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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/06 20060101AFI20230710BHJP
   F01B 31/14 20060101ALI20230710BHJP
   F01M 1/16 20060101ALI20230710BHJP
   F02B 75/04 20060101ALI20230710BHJP
   F02B 75/32 20060101ALI20230710BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20230710BHJP
   F16J 10/00 20060101ALI20230710BHJP
   F16N 7/38 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
F01M1/06 E
F01B31/14
F01M1/16 F
F02B75/04
F02B75/32 B
F02D15/02 B
F16J10/00 Z
F16N7/38 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017235528
(22)【出願日】2017-12-07
(65)【公開番号】P2019100317
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-08-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】523216148
【氏名又は名称】株式会社三井E&S DU
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】寺本 潤
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】水野 治彦
【審判官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/108182(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/108178(WO,A1)
【文献】特開2013-83228(JP,A)
【文献】特開2006-241989(JP,A)
【文献】特開2013-238223(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108138(WO,A1)
【文献】特開2010-185396(JP,A)
【文献】特開2013-40578(JP,A)
【文献】実開昭63-164535(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M1/00-9/12
F02B75/04
F02D15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧された作動流体が供給されることで、ピストンと接続されるピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室を有する可変圧縮装置を備えるエンジンシステムであって、
前記ピストンが摺動されるシリンダに、当該シリンダの内側と外側とを連通する注油孔を介して潤滑流体を供給する供給手段と、
前記ピストンの位置情報を含む信号を出力する検出手段と、
前記信号に基づいて前記供給手段を制御する制御手段とを有し、
前記制御手段は、前記ピストンロッドが高圧縮比方向に移動される際に、前記ピストンロッドを低圧縮比方向に移動させた時よりも前記供給手段の前記潤滑流体の供給タイミングを早め、かつ、前記潤滑流体の単位時間当たりの供給量を前記圧縮比と前記供給量との相関を示すマップに基づいて増加させることを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
前記検出手段は、前記シリンダに設けられると共に前記ピストンの位置情報を含む信号を出力することを特徴とする請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記検出手段は、前記ピストンロッドに固定された被検出部の移動を非接触で検出するセンサ部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、クロスヘッドを有する大型往復ピストン燃焼エンジンが開示されている。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、重油などの液体燃料と天然ガス等の気体燃料との両方での稼働が可能とされるデュアルフュエルエンジンである。特許文献1の大型往復ピストン燃焼エンジンは、液体燃料による稼働に適する圧縮比と気体燃料による稼働に適する圧縮比との双方に対応するため、油圧によりピストンロッドを移動させることで圧縮比を変更させる調整機構をクロスヘッド部分に設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-20375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような圧縮比を変更する圧縮調整装置を有するエンジンシステムは、ピストンロッドの移動方向における位置を変更することにより、ピストンの下死点及び上死点位置を変更し、圧縮比を調整している。しかしながら、従来のエンジンシステムにおいては、ピストンロッドが移動した際についてもピストンにおける潤滑流体の供給タイミングが固定されている。このため、低圧縮比時と高圧縮比時とで、ピストンに対する潤滑流体の供給位置が異なり、シリンダ内に潤滑流体が十分に供給されない場合がある。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、可変圧縮機構を備えるエンジンシステムにおいて、潤滑流体を十分に供給させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための第1の手段として、昇圧された作動流体が供給されることで、ピストンと接続されるピストンロッドが圧縮比を高める方向に移動される流体室を有する可変圧縮装置を備えるエンジンシステムであって、上記ピストンが摺動されるシリンダに潤滑流体を供給する供給手段と、上記ピストンの位置情報を含む信号を出力する検出手段と、上記信号に基づいて上記供給手段を制御する制御手段とを有する、という構成を採用する。
【0007】
第2の手段として、上記第1の手段において、上記制御手段は、上記ピストンロッドが高圧縮比方向に移動される際に、上記供給手段の上記潤滑流体の供給タイミングを変化させる、という構成を採用する。
【0008】
第3の手段として、上記第2の手段において、上記制御手段は、上記ピストンロッドが高圧縮比方向に移動される際に、上記潤滑流体の単位時間当たりの供給量を予め設定された圧縮比に応じて調整させる、という構成を採用する。
【0009】
第4の手段として、上記第2または3の手段において、上記制御手段は、上記潤滑流体の1回あたりの供給量を増加させる、という構成を採用する。
【0010】
第5の手段として、上記第1~4のいずれかの手段において、上記検出手段は、上記シリンダライナに設けられると共に上記ピストンの位置情報を含む信号を出力する、という構成を採用する。
【0011】
第6の手段として、上記第1~5のいずれかの手段において、上記検出手段は、ピストンロッドに固定された被検出部の移動を非接触で検出するセンサ部を有する、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、制御手段が、ピストンロッドまたはピストンの位置に基づいて、潤滑流体の供給タイミングを変化させる。これにより、可変圧縮機構によりピストン位置を変更させる際に注油タイミングを変更し、ピストンに対して常に一定の位置で潤滑流体を供給させることができ、潤滑流体を十分に供給させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの断面図である。
図2】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの一部を示す模式断面図である。
図3】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの一部を示す拡大断面図である。
図4】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの一部を示す拡大断面図である。
図5】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの一部を示す拡大断面図である。
図6】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの位置検出部を示す斜視図である。
図7】本発明の一実施形態におけるエンジンシステムの位置検出部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明におけるエンジンシステム100の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
[第1実施形態]
本実施形態のエンジンシステム100は、例えば大型タンカなど船舶に搭載され、図1に示すように、エンジン1と、過給機200と、制御部300(制御手段)とを有している。なお、本実施形態においては、過給機200を補機として捉え、エンジン1(主機)と別体として説明する。但し、過給機200をエンジン1の一部として構成することも可能である。
【0016】
エンジン1は、多気筒のユニフロー掃気ディーゼルエンジンとされ、天然ガス等の気体燃料を重油などの液体燃料と共に燃焼させるガス運転モードと、重油などの液体燃料を燃焼させるディーゼル運転モードとを有している。なお、ガス運転モードでは、気体燃料のみを燃焼させても良い。このようなエンジン1は、架構2と、シリンダ部3と、ピストン4と、排気弁ユニット5と、ピストンロッド6と、クロスヘッド7と、油圧部8と、連接棒9と、クランク角センサ10と、クランク軸11と、掃気溜12と、排気溜13と、空気冷却器14と、注油装置15(供給手段)とを有している。また、シリンダ部3、ピストン4、排気弁ユニット5及びピストンロッド6により、気筒が構成されている。
【0017】
架構2は、エンジン1の全体を支持する強度部材であり、クロスヘッド7、油圧部8及び連接棒9が収容されている。また、架構2は、内部において、クロスヘッド7の後述するクロスヘッドピン7aが往復動可能とされている。
【0018】
シリンダ部3は、円筒状のシリンダライナ3aと、シリンダヘッド3bとシリンダジャケット3cとを有している。シリンダライナ3aは、円筒状の部材であり、ピストン4との摺動面が内側に形成されている。このようなシリンダライナ3aの内周面とピストン4とにより囲まれた空間が燃焼室R1とされている。また、シリンダライナ3aの下部には、複数の掃気ポートSが形成されている。掃気ポートSは、シリンダライナ3aの周面に沿って配列された開口であり、シリンダジャケット3c内部の掃気室R2とシリンダライナ3aの内側とを連通している。シリンダヘッド3bは、シリンダライナ3aの上端部に設けられた蓋部材である。シリンダヘッド3bは、平面視において中央部に排気ポートHが形成され、排気溜13と接続されている。また、シリンダヘッド3bには、不図示の燃料噴射弁が設けられている。さらに、シリンダヘッド3bの燃料噴射弁の近傍には、不図示の筒内圧センサが設けられている。筒内圧センサは、燃焼室R1内の圧力を検出し、制御部300へと送信している。シリンダジャケット3cは、架構2とシリンダライナ3aとの間に設けられ、シリンダライナ3aの下端部が挿入された円筒状の部材であり、内部に掃気室R2が形成されている。また、シリンダジャケット3cの掃気室R2は、掃気溜12と接続されている。
【0019】
ピストン4は、略円柱状とされ、後述するピストンロッド6と接続されてシリンダライナ3aの内側に配置されている。また、ピストン4の外周面にはピストンリング4aが設けられ、ピストンリング4aにより、ピストン4とシリンダライナ3aとの間隙を封止している。ピストン4は、燃焼室R1における圧力の変動により、ピストンロッド6を伴ってシリンダライナ3a内を摺動する。
【0020】
排気弁ユニット5は、排気弁5aと、排気弁筐5bと、排気弁駆動部5cとを有している。排気弁5aは、シリンダヘッド3bの内側に設けられ、排気弁駆動部5cにより、シリンダ部3内の排気ポートHを閉塞する。排気弁筐5bは、排気弁5aの端部を収容する円筒形の筐体である。排気弁駆動部5cは、排気弁5aをピストン4のストローク方向に沿う方向に移動させるアクチュエータである。
【0021】
ピストンロッド6は、一端がピストン4と接続され、他端がクロスヘッドピン7aと連結された長尺状部材である。ピストンロッド6の端部は、クロスヘッドピン7aに挿入され、連接棒9が回転可能となるように連結されている。また、ピストンロッド6は、クロスヘッドピン7a側端部の一部の径が太く形成された太径部を有している。
【0022】
クロスヘッド7は、図2に示すように、クロスヘッドピン7aと、ガイドシュー7bと、蓋部材7cとを有している。クロスヘッドピン7aは、ピストンロッド6と連接棒9とを移動可能に連結する円柱状部材であり、ピストンロッド6の端部が挿入される挿入空間に、作動油(作動流体)の供給及び排出が行われる油圧室R3(流体室)が形成される。クロスヘッドピン7aには、中心よりも下側に、クロスヘッドピン7aの軸方向に沿って貫通する出口孔Oが形成されている。出口孔Oは、ピストンロッド6の不図示の冷却流路を通過した冷却油が排出される開口である。内部また、クロスヘッドピン7aには、油圧室R3と後述するプランジャポンプ8cとを接続する供給流路R4と、油圧室R3と後述するリリーフ弁8fとを接続するリリーフ流路R5とが設けられている。
【0023】
ガイドシュー7bは、クロスヘッドピン7aを回動可能に支持する部材であり、クロスヘッドピン7aに伴ってピストン4のストローク方向に沿って不図示のガイドレール上を移動する。ガイドシュー7bがガイドレールに沿って移動することにより、クロスヘッドピン7aは、回転運動と、ピストン4のストローク方向に沿う直線方向以外への移動が規制される。蓋部材7cは、クロスヘッドピン7aの上部に固定され、ピストンロッド6の端部が挿入される環状部材である。このようなクロスヘッド7は、ピストン4の直線運動を連接棒9へと伝達している。
【0024】
図3に示すように、油圧部8は、供給ポンプ8aと、揺動管8bと、プランジャポンプ8cと、プランジャポンプ8cが有する第1逆止弁8d及び第2逆止弁8eと、リリーフ弁8fとを有している。また、ピストンロッド6、クロスヘッド7、油圧部8、制御部300及び位置検出部400は、本発明における可変圧縮装置として機能する。
【0025】
供給ポンプ8aは、制御部300からの指示に基づいて、不図示の作動油タンクから供給される作動油を昇圧してプランジャポンプ8cへと供給するポンプである。供給ポンプ8aは、船舶のバッテリの電力により駆動され、燃焼室R1に液体燃料が供給されるよりも前に稼働することが可能である。揺動管8bは、供給ポンプ8aと各気筒のプランジャポンプ8cとを接続する配管であり、クロスヘッドピン7aに伴って移動するプランジャポンプ8cと、固定された供給ポンプ8aとの間において、揺動可能とされている。
【0026】
プランジャポンプ8cは、クロスヘッドピン7aに固定されており、棒状のプランジャ8c1と、プランジャ8c1を摺動可能に収容する筒状のシリンダ8c2と、プランジャ駆動部8c3とを有している。プランジャポンプ8cは、プランジャ8c1が不図示の駆動部と接続されることで、シリンダ8c2内を摺動し、作動油を昇圧して油圧室R3へと供給する。また、シリンダ8c2には、端部に設けられた作動油の吐出側の開口に第1逆止弁8dが設けられ、側周面に設けられた吸入側の開口に第2逆止弁8eが設けられている。プランジャ駆動部8c3は、プランジャ8c1に接続され、制御部300からの指示に基づいてプランジャ8c1を往復動させる。
【0027】
第1逆止弁8dは、シリンダ8c2の内側に向けて弁体が付勢されることで閉弁する構造とされ、油圧室R3に供給された作動油がシリンダ8c2へと逆流することを防止している。また、第1逆止弁8dは、シリンダ8c2内の作動油の圧力が第1逆止弁8dの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。第2逆止弁8eは、シリンダ8c2の外側に向けて付勢されており、シリンダ8c2に供給された作動油が供給ポンプ8aへと逆流することを防止している。また、第2逆止弁8eは、供給ポンプ8aから供給される作動油の圧力が第2逆止弁8eの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。なお、第1逆止弁8dは、開弁圧力が第2逆止弁8eの開弁圧力よりも高く、予め設定された圧縮比で運転される定常運転時においては、供給ポンプ8aから供給される作動油の圧力により開弁することはない。
【0028】
リリーフ弁8fは、クロスヘッドピン7aに設けられ、本体部8f1と、リリーフ弁駆動部8f2とを有している。本体部8f1は、油圧室R3及び不図示の作動油タンクに接続される弁である。リリーフ弁駆動部8f2は、本体部8f1の弁体に接続され、制御部300からの指示に基づいて本体部8f1を開閉弁する。リリーフ弁8fがリリーフ弁駆動部8f2により開弁することで、油圧室R3に貯留された作動油が作動油タンクに戻される。
【0029】
図1に示すように、連接棒9は、クロスヘッドピン7aと連結されると共にクランク軸11と連結されている長尺状部材である。連接棒9は、クロスヘッドピン7aに伝えられたピストン4の直線運動を回転運動に変換している。クランク角センサ10は、クランク軸11のクランク角を計測するためのセンサであり、制御部300へとクランク角を算出するためのクランクパルス信号を送信している。
【0030】
クランク軸11は、気筒に設けられる連接棒9に接続された長尺状の部材であり、それぞれの連接棒9により伝えられる回転運動により回転されることで、例えばスクリュー等に動力を伝える。掃気溜12は、シリンダジャケット3cと過給機200との間に設けられ、過給機200により加圧された空気が流入する。また、掃気溜12には、空気冷却器14が内部に設けられている。排気溜13は、各気筒の排気ポートHと接続されると共に過給機200と接続される管状部材である。排気ポートHより排出されるガスは、排気溜13に一時的に貯留されることにより、脈動を抑制した状態で過給機200へと供給される。空気冷却器14は、掃気溜12内部の空気を冷却する装置である。
【0031】
注油装置15は、シリンダライナ3aの排気ポートH側の外周に設けられ、シリンダライナ3aの内側と外側とを連通する注油孔より、シリンダライナ3aの内側(燃焼室R1)に向けて潤滑油(潤滑流体)を供給している。注油装置15は、制御部300からの指示に基づいて注油量及び注油タイミングを変更可能とされている。
【0032】
過給機200は、排気ポートHより排出されたガスにより回転されるタービンにより、不図示の吸気ポートから吸入した空気を加圧して燃焼室R1に供給する装置である。
【0033】
制御部300は、船舶の操縦者による操作等に基づいて、燃料の供給量等を制御するコンピュータである。また、制御部300は、油圧部8を制御することにより、燃焼室R1における圧縮比を変更する。具体的には、制御部300は、筒内圧センサからの信号に基づいてピストンロッド6の位置情報を取得し、プランジャポンプ8c、供給ポンプ8a及びリリーフ弁8fを制御し、油圧室R3における作動油の量を調整することにより、ピストンロッド6の位置を変更させて圧縮比を変更する。さらに、制御部300は、ピストンロッド6の位置情報に基づいて、注油装置15の注油量及び注油タイミングを変更する。
【0034】
このようなエンジンシステム100は、不図示の燃料噴射弁より燃焼室R1に噴射された燃料を着火、爆発させることによりピストン4をシリンダライナ3a内で摺動させ、クランク軸11を回転させる装置である。詳述すると、燃焼室R1に供給された燃料は、掃気ポートSより流入した空気と混合された後、ピストン4が上死点方向に向けて移動することにより圧縮されて温度が上昇し、自然着火する。また、液体燃料の場合には、燃焼室R1において温度上昇することにより気化し、自然着火する。
【0035】
そして、燃焼室R1内の燃料が自然着火することで急激に膨張し、ピストン4には下死点方向に向けた圧力がかかる。これにより、ピストン4が下死点方向に移動し、ピストン4に伴ってピストンロッド6が移動され、連接棒9を介してクランク軸11が回転される。さらに、ピストン4が下死点に移動されることで、掃気ポートSより燃焼室R1へと加圧空気が流入する。排気弁ユニット5が駆動することで排気ポートHが開き、燃焼室R1内の排気ガスが、加圧空気により排気溜13へと押し出される。
【0036】
圧縮比を大きくする場合には、制御部300により供給ポンプ8aが駆動され、プランジャポンプ8cに作動油が供給される。そして、制御部300は、プランジャポンプ8cを駆動して作動油を、ピストンロッド6を持ち上げることが可能な圧力となるまで加圧し、油圧室R3へと作動油を供給する。油圧室R3の作動油の圧力により、ピストンロッド6の端部が持ち上がり、これに伴ってピストン4の上死点位置が上方(排気ポートH側)に移動される。
【0037】
圧縮比を小さくする場合には、制御部300によりリリーフ弁8fが駆動され、油圧室R3と不図示の作動油タンクとが連通状態となる。そして、ピストンロッド6の荷重が油圧室R3の作動油にかかり、油圧室R3内の作動油がリリーフ弁8fを介して作動油タンクへと押し出される。これにより、油圧室R3の作動油が減少し、ピストンロッド6が下方(クランク軸11側)に移動され、これに伴ってピストン4の上死点位置が下方に移動される。
【0038】
続いて、本実施形態におけるエンジンシステム100の注油タイミングについて説明する。
注油装置15は、図3~5に示すように、ピストン4が注油孔を通過するより前と、ピストン4のピストンリング4aが注油孔を通過する際と、ピストン4のピストンリング4aが通過した後との3回に分けて、シリンダライナ3aの内側に潤滑油を供給している。例えば、注油装置15による注油は、2サイクルに1度程度の間隔で実施される。これにより、ピストン4のピストンリング4aに潤滑油が全て掻き出されることなく、シリンダライナ3aの上端(排気ポートH側)にも潤滑油が行き渡るようになっている。
【0039】
注油タイミングの制御において、制御部300は、筒内圧センサからの入力に基づいて、ピストンロッド6の高さ方向の位置を算出する。具体的には、ピストンロッド6の高さ方向の位置は、以下の手順で算出される。
ピストン4が下死点に位置するときの筒内圧をP、ピストン4が上死点に位置するときの筒内圧をPとしたとき、圧縮比εは、下記式1で示される。なおκは、ポリトロープ指数を示す。
【0040】
【数1】
【0041】
制御部300は、ピストンロッド位置取得部310により、筒内圧センサが出力する電気信号(ピストンロッド6の位置情報を含む信号)から上記式1に基づいてシリンダ部3における圧縮比を算出する。さらに、制御部300は、ピストンロッド位置取得部310により、圧縮比に基づいてピストンロッド6の高さ方向の位置を算出する。
【0042】
制御部300は、上述の手法で算出されたピストンロッド6の高さ方向の位置をリアルタイムで監視している。制御部300は、ピストンロッド6の高さ方向の位置に基づいて、ピストンロッド6が上方向(高圧縮比方向)に移動されていることを検知すると、注油装置15に対して、3回の注油タイミングをそれぞれ低圧縮比時の注油タイミングよりも早めるように指示する。さらに、制御部300は、ピストンロッド6が上方向に移動されている最中には、注油装置15に対して、予め設定された圧縮比と注油量との相関を示すマップに基づいて、1回あたりの注油量を増加させる(調整させる)ことを指示する。なお、制御部300は、ピストンロッド6の高さ方向の位置に応じて注油タイミングを徐々に変化させ、常に図3~5に示す注油タイミングとなるように注油装置15に注油させる。すなわち、制御部300は、ピストンロッド6の高さ方向の位置に基づいて、注油装置15に対して、ピストン4が注油孔を通過するより前と、ピストン4のピストンリング4aが注油孔を通過する際と、ピストン4のピストンリング4aが通過した後とに、潤滑油を注油させる。
また、ピストンロッド6が低圧縮比方向に移動される際には、注油タイミングを高圧縮比時の注油タイミングよりも遅らせる。
【0043】
このような本実施形態におけるエンジンシステム100によれば、制御部300がピストンロッド6の高さ方向の位置に基づいて、注油装置15の注油タイミングを変更させるため、注油装置15とピストン4との相対位置が常に一定のタイミングで注油を行うことができる。これにより、シリンダライナ3aの上端側まで潤滑油を供給することができ、シリンダライナ3aの内側の潤滑性を保持することができる。
【0044】
また、高圧縮比による運転に用いられる燃料(重油)は、腐食性が高く、シリンダライナ3aを十分に潤滑させる必要がある。本実施形態におけるエンジンシステム100によれば、制御部300がピストンロッド6の高さ方向の位置に基づいて、ピストンロッド6が上方へと移動されている際には、注油装置15による1回あたりの注油量を増加させる。これにより、高圧縮比による運転においても、十分に潤滑性を保持することができる。
【0045】
[第2実施形態]
上記第1実施形態の変形例を第2実施形態として説明する。なお、上記第1実施形態と同一の構成の部材については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0046】
本実施形態におけるエンジンシステム100は、位置検出部400(検出手段)を有している。位置検出部400は、図6に示すように、磁気センサ410(センサ部)と、ロッド部420と、通信部430とを有している。磁気センサ410は、蓋部材7cに固定されており、後述するロッド421の移動に伴う磁界の変化により電気信号(ピストンロッド6の位置情報を含む信号)を発生させるセンサである。
【0047】
ロッド部420は、ロッド421と、保持部422と、付勢バネ423と、磁性部材424とを有している。ロッド421は、端部近傍に付勢バネ423を保持するフランジを有した棒状部材である。ロッド421は、保持部422と共に蓋部材7cに形成された貫通孔に挿入され、ピストンロッド6の延在方向に沿って配置され、付勢バネ423によりピストンロッド6の端部の太径部に押し付けられて固定されている。保持部422は、蓋部材7cに固定され、ロッド421が挿入された筒状部材である。ロッド421は、保持部422内を往復動可能とされている。付勢バネ423は、ロッド421のフランジと、ピストンロッド6の太径部との間に設けられ、ロッド421をピストンロッド6の太径部に向けて付勢している。磁性部材424は、等間隔で磁石が複数配列された部材であり、ロッド421の周面においてロッド421の延在方向に沿って設けられている。
【0048】
通信部430は、磁気センサ410の検出した電気信号を制御部300に無線通信により送信するテレメータである。
【0049】
このような位置検出部400は、ピストンロッド6の移動に伴ってロッド421が移動されると、磁性部材424が移動されることにより、磁気センサ410が検出する磁界が変化する。磁気センサ410は、このような磁界の変化を電気信号として出力する。
本実施形態においては、制御部300は、位置検出部400からの入力に基づいて、ピストンロッド6の位置を算出する。
【0050】
本実施形態におけるエンジンシステム100によれば、制御部300がピストンロッド6の高さ方向の位置に基づいて、注油装置15の注油タイミングを変更させるため、注油装置15とピストン4との相対位置が常に一定のタイミングで注油を行うことができる。これにより、シリンダライナ3aの上端側まで潤滑油を供給することができ、シリンダライナ3aの内側の潤滑性を保持することができる。さらに、本実施形態によれば、直接ピストンロッド6の高さ方向の位置を検出することができ、より正確なピストンロッド6の高さ方向の位置を把握できる。
【0051】
[第3実施形態]
本実施形態におけるエンジンシステム100は、位置検出部400の代わりに、位置検出部500(検出手段)を有している。位置検出部500は、図7に示すように、センサ部510と、被検出部520とを有している。センサ部510は、掃気ポートSよりも燃焼室R1から離れた位置であるシリンダライナ3aの内周面下端側に埋設されて固定されている。センサ部510は、2つの被検出部520の移動に伴う被検出部520の表面との距離の変化により電気信号(ピストンロッド6の位置情報を含む信号)を発生させるセンサである。
【0052】
被検出部520は、ピストン4の摺動面下端側に設けられ、それぞれ、ピストン4の摺動方向に向けて等間隔で形成された複数の凹凸により構成されている。なお、被検出部520は、ピストン4に設けられるピストンリング4a(不図示)よりも下方(ピストンロッド6側)に設けられている。これにより、被検出部520は、ピストン4の摺動面における潤滑油の影響を受けにくい。
【0053】
このような位置検出部500は、ピストンロッド6の移動に伴ってピストン4が移動されると、センサ部510に対して被検出部520の凹凸が相対的に移動されることにより、センサ部510が検出する被検出部520との距離が変化する。センサ部510は、このような凹凸の変化、すなわち被検出部520の表面との相対的な距離の変化を電気信号として制御部300に出力する。
本実施形態においては、制御部300は、位置検出部500からの入力に基づいて、ピストンロッド6の位置を算出する。
【0054】
本実施形態におけるエンジンシステム100によれば、制御部300がピストンロッド6の高さ方向の位置に基づいて、注油装置15の注油タイミングを変更させるため、注油装置15とピストン4との相対位置が常に一定のタイミングで注油を行うことができる。これにより、シリンダライナ3aの上端側まで潤滑油を供給することができ、シリンダライナ3aの内側の潤滑性を保持することができる。
【0055】
さらに、センサ部510が架構2に固定されたシリンダライナ3aに埋設されていることにより、センサ部510と制御部300とを有線により容易に接続できる。したがって、センサ部510は、通信部等を設ける必要がなく、設置が容易である。
【0056】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0057】
上記実施形態においては、注油タイミングを3回設けるものとしたが、本発明はこれに限定されない。注油タイミングは、ピストン4の形状やエンジンの特性により、回数またはタイミングを変化させることが可能である。
【0058】
また、ピストンロッド6の高さ方向の位置の検出手段は、上記実施形態に開示した形態に限定されるものではない。例えば、検出手段として備えられるレーザ距離計により、ピストンロッド6またはピストン4の位置を計測するものとしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、制御部300がピストンロッド6が高圧縮比方向に移動される際に注油量を増加させるものとしたが、本発明はこれに限定されず、圧縮比と注油量との相関を示すマップに基づいて、注油量を減少または変化させないものとしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 エンジン
2 架構
3 シリンダ部
3a シリンダライナ
3b シリンダヘッド
3c シリンダジャケット
4 ピストン
4a ピストンリング
5 排気弁ユニット
5 ピストン
5a 排気弁
5b 排気弁筐
5c 排気弁駆動部
6 直接ピストンロッド
6 ピストンロッド
7 クロスヘッド
7a クロスヘッドピン
7b ガイドシュー
7c 蓋部材
8 油圧部
8a 供給ポンプ
8b 揺動管
8c プランジャポンプ
8c1 プランジャ
8c2 シリンダ
8c3 プランジャ駆動部
8d 第1逆止弁
8e 第2逆止弁
8f リリーフ弁
8f1 本体部
8f2 リリーフ弁駆動部
9 連接棒
10 クランク角センサ
11 クランク軸
12 掃気溜
13 排気溜
14 空気冷却器
15 注油装置
100 エンジンシステム
200 過給機
300 制御部
310 ピストンロッド位置取得部
400 位置検出部
410 磁気センサ
411 凹凸部
412 凹凸部
420 ロッド部
421 ロッド
422 保持部
423 付勢バネ
424 磁性部材
430 通信部
500 位置検出部
510 センサ部
520 被検出部
H 排気ポート
O 出口孔
R1 燃焼室
R2 掃気室
R3 油圧室
R4 供給流路
R5 リリーフ流路
S 掃気ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7