IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社北川鉄工所の特許一覧

<>
  • 特許-摺動構造体 図1
  • 特許-摺動構造体 図2
  • 特許-摺動構造体 図3
  • 特許-摺動構造体 図4
  • 特許-摺動構造体 図5
  • 特許-摺動構造体 図6
  • 特許-摺動構造体 図7
  • 特許-摺動構造体 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-06
(45)【発行日】2023-07-14
(54)【発明の名称】摺動構造体
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20230707BHJP
   B23Q 7/04 20060101ALI20230707BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALI20230707BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20230707BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
B25J15/08 C
B23Q7/04 J
B23Q11/12 E
F16C33/10 Z
F16N31/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020553421
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2019041461
(87)【国際公開番号】W WO2020085359
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018201584
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-330331(JP,A)
【文献】特開2012-177462(JP,A)
【文献】特表2018-527210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/08
B23Q 7/04
B23Q 11/12
F16C 33/10
F16N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動構造体であって、
第1及び第2部材と、筐体とを備え、
前記第1及び第2部材は、
凹凸構造に沿って互いに嵌合されて配置され、
互いに異なる方向に沿って、連動して摺動可能に構成され、
前記筐体は、
前記第1及び第2部材を収容し、
潤滑剤供給口と、これと接続された潤滑剤回遊回路とを備え、
前記潤滑剤供給口は、前記潤滑剤を前記凹凸構造に直接供給可能に設けられ、
前記潤滑剤回遊回路は、
少なくとも2つの潤滑剤溜まりを有し、
前記第1及び第2部材が連動して摺動するとその形状及び容積が変化し、これにより一方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤が前記凹凸構造を通って他方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、
摺動構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動構造体において、
前記凹凸構造は、貫通孔を備え、
前記一方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤は、前記凹凸構造における前記貫通孔を通って前記他方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、
摺動構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の摺動構造体において、
前記第1部材が、順方向に変位するように摺動すると、前記一方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤が前記凹凸構造を通って前記他方の潤滑剤溜まりへ移動し、
前記第1部材が、逆方向に変位するように摺動すると、前記他方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤が前記凹凸構造を通って前記一方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、
摺動構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の摺動構造体において、
前記他方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤は、圧力によって前記凹凸構造を通って前記一方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、
摺動構造体。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の摺動構造体において、
当該摺動構造体は、ワークを支持可能なグリッパであり、
前記第1部材は、トップジョーを着脱可能な複数のマスタージョーであり、
前記第2部材は、ピストンのスライド動作に伴って前記複数のマスタージョーを開閉可能に摺動するプランジャとして構成される、
摺動構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の摺動構造体において、
前記プランジャは、前記複数のマスタージョーが配置される面に平行な所定の面上に変位可能に構成される、
摺動構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械等において、所定の部材同士が連動して摺動しながら、所望の動きをなすような摺動構造体が用いられている。例えば、特許文献1には、摺動構造体の一例として産業用ロボットのアーム先端部に取り付けられ被挟持物を挟持する際に使用されるグリッパが開示されている。このようなグリッパでは、マスタージョーとプランジャとが連動して摺動することでマスタージョーの開閉が実施される。このように、グリッパを一例とするような摺動構造体においては、高い面圧が加わる部材どうしの摺動部分(接触部分)にて潤滑不良が発生すると、早期摩耗や動作不良といった重大な欠陥につながる。したがって、部材どうしの摺動部分への潤滑が必要不可欠となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-120532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術に係る摺動構造体は、次のような課題を有している。
【0005】
第一に、複数の摺動部分がある場合、それぞれ微小な隙間設定や自重に対する個体の取り付け向き等によって各摺動部分への潤滑剤供給が不均一になってしまう。
【0006】
第二に、摺動構造体の使用に際して、なにかの拍子で筐体内部から押し出されて流出した潤滑剤のほとんどは、再び筐体内部に戻ることなく無駄になってしまう。このため、摺動構造体の内部に潤滑剤を維持できる期間が短い。
【0007】
第三に、潤滑剤が流出後に偶然にも内部に戻ったとしても、外部空間に触れる過程で不純物を含有することが考えられる。かかる不純物を摺動部分に引き込んでしまうと、動作不良や破損の原因となる。
【0008】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、従来に比して、微少の潤滑剤を的確に摺動部材へ供給しつつ、潤滑剤の外部への流出を軽減することで正常な潤滑状態を長期間維持することができる摺動構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、摺動構造体であって、第1及び第2部材と、筐体とを備え、前記第1及び第2部材は、凹凸構造に沿って互いに嵌合されて配置され、互いに異なる方向に沿って、連動して摺動可能に構成され、前記筐体は、前記第1及び第2部材を収容し、潤滑剤供給口と、これと接続された潤滑剤回遊回路とを備え、前記潤滑剤供給口は、前記潤滑剤を前記凹凸構造に直接供給可能に設けられ、前記潤滑剤回遊回路は、少なくとも2つの潤滑剤溜まりを有し、前記第1及び第2部材が連動して摺動するとその形状及び容積が変化し、これにより一方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤が前記凹凸構造を通って他方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、摺動構造体が提供される。
【0010】
本発明に係る摺動構造体は、潤滑剤供給口と、これと接続された潤滑剤回遊回路とを備え、かかる潤滑剤供給口は、潤滑剤を摺動部分である凹凸構造に直接供給可能に設けられている。そして、供給された潤滑剤は、潤滑剤溜まりに滞留し、第1及び第2部材が連動して摺動するとその形状及び容積が変化し、これにより一方の潤滑剤溜まりに滞留した潤滑剤が摺動部分である凹凸構造を通って他方の潤滑剤溜まりへ移動する。このような構成により、摺動構造体において潤滑剤の外部への流出を軽減することで正常な潤滑状態を長期間維持することができる。ひいては、摺動構造体の早期摩耗や動作不良の発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】[図1A]本発明の実施形態に係る摺動構造体の一例であるグリッパの全体斜視図、[図1B図1Aとは異なる角度からの全体斜視図。
図2図1A及び図1Bに示されるグリッパの平面図。
図3】[図3A図2のA-A断面図であって、プランジャが-y方向に変位している状態、[図3B図2のA-A断面図であって、プランジャが+y方向に変位している状態。
図4】グリッパにおける本体の斜視図。
図5】グリッパに含まれるマスタージョーの斜視図。
図6】グリッパに含まれるプランジャの斜視図。
図7図2のB-B断面図。
図8】グリッパからカバーを取り外したときの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0013】
1.全体構成
第1節では、摺動構造体の一例として、グリッパ1の全体構成を説明する。図1A及び図1Bは、それぞれグリッパ1の全体斜視図であり、図2は、グリッパ1の平面図である。また、図3は、図2のA-A断面図を示している。グリッパ1は、産業用ロボット(不図示)を用いてワーク(不図示)を運搬等する際に、当該ワークをトップジョー(不図示)によって支持するように構成される。図1A及び図1Bに示されるよう、グリッパ1は、本体10と、リアカバー11と、潤滑剤供給口12と、マスタージョー13(特許請求の範囲における「第1部材」の一例)と、カバー14とを外観から目視可能に有する。また、図3A及び図3Bに示されるように、グリッパ1は、ピストン15と、プランジャ16(特許請求の範囲における「第2部材」の一例)とを、本体10の内部に備えている。
【0014】
図4は、グリッパ1における本体10を示す斜視図である。本体10には、段差10Taを有するような逆T字形状の溝10Tが、正面側から背面側にすなわちx軸方向に沿って形成されている。図1A及び図1Bに示されるように、溝10Tには、一対のマスタージョー13が摺動可能に嵌合するように設けられる。また、本体10には、溝10Tに直交し且つ面10Tbを彫り込むように円筒状の止まり穴10hが設けられ、図3A及び図3Bに示されるように、プランジャ16が止まり穴10hに嵌合するように設けられる。
【0015】
また、本体10の内部には、潤滑剤をx方向に導通させるための延在穴100が設けられる。図4では、本体10の外観に連通している部分を視認できるように図示しており、当該部分に図1Bに示されるような潤滑剤供給口12が取り付けられている。つまり、潤滑剤供給口12から供給した潤滑剤が、延在穴100を導通して、その後所望の摺動部分に到達するように構成される。かかる詳細については第2節において説明する。
【0016】
図5は、グリッパ1に含まれるマスタージョー13を示す斜視図である。図5では、一対のマスタージョー13のうちの右側のマスタージョー13rが示されている。なお、図1A及び図1Bからも明らかなように、左側のマスタージョー13lは、右側のマスタージョー13rとyz平面に平行な対称面に対して対称に構成される。マスタージョー13は、溝10Tに嵌合するように、+x方向に見て段差130を有するような逆T字形状に構成される。そして、一対のマスタージョー13が、xy平面に平行な面上である面10Tbに配置される。マスタージョー13を本体10に嵌合させると、本体10における段差10Taとマスタージョー13における段差130とが互いに係止されることにより、マスタージョー13がz方向には変位せず、またy方向にも変位せず、x方向にのみ変位可能に構成される。
【0017】
また、マスタージョー13の矩形状の裏面131には、平行溝132が2箇所設けられている。平行溝132は、裏面131の一方の長辺131aから他方の長辺131bに向かって貫通し、且つ長辺131a、131bと非垂直な角α(例えば、約45度)を成すように斜めに形成されている。平行溝132は、後述するプランジャ16における凸部162(図6参照)と嵌合可能に構成される。
【0018】
図6は、グリッパ1に含まれるプランジャ16を示す斜視図である。一対のマスタージョー13に対応するように一対のプランジャ16が設けられ、図6では、右側のマスタージョー13rに対応する右側のプランジャ16rが示されている。なお、図1A及び図1Bからも明らかなように、左側のプランジャ16lは、右側のプランジャ16rとyz平面に平行な対称面に対して対称に構成される。プランジャ16は、全体的に円筒状に形成され、その先端部(+y側)が切り取られて-z方向に見て矩形状の平板部161が形成されている。平板部161には、凸部162が2箇所設けられている。凸部162は、矩形状の平板部161の一方の長辺161aから他方の長辺161bに向かい、且つ長辺161a、161bと非垂直な角β(例えば、約45度)を成すように斜めに形成されている。このような構成により、マスタージョー13における平行溝132と、プランジャ16における凸部162が摺動可能に嵌合することとなり、これらが特許請求の範囲における「凹凸構造」の一例に相当する。
【0019】
プランジャ16の根元部(-y側)の基端には、螺合孔163が設けられている。図3A及び図3Bに示されるように、ピストン15は、取付孔15aを有し、取付孔15aにボルト15bを挿通させるとともに、その軸部を螺合孔163に螺合させることで、ピストン15とプランジャ16とを一体的に固定することができる。また、ピストン15は、本体10の内部において、ピストン15が有するシリンダ室にエアを給排させることによって、±y方向に変位可能(スライド動作)に構成される。そして、プランジャ16は、溝10Tに直交し且つ面10Tbを彫り込むように形成された円筒状の止まり穴10hに嵌合されている。このような構成により、ピストン15のy方向の変位に連動して、ピストン15に固定された一対のプランジャ16が止まり穴10hに沿ってy方向に変位可能に構成される。
【0020】
ここで、前述の角αと角βの和が90度となるように実施することで、マスタージョー13とプランジャ16とが直交して相対変位可能に構成されることに留意されたい。前述の通り、本体10における溝10Tに嵌合されたマスタージョー13は、溝10Tが延在しているx方向にのみ変位可能に構成される。そのため、ピストン15をy方向に変位させることによりプランジャ16をy方向に往復的に変位させると、凸部162の側壁162aが平行溝132の側壁132aを押圧して(又は、凸部162の側壁162bが平行溝132の側壁132bを押圧して)、マスタージョー13をx方向に往復的に変位させることができる。また、グリッパ1において、プランジャ16は、一対のマスタージョー13が配置される面(xy平面に平行な面)に平行な所定の面上に変位可能に構成されるといえる。
【0021】
具体的には、右側のプランジャ16rを+y方向に変位させると、右側のマスタージョー13rが-x方向に変位する。右側のプランジャ16rを-y方向に変位させると、右側のマスタージョー13rが+x方向に変位する。左側のプランジャ16lを+y方向に変位させると、左側のマスタージョー13lが+x方向に変位する。左側のプランジャ16lを-y方向に変位させると、左側のマスタージョー13lが-x方向に変位する。つまり、一対のプランジャ16を+y方向に変位させると、一対のマスタージョー13が互いに近接し(特許請求の範囲における「順方向」の一例)、一対のプランジャ16を-y方向に変位させると、一対のマスタージョー13が互いに離間するように構成される(特許請求の範囲における「逆方向」の一例)。このようにして、一対のマスタージョー13を開閉させることができる。
【0022】
プランジャ16における平板部161には、プランジャ16の下面164まで貫通するように形成された貫通孔16hが設けられている。前述の延在穴100(図4参照)を導通する潤滑剤は、本体10の内部においてプランジャ16の下面164に導通され、貫通孔16hを+z方向に通って平板部161に到達する。これについては、第2節において更に詳述する。
【0023】
以上説明した主たる構成要素を本体10に組み込んだ上で、リアカバー11と、カバー14とを図1に示されるように取り付けることにより、グリッパ1が構成される。なお、マスタージョー13の中心側の高さは、低部133として低く形成されているため、カバー14をした状態でも、低部133がカバー14の下方(-z方向)に潜り込むことで一対のマスタージョー13を互いに近接させることができる。そして、マスタージョー13の上方(+z方向)にトップジョー(不図示)が着脱可能に構成され、かかるトップジョーによって所望のワークが支持される。
【0024】
2.潤滑剤の回流
第2節では、グリッパ1に供給する潤滑剤の回流について説明する。第1節において説明した通り、本実施形態に係るグリッパ1は、潤滑剤供給口12を備える。そして、潤滑剤供給口12より潤滑剤を供給すると、かかる潤滑剤が延在穴100を導通していく。図3A及び図3Bに示されるように、かかる延在穴100は、本体10においてx方向に延在し、且つその上方(+z方向)に位置する止まり穴10hと貫通孔101を介して連通されている。
【0025】
ところで、止まり穴10hにはプランジャ16が嵌合されているが、プランジャ16の下面164が平面に形成されていることによって、本体10とプランジャ16との間にわずかな隙間Sが生じる(図3A及び図3B)。したがって、貫通孔101に入り込んだ潤滑剤は、かかる隙間Sによってプランジャ16の下面164に行き渡るとともに、貫通孔16hを通って平板部161及びこれに設けられた凸部162に到達する。つまり、潤滑剤供給口12から潤滑剤を供給することによって、摺動部分であるマスタージョー13における平行溝132及びプランジャ16における凸部162に、ダイレクトに潤滑剤が供給される。
【0026】
ここで、図3Aに示されるように一対のプランジャ16が-y方向に変位している状態(一対のマスタージョー13が離間している状態)で潤滑剤を供給すると、主に止まり穴10hの一部として形成される潤滑剤溜まり102,103に圧力が釣り合うように配分されて滞留する。続いて、図3Bに示されるように一対のプランジャ16を+y方向に変位させる(一対のマスタージョー13を近接させる)と、止まり穴10hにおける潤滑剤溜まり102,103の形状及び容積が変化する。特に、潤滑剤溜まり102,103の容積が小さくなることに留意されたい。すると、潤滑剤溜まり102,103(特許請求の範囲における「一方の潤滑剤溜まり」の一例)に滞留した潤滑剤が押し込まれて貫通孔16h及び隙間Sを通り、潤滑剤溜まり104(特許請求の範囲における「他方の潤滑剤溜まり」の一例)に移動する。ここでは、潤滑剤溜まり104は、図7及び図8に示されるように、一対のマスタージョー13の間であって、パイプ17の外側に形成される空間である。なお、図7は、図2におけるB-B断面を示し、図8は、グリッパ1からカバー14を外した際の斜視図である。
【0027】
そして、図3Aに示されるように一対のプランジャ16を-y方向に再び変位させる(一対のマスタージョー13を離間させる)と、潤滑剤溜まり104に滞留した潤滑剤が潤滑剤の自重による圧力で貫通孔16h及び隙間Sを通り、潤滑剤溜まり102,103(特許請求の範囲における「他方の潤滑剤溜まり」の一例)に再び移動する。
【0028】
このように、一対のプランジャ16のy方向での往復動作に伴って、潤滑剤が貫通孔16h及び隙間S、潤滑剤溜まり102,103,104(特許請求の範囲における「潤滑剤回流回路」の一例)を回流し、この度に摺動部分であるマスタージョー13における平行溝132及びプランジャ16における凸部162に、潤滑剤が供給される。すなわち、従来のように摺動の繰り返しによっても潤滑剤が外部へ排出されず、潤滑部への積極的な潤滑が繰り返されるという有利な効果を奏する。
【0029】
3.変形例
なお、次のような態様によって、本実施形態に係る摺動構造体(例えばグリッパ1)をさらに創意工夫してもよい。
【0030】
第一に、潤滑剤供給口12をリアカバー11に対向する面11o(図1参照)に設けてもよい。かかる場合であっても、適切な延在穴100を設けて、摺動部分であるマスタージョー13における平行溝132及びプランジャ16における凸部162に、ダイレクトに潤滑剤が供給されるように実施することに留意されたい。
【0031】
第二に、本実施形態では、潤滑剤溜まり102,103,104が例示されているが、一方の潤滑剤溜まりから他方の潤滑剤溜まりに可逆的に移動可能に構成されればよく、潤滑剤溜まりの個数は特に限定されるものではない。例えば一方と他方とで1個ずつ計2個でもよいし、逆に4個以上の潤滑剤溜まりが設けられてもよい。
【0032】
第三に、本実施形態では、凹凸構造の一例として、マスタージョー13における平行溝132及びプランジャ16における凸部162が2個ずつ設けられているが、これらの個数を例えば、1個や3~5個等、適宜変更してもよい。
【0033】
第四に、角αと角βの和を90度に代えて、例えば、角α及び角βともに135度とする等、角αと角βの和を270度となるように実施してもよい。かかる場合、プランジャ16と連動するマスタージョー13の動きが前述の実施形態と逆になることに留意されたい。すなわち、右側のプランジャ16rを+y方向に変位させると、右側のマスタージョー13rが+x方向に変位する。右側のプランジャ16rを-y方向に変位させると、右側のマスタージョー13rが-x方向に変位する。左側のプランジャ16lを+y方向に変位させると、左側のマスタージョー13lが-x方向に変位する。左側のプランジャ16lを-y方向に変位させると、左側のマスタージョー13lが+x方向に変位する。つまり、一対のプランジャ16を+y方向に変位させると、一対のマスタージョー13が互いに離間し、一対のプランジャ16を-y方向に変位させると、一対のマスタージョー13が互いに近接するように構成される。このようにして、一対のマスタージョー13を開閉させることができる。
【0034】
第五に、一対のマスタージョー13を3個以上のマスタージョー13からなるように実施してもよい。
【0035】
第六に、かかる作用・効果を有する摺動構造体をグリッパ1以外において実施してもよい。特に第1部材と第2部材とが、互いに異なる方向に沿って連動して摺動可能に構成される摺動構造体において実施することが好ましい。
【0036】
4.結言
以上のように、本実施形態によれば、従来に比して、微少の潤滑剤を的確に摺動部材へ供給しつつ、潤滑剤の外部への流出を軽減することで正常な潤滑状態を長期間維持することができる摺動構造体を実施することができる。
【0037】
かかる摺動構造体(グリッパ1)は、第1及び第2部材(マスタージョー13及びプランジャ16)と、筐体(本体10)とを備え、第1及び第2部材(マスタージョー13及びプランジャ16)は、凹凸構造(平行溝132及び凸部162)に沿って互いに嵌合されて配置され、互いに異なる方向に沿って、連動して摺動可能に構成され、筐体(本体10)は、第1及び第2部材(マスタージョー13及びプランジャ16)を収容し、潤滑剤供給口12と、これと接続された潤滑剤回遊回路(貫通孔16h及び隙間S、潤滑剤溜まり102,103,104)とを備え、潤滑剤供給口12は、潤滑剤を凹凸構造(平行溝132及び凸部162)に直接供給可能に設けられ、潤滑剤回遊回路(貫通孔16h及び隙間S、潤滑剤溜まり102,103,104)は、少なくとも2つの潤滑剤溜まり102,103,104を有し、第1及び第2部材(マスタージョー13及びプランジャ16)が連動して摺動するとその形状及び容積が変化し、これにより一方の潤滑剤溜まり102,103に滞留した潤滑剤が凹凸構造(平行溝132及び凸部162)を通って他方の潤滑剤溜まり104へ移動するように構成される。
【0038】
次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記摺動構造体において、前記凹凸構造は、貫通孔を備え、前記一方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤は、前記凹凸構造における前記貫通孔を通って前記他方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、摺動構造体。
前記摺動構造体において、前記第1部材が、順方向に変位するように摺動すると、前記一方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤が前記凹凸構造を通って前記他方の潤滑剤溜まりへ移動し、前記第1部材が、逆方向に変位するように摺動すると、前記他方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤が前記凹凸構造を通って前記一方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、摺動構造体。
前記摺動構造体において、前記他方の潤滑剤溜まりに滞留した前記潤滑剤は、圧力によって前記凹凸構造を通って前記一方の潤滑剤溜まりへ移動するように構成される、摺動構造体。
前記摺動構造体において、当該摺動構造体は、ワークを支持可能なグリッパであり、前記第1部材は、トップジョーを着脱可能な複数のマスタージョーであり、前記第2部材は、ピストンのスライド動作に伴って前記複数のマスタージョーを開閉可能に摺動するプランジャとして構成される、摺動構造体。
前記摺動構造体において、前記プランジャは、前記複数のマスタージョーが配置される面に平行な所定の面上に変位可能に構成される、摺動構造体。
もちろん、この限りではない。
【0039】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
1 :グリッパ
10 :本体
10T :溝
100 :延在穴
101 :貫通孔
102 :潤滑剤溜まり
103 :潤滑剤溜まり
104 :潤滑剤溜まり
12 :潤滑剤供給口
13 :マスタージョー
132 :平行溝
15 :ピストン
16 :プランジャ
16h :貫通孔
162 :凸部
S :隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8