を表面及び/又は内部に含む冷凍菓子を提供する。
【0041】
本明細書における冷凍菓子は、従来より冷凍状態で食されるアイスクリーム、ソフトクリームだけでなく、従来は冷凍しても解凍して食されていたケーキ、シュークリーム、大福等、更にチョコレートコーティングした冷凍果実も含み得る。ここで、ケーキは、冷凍果実を表面及び/又は内部に含むショートケーキ、ロールケーキ、デコレーションケーキ等が含まれる。
【0042】
特開2019-154293号には、冷凍状態でも食べられるホイップクリームが開示されている。また、特表2004-522453号には、冷凍状態でも食べられるスポンジ生地が開示されている。本発明の冷凍果実をこれらのスポンジ生地及びホイップクリームと組み合わせることで、冷凍状態で食べられるケーキの提供が可能となる。
【実施例
【0043】
以下に本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
イチゴのがくの部分を含む頭から5~15mmが白くて熟していないイチゴを選別し、表面の水分をふき取って、上からグラニュー糖のみ(本発明品1)、又はグラニュー糖の重量に対して5%のコーンスターチを混ぜた混合粉末(本発明品2)を振りかけて付着させた。粉糖を付着させた後の重量測定により、イチゴの1~4重量%の範囲の粉糖又は混合粉末の付着が確認された。
【0045】
次いで、イチゴ表面からの水分蒸発が少なくなるようにプラスチックフィルムをかけてから、-30℃の冷凍庫に入れて急速凍結した。比較例として、粉糖を付着させていないイチゴ(比較品)をそのまま凍結した。尚、本発明品1、本発明品2、比較品について、それぞれイチゴ20個を用いて評価し、同様の実験を20回繰り返した。下記に代表的な結果を示す。
【0046】
凍結したイチゴを室温に1時間置き、解凍後の状態を観察し、食感及び味について5名の専門パネラーによる官能評価を下記表1の評価基準で行った。評価は、5名のパネラーの各評価点の平均値を求めた。
【0047】
【表1】
【0048】
その結果、粉糖とコーンスターチの混合粉末を付着させた後に冷凍した場合(本発明品2)には、ドリップがほとんどなく、解凍後の外観及び食感も新鮮なイチゴと同様であった。また、生のイチゴ以上の甘みが感じられ、冷凍によるダメージが全く感じられないものであった。本発明品2の官能評価の評価点は、生のイチゴを「5」としたが、それを超える「6」であった。
【0049】
コーンスターチを用いない場合(本発明品1)は、若干のドリップが観察されたものの、外観及び食感には問題なく、甘みの感じられるイチゴであった。本発明品1の評価点は「5」であった
【0050】
これに対して粉糖を付着させずに冷凍した場合は、解凍後に形が崩れ、外観が損なわれただけでなく、酸味が出てしまい、更に異常な匂いも感じられるものであった。比較品の評価点は「1」であった。
【0051】
本実施例において、本発明品1及び本発明品2では、いずれもドリップ量が比較品の1/3以下であることが確認された。
【0052】
[実施例2]
イチゴのがくの部分を含む頭から5~15mmが白くて熟していないイチゴを選別し、四方からまんべんなく竹串を刺して穴を開けた。がくに近い部分は中心まで串が入りにくいため、特に念入りに串を刺した。具体的には、イチゴを90度ずつ回転させながら3~5mm置きに串を入れた。
【0053】
次いで、上位処理をしたイチゴを、密閉可能なプラスチック製の袋に60%ソルビトール水溶液、更に溶液の10%のスクロースを加えた溶液(イチゴに対して2倍程度の体積)に入れ、イチゴがまんべんなく溶液に浸る程度に浸漬した。この浸漬したイチゴを冷蔵庫に入れて5時間保管した。この間に1時間おきに袋を約30秒間振とうして、イチゴを軽く攪拌した。その後、イチゴを浸漬液から出して表面の水分をふき取り、とがった部分を上向きにして天板上に並べ、5~10cm上から茶こしを用いて粉糖を振りかけ、-30℃の冷凍庫に入れて急速凍結した(本発明品)。比較品としては、上記の処理を行わずに急速凍結したイチゴを用いた。本発明品、比較品について、それぞれイチゴ20個を用いて評価し、同様の実験を20回繰り返した。下記に代表的な結果を示す。
【0054】
凍結したイチゴを冷凍庫から出した直後(5分以内)、15分後、及び30分後に、5名の専門パネラーによる官能評価を下記表2の評価基準で行った。評価は、5名のパネラーの各評価点の平均値を求めた。
【0055】
また、官能評価と同時に、それぞれのイチゴについて、FUDO RHEO METER(株式会社レオテック製)を使用して押し込み荷重を計測した。アダプターは歯型押込棒Bを使用し、5cm/分の速さで10mm押し込んだ時点での荷重(gf)を計測した。表2中の押し込み荷重の数値は、官能評価における各評価基準に対応して観察された押し込み荷重の測定値(平均値)を示す。荷重が700gf以下のサンプルが、フォークを容易に差し込むことの出来る硬さと考えられる。
【0056】
【表2】
【0057】
その結果、本発明品のイチゴは、冷凍庫から出した直後に官能評価の評価点がいずれも2(押し込み荷重の平均値は約600gf)となり、解凍されていないにもかかわらず食することが可能であった。そして、冷凍庫から出して15分後に3~4(押し込み荷重の平均値は450~600gf)、冷凍庫から出して30分後に4~5(押し込み荷重の平均値は150~250gf)の状態となった。
【0058】
これに対して、比較品では、冷凍庫から取り出した直後はカチカチで食べられず(評価点1、押し込み荷重平均値は約1100gf)、冷凍庫から出して15分後の評価点は1.5(押し込み荷重の平均値は約850gf)、冷凍庫から出して30分後の評価点は2.5(押し込み荷重の平均値は約520gf)であり、この時点でまだ、中心が固く半解凍の状態であったが、外側は形が崩れて柔らかい状態となっていた。また酸味が出て食品らしからぬ匂いが少し出てきており、官能評価の評価点は1となった。
【0059】
冷凍庫から出して1時間後、比較品もほぼ解凍でき、押し込み荷重の平均値は約250gfとなったが、形は崩れて繊維感が無く、酸味が出て、異臭がする状態であったため、官能評価の評価点は1となった。
【0060】
[実施例3 ショートケーキ]
実施例1で得られた本発明品2のイチゴ、及び下記の材料を用いてショートケーキ(15cm 5号サイズ)を製造した。
【0061】
【0062】
*1:スポンジ生地は以下の配合割合で通常の製法により製造した。
【0063】
*2:ホイップクリームは以下の配合割合で通常の製法により製造した。
【0064】
得られたショートケーキを急速凍結を開始してから3時間経過し、中心温度が-18℃以下になっていることを確認した後、解凍したところ、イチゴの外観・食感・味はいずれも新鮮なイチゴ以上の評価ができるものであった。
【0065】
[実施例4 アイスクリームケーキ]
実施例2で得られた本発明品のイチゴ、及び下記の材料を用いてイチゴアイスクリームケーキ(15cm 5号サイズ)を製造した。
【0066】
*2:実施例3と同じ配合のものを用いた。
【0067】
従来、イチゴを載せたアイスクリームケーキは、イチゴを冷凍するとコチコチに固くなってしまうため、冷凍状態でアイスクリームと一緒に喫食することは不可能であった。しかしながら、上記のイチゴアイスクリームケーキは、冷凍のままでもソフトにおいしくイチゴが食べられるものであった。
【0068】
[実施例5 イチゴパフェ]
実施例2で得られた本発明品のイチゴ、及び下記の材料を用いてイチゴパフェを製造した。
【0069】
*1:実施例3と同じ配合のものを用いた。
【0070】
本発明のイチゴを用いて、冷凍状態でも食することのできるイチゴパフェを作ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の方法によって得られる冷凍果実は、解凍時間が短く、解凍後の外観・味・食感が新鮮な果実に劣らず、高品質のものであるため、冷凍ケーキに使用して、長期保存及び遠隔地への輸送が可能となるため、ケーキの製造及び販売における使用が拡大し得る。
解凍時間が短く、解凍しても高品質の冷凍果実、又は解凍が不要な冷凍果実を用いた冷凍ケーキは、飲食店では必要な分だけを直前に解凍すれば良いため、長時間かけて解凍したにもかかわらず消費されずに廃棄されることが回避される。また、消費者にとっても、好きな時に好きなだけを短時間の解凍で、又は解凍せずに食べることができ、好まれるものである。従って、本発明により、冷凍果実及びこれをトッピングした冷凍ケーキの消費が増大し得る。