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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】エアバッグ用基布およびエアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20230707BHJP
   B60R 21/36 20110101ALI20230707BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
B60R21/235
B60R21/36 320
D03D1/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020510832
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012633
(87)【国際公開番号】W WO2019189043
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2018066875
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】小寺 翔太
(72)【発明者】
【氏名】蓬莱谷 剛士
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-258940(JP,A)
【文献】特開平07-048717(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119302(WO,A1)
【文献】特表2019-501310(JP,A)
【文献】特開2011-202340(JP,A)
【文献】特開平07-090747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/235
B60R 21/36
D03D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグ用基布であって、
ポリエチレンテレフタレート糸による織物で構成され、
前記糸の単繊維繊度が1.0~3.9dtexであり、
前記糸の総繊度が、280~470dtexであり、
前記糸について、波長630nmのHe-Neレーザーを照射した際に得られるラマンスペクトルにおける、3083cm-1のスペクトル強度をIX、I0=277.4としたとき、IX/I0が1.20以上である、エアバッグ用基布。
但し、前記I 0 は、顕微レーザーラマン分光測定装置(LabRAM HR-600/(株)堀場製作所製)を用い、KBセーレン(株)製ポリエチレンテレフタレートの糸(製品名84T/36-SOD、IV=0.64)に波長630nmのHe-Neレーザーを照射した際に得られるラマンスペクトルにおける3083cm -1 のスペクトル強度である。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度が0.80~1.20である、請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
カバーファクターが、2400~2800である、請求項1または2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
少なくとも、請求項1から3のいずれかに記載のエアバッグ用基布により形成された、エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故発生時に車輌に衝突した歩行者などを保護する目的として車外に装着・展開されるエアバッグに用いられる基布に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌が衝突した時の衝撃から乗員を保護する乗員保護用の安全装置として、車輌へのエアバッグ装置搭載が普及している。近年では乗員だけでなく、車輌に衝突した歩行者などを保護する為の車外用エアバッグも一部の車輌に搭載されている。
【0003】
乗員を保護する為のエアバッグは、ステアリングやシートなど車輌内部に搭載される為、車体や窓によって基本的には車外の環境から遮断されているが、車外用エアバッグはボンネット内部などに搭載されている為、外気や水分、砂礫などの環境に晒されている。特に光化学オキシダントと呼ばれるオゾンなどの酸化性ガスはその影響が大きく、エアバッグを劣化させるおそれがある。その為、車外用エアバッグに使用する基布には、従来の乗員保護用エアバッグに用いられる基布とは異なり、酸化性ガスへの耐性が必要となる。
【0004】
また、車外用エアバッグが搭載されるボンネット内部はエンジン等によって占められている為、スペースが無く、またスペースを設けようとした場合は空力抵抗や車体の外見に影響してしまう為、コンパクトに収納できることも求められる。
【0005】
例えば、特許文献1には固有粘度や単繊維繊度、初期モジュラスを規定した、コンパクトに格納することが可能なノンコートエアバッグ用基布に好適なポリエステル繊維が開示されているが、環境耐久性については記載がなく、車外用エアバッグに適しているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-48717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸化性ガスに対する耐性に優れ、かつ、収納性にも優れたエアバッグ用基布、及び、これを用いたエアバッグに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエアバッグ用基布は、ポリエチレンテレフタレートを主原料とする糸による織物で構成され、前記糸の単繊維繊度が1.0~3.9dtexであり、前記糸の総維度が280~470dtexであり、前記糸について、波長630nmのHe-Neレーザーを照射した際に得られるラマンスペクトルにおける、3083cm-1のスペクトル強度をIX、I0=277.4としたとき、IX/I0が1.20以上であることを特徴とする。
【0009】
上記エアバッグ用基布において、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.80~1.20とすることができる。
【0010】
上記エアバッグ用基布において、カバーファクターは、2400~2800とすることができる。
【0011】
本発明に係るエアバッグは、少なくとも、上述したいずれかのエアバッグ用基布により形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化性ガスに対する耐性に優れ、かつ、収納性にも優れたエアバッグ用基布、及び、これを用いたエアバッグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】基準となる糸におけるラマンスペクトル測定結果
図2】評価用エアバッグの取付け口側本体基布に環状布3枚を縫合した状態を示した正面図
図3】評価用エアバッグの取付け口側本体基布に環状布4枚を縫合した状態を示した正面図
図4】評価用エアバッグの取付け口側本体基布と乗員側本体基布の重ね方を示した正面図
図5】評価用エアバッグの取付け口側本体基布と乗員側本体基布とを縫合した状態を示した正面図
図6】折り畳み性評価試験の折り畳み手順を説明する評価用エアバッグの正面図
図7】折り畳み性評価試験の折り畳み方法を示す断面図
図8】折り畳み性評価試験の折り畳み方法を示す断面図
図9】折り畳み性評価試験の折り畳み方法を示す断面図
図10】実施例1におけるラマンスペクトル測定結果
図11】実施例2におけるラマンスペクトル測定結果
図12】実施例3におけるラマンスペクトル測定結果
図13】比較例1におけるラマンスペクトル測定結果
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るエアバッグ用基布は、ポリエチレンテレフタレートを主原料とする糸による織物で構成され、糸の単繊維繊度が1.0~3.9dtexであり、糸の総繊度が280~470dtexであり、前記糸について、波長630nmのHe-Neレーザーを照射した際に得られるラマンスペクトルにおける、3083cm-1のスペクトル強度をIX、I0=277.4としたとき、IX/I0が1.20以上であることを特徴とする。
【0015】
この基布は、ポリエチレンテレフタレートを主原料とする糸から構成されることが肝要である。ポリエチレンテレフタレートを主原料とすることで、オゾンなどに代表される酸化性ガスによる劣化が小さくなり、環境耐久性に優れた基布を得る事が出来る。
【0016】
また、本発明においては、糸の結晶指数を規定している。結晶指数とは、次のように定義される。基準となる糸に、波長630nmのHe-Neレーザーを照射した際に得られるラマンスペクトルから3083cm-1におけるスペクトル強度を読み取り、これをI0とする。図1は、このときのラマンスペクトルの測定結果であり、この結果からI0は、277.4となる。基準となる糸としては、KBセーレン(株)製ポリエチレンテレフタレートの糸(製品名84T/36-SOD、固定粘度=0.64)を採用した。一方、対象となる糸についても、同様にしてスペクトル強度を測定し、これをIXとする。なお、ラマンスペクトルの測定は、顕微レーザーラマン分光測定装置(LabRAM HR-600/(株)堀場製作所製)を用いて行うことができる。
【0017】
そして、スペクトル強度の比IX/I0を算出し、これを結晶指数とする。このようなラマン分光法によるスペクトル強度の比を算出することで、糸中の結晶状態(配列、配向)を推定することができる。特に、3083cm-1のスペクトルは、比較的強度が高く、ベンゼン環と炭素原子との結合に関するスペクトルであることから、隣接する分子との影響が出やすいと考えられるため、採用している。そして、このように算出される結晶指数は、1.20以上であることが好ましく、1.35以上であることがさらに好ましい。1.20以上であることで糸を構成するポリマー分子が緻密に配列され、劣化を促進する化学物質がポリマー分子の隙間へ侵入することを阻害する為、外的要因による劣化を抑制することが可能となる。また、結晶指数は1.60以下であることが好ましい。1.60以下であれば、製織の際に毛羽の発生を抑制することが出来る。
【0018】
糸の結晶指数を上記のような範囲内に制御する為には、紡糸条件(温度、速度)、延伸条件(延伸倍率、温度)を適宜設定する。ポリエチレンテレフタレートは溶融紡糸にて得られることから、溶融温度が低い場合や急冷した場合は分子が緻密に配列されない傾向があり、温度が高い場合は熱劣化を引き起こす可能性がある。また、延伸倍率が低い場合は分子配列が散漫な部分が多く残り、高い場合は毛羽の発生が多くなる傾向にある。さらに、延伸温度が低い場合は、延伸によって分子を配向させる効果が小さくなり、高い場合は溶融時と同様に熱劣化を引き起こす可能性がある。したがって、本発明に係るポリエチレンテレフタレートの糸は、上記各条件を調整することで、結晶指数が上記範囲となるようにすることができる。
【0019】
また、糸の主原料であるポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.80~1.20であることが好ましい。固有粘度が0.80以上であれば、原糸がエアバッグに要求されるレベルの強度を有することが可能となる。また、固有粘度は1.20以下であれば、製織時の毛羽立ちを抑制することが出来、高密度織物を得る事が可能となる。
【0020】
上記基布本体を構成する糸の総繊度は、280dtex以上であることが好ましい。糸の総繊度が280dtex以上であると、基布の強力がエアバッグとして優れた水準となる。また、収納性に優れた基布が得られやすい面で、総繊度は470dtex以下であることが好ましい。
【0021】
また、基布本体を構成する糸の単繊維繊度は、同一のものを使用しても異なっていてもいずれでもよいが、1.0~3.9dtexの範囲であることが肝要であり、1.0~3.5dtexの範囲であることが好ましい。なお、糸の総繊度が同じであれば、単繊維繊度が低い方が、収納性は高くなる。
【0022】
また、単繊維の断面形状は、円形、楕円、扁平、多角形、中空、その他の異型などから選定すればよい。必要に応じて、これらの混繊、合糸、併用、混用(経糸と緯糸で異なる)などを用いればよく、紡糸工程、織物の製造工程、あるいは織物の物性などに支障のない範囲で適宜選定すればよい。
【0023】
これら繊維には、紡糸性や、加工性、耐久性などを改善するために通常使用されている各種の添加剤、たとえば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を使用してもよい。
【0024】
基布の織密度は、経糸および緯糸がともに48~68本/2.54cmであることが、製織性および通気性等の性能面で好ましい。
【0025】
織物のカバーファクターは、特には限定されないが、例えば、2400以上とすることが好ましく、2430以上がさらに好ましく、2460以上が特に好ましい。カバーファクターを2400以上とすることで、織糸間の隙間が小さくなり、優れた低通気性を得ることが出来る。また、カバーファクターは、例えば、2800以下であることが好ましく、2600以下がさらに好ましい。2800以下にすることで織物の柔軟性を損ないにくく、良好な折り畳み性を得ることが出来る。なお、本発明において、カバーファクター(CFともいう)は以下の式で算出される値である。
カバーファクター(CF)=織物の経密度×√経糸の総繊度+織物の緯密度×√緯糸の総繊度
【0026】
本発明の基布は合成樹脂によって被覆されたものであっても良い。基布本体に被覆される合成樹脂の単位面積あたりの重量(塗布量)は、10~50g/m2の範囲であることが好ましい。10g/m2以上とすることで、エアバッグ用のコート布として要求される低通気性、耐熱性が得られる。また、50g/m2以下とすることで、性能と軽量化の両立が可能となる。なお、合成樹脂層は、基布本体の一方の面を被覆してもよいし、両方の面を被覆してもよい。
【0027】
本発明のエアバッグは、上述した基布を所望の形状に裁断した少なくとも1枚の基布片を接合することによって得られる。エアバッグを構成する基布片のすべてが、前記基布からなることが好ましい。また、エアバッグの仕様、形状および容量は、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。さらに、要求性能に応じて補強布を追加してもよい。補強布は、基布片と同等の被コート基布、基布片とは異なる被コート基布、基布片とは異なるノンコーティング基布から選択することができる。
【0028】
前記基布片の接合、基布片と補強布や吊り紐との接合、他の裁断基布同士の固定などは、主として縫製によって行われるが、部分的に接着や溶着などを併用したり、製織あるいは製編による接合法を用いたりしてもよく、エアバッグとしての堅牢性、展開時の耐衝撃性、乗員の衝撃吸収性能などを満足するものであればよい。
【0029】
裁断基布同士の縫合は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなどの通常のエアバッグに適用されている縫い方により行えばよい。また、縫い糸の太さは、700dtex(20番手相当)~2800dtex(0番手相当)、運針数は2~10針/cmとすればよい。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目針間の距離を2mm~8mm程度とした多針型ミシンを用いればよいが、縫合部の距離が長くない場合には、1本針ミシンで複数回縫合してもよい。エアバッグ本体として複数枚の基布を用いる場合には、複数枚を重ねて縫合してもよいし、1枚ずつ縫合してもよい。
【0030】
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよい。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46に代表されるポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、高分子ポリオレフィン、含フッ素、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラス、スチールなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸またはフィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。環境耐久性、コスト、縫製作業性を考慮した場合、ポリエステル、特に、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0031】
さらに、必要に応じて、外周縫合部などの縫い目からのガス抜けを防ぐために、シール材、接着剤または粘着材などを、縫い目の上部および/または下部、縫い目の間、縫い代部などに塗布、散布または積層してもよい。
【実施例
【0032】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<糸の総繊度>
JIS L 1013 8.3.1 B法に準じて測定した。
【0034】
<糸のフィラメント数>
JIS L 1013 8.4に準じて測定した。
【0035】
<糸の原料ポリマーチップの固有粘度(IV)>
自動粘度測定装置(SS-600L1/株式会社柴山科学機器製作所製)を用い、10g/Lに調整した各ポリマー溶液からIV値を測定した。溶媒にはフェノールとテトラクロロエタンの混合液(混合比=6:4)を用い、80℃で1時間溶解させ、測定は20℃の条件で行った。なお、後述する比較例については、実施例と材料が相違することから、固有粘度を測定していない。
【0036】
<単繊維繊度>
糸の総繊度を、糸のフィラメント数で除することで得た。
【0037】
<織物の織密度>
JIS L 1096 8.6.1 A法に準じて測定した。
【0038】
<結晶指数>
KBセーレン(株)製ポリエチレンテレフタレートの糸(製品名84T/36-SOD、IV=0.64)に波長630nmのHe-Neレーザーを照射した際に得られるラマンスペクトルから3083cm-1におけるスペクトル強度を読み取りこれをI0とした。さらに、準備した各糸に同様に波長630nmのHe-Neレーザーを照射し、得られたラマンスペクトルより3083cm-1のスペクトル強度を読み取り、これをIXとした。これらの強度から、強度比IX/I0を算出し、これを結晶指数とした。KBセーレン製ポリエチレンテレフタレートの糸:84T/36-SODは主に衣料用途に用いられるポリエチレンテレフタレートのみからなる糸であり、市場に広く流通しているものであることから、今回の測定におけるブランクサンプルとして採用した。ラマンスペクトルの測定は、顕微レーザーラマン分光測定装置(LabRAMHR-600/(株)堀場製作所製)を用いて行った。なお、結晶指数は、ポリエチレンテレフタレートの糸を基準に算出しているため、後述するように、基布の材料の相違する比較例については、算出していない。
【0039】
<酸化性ガスへの耐性試験/オゾンによる劣化確認>
準備した織物から、縦方向(織物の長さ方向)及び、横方向(織物の幅方向)のそれぞれが長手方向となるように25cm×5cmの測定用サンプルを裁断した。これを、オゾンエージングテスター(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、オゾン濃度40ppm、温度40℃の条件下で200時間劣化処理した後での引裂き強度をJIS L 1096 8.17.3C法に準じて測定し、これをO1とした。また、同様に裁断したサンプルについて未処理の状態での引裂き強度を測定し、これをO0とした。以上の結果からO1/O0×100[%]を算出し、これを強度保持率とした。強度保持率は80%以上が必要であると評価し、好ましくは90%以上であると評価した。
【0040】
<収納性評価用エアバッグの作製方法>
評価用エアバッグの作製方法を図2図5を用いて以下に説明する。図2及び図3に示すように、準備した織物から、直径が702mmである円形の第1本体基布1および第2本体基布2を裁断した。図2に示すように、第1本体基布1には、中央部に直径67mmのインフレーター取付け口3、および、前記取付け口3の中心から上方向に125mm、左右方向に115mmの位置を中心とした直径30mmの排気口4を2箇所(左右一対)設けた。さらに、第1本体基布1には、前記取付け口3の中心から上下方向に34mm、左右方向に34mmの位置を中心とした直径5.5mmのボルト固定用穴5を設けた。なお、第2本体基布2には、取付け口、排気口、及びボルト固定用穴は設けられていない。
【0041】
また、補強布として、470dtex72fのナイロン66繊維を用いて作製した織密度53本/2.54cmであるノンコート基布と、470dtex72fのナイロン66繊維を用いて作製した織密度46本/2.54cmの基布にシリコーン樹脂を45g/m2を塗布して得られたコート基布とを準備した。インフレーター取付け口3の補強布として、外径210mm、内径67mmの環状布6aを前記ノンコート基布から3枚、同一形状の環状布6bを前記コート基布から1枚裁断した。
【0042】
環状布6a、6bには全て、第1本体基布1のボルト固定用穴5と対応する位置に直径5.5mmのボルト固定用穴を設けた。そして、3枚の環状布6aを、インフレーター取付け口3を設けた本体基布1に、本体基布1の織糸方向に対して補強布の織糸方向が45度回転するように(図2織糸方向AB参照)、かつ、ボルト固定用穴の位置が一致するように重ね合わせた。ここで、図2に示すAが第1本体基布1織糸方向であり、Bが環状布の織糸方向である。そして、取付け口3を中心として、直径126mm(縫製部7a)、直径188mm(縫製部7b)の位置で円形に縫製した。さらに、図3に示すように、その上から同一形状の環状布6bを環状布6aと同様に同じ織糸方向にして重ね合わせ、直径75mm(縫製部7c)の位置で4枚の環状布6a、6bを本体基布1に円形に縫い合わせた。なお、環状布の本体基布1への縫い付けには、ナイロン66ミシン糸を使用し上糸を1400dtex、下糸を940dtexとして、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。
【0043】
次に、図4に示すように、両本体基布1、2は、環状布を縫い付けた面が外側になるように、かつ、本体基布2の織糸方向に対して本体基布1の織糸方向が45度回転するように重ねた。ここで、図4に示すAが第1本体基布1の織糸方向であり、Cが第2本体基布2の織糸方向である。そして、図5に示すように、これらの外周部を縫い目間2.4mm、縫い代を13mmとして二重環縫い2列にて縫合(縫製部7d)した。縫合後に取付け口3からバッグを引き出して内外を反転させ、内径φ676mmの円形エアバッグを得た。外周部縫製の縫い糸は、上記本縫いと同じ縫い糸を用いた。
【0044】
<エアバッグ収納性評価>
前述の方法にて作製したエアバッグを、図6から図8に示す手順にて折り畳んだ。図6は評価用エアバッグを折り畳む際の手順について第2本体基布側を正面として示した図であり、図7は評価用エアバッグを折り畳む前の形態8から中間形態9に折り畳む際の手順を示した図6のD-D断面図である。図6の中間形態9におけるE-E断面図は、図7の12の状態となる。図8は評価用エアバッグを中間形態9から折り畳み完了後の形態10に折り畳む際の手順を示した図6のF-F断面図である。図6の折り畳み完了後の形態10におけるG-G断面図は、図8の最終形態14である。
【0045】
折り畳みの際、中間形態9の通り巾が110mmとなるように調整し、折り畳み完了後形態10の通り巾が105mmとなるように調整した。その後、図9に示すように130mm×130mm×2mmのアルミ板16を畳んだエアバッグ15に乗せ、更にその上に1kgのおもり17を乗せた状態で、折り畳んだエアバッグ15の高さを測定した。評価は、折り畳み後の高さの大小で行い、45mm以上をB、45mm未満をAとした。なお、45mmとは、エアバッグの収納スペースを考慮したものである。
【0046】
以上の評価の結果は、以下の表1に示すとおりである。
【表1】
【0047】
[実施例1]
原料ポリマーの固有粘度0.90、総繊度470dtex、フィラメント数182、単繊維繊度2.58dtex、結晶指数1.47のポリエチレンテレフタレートの糸を用いて平織物を作製し、精練-セットを行って、織密度が経緯ともに57本/2.54cmであるエアバッグ用基布を得た。この基布のオゾンに対する耐久性を評価したところ、結晶指数が高いこともあり、強度保持率が経=92%、緯=94%であった。また、この基布を使用した収納性評価の結果は42.9mmと非常にコンパクトであった。これらの結果から、実施例1は車外用エアバッグに適したものであった。なお、図10は、実施例1に用いた糸におけるラマンスペクトル測定結果である。
【0048】
[実施例2]
原料ポリマーの固有粘度0.90、総繊度330dtex、フィラメント数144、単繊維繊度2.29dtex、結晶指数1.44のポリエチレンテレフタレートの糸を用いて平織物を作製し、精練-セットを行って、織密度が経緯ともに71本/2.54cmであるエアバッグ用基布を得た。この基布のオゾンに対する耐久性を評価したところ、結晶指数が高いこともあり、強度保持率が経=91%、緯=85%であった。また、この基布を使用した収納性評価の結果は40.8mmと非常にコンパクトであった。これらの結果から、実施例2は車外用エアバッグに適したものであった。なお、図11は、実施例2に用いた糸におけるラマンスペクトル測定結果である。
【0049】
[実施例3]
原料ポリマーの固有粘度0.90、総繊度470dtex、フィラメント数144、単繊維繊度3.26dtex、結晶指数1.31のポリエチレンテレフタレートの糸を用いて平織物を作製し、精練-セットを行って、織密度が経緯ともに57本/2.54cmであるエアバッグ用基布を得た。この基布のオゾンに対する耐久性を評価したところ、結晶指数が高いこともあり、強度保持率が経=90%、緯=81%であった。また、この基布を使用した収納性評価の結果は43.8mmと非常にコンパクトであった。実施例3の基布は、やや耐久性が低いものの車外用エアバッグに使用可能なものであった。なお、図12は、実施例3に用いた糸におけるラマンスペクトル測定結果である。
【0050】
[実施例4]
原料ポリマーの固有粘度0.87、総繊度470dtex、フィラメント数182、単繊維繊度2.58dtex、結晶指数1.47のポリエチレンテレフタレートの糸を用いて平織物を作製し、精練-セットを行って、織密度が経緯ともに53本/2.54cmであるエアバッグ用基布を得た。この基布のオゾンに対する耐久性を評価したところ、結晶指数が高いこともあり、強度保持率が経=93%、緯=91%であった。また、この基布を使用した収納性評価の結果は41.9mmと非常にコンパクトであった。これらの結果から、実施例1は車外用エアバッグに適したものであった。なお、実施例4は、カバーファクターがやや低いものの、オゾン劣化や収納性の低下には影響を及ぼしていない。
【0051】
[比較例1]
原料ポリマーの固有粘度0.87、総繊度560dtex、フィラメント数182、単繊維繊度3.08dtex、結晶指数1.09のポリエチレンテレフタレートの糸を用いて平織物を作製し、精練-セットを行って、織密度が経緯ともに53本/2.54cmであるエアバッグ用基布を得た。この基布のオゾンに対する耐久性を評価したところ、結晶指数が低いこともあり、強度保持率が経=88%、緯=80%と十分な性能ではなかった。さらに、総繊度が高いことから、この基布を使用した収納性試験の結果51.5mmとコンパクト性に欠ける基布であり、車外用エアバッグに不適切であった。なお、図13は、比較例1に用いた糸におけるラマンスペクトル測定結果である。
【0052】
[比較例2]
原料ポリマーの固有粘度0.78、総繊度470dtex、フィラメント数144、単繊維繊度3.26dtex、結晶指数1.02のポリエチレンテレフタレートの糸を用いて平織物を作製し、精練-セットを行って、織密度が経緯ともに57本/2.54cmであるエアバッグ用基布を得た。この基布のオゾンに対する耐久性を評価したところ、結晶指数が低いこともあり、強度保持率が経=82%、緯=75%と十分な性能ではなかった。また、固有粘度が低いことも強度保持率に影響を及ぼしていると考えられる。但し、総繊度は高くないことから、この基布を使用した収納性試験の結果43.5mmとコンパクトであったが、強度保持率は低いため、車外用エアバッグに不適切であった。
【0053】
[比較例3]
総繊度470dtex、フィラメント数144、単繊維繊度3.26dtexのポリアミド66の糸を用いて平織物を作製し、精練-セットを行って、織密度が経緯ともに53本/2.54cmであるエアバッグ用基布を得た。この基布のオゾンに対する耐久性を評価したところ、強度保持率が経=67%、緯=64%であり、耐久性に乏しく車外用エアバッグに不適切なものであった。これは、ポリアミドを用いていることに起因すると考えられる。また、収納性について、総繊度は高くないものの、糸の材料がポリアミドであり、ポリエチレンテレフタレートとは比重が異なることから、厚みが大きく、結果として収納性がよくなかった。
【符号の説明】
【0054】
1 第1本体基布
2 第2本体基布
3 インフレーター取付け口
4 排気孔
5 ボルト固定用穴
6a、6b 環状布
7a、7b、7c、7d 縫製部
8 折り畳む前の形態
9 折り畳み中間状態の形態
10 折り畳み完了後の形態
11 8におけるD-D断面図
12 9におけるE-E断面図
13 9におけるF-F断面図
14 10におけるG-G断面図
15 エアバッグ
16 アルミ板
17 おもり
A 第1本体基布の織糸方向
B 環状布6の織糸方向
C 第2本体基布の織糸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
図12
図13