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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】燻煙材の製造方法及び燻煙材
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/044 20060101AFI20230710BHJP
   B27K 5/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A23B4/044 503B
B27K5/00 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021031532
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022132843
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2022-12-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306017014
【氏名又は名称】地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】521087553
【氏名又は名称】株式会社昭林
(74)【復代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】晴山 聖一
(72)【発明者】
【氏名】金林 和裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 三彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信行
(72)【発明者】
【氏名】尾上 貴志
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-289632(JP,A)
【文献】特開2011-250743(JP,A)
【文献】特許第6901709(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/044
B27K 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹皮が除去されて破砕されるとともにセルロース及びヘミセルロースからなるホロセルロース,リグニンを含む木質材を原料として燻煙材を製造する燻煙材の製造方法であって、
上記原料となる木質材を、180℃~240℃の温度で加熱処理し、該木質材に含まれるホロセルロースを熱分解してホロセルロース分解物を生成する分解処理工程を備え、該分解処理工程の加熱処理によって生成されたホロセルロース分解物を含有する燻煙材を製造し、
上記分解処理工程において、上記原料となる木質材のホロセルロースがホロセルロース 分解物に分解される分解率を、乾燥重量で、15%~30%にしたことを特徴とする燻煙材の製造方法。
【請求項4】
上記冷却工程及びその後の再加熱工程を、複数回繰り返し行うことを特徴とする請求項 3記載の燻煙材の製造方法。
【請求項12】
水分量が15重量%以下であることを特徴とする請求項10または11記載の燻煙材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻製食品を製造する際に使用される所謂スモークチップや所謂スモークウッドに用いられる燻煙材の製造方法及び燻煙材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燻煙材となる木材としては、例えば、ヤマザクラ,コナラ,ヒッコリー,リンゴ,ブナ,オニグルミ,イタヤカエデの周知の樹種をはじめ、その他、ミズナラ,シラカバ,サワグルミ,クリ,ハンノキ,ウリハダカエデ,カラマツ,アカマツ,クヌギ,シラカシ,シナノキ,カシワ,ポプラ,プラタナス等の樹種のものが挙げられる。燻煙材は、樹皮が除去されて破砕されるとともにセルロース及びヘミセルロースからなるホロセルロース,リグニンを含む生の木質材からなり、所謂スモークチップとして用いられ、あるいは、所謂スモークウッドの原材料として用いられている。図13には、各種木質材のホロセルロース,セルロース及びヘミセルロースの成分量(乾燥重量)の測定例を示す。他の成分の多くはリグニンである。
【0003】
スモークチップは、木質材を数ミリに粉砕したチップ(小木片)である(例えば、特開2000-93077号公報等に掲載)。従来のスモークチップは、一般には、伐採された樹木からバーカーにて樹皮異物を除去し、チッパーにてチップ状に切削し、規格サイズに選別し、規格水分に人工乾燥して作成される。また、スモークウッドは、木質材の木粉にのり等のバインダーを混合して棒状等の所要形状に成形した固形物である(例えば、特開昭55-26847号公報,実公昭53-38713号公報等に掲載)。
【0004】
これらのスモークチップやスモークウッドにおいては、食品の燻製加工時に、燻煙材が240℃を超えて加熱されると、木材の主要成分の急速な熱分解が始まり、燻煙が発生する。そして、燻煙に含まれる成分(数十から数百)が食品表面に付着し、それらが直接または食品成分と反応して燻製の風味を形成する。燻製の独特な風味の形成には、リグニン由来のグアヤコールなどのフェノール性化合物が重要といわれているが、この抽出区分だけでは完全な燻煙の匂いを示さず、セルロースやヘミセルロース由来のカルボニル化合物などの中性成分もフルフラールやアセチルフランとなってアーモンド様の香ばしい香りやスモーキーな香り等の燻煙の香りに大きく寄与する。
【0005】
【文献】特開2000-93077号公報
【文献】特開昭55-26847号公報
【文献】実公昭53-38713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、燻製法としては、80℃を超えるような高温の燻煙で食品をいぶす熱燻法、30~60℃程度の温度の燻煙で食品をいぶす温燻法、15~30℃程度の温度の燻煙で食品をいぶす冷燻法が知られており、いずれの方法においても、燻煙材を加熱して燻煙を発生させるが、上記の従来の燻煙材にあっては、燻煙材の加熱初期においては、燻煙中の燻香成分が十分に生じないので不安定であり、安定化するまである程度時間を要するとともに、この燻香成分の不安定な期間を経なければならないので、それだけ、対象食品へ付する燻香の調整が難しくなっているという問題があった。そのため、燻香の調整には、熱源の性能や個人の経験値やテクニックが必要であり、特に、家庭で燻製を楽しむためには制約があった。キッチンで燻製を行う場合には、家庭用ガスコンロ,IHクッキングヒーターなどを熱源として用いるが、自動で火力が調整される安全装置の制約により燻煙材を発煙させる火力を維持できず、十分な燻煙を発生させるのが難しい。また、アウトドアで燻製を行う場合には、炭や薪等を熱源とするが、適切な火力の調整が難しく、安定的な燻煙を発生させるためには経験値やテクニックを要する。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、燻製加工時に初期から燻香煙成分をより強く安定的に発生できるようにして、機能性の向上を図った燻煙材の製造方法及び燻煙材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための燻煙材の製造方法は、樹皮が除去されて破砕されるとともにセルロース及びヘミセルロースからなるホロセルロース,リグニンを含む木質材を原料として燻煙材を製造する燻煙材の製造方法であって、
上記原料となる木質材を、180℃~240℃の温度で加熱処理し、該木質材に含まれるホロセルロースを熱分解してホロセルロース分解物を生成する分解処理工程を備え、該分解処理工程の加熱処理によって生成されたホロセルロース分解物を含有する燻煙材を製造する構成としている。
【0009】
分解処理工程において、180℃に満たないと、ホロセルロースの分解が不十分になり、また、240℃を超えると、品温が上がりすぎ、木質材の急激な熱分解を生じ、発煙が始まるなどして、燻香成分が発散することから好ましくない。望ましくは、220℃以上、240℃以下であり、分解反応の進行が早く処理効率がよくなる。一般に、木材の昇温加熱による熱分解過程において、その主要成分が最も盛んに熱分解する温度範囲は、ヘミセルロースでは180℃~300℃、セルロースでは240℃~400℃、リグニンでは280℃~550℃とされており、この温度範囲においてそれぞれ熱が発生し、熱分解物が生成する。本発明の温度範囲では、リグニンはほとんど熱分解しないで残存する。セルロースは、本発明の温度範囲でも、ヘミセルロースほどではないが熱分解を生じる。
【0010】
これにより、分解処理工程において、ホロセルロースの分解温度が180℃以上であることから、ホロセルロースが熱分解(変性)してホロセルロース分解物が生成される。ホロセルロース分解物は、ホロセルロースの重合度(分子量)が低下したもので、そのため、ある程度まで低下すると水溶性が増して、木質材中に残ると考えられる。即ち、ホロセルロースは、多糖類のセルロース及びヘミセルロースからなるが、熱分解により、部分的には、オリゴ糖、単糖類まで分解されて水溶成分となる。この場合、リグニンは、一般に280℃以上で熱分解することから、セルロース及びヘミセルロースに比較して熱に安定なので、本発明の条件ではほとんど分解はしないが、セルロースとヘミセルロースが加熱処理により分解されることで、木質材の構造が分子レベルで緩み、燻製時に熱分解が進みやすい状態になる。
【0011】
尚、原料の木質材の水分量、あるいは、製造された燻煙材の水分量は、特に限定されないが、30重量%以下、望ましくは、20重量%以下、より望ましくは、15重量%以下である。水分量が多いと保存中にカビが発生しやすいので、15重量%以下が好ましい。より好ましくは、12重量%以下である。原料の木質材としては、原木を破砕したそのものを用いても良く、水分量が多いときには、人工乾燥したものを用いて良い。分解処理工程において、原料の木質材の水分量が15重量%以下であっても、大きく水分が減少するが、放冷時に再び、自然に吸湿が進むので、水分量は、原料とほとんど変わらない状態になる。
【0012】
一般に、ホロセルロースの定量は、脱脂木粉に、亜塩素酸ナトリウム溶液(アルカリ性)を加え、リグニンを溶解させることにより、その残渣をホロセルロースの量とする周知の方法を用いるが、この定量の際、ホロセルロース分解物も亜塩素酸ナトリウム溶液(アルカリ性)に溶出し、ホロセルロースとしては抽出(定量)されなくなる。これにより、原料の木質材のホロセルロースの量と、燻煙材のホロセルロースの量との差から、燻煙材中のホロセルロース分解物の量を特定することができる。
【0013】
このようにして製造された燻煙材を用いて燻製を行うときは、燻煙材を加熱して燻煙を発生させ、この燻煙により食品をいぶすが、燻煙材中にはホロセルロース分解物(変性物)、つまり熱分解で生じる香気成分の中間生成物が増えるので、燻製加工時の加熱初期から、燻煙中にホロセルロースの分解が進んで得られるフルフラールやアセチルフランが放出されやすくなる。そのため、短期に燻煙中の燻香成分の発生を安定化することができるので、対象食品へ付する燻香の調整が容易になり、機能性を向上させることができる。即ち、燻製加工時に初期から燻香煙成分をより強く安定的に発生できるようにして、機能性の向上を図ることができる。このため、従来に比較して、熱源の性能が多少不十分であっても、また、経験値やテクニックをさほど要しなくても、例えば、比較的短時間で燻感が強く色付きも良い燻製食品にする等、所望の燻製食品を容易に作製することができるようになる。特に、家庭で使用する際には有効になる。
【0014】
そして、必要に応じ、上記分解処理工程において、上記原料となる木質材のホロセルロースがホロセルロース分解物に分解される分解率を、乾燥重量で、15%~30%にした構成としている。これにより、上記の作用,効果を確実に奏することができ、確実に機能性を向上させることができる。15%に満たないと効果が不十分であり、また、30%を超えることはより効果を増すが、木質材にホロセルロース分解物を保持しにくくなり現実的でない。
【0015】
この構成において、必要に応じ、上記原料となる木質材として、水分量が15重量%以下で、篩目10mm以下のものを用い、上記分解処理工程において、180℃~240℃に設定した加熱空間に常温状態の上記原料となる木質材を入れ、15分~45分経過するまで保持して加熱する構成としている。
【0016】
この場合、加熱空間を構成する加熱器としては、例えば、電気で加熱してファンで雰囲気を循環させるバッチ式のボックス型加熱器、あるいは、ガス直下型で雰囲気を自然対流させる連続式のロータリーキルン型加熱器等、適宜の加熱器を用いることができる。
【0017】
これにより、分解処理工程においては、木質材が180℃~240℃に加熱されるので、ホロセルロースが熱分解(変性)してホロセルロース分解物が生成される。この場合、篩目10mm以下の木質材を原料とするので、熱の伝達が十分に行われ、品温がこの範囲に確実に上昇し、ホロセルロースの分解を促進させることができる。また、分解処理工程において、木質材の水分が極端に低下すると木質材の温度が240℃以下でも発煙が始まることがあり、その場合には、ホロセルロース分解物が更に分解して発散し木質材内に残留しにくくなることから好ましくないが、加熱時間が15分~45分なので、ホロセルロース分解物が更に分解して発散してしまう事態を抑制することができ、ホロセルロース分解物を確実に生成することができる。
【0018】
また、必要に応じ、上記分解処理工程を、180℃~240℃に設定した加熱空間に常温状態の上記原料となる木質材を入れ、所定時間保持して該木質材を加熱する初期加熱工程と、該初期加熱工程後に、該木質材を冷却する冷却工程と、該冷却工程後に、再び、180℃~240℃に設定した加熱空間で該木質材を所定時間保持して加熱する再加熱工程とを備えて構成している。
【0019】
冷却工程での木質材の冷却は、加熱空間に木質材を入れたまま行っても良く、加熱空間から取出して行っても良い。また、冷却は、空冷,水冷等適宜の手段で行うことができ、冷却により低下させる温度や冷却時間は適宜に定めてよい。例えば、木質材の温度を水冷で数十度低下させ、あるいは、加熱空間から取出して常温程度まで空気中で放冷させる等、適宜に設定してよい。
【0020】
この場合も、加熱空間を構成する加熱器としては、例えば、電気で加熱してファンで雰囲気を循環させるバッチ式のボックス型加熱器、あるいは、ガス直下型で雰囲気を自然対流させる連続式のロータリーキルン型加熱器等、適宜の加熱器を用いることができる。
【0021】
これにより、分解処理工程においては、木質材は、初期加熱工程で、180℃~240℃に加熱され、冷却工程を経て再加熱工程でも、再び、180℃~240℃に加熱されるので、ホロセルロースが熱分解(変性)してホロセルロース分解物が生成される。この分解処理工程においては、木質材の水分が極端に低下すると木質材の温度が240℃以下でも発煙が始まることがあり、その場合には、ホロセルロース分解物が更に分解して発散し木質材内に残留しにくくなることから好ましくないが、分解処理工程においては、冷却工程を設けているので、加熱された木質材を冷まして再び加熱することになり、そのため、ホロセルロース分解物が更に分解して発散してしまう事態を抑制することができ、ホロセルロース分解物を確実に生成することができる。即ち、初期加熱工程の時間を延長して連続加熱すると、発煙する不具合が生じやすくなるが、本構成においては、これが防止され、ホロセルロース分解物の発散を抑制してホロセルロースの分解を促進させることができるのである。
【0022】
この場合、上記冷却工程及びその後の再加熱工程を、複数回繰り返し行うことが有効である。冷まして加熱することが繰り返し行われるので、ホロセルロース分解物の発散を抑制してホロセルロースの分解をより一層促進させることができる。
【0023】
また、必要に応じ、上記冷却工程において、上記木質材の品温を少なくとも20℃~60℃低下させる構成としている。常温程度まで冷却する場合に比較して、短時間で済み、製造効率を向上させることができる。
【0024】
この場合、上記冷却工程を、上記加熱空間から木質材を取出して該木質材に水を散布して木質材の温度を低下させる構成にしたことが有効である。散水により冷却するので、冷却効率が良く、そのため、短時間で済み、より一層製造効率を向上させることができる。
【0025】
そしてまた、必要に応じ、上記原料となる木質材として、水分量が15重量%以下で、篩目10mm以下のものを用い、
上記初期加熱工程を、180℃~240℃に設定した加熱空間に常温状態の上記原料となる木質材を入れ、15分~45分保持して該木質材を加熱する構成とし、
上記冷却工程及びその後の再加熱工程を、15分~45分で行う構成にしている。
【0026】
これにより、原料となる木質材として、水分量が15重量%以下で篩目10mm以下のものを用いるので、熱の伝達が十分に行われ、品温が180℃~240℃の範囲に確実に上昇し、ホロセルロースの分解をより促進させることができる。また、初期加熱工程の加熱時間が15分~45分であり、冷却工程及び再加熱工程の時間も15分~45分であることから、ホロセルロース分解物が更に分解して発散してしまう事態を抑制することができ、ホロセルロース分解物を確実に生成することができる。特に、冷却工程においては、木質材を散水により水冷で冷却するので、冷却効率が良く、加熱された木質材を軽く冷まして再加熱工程で再び加熱することになり、所要時間も15分~45分であることから、ホロセルロース分解物が更に分解して発散してしまう事態を抑制しながら、比較的短時間でホロセルロース分解物を確実に生成することができ、製造効率を向上させることができる。
【0027】
また、必要に応じ、上記分解処理工程の前及び/または後に、上記木質材を、篩で分級し、篩目8mm以下篩目1mm以上の範囲の大きさに揃える構成としている。これにより、分解処理工程後の木質材をそのままスモークチップとして用いることができるとともに、チップの大きさを均一化することができる。分解処理工程の後に木質材を篩で分級する場合には、チップの大きさを確実に均一化することができる。篩を通さずバラバラな大きさでもスモークチップとして使えるが、ある程度サイズをそろえることで、均質に加熱しやすくなるため、発煙をコントロールしやすくなる。
尚、スモークウッドの場合には、原料の木質材を予め粉砕して例えばおがくず様の粉粒体にし、それから、分解処理工程により加熱処理し、あるいは、分解処理工程後に、チップ状のものを粉砕して例えばおがくず様の粉粒体に形成すればよい。
【0028】
この場合、上記木質材を、篩目8mm以下篩目6mm以上、篩目6mm以下篩目3mm以上、篩目4mm以下篩目2mm以上、篩目3mm以下篩目2mm以上、篩目2mm以下篩目1mm以上の何れかの範囲の大きさに揃えることが有効である。これにより、チップの大きさをより一層均一化することができ、即ち、粒が揃って使いやすくなり、スモークチップの品質を向上させることができる。この場合、燻煙材が細かいほど燻製時の熱分解は効率的と考えられる反面、ハンドリング性は低下するものの、どのサイズ規格であっても、2~3mm違い程度の範囲にサイズを揃えておくことで、より使いやすいスモークチップにすることができる。
【0029】
また、上記目的を達成するための本発明の燻煙材は、樹皮が除去されて破砕されるとともにセルロース及びヘミセルロースからなるホロセルロース,リグニンを含む原料となる木質材を加熱処理して得られ、該加熱処理により分解して生成されるホロセルロース分解物の残存するホロセルロースに対する重量比が、0.15~0.4である構成としている。望ましくは、上記重量比が、0.2以上である。0.15に満たないと効果が不十分であり、また、0.4を超えることは製造上現実的でない。
【0030】
この燻煙材を用いて燻製を行うときは、燻煙材を加熱して燻煙を発生させ、この燻煙により食品をいぶすが、燻煙材中にはホロセルロース分解物(変性物)、つまり熱分解で生じる香気成分の中間生成物が予め燻煙材中に存在することになるので、燻製加工時の加熱初期から、燻煙中にホロセルロースの分解が進んで得られるフルフラールやアセチルフランが放出されやすくなる。そのため、短期に燻香成分の発生を安定化することができるので、対象食品へ付する燻香の調整が容易になり、機能性を向上させることができる。このため、従来に比較して、経験値やテクニックをさほど要しなくても、例えば、燻感が強く色付きも良い燻製食品にする等、所望の燻製食品を容易に作製することができるようになる。特に、家庭で使用する際には有効になる。
【0031】
この場合、水分量が15重量%以下であることが有効である。燻煙材の水分量は、特に限定されないが、水分量が多いと保存中にカビが発生しやすくなるので好ましくない。15重量%以下であるとカビの発生が抑制される。また、15重量%以下であると、発煙が容易になり、フルフラールやアセチルフラン等の燻香成分が容易に発生して短期にその発生を安定化させることができる。好ましくは、12重量%以下、より好ましくは、10重量%以下である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、燻煙材中に、ホロセルロース分解物が比較的多く存在することになるので、燻製加工時の加熱初期から、燻煙中にホロセルロースの分解が進んで得られるフルフラールやアセチルフランが放出されやすくなり、短期に燻香成分の発生を安定化することができるので、対象食品へ付する燻香の調整が容易になり、機能性を向上させることができる。即ち、燻製加工時に初期から燻香煙成分をより強く安定的に発生できるようにして、機能性の向上を図ることができる。このため、従来に比較して、熱源の性能が多少不十分であっても、また、経験値やテクニックをさほど要しなくても、例えば、比較的短時間で燻感が強く色付きも良い燻製食品にする等、所望の燻製食品を容易に作製することができるようになる。特に、家庭で使用する際には有効になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る燻煙材の製造方法を示す工程図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る燻煙材の製造方法の分解処理工程において、木質材の品温変化の一例を示すグラフ図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る燻煙材の製造方法を示す工程図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る燻煙材の製造方法の分解処理工程において、木質材の品温変化の一例を示すグラフ図である。
図5】本発明の実施例及び比較例に係る燻煙材を示し、(a)は比較例1(従来品)に係る燻煙材の写真、(b)は実施例1に係る燻煙材の写真、(c)は実施例2に係る燻煙材の写真である。
図6】本発明の試験例に係り、本発明の実施例及び比較例についてのホロセルロース及びホロセルロース分解物の定量値、原料の木質材のホロセルロースがホロセルロース分解物に熱分解した分解率、燻煙材のホロセルロースに対するホロセルロース分解物の重量比を示す表図である。
図7】本発明の試験例に係り、本発明の実施例及び比較例についての水分量の測定結果を示す表図である。
図8】本発明の試験例1に係り、本発明の実施例及び比較例について加熱温度に対する発生するガス成分(フルフラール)の相対強度を示すグラフ図である。
図9】本発明の試験例1に係り、本発明の実施例及び比較例について加熱温度に対する発生するガス成分(アセチルフラン)の相対強度を示すグラフ図である。
図10】本発明の試験例1に係り、本発明の実施例及び比較例について加熱温度に対する発生するガス成分(グアヤコール)の相対強度を示すグラフ図である。
図11】本発明の試験例2に係り、本発明の実施例及び比較例に係る燻煙材を用いて作成した燻製品を示し、(a)は比較例1(従来品)に係る燻煙材を用いて作成したかまぼこの燻製品を示す写真、(b)は実施例1に係る燻煙材を用いて作成したかまぼこの燻製品を示す写真、(c)は実施例2に係る燻煙材を用いて作成したかまぼこの燻製品を示す写真である。
図12】本発明の試験例2に係り、実施例1及び実施例2に係る燻煙材を用いて作成したかまぼこの燻製品と比較例1に係る燻煙材を用いて作成したかまぼこの燻製品との官能比較試験結果を示す表図である。
図13】本発明が対象とし得る各種木質材のホロセルロース,セルロース及びヘミセルロースの成分量(乾燥重量)の測定例を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る燻煙材の製造方法及び燻煙材について詳細に説明する。
燻煙材となる木材としては、例えば、ヤマザクラ,コナラ,ヒッコリー,リンゴ,ブナ,オニグルミ,イタヤカエデの周知の樹種をはじめ、その他、ミズナラ,シラカバ,サワグルミ,クリ,ハンノキ,ウリハダカエデ,カラマツ,アカマツ,クヌギ,シラカシ,シナノキ,カシワ,ポプラ,プラタナス等の樹種のものから選択される。用いる樹種はこれらに限定されない。実施の形態に係る燻煙材は、所謂スモークチップとして用いられ、あるいは、所謂スモークウッドの原材料として用いられる。
【0035】
図1には、本発明の第1の実施の形態に係る燻煙材の製造方法を示している。この実施の形態に係る燻煙材の製造方法が製造する燻煙材Sは、スモークチップである。
図1に示すように、第1の実施の形態に係る製造方法は、樹皮が除去されて破砕されるとともにセルロース及びヘミセルロースからなるホロセルロース,リグニンを含む木質材Wを原料としている。原料となる各種木質材Wのホロセルロース,セルロース及びヘミセルロースの成分量(乾燥重量)の測定例を、図13に示す。他の成分の多くはリグニンである。
【0036】
原料となる木質材Wは、水分量が15重量%以下のもので、篩目10mm以下のものを用いる。原材料となる木質材Wは、スモークチップの従来品と同等のものであり、一般には、伐採された樹木からバーカーにて樹皮異物を除去し、チッパーにてチップに切削し、規格サイズに選別し、規格水分に人工乾燥して作成される。上記の規格サイズに選別する際に、篩により分級し、篩目8mm以下篩目1mm以上の範囲の大きさに揃える。詳しくは、木質材Wを、篩目8mm以下篩目6mm以上、篩目6mm以下篩目3mm以上、篩目4mm以下篩目2mm以上、篩目3mm以下篩目2mm以上、篩目2mm以下篩目1mm以上の何れかの範囲の大きさに揃える。実施の形態では、篩目4mm以下篩目2mm以上のものを用いる。乾燥後に分級しても良い。また、実施の形態では、上記の乾燥の際に、水分量を10重量%以下にしている。
【0037】
第1の実施の形態に係る製造方法は、原料となる木質材Wを、180℃~240℃の温度で加熱処理する分解処理工程Pを備えている。分解処理工程Pは、加熱器(図示せず)を用いて、180℃~240℃の温度で加熱処理し、木質材Wに含まれるホロセルロースを熱分解してホロセルロース分解物を生成する。これにより、分解処理工程Pの加熱処理によって生成されたホロセルロース分解物を含有する燻煙材Sを製造する。この分解処理工程Pにおいては、木質材Wのホロセルロースがホロセルロース分解物に分解される分解率を、乾燥重量で、15%~30%になるようにしている。
【0038】
加熱器としては、木質材Wを加熱する加熱空間を有し、例えば、電気で加熱してファンで雰囲気を循環させるバッチ式のボックス型加熱器、あるいは、ガス直下型で雰囲気を自然対流させる連続式のロータリーキルン型加熱器等、適宜の加熱器を用いることができる。
【0039】
詳しくは、分解処理工程Pにおいて、加熱器の加熱空間を、180℃~240℃に設定し、この加熱空間に、例えば25℃の常温状態の原料となる木質材Wを入れ、15分~45分経過するまで保持して加熱し、その後、加熱空間から取出し、放冷して実施の形態に係る燻煙材Sとする。分解処理工程Pにおいて、180℃に満たないと、ホロセルロースの分解が不十分になり、また、240℃を超えると、品温が上がりすぎ、木質材Wの急激な熱分解を生じ、発煙が始まるなどして、燻香成分が発散することから好ましくない。望ましくは220℃以上、240℃以下である。分解反応の進行が早く処理効率がよい。
【0040】
実施の形態では、図2に示すように、加熱器の加熱空間を、240℃に設定し、分解処理工程Pを30分行っている。
【0041】
これにより、分解処理工程Pにおいて、ホロセルロースが熱分解(変性)してホロセルロース分解物が生成される。ホロセルロース分解物は、ホロセルロースの重合度(分子量)が低下したもので、そのため、ある程度まで低下すると水溶性が増して、木質材W中に残ると考えられる。即ち、ホロセルロースは、多糖類のセルロース及びヘミセルロースからなるが、熱分解により、部分的には、オリゴ糖、単糖類まで分解されて水溶成分となる。この場合、リグニンは、一般に280℃以上で熱分解することから、セルロース及びヘミセルロースに比較して熱に安定なので、本発明の条件ではほとんど分解はしないが、セルロースとヘミセルロースが加熱処理により分解されることで、木質材全体の構造が分子レベルで緩み、燻製時に熱分解が進みやすい状態になる。
【0042】
また、篩目4mm以下篩目2mm以上の木質材Wを原料とするので、熱の伝達が十分に行われ、ホロセルロースの分解をより一層促進させることができる。また、分解処理工程Pにおいて、木質材Wの水分が極端に低下すると発煙が始まることがあり、その場合には、ホロセルロース分解物が更に分解して発散し木質材W内に残留しにくくなることから好ましくないが、加熱時間が15分~45分、実施の形態では30分なので、ホロセルロース分解物が更に分解して発散してしまう事態を抑制することができ、ホロセルロース分解物を確実に生成することができる。
尚、この分解処理工程Pにおいては、原料の木質材Wの水分量が10重量%以下であっても、大きく水分が減少するが、放冷時や保管時に徐々に自然吸湿が行われるので、水分量は、原料とほとんど変わらない状態になる。
【0043】
製造された実施の形態に係る燻煙材Sは、原料となる木質材Wとして、篩目4mm以下篩目2mm以上のものを用いたので、そのままスモークチップとして用いることができる。燻煙材Sは、セルロース及びヘミセルロースからなるホロセルロース,加熱処理により分解して生成されるホロセルロース分解物,リグニンを含み、水分量が10重量%以下のものとなる。加熱工程において、木質材Wのホロセルロースがホロセルロース分解物に分解される分解率を、乾燥重量で、15%~30%にしたことから、燻煙材Sにおいては、残存するホロセルロースに対する重量比が、0.15~0.4になる。望ましくは、重量比が、0.2以上であることが有効である。
【0044】
ここで、分解率及び重量比は、ホロセルロースを定量することにより定められる。ホロセルロースの定量は、脱脂木粉に、亜塩素酸ナトリウム溶液(アルカリ性)を加え、リグニンを溶解させることにより、その残渣をホロセルロースの量とする周知の方法(亜塩素酸ナトリウム法)により行う(日本木材学会編「木質科学実験マニュアル」:文永堂出版株式会社2000年4月10日第1刷発行参照)。この場合、ホロセルロース分解物も亜塩素酸ナトリウム溶液(アルカリ性)に溶出し、ホロセルロースとしては定量されなくなる。その算出式は以下の通りである。
【0045】
ホロセルロース分解物=加熱前ホロセルロース-加熱後ホロセルロース・・・・(式1)
ホロセルロース分解率(%)=ホロセルロース分解物÷加熱前ホロセルロース×100
・・・・(式2)
燻煙材Sにおける残存するホロセルロースに対するホロセルロース分解物の重量比
=ホロセルロース分解物÷加熱後ホロセルロース ・・・・(式3)
【0046】
従って、このようにして製造された燻煙材Sを用いて燻製を行うときは、燻煙材Sを加熱して燻煙を発生させ、この燻煙により食品をいぶすが、燻煙材S中にはホロセルロース分解物(変性物)、つまり熱分解で生じる香気成分の中間生成物が増えるので、燻製加工時の加熱初期から、燻煙中にホロセルロースの分解が進んで得られるフルフラールやアセチルフランが放出されやすくなる。そのため、短期に燻煙中の燻香成分の発生を安定化することができるので、対象食品へ付する燻香の調整が容易になり、機能性を向上させることができる。即ち、燻製加工時に初期から燻香煙成分をより強く安定的に発生できるようにして、機能性の向上を図ることができる。このため、従来に比較して、熱源の性能が多少不十分であっても、また、経験値やテクニックをさほど要しなくても、例えば、比較的短時間で燻感が強く色付きも良い燻製食品にする等、所望の燻製食品を容易に作製することができるようになる。特に、家庭で使用する際には有効になる。
【0047】
図3には、本発明の第2の実施の形態に係る燻煙材の製造方法を示している。この実施の形態に係る燻煙材の製造方法が製造する燻煙材Sは、スモークチップである。基本的には上記第1実施の形態と同様であるが、分解処理工程Pの構成が異なっている。第2の実施の形態に係る燻煙材Sの製造方法の分解処理工程Pは、180℃~240℃に設定した加熱空間に常温状態の原料となる木質材Wを入れ、所定時間保持してこの木質材Wを加熱する初期加熱工程P1と、初期加熱工程P1後に、木質材Wを冷却する冷却工程P2と、冷却工程P2後に、再び、180℃~240℃に設定した加熱空間で木質材Wを所定時間保持して加熱する再加熱工程P3とを備えて構成されている。
【0048】
詳しくは、図4に示すように、初期加熱工程P1においては、加熱器の加熱空間を、180℃~240℃に設定し、この加熱空間に、例えば25℃の常温状態の原料となる木質材Wを入れ、15分~45分保持する。実施の形態では、加熱器の加熱空間を、240℃に設定し、初期加熱工程P1を30分行う。
【0049】
冷却工程P2においては、加熱空間から木質材Wを取出してこの木質材Wに水を散布して木質材Wの品温を少なくとも20℃~60℃低下させる。20℃~30℃程度低下させれば十分である。再加熱工程P3においては、冷却工程P2後の木質材Wを、再び、180℃~240℃に設定した加熱空間に木質材Wを入れる。冷却工程P2及びその後の再加熱工程P3は、15分~45分で行う。
【0050】
実施の形態では、冷却工程P2及びその後の再加熱工程P3を30分にしている。散水は5分以下で行い、その後、加熱空間に木質材Wを入れ、木質材Wを取出してから30分経過するまで保持する。また、冷却工程P2及びその後の再加熱工程P3は、複数回繰り返し行う。実施の形態では、5回行っている。回数はこれに限定されるものではなく、適宜に定めてよい。
【0051】
これにより、分解処理工程Pにおいては、木質材Wは、初期加熱工程P1で、180℃~240℃に加熱され、冷却工程P2を経て再加熱工程P3でも、再び、180℃~240℃に加熱されるので、ホロセルロースが熱分解(変性)してホロセルロース分解物が生成される。この場合、水分量が10重量%以下で、篩目4mm以下篩目2mm以上の木質材Wを原料とするので、熱の伝達が十分に行われ、品温がこの範囲に確実に上昇し、ホロセルロースの分解をより促進させることができる。
【0052】
また、この分解処理工程Pにおいて、木質材Wの水分が極端に低下すると発煙が始まることがあり、その場合には、ホロセルロース分解物が更に分解して発散し木質材W内に残留しにくくなることから好ましくないが、初期加熱工程P1の加熱時間が15分~45分、実施の形態では30分であり、冷却工程P2及び再加熱工程P3においては、加熱空間から木質材Wを取出してこれに所要量の水を散布し、再び、加熱空間に入れるので、加熱された木質材Wを軽く冷まして再び加熱することになり、その所要時間も15分~45分、実施の形態では30分であることから、ホロセルロース分解物が更に分解して発散してしまう事態を抑制することができ、ホロセルロース分解物を確実に生成することができる。即ち、初期加熱工程P1の時間を延長して連続加熱すると、発煙する不具合が生じやすくなるが、本構成においては、これが防止され、ホロセルロース分解物の発散を抑制してホロセルロースの分解を促進させることができるのである。
【0053】
また、冷却工程P2及び再加熱工程P3を、複数回(実施の形態では5回)行っているので、軽く冷まして加熱することが繰り返し行われることから、ホロセルロース分解物の発散を抑制してホロセルロースの分解をより一層促進させることができる。特に、冷却工程P2においては、木質材Wを散水により水冷で冷却するので、冷却効率が良く、加熱された木質材Wを軽く冷まして再加熱工程P3で再び加熱することになり、所要時間も30分であることから、ホロセルロース分解物が更に分解して発散してしまう事態を抑制しながら、比較的短時間でホロセルロース分解物を確実に生成することができ、製造効率を向上させることができる。他の作用,効果は上記第1実施の形態と同様である。また、この第2の実施の形態に係る燻煙材Sの製造方法によって製造された燻煙材Sにおいても、上記と同様の作用,効果を奏する。
【0054】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る燻煙材の製造方法を示す。これは、上記の第2の実施の形態に係る燻煙材の製造方法と略同様であるが、第2の実施の形態と異なって、冷却工程P2が、水冷ではなく、空冷によるものである。即ち、木質材Wを加熱空間から取出して、空気中に放置して放冷させ、木質材Wの品温を少なくとも20℃~60℃低下させる。20℃~30℃程度低下させれば十分である。冷却工程P2及び再加熱工程P3の時間は適宜に定めて良い。これによっても上記と同様の作用,効果を奏する。
【0055】
次に、図示しないが、別の実施の形態に係る燻煙材を示す。これは、スモークウッド用のものである。上記の第1または第2の実施の形態に係る製造方法と同様の製造方法により製造された燻煙材を、粉砕して粉粒状に形成される。この粉粒状の燻煙材は、バインダーと混合されて、棒状等の所要形状に成形されたスモークウッドになる。尚、このスモークウッド用の燻煙材を製造する際の原料の木質材Wの大きさは、篩目10mm以下のものであれば、上記の篩目4mm以下篩目2mm以上のものでなくても良い。また、原料の木質材Wを粉砕して粉粒体にし、これを分解処理工程Pで処理することにより製造しても良いことは勿論である。
【実施例
【0056】
次に、実施例1~4について説明する。加熱器としては、送風定温恒温器DKM600(ヤマト科学社製)を用いた。各実施例において、篩目4mm以下篩目2mm以上の原料の木質材W(以下「加熱なし」という)を角型ザルに広げ、加熱器の庫内(加熱空間)に静置することで加熱した。
【0057】
<実施例1>
実施例1に係る燻煙材Sは、原料としてヤマザクラを用い、上記の第1の実施の形態に係る製造方法による条件で製造した。図2に示すように、加熱器の温度を240℃に設定し、原料の木質材W(「加熱なし」)を30分加熱した(以下「加熱条件1」という)。品温が220℃以上になっている時間は約10分であった。
【0058】
<実施例2>
実施例2に係る燻煙材Sは、原料としてヤマザクラを用い、上記の第2の実施の形態に係る製造方法による条件で製造した。図4に示すように、加熱器の温度を240℃に設定し、加熱器の加熱空間に原料の木質材W(「加熱なし」)を30分入れて初期加熱工程P1を行い、次に、30分の冷却工程P2及び再加熱工程P3を5回繰り返し行った(以下「加熱条件2」という)。品温が220℃以上になっている時間は合計で約60分であった。散水は、木質材Wに対して噴霧器により適量の水を散布し、温度を40℃~50℃程度低下させた。
【0059】
<実施例3>
実施例3に係る燻煙材Sは、原料としてクリを用い、上記の実施例1と同様の条件(「加熱条件1」)で製造した。
【0060】
<実施例4>
実施例4に係る燻煙材Sは、原料としてクリを用い、上記の実施例2と同様の条件(「加熱条件2」)で製造した。
【0061】
図5に、実施例1及び実施例2に係る燻煙材Sの写真を、「加熱なし」のヤマザクラの木質材Wからなる比較例1(従来品)の写真とともに示す。実施例1及び実施例2に係る燻煙材Sは、比較例1(従来品)と比較して、褐色化しており、高級感を呈する。また、実施例1より実施例2の方が、褐色程度は高い。
【0062】
そして、実施例1,実施例2及び比較例1のホロセルロースを定量した。また、実施例2及び実施例3についても、「加熱なし」のクリの木質材Wを比較例2として、ホロセルロースを定量した。この定量は、上述したように、脱脂木粉を亜塩素酸ナトリウム法でリグニン他を分解し、その残渣をホロセルロースの量とする周知の定量法により行った。そして、上記の式1~式3により、ホロセルロースの分解率と、ホロセルロース分解物の重量比を求めた。結果を図6に示す。
【0063】
また、各実施例1~4の燻煙材Sについて、比較例(「加熱なし))とともに水分量を測定した。先ず、各試料を粉砕して粉体を得た。粉砕は、超遠心粉砕機「ZM200」(レッチェ社製)を用いた(条件:スクリーンサイズ梯形孔0.5mm、回転数6,000rpm)。結果を図7に示す。粉砕後の水分量は、大気に影響される程度であり、ほとんど同一であることが分かる。
【0064】
<試験例1>
次に、各実施例1~4の燻煙材Sについて、比較例1,2とともに燻製加工時に発生する香り成分であるガス成分、フルフラール,アセチルフラン,グアヤコール(文献によりグアイヤコールともいう)の4種について、その発生の機能性を評価する試験を行った。この評価は、熱重量分析(TG)と質量分析(MS)を組みわせたTG-MS法(同時熱重量―質量分析法)による。ここで、熱重量分析とは、試料を一定のプログラムで加熱した時、試料の重量変化を連続的に測定する方法を言う。質量分析とは、分子をイオン化し、それらのイオンをm/z(一般にイタリック体で表記)値に応じて分離・検出する分析法を言う。この2つの機能を結合した装置で分析を行うことにより、熱重量分析の加熱工程で発生したガスをその場で質量分析することができ、それによって試料の加熱時に発生しているガスの種類や生成量の変化を連続的にとらえることが可能になる手法である(文献:熱測定、22 (2)、 160-167 (1995)参照)。
【0065】
このTG-MS法を実現する測定装置として、「STA409CD with SKIMMER MSシステム」(ネッチ社製)を用いた。上記の超遠心粉砕機で得られた試料をアルミニウム試料容器(容量25μl)に10.0mg精秤し、装置の熱重量測定部の加熱炉内にセットし、ヘリウムガスパージ下で加熱し(35℃開始、昇温10℃/分、500℃まで加熱)、発生したガスを質量測定部でMIDモードにて同時に分析した。加熱温度(横軸)に対し、分析対象とした香気成分(ガス成分)のm/z値に応じたイオン強度について最大値を100として相対強度(縦軸)として示した。
【0066】
フルフラールの結果を図8,アセチルフランの結果を図9,グアヤコールの結果を図10に示す。
この結果から、フルフラール,アセチルフラン,グアヤコールのいずれの香気成分(ガス成分)においても、比較例(従来品)に比較して強度が高く、燻製加工時において、放出されやすくなることが分かる。
【0067】
<試験例2>
次に、実施例1及び実施例2に係る燻煙材Sを用いて、実際に燻製品を作成し、これらの燻製品について、比較例1(「加熱なし))に係る燻煙材Sを用いて作成した燻製品とともに官能評価を行った。食品材料として「かまぼこ」を用い、厚さ約5mmに切断したものを試料とした。
【0068】
燻製装置としては、中華鍋と適当なサイズの平ざる、ガラス製の蓋を用いた。この燻煙装置において、熱燻法により燻製加工を行った。中華鍋の底に各々の燻煙材Sを2gいれるとともに、その上に切断した「かまぼこ」を並べた平ざるを入れ、プロパンガス用鋳物コンロで加熱をした。加熱を開始してから約30秒後から発煙がみられ、そのまま2分30秒まで加熱を継続した。消火後、蓋をしたまま2分30秒静置し「かまぼこ」を燻煙に晒した。
【0069】
各試料の写真を図11に示す。同条件においては、比較例1(従来品ヤマザクラ「加熱なし」)より、実施例1(ヤマザクラ「加熱条件1」)の方が色づきが良く、実施例1(ヤマザクラ「加熱条件1」)より、実施例2(ヤマザクラ「加熱条件2」)の方が更に色づきが良くなる。
【0070】
そして、食べたときの燻感(燻煙加工由来の風味)の強度を評価した。評価方法は、2つのサンプルを提示し燻感が強い方を選ばせる2点試験法を用いた(文献:日本官能評価学会編(2009)官能評価士テキスト(建帛社)参照)。パネラー:n=24、統計解析:2項検定(両側検定)とした。
【0071】
(1)比較試験1
実施例1に係る燻煙材Sを用いて作成した燻製品と、比較例1(「加熱なし))に係る燻煙材Sを用いて作成した燻製品との比較試験とした。この場合、差がない場合はランダムで選択するので半分に分かれる。差がある場合は一方に選択が偏る。結果を図12に示す。これにより、比較例1(従来品ヤマザクラ「加熱なし」)より、実施例1(ヤマザクラ「加熱条件1」)の方が燻感が有意に強く(危険率5%)、短時間で処理できることが分かった。
【0072】
(2)比較試験2
実施例2に係る燻煙材Sを用いて作成した燻製品と、比較例1(「加熱なし))に係る燻煙材Sを用いて作成した燻製品との比較試験とした。この場合、差がない場合はランダムで選択するので半分に分かれる。差がある場合は一方に選択が偏る。結果を図12に示す。これにより、比較例1(従来品ヤマザクラ「加熱なし」)より、実施例2(ヤマザクラ「加熱条件2」)の方が燻感が有意に強く(危険率1%)、短時間で処理できることが分かった。
【0073】
尚、上記実施の形態において、加熱温度は上述した温度に限定されるものではなく、180℃~240℃の範囲の温度であればどの温度に設定しても良く、適宜変更して差支えない。また、上記第1の実施の形態における加熱時間、第2及び第3の実施の形態における初期加熱工程P1の加熱時間、再加熱工程P3の加熱時間、冷却工程P2の冷却時間も、上述した時間に限定されるものではなく、適宜変更して差支えない。更に、上記実施の形態において、スモークチップ用の燻煙材Sとして、篩を通して大きさを揃えたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、篩を通さずバラバラな大きさでも良く適宜変更して差支えない。また、スモークウッド用の燻煙材Sの場合には、おがくず様の粉粒体に形成すればよいことは勿論である。
【0074】
尚また、上記実施例において、木質材Wの樹種はヤマザクラとクリの場合を示したが、必ずしもこの樹種に限定されるものではなく、図13に示す各種の樹種、あるいは、この表に載っていない各種の樹種に本発明を適用してよいことは勿論である。本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
S 燻煙材
W 木質材
P 分解処理工程
P1 初期加熱工程
P2 冷却工程
P3 再加熱工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13