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特許7308859耐熱性に優れた雄型成形面ファスナー、該雄型成形面ファスナーの製造方法、及び該雄型成形面ファスナーを用いた自動車用内装材の固定方法
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  • 特許-耐熱性に優れた雄型成形面ファスナー、該雄型成形面ファスナーの製造方法、及び該雄型成形面ファスナーを用いた自動車用内装材の固定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】耐熱性に優れた雄型成形面ファスナー、該雄型成形面ファスナーの製造方法、及び該雄型成形面ファスナーを用いた自動車用内装材の固定方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20230707BHJP
【FI】
A44B18/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020553379
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041258
(87)【国際公開番号】W WO2020085280
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018198336
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】古賀 宣広
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敏明
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-94029(JP,A)
【文献】特開2003-245108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0074275(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板および前記基板の表面から立ち上がる複数のフック型係合素子からなる雄型成形面ファスナーにおいて、
下記条件(1)~(3)
(1)前記フック型係合素子が、根元から先端部に行くに従って細くなっており、且つ、前記根元から前記先端部に行く途中から曲がり、前記先端部は前記基板に近づく方向を向いていること;
(2)前記フック状係合素子の曲がっている方向と同一の方向に複数のフック型係合素子が列をなして並んでおり、前記フック状係合素子の曲がっている方向が、隣り合う1列単位であるいは隣り合う複数列単位で、互いに逆となっていること;
(3)前記基板および前記フック型係合素子を形成している樹脂が、半芳香族ポリアミドと、前記半芳香族ポリアミド100質量%に対して2~20質量%のエラストマーとを含有する半芳香族ポリアミド樹脂であること
を満足しており、
前記フック型係合素子の先端部での下端部が、前記フック型係合素子の頂部での下端部よりも、前記フック型係合素子の高さの2~8%基板に近づいている
ことを特徴とする雄型成形面ファスナー。
【請求項2】
前記フック型係合素子の頂部での断面形状が、前記フック型係合素子の幅が前記フック型係合素子の厚さより大きい形状である請求項1に記載の雄型成形面ファスナー。
【請求項3】
前記半芳香族ポリアミド樹脂に含まれる半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンとテレフタル酸を主成分として得られるポリアミドである請求項1または2に記載の雄型成形面ファスナー。
【請求項4】
前記半芳香族ポリアミド樹脂に含まれる半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンをジアミン成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる末端アミノ基含有半芳香族ポリアミドであり、前記エラストマーが、無水マレイン酸変性のポリオレフィン系エラストマーである請求項1~のいずれかに記載の雄型成形面ファスナー。
【請求項5】
前記半芳香族ポリアミド樹脂がカーボンブラックを含む請求項1~のいずれかに記載の雄型成形面ファスナー。
【請求項6】
前記雄型成形面ファスナーの基板の裏面にポリウレタンプライマーが積層されている請求項1~のいずれかに記載の雄型成形面ファスナー。
【請求項7】
表面に下記条件(4)および(5)を満足するフック型係合素子形状のキャビティを複数有する金属ロールの表面を、溶融させた下記条件(6)の樹脂でシート状に覆うと同時に前記キャビティにも前記溶融させた樹脂を圧入させ、前記圧入させた樹脂が固化した後に前記金属ロールの表面から前記シート状の樹脂を剥がすと共に前記キャビティからも前記固化された樹脂を引き抜くこと、及び、前記フック型係合素子の先端部での下端部が、前記フック型係合素子の頂部での下端部よりも、前記フック型係合素子の高さの2~8%基板に近づいていることを特徴とする雄型成形面ファスナーの製造方法。
(4)前記キャビティは、前記金属ロールの表面から先端部に行くに従って細くなっており、且つ、前記金属ロールの表面から前記先端部に行く途中から前記金属ロールの円周方向に曲がり、前記先端部は前記金属ロールの表面に近づく方向を向いていること;
(5)前記金属ロールの表面には、複数のキャビティが前記金属ロールの円周方向に列をなして並んでおり、前記列が前記金属ロールの幅方向に複数列存在しており、前記キャビティの曲がっている方向が、隣り合う1列単位であるいは隣り合う複数列単位で、互いに逆となっていること;
(6)前記溶融させた樹脂が、半芳香族ポリアミドと、前記半芳香族ポリアミド100質量%に対して2~20質量%のエラストマーとを含有する半芳香族ポリアミド樹脂であること
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の雄型成形面ファスナーを用いて、自動車内装材を自動車の天井に固定する自動車用内装材の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温条件下でも係合力が低下せず、かつ係合・剥離を繰り返しても係合相手の雌型面ファスナーのループ状係合素子を切断させることが少なく、係合力を低下させることが少なく、さらにその成形時にフック型係合素子が切断されたり、該係合素子の曲がっている部分で亀裂等が生じたりすることの少ない雄型成形面ファスナーおよびその製造方法、さらにそのような優れた性能を生かした自動車用内装材の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物体の表面に対象物を取り付ける手段の一つとして、物体と対象物のいずれか一方の表面にフック型係合素子を有する雄型面ファスナーを固定するとともに、もう一方の表面にループ型係合素子を有する雌型面ファスナーを固定し、そして両方の面ファスナーの係合素子面を重ね合わせて両方の係合素子を係合させることにより、物体の表面に対象物を固定する方法が用いられている。
【0003】
そして、自動車の分野においても、天井用の内装材を車体本体に取り付けて固定する手段として、雄型面ファスナーと雌型面ファスナーの組み合わせが用いられている。例えば、特許文献1には、自動車の天井用内装材を面ファスナーにより取り付け固定するのに用いられる雄型面ファスナーとして、通常のポリオレフィン系、ポリエステル系、ナイロン系等の熱可塑性樹脂から製造された雄型成形面ファスナーが記載されている。
【0004】
しかしながら、通常の熱可塑性樹脂からなる雄型成形面ファスナーの場合には、設置されている環境条件が高温である場合には係合力が低下したり、高温条件で長時間放置される場合には、さらに係合力が徐々に低下するという問題点を生じる。
【0005】
さらに近年、自動車分野以外の例えば、高温防塵フィルターや高温配管の断熱材等の分野でも、面ファスナーを用いてフィルターや断熱材等を固定する場合が増加しており、これらの用途に用いられる面ファスナーとして、高温条件下で係合力が低下せず、さらに高温条件下で長時間使用されても係合力が低下しない面ファスナーが求められている。
【0006】
高温雰囲気下の使用に充分耐え得る耐熱性を有する樹脂として、特許文献2には、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンをジアミン成分とし、テレフタル酸を芳香族ジカルボン酸成分として得られる半芳香族ポリアミドが紹介されており、同公報には、この半芳香族ポリアミド樹脂の用途として、夥しい用途が羅列されており、その中に、ファスナーにも使用できることが記載されている。
【0007】
しかしながら、一般的にファスナーとは、スライドファスナーを意味している場合が多く、面ファスナーを意味している場合はほとんどないし、さらに単にファスナーという記載から本発明が対象としている雄型成形面ファスナーが直ちに想到するものではない。
【0008】
すなわち、面ファスナーには、雄型面ファスナーと雌型面ファスナーの2種類があり、さらに雄型面ファスナーには、大別して、織編物からなる基布の表面に、基布に織り込んだモノフィラメントからなるフック状またはキノコ状の係合素子が複数立設された雄型布製面ファスナーと、プラスチック基板の上に、同プラスチックからなる複数のステムが立設され、同ステムの先端部がキノコ型や鏃型やフック型の形状となっている雄型成形面ファスナーの二種類があり、さらに雄型成形面ファスナーには、押出成形法により得られるものや射出成形法により得られるものなど種々のものが存在している。
【0009】
これら雄型面ファスナーのうち、上記雄型布製面ファスナーの場合には、フック型係合素子となるモノフィラメントを織物基布に織り込み、所々で基布面から該モノフィラメントをループ状に立ち上がらせて、ループの片脚を切断してフック形状としたものや、ループの先端部を溶融させてキノコ型としたものなどであるが、係合素子がモノフィラメントからなるものであることから織り込めるモノフィラメント、すなわち係合素子の太さに制限があり、高温条件下で係合力の高い面ファスナーが得られ難いという欠点がある。
【0010】
また、上記半芳香族ポリアミド樹脂を用いて、上記押出成形法、すなわち断面が係合素子形状を有する連続条を表面に有するテープ状物をノズルから押し出し、そして表面の連続条にテープ状物の長さ方向と直交する方向に切れ目を入れ、そしてテープ状物を延伸して切れ目を広げることにより連続条を雄型係合素子の列に変換する方法により雄型成形面ファスナーを製造した場合には、得られる雄型成形面ファスナーを用いて係合・剥離を繰り返すと係合相手の雌型面ファスナーのループ型係合素子を切断させ易く、その結果、係合力が急速に低下するという問題点を有していること、さらに係合素子の頂部が係合・剥離の繰り返しにより係合素子の軸から切断され易いという問題点も有していることを見出した。
【0011】
また、上記半芳香族ポリアミド樹脂を用いて、上記射出成形法、すなわち表面に係合素子型のキャビティを複数有する金属ロールの表面を、溶融させた半芳香族ポリアミド樹脂でシート状に覆うと同時に該キャビティにも溶融させた半芳香族ポリアミド樹脂を圧入させ、そして、半芳香族ポリアミド樹脂が固化した後に金属ロール表面から半芳香族ポリアミド樹脂のシートを剥がすと共に該キャビティからも半芳香族ポリアミド樹脂を引き抜く方法により雄型成形面ファスナーを製造した場合には、キャビティから固化したフック型係合素子を引き抜く際に、フック型係合素子がキャビティ内で切断されたり、さらに無事に引き抜けたとしても、フック型係合素子の曲がり部で亀裂が入り、係合・剥離を繰り返すと、同亀裂部から係合素子が切断されるという問題を生じることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開2012/014667号パンフレット
【文献】特開2000-204239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、耐熱性に優れている半芳香族ポリアミド樹脂からなる雄型面ファスナーであって、種々の雄型面ファスナーの中で、特に高温条件下でも係合力が低下せず、かつ係合・剥離を繰り返すことにより係合相手の雌型面ファスナーのループ型係合素子を切断させ、それにより係合力を低下させることが少なく、さらにその成形時にフック型係合素子が切断されたり、亀裂が入ったりすることのない半芳香族ポリアミド樹脂製の雄型成形面ファスナーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、基板および前記基板の表面から立ち上がる複数のフック型係合素子からなる雄型成形面ファスナーにおいて、下記条件(1)~(3)を満足していることを特徴とする雄型成形面ファスナーである。
(1)前記フック型係合素子が、根元から先端部に行くに従って細くなっており、且つ、前記根元から前記先端部に行く途中から曲がり、前記先端部は前記基板に近づく方向を向いていること;
(2)前記フック状係合素子の曲がっている方向と同一の方向に複数のフック型係合素子が列をなして並んでおり、前記フック状係合素子の曲がっている方向が、隣り合う1列単位であるいは隣り合う複数列単位で、互いに逆となっていること;
(3)前記基板および前記フック型係合素子を形成している樹脂が、半芳香族ポリアミドと、前記半芳香族ポリアミド100質量%に対して2~20質量%のエラストマーとを含有する半芳香族ポリアミド樹脂であること
【0015】
そして、好ましくは、前記雄型成形面ファスナーにおいて、前記フック型係合素子の頂部での断面形状が、前記フック型係合素子の幅が前記フック型係合素子の厚さより大きい形状であり、より好ましくは、前記フック型係合素子の先端部での下端部が、前記フック型係合素子の頂部での下端部よりも、前記フック型係合素子の高さの2~8%基板に近づいている。
【0016】
そして、さらに好ましくは、前記半芳香族ポリアミド樹脂に含まれる半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンとテレフタル酸を主成分として得られるポリアミドであり、さらにより好ましくは、前記半芳香族ポリアミド樹脂に含まれる半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンをジアミン成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる末端アミノ基含有半芳香族ポリアミドであり、前記エラストマーが、無水マレイン酸変性のポリオレフィン系エラストマーである。特に好ましくは、前記半芳香族ポリアミド樹脂がカーボンブラックを含む。
また、さらにより好ましくは、前記雄型成形面ファスナーにおいて、前記雄型成形面ファスナーの基板の裏面にポリウレタンプライマーが積層されている。
【0017】
さらに本発明は、表面に下記条件(4)および(5)を満足するフック型係合素子形状のキャビティを複数有する金属ロールの表面を、溶融させた下記条件(6)の樹脂でシート状に覆うと同時に前記キャビティにも前記溶融させた樹脂を圧入させ、前記圧入させた樹脂が固化した後に前記金属ロールの表面から前記シート状の樹脂を剥がすと共に前記キャビティからも前記固化された樹脂を引き抜くことを特徴とする雄型成形面ファスナーの製造方法である。
(4)前記キャビティは、前記金属ロールの表面から先端部に行くに従って細くなっており、且つ、前記金属ロールの表面から前記先端部に行く途中から前記金属ロールの円周方向に曲がり、前記先端部は前記金属ロールの表面に近づく方向を向いていること;
(5)前記金属ロールの表面には、複数のキャビティが前記金属ロールの円周方向に列をなして並んでおり、前記列が前記金属ロールの幅方向に複数列存在しており、前記キャビティの曲がっている方向が、隣り合う1列単位であるいは隣り合う複数列単位で、互いに逆となっていること;
(6)前記溶融させた樹脂が、半芳香族ポリアミドと、前記半芳香族ポリアミド100質量%に対して2~20質量%のエラストマーとを含有する半芳香族ポリアミド樹脂であること
【0018】
また本発明は、前記雄型成形面ファスナーを用いて、自動車内装材を自動車の天井に固定する自動車用内装材の固定方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、雄型成形面ファスナーのフック型係合素子を特定の形状とし、さらに成形に用いる半芳香族ポリアミド樹脂に特定のポリマーをブレンドすることにより、キャビティからフック型係合素子を引き抜く際に、フック型係合素子がキャビティ内で切断されたりすることが殆どなく、さらにフック型係合素子の曲がり部で亀裂が入ることも殆どない。
【0020】
特にフック状係合素子の形状を、フック型係合素子の頂部での断面形状が、フック型係合素子の幅がフック型係合素子の厚さより大きい形状であること、すなわち基板面方向に薄い形状とすることが好ましく、また、フック型係合素子の先端部での下端部が、フック型係合素子の頂部での下端部よりも、フック型係合素子の高さの2~8%基板に近づいている程度、すなわち曲がりが少ない形状とすることが好ましい。上記好ましい態様であると、キャビティからフック型係合素子を引き抜く際に、フック型係合素子がキャビティ内で折れたり、切断されたりすることが大きく解消され、さらにフック型係合素子の曲がり部で亀裂が入ることも大きく解消される。
【0021】
従来、射出成形で得られる雄型成形面ファスナーの場合には、係合力を高めるために、フック型係合素子の形状を、フック型係合素子の幅がフック型係合素子の厚さより小さい形状とし、さらにフック状係合素子の曲がっている程度を大きくして、フック状係合素子の先端部が基板面に大きく近づくようにしたものが多いが(例えば、特開2011-224323号公報参照)、成形樹脂が半芳香族ポリアミドである場合には、このような従来一般的に採用されているフック型係合素子では、成形時のフック型係合素子の切断や亀裂を防ぐことは難しい。
【0022】
さらに、本発明では、半芳香族ポリアミドにエラストマーをブレンドすることにより、半芳香族ポリアミドとエラストマーとを含む半芳香族ポリアミド樹脂を得て、成形時のフック型係合素子の切断や亀裂を防いでいる。特に、エラストマーが無水マレイン酸変性のポリオレフィン系エラストマーであり、且つ、半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンをジアミン成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる末端アミノ基含有半芳香族ポリアミドである場合には、この効果が顕著となる。
【0023】
さらに半芳香族ポリアミド樹脂にカーボンブラックが添加(ブレンド)されている(半芳香族ポリアミド樹脂がカーボンブラックを含む)場合には、半芳香族ポリアミド樹脂の結晶固化速度を調整する効果があり、その結果、カーボンブラックの添加量を調整することによりキャビティの隅々まで溶融した樹脂が進入でき、キャビティの形状が忠実に再現でき、所期のフック型係合素子が得られることとなる。しかも、エラストマーが半芳香族ポリアミド100質量%に対して2~20質量%ブレンドされていることによる面ファスナーの高温での性能の低下は殆ど生じない。
【0024】
そして、本発明の雄型成形面ファスナーは、複数のキャビティを有する金属ロール表面に溶融樹脂を流し、固化させた後に、金属ロール面から引き剥がして製造する方法、いわゆる射出成形法により得られる雄型成形面ファスナーであることから、前記したような押出成形法により得られた面ファスナーと比べて、係合・剥離を繰り返すことにより係合相手の雌型面ファスナーのループ状係合素子を切断させ、それにより係合力を低下させたり、係合・剥離を繰り返すことによりフック型係合素子の頭部が軸から切断され易いということが生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の雄型成形面ファスナーの一例を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の雄型成形面ファスナーを構成するフック型係合素子の一例の側面図である。
図3】本発明の雄型成形面ファスナーを構成するフック型係合素子の一例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の雄型成形面ファスナーの一例を模式的に示した斜視図であり、基板(1)の表面から複数の、好ましくは多数(約90個~160個/cm)のフック型係合素子(2)が立ち上がっている。そして、図1に示すように、フック型係合素子は曲がっている方向(図1に示す手前の列のフック型係合素子は図1に示すQの方向に曲がっている)と同一の方向に複数のフック型係合素子が列をなして並んでおり、フック型係合素子の曲がっている方向が、隣り合う1列単位であるいは、隣り合う複数列単位で(図1では1列単位で)、互いに逆(すなわち、図1に示すQの方向と図1に示すPの方向)となっている。そして、フック型係合素子は、図2に示すように、根元から先端部に行くに従って細くなっており、且つ根元から先端部に行く途中から曲がり、先端部は基板に近づく方向を向いている。
【0027】
本発明の雄型成形面ファスナーを形成している樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂である。半芳香族ポリアミド樹脂における半芳香族ポリアミドは、通常、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸またはその誘導体から得られる。
【0028】
具体的な脂肪族ジアミンとしては、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の脂肪族ジアミンを挙げることができる。
なかでも耐熱性と成形性の点で1,9-ノナンジアミン、あるいは1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとの併用が好ましい。
【0029】
脂肪族ジアミンとして1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとを併用する場合、ジアミン成分の80~100モル%が1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなり、そのモル比は前者:後者=40:60~95:5であることが耐熱性と係合力の点で好ましい。
【0030】
もう一方の成分である芳香族ジカルボン酸としては、耐熱性と成形性、さらに係合力の点で、テレフタル酸を主体とする芳香族ジカルボン酸が好ましく、なかでも、ジカルボン酸の全量がテレフタル酸であることが最も好ましい。
【0031】
用いられる半芳香族ポリアミドの製造方法は特に制限されず、ポリアミドの製造方法として一般的に知られている任意の製造方法を用いることができる。例えば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法あるいは界面重合法により、またジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出機重合法などの方法により重合することができる。
【0032】
本発明に用いられる半芳香族ポリアミドは、分子量の尺度として、濃硫酸中30℃で測定した極限粘度[η]が0.7~1.5dl/gの範囲であることが成形性の点で、更に得られる雄型成形面ファスナーの性能上好ましい。
【0033】
そして、本発明では、成形時のキャビティからの引き抜きの際にフック型係合素子が切断されたり、係合素子の特に曲がっている箇所で亀裂が入ることを防ぐために、このような半芳香族ポリアミドにエラストマーが2~20質量%添加されている。
なお、本明細書において、「キャビティ」とは、空洞又は凹部を意味し、この「キャビティ」内で樹脂が成形される。
【0034】
添加されるエラストマーとしては、特に常温付近でゴムのような弾性や屈曲性を持つものであって、かつ成形温度下では軟化して容易に成形できる材料であって、具体的にはスチレン系、塩ビ系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系、アミド系のエラストマーが挙げられる。
【0035】
なかでもエラストマーが、ポリオレフィン系のエラストマー、特に無水マレイン酸変性のポリオレフィン系エラストマーであり、かつ半芳香族ポリアミドが、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンをジアミン成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として得られる末端アミノ基含有ポリアミドである場合には、末端アミノ基と無水マレイン酸に基づく官能基が反応して、半芳香族ポリアミドとエラストマーとの一体性が向上し、雄型成形面ファスナーの成形時に、相分離が生じてキャビティからの引き抜きの際にフック型係合素子が切断されたり、途中で亀裂が入ることを高度に阻止できる。
なお、本明細書では、このように半芳香族ポリアミドとエラストマーとが反応する場合であっても、反応物中の半芳香族ポリアミド由来部分を半芳香族ポリアミドとみなし、エラストマー由来部分をエラストマーとみなす。
【0036】
半芳香族ポリアミドに混合するエラストマーのブレンド量は、半芳香族ポリアミド100質量%に対して2~20質量%が必要であり、2質量%より少ない場合には添加する効果が発現せず、20質量%を超える場合には、ブレンドした溶融樹脂の粘度が高くなり過ぎて、キャビティ内に圧入することが困難となる。好ましくは、4~16質量%の範囲であり、より好ましくは5~14質量%、さらに好ましくは5~13質量%の範囲であり、特に好ましくは5~10質量%の範囲であり、最も好ましくは7~10質量%の範囲である。
また、もちろん、半芳香族ポリアミドおよびエラストマー以外の任意成分(例えば、後述するカーボンブラック、半芳香族ポリアミドおよびエラストマー以外の他の樹脂、各種安定剤、着色剤など)がブレンドされていてもよい。半芳香族ポリアミドおよびエラストマーの2成分の合計質量が、半芳香族ポリアミド樹脂全体(「半芳香族ポリアミド」+「エラストマー」+「他の任意成分」)の質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以上であることが更に好ましく、100質量%(半芳香族ポリアミドおよびエラストマーの2成分のみであること)であってもよく、100質量%以下であってもよく、99.9%以下であってもよい。
【0037】
さらに、このようなエラストマーブレンド半芳香族ポリアミド樹脂には、カーボンブラックが添加されているのが、紫外線による亀裂、破損を防止する上で、また、成形速度が速くなりコストダウンが可能な上で、更に成形性を高める上で好ましい。カーボンブラックの添加量としては、半芳香族ポリアミドとエラストマーとの合計量100質量%に対して0.1~0.5質量%の範囲が好ましい。
また、雄型成形面ファスナーの基板の裏面に以外にも異なる樹脂であるポリウレタンプライマーが積層することで、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂からなる雄型成形面ファスナーを同じ成分の半芳香族ポリアミド樹脂からなる被接着体とを接着剤による接着性に優れる点で好ましい。特に、エーテル系のポリウレタンからなるプライマーを積層することが好ましい。
【0038】
このようなエラストマーブレンド半芳香族ポリアミド樹脂を用いて、本発明の雄型成形面ファスナーを製造する。具体的な方法としては、係合素子形状のキャビティを表面に複数、好ましくは多数(約90個~160個/cm)設けた金属ロールの表面に該樹脂の溶融物をシート状に流すとともに該キャビティ内に該樹脂の溶融物を圧入させ、固化後に金属ロール面から剥がすと同時にキャビティからも引き抜いて、表面に雄型係合素子を複数、好ましくは多数(約105個~145個/cm)有する樹脂シートを製造する方法が用いられる。
【0039】
より詳細には、フック型係合素子の形状を外円周上に彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型、そのような形状に彫っていない金属製リング、上記フック型係合素子形状と逆の方向に曲がっているフック型係合素子の形状を外円周上に彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型、そのような形状に彫っていない金属製リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面にフック型係合素子形状のキャビティおよび逆方向に曲がっているフック型係合素子のキャビティを複数、好ましくは多数(約105個~145個/cm)有する金型ロールを用意する。
【0040】
なお、上記説明では、フック型係合素子形状のキャビティを有するリング状金型と逆の方向を向いているフック型係合素子形状のキャビティを1枚単位で重ね合せる場合を説明したが、2枚以上の単位で重ね合わせてもよい。
【0041】
このような金属ロールは、その表面に、同ロール円周方向に曲がっている複数のキャビティが円周方向に列をなして並んでおり、更にそのような列が金属ロール幅方向に複数列存在しており、キャビティの曲がっている方向が1列単位であるいは複数列単位で逆となっている。
【0042】
その際に、該キャビティは、金属ロールの表面から先端部に行くに従って細くなっており、且つ、金属ロールの表面から先端部に行く途中から金属ロールの円周方向に曲がり、先端部は金属ロールの表面に近づく方向を向いていることが、成形樹脂が半芳香族ポリアミドである場合には、キャビティから雄型係合素子を引き抜く際に、係合素子が切断されたり、曲がっている部分で亀裂が入ったりすることを阻止する上で好ましい。
【0043】
金属ロール表面に溶融したエラストマーブレンド半芳香族ポリアミド樹脂を流し成形する具体的な方法としては、この金属ロールと相対する位置に存在する別のドラムロールとの隙間に前記エラストマーブレンド半芳香族ポリアミド樹脂の溶融物を押し出し、圧迫することによりそのキャビティ内にエラストマーブレンド半芳香族ポリアミド樹脂を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成し、金型ロールが回転している間にロール内を常時循環させている冷媒によりキャビティ内のエラストマーブレンド半芳香族ポリアミド樹脂を冷却固化させるとともに、得られる成形雄型面ファスナーの基板が均一厚さとなるように隙間調整したニップローラーにより引き延ばし、そして冷却されたシートを金型ロール表面から引き剥がすとともに、該キャビティからフック型係合素子を引き抜く。これにより、表面に複数の、好ましくは多数(約105個~145個/cm)のフック型係合素子を有するシート状物が得られる。
【0044】
このようにして得られる雄型成形面ファスナーは、
(1)前記フック型係合素子が、根元から先端部に行くに従って細くなっており、且つ、根元から先端部に行く途中から曲がり、先端部は基板に近づく方向を向いていること;
(2)フック型係合素子の曲がっている方向と同一の方向に複数のフック型係合素子が列をなして並んでおり、さらに隣り合う1列単位であるいは隣り合う複数列単位で、曲がっている方向が互いに逆となっていること;
を満足することとなる。
【0045】
なお、前記フック型係合素子の先端部が基板に近づく方向を向いている具体的な程度としては、フック型係合素子の先端部での下端部が、フック型係合素子の頂部での下端部よりも、フック型係合素子の高さの2~8%基板に近づいている程度が好ましい。このことを、添付の図面で説明すると、図2に示す、100×(H-H)/H=2~8ということを意味している。なお、Hは、フック型係合素子の基板からの高さ、Hは、フック型係合素子の頂部での下端部の基板からの高さ、Hは、フック型係合素子の先端部での下端部の基板からの高さをそれぞれ意味する。これらの値は、任意に選んだ10本のフック型係合素子の平均値から算出した値である。
【0046】
また、本発明において、フック型係合素子の頂部での断面形状が、フック型係合素子の幅がフック型係合素子の厚さより大きい形状であることが前記したように好ましい。このことを具体的に、添付の図面を用いて説明する。図3は、本発明の雄型成形面ファスナーを構成するフック型係合素子の一例を拡大して示したものである。図3に示すフック型係合素子頂部でのフック型係合素子の幅(W)がフック型係合素子厚さ(T)より大きいこと、すなわちW>Tを意味しており、これを満足していることにより、上述したように、雄型成形面ファスナーの成形時に、キャビティからの引き抜きの際にフック型係合素子が切断されたり、係合素子の曲がり部で亀裂が入ることを防止できることとなる。これらの値も、上記と同様に任意に選んだ10本のフック型係合素子の平均値である。
【0047】
本発明において、好ましいフック型係合素子の大きさとしては、図2の形状に基づいて、フック型係合素子の高さ(H)が1.0~2.0mm、付け根部の広がり(A)が0.7~1.3mm、付け根から係合素子高さの2/3の高さの箇所における広がり(B)が0.15~0.4mm、そしてフック状係合素子は付け根から係合素子高さの1/2~3/4の付近から曲がり始めているのが好ましい。
【0048】
また、図3に示すフック型係合素子の頂部でのフック型係合素子の幅(W)としては0.2~0.4mmが好ましく、フック型係合素子の幅は、フック型係合素子の付け根から先端部に至るまで同一であっても、あるいは先端部に行くほど細くなっていてもよい。ただ前記したリング状金型を用いる場合には、必然的にフック型係合素子の幅は、フック型係合素子の付け根から先端部に至るまでほぼ同一となる。そして、フック型係合素子の頂部での厚さ(T)としては、0.15~0.35mmで、上記Wより小さい値であるのが好ましい。
当然のことであるが、本発明の雄型成形面ファスナーを構成する個々のフック型係合素子は、先端部に至るまで一本であり、途中で複数本に分かれたりしていない。
【0049】
このようなフック型整合素子が立ち上がるベースとなる基板は、厚さが0.1~0.3mmの範囲であることが柔軟性と強度の点で好ましい。そしてこのような基板上に存在するフック型係合素子の密度としては、60~160個/cm,特に80~140個/cmの範囲が好ましい。
【0050】
そして本発明の雄型成形面ファスナーでは、このようなフック型係合素子が図1に示すように、フック型係合素子の曲がっている方向と同一の方向に複数のフック型係合素子が列をなして並んでおり、列方向で隣り合うフック型係合素子同士の間隔(C)としては、1.2~2.2mm、すなわち列長さ1.2~2.2mmに1個の割合でフック型係合素子が存在しているのが好ましい。より好ましくは1.3~1.8mmに1個の割合である。さらに隣り合う係合素子列の間隔としては、0.4~1.0mmの範囲、すなわち0.4~1.0mmの幅の基板に一列のフック型係合素子が存在しているのが好ましい。0.5~0.8mmの幅に一列のフック状係合素子が存在しているのがより好ましい。
【0051】
本発明の雄型成形面ファスナーは、高温での係合性能に優れていることから、自動車の内装材の固定、特に天井材の固定やエンジンルーム内の固定に適している。さらに、これ以外にも、焼却炉でのフィルター固定、高温流体用配管の断熱材の固定、高温条件下で用いられる器具の固定や同じく高温作業現場で用いられる衣類、手袋、ヘルメット、靴等にも適している。
【実施例
【0052】
以下本発明を実施例で詳細に説明する。実施例中、雄型成形面ファスナーの係合力(常温での係合力)はJIS L3416:2000の方法に従い、また高温での係合力は120℃で測定を行い、JIS L3416:2000の方法に従い、ともに、係合相手となるループ状係合素子としてポリフェニレンサルファイド製織面ファスナー[クラレファスニング社製「マジックテープ」(登録商標)B48000.00]を用いて測定した。さらに高温での放置後の係合力の測定は、120℃の温度条件で1ヵ月雄型成形面ファスナーを放置し、その終了時点での係合力を常温で係合相手となるループ状係合素子として上記ポリフェニレンサルファイド製織面ファスナー[クラレファスニング社製「マジックテープ」(登録商標)B48000.00]を用いて測定した。
また、引張剪断強さ(常温での接着力)は、幅25mm、長さ100mmの試料面ファスナーを2枚用意する。試料面ファスナーはいずれも製造時の長さ方向(MD)にそろえた係合素子の配列で使用する。2枚の面ファスナーは50mmの長さで重ね合わせ、2kgのローラーを2往復させて係合させ引張剪断強さ測定試料とする。
係合した2枚の面ファスナーを引張試験機(島津製作所製オートグラフ AGS-100B)のつかみに装着し、速度300mm/minで操作し、分離に至るまでの最大引張剪断負荷を測定し、それより単位面積当りの引張剪断強さを算出する。
さらに高温での放置後の引張剪断強さ(接着力)の測定は、120℃の温度条件で1ヵ月雄型成形面ファスナーを放置し、その終了時点での引張剪断強さを常温で係合相手となるループ状係合素子として上記ポリフェニレンサルファイド製織面ファスナー[クラレファスニング社製「マジックテープ」(登録商標)B48000.00]を用いて測定することができる。
そして、フック状係合素子が切断されているか否か、亀裂を有しているか否か、さらに係合相手のループ面ファスナーループ状係合素子が切断されているか否かの観察は、マイクロスコープを用いて、係合素子面を拡大して観察した。
【0053】
(実施例1)
[成形用樹脂の準備]
半芳香族ポリアミドとして、ジアミン成分の50モル%が1,9-ノナンジアミンで、50モル%が2-メチル-1,8-オクタンジアミンである混合ジアミンを用い、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用いて得られる末端アミノ基含有半芳香族ポリアミド(株式会社クラレ製「ジェネスタ」(登録商標)、[η]=1.20dl/g)を用い、エラストマーとしての無水マレイン酸変性ポリオレフィン系エラストマー(三井化学製「タフマー」(登録商標))を上記半芳香族ポリアミド100質量%に対して10質量%の割合で添加し、さらにカーボンブラック粉末を上記半芳香族ポリアミドと上記エラストマーの合計量100質量%に対して0.2質量%添加し、混ぜ合わせてペレット化した。
【0054】
[成形用金型の準備]
金型として、フック型係合素子の形状を外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径212mmのリング状金型、そのような形状を彫っていない外周面がフラットな厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リング、上記フック型係合素子形状と逆の方向を向いているフック型係合素子形状を外円周上に彫った厚さ0.30mmで直径212mmのリング状金型、そのような形状を彫っていない外周面がフラットな厚さ0.30mmで直径212mmの金属製リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面にフック型係合素子形状のキャビティおよび逆方向を向いているフック型係合素子形状のキャビティを表面に多数(約105個~115個/cm)有する幅120mmの金型ロールを用意した。
【0055】
[雄型成形面ファスナーの製造]
上記の金型ロールと相対する位置に存在する別のドラムロールとの隙間に上記の半芳香族ポリアミドにエラストマーおよびカーボンブラックを添加した樹脂ペレットの溶融物(温度:310℃)を押し出し、圧迫することによりそのキャビティ内に該樹脂を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成し、金型ロールが回転している間にロール内に常時循環されている水によりキャビティ内の樹脂を冷却させたのち、基板厚さが0.20mmとなるように隙間調整したニップロールにより引き延ばすとともに冷却固化されたシートを金型ロール表面から引き剥がして、雄型成形面ファスナーを製造した。
【0056】
[得られた雄型成形面ファスナーの形状および性能]
得られた雄型成形面ファスナーは、図1に示すような形状、すなわち根元から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から曲がり、先端部は基板に近づく方向を向いているフック型係合素子を多数(約105個~115個/cm)有しており、更にフック状係合素子の曲がっている方向と同一の方向に複数のフック型係合素子が列をなして並んでおり、さらに1列単位で曲がっている方向が逆となっている形状を有していた。
【0057】
そして雄型係合素子の形状は図2に示すようで形状であり、その高さ(H)は基板面から1.25mm、フック型係合素子の先端部での下端部の高さ(H)はフック型係合素子の頂部での下端部の高さ(H)に対して、フック型係合素子の高さ(H)の5%相当の距離だけ基板に近づいていた。
【0058】
そして、頂部でのフック型係合素子の幅(W)は0.30mm、頂部でのフック型係合素子厚さ(T)が0.23mm、係合素子付け根部の広がり(A)が0.98mm、係合素子高さの2/3の高さの箇所における広がり(B)が0.27mm、フック型係合素子は付け根から係合素子高さの2/3の高さの付近から曲がり始めており、フック型係合素子の密度は110個/cm、基板の厚さは0.20mm、列方向で隣り合うフック型係合素子の間隔(C)は1.47mm、隣り合う係合素子列の間隔は、0.60mmであった。
【0059】
この雄型成形面ファスナーのフック型係合素子面を顕微鏡で観察したが、フック型係合素子が切断したものや、亀裂が入っているものは全く観察できず、係合力に関しても、表1に示すように、常温および120℃の高温条件下においてともに極めて良好なものであった。また、120℃の温度条件下に1ヵ月間放置したあとの係合力においても全く問題がなかった。さらに、常温で係合・剥離を1000回繰り返したが、係合相手の雌型面ファスナーのループ型係合素子を切断させることも殆どなかった。
【0060】
(実施例2~3および比較例1~2)
上記実施例1において、エラストマーのブレンド量を、5質量%(実施例2)、15質量%(実施例3)、1質量%(比較例1)、22質量%(比較例2)と変更する以外は上記実施例1と同様にして、雄型成形面ファスナーを製造した。
なお、比較例1のものに関しては、金属ロール表面から剥離する際に面ファスナーシートに亀裂が入り、連続したシートとして得ることが出来なかった。更に比較例2のものに関しても、溶融粘度が高すぎて、シート状に金属ロール表面に溶融樹脂を流すことが出来ず、かつキャビティ内に樹脂を押し込むこともできず、面ファスナーシートとして得ることが出来なかった。
【0061】
得られた実施例2~3の雄型成形面ファスナーに関しては、係合素子の寸法や形状等に関しては上記実施例1のものと同一であった。ただ、実施例2の雄型成形面ファスナーは、わずかではあるが、フック型係合素子の先端部が切断されているものが見られ、キャビティから引き抜く際に切断されたものと推測された。
また実施例3のものに関しては、フック型係合素子の先端部まで伸び切っていないものが僅かに見られ、これらはキャビティの先端部まで樹脂が到達しなかったことから生じたものと推測される。
【0062】
係合力に関しては、下記表1に示すように、常温および120℃の温度条件下において、実施例2および実施例3のものは、実施例1のものと比べるとわずかに劣るものの、殆ど遜色のない優れた値を有していた。また、高温での長時間放置後の係合力においても、実施例1のものと同様に優れた性能を有するものであった。さらに、係合・剥離を1000回繰り返した場合の係合相手のループ面ファスナーのループ状係合素子の状況を観察したが、実施例1のものと同様に殆ど切断させることもなかった。
【0063】
(実施例4)
上記実施例1において、エラストマーをスチレン系エラストマー(株式会社クラレ製「セプトン」(登録商標)1020)に置き換える以外は同一の方法により雄型成形面ファスナーを製造した。
【0064】
得られた雄型成形面ファスナーは、寸法や形状において実施例1のものと殆ど異なるところのないものであったが、所々において、係合素子の中間部から切断されているものが所々見られた。さらに高温での長時間放置後の係合力に関しても、実施例1のものと比べるとかなり劣るものではあったが、耐熱性の面ファスナーとして使用できないようなものではなかった。
【0065】
さらに、常温での係合力および120℃での係合力において、実施例1のものよりかなり劣るものであった。さらに高温での長時間放置後の係合力に関しても、実施例1のものと比べるとかなり劣るものではあったが、耐熱性の面ファスナーとして使用できないようなものではなかった。なお、1000回係合・剥離を繰り返した後の係合相手のループ面ファスナーのループ状係合素子の切断状況は実施例1のものと同様に殆ど観察されなかった。
【0066】
【表1】
【0067】
(実施例5)
上記、実施例1で得られた雄型成形面ファスナーの裏面の縦横25mmの領域にDIC製ポリエーテル系ポリウレタン水性プライマー(ハイドランWLS-201)を塗布したもの同士の間にアルテコ製接着剤シアノアクリレートモノマー(W200X)を塗布し、2枚の面ファスナーは25mmの長さで重ね合わせ、2kg荷重で10秒間押し、その後24hr養生させた後、前述の引張剪断強さ(常温での接着力)の測定方法に準じて、引張り試験機で50mm/minの速度で引張剪断強さを測定すると、接着強力は140N/cmと強い接着力が得られた。
【0068】
(実施例6)
さらに上記、実施例1で得られた雄型成形面ファスナーの裏面にDIC製ポリエーテル系ポリウレタン水性プライマー(ハイドランWLS-201)を塗布することなくアルテコ製接着剤のみで貼り合せしたものを実施例5と同様に引張剪断強さ(常温での接着力)を測定すると、接着強力は96N/cmとプライマー塗布したものより性能が下がったが使用できる問題ないレベルであった。
【0069】
(比較例3)
[雄型成形面ファスナーの素材変更]
上記、実施例1の雄型成形面ファスナーの素材を半芳香族ポリアミドからナイロン6へ変更する以外は同様の製造条件で得られた雄型成形面ファスナーの裏面の縦横25mmの領域にDIC製ポリエーテル系ポリウレタン水性プライマー(ハイドランWLS-201)を塗布したもの同士の間に更にアルテコ製接着剤シアノアクリレートモノマー(W200X)を塗布し、実施例5と同様に引張剪断強さ(常温での接着力)を測定すると、接着強力は58N/cmと実施例5のものと比べるとかなり劣るものではあり使用できるレベルのものではなかった。
【0070】
(比較例4)
上記、比較例3と同様の雄型成形面ファスナーの裏面にDIC製ポリエーテル系ポリウレタン水性プライマー(ハイドランWLS-201)を塗布することなくアルテコ製接着剤のみで貼り合せしたものを比較例3と同様に引張剪断強さ(常温での接着力)を測定すると、接着強力は76N/cmとプライマー塗布したものより性能が上がったが実施例5,6のものと比べるとかなり劣るものではあり使用できるレベルのものではなかった。
【表2】
【符号の説明】
【0071】
1:基板
2:フック型係合素子
:フック型係合素子の高さ
:フック型係合素子の頂部での下端部の高さ
:フック型係合素子の先端部での下端部の高さ
A:係合素子付け根部の広がり
B:係合素子高さの2/3の高さの箇所における広がり
C:列方向で隣り合うフック型係合素子の間隔
W:フック型係合素子の頂部でのフック型係合素子の幅
T:フック型係合素子の頂部でのフック型係合素子の厚さ
図1
図2
図3