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特許7309141C4遺伝子コピー数及び細胞結合性補体活性化産物を用いてループス及びプレループスを同定するための方法並びにシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】C4遺伝子コピー数及び細胞結合性補体活性化産物を用いてループス及びプレループスを同定するための方法並びにシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230710BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20230710BHJP
【FI】
G01N33/53 M
G01N33/53 R
C12Q1/6883 Z
【請求項の数】 22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022095565
(22)【出願日】2022-06-14
(62)【分割の表示】P 2018561053の分割
【原出願日】2017-05-24
(65)【公開番号】P2022137037
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】62/340,780
(32)【優先日】2016-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506405518
【氏名又は名称】アレゲーニー・シンガー リサーチ インスティチュート
(73)【特許権者】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アハーン,ジョセフ,エム.
(72)【発明者】
【氏名】リウ,チャウ-チン
(72)【発明者】
【氏名】マンツィ,スーザン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ユ,シー.,ユン
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513251(JP,A)
【文献】国際公開第2016/023006(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/151238(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0233752(US,A1)
【文献】YANG, Y. et al.,Gene Copy-Number Variation and Associated Polymorphisms of Complement Component C4 in Human Systemic,Tha American Journal of Human Genetics,米国,2007年06月,Vol.80, No.6,p.1037-1054
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 ー 33/98
C12Q 1/6883
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるループス又はプレループスを同定するための方法であって、
患者の血液試料を受け取ることと、
前記血液試料に対して1又は複数の細胞結合性補体活性化産物(CB-CAP)アッセイを行ない、前記患者の1又は複数のCB-CAPレベルを含む前記患者の血液試料データを生成することと、
前記1又は複数のCB-CAPのそれぞれの対照レベルを含む対照データセットにアクセスすることと、
前記患者の前記1又は複数のCB-CAPレベルを前記対照レベルと比較して、前記患者の前記1又は複数のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することであって、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を含む遺伝子コピー数データセットにアクセスし、前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数がC4遺伝子コピー値を超えるか否かを判定し、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー値に等しいか又はそれを超える場合は、前記患者はループスを有していないとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定を
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー閾値と比較して減少している場合は、その患者のC4遺伝子コピー数の減少程度によって決定される補正因子を計算し、前記1又は複数のCB-CAPレベルに前記補正因子を掛け算して1又は複数の補正されたCB-CAPレベルを作成することを含む、前記患者の前記1又は複数のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することと、
前記CB-CAPのそれぞれの対照レベルを含む前記対照データセットにアクセスすることと
前記患者の前記1又は複数の補正されたCB-CAPレベルを前記対照レベルと比較して、前記患者の前記1又は複数の補正されたCB-CAPレベルが、前記対照レベルより高いかどうかを判定することであって
前記1又は複数の補正されたCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高い場合は、前記患者がループスを有するとの決定、又は、ループスを発症するリスクが高いと分類されるべきであるとの決定をし、前記1又は複数の補正されたCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くない場合は、前記患者はループスを有しないとの決定、又は、ループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定をする、前記患者の前記1又は複数の補正されたCB-CAPレベルが、前記対照レベルより高いかどうかを判定することと、
前記患者がループスを有するか、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるかどうかの表示を含む報告を作成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記患者からゲノムDNAの試料を得ることと、
前記患者のゲノムのC4A及びC4Bのそれぞれに対する前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を決定することと、をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記患者のゲノムの前記C4遺伝子コピー数は、C4A遺伝子コピー数又はC4B遺伝子コピー数を含む、請求項1の方法。
【請求項4】
前記C4遺伝子コピー閾値を決定することをさらに含み、前記決定は、
前記対照データセットにアクセスすることと、
前記対照データセットの患者毎に遺伝子コピー数の平均値又は中央値を同定することと、
前記C4遺伝子コピー数を、前記同定された遺伝子コピー数の平均値又は中央値から1又は複数の標準偏差に等しいレベルとして設定することと、によって行われる、請求項1の方法。
【請求項5】
前記1又は複数のCB-CAPレベルは、T-C4d、B-C4d、又はE-C4dのうちの1又は複数のものに対する測定値を含む、請求項1の方法。
【請求項6】
前記患者がループスを有するとの決定、又はループスを発症するリスクが高いことを示すとして分類されるべきであるとの決定は、
前記患者が分類基準の少なくとも閾値を満たす場合、その患者はループスを有すると決定することと、
前記患者が前記分類基準の少なくとも閾値を満たさないが、前記分類基準の少なくとも1つを満たす場合、その患者はループス発症リスクが高いことを示すとして分類することと、を含む、請求項1の方法。
【請求項7】
前記分類基準は、漿膜炎、口腔潰瘍、関節炎、光線過敏性、血液疾患、腎障害、抗核抗体、免疫現象、神経障害、蝶形紅斑及び円板状紅斑を含む、請求項6の方法。
【請求項8】
患者のループス又はプレループスを同定するための方法であって、
患者の血液試料を受け取ることと、
前記血液試料に対して1又は複数のCB-CAPアッセイを行なって、前記患者の1又は複数の第1のCB-CAPレベルを含む血液試料データを生成することと、
前記1又は複数の第1のCB-CAPのそれぞれの対照レベルを含む対照データセットにアクセスすることと、
1又は複数の第1のCB-CAPレベルを前記対照レベルと比較して、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することであって
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を含む遺伝子コピー数データセットにアクセスし、前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数がC4遺伝子コピー値を超えるか否かを判定し、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー値に等しいか又はそれを超える場合は、前記患者がループスを有していないとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定を
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー閾値と比較して減少している場合は、1又は複数の第2のCB-CAPレベルに対して前記患者の1又は複数の第2のCB-CAPレベルを同定し、
前記第2のCB-CAPのそれぞれに対する対照レベルをさらに含む前記対照データセットにアクセスし、
前記患者の前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルを、前記対照データセットの中の前記1又は複数の第2のCB-CAPの対照レベルと比較して、前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルよりも高いかどうかを判定し、
前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルよりも高い場合、前記患者がループスを有するとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきであるとの決定を
前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルより高くない場合、前記患者がループスを有していないとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定をする、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することと、
前記患者がループスを有するか、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるかどうかの表示を含む報告を作成することと、を含む、方法。
【請求項9】
前記患者からゲノムDNAの試料を得ることと、
前記患者のゲノムのC4A及びC4Bのそれぞれに対する遺伝子コピー数を決定することと、をさらに含む、請求項8の方法。
【請求項10】
前記患者の前記C4遺伝子コピー数は、C4A遺伝子コピー数又はC4B遺伝子コピー数を含む、請求項8の方法。
【請求項11】
前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルは、T-C4d、B-C4d、又はE-C4dのうちの1又は複数のものに対する測定値を含む、請求項8の方法。
【請求項12】
前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルは、T-C4d及びB-C4dの測定値を含み、前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルは、E-C4dの測定値を含む、請求項8の方法。
【請求項13】
前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルは、E-C4d及びB-C4dの測定値を含み、前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルは、T-C4dの測定値を含む、請求項8の方法。
【請求項14】
患者における全身性エリテマトーデスの疾病活性をモニタリングするための方法であって、
患者の血液試料を受け取ることと、
前記血液試料に対して1又は複数のCB-CAPアッセイを行ない、前記患者の1又は複数の第1のCB-CAPレベルを含む前記患者の血液試料データを生成することと、
その時以前に同じ患者から得た血液試料の中で測定された前記第1のCB-CAPのそれぞれに対する対照レベルを含む対照データセットにアクセスすることと、
前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルを前記対照レベルと比較して、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することであって、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を含む遺伝子コピー数データセットにアクセスし、前記患者のゲノム中C4遺伝子コピー数がC4遺伝子コピー値を超えるか否かを判定し、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー値に等しいか又はそれを超える場合は、前記患者は全身性エリテマトーデス活性のレベルが高いと分類されるべきでないとの決定を
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー閾値より減少している場合は、その患者の値を前記対照レベルと追加の比較を行な
前記患者の全身性エリテマトーデスの疾病活性レベルの表示を含む報告を作成する、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することと、を含む方法であって、
前記患者の値を前記対照レベルと追加の比較を行なうこと
前記患者のC4遺伝子コピー数の減少程度によって決定される補正因子を計算することと、
前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルに前記補正因子を掛け算して1又は複数の補正された第1のCB-CAPレベルを作成することと、
その時以前に同じ患者から得た血液試料の中で測定された前記第1のCB-CAPのそれぞれに対する対照レベルを含む前記対照データセットにアクセスすることと、
前記患者の前記1又は複数の補正された第1のCB-CAPレベルを前記対照レベルと比較して、前記患者の前記1又は複数の補正された前記第1のCB-CAPレベルが、前記対照レベルより高いかどうかを判定
前記1又は複数の補正された前記第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高い場合は、前記患者は全身性エリテマトーデス活性のレベルが高いことを示すと分類されるべきであるとの決定をすることを含み、
前記患者の前記1又は複数の補正された第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くない場合は、前記患者は全身性エリテマトーデス活性のレベルが高いことを示すと分類されるべきでないとの決定をすることを含む、方法。
【請求項15】
患者における全身性エリテマトーデスの疾病活性をモニタリングするための方法であって、
患者の血液試料を受け取ることと
前記血液試料に対して1又は複数のCB-CAPアッセイを行ない、前記患者の1又は複数の第1のCB-CAPレベルを含む前記患者の血液試料データを生成することと、
その時以前に同じ患者から得た血液試料の中で測定された前記第1のCB-CAPのそれぞれに対する対照レベルを含む対照データセットにアクセスすることと、
前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルを前記対照レベルと比較して、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することであって、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を含む遺伝子コピー数データセットにアクセスし、前記患者のゲノム中C4遺伝子コピー数がC4遺伝子コピー数閾値を超えるか否かを判定し、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー数閾値に等しいか又はそれを超える場合は、前記患者は全身性エリテマトーデス活性のレベルが高いと分類されるべきでないとの決定をし、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー数閾値より減少している場合は、その患者の値を前記対照レベルと追加の比較を行ない
前記患者の全身性エリテマトーデスの疾病活性レベルの表示を含む報告を作成する、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することと、を含む方法であって、
前記患者の値を前記対照レベルと追加の比較を行なうことは、さらに、
1又は複数の第2のCB-CAPに対する前記患者の1又は複数の第2のCB-CAPレベルを同定することと、
その時以前に同じ患者から得た血液試料の中で測定された前記第2のCB-CAPのそれぞれに対する対照レベルをさらに含む前記対照データセットにアクセスすることと、
前記患者の前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルを、前記対照データセットの前記1又は複数の第2のCB-CAPに対する対照レベルと比較して、前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの対照レベルより高いかどうかを判定することと、を含み、
前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルよりも高い場合は、前記患者は全身性エリテマトーデス活性のレベルが高いことを示すと分類されるべきであるとの決定をすることを含み、
前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルよりも高くない場合は、前記患者は全身性エリテマトーデス活性のレベルが高いことを示すと分類されるべきでないとの決定をすることを含む、方法。
【請求項16】
前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルは、T-C4d、B-C4d、又はE-C4dのうちの1又は複数のものに対する測定値を含む、請求項14の方法。
【請求項17】
前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルは、T-C4d及びB-C4dの測定値を含み、前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルは、E-C4dの測定値を含む、請求項15の方法。
【請求項18】
前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルは、E-C4d及びB-C4dの測定値を含み、前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルは、T-C4dの測定値を含む、請求項15の方法。
【請求項19】
患者のループス分類を判定するシステムであって、
対照被験体集団の血液試料データの対照データセットを保有するデータ保存装置であって、前記対照被験体集団の第1グループの被験体はループスを有することが知られており、前記対照被験体集団の第2グループの被験体はループスを有しないことが知られており、前記血液試料データが、各被験体のCB-CAレベルを含む、データ保存装置と、
処理デバイスと、
前記処理デバイスに対して下記ステップの実行を指令するよう構成されたプログラミング命令を含むコンピュータ可読媒体であって、前記ステップが、
患者の1又は複数の第1のCB-CAPレベルを含む血液試料データセットを受け取ることと、
前記1又は複数の第1のCB-CAPのそれぞれの対照レベルを含む対照データセットにアクセスすることと、
前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルを前記対照レベルと比較して、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することであって、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を含む遺伝子コピー数データセットにアクセスし、前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数がC4遺伝子コピー値を超えるか否かを判定し、
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー値に等しいか又はそれを超える場合は、前記患者を、ループスを有していない分類、又はループスを発症するリスクが高いことを示さない分類に区分
前記患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数が前記C4遺伝子コピー閾値と比較して減少している場合は、その患者の値を前記対照レベルと追加の比較を行な
前記患者がループスを有するか、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるかどうかの表示を含む報告を作成する、前記患者の前記1又は複数の第1のCB-CAPレベルが前記対照レベルよりも高くないことを判定することとを含む、ステップである、コンピュータ可読媒体と、を含み、
前記患者の値を前記対照レベルと追加の比較を行なうことは、前記プログラミング命令が、
前記患者の1又は複数の第2のCB-CAPレベルを同定することと、
前記第2のCB-CAPレベルのそれぞれに対する対照レベルをさらに含む前記対照データセットにアクセスすることと、
前記患者の前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルを、前記対照データセットの中の前記1又は複数の第2のCB-CAPに対する前記対照レベルと比較して、前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルより高いかどうかを判定することと、を含み、
前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルよりも高い場合は、その患者を、ループスを有する分類、又はループスを発症するリスクが高いことを示す分類に区分し、
前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルよりも高くない場合は、その患者を、ループスを有していない分類、又はループスを発症するリスクが高いことを示さない分類に区分するよう、指令することを含む、システム。
【請求項20】
前記1又は複数の第2のCB-CAPの前記対照レベルは、その時以前に同じ患者から得た血液試料の中で測定される、請求項19のシステム。
【請求項21】
前記対照データセットにアクセスし、
前記対照データセットの患者毎に遺伝子コピー数の平均値又は中央値を同定し、
前記C4遺伝子コピー数を、同定された遺伝子コピー数の平均値又は中央値から1又は複数の標準偏差に等しいレベルとして設定する、追加のプログラミング命令をさらに含む、請求項19のシステム。
【請求項22】
前記処理デバイスに対して、患者が1又は複数の分類基準に該当するかどうかを判定することを指令するよう構成された追加の命令をさらに含み、
前記追加の命令が、前記処理デバイスに対して、患者をループスを有する分類に区分すること、又はループスを発症するリスクが高いことを示す分類に区分することを指令し、前記分類基準を用いて、患者をループスを有する分類に区分するか、又はループスを発症するリスクが高いことを示す分類に区分するかを判定する命令をさらに含む、請求項19のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、「C4 Gene Copy Number and Cell-Bound Complement Activation Products as Companion Biomarkers for Diagnosis, Monitoring, and Stratification of Lupus and Pre-Lupus」と題された2016年5月24日出願の米国仮出願第62/340,780号の優先権を主張する。この仮出願の開示は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
全身性エリテマトーデス(SLE)は、一般的にループス(Lupus)と称されており、免疫調節異常(例えば、自己抗体及び免疫複合体の形成、補体活性化、リンパ球過敏性(lymphocyte hyperreactivity)、並びに、偏った(skewed)サイトカイン産生)と、その結果として生じる炎症性組織損傷とを特徴とする原型の自己免疫疾患である。ループスの臨床症状は不均質(heterogeneous)であって、些少な症状から致命的疾患に亘っており、実際に患者の如何なる組織及び臓器も関与する場合がある。ループスは、生殖年齢の女性が主に罹患するが、あらゆる年齢及び性別にも亘る疾患である。ループスの発症は、非ループス疾患では一般的である発熱、関節痛、及び疲労のような症状を伴う潜行性の場合がある。ループスはまた、疾患の周期的な悪化(フレア(flares))及び沈静化を特徴とする。一方で、疾患の早期から重篤な臓器損傷が起こり、未認識のまま進行する場合がある。
【0003】
ループスの診断は、依然として大きな臨床的困難がある。ループスの診断を行うに際しては、医師の助けとなるよう数種の血液検査が一般的に使用されているが、1回の試験では、患者がループスを有するか否かを判定するために十分な感度及び特異性を有していない。典型的なループス患者は、正確に診断されるために4人の異なる医師と5年を超える期間を要している。
【0004】
非特異的症状及び血液検査は、場合によっては見落しや過度の強調をもたらし、その結果、過小診断又は過剰診断となる場合がある。過小診断及び診断の遅延は、ループスを有する患者の罹患率及び死亡率を実際に上昇させ得る。逆に、ループスの過剰診断は、患者を毒性薬物に不必要に曝す結果になる場合があり、それはループスを有しない患者には金銭的負担となり、副作用が顕著である。従って、適時性が高く精密な診断は、患者の身体的健全性のみならず、医療システムの経済的健全性に対して大きな影響を及ぼす。
【0005】
ループスのモニタリングは、疾患の経過として主要な臨床的課題でもあり、予測不可能なフレアと寛解のパターンによって特徴づけられる。フレアの検出が遅れると、組織の炎症及び不可逆損傷の可能性もある。フレア解決後に薬剤を減らすことが不必要に遅れると、ループスの治療に使用される毒性療法による副作用のリスクが増すことがあり得る。
【0006】
ループスの異質性(heterogeneity)も、臨床上の大きな課題である。身体のあらゆる器官系、例えば、皮膚、関節、心臓、脳、肺、腎臓などは、疾患の影響を受けることがあり得るが、患者が具体的にどんな器官系に関与するリスクがあるかを予測する方法はない。心筋梗塞、脳卒中又は腎機能障害などのループスの重大な合併症のリスクがある患者を早期に同定することができれば、予防及び治療手段の早期の実施が可能となり、罹患率及び死亡率を低下させることができる。
【発明の概要】
【0007】
この発明は、幾つかの態様において、患者の細胞結合性補体活性化産物(CB-CAP)のプロファイリングを、ループス及び/又はプレループスの診断及びモニタリングのためのC4遺伝子コピー数(C4 gene copy number)の決定(determination)と組み合わせる方法及びシステムを特定するものである。
【0008】
一実施形態において、患者のループス又はプレループスを同定する方法は、患者の血液試料を受け取ることと、前記血液試料に対して1又は複数の第1の細胞結合性補体活性化産物(CB-CAP)アッセイを行ない、前記患者の血液試料データを生成することを含む。血液試料データは、患者に対する1又は複数の第1のCB-CAPレベルを含む。この方法はまた、第1のCB-CAPsのそれぞれの対照レベル(control level)を含む対照データセットにアクセスすることを含む。この方法は、患者の第1のCB-CAPsレベルを対照レベルと比較して、患者レベルの第1のCB-CAPレベルが対照レベルよりも高いかどうかを判定することを含む。患者レベルの第1のCB-CAPsレベルが対照レベルよりも高い場合、結果は、患者がループスを有するとの決定、又は、ループスを発症するリスクが高いと分類されるべきであるとの決定をすることができる。対照レベルより高くない場合、この方法は、患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を含む遺伝子コピー数データセットにアクセスすることと、C4遺伝子コピー数がC4遺伝子コピー閾値レベルを超えるか否かを判定することと、を含み得る。C4遺伝子コピーの数がC4遺伝子コピーの閾値レベルに等しいか又はそれを超える場合、結果は、患者がループスを有していないとの決定、又は、ループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定をすることができる。C4遺伝子のコピー数がC4遺伝子のコピー閾値レベルを超えない場合、この方法は、個体のC4 GCNの減少程度によって決定される補正因子を計算することと、1又は複数の第1のCB-CAPレベルに補正因子を掛け算して1又は複数の補正されたCB-CAPレベルを作成することと、CB-CAPsのそれぞれに対する対照レベルを含む前記対照データセットにアクセスすることと、患者の補正されたCB-CAPレベルを対照レベルと比較して、前記患者のレベルに対して補正されたCB-CAPsレベルが、対照レベルと比較して高いかどうかを判定することとができる。補正されたCB-CAPレベルが対照レベルよりも高い場合、その結果は、患者がループスを有するとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきであるとの決定をすることができる。対照レベルより高くない場合、結果は、患者がループスを有していないとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定をすることができる。この方法はまた、患者がループスを有するか、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるかどうかの表示を含む結果の報告を作成することができる。
【0009】
他の実施形態において、患者のループス又はプレループスを同定する方法は、患者の血液試料を受け取ることと、前記血液試料に対して1又は複数の第1の細胞結合性補体活性化産物(CB-CAP)アッセイを行なって、前記患者の血液試料データを生成することと、を含む。血液試料データは、患者に対する1又は複数の第1のCB-CAPレベルを含む。この方法はまた、第1のCB-CAPsのそれぞれの対照レベルを含む対照データセットにアクセスすることを含む。この方法は、患者の第1のCB-CAPsレベルを対照レベルと比較して、患者レベルの第1のCB-CAPレベルが対照レベルよりも高いかどうかを判定することを含む。患者レベルの第1のCB-CAPsレベルが対照レベルよりも高い場合、結果は、患者がループスを有するとの決定、又は、ループスを発症するリスクが高いと分類されるべきであるとの決定をすることができる。対照レベルより高くない場合、この方法は、患者のゲノム中のC4遺伝子コピー数を含む遺伝子コピー数データセットにアクセスすることと、C4遺伝子コピー数がC4遺伝子コピー閾値レベルを超えるか否かを決定することと、を含み得る。C4遺伝子コピーの数がC4遺伝子コピーの閾値レベルに等しいか又はそれを超える場合、結果は、患者がループスを有していないとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定をすることができる。C4遺伝子のコピー数がC4遺伝子のコピー閾値レベルを超えない場合、この方法は、1又は複数の第2のCB-CAPsに対する患者の1又は複数の第2のCB-CAPレベルを同定することと、患者の前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルを、前記データセットの1又は複数の第2のCB-CAPsの対照レベルと比較して、患者の1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPsの対照レベルよりも高いかどうかを判定することを含む。前記1又は複数の第2のCB-CAPレベルが、前記1又は複数の第2のCB-CAPsレベルの対照レベルよりも高い場合、その結果は、患者がループスを有するとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきであるとの決定をすることができる。対照レベルより高くない場合、結果は、患者がループスを有していないとの決定、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるべきでないとの決定をすることができる。この方法はまた、患者がループスを有するか、又はループスを発症するリスクが高いと分類されるかどうかの表示を含む報告を作成することを含むことができる。
【0010】
上記実施形態の何れかにおいて、該方法は、患者からゲノムDNAの試料を得ることと、該患者のゲノム中のC4A及びC4Bの一方又は両方に対するC4遺伝子コピー数を決定することをさらに含むことができる。患者のC4遺伝子のコピー数は、C4A遺伝子のコピー数、C4B遺伝子のコピー数、又は前記2遺伝子のコピー数の合計であってよい。
【0011】
上記実施形態の何れかにおいて、方法はまた、対照データセットにアクセスすることによってC4遺伝子のコピー閾値レベルを決定することと、対照データセットにおける患者のセグメントに対する平均値又は中央値の遺伝子コピー数を同定することと、同定された平均又は中央値の遺伝子コピー数から1又は複数の標準偏差に等しいレベルとしてC4遺伝子のコピー数を設定することと、を含む。
【0012】
上記の何れの実施形態においても、第1のCB-CAPレベルは、T-C4d、B-C4d、E-C4d、及び/又は本明細書に記載される他のCB-CAPsの測定値を含むことができる。
【0013】
上記の何れの実施形態においても、患者がループスを有するとの決定、又はループスを発症するリスクが高いことを示すとして分類されるべきであるとの決定をする各々の例は、(i)患者が分類基準の少なくとも閾値レベルを満たす場合は、その患者はループスを有すると決定することと、(ii)患者が分類基準の少なくとも閾値レベルを満たさないが、前記基準の少なくとも1つを満たす場合、その患者はループス発症リスクが高いことを示すとして分類する。任意選択的に、前記分類基準は、漿膜炎、口腔潰瘍、関節炎、光線過敏性、血液疾患、腎障害、抗核抗体、免疫現象、神経障害、蝶形紅斑及び円板状紅斑の何れか又は全てを含むことができる。
【0014】
上記の第2の実施形態では、任意選択的に、第1のCB-CAPレベルは、T-C4d及びB-C4dの測定値を含むことができ、1又は複数の第2のCB-CAPレベルは、E-C4dの測定値を含むことができる。或いはまた、第1のCB-CAPレベルは、E-C4d及びB-C4dの測定値を含むことができ、1又は複数の第2のCB-CAPレベルは、T-C4dの測定値を含むことができる。
【0015】
この方法はまた、例えば上記のステップを実行することによって患者の疾患活動性(disease activity)をモニタリングすること、及び、その患者から採取された新たな試料を用いて、前記ステップを後の時点で繰り返すことを含む。新しい試料は対照レベルと比較され、これはデータセットであり得る。
【0016】
上記のどの実施形態も、対照被験体集団の血液試料データの対照データセットを保有するデータ保存装置を含むシステムの全部又は一部を使用して実行される。前記対照被験体集団については、前記集団の第1グループの被験体はループスを有することが知られており、前記集団の第2グループの被験体はループスを有しないことが知られている。また、前記血液試料データは、各被験体の細胞結合性補体活性化産物(CB-CAP)のレベルを含む。前記システムはまた、処理デバイス(processing device)と、前記処理デバイスに指令して、各実施形態における上記ステップの何れか又は全てを実行するよう構成されたプログラミング命令を含むコンピュータ可読媒体と、を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、データの収集と分類のプロセスにおける様々なステップを記載したフローチャートである。
【0018】
図2図2は、代替データの収集と分類のプロセスにおける様々なステップを記載したフローチャートである。
【0019】
図3図3は、本明細書に記載の方法を用いて実施された実施例分析を示す表であり、C4遺伝子のコピー数と、T-C4dレベル及びB-C4dレベルとの相関を示す。
【0020】
図4図4は、C4遺伝子コピー数と、T-C4d陽性及びB-C4d陽性との相関を示す表である。
【0021】
図5図5は、複数の匿名患者に実施したSLE診断における実験室試験結果を示す決定木(decision tree)である。
【0022】
図6図6は、C4遺伝子コピー数と、E-C4dレベル及びP-C4dレベルとの関係を示す表である。
【0023】
図7図7は、C4遺伝子コピー数と、E-C4d陽性及びP-C4d陽性との相関を示す表である。
【0024】
図8図8は、C4遺伝子コピー数と、R-C4d陽性、M-C4d陽性、及びG-C4d陽性との相関を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書においては、単数表記は、特段の記載が無い限り複数表記を含む。特段の記載が無い限り、本明細書に記載した全ての専門技術用語は、当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本開示に含まれる如何なるものも、本開示に記載した実施形態が、以前の発明によってその開示に先行する資格がないことを認めるものと解釈されてはならない。本開示においては、「含む」という用語は「含むが、限定されない」という意味を有する。
【0026】
「細胞結合性補体活性化産物(cell-bound complement activation product)」即ち「CB-CAP」は、1又は複数の補体活性化産物と、前記産物が結合される血液細胞(赤血球、網状赤血球、Tリンパ球、Bリンパ球、単球、顆粒球、好酸球、好塩基球又は血小板を含むがこれらに限定されない)との組合せである。
【0027】
本明細書の幾つかの実施形態において、あらゆるCB-CAPの「対照(control)」レベルとは、検査に関係する自己免疫性、炎症性、又は他の疾病又は疾患に罹患していない1又は複数の個体から得られた試料から得られたCB-CAPのレベルのことを言う。レベルは、個体-個体ベース、又は平均などの集計ベースで測定されることができる。「対照」レベルはまた、疾病又は疾患を有するが疾病又は疾患の急性期(acute phase)を経験していない個体集団を分析することによって決定されることができる。このような「対照」レベルを得るために、「対照」の細胞又は試料を使用することができる。「対照」の細胞又は試料は、調査に関係する自己免疫性、炎症性又は他の疾病又は疾患に罹患していない1又は複数の個体から得られることができる。「対照」レベル又は試料はまた、疾病又は疾患を有するが疾病又は疾患の急性期を経験していない個体集団から得られることができる。幾つかの実施形態において、それぞれのCB-CAP、細胞又は試料の「対照」レベルは、診断が行われるか、又はその状態がモニタリングされる同じ個体から、異なる時間に取得される。幾つかの実施形態では、「対照」のレベル、試料又は細胞は、より早い時期、例えば数週間前、数か月前又は数年前に同じ患者から得られたレベル、試料又は細胞のことを称することができる。
【0028】
本明細書において、「対照レベルとの差異」とは、統計的に有意な差異のことを言うものとし、前記差異は、当業者によって現在使用されているか又は将来使用されるあらゆる統計的分析方法によって決定される。対照レベルとの差異は、それぞれのCB-CAPの対照レベルと、診断又は他の情報が求められる個体と同じCB-CAPのレベル、すなわち実験レベルとの間での統計的に有意な差異を意味する。当業者であれば、差異が統計的に有意であるかどうかを決定するために多くの方法が利用可能であり、本発明は、以下に記載される統計的有意性の特定の方法及び実施例に限定されないことを認識し得るであろう。
【0029】
本明細書において、「全身性エリテマトーデス」、「SLE」又は「ループス」とは、多臓器疾患を生ずる原型自己免疫疾患である。抗自己応答(anti-self response)は、種々の核及び細胞質の細胞成分に対して指向された自己抗体を特徴とする。これらの自己抗体は、それぞれ対応する抗原に結合して免疫複合体を形成し、これらは、循環して最終的には組織に堆積する。この免疫複合体の堆積とその結果生じる補体系の活性化は、慢性の炎症及び組織の損傷をもたらす。
【0030】
本明細書で使用される「被験体(subject)」という用語は、哺乳類を含むがこれに限定されない動物を意味するために使用される。哺乳類はヒトであってもよい。「被験体」と「患者」という用語は、互換性のある語として使用される。
【0031】
本明細書で使用される「プレループス」という用語は、患者がループスを発症するリスクが高いことの予告表示として分類されること、すなわちループスを発症する事前の状態であることを言う。プレループスと診断された患者は、確定ループスに対応する幾つかの特徴を有するが、まだ確定ループスを発症していないか、又は確定ループスと診断されていない。
【0032】
プレループス状態は、前癌又は前悪性腫瘍の状態と同等であると考えられる。この状態は、癌又は悪性腫瘍を発症するリスクが有意に増大している状態であり、それゆえ、処置がされるべきである。前癌又は前悪性腫瘍の状態の例として、大腸癌発症リスクが高い大腸ポリープ、食道癌発症リスクが高いバレット食道、子宮頸癌発症リスクが高い子宮頸部形成異常、皮膚癌発症リスクが高い日光角化症、及び、乳癌発症リスクが高い乳房の前癌病変を挙げられる。前癌状態の大半は、病変の治療により癌発症のリスクは低下するか又は排除される。そのため、早期発見が最も重要である。プレループス状態も同様に理解することができる。プレループス患者は、確定ループスを発症するリスクが高いが、発症しない場合もある。早期発見及び適切な治療は、疾患進行のリスクを低下させるために最も重要である。
【0033】
プレループスは「推定的(probable)」ループスとは異なり、区別すべきである。推定的ループスの診断は、ループスの診断が技能的なものであるためになされる場合が多い。ループスの正確な診断を絶対的に保証できる血液検査又は疾病の身体的症状は存在しない。従って「推定的ループス」とは、患者が所定の時間に実際に確定ループスを有している可能性を指す。このことは、「プレループス」とは対照的である。「プレループス」は、患者がその時に確定ループスを有しておらず、最終的に疾病を発症するリスクは高いが、発症しないこともあり得ることを意味する。
【0034】
この明細書では、以下の省略形が用いられる。
【0035】
(1)抗-dsDNA: 抗二本鎖DNA
【0036】
(2)CB-CAPs: 細胞結合性補体活性化産物
【0037】
(3)C4d: 補体C4活性化産物C4d
【0038】
(4)GCN: 遺伝子コピー数
【0039】
(5)SD: 標準偏差
【0040】
(6)SLE: 全身性エリテマトーデス
【0041】
(7)B-C4d: B細胞結合C4d
【0042】
(8)E-C4d: 赤血球結合C4d
【0043】
(9)T-C4d: T細胞結合C4d
【0044】
(10)P-C4d: 血小板結合C4d
【0045】
(11)R-C4d: 網状赤血球結合C4d
【0046】
(12)G-C4d: 顆粒球結合C4d
【0047】
(13)M-C4d: 単球結合C4d
【0048】
(14)Eos-C4d: 好酸球結合C4d
【0049】
(15)Baso-C4d: 好塩基球結合C4d
【0050】
ループスは、診断上の問題及び管理上の問題の両方を医師にもたらし続けており、信頼できる試験及びバイオマーカーの不足がその原因の一部となっている。ループスを診断するための現在の基準は、リウマチ学者による判断であって、米国リウマチ学会(ACR)により開発された標準的な分類スキームに主に基づいている。ACRの基準は、患者がループスを有するか否かを判定するために医療専門家が使用する一連の臨床的基準であり、(1)漿膜炎、(2)口腔潰瘍、(3)関節炎、(4)光線過敏性、(5)血液疾患、(6)腎障害、(7)抗核抗体、(8)免疫現象、(9)神経障害、(10)蝶形紅斑及び(11)円板状紅斑の何れか又は全てを含む。確定ループスの診断は、臨床症状又は検査室試験の11のACR基準のうちの4つに患者が合致している場合に行われる。ループスの種々の症状が同時に発現するとは限らないため、4つの基準を満たして最終的に診断されるまでは、数年を要する場合が多い。同様の基準は、Systemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)によって採用されている。
【0051】
このジレンマを回避するために、満たす基準がACR又はSLICCの4つの基準よりも少ないが、ループスを有することが疑われる患者群に対して、「プレループス」の診断を与えられてもよい。しかしながら、そのような患者のうちのどの患者が、疾病が無いと考えられるのではなく、ループス発症リスクを継続すべきかを特定することが困難である。プレループスを有する患者の中には、確定ループスを発症する可能性があり、早期治療の機会を逃したゆえに実際は起こらなかったかもしれない臓器損傷に苦しむ可能性がある。最近になって、米国特許第9495517号には、プレループスの診断方法が記載されているが、これも診断が困難である。「プレループス」を有する患者の特定に有効なCB-CAPsに加えて、バイオマーカーを用いることにより、ループス診断の適時性及び精度の向上が大いに促進され、早期治療による臓器損傷を防止できるであろう。
【0052】
この明細書に記載された幾つかの実施形態において、ループスの4つの分類基準の少なくとも1つに該当するが4より少ないと判定される患者は、プレループスの診断を行うことが考慮され得る。幾つかの実施形態において、これらの分類基準は、ACR及び/又はSLICCによって公開された分類基準であってもよいが、これに限定されない。
【0053】
補体系がループスの病因に顕著な役割を有することを示す数多くの研究がある。補体蛋白質は循環中に豊富に存在し、循環細胞と容易に相互作用することができることから、発明者らは、循環細胞に結合した補体活性化産物が、可溶性補体蛋白質よりも有益なループス及びプレループスバイオマーカーとして機能し得ることを見出した。実際のところ、有意レベルの補体C4由来活性化産物、特にC4dが、ループス及びプレループスの患者の赤血球、網状赤血球、血小板及びリンパ球の表面上に特異的に存在する。これらのCB-CAPsは、診断だけでなく、ループス及びプレループスの患者の疾病活動を監視するための固有のバイオマーカーとして機能することができる。
【0054】
ヒト補体C4蛋白質は、C4A及びC4Bの2つの同型遺伝子の産物であることが知られている。C4遺伝子座を収容する染色体セグメントの重複/欠失のために、幾つかの個体は、C4A及びC4B遺伝子の2つのコピーよりも多いか又は少ない。結果として、所与の個体は、C4遺伝子を全く有しないか、又は多くても合計で最大9コピーまでである。C4Aのコピー数は0~6の範囲であり、C4Bのコピー数は0~4の範囲であり得る。C4遺伝子コピー数(GCN)のこのような変動は、潜在的にC4蛋白質生産の変動をもたらすので、C4 GCNと血清C4レベルとの間に相関関係を有することもあり、有しないこともある。本発明者らは、C4の活性化生成物であるC4dが、全身性エリテマトーデス(SLE;ループス)及びプレループスを有する患者の循環血液細胞の表面上に、有意のレベルで特異的に存在することを実証した。これらのいわゆる「細胞結合性補体活性化産物(CB-CAPs)」は、SLE及びプレループスの診断、モニタリング及び予後(層別化)バイオマーカーとして有用であり得る。
【0055】
C4蛋白質レベル(従って、C4dレベル)は疾病状態の影響を受けるだけでなく、C4 GCNによっても影響を受けることに鑑みると、理論に拘束されることを意図するものでないが、発明者らは、C4 GCNが低いと、SLE患者の中にCB-CAPレベルが持続的に低く維持される者があり、それゆえ、これらの患者におけるCB-CAPバイオマーカーの診断有用性(感受性/特異性)を低下させることを見出した。それゆえ、本発明者らは、この明細書において、ループス及びプレループスの診断及びモニタリングのより有益な決定を提供するために、CB-CAPシグネチャーと共にC4遺伝子型の決定を含む方法を記載する。
【0056】
本明細書に記載される幾つかの実施形態では、C4A、C4B、又は、C4AとC4Bの両方に対する患者の遺伝子コピー数が使用される。
【0057】
本明細書に記載される幾つかの実施形態において、CB-CAPsは、幾つかの細胞型のうちの1又は複数の型の分析に用いられることができ、前記細胞型には、赤血球と結合したC4d(E-C4d)、網状赤血球を結合したC4d(R-C4d)、Tリンパ球と結合したC4d(T-C4d)、Bリンパ球と結合したC4d(B-C4d)、単球と結合したC4d(M-C4d)、顆粒球と結合したC4d(G-C4d)、血小板と結合したC4d(P-C4d)、好酸球と結合したC4d(Eos-C4d)、及び/又は好塩基球と結合したC4d(Baso-C4d)が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書に記載される実施形態において、CB-CAPのレベルは、あらゆる適切な方法によって決定することができる。CB-CAPsに対するそのようなアッセイには、酵素結合イムノアッセイ及びポリクローナル抗体の使用が含まれるがこれらに限定されない。ある実施形態では、モノクローナル抗体を使用することもできる。CB-CAPレベルを決定するために、フローサイトメータ又は他の適当な装置を使用することができる。
【0059】
本明細書において「判定又は決定(determinations)」すること、例えば、個体におけるループス又はプレループスを診断又はモニタリングすることは、手動で行うことができるし、自動化されたシステム及び/又は装置を用いて行うこともできる。自動化システム及び/又は装置では、必要な決定を行うために、血液試料は自動的に分析され、その目的に適したコンピュータソフトウェアを用いて、基準値又は参照値との比較が自動的に行われる。
【0060】
図1の一実施形態を参照すると、被験患者の血液試料を受け取る(ステップ101)。1又は複数のCB-CAPアッセイが患者に対して実施し(ステップ102)、患者の血液試料データを作成する。血液試料データは、患者に対する1又は複数のCB-CAPレベルを含む。実施形態では、CB-CAPsは、細胞型の中の1又は複数の型のアッセイが行われる。この細胞型は、限定するものではないが、赤血球と結合したC4d(E-C4d)、網状赤血球を結合したC4d(R-C4d)、Tリンパ球と結合したC4d(T-C4d)、Bリンパ球と結合したC4d(B-C4d)、単球と結合したC4d(M-C4d)、顆粒球と結合したC4d(G-C4d)、血小板と結合したC4d(P-C4d)、好酸球と結合したC4d(Eos-C4d)、及び/又は好塩基球と結合したC4d(Baso-C4d)を含む。特定の実施形態において、決定されたCB-CAPレベルは、上記のようなCB-CAPsを有するCB-CAPパネルの構成成分として、これら又は他のCB-CAPsの任意の組合せのレベルであり得る。特定の実施形態では、CB-CAPレベルは、T-C4d、B-C4d、又はE-C4dのうちの1又は複数のものに対する測定値を含み得る。
【0061】
方法は、CB-CAP対照レベルセットを含む対照データセットにアクセスすることと、前記データセットから、アッセイが行われるCB-CAPsの各々の対照レベルを抽出することと、を含む(ステップ103)。対照レベルは、被験体集団の血液試料データの対照データセットを収容するデータ保存装置に保存されることができる。被験体集団には、ループス又はプレループスを有することが知られているグループもあれば、ループス又はプレループスを有していないことが知られているグループもある。血液試料データには、各被験体に対する1又は複数のCB-CAPsのレベルが含まれる。
【0062】
幾つかの実施形態では、対照データセットは、様々なCB-CAPsに対する対照レベルの測定値を含み、前記CB-CAPsは、限定するものではないが、赤血球と結合したC4d(E-C4d)、網状赤血球を結合したC4d(R-C4d)、Tリンパ球と結合したC4d(T-C4d)、Bリンパ球と結合したC4d(B-C4d)、単球と結合したC4d(M-C4d)、顆粒球と結合したC4d(G-C4d)、血小板と結合したC4d(P-C4d)、好酸球と結合したC4d(Eos-C4d)、及び/又は好塩基球と結合したC4d(Baso-C4d)を含む。
【0063】
方法は、次に、患者のCB-CAPレベルを対照レベルと比較して、患者のレベルが対照レベルよりも高いかどうかを判定すること(ステップ104)を含む。診断が必要な患者から血液試料を採取すると、その試料は、データセット中で利用可能なCB-CAPsの任意のレベル又は全てのレベルに対して分析される。幾つかの実施形態では、試料データは、処理デバイスに入力されるか又は処理デバイスによって受信され、処理デバイスが、患者試料のCB-CAPレベルを、データセット内のCB-CAPレベルと比較して、患者のCB-CAPsの数及び/又はレベルがCB-Capレベルより高いレベルにあるかどうかを判定する。患者の試料中のCB-CAPレベルが、対照セット中の同じCB-CAPの(上記)対照レベルと統計学的に有意な差を示す場合、患者の試料中のCB-CAPレベルは「高い(elevated)」と決定される。一例として、患者の試料中のCB-CAPのレベルが、対照セット中の同じCB-CAPの平均値又は中央値よりも少なくとも1倍、2倍又はそれ以上の標準偏差である場合、そのレベルは高いとみなされることができる。レベルが高いかどうかを決定するために、統計学的有意性を決定する他の方法を用いることもできる。
【0064】
幾つかの実施形態において、この分析は、1つ又は2つの特定のCB-CAPレベルが高いかどうかを決定するのに焦点を当てることができる。例えば、分析では、被験体のT-C4d及びB-C4dレベルが基準値(baseline)より高いかどうかを評価することができる。実施形態において、CB-CAPレベルが高い場合、方法は、患者を、ループス又はプレループスを有する者として分類すること(ステップ109)を含むことができる。例えば、CB-CAPレベルが高く、1又は複数の他の条件が満たされている(限定するものでないが、例えば、患者が4以上の米国リウマチ学会又はループスに対するSLICC分類基準に該当する)場合、方法は、患者を、ループスを有する者として分類することができる。CB-CAPレベルが高いが、他の基準を満たさない(限定するものでないが、例えば、患者が4以上の米国リウマチ学会又はループスに対するSLICC分類基準に該当しない)場合、方法は、患者を、ループスを有しないが、ループスを発症するリスクが高い(「プレループス」と称され得る状態)として分類することを含むことができる(ステップ109)。
【0065】
患者のCB-CAPレベルが高くないか、又はループス又はプレループスと診断決定される範囲内にあるほどに高いとは考えられない場合、方法はまた、被験体のC4遺伝子コピー数を決定することを含むことができる(ステップ105)。遺伝子コピーセットは、患者のゲノム中の幾つかのC4A及び/又はC4B遺伝子コピーを含む。対照レベルデータセットの場合と同様に、遺伝子コピー数データセットはデータ保存装置に保存されることができる。あるいは、幾つかの実施形態において、遺伝子コピー数データセットは、患者のゲノムから幾つかの数を抽出することによってC4遺伝子コピーの数を同定することによって作成されることができる。幾つかの実施形態では、この方法は、患者からゲノムDNAの試料を得ることにより遺伝子コピー数を決定するステップと、患者のゲノム中のC4A及び/又はC4Bの遺伝子コピー数を決定するステップとを含むことができる。
【0066】
本明細書に記載される様々な実施形態において、C4遺伝子コピー数(GCN)又はC4コピー数の多型(CNV)決定は、あらゆる適当な方法によって実施され得る。特定の実施形態では、次の中の1又は複数のものが用いられる。Taqlゲノムサザンブロット法により、次のコピー数を決定することができる:(a)RP1又はRP2にリンクされた長いC4遺伝子、RP1又はRP2にリンクされた短いC4遺伝子、(b)CYP21B及びCYP21A、及び(c)TNXB及びTNXA。TaqlゲノムRFLPを通して、C4、C4L、C4Sのコピー数、及びRCCXモジュラー構造を解明することができる。PshA1-Pvull RFLPサザンブロット及び/又はqPCRアッセイを実施して、C4A及びC4Bのコピー数を決定することができる。RCCXハプロタイプをさらに検証するために、パルスフィールドゲル電気泳動によって分離され、サザンブロット分析によって処理されたPmeI消化ゲノムDNAを用いた広範囲マッピング実験を行うこともできる。幾つかの実施形態では、さらなる方法として、全エキソームシーケンス法、全ゲノムシーケンス法、C4遺伝子座全体のシーケンス法又は他の次世代シーケンス法を含むことができる。
【0067】
C4A遺伝子コピー数、C4B遺伝子コピー数又はその両方が閾値以上である場合、方法は、これを使用して、患者がプレループス又はループスとして分類されるべきでないことを確認することができる(ステップ107)。一方、C4遺伝子コピー数が閾値未満である場合、方法は少なくとも2つの選択肢を含むことができる。第1は、幾つかの実施形態において、被験体の1又は複数の追加のCB-CAPレベルを調べて(ステップ106)、追加のCB-CAPレベルが閾値を超えるかどうかを判定し、超えている場合は、その患者をループス又はプレループスとして分類されることができ、超えていない場合は、その患者をそのように分類すべきではないことを確認する。例えば、幾つかの実施形態において、ステップ104で調べられたCB-CAPレベルがT-C4d及びB-C4dである場合、方法は、ステップ106で、患者のE-C4d CB-CAPレベルを評価することを含むことができる。同様に、幾つかの実施形態において、ステップ104で調べられたCB-CAPレベルがE-C4d及びB-C4dである場合、方法は、ステップ106で、患者のT-C4d CB-CAPレベルを評価することを含むことができる。CB-CAP測定については他の組合せを使用することができる。幾つかの実施形態において、CB-CAPsは、1又は複数の細胞型に対して評価されることができ、前記細胞型は、限定するものでないが、赤血球と結合したC4d(E-C4d)、網状赤血球を結合したC4d(R-C4d)、Tリンパ球と結合したC4d(T-C4d)、Bリンパ球と結合したC4d(B-C4d)、単球と結合したC4d(M-C4d)、顆粒球と結合したC4d(G-C4d)、血小板と結合したC4d(P-C4d)、好酸球と結合したC4d(Eos-C4d)、及び/又は好塩基球と結合したC4d(Baso-C4d)を含む。
【0068】
第2は、幾つかの実施形態において、CB-CAPレベルが特定の閾値より低い場合、そのCB-CAPレベルは、個人のC4 GCNの減少程度によって決定される補正因子によって乗算されることができる。それゆえ、CB-CAPレベルは高いがループス又はプレループスの範囲とは診断されない幾つかの実施形態では、そのような「偽陰性(false negatives)」は、増倍率によって補正され、C4 GCNの減少分が相殺される。例えば、図2を参照のこと。
【0069】
C4遺伝子コピー数の閾値レベルは、任意の適当な数であってよく、例えば、1、2、3又は他の数である。任意選択的に、C4遺伝子コピー数の閾値レベルは、上記の遺伝子コピー数データセットから決定することができる。例えば、閾値レベルは、データセット内の全ての患者又はデータセット中でループス又はプレループスを有していないことが知られている全ての患者に対する平均値(又は中央値)レベルより下の標準偏差の1、2、3又は他の数であってもよい。
【0070】
1又は複数の追加のCB-CAPレベルが閾値を超える場合、方法は、患者をループス又はプレループスであると分類することを含む(ステップ109)ことができ、超えない場合は、患者をループス又はプレループスでないと分類することを含む(ステップ107)ことができる。特定の実施形態では、患者がこの時点でループス又はプレループスであると分類されるべきかどうかの判定は、患者が上記のような分類基準の少なくとも4つ(又は別の閾値数)を示すかどうかに依存する。幾つかの実施形態では、患者が分類基準についてより多くの閾値数に該当する場合、方法は、患者をループスを示すものとして分類することを含むことができる。前記閾値数に該当しない場合、方法は、患者をプレループスであると分類することを含むことができる。
【0071】
上記したように、上記方法は、患者をループスを示すものとして分類するかどうかを判定するだけでなく、患者をループス発症のリスクを有する(すなわち、プレループス)ものとして分類するかどうかを判定するのにも用いられることができる。
【0072】
上記方法はまた、ループスを有するか、又はループス発症のリスクを示す(プレループス)患者のSLE疾患活性をモニタリングするために使用され得る。これは、上記の試料採取と比較を所定間隔で繰り返すことによって行われ、患者のCB-CAPレベルが安定したままであるか、又は時間の経過と共に上昇するかが判定される。
【0073】
工程の任意の時点で、システムは、被験体の分類、被験体の決定されたCB-CAPレベル、及び/又は被験体のC4遺伝子コピー数を含む報告を生成することができる(ステップ110)。幾つかの実施形態では、システムは、確率レベル自体等の診断結果含む報告、或いは患者がループス又はプレループスである(又はループス又はプレループスでない)と見なされる理由を記載した1又は複数の文書又は図式的指示を作成することができる。幾つかの実施形態において、報告は、患者をプレループス患者として分類され得るか否かの評価を提供することができる。幾つかの実施形態において、報告は、患者をループス患者として分類され得るかどうかの評価を提供することができる。システムは、患者又は医療専門家のシステムから離れていてもよく、その場合、システムの要素の一部又は全部がクラウドベースのシステムなどの複数のシステムの中に存在してもよい。このクラウドシステムでは、対照データセットは、処理及び分析を実行するシステムから離れているが、1又は複数の通信ネットワークを介して接続されている。
【0074】
幾つかの実施形態において、方法は、患者のループス疾患活性のレベルのモニタリングを行う(ステップ112)。この場合、工程は、疾患活性をモニタリングするために、患者から新しい試料を取得する(ステップ101)ことが繰り返される。新たなアッセイが行われたCB-CAPレベル(ステップ102)が対照レベルと比較される(ステップ103)。対照レベルは、データセットの対照レベルであってよく、また、その時以前に同じ患者から得た試料の測定レベルでもよい。新たなレベルが対照レベルに対して高いと判定された場合(ステップ109)、患者は、全身性エリテマトーデス疾患活性のレベルが上昇したものとして分類され得る。
【0075】
図2を参照すると、別の実施形態では、被験患者の血液試料を受け取る(ステップ201)。患者に対して1又は複数のCB-CAPアッセイを行ない(ステップ202)、患者の血液試料データを生成する。血液試料データは、患者の1又は複数のCB-CAPレベルを含む。幾つかの実施形態では、CB-CAPsは、多くの細胞型の中の1又は複数の細胞型に対してアッセイが行われる。前記細胞型には、赤血球と結合したC4d(E-C4d)、網状赤血球を結合したC4d(R-C4d)、Tリンパ球と結合したC4d(T-C4d)、Bリンパ球と結合したC4d(B-C4d)、単球と結合したC4d(M-C4d)、顆粒球と結合したC4d(G-C4d)、血小板と結合したC4d(P-C4d)、好酸球と結合したC4d(Eos-C4d)、及び/又は好塩基球と結合したC4d(Baso-C4d)が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、決定されたCB-CAPsレベルは、CB-CAPパネルの構成要素として、これらと他のCB-CAPとの任意の組合せであってもよい。特定の実施形態では、CB-CAPレベルは、T-C4d、B-C4d、及びE-C4dの1又は複数の測定値を含み得る。
【0076】
この方法は、一組のCB-CAP対照レベルを含む対照データセットにアクセスすることと、前記データセットから、アッセイが実行されるCB-CAPsの各々に対する対照レベルを抽出すること(ステップ203)とを含むことができる。対照レベルは、被験体集団の血液試料データの対照データセットを収容するデータ保存装置に保存されることができる。被験体集団には、ループス又はプレループスを有することが知られているグループもあれば、ループス又はプレループスを有しないことが知られているグループもある。血液試料データには、各被験体に対する1又は複数のCB-CAPのレベルが含まれる。幾つかの実施形態では、対照データセットは、様々なCB-CAPsに対する対照レベルの測定値を含み、CB-CAPsは、限定するものではないが、赤血球と結合したC4d(E-C4d)、網状赤血球を結合したC4d(R-C4d)、Tリンパ球と結合したC4d(T-C4d)、Bリンパ球と結合したC4d(B-C4d)、単球と結合したC4d(M-C4d)、顆粒球と結合したC4d(G-C4d)、血小板と結合したC4d(P-C4d)、好酸球と結合したC4d(Eos-C4d)、及び/又は好塩基球と結合したC4d(Baso-C4d)を含む。
【0077】
方法は、次に、患者のCB-CAPレベルを対照レベルと比較して、患者のレベルが対照レベルよりも高いかどうかを判定すること(ステップ204)を含む。診断を所望する患者から血液試料を採取すると、その試料は、データセット中で利用可能なCB-CAPの任意のレベル又は全てのレベルに対して分析される。
【0078】
患者のCB-CAPレベルが高くないか、及び/又は他の基準を満たさない場合、方法はまた、被験体のC4遺伝子コピー数を決定することを含むことができる(ステップ205)。遺伝子コピーセットは、患者のゲノム中の幾つかのC4A遺伝子コピー及び/又はC4B遺伝子コピーを含む。対照レベルのデータセットの場合と同様に、遺伝子コピー数データセットはデータ保存装置に保存されることができる。あるいは、遺伝子コピー数データセットは、患者のゲノムから幾つかの数を抽出することによってC4遺伝子コピーの数を同定することによって作成されることができる。幾つかの実施形態では、この方法は、患者からゲノムDNAの試料を得て、遺伝子コピー数を決定するステップと、患者のゲノム中のC4A及び/又はC4Bの遺伝子コピー数を決定するステップとを含むことができる。
【0079】
C4A遺伝子コピー数、C4B遺伝子コピー数又はその両方が閾値以上である場合、方法は、これを使用して、患者はプレループス又はループスとして分類されるべきでないことを確認することを含むことができる(ステップ207)。一方、C4遺伝子コピー数が閾値未満である場合、そのC4遺伝子コピー数を用いて、個体のC4 GCNの減少程度によって決定される補正因子を同定する(ステップ220)。CB-CAPレベルが特定の閾値より低い場合、そのCB-CAPレベルは、そのような補正因子によって乗算される(ステップ206)。そして、補正されたCB-CAPレベルは対照レベルと比較されることができる。
【0080】
補正されたCB-CAPレベルの1又は複数のレベルが、対照レベルよりも高いと判定される場合、方法は、患者を、ループス又はプレループスを有すると分類すること(ステップ209)を含むことができる。対照レベルを超えない場合は、患者をループス又はプレループスでないと分類すること(ステップ207)を含むことができる。この明細書のどこかで記載されるように、患者がこの時点でループス又はプレループスとして分類されるべきかどうかの判定は、患者が上記した分類基準の少なくとも4つ(又は別の閾値数)を示すかどうかに依存する。患者が分類基準の閾値の数よりも多く該当する場合、方法は、患者をループスを示すとして分類することを含むことができる。前記閾値の数に該当しない場合、方法は、患者をプレループスとして分類することを含むことができる。
【0081】
工程の任意の時点で、システムは、被験体の分類、被験体の決定されたCB-CAPレベル、及び/又は被験体のC4遺伝子コピー数を含む報告を生成することができる(ステップ210)。幾つかの実施形態では、システムは、確率レベル自体等の診断結果含む報告、或いは患者がループス又はプレループスである(又はループス又はプレループスでない)と見なされる理由を記載した1又は複数の文書又は図式的指示を作成することができる。幾つかの実施形態において、報告は、患者がプレループス患者として分類され得るか否かの評価を提供することができる。幾つかの実施形態において、報告は、患者がループス患者として分類され得るかどうかの評価を提供することができる。システムは、患者又は医療専門家のシステムから離れていてもよく、システムの要素の一部又は全部がクラウドベースのシステムなどの複数のシステムの中に存在してもよい。このクラウドシステムでは、対照データセットが、処理及び分析を実行するシステムから離れているが、1又は複数の通信ネットワークを介して接続されている。
【0082】
幾つかの実施形態において、方法は、患者のループス疾患活性のレベルのモニタリングを行う(ステップ212)。この場合、工程は、疾患活性をモニタリングするために、患者から新しい試料を取得する(ステップ201)ことが繰り返される。新たなアッセイが行われたCB-CAPレベル(ステップ202)が対照レベルと比較される(ステップ203)。対照レベルは、データセットの対照レベルであってよく、また、その時以前に同じ患者から得た試料の測定レベルでもよい。新たなレベルが対照レベルに対して高いと判定された場合(ステップ209)、患者は、全身性エリテマトーデス疾患活性のレベルが高いと分類され得る。
【0083】
幾つかの実施形態において、方法及びシステムは、上記に記載され、図1及び図2に示された方法及びシステムの様々な態様を組み合わせることができる。一実施形態では、1又は複数の細胞型に対する患者のCB-CAPレベルが、ループス又はプレループスとして分類されるレベルよりも低いと考えられる場合、患者のC4 GCNが判定される。そのC4 GCNが特定の閾値(例えば<4)未満である場合、次に、最初に測定されたもの以外の細胞型に対するCB-CAPsを決定されることができる。例えば、最初に測定されたBC4d及びTC4dが、正常であるか、又はループス又はプレループスと診断されるのに必要なものより小さいと判定され、C4 GCNが<4であると決定される場合、赤血球(EC4d)及び/又は血小板(PC4d)などの細胞に対する追加のCB-CAPレベルの判定が行われることができる。或いはまた、1又は複数の細胞型に対する患者のCB-CAPレベルが、ループス又はプレループスとして分類されるレベル未満であると考えられ、患者のC4 GCNが特定の閾値未満(例えば、<4)であると決定される場合、図2に記載された実施形態を用いることができる。この実施形態では、測定されたCB-CAPレベルが、ループス又はプレループスを診断されるのに必要なものより小さいと決定され、そのCB-CAPレベルは、患者のC4遺伝子欠損を補うこと目的とする補正因子によって調節される。これら2つの実施形態は、互いに排他的ではない。図1及び図2に示す方法は、(a)ループス/プレループス診断カットオフ値未満のCB-CAPレベル;及び(b)特定の閾値より低いC4 GCNを有することが判った患者試料をさらに分析するために用いられることができる。元の細胞型について決定されたCB-CAPレベルのレベルを調節するために、その試料について追加のCB-CAPレベルを決定し、補正因子を用いることもできる。例えば、TC4d及びBC4dが、ループス及び/又はプレループスと診断するには不十分であると判定され、C4 GCNが、ある閾値より下、例えば<4であることが分かった場合、EC4d、PC4d及び/又はCB-CAPsが判定され、TC4dレベル及び/又はBC4dレベルが、患者の遺伝子欠損を補償するための補正因子で調節される。結果は、ループス又はプレループスとして患者を分類するためのアルゴリズムの中でさらに分析されることができる。
【実施例
【0084】
<実施例1>
本発明者らは、195人のSLE患者の断面分析を行なった。ゲノムDNA試料は末梢血液のバフィーコートから調製して、遺伝子型決定実験に使用した。C4アイソタイプ及びGCNは、それぞれのSLE患者から得たDNAを用いたサザンブロット分析によって決定した(“ヒト全身性エリテマトーデス(sle)における補体成分C4の遺伝子コピー数の変動及び関連する多型性”Yang、Y. et al., American Journal of Human Genetics 2007, 80, 1037-1054;“ヨーロッパ人及びアメリカ人の健常被験体並びに全身性エリテマトーデスを有する被験体における補体C4CNVsの遺伝子コピー数変動に関連する表現型、遺伝子型及び疾患感受性”Wu,Y.L, et al., Cytogenetic and Genome Research 2008, 123, 131-141)。同じ患者の末梢血液細胞のCB-CAPレベルをフローサイトメトリーによって測定した(“全身性エリテマトーデスにおける赤血球C4d及び補体受容体1の測定”Manzi,S.,et al., Arthritis Rheum 2004,50,3596-3604;“全身性エリテマトーデスの診断のためのバイオマーカーとしてのリンパ球結合補体活性化生成物”Liu, C.C. et al., Clin Transl Sci 2009,2,300-308;“全身性エリテマトーデスの疾患活性のバイオマーカーとしてC4dを有する網状赤血球”Liu, C.C. et al., Arthritis Rheum 2005, 52, 3087-3099;“全身性エリテマトーデスに高度に特異的な血小板c4d”Narvratil, J.S, et al., Arthritis Rheum 2006, 54, 670-674)。
【0085】
患者は、C4A遺伝子及びC4B遺伝子の何れか又は両方のコピー数に基づいて分類した。CB-CAPレベルを決定し、C4A/C4B GCNと相関させた。CB-CAPレベルは、連続データ(特定の平均蛍光レベル)又はカテゴリーデータ(陽性又は陰性。陽性は、健常者対照集団の平均値+2SDよりも高いCB-CAPレベルとして定義される)の何れかとして分析した。連続データは、クラスカル-ウォリス検定と事後対比較と線形回帰分析を用いて分析した。カテゴリー変数は、フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて分析した。全ての統計分析は、Windows用のSTATA/SEバージョン11.0(Stata Corporation,TX)及びSAS V9.3(SAS Institute,Cary,NC)を用いて行った。
【0086】
<実施例2>
表1及び表2の結果に示されるように、CB-CAPレベル、特にT細胞結合C4d(T-C4d)及びB細胞結合C4d(B-C4d)のレベルが、C4遺伝子のコピー数の増加と関連性があった。具体的には、T-C4d及びB-C4dレベルはC4A GCNと相関関係があったが、C4B GCNとは相関関係はなかった(表3;データはC4A遺伝子についてのみ示されている)。注目すべきことは、C4A遺伝子を有しない患者(C4A GCN=0;同型接合C4A欠損)の100%は、T細胞及びB細胞のCB-CAPsレベルは低かった。C4A遺伝子が1コピー存在するだけでも、CB-CAPレベルは有意に上昇した(表4)。いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、この後者の知見は、C4A遺伝子がT細胞及びB細胞に結合する能力のあるC4dを生成するのに重要な役割を有することを示唆している。
【0087】
図3の実施例を参照すると、SLE患者を、T-C4dレベル又はB-C4dレベルの何れかに基づいて四分位(quartiles)に分割した。個々の患者の総C4遺伝子(total C4 genes)(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を上記のように決定した。T-C4d/B-C4d四分位スケールの中でC4 GCNsが異なる患者の分布をプロットした。これから、総C4 GCN及びC4A GCNと、T-C4d/B-C4dレベルとの間に正の相関を示す傾向が認められた。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。T-C4dと総C4 GCN、T-C4dとC4A GCN、及びT-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.37、0.18及び0.40であった。B-C4dと総C4 GCN、B-C4dとC4A GCN、及びB-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.09、0.044、及び0.27であった。
【0088】
患者が、T-C4dレベル又はB-C4dレベルに基づいて四分位に分割された図3の実施例において、C4遺伝子のコピー数が4より多い患者の増加割合は、C4遺伝子のコピー数が少ない患者と比べて、最も高い四分位の中にあったことは留意される。また、C4A遺伝子とのこの相関関係、すなわちC4A遺伝子の数が増加した患者は、T-C4d又はB-C4dのどちらかの最も高い四分位にあると考えられる。C4A GCNとB-C4dとの相関は統計学的に有意であった(p=0.044)。
【0089】
図4は、SLE患者を、T-C4d陽性(positivity)又はB-C4d陽性に基づいて二値グループに分割した例を示す。個々の患者の総C4遺伝子(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を上記のとおり決定した。T-C4d/B-C4dの陽性グループ及び陰性グループにおいて異なるC4 GCNを有する患者の分布をプロットし、総C4 GCN及びC4A GCNと、T-C4d/B-C4d陽性との間で正の相関が確認された。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。T-C4d陽性と総C4 GCN、T-C4dとC4A GCN、及びT-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.18、0.64、及び0.028であった。B-C4dと総C4 GCN、B-C4dとC4A GCN、及びB-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.15、0.029、及び0.34であった。このように、患者をT-C4d又はB-C4d陽性に基づいて二値グループに分類すると、統計学的に有意な相関が、C4A GCNの増加とB-C4d陽性との間(p=0.029)だけでなく、C4B GCNの増加とT-C4d陽性との間(p=0.028)にも認められた(図4)。
【0090】
併せて、これらの結果は、CB-CAPレベル、特にT-C4d及びB-C4dが、所与のSLE患者のC4 GCNと正の相関関係を有することを示す。いかなる理論にも拘束されることを意図するものでないが、C4遺伝子型(種々のコピー数中のアイソタイプC4A/C4B遺伝子)と表現型(多数のC4A及びC4B蛋白質アロタイプ)が複合化されると、CB-CAPsにおけるC4の役割は、C4 GCNだけでなく、個々の患者に発現される蛋白質アロタイプにも関与する。この明細書における知見が示すことは、SLE又はプレループスの診断、モニタリング及び/又は予後診断(層別化)に対するCB-CAPsの有用性が、個々の患者のC4 GCNを個別に同時決定することによって高められることである。
【0091】
さらに、所与の患者におけるC4遺伝子の特定配列を決定することにより、同じ患者におけるCB-CAPアッセイ値の結果を解釈するための追加の指針が提供される。併せて、C4 GCN+CB-CAPアッセイ値、特にTC4d及びBC4dのアッセイ値及び他のアッセイ値を、さらなる実験室試験及び臨床介入を案内するスコアを生成するために用いることができる。より具体的には、CB-CAP決定に基づく診断、モニタリング、予後診断、個別化試験及び/又は他の試験は、その個体におけるC4 GCNの同時決定と共に解釈され得る。それゆえ、特定の態様において、本明細書は、ループス又はプレループスを有する患者を層別化し、当該患者の臨床的ケアを個別化するための改善された方法を提供する。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0092】
一例として、表4に示されるデータは、各患者のCB-CAPレベルに適用される補正因子を決定するのに用いられることができる。幾つかの実施形態では、各GCN及び対応するCB-CAPの補正因子は、患者のGCNに対する正常なGCN(例えば、4)の平均値の比に等しい乗数であってもよい。任意選択的に、乗数は特定の有効桁又は整数に丸められることができる。例えば、上記表4において、GCN=1の患者のT-C4d補正因子は、51.0/12.8=3.98(4に丸めることができる)であり、GCN=3の患者のB-C4d補正因子は、85.9/64.7=1.33である。他の方法で補正因子を決定することも可能である。例えば、上に示したように、GCN/CB-CAPの各組合せの補正因子は、使用される対照データセットに基づいて変動があってもよく、また、対照データセットに関係なく全ての患者に使用される標準補正因子であってもよい。
【0093】
<実施例3>
表5は、CB-CAPシグネチャーの概念を示しており、これは、C4 GCN測定の結果と、32人の個々の患者に対して実施された7つの異なるCB-CAPアッセイのレベルと、を含む。異常に高いレベルは太字で示している。幾つかの観察を行うことができる。第1に、C4 GCNが5又は4の患者からの11の試料は全て、TC4d及びBC4dの両方に対して陽性である。第2に、これらの患者の大部分は、CB-CAPアッセイの7つ全てに対してパン陽性(pan-positive)である。第3に、C4 GCNの数が3の患者10人のうち、3人のみがTC4d及びBC4dの両方のレベルが高く、7人がTC4d及びBC4dに対して陰性であるか、又はTC4d及びBC4dの一方が陰性で他方がボーダーラインである。第4に、C4 GCNが2の患者11人のうち、2人だけがTC4d及びBC4dの両方に陽性である。他の9人は両方とも陰性(7人の患者)であるか、又は陰性とボーダーライン(#89107;#129880)のどちらかである。第5に、C4 GCNが<4で、TC4d及び/又はBC4dが陰性の患者の多くは、パネル中の他のCB-CAPsの1つに対して陽性である。例えば、#156730(C4 GCN=3)は、TC4d及びBC4dの両方に対して陰性であるが、EC4dに対しては陽性である。#32958(C4 GCN=3)は、TC4d及びBC4dの両方に対して陰性であるが、EC4d及びMC4dの両方に対して陽性である。#97387は、TC4d及びBC4dの両方に対して陰性であるが、EC4d及びRC4dの両方に対して陽性である。#103323(C4 GCN=2)は、TC4d及びBC4dの両方に対して陰性であるが、PC4dに対しては陽性である。これらのデータは、C4 GCNが<4の患者は、TC4d、BC4d又はその両方に対して陰性/正常である可能性があること、そして、ループス診断のためにCB-CAPアッセイの決定に偽陰性を示す可能性があることを示している。しかしながら、これら患者の中には、他のEC4d、RC4d、PC4d、及びMC4dなどに対するCB-CAPアッセイでは、ループス又はプレループスの診断で陽性を示し、有用となるものがある。
【表5】
【0094】
<実施例4>
C4 GCNに関する極端な状態は、患者がC4遺伝子を完全に欠損しているとき、すなわちC4AとC4Bの機能遺伝子座が完全に欠損している場合に生じる。この状態は極めて稀である。特にループスの患者では、C4A遺伝子座が完全に欠損している場合がより一般的である。図5及び表6は、ループスを有する5人の患者の実験室試験結果を示しており、全ての者がC4Aを完全に欠損していた。表6に示されるように、ループスと診断され、C4A遺伝子座が完全に欠損している(すなわち、機能遺伝子座がゼロ(C4A無し))と決定された5人の患者は全て、7つの異なるCB-CAPアッセイのパネルで試験したときパン陰性であった。5人のうち3人は、抗dsDNA自己抗体試験も陰性であった(図5)。この試験は、特定の時点で大部分のSLE患者に非常に特異的であるがそれでも陰性である至適基準(gold standard)の1つである。これらのデータを総合すると、CB-CAPレベルの試験でC4A欠損の患者は、抗dsDNAの同時測定の有無にかかわらず、偽陰性の結果として非ループス又は非プレループスとして分類されることを示している。これらの患者におけるC4 GCNの同時決定は、彼らがC4A無し(C4Aがゼロ)であることを示し、これら患者のCB-CAPアッセイの結果は使用されることができないこと、又は、遺伝子欠損によるループス又はプレループスを診断するには警告付きで使用されるべきであることを示す。
【表6】
【0095】
この実施例は、EC4d、BC4d、他のCB-CAPs及び抗dsDNAの偽陰性決定を有する患者を同定するためのC4 GCN試験の価値を実証する。このような患者の診断、モニタリング及び/又は層別化のために、追加のCB-CAP又は他の試験を必要とすることがある。この実施例は、C4Aが完全に欠損している患者のCB-CAP表現型を実証する。しかしながら、本明細書に提供される表に示されるデータは、C4CNの絶対数とC4の特異的アロタイプ(すなわち、C4遺伝子及び蛋白質の定量的及び定性的決定の両方)が、所与の患者におけるCB-CAPの正確な解釈に重要であり得ることを総括的に示す。
【0096】
<実施例5>
図6、7及び8は、EC4d、PC4d、RC4d、MC4d及びGC4dのCB-CAPレベルが、TC4d及びBC4dと同じ程度までC4 GCNによる影響を受けないことを示す。
【0097】
赤血球C4d(EC4d)及び血小板C4d(PC4d)レベルは、図6及び図7に示すように、TC4d及びBC4dと同じ程度までC4 GCNによる影響を受けていないようである。
【0098】
図6に示された分析では、SLE患者を、E-C4dレベル又はP-C4dレベルの何れかに基づいて四分位に分割して分析した。個々の患者の総C4遺伝子(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を実施例1と同じように決定した。E-C4d/P-C4d四分位スケールの中でC4 GCNsが異なる患者の分布をプロットした。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。E-C4dと総C4 GCN、E-C4dとC4A GCN、及びE-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.119、0.063及び0.206であった。P-C4dと総C4 GCN、P-C4dとC4A GCN、及びP-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値も、有意なものでなかった。
【0099】
図7に示された分析では、SLE患者を、EC4d又はP-C4d陽性に基づいて二値グループに分割した。個々の患者の総C4遺伝子(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を上記のとおり決定した。E-C4d/P-C4dの陽性グループ及び陰性グループにおいて異なるC4 GCNを有する患者の分布をプロットした。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。E-C4d陽性と総C4 GCN、E-C4dとC4A GCN、及びE-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.27、0.65及び0.14であった。P-C4dと総C4 GCN、P-C4dとC4A GCN、及びP-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.87、0.14、及び0.19であった。
【0100】
図8に示された分析では、SLE患者を、R-C4d、M-C4d及びG-C4d陽性に基づいて二値グループに分割した。個々の患者の総C4遺伝子(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を実施例1と同じように決定した。R-C4d陽性グループ及びR-C4d陰性グループ、M-C4d陽性グループ及びM-C4d陰性グループ、並びに、G-C4d陽性グループ及びG-C4d陰性グループにおいて異なるC4 GCNを有する患者の分布をプロットした。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。R-C4d陽性と総C4 GCN、R-C4dとC4A GCN、及びR-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.19、0.16及び0.11であった。G-C4dと総C4 GCN、G-C4dとC4A GCN、及びG-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.55、0.13、及び0.41であった。
【0101】
以下に、さらなる分析を記載する。
【0102】
網状赤血球C4d(R-C4d):
SLE患者を、R-C4d陽性に基づいて二値グループに分割した。個々の患者の総C4遺伝子(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を上記に記載のとおり決定した。R-C4d陽性及び陰性グループにおいて異なるC4 GCNを有する患者の分布をプロットした。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。R-C4d陽性と総C4 GCN、R-C4dとC4A GCN、及びR-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.71、0.41、及び0.48であった。
【0103】
単球C4d(M-C4d):
SLE患者を、M-C4d陽性に基づいて二値グループに分割した。個々の患者の総C4遺伝子(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を上記に記載のとおり決定した。M-C4d陽性及び陰性グループにおいて異なるC4 GCNを有する患者の分布をプロットした。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。M-C4d陽性と総C4 GCN、M-C4dとC4A GCN、及びM-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.19、0.16、及び0.11であった。
【0104】
顆粒球C4d(G-C4d):
SLE患者を、G-C4d陽性に基づいて二値グループに分割した。個々の患者の総C4遺伝子(C4A及びC4B)、C4A遺伝子、及びC4B遺伝子のコピー数を上記に記載のとおり決定した。G-C4d陽性及び陰性グループにおいて異なるC4 GCNを有する患者の分布をプロットした。フィッシャーの正確確率検定又はカイ二乗検定を用いて、この傾向の統計学的有意性を決定した。G-C4d陽性と総C4 GCN、G-C4dとC4A GCN、及びG-C4dとC4B GCNとの間の相関関係を表すp値は、それぞれ、0.55、0.13、及び0.41であった。
【0105】
これらの結果は、C4 GCNが低下した状態下で、TC4d及び/又はBC4dが正常であるか、又はループス/プレループス判定よりも低い患者において、これらのCB-CAPを二次アッセイとして使用する潜在的価値を裏付けるものである。これらのデータを総合すると、これらのデータは、CB-CAPアッセイのパネルでのC4 GCNの決定が、ループス及び/又はプレループスを有する患者の診断及びモニタリングする上で個人向け(精密な)医薬品として有用であることを示唆する。
【0106】
様々な実施形態では、上述のステップの一部又は全部は、プログラミング命令を実行する電子デバイスによって行われることができる。例えば、対照レベル又基準値を決定及び抽出するステップ、他のデータセットにアクセスするステップ、被験体のレベルを対照レベルと比較するステップ、及び/又はレポートを生成するステップは全て、電子デバイスによって行うことができる。本明細書における「電子デバイス」又は「処理デバイス」は、プロセッサ及び一時的でないコンピュータ可読メモリを含むか若しくはそれらへのアクセスを有するデバイス、又は1又は複数のデバイスのシステムのことを指す。メモリは、デバイスに一体であってもよいし、デバイスによって1又は複数の通信ネットワークを介してアクセス可能であればデバイスから離れていてもよい。メモリは、プログラミング命令を含むことができ、プロセッサは、プログラミング命令に従ってプロセッサに1又は複数の動作を実行させるように構成される。電子デバイスとして、例えば、コンピュータデバイス、タブレット、及びスマートフォンが挙げられる。
【0107】
本明細書で使用される「プロセッサ」という用語は、シングルプロセッサ、又は種々ステップの工程を実行するマルチプロセッサのことを指す。同様に、「メモリデバイス」又は「データベース」は、シングルデバイス若しくはシングルデータベース、又はプログラミング命令及び/又はデータが分配されるマルチデバイス若しくはマルチデータベースのことを指す。
【0108】
次の特許文献の開示は引用を以て本明細書に組み込まれるものとする。米国特許第8,126,654号(2012年2月28日発行、発明の名称“Identification and Monitoring of Systemic Lupus Erythematosus”;米国特許第7,390,631号(2008年6月24日発行、発明の名称“Diagnosis and Monitoring of Systemic Lupus Erythematosus and of Scleroderma”;米国特許第9,495,517号(2016年11月15日発行、発明の名称“Cell-Bound Complement Activation Products as Diagnostic Biomarkers for Pre-Lupus”;米国特許出願公開第2017/0067893号(2017年3月9日公開、発明の名称“Cell-Bound Complement Activation Products as Diagnostic Biomarkers for Pre-Lupus”;及び米国特許出願公開第2016/0041164号(2016年2月11日公開、発明の名称“Anti-Lymphocyte Autoantibodies As Diagnostic Biomarkers”。
【0109】
上記の特徴、機能及びそれらの別の選択は、他の異なる多くのシステム又は用途の中に組み合わされることができる。当業者であれば、様々な別の選択、変形、変更又は改良を成し得ることができ、これらについても、ここに開示した実施形態に包含されることが意図されている。
【0110】
本明細書中に引用した全ての文献は、参照により、それらの全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8