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特許7308838ブレーキアクチュエータ及び関連する制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】ブレーキアクチュエータ及び関連する制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20230707BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20230707BHJP
   H02P 7/06 20060101ALI20230707BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20230707BHJP
   F16D 125/20 20120101ALN20230707BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16D65/18
H02P7/06 G
H02P7/06 B
F16D121:24
F16D125:20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020536871
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 FR2018053566
(87)【国際公開番号】W WO2019135047
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】1850013
(32)【優先日】2018-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517271212
【氏名又は名称】ヒタチ アステモ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パスケ、ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ラムデーヌ、アブデッサメッド
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-049800(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0244764(US,A1)
【文献】特表2007-531478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
F16D 65/18
H02P 7/06
F16D 121/24
F16D 125/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流モータ(10)とブレーキパッド(18)とを含んだブレーキ部材(6)を含み、前記モータが、シャフト(14)を備え且つ前記シャフト(14)の回転に伴い前記ブレーキパッド(18)を移動可能に駆動するように構成される、ブレーキアクチュエータ(2)において、
経時的に、前記モータ(10)れる電流及び前記モータ(10)の端子(20)間の電圧を測定し、
カルマンフィルタを実行することによって、前記モータ(10)流すフィルタリング後の電流及び前記モータ(10)の前記シャフト(14)のフィルタリング後の回転速度を、測定した電流及び電圧に基づいて計算し、
前記ブレーキアクチュエータ(2)が生成するクランプ力を、前記モータ(10)流すフィルタリング後の電流の値及び前記モータ(10)の前記シャフト(14)のフィルタリング後の回転速度の値に基づいて計算し、
計算後のクランプ力の値が所定の設定点に達したときに、前記モータ(10)の停止を制御するように構成された計算機(8)を含むことを特徴とするブレーキアクチュエータ(2)。
【請求項2】
前記ブレーキ部材(6)が、前記モータ(10)の前記シャフト(14)と前記ブレーキパッド(18)との間に配置された減速機(12)を更に含み、前記ブレーキパッド(18)が、前記減速機(12)の出力スクリュー(16)に取り付けられており、
前記計算機(8)が、以下のようなクランプ力を計算するように構成される請求項1に記載のブレーキアクチュエータ(2)。
【数1】

F:Nで表されるクランプ力
K:前記モータ(10)の起電力定数
J:前記モータ(10)の慣性モーメント
f:前記モータ(10)の粘性摩擦係数
η:前記ブレーキ部材(6)の効率
r:前記減速機(12)の減速機比
S:前記減速機(12)の前記出力スクリュー(16)のピッチ
d/dt:「時間微分」演算子
i:前記モータ(10)流すフィルタリング後の電流
i0:前記ブレーキ部材(6)の無負荷電流
ω:前記モータ(10)の前記シャフト(14)のフィルタリング後の回転速度
ω0:前記ブレーキ部材(6)の無負荷回転速度
【請求項3】
前記計算機(8)が、前記モータ(10)が定常状態動作にある時間間隔の間に、前記モータ(10)れる電流及び前記モータ(10)の前記電気端子(20)間の電圧の測定値に基づき、前記無負荷電流及び前記無負荷回転速度を測定するように構成される請求項2に記載のブレーキアクチュエータ(2)。
【請求項4】
前記カルマンフィルタが、以下のように与えられる状態モデルを有し、
【数2】

ここで、xは、iがモータれる電流であり、ωがモータのシャフトの回転速度である、以下のように表される、前記ブレーキ部材(6)の状態ベクトルであり、
【数3】

ここで、uは、Uが前記モータ(10)の前記端子(20)間の測定電圧であり、Cuが前記モータ(10)の前記シャフト(14)の有効トルクである、以下のように表される入力制御ベクトルであり、
【数4】

ここで、Aは、Rが前記モータ(10)の内部抵抗であり、Kが前記モータ(10)の磁気定数であり、Jが前記モータ(10)の慣性モーメントであり、fが前記モータ(10)の粘性摩擦係数であり、Lが前記モータ(10)の内部インダクタンスである、以下のように表される前記カルマンフィルタの状態遷移行列であり、
【数5】

ここで、Bは、以下のように表される前記カルマンフィルタの制御入力行列であり、
【数6】

ここで、C及びDは、それぞれ以下のような行列である、
【数7】

【数8】

請求項1~3のいずれか一項に記載のブレーキアクチュエータ(2)。
【請求項5】
前記計算機(8)が、
前記ブレーキアクチュエータ(2)を起動する指令に対応する初期瞬間から、前記モータ(10)に電気エネルギーを供給させ、
初期瞬間と、それに続く最終瞬間との間の時間間隔の間、前記モータ(10)れる電流の値を記憶し、
所定のモデルのパラメータを最適化して、前記モータ(10)の内部抵抗の値及び/又は前記モータ(10)の磁気定数の値を測定し、
前記カルマンフィルタの状態遷移行列の係数を、前記モータ(10)の内部抵抗の測定値及び/又は前記モータ(10)の磁気定数の測定値として更新するように構成される請求項1~4のいずれか一項に記載のブレーキアクチュエータ(2)。
【請求項6】
前記カルマンフィルタが、以下の数式に等しい数量を含み、
【数9】

ここで、Aは、カルマンフィルタの状態遷移行列であり、
Teは、カルマンフィルタの状態ベクトルの連続する2つの予測を隔てる時間間隔であり、
Iは、状態遷移行列の階数に等しい階数の「単位」行列であり、
「!」は、「階乗」演算子であり、
mは、ゼロ以外の所定の自然整数であり、
前記計算機(8)が、昇べきの順に、項(A.Te)のべき指数を連続的に計算するように構成され、pが1とmとの間に含まれる任意の整数である、得られるべき指数(A.Te)pが、項(A.Te)によって事前に計算されたひとつ下のべき指数(A.Te)p-1を乗算することで求められる、請求項1~5のいずれか一項に記載のブレーキアクチュエータ(2)。
【請求項7】
直流モータ(10)とブレーキパッド(18)とを含み、前記モータ(10)が、シャフト(14)を備え且つ前記シャフト(14)の回転に伴い前記ブレーキパッド(18)を移動可能に駆動するように構成される、ブレーキアクチュエータ(2)を制御する方法であって、
前記モータ(10)に電気エネルギーを供給するステップと、
経時的に、前記モータ(10)れる電流及び前記モータ(10)の端子(20)間の電圧を測定するステップと、
カルマンフィルタを実行することによって、前記モータ(10)流すフィルタリング後の電流及び前記モータ(10)の前記シャフト(14)のフィルタリング後の回転速度を、測定した電流及び電圧に基づいて計算するステップと、
前記ブレーキアクチュエータ(2)が生成するクランプ力を、前記モータ(10)流すフィルタリング後の電流の値及び前記モータ(10)の前記シャフト(14)のフィルタリング後の回転速度の値に基づいて計算するステップと、
計算後のクランプ力の値が所定の設定点に達したときに、前記モータ(10)の停止を制御するステップとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流モータとブレーキパッドとを含んだブレーキ部材を含むブレーキアクチュエータであって、モータは、シャフトを備え且つシャフトの回転に伴いブレーキパッドを移動可能に駆動するように構成される、ブレーキアクチュエータに関する。
【0002】
本発明は、ブレーキの分野に適用可能であり、特に車両の車輪に対するブレーキに適用可能である。
【背景技術】
【0003】
特に陸上車両用の車両車輪に対し、車輪を回転可能に係止するように、その車輪に取り付けられたブレーキディスクと連動するブレーキアクチュエータを設けることが知られている。
【0004】
また、アクチュエータがディスクに及ぼすクランプ力を計算し、クランプ力の計算値に従ってアクチュエータの動作を制御することも知られている。
【0005】
例えば、アクチュエータ内のクランプ力が電気モータによって与えられる場合、モータが流す電流及びモータシャフトの回転速度を測定して、クランプ力を計算することが知られている。
【0006】
しかしながら、このようなアクチュエータは十分に満足のいくものではない。
【0007】
実際、こうしたアクチュエータでは、特に、流れる電流及びシャフトの回転速度の測定が不正確であることに起因して、クランプ力の推定値の誤りが判明することがある。これにより、過度の力がブレーキディスクに加わって、電気エネルギーの過剰消費やアクチュエータ部品の加速劣化を招いたり、加わる力が不十分な場合には、クランプや、対応する車輪の回転可能数が不十分になったりする。
【0008】
従って、本発明は、信頼性の高いブレーキアクチュエータを提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0009】
このため、本発明の目的は、前述した種類のブレーキアクチュエータにおいて、
-経時的に、モータが流す電流及びモータの端子間の電圧を測定し、
-カルマンフィルタを実行することによって、モータが流すフィルタリング後の電流及びモータのシャフトのフィルタリング後の回転速度を、測定した電流及び電圧に基づいて計算し、
-アクチュエータが生成するクランプ力を、モータが流すフィルタリング後の電流及びモータのシャフトのフィルタリング後の回転速度に基づいて計算し、
-クランプ力の計算値が所定の設定点に達したときに、モータの停止を制御するように構成された計算機を含む、ブレーキアクチュエータである。
【0010】
実際、カルマンフィルタの実行によって、モータが流す電流及びその端子間の電圧の測定に対するノイズの影響が軽減され、これにより、ブレーキアクチュエータが及ぼすクランプ力の予測が、より信頼性の高いものとなる。この結果、所望のクランプ力に略等しい力をブレーキパッドに加わり、本発明に係るブレーキアクチュエータが、従来技術水準のブレーキアクチュエータよりも信頼性の高いものとなる。また、上記の結果、モータの電気消費のより優れた管理や、アクチュエータ部品の延命が実現される。
【0011】
本発明の更なる有利な態様によれば、ブレーキアクチュエータは、以下の特徴の1つ又は幾つかを、単一で、又は技術的に可能な任意の組み合わせに応じて含む。
-ブレーキ部材が、モータシャフトとブレーキパッドとの間に配置された減速機を更に含み、ブレーキパッドが、減速機の出力スクリューに取り付けられており、計算機が、以下のようなクランプ力を計算するように構成され、
【0012】
【数1】

ここで、Fは、Nで表されるクランプ力であり、
Kは、モータの起電力定数であり、
Jは、モータの慣性モーメントであり、
fは、モータの粘性摩擦係数であり、
ηは、ブレーキ部材の効率であり、
rは、減速機の減速機比であり、
Sは、減速機の出力スクリューのピッチであり、
d/dtは、「時間微分」演算子であり、
iは、モータが流すフィルタリング後の電流であり、
i0は、ブレーキ部材の無負荷電流であり、
ωは、モータのシャフトのフィルタリング後の角回転速度であり、
ω0は、ブレーキ部材の無負荷角回転速度であり、
計算機は、モータが定常状態動作にある時間間隔の間に、モータが流す電流及びモータの電気端子間の電圧の測定値に基づき、無負荷電流及び無負荷角回転速度を測定するように構成され、
カルマンフィルタは、以下のように与えられる状態モデルを有し、
【0013】
【数2】

ここで、xは、iがモータが流す電流であり、ωがモータのシャフトの角回転速度である、以下のように表される、ブレーキ部材6の状態ベクトルであり、
【0014】
【数3】

ここで、uは、Uがモータの端子間の測定電圧であり、Cuがモータのシャフトの有効トルクである、以下のように表される入力制御ベクトルであり、
【0015】
【数4】

ここで、Aは、Rがモータの内部抵抗であり、Kがモータの磁気定数であり、Jがモータの慣性モーメントであり、fがモータの粘性摩擦係数であり、Lがモータの内部インダクタンスである、以下のように表されるカルマンフィルタの状態遷移行列であり、
【0016】
【数5】

ここで、Bは、以下のように表されるカルマンフィルタの制御入力行列であり、
【0017】
【数6】

ここで、C及びDは、それぞれ以下のような行列であり、
【0018】
【数7】
【0019】
【数8】

-計算機は、
・アクチュエータを起動する指令に対応する初期瞬間から、モータに電気エネルギーを供給させ、
・初期瞬間と、それに続く最終瞬間との間の時間間隔の間、モータが流す電流の値を記憶し、
・所定のモデルのパラメータを最適化して、モータの内部抵抗の値及び/又はモータの磁気定数の値を測定し、
・カルマンフィルタの状態遷移行列の係数を、モータの内部抵抗の測定値及び/又はモータの磁気定数の測定値として更新するように構成され、
-カルマンフィルタは、以下の数式に等しい数量を含み、
【0020】
【数9】

ここで、Aは、カルマンフィルタの状態遷移行列であり、
Teは、カルマンフィルタの状態ベクトルの連続する2つの予測を隔てる時間間隔であり、
Iは、状態遷移行列の階数に等しい階数の「単位」行列であり、
「!」は、「階乗」演算子であり、
mは、ゼロ以外の所定の自然整数であり、
計算機は、昇べきの順に、項(A.Te)のべき指数を連続的に計算するように構成され、pが1とmとの間に含まれる任意の整数である、得られるべき指数(A.Te)pが、項(A.Te)によって事前に計算されたひとつ下のべき指数(A.Te)p-1を乗算することで求められる。
【0021】
また、本発明の目的は、直流モータとブレーキパッドとを含み、モータはシャフトを備え且つシャフトの回転に伴いブレーキパッドを移動可能に駆動するように構成される、ブレーキアクチュエータを制御する方法であって、
-モータに電気エネルギーを供給するステップと、
-経時的に、モータが流す電流及びモータの端子間の電圧を測定するステップと、
-カルマンフィルタを実行することによって、モータが流すフィルタリング後の電流及びモータのシャフトのフィルタリング後の回転速度を、測定した電流及び電圧に基づいて計算するステップと、
-アクチュエータが生成するクランプ力を、モータが流すフィルタリング後の電流の値及びモータのシャフトのフィルタリング後の回転速度の値に基づいて計算するステップと、
-クランプ力の計算値が所定の設定点に達したときに、モータの停止を制御するステップとを含む方法である。
【0022】
本発明は、非限定の例のみを用いて且つ添付の図面を参照する以下の説明によって、より理解が深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るブレーキアクチュエータの模式図である。
図2図1のアクチュエータのモータが流す電流の、モータの開始フェーズにおける時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
図1にブレーキアクチュエータ2を示す。
【0025】
アクチュエータ2は、車両に搭載されて、車両の対応する車輪を回転可能に係止する。アクチュエータ2は、常用ブレーキ及び/又はパーキングブレーキとして使用するための、電気式又は電気油圧式のブレーキアクチュエータである。
【0026】
アクチュエータ2は、ブレーキ部材6と、ブレーキ部材6の動作を駆動する計算機8とを含む。
【0027】
ブレーキ部材6は、ブレーキ部材6のブレーキパッド18を動かして、ブレーキパッド18を、アクチュエータ2と連動する車輪に取り付けられたディスクに接触させるように構成されており、その車輪を回転可能に係止するようになっている。
【0028】
また、計算機8は、ブレーキ部材6の動作を制御するように構成されている。
【0029】
ブレーキ部材6は、モータ10と、減速機12と、ブレーキパッド18とを含む。
【0030】
モータ10は電気モータであり、より具体的には直流電気モータである。
【0031】
モータ10は、減速機12に接続されたシャフト14を含む。
【0032】
また、モータ10は、モータ10に電気エネルギーを供給可能な電気エネルギー源22に接続される電気端子20も含む。電気エネルギー源22は、例えば、車両の電圧バスである。
【0033】
減速機12は、その自由端17がブレーキパッド18に取り付けられた出力スクリュー16を備える。出力スクリュー16は回転可能に係止されており、モータ10のシャフト14の回転によって出力スクリュー16を移動させることで、ブレーキパッド18を移動させるようになっている。
【0034】
計算機8は、モータ10への電気エネルギー供給を制御するように構成される。より具体的には、計算機8は、モータ10への電気エネルギー供給を制御して、モータ10を操作したり(モータ10に電気エネルギーが供給される場合)、モータ10を停止したり(モータ10への電気エネルギー供給が停止する場合)するように構成される。
【0035】
また、計算機8は、経時的に、モータ10が流す電流iの値を測定するように構成される。更に、計算機8は、モータ10の端子20間の電圧Uの値を測定するように構成される。
【0036】
また、計算機8は、経時的に、モータ10のシャフト14の角回転速度ωを計算するように構成される。モータ10のシャフト14の角回転速度ωの計算については後述する。
【0037】
更に、計算機8は、常時、アクチュエータ2が生成するクランプ力を計算するように構成される。特に、計算機8は、以下の数式(1)に従ってクランプ力を計算する。
【0038】
【数10】

ここで、Fは、N(ニュートン)で表されるクランプ力であり、Kは、N.m.A-1(アンペア毎ニュートンメートル)で表され、「磁気定数」とも呼ばれる、モータ10の起電力定数であり、Jは、N.m.s2.rad-1(ラジアン毎ニュートンメートル毎秒毎秒)で表されるモータ10の慣性モーメントであり、fは、N.m.s.rad-1で表される、モータ10の粘性摩擦係数であり、ηは、ブレーキ部材6の無次元効率であり、rは、減速機12の無次元減速機比であり、Sは、mで表される、減速機12の出力スクリュー16のピッチであり、d/dtは、「時間微分」演算子であり、iは、Aで表される、モータ10が流す電流であり、i0は、後述する、ブレーキ部材6の無負荷電流であり、ωは、rad.s-1で表される、モータ10のシャフト14の角回転速度であり、ω0は、後述する、ブレーキ部材6の無負荷角回転速度である。
【0039】
慣性モーメントJ、粘性摩擦係数f、効率η、減速機比r、及びねじピッチSは、アクチュエータ2の特性数であり、計算機8のメモリに記録される所定の値である。
【0040】
また、磁気定数Kは、後述するように、所定の値又は計算機8によって計算される値を有する。
【0041】
計算機8は、クランプ力Fの値を経時的に計算するために、カルマンフィルタを実行するように構成される。
【0042】
より具体的には、計算機8は、以下の関係(2)によって与えられる状態モデルを有するカルマンフィルタを実行するように構成される。
【0043】
【数11】

ノイズ成分には言及されていない。
【0044】
関係(2)では、xは、以下のように表される、ブレーキ部材6の状態ベクトルである。
【0045】
【数12】
【0046】
また、uは、以下のように表される入力制御ベクトルである。
【0047】
【数13】

ここで、Uは、V(ボルト)で表される、モータ10の端子20間の電圧であり、Cuは、N.mで表される、モータ10のシャフト14の有効トルクである。有効トルクCuは、以下に従って求められる。
【0048】
【数14】
【0049】
量yは、モータ10が流す電流iに等しいカルマンフィルタの測定ベクトルであり、計算機8によって測定される。
【0050】
また、A、B、C及びDは、以下に記載される値の行列である。
【0051】
【数15】
【0052】
【数16】
【0053】
【数17】
【0054】
【数18】
【0055】
行列Aは、通常「状態遷移行列」と呼ばれる。また、行列Bは、通常「制御入力行列」と呼ばれる。
【0056】
Rは、モータ10の内部抵抗である。また、Lは、モータ10の内部インダクタンスである。
【0057】
内部インダクタンスLは、モータ10の特性数であり、計算機8のメモリに記録される所定の値である。
【0058】
また、内部抵抗Rは、後述のように、所定の値又は計算機8によって計算される値を有する。
【0059】
このようなフィルタによって、計算機8は、カルマンフィルタに知られる予測ステップを連続的且つ経時的に実行するように構成される。
【0060】
従来では、予測ステップにおいて、整数指数kによって参照され且つ「瞬間k」として称される、得られた計算瞬間に対する状態ベクトルxの予測値が、以下の関係(3)に従って計算される。
【0061】
【数19】

ここで、
【0062】
【数20】

は、瞬間kにおける状態ベクトルxの予測値であり、
【0063】
【数21】

は、整数指数k-1によって参照され且つ「瞬間k-1」として称される、以前の計算瞬間における状態ベクトルxの推定値であり、
【0064】
【数22】

は、瞬間k-1における入力制御ベクトルの測定値であり、Teは、瞬間k-1と瞬間kとの間の経過時間であり、eは「指数」関数である。
【0065】
しかしながら、有利には、計算機8は、関係(3)に基づいて近似を行うことで、経時的に状態ベクトルxの値を測定するように構成される。
【0066】
より具体的には、計算機8は、Adと表記される項
【0067】
【数23】

及びBdと表記される
【0068】
【数24】

の近似値を計算するように構成される。
【0069】
特に、計算機8は、項Adのべき級数展開の第1の項を計算することで、項Adの近似値Ad*を測定するように構成される。より具体的には以下の通りである。
【0070】
【数25】

ここで、I2は、階数が2の単位行列であり、「!」は「階乗」演算子であり、mはゼロ以外の所定の自然整数である。
【0071】
好適には、近似値Ad*を計算するために、計算機8は以下のステップを実行するように構成される。
【0072】
初期化ステップにおいて、計算機8は、それぞれ次元(1,m+1)を有する第1の配列G及び第2の配列Hを、計算機8のメモリ内に作成する。
【0073】
そして、予備計算ステップにおいて、計算機8は、第1の配列GのボックスG(1,1)内に値「1」を書き込む。また、計算機8は、以下のような値を第1の配列Gの他のボックスのそれぞれに書き込む。
【0074】
【数26】
【0075】
この場合、予備計算ステップの最後には、第1の配列Gへの書き込みは以下のようになる。
【0076】
【表1】
【0077】
そして、中間計算ステップにおいて、計算機8は、第2の配列HのボックスH(1,1)内に、階数が2の単位行列を書き込む。
【0078】
そして、計算機8は、第2の配列Hの階数(1,2)のボックスから階数(1,m+1)のボックスへと、以下の数式に従って計算される値を再帰的に書き込む。
【0079】
【数27】

ここで、「x」は行列の積を示す。
【0080】
この場合、中間計算ステップの最後には、第2の配列Hへの書き込みは以下のようになる。
【0081】
【表2】
【0082】
そして、最終計算ステップにおいて、計算機8は、近似値Ad*を求めるように、第2の配列Hのボックスのそれぞれの値を加算する。近似値Ad*は繰り返し計算される。
【0083】
また、計算機8は、項Bdのべき級数展開の第1の項を計算することで、近似値Bd*を測定するように構成される。より具体的には以下の通りである。
【0084】
【数28】

ここで、nはゼロ以外の所定の自然整数である。
【0085】
好適には、整数mとnとは互いに等しい。この場合、計算機8は、それぞれ次元(1,m+1)を有する第3の配列Q及び第4の配列Zも、計算機8のメモリ内に作成するように構成される。
【0086】
また、予備計算ステップにおいて、計算機8は、以下のような値を第3の配列Qの各ボックスに書き込む。
【0087】
【数29】

こうして、予備計算ステップの最後には、第3の配列Qへの書き込みは以下のようになる。
【0088】
【表3】
【0089】
また、中間計算ステップにおいて、計算機8は、以下のような値を第4の配列Zの各ボックスに書き込む。
【0090】
【数30】
【0091】
中間計算ステップの最後には、第4の配列Zへの書き込みは以下のようになる。
【0092】
【表4】
【0093】
また、最終計算ステップにおいて、計算機8は、第4の配列Zのボックスのそれぞれの値を加算して、近似値Bd*を求めるように、行列Bによって求められた結果を右側に乗算する。
【0094】
好適には、計算機8は、モータ10の内部抵抗Rの値を測定するように構成される。この場合、計算機は、有利には、モータ10の磁気定数Kの値も測定するように構成される。
【0095】
より具体的には、開始は、アクチュエータ2がアイドリングしている状態、すなわち、アクチュエータ2が、対応する車輪のブレーキディスクと連動してその車輪を回転可能に係止するようになっていない状態からであり、計算機8は、アクチュエータ2を起動する指令の受信に対応する初期瞬間tiから、モータ10に電気エネルギーを供給させるように構成される。
【0096】
また、計算機8は、初期瞬間tiから最終瞬間tfまでの時間間隔の間、モータ10が流す電流iの値も取得するように構成される。また、計算機8は、初期瞬間tiから最終瞬間tfまでの間、モータ10の端子20間の電圧Uの値を取得するように構成される。図2の曲線30が、初期瞬間tiから最終瞬間tfまでの間の、モータが流す電流iの変化を示す。
【0097】
最終瞬間tfは、ブレーキパッド18が、最終瞬間tfにおいて、対応する車輪のディスクにまだ接触しないように選択される。
【0098】
また、最終瞬間tfは、モータ10が、最終瞬間tfにおいて、定常状態で動作するように選択される。
【0099】
更に、計算機8は、所定のモデルのパラメータを最適化して、所定の費用関数を最小限にするように構成される。好適には、所定のモデルは以下のように表される。
【0100】
【数31】

ここで、tは、初期瞬間tiから最終瞬間tfまでの間の任意の瞬間であり、i0は、ブレーキ部材6の無負荷電流であり、iMは、初期瞬間tiに得られる電流の最大値であり、τは、モータ10の内部抵抗R及び磁気定数Kを代表する時間定数である。
【0101】
例えば、こうした最適化は、最小二乗法を再帰的に適用することによって達成される。
【0102】
無負荷電流i0は、ブレーキパッド18がディスクに到達する前の、定常状態のモータ10が流す電流である。
【0103】
例えば、無負荷電流i0の値は、初期瞬間tiに続く中間瞬間tintから最終瞬間tfまでの間にモータ10が流す電流の平均値である。中間瞬間tintは、モータ10が中間瞬間tintから定常状態で動作していると考えられるように選択される。
【0104】
また、無負荷角回転速度ω0は、ブレーキパッド18が対応するディスクに到達する前の、定常状態にあるブレーキ部材6の角速度である。
【0105】
更に、計算機8は、以下の関係(4)を適用することによって、内部抵抗Rの値を計算するように構成される。
【0106】
【数32】

ここで、U(ti)は、瞬間tiにおける電圧Uの値である。
【0107】
また、計算機8は、以下の関係(5)を適用することによって、磁気定数Kの値を計算するように構成される。
【0108】
【数33】
【0109】
また、計算機8は、ブレーキ部材6が及ぼすクランプ力Fの値が所定の設定点に達したとき、モータ10への電気エネルギー供給を停止するように構成される。
【0110】
設定点は、典型的には、アクチュエータ2と連動する車輪を回転可能に係止するのに必要な最小のクランプ力に対応する。
【0111】
ここで、アクチュエータ2がアイドリングしている状態から開始される、アクチュエータ2の動作を説明する。
【0112】
例えば車両のブレーキペダルを踏み込んだり、車両のハンドブレーキを作動させたりすることで、ユーザがアクチュエータ2のスイッチングを制御する際、計算機8は、初期瞬間tiにおいて、モータ10に電気エネルギーを供給させる。
【0113】
この場合、モータ10のシャフト14は減速機12を駆動し、その出力スクリュー16によって、ブレーキパッド18が、対応する車輪のディスクに向かって進められる。
【0114】
有利には、初期瞬間tiから最終瞬間tfまで、計算機8は、モータ10が流す電流iの値及びモータ10の端子20間の電圧Uを取得する。
【0115】
そして、計算機10は、モータ10の内部抵抗R及び磁気定数Kの値を測定する。
【0116】
また、計算機8は、無負荷電流i0及び無負荷角回転速度ω0の値を測定する。
【0117】
そして、計算機8は、モータ10の内部抵抗R及び磁気定数Kについて測定された値を用いて、状態遷移行列Aの係数を更新する。
【0118】
そして、計算機8は、カルマンフィルタの近似値Ad*及びBd*を計算する。
【0119】
そして、経時的に測定される、モータ10の端子20間の電圧U及びモータ10が流す電流iの値に基づき、計算機8は、カルマンフィルタを実行して、経時的に、モータ10が流す電流のフィルタリング後の値及びモータ10のシャフト14の回転角速度ωのフィルタリング後の値を測定する。特に、経時的に、モータ10が流す電流のフィルタリング後の値は、計算された状態ベクトルの第1成分に等しく、モータ10のシャフト14の回転角速度ωのフィルタリング後の値は、計算された状態ベクトルの第2成分に等しい。
【0120】
また、カルマンフィルタによって得られる、モータ10が流す電流のフィルタリング後の値及びモータ10のシャフト14の回転角速度ωのフィルタリング後の値に基づき、計算機8は、経時的に、アクチュエータ2が及ぼすクランプ力Fを測定する。
【0121】
ブレーキパッド18が対応するディスクに接触しない限り、モータ10が流す電流iは無負荷電流i0に等しく、シャフト14の角回転速度は無負荷角速度ω0に等しいことから、クランプ力Fはゼロとなるようになっている。
【0122】
ブレーキパッド18が対応するディスクに接触し次第、クランプ力は増加する。
【0123】
クランプ力の値が所定の設定点に達したとき、計算機8は、モータ10への電気エネルギー供給の停止を制御する。
【符号の説明】
【0124】
2:アクチュエータ
6:ブレーキ部材
8:計算機
10:モータ
12:減速機
14:シャフト
16:出力スクリュー
17:出力スクリューの自由端
18:ブレーキパッド
20:電気端子
22:電気エネルギー源
図1
図2