IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三井E&S DUの特許一覧

<>
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図1
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図2
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図3
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図4
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図5
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図6
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図7
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図8
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図9
  • 特許-ユニフロー掃気式2サイクルエンジン 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】ユニフロー掃気式2サイクルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 17/00 20060101AFI20230710BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20230710BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20230710BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
F02B17/00 J
F02B25/04
F02D19/02 E
F02M21/02 301A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019055104
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020153353
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】523216148
【氏名又は名称】株式会社三井E&S DU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 孝行
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145289(JP,A)
【文献】特開平04-132857(JP,A)
【文献】特開平05-231221(JP,A)
【文献】特開2014-005818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
F02B 25/04
F02D 19/02
F02M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口が形成された掃気室と、
前記掃気室の内部に掃気ポートが配されたシリンダと、
前記シリンダの内周面、前記掃気ポートの内部、または、前記掃気ポートよりも前記シリンダの径方向外側に開口し、第1噴射口、および、前記第1噴射口よりも前記流入口から離隔して配される第2噴射口を含む複数の噴射口と、
前記噴射口に燃料ガスを供給する燃料噴射装置と、
前記燃料噴射装置を制御し、要求出力が閾値以下では、前記第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、前記第2噴射口から燃料ガスを噴射させる制御部と、
を備え、
前記第1噴射口は、前記シリンダの中心軸に対して前記流入口側に位置し、前記第2噴射口は、前記シリンダの中心軸に対して前記流入口から離隔する側に位置するユニフロー掃気式2サイクルエンジン。
【請求項2】
流入口が形成された掃気室と、
前記掃気室の内部に掃気ポートが配されたシリンダと、
前記シリンダの内周面、前記掃気ポートの内部、または、前記掃気ポートよりも前記シリンダの径方向外側に開口し、第1噴射口、および、前記第1噴射口よりも前記流入口から離隔して配される第2噴射口を含む複数の噴射口と、
前記噴射口に燃料ガスを供給する燃料噴射装置と、
前記燃料噴射装置を制御し、要求出力が閾値以下では、前記第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、前記第2噴射口から燃料ガスを噴射させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させる場合、すべての前記噴射口から燃料ガスを噴射させるときよりも、噴射タイミングを遅角させるユニフロー掃気式2サイクルエンジン。
【請求項3】
流入口が形成された掃気室と、
前記掃気室の内部に掃気ポートが配されたシリンダと、
前記シリンダの内周面、前記掃気ポートの内部、または、前記掃気ポートよりも前記シリンダの径方向外側に開口し、第1噴射口、および、前記第1噴射口よりも前記流入口から離隔して配される第2噴射口を含む複数の噴射口と、
前記噴射口に燃料ガスを供給する燃料噴射装置と、
前記燃料噴射装置を制御し、要求出力が閾値以下では、前記第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、前記第2噴射口から燃料ガスを噴射させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1噴射口への燃料ガスの供給量を、前記第2噴射口への燃料ガスの供給量よりも減少させる場合、前記第1噴射口の噴射タイミングよりも、前記第2噴射口の噴射タイミングを遅角させるユニフロー掃気式2サイクルエンジン。
【請求項4】
前記制御部は、前記要求出力が前記閾値を跨いで減少すると、前記第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、かつ、前記第1噴射口から供給されなくなった減少分よりも少ない量だけ、前記第2噴射口への燃料供給量を増量させる請求項1からのいずれか1項に記載のユニフロー掃気式2サイクルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ユニフロー掃気式2サイクルエンジンでは、燃料として気体の燃料ガスが用いられる場合がある。例えば、特許文献1には、シリンダのうち、掃気ポートよりも排気ポート側に、燃料噴射口が形成された構成が開示されている。燃料噴射口は、シリンダの周方向に離隔して複数設けられる。燃料噴射口からシリンダ内に噴射された燃料ガスは、掃気とともにピストンで圧縮された後、燃焼室で燃焼する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6080224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの要求出力が小さい場合、それぞれの燃料噴射口からの燃料ガスの噴射量が少量となり、燃料ガスが拡散して希薄となり過ぎて、失火し易くなってしまう。
【0005】
本開示は、低負荷時の失火を抑制することが可能なユニフロー掃気式2サイクルエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のユニフロー掃気式2サイクルエンジンは、流入口が形成された掃気室と、掃気室の内部に掃気ポートが配されたシリンダと、シリンダの内周面、掃気ポートの内部、または、掃気ポートよりもシリンダの径方向外側に開口し、第1噴射口、および、第1噴射口よりも流入口から離隔して配される第2噴射口を含む複数の噴射口と、噴射口に燃料ガスを供給する燃料噴射装置と、燃料噴射装置を制御し、要求出力が閾値以下では、第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、第2噴射口から燃料ガスを噴射させる制御部と、を備え、第1噴射口は、シリンダの中心軸に対して流入口側に位置し、第2噴射口は、シリンダの中心軸に対して流入口から離隔する側に位置する
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のユニフロー掃気式2サイクルエンジンは、流入口が形成された掃気室と、掃気室の内部に掃気ポートが配されたシリンダと、シリンダの内周面、掃気ポートの内部、または、掃気ポートよりもシリンダの径方向外側に開口し、第1噴射口、および、第1噴射口よりも流入口から離隔して配される第2噴射口を含む複数の噴射口と、噴射口に燃料ガスを供給する燃料噴射装置と、燃料噴射装置を制御し、要求出力が閾値以下では、第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、第2噴射口から燃料ガスを噴射させる制御部と、を備え、制御部は、第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させる場合、すべての噴射口から燃料ガスを噴射させるときよりも、噴射タイミングを遅角させ
【0009】
上記課題を解決するために、本開示のユニフロー掃気式2サイクルエンジンは、流入口が形成された掃気室と、掃気室の内部に掃気ポートが配されたシリンダと、シリンダの内周面、掃気ポートの内部、または、掃気ポートよりもシリンダの径方向外側に開口し、第1噴射口、および、第1噴射口よりも流入口から離隔して配される第2噴射口を含む複数の噴射口と、噴射口に燃料ガスを供給する燃料噴射装置と、燃料噴射装置を制御し、要求出力が閾値以下では、第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、第2噴射口から燃料ガスを噴射させる制御部と、を備え、制御部は、第1噴射口への燃料ガスの供給量を、第2噴射口への燃料ガスの供給量よりも減少させる場合、第1噴射口の噴射タイミングよりも、第2噴射口の噴射タイミングを遅角させ
【0010】
制御部は、要求出力が閾値を跨いで減少すると、第1噴射口への燃料ガスの供給を停止させ、かつ、第1噴射口から供給されなくなった減少分よりも少ない量だけ、第2噴射口への燃料供給量を増量させてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示のユニフロー掃気式2サイクルエンジンによれば、低負荷時の失火を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジンの全体構成を示す説明図である。
図2図2は、燃料噴射ポートの配置を説明するための図である。
図3図3は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジンの制御系を示すブロック図である。
図4図4は、燃料制御部の処理を説明するための第1の図である。
図5図5は、燃料制御部の処理を説明するための第2の図である。
図6図6は、燃料制御部の処理を説明するための第3の図である。
図7図7は、燃料制御部の処理を説明するための第4の図である。
図8図8は、燃焼室におけるピストンの冠面近傍の燃料ガスの拡散状態のシミュレーション結果を示す図である。
図9図9は、変形例を説明するための図である。
図10図10は、燃料管の配置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の全体構成を示す説明図である。ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、例えば、船舶等に用いられる。シリンダ110の一端側にはシリンダヘッド112が設けられる。シリンダ110の他端側にはシリンダジャケット114が設けられる。シリンダ110内にはピストン116が配される。
【0015】
ピストン116は、シリンダ110内をシリンダ110の中心軸方向(ピストン116のストローク方向、以下、単にストローク方向という)に往復移動する。ピストン116の上昇行程および下降行程の2行程の間に、排気、吸気、圧縮、燃焼、膨張が行われる。ピストン116には、ピストンロッド118の一端が取り付けられている。ピストンロッド118の他端には、クロスヘッド120が連結されている。
【0016】
クロスヘッド120は、ピストン116と一体となってストローク方向に往復移動する。クロスヘッドシュー122によって、ストローク方向に垂直な方向(図1中、左右方向)に向うクロスヘッド120の移動が規制される。連結棒124は、クロスヘッド120およびクランクシャフト126に連結される。クロスヘッド120の往復移動に伴う連結棒124の動作により、クランクシャフト126が回転する。
【0017】
シリンダヘッド112には、排気弁箱128が取り付けられる。燃焼室130は、ピストン116が上死点側にあるとき、シリンダヘッド112、排気弁箱128、および、ピストン116に囲繞されてシリンダ110の内部に形成される。
【0018】
排気弁箱128には、排気ポート132が形成される。排気ポート132は、ピストン116の上死点よりも、鉛直上側に位置する。排気弁箱128には、不図示の排気弁駆動装置が設けられる。排気弁134は、排気弁駆動装置によってストローク方向に移動する。排気弁134の移動によって排気ポート132が開閉する。
【0019】
排気弁134の開弁時、排気ガスは排気ポート132を通って燃焼室130から排気される。排気ガスは、排気管136を通って過給機138のタービンTを回転させる。この回転動力により、過給機138のコンプレッサCが活性ガスを圧縮して冷却器140に送出する。活性ガスは、酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気)を含む。冷却器140は、ケーシング142内に形成された掃気溜144に配される。冷却器140は、圧縮された活性ガスを冷却する。冷却された活性ガスは、掃気溜144に送出される。
【0020】
ケーシング142は、シリンダジャケット114に当接する。ケーシング142は、シリンダジャケット114に対し、シリンダ110の径方向(以下、径方向という)の外側に位置する。シリンダジャケット114の内部には、掃気室146が形成される。掃気溜144は、掃気室146に対し、径方向の外側に位置する。
【0021】
ケーシング142のうち、シリンダジャケット114側の壁部には貫通孔142aが形成される。貫通孔142aは、ケーシング142のシリンダジャケット114側の壁部を、ケーシング142とシリンダジャケット114との対向方向に貫通する。
【0022】
シリンダジャケット114のうち、ケーシング142の貫通孔142aに対向する部位には貫通孔114aが形成される。シリンダジャケット114の貫通孔114aは、シリンダジャケット114の壁部を、ケーシング142の貫通孔142aと同じ方向に貫通する。
【0023】
掃気溜144と掃気室146は、貫通孔114a、142aを介して連通する。掃気室146のうち、貫通孔114aの開口部は、掃気溜144から圧縮された活性ガスが流入する流入口146aとなる。
【0024】
シリンダ110の他端側は、掃気室146内に位置する。シリンダ110のうち、掃気室146の内部に位置する部位には、掃気ポート148が形成される。掃気ポート148は、掃気室146に開口する。
【0025】
掃気ポート148は、シリンダ110の内周面から外周面まで貫通する。掃気ポート148は、シリンダ110の周方向(以下、単に周方向という)に離隔して複数設けられる。掃気ポート148は、シリンダ110のうち、ピストン116の下死点よりも上死点側に位置する。
【0026】
ピストン116の冠面が掃気ポート148よりも下死点側に移動したとき、掃気室146内圧とシリンダ110内圧との差圧により、掃気ポート148からシリンダ110の内部空間Sに、活性ガスが吸入される。
【0027】
シリンダ110のうち、シリンダジャケット114よりも鉛直上側(ピストン116の上死点側)には、燃料噴射ポート150が形成される。燃料噴射ポート150は、シリンダ110の内周面から外周面まで貫通する。燃料噴射ポート150は2つ設けられる。それぞれの燃料噴射ポート150には、燃料噴射装置152が設けられる。
【0028】
ここでは、燃料噴射装置152が2つ設けられる場合について説明した。ただし、燃料噴射装置152は、周方向に離隔して3つ以上設けられてもよい。この場合、シリンダ110には、燃料噴射装置152と同数の燃料噴射ポート150が形成される。
【0029】
燃料噴射装置152は、不図示の燃料配管から供給された燃料ガスを噴射する。噴射された燃料ガスは、燃料噴射ポート150を介して、シリンダ110の内部空間Sに吸入された活性ガスに吹き付けられる。燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成されるものとする。燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等をガス化したものが用いられてもよい。
【0030】
燃料噴射ポート150が燃焼室130よりも掃気ポート148側に設けられることから、燃料ガスの噴射圧が小さく抑えられる。噴射された燃料ガスは、活性ガスと混合されながら、ピストン116の上昇に伴って燃焼室130に向って流れつつ圧縮される。シリンダヘッド112には、不図示のパイロット噴射弁が設けられる。パイロット噴射弁から燃料油が燃焼室130内に噴射される。燃料油は、燃焼室130内のガスの熱で気化する。燃料油が気化して自然着火し、燃焼室130の温度が上昇する。そして、燃料ガスと活性ガスの混合気が燃焼する。ピストン116は、燃料ガスの燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0031】
図2は、燃料噴射ポート150の配置を説明するための図である。図2中、シリンダジャケット114については、貫通孔114aを含む位置で、シリンダ110の中心軸に垂直な平面(以下、垂直面という)で切断された断面が示される。シリンダ110については、燃料噴射ポート150を含む位置で、垂直面で切断された断面が示される。また、燃料噴射装置152については、鉛直上側から見た外形が示される。
【0032】
図2に示すように、2つの燃料噴射ポート150は、シリンダ110の中心軸Oを挟んで配される。燃料噴射ポート150のうち、シリンダ110の内周面側の開口は、シリンダ110内に燃料ガスが流入する噴射口154となっている。2つの噴射口154のうち、掃気室146の流入口146a側に位置する噴射口154を第1噴射口154a、流入口146aから離隔する側に位置する噴射口154を第2噴射口154bという。
【0033】
第1噴射口154aは、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146a側(破線よりも、図2中、右側)に位置する。第1噴射口154aは、流入口146aの正面から周方向にずれて配される。第2噴射口154bは、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146aから離隔する側(破線よりも、図2中、左側)に位置する。
【0034】
図3は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の制御系を示すブロック図である。図3では、主に燃料噴射装置152の制御に関する構成を示す。図3に示すように、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、制御装置200を備える。制御装置200は、例えば、ECU(Engine Control Unit)で構成される。制御装置200は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等で構成され、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100全体を制御する。また、制御装置200は、燃料制御部202(制御部)として機能する。
【0035】
燃料制御部202は、燃料噴射装置152を制御して、燃料ガスの噴射量および噴射タイミングを制御する。クランクシャフト126には、クランク角センサ204が設けられており、クランク角センサ204から燃料制御部202に、クランク角を示すクランク角信号が出力される。燃料制御部202は、クランク角信号に基づいて、運転条件に応じて決定された燃料ガスの噴射量および噴射タイミングとなるように、燃料噴射装置152を制御する。
【0036】
図4は、燃料制御部202の処理を説明するための第1の図である。図4における左側の図は、第1噴射口154aへの燃料供給量を示し、右側の図は、第2噴射口154bへの燃料供給量を示す。以下の図では、閾値Mは、要求出力100%を示す。要求出力が閾値Aよりも大きい範囲では、第1噴射口154a、第2噴射口154bのいずれでも、要求出力の増減量に比例して燃料供給量が増減する。
【0037】
要求出力が閾値A以下では、燃料制御部202は、燃料噴射装置152を制御し、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を停止させる。
【0038】
具体的に、要求出力が閾値Aを跨いで減少したとする。このとき、燃料制御部202は、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を停止させる。また、燃料制御部202は、第1噴射口154aから供給されなくなった減少分(燃料供給量Q)よりも少ない量だけ、第2噴射口154bへの燃料供給量を増量させる。すなわち、第2噴射口154bのみから燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量Q’は、2つの噴射口154から燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量2Qよりも少ない。
【0039】
また、燃料制御部202は、図4に示す上記の処理の代わりに、図5図6図7に示す処理を行ってもよい。
【0040】
図5は、燃料制御部202の処理を説明するための第2の図である。図5における左側の図は、第1噴射口154aへの燃料供給量を示し、右側の図は、第2噴射口154bへの燃料供給量を示す。要求出力が閾値Bよりも大きい範囲では、第1噴射口154a、第2噴射口154bのいずれでも、要求出力の増減量に比例して燃料供給量が増減する。ここで、閾値Bは閾値Aよりも大きい。
【0041】
要求出力が閾値A以下では、燃料制御部202は、燃料噴射装置152を制御し、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を停止させる。
【0042】
具体的に、要求出力が閾値Bおよび閾値Aを跨いで減少したとする。要求出力が閾値Bから閾値Aに向かうに従って、燃料制御部202は、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を減少させ、閾値Aとなったときに燃料供給量を0にさせる。
【0043】
また、要求出力が閾値Bから閾値Aに向かうに従って、燃料制御部202は、第1噴射口154aから供給されなくなった減少分(燃料供給量Q)よりも少ない量だけ、第2噴射口154bへの燃料供給量を増量させる。すなわち、第2噴射口154bのみから燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量Q’は、2つの噴射口154から燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量2Qよりも少ない。
【0044】
図6は、燃料制御部202の処理を説明するための第3の図である。図6における左側の図は、第1噴射口154aへの燃料供給量を示し、右側の図は、第2噴射口154bへの燃料供給量を示す。要求出力が閾値Bよりも大きい範囲では、第1噴射口154a、第2噴射口154bのいずれでも、要求出力の増減量に比例して燃料供給量が増減する。
【0045】
要求出力が閾値A’以下では、燃料制御部202は、燃料噴射装置152を制御し、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を停止させる。ここで、閾値A’は、例えば、閾値Aよりも小さい。
【0046】
具体的に、要求出力が閾値Bおよび閾値A’を跨いで減少したとする。要求出力が閾値Bから閾値A’に向かうに従って、燃料制御部202は、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を減少させ、閾値A’となったときに燃料供給量を0にさせる。
【0047】
また、要求出力が0から閾値A’に向かうに従って、燃料制御部202は、第2噴射口154bへの燃料供給量を増量させる。このとき、第2噴射口154bへの燃料供給量は、第1噴射口154a、第2噴射口154bの双方から燃料を噴射させる場合に比べて少ない。例えば、要求出力が閾値A’のとき、第2噴射口154bのみから燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量Q’は、2つの噴射口154から燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量2Qよりも少ない。
【0048】
要求出力が閾値A’から上昇すると、第2噴射口154bへの燃料供給量は、燃料供給量2Qまで増加して、要求出力が閾値Bとなるまで一定となる。
【0049】
図7は、燃料制御部202の処理を説明するための第3の図である。図7における左側の図は、第1噴射口154aへの燃料供給量を示し、右側の図は、第2噴射口154bへの燃料供給量を示す。要求出力が閾値Bよりも大きい範囲では、第1噴射口154a、第2噴射口154bのいずれでも、要求出力の増減量に比例して燃料供給量が増減する。
【0050】
要求出力が閾値A’ ’以下では、燃料制御部202は、燃料噴射装置152を制御し、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を停止させる。ここで、閾値A’ ’は、例えば、閾値A’よりも小さい。
【0051】
具体的に、要求出力が閾値Bおよび閾値A’ ’を跨いで減少したとする。要求出力が閾値Bから閾値A’ ’に向かうに従って、燃料制御部202は、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を減少させ、閾値A’ ’となったときに燃料供給量を0にさせる。
【0052】
また、要求出力が0から閾値A’ ’に向かうに従って、燃料制御部202は、第2噴射口154bへの燃料供給量を増量させる。このとき、第2噴射口154bへの燃料供給量は、第1噴射口154a、第2噴射口154bの双方から燃料を噴射させる場合に比べて少ない。例えば、要求出力が閾値A’ ’のとき、第2噴射口154bのみから燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量Q’は、2つの噴射口154から燃料ガスが噴射されるときの燃料供給量2Qよりも少ない。
【0053】
第2噴射口154bへの燃料供給量は、要求出力が閾値A’ ’から閾値Bとなるまで、大凡一定の比率で増加する。
【0054】
また、燃料制御部202による上記の燃料供給量の制御は、要求出力に対して直線的に変化してもよいし、曲線的に変化してもよい。
【0055】
図8は、燃焼室130におけるピストン116の冠面近傍の燃料ガスの拡散状態のシミュレーション結果を示す図である。図8における左側の図は、第1噴射口154aからのみ燃料ガスが供給された場合を示す。図8における右側の図は、第2噴射口154bからのみ燃料ガスが供給された場合を示す。図8の各図において、横軸はケルビン温度、縦軸は空気過剰率λを示す。
【0056】
図8において、空気過剰率λが小さいプロットの割合が多いことは、燃料ガスが拡散されずに局所に溜まっていることを示す。第1噴射口154aのみから燃料ガスが噴射される場合よりも、第2噴射口154bのみから燃料ガスが噴射される場合の方が、燃料ガスが拡散されない。低負荷時では、燃料ガスが拡散せずに局所に溜まっている方が失火し難い。
【0057】
上記のように、要求出力が閾値A以下では、燃料制御部202は、燃料噴射装置152を制御し、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を停止させる。第2噴射口154bのみから燃料ガスが噴射される。第2噴射口154b側は、第1噴射口154a側に比べ、流入口146aから遠く、活性ガスの流速が抑えられる。そのため、上記のように燃料ガスが拡散せずに局所に溜まっていることから、失火が抑制される。
【0058】
また、燃料制御部202は、図4~7のいずれの処理を行う時も、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給を停止させる場合、すべての噴射口154から燃料ガスを噴射させるときよりも、噴射タイミングを遅角させてもよい。噴射タイミングが遅角されると、燃料ガスと活性ガスの混合時間が短くなる。そのため、燃料ガスがさらに拡散し難くなり、低負荷時の失火が一層抑制される。また、図5~7のいずれの処理を行う時も、第1噴射口154aへの燃料ガスの供給量を、第2噴射口154bへの燃料の供給量よりも減少させる場合、第1噴射口154aの噴射タイミングよりも第2噴射口154bの噴射タイミングを遅角させてもよい。燃料の供給量の多い第2噴射口154bの噴射タイミングを遅らせることで、燃料ガスがさらに拡散し難くなる。
【0059】
図9は、変形例を説明するための図である。図9では、変形例のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100Aのうち、鉛直下側の部位を抽出して示す。図9に示すように、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100Aでは、燃料噴射ポート150が設けられていない。代わりに、掃気ポート148の径方向の外側に、燃料管360が配される。
【0060】
燃料管360は、周方向に離隔して複数配される。燃料管360は、例えば、複数の掃気ポート148それぞれに対して1つずつ配される。燃料管360には、噴射口354が形成される。燃料管360には、燃料噴射弁362を介して主管364が接続される。燃料噴射弁362は、周方向に離隔して複数配される。1つの燃料噴射弁362に対し、複数の燃料管360が接続される。燃料噴射弁362が開弁すると、接続された複数の燃料管360の噴射口354から燃料ガスが噴射される。
【0061】
噴射された燃料ガスは、掃気ポート148に吸入される活性ガスの流れに合流する。燃料ガスは、活性ガスとともに掃気ポート148からシリンダ110内に吸入される。燃料ガスは、活性ガスと混合されながら燃焼室130に向かい、上記の実施形態と同様、燃焼室130で燃焼される。
【0062】
図10は、燃料管360の配置を説明するための図である。図10中、シリンダジャケット114については、貫通孔114aを含む位置で、垂直面で切断された断面が示される。燃料管360については、鉛直上側から見た外形が示される。
【0063】
図10に示すように、燃料管360は、シリンダ110の中心軸Oを挟んで配される。図10中、燃料管360のうち、掃気室146の流入口146a側に位置する燃料管360を黒く塗りつぶして示す。流入口146a側に位置する燃料管360の噴射口354を第1噴射口354a、流入口146aから離隔する側に位置する燃料管360の噴射口354を第2噴射口354bという。
【0064】
第1噴射口354aは、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146a側(破線よりも、図10中、右側)に位置する。第2噴射口354bは、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146aから離隔する側(破線よりも、図10中、左側)に位置する。
【0065】
変形例においても、上述した実施形態と同様の制御がなされる。例えば、要求出力が閾値A以下では、燃料制御部202は、燃料噴射装置152を制御し、第1噴射口354aへの燃料ガスの供給を停止させる。第2噴射口354bのみから燃料ガスが噴射される。第2噴射口354b側は、第1噴射口354a側に比べ、流入口146aから遠く、活性ガスの流速が抑えられることから、燃料ガスが拡散せずに局所に溜まり易い。そのため、失火が抑制される。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
例えば、上述した変形例では、噴射口354は、掃気ポート148よりもシリンダ110の径方向の外側に開口する場合について説明した。しかし、噴射口354は、掃気ポート148の内部に開口してもよい。
【0068】
また、上述した実施形態および変形例では、第1噴射口154a、354aは、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146a側に位置し、第2噴射口154b、354bは、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146aから離隔する側に位置する場合について説明した。この場合、第2噴射口154b、354b側は、活性ガスの流速が遅く、燃料ガスの拡散が抑えられ、失火の抑制効果が高い。しかし、少なくとも、第2噴射口154b、354bが、第1噴射口154a、354aよりも流入口146aから離隔して配されればよい。ここで、流入口146aからの離隔距離は、直線距離でもよいし、流路の経路長さでもよい。また、第1噴射口154a、354a、第2噴射口154b、354bの双方が、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146a側に位置してもよい。第1噴射口154a、354a、第2噴射口154b、354bの双方が、シリンダ110の中心軸Oに対して流入口146aから離隔する側に位置してもよい。
【0069】
また、上述した実施形態および変形例では、燃料制御部202は、第1噴射口154a、354aへの燃料ガスの供給を停止させる場合、すべての噴射口154、354から燃料ガスを噴射させるときよりも、噴射タイミングを遅角させる場合について説明した。しかし、こうした遅角制御は、必須の処理ではない。
【0070】
また、上述した実施形態および変形例では、要求出力が閾値Aを跨いで減少すると、燃料制御部202は、第1噴射口154a、354aから供給されなくなった減少分よりも少ない量だけ、第2噴射口154b、354bへの燃料供給量を増量させる場合について説明した。低負荷時には、第2噴射口154b、354bのみから燃料が噴射されることから、上記のように、燃料ガスの拡散が抑制される。そのため、第1噴射口154a、354aからも燃料ガスを噴射している場合に比べて、燃料ガスの供給量の総量が少なくても燃焼が維持される。このような制御により、燃費向上が可能となる。ただし、燃料制御部202は、要求出力が閾値Aを跨いで減少したとき、第1噴射口154a、354aから供給されなくなった減少分と同等の量、第2噴射口154b、354bへの燃料供給量を増量させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
100 ユニフロー掃気式2サイクルエンジン
100A ユニフロー掃気式2サイクルエンジン
110 シリンダ
146 掃気室
146a 流入口
148 掃気ポート
152 燃料噴射装置
154 噴射口
154a 第1噴射口
154b 第2噴射口
202 燃料制御部(制御部)
354 噴射口
354a 第1噴射口
354b 第2噴射口
A 閾値
O 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10